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  • 特許-クロックまたは小型時計部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】クロックまたは小型時計部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20231129BHJP
   G04B 1/14 20060101ALI20231129BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G04B15/14 A
G04B1/14
G04B17/06 Z
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018224857
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2019132827
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】17205320.9
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボッサルト, リチャード
(72)【発明者】
【氏名】メルク, ニマ
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-500386(JP,A)
【文献】特表2010-509076(JP,A)
【文献】特開2007-247067(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093354(WO,A1)
【文献】特開2017-172991(JP,A)
【文献】特表2015-505961(JP,A)
【文献】特開2016-133495(JP,A)
【文献】特開2010-017845(JP,A)
【文献】特開2015-210270(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00732635(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06,17/00
G04B 15/14,15/06
G04B 15/00
G04B 1/14, 1/10
G04B 13/00
B81B 3/00, 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の素材を含む、単一スライス(22)を含むウエハ(21)を提供する(E21)ステップと、
最初に当該スライス(22)の下側面を金属の下側層(24)のみでコーティングするステップと、
少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品を形成するために、前記ウエハ(21)の前記スライス(22)を、上側面から開始してエッチングする(E22からE24)ステップと、
エッチング用マスクの役割を果たす層を除去することにより、少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品(29)を露出する(E25)ステップと、
前記下側層(24)を除去することにより、前記スライスと前記少なくとも1つのエッチングされたクロックまたは小型時計部品とを解放する(E26)ステップ
を含む、クロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項2】
前記コーティングステップは、前記スライス(22)の前記下側面を前記スライス(22)に堆積された、または前記スライスに取付けられた、金属の下側層(24)でコーティングすることを含む、
請求項1に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項3】
前記コーティングステップは、前記スライス(22)の前記下側面を、10μm以下の、または5μm以下の、または3μm以下の、及びまたは0.5μm以上の厚さの下側層(24)でコーティングすることを含む、
請求項1または2に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項4】
前記ウエハ(22)から前記部品の前記素材の前記下側層(24)を除去することからなる解放ステップ(E26)を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項5】
前記解放ステップ(E26)は、前記下側層(24)を溶解することからなる、
請求項4に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項6】
ウエハ(21)を提供することからなる前記ステップは、製造されるべき前記クロックまたは小型時計部品(29)の最大厚さにおおよそ等しい厚さのウエハ(21)を提供することからなるステップを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項7】
前記スライス(22)の前記部品の前記素材を前記ウエハ(21)に存在する前記部品の前記素材の全体の全厚さにわたり、及びまたは前記ウエハ(21)の前記スライス(22)の全厚さにわたり、エッチングする(E22からE24)ステップを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項8】
ウエハ(21)を提供する(E21)ことからなる前記ステップは、前記部品の前記素材内で前記スライス(22)単独からなるウエハ(21)を提供することからなる
請求項1から7のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項9】
前記スライス(22)は、100μ以上の、または120μ以上の厚みを含む
請求項8に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項10】
前記ウエハ(21)の前記スライス(22)は、300μ以下の、または500μ以下の厚さを有する
請求項1から9のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品の酸化の熱処理及びまたは洗浄/脱脂の後続ステップを含む
請求項1から10のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項12】
レバーまたはぜんまい、ひげぜんまい、歯車板、アンクルまたはてん輪といったクロックまたは小型時計ムーブメント用の構成要素を製造すること、または針といったカバー部品用の構成要素を製造することを含む、
請求項1から11のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項13】
前記部品の前記素材は、シリコン、ダイヤモンド、水晶またはセラミックを含む
請求項1から12のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【請求項14】
前記ウエハ(21)の前記スライス(22)をエッチングするステップは、少なくとも1つのエッチングされたクロックまたは小型時計部品を、それがエッチングされる前記スライス(22)上への一時的な保持を可能とする留め具の製造を含む、
請求項1から13のいずれか一項に記載のクロックまたは小型時計部品(29)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工可能な素材から開始して実施されるクロック(clock)または小型時計部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンといった微細加工可能な素材から開始して、微細加工技術を用いた、とりわけ乾式エッチング、例えば深掘り反応性エッチング(DRIE)、または湿式化学エッチングを用いた、クロック及び小型時計部品の製造は既知である。
【0003】
図1に示す、従来技術からの当該種類の製造方法は、厚さが約10から200ミクロン程度であって最終部品の厚みに対応し、加工されて部品を形成することが意図される、微細加工可能な素材、例えばシリコンの第1スライス2からなる、ウエハ1を提供する第1ステップE1(図1a)を含む。第1スライス2は、約0.5mmの厚さであって、支持部の機能を果たすことが意図され、例えばシリコン製の第2スライス4に対して、酸化ケイ素の中間層3を介して取付けられる。当該種類のウエハ1は、一般的に、「絶縁体上のウエハシリコン」を意味する「ウエハSOI」と呼ばれる。第2スライス4と中間層3は、このようにウエハ1全体を堅固に維持し、リスクなく取扱い可能にし、クロックまたは小型時計部品の製造中に簡単に操作可能な、支持部を形成する。
【0004】
この製造方法は、続いて、ウエハ1の可視面上に樹脂5の層を堆積し(ステップE2、図1b)、フォトリソグラフィー技術で樹脂を部分的に除去することで、除去区域6が形成された(ステップE3、図1c)マスクを追加することからなるステップを含む。ここで一般用語「ウエハ」は、スライスまたはスライスの集合、及びまたは任意で追加層を含む、ステップE2に対応するマスキングステップから開始する少なくとも1つのエッチング作業を含む製造方法に用いられるものを意味するために用いられる。当該ウエハは、2つの面を含む。慣例により上側面とも呼ばれる、エッチングされる可視面と、下側面である。
【0005】
先行ステップで形成されたマスクは、ウエハ1の第1スライス2の樹脂除去区域6内をエッチングする(ステップE4、図1d)ことで、少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品の形成を可能にする。このように、予め形成されたマスクで規定される形状に応じて、単数または複数の部品が形成される。
【0006】
最後に、残りの樹脂が除去され(ステップE5、図1e)、その後、解放ステップE6において第1スライス2を第2スライス4から分離することで、図1fに図示する少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品9が得られる。当該解放ステップは、第1スライス2でエッチングされたクロックまたは小型時計部品または複数の部品を中間層3からのみではなく、第2スライス4を構成する微細加工可能な素材からも分離する効果がある。当該解放ステップE6は複雑なステップである。解放ステップは、ウエハ1の上側面から開始することにより、より詳細にはウエハ1の第1スライス2に設けられたエッチング7から開始することにより、中間層3を完全に溶解することで実施されてもよいが、これは非常に長い継続時間がかかるという欠点を有する。変形例として、ウエハ1の下側面と第2スライス4から開始して、上下逆にしたウエハに上述のステップE2からE5に類似の製造ステップを行うことで、中間層3に到達容易にして分解を促進することで、形成されたクロックまたは小型時計部品の下に位置する空隙を選択的に開放することができる。全ての場合において、解放ステップE6は長時間であって、複雑な製造機械を必要とし、これは従来技術の解決策において重要な欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、従来技術の方法を改善するクロックまたは小型時計部品の製造方法を提案することである。
【0008】
より具体的には、本発明の目的は、クロックまたは小型時計部品の簡略化された製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明は、
-部品の素材、とりわけシリコン、ダイヤモンド、水晶またはセラミックを含むスライスを有するウエハを提供するステップと、
-任意で、最初に当該スライスの下側面を下側層でコーティングするステップと、
-少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品を形成するために、前記ウエハの前記スライスを、上側面から開始してエッチングするステップと、
-エッチング用マスクの役割を果たす層を除去することにより、少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品を露出するステップと、
-任意で、前記下側層を除去することにより、前記スライスと前記少なくとも1つのエッチングされたクロックまたは小型時計部品とを解放するステップ
を含む、クロックまたは小型時計部品の製造方法に基づく。
【0010】
ウエハを提供することからなる前記ステップは、製造されるべき前記クロックまたは小型時計部品の最大厚さにおおよそ等しい厚さのウエハを提供することからなるステップを含んでもよい。
【0011】
方法は、前記部品の前記素材を前記ウエハに存在する前記部品の前記素材の全体の全厚さにわたり、及びまたは前記ウエハの前記部品の前記素材を含む単一スライスの全厚さにわたり、エッチングするステップを含んでもよい。
【0012】
本発明は、より詳細には、各請求項で定義される。
【0013】
本発明の目的、特徴及び利点は、添付の図面に関する特定の非限定的な実施形態についての、以下の説明で詳細に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、従来技術にかかるクロックまたは小型時計部品の製造のステップの模式図である。図1aから1fまでのそれぞれは、従来技術に係る製造ステップをより詳細に示す。
図2図2は、本発明の第1実施形態にかかるクロックまたは小型時計部品の製造のステップの模式図である。図2aから2dと2fのそれぞれは、本発明の第1実施形態に係る製造ステップをより詳細に示す。
図3図3は、本発明の第2実施形態にかかるクロックまたは小型時計部品の製造のステップの模式図である。図3aから3fのそれぞれは、本発明の第2実施形態に係る製造ステップをより詳細に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態によれば、クロックまたは小型時計部品の製造方法は、上述の解放ステップE6を簡略化するまたは除外することで、従来技術の方法の終わりを著しく簡略化する点で、改善されている。慣例により、上述のように、上側という形容詞を、第1エッチングがなされるウエハの面側の表面を示すために、また下側という形容詞を、反対側の表面を指すために、用いる。
【0016】
図2は、本発明の第1実施形態にかかるクロックまたは小型時計部品の製造方法を示す。
【0017】
上述の従来技術の方法同様、当該種類の製造方法は、微細加工可能な素材、例えばシリコン製のウエハ11を提供することからなる第1ステップE11(図2a)を含む。当該実施形態によれば、当該種類のウエハ11は、クロックまたは小型時計部品を形成するために加工されることが意図される、単一スライス12を含む。当該単一スライス12は、好ましくは、100ミクロン以上の、または120ミクロン以上の厚さを有する。当該厚さは、とりわけ100または120ミクロンから300ミクロンの間、または500ミクロンまでであってもよい。
【0018】
製造方法はその後、樹脂15の層を堆積し(ステップE12、図2b)、フォトリソグラフィー技術を採用して樹脂を部分的に除去することで除去区域16が形成される(ステップE13、図2c)ことにより、ウエハ11の上側面にマスクを追加することからなるステップを含む。
【0019】
直前のステップで形成されたマスクは、樹脂マスクの除去区域16を通してウエハ11をエッチング(ステップE14、図2d)することにより、少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品の形成を許可する。このように、単数または複数の部品は、予め形成されたマスクで決定される形状に従って形成される。好ましくは、ウエハ11への単数または複数の部品の接続を維持するため、接続部が設けられる。
【0020】
最後に、単数または複数のクロックまたは小型時計部品19を含む加工されたスライス12を直接得るために、展開ステップ(ステップE15、図2f)において溶解を行うことにより、残余の樹脂が除去される。
【0021】
ステップE12からE15は、従来技術の解決策のステップE2からE5におおよそ対応し、このため詳細には説明しない。とりわけエッチングは、従来通り、フォトリソグラフィー及びDRIEで行われる。当該本発明の第1実施形態の大きな利点は、ウエハの第2支持スライスが除去され、このため中間層3の溶解による従来技術の解放ステップE6を除去することを可能にしたことである。
【0022】
代替策として、微細加工可能な素材製のウエハ11は、いくつかの重畳された層の形態であってもよく、及びまたはいくつかの素材製であってもよい。本実施形態の重要な特徴は、ウエハが支持部を形成するという機能に限定されたいかなる層も含まない点、またウエハがその全厚さにおいてエッチングされる点である。換言すれば、得られたクロックまたは小型時計部品は、使用されたウエハ11の厚さに、すなわちスライス12の厚さに、およそ等しい最大最終厚さを有する。
【0023】
このため上述の実施形態は、確実にクロックまたは小型時計部品の製造方法を、相当に簡素化することを可能とする。これは主として、微細加工可能な素材製のウエハ11から全ての支持部を除去することと、支持部を含まないスライスから開始してクロックまたは小型時計部品を製造することが可能であるという予期せぬ発見とに基づくものである。
【0024】
図3は、本発明の第2実施形態にかかるクロックまたは小型時計部品の製造方法を示す。
【0025】
当該種類の製造方法は、微細加工可能な素材、例えばシリコンからなるウエハ21を提供することからなる第1ステップE21(図3a)を含む。当該第2実施形態によれば、当該種類のウエハ21は、クロックまたは小型時計部品の素材に対応し、100ミクロン以上の、または120ミクロン以上の厚さの、クロックまたは小型時計部品を形成するために加工されることが意図される微細加工可能な素材製のスライス22を含む。ウエハ21はまた、下側の、好ましくは金属製の、層24を含む。
【0026】
このため第2実施形態は、ウエハ21を形成するために、微細加工可能な素材製のスライス22へ金属製下側層24を堆積または組み立てることからなる、図示しない準備ステップを含む。第1実施形態によれば、この準備ステップは、微細加工可能な素材製スライスの表面を、物理蒸着(PVD)技術で堆積される金属の層でコーティングすることからなる。例として、当該種類の金属製下側層は、2ミクロンの純アルミニウムの層であってもよい。変形例として、当該下側層は、他の厚さ、好ましくは0.5ミクロン以上5ミクロン以下の厚さを有してもよい。代替的に、純金属及びまたは合金を堆積する全ての技術を、微細加工可能な素材製のスライスの下側面を金属製層でコーティングするために用いてよい。好ましくは、堆積される金属は、アルミニウム、金、または白金である。加えて、金属製下側層の接着を改善するために、微細加工可能な素材製スライス上に、事前に、例えばチタンまたはクロム製のキーイングコートを堆積することも可能である。変形例として、微細加工可能な素材製のスライスの表面にコーティングを形成する金属製下側層の堆積または組立に関する全ての技術を用いることができる(例えば、電解成長、化学蒸着、シートの糊付け、など)。
【0027】
製造方法は、その後、樹脂25の層を堆積し(ステップE22、図3b)、フォトリソグラフィー技術で樹脂を部分的に除去することにより除去区域26が形成される(ステップE23、図3c)ことで、ウエハ21の上側面にマスクを追加することからなるステップを含む。
【0028】
直前のステップで形成されたマスクは、樹脂マスクの除去区域26を通してウエハ21をエッチング(ステップE24、図3d)することにより、少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品の形成を可能とする。このように、単数または複数の部品は、予め形成されたマスクで決定される形状に従って形成される。
【0029】
最後に、展開ステップ(ステップE25、図3e)において溶解により、残余の樹脂が除去される。ステップE22からE25は、ステップE2からE5とE12からE15におおよそ対応する。
【0030】
当該第2実施形態にかかる方法は、その後、金属製下側層24を除去することからなる解放ステップE26(図3f)を有する。当該解放ステップE26は、非常に簡単で迅速である。ステップは、例えばアルミニウムをエッチングする酸浴(HNO、HPO、CHCOOH、HOの混合物)内で、金属を溶解することにより行われる。浴槽内の組成は、当業者に既知の態様で、下側層の金属を溶解可能にするよう、下側層の金属に適合されなければならない。このため、下側層の素材は完全に溶解される。上述した従来技術の解決策においては、酸化ケイ素の中間層3のみが溶解され、その後、シリコン製の第2下側スライス4が、部品を支持する上部スライスから分離される。
【0031】
クロックまたは小型時計部品29の最終的な分離は、一実施形態によれば金属製支持層の形状で存在する下側層と樹脂といった製造残留物を除外することにより、従来技術の方法に比べて大幅に簡素化された解放ステップE26を有することから、当該第2実施形態もまた非常に単純である。従来技術の方法では、2つの部分からなる支持部を使用し、その1つの部分は部品の素材に対応し、追加層によって第1スライスにエッチングされた部品を最初に保護しない限り、化学的に溶解することができない。
【0032】
このため、上述の第2実施形態は、クロックまたは小型時計部品の製造方法の相当な簡素化を確実に可能にする。これは主として、微細加工可能な素材からなるスライス用の金属製支持部の使用と、微細加工可能な素材の単一スライスと従来技術の微細加工可能な素材製の支持部と比べて非常に薄い金属製下側層とを含むウエハから開始してクロックまたは小型時計部品を製造することが可能であるという予期せぬ発見とに基づくものである。当業者であれば、金属が微細加工可能な素材内に拡散し、その性質を変更することをとりわけ考慮することにより、当該解決策に対して否定的な先入観を有する。また当業者であれば、処理装置は正確性と頑健性を保証するためにある程度の剛性を有するウエハ用に一般的に設計されていることから、当該製造方法の実行可能性に関して否定的な先入観を有する。
【0033】
第1実施形態と比較して、第2実施形態で用いられる金属製下側層は、以下の追加の利点を提供することに留意すべきである。
- エッチングステップE24において、バリアー層として機能し、スライスホルダーがエッチングの最後でイオン衝撃へ曝されることを防ぐことにより、スライスホルダーを保護する、
- エッチング最中に構造内で生成される熱を除去する(発熱化学反応+イオン衝撃)、
- エッチングの基部に時折出現する、しばしば「ノッチング」と呼ばれる欠陥を防止することができる、
- 微細加工可能な素材製の層、すなわちスライスの、下側面を保護し、その全面でエッチングされた部品を保持し、エッチング作業中の柔軟構造の変形を防止する。
【0034】
当該第2実施形態は、金属の下側層を基に説明された。変形例として、微細加工可能な素材製のスライスの下側面に、とりわけ金属製層と同様の硬化機能を有する酸化ケイ素SiOまたはポリマーの、例えばパリレンの名でよく知られるポリ-p-キシリレンのポリマーフィルムの層を、堆積または成長してもよい。解放ステップE26は、単純に、SiOまたはポリマーの層を、フッ化水素酸を基にした混合物といった酸を用いてまたは酸素プラズマ処理によって溶解することからなる。
【0035】
最後に、上述した本発明の2つの実施形態が実施したコンセプトは、支持部として微細加工可能な素材の使用を回避することで、複雑で時間のかかる微細加工可能な素材製の支持部の解放ステップを排除する、クロックまたは小型時計部品の製造方法を提案することからなる。換言すれば、ウエハに存在する微細加工可能な素材の厚さの全てが、支持機能なくして、クロックまたは小型時計部品の形成に使用される。このため、支持機能のみに用いられる微細加工可能な素材のスライスを含まない。ウエハ11、21に存在する微細加工可能な素材の単一スライスは、エッチングにより少なくとも1つのクロックまたは小型時計部品を形成することが意図される。このため、前述の実施形態において、方法は解放ステップE6を容易にするためのウエハの下側面の微細加工可能な素材のエッチングを含まず、上側面のエッチングのみを含む。得られたクロックまたは小型時計部品は、好ましくは、製造に供されるウエハに最初に存在する微細加工可能な素材全体の厚さ(多層スライスの場合には微細加工可能な素材製の全ての層の厚さの合計に対応する)におおよそ対応する最大厚さを有する。
【0036】
変形例として、クロックまたは小型時計部品の製造方法は、樹脂及びまたは金属製支持部からの部品解放の前または後に実施される、微細加工可能な素材のスライスまたは部品の薄肉化、機械式またはレーザービーム再加工、コーティング、酸化の熱処理、洗浄/脱脂、などといった追加の処理ステップを含んでもよい。
【0037】
明らかに本発明の方法は、非常に多くのクロックまたは小型時計部品の製造に適用されうる。クロックまたは小型時計部品は、ムーブメントへの搭載準備が整っている物(例えば、レバー、ばね、等)またはムーブメントの1以上の他の部品に取付けられることが意図される部品(例えば、天真へのひげぜんまい、心棒への歯車板、アンクル真(または心棒)へのアンクル、天真への天輪、等)であってもよい。代替的に、クロックまたは小型時計部品は、針といった外部部品であってもよい。当該方法は、100μm以上の厚さの、単純なクロックまたは小型時計部品の2.5D(2.5次元)の製造に特に適している。第2実施形態は、破損の危険性のある、薄い構造を有するより脆弱な部品、または渦巻きぜんまいといった、エッチングステップで変形する危険性のある、より柔軟な部品、またはとりわけ100ミクロン以下の厚さの、最薄の部品について好適である。第1実施形態は、歯車といった、それほど脆弱ではない、とりわけホイール等のより大きな部品、及び厳密に100μm以上の厚さを有する部品について好適である。にもかかわらず、両実施形態は、これら全てのクロックまたは小型時計部品の製造に適している。
【0038】
上述の実施形態の例において、エッチング用マスクの役割を果たす堆積層は、感光性樹脂製である。感光性樹脂の層は、DRIE型のエッチングに対してマスクの役割を果たすことができる他の層、例えば酸化ケイ素や窒化ケイ素の層、金属製層、などに替えることができる。当業者であれば、自身のニーズに最適な層を選択することができよう。
【0039】
上述の実施形態において、「微細加工可能な素材」は、とりわけマスクを介して指向的にエッチング可能なあらゆる素材を含む、微細加工に適したあらゆる素材を意味する。更に、微細加工は、マイクロメートルの寸法の構造をマスクを介して素材内に製造可能な、例えば化学エッチングまたはフォトリソグラフィーといった、全ての技術を意味する。上述の実施形態の例において用いられた微細加工可能な素材はシリコンであるが、ドープシリコン、多孔質シリコン、なども代わりに使用することができる。もちろん、例えばダイヤモンド、クオーツ、サファイア、及びセラミックといった、他の微細加工可能な素材を用いることもできる。ハイブリッド素材であってもよい。微細加工可能な素材はまた、操作可能な程度に十分に堅い、あらゆる微細構造可能な素材であってよい。このため本発明は、より一般には、マスクを介して切削することができる「部品の素材」と呼ばれる素材からなるまたは含むクロックまたは小型時計部品の製造に適している。有利には、当該部品の素材は、上述の実施形態で説明したように、ウエハ内に配置された100μm以上の厚さのスライスから開始して加工される、またはより一般的には、1以上の部品の素材を含む層を含み、好ましくは100μm以上の全体厚さを有するウエハの全体をエッチングして部品が形成される。更にこの種類のウエハは、任意で、部品の素材と異なりかつ部品の素材と両立可能な、すなわち上述のエッチングステップE14、E24の実施など部品の素材のエッチング中に影響を受けない、支持部の素材と呼ばれる他の素材、とりわけ金属または金属合金内に支持部を有する。有利には、任意の支持部の厚さは非常に小さく、10μm以下、または5μm以下、または3μm以下である。更に、当該厚さは好ましくは0.5μm以上である。そのためこの厚さは、部品の素材のスライスの厚さ、ウエハの厚さ、及び製造されるクロックまたは小型時計部品の厚さと比べて無視可能と見做される。
【符号の説明】
【0040】
11 ウエハ
12 スライス
15 樹脂層
16 除去区域
19 クロックまたは小型時計部品
21 ウエハ
22 スライス
24 下側層
25 樹脂層
26 除去区域
29 クロックまたは小型時計部品
図1
図2
図3