(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】自律移動装置への地図情報提供システムおよび自律移動装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20231129BHJP
【FI】
G05D1/02 J
(21)【出願番号】P 2019202829
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 武
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 賢
(72)【発明者】
【氏名】小西 勇介
(72)【発明者】
【氏名】三田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 国彦
(72)【発明者】
【氏名】石間 計夫
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
距離計測器と無線通信手段と制御手段と走行手段とを備え前記距離計測器による測定値と所定の地図情報とに基づいて自己位置を把握し移動する
複数の自律移動装置へ地図情報を提供するサーバと、前記サーバからの情報を前記自律移動装置へ配信する通信媒介手段とを有する地図情報提供システムであって、
前記複数の自律移動装置には、前記距離計測器の設置高さの異なる自律移動装置が含まれており、
前記サーバは、
前記自律移動装置が走行するエリアに関する3次元点群データを記憶したデータベースと、
前記自律移動装置との間でデータを送受信可能なデータ送受信手段と、
前記データベースより読み出された3次元点群データから、
データ送信先の自律移動装置が指定する高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを生成する画像データ生成手段と、
を備え
、
前記自律移動装置が指定する高さは、前記距離計測器が設置されている高さであり、
前記データ送受信手段は、前記自律移動装置からの要求を受信した場合に、前記画像データ生成手段により生成された2次元平面画像データを、データを要求してきた自律移動装置へ送信することを特徴とする地図情報提供システム。
【請求項2】
前記距離計測器は水平面内を光学的に走査して対象物までの距離を測定する
ものであることを特徴とする
請求項1に記載の地図情報提供システム。
【請求項3】
前記画像データ生成手段は、前記データベースに記憶されている3次元点群データから予め設定されたセクション単位でデータを読み出して2次元平面画像データを生成可能であることを特徴とする請求項1
または2に記載の地図情報提供システム。
【請求項4】
前記画像データ生成手段は、前記データベースに記憶されている3次元点群データの座標系と、前記自律移動装置の前記制御手段が認識可能な座標系とが異なる場合に、前記2次元平面画像データの座標を前記制御手段が認識可能な座標に変換する座標変換手段を備えることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の地図情報提供システム。
【請求項5】
前記画像データ生成手段は、送信しようとする前記2次元平面画像データに、建造物の壁面の特性に関する情報を付加して送信可能であることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の地図情報提供システム。
【請求項6】
距離計測器と無線通信手段と制御手段と走行手段とを備え、請求項
1~5のいずれかに記載の地図情報提供システムから2次元平面画像データの提供を受けて、当該2次元平面画像データと前記距離計測器による測定値とに基づいて自己位置を把握し移動する自律移動装置であって、
前記制御手段は、前記地図情報提供システムへ前記2次元平面画像データを要求する際に、所望する切り出し高さの情報を含むコマンドコードを送信することを特徴とする自律移動装置。
【請求項7】
距離計測器と無線通信手段と制御手段と走行手段とを備え前記距離計測器による測定値と所定の地図情報とに基づいて自己位置を把握し移動する複数の自律移動装置へ前記地図情報を生成するための情報を提供するサーバと、前記サーバからの情報を前記自律移動装置へ配信する通信媒介手段とを有する地図情報提供システムであって、
前記複数の自律移動装置には、前記距離計測器の設置高さの異なる自律移動装置が含まれており、
前記自律移動装置は、高さを指定して2次元点群データを前記サーバへ要求可能であり、前記高さは前記距離計測器が設置されている高さであって、
前記サーバは、
前記自律移動装置が走行するエリアに関する3次元点群データを記憶したデータベースと、前記自律移動装置との間でデータを送受信可能なデータ送受信手段と、を備え、
前記自律移動装置からデータ送信の要求を受信した場合に、前記データベースより読み出した3次元点群データから、データ送信先の自律移動装置が指定する高さの2次元点群データを切り出して、前記データ送受信手段により、データを要求してきた自律移動装置へ送信し、
前記サーバへデータを要求した前記自律移動装置は、前記サーバより送信された前記2次元点群データを受信し、当該2次元点群データに基づいて前記地図情報としての2次元平面画像データを生成することを特徴とする地図情報提供システム。
【請求項8】
前記距離計測器は水平面内を光学的に走査して対象物までの距離を測定するものであることを特徴とする請求項7に記載の地図情報提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物など所定空間内を移動する自律移動装置への地図情報提供技術に関し、特に駅構内など所定のエリアの地図情報をサーバより2次元点群データもしくは2次元平面画像データの形式で地図情報を提供する地図情報提供システムおよび自律移動装置に適用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、お掃除ロボットのような自らの判断で経路を決定して移動する自律移動装置が普及してきている。一般的に、このような自律移動装置は、地図情報に基づいて実空間内での自身の位置の推定を行う必要がある。実空間の地図を作成するための手法としては、例えばSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)法が知られている。
また、自律移動装置への地図情報の持たせ方としては、予め自律移動装置を実空間内で移動させながら3次元スキャナー(測域センサ)で空間情報を取得させて環境地図を作成するティーチング方式や、3次元スキャナーを有する専用の装置で予め空間情報を取得して地図を作成し、作成した地図情報を自律移動装置へ送信する方式がある。
なお、地図情報に基づいて自己位置を推定しながら自律移動を行う自律移動装置に関する発明としては、例えば特許文献1や2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-146091号公報
【文献】特開2018-186694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通路の拡張やエスカレータ等の付帯設備の新設、自動販売機等のサービス機器の設置、移設などの工事に伴うレイアウトの変更の多い駅構内のような空間を複数の自律移動装置が移動するシステムにおいて、ティーチング方式で地図情報の持たせようとすると、レイアウトに変更が生じるたびに複数の自律移動装置を実空間内で移動させて地図を作成し直す必要があり、煩わしい作業が派生すると共にデータ更新に要するコストが増大する。そのため、上記のようなシステムでは、専用の装置で空間計測を行なって地図情報を作成し自律移動装置へ送信する方式が有効である。
【0005】
特許文献1に記載されている発明は、自律移動装置が備えるセンサ(レーザセンサ)により測定された距離情報を処理して地図情報と比較して自己位置を推定している。また、 特許文献2に記載されている発明は、自律移動装置に撮像部を搭載して、撮像部が撮影した画像と地図情報を用いて自己位置を推定している。そのため、特許文献1および2の発明は、いずれも自身が移動する空間内の地図情報を予め自己が保有する記憶装置に記憶しておく必要があるので、レイアウトの変更の多い駅構内のような空間を移動する自律移動装置においては、頻繁な地図情報の更新が必要であり、自律移動装置の管理者の負担が大きいという課題がある。
また、自律移動装置によって異なる高さの2次元平面画像データが必要な場合に、それぞれの自律移動装置のための2次元平面画像データをその都度作成する必要があるという課題もある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に着目してなされたもので、自律移動装置が、移動する空間内のすべての地図情報を予め自己が保有する記憶装置に記憶しておくことなく、自己位置を補正し把握することができる地図情報提供システムおよび自律移動装置を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、自律移動装置が移動する空間が、付帯設備の新設やサービス機器の設置、移設などの工事に伴うレイアウトの変更の多い空間である場合に、地図情報を記憶するサーバ側で更新を行えば各自律移動装置側において地図情報を更新する必要がなく、地図情報の更新に伴う管理者の負担を減らすことができる地図情報提供システムおよび自律移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の地図情報提供システムは、
距離計測器と無線通信手段と制御手段と走行手段とを備え前記距離計測器による測定値と所定の地図情報とに基づいて自己位置を把握し移動する複数の自律移動装置へ地図情報を提供するサーバと、前記サーバからの情報を前記自律移動装置へ配信する通信媒介手段とを有する地図情報提供システムであって、
前記複数の自律移動装置には、前記距離計測器の設置高さの異なる自律移動装置が含まれており、
前記サーバは、
前記自律移動装置が走行するエリアに関する3次元点群データを記憶したデータベースと、
前記自律移動装置との間でデータを送受信可能なデータ送受信手段と、
前記データベースより読み出された3次元点群データから、データ送信先の自律移動装置が指定する高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを生成する画像データ生成手段と、
を備え、
前記自律移動装置が指定する高さは、前記距離計測器が設置されている高さであり、
前記データ送受信手段は、前記自律移動装置からの要求を受信した場合に、前記画像データ生成手段により生成された2次元平面画像データを、データを要求してきた自律移動装置へ送信するように構成したものである。
【0008】
上記のような構成によれば、自律移動装置が、移動する空間内のすべての地図情報を予め自己が保有する記憶装置に記憶しておくことなく、自己位置を補正し把握することができる。また、自律移動装置が移動する空間が、付帯設備の新設やサービス機器の設置、移設などの工事に伴うレイアウトの変更の多い空間である場合に、地図情報を記憶するサーバ側で更新を行えば各自律移動装置側において地図情報を更新する必要がないため、地図情報の更新に伴う管理者の負担を低減することができる。
また、地図情報を記憶するサーバ側で、3次元点群データから、距離計測器(距離センサ)の高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを生成し自律移動装置へ送信するため、自律移動装置は、受信した2次元平面画像データと距離計測器の測定値を用いて精度の高い位置補正を行うことができる。
さらに、計測器の高さに応じて2次元平面画像データをサーバ側で生成し配信することによって、複数の自律移動装置で計測器の高さが異なる場合にも、地図情報の更新に伴う管理者の負担を低減することができる。
【0009】
また、上記構成によれば、自律移動装置が指定する高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを配信するため、送信データ量が少なく、自律移動装置は短時間に地図情報を取得することができる。
【0010】
また、望ましくは、前記距離計測器は水平面内を光学的に走査して対象物までの距離を測定するものであるようにする。
上記構成によれば、装置の表面にセンサを露出させる必要がなく、余分な突出部をなくすことができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記画像データ生成手段は、前記データベースに記憶されている3次元点群データから予め設定されたセクション単位でデータを読み出して2次元平面画像データを生成可能であるようにする。
上記構成によれば、エリア全体ではなくセクション単位で地図情報としての2次元平面画像データを生成し自律移動装置へ送信するため、送信データ量を減らすことができる。
【0012】
また、望ましくは、前記画像データ生成手段は、前記データベースに記憶されている3次元点群データの座標系と、前記自律移動装置の前記制御手段が認識可能な座標系とが異なる場合に、前記2次元平面画像データの座標を前記制御手段が認識可能な座標に変換する座標変換手段を備えるようにする。
かかる構成によれば、同一のエリア内で、仕様の異なる複数の自律移動装置が活動している場合に、それぞれの自律移動装置の制御手段が認識可能な座標に変換された2次元平面画像データを自律移動装置へ提供することができるため、既存の自律移動装置の仕様の変更が不要であり、システム導入に伴うコストを低減することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記画像データ生成手段は、送信しようとする前記2次元平面画像データに、建造物の壁面の特性に関する情報を付加して送信可能であるように構成する。
かかる構成によれば、同一のエリア内で活動する複数の自律移動装置が保有する距離計測器(距離センサ)の種類が異なる場合に、自律移動装置の制御手段は、受信した建造物の壁面の特性に関する情報に基づいて、自身が保有する距離計測器の測定値を判断することができ、それによってより精度の高い位置補正を行うことができる。
【0014】
さらに、本出願の他の発明は、距離計測器と無線通信手段と制御手段と走行手段とを備え、上記のような構成を有する地図情報提供システムから2次元平面画像データの提供を受けて、当該2次元平面画像データと前記距離計測器による測定値とに基づいて自己位置を把握し移動する自律移動装置において、
前記制御手段は、前記地図情報提供システムへ前記2次元平面画像データを要求する際に、所望する切り出し高さの情報を含むコマンドコードを送信するように構成したものである。
【0015】
上記のような構成によれば、自律移動装置は、移動する空間内のすべての地図情報を予め自己が保有する記憶装置に記憶しておくことなく、実行しようとする処理の目的に応じて任意の高さの2次元平面画像データを取得することができ、例えば自己位置を補正したい場合には距離計測器(距離センサ)の高さの情報を含むコードを送信することで、2次元平面画像データを取得し自己位置を補正することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自律移動装置が、移動する空間内のすべての地図情報を予め自己が保有する記憶装置に記憶しておくことなく、自己位置を補正し把握することができる地図情報提供システムおよび自律移動装置を提供することができる。また、自律移動装置が移動する空間が、付帯設備の新設やサービス機器の設置、移設などの工事に伴うレイアウトの変更の多い空間である場合に、地図情報を記憶するサーバ側で更新を行えば各自律移動装置側において地図情報を更新する必要がないため、地図情報の更新に伴う管理者の負担を減らすことができる。さらに、自律移動装置によって異なる高さの2次元平面画像データが必要な場合に、それぞれの自律移動装置に適切な2次元平面画像データをサーバ側で生成し配信できるため、地図情報の更新に伴う管理者の負担を低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る自律移動装置への地図情報提供システムの構成例を示すシステム構成図である。
【
図2】実施形態の地図情報提供システムからの情報提供を受ける自律移動装置の概略構成例を示す構成図である。
【
図3】(A)は実施形態に係る地図情報提供システムにおける移動空間(駅構内)のマップとしての3次元点群データの一例を示すイメージ図、(B)は(A)の3次元点群データより切り出された2次元画像データの一例を示すイメージ図、(C)は(A)の一部を拡大して示す拡大図である。
【
図4】実施形態に係る地図情報提供システムにおける自律移動装置の自己位置認識処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】(A)は地図情報を要求するリクエストデータのフォーマットの例を示すデータ構成図、(B)はレスポンスデータのフォーマットの例を示すデータ構成図である。
【
図6】(A)は駅構内を移動エリアとした場合のセクションの区割のイメージを示す図、(B)はセクションを区別するための「セクション番号」の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る自律移動装置への地図情報提供システムおよび自律移動装置の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る地図情報提供システムの構成例を示す。
本実施形態に係る地図情報提供システムは、
図1に示すように、駅構内を移動する自律移動装置(移動ロボット)10の移動を支援するシステムに適用したもので、駅構内に配設されたローカルサーバ20と、専用回線等の伝送手段41を介して前記ローカルサーバ20と接続された外部のクラウドサーバ30等によって構成されている。
【0019】
クラウドサーバ30は、支援対象の駅構内の構造を表わす3次元点群データ等を格納したテータベース31と、テータベース31内から必要なデータを読み出して配信するメイン配信システム32などを備える。テータベース31には、予め対象の駅構内を撮影した画像データを記憶しておくようにしても良い。また、クラウドサーバ30には、伝送手段42を介して保守管理用端末43が接続されており、保守管理用端末43からの指令によってテータベース31内のデータの更新等が実行可能に構成されている。
【0020】
クラウドサーバ30のメイン配信システム32は、マイクロプロセッサ(MPU)とMPUが実行するプログラムを記憶するROMのような不揮発性記憶装置とRAMのような読み出し書き込み可能な記憶装置などから構成されており、ROMには、テータベース31から3次元点群データを読み出したり、読み出された3次元点群データから任意の高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを生成したりする処理を実行するプログラムが記憶されている。
【0021】
ローカルサーバ20は、クラウドサーバ30に対して3次元点群データの要求を行い受信したデータを加工して自律移動装置10へ送信するサブ配信システム21と、自律移動装置10との間のデータのやりとりを仲介するインタフェース22を備え、インタフェース22には、ケーブル等の伝送手段44を介して無線LANのアクセスポイントとしての無線LANルータ45が接続されている。
【0022】
サブ配信システム21は、メイン配信システム32と同様に、MPUやROM、RAMのような記憶装置などから構成されている。そして、ROMには、通信要求のあった機器がシステムに対するアクセスを許容された端末(自律移動装置を含む)等であるか判別したり、アクセスを許容された自律移動装置10から受信したコマンドコードを解読しクラウドサーバ30へ必要なデータを要求したり、クラウドサーバ30から取得したデータを自律移動装置10が認識可能な形態に変換してコマンドコードを送信してきた自律移動装置10へ送信する処理を実行するプログラムが記憶されている。
【0023】
図2には、自律移動装置10の構成例が示されている。
図2に示すように、自律移動装置10は、上記無線LANルータ45との間で無線による通信を行う無線LAN送受信機11、例えばLIDER(Light Detection and Ranging)のようなレーザスキャナを用いた距離計測器(距離センサ)12A,12B、走行輪13A,13Bおよびその駆動手段である走行モータ14、距離計測器12A,12Bを制御したり測定データを処理したりする制御系コントローラ15、走行モータ14を制御する駆動系コントローラ16、上記電気部品に対する電力を供給するバッテリ17などを備え、自己の位置と周囲環境をリアルタイムに認識しながら、自律移動を行うことができるように構成されている。
【0024】
本実施形態の自律移動装置10においては、距離計測器12A,12Bが、水平面内でレーザ光を走査して検知対象物までの距離を計測するように構成されている。距離計測器として3次元レーザスキャナを使用することも考えられるが、3次元レーザスキャナを使用する場合には、装置の表面にセンサを露出させる必要があるが、水平面内を走査する距離計測器を使用すれば、装置の表面にセンサを露出させる必要がない、つまり余分な突出部をなくすことができる。なお、距離計測器12A,12Bはいずれか1つのみであっても良い。また、図示しないが、周囲を撮影する撮像手段(カメラ)や加速度センサ、角速度センサ、赤外線センサ、超音波センサなど他の種類のセンサを搭載しても良い。
【0025】
走行輪13Aまたは13Bは、独立2輪駆動型であって、2つの車輪の同一方向への駆動によって前進または後進を、また2つの車輪の逆方向駆動によって向き変更を行うことができるように構成されている。また、各々の車輪にはロータリエンコーダが設けられており、制御系コントローラ15はロータリエンコーダからの信号に基づいて車輪の回転方向および回転数を計測し、車輪の直径や車輪間距離等の既知データから前進/後進移動量及び回転角度を計算して、自己の位置及び向きを把握することができる。加速度センサや角速度センサを備える場合には、これらのセンサからの信号に基づいて自律移動装置10の姿勢や向きを把握するようにしても良い。
【0026】
図3(A)には、クラウドサーバ30のテータベース31内に格納されている移動空間(駅構内)のマップとしての3次元点群データの一例が示されている。
本実施形態の地図情報提供システムにおいては、クラウドサーバ30が上記3次元点群データから任意の高さ(例えばセンサ高さ位置)の水平面で切り出した2次元点群データから2次元画像データを生成して、自律移動装置10へ送信できるように構成されている。クラウドサーバ30が3次元点群データから切り出すべき2次元画像の高さは、自律移動装置10が決定して、要求コマンドと共に送信することで指定することができる。
【0027】
図3(B)には、実施形態に係る地図情報提供システムにおけると、該3次元点群データより切り出された2次元画像データの一例が示されている。
図3(B)において、C1,C2が付されているのは柱、Wが付されているのは建造物の内壁面、網掛けAが付されているのは進入禁止エリアである。
図3(C)は(A)の一部を拡大して示す図である。また、
図3(A)には自律移動装置10が示されているが、自律移動装置10は、クラウドサーバ30のテータベース31内に格納されている3次元点群データには含まれない。
【0028】
なお、3次元点群データからの2次元画像データの生成は、例えばX,Y,Zの座標で表されている3次元点群データの中からZを固定した2次元点群データを抽出して、各点間を補間する処理をすることで行うことができる。なお、3次元点群データは、X,Y座標の代わりに絶対座標系である緯度、経度を用いて表したものを使用しても良く、その場合、絶対座標系から自律移動装置10が認識可能なローカル座標系(X,Y)へ変換して、自律移動装置10へ送信すれば良い。
【0029】
次に、自律移動装置10の制御系コントローラ15が実行する自己位置認識処理の手順の一例を、
図4のフローチャートを用いて説明する。
制御系コントローラ15は、
図4の自己位置認識処理を開始すると、先ず自己位置を認識するのに必要な地図情報を既に保有しているか否か判定する(ステップS1)。ここで、地図情報を保有している(Yes)と判定すると、ステップS6へ移行して自己の記憶装置から地図情報を読み出す。
【0030】
一方、ステップS1で、地図情報を保有していない(No)と判定すると、ステップS2へ進んで、機器識別コード(機器ID)と対象エリアを特定するコード(セクション番号)や点群データの形式を示す情報(データタイプ)、床面からの高さ等の情報を含む地図情報要求コマンドをローカルサーバ20へ送信する。すると、ローカルサーバ20のサブ配信システム21は、クラウドサーバ30へセクション番号を渡してデータベース31から対応する3次元点群データを取得する処理を実行する(ステップS3)。
【0031】
その後、サブ配信システム21は、取得した3次元点群データから指定された高さの2次元点群データを切り出して、2次元平面画像データを生成する(ステップS4)。続いて、サブ配信システム21は、生成された2次元平面画像データを座標変換して、要求元の自律移動装置10へレスポンス(応答)として送信する(ステップS5)。
なお、ステップS4の2次元平面画像データの生成処理やステップS5における座標変換は、クラウドサーバ30のメイン配信システム32において実行しても良い。また、サブ配信システム21にキャッシュ機能を持たせ、自律移動装置10からの要求に応じて、同一のセクション番号と高さの2次元平面画像データが既に作成されている場合には、サブ配信システム21は新たに2次元平面画像データを作成することなく、キャッシュに記憶されている2次元平面画像データを出力するようにしても良い。
【0032】
サブ配信システム21から送信されたレスポンスを受信した自律移動装置10の制御系コントローラ15は、レスポンスに含まれる2次元平面画像データを抽出して地図情報を取得する(ステップS6)。続いて、制御系コントローラ15は、取得した地図情報と距離計測器12Aまたは12Bからの計測データとを比較して自己位置を補正する(ステップS7)。その後、移動経路を決定し、移動を開始する(ステップS8)。
【0033】
上記のように、本実施形態においては、自律移動装置10は所望の高さ(例えば距離センサの高さH)の2次元平面画像データを地図配信システム(クラウドサーバ)へ要求して取得することができる。
そのため、駅構内に互いに仕様(センサの設置高さ)の異なる複数種類の自律移動装置が混在して活動している場合にも、各自律移動装置が自己位置を補正し把握するのに最適な地図情報を送信することができるという利点がある。
【0034】
図5(A)には、上記ステップS2で、自律移動装置10からローカルサーバ20へ送信される地図情報要求コマンド(リクエストコード)のデータフォーマットの例が、また
図5(B)には、上記ステップS5で、ローカルサーバ20から自律移動装置10へ送信される応答(レスポンスデータ)のデータフォーマットの例が示されている。
図5に示されているように、リクエストコードおよびレスポンスデータは、「データ項目」欄と、「データタイプ」欄と、「内容」欄とから構成されている。
【0035】
図6(A)には、駅構内を移動エリアとした場合のセクションの区割のイメージの例が示されている。
図6(A)に示されているように、駅構内の各フロアをマトリックス状に並んだ複数のセクションに分けて、セクション単位で2次元地図情報を自律移動装置10へ送信することで、データ送信量を減らし地図情報を取得するのに要する時間を短縮することができる。また、地図配信システム(クラウドサーバ)から自律移動装置10へ、3次元点群データではなく2次元平面画像データとして送信することで、データ送信量を減らすとともに自律移動装置10側で実行するデータ処理の負担を低減することができる。
図6(B)には、セクションを区別するための「セクション番号」の構成例が示されている。
図6(B)に示されているように、「セクション番号」は、フロアを表わすフロア番号と、行番号と、列番号と隣接セクションの地図情報が存在するか否かを表わす付加情報とから構成され、付加情報には移動の可/不可を示すビットが付記されている。
【0036】
さらに、駅構内の地図情報である3次元点群データを地図配信システム(クラウドサーバ)側に記憶しておくことで、駅構内でレイアウトの変更が行われたような場合に、サーバの地図情報を更新するだけで良く、各自律移動装置10がそれぞれ地図情報の更新を行う必要がないという利点がある。
また、
図5(A)に示すように、リクエストデータの「データタイプ」において、要求する点群データの種別を記載することができるため、駅構内に互いに仕様の異なる様々なタイプの自律移動装置が混在している場合にも、各自律移動装置の仕様に合わせた地図情報を送信することかできる。
【0037】
なお、
図5には示されていないが、リクエストデータに、自律移動装置10が保有するセンサ(距離計測器)の種類もしくは特性を示す情報を付加する欄を設けるとともに、レスポンスデータに、2次元画像データで表される構造物の表面における上記センサから照射される媒体の反射特性を示す情報(例えば輝度情報)を付加する欄を設けるようにしても良い。構造物の壁面を構成する材料によってセンサから照射される媒体の反射特性は異なっているため、壁面からの反射に基づいて距離を測定するセンサ(距離計測器)による測定精度は壁面の反射特性に依存することが考えられるが、反射特性を示す情報を自律移動装置10へ送信することで、自律移動装置10はより精度の高い位置補正を行うことができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上記実施形態ではクラウドサーバ30のテータベース31に駅構内の3次元点群データを記憶するようにしているが、駅構内の画像データもテータベース31に記憶しておいて、2次元平面画像データと共に必要な画像データを自律移動装置10へ送信し、自律移動装置10が有する撮像手段(カメラ)で撮影した画像データと比較してさらに正確な自己位置補正を行えるようにしても良い。
また、上記実施形態では、クラウドサーバ30をローカルサーバ20とは別のサーバとして構成しているが、クラウドサーバ30とローカルサーバ20とが一体のサーバであっても良い。
【0039】
また、上記実施形態では、地図配信システム(クラウドサーバ)が、3次元点群データから、自律移動装置側から指定された高さの2次元点群データを切り出して2次元平面画像データを生成し送信しているが、3次元点群データから切り出された指定高さの2次元点群データをそのまま送信して、自律移動装置側で2次元平面画像を生成するようにしても良い。また、地図配信システム側において、自律移動装置側から指定された高さの上下所定範囲の3次元点群データを抽出して水平面に投影した2次元画像データを生成して送信するようにしても良い。また、センサから照射される媒体の幅に応じて、上下所定範囲を調整しても良い。さらに、センシング時のロボットの揺れの影響を考慮して2次元平面画像に投影するようにしても良い。
【0040】
さらに、上記実施形態では、自律移動装置が自己位置の補正を行うために地図配信システム(クラウドサーバ)から地図情報を取得する場合を例にとって説明したが、自律移動装置が出っ張り部分を有するような場合に、出っ張り部分の高さの2次元平面画像データを要求し、移動中における構造物壁面等の障害物との接触を回避するための情報として利用できるようにしても良い。
また、上記実施形態では、自律移動装置からの要求があった場合に地図配信システムが2次元平面画像データを作成して送信しているが、地図配信システム自律移動装置からの要求無しに定期的(例えば3分おき)に、あるいは地図データの更新があった場合に、点群データを送信するようにしても良い。
【0041】
また、上記実施形態では、本発明を、駅構内における自律移動装置の移動を支援するシステムに適用した場合について説明したが、本発明はそれに限定されるものでない、イベント会場や工場内において自律移動装置の移動を支援するシステムにも利用することができる。さらに、サーバは、地図情報以外に、例えば混雑度や人流、物流(他の自律移動装置の動きを含む)に関する情報等を提供可能に構成されていても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 自律移動装置
11 無線LAN送受信機(無線通信手段)
12A,12B 距離計測器
13A,13B 走行輪(走行手段)
14 走行駆動装置(走行手段)
15 制御系コントローラ(制御手段)
16 駆動系コントローラ(走行手段)
20 ローカルサーバ(サーバ)
21 サブ配信システム(データ送受信手段)
30 クラウドサーバ(サーバ)
31 データベース
32 メイン配信システム(画像データ生成手段)
44 伝送手段(通信媒介手段)
45 無線LANルータ(通信媒介手段)