(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】皮下組織の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム、並びに、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20231129BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231129BHJP
G01N 29/07 20060101ALI20231129BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20231129BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61B8/08
C12Q1/02
G01N29/07
A61B10/00 E
A61B5/00 M
(21)【出願番号】P 2019097361
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018100306
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018108036
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】黒住 元紀
(72)【発明者】
【氏名】水越 興治
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼中 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】栗林 麻里
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-228382(JP,A)
【文献】特表2007-507528(JP,A)
【文献】特表2009-539520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/08
C12Q 1/02
A61B 10/00
A61B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを指標として前記酸素レベルを推定することを特徴とする、酸素レベルの推定方法。
【請求項2】
前記皮下組織の粘弾性を、超音波エラストグラフィにより測定することを特徴とする、請求項1に記載の酸素レベルの推定方法。
【請求項3】
エラストグラフィを用いて測定した皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を説明変数、皮下組織の酸素レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値から前記酸素レベルを算出することを特徴とする、請求項1
又は2に記載の酸素レベルの推定方法。
【請求項4】
前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の酸素レベルの推定方法。
【請求項5】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を指標として前記酸素レベルを推定する酸素レベル推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段と、を備えることを特徴とする、酸素レベル推定装置。
【請求項6】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を指標として前記酸素レベルを推定する酸素レベル推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする、酸素レベル推定プログラム。
【請求項7】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することを特徴とする、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法。
【請求項8】
皮下組織の酸素レベルの評価値を説明変数、
エラストグラフィを用いて測定した皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を目的変数とする回帰式を用いて、前記皮下組織の酸素レベルの評価値から皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを算出することを特徴とする、請求項7に記載の粘弾性又は線維化レベルの推定方法。
【請求項9】
前記皮下組織の酸素レベルを、近赤外線分光法により測定することを特徴とする、請求項7又は8に記載の粘弾性又は線維化レベルの推定方法。
【請求項10】
前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする、請求項7~9の何れか一項に記載の粘弾性又は線維化レベルの推定方法。
【請求項11】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の皮下組織の酸素レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段と、を備えることを特徴とする、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定装置。
【請求項12】
皮下組織の粘弾性
と皮下組織の酸素レベル
との間の
正の相関関係
に基づく粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係を利用して、又は、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間の負の相関関係に基づく皮下脂肪細胞の線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の皮下組織の酸素レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを指標とする皮下組織の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム、並びに、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴う肌の老化現象、すなわち皺、たるみ、しみなどの外見上の変化は、皮膚の内部構造の生理化学的変化に起因する。近年、このような肌の老化現象の抑制を目的として、皮膚の内部構造における加齢変化のメカニズム解明に関心が集まっている。
【0003】
皮膚は、大きく分けて表皮、真皮、そして皮下組織の3層よりなる。表皮はさらに角質層、顆粒層、有棘層及び基底層の4つの層に分類でき、下層に位置する真皮は乳頭層、乳頭下層及び網状層の3つの層に分類できる。これら表皮、真皮を支える役割を担うのが皮下組織である。
【0004】
皮下組織の大部分は脂肪細胞が集塊を形成した脂肪小葉から構成される皮下脂肪であり、保温や外力に対する緩衝作用などを有する。脂肪小葉はコラーゲン線維やエラスチン線維などの結合組織等によって周囲が網目状に取り囲まれることで、線維構造を形成する。
【0005】
皮膚の硬さなどを判断する手法として古くは触診が行われていたが、超音波エラストグラフィ技術(例えば特許文献1)の発展により、皮膚を構成するそれぞれの層の物理学的特性、とりわけ粘弾性の定量的測定が可能となっている。
【0006】
ところで、体組織の線維化を病理的に診断する方法として、生体組織診断(いわゆる「生検」)が一般に行われる。しかし、生検は被検者への侵襲を伴うことから頻回に行うことは困難であった。超音波エラストグラフィを原理とした「フィブロスキャン」では、肝線維化の評価を非侵襲的に行うことが可能であると開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-539528号公報
【文献】国際公開2011/081214号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、酸素レベルの推定を可能とする、新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、酸素レベルとの間には相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを指標として前記酸素レベルを推定することを特徴とする、酸素レベルの推定方法である。
本発明によれば、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルという物理特性ないし生理特性から、皮下組織の酸素レベルを推定することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を説明変数、皮下組織の酸素レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値から前記酸素レベルを算出することを特徴とする。
予め用意した回帰式を用いることで、より正確に皮下組織の酸素レベルを推定することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記皮下組織の粘弾性を、超音波エラストグラフィにより測定することを特徴とする。
これにより、非侵襲的かつ定量的に皮下組織の粘弾性の測定結果を得ることができ、より精度よく皮下組織の酸素レベルを推定することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする。
特に皮下組織上層の粘弾性を指標とすることで、より正確に皮下組織の酸素レベルを推定することができる。
【0014】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を指標として前記酸素レベルを推定する酸素レベル推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を指標として前記酸素レベルを推定する酸素レベル推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することを特徴とする、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法にも関する。
本発明は、上述した皮下組織の酸素レベルの推定方法と表裏をなすものである。本発明によれば、皮下組織の酸素レベルという生理学的特性から、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、皮下組織の酸素レベルの評価値を説明変数、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの測定値を目的変数とする回帰式を用いて、前記皮下組織の酸素レベルの評価値から皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを算出することを特徴とする。
予め用意した回帰式を用いることで、より正確に皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記皮下組織の酸素レベルを、近赤外線分光法により測定することを特徴とする。
これにより、非侵襲的かつ定量的に皮下組織の酸素レベルの測定結果を得ることができ、より精度よく皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする。
本発明は、特に皮下組織上層の粘弾性の推定に有用である。
【0020】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の皮下組織の酸素レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと、皮下組織の酸素レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の酸素レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベル推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の皮下組織の酸素レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルから、皮下組織の酸素レベルを推定することができる。
また、本発明によれば、皮下組織の酸素レベルから、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の酸素レベル推定装置の一実施形態を示すハードウェアブロック図である。
【
図2】本発明の粘弾性又は線維化レベル推定装置の一実施形態を示すハードウェアブロック図である。
【
図3】加齢に伴い全身の酸素飽和度が低下することを示すグラフである。
【
図4】加齢に伴い局所組織の酸素飽和度が低下することを示すグラフである。
【
図5】局所組織の酸素飽和度と皮下組織の粘弾性の相関関係を示すグラフである。
【
図6】通常の酸素濃度条件、及び低酸素条件において培養した細胞におけるvegf遺伝子、col1a1遺伝子、col3a1遺伝子、tgf-β遺伝子、及びlox遺伝子の発現量を表す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<1>皮下組織の酸素レベルの推定方法
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
皮下組織の粘弾性(以下、単に粘弾性ともいう)と皮下組織の酸素レベル(以下、単に酸素レベルともいう)との間には、正の相関関係が成立する。つまり、粘弾性が大きいほど酸素レベルが高い関係にある。
一方、脂肪細胞を包む線維構造の線維化レベル(以下、単に線維化レベルともいう)と皮下組織の酸素レベルとの間には、負の相関関係が成立する。つまり、線維化レベルが小さいほど酸素レベルが高い関係にある。
本発明は、かかる相関関係を利用して皮下組織の粘弾性又は脂肪細胞を包む線維構造の線維化レベルから皮下組織の酸素レベルを推定する。
【0025】
皮下組織は、粘弾性が略均一な部分ごとに、深さ方向について大きく3つの層に分類することができる。具体的には、皮下組織を深さ方向に1:2:1の比率で分割したとき、一番上に位置する層(真皮に接する層)のことを皮下組織上層という。
本発明においては、真皮に最も近い層である皮下組織上層の粘弾性を指標とすることが好ましい。
【0026】
上記相関関係は好ましくは式またはモデルで示される。式またはモデルとしては、単回帰式又は単回帰モデルが好ましく挙げられる。
【0027】
粘弾性は、粘性と弾性の両方を合わせた性質のことをいう。したがって、粘弾性の評価に当たっては粘性と弾性の両方を評価することになる。しかし、生体組織においては粘性と弾性を明確に区別することは困難であり、粘弾性は主として弾性率(ヤング率)により評価されることが一般的である。
また、フックの法則(下記式1)に基づき、粘弾性を「ひずみ」により評価してもよい。
【0028】
【0029】
そのため、本発明において指標とされる粘弾性は、弾性率(ヤング率)又はひずみとして算出される形態としてもよい。
上述の回帰式又は回帰モデルの作成に当たっても、説明変数を皮下組織のヤング率又はひずみ、目的変数を酸素レベルと置いてよい。
【0030】
酸素レベルは、血液中の酸素飽和度を指す。酸素飽和度は、動脈血を直接採血して測定した動脈血酸素飽和度(SaO2)であってもよいし、パルスオキシメーター等の測定装置を用いて測定した経皮的酸素飽和度(SpO2)であってもよい。また、近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy;NIRS)を用いた局所組織酸素飽和度(rSO2)であってもよい。
【0031】
本明細書において、皮下組織の酸素レベルとは、全身を循環する動脈血のうち、特に末梢領域における皮下組織の毛細血管を循環する局所組織の酸素飽和度のことをいう。
【0032】
皮下脂肪細胞は、皮下組織の大部分を構成する脂肪細胞を指す。脂肪細胞は集塊を形成し、コラーゲンやエラスチンなどの結合組織にその周囲が網目状に包まれた脂肪小葉として存在する。
【0033】
脂肪小葉の周囲には、さらに血管や神経が網目状に走行し、栄養物質や老廃物の運搬が行われる。このように、脂肪小葉が結合組織や血管などにより網目状に取り囲まれることで形成される分葉状の構造を、脂肪細胞を包む線維構造と呼ぶ。脂肪細胞を包む線維構造は、脂肪小葉それ自体を形成する線維構造全体、或いは個々の脂肪細胞の周囲に存在する結合組織の部分的な局所構造のように、異なる構成単位に分けることができる。
本発明において指標とされる皮下脂肪細胞の線維化レベルは、特に、個々の脂肪細胞の周囲に存在する線維構造の線維化レベルとすることが好ましい。
【0034】
ここで、線維化とは、組織を取り巻くコラーゲンの異常な増加やコラーゲン線維同士が架橋することにより、組織が硬くなる現象のことをいう。
線維化の要因としてはコラーゲンそのものの発現量の増加や、コラーゲン線維構造の架橋反応に関わる遺伝子の発現量の増加が想定できる。
本明細書において線維化レベルとは、線維化の進行度ないし程度のことをいう。
【0035】
皮下組織の粘弾性は超音波エラストグラフィにより測定することができる。超音波エラストグラフィの手法としては、外部から応力σを加えて肌を変形させてひずみε測定し、フックの法則よりヤング率Eを求めるストレイン・イメージングや、肌にせん断波を伝搬させ、その伝搬速度CSを測定することでヤング率Eを求めるシアウェーブ・イメージングなど公知の手法を制限なく用いることができる。
【0036】
超音波エラストグラフィ装置としては、例えば日立製作所製「ARIETTA E70」や「Noblus」、シーメンスヘルスケア製「アキュソンS2000e」などを用いることができる。
【0037】
超音波エラストグラフィによれば、肌の内部断面における粘弾性(ヤング率(機種によってはひずみ))の分布を画像として得ることができる。本発明の実施に当たっては皮下組織に不均一に分布する粘弾性の平均を測定値として用いてもよい。
【0038】
皮下組織の粘弾性の測定に当たっては、皮下組織を深さ方向について上層、中層、下層の3層に分け、それぞれの層における粘弾性の平均を求める形態とすることが好ましい。特に皮下組織上層の粘弾性の平均を測定値として用いて、皮下組織の酸素レベルを推定する実施の形態とすることが好ましい。
【0039】
線維化レベルの評価方法は特に限定されない。
侵襲的な方法としてはフォトスケールを用いて相対的な評価値を算出する方法が挙げられる。より詳しくは、予め線維化レベルの異なる皮下脂肪細胞の画像を複数用意する。これを基準写真として、被験者より採取した皮下脂肪細胞の画像に評点をつける。
【0040】
侵襲的な方法は被験者に負担を強いることになるため、好ましくは非侵襲的な方法で皮下脂肪細胞の線維化レベルを評価する。
非侵襲的な方法としては、超音波を用いる方法が挙げられる。より詳しくは、超音波により得られた皮膚の断層面の画像から、皮下脂肪層部分を切り出し、解析用画像とする。取得した解析用画像について、画像処理ソフトウェアを用いて得られる特徴量から線維化レベルを評価することができる。
このような特徴量としては、画像をグレースケール化、ヒストグラム化、二値化などして算出されるパラメータが例示できる。
【0041】
本発明においては、解析用画像をヒストグラム化し、このヒストグラムの歪度を線維化レベルの評価値として採用することが好ましい。
歪度の小さいヒストグラム(略正規分布を示す)はひずみが小さいことを表すため、皮下脂肪細胞の線維化レベルが高い状態であると判る。反対に、歪度の大きいヒストグラム(非正規分布を示す)からは皮下脂肪細胞の線維化レベルが低い状態であると判別可能となる。
【0042】
画像処理ソフトウェアはオープンソースの「ImageJ」など公知の何れのソフトウェアを用いてもよい。
【0043】
線維化レベルを評価するために用いる超音波装置は、上述した皮下組織の粘弾性測定の用に供するものと同一のものを用いることができる。
【0044】
このように、本発明において指標とされる皮下脂肪細胞の線維化レベルは、上述の方法で測定される線維化レベルの評価値とする形態としてもよい。
上述の回帰式又は回帰モデルの作成に当たっても、説明変数を皮下脂肪細胞の線維化レベルの評価値、目的変数を酸素レベルと置いてよい。
【0045】
<2>皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法
上述したとおり、皮下組織の粘弾性と皮下組織の酸素レベルとの間には、正の相関関係が成立する。また、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間には、負の相関関係が成立する。
本発明は、かかる相関関係を利用して皮下組織の酸素レベルから皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定する。
上記相関関係は好ましくは式またはモデルで示される。式またはモデルとしては、単回帰式又は単回帰モデルが好ましく挙げられる。
【0046】
酸素レベルの評価方法は特に制限されない。
上述したように、侵襲的な方法としては、被験者の動脈血を採血して酸素分圧を測定する方法が挙げられる。また、非侵襲的な方法としては、パルスオキシメーターを用いて指尖部の動脈の血流を検知してSpO2を測定する方法や、NIRSを用いて頬部などのrSO2を測定する方法が挙げられる。
【0047】
パルスオキシメーターを用いる場合、プローブの種類は特に制限されず、透過型のものを用いてもよいし、反射型のものを用いてもよい。これらは、市販されているものを適宜使用することができる。
NIRSを用いる場合も同様に、特段の制限なく市販されている製品を適宜使用することができる。
【0048】
なお、上記<1>の項目及び本項目において、推定のための指標としての粘弾性、線維化レベル、酸素レベルの測定ないし評価の方法を説明した。この説明は、回帰式又は回帰モデルを作成するための粘弾性、線維化レベル、酸素レベルの測定ないし評価の方法にも妥当する。
【0049】
<3>皮下組織の酸素レベルの推定装置
以下、皮下組織の酸素レベルの推定装置について
図1を参照しながら説明を加える。なお、本発明の皮下組織の酸素レベルの推定装置は、上記<1>の項目で説明した皮下組織の酸素レベルの推定方法を実施するための装置である。したがって、上記<1>の項目の説明は、以下の皮下組織の酸素レベルの推定装置に関しても妥当する。
【0050】
本発明の皮下組織の酸素レベルの推定装置1は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの相関関係を示す酸素レベル相関データを記憶する記憶手段121と、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、記憶手段121に記憶された酸素レベル相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段112と、を備える。
【0051】
図1に示すように、皮下組織の酸素レベルの推定装置1は、粘弾性又は線維化レベル測定部13、記憶手段121を備えるROM(Read Only Memory)12、酸素レベル算出手段112を備えるCPU(Central Processing Unit)11、及び酸素レベル表示部14を有している。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態では、粘弾性又は線維化レベル測定部13により測定ないし評価された被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを数値化する数値化手段111を備えることが好ましい。CPU11が数値化手段111を備える。
【0053】
酸素レベル表示部14は、酸素レベル算出手段112が算出した皮下組織の酸素レベルの推定値を表示するディスプレイである。
【0054】
このような構成とした本発明の皮下組織の酸素レベルの推定装置1は、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを測定ないし評価するだけで、容易に被験者の皮下組織の酸素レベルを算出することができる。
【0055】
なお、他の実施形態では、粘弾性又は線維化レベル測定部13及び数値化手段111に代えて、別途測定ないし評価した粘弾性又は線維化レベルの測定値又は評価値を入力する、粘弾性又は線維化レベル入力部を備えていてもよい。
【0056】
<4>皮下組織の酸素レベルの推定プログラム
本発明は上述の皮下組織の酸素レベルの推定方法をコンピュータに実行させる皮下組織の酸素レベルの推定プログラムにも関する。本発明のプログラムは、上述した本発明の酸素レベルの推定装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、
図1の符号を付しながら説明する。
【0057】
本発明の皮下組織の酸素レベルの推定プログラムは、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの相関関係を示す酸素レベル相関データと照合して、前記酸素レベルを算出する酸素レベル算出手段112として、コンピュータを機能させることを特徴とする。
【0058】
本発明の酸素レベルの推定プログラムは、
図1のブロック図に示すように、コンピュータを数値化手段111として機能させるように構成することが好ましい。
【0059】
<5>皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置
以下、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置について
図2を参照しながら説明を加える。なお、本発明の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置は、上記<2>の項目で説明した皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法を実施するための装置である。したがって、上記<2>の項目の説明は、以下の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置に関しても妥当する。
【0060】
本発明の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置2は、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの相関関係を示す粘弾性又は線維化レベル相関データを記憶する記憶手段221と、被験者の皮下組織の酸素レベルを、記憶手段221に記憶された粘弾性又は線維化レベル相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段212と、を備える。
【0061】
図2に示すように、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置2は、酸素レベル測定部23、記憶手段221を備えるROM22、粘弾性又は線維化レベル算出手段212を備えるCPU21、及び粘弾性又は線維化レベル表示部24を有している。
【0062】
本発明の好ましい実施の形態では、酸素レベル測定部23により測定された被験者の皮下組織の酸素レベルを数値化する数値化手段211を備えることが好ましい。CPU21が数値化手段211を備える。
【0063】
粘弾性又は線維化レベル表示部24は、粘弾性又は線維化レベル算出手段212が算出した皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定値を表示するディスプレイである。
【0064】
このような構成とした本発明の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定装置2は、被験者の皮下組織の酸素レベルを測定するだけで、容易に被験者の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルを算出することができる。
【0065】
なお、他の実施形態では、酸素レベル測定部23及び数値化手段211に代えて、別途測定した酸素レベルの測定値を入力する、酸素レベル入力部を備えていてもよい。
【0066】
<6>皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定プログラム
本発明は上述の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定方法をコンピュータに実行させる皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定プログラムにも関する。本発明のプログラムは、上述した本発明の粘弾性又は線維化レベル推定装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、
図2の符号を付しながら説明する。
【0067】
本発明の皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルの推定プログラムは、被験者の皮下組織の酸素レベルを、皮下組織の粘弾性又は皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの相関関係を示す粘弾性又は線維化レベル相関データと照合して、前記粘弾性又は線維化レベルを算出する粘弾性又は線維化レベル算出手段212として、コンピュータを機能させることを特徴とする。
【0068】
本発明の粘弾性又は線維化レベル推定プログラムは、
図2のブロック図に示すように、コンピュータを数値化手段211として機能させるように構成することが好ましい。
【実施例】
【0069】
<試験例1>加齢及び酸素レベルの回帰分析
60名の被験者に対し、パルスオキシメーター(コニカミノルタ社)を用いて全身の動脈血の酸素飽和度を測定した。また、60名の被験者に対し、NIRS(静岡大学・工学部庭山准教授作製)を用いて頬部の動脈血の酸素飽和度を測定した。得られた酸素飽和度の測定値(全身:SpO2、頬部:rO2)と各被験者の年齢について、それぞれ回帰分析を行った。結果を
図3及び4に示す。
【0070】
図3及び4に示すように、被験者の年齢と全身の酸素飽和度、及び局所の酸素飽和度の間には、共に負の相関関係が成立することが確認された。
この結果は、加齢により全身の酸素状態の悪化が引き起こされるのみならず、頬部のような局所の皮膚においても酸素状態の悪化が起こることを示すものである。
【0071】
<試験例2>皮下組織の粘弾性の解析及び局所組織の酸素飽和度の測定
58名の被験者に対し、エラストグラフィ(日立製作所)を用いて皮膚内部のエラストグラフィ画像を取得し、粘弾性を測定した。なお、粘弾性の測定については、測定エリアを皮膚の表層部分(真皮)と、皮下組織上層、皮下組織中層及び皮下組織下層の合計4層に分け、層別の相対的な粘弾性を算出した。皮下組織上層、皮下組織中層及び皮下組織下層については、皮下組織を深さ方向において1:2:1の比率で分割することで設定した。
【0072】
次に、同被験者に対し、NIRS(静岡大学・工学部庭山准教授作製)を用いて頬部の動脈血の酸素飽和度を測定した。測定に際して使用した近赤外線波長は770nm及び830nmであった。
【0073】
<試験例3>粘弾性及び酸素飽和度の回帰分析
試験例2で得られた粘弾性と酸素飽和度の測定値について回帰分析を行った。結果を
図5に示す。
【0074】
図5に示すように、酸素飽和度と粘弾性の間には、正の相関関係が成立することが確認された。この結果より、皮下組織の粘弾性を指標として、皮下組織の酸素レベルを推定できることが示された。同様に、皮下組織の酸素レベルを指標として、皮下組織の粘弾性を推定できることが示された。
【0075】
<試験例4>低酸素条件における細胞培養
ヒト皮下脂肪前駆細胞(HPAd)を、増殖培地とともに24穴マルチウェルプレートに播種(2.0×104cell/well)した後、コンフルエントになるまで培養した。その後、分化培地に交換し、3日おきに分化培地を交換しながら14日間培養して、皮下脂肪細胞へと成熟化させた。その後、維持培地に交換し、脱酸素剤を備えた低酸素培養器具(BIONIX、スギヤマ技研製)にプレートを封入し、酸素濃度1%に調節したうえで培養を継続した。このとき、対照として脱酸素剤を除いた低酸素培養器具にプレートを封入し、培養を継続した細胞も用意した。維持培地への交換から1日後、培養を終了し、以下の手順によりmRNAを抽出した。
【0076】
PBSによってウェル内の細胞を洗浄したのち、RNeasy Lipid Tissue Kit(QIAGEN社)のQIAzol Lysis Reagentを添加(1mL/ウェル)し、細胞からmRNAを抽出した。
Superscript VILO cDNA Synthesis Kit(Life Technologies社)により、抽出したmRNAをcDNAとした。
QuantiTect Primer Assayを用いてリアルタイムPCRを行い、col1a1遺伝子、col3a1遺伝子、tgf-β遺伝子、及びlox遺伝子の発現量を測定した。このとき低酸素応答のマーカーであるvegf遺伝子の発現量も併せて測定した。結果を
図6に示す。
【0077】
図6に示すように、低酸素条件で培養を行った細胞においてはvegf遺伝子の発現量の上昇が観察された。つまり、低酸素条件における培養により細胞が低酸素応答反応を起こしていることが確認できた。
【0078】
また、
図6に示すようにcol1a1遺伝子及びcol3a1遺伝子の発現量は、低酸素条件での培養では変化しないことがわかった。
一方、tgf-β遺伝子及びlox遺伝子の発現量は低酸素条件での培養により顕著に上昇した(
図6)。
【0079】
lox遺伝子の産物であるLOXはコラーゲン線維の架橋に関わる酵素である。また、TGF-βはコラーゲン線維の産生に関わる因子である。つまり、
図6に示した結果は、低酸素条件においてはコラーゲン線維に関わるLOX及びTGF-βの生産量が増加し、線維化が促進されうることを示している。
【0080】
試験例1及び4により、加齢に伴い局所組織の酸素状態が悪化すること、そして低酸素条件下では皮下脂肪細胞の線維化が進行することが示されたことを踏まえ考察すると、皮下脂肪細胞の線維化レベルと皮下組織の酸素レベルとの間には、負の相関関係が成立すると考えられる。したがって、皮下組織の酸素レベルを指標として、皮下脂肪細胞の線維化レベルを推定でき、同様に、皮下脂肪細胞の線維化レベルを指標として、皮下組織の酸素レベルを推定できることも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は肌解析技術に応用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 酸素レベル推定装置
11 CPU
111 数値化手段
112 酸素レベル算出手段
12 ROM
121 記憶手段
13 粘弾性又は線維化レベル測定部
14 酸素レベル表示部
2 粘弾性又は線維化レベル推定装置
21 CPU
211 数値化手段
212 粘弾性又は線維化レベル算出手段
22 ROM
221 記憶手段
23 酸素レベル測定部
24 粘弾性又は線維化レベル表示部