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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】睡眠用器具
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/10 20060101AFI20231129BHJP
   A61H 7/00 20060101ALI20231129BHJP
   A61G 7/015 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A47C27/10 Z
A61H7/00 322D
A61G7/015
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020198995
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086794
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 弦
(72)【発明者】
【氏名】井上 三樹男
(72)【発明者】
【氏名】山本 玲子
(72)【発明者】
【氏名】若月 勇人
(72)【発明者】
【氏名】花瀬 務
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0078241(US,A1)
【文献】特開2004-159852(JP,A)
【文献】特開2016-016326(JP,A)
【文献】特開2010-017343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0174931(US,A1)
【文献】特開2017-081194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/10
A61H 7/00
A61G 7/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の臀部及び大腿部を支持可能な中央支持部と、利用者の背部及び頭部を支持可能な上側支持部と、利用者の下腿部を支持可能な下側支持部と、を含んで構成され、利用者を仰向けの状態で支持するベッド状態と利用者を着座した状態で支持する椅子状態との間で形態を相互に移行可能なマット本体と、
前記マット本体に設けられ、前記上側支持部から前記下側支持部へ向かうマット長さ方向に複数配列されると共に、それぞれマット幅方向を長手方向とする長尺状の空気袋と、を有し、
少なくとも一部の前記空気袋は、マット幅方向の左右に分割されると共に、左右の袋部がそれぞれ独立して膨張収縮可能とされており、
複数の前記空気袋は、マット本体の前記中央支持部、前記上側支持部及び前記下側支持部がそれぞれ負担する荷重の目標値を利用者の体重に対する割合で示す目標分担率に従って、膨張収縮する、
睡眠用器具。
【請求項2】
複数の前記空気袋は、マット幅方向の左右に分割された前記空気袋において、右側の袋部と左側の袋部とを交互に膨張収縮可能に構成されている、請求項1に記載の睡眠用器具。
【請求項3】
複数の前記空気袋は、利用者の脊椎のカーブの形状に応じて膨張収縮される、請求項1又は請求項2に記載の睡眠用器具。
【請求項4】
複数の前記空気袋は、少なくとも前記中央支持部に設けられた前記空気袋がマット幅方向の左右に分割されており、利用者が前記中央支持部におけるマット幅方向の一方側に該利用者の身体がマット幅方向の一方側へ向いた横向きの姿勢で着座した場合に、左右の前記袋部のうち、利用者が着座した前記一方側の前記袋部が膨張される、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の睡眠用器具。
【請求項5】
前記マット本体は、少なくとも車両幅方向の一方側に乗降口を有する車両の室内において、車両幅方向をマット幅方向とする向きで配設され、
複数の前記空気袋は、利用者が前記乗降口に向かって前記中央支持部における車両幅方向の一方側に該利用者の身体が車両幅方向の一方側へ向いた横向きの姿勢で着座した場合に、左右の前記袋部のうち、利用者が着座した前記一方側の前記袋部を膨張させる、
請求項4に記載の睡眠用器具。
【請求項6】
複数の前記空気袋は、全ての前記空気袋がマット幅方向の左右に分割されている、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の睡眠用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エアマットの長手方向に複数のエアセルを配列し、互いに隣接するエアセルを交互に膨張収縮させることにより、エアマットから利用者(就寝者)に加わる体圧を分散させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-229966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、各々のエアセルは、エアマットの幅方向を長手方向とする筒状に形成されている。従って、エアマットの幅方向の左右では圧力を変更することができないため、利用者が左右で体圧の異なる姿勢をとっている場合に、快適性が低下する虞がある。よって、先行技術は、この点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、利用者が左右で体圧の異なる姿勢をとっている場合でも、体圧分散の効果を向上させることができる睡眠用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係る睡眠用器具は、利用者の臀部及び大腿部を支持可能な中央支持部と、利用者の背部及び頭部を支持可能な上側支持部と、利用者の下腿部を支持可能な下側支持部と、を含んで構成され、利用者を仰向けの状態で支持するベッド状態と利用者を着座した状態で支持する椅子状態との間で形態を相互に移行可能なマット本体と、
前記マット本体に設けられ、前記上側支持部から前記下側支持部へ向かうマット長さ方向に複数配列されると共に、それぞれマット幅方向を長手方向とする長尺状の空気袋と、を有し、少なくとも一部の前記空気袋は、マット幅方向の左右に分割されると共に、左右の袋部がそれぞれ独立して膨張収縮可能とされており、複数の前記空気袋は、マット本体の前記中央支持部、前記上側支持部及び前記下側支持部がそれぞれ負担する荷重の目標値を利用者の体重に対する割合で示す目標分担率に従って、膨張収縮する
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る睡眠用器具では、マット本体は、中央支持部と上側支持部と下側支持部とを含んで構成されている。また、マット本体は、ベッド状態と椅子状態との間で形態が移行される構成となっており、ベッド状態では。利用者を仰向けの状態で支持する。一方、椅子状態では、利用者を着座した状態で支持する。これにより、利用者は、マット本体の形態を移行することにより、睡眠時の姿勢から着座姿勢へ移行することができる。
【0008】
また、マット本体には、上側支持部から下側支持部へ向かうマット長さ方向に複数配列された空気袋が設けられている。これらの空気袋は、マット幅方向に長尺な袋状に形成され、膨張収縮されることにより、利用者がマット本体から受ける体圧を分散することができる。ここで、少なくとも一部の空気袋は、マット幅方向の左右に分割されると共に、左右の袋部がそれぞれ独立して膨張収縮可能とされている。このため、利用者が、マット本体のマット幅方向一方に偏る姿勢をとっている場合でも、空気袋の左右の袋部を独立して調整することで、利用者がマット本体から受ける体圧を左右で調整することができる。これにより、利用者が左右で体圧の異なる姿勢をとっている場合でも、体圧分散の効果を向上させることができる
さらに、目標分担率に従って、中央支持部、上側支持部、下側支持部にそれぞれ設けられた空気袋を膨張収縮させる。このため、一部の支持部に利用者の体重による荷重負担が集中することを回避することができる。その結果、利用者の身体の一部に体圧が集中して過度に圧迫されることを回避し、体圧分散を最適化することが可能になる。
【0009】
請求項2に記載の本発明に係る睡眠用器具は、請求項1に記載の構成において、複数の前記空気袋は、マット幅方向の左右に分割された前記空気袋において、右側の袋部と左側の袋部とを交互に膨張収縮可能に構成されている。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る睡眠用器具では、マット幅方向の左右に分割された前記空気袋において、右側の袋部と左側の袋部とを交互に膨張収縮させることができる。従って、睡眠時に寝返りを打つ動作と同様に、利用者の身体を左右交互に揺動させることができるため、利用者に対して体圧が作用する部分を周期的に変えることができる。これにより、利用者の血液の循環が促されるため、寝返りを打つことなく睡眠状態を良好に維持することができる。また、揺動用のブラダなどを別途用いることなく、簡単な構造にして利用者の寝返りを制御することができるため、軽量化が図れる。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る睡眠用器具は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、複数の前記空気袋は、利用者の脊椎のカーブの形状に応じて膨張収縮される。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係る睡眠用器具では、利用者の脊椎のカーブの形状に基づいて空気袋が膨張収縮される。これにより、例えば、脊椎のカーブの形状から、マット本体上における利用者の位置や体格を正確に把握して、空気袋を膨張収縮させることが可能になる。その結果、利用者の体格に応じて体圧分散を最適化することができる。
【0015】
請求項4に記載の本発明に係る睡眠用器具は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の構成において、複数の前記空気袋は、少なくとも前記中央支持部に設けられた前記空気袋がマット幅方向の左右に分割されており、利用者が前記中央支持部におけるマット幅方向の一方側に該利用者の身体がマット幅方向の一方側へ向いた横向きの姿勢で着座した場合に、左右の前記袋部のうち、利用者が着座した前記一方側の前記袋部が膨張される。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係る睡眠用器具では、中央支持部のマット幅方向一方側に、利用者が横向きの姿勢で着座すると、空気袋の左右の袋部のうち、利用者が着座している一方側の袋部を膨張させる。従って、利用者の臀部及び大腿部の下方側のマット本体の体圧が増し、利用者の姿勢が安定する。これにより、利用者がマット本体に横向きの姿勢で着座した際に、快適性を向上させることができる。
【0017】
請求項5に記載の本発明に係る睡眠用器具は、請求項4に記載の構成において、前記マット本体は、少なくとも車両幅方向の一方側に乗降口を有する車両の室内において、車両幅方向をマット幅方向とする向きで配設され、複数の前記空気袋は、利用者が前記乗降口に向かって前記中央支持部における車両幅方向の一方側に該利用者の身体が車両幅方向の一方側へ向いた横向きの姿勢で着座した場合に、左右の前記袋部のうち、利用者が着座した前記一方側の前記袋部を膨張させる。
【0018】
請求項5に記載の本発明に係る睡眠用器具では、マット本体が車両前後方向をマット長手方向とする姿勢で車両の室内に搭載されている。また、この車両には、マット本体のマット幅方向一方側に乗降口が設けられている。ここで、中央支持部の空気袋は、利用者が乗降口に向かって横向きに着座すると、左右の袋部のうち、利用者が着座している一方側の袋部を膨張させる。これにより、利用者は、車両の室内でマット本体に着座した状態から、安定した横向きの着座姿勢に移行することができるため、乗降時の動作をスムーズに行うことができる。
【0019】
請求項6に記載の本発明に係る睡眠用器具は、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の構成において、複数の前記空気袋は、全ての前記空気袋がマット幅方向の左右に分割されている。
【0020】
請求項6に記載の本発明に係る睡眠用器具では、全ての空気袋が左右に分割されているため、利用者の頭部から下腿部に亘る各部位について、マット本体から受ける体圧を細かく調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1に係る睡眠用器具によれば、利用者が左右で体圧の異なる姿勢をとっている場合でも、体圧分散の効果を向上させることができる。
また、利用者の身体の一部に体圧が集中して過度に圧迫されることが回避され、最適な体圧分散が可能になる。
【0022】
請求項2に係る睡眠用器具によれば、寝返りを打つことなく睡眠状態を良好に維持することができる。
【0024】
請求項3に係る睡眠用器具によれば、利用者の体格に応じて体圧分散を最適化することができる。
【0025】
請求項4に係る睡眠用器具によれば、利用者が、マット本体に横向きの姿勢で着座した際の快適性を向上させることができる。
【0026】
請求項5に係る睡眠用器具によれば、利用者が、乗降時の動作をスムーズに行うことができる。
【0027】
請求項6に係る睡眠用器具によれば、利用者の頭部から下腿部に亘る各部位がマット本体から受ける体圧を細かく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る睡眠用器具が搭載された車両の室内の一部を概略的に示す概略図である。
図2】実施形態に係る睡眠用器具をシート幅方向から見た概略側面図であり、椅子状態を示す図である。
図3図2の状態から空気袋を膨張させた状態における睡眠用器具を示す概略側面図である。
図4】実施形態に係る睡眠用器具をシート幅方向から見た概略側面図であり、ベッド状態を示す図である。
図5】実施形態に係る睡眠用器具をシート上方向から見た概略平面図である。
図6】実施形態に係る睡眠用器具をシート後方側から見た図であり、(A)には、マット本体の上面が水平の状態が示され、(B)にはマット本体の上面を左側へ傾けた状態が示され、(C)にはマット本体の上面を右側へ傾けた状態が示されている。
図7】ベッド状態におけるマット本体の目標分布率と利用者がマット本体から受ける体圧を示す一例である。
図8】ベッド状態におけるマット本体の目標分布率、図7の一例と異なる利用者がマット本体から受ける体圧を示す一例である。
図9】実施形態に係る睡眠用器具の中央支持部をシート後方側から見た図であり、(A)には、利用者がシート前方を向いた姿勢で着座した状態が示され、(B)には、利用者が横向きに着座した状態が示されている。
図10】実施形態における睡眠用器具のハードウェア構成を示すブロック図である。
図11】実施形態における睡眠用器具の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1図11を参照して本実施形態に係る睡眠用器具10について説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP及び矢印RHは、睡眠用器具10の前方向、上方向及び幅方向の右側をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、睡眠用器具10における前後方向の前後、上下方向の上下、幅方向の左右を示すものとする。また、睡眠用器具10の前方向とは、利用者が睡眠用器具10の利用時に頭部から下腿部へ向かう水平方向に沿った方向である。
【0030】
(全体構造)
図1に示されるように、本実施形態の睡眠用器具10は、車両2に搭載されている。車両2は、一例として、自動運転と手動運転とを切替可能に構成されている。なお、自動運転とは、アクセル、ブレーキ、方向指示器、ステアリング等の操作の一部又は全てが自動的に行われる車両の走行態様である。また、手動運転とは、運転者がすべての運転操作(アクセル、ブレーキ、方向指示器、ステアリング等の操作)を実行する車両の走行態様である。
【0031】
睡眠用器具10は、車両2の室内4の右側と左側に配それぞれ1台ずつ配設されている。また、本実施形態では一例として、睡眠用器具10に利用者Pが着座した状態において、利用者Pが向いている方向と車両前方向とが一致しており、利用者Pの左右方向が車両2の幅方向の左右方向と一致している。
【0032】
右側の睡眠用器具10の車両幅方向(マット幅方向)の右側には、車両2の右側部に設けられた乗降口6が配置されている。また、左側の睡眠用器具の車両幅方向の左側には、車両2の左側部に設けられた乗降口6が配置されている。
【0033】
(マット本体)
図2に示されるように、睡眠用器具10は、マット本体12を備えている。マット本体12は、車両前後方向を長手方向とする姿勢で配置されている。このマット本体12は、図1に示される椅子状態と、図4に示されるベッド状態との間で形態を相互に移行可能に構成されている。そして、椅子状態では、マット本体12に利用者Pを着座姿勢で支持可能とされており、ベッド状態では、マット本体12によって利用者Pを仰向けの状態で支持可能とされている。なお、利用者Pは、平均体型の成人男性である。
【0034】
マット本体12は、中央支持部14、上側支持部16及び下側支持部18を含んで構成されている。中央支持部14は、マット本体12における前後方向の中央部に設けられており、利用者Pの臀部D及び大腿部Tを支持可能に構成されている。
【0035】
中央支持部14よりも後側には、中央支持部14と連続して上側支持部16が設けられている。上側支持部16は、図4に示されるベッド状態では、水平方向に沿って略直線状に延在されており、利用者Pの背部B及び頭部Hを支持可能に構成されている。
【0036】
中央支持部14よりも前側には、中央支持部14と連続して下側支持部18が設けられている。下側支持部18は、図4に示されるベッド状態では、水平方向に沿って略直線状に延在されており、利用者Pの下腿部Lを支持可能に構成されている。このように、マット本体12は、ベッド状態で中央支持部14、上側支持部16及び下側支持部18が連続した平面状となる。
【0037】
一方、図2に示されるように、マット本体12を構成する中央支持部14は、椅子状態で幅方向から見て下側が凸となる略V字状に曲がっている。また、上側支持部16は、図1に示す椅子状態で、中央支持部14から後方へ向かうにつれて上方に位置するように傾斜した状態となっている。
【0038】
下側支持部18は、図2に示す椅子状態で、中央支持部14の前端部から前方へ向かうにつれて下方に位置するように傾斜した状態となっている。このため、中央支持部14の前方部分及び下側支持部18は、幅方向から見て上側が凸となる略V字状に曲がっている。
【0039】
マット本体12よりも下方には、マット本体12を安楽状態とベッド状態との間で相互に移行させる可動機構22が設けられている。可動機構22は、リンク機構24、昇降用ブラダ26及び支持ベース28を含んで構成されている。
【0040】
支持ベース28は、上下方向を板厚方向として水平方向に延在された略板状のフレーム部材であり、車両2のフロアパネル(符号省略)に設置されてマット本体12を下方から支持している。支持ベース28における後部には、リンク機構24が設けられている。リンク機構24は、第1リンク24A、第2リンク24B及び第3リンク24Cを含んで構成されている。
【0041】
第1リンク24Aは、マット本体12の上側支持部16の下面に取付けられており、第1リンク24Aの一端部が支持ベース28に回動可能に接続されている。第2リンク24Bは、長尺状に形成されており、第2リンク24Bの一端部が第1リンク24Aの後部に回動可能に接続されており、第2リンク24Bの他端部が支持ベース28に回動可能に接続されている。
【0042】
第3リンク24Cは、幅方向から見て略円弧状に形成されており、第3リンク24Cの一端部が第1リンク24Aの前部に回動可能に接続されており、第3リンク24Cの他端部が支持ベース28に回動可能に接続されている。
【0043】
ここで、第2リンク24Bと支持ベース28との接続部分には図示しないモータが設けられており、モータを作動させることで第2リンク24Bが一端部を中心に回動するように構成されている。なお、第1リンク24A、第2リンク24B及び第3リンク24Cはそれぞれ、左右一対設けられているが、図1~3には左側のみが図示されている。
【0044】
昇降用ブラダ26は、下側ブラダ26A及び上側ブラダ26Bを含んで構成されている。下側ブラダ26A及び上側ブラダ26Bは、支持ベース28とマット本体12との間に配設されている。具体的には、下側ブラダ26A及び上側ブラダ26Bは、マット本体12における中央支持部14と下側支持部18との接続部分に位置している。
【0045】
また、下側ブラダ26Aは、支持ベース28に取付けられている。上側ブラダ26Bは、下側ブラダ26Aの上面に取付けられており、下側ブラダ26Aと内部空間が連通している。さらに、下側ブラダ26Aには、図示しない空気供給部から空気が供給されるように構成されており、下側ブラダ26Aに空気が供給されることで、下側ブラダ26A及び上側ブラダ26Bが膨張して中央支持部14と下側支持部18との接続部分を上昇させる。
【0046】
昇降用ブラダ26よりも前方には、下腿部用ブラダ30が設けられている。下腿部用ブラダ30は、後述する回動フレーム32に取付けられている。そして、下腿部用ブラダ30に空気が供給されて膨張することで、下側支持部18の前部を傾斜した状態で支持するように構成されている。
【0047】
回動フレーム32は、支持ベース28の前端部に回動可能に取り付けられている。また、回動フレーム32には図示しないロック機構が設けられており、支持ベース28と一直線上となる位置で回動フレーム32がロックされている。ロックを解除することで、回動フレーム32が支持ベース28に対して下方へ回動可能な状態となる。例えば、支持ベース28が設置されている床面に段差を形成することで回動フレーム32の下方に空間が設けられている場合、回動フレーム32を下方へ回動することで、回動フレーム32の前端部が支持ベース28よりも下方に位置することとなる。この状態で昇降用ブラダ26及び下腿部用ブラダ30を収縮させると、下側支持部18が下方へ移動してマット本体12が椅子の形状となる。
【0048】
(支持用ブラダ)
図5に示されるように、マット本体12の内部には、複数の空気袋36で構成された支持用ブラダ34が設けられている。支持用ブラダ34は、支持用ブラダ34A、支持用ブラダ34B、支持用ブラダ34C、支持用ブラダ34D及び支持用ブラダ34Eを含んで構成されている。支持用ブラダ34は、後述する空気供給部60から空気袋36へ空気が供給されると、図2に示す収縮状態(エア無状態)から、図3に示す膨張状態(エア有状態)へと膨張可能に構成されている。
【0049】
支持用ブラダ34Aは、マット本体12における後端部に配設されており、幅方向を長手方向とする空気袋36が前後方向に3個連結されて構成されている。また、支持用ブラダ34Aは、上側支持部16内において着座姿勢の利用者Pの頭部Hに対応する位置に設けられている(図1参照)。
【0050】
支持用ブラダ34Bは、支持用ブラダ34Aの前部に設けられており、幅方向を長手方向とする空気袋36が前後方向に4個連結されて構成されている。支持用ブラダ34Bは、上側支持部16内において着座姿勢の利用者Pの背部Bに対応する位置に設けられている(図2参照)。
【0051】
支持用ブラダ34Cは、支持用ブラダ34Bの前部に設けられており、幅方向を長手方向とする空気袋36が前後方向に4個連結されて構成されている。支持用ブラダ34Cは、中央支持部14内において着座姿勢の利用者Pの臀部Dに対応する位置に設けられている(図2参照)。
【0052】
支持用ブラダ34Dは、支持用ブラダ34Cの前部に設けられており、幅方向を長手方向とする空気袋36が前後方向に3個連結されて構成されている。支持用ブラダ34Dは、下側支持部18内において着座姿勢の利用者Pの大腿部Tに対応する位置に設けられている(図2参照)。
【0053】
支持用ブラダ34Eは、支持用ブラダ34Dの前部に設けられており、幅方向を長手方向とする空気袋36が前後方向に6個連結されて構成されている。支持用ブラダ34Eは、下腿部支持部20内において着座姿勢の利用者Pの下腿部Lに対応する位置に設けられている(図2参照)。
【0054】
以上のように、支持用ブラダ34は、マット本体12の前端部から後端部まで設けられており、図19に示す空気供給部60から空気が供給されることで膨張するように構成されている。なお、支持用ブラダ34を構成する空気袋36の数は一例であり、必要に応じて適宜変更することができる。
【0055】
また、各々の空気袋36は、内部空間が2つに区画されており、マット幅方向の左右に分割されている。空気袋36の左右の袋部には、空気供給部60からそれぞれ空気が供給されている。これにより、左右の袋部がそれぞれ独立して膨張収縮可能とされている。マット本体12は、支持用ブラダ34の空気袋36を膨張又は収縮させることにより、マット本体12の各部位のクッション性や厚みを変更する。これにより、マット本体12から利用者Pの身体の各部位に作用する体圧を変更することができる。具体的には、空気袋36の右側の袋部のみを膨張させると、マット本体12の上面は、対応する部位の右側が盛り上がり、マット本体12の厚みが増す。一方、左側の袋部のみを膨張させると、マット本体12の上面は、対応する部位の左側が盛り上がり、マット本体12の厚みが増す。また、左右の袋部36R,36Lを同時に膨張させると、マット本体の上面は、対応する部位全体が盛り上がり、全体の厚みが増す。
【0056】
更に、空気袋36の左右分割構造を利用して、上側支持部16の支持用ブラダ34Bの左右の袋部は、所定の条件で作動して左右交互に膨張収縮を繰り返すように制御されている。
【0057】
例えば、睡眠用器具10がベッド状態である場合において、利用者Pが入眠したことを条件として右側の袋部及び左側の袋部が交互に膨張収縮を繰り返す。これにより、上側支持部16が左右に揺動され、利用者Pに対して体圧が作用する部分が周期的に変化する。この結果、利用者Pの血液の循環が促され、寝返りを打つことなく睡眠状態を良好に維持することができる。
【0058】
図2に示されるように、上側支持部16には覚醒度センサ40が設けられている。覚醒度センサ40は、一例として、公知の体圧センサで構成されており、マット本体12における利用者Pの心臓に対応する位置に設けられている。この覚醒度センサ40によって、利用者Pの心拍を検知できるように構成されている。また、利用者Pの呼吸時における圧力変化を覚醒度センサ40で検知することで、利用者Pの呼吸の周期が分かる。
【0059】
また、中央支持部14、上側支持部16及び下側支持部18には、複数の体圧センサ41が設けられている(図10参照)。複数の体圧センサ41は、マット本体12の全領域に入力される荷重(圧力)の分布を検知できるように構成されており、利用者Pの身体の各部位に作用する体圧が分かる。
【0060】
(睡眠用器具10のハードウェア構成)
図10は、睡眠用器具10のハードウェア構成を示すブロック図である。この図10に示されるように、睡眠用器具10は制御部42を備えており、この制御部42は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)44、ROM(Read Only Memory)46、RAM(Random Access Memory)48、ストレージ50及び入出力インタフェース52を含んで構成されている。各構成は、バス43を介して相互に通信可能に接続されている。
【0061】
CPU44は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU44は、ROM46又はストレージ50からプログラムを読み出し、RAM48を作業領域としてプログラムを実行する。CPU44は、ROM46又はストレージ50に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。
【0062】
ROM46は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM48は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ50は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する非一時的記録媒体である。本実施形態では、ROM46又はストレージ50には、ブラダ制御処理を行うためのプログラム、及び各種データなどが格納されている。
【0063】
入出力インタフェース52は、覚醒度センサ40、体圧センサ41、室内カメラ54、リンク機構56、昇降用ブラダ58、空気供給部60と電気的に接続されている。覚醒度センサ40は、利用者Pの心拍及び呼吸による圧力変化を検知して制御部42へ送信する。また、体圧センサ41は、利用者Pの体重からマット本体12に入力される荷重の分布を検知して制御部42へ送信する。
【0064】
室内カメラ54は、車室内に設けられて睡眠用器具10に着座した状態の利用者Pへ向けられている。本実施形態では一例として、室内カメラ54によって利用者Pの顔及び姿勢を撮像するように構成されており、撮像されたデータを制御部42へ送信する。
【0065】
(睡眠用器具10の機能構成)
睡眠用器具10の制御部42は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。睡眠用器具10が実現する機能構成について図11を参照して説明する。
【0066】
図11に示されるように、睡眠用器具10の制御部42は、機能構成として、受信部68、マット変形部70、覚醒度判断部72、揺動制御部74、脊椎カーブ取得部76及び分担率制御部78、横座り制御部80を含んで構成されている。なお、各機能構成は、CPU44がROM46又はストレージ50に記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0067】
受信部68は、覚醒度センサ40、体圧センサ41及び室内カメラ54などから送信された信号を受信する。マット変形部70は、可動機構22を作動させることで、マット本体12を椅子状態とベッド状態との間で相互に移行させる。例えば、マット変形部70は、利用者Pからの操作を受け付けることで可動機構22を作動させてもよい。また、マット変形部70は、利用者Pが入眠した場合に可動機構22を作動させてマット本体12を椅子状態からベッド状態へ移行してもよい。さらに、マット変形部70は、利用者Pが目覚めた場合に可動機構22を作動させてマット本体12をベッド状態から椅子状態へ移行してもよい。
【0068】
覚醒度判断部72は、利用者Pの覚醒度を判断する。具体的には、覚醒度判断部72は、覚醒度センサ40及び室内カメラ54から受信した情報に基づいて、利用者Pの覚醒度を判断する。例えば、覚醒度判断部72は、室内カメラ54から受信した信号から利用者Pが所定時間以上目を瞑った状態を検知した場合に、利用者Pが入眠したと判断してもよい。また、覚醒度判断部72は、利用者Pが入眠状態から目を開けた場合に、覚醒したと判断してもよい。
【0069】
また、覚醒度判断部72は、覚醒度センサ40から受信した信号から、心拍変動の時系列データを取得し、この心拍変動の時系列データに基づいて、交感神経活動が抑制され、心拍数が下がった状態であれば、利用者Pが睡眠状態である判断してもよい。また逆に、交感神経活動が活発で副交感神経活動が抑制している状態に移行すれば、利用者Pが覚醒した状態であると判断してもよい。本実施形態では、室内カメラ54で取得された利用者Pの顔の画像データと、覚醒度センサ40で取得された利用者Pの心拍データの両方に基づいて利用者Pの覚醒度を判断する。
【0070】
揺動制御部74は、覚醒度判断部72によって利用者Pが入眠したと判断された場合に、空気供給部60を制御して、上側支持部16を左右交互に周期的に揺動させる機能を有する。具体的には、揺動制御部74は、上側支持部16の揺動を開始する直前の状態では、図6(A)に示されるように、上側支持部16の内部に設けられた支持用ブラダ34Bの空気袋36には、左側の袋部及び左側の袋部の何れにも空気が供給されていない。
【0071】
揺動制御部74は、図6(A)の状態から、空気供給部60から空気袋36の右側の袋部への空気の供給を開始する。そして、図6(B)に示されるように、右側の袋部が所定の空気圧になるまで空気供給部60から空気を供給した後、所定時間の間、空気圧を一定に維持させる。このとき、シート前後方向から見て上側支持部16の上面の右側が盛り上がって傾斜した状態となり、利用者Pの身体が左側に傾けられる。
【0072】
次に、揺動制御部74は、図6(B)の状態から右側の袋部への空気の供給を停止すると共に、左側の袋部への空気の供給を開始する。これにより、右側の袋部が収縮する一方で、左側の袋部が膨張して図6(C)の状態となる。そして、揺動制御部74は、図6(C)の状態で所定時間の間、空気圧を一定に維持させる。このとき、シート前後方向から見て上側支持部16の上面の左側が盛り上がって傾斜した状態となり、利用者Pの身体が右側に傾けられる。そして、本実施形態の揺動制御部は、一例として、約90分のサイクルで図6(B)の状態と図6(C)の状態とを交互に切替えるように空気供給部60を制御する。
【0073】
脊椎カーブ取得部76は、マット本体12に着座し、又は、横たわった状態の利用者Pの脊椎(背骨)Sの位置及び脊椎のカーブの形状を取得する(図2図3参照)。例えば、脊椎カーブ取得部76は、利用者Pがマット本体12に着座又は横たわったと判断した場合に、体圧センサ41の信号に基づいて、上側支持部16が所定の体圧を利用者Pに与えるように支持用ブラダ34A,34Bを膨張させる。そして、脊椎カーブ取得部76は、マット本体12の上面の隆起量(空気袋36の膨張量)に基づいて、利用者Pの脊椎Sの位置及び脊椎のカーブの形状を取得する。
【0074】
分担率制御部78は、体圧センサ41からの信号に基づいて、利用者Pの頭部H、胸部C、臀部D、下腿部(膝より下方側の部位)Lの位置を取得する機能を有する。ここで、臀部D、胸部Cについては、脊椎カーブ取得部76で取得された脊椎Sの位置及び脊椎Sのカーブに応じて、正確な位置が算定される。
【0075】
また、分担率制御部78は、体圧センサ41からの信号に基づいて、利用者Pの頭部H、胸部C、臀部D、下腿部Lからマット本体12へ入力される荷重を取得する。利用者Pからマット本体12へ入力される荷重は、マット本体12から利用者Pに作用する体圧と換言することができる。
【0076】
更に、分担率制御部78は、頭部H、胸部C、臀部D、下腿部Lからマット本体12へ入力される荷重に基づいて、利用者Pからマット本体12へ入力される全荷重に対して、各部位からマット本体12へ入力される荷重が占める割合を算定する。そして、分担率制御部78は、予め設定された目標分担率に従って、中央支持部14、上側支持部16、下側支持部18にそれぞれ設けられた空気袋36の膨張収縮を制御する。
【0077】
ここで、分担目標率とは、マット本体12の中央支持部14、上側支持部16及び下側支持部18がそれぞれ負担する荷重の目標値を利用者Pの体重に対する割合で示したものである。本実施形態では、一例として、中央支持部14、上側支持部16及び下側支持部18において、利用者Pの頭部H、胸部C、臀部D、下腿部Lに対応するマット本体12の各部位に対して目標分担率が設定されている。
【0078】
補足すると、人体は、身体の各部位により重さが異なるため、利用者がマット本体12の上で過ごす場合に、マット本体12から身体の各部位に作用する体圧は、部位毎の重さによって異なるものとなる。例えば、一般的に、臀部Dは身体で最も重い部位となるため、マット本体12から作用する体圧が最も大きくなる。しかし、利用者Pの身体に作用する体圧が大きすぎると、体圧が作用する部位が強く圧迫されることにより、快適性が損なわれる。そこで、マット本体12において、体圧が大きく作用する部位では、マット本体12のクッション性が高まるように空気袋36を膨張又は収縮させることにより、利用者Pに作用する体圧を分散させる。これにより、身体の一部に過度に体圧が集中することを回避することができるため、利用者Pの快適性を維持することができる。
【0079】
目標分担率は、以上のような思想に基づいて設定されており、利用者Pからマット本体12に入力される荷重を目標分担率に従って分担させることで、利用者Pに作用する体圧をバランスよく分散させることができる。本実施形態では、マット本体12において、利用者Pの頭部H、胸部C、臀部D、下腿部Lから入力される荷重の分担率を、対応する空気袋36を膨張させた状態(エア有状態)と空気袋36を収縮させた状態(エア無状態)の場合について取得する。そして、エア有状態とエア無状態における各部位の荷重の分担率を比較して、目標分担率に近い状態に設定するように構成されている。
【0080】
以下、図7及び図8を用いて、体格の異なる二人の利用者Pがそれぞれベッド状態のマット本体12を利用した場合に、それぞれ分担率制御部78で行われる制御について具体的に説明する。
【0081】
図7及び図8に示されるように、ベッド状態である場合の目標分担率は、一例として、頭部が8%、胸部が33%、臀部が44%、下腿部が15%となるように設定されている。図7に示す一人目の利用者Pの場合じは、マット本体12において、頭部Hの分担率は、エア無状態が9.1%とされ、エア有状態が5.5%であるため、エア無状態の分担率の方が、エア有状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、頭部Hに対応する空気袋36を収縮させてエア無状態にする。
【0082】
また、胸部Cの分担率は、エア無状態が35.7%とされ、エア有状態が38.9%であるため、エア無状態の分担率の方が、エア有状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、胸部Cに対応する空気袋36を収縮させて、エア無状態にする。
【0083】
また、臀部Dの分担率は、エア無状態が41.1%とされ、エア有状態が42.8%であるため、エア有状態の分担率の方がエア無状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、臀部Dに対応する空気袋36を膨張させて、エア有状態にする。
【0084】
また、下腿部Lの分担率は、エア無状態が16.9%とされ、エア有状態が12.9%であるため、エア無状態の分担率の方がエア有状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、下腿部Lに対応する空気袋36を収縮させて、エア無状態にする。
【0085】
一方、図8に示される二人目の利用者Pの場合は、マット本体12において、頭部Hの分担率は、エア無状態が5.8%とされ、エア有状態が4.1%であるため、エア無状態の分担率の方が、エア有状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、頭部Hに対応する空気袋36を収縮させてエア無状態にする。
【0086】
また、胸部Cの分担率は、エア無状態が37.7%とされ、エア有状態が43.1%であるため、エア無状態の分担率の方が、エア有状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、胸部Cに対応する空気袋36を収縮させて、エア無状態にする。
【0087】
また、臀部Dの分担率は、エア無状態が47.7%とされ、エア有状態が41.4%であるため、エア有状態の分担率の方がエア無状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、臀部Dに対応する空気袋36を膨張させて、エア有状態にする。
【0088】
また、下腿部Lの分担率は、エア無状態が8.8%とされ、エア有状態が11.3%であるため、エア有状態の分担率の方がエア無状態の分担率よりも目標分担率に近い値になっている。従って、分担率制御部78は、下腿部Lに対応する空気袋36を膨張させて、エア有状態にする。
【0089】
以上説明したとおり、分担率制御部78は、目標分布立設に従って対応するマット本体12の空気袋36を膨張収縮させることにより、利用者Pの体格に応じてマット本体12の各部に作用する体圧を調整し、効果的に体圧を分散させる機能を有している。
【0090】
なお、図7及び図8の一例では、マット本体12の形態がベッド状態とされた場合の目標分担率のみを説明したが、マット本体12の形態が椅子状態とされた場合においても、対応する目標分担率が予め設定されている。
【0091】
横座り制御部80は、乗員がマット本体12の中央支持部14に横向きの姿勢で着座していると判断した場合に、空気供給部60を制御して、中央支持部14において利用者Pが着座しているマット幅方向の一方側に作用する体圧を高める機能を有する。具体的には、横座り制御部80は、室内カメラ54で、で取得された利用者Pの着座姿勢の画像データに基づいて、利用者Pが車両2の乗降口6に向かって横向きの姿勢で着座しているか否かについて判断する。
【0092】
また、横座り制御部80は、体圧センサ41の信号からマット本体12に入力される荷重を取得し、この荷重データに基づいて、中央支持部14において、乗降口6と対向するマット幅方向の一方側のみに荷重が入力されている状態であれば利用者Pが横向きの姿勢で着座していると判断してもよい。本実施形態では、室内カメラ54で取得された利用者Pの着座姿勢の画像データと体圧センサ41で取得された利用者Pからマット本体に入力される荷重データの両方に基づいて、利用者Pが車両2の乗降口6に向かって横向きの姿勢で着座したか否かを判断する。
【0093】
横座り制御部80は、利用者Pが横向き姿勢で着座していると判断した場合に、中央支持部14の内部に設けられた支持用ブラダ34Bにおいて利用者Pが着座しているマット幅方向の一方側のみを膨張させる。一例として、利用者が、図9(A)に示されるように、シート前方側を向いた姿勢で椅子状態のマット本体12に着座している状態から、図9(B)に示すように、乗降口6に面したシート右側を向いた横向き姿勢で着座する状態に移行する場合について説明する。この場合において、横座り制御部80は、支持用ブラダ34Cの空気袋36における左側の袋部36Lへの空気の供給を停止すると共に、右側の袋部36Rへの空気の供給を開始する。これにより、左側の袋部36Lが収縮する一方で、右側の袋部36Rが膨張して図9(B)の状態となる。図9(B)の状態で利用者Pが横向きに着座している間、空気圧を一定に維持させる。このとき、中央支持部14のマット幅方向右側のクッション性が低下し、利用者Pの臀部Dに作用する体圧が向上する。これにより、臀部Dが安定して支持されるため、利用者Pは、横向きに座った状態でも姿勢を安定させることができる。また、乗降口6から降車する場合は、スムーズに立ち上がることができる。
【0094】
(作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する
【0095】
本実施形態の睡眠用器具10では、マット本体12は、中央支持部14と上側支持部16と下側支持部18とを含んで構成されている。また、マット本体12は、ベッド状態と椅子状態との間で形態が移行される構成となっており、ベッド状態では。利用者Pを仰向けの状態で支持する。一方、椅子状態では、利用者Pを着座した状態で支持する。これにより、利用者Pは、マット本体12の形態を移行することにより、睡眠時の姿勢から着座姿勢へ移行することができる。
【0096】
また、マット本体12には、上側支持部16から下側支持部18へ向かうマット長さ方向に複数配列された空気袋36が設けられている。これらの空気袋36は、マット幅方向に長尺な袋状に形成され、膨張収縮されることにより、利用者Pがマット本体12から受ける体圧を分散することができる。ここで、これらの空気袋36は、マット幅方向の左右に分割されると共に、左右の袋部36R,36Lがそれぞれ独立して膨張収縮可能とされている。このため、利用者Pが、マット本体12のマット幅方向一方に偏る姿勢をとっている場合でも、空気袋36の左右の袋部36R,36Lを独立して調整することで、利用者Pがマット本体12から受ける体圧を左右で調整することができる。これにより、利用者Pが左右で体圧の異なる姿勢をとっている場合でも、体圧分散の効果を向上させることができる。
【0097】
また、全ての空気袋が左右に分割されているため、利用者Pの頭部Hから下腿部Lに亘る各部位について、マット本体12から受ける体圧を調整することができる。
【0098】
また、本実施形態では、上側支持部16を構成する空気袋36は、右側の袋部36Rと左側の袋部36Lとを交互に膨張収縮させることができる。従って、睡眠時に寝返りを打つ動作と同様に、利用者Pの身体を左右交互に揺動させることができるため、利用者Pに対して体圧が作用する部分を周期的に変えることができる。これにより、利用者Pの血液の循環が促されるため、寝返りを打つことなく睡眠状態を良好に維持することができる。また、揺動用のブラダなどを別途用いることなく、簡単な構造にして利用者Pの寝返りを制御することができるため、軽量化が図れる。
【0099】
また、本実施形態では、目標分担率に従って、中央支持部14、上側支持部16、下側支持部18にそれぞれ設けられた空気袋36を膨張収縮させる。具体的には、利用者Pの頭部H、胸部C、臀部D、下腿部Lに対応する空気袋36を膨張収縮させる。このため、一部の支持部に利用者Pの体重による荷重負担が集中することを回避することができる。その結果、利用者Pの身体の一部に体圧が集中して過度に圧迫されることを回避し、体圧分散を最適化することが可能になる。
【0100】
また、本実施形態では、利用者Pの脊椎Sのカーブの形状に応じて空気袋36が膨張収縮される。これにより、脊椎Sのカーブの形状から、マット本体12上における利用者Pの位置や体格を正確に把握して、空気袋36を膨張収縮させることができる。その結果、利用者の体格に応じて体圧分散を最適化することができる。
【0101】
また、本実施形態では、中央支持部14のマット幅方向一方側に、利用者Pが横向きの姿勢で着座すると、空気袋36の左右の袋部36R,36Lのうち、利用者Pが着座している一方側の袋部を膨張させる。従って、利用者Pの臀部D及び大腿部Tの下方側のマット本体12の体圧が増し、利用者Pの姿勢が安定する。これにより、利用者Pがマット本体12に横向きの姿勢で着座した際に、快適性を向上させることができる。
【0102】
更に、本実施形態では、横座り制御部80の機能に基づいて、利用者Pが乗降口6に向かって中央支持部14に横向きに着座すると、左右の袋部36R,36Lのうち、利用者Pが着座している一方側の袋部を膨張させる。これにより、利用者Pは、車両2の室内4でマット本体12に着座した状態から、安定した横向きの着座姿勢に移行することができるため、降車時の動作をスムーズに行うことができる。また、逆に、乗降口6から乗車する場合においても、中央支持部14に横向きに着座した状態から、シート前方側を向いた着座姿勢への移行をスムーズに行うことができる。
【0103】
[補足説明]
上記実施形態では、睡眠用器具10が車両2の室内4に配設された構成としたが、睡眠用器具10の設置場所は、限定されない。
【0104】
また、上記実施形態では、支持用ブラダ34を構成するすべての空気袋36が左右の袋部36R,36Lを備える分割構造を備える構成としたが、本発明はこれに限らず、一部の支持用ブラダ34において、空気袋36が左右の袋部36R,36Lを備える構成としてもよい。
【0105】
上記実施形態では、マット本体12における荷重の分担率を目標分担率に近づけるために、対応する空気袋36について、エア有状態とエア無状態の何れかを選択する構成としたが、本発明はこれに限らない。空気袋36に供給される空気量を適宜変更して、空気袋36の空気圧を調整することにより、マット本体12の荷重分担率を目標分担率に近づける構成としてもよい。
【0106】
上記実施形態では、揺動制御部74の機能により上側支持部16のみを周期的に揺動させる構成としたが、本発明はこれに限らない。中央支持部14や、下側支持部18も、対応する空気袋36を膨張収縮させることで必要に応じて上側支持部16と同様に揺動させる構成としてもよい。また、この場合に、例えば、上側支持部16の上面の右側を盛り上げた場合に下側支持部18では上面の左側を盛り上げるなどして、利用者の身体の上半身と下半身を別の方向に傾けてストレッチさせる構成としてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、利用者Pがマット本体12に着座又は横たわった際に脊椎Sのカーブ形状を取得する構成としたが、利用者Pの脊椎Sのカーブの形状を睡眠用器具10のROM46又はストレージ50に予め記憶しておき、記憶した脊椎Sのカーブ形状に基づいて空気袋36を膨張収縮させる構成としてもよい。また、脊椎のカーブの形状を外部サーバで記憶して、通信手段を介して睡眠用器具10で受信するように構成してもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、横座り制御部80の機能に基づいて、利用者Pが車両2の乗降口6に面して横向きに着座したと判断した場合に、臀部Dの下方側の空気袋36を膨張させる構成としたが、本発明はこれに限らない。乗降口6のドア部の開閉や、ドア部のロック機構の解錠及び施錠に連動して、利用者Pが乗降口6に面して横向きに着座した場合に、臀部Dの下方側に位置する空気袋36を膨張させる構成としてもよい。具体的には、例えば、睡眠用器具10の入出力インタフェース52にロック機構の解錠又は施錠を検知するドアセンサを電気的に接続し、ドアセンサからの信号により、乗降口6のドア部が解錠された場合に、利用者Pが乗降口6に面して横向きに着座した場合に、臀部Dの下方側に位置する空気袋36を膨張させる。当該構成においても、上記実施形態と同様の効果が発揮される。また、ドア部の開放(ロック機構の解錠)を条件として対応する空気袋36が膨張されるため、より迅速に、利用者Pが横向きの着座姿勢を安定させることができる。
【符号の説明】
【0109】
2 車両
4 室内
6 乗降口
10 睡眠用器具
12 マット本体
14 中央支持部
16 上側支持部
18 下側支持部
36 空気袋
36R,36L 袋部
P 利用者
D 臀部
T 大腿部
B 背部
H 頭部
L 下腿部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11