(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ設計システム、眼鏡レンズ設計方法、及び眼鏡レンズ設計プログラム
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20231129BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20231129BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20231129BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/02
G02B1/14
(21)【出願番号】P 2019176929
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】田口 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】坂田 桂馬
(72)【発明者】
【氏名】加賀 唯之
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518625(JP,A)
【文献】特開2014-194462(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008825(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/074076(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/014086(WO,A1)
【文献】国際公開第00/048035(WO,A1)
【文献】特開2018-087925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
G02C 7/02
G02B 1/14
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、
処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得部と、
前記処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算部と、
前記処方データの加工処理情報に基づき、前記加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成部と、
前記光学面形状データ、及び、前記適正レンズ厚情報に基づき眼鏡レンズを調整し、レンズ形状データを生成する形状調整部と、
を備え、
前記眼鏡レンズの加工処理に関する加工処理情報は、レンズ染色に関する染色種情報、ハードコートに関するハードコート情報、及び、機能性膜に関する機能性膜情報のうちの少なくとも何れか1つを含み、
前記適正レンズ厚情報生成部は、前記眼鏡レンズの加工処理と、レンズ厚の最低レンズ厚情報とが対応付けられた加工処理・レンズ厚データに基づき、前記処方データの加工処理情報に対応する前記最低レンズ厚情報を取得し、取得した前記最低レンズ厚情報に基づき適正レンズ厚情報を生成し、
前記適正レンズ厚情報生成部は、レンズ染色に関する染色種情報、ハードコートに関するハードコート情報、及び、機能性膜に関する機能性膜情報のうちの少なくとも何れか1つに基づき前記加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する眼鏡レンズ設計システム。
【請求項2】
前記眼鏡レンズ設計システムは、さらに、
前記レンズ形状データに基づき左右のレンズ厚さを調整して、調整したレンズ厚さに関する調整レンズ厚情報を生成する左右レンズ厚調整部を備える、
請求項
1に記載の眼鏡レンズ設計システム。
【請求項3】
前記適正レンズ厚情報は、少なくとも、眼鏡レンズの中心肉厚の適正値に関する適正肉厚情報と、眼鏡レンズのコバ厚の適正値に関する適正コバ厚情報とを含む、
請求項
1又は2に記載の眼鏡レンズ設計システム。
【請求項4】
眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、
処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得ステップと、
前記処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算ステップと、
前記処方データの加工処理情報に基づき、加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成ステップと、
前記光学面形状データ、及び、前記適正レンズ厚情報に基づきレンズ形状を調整し、レンズ形状データを生成する形状調整ステップと、
を備え、
前記加工処理情報は、レンズ染色に関する染色種情報、ハードコートに関するハードコート情報、及び、機能性膜に関する機能性膜情報のうちの少なくとも何れか1つを含み、
前記適正レンズ厚情報生成ステップでは、前記眼鏡レンズの加工処理と、レンズ厚の最低レンズ厚情報とが対応付けられた加工処理・レンズ厚データに基づき、前記処方データの加工処理情報に対応する前記最低レンズ厚情報を取得し、取得した前記最低レンズ厚情報に基づき適正レンズ厚情報を生成し、
前記適正レンズ厚情報生成ステップでは、レンズ染色に関する染色種情報、ハードコートに関するハードコート情報、及び、機能性膜に関する機能性膜情報のうちの少なくとも何れか1つに基づき前記加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する眼鏡レンズ設計方法。
【請求項5】
コンピュータに、
請求項
4に記載眼鏡レンズ設計方法を、実行させる眼鏡レンズ設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ設計システム、眼鏡レンズ設計方法、及び眼鏡レンズ設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、眼鏡レンズの製造工場にはラボ管理システム(Lab Management System、以下「LMS」という)が設置されており、このLMSにより眼鏡店から眼鏡レンズの製造を受注し、受注した情報に基づき工場内の加工装置及び製造プロセスが制御、管理されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、眼鏡レンズの設計ベンダーが、眼鏡レンズの製造業者にレンズ設計システム(Lens Design Systems、以下「LDS」という)を提供し、眼鏡レンズの製造業者は処方データに基づきLDSに計算を実行させて、眼鏡レンズを設計・製造することが行われている。LDSの計算処理は、例えば、眼鏡店に設置された端末から入力された処方データに基づき、製造工場のサーバ上又は端末などのウェブサービス上で行われ、LDSの計算処理結果はLMSに出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、眼鏡レンズには所定の光学機能を有する形状に加工された後に染色や、ハードコートなどの加工処理が行われる。この際、処方データにおいて指定された中心肉厚やコバ厚などのレンズの厚さが不十分であると、加工処理におけるアニールなどの高温がかかる工程で変形してしまうおそれがある。また、端末から入力された処方データにおいて中心肉厚やコバ厚などのレンズの厚さが指定されていない場合には、計算ができないおそれがある。
【0006】
本開示は、上記の問題に鑑みなされたものであり、加工処理の際の変形を抑制することができる眼鏡レンズ設計システム、方法、及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による眼鏡レンズ設計システムは、眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得部と、処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算部と、処方データの加工処理情報に基づき、加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成部と、光学面形状データ、及び、適性レンズ厚情報に基づきレンズ形状を調整し、レンズ形状データを生成する形状調整部と、を備える。
【0008】
また、本開示による眼鏡レンズ設計方法は、眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得ステップと、処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算ステップと、処方データの加工処理情報に基づき、加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成ステップと、光学面形状データ、及び、適性レンズ厚情報に基づきレンズ形状を調整し、レンズ形状データを生成する形状調整ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、加工処理の際の変形を抑制することができる眼鏡レンズ設計システム、方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ発注・加工システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSの各機能部の構成を示すブロック図である。
【
図4】加工処理・レンズ厚データベースに格納されている染色種テーブルを示す図である。
【
図5】加工処理・レンズ厚データベースに格納されているハードコートテーブルを示す図である。
【
図6】加工処理・レンズ厚データベースに格納されている機能性膜種テーブルを示す図である。
【
図7】加工処理・レンズ厚データベースに格納されているフレームテーブルを示す図である。
【
図8】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLMSおよび加工機の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムの処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図9に示すフローチャートの形状最適化計算ステップの詳細な流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ設計システムについて説明する。
<1.眼鏡レンズ発注・加工システム>
以下、眼鏡レンズ発注・加工システム1について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ発注・加工システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、眼鏡レンズ発注・加工システム1は、眼鏡レンズ設計システム(以下、「LDS」ともいう)100と、ラボ管理システム(以下、「LMS」ともいう)200と、端末装置300と、加工機400とを備える。
【0012】
LDS100と、LMS200と、端末装置300は、ネットワーク3を介して通信可能に接続されている。LMS200および加工機400は、LAN(Local Area Network)を介して互いに接続されている。ネットワーク3としては、例えば、TCP/IPなどの汎用のプロトコルに基づくインターネット、イントラネット、LAN、電話回線等の通信回線網が挙げられる。
【0013】
LDS100は、眼鏡レンズメーカの工場内に設置されていてもよく、外部に設置されていてもよい。LMS200と加工機400は、例えば、眼鏡レンズメーカの工場に設置される。端末装置300は、例えば、眼鏡店に設置される。端末装置300は例えばCPU、RAM、HDDを有するコンピュータからなり、CPUがHDDに記録されたプログラムを、RAM上をワークエリアとして各処理を実行する。端末装置300は、眼鏡店等で眼鏡の購入者に対する診断により作成された処方データの入力を受け付ける。
【0014】
<2.LDSのハードウェア構成例>
以下、LDS100のハードウェア構成について説明する。
図2は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSのハードウェア構成を示すブロック図である。
図2に示すように、LDS100は、例えば、LDS100全体の動作を制御するコンピュータ60と、操作表示部71と、操作入力部72を備える。
【0015】
コンピュータ60は、CPU61、RAM62、ROM63、HDD64、操作部出力I/F65、操作部入力I/F66、およびネットワークI/F67を備える。
CPU(Central Processing Unit)61は、各種プログラムを実行する。CPU61は、ROM(Read Only Memory)63に格納されているブートプログラムに基づきシステムを起動する。さらに、CPU61は、HDD(ハードディスクドライブ)64に格納されている制御プログラムを読みだしてRAM(Randam Access Memory)62をワークエリアとして所定の処理を実行する。
【0016】
HDD64には、各種制御プログラム、及び、加工処理・レンズ厚データが格納されている。またHDD64には、ネットワークI/F67を介して装置外から取得したデータや、制御プログラムによる計算結果が格納される。
【0017】
操作部出力I/F65は、操作表示部71へのデータ出力通信制御を行う。操作部入力I/F66は、操作入力部72からのデータ入力通信制御を行う。ネットワークI/F67は、ネットワーク3に接続され、ネットワーク3を介した情報の入出力制御を行う。このように、各コンポーネント61~67はシステムバス68上に配置される。
【0018】
操作表示部71は、LCD(Liquid Crystal Display)やLED(Light Emitting Diode)等の表示装置を備えた、ユーザへの表示インターフェースである。操作入力部72は、タッチパネルやハードキーなどの入力装置を備えた、ユーザからの指示入力インターフェースである。
【0019】
LDS100は、操作表示部71、操作入力部72と接続されるサーバコンピュータやパーソナルコンピュータ等のコンピュータ60により実現することができる。
【0020】
CPU61が、HDD64に格納された制御プログラムをRAM62に読み出して実行することにより、LDS100の各ユニットの各機能を実現することができる。なお、各図において、本開示の本質に関わらない部分の構成については省略してあり、図示されていない。
【0021】
<3.LDSの各機能部の構成例>
以下、LDS100の各機能部の構成例について説明する。
図3は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSの各機能部の構成を示すブロック図である。
図3に示す各機能部は、LDS100のROM63又はHDD64に格納されているプログラムをCPU61が実行し、HDD64、操作部出力I/F65、操作部入力I/F66、及びネットワーク入力I/Fと協働することにより、LDS100上で実現される。なお、
図3では、本実施形態の説明に特に関連する機能部の構成を示している。
【0022】
図3に示すように、LDS100は、処方データ取得部110と、実凸面/加工特性取得部115と、設計データ生成部120と、加工用データ生成部130と、検査用基準データ生成部140と、データ出力部150とを備える。
【0023】
(処方データ取得部)
処方データ取得部110は、端末装置300に入力された眼鏡レンズの処方データを取得する。
処方データは、眼鏡レンズの処方するためのデータであり、球面屈折力(以下、「S度数」ともいう)、円柱屈折力(以下、「C度数」ともいう)、乱視軸方向(AX)、加入度数(ADD)などの処方度数情報、アイテム名などの商品情報、瞳孔間距離(PDPupillary Distance)、アイポイントなどのレイアウト情報、装用状態の情報、レンズの基材情報、加工処理情報、及び、指定レンズ厚情報などを含む。
【0024】
ここで、レンズの基材情報は、レンズに用いられるセミフィニッシュトレンズの基材に用いられたプラスチックの種類に関する情報である。
【0025】
加工処理情報は、レンズの成形後のレンズに実施される加工処理についての情報である。なお、ここでいうレンズの成形後とは、レンズが光学性能を有する形状にするための成形後をいう。本実施形態では、加工処理情報には、レンズの染色の種類に関する染色種情報、ハードコートの種類に関するハードコート情報、機能性膜の種類に関する機能性膜情報、及び、フレームの種類に関するフレーム情報を含んでいる。なお、加工処理情報としては、染色種情報、ハードコート情報、機能性膜情報、及び、フレーム情報のうちの何れか1つを含んでいればよい。また、ARコートに関するARコート情報などを含んでもよい。
【0026】
染色種情報は、指定された色や塗料に関する染色材料情報と、浸漬、加圧、インクジェットなどの染色方法に関する染色方法情報とを含んでいる。
【0027】
ハードコート情報は、表面硬度を補強するためにレンズにコーティングされるハードコート材料の種類に関するハードコート材料情報と、浸漬やスピンコートなどのコーティング方法に関するコーティング方法情報とを含んでいる。
【0028】
機能性膜情報は、レンズの調光性能や偏光性能を付加するための機能性膜の種類に関する機能性膜種情報と、機能性膜の生成方法に関する生成方法情報とを含んでいる。
【0029】
フレーム情報は、セルフレーム、メタルフレームなどのフレームの種類に関するフレーム情報と、フレーム種に合わせて眼鏡レンズを加工する加工方法に関する加工方法情報とを含んでいる。
【0030】
指定レンズ厚情報は、眼鏡店の端末装置300に入力されたレンズ厚さに関する情報である。本実施形態では、指定レンズ厚情報は、端末装置300により指定されたレンズ中心の中心肉厚の最小値である最小指定中心肉厚minCT0と、レンズのコバ厚の最小値である最小指定コバ厚minET0と、中心肉厚及びコバ厚の合計の最小値である最小指定合計厚minCTET0とを含んでいる。なお、最小指定合計厚minCTET0については必ずしも含まなくてもよい。
【0031】
(実凸面/加工特性取得部)
実凸面/加工特性取得部115は、実凸面/加工特性データベース116を有する。実凸面/加工特性データベース116には、各セミフィニッシュトレンズの実凸面データと、加工特性に関する加工特性データとが記録されている。
【0032】
実凸面とは、セミフィニッシュトレンズの実面形状であり、さらに具体的には、セミフィニッシュトレンズ凸面の実測形状、又はセミフィニッシュトレンズの測定結果から統計的に導き出した凸面のモデル形状のことである。この実凸面データは、検査用データ生成処理において用いられる。
【0033】
加工特性とは、セミフィニッシュトレンズの切削、研磨に先立って行われる、レンズ凸面に固定冶具をアロイ(低融点合金)で接着するブロッキング処理において、アロイの冷却時に生じる応力によってセミフィニッシュトレンズ凸面の形状が変化すること、又は研磨方法に依存する取り代の量や取り代が不均一なことなどが挙げられる。加工特性は、後述する加工用データ生成処理において用いられる。
実凸面/加工特性取得部115は、処方データに基づいて使用するセミフィニッシュトレンズを選択する。
【0034】
(設計データ生成部)
設計データ生成部120は、処方データに基づいて設計データを生成する。
設計データ生成部120は、初期値計算部121と、光学面計算部122と、形状最適化部123と、を備える。
【0035】
(初期値計算部)
初期値計算部121は、光学的、形状的に最適化を行うために必要な初期値を処方データに基づいて計算する。初期値としては、例えば、光学性能の基本分布などが含まれる。また、初期値計算部121は、レイアウト情報や装用状態の情報から、レンズ自体の傾きや煽りの角度の光学計算に必要なパラメータを導き出す。
【0036】
(光学面計算部)
光学面計算部122は、決定された光学性能の基本分布から、凸面形状やレンズの装用状態等を考慮した最適な光学面へ収束計算し、光学面形状データを生成する。
【0037】
(形状最適化部)
形状最適化部123は、適正レンズ厚情報生成部124と、左右レンズ厚調整部125と、肉厚計算・形状調整部127と、加工処理・レンズ厚データベース(DB)126と、を備える。
【0038】
(加工処理・レンズ厚データベース)
加工処理・レンズ厚データベース126には、レンズの加工処理と、レンズ厚の最低レンズ厚情報とが対応付けられた加工処理・レンズ厚データが記録されている。本実施形態では、加工処理・レンズ厚データは、染色種テーブル、ハードコートテーブル、機能性膜テーブル、及びフレームテーブルとして格納されている。
【0039】
(染色種テーブル)
図4は、加工処理・レンズ厚データベースに格納されている染色種テーブルを示す図である。染色工程は、染料の入った染色槽にレンズを浸漬させて染料を含侵させていく工程である。染色する時間は、染色種によって異なり、含浸しにくい高屈折材料においては、加圧した染色槽を使う場合もある。染色する際は、専用の治工具でレンズをホールドする。この時の応力によって変形する場合がある。さらに、染色後にはレンズ内部に水分が残らないように電気炉等で乾燥を行うが、この工程においてもレンズが意図しない形状に変形する場合がある。また、染色槽は使わず昇華によって染色する方法も存在するがこの場合も昇華の為にレンズは高温に晒され変形してしまう場合がある。そこで、
図4に示すように、染色種テーブルには、染色材料の種類と、レンズの基材種と、染色方法の種類との各組合せに対応して、それぞれ中心肉厚の適正な最小値である最小中心肉厚minCT
1と、レンズのコバ厚の適正な最小値である最小コバ厚minET
1と、中心肉厚及びコバ厚の合計の適正な最小値である最小合計厚minCTET
1とが設定されている。これら最小中心肉厚minCT
1、最小コバ厚minET
1、及び最小合計厚minCTET
1は、染色を行ってもレンズに変形等が生じず所定の品質が確保できるような値であり、例えば、中心肉厚及びコバ厚の異なる試験体に対して、染色材料の種類、レンズの基材種、及び染色方法の種類をそれぞれ変更した各組合せで実際に染色を行うことにより決定することができる。例えば、染色材料が「COLOR2」、基材種が「B材」、染色方法が「浸漬」である場合には、No.5が対応し、最小中心肉厚minCT
1は1mm、最小コバ厚minET
1は1mm、最小合計厚minCTET
1は3.6mmとなる。
【0040】
(ハードコートテーブル)
図5は、加工処理・レンズ厚データベースに格納されているハードコートテーブルを示す図である。傷からの保護の為のハードコートは、表面にスピンコートで塗布しUV硬化や熱硬化させる方法や、特殊シリコン液に漬け、熱をかけるキュア工程で硬化させる方法がある。しかし、UV硬化や熱硬化させる方法では、硬化時の収縮によって生ずる応力にレンズの強度が足りず変形を起こす場合があり、キュア工程で硬化させる方法ではキュア工程による熱で変形してしまう場合がある。そこで、
図5に示すように、ハードコートテーブルには、コーティング材料の種類と、レンズの基材種と、コーティング方法の種類との各組合せに対応して、それぞれ中心肉厚の適正な最小値である最小中心肉厚minCT
2と、レンズのコバ厚の適正な最小値である最小コバ厚minET
2と、中心肉厚及びコバ厚の合計の適正な最小値である最小合計厚minCTET
2とが設定されている。これら最小中心肉厚minCT
2、最小コバ厚minET
2、及び最小合計厚minCTET
2は、コーティングを行ってもレンズに変形等が生じず所定の品質が確保できるような値であり、例えば、中心肉厚及びコバ厚の異なる試験体に対して、コーティング材料の種類、レンズの基材種、及びコーティング方法の種類をそれぞれ変更した各組合せで実際にハードコーティングを行うことにより決定することができる。例えば、コーティング材料が「HC3」、基材種が「B材」、コーティング方法が「spin」である場合には、No.8が対応し、最小中心肉厚minCT
2は2mm、最小コバ厚minET
2は2mm、最小合計厚minCTET
2は4.5mmとなる。
【0041】
(機能性膜種テーブル)
図6は、加工処理・レンズ厚データベースに格納されている機能性膜種テーブルを示す図である。調光性能などを持つ機能性膜は、研磨前や研磨後の表面にスピンコートで塗布しUV硬化や熱硬化させる。しかし、硬化時の収縮によって生ずる応力にレンズの強度が足りず変形を起こす場合がある。そこで、
図6に示すように、機能性膜種テーブルには、機能性膜の種類と、レンズの基材種と、機能性膜の生成方法の種類との各組合せに対応して、それぞれ中心肉厚の適正な最小値である最小中心肉厚minCT
3と、レンズのコバ厚の適正な最小値である最小コバ厚minET
3と、中心肉厚及びコバ厚の合計の適正な最小値である最小合計厚minCTET
3とが記録されている。これら最小中心肉厚minCT
3、最小コバ厚minET
3、及び最小合計厚minCTET
3は、機能性膜を付加してもレンズに変形等が生じず所定の品質が確保できるような値であり、例えば、中心肉厚及びコバ厚の異なる試験体に対して、機能性膜の種類、レンズの基材種、及び生成方法の種類をそれぞれ変更した各組合せで実際に機能性膜を生成することにより決定することができる。例えば、機能性膜種が「機能性膜1」、基材種が「B材」、生成方法が「spin」である場合には、No.2が対応し、最小中心肉厚minCT
3は2mm、最小コバ厚minET
3は1.2mm、最小合計厚minCTET
3は4.5mmとなる。
【0042】
(フレームテーブル)
図7は、加工処理・レンズ厚データベースに格納されているフレームテーブルを示す図である。眼鏡のフレームとしては、セルフレーム、メタルフレーム、リムレスフレーム、ツーポイントタイプなどの種類がある。セルフレームでは、セル枠は厚みを持つので、外観的には多少厚くても目立たない。メタルフレームやリムレスフレームでは、レンズのコバが見えているものが多いので、厚みが目立つので薄さを求める傾向にある。ツーポイントタイプでは、レンズに穴をあけ、フレームのつるとブリッジをねじ止めする。このため、破損しないように強度を確保するため、穴位置で一定の厚みを確保する必要がある。リムレスフレームの一種である、商品名ピンフィールでは、つるやブリッジの接合の為に、レンズコバからレンズ中心に向かって穴をあけ接着する(国際公開第2006/046558号の
図1、2参照)。この接合のために必要な厚みは、フレーム(玉型)の形状によりきまる。また、レンズ側の強度を確保するために特殊加工位置で一定の厚さを確保する必要がある。なお、材料によって必要な厚みは異なる。別のタイプのリムレスフレームである商品名エアリストでは、つるやブリッジの接合の為に、特殊な凹凸加工を行い、接着する(国際公開第2006/046558号の
図3参照)。接合の為に必要な厚みは、このフレーム(玉型)の形状によりきまる。また、レンズ側の強度を確保するために特殊加工位置で一定の厚さを確保する。材料によって必要な厚みは異なる。これらを考慮して、
図7に示すように、フレームテーブルには、フレームの種類と、レンズの基材種と、フレームの加工方法の種類との各組合せに対応して、それぞれ中心肉厚の適正な最小値である最小中心肉厚minCT
4と、レンズのコバ厚の適正な最小値である最小コバ厚minET
4と、中心肉厚及びコバ厚の合計の適正な最小値である最小合計厚minCTET
4とが記録されている。これら最小中心肉厚minCT
4、最小コバ厚minET
4、及び最小合計厚minCTET
4は、フレーム取り付けのための加工を行ってもレンズに変形等が生じず所定の品質が確保できるような値であり、例えば、中心肉厚及びコバ厚の異なる試験体に対して、フレームの種類、レンズの基材種、及びフレームの加工方法の種類をそれぞれ変更した各組合せで実際にレンズ加工することにより決定できる。例えば、フレーム種が「メタル」、基材種が「C材」、生成方法が「研削」である場合には、No.6が対応し、最小中心肉厚minCT
4は1mm、最小コバ厚minET
4は1mm、最小合計厚minCTET
4は3.6mmとなる。
【0043】
(適正レンズ厚情報生成部)
適正レンズ厚情報生成部124は、加工処理・レンズ厚データベース126を参照して、処方データに含まれるレンズの基材情報及び加工処理情報に基づき適正レンズ厚情報を決定する。適正レンズ厚情報は、加工処理を行う上で変形や光学性能の劣化が生じないようなレンズの厚さに関する情報であり、本実施形態では、レンズの中心肉厚の最小値に関する適正最小中心肉厚minCTAと、レンズのコバ厚の最小値に関する適正最小コバ厚minETAと、レンズの中心肉厚及びコバ厚の合計の最小値に関する適正最小合計厚minCTETAとを含む。なお、本実施形態では、レンズの基材情報及び加工処理情報に基づき適正レンズ厚情報を決定しているが、レンズの基材情報は用いなくてもよい。また、適正レンズ厚情報は、必ずしも適正最小合計厚minCTETAを含まなくてもよい。
【0044】
(肉厚計算・形状調整部)
肉厚計算・形状調整部127は、適正レンズ厚情報と、光学面形状に基づき肉厚計算及びレンズ形状の最適化を行い、肉厚情報及び左右のレンズのレンズ形状に関するレンズ毛状データを生成する。
【0045】
(左右レンズ厚調整部)
左右レンズ厚調整部125は、レンズの基材情報と、光学面計算部122により生成された光学面形状データと、指定されたレンズ厚情報に基づき、左右のレンズの重量を計算する。具体的には、レンズの基材情報からレンズの基材の比重を特定し、左右のレンズの設計データに基づき左右のレンズの体積をそれぞれ算出し、これら比重及び体積に基づき左右レンズの重量を計算する。そして、左右レンズ厚調整部125は、左右レンズの重い方に合わせるように追加肉厚を算出する。
【0046】
(加工用データ生成部)
加工用データ生成部130は、設計データに基づいて加工用データを生成する。
加工用データは、ブロッカー410、CG(Curve Generator)420、研磨機430などの加工機にセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨させて完成品レンズを形成させるためのデータである。
【0047】
(検査用基準データ生成部)
検査用基準データ生成部140は、加工用データに基づいて加工されたレンズ(完成品レンズ)の収差などを、LMS200の加工機400に設けられた検査装置450に検査させる際の基準となるデータ(検査用基準データ)を生成する。
【0048】
(データ出力部)
データ出力部150は、設計データ生成部120、加工用データ生成部130、及び検査用基準データ生成部140が生成したデータをLMS200に出力する。
【0049】
<4.LMS及び加工機の構成>
次に、LMS200および加工機400の構成について説明する。
図8は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLMSおよび加工機の構成を示すブロック図である。
図8に示すように、LMS200は、LDSと同様に、例えば、LMS全体の動作を制御するコンピュータと、操作表示部と、操作入力部を備える。そして、コンピュータは、CPU、RAM、ROM、HDD、操作部出力I/F、操作部入力I/F、およびネットワークI/Fを備える。LMS200による各処理は、CPUが、HDDに格納されている制御プログラムを読みだして実行することにより実現される。
【0050】
加工機400は、ブロッカー410と、CG(Curve Generator)420と、研磨機430と、加工表示器440と、検査装置450とを備えている。これらブロッカー410、CG420、研磨機430、加工表示器440、及び検査装置450はLMS200により動作が制御される。ブロッカー410、CG420、研磨機430、加工表示器440において研磨工程が行われ、検査装置450において検査工程が行われる。
【0051】
(ブロッカー)
ブロッカー410は、セミフィニッシュトレンズを研磨するに先立ち当該レンズを固定冶具に固定する。
【0052】
(CG)
CG420は、セミフィニッシュトレンズの凹面を所定の形状に切削する。
【0053】
(研磨機)
研磨機430は、切削された面を研磨してCG420によりレンズの光学面に形成された加工痕の段差等を無くし、さらにレンズが鏡面状態になるまで研磨する。
【0054】
(加工表示器)
加工表示器440は、例えば、液晶ディスプレイなどからなり、例えば、染色、ハードコーティングなどが行われる加工室に設けられ、成形されたレンズに必要な加工処理の内容を表示する。
【0055】
(検査装置)
検査装置450は、LDS100が生成した収差検査用データに基づいて完成品レンズの収差を検査する。
【0056】
<5.眼鏡レンズ発注・加工の処理フロー>
以下、眼鏡レンズ発注・加工システム1の処理動作フローについて説明する。
図9は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムの処理動作の一例を示すフローチャートである。
【0057】
(処方データ入力受付)
まず、端末装置300が処方データの入力を受け付け、発注を受け付ける(S110)。処方データは、球面屈折力(S度数)、円柱屈折力(C度数)、乱視軸方向(AX)、及び、加入度数(ADD)などの処方度数情報と、アイテム名などの商品情報と、瞳孔間距離(PD)及びアイポイントなどのレイアウト情報と、装用状態の情報と、レンズの基材情報と、加工処理情報と、指定レンズ厚情報と、を含む。なお、指定レンズ厚情報には、最小指定中心肉厚minCT0と、最小指定コバ厚minET0と、最小指定合計厚minCTET0とが含まれている。
【0058】
(処方データ取得)
LDS100の処方データ取得部110が、眼鏡レンズの処方データを取得する(S120:処方データ取得ステップ)。その後、処方データに基づいて使用するセミフィニッシュトレンズを選択する。
【0059】
(実凸面/加工特性取得)
実凸面/加工特性取得部115が、実凸面/加工特性データベース116を参照して処方データに基づきセミフィニッシュトレンズを選択し、選択したセミフィニッシュトレンズの実凸面と加工特性データを取得する(S130)。
【0060】
(設計データ生成)
設計データ生成部120が、処方データに基づいてレンズ形状に関する設計データを生成する(S140)。
設計データは、処方データに基づいて生成された光学面形状データ及び肉厚情報(レンズ形状データ)と、追加肉厚情報とを含むデータであり、初期値計算(S150)、光学最適化計算(S160)、形状最適化計算(S170)を実行することにより生成される。
【0061】
(初期値計算)
まず、設計データ生成部120の初期値計算部121が、光学的、形状的に最適化を行うために必要な初期値を処方データに基づいて計算する(S150)。また、初期値計算部121が、レイアウト情報や装用状態の情報から、レンズ自体の傾きや煽りの角度の光学計算に必要なパラメータを導き出す。必要な情報が処方データ取得時に無い場合は、あらかじめ定義しているデフォルト値を代替とする。レイアウト情報とは、眼鏡レンズの光学中心を装用者の瞳孔の位置に合わせるための情報であり、フレームの幾何学中心(フレームセンタ)を基準にしてフィッティングポイントの位置を示したものである。さらに、初期値計算部121が、アイテム情報と処方度数から光学性能の基本分布を決定する。
【0062】
(光学最適化計算)
次に、設計データ生成部120の光学面計算部122が、決定された光学性能の基本分布から、凸面形状やレンズの装用状態等を考慮した最適な光学面へ収束計算し、光学面形状データを生成する(S160:光学面計算ステップ)。
【0063】
(形状最適化計算)
次に、設計データ生成部120の形状最適化部123が、光学的な最適化により導き出されたレンズ形状に対して、加工処理を考慮した場合に最適なレンズ中心の肉厚、コバ厚、及び肉厚とコバ厚の合計厚に関する適正レンズ厚情報と、を生成する(S170)。
【0064】
図10は、
図9に示すフローチャートの形状最適化計算ステップの詳細な流れを示すフローチャートである。
図10に示すように、形状最適化計算ステップでは、まず、適正レンズ厚情報生成部124が加工処理・レンズ厚データベース126を参照して、最小中心肉厚minCT
1~4と、最小コバ厚minET
1~4と、最小合計厚minCTET
1~4とを取得する(S171)。具体的には、まず、適正レンズ厚情報生成部124が加工処理・レンズ厚データベース126の染色種テーブルを参照し、処方データに含まれるレンズの基材情報及び加工処理情報に基づき、指定された染色材料の種類と、レンズの基材種と、染色方法の種類とに対応する最小中心肉厚minCT
1と、最小コバ厚minET
1と、最小合計厚minCTET
1とを取得する。
【0065】
次に、適正レンズ厚情報生成部124が加工処理・レンズ厚データベース126のハードコートテーブルを参照し、処方データに含まれるレンズの基材情報及び加工処理情報に基づき、指定されたコーティング材料の種類と、レンズの基材種と、コーティング方法の種類とに対応する最小中心肉厚minCT2と、最小コバ厚minET2と、最小合計厚minCTET2とを取得する。
【0066】
次に、適正レンズ厚情報生成部124が加工処理・レンズ厚データベース126の機能性膜種テーブルを参照し、処方データに含まれるレンズの基材情報及び加工処理情報に基づき、指定された機能性膜の種類と、レンズの基材種と、機能性膜種の生成方法の種類とに対応する最小中心肉厚minCT3と、最小コバ厚minET3と、最小合計厚minCTET3とを取得する。
【0067】
次に、適正レンズ厚情報生成部124が加工処理・レンズ厚データベース126のフレームテーブルを参照し、処方データに含まれるレンズの基材情報及び加工処理情報に基づき、指定されたフレームの種類と、レンズの基材種と、フレームの加工方法の種類とに対応する最小中心肉厚minCT4と、最小コバ厚minET4と、最小合計厚minCTET4とを取得する。
【0068】
次に、適正レンズ厚情報生成部124が、このようにして取得した最小中心肉厚minCT1~4、最小コバ厚minET1~4、及び最小合計厚minCTET1~4と、最小指定中心肉厚minCT0、最小指定コバ厚minET0及び、最小指定合計厚minCTET0とに基づき、適正最小中心肉厚minCTAと、適正最小コバ厚minETAと、適正最小合計厚minCTETAとを決定する(S172:適正レンズ厚情報生成ステップ)。適正最小中心肉厚minCTA、適正最小コバ厚minETA、及び適正最小合計厚minCTETAは、例えば、最小中心肉厚minCT1~4、最小コバ厚minET1~4、及び最小合計厚minCTET1~4と、最小指定中心肉厚minCT0、最小指定コバ厚minET0及び、最小指定合計厚minCTET0とをそれぞれ比較し、最大値を採用すればよい。この適正最小中心肉厚minCTA、適正最小コバ厚minETA、及び適正最小合計厚minCTETAが適正レンズ厚情報として生成される。
なお、処方データに、最小指定中心肉厚minCT0、最小指定コバ厚minET0及び、最小指定合計厚minCTET0が含まれていない場合には、最小中心肉厚minCT1~4、最小コバ厚minET1~4、及び最小合計厚minCTET1~4の最小値を適正レンズ厚情報として生成すればよい。また、本実施形態では、各テーブルに中心肉厚、コバ厚及び中心肉厚とコバ厚の合計値の最小値を記録し、各テーブルの最大値を適正値として採用しているが、これに限らず、例えば、関数や係数を記録しておき、指定された中心肉厚、コバ厚及び中心肉厚とコバ厚の合計値にそれぞれ積算するなどしてもよい。
【0069】
次に、設計データ生成部120の肉厚計算・形状調整部127が、適正レンズ厚情報、及び、光学的な最適化により導き出された光学面形状に基づき、適正最小中心肉厚minCTA、適正最小コバ厚minETA、及び適正最小合計厚minCTETAを確保するように肉厚計算及びレンズ形状の最適化を行い、肉厚情報及び左右のレンズのレンズ形状データを生成する(S173:形状調整ステップ)。
【0070】
次に、左右レンズ厚調整部125が、レンズの基材情報と、光学面形状データと、適正レンズ厚情報と、に基づき追加肉厚を決定する。具体的には、まず、左右レンズ厚調整部125が、レンズの基材情報と、設計データ生成部120により生成された光学面形状データとに基づき、左右のレンズの重量を計算する。そして、左右レンズの重い方に合わせるように追加肉厚を算出し、追加肉厚情報を生成する(S174)。
このようにして生成された光学面形状データ及び肉厚情報と、追加肉厚情報とにより設計データが構成される。
【0071】
(加工用データ生成)
加工用データ生成部130は加工用データを生成する(S180)。加工用データは、加工処理情報及び加工用補正設計データを含む。
加工用補正設計データは、加工機400にセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨させ完成品レンズを形成させるためのデータであり、具体的には、設計データにレンズの加工特性を反映させる補正を加えたデータである。
【0072】
セミフィニッシュトレンズを加工する際に、レンズの加工特性によりセミフィニッシュトレンズ凸面の形状が変化する場合には、レンズの度数にズレが生じるので、加工特性データに基づいて当該ズレを相殺する補正を設計データに加え、これを加工用データとする。
眼鏡レンズの製造業者は、加工用データに基づいてセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨して完成品レンズを形成する。
【0073】
(検査用基準データ生成)
検査用基準データ生成部140は、加工用データに基づいて加工されたレンズ(完成品レンズ)の収差などの光学性能を、加工機400に設けられた検査装置450に検査させる際の基準となるデータ(検査用基準データ)を生成する(S190)。
【0074】
検査用基準データは、完成品レンズの光学面形状の収差などの検査を行う際の基準となるデータであり、設計データおよび加工用データとは別に生成されるデータである。具体的には、設計データにセミフィニッシュトレンズの実面形状を反映させたデータである。
【0075】
実面形状とは、セミフィニッシュトレンズ凸面の実測形状、又はセミフィニッシュトレンズの測定結果から統計的に導き出した凸面のモデル形状である。
【0076】
セミフィニッシュトレンズが製造される際には必ずキャスト製造時に重合収縮による製造誤差が生じるので、完成品レンズが設計データのとおりに製造されることはない。また、上述のように、加工用データは、設計データに加工特性を反映させた補正を加えたものなので、完成品レンズが設計データのとおりに製造されることはない。よって、設計データや加工用データを完成品レンズの検査の基準データとしてしまうと正確な比較を行うことができない。そこで、正確な比較を実現するために、設計データにセミフィニッシュトレンズの実面形状を反映させたデータを生成し、これを検査用データとする。
【0077】
(設計データの出力)
データ出力部150が設計データをLMS200に出力する(S200)。
【0078】
(加工用データの出力)
データ出力部150が加工用データをLMS200に出力する(S210)。
【0079】
(検査用基準データ出力)
データ出力部150が検査用基準データをLMS200に出力する(S220)。
【0080】
(セミフィニッシュトレンズの切削、研磨)
LDS100は、計算結果出力ファイルと加工用面データファイルに保存されているセミフィニッシュトレンズの加工データをLMS200に出力し、LMS200は、当該加工データを加工機400のCG420と研磨機430に送信する。CG420と研磨機430は、当該加工データに基づいてセミフィニッシュトレンズを切削、研磨する(S230)。
【0081】
(加工処理)
切削、研磨により成形されたレンズは、加工処理が行われる(S240)。本実施形態では、加工処理としては、レンズの染色、ハードコート、機能性膜の生成、及び、フレーム形状に合わせた加工が含まれる。加工表示器440には、加工用データに含まれた加工処理情報が表示される。より詳細には、加工表示器440には、レンズの染色の種類に関する染色種情報、ハードコートの種類に関するハードコート情報、機能性膜の種類に関する機能性膜情報、及び、フレームの種類に関するフレーム情報が表示される。これらの加工を担当する技術者は、加工表示器440に表示された加工処理情報を参照しながら、ハードコート、機能性膜の生成、及び、フレーム形状に合わせた加工を行う。これにより、完成品レンズが生成される。
【0082】
(検査)
検査装置450は、完成品レンズの光学性能を測定し、LMS200が受信した検査用基準データと比較して完成品レンズの製造精度を検査する(S250)。そして完成品レンズが所定の製造精度を有している場合には、処理を終了する。
【0083】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、適正レンズ厚情報生成部124が適正レンズ厚情報を生成し、肉厚計算・形状調整部127が適正レンズ厚情報及び光学面形状に基づきレンズ形状の最適化を行ってレンズ形状データを作成している。このため、成形後のレンズに対して染色などの加工処理を施す際に加工処理により変形や光学性能の劣化が発生するのを抑制できる。
また、本実施形態では、加工処理・レンズ厚データベース126に、レンズの加工処理と、レンズ厚の最低レンズ厚情報とが対応付けられた加工処理・レンズ厚データが記録されており、これに基づき適正レンズ厚情報生成部124が適正レンズ厚情報を生成している。これにより、レンズに施される加工処理に対して適切な適正レンズ厚情報に基づきレンズ形状の最適化を行うことができ、より確実に加工処理により変形や光学性能の劣化が発生するのを抑制できる。
【0084】
また、本実施形態では、LDS100が左右レンズ厚調整部125を備え、左右レンズ厚調整部125がレンズ形状データに基づき左右のレンズ厚さを調整して、調整したレンズ厚さに関する調整レンズ厚情報を生成するため、左右のレンズの重さのバランスがとれる。
【0085】
また、本実施形態では、加工処理情報が染色種情報、ハードコート情報、機能性膜情報、及び、フレーム情報を含んでいるため、特にレンズの変形が生じやすい加工処理の情報に基づき、適正レンズ厚情報を生成することができる。
【0086】
また、本実施形態では、適正レンズ厚情報は、少なくとも、レンズの中心肉厚の適正値に関する適正肉厚情報と、レンズのコバ厚の適正値に関する適正コバ厚情報とを含む。フレームの種類は適正なコバ厚に影響を及ぼしやすく、染色種やハードコーティングは中心肉厚に影響を及ぼしやすい。このため、本実施形態によれば、それぞれの加工処理の影響を十分に考慮した適正レンズ厚情報を生成することができる。
【0087】
以下、本開示の実施形態を総括する。
本実施形態による眼鏡レンズ設計システム(LDS100)は、眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、
図3に示すように、処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得部110と、処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算部122と、処方データの加工処理情報に基づき、加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成部124と、光学面形状データ、及び、適性レンズ厚情報に基づきレンズ形状を調整し、レンズ形状データを生成する肉厚計算・形状調整部127と、を備える。
【0088】
また、本開示による眼鏡レンズ設計方法は、眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、
図9に示すように、処方度数情報、及び、眼鏡レンズの成形後の加工処理に関する加工処理情報に関する指定レンズ厚情報を含む処方データを取得する処方データ取得ステップ(S120)と、処方データの処方度数情報に基づき光学面形状の計算を行い、光学面形状データを生成する光学面計算ステップ(S160)と、処方データの加工処理情報に基づき、加工処理を行う上で適正なレンズ厚に関する適正レンズ厚情報を生成する適正レンズ厚情報生成ステップ(S172)と、光学面形状データ、及び、適性レンズ厚情報に基づきレンズ形状を調整し、レンズ形状データを生成する形状調整ステップ(S173)と、を備える。
【符号の説明】
【0089】
1 発注・加工システム
3 ネットワーク
60 コンピュータ
61 CPU
62 RAM
63 ROM
64 HDD
65 操作部出力I/F
66 操作部入力I/F
67 ネットワークI/F
68 システムバス
71 操作表示部
72 操作入力部
100 LDS
110 処方データ取得部
115 加工特性取得部
116 加工特性データベース
120 設計データ生成部
121 初期値計算部
122 光学面計算部
123 形状最適化部
124 適正レンズ厚情報生成部
125 左右レンズ厚調整部
126 レンズ厚データベース
127 形状調整部
130 加工用データ生成部
140 検査用基準データ生成部
150 データ出力部
200 LMS
300 端末装置
400 加工機
410 ブロッカー
430 研磨機
440 加工表示器
450 検査装置