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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20231129BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20231129BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231129BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231129BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20231129BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/04 W
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M50/531
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019233714
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103623
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤分 英昭
(72)【発明者】
【氏名】坂元 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】森川 敬元
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119248(WO,A1)
【文献】特開2009-064770(JP,A)
【文献】特開2012-209023(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173899(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/029675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/587
H01M 50/531
H01M 4/13
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回された巻回型の電極体と、前記電極体を収容する円筒形の外装缶とを備えた円筒形電池であって、
前記電極体は、センターピンを含み、前記負極の巻始め側端部に負極リードが接続された構造を有し、
前記正極には、3.0%以上の伸び率を有する複数の高伸長領域が巻回方向に間欠的に形成され、
前記高伸長領域は、前記電極体の径方向に前記センターピンを介することなく前記負極リードと重なる範囲において、前記正極の巻回数がnであるとき、少なくとも巻始め側の1周目から(n×2/3)周目にわたって形成され、
前記高伸長領域のうち前記正極の1周目の第1高伸長領域は、前記負極リードと対向する範囲よりも大きく形成され、
前記高伸長領域のうち前記正極の2周目以降の第2高伸長領域は、少なくとも前記電極体の中心から前記第1高伸長領域の両端をそれぞれ通り前記正極の最外周まで延びる2本の直線に挟まれた範囲に形成され、当該2本の直線がなす角度θは180°以下である、円筒形電池。
【請求項2】
前記2本の直線がなす角度θは80°~150°である、請求項に記載の円筒形電池。
【請求項3】
前記正極は、正極芯体と、前記正極芯体の両面に形成された正極合剤層とを有し、
前記正極芯体は、鉄を含有するアルミニウム合金で構成されている、請求項1又は2に記載の円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒形電池に関し、より詳しくは、センターピンを有し、負極の巻始め側端部に負極リードが接続された巻回型の電極体を備える円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回されてなる巻回型の電極体と、電極体を収容する円筒形の外装缶とを備えた円筒形電池が広く知られている。円筒形電池には、電極体の巻回中心にセンターピンが挿入され、負極の巻始め側端部に負極リードが接続された構造が採用される場合がある。このような構造は、特にリチウムイオン電池等の高エネルギー密度の電池に適用される。
【0003】
ところで、円筒形電池において、例えば、圧壊により電池が潰される等の異常が発生すると、内部短絡が発生して短絡電流が流れ、電池内の温度が大きく上昇する可能性がある。特に、充電深度が高い状態における電池の圧壊による短絡は、瞬時に大きなエネルギーを放出するため、電池温度を急激に上昇させるおそれがある。そのため、リチウムイオン電池等の高エネルギー密度の電池には、異常発生時の発熱を抑制するための様々な安全対策が施されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極の全体を熱処理することにより、正極の伸び率を3.0%以上とした円筒形電池が開示されている。特許文献1には、正極の伸び率を高めることにより、圧壊によって電池が潰されることがあっても短絡の発生を抑制できると記載されている。また、特許文献2には、正極の巻始め側の1~3周分程度の領域を熱処理して柔軟性を高めた円筒形電池が開示されている。特許文献2には、正極の柔軟性を部分的に向上させることで、電極体構成時の最内周部分の負荷を吸収でき、極板の耐破断性が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-64770号公報
【文献】特開2012-209023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示されるように、正極を熱処理することにより、正極の伸び率を高めることは可能であるが、熱処理に起因して電池容量が低下するという問題がある。これは、熱処理の際に結着剤が溶融して正極活物質を被覆し、電池反応を阻害するためである。ゆえに、特許文献1に開示された電池のように、正極の全体を熱処理すると、電池容量の低下が問題となり得る。
【0007】
他方、特許文献2に開示された電池のように、正極の巻始め側の1~3周分程度の領域のみを熱処理する方法によれば、電池容量の低下は抑えられるが、負極の巻始め側端部に負極リードが接続される構造を採用した場合、電池の圧壊時に当該負極リードが原因で内部短絡が発生する可能性がある。そのため、負極の巻始め側端部に負極リードを接続する場合は、正極の熱処理領域を拡大する必要があり、容量低下は避けられない。
【0008】
本開示の目的は、センターピンを有し、負極の巻始め側端部に負極リードが接続された巻回型の電極体を備える円筒形電池において、高容量を維持しつつ、電池の圧壊時における内部短絡の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る円筒形電池は、正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回された巻回型の電極体と、前記電極体を収容する円筒形の外装缶とを備えた円筒形電池であって、前記電極体は、センターピンを含み、前記負極の巻始め側端部に負極リードが接続された構造を有し、前記正極には、3.0%以上の伸び率を有する複数の高伸長領域が巻回方向に間欠的に形成され、前記高伸長領域は、前記電極体の径方向に前記センターピンを介することなく前記負極リードと重なる範囲において、前記正極の巻回数がnであるとき、少なくとも巻始め側の1周目から(n×2/3)周目にわたって形成される。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る円筒形電池によれば、高容量を維持しつつ、電池の圧壊時における内部短絡の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の一例である円筒形電池の断面図である。
図2】実施形態の一例である電極体の平面図である。
図3図2に示す電極体において、負極リードと正極の高伸長領域との位置関係を説明するための図である。
図4】実施形態の一例である正極の正面図である。
図5】比較例の電極体を示す図である。
【0012】
以下、本開示に係る円筒形電池の実施形態について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
図1は、実施形態の一例である円筒形電池10の断面図である。図1に例示するように、円筒形電池10は、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回された巻回型の電極体14と、電極体14を収容する円筒形の外装缶16とを備える。また、円筒形電池10は、電極体14と共に外装缶16に収容された電解質を備える。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0014】
電解質は、水系電解質であってもよいが、好ましくは非水電解質である。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0015】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の貫通孔を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、図2図4をさらに参照しながら、電極体14の構成、特に正極11の構成について詳説する。図2は、電極体14の平面図である。図3は、電極体14の平面図において巻回中心α及びその近傍を拡大して示す図(負極12、セパレータ13、センターピン15等の図示省略)であって、負極リード21と正極11の高伸長領域33との位置関係を説明するための図である。図4は、正極11の正面図である。図2図4では、正極11の高伸長領域33にドットハッチングを付している。
【0020】
図1及び図2に例示するように、電極体14は、巻回中心に挿入されたセンターピン15を含む。センターピン15は、軸方向両端が開口した円筒状の部材である。詳しくは後述するが、センターピン15は、電極体14の巻内側における内部短絡の抑制に寄与する。また、センターピン15は、例えばガスの排気経路となり、電池の異常によりガスが発生した場合に、封口体17側にガスを導く。センターピン15は、一般的にステンレス鋼、アルミニウム、チタン、ニッケル、銅、鉄等を主成分とする金属で構成される。
【0021】
センターピン15は、電極体14の軸方向一端部から他端部にわたる長さを有することが好ましい。センターピン15の直径は、軸方向全長にわたって一定であってもよく、軸方向両端部で縮径していてもよい。すなわち、センターピン15は、先細り形状を有していてもよい。この場合、センターピン15を電極体14に挿入し易くなる。また、センターピン15は、例えば、断面略円形状を有する。センターピン15は、断面略C字形状を有していてもよい。
【0022】
電極体14は、負極12の巻始め側端部に負極リード21が接続された構造を有する。負極12の巻始め側端部には、負極合剤層が形成されず、負極芯体の表面が露出した露出部が形成され、当該露出部に負極リード21が接続されている。負極リード21は、一般的に、一定の幅を有する帯状の導電部材であって、ニッケルを主成分する金属で構成される。負極リード21は、負極12上において、負極12の幅方向の一部に配置されてもよく、幅方向略全長にわたって配置されてもよい。
【0023】
負極リード21の厚みは、例えば、50μm~250μmであり、好ましくは70μm~150μmである。負極リード21は極板と比べて剛性が高いため、電極体14の巻内側では、特に負極リード21と対向する部分で内部短絡が発生し易くなる。負極リード21の幅は、例えば、センターピン15の周長の5%~50%、好ましくは10%~30%であって、一例としては1mm~5mmである。負極リード21の幅がセンターピン15の周長の50%を超えると、電極体14の巻内側の形状を真円形状に維持することが難しくなる。
【0024】
なお、円筒形電池10には、負極12の巻終り側端部にも露出部を設け、当該露出部に第2の負極リードを接続した構成を適用してもよい。或いは、当該露出部が負極端子となる外装缶16の内周面に接触していてもよい。
【0025】
[正極]
図3に例示するように、正極11は、正極芯体30と、正極芯体30の両面に形成された正極合剤層31とを有する。正極芯体30には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極芯体30の好適な一例は、鉄を含有するアルミニウム合金で構成される金属箔である。正極芯体30の厚みは、例えば、5μm~20μmである。詳しくは後述するが、正極芯体30は、熱処理によって柔軟化し、伸び率が高くなる。正極11には、例えば、長手方向中央部に正極合剤層31が形成されず、正極芯体30が露出した露出部が形成され、当該露出部に正極リード20が接続されている。
【0026】
正極合剤層31は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極芯体30の両面に設けられることが好ましい。正極合剤層31は、例えば、正極芯体30の片側で60μm~100μmの厚みを有し、正極芯体30の両面にそれぞれ同じ厚みで形成される。正極11は、例えば正極芯体30上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層31を正極芯体30の両面に形成することにより作製できる。
【0027】
正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。中でも、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有することが好ましい。好適な複合酸化物の一例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0028】
正極合剤層31に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層31に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0029】
図2図4に例示するように、正極11には、3.0%以上の伸び率を有する高伸長領域33が局所的に形成されている。高伸長領域33は、少なくとも、電極体14の径方向にセンターピン15を介することなく負極リード21と重なる範囲に形成される。高伸長領域33は、正極11の巻回数がnであるとき、少なくとも巻始め側の1周目から(n×2/3)周目にわたって形成される。正極11のうち、負極リード21と重なって対向する部分に高伸長領域33を設けることで、高容量を維持しつつ、電池の圧壊時における内部短絡の発生を高度に抑制できる。正極11の巻回数nは特に限定されないが、一例としては20~40である。巻回数nが30である場合、30周目が正極11の最外周となる。なお、高伸長領域33以外の極板の伸びは、3.0%未満である。
【0030】
なお、負極リード21は剛性が高いため、例えば、円筒形電池10が潰されてセパレータ13がリードの端部から圧力を受けると、セパレータ13が破損して内部短絡が発生する場合がある。正極11の高伸長領域33は外部からの衝撃を吸収すると考えられ、特定の範囲に高伸長領域33を設けることで、負極リード21に起因する内部短絡の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
高伸長領域33のうち、正極11の最内周である1周目の領域(1周目領域A)に形成される第1高伸長領域33Aは、負極リード21と対向する範囲、即ちセンターピン15を介することなく電極体14の径方向に負極リード21と重なる範囲よりも大きく形成される。第1高伸長領域33Aの幅W1は負極リード21の幅よりも大きく、第1高伸長領域33Aは、負極リード21の幅方向両端に対応する位置(直線X1,Y1が通る位置)から、さらに外側に広がって形成されている。
【0032】
ここで、直線X1,Y1とは、電極体14の巻回中心αから負極リード21の両端をそれぞれ通り正極11の最外周まで延びる直線である。また、高伸長領域33の幅とは、正極11の長手方向に沿った当該領域の長さを意味する。
【0033】
高伸長領域33のうち、正極11の2周目以降の領域に形成される第2高伸長領域(例えば、2周目領域B及び3周目領域Cのそれぞれに形成される第2高伸長領域33B及び第2高伸長領域33C)は、2本の直線X2,Y2に挟まれた範囲に形成される。直線X2,Y2は、電極体14の巻回中心αから第1高伸長領域33Aの両端をそれぞれ通り正極11の最外周まで延びる直線であって、直線X2,Y2がなす角度θは180°以下である。電極体14の直線X2,Y2で挟まれた部分は、平面視扇形であって、角度θはこの扇形の中心角となる(直線X1,Y1についても同様)。
【0034】
第1高伸長領域33Aの幅W1は、例えば負極リード21の幅の1.1倍~2.0倍であり、好ましくは1.2倍~1.8倍、より好ましくは1.3倍~1.7倍である。この場合、正極11の巻回誤差が多少あったとしても、負極リード21の端部と対向する部分には高伸長領域33が形成される。ゆえに、高容量を維持しながら、内部短絡の発生を抑制できる。
【0035】
直線X2,Y2がなす角度θ(直線X2,Y2による扇形の中心角)は、例えば、直線X1,Y1がなす角度(直線X1,Y1による扇形の中心角)の1.1倍~2.0倍であり、好ましくは1.2倍~1.8倍、より好ましくは1.3倍~1.7倍である。好適な角度θの一例は、80°~150°であり、好ましくは90°~140°、特に好ましくは100°~130°である。例えば、角度θが120°である場合、1周目領域Aには、当該領域の幅の33%に相当する幅W1を有する第1高伸長領域33Aが形成される。
【0036】
図4に例示するように、高伸長領域33は、正極11の長手方向に所定の間隔をあけて複数形成される。高伸長領域33は、直線X2,Y2により作られる平面視扇形の範囲に形成されるため、正極11の巻始め側から巻終り側に向かって次第に幅広に形成される。なお、正極11の周長も巻始め側から巻終り側に向かって次第に長くなり、1周目領域Aの幅<2周目領域の幅<3周目領域の幅となる。例えば、1周目領域Aの幅に対する第1高伸長領域33Aの幅W1の割合は、2周目領域の幅に対する第2高伸長領域33Bの幅W2の割合と実質的に同じである。
【0037】
高伸長領域33は、正極11の巻回数がnであるとき、少なくとも1周目領域Aから(n×2/3)周目領域にわたって形成される。高伸長領域33が(n×2/3)周目領域まで形成されない場合、電池の圧壊時における内部短絡の発生を十分に防止できない。高伸長領域33は、1周目領域(正極11の最内周)からn周目領域(正極11の最外周)にわたって、即ち直線X2,Y2により作られる平面視扇形の範囲の全域に形成されてもよい。なお、高伸長領域33は、1周目領域Aから(n×2/3)周目領域までの各々に形成されるが、本開示の目的を損なわない範囲で、高伸長領域33が形成されない部分が存在してもよい。
【0038】
高伸長領域33の伸び率は、上記の通り、3.0%以上である。高伸長領域33の伸び率が3.0%未満であれば、上述の範囲に高伸長領域33を形成したとしても、電池の圧壊時における内部短絡の発生を十分に防止できない。また、高伸長領域33の伸び率の上限値は、好ましくは10%、より好ましくは7%である。正極11の高伸長領域33以外の部分の伸び率は、2%以下が好ましい。高伸長領域33以外の部分の伸び率が高くなり過ぎると、正極11の製造安定性が損なわれる場合がある。
【0039】
正極11の伸び率は、下記の方法で測定される。
(1)正極11の測定対象部分を、幅10mm,有効部長さ50mmに裁断し、サンプル片を作製する。
(2)測定装置(島津製作所製、万能試験機)の基台に支持された下側チャックにサンプル片の一端を取り付け、ロードセルを介して荷重機構に接続された上側チャックにサンプル片の他端を取り付ける。
(3)上側チャックをサンプル片の長さ方向に沿って5mm/minの速度で移動させてサンプル片を引っ張り、サンプル片が破断される直前のサンプル片の長さを測定する。引っ張り試験の前後におけるサンプル片の有効部の長さの変化から伸び率を算出する。
【0040】
高伸長領域33は、正極11を局所的に熱処理することにより、上述の目的とする部分に形成される。正極11の熱処理方法は特に限定されないが、接触式の加熱手段を適用することが好ましい。例えば、正極11を厚み方向両側から挟む加熱ロールやホットプレートを用いて、正極11の一部を局所的に熱処理できる。熱処理温度は、例えば、正極芯体30が軟化する温度であって、一例としては180℃~250℃である。正極芯体30に、鉄を含有するアルミニウム合金を用いた場合、熱処理温度を低く、また熱処理時間を短くすることが可能である。
【0041】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の両面に形成された負極合剤層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層は、負極活物質及び結着剤を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0042】
負極合剤層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0043】
負極合剤層に含まれる結着剤には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合剤層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0044】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、ニッケル酸リチウムを用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、100:2:2の固形分質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合剤スラリーを調製した。次に、この正極合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体の両面に正極合剤層が形成された正極を得た。
【0047】
後述の巻回型電極体における正極の巻回数は30(30周目が最外周)であり、正極の巻始め側の1周目から20周目に対応する領域を熱処理した。これにより、正極の一部に、伸び率が4.5%の高伸長領域を形成した。なお、高伸長領域以外の部分の伸び率は1.8%である。正極の1周目の熱処理領域は、3.0mm幅の負極リードよりも大きい4.5mm幅の領域とした(負極リードと対向する範囲よりも左右に約0.8mm大きな領域)。2周目~20周目の熱処理領域は、図2に示す平面視扇形(中心角θ=120°)に対応する領域とした。熱処理は、ホットプレートを用いた接触式加熱により、上記所定の領域を210℃で加熱して行った。
【0048】
[負極の作製]
黒鉛粉末と、スチレンブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロースとを、100:1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、負極芯体の両面に負極合剤層が形成された負極を得た。
【0049】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートを、1:3の体積比で混合した混合溶媒に対して、1.0質量%のビニレンカーボネートを添加し、LiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0050】
[円筒形電池の作製]
上記正極の長手方向中央部にアルミニウム製の正極リードを取り付け、上記負極の巻始め側端部となる長手方向一端部にニッケル製の負極リードを取り付けた。直径4.3mmの巻芯を用い、セパレータを介して正極と負極を渦巻状に巻回した後、巻芯を抜いて巻回中心に形成された中空部に円筒状のセンターピンを挿入し、正極の巻回数が30の電極体を得た。このとき、正極の高伸長領域が、図2に示す平面視扇形の範囲に配置されるように正極を巻回した。この電極体を有底円筒形状の外装缶に収容し、上記非水電解液を減圧法により注入後、外装缶の開口部を封口体で閉じて円筒形電池Aを得た。
【0051】
<実施例2>
正極の1周目から30周目(最外周)まで、電極体の平面視扇形(中心角θ=120°)に対応する範囲に熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Bを作製した。
【0052】
<比較例1>
図5(a)に示すように、正極の1周目から20周目まで連続して熱処理を行い、1周目~20周目の全体に高伸長領域を形成したこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Cを作製した。
【0053】
<比較例2>
正極の全体(1周目~30周目)を熱処理して、正極の全体に高伸長領域を形成したこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Dを作製した。
【0054】
<比較例3>
正極を熱処理せず、正極に高伸長領域を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Eを作製した。
【0055】
<比較例4>
正極の熱処理範囲を1周目~15周目としたこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Fを作製した。
【0056】
<比較例5>
図5(b)に示すように、正極の1周目の熱処理領域を、負極リードと対向する範囲よりも小さな2.7mm幅の領域としたこと(この場合、平面視扇形の中心角θ=72°)以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Gを作製した。
【0057】
<比較例6>
正極の熱処理温度を140℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Hを作製した。この場合、熱処理領域の伸び率は2.6%であった。
【0058】
<比較例7>
電極体にセンターピンを挿入しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極及び円筒形電池Iを作製した。
【0059】
実施例及び比較例の各電池について、下記の方法で性能評価を行い、評価結果を各電池の構成と共に表1に示した。
【0060】
[電池容量の評価]
実施例及び比較例の各電池を、常温環境下、最大電流1350mA(0.3ItA)で電池電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧で電流値が90mA(0.02ItA)になるまで充電した。その後、最大電流4500mA(1.0ItA)で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを3回繰り返した後、上記充電条件で満充電状態とし、-20℃の環境下で各電池を1時間静置してから上記放電条件で放電した。このときの放電容量を電池容量とした。
【0061】
[衝突試験]
実施例及び比較例の各電池を、常温環境下、最大電流1350mAで電池電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.25Vの定電圧で電流値が90mAになるまで充電した。その後、各電池を負極リードの位置が下(これを0°とする)となるようにコンクリートブロック上に配置した。各電池の軸方向中央部を横切るように直径15.8mmの丸棒を電池の上に配置し、重さ9.1kgの錘を電池の直上61cmの高さから丸棒の上に落下させ、電池表面の最高到達温度を計測した。また、上記0°の配置を基準として、電池の底面を、時計回りに45°、90°回転させて丸棒とコンクリートブロックに対する負極リードの配置を変えて同様の試験を行った。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、電池容量と発熱抑制の両立性に優れている。比較例1,2の電池C,Dでは、衝突試験における発熱は抑制されるものの、電池容量が大きく低下する。また、比較例3~7の電池E~Iは、高容量であるが、衝突試験における発熱抑制については未だ改良の余地がある。
【0064】
電池容量は、電池E>電池H>電池G>電池F>電池A=電池I>電池B>電池C>電池Dの順に低下している。正極の熱処理面積が大きくなるほど、電池容量が低下し、これは熱処理の位置、形状とは無関係である。正極の1周目~20周目を熱処理して高伸長領域を形成する場合、正極の長手方向に連続して熱処理するよりも、負極リードに対向する部分のみを熱処理することで、容量低下を抑えることができる。
【0065】
一方、電池F~Hでは、下記のように、衝突試験の発熱が大きく、衝突試験において負極リードが電極体を損傷させると考えられる。即ち、負極リードによる衝撃を十分に吸収できるような高伸長領域が形成されていないと想定される。
電池F:熱処理範囲を1周目~15周目とした場合、負極リードによる衝撃を正極の高伸長領域が吸収できず、内部短絡が発生して120℃を超える発熱が発生する。
電池G:熱処理箇所を負極リードと対向する範囲よりも小さくした場合、負極リードによる衝撃を正極の高伸長領域が吸収できず、内部短絡が発生して120℃を超える発熱が発生する。
電池H:熱処理温度を140℃に下げた場合、熱処理領域の伸び率が2.6%まで低下した。この場合、負極リードによる衝撃を正極が吸収できず、内部短絡が発生して120℃を超える発熱が発生する。
【0066】
また、センターピンを有さない電池Iについても衝突試験の発熱が大きい。電池Iでは、負極リードが電極体の巻回中心を挟んで反対側に位置する部分を損傷させることで、内部短絡が発生すると考えられる。
【0067】
以上の結果から、負極の巻始め側端部に負極リードが接続された構造の電極体を備える円筒形電池において、電極体にセンターピンが挿入され、3.0%以上の伸び率を有する高伸長領域が、正極の負極リードと重なる範囲において、少なくとも巻始め側の1周目から(n×2/3)周目にわたって形成される場合に、電池容量の低下を抑えつつ、負極リードに起因した内部短絡の発生を高度に抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 円筒形電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 センターピン、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 内部端子板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極芯体、31 正極合剤層、33 高伸長領域、33A 第1高伸長領域、33B,33C 第2高伸長領域、A 1周目領域、B 2周目領域、C 3周目領域
図1
図2
図3
図4
図5