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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】冷凍機油組成物及び冷凍機用作動流体
(51)【国際特許分類】
   C10M 111/04 20060101AFI20231129BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20231129BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20231129BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C10M111/04
C09K5/04 B
C10M105/18
C10M107/34
C10N40:30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023130112
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591084816
【氏名又は名称】日本サン石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 玲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良典
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/012467(WO,A1)
【文献】特開2002-194368(JP,A)
【文献】特開2000-96075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C09K5/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素冷媒用の冷凍機油組成物であって、基油として下記一般式(I)で表される、少なくとも1種からなる基油成分Aと、下記一般式(II)で表される、少なくとも1種からなる基油成分Bとを含み、かつ、前記基油成分Aを、基油全量の10質量%以上含むことを特徴とする冷凍機油組成物。
【化1】
(式中、Rはグリセリル基、トリメチロールプロピル基、ジトリメチロールプロピル基、ペンタエリスリトール基又はジペンタエリスリトール基であり、R はメチル基であり、mは に応じて設定される値であって3~6であり、nは2~11である。)
【化2】
(式中、Rはメチル基であり、R は水酸基(HO-)、CH O-、C O-、C O-、又はC O-であり、nは6~33である。)
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍機油組成物と、
炭化水素冷媒と、を含むことを特徴とする冷凍機用作動流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素冷媒用の冷凍機油組成物、及び該冷凍機油組成物と炭化水素冷媒とを含有する冷凍機用作動流体に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒と冷凍サイクルを用いる様々な用途の機器・装置に於いて、地球温暖化抑制と化学物質規制により、従来使われてきたフッ化炭化水素(HFCやHFO)冷媒の使用が制限されつつある。この動向に先駆け、20世紀前半に使われていたイソブタン(R-600a)やプロパン(R-290)といった炭化水素冷媒が見直されている。日本でも2000年には、家庭用冷蔵庫にR-600aが採用され、ノンフロン冷蔵庫として現在の主流になっている。
【0003】
また、炭化水素冷媒について、小型エアコンなど冷媒封入量の比較的少ない機器へのR-290の適用検討が、ドイツの後押しにて中国にて始まっている。例えば、特許文献1では、プロパン冷媒用として、特定の構造を持つ基油を用いた冷凍機油組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許第107353983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、炭化水素冷媒は強燃性のためエアコンや産業用冷凍機など冷媒量の多い用途には適用しにくく、これら用途には不燃性若しくは燃焼性の低いフッ化炭化水素冷媒が依然として主流になっている。そのため、冷凍空調機器メーカー各社では、炭化水素冷媒の適用拡大を進める上で、安全性を確保するために機器への冷媒封入量を極力削減する要望が強い。すなわち、冷凍機油に溶け込む冷媒が少なければ、その分冷媒封入量を減らすことができるので、炭化水素冷媒が溶け込みにくい冷凍機油組成物が求められている。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、炭化水素冷媒に対して、従来と同等の流動性等を維持しつつ、冷媒溶解量を低減できる冷凍機油組成物を提供することを目的とする。また本発明は、炭化水素冷媒量がより少なく、安全性を高めた冷凍機用作動流体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、下記(1)の冷凍機油組成物を提供する。
【0008】
(1) 炭化水素冷媒用の冷凍機油組成物であって、基油として下記一般式(I)で表される、少なくとも1種からなる基油成分Aを含むことを特徴とする冷凍機油組成物。
【0009】
【化1】
(式中、Rはグリセリル基、トリメチロールプロピル基、ジトリメチロールプロピル基 、ペンタエリスリトール基又はジペンタエリスリトール基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、mは に応じて設定される値であって3~6であり、nは2~11である。)
【0010】
また、冷凍機油組成物に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(4)に関する。
【0011】
(2) 前記基油成分Aを、基油全量の10質量%以上含有することを特徴とする(1)に記載の冷凍機油組成物。
【0012】
(3) 前記基油成分Aが、平均分子量で300~2000であることを特徴とする(1)に記載の冷凍機油組成物。
【0013】
(4) 前記基油が、前記基油成分Aと、下記一般式(II)で表される、少なくとも1種からなる基油成分Bとを含むことを特徴とする(1)に記載の冷凍機油組成物。
【0014】
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは水酸基(HO-)、CHO-、CO-、CO-、又はCO-であり、nは6~33である。)
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明は、下記(5)の冷凍機用作動流体を提供する。
【0016】
(5) (1)~(4)の何れか1つに記載の冷凍機油組成物と、炭化水素冷媒とを含むことを特徴とする冷凍機用作動流体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の冷凍機油組成物によれば、冷凍機油組成物としての流動性などの性能を維持しつつ、炭化水素冷媒の溶解量を減らすことができ、安全性により優れる。
【0018】
また、本発明の冷凍機用作動流体によれば、冷凍機用作動流体としても流動性等を維持しつつ、炭化水素冷媒の溶解量が少ないため、安全性が高い。そのため、本発明の冷凍機用作動流体を用いることにより、炭化水素冷媒を用いた冷蔵・冷蔵システムを安全に操業することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0020】
[冷凍機油組成物]
本発明の冷凍機油組成物は、炭素水素冷媒用であり、基油として下記一般式(I)で表される、少なくとも1種の基油成分Aを含有する。
【0021】
【化3】
【0022】
なお、式(I)中のRはグリセリル基、トリメチロールプロピル基、ジトリメチロールプロピル基、ペンタエリスリトール基又はジペンタエリスリトール基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、mは に応じて設定される値であって3~6であり、nは2~11である。また、mは、Rの持つ水酸基(OH基)の数に相当するが、低温流動性の観点から3~4が好ましい。
【0023】
すなわち、基油成分Aは、末端のRが水酸基を3つ以上有する。これにより、炭化水素冷媒の溶解量を低減することができる。なお、基油成分Aは、3価以上の多価アルコールを開始剤とするポリアルキレングリコールということもできる。
【0024】
また、基油成分Aを得るためには、開始剤として、Rとなるグリセリン(HOCHCH(OH)CHOH)、トリメチロールプロパン(CHCHC(CHOH))、ジトリメチロールプロパン((CHCH)(CHOH)CCHOCHC(CHCH)(CHOH))、ペンタエリスリトール(C(CHOH))、ジペンタエリスリトール((CHOH)CCHOCHC(CHOH))の少なくとも1つを用いて合成すればよい。
【0025】
基油成分Aは、基油の流動性などを考慮すると、平均分子量で300~2000が好ましく、400~1500がより好ましく、800~1200が更に好ましい。
【0026】
また、基油成分Aは、単独で使用する他に、流動性等に応じて2種以上の混合物とすることもできる。
【0027】
基油成分Aの含有量は、炭化水素冷媒への相溶性をより低下させるという観点から、基油全量の10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、基油成分Aの含有量の上限には特に制限はないが、基油成分Aの含有量の増加に伴い、動粘度が増加する傾向にあるため、基油全量の80質量%以下、好ましくは60質量%以下が適当である。
【0028】
基油は、基油成分Aのみとすることもできるが、基油成分Aと、他の基油成分との混合物とすることができる。他の基油成分としては、炭化水素冷媒用の基油として使用されているものであれば制限はないが、例えば、下記一般式(II)で表される基油成分Bが好適である。
【0029】
【化4】
【0030】
なお、式(II)中のRは水素原子又はメチル基であり、Rは水酸基(HO-)、CHO-、CO-、CO-、又はCO-であり、nは6~33である。また、nは、低温流動性の観点から、12~21であることがより好ましい。
【0031】
すなわち、基油成分Bは、その化学構造としては、片末端又は両末端に水酸基を持つポリアルキレングリコールである。
また、上記ポリアルキレングリコールの例としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体(ランダム又はブロック)、ブタノール開始のポリプロピレングリコールが例として挙げられる。さらに、絶縁性の観点からは、エチレングリコールよりプロピレングリコールの方が望ましい。
【0032】
また、基油成分Bの含有量は、基油全量の90質量%以下、好ましくは80質量%以下が適当である。
【0033】
また、基油には、従来と同様に、目的に応じて各種添加剤を添加することができる。例えば、抗乳化剤、防錆剤、消泡剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、耐摩耗剤、極圧剤、油性剤、清浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤等を一種又は数種組合せて添加することもできる。
【0034】
なお、炭化水素冷媒(すなわち、炭素と水素のみからなる炭素数1以上の冷媒)の種類には制限はないが、メタンやエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n-ブタン、2-メチルプロパンなどが好適である。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0036】
(基油成分)
表1に示す基油成分を用意した。すなわち、一般式(I)においてRがグリセリル基で、nが5.1の基油成分(表中PAG-A)、一般式(I)においてRがグリセリル基で、n=2の基油成分(表中PAG-B)を用意した。なお、PAG-Aの平均分子量は約1000であり、PAG-Bの平均分子量は約400であり、PAG-A及びPAG-Bは基油成分Aに相当する。
【0037】
また、一般式(II)においてRが水酸基(OH基)で、nが16.6の基油成分(表中PAG-M)を用意した。なお、PAG-Mの平均分子量は約1000であり、基油成分Bに相当する。
【0038】
各基油成分について、JISに準拠する物性を調べた。表1に併記する。なお、後述する例でも、物性値はJISに準拠する値である。
【0039】
【表1】

【0040】
(基油の調製)
各基油成分を表2に示す割合にて混合して、表2に示す試作基油1~6(何れも実施例)を調製した。また、比較のために、PAG-Mのみを比較基油とした。各試作基油の物性を表2に併記する。なお、表2中の「-」は、該当成分が含有されていないことを示す。
【0041】
【表2】

【0042】
物性値に関し、電気絶縁性の高いプロパンなど炭化水素冷媒に組合せられ、電気モーター内蔵の圧縮機に用いられる冷凍機油は、体積抵抗率として1×10Ω・cm以上の電気絶縁性が必要とされている。例えば、炭化水素冷媒であるR-290の体積抵抗率は1×1013Ω・cmであり、これに組み合わせる冷凍機油の体積抵抗率は1×10Ω・cm以上が求められる。いずれの試作基油も、この要求を満足している。
【0043】
(炭化水素冷媒との相溶性)
試作基油1~6及び比較基油について、炭化水素冷媒であるR-290との相溶性を評価した。結果を表3に示すが、油中冷媒濃度の単位は「質量%」である。なお、表3中の「-」は、該当成分が含有されていないことを示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示すように、試作基油を用いることにより、比較基油を用いた場合よりも、各温度とも冷媒の溶解量が少なくなっている。
【0046】
上記により、本発明に従う基油成分Aを含有する基油を用いることにより、炭化水素冷媒の溶解量を従来に比べて少なくできることが検証された。
【0047】
(添加剤の溶解性)
試作基油に、従来から冷凍機油組成物に広く添加されている各種添加剤を添加しても、冷凍機油組成物としての性能に変化がないことを検証した。すなわち、上記の試作基油に、表中のフェノール系酸化防止剤、エポキシ系酸捕捉剤、イミド系酸捕捉剤、リン酸エステル系極圧剤、シロキサン系消泡剤を添加して試作油を調製し、各試作油中の各添加剤の溶解状態を目視にて観察するとともに、各試作油の物性を調べた。結果を表4に示すが、表中の添加剤の欄の「○」は、添加剤が試作基油に溶解していることを示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、基油成分Aを含んでいても、各種添加剤の添加に影響を及ぼすことがなく、従来と同様と使用できることがわかる。
【0050】
(熱安定性)
下記の試験条件にて、試作油の熱安定性を検証した。結果を表5に示すが、触媒変化の欄の「○」は、変化なしを示す。
<試験条件>
試験法:シールドチューブテスト(JIS及びASHRAE法準拠)
封入量:試作油/R-290=1[mL]/1[mL]
触 媒:Fe、Cu及びAl
水 分:100[ppm]以下
真空度:0.1[mmHg]
温 度:175[℃]
期 間:14[日]
【0051】
【表5】

【0052】
表5に示すように、基油成分Aを含んでいても、熱安定性が低下することなく、従来と同様と使用できることがわかる。
【0053】
(加水分解安定性)
下記の試験条件にて、試作油の加水分解安定性を検証した。結果を表6に示すが、触媒変化の欄の「○」は、変化なしを示す。
<試験条件>
試験法:シールドチューブテスト(JIS及びASHRAE法準拠)
封入量:試作油/R-290=8[g]/0.6[g]
触 媒:Fe、Cu及びAl
水 分:500[ppm]
真空度:0.1[mmHg]
温 度:175[℃]
期 間:14[日]
【0054】
【表6】

【0055】
表6に示すように、基油成分Aを含んでいても、加水分解安定性が低下することなく、従来と同様と使用できることがわかる。
【0056】
上記実施例に示すように、基油成分Aを含んでいても、冷凍機油組成物としての物性を低下させることなく、従来と同様に使用できるとともに、炭化水素冷媒の使用量を低減することができるようになり、より安全性を高めることができる。
【0057】
[冷凍機用作動流体]
本発明は、上記の冷凍機油組成物と、炭化水素冷媒とを含む冷凍機用作動流体に関する。
炭化水素冷媒としては、メタンやエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n-ブタン、2-メチルプロパンなどが好適である。
【0058】
そして、本発明によれば、炭化水素冷媒の使用量をより少なくすることでき、冷凍機用作動流体としてより安全性が高まる。
【要約】
【課題】炭化水素冷媒に対して、従来と同等の流動性等を維持しつつ、冷媒溶解量を低減できる冷凍機油組成物、並びに冷凍機用作動流体を提供する。
【解決手段】冷凍機油組成物は、炭化水素冷媒用であって、基油として下記一般式(I)で表される、少なくとも1種からなる基油成分Aを含む。
【化1】
(式中、Rはグリセリル基、トリメチロールプロピル基、ジトリメチロールプロピル基、ペンタエリスリトール基又はジペンタエリスリトール基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、mは に応じて設定される値であって3~6であり、nは2~11である。)
【選択図】なし