(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ギヤの潤滑油量制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20231129BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20231129BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20231129BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/14
F16H57/04 Z
F16H61/02
(21)【出願番号】P 2020018568
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】飯島 克典
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃志
(72)【発明者】
【氏名】矢島 健一
(72)【発明者】
【氏名】本郷 謙二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-232435(JP,A)
【文献】特開2019-162949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を伝達するギヤに入力される入力トルクを取得するトルク取得手段と、
前記入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態である場合に、該高負荷運転状態の継続時間が所定の単位時間に達した回数、又は、該高負荷運転状態における前記ギヤの噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数を累積的にカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントされた累積回数に基づいて、前記ギヤの累積ダメージ度を求めるダメージ取得手段と、
前記ダメージ取得手段により求められた累積ダメージ度に基づいて、前記ギヤに供給する潤滑油の供給量を調節する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大することを特徴とするギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記入力トルクが前記所定トルクを超える高負荷運転状態であり、かつ、前記累積ダメージ度が前記所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大することを特徴とする請求項
1に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記累積ダメージ度が前記所定のしきい値を超えた場合に、前記累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量を増大することを特徴とする請求項1
又は2に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項4】
前記ダメージ取得手段は、ダメージ限界となる累積回数に対する前記累積回数の割合に応じて、前記累積ダメージ度を取得することを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項5】
前記カウント手段は、前記入力トルクの大きさ毎に分けて、前記累積回数をカウントすることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項6】
前記ダメージ取得手段は、前記入力トルクの大きさ毎にカウントされた前記累積回数それぞれと、前記入力トルクの大きさ毎に設定された重み付けとを乗算して得られる値を足し合わせて総累積回数を算出し、ダメージ限界となる累積回数に対する前記総累積回数の割合に応じて、前記累積ダメージ度を取得することを特徴とする請求項
5に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項7】
前記入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転の継続時間を計時する計時手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記累積ダメージ度が前記所定のしきい値を超えた場合に加え、前記高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大することを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、前記高負荷運転の継続時間が長くなるほど、潤滑油の供給量を増大することを特徴とする請求項
7に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項9】
オイルを昇圧して吐出するオイルポンプを備え、
前記制御手段は、潤滑油の供給量を増大する場合に、前記オイルポンプにより昇圧されたオイルを前記ギヤに供給するように開閉弁を駆動することを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項10】
潤滑油を溜めるキャッチタンクを備え、
前記制御手段は、潤滑油の供給量を増大する場合に、前記キャッチタンクに溜められた潤滑油を前記ギヤに供給するように開閉弁を駆動することを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【請求項11】
前記ギヤは、変速機を構成するギヤであることを特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載のギヤの潤滑油量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力を伝達するギヤの潤滑油量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに噛合するギヤ列(以下、単に「ギヤ」ということもある)を有して構成され、エンジンや電動モータなどのパワーユニットから入力されるトルクを変換して出力する変速機(例えば、無段変速機(CVT)、有段自動変速機(ステップAT)、手動変速機(MT)、DCT等)では、当該変速機を構成する複数のギヤの摩擦低減や冷却等を図るために、ギヤに潤滑油(オイル)が供給され、ギヤの潤滑が行われる。
【0003】
ここで、特許文献1には、自動変速機への入力エネルギと油温とに基づいて自動変速機の潤滑量を調節(制御)する潤滑量制御装置が開示されている。より具体的には、この潤滑量制御装置では、まず、エンジン回転数とスロットル開度とに基づいてエンジンの出力トルクが算出され、該出力トルクとトルクコンバータの効率とに基づいて自動変速機への入力トルクが算出される。次に、算出された入力トルクと自動変速機の入力回転数とに基づいて自動変速機への入力エネルギが算出され、該入力エネルギとエネルギ伝達効率と潤滑油の温度とに基づいて潤滑量が算出される。そして、算出された潤滑量に対応する指示値が油圧制御装置に出力される。
【0004】
その結果、この潤滑量制御装置によれば、例えば、高負荷走行時における潤滑量が入力エネルギに基づいて算出されると、その量に基づいて自動変速機に潤滑油が供給される。すなわち、定常走行時に比べて増加した潤滑油が供給される。車両の加速後、運転者がアクセルを戻すと、そのときの走行状態に応じた潤滑量がさらに算出され、自動変速機に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1に記載の潤滑量制御装置によれば、自動変速機への入力エネルギと油温とに基づいて潤滑量を調節することができる。ここで、特許文献1の潤滑量制御装置では、リアルタイムの入力エネルギと油温とに基づいて潤滑量を調節している。一方、例えば、ギヤの経年劣化度/損傷度等、すなわち、ギヤが受けた累積的なダメージの程度等によっても、最適な潤滑油量は変化し得る。しかしながら、上述した潤滑量制御装置では、自動変速機に供給する潤滑油量を調節する際に、ギヤが受けた累積的なダメージの程度等(ギヤの経年劣化度/損傷度等)は考慮されていない。そのため、ギヤにとって最適な量の潤滑油を供給できていない状態が生じ得る。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、駆動力を伝達するギヤが受けた累積的なダメージの程度を考慮して潤滑油の供給量をより適切に調節することが可能なギヤの潤滑油量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置は、駆動力を伝達するギヤに入力される入力トルクを取得するトルク取得手段と、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態である場合に、該高負荷運転状態の継続時間が所定の単位時間に達した回数、又は、該高負荷運転状態におけるギヤの噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数を累積的にカウントするカウント手段と、カウント手段によりカウントされた累積回数に基づいて、ギヤの累積ダメージ度を求めるダメージ取得手段と、ダメージ取得手段により求められた累積ダメージ度に基づいて、ギヤに供給する潤滑油の供給量を調節する制御手段とを備え、制御手段が、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置によれば、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態である場合に、該高負荷運転状態の継続時間が所定の単位時間に達した回数、又は、該高負荷運転状態におけるギヤの噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数が累積的にカウントされ、カウントされた累積回数に基づいて、ギヤの累積ダメージ度が求められる。そして、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量が増大される。そのため、高負荷運転の継続時間が所定の単位時間継続した累積回数、又は、高負荷運転状態におけるギヤの噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数、すなわち、駆動力を伝達するギヤが受けた累積的なダメージの程度(経年劣化度/損傷度)を考慮して、ギヤに供給する潤滑油の量を調節(増大)することができる。その結果、駆動力を伝達するギヤが受けた累積的なダメージの程度を考慮して潤滑油の供給量(潤滑油量)をより適切に調節することが可能となる。
【0010】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過した場合に、カウント手段が、累積回数のカウントを停止することが好ましい。
【0011】
この場合、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過した場合に、累積回数のカウントが停止される。そのため、入力トルクが一時的に(短時間)低下した場合に、累積回数のカウントが停止されてしまうことを防止することができる。
【0012】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態であり、かつ、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、制御手段が、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。
【0013】
この場合、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態であり、かつ、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量が増大される。そのため、潤滑油量の増大が要求される高負荷運転状態に限定して潤滑油の供給量を増大することができる。すなわち、潤滑油量の増大が要求されない低負荷運転状態において、潤滑油の供給量が増大されることを防止することができる。
【0014】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、制御手段が、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、該累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。
【0015】
この場合、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、該累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量が増大される。そのため、ギヤが受けた累積的なダメージの程度に応じて、ギヤに供給する潤滑油の量を適切に調節(増大)することができる。
【0016】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、ダメージ取得手段が、ダメージ限界となる累積回数に対する累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度を取得することが好ましい。
【0017】
この場合、ダメージ限界となる累積回数に対する累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度が取得される。そのため、ダメージ限界に対するギヤが受けた累積的なダメージの程度を適切に把握することができる。
【0018】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、カウント手段が、入力トルクの大きさ毎に分けて、累積回数をカウントすることが好ましい。
【0019】
この場合、入力トルクの大きさ毎に分けて、累積回数がカウントされるため、ギヤが受けた累積的なダメージの程度を精度よく把握する(推定する)ことができる。
【0020】
また、本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、ダメージ取得手段が、入力トルクの大きさ毎にカウントされた累積回数それぞれと、入力トルクの大きさ毎に設定された重み付けとを乗算して得られる値を足し合わせて総累積回数を算出し、ダメージ限界となる累積回数に対する総累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度を取得することが好ましい。
【0021】
この場合、入力トルクの大きさ毎にカウントされた累積回数それぞれと、入力トルクの大きさ毎に設定された重み付けとが乗算されて得られる値が足し合わされて総累積回数が算出され、ダメージ限界となる累積回数に対する総累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度が取得される。そのため、ギヤが受けた累積的なダメージの程度をより精度よく把握する(推定する)ことができる。
【0022】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置は、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転の継続時間を計時する計時手段をさらに備え、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に加え、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、制御手段が、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。
【0023】
この場合、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転の継続時間が計時され、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に加え、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合にも、潤滑油の供給量が増大される。そのため、ギヤが受けた累積的なダメージの程度に加えて、高負荷運転の継続時間をも考慮して、ギヤに供給する潤滑油の量を調節(増大)することができる。
【0024】
また、本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、高負荷運転の継続時間が長くなるほど、制御手段が、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。
【0025】
この場合、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、高負荷運転の継続時間が長くなるほど、潤滑油の供給量が増大される。そのため、高負荷運転の継続時間の長さに応じて、ギヤに供給する潤滑油の量を適切に調節(増大)することができる。
【0026】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置は、オイルを昇圧して吐出するオイルポンプを備え、制御手段が、潤滑油の供給量を増大する場合に、オイルポンプにより昇圧されたオイルをギヤに供給するように開閉弁を駆動することが好ましい。
【0027】
このようにすれば、オイルポンプにより昇圧されたオイルをギヤに供給するように開閉弁を駆動することにより、ギヤに供給する潤滑油の量を増大することができる。
【0028】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置は、潤滑油を溜めるキャッチタンクを備え、潤滑油の供給量を増大する場合に、制御手段が、キャッチタンクに溜められた潤滑油をギヤに供給するように開閉弁を駆動することが好ましい。
【0029】
このようにすれば、キャッチタンクに溜められた潤滑油をギヤに供給するように開閉弁を駆動することにより、ギヤに供給する潤滑油の量を増大することができる。
【0030】
本発明に係るギヤの潤滑油量制御装置では、上記ギヤが、変速機を構成するギヤである
ことが好ましい。
【0031】
このようにすれば、変速機を構成するギヤが受けた累積的なダメージの程度等を考慮して潤滑油の供給量(潤滑油量)を適切に調節することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、駆動力を伝達するギヤが受けた累積的なダメージの程度を考慮して潤滑油の供給量をより適切に調節することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施形態に係るギヤの潤滑油量制御装置、及び、該潤滑油量制御装置が適用された無段変速機の構成を示すブロック図である。
【
図2】累積回数のカウント方法を説明するための図である。
【
図3】ギヤ(リダクションギヤ)の入力トルク毎の累積回数(使用負荷頻度)の一例を示す図である。
【
図4】有段自動変速機に適用した場合における、ギヤ段毎の累積ダメージ度の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係るギヤの潤滑油量制御装置による累積ダメージ度に基づく潤滑油量制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係るギヤの潤滑油量制御装置による高負荷運転継続時間に基づく潤滑油量制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係るギヤの潤滑油量制御装置、及び、該ギヤの潤滑油量制御装置が適用された無段変速機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、特に区別する必要がある場合を除いて、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0035】
まず、
図1~
図4を併せて用いて、実施形態に係るギヤの潤滑油量制御装置1の構成について説明する。
図1は、ギヤの潤滑油量制御装置1、及び、該潤滑油量制御装置1が適用された無段変速機30の構成を示すブロック図である。
図2は、累積回数のカウント方法を説明するための図である。
図3は、ギヤ(リダクションギヤ38)の入力トルク毎の累積回数(使用負荷頻度)の一例を示す図である。
図4は、有段自動変速機に適用した場合における、ギヤ段毎の累積ダメージ度の一例を示す図である。なお、ここでは、本発明を無段変速機30のリダクションギヤ38(特許請求の範囲に記載のギヤに相当)の潤滑に適用した場合を例にして説明する。
【0036】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナから吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」という)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ81により検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ82が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0037】
上述したエアフローメータ81、スロットル開度センサ82に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサ83が取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサ84が取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ85や、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0038】
エンジン10のクランク軸(出力軸)15には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20、及び、前後進切替機構26を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機30が接続されている。
【0039】
トルクコンバータ20は、主として、ポンプインペラ21、タービンランナ22、及び、ステータ23から構成されている。クランク軸(出力軸)15に接続されたポンプインペラ21がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ21に対向して配置されたタービンランナ22がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ23は、タービンランナ22からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ21に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0040】
また、トルクコンバータ20は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ24を有している。トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ24が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップクラッチ24が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。トルクコンバータ20を構成するタービンランナ22の回転数(タービン回転数)は、タービン回転数センサ73により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)70に出力される。
【0041】
前後進切替機構26は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切替えるものである。前後進切替機構26は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列27、前進クラッチ28及び後進クラッチ(後進ブレーキ)29を備えている。前後進切替機構26では、前進クラッチ28、及び、後進クラッチ29それぞれの状態を制御することにより、エンジントルクの伝達経路を切替えることが可能に構成されている。
【0042】
より具体的には、D(ドライブ:前進)レンジでは、前進クラッチ28を締結して後進クラッチ29を解放することにより、タービン軸25の回転がそのまま後述するプライマリ軸32に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、R(リバース:後進)レンジでは、前進クラッチ28を解放して後進クラッチ29を締結することにより、遊星歯車列27を作動させてプライマリ軸32の回転方向を逆転させることができ、車両を後進走行させることが可能となる。なお、N(ニュートラル:中立)レンジ又はP(パーキング:駐車)レンジでは、前進クラッチ28及び後進クラッチ29を解放することにより、タービン軸25とプライマリ軸32とは切り離され、前後進切替機構26はプライマリ軸32に動力を伝達しないニュートラル状態となる。なお、前進クラッチ28及び後進クラッチ29の動作は、後述するTCU70、及びバルブボディ(コントロールバルブ)60によって制御される。
【0043】
無段変速機30は、前後進切替機構26を介してトルクコンバータ20のタービン軸(出力軸)25と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
【0044】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定シーブ34aと、該固定シーブ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ34bとを有し、それぞれのシーブ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定シーブ35aと、該固定シーブ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0045】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0046】
ここでプライマリプーリ34(可動シーブ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動シーブ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0047】
無段変速機30のセカンダリ軸37は、一対のギヤ(リダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤ)からなるリダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39につながれており、無段変速機30で変換された駆動力は、リダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39に伝達される。カウンタ軸39は、一対のギヤ(カウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤ)からなるカウンタギヤ40を介して、フロントドライブシャフト43につながれている。カウンタ軸39に伝達された駆動力は、カウンタギヤ40、及び、フロントドライブシャフト43を介してフロントデファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)に伝達される。フロントデフからの駆動力は、左前輪ドライブシャフトを介して左前輪に伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフトを介して右前輪に伝達される。
【0048】
一方、上述したカウンタ軸39上のカウンタギヤ40(カウンタドライブギヤ)の後段には、リヤデファレンシャルに伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチ41が介装されている。トランスファクラッチ41は、4輪の駆動状態(例えば前輪のスリップ状態等)やエンジントルクなどに応じて締結力(すなわち後輪(従駆動輪)へのトルク分配率)が制御される。よって、カウンタ軸39に伝達された駆動力は、トランスファクラッチ41の締結力に応じて分配され、後輪側にも伝達される。
【0049】
より具体的には、カウンタ軸39の後端は、一対のギヤ(トランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤ)からなるトランスファギヤ42を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。よって、カウンタ軸39に伝達され、トランスファクラッチ41によって調節(分配)された駆動力は、トランスファギヤ42(トランスファドリブンギヤ)から、プロペラシャフト46を介してリヤデファレンシャル(以下「リヤデフ」ともいう)に伝達される。リヤデフからの駆動力は、左後輪ドライブシャフトを介して左後輪に伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフトを介して右後輪に伝達される。
【0050】
上述したようにパワートレインの駆動力伝達系が構成されることにより、例えば、セレクトレバーがDレンジに操作された場合には、エンジントルクが無段変速機30のプライマリ軸32に入力される。無段変速機30により変換された駆動力は、セカンダリ軸37から出力され、リダクションギヤ38、カウンタ軸39、カウンタギヤ40を介してフロントドライブシャフト43に伝達される。そして、フロントデフ44によって駆動力が左右に分配され、左右の前輪に伝達される。
【0051】
一方、カウンタ軸39に伝達された駆動力の一部は、トランスファクラッチ41、及びトランスファギヤ42を介してプロペラシャフト46に伝達される。ここで、トランスファクラッチ41に所定のクラッチトルクが付与されると、そのクラッチトルクに応じて分配された駆動力がプロペラシャフト46に出力される。そして、リヤデフを介して駆動力が後輪にも伝達される。
【0052】
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ50から吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、同様にして、バルブボディ60は、ロックアップクラッチ24、前後進切替機構26(前進クラッチ28、後進クラッチ29)、及び、トランスファクラッチ41等にも調圧した油圧を供給する。さらに、バルブボディ60は、潤滑系(潤滑部)にも潤滑油(オイル)を供給する。
【0053】
オイルポンプ50は、例えば、エンジン10などの駆動力源によって駆動され、オイルパン51に貯留されているオイルを昇圧して吐出する。オイルポンプ50から吐出されたオイルは、上述したバルブボディ60で調圧された後、すなわち、ライン圧制御弁601により生成されたライン圧を元圧として、各油圧機構(例えば、プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35、前進クラッチ28、後進クラッチ29、トランスファクラッチ41など)に適した油圧に調節された後、当該各油圧機構に供給される。また、ライン圧は、潤滑圧制御弁602により降圧されて、潤滑系(潤滑部)に供給される。
【0054】
特に、潤滑系には、リダクションギヤ38等に供給する潤滑油を増大するため(潤滑油を強制的に供給するため)、オイルポンプ50により昇圧されたオイルをリダクションギヤ38等に供給(吐出)する開閉弁(オン・オフ弁)63、及び、噴射ノズル64が設けられている。開閉弁63は、TCU70と電気的に接続されており、TCU70から出力される制御信号(駆動信号)により駆動されて開閉(開弁/閉弁)するオン・オフソレノイドバルブである。また、開閉弁63は、ノーマルクローズ型のソレノイドバルブである。そのため、開閉弁63は、オフ(閉弁)された場合に、リダクションギヤ38に対する潤滑油の強制的な供給を遮断する。一方、開閉弁63は、オン(開弁)された場合に、リダクションギヤ38に対して潤滑油を強制的に供給する。なお、開閉弁63がオン(開弁)された場合には、噴射ノズル64を通して潤滑油がリダクションギヤ38に強制的に供給される。
【0055】
無段変速機30の変速制御は、TCU70によって実行される。すなわち、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するライン圧制御弁601を含むソレノイドバルブ(電磁バルブ)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。また、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、クラッチ油圧の供給/遮断を制御して、前進クラッチ28又は後進クラッチ29の締結/解放を行う。また、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節して、後輪へ伝達される駆動力の分配比率を調節する。さらに、TCU70は、開閉弁(オン・オフ弁)63の駆動を制御して、リダクションギヤ38に対する潤滑油(オイル)の強制的な供給を制御する。
【0056】
ここで、車両のフロアやセンターコンソール等には、運転者による、無段変速機30のシフトレンジを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)71が設けられている。シフトレバー71には、該シフトレバー71と連動して動くように接続され、該シフトレバー71の選択位置を検出するレンジスイッチ72が取り付けられている。レンジスイッチ72は、TCU70に接続されており、検出されたシフトレバー71の選択位置が、TCU70に読み込まれる。なお、シフトレバー71では、ドライブ「D」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。なお、シフトレバー71に代えて、スイッチタイプのセレクト機構を用いてもよい。
【0057】
ここで、シフトレバー71が操作されてDレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合には、前進クラッチ28の油圧室にオイルが供給されるとともに、後進クラッチ29の油圧室からオイルが排出される。これにより、前進クラッチ28が締結状態、後進クラッチ29が解放状態となり、無段変速機30にエンジントルクが伝達され、車両は前進可能となる。一方、シフトレバー71が操作されてRレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合には、後進クラッチ29の油圧室にオイルが供給されるとともに、前進クラッチ28の油圧室からオイルが排出される。これにより、後進クラッチ29が締結状態、前進クラッチ28が解放状態となり、車両は後進可能となる。なお、シフトレバー71が操作されてNレンジが選択された場合には、前進クラッチ28の油圧室、及び後進クラッチ29の油圧室それぞれからオイルが排出される。これにより、前進クラッチ28及び後進クラッチ29それぞれが解放状態となり(エンジントルクの伝達が遮断され)、無段変速機30はニュートラル状態となる。
【0058】
TCU70には、上述したタービン回転数センサ73に加え、無段変速機30のオイルの温度を検出する油温センサ74、及び、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ75や、セカンダリプーリ35の回転数を検出するセカンダリプーリ回転センサ76などが接続されている。また、TCU70は、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU80等と相互に通信可能に接続されている。
【0059】
TCU70、及び、ECU80は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0060】
ECU80では、上述したカム角センサ83の出力から気筒が判別され、クランク角センサ84の出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0061】
また、ECU80では、例えば、エアフローメータ81により検出された吸入空気量とエンジン回転数とに基づいて、エンジン10の出力トルク(エンジントルク)が算出される。そして、ECU80は、CAN100を介して、エンジン回転数、エンジントルク、及び、アクセルペダル開度等の情報をTCU70に送信する。なお、エンジン10の出力トルク(エンジントルク)は、TCU70側で演算する構成としてもよい。
【0062】
TCU70は、CAN100を介して、ECU80から、エンジン回転数、エンジントルク、及び、アクセルペダル開度等の情報を受信する。TCU70は、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU70内のEEPROMに格納されている。
【0063】
特に、TCU70は、駆動力を伝達するギヤが受けた累積的なダメージの程度(経年劣化度/損傷度)を考慮して潤滑油の供給量(潤滑油量)をより適切に調節する機能(潤滑油量制御機能)を有している。そのため、TCU70は、入力トルク取得部701、累積回数カウント部702、累積ダメージ取得部703、計時部704、潤滑油量制御部705を機能的に有している。TCU70では、EEPROMなどに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、入力トルク取得部701、累積回数カウント部702、累積ダメージ取得部703、計時部704、潤滑油量制御部705の機能が実現される。
【0064】
入力トルク取得部701は、無段変速機30を構成するリダクションギヤ38(特許請求の範囲に記載のギヤに相当)、すなわち、駆動力を伝達するギヤに入力される入力トルクを取得する。入力トルク取得部701は、特許請求の範囲に記載のトルク取得手段として機能する。ここで、無段変速機30のリダクションギヤ38に入力される入力トルクは、「エンジントルク×変速比」から求めることができる。また、例えば、ステップATに適用する場合には、各ギヤ段に入力される入力トルクは、エンジントルクから求めることができる。なお、エンジントルクは、CAN100経由でECU80から受信することができる。又は、ECU80から受信した吸入空気量やエンジン回転数等のデータを用いてTCU70側で演算して求めてもよい。取得された入力トルクは、累積回数カウント部702、及び、計時部704に出力される。
【0065】
累積回数カウント部702は、例えばカウンタからなり、
図2に示されるように、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態である場合に、該高負荷運転状態の継続時間が所定の単位時間に達した回数を累積的にカウントする。ここで、
図2は、累積回数のカウント方法を説明するための図であり、上段から、入力トルク(Nm)、入力トルクが所定トルクを超える継続時間(sec)、累積回数(回)を示す。累積回数カウント部702は、特許請求の範囲に記載のカウント手段として機能する。なお、回転数が変わると同一時間でもギヤの噛合回数が異なるため、累積回数カウント部702は、上記高負荷運転状態におけるギヤの噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数を累積的にカウントしてもよい。
【0066】
その際に、累積回数カウント部702は、
図3に示されるように、入力トルクの大きさ毎に分けて(
図3の例では、T10~T14)、累積回数をカウントすることが好ましい。
図3の縦軸は、入力トルク(Nm)であり、横軸は累積回数である。なお、
図3では、入力トルクが所定トルク以下の累積回数も併せて示した。また、
図3では、ダメージ限界となる累積回数を破線で示した。ダメージ限界となる累積回数は、例えば、T-N線(特性)等に基づいて設定することができる。
【0067】
一方、
図2に示されるように、累積回数カウント部702は、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過した場合に、累積回数のカウントを停止する。よって、累積回数カウント部702は、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間を経過する前に終了し、再び入力トルクが所定トルクを超えた場合は、累積回数のカウントを継続して実行する(
図2参照)。カウントされた累積回数は、累積ダメージ取得部703に出力される。
【0068】
図1に戻り、累積ダメージ取得部703は、累積回数カウント部702によりカウントされた累積回数に基づいて、リダクションギヤ38の累積ダメージ度を求める。累積ダメージ取得部703は、特許請求の範囲に記載のダメージ取得手段として機能する。
【0069】
その際に、累積ダメージ取得部703は、ダメージ限界となる累積回数に対する累積回数の割合(比率)に応じて、累積ダメージ度を取得する。より具体的には、累積ダメージ取得部703は、まず、入力トルクの大きさ毎にカウントされた累積回数それぞれと、入力トルクの大きさ毎に設定された重み付けとを乗算して得られる値を足し合わせて、総累積回数を取得する。例えば、
図3に示した例では、次式(1)から総累積回数を求めることができる。
総累積回数=N
T10×a+N
T11×b+N
T12×c+N
T13×d+N
T14×e ・・・(1)
ここで、N
T10,N
T11,N
T12,N
T13,N
T14は入力トルク毎の累積回数である。また、a,b,c,d,eは入力トルク毎の重み付けである。
そして、累積ダメージ取得部703は、ダメージ限界となる累積回数(総累積回数)に対する総累積回数の割合(比率)から累積ダメージ度を取得する。
【0070】
なお、ステップATに適用する場合には、
図4に示したように、ギヤ段毎(例えば、1速、2速、・・・毎)に累積ダメージ度を取得することが好ましい。
図4の縦軸は累積ダメージ度である。なお、
図4では、ギヤ段毎のダメージ限界となる累積ダメージ度を破線で示した。取得された累積ダメージ度は、潤滑油量制御部705に出力される。
【0071】
計時部704は、例えばタイマからなり、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転の継続時間を計時する。計時部704は、特許請求の範囲に記載の計時手段として機能する。なお、計時部704は、入力トルクが所定トルク以下の状態が所定のリセット時間以上経過した場合に、計時した継続時間をリセットする。よって、計時部704は、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定のリセット時間を経過する前に終了し、再び入力トルクが所定トルクを超えた場合は、継続時間の計時を継続して実行する。計時された継続時間は、潤滑油量制御部705に出力される。
【0072】
潤滑油量制御部705は、累積ダメージ取得部703により求められた累積ダメージ度に基づいて、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の供給量を調節する。潤滑油量制御部705は、特許請求の範囲に記載の制御手段として機能する。その際に、潤滑油量制御部705は、累積ダメージ度が所定のしきい値(例えば限界の90%等)を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大する。また、潤滑油量制御部705は、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態であり、かつ、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。さらに、潤滑油量制御部705は、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量を増大する(後述する開閉弁63の開弁時間を長くする)ことが好ましい。
【0073】
一方、潤滑油量制御部705は、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に加え、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大する構成としてもよい。その場合、潤滑油量制御部705は、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、高負荷運転の継続時間が長くなるほど、潤滑油の供給量を増大することが好ましい。
【0074】
潤滑油量制御部705は、潤滑油の供給量を増大する場合に、オイルポンプ50により昇圧された潤滑油をリダクションギヤ38に供給(吐出)するように開閉弁(オン・オフ弁)63を開弁する。開閉弁63が開弁されることにより、噴射ノズル64を通して潤滑油がリダクションギヤ38に強制的に供給される(すなわち、強制潤滑が行われる)。
【0075】
次に、
図5及び
図6を併せて参照しつつ、ギヤの潤滑油量制御装置1の動作について説明する。
図5は、ギヤの潤滑油量制御装置1による累積ダメージ度に基づく潤滑油量制御の処理手順を示すフローチャートである。
図6は、ギヤの潤滑油量制御装置1による高負荷運転継続時間に基づく潤滑油量制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主として、TCU70において、所定のタイミングで(例えば10ms毎に)繰り返して実行される。
【0076】
まず、
図5を参照しつつ、ギヤの潤滑油量制御装置1による累積ダメージ度に基づく潤滑油量制御について説明する。ステップS100では、リダクションギヤ38に入力される入力トルクが取得される。ここで、リダクションギヤ38に入力される入力トルクの取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0077】
次に、ステップS102では、入力トルクが所定トルクを超えるか否か、すなわち、高負荷運転状態であるか否かについての判断が行われる。ここで、入力トルクが所定トルクを超える場合(高負荷運転状態の場合)には、ステップS108に処理が移行する。一方、入力トルクが所定トルクを超えないとき(高負荷運転状態でないとき)には、ステップS104に処理が移行する。
【0078】
ステップS104では、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過したか否かについての判断が行われる。ここで、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過した場合には、ステップS106において、累積回数のカウントが停止される。そして、その後、本処理から一旦抜ける。一方、所定の停止時間が経過していないときには、累積回数のカウントが停止されることなく、本処理から一旦抜ける。
【0079】
一方、ステップS108では、入力トルクが所定トルクを超える状態(高負荷運転状態)の継続時間が所定の単位時間に達したか否かについての判断が行われる。ここで、継続時間が所定の単位時間に達した場合には、ステップS110において、累積回数が累積的にカウントアップされる。なお、累積回数のカウントアップは、入力トルクの大きさ毎に分けて行われる。その後、ステップS112に処理が移行する。一方、継続時間が所定の単位時間に達していないときには、累積回数のカウントアップが行われることなく、ステップS112に処理が移行する。なお、ステップS108,S110では、高負荷運転状態におけるリダクションギヤ38の噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数を累積的にカウントしてもよい。
【0080】
ステップS112では、カウントされた累積回数に基づいて、リダクションギヤ38の累積ダメージ度が取得される。なお、累積ダメージ度の取得方法については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を詳細する。
【0081】
続いて、ステップS114では、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えているか否かについての判断が行われる。ここで、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えている場合には、ステップS116に処理が移行する。一方、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えていないときには、本処理から一旦抜ける。
【0082】
ステップS116では、累積ダメージ度に応じて、開閉弁63が開弁され、リダクションギヤ38に供給される潤滑油の量が調節される。より具体的には、累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量が増大される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0083】
続いて、
図6を参照しつつ、ギヤの潤滑油量制御装置1による高負荷運転継続時間に基づく潤滑油量制御について説明する。まず、ステップS200では、リダクションギヤ38に入力される入力トルクが取得される。ここで、リダクションギヤ38に入力される入力トルクの取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0084】
次に、ステップS202では、入力トルクが所定トルクを超えるか否か、すなわち、高負荷運転状態であるか否かについての判断が行われる。ここで、入力トルクが所定トルクを超える場合(高負荷運転状態の場合)には、ステップS208に処理が移行する。一方、入力トルクが所定トルクを超えないとき(高負荷運転状態でないとき)には、ステップS204に処理が移行する。
【0085】
ステップS204では、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定のリセット時間以上経過したか否かについての判断が行われる。ここで、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定のリセット時間以上経過した場合には、ステップS206において、継続時間がリセット(初期化)される。そして、その後、本処理から一旦抜ける。一方、所定のリセット時間が経過していないときには、継続時間がリセットされることなく、本処理から一旦抜ける。
【0086】
一方、ステップS208では、入力トルクが所定トルクを超える状態(高負荷運転状態)の継続時間が計時される。そして、ステップS210において、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えたか否かについての判断が行われる。ここで、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合には、ステップS212に処理が移行する。一方、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えていないときには、本処理から一旦抜ける。
【0087】
ステップS212では、高負荷運転の継続時間に基づいて、開閉弁63が開弁され、リダクションギヤ38に供給される潤滑油の量が調節される。より具体的には、高負荷運転の継続時間が長くなるほど、潤滑油の供給量が増大される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0088】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態である場合に、該高負荷運転状態の継続時間が所定の単位時間に達した回数、又は、該高負荷運転状態におけるリダクションギヤ38の噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数が累積的にカウントされ、カウントされた累積回数に基づいて、リダクションギヤ38の累積ダメージ度が求められる。そして、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量が増大される。そのため、高負荷運転の継続時間が所定の単位時間継続した累積回数、又は、高負荷運転状態におけるリダクションギヤ38の噛合い回数が所定の単位噛合回数に達した回数、すなわち、駆動力を伝達するリダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度(経年劣化度/損傷度)を考慮して、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の量を調節(増大)することができる。その結果、駆動力を伝達するリダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度を考慮して潤滑油の供給量(潤滑油量)をより適切に調節することが可能となる。
【0089】
本実施形態によれば、入力トルクが所定トルク以下となる状態が所定の停止時間以上経過した場合に、累積回数のカウントが停止される。そのため、入力トルクが一時的に(短時間)低下した場合に、累積回数のカウントが停止されてしまうことを防止することができる。
【0090】
本実施形態によれば、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転状態であり、かつ、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、潤滑油の供給量が増大される。そのため、潤滑油量の増大が要求される高負荷運転状態に限定して潤滑油の供給量を増大することができる。すなわち、潤滑油量の増大が要求されない低負荷運転状態において、潤滑油の供給量が増大されることを防止することができる。
【0091】
本実施形態によれば、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に、該累積ダメージ度が大きくなるほど、潤滑油の供給量が増大される。そのため、ギヤが受けた累積的なダメージの程度に応じて、ギヤに供給する潤滑油の量を適切に調節(増大)することができる。
【0092】
本実施形態によれば、ダメージ限界となる累積回数に対する累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度が取得される。そのため、ダメージ限界に対するギヤが受けた累積的なダメージの程度を適切に把握することができる。
【0093】
本実施形態によれば、入力トルクの大きさ毎に分けて、累積回数がカウントされる。そのため、リダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度を精度よく把握する(推定する)ことができる。
【0094】
本実施形態によれば、入力トルクの大きさ毎にカウントされた累積回数それぞれと、入力トルクの大きさ毎に設定された重み付けとが乗算されて得られる値が足し合わされて総累積回数が算出され、ダメージ限界となる累積回数に対する総累積回数の割合に応じて、累積ダメージ度が取得される。そのため、リダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度をより精度よく把握する(推定する)ことができる。
【0095】
本実施形態によれば、入力トルクが所定トルクを超える高負荷運転の継続時間が計時され、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に加え、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合にも、潤滑油の供給量が増大される。そのため、リダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度に加えて、高負荷運転の継続時間をも考慮して、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の量を調節(増大)することができる。
【0096】
本実施形態によれば、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、高負荷運転の継続時間が長くなるほど、潤滑油の供給量が増大される。そのため、高負荷運転の継続時間の長さに応じて、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の量を適切に調節(増大)することができる。
【0097】
本実施形態によれば、オイルポンプ50により昇圧された潤滑油をリダクションギヤ38に供給するように開閉弁63を開弁することにより、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の量を増大することができる。
【0098】
本実施形態によれば、無段変速機30を構成するリダクションギヤ38に適用することにより、無段変速機30を構成するリダクションギヤ38が受けた累積的なダメージの程度等を考慮して潤滑油の供給量(潤滑油量)を適切に調節することができる。
【0099】
(変形例)
次に、
図7を用いて変形例に係るギヤの過昇温防止装置1Bの構成について説明する。
図7は、変形例に係るギヤの潤滑油量制御装置1B、及び、該潤滑油量制御装置1Bが適用された無段変速機30の構成を示すブロック図である。なお、
図7において上記実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0100】
ギヤの潤滑油量制御装置1Bは、無段変速機30Bの内部に、ギヤによって掻き上げられ、飛沫状になった潤滑油(オイル)を受けて溜めるキャッチタンク(ドレンタンク)65、及び、キャッチタンク65の底部(又は下部)に取り付けられ、キャッチタンク65に溜められた潤滑油をリダクションギヤ38に供給する開閉弁(オン・オフ弁)66を備えている点で、上述したギヤの潤滑油量制御装置1と異なっている。
【0101】
開閉弁66は、TCU70Bと電気的に接続されており、TCU70Bから出力される制御信号(駆動信号)により駆動されて開閉(開弁/閉弁)するオン・オフソレノイドバルブである。また、開閉弁66は、ノーマルクローズ型のソレノイドバルブである。TCU70B(潤滑油量制御部705B)は、潤滑油の供給量を増大する場合に、キャッチタンク65に溜められた潤滑油をリダクションギヤ38に供給するように開閉弁66を開弁する。なお、その他の構成は、上述した実施形態と同一または同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0102】
本実施形態によれば、飛沫状の潤滑油(オイル)を受けて溜めるキャッチタンク65を備え、キャッチタンク65に溜められた潤滑油をリダクションギヤ38に供給するように開閉弁66を開弁することにより、リダクションギヤ38に供給する潤滑油の量を増大することができる。
【0103】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、累積ダメージ度が所定のしきい値を超えた場合に加え、高負荷運転の継続時間が所定時間を超えた場合に、潤滑油の供給量を増大する構成としたが、累積ダメージ度のみに基づいて、又は、高負荷運転の継続時間のみ基づいて、潤滑油の供給量を増大する構成としてもよい。
【0104】
また、入力トルクの大きさに応じて、強制潤滑を実行する継続時間の判断しきい値を変更してもよい。例えば、入力トルクが大きいほど、継続時間の判断しきい値を短くしてもよい。さらに、駆動力を伝達するギヤ、又は、該ギヤを含む変速機等のユニットが新品に交換された場合に、累積回数及び累積ダメージ度をリセット(初期化)する構成としてもよい。
【0105】
上記実施形態では、本発明を無段変速機30のリダクションギヤ38に適用した場合を例にして説明したが、リダクションギヤ38以外のギヤに適用してもよい。また、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。また、無段変速機に代えて、手動変速機(MT)や、有段自動変速機(ステップAT)、DCTなどにも適用することができる。さらに、変速機を構成するギヤ以外のギヤ、例えば、デファレンシャルギヤ等にも適用することができる。
【0106】
上記実施形態では、前後進切替機構26を、プライマリプーリ34の上流側に配置したが、セカンダリプーリ35の下流側に配置する構成としてもよい。
【0107】
上記実施形態では、エンジン10を制御するECU80と、無段変速機30を制御するTCU70とを別々のハードウェアで構成し、CAN100で接続する構成としたが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、ガソリンエンジン10を駆動力源とする車両を例にして説明したが、例えば、エンジンと電動モータとを駆動力源とするHEV(ハイブリッド車)やPHEV、及び、電動モータを駆動力源とするEV(電気自動車)等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1,1B ギヤの潤滑油量制御装置
10 エンジン
20 トルクコンバータ
26 前後進切替機構
27 遊星歯車列
28 前進クラッチ
29 後進クラッチ(後進ブレーキ)
30,30B 無段変速機
34 プライマリプーリ
35 セカンダリプーリ
36 チェーン
38 リダクションギヤ
50 オイルポンプ
51 オイルパン
60 バルブボディ(コントロールバルブ)
63 開閉弁(オン・オフ弁)
64 噴射ノズル
65 キャッチタンク
66 開閉弁(オン・オフ弁)
70,70B TCU
701 入力トルク取得部
702 累積回数カウント部
703 累積ダメージ取得部
704 計時部
705,705B 潤滑油量制御部
71 シフトレバー
72 レンジスイッチ
73 タービン回転数センサ
74 油温センサ
75 プライマリプーリ回転センサ
76 セカンダリプーリ回転センサ
80 ECU
100 CAN