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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/34 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
C01B13/34
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020022530
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127266
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-087998(JP,A)
【文献】特開2003-275564(JP,A)
【文献】特開2010-162488(JP,A)
【文献】特開2019-025385(JP,A)
【文献】特開2004-332103(JP,A)
【文献】特開平01-172221(JP,A)
【文献】特表2014-523809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/14 - 13/36
B01J 2/04
B01J 10/00 - 19/32
B05B 1/00 - 3/18
B05B 7/00 - 9/08
C01B 33/20 - 39/54
C01D 1/00 - 1/44
C01F 5/00 - 5/12
C01F 7/02 - 7/476
C01F 7/78
C01F 11/00 - 11/16
C01G 23/00
C01G 23/04 - 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
料化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から原料化合物含有溶液の液滴を噴霧して熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
撹拌槽として、撹拌槽に収容される原料化合物含有水溶液の容量が撹拌槽の容量に対して40~100%となる容量を有する撹拌槽を使用し、
撹拌翼として、プロペラ翼、パドル翼及びタービン翼から選択される撹拌翼であって、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)が0.15~0.7の範囲内である撹拌翼を使用し、
撹拌槽にアルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上の原料化合物を0.1~0.8mol/Lの濃度で含む原料化合物含有水溶液であって、pHが5以下である料化合物含有溶液を収容し、撹拌翼を40~600rpmで回転させて撹拌槽内の原料化合物含有溶液を撹拌しながらノズルに送液する、
無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物粒子の製造方法の一つとして、噴霧熱分解法がある(特許文献1~3)。噴霧熱分解法は、所定の組成濃度に調製した原料溶液を熱分解炉の加熱部分に噴霧し、瞬時に溶媒の蒸発、析出した無機塩の熱分解、及び固相反応を起こさせて、目的とする無機酸化物粒子を得る方法である。噴霧熱分解法のメリットとして、製造工程が簡便でかつ極めて微細な一次粒子が得られることが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-96165号公報
【文献】特開2003-89519号公報
【文献】特開2016-17027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、無機化合物を含む溶液を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物粒子を製造すると、製造開始から時間が経過するにつれ、得られる無機酸化物粒子の粒子密度が徐々に上昇し、粒子密度のばらつきが大きくなるという課題が存在することが判明した。
本発明の課題は、粒子密度の経時的な上昇を抑制し、安定した品質の無機酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる粒子密度のばらつきの要因が原料溶液の性状変化にあると考え種々検討した。その結果、原料溶液を所定の速度で撹拌しながらノズルに送液し、その際に撹拌槽内径と撹拌翼の回転直径が一定の関係を満たす撹拌翼を用いて撹拌することで、原料溶液の性状が経時で変化し難くなり、無機酸化物粒子の粒子密度の経時的な上昇が抑えられ、粒子密度のばらつきの少ない安定した品質の無機酸化物粒子を製造できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から原料無機化合物含有溶液の液滴を噴霧して熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
撹拌槽に原料無機化合物含有溶液を収容し、撹拌翼を40~600rpmで回転させて撹拌槽内の原料無機化合物含有溶液を撹拌しながらノズルに送液し、
撹拌翼として、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)が0.15~0.7の範囲内であるものを用いる、
無機酸化物粒子の製造方法。
〔2〕原料無機化合物含有溶液中の原料無機化合物の濃度が0.1mol/L以上である、〔1〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔3〕撹拌翼がプロペラ翼、パドル翼又はタービン翼である、〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔4〕原料無機化合物含有溶液が原料無機化合物含有水溶液である、〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔5〕原料無機化合物含有水溶液のpHが5以下である、〔4〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔6〕原料無機化合物がアルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粒子密度の経時的な上昇が抑制されるため、安定した品質の無機酸化物粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の無機酸化物粒子の製造方法について説明する。
先ず、原料無機化合物を溶媒に溶解させて、原料無機化合物含有溶液を調製する。
原料無機化合物としては、無機酸化物を構成する元素を含有し、水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、金属アルコキシド等を挙げることができる。無機塩としては、例えば、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、ケイ酸アルコキシドを挙げることができる。原料無機化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0009】
アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムが挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムが挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩を挙げることができる。ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料溶液として用いることができる。
中でも、原料無機化合物としては、本発明の効果を享受しやすい点で、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ケイ酸アルコキシドと、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩及びアルミニウムアルコキシドから選ばれる1種又は2種以上との組み合わせがより好ましく、ケイ酸アルコキシドと、アルミニウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びホウ酸塩から選ばれる1種又は2種以上との組み合わせが更に好ましい。
【0010】
原料無機化合物から得られる酸化物としては、例えば、金属酸化物、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素を含む酸化物等が挙げられる。より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素を含む酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ナトリウム酸化物、ホウ素酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げることができる。
【0011】
原料無機化合物含有溶液の調製に使用する溶媒としては、原料無機化合物を溶解できれば特に限定されないが、水、有機溶媒を挙げることができる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。なお、原料無機化合物と溶媒との混合方法は、両者を同時に添加して混合しても、他方を一方に添加して混合してもよく、混合方法は特に限定されない。
【0012】
原料無機化合物含有溶液中の原料無機化合物の濃度は、飽和濃度以下であれば特に限定されないが、粒子密度の経時的な上昇抑制の観点から、0.1mol/L以上が好ましく、0.1~0.8mol/Lがより好ましく、0.1~0.6mol/Lが更に好ましい。
【0013】
原料無機化合物含有溶液の液温は、溶媒の凝固点よりも高い温度であればよく、溶媒の種類により適宜設定可能であるが、1~50℃が好ましく、1~40℃がより好ましく、1~30℃が更に好ましく、1~20℃が更に好ましい。なお、原料無機化合物含有溶液の液温の調整方法は、所望の温度に調整できれば特に限定されない。例えば、原料無機化合物含有溶液を室温以下に冷却する場合、撹拌槽に冷却装置を設置して原料無機化合物含有溶液を冷却し、原料溶液の液温を温度計で管理すればよい。冷却装置としては、例えば、チラー等を挙げることができる。
【0014】
原料無機化合物含有溶液が水溶液である場合、粒子密度の経時的な上昇抑制の観点から、原料無機化合物含有水溶液のpHは5以下が好ましく、1~3が更に好ましい。なお、pHは、液温を20℃に調整してpHメータにより測定するものとする。
【0015】
pH調整は、例えば、原料無機化合物含有水溶液に酸を添加し、所望のpHに調整すればよい。
酸としては所望のpHに調整できれば特に限定されないが、例えば、無機酸、有機酸を挙げることができる。中でも、無機酸が好ましい。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、炭酸を挙げられる。なお、酸は、1種又は2種以上使用することができる。また、必要により、アルカリを用いても構わない。
酸の使用量は、所望のpHとなるように酸の種類により適宜選択することができる。
【0016】
原料無機化合物含有溶液の調製は、撹拌槽で行ってもよく、また予め調製した原料無機化合物含有溶液を撹拌槽に投入してもよい。
撹拌槽の形状は原料無機化合物含有溶液を均一に撹拌できれば特に限定されないが、例えば、円筒縦型、半楕円型、半円型、円錐型を挙げることができる。
撹拌槽の容量は、製造スケールにより適宜選択することが可能であるが、通常撹拌槽に収容される原料無機化合物含有溶液の容量は、撹拌槽の容量に対して40~100%が好ましく、50~98%が更に好ましい。
【0017】
次に、撹拌槽内の原料無機化合物含有溶液を、撹拌翼を用いて撹拌する。
撹拌翼としては、例えば、プロペラ翼、パドル翼、三枚後退翼、アンカー翼、スクリュー翼、タービン翼、リボン翼等を適宜選択して使用することができる。中でも、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼が好ましい。なお、撹拌翼は、撹拌軸に1段でも、多段で設置してもよく、多段で設置する場合、同一でも、異なっていてもよい。
撹拌翼を構成する羽根の数は、2枚以上が好ましく、2~4枚が更に好ましい。
【0018】
撹拌翼の設置位置は、1段設置する場合、撹拌槽の下方に設置することが好ましい。また、多段で設置する場合、撹拌槽の下方に1段目を設置し、それよりも上方に2段目以降を設置すればよい。3段目以降の撹拌翼は、1段目と2段目の撹拌翼の設置間隔と等間隔でも、異なる間隔でも構わない。
【0019】
本発明においては、撹拌翼として、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)が0.15~0.7の範囲内であるものを用いる。かかる比(d2/d1)が0.15未満であると、原料無機化合物含有溶液にせん断力が十分に付与されないため、原料無機化合物の一部が溶解し難く、無機酸化物粒子を製造できない。また、かかる比(d2/d1)が0.7を超えると、原料無機化合物含有溶液にせん断力が過度に付与されるため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し、無機酸化物粒子の粒子密度が経時で上昇して無機酸化物粒子の粒子密度のばらつきが大きくなる。
ここで、本明細書において「撹拌槽内径」とは、撹拌軸に固定された撹拌翼と同一水平面上の撹拌槽の最大内径をいう。また、「撹拌翼の回転直径」とは、撹拌翼を回転させたときに撹拌翼により形成される円周の直径をいう。なお、撹拌翼が多段で設置されている場合には、各撹拌翼において、比(d2/d1)が上記した範囲を満たせばよい。
かかる比(d2/d1)は、原料無機化合物の溶解促進、粒子密度の経時的な上昇抑制の観点から、0.18~0.65が好ましく、0.2~0.6がより好ましく、0.23~0.55が更に好ましい。
【0020】
また、撹拌翼の回転数は、40~600rpmである。回転数が40rpm未満であると、原料無機化合物含有溶液にせん断力が十分に付与されないため、原料無機化合物含有溶液が凝固し、無機酸化物粒子を製造できない。また、回転数が600rpmを超えると、原料無機化合物含有溶液にせん断力が過度に付与されるため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し、無機酸化物粒子の粒子密度が経時で上昇して無機酸化物粒子の粒子密度のばらつきが大きくなる。
撹拌翼の回転数は、原料無機化合物の凝固抑制、粒子密度の経時的な上昇抑制の観点から、43~580rpmが好ましく、45~550rpmがより好ましく、48~530rpmが更に好ましい。
撹拌翼が多段で設置されている場合、各撹拌翼の回転数は上記範囲内であれば、同一でも、異なっていてもよい。
【0021】
次に、撹拌槽内の原料無機化合物含有溶液を送液ポンプで噴霧装置に送液し、該噴霧装置から熱分解炉内に原料無機化合物含有溶液の液滴を噴霧する。
熱分解炉は、炉材として使用されている材質であれば何れも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。熱分解炉の形状は、円筒縦型が好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0022】
噴霧装置としては特に限定されないが、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを使用することができる。ここで、流体ノズルの方式には、ガスと原料無機化合物含有水溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部でガスと原料無機化合物含有水溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することが可能であり、また熱分解炉の下部及び上部のいずれにも設置することができる。
【0023】
液滴(ミスト)の噴出速度は、通常1~50m/sであるが、熱分解反応の促進、熱分解炉壁面の固着物発生防止の観点から、5~35m/sが好ましく、10~20m/sが更に好ましい。
【0024】
液滴の平均粒子径は、好ましくは0.5~60μm、より好ましくは1~20μm、更に好ましくは1~15μmである。なお、液滴の平均粒子径は、噴霧装置の吐出口の形状や空気の圧力によって調整することが可能である。
【0025】
噴霧装置から噴霧された液滴は、熱分解炉内の加熱装置により加熱されて無機化合物を含む膜が形成され、それを起点に無機酸化物粒子が形成される。
加熱装置としては、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータが挙げられる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することができる。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、800~1200℃がより更に好ましい。400℃未満であると、熱分解が不十分となりやすく、1800℃を超えると、粒子が熱分解炉外に排出されたときに十分冷却され難く、粒子同士が凝集しやすくなる。
【0026】
本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、中実粒子、多孔質粒子、中空粒子のいずれでも、これら2以上の混合物でも構わない。ここで、本明細書において「中実粒子」とは、内部に空洞を有さない構造の粒子をいい、例えば、単一の層からなる粒子、及び、コア(内核とも言われる)とシェル層(外殻とも言われる)を有する粒子を挙げることができる。また、「中空粒子」とは、内部に空洞(中空部)を有する構造のものであり、外殻に包囲された空洞を有する粒子をいう。空洞の数は、単数でも複数でもよい。更に、「多孔質粒子」とは、粒子表面から内部まで連結した貫通孔を多数有する粒子をいう。貫通孔の大きさや形状は、特に限定されない。また、粒子内部に閉気孔を有していてもよい。
【0027】
無機酸化物中空粒子を製造する場合、熱分解後の無機酸化物粒子の表面を溶融すればよい。これにより、無機酸化物粒子の表面に存在する孔が閉塞され、粒子外殻に孔がなく、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が得られる。無機酸化物粒子の表面を溶融させるには、例えば、加熱温度を無機酸化物粒子の溶融温度以上にすればよい。
【0028】
熱分解、必要により溶融を行った後、無機酸化物粒子を回収する。無機酸化物粒子の回収は、例えば、噴霧熱分解装置の下流側から誘引ファンによって粉体回収装置に移動させて行えばよい。また、粉体回収装置の下流側に、必要に応じて、スクラバー等の除塵、浄化設備を配置することもできる。粉体回収装置としては、例えば、サイクロン粉体回収機、バグフィルター等を挙げることができる。更に、無機酸化物粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより、粒子径を調整してもよい。
【0029】
このようにして無機酸化物粒子を製造することができるが、本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、粒子密度の経時的な上昇が抑制されている。例えば、噴霧熱分解炉内で無機酸化物粒子の製造開始から1時間経過後、及び6時間経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度の差を、通常0.015g/cm3以下、好ましくは0.01g/cm3以下、更に好ましくは0.008g/cm3以下とすることができる。
【0030】
無機酸化物粒子の粒子密度は、通常0.2~3.0g/cm3であり、好ましくは0.2~2.0g/cm3であり、更に好ましくは0.2~1.0g/cm3である。なお、粒子密度は、乾式自動密度計を用いて、定容積膨張法により測定することができる。ここで、ここで、「定容積膨張法」とは、セル内に試料を投入した後、これに不活性ガスを充填して試料の体積を測定し、この体積と、予め測定しておいた試料の質量とから粒子密度を求める方法をいう。乾式自動密度計として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0031】
無機酸化物粒子の平均粒子径は、通常0.5~50μmであり、好ましくは0.5~20μmであり、更に好ましくは1~10μmである。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を使用することができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
1.粒子密度の測定
粒子密度は、乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、定容積膨張法により測定した。
【0034】
実施例1
撹拌槽(内径280mm)内に水道水を収容し、水道水にモル濃度が0.012mol/Lとなるように四ホウ酸ナトリウム(関東化学製)を添加し、室温において、3枚羽根プロペラ(翼の回転直径70mm)の撹拌機を用いて900rpmで2時間30分攪拌した。なお、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)は、0.25である。次に、モル濃度が0.045mol/Lとなるよう、硝酸カルシウム(林純薬工業製)と、硝酸マグネシウム(林純薬工業製)を撹拌槽に投入した後、0.75mol/Lとなるよう硝酸アルミニウム(林純薬工業製)を撹拌槽に投入し、撹拌機で撹拌して原料を水に溶解させた。さらに、この溶液にモル濃度が0.57mol/Lとなるようオルトケイ酸テトラエチル(東京化成工業製)を投入し、撹拌機を用いて3時間攪拌し、オルトケイ酸テトラエチルを溶解させた。このとき水溶液の液温を、チラーを用いて5℃に調整した。続いて、水溶液のpHが2.0となるよう硝酸(関東化学製)を添加して原料無機化合物含有水溶液を調製した。この原料無機化合物含有水溶液を50rpmで攪拌しながら2流体ノズルに送液し、ノズルから噴霧熱分解炉内に原料無機化合物含有水溶液に噴霧し、1000℃で焼成した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0035】
実施例2~4
表1に示す撹拌速度に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0036】
実施例5
撹拌翼としてパドル翼(翼の回転直径105mm)を用い、表1に示す比(d2/d1)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0037】
実施例6~8
表1に示す撹拌速度に変更したこと以外は、実施例5と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
実施例9
撹拌翼としてタービン翼(翼の回転直径140mm)を用い、表1に示す比(d2/d1)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0039】
実施例10~12
表1に示す撹拌速度に変更したこと以外は、実施例9と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0040】
比較例1
表1に示す撹拌速度に変更し、実施例5と同様の操作により無機酸化物粒子の製造を試みたところ、原料無機化合物含有水溶液が凝固したため、無機酸化物粒子の製造を断念した。
【0041】
比較例2
表1に示す撹拌速度に変更したこと以外は、実施例5と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0042】
比較例3
撹拌翼としてパドル翼(翼の回転直径35mm)を用い、表1に示す比(d2/d1)に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作により無機酸化物粒子の製造を試みたところ、原料無機化合物の一部が溶解しなかったため、無機酸化物粒子の製造を断念した。
【0043】
比較例4
撹拌翼としてタービン翼(翼の回転直径210mm)を用い、表1に示す比(d2/d1)に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1hr経過後、6hr経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差を求めた。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
比較例1は、原料無機化合物含有溶液の攪拌速度が遅すぎてせん断力が十分に付与されなかったため、原料無機化合物含有溶液が凝固し、無機酸化物粒子を製造できなかった。
比較例2は、原料無機化合物含有溶液の攪拌速度が速すぎてせん断力が過度に付与されたため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し、無機酸化物粒子の粒子密度が経時で上昇し、無機酸化物粒子の粒子密度のばらつきが大きくなった。
比較例3は、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)が小さく、原料無機化合物含有溶液にせん断力が十分に付与されず、原料無機化合物の一部が溶解しなかったため、無機酸化物粒子を製造できなかった。
比較例4は、撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)が大きく、原料無機化合物溶液にせん断力が過度に付与されたため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し、無機酸化物粒子の粒子密度が経時で上昇し、無機酸化物粒子の粒子密度のばらつきが大きくなった。
これに対し、実施例1~12は、原料無機化合物含有溶液の攪拌速度、及び撹拌槽内径(d1)に対する撹拌翼の回転直径(d2)の比(d2/d1)がそれぞれ特定範囲内に制御されているため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し難く、無機酸化物粒子の粒子密度の経時的な上昇が抑えられ、粒子密度のばらつきの少ない安定した品質の無機酸化物粒子が得られることがわかる。