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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 651B
H01L21/304 648G
H01L21/304 648K
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020001888
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021009988
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019120652
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 正幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 弘明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 佑
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠太
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-106645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0091736(US,A1)
【文献】特開2019-029491(JP,A)
【文献】特開2015-119168(JP,A)
【文献】特開平03-074308(JP,A)
【文献】特開平03-093702(JP,A)
【文献】特開昭63-215603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に対してシクロヘキサノンオキシムが溶けた処理液を、パターンが形成された基板の表面に供給して前記処理液の液膜を前記基板の表面に形成する液膜形成工程と、
前記処理液の液膜を固化させて前記シクロヘキサノンオキシムの固化膜を形成する固化膜形成工程と、
前記固化膜を昇華させて前記基板の表面から除去する昇華工程と、
を備えることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記処理液に含まれる前記シクロヘキサノンオキシムの濃度は、前記シクロヘキサノンオキシムの前記溶媒への溶解度よりも低い基板処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記処理液に含まれる前記シクロヘキサノンオキシムの濃度は0.1体積%よりも高く10体積%以下である基板処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記液膜形成工程では、前記基板の表面の面法線と平行な回転軸線まわりに前記基板は回転しており、
前記基板の回転速度は300rpm以上および3000rpm以下である基板処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の基板処理方法であって、
前記基板の回転速度が高く設定されるのに応じて、前記処理液に含まれる前記シクロヘキサノンオキシムの濃度高く設定される基板処理方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の基板処理方法であって、
前記固化膜形成工程は、前記液膜形成工程における前記基板の回転速度よりも低い回転速度で前記回転軸線まわりに前記基板を回転させて前記シクロヘキサノンオキシムを前記パターン内に充填する工程を含む基板処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の基板処理方法であって、
前記固化膜形成工程は、前記シクロヘキサノンオキシムを前記パターン内に充填した後に前記基板の回転速度を上昇させて前記液膜の固化を促進させる基板処理方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の基板処理方法であって、
前記固化膜形成工程は、前記シクロヘキサノンオキシムを前記パターン内に充填した後に前記基板に不活性ガスを吐出して前記液膜の固化を促進させる基板処理方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記パターンはフロントエンドプロセスで形成され、
前記パターンのアスペクト比は35以下である基板処理方法。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記パターンはバックエンドプロセスで形成され、
前記パターンのアスペクト比は7以下である基板処理方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記基板の表面は親水性または疎水性を有している基板処理方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記溶媒は、純水、脱イオン水、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、アルコール類、ケトン類、シクロアルカン類及びエーテル類からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む液体である基板処理方法。
【請求項13】
溶媒を貯留する溶媒貯留部と、
前記溶媒と同じ溶媒に対してシクロヘキサノンオキシムが溶けた処理液を貯留する処理液貯留部と、
前記処理液を前記溶媒貯留部から供給される溶媒で希釈された濃度調整済の処理液を、パターンが形成された基板の表面に供給する処理液供給部と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項14】
請求項13に記載の基板処理装置であって、
前記処理液供給部は、
混合部材と、
前記混合部材と前記処理液貯留部と接続する第1配管と、
前記混合部材と前記溶媒貯留部と接続する第2配管と、を有し、
前記第1配管を介して供給される前記処理液と前記第2配管を介して供給される前記溶媒とを前記混合部材で混合して希釈した前記濃度調整済の処理液を前記基板の表面に向けて送液する基板処理装置。
【請求項15】
請求項13に記載の基板処理装置であって、
前記溶媒貯留部と前記処理液貯留部とを接続する第3配管を備え、
前記処理液供給部は、前記第3配管を介して前記溶媒を前記処理液貯留部に供給して希釈した前記濃度調整済の処理液を前記基板の表面に供給する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面にパターンが形成された基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関するものである。基板には、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、有機EL(electroluminescence)表示装置などのFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程においては、基板の表面に成膜やエッチングなどの処理を繰り返し施してパターンを形成する工程が含まれる。また、このパターン形成後において、薬液による洗浄処理、リンス液によるリンス処理および乾燥処理などがこの順序で行われるが、パターンの微細化に伴い乾燥処理の重要性が特に高まっている。つまり、乾燥処理においてパターン倒壊の発生を抑制または防止する技術が重要となっている。そこで、例えば特許文献1に記載されているように、ショウノウをIPA(イソプロピルアルコール:isopropyl alcohol)に溶解させた処理液を用いて基板を昇華乾燥させる基板処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-243869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、昇華性物質の代表例であるショウノウを用いることで基板の乾燥性能を高めている。しかしながら、基板処理条件によってはパターンの倒壊を抑制することができず、従来技術は電子部品の製造現場で要求される乾燥性能を満足するに至っていない。
【0005】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、優れた乾燥性能を有し、表面にパターンが形成された基板を良好に乾燥させることができる基板処理方法および基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様は、基板処理方法であって、溶媒に対してシクロヘキサノンオキシムが溶けた処理液を、パターンが形成された基板の表面に供給して処理液の液膜を基板の表面に形成する液膜形成工程と、処理液の液膜を固化させてシクロヘキサノンオキシムの固化膜を形成する固化膜形成工程と、固化膜を昇華させて基板の表面から除去する昇華工程と、を備えることを特徴としている。
【0007】
また、この発明の他の態様は、基板処理装置であって、溶媒を貯留する溶媒貯留部と、溶媒と同じ溶媒に対してシクロヘキサノンオキシムが溶けた処理液を貯留する処理液貯留部と、処理液を溶媒貯留部から供給される溶媒で希釈された濃度調整済の処理液を、パターンが形成された基板の表面に供給する処理液供給部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
このように構成された発明によれば、昇華性物質としてシクロヘキサノンオキシムを用いて昇華乾燥を実行することができる。したがって、種々の基板処理条件においてパターンの倒壊を防止しつつ基板を良好に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る基板処理装置の第1実施形態の概略構成を示す平面図である。
図2図1に示す基板処理装置の側面図である。
図3】処理ユニットの構成を示す部分断面図である。
図4】処理ユニットを制御する制御部の電気的構成を示すブロック図である。
図5】処理液供給部の構成を示す図である。
図6】本発明に係る基板処理方法の第1実施形態で実行される基板処理の内容を示す図である。
図7】本発明に係る基板処理方法の第2実施形態で実行される基板処理の内容を示す図である。
図8】本発明に係る基板処理方法の第3実施形態で実行される基板処理の内容を示す図である。
図9】本発明に係る基板処理方法の第4実施形態で実行される基板処理のタイミングチャートである。
図10】本発明に係る基板処理方法の検証結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
<<基板処理装置の全体構成>>
図1は本発明に係る基板処理装置の第1実施形態の概略構成を示す平面図である。また、図2図1に示す基板処理装置の側面図である。これらの図面は装置の外観を示すものではなく、基板処理装置100の外壁パネルやその他の一部構成を除外することでその内部構造をわかりやすく示した模式図である。この基板処理装置100は、例えばクリーンルーム内に設置され、一方主面のみに回路パターン等(以下「パターン」と称する)が形成された基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。そして、基板処理装置100において本発明に係る基板処理方法の第1実施形態が実行される。本明細書では、パターンが形成されているパターン形成面(一方主面)を「表面Wf」と称し、その反対側のパターンが形成されていない他方主面を「裏面Wb」と称する。また、下方に向けられた面を「下面」と称し、上方に向けられた面を「上面」と称する。また、本明細書において「パターン形成面」とは、平面状、曲面状又は凹凸状の何れであるかを問わず、基板において、任意の領域に凹凸パターンが形成されている面を意味する。
【0011】
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。
【0012】
図1に示すように、基板処理装置100は、基板Wに対して処理を施す基板処理部110と、この基板処理部110に結合されたインデクサ部120とを備えている。インデクサ部120は、基板Wを収容するための容器C(複数の基板Wを密閉した状態で収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Interface)ポッド、OC(Open Cassette)など)を複数個保持することができる容器保持部121と、この容器保持部121に保持された容器Cにアクセスして、未処理の基板Wを容器Cから取り出したり、処理済みの基板Wを容器Cに収納したりするためのインデクサロボット122を備えている。各容器Cには、複数枚の基板Wがほぼ水平な姿勢で収容されている。
【0013】
インデクサロボット122は、装置筐体に固定されたベース部122aと、ベース部122aに対し鉛直軸まわりに回動可能に設けられた多関節アーム122bと、多関節アーム122bの先端に取り付けられたハンド122cとを備える。ハンド122cはその上面に基板Wを載置して保持することができる構造となっている。このような多関節アームおよび基板保持用のハンドを有するインデクサロボットは公知であるので詳しい説明を省略する。
【0014】
基板処理部110は、平面視においてほぼ中央に配置された基板搬送ロボット111と、この基板搬送ロボット111を取り囲むように配置された複数の処理ユニット1とを備えている。具体的には、基板搬送ロボット111が配置された空間に面して複数の(この例では8つの)処理ユニット1が配置されている。これらの処理ユニット1に対して基板搬送ロボット111はランダムにアクセスして基板Wを受け渡す。一方、各処理ユニット1は基板Wに対して所定の処理を実行する。本実施形態では、これらの処理ユニット1は同一の機能を有している。このため、複数基板Wの並列処理が可能となっている。
【0015】
<<処理ユニット1の構成>>
図3は処理ユニットの構成を示す部分断面図である。また、図4は処理ユニットを制御する制御部の電気的構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では、各処理ユニット1に対して制御部4を設けているが、1台の制御部により複数の処理ユニット1を制御するように構成してもよい。また、基板処理装置100全体を制御する制御ユニット(図示省略)により処理ユニット1を制御するように構成してもよい。
【0016】
処理ユニット1は、内部空間21を有するチャンバ2と、チャンバ2の内部空間21に収容されて基板Wを保持するスピンチャック3とを備えている。図1および図2に示すように、チャンバ2の側面にシャッター23が設けられている。シャッター23にはシャッター開閉機構22(図4)が接続されており、制御部4からの開閉指令に応じてシャッター23を開閉させる。より具体的には、処理ユニット1では、未処理の基板Wをチャンバ2に搬入する際にシャッター開閉機構22はシャッター23を開き、基板搬送ロボット111のハンドによって未処理の基板Wがフェースアップ姿勢でスピンチャック3に搬入される。つまり、基板Wは表面Wfを上方に向けた状態でスピンチャック3上に載置される。そして、当該基板搬入後に基板搬送ロボット111のハンドがチャンバ2から退避すると、シャッター開閉機構22はシャッター23を閉じる。そして、チャンバ2の内部空間21内で後述のように薬液、DIW(脱イオン水:deionized water)、IPA処理液および窒素ガスが基板Wの表面Wfに供給されて所望の基板処理が常温環境下で実行される。また、基板処理の終了後においては、シャッター開閉機構22がシャッター23を再び開き、基板搬送ロボット111のハンドが処理済の基板Wをスピンチャック3から搬出する。このように、本実施形態では、チャンバ2の内部空間21が常温環境に保ちつつ基板処理を行う処理空間として機能する。なお、本明細書において「常温」とは、5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。
【0017】
スピンチャック3は、基板Wを把持する複数のチャックピン31と、複数のチャックピン31を支持して水平方向に沿う円盤形状に形成されたスピンベース32と、スピンベース32に連結された状態で基板Wの表面中心から延びる面法線と平行な回転軸線C1まわりに回転自在に設けられた中心軸33と、モータによって中心軸33を回転軸線C1まわりに回転させる基板回転駆動機構34とを備えている。複数のチャックピン31は、スピンベース32の上面の周縁部に設けられている。この実施形態では、チャックピン31は周方向に等間隔を空けて配置されている。そして、スピンチャック3に載置された基板Wをチャックピン31により把持した状態で制御部4からの回転指令に応じて基板回転駆動機構34のモータが作動すると、基板Wは回転軸線C1まわりに回転する。また、このように基板Wを回転させた状態で、制御部4からの供給指令に応じて雰囲気遮断機構5に設けられたノズルから薬液、IPA、DIW、処理液および窒素ガスが順次基板Wの表面Wfに供給される。
【0018】
雰囲気遮断機構5は、遮断板51と、遮断板51に一体回転可能に設けられた上スピン軸52と、遮断板51の中央部を上下方向に貫通するノズル53とを有している。遮断板51は基板Wとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板形状に仕上げられている。遮断板51はスピンチャック3に保持された基板Wの上面に間隔を空けて対向配置されている。このため、遮断板51の下面が基板Wの表面Wf全域に対向する円形の基板対向面51aとして機能する。また、基板対向面51aの中央部には、遮断板51を上下に貫通する円筒状の貫通孔51bが形成されている。
【0019】
上スピン軸52は遮断板51の中心を通り鉛直に延びる回転軸線(基板Wの回転軸線C1と一致する軸線)まわりに回転可能に設けられている。上スピン軸52は円筒形状を有している。上スピン軸52の内周面は、上記回転軸線を中心とする円筒面に形成されている。上スピン軸52の内部空間は、遮断板51の貫通孔51bに連通している。上スピン軸52は、遮断板51の上方で水平に延びる支持アーム54に相対回転可能に支持されている。
【0020】
ノズル53はスピンチャック3の上方に配置されている。ノズル53は支持アーム54に対して回転不能な状態で支持アーム54によって支持されている。また、ノズル53は、遮断板51、上スピン軸52、および支持アーム54と一体的に昇降可能となっている。ノズル53の下端部には吐出口53aが設けられ、スピンチャック3に保持されている基板Wの表面Wfの中央部に対向する。
【0021】
遮断板51には、電動モータ等を含む構成の遮断板回転駆動機構55(図4)が結合されている。遮断板回転駆動機構55は制御部4からの回転指令に応じて遮断板51および上スピン軸52を支持アーム54に対して回転軸線C1まわりに回転させる。また、支持アーム54には遮断板昇降駆動機構56が結合されている。遮断板昇降駆動機構56は制御部4からの昇降指令に応じて遮断板51、上スピン軸52およびノズル53を支持アーム54と一体的に鉛直方向Zに昇降する。より具体的には、遮断板昇降駆動機構56は、基板対向面51aがスピンチャック3に保持されている基板Wの表面Wfに近接して表面Wfの上方空間を周辺雰囲気から実質的に遮断する遮断位置(図1図6図7の右上段に示す位置)と、遮断位置よりも大きく上方に退避した退避位置(図7の右中段および右下段に示す位置、図8に示す位置)の間で昇降させる。
【0022】
ノズル53の上端部は、薬液供給ユニット61、リンス液供給ユニット62、有機溶剤供給ユニット63、処理液供給ユニット64および気体供給ユニット65が接続されている。
【0023】
薬液供給ユニット61は、ノズル53に接続された薬液配管611と、薬液配管611に介装されたバルブ612とを有している。薬液配管611は薬液の供給源と接続されている。本実施形態では、薬液は基板Wの表面Wfを洗浄する機能を有しておればよく、例えば酸性薬液として例えばフッ酸(HF)、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸のうちの少なくとも1つを含む薬液を用いることができる。また、アルカリ薬液としては、例えばアンモニアおよび水酸基のうちの少なくとも1つを含む薬液を用いることができる。なお、本実施形態では、薬液としてフッ酸を用いている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ612が開かれると、フッ酸薬液がノズル53に供給され、吐出口53aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。
【0024】
リンス液供給ユニット62は、ノズル53に接続されたリンス液配管621と、リンス液配管621に介装されたバルブ622とを有している。リンス液配管621はリンス液の供給源と接続されている。本実施形態では、リンス液としてDIWを用いており、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ622が開かれると、DIWがノズル53に供給され、吐出口53aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。なお、リンス液としては、DIW以外に、例えば炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水および希釈濃度(たとえば、10ppm~100ppm程度)の塩酸水のいずれかを用いてもよい。
【0025】
有機溶剤供給ユニット63は、空気よりも比重が大きくかつ水よりも低い表面張力を有する低表面張力液体としての有機溶剤を供給するためのユニットである。有機溶剤供給ユニット63は、ノズル53に接続された有機溶剤配管631と、有機溶剤配管631に介装されたバルブ632とを有している。有機溶剤配管631は有機溶剤の供給源と接続されている。本実施形態では、有機溶剤としてIPAが用いられており、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ632が開かれると、IPAがノズル53に供給され、吐出口53aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。なお、有機溶剤としては、IPA以外に、例えばメタノール、エタノール、アセトン、EG(エチレングリコール)およびHFE(ハイドロフルオロエーテル)を用いることができる。また、有機溶剤としては、単体成分のみからなる場合だけでなく、他の成分と混合した液体であってもよい。例えばIPAとアセトンの混合液であってもよいし、IPAとメタノールの混合液であってもよい。
【0026】
処理液供給ユニット64は、スピンチャック3に保持されている基板Wを乾燥させる際の乾燥補助液として機能する処理液を基板Wの表面Wfに供給するユニットである。処理液供給ユニット64は、ノズル53に接続された処理液配管641と、処理液配管641に介装されたバルブ642とを有している。処理液配管641は処理液の供給源として機能する処理液供給部と接続されている。本実施形態では、処理液としてIPAに対して昇華性物資としてシクロヘキサノンオキシムが溶けたシクロヘキサノンオキシム溶液が用いられる。なお、本明細書において「昇華性」とは、単体、化合物若しくは混合物が液体を経ずに固体から気体、又は気体から固体へと相転移する特性を有することを意味し、「昇華性物質」とはそのような昇華性を有する物質を意味する。また、処理液の詳細については後述する。
【0027】
図5は処理液供給部の構成を示す図である。同図中の符号FB、CCはそれぞれ「流体ボックス」および「キャビネット」を示している。また、本実施形態では、処理液配管641が処理液供給部400の流体ボックスFB内に延設されるとともに、流体ボックスFB内でバルブ642が処理液配管641に取り付けられ、処理液の供給/供給停止を切り替え可能となっている。
【0028】
処理液供給部400は、処理液の原液としてシクロヘキサノンオキシム溶液を貯留する原液タンク401と、原液に含まれる溶媒と同一名称の溶媒(本実施形態ではIPA)を希釈液として貯留する希釈液タンク405とを有している。原液タンク401は、第1個別配管402によって、ミキシングバルブ409の第1個別流路412に接続されている。一方、希釈液タンク405は、第2個別配管406によって、ミキシングバルブ409の第2個別流路413に接続されている。
【0029】
原液タンク401内の原液は、第1個別配管402に介装された第1ポンプ403によってミキシングバルブ409に送られる。原液タンク401からミキシングバルブ409に送られる原液の流量は、第1個別配管402の内部を開閉する第1電動バルブ404によって変更可能となっている。また同様に、希釈液タンク405内の希釈液は、第2個別配管406に介装された第2ポンプ407によってミキシングバルブ409に送られる。希釈液タンク405からミキシングバルブ409に送られる希釈液の流量は、第2個別配管406の内部を開閉する第2電動バルブ408によって変更可能となっている。
【0030】
本実施形態では、第1電動バルブ404および第2電動バルブ408はいずれも電動ニードルバルブである。ここで、第1電動バルブ404および第2電動バルブ408の少なくとも一方は、電動ニードルバルブ以外の電動バルブであってもよい。なお、電動ニードルバルブの構成は周知であるため詳しい説明を省略するが、電動バルブ404、408の開閉および開度は制御部4により制御される。
【0031】
ミキシングバルブ409は、図5に示すように、第1個別流路412および第2個別流路413に加えて、第1個別流路412での液体の逆流を防止する第1チェックバルブ410と、第2個別流路413での液体の逆流を防止する第2チェックバルブ411と、第1個別流路412および第2個別流路413の下流端に接続された集合流路414とを有している。このため、制御部4により第1電動バルブ404および第2電動バルブ408の両方が開かれると、原液および希釈液は、ミキシングバルブ409の集合流路414内を下流に流れながら互いに混ざり合う(流動混合工程)。これにより、原液(シクロヘキサノンオキシム溶液)が希釈液(IPA)で希釈され、所望濃度の処理液が作成される。
【0032】
ミキシングバルブ409の集合流路414は処理液配管641に接続されている。また、処理液配管641では、図5に示すように、処理液を撹拌するインラインミキサー415がバルブ642の上流側に介装されている。インラインミキサー415は処理液配管641に介装されたパイプ415pを有している。また、パイプ415p内には撹拌フィン415fが配置されている。撹拌フィン415fは液体の流通方向に延びる軸線まわりに捩れた構造を有している。このため、インラインミキサー415はスタティックミキサーとして機能する。つまり、処理液供給部400では、原液タンク401および希釈液タンク405から供給された原液および希釈液はミキシングバルブ409で混合され、その後、インラインミキサー415でさらに混合される。これにより、昇華性物質および溶媒が均一に混ざり合う。
【0033】
処理液供給部400は、処理液配管641から分岐した分岐配管416を含む。分岐配管416の上流端は、処理液配管641に接続されている。処理液配管641内の一部の処理液は、分岐配管416の上流端を通過し、ノズル53に供給される。一方、処理液配管641内の残りの処理液は、分岐配管416の上流端から分岐配管416内に流入する。分岐配管416の下流端は、補充タンク420に接続されている。分岐配管416の下流端は、他の処理ユニット1に設けられた処理液配管641に接続されていてもよいし、排液装置(図示省略)に接続されていてもよい。
【0034】
処理液供給部400は、処理液配管641から分岐配管416に流れる処理液の流量を変更する流量調整バルブ418を備えていてもよい。流量調整バルブ418は制御部4により開度調整可能となっている。このため、処理液配管641から分岐配管416に流れる処理液の流量は、流量調整バルブ418の開度に応じて変更される。処理液供給部400は、流量調整バルブ418に代えて、直径が分岐配管416の内径よりも小さい孔が形成されたオリフィス板を備えていてもよい。この場合、処理液は、オリフィス板の孔の面積に応じた流量で、処理液配管641から分岐配管416に流れる。
【0035】
処理液供給部400は、処理液における昇華性物質の濃度を測定する溶液濃度計417を備えている。図5では、溶液濃度計417は分岐配管416に介装されている。ただし、溶液濃度計417の配設位置はこれに限定されるものではなく、ミキシングバルブ409の下流であれば、任意である。例えば溶液濃度計417をインラインミキサー415の上流または下流に配置してもよいし、ノズル53に配置してもよい。もしくは、ノズル53から吐出された処理液の濃度を、溶液濃度計417に測定させてもよい。
【0036】
溶液濃度計417は、光学濃度計である。溶液濃度計417は、光学濃度計以外の濃度計であってもよい。制御部4は溶液濃度計417の検出値に基づいて原液および希釈液の混合比、つまり、原液に対する希釈液の割合を変更する。具体的には、制御部4は、溶液濃度計417の検出値に基づいて第1電動バルブ404および第2電動バルブ408の少なくとも一方の開度を変更する。これにより、処理液に含まれる昇華性物質の割合が増加または減少し、処理液中における昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)の濃度が設定濃度範囲内の値に調整される。なお、濃度範囲については後で詳述する。
【0037】
処理液供給部400は、原液タンク401内に供給される補充液を貯留する補充タンク420を備えていてもよい。補充タンク420は、補充配管421によって原液タンク401に接続されている。補充タンク420内の補充液は、補充配管421に介装された補充ポンプ422によって原液タンク401に送られる。補充液はシクロヘキサノンオキシム溶液である。補充液における昇華性物質の濃度は、原液における昇華性物質の濃度よりも低い。
【0038】
処理液供給部400は、補充タンク420内に溶媒(IPA)を供給する溶媒配管423と、溶媒配管423の内部を開閉する溶媒バルブ424とを備えている。処理液供給部400は、さらに、補充タンク420内の補充液を循環させる循環配管425と、補充タンク420内の補充液を循環配管425に送る循環ポンプ426と、循環配管425内の補充液における昇華性物質の濃度を測定する循環濃度計427とを備えている。循環配管425の上流端および下流端は、補充タンク420に接続されている。
【0039】
処理液配管641から分岐した分岐配管416の下流端は、補充タンク420に接続されている。処理液配管641内を流れる処理液は、分岐配管416を介して補充タンク420に供給され、補充タンク420内の補充液と混ざる。処理液の濃度は、原液における昇華性物質の濃度よりも低い。補充タンク420内の補充液における昇華性物質は、循環濃度計427によって検出される。補充液における昇華性物質の濃度が基準濃度より高い場合、制御部4は、溶媒バルブ424を開き、溶媒(IPA)を補充タンク420内に供給する。これにより、補充液における昇華性物質の濃度が低下し、基準濃度に調整される。
【0040】
原液タンク401内の原液には、昇華性物質と溶媒とが含まれる。溶媒が原液から蒸発すると、原液における昇華性物質の濃度が上昇し、昇華性物質が析出するかもしれない。この場合、第1個別配管402の上流端が昇華性物質の固体で詰まり、原液が第1個別配管402を流れないもしくは殆ど流れなくなる可能性がある。補充タンク420内の補充液を原液タンク401に供給すれば、原液における昇華性物質の濃度を飽和濃度未満に維持することができ、昇華性物質の析出を防止できる。
【0041】
補充タンク420から原液タンク401への補充液の供給は、定期的に行われてもよいし、原液タンク401内の原液が第1個別配管402に送られた回数に応じて行われてもよい。もしくは、原液タンク401内の原液における昇華性物質の濃度を濃度計で測定し、濃度計の検出値に応じて補充タンク420から原液タンク401に補充液を供給してもよい。いずれの場合も、原液タンク401内の原液が補充液で薄まるので、第1個別配管402の上流端が昇華性物質の固体で詰まることを防止できる。
【0042】
図3に戻って説明を続ける。制御部4からの開閉指令に応じてバルブ642が開かれると、処理液供給ユニット64から供給される処理液(所望濃度に調整されたシクロヘキサノンオキシム溶液)は処理液がノズル53に供給され、吐出口53aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。
【0043】
気体供給ユニット65は、ノズル53に接続された気体供給配管651と、気体供給配管651を開閉するバルブ652とを有している。気体供給配管651は気体の供給源と接続されている。本実施形態では、気体として除湿された窒素ガスが用いられており、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ652が開かれると、窒素ガスがノズル53に供給され、吐出口53aから基板Wの表面中央部に向けて吹き付けられる。なお、気体としては、窒素ガス以外に、除湿されたアルゴンガスなどの不活性ガスを用いてもよい。
【0044】
処理ユニット1では、スピンチャック3を取り囲むように、排気桶80が設けられている。また、スピンチャック3と排気桶80との間に配置された複数のカップ81,82(第1カップ81および第2カップ82)と、基板Wの周囲に飛散した処理液を受け止める複数のガード84~86(第1ガード84~第3ガード86)とが設けられている。また、ガード84~86に対してガード昇降駆動機構87~89(第1~第3ガード昇降駆動機構87~89)がそれぞれ連結されている。ガード昇降駆動機構87~89はそれぞれ制御部4からの昇降指令に応じてガード84~86を独立して昇降する。なお、第1ガード昇降駆動機構87の図3への図示は省略されている。
【0045】
制御部4は、CPU等の演算ユニット、固定メモリデバイス、ハードディスクドライブ等の記憶ユニット、および入出力ユニットを有している。記憶ユニットには、演算ユニットが実行するプログラムが記憶されている。そして、制御部4は上記プログラムにしたがって装置各部を制御することで、次に説明する処理液を用いて図6に示す基板処理を実行する。以下、処理液の詳細と、基板処理方法とについて順番に詳述する。
【0046】
<<処理液>>
次に、本実施形態で用いる処理液について、以下に説明する。本実施形態の処理液は、シクロヘキサノンオキシムと、溶媒とを少なくとも含む。本実施形態の処理液は、基板のパターン形成面に存在する液体を除去するための乾燥処理において、当該乾燥処理を補助する機能を果たす。
【0047】
シクロヘキサノンオキシムは以下の化学式(1)で表され、本実施形態の処理液では昇華性物質として機能することができる。
【0048】
【化1】
【0049】
また、シクロヘキサノンオキシムは、凝固点が90.5℃、沸点が210℃、蒸気圧が0.00717Torr~251.458Torr(0.96Pa~33.52kPa)、融解エントロピーΔSが30.0J/mol・K、n-オクタノール/水分配係数が+1.2の物性値を有する。シクロヘキサノンオキシムが有する凝固点であると、パターン形成面における狭所での凝固点降下による凝固(凍結)不良を防止することができる。また、凝固させる際の冷媒を不要にすることができる。
【0050】
シクロヘキサノンオキシムは、処理液中において、溶媒に溶解した状態で存在するのが好ましい。
【0051】
シクロヘキサノンオキシムの含有量は、例えば、処理液を基板のパターン形成面上に供給する際の供給条件等に応じて適宜設定され得るものであるが、処理液の全体積に対し0.1体積%以上10体積%以下であることが好ましく、1.25体積%以上5体積%以下であることがより好ましく、2体積%以上4体積%以下であることが特に好ましい。シクロヘキサノンオキシムの含有量を0.1体積%以上にすることにより、微細かつアスペクト比が大きいパターンを備えた基板に対しても、部分的又は局所的な領域におけるパターンの倒壊を一層良好に抑制することができる。その一方、シクロヘキサノンオキシムの含有量を10体積%以下にすることにより、常温での溶媒に対するシクロヘキサノンオキシムの溶解性を良好にし、均一に溶解させることが可能になる。また、本明細書において「溶解性」とは、シクロヘキサノンオキシムが例えば23℃の溶媒100gに対し、10g以上溶解することを意味する。
【0052】
前記溶媒は、シクロヘキサノンオキシムを溶解させる溶媒として機能することができる。前記溶媒は、具体的には、アルコール類、ケトン類、エーテル類、シクロアルカン類及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0053】
前記アルコール類としては特に限定されず、例えば、メチルアルコール(融点:-98℃、n-オクタノール/水分配係数:-0.82~-0.66)、エチルアルコール(融点:-117℃、n-オクタノール/水分配係数:-0.32)、イソプロピルアルコール(融点:-90℃、n-オクタノール/水分配係数:+0.05)、n-ブチルアルコール(融点:-90℃、n-オクタノール/水分配係数:+0.88)、tert-ブチルアルコール(融点:25℃、n-オクタノール/水分配係数:+0.3)、シクロヘキサノール(融点:23℃~25℃、n-オクタノール/水分配係数:+1.2)等が挙げられる。
【0054】
前記ケトン類としては特に限定されず、例えば、アセトン(融点:-95℃、n-オクタノール/水分配係数:-0.24)等が挙げられる。
【0055】
前記エーテル類としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(融点:-87℃、n-オクタノール/水分配係数:+0.43)等が挙げられる。
【0056】
前記シクロアルカン類としては特に限定されず、例えば、シクロヘキサン(融点:7℃、n-オクタノール/水分配係数:+3.4)等が挙げられる。
【0057】
前記水としては特に限定されず、例えば、純水等が挙げられる。
【0058】
例示した溶媒は全て、それぞれ単独でシクロヘキサノンオキシムと組み合わせて用いることが可能である。また、例示した溶媒の2種以上と、シクロヘキサノンオキシムとを組み合わせて用いることも可能である。
【0059】
また前記溶媒は、シクロヘキサノンオキシムが良好な溶解性を示すものであることが好ましい。
【0060】
さらに、例示した溶媒のうち、部分的又は局所的な領域でのパターン倒壊を良好に抑制できるとの観点からは、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0061】
前記溶媒のn-オクタノール/水分配係数は、-0.85~+1.5の範囲が好ましく、-0.82~+1.2の範囲がより好ましく、0~+1.2の範囲が特に好ましい。
【0062】
前記溶媒の蒸気圧は、常温において500Pa以上であることが好ましく、1000Pa以上であることがより好ましく、5000Pa以上であることが特に好ましい。前述のシクロヘキサノンオキシムの蒸気圧との差が大きい程、シクロヘキサノンオキシムが低濃度の場合でも固化膜の成膜を可能にする。その結果、処理コストの削減及び残渣の低減を図ることができる。尚、蒸気圧による配管等への負荷軽減の観点からは、溶媒の蒸気圧は10KPa以下に設定するのが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る処理液の製造方法は特に限定されず、例えば、常温・大気圧下において、一定の含有量となるようにシクロヘキサノンオキシムの結晶物を溶媒に添加する方法等が挙げられる。尚、「大気圧下」とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧以上1.3気圧以下の環境のことを意味する。
【0064】
処理液の製造方法においては、溶媒にシクロヘキサノンオキシムの結晶物を添加した後に、濾過を行ってもよい。これにより、処理液を基板のパターン形成面上に供給して、液体の除去に用いた際に、当該パターン形成面上に処理液由来の残渣が発生するのを低減又は防止することができる。濾過方法としては特に限定されず、例えば、フィルター濾過等を採用することができる。
【0065】
本実施形態の処理液は常温での保管が可能である。但し、溶媒の蒸発に起因してシクロヘキサノンオキシムの濃度が変化するのを抑制するとの観点からは、低温(例えば、5℃程度)で保管しておくのが好ましい。低温で保管されている処理液を使用する際には、結露による水分の混入を防止するとの観点から、処理液の液温を使用温度又は室温等にした後に使用するのが好ましい。
【0066】
<<基板処理方法>>
次に、図1に示す基板処理装置100を用いた基板処理方法について図6を参照しつつ説明する。図6図1の基板処理装置で実行される基板処理の内容を示す図である。同図(および後で説明する図7図8)では、左側に一の処理ユニット1で実行される基板処理のフローチャートが示されている。また、右側上段、右側中段および右側下段にそれぞれ液膜形成工程、固化膜形成工程および昇華工程が模式的に図示されるとともに、基板Wの表面Wfの一部を拡大して図示している。ただし、理解容易の目的で、必要に応じて各部の寸法や数などを誇張または簡略化して描いている。
【0067】
基板処理装置100における処理対象は、例えばシリコンウエハであり、パターン形成面である表面Wfに凹凸状のパターンPTが形成されている。本実施形態において、凸部PT1は100~600nmの範囲の高さであり、5~50nmの範囲の幅を有している。また、隣接する2個の凸部PT1の最短距離(凹部の最短幅)は、5~150nmの範囲である。凸部PT1のアスペクト比、即ち高さを幅で除算した値(高さH/幅WD)は、5~35である。
【0068】
また、パターンPTは、微細なトレンチにより形成されたライン状のパターンが繰り返し並ぶものであってもよい。また、パターンPTは、薄膜に、複数の微細穴(ボイド(void)またはポア(pore))を設けることにより形成されていてもよい。パターンPTは、たとえば絶縁膜を含む。また、パターンPTは導体膜を含んでいてもよい。より具体的には、パターンPTは、複数の膜を積層した積層膜により形成されており、さらには、絶縁膜と導体膜とを含んでいてもよい。パターンPTは単層膜で構成されるパターンであってもよい。絶縁膜はシリコン酸化膜やシリコン窒化膜であってもよい。また、導体膜は、低抵抗化のための不純物を導入したアモルファスシリコン膜であってもよいし、金属膜(例えばTiN膜)であってもよい。また、パターンPTは、フロントエンドで形成されたものであってもよいし、バックエンドで形成されたものであってもよい。さらに、パターンPTは、疎水性膜であってもよいし、親水性膜であってもよい。親水性膜として例えばTEOS膜(シリコン酸化膜の一種)が含まれる。
【0069】
また、図6に示す各工程は、特に明示しないかぎり、大気圧環境下で処理される。ここで、大気圧環境とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧以上1.3気圧以下の環境のことを指す。特に、基板処理装置100が陽圧となるクリーンルーム内に配置される場合には、基板Wの表面Wfの環境は、1気圧よりも高くなる。
【0070】
未処理の基板Wが処理ユニット1に搬入される前においては、制御部4が装置各部に指令を与えて処理ユニット1は初期状態にセットされる。すなわち、シャッター開閉機構22によりシャッター23(図1図2)は閉じられている。基板回転駆動機構34によりスピンチャック3は基板Wのローディングに適した位置に位置決め停止されるとともに、図示しないチャック開閉機構によりチャックピン31は開状態となっている。遮断板51は遮断板昇降駆動機構56により退避位置に位置決めされるとともに、遮断板回転駆動機構55による遮断板51の回転は停止されている。ガード84~86はいずれも下方に移動して位置決めされている。さらに、バルブ612、622、632、642、652はいずれも閉じられている。
【0071】
未処理の基板Wが基板搬送ロボット111により搬送されてくると、シャッター23が開く。シャッター23の開成に合わせて基板Wは基板搬送ロボット111によりチャンバ2の内部空間21に搬入され、表面Wfを上方に向けた状態でスピンチャック3に受け渡される。そして、チャックピン31が閉状態となり、基板Wはスピンチャック3に保持される(ステップS1:基板の搬入)。
【0072】
基板Wの搬入に続いて、基板搬送ロボット111がチャンバ2の外に退避し、さらにシャッター23が再び閉じた後、制御部4は基板回転駆動機構34のモータを制御してスピンチャック3の回転速度(回転数)を、所定の処理速度(約10~3000rpmの範囲内で、例えば800~1200rpm)まで上昇させ、その処理速度に維持させる。また、制御部4は、遮断板昇降駆動機構56を制御して、遮断板51を退避位置から下降させて遮断位置に配置する(ステップS2)。また、制御部4は、ガード昇降駆動機構87~89を制御して第1ガード84~第3ガード86を上位置に上昇させることにより、第1ガード84を基板Wの周端面に対向させる。
【0073】
基板Wの回転が処理速度に達すると、次いで、制御部4はバルブ612を開く。これにより、ノズル53の吐出口53aから薬液(本実施形態ではHF)が吐出され、基板Wの表面Wfに供給される。基板Wの表面Wf上では、HFが基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの周縁部に移動する。これにより、基板Wの表面Wfの全体がHFによる薬液洗浄を受ける(ステップS3)。このとき、基板Wの周縁部に達したHFは基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、第1ガード84の内壁に受け止められ、図示を省略する排液経路に沿って機外の廃液処理設備に送られる。このHF供給による薬液洗浄は予め定められた洗浄時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ612を閉じて、ノズル53からのHFの吐出を停止する。
【0074】
薬液洗浄に続いて、リンス液(DIW)によるリンス処理が実行される(ステップS4)。このDIWリンスでは、制御部4は第1ガード84~第3ガード86の位置を維持しながら、バルブ622を開く。これにより、薬液洗浄処理を受けた基板Wの表面Wfの中央部に対してノズル53の吐出口53aからDIWがリンス液として供給される。すると、DIWが基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの周縁部に移動する。これにより、基板W上に付着しているHFがDIWによって洗い流される。このとき、基板Wの周縁部から排出されたDIWは、基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、HFと同様にして機外の廃液処理設備に送られる。このDIWリンスは予め定められたリンス時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ622を閉じて、ノズル53からのDIWの吐出を停止する。
【0075】
DIWリンスの完了後、DIWよりも表面張力の低い有機溶剤(本実施形態ではIPA)による置換処理が実行される(ステップS5)。IPA置換では、制御部4は、ガード昇降駆動機構87、88を制御して第1ガード84および第2ガード85を下位置に下降させることにより、第3ガード86を基板Wの周端面に対向させる。そして、制御部4は、バルブ632を開く。それにより、DIWが付着している基板Wの表面Wfの中央部に向けてノズル53の吐出口53aからIPAが低表面張力液体として吐出される。基板Wの表面Wfに供給されたIPAは、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの表面Wfの全域に広がる。これにより、基板Wの表面Wfの全域において、当該表面Wfに付着しているDIW(リンス液)がIPAによって置換される。なお、基板Wの表面Wfを移動するIPAは、基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、第3ガード86の内壁に受け止められ、図示を省略する回収経路に沿って回収設備に送られる。このIPA置換は予め定められた置換時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ632を閉じて、ノズル53からのIPAの吐出を停止する。
【0076】
IPA置換の次に、本発明の基板処理方法の第1実施形態に相当する昇華乾燥工程(ステップS6)が実行される。この昇華乾燥工程は、処理液の液膜を形成する液膜形成工程(ステップS6-1)と、処理液の液膜を固化させてシクロヘキサノンオキシムの固化膜を形成する固化膜形成工程(ステップS6-2)と、固化膜を昇華させて基板Wの表面Wfから除去する昇華工程(ステップS6-3)と、を備えている。
【0077】
ステップS6-1では、制御部4は、第2ガード昇降駆動機構88を制御して第2ガード85を上位置に上昇させることにより、第2ガード85を基板Wの周端面に対向させる。そして、制御部4は、バルブ642を開く。それにより、図6の右上段に示すように、IPAが付着している基板Wの表面Wfの中央部に向けてノズル53の吐出口53aから処理液(シクロヘキサノンオキシム溶液)が乾燥補助液として吐出され、基板Wの表面Wfに供給される。基板Wの表面Wf上の処理液は、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの表面Wfの全域に広がる。これにより、基板Wの表面Wfの全域において、当該表面Wfに付着しているIPAが処理液によって置換され、図6の右上段の図面に示すように表面Wfに処理液の液膜LFが形成される。液膜LFの厚みは凸部PT1の高さよりも大きく、液膜LF中にパターンPT全体が浸漬している。また、処理液に含まれるシクロヘキサノンオキシムの濃度、凸部PT1の高さやアスペクト比に応じて基板Wの回転速度を300rpm~3000rpmの範囲内で適宜変更して液膜LFの厚みを調整するのが望ましい。例えば液膜LFを厚く設定したい場合には回転速度を低く設定すればよく、逆に液膜LFを薄く設定したい場合には回転速度を低く設定すればよい。こうして、所望の膜厚を有する液膜LFが形成されると、制御部4はバルブ642を閉じて、ノズル53からの処理液の吐出を停止する。
【0078】
次のステップS6-2では、制御部4はバルブ652を開く。それにより、図6の右中段に示すように、除湿された窒素ガスが処理液の液膜LFで覆われた状態で回転している基板Wの表面Wfに向けて吐出される。本実施形態では、基板Wを回転させることで処理液中の溶媒成分、つまりIPAの蒸発が促進される。それに伴い、処理液中の溶質成分、つまりシクロヘキサノンオキシムの濃度が上昇することで溶媒(IPA)の飽和濃度を超過する(または気化熱が奪われる)。これにより、処理液の液膜LFに含まれる昇華性物質であるシクロヘキサノンオキシムが析出して基板Wの表面Wfに固体状の固化膜SFが形成される。また、基板Wの回転と並行して窒素ガスを吹き付けて固化膜SFの析出促進を図っている。ここで、バルブ652を開くタイミング、つまり窒素ガスの吐出開始タイミングについてはシクロヘキサノンオキシムの析出開始前でも析出開始後であってもよい。また、窒素ガスの吐出はシクロヘキサノンオキシムの固化膜を形成するための必須構成ではないが、スループットの向上を図るためには窒素ガスの吐出を併用するのが望ましい。
【0079】
次いで、制御部4は昇華工程を実行する(ステップS6-3)。制御部4は、第2ガード昇降駆動機構88を制御して第2ガード85を下位置に下降させることにより、第3ガード86を基板Wの周端面に対向させる。なお、本実施形態では、制御部4は基板Wの回転速度を固化膜SFの形成工程(ステップS6-2)から継続させているが、高速度まで加速させてもよい。また、制御部4は、遮断板回転駆動機構55を制御して、遮断板51を基板Wの回転と同方向に同等の速度で回転させる。基板Wの回転に伴って、固化膜SFと、その周囲の雰囲気との接触速度が増大する。これにより、固化膜SFの昇華を促進させることができ、短期間のうちに固化膜SFを昇華させることができる。ただし、遮断板51の回転は昇華工程の必須構成ではなく、任意構成である。
【0080】
また、昇華工程S6-3においては、制御部4は固化膜SFの形成から継続してバルブ652を開いた状態を維持し、図6の右下段に示すように、回転状態の基板Wの表面Wfの中央部に向けてノズル53の吐出口53aから除湿された窒素ガスが吐出される。これにより、基板Wの表面Wfと遮断板51の基板対向面51aとに挟まれた遮断空間を低湿度状態に保ちながら、昇華工程を行うことが可能となっている。この昇華工程S6-3では、固化膜SFの昇華に伴って昇華熱が奪われ、固化膜SFがシクロヘキサノンオキシムの凝固点(融点)以下に維持される。そのため、固化膜SFを構成する昇華性物質、つまりシクロヘキサノンオキシムが融解することを効果的に防止できる。これにより、基板Wの表面WfのパターンPTの間に液相が存在しないので、パターンPTの倒壊の問題を緩和しながら、基板Wを乾燥させることができる。
【0081】
昇華乾燥工程S6の開始から予め定める昇華時間が経過すると、ステップS7において、制御部4は基板回転駆動機構34のモータを制御してスピンチャック3の回転を停止させる。また、制御部4は、遮断板回転駆動機構55を制御して遮断板51の回転を停止させるとともに、遮断板昇降駆動機構56を制御して遮断板51を遮断位置から上昇させて退避位置に位置決めする。さらに、制御部4は、第3ガード昇降駆動機構89を制御して、第3ガード86に下降させて、全てのガード86~88を基板Wの周端面から下方に退避させる。
【0082】
その後、制御部4がシャッター開閉機構22を制御してシャッター23(図1図2)を開いた後で、基板搬送ロボット111がチャンバ2の内部空間に進入して、チャックピン31による保持が解除された処理済みの基板Wをチャンバ2外へと搬出する(ステップS8)。なお、基板Wの搬出が完了して基板搬送ロボット111が処理ユニット1から離れると、制御部4はシャッター開閉機構22を制御してシャッター23を閉じる。
【0083】
以上のように、本実施形態では、基板Wの表面Wfに付着したIPAを、昇華性物質のひとつであるシクロヘキサノンオキシムが溶媒に溶解した処理液に置換して液膜LFを形成する。次いでシクロヘキサノンオキシムを析出させてシクロヘキサノンオキシムの固化膜SFを形成した後で、これを昇華している。つまり、固化膜SFは液体状態を経由することなく、基板Wの表面Wfから除去される。したがって、本実施形態に係る基板処理方法を用いることで、パターンPTの倒壊を防止しつつ基板Wを乾燥させることが可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、ミキシングバルブ409に対し、第1個別配管402により原液タンク401を接続するとともに、第2個別配管406により希釈液タンク405を接続している。そして、原液タンク401から処理液の原液(シクロヘキサノンオキシム溶液)と、希釈液タンク405から希釈液(IPA)とをミキシングバルブ409に供給して混合させることで処理液の濃度を調整している。したがって、ベンダーから提供された高価な原液を希釈し、後で詳しく説明するように基板Wの種類や回転数などの基板処理条件に適した濃度に調整することができる。また、補充タンク420に貯留される処理液や原液の濃度が多少変動したとしても、処理液中の昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)の濃度を安定させることができ、基板Wを良好に乾燥させることができる。
【0085】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、図6の右中段に示すように、遮断板51を遮断位置に位置決めさせた状態でノズル53の吐出口53aから窒素ガスを基板Wの表面Wfの中央部に向けて吹き付けて液膜LF全体を固化させている。このため、表面Wfの中央部およびその周囲では、除湿された窒素ガスが直接供給されて固化処理の進行は比較的早い。これに対し、中央部から基板Wの径方向に離れるにしたがって窒素ガス中に溶媒(IPA)の蒸気量が増大する。その結果、液膜LF周縁部での固化速度は中央部でのそれに比べて遅くなり、基板Wの表面Wf全体での均一な固化が難しい場合がある。そこで、基板Wの表面Wfに向けての窒素ガスの吐出については、専用の窒素ガスノズルで行ってもよい(第2実施形態)。
【0086】
図7は本発明に係る基板処理方法の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違している点は、除湿された窒素ガスを基板Wの表面Wfに向けて吐出する専用のノズル7が設けられ、当該ノズル7を用いて固化膜形成工程(ステップS6-2)および昇華工程(ステップS6-3)を実行している点である。すなわち、基板の搬入(ステップS1)から処理液の液膜形成(ステップS6-1)までは第1実施形態と同様にして行われる。
【0087】
一方、液膜LFが形成されると、図7に示すように、遮断板51が遮断位置から退避位置に上昇される(ステップS6-4)。これにより、スピンチャック3に保持されている基板Wの表面Wfと遮断板51との間にノズル7が水平方向に走査するのに十分な空間が形成される。この後で、同図の右中段に示すように、回転している基板Wの表面Wfに沿ってノズル7を走査させながらノズル7の下端に設けられた吐出口71から除湿された窒素ガスを基板Wの表面Wfに向けて吐出する。ここで、ノズル7の走査経路としては、例えば基板Wの中央部の直上位置から基板Wの径方向に向かう経路を採用することができる。また、当該経路を往復走査しながらノズル7から窒素ガスの連続的に吐出させてもよい。これにより、基板Wの表面Wfの各部に対して除湿された窒素ガスが直接供給される。その結果、第1実施形態に比べ、基板Wの表面Wf全体にわたって固化膜SFを高い均一性で形成することができる(ステップS6-5)。また、昇華工程(ステップS6-6)も表面Wf全体にわたって高い均一性で実行することができる。
【0088】
こうした昇華乾燥工程(ステップS6(=S6-1、S6-4、S6-5、S6-6))を行うことで、パターンPTの倒壊をさらに効果的に防止しつつ基板Wの昇華乾燥を行うことができる。その後において、第1実施形態と同様にして、基板回転の停止(ステップS7)および基板の搬出(ステップS8)が実行される。
【0089】
<第3実施形態>
上記第1実施形態では、昇華乾燥工程(ステップS6)の全部において遮断板51を利用している。また、上記第2実施形態では、昇華乾燥工程(ステップS6)の一部、つまり処理液の液膜形成(ステップS6-1)において遮断板51を利用している。しかしながら、昇華乾燥工程(ステップS6)の実行において遮断板51は必須の構成ではなく、例えば遮断板51を利用しないで昇華乾燥工程(ステップS6)の全部を実行してもよい(第3実施形態)。
【0090】
図8は本発明に係る基板処理方法の第3実施形態で実行される基板処理の内容を示す図である。第3実施形態では、図1に示す処理ユニット1に対し、第2実施形態と同様に窒素ガス吐出用のノズル7を設けるとともに、処理液を吐出する処理液吐出用ノズル8を設け、以下の工程を実行する。
【0091】
第3実施形態では、基板の搬入(ステップS1)からIPA置換(ステップS5)までは第1実施形態や第2実施形態と同様にして行われる。一方、IPA置換が完了すると、次に説明する昇華乾燥工程(ステップS6)が実行される。まず、遮断板51が遮断位置から退避位置に上昇される(ステップS6-7)。それに続いて、遮断板51を退避位置に位置決めしたまま、スピンチャック3に保持されている基板Wの表面Wfと遮断板51との間に形成される空間を処理液吐出用ノズル8が移動し、基板Wの中央部の直上位置に位置決めされる。この処理液吐出用ノズル8は処理液配管641と接続されている。そして、回転している基板Wの表面Wfに向けて処理液吐出用ノズル8から処理液が吐出される。これによって、処理液の液膜LFが基板Wの表面Wfに形成される(ステップS6-8)。また、それ以降は第2実施形態と同様にして固化膜SFが形成された(ステップS6-5)後、当該固化膜SFが昇華除去される(ステップS6-6)。
【0092】
<第4実施形態>
上記第1実施形態ないし第3実施形態では、基板Wの回転速度(回転数)を一定に維持しながら固化膜形成工程(ステップS6-2、S6-5)を実行しているが、固化膜形成工程において基板Wの回転速度を一時的に低下させることでパターンPTに昇華性物質を充填する充填処理(dwell)を固化処理と併せて行ってもよい(第4実施形態)。
【0093】
図9は本発明に係る基板処理方法の第4実施形態で実行される基板処理のタイミングチャートである。同図における「処理液」、「基板の回転速度」および「N2ガス」はそれぞれ処理液の吐出タイミング、基板Wの回転速度の変化および窒素ガスの吐出タイミングを示している。この第4実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、固化膜形成工程(ステップS6-2)に充填処理(ステップS6-2a)が含まれている点であり、その他の構成は基本的に第1実施形態と同一である。そこで、以下においては相違点を中心に説明し、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0094】
第4実施形態では、同図に示すように、例えば300rpmで回転する基板Wの表面Wfに処理液が吐出されて処理液の液膜LFが形成される(液膜形成工程:ステップS6-
1)。液膜形成工程が完了したタイミングt1で制御部4はバルブ642を閉じてノズル53からの処理液の吐出を停止した上で500rpmまで回転速度を上げ、所定時間(例えば2秒間)維持することで、余分な処理液が基板Wから振り切られる。なお、ステップS6-1の液膜形成工程において、処理液吐出時の基板Wの回転速度を500rpmにした上で、処理液の吐出が停止しても、基板Wの回転速度についてはそのまま維持してもよい。
【0095】
それに続いて、制御部4は基板回転駆動機構34のモータを制御して充填処理に適した回転速度(本実施形態では100rpm)まで減速させ(タイミングt3)、その回転速度をタイミングt4まで維持させる。このように基板Wを低速回転させる間(タイミングt3~t4)に、処理液のレベリングが起こり、液膜LFの厚みが基板Wの表面Wf全体にわたって均一化される。そのために、昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)の析出と同時にパターンPTに昇華性物質が基板Wの表面Wf全体に均等に入り込む。しかも、低回転であるため、蒸発した溶媒成分(本施形態ではIPA蒸発)は基板Wの表面Wfの上方で均一に貯まりやすく、液膜LFからの溶媒成分の蒸発速度は基板Wの表面Wf内で均一になる。こうして昇華性物質の充填処理(ステップS6-2a)が完了したタイミングt4で制御部4は基板回転駆動機構34のモータを制御して時間(=t5-t4)をかけて回転速度を上昇させて固化を促進させる。また、増速している間に制御部4はバルブ652を開き、固化直前に窒素ガスを液膜LFに向けて吐出する。これによって、基板Wの表面Wf全体が一気に固化される。それに続いて、昇華工程(ステップS6-3)が実行される。
【0096】
以上のように、第4実施形態では、固化膜形成工程において充填処理を含まれているため、基板Wの面内での固化時間のバラツキを抑え、パターンPTに対して昇華性物質をより均一に結晶成長させることができる。
【0097】
また、本実施形態においては、遮断板51を下降させて遮断位置に配置させた状態で昇華性物質の充填処理(ステップS6-2a)を行っている。このため、基板Wの表面Wfにおいて溶媒成分の雰囲気を均一に形成することができ、基板Wの面内での固化時間のバラツキをさらに良好に抑えることができる。その結果、種々の基板処理条件においてパターンPTの倒壊を防止しつつ基板Wをさらに良好に乾燥させることができる。
【0098】
なお、第4実施形態では、昇華性物質の充填処理(ステップS6-2a)後に、回転速度の上昇と窒素ガスの吐出とを並行して行っているが、回転速度の上昇前後に窒素ガスの吐出を開始してもよい。また、基板Wを低速回転させる時間(=t4-t5)については、例えば15秒ないし35秒に設定してもよく、さらには20秒ないし30秒が望ましい。
【0099】
また、充填処理を行う場合、パターンPTの間に充填された昇華性物質が完全に固化する前に、昇華工程(ステップS6-3)を開始してもよい。つまり、昇華性物質の固体が結晶化する前の結晶前遷移状態に維持されながら昇華されてもよい。これにより、昇華性物質の固体が結晶化された状態を経由することなく基板Wの表面Wfから除去される。したがって、昇華性物質の固体の結晶化に起因する応力の影響を低減して、基板W上のパターンPTの倒壊をさらに効果的に減らすことができる。
【0100】
さらに、第4実施形態では、第1実施形態の固化膜形成工程(ステップS6-2)に充填処理(ステップS6-2a)を含ませているが、第2実施形態や第3実施形態の固化膜形成工程(ステップS6-5)に上記充填処理を含ませてもよい。
【0101】
<第5実施形態>
上記第1実施形態ないし第4実施形態では雰囲気遮断機構5を利用しているが、本発明に係る基板処理方法を適用する上で基板処理装置が雰囲気遮断機構5を装備することが必須というわけではない。すなわち、雰囲気遮断機構5を装備していない基板処理装置に対しても本発明を適用することができる。
【0102】
上記したように、ステップS6-1が本発明の「液膜形成工程」の一例に相当し、ステップS6-2、S6-5が本発明の「固化膜形成工程」の一例に相当し、ステップS6-3、S6-6が本発明の「昇華工程」の一例に相当している。また、IPAが本発明の「溶媒」の一例に相当しているが、これに限定されるものではない。溶媒は、融解状態のシクロヘキサノンオキシムを混合させる場合には、当該融解状態のシクロヘキサノンオキシムに対し相溶性を示すものが好ましい。また、溶質としてのシクロヘキサノンオキシムを溶解させる場合には、シクロヘキサノンオキシムに対し溶解性を示すものが好ましい。具体的には、例えば、純水、DIW、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、アルコール、ケトン、シクロアルカン及びエーテルからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、純水、DIW、メタノール、エタノール、IPA、ブタノール、n-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、NMP、DMF、DMA、DMSO、ヘキサン、トルエン、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、PGPE(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)、GBL、アセチルアセトン、3-ペンタノン、2-ヘプタノン、乳酸エチル、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、及びm-キシレンヘキサフルオライド、シクロヘキサンからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0103】
また、上記実施形態において、原液タンク401および希釈液タンク405がそれぞれ本発明の「処理液貯留部」および「溶媒貯留部」の一例に相当している。また、第1個別配管402および第2個別配管406がそれぞれ本発明の「第1配管」および「第2配管」の一例に相当している。また、ミキシングバルブ409が本発明の「混合部材」の一例に相当している。さらに、原液タンク401に貯留された原液が本発明の「前記溶媒と同じ溶媒に対してシクロヘキサノンオキシムが溶けた処理液」に相当し、ミキシングバルブ409の集合流路414から処理液配管641を介して送液される処理液が本発明の「濃度調整済の処理液」に相当している。
【0104】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、固化膜形成工程(ステップS6-2、S6-5)が完了した後で昇華工程(ステップS6-3、S6-6)を実行しているが、両者を一部重複させてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、固化膜形成工程(ステップS6-2、S6-5)において処理液を固化させるために基板Wを回転させるとともに当該基板Wの表面Wfに向けて窒素ガスを吐出しているが、さらに基板Wの裏面Wb(図1)に対して温度調整されたDIWなどの媒体を供給して固化を促進させるように構成してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、ミキシングバルブ409を用いて原液と希釈液とを混合させて処理液中における昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)の濃度を調整しているが、希釈液タンク405から配管(本発明の「第3配管」の一例に相当)を介して溶媒を原液タンク401に供給してもよい。つまり、原液タンク401内で濃度調整を行い、濃度調整済の処理液を原液タンク401から処理液配管641を介してノズルに送液するように構成してもよい。
【実施例
【0107】
以下、本発明の好ましい態様について、実施例を参照しつつより具体的に説明する。ただし、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではない。したがって、前後記の趣旨に適合しうる範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0108】
<濃度と回転速度との関係>
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品を製造するにあたって、シリコンウエハなどの基板の表面に高アスペクト比のパターンを製造する必要が生じている。しかしながら、当該パターンが形成された基板を良好に乾燥させることが難しくなっている。そこで、高アスペクト比のパターンを有する基板の一例として、アスペクト比が18.4であるパターンを有する基板(以下「基板A」という)を準備して以下の検証を行った。
【0109】
まず、特許文献1に記載の処理液、つまり昇華性物質(ショウノウ)をIPAに溶解させた処理液(以下「従来の処理液」という)を用いて図6に示す手順で基板処理した。ここでは、基板の回転速度と、処理液における昇華性物質の濃度(以下、単に「濃度」という)とをそれぞれ相違させながら種々組み合わせ(回転速度、濃度)にて昇華乾燥を行った。しかしながら、昇華乾燥後の基板Aについてパターンの倒壊率を調べたところ、いずれの組み合わせにおいても、100%あるいは100%近い倒壊率でパターンが倒壊していた。
【0110】
これに対し、上記実施形態で説明した処理液、つまり昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)をIPAに溶解させた処理液(以下「本願の処理液」という)を用いて図6に示す手順で基板処理したところ、ほぼゼロに近いパターン倒壊率で昇華乾燥を実行可能であることを確認した。ここで、シクロヘキサノンオキシムのIPAへの溶解度は10体積%程度であり、IPA中にシクロヘキサノンオキシムを均一に分散させるためには本願の処理液では、濃度を10体積%以下に設定するのが望ましい。そこで、濃度が1.25体積%、2.5体積%および5体積%である本願の処理液を準備し、昇華乾燥工程(ステップS6)における回転速度を500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、2500rpm、3000rpmの6段階に切り替えながら、昇華乾燥を行った。そして、各組み合わせにおけるパターン倒壊率を検証した。その結果は図10に示すとおりである。同図中の印「◎」はパターン倒壊率が1%未満であったことを示し、印「○」はパターン倒壊率が1%以上5%未満であったことを示し、印「△」はパターン倒壊率が5%以上20%未満であったことを示し、印「×」はパターン倒壊率が20%以上であったことを示している。
【0111】
図10から明らかなように、従来の処理液ではパターン倒壊を防ぐことができない程度までアスペクト比が高くなった基板Aについても本願の処理液を用いることで良好に乾燥させることができる。
【0112】
また、優れた結果が得られる範囲(図10においてドットを付した範囲)は濃度と回転速度と比例的な関係にある。つまり、パターン倒壊を効果的に抑制あるいは防止するためには、濃度の下降に伴って基板Aの回転速度を低く設定するのが望ましい。上記したようにシクロヘキサノンオキシムのIPAへの溶解度が10体積%程度であることから、濃度は10体積%以下に設定するのが望ましいが、昇華性物質(シクロヘキサノンオキシム)の使用量を抑えてランニングコストの低減を図るとともに基板Aの回転速度の低減を図るという観点から、濃度は5体積%以下に設定するのが望ましい。一方、濃度を下げることで処理液に含まれる昇華性物質の絶対量も低下する。そのため、良好な昇華乾燥を達成るためには、濃度を少なくとも0.1体積%以上に設定するのが望ましい。
【0113】
さらに、上記基板Aよりもさらにアスペクト比が高い基板、具体的にはアスペクト比が22.6であるパターンを有する基板(以下「基板B」という)を準備して上記と同様の実験を行ったところ、本願の処理液を用いることでパターン倒壊を抑制しつつ昇華乾燥することができることがわかった。特に、本願の処理液の濃度が0.76体積%で、かつ基板の回転速度が300rpmという組み合わせで図6に示す手順で基板処理した場合、パターン倒壊率を3.2%にまで抑えることができた。
【0114】
<基板の種類>
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品を製造するにあたっては、フロントエンドプロセスとバックエンドプロセスとが実行される。例えばLSI等の半導体装置では、フロントエンドプロセスによりシリコンウエハなどの基板の表面にFET(Field effect transistor)等の素子やキャパシタなどが形成される。微細化の進行に伴いフロントエンドプロセスでは、高アスペクト比のパターンが形成される。上記した基板Aや基板Bもフロントエンドプロセスで製造されるが、現状ではアスペクト比が35の基板が存在している。そこで、これらの基板について本願の処理液を用いたところ、パターン倒壊の発生を抑えつつ昇華乾燥を実行可能であった。
【0115】
また、バックエンドプロセスにより、フロントエンドプロセスを受けた基板の表面に複数の配線層などが形成される。上部層へ行くにつれて外部端子との接続を考慮して配線ピッチは広くなる。そのため、バックエンドプロセスで製造されるパターンのアスペクト比はフロントエンドプロセスに比べて小さく、現状では6~7程度である。しかしながら、近接する配線間の電気容量(配線間容量)を低下させるなどの技術的要望から、バックエンドプロセスでは低誘電率材料(LOW-K材料)で構成された層間絶縁層にパターンが形成される。例えばSiO2に炭素をドープしたSiOCが用いられる。当該SiOCはシリコンウエハなどと比べて硬度が低い。そのため、アスペクト比が比較的低いものの、パターン倒壊が大きな問題となっている。このような基板についても、本願の処理液を用いたところ、パターン倒壊の発生を抑えつつ昇華乾燥することができた。
【0116】
<基板の表面特性>
表面にパターンが形成された基板に対して湿式処理を施す場合、基板の表面に紫外光を照射するなどの親水化処理を施すことがある。これは基板の表面特性を親水性にすることでパターンの間に液体が入り込むのを容易とするためである。なお、ここでいう親水性とは、例えば接触角が30度以下であることをいう。
【0117】
その一方で、当該液体による湿式処理を行った後で昇華乾燥を行った場合には、基板の表面が親水性を有するが故にパターン倒壊が生じ易くなっている。事実、従来の処理液を用いて図6に示す手順で昇華乾燥を行うと、同一のパターンを有する基板において表面特性の違いによってパターン倒壊性能に差が生じた。つまり、表面特性が疎水性を有する基板に対してはパターン倒壊を発生させることなく良好に昇華乾燥することができた。これに対し、親水性を有する基板では、パターン倒壊を抑えることはできなかった。
【0118】
これに対し、本願の処理液を用いて上記実施形態に示す手順で基板処理を行うと、基板の表面が疎水性および親水性のいずれの場合も、パターン倒壊を抑制しながら基板処理することができた。すなわち、上記基板処理を用いることでパターンの倒壊を防止しつつ表面が親水性または疎水性を有している基板を良好に乾燥させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
この発明は、表面にパターンが形成された基板を処理する基板処理技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
LF…液膜
PT…パターン
SF…固化膜
W…基板
Wf…(基板の)表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10