(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両の排気バルブ装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/10 20060101AFI20231129BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20231129BHJP
F01N 13/18 20100101ALI20231129BHJP
F16K 31/44 20060101ALI20231129BHJP
F16K 1/22 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
F02D9/10 E
F02D9/10 H
F01N13/08 B
F01N13/18
F16K31/44 H
F16K1/22 D
(21)【出願番号】P 2020023456
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 利昌
(72)【発明者】
【氏名】古山 誠
(72)【発明者】
【氏名】高山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 直記
【審査官】藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120252(JP,A)
【文献】特開2017-180837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0268433(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254433(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014017523(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/10
F01N 13/08
F01N 13/18
F16K 31/44
F16K 1/22
F16D 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディに軸支された回動軸により排気通路内で弁体を開閉可能に支持し、前記バルブボディに取り付けられたアクチュエータの出力軸に可撓性を有する可撓ジョイント部材を固定し、前記可撓ジョイント部材の一端と前記バルブボディから突出した前記回動軸の一端とを剛体ジョイント部材を介して連結してなる車両の排気バルブ装置において、
前記剛体ジョイント部材は、
前記回動軸の一端に連結されて、前記回動軸の一端の軸支箇所を封止して前記排気通路から前記軸支箇所を経た排ガスの漏れを防止する封止面、及び前記封止面の周囲に形成された被動係合部を有する封止体と、
前記可撓ジョイント部材の一端に連結される連結部、及び前記封止体の被動係合部と係合して前記回動軸の軸線を中心とした相対回転を規制する駆動係合部を有する伝達体と
からな
り、
前記剛体ジョイント部材の封止体は、前記封止面の周囲から前記被動係合部として複数のアーム部が外周方向に延設された平板状をなし、
前記剛体ジョイント部材の伝達体は、一端に前記連結部が形成され、他端に前記駆動係合部として前記封止体の各アーム部がそれぞれ嵌合する複数の係合溝が形成された円筒状をなす
ことを特徴とする車両の排気バルブ装置。
【請求項2】
前記封止体は、前記封止面及び前記各アーム部を有する平板状に鋼板をプレスにより打抜き成型して製作され、
前記伝達体は、鋼管を所定長さで切断して、一端及び他端に前記連結部及び前記各係合溝を形成して製作されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項3】
前記封止体の各アーム部及び前記伝達体の各係合溝は、前記回動軸の軸線を中心として等間隔で配設されている
ことを特徴とする請求項
1または
2に記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項4】
前記封止体の封止面と前記伝達体の内周面との間に間隙が形成されている
ことを特徴とする請求項
1乃至
3の何れか1項に記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項5】
前記封止体の各アーム部の先端は、前記伝達体の外周面よりも外周側に突出して隅肉溶接されている
ことを特徴とする請求項
1乃至
4の何れか1項に記載の車両の排気バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の排気バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪車両や2輪車両に搭載されたエンジンの排気管には排気バルブ装置が設けられる場合があり、排気騒音の低減や排圧上昇によるエンジンの早期暖機等のような種々の用途に利用されている。例えば特許文献1に記載された排気バルブ装置は、バルブボディに形成された排気通路を介してエンジンの排気管の上流側と下流側とを連通させており、一対の軸受でバルブボディに軸支された回動軸により排気通路内で弁体が開閉可能に支持されている。バルブボディにはモータユニットが取り付けられ、その出力軸の回転が第1及び第2連結レバーを介して回動軸に伝達され、弁体が開閉駆動されて排気管を流通する排ガスが制限される。
【0003】
詳しくは、モータユニットの出力軸には一対の係合孔を有する第2連結レバーが固定され、回動軸には一対の係合片を有する第1連結レバーが固定されている。各係合孔と各係合片とは互いに係合して圧縮バネによりガタツキが防止され、これにより回動軸の軸線を中心とした第1連結レバーと第2連結レバーとの相対回転が規制されている。このためモータユニットの出力軸が回転すると、その回転は第2連結レバーから第1連結レバーを経て回動軸に伝達され、出力軸の回転に応じて弁体が開閉される。
【0004】
第1連結レバーの一対の係合片は、回動軸に固定された円板状の封止面からモータユニット側に向けて延設されており、封止面は回動軸の一方の軸支箇所に当接し、軸受により形成された微小な間隙を封止する役割を果たす。例えば、エンジンの排気管上の排ガス浄化用の触媒よりも上流側に排気バルブ装置が設けられている場合、バルブボディの排気通路には未浄化の排ガスが流通するが、このようなレイアウトでの外部への排ガス漏れが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、排気バルブ装置の仕様は、車両側から要求される諸条件(以下、車両側搭載条件と称する)に応じて決定されているため、異なる車両に搭載する場合には、その車両において要求される車両側搭載条件に適合するために排気バルブ装置の仕様が変更される。具体的には、車両の排気管の口径に応じてバルブボディを変更したり、要求される排ガスの制限量に応じてモータユニットを変更したり、排気管の周囲の設置スペースに応じてバルブボディに対するモータユニットの固定角度を変更したりする。このような排気バルブ装置の仕様変更に伴って、モータユニットの出力軸と回動軸との連結状態も変わるため、必然的に第1連結レバーや第2連結レバーを取り替える必要が生じる。
【0007】
しかしながら、特に第1連結レバーは回転伝達だけでなく回動軸の軸支箇所を封止する役割も果たしており、確実な排ガスの封止のために高い精度で製作されている。このような第1連結レバー全体を新規で作り替える必要が生じることから、その製作コストが高騰するという問題があった。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両側搭載条件が異なる車両に搭載する場合であっても、簡単な仕様変更により対応することができる車両の排気バルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の車両の排気バルブ装置は、バルブボディに軸支された回動軸により排気通路内で弁体を開閉可能に支持し、バルブボディに取り付けられたアクチュエータの出力軸に可撓性を有する可撓ジョイント部材を固定し、可撓ジョイント部材の一端とバルブボディから突出した回動軸の一端とを剛体ジョイント部材を介して連結してなる車両の排気バルブ装置において、剛体ジョイント部材は、回動軸の一端に連結されて、回動軸の一端の軸支箇所を封止して排気通路から軸支箇所を経た排ガスの漏れを防止する封止面、及び封止面の周囲に形成された被動係合部を有する封止体と、可撓ジョイント部材の一端に連結される連結部、及び封止体の被動係合部と係合して回動軸の軸線を中心とした相対回転を規制する駆動係合部を有する伝達体とからなり、剛体ジョイント部材の封止体が、封止面の周囲から被動係合部として複数のアーム部が外周方向に延設された平板状をなし、剛体ジョイント部材の伝達体が、一端に前記連結部が形成され、他端に駆動係合部として封止体の各アーム部がそれぞれ嵌合する複数の係合溝が形成された円筒状をなすことを特徴とする。
【0011】
その他の態様として、封止体が、封止面及び各アーム部を有する平板状に鋼板をプレスにより打抜き成型して製作され、伝達体が、鋼管を所定長さで切断して、一端及び他端に連結部及び各係合溝を形成して製作されていてもよい。
【0012】
その他の態様として、封止体の各アーム部及び伝達体の各係合溝が、回動軸の軸線を中心として等間隔で配設されていてもよい。
【0013】
その他の態様として、封止体の封止面と伝達体の内周面との間に間隙が形成されていてもよい。
【0014】
その他の態様として、封止体の各アーム部の先端が、伝達体の外周面よりも外周側に突出して隅肉溶接されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両の排気バルブ装置によれば、車両側搭載条件が異なる車両に搭載する場合であっても、簡単な仕様変更により対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の排気バルブ装置を示す斜視図である。
【
図2】排気バルブ装置を示す
図1のII-II線断面図である。
【
図4】剛体ジョイント部材及び可撓ジョイント部材の詳細を示す組立斜視図である。
【
図5】剛体ジョイント部材及び可撓ジョイント部材の詳細を示す分解斜視図である。
【
図6】剛体ジョイント部材の封止体と伝達体との結合状態を示す
図4の斜視図である。
【
図7】回動軸、剛体ジョイント部材、可撓ジョイント部材及びモータユニットの出力軸の結合状態を示す
図2の部分拡大断面図である。
【
図8】実施形態とは異なるモータユニットに変更した一例を示す
図7に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を4輪車両の排気バルブ装置に具体化した一実施形態を説明する。
排気バルブ装置1は
図1に示す姿勢で図示しない車両の床下に設置されており、以下の説明では車両を主体として、前後、左右及び上下方向を表現する。エンジンからの排気管2a,2bは車両の床下を後方へと延設され、その上流側2aと下流側2bとが排気バルブ装置1のバルブボディ3に形成された排気通路4を介して連通し、図示はしないが下流側の排気管2bには排気浄化用の触媒及び消音器が設けられている。
【0018】
図1~3に示すように、バルブボディ3の断面円形状をなす排気通路4内には回動軸5が配設され、その上部及び下部が軸受6a,6bにより回動可能に軸支されている。排気通路4内において回動軸5には円板状をなす弁体7が一対のビス8により固定され、回動軸5の回動に応じて弁体7により排気通路4が開閉される。なお、軸受6a,6bによる支持は必ずしも必要ではなく、これを省略して、バルブボディ3に形成した軸孔により直接的に回動軸5を軸支してもよい。
【0019】
バルブボディ3の上部には、後述する遮熱ブラケット11及びモータユニット13を固定するためのベース部9が一体形成され、ベース部9の中心に回動軸5の上端が上方に向けて突出している。ベース部9上には回動軸5の軸線Cを中心とした環状をなすガイド部10が突設され、その外周面をガイド面10aとしている。バルブボディ3の前後長に対応してガイド部10の前部及び後部が直線状に面取りされることにより、ガイド面10aは左右に分割されてそれぞれ回動軸5の軸線Cを中心とした円弧状をなしている。
【0020】
バルブボディ3上には鋼板をプレス成型して製作された遮熱ブラケット11が配設され、遮熱ブラケット11は上方に凹の皿状をなし、その一側に貫設されたガイド孔11aがバルブボディ3のガイド部10に嵌め込まれている。ガイド孔11aの内径は、ガイド部10の一対のガイド面10aが形作る外径と一致しているため、ガイド面10aにガイド孔11aの内周を摺接させながら、回動軸5の軸線Cを中心として遮熱ブラケット11の角度に任意に変更でき、所期の固定角度とした上で点付け溶接(
図7中にW1で示す)により遮熱ブラケット11がバルブボディ3に固定されている。但し、遮熱ブラケット11の固定構造はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
【0021】
遮熱ブラケット11上には、本発明のアクチュエータとしてのモータユニット13が配設されて3本のボルト14により固定され、下方に指向するモータユニット13の出力軸13aは回動軸5の軸線C上に配設され、遮熱ブラケット11内で回動軸5の上端に対して所定間隔をおいて相対向している。図示はしないがモータユニット13にはモータ及び減速機構が内蔵され、一側に設けられたコネクタ13bを介した給電によりモータが作動し、その回転が減速機構により減速されて出力軸13aを回転駆動するようになっている。
【0022】
遮熱ブラケット11内において、回動軸5の上端には剛体ジョイント部材15が固定されている。剛体ジョイント部材15の詳細については後述するが、この剛体ジョイント部材15と可撓ジョイント部材16とを介して、モータユニット13の出力軸13aの回転がバルブボディ3の回動軸5に伝達される。
図2,4,5に示すように、可撓ジョイント部材16はピアノ線等の線材を螺旋状に巻回して製作され、その上端は出力軸13aに形成されたバネ溝13cに嵌め込まれ、下端は剛体ジョイント部材15の上端、詳しくは後述する伝達体19の上端に形成された本発明の連結部としてのバネ溝19aに嵌め込まれている。可撓ジョイント部材16は出力軸13aと剛体ジョイント部材15との間に弾性をもって介装され、これにより所期の配置状態からの脱落が防止されている。
【0023】
このような螺旋状をなすことにより、可撓ジョイント部材16は断熱性と可撓性とを兼ね備えている。そして、可撓ジョイント部材16の断熱性により、排ガスで過熱したバルブボディ3からモータユニット13への熱の伝導が遮断されており、遮熱ブラケット11によるバルブボディ3からの輻射熱の遮断と相俟って、熱害からモータユニット13を保護する作用が奏される。また可撓ジョイント部材16の可撓性は、剛体ジョイント部材15側と出力軸13a側との間の僅かな軸線Cのズレを吸収する作用を奏し、詳細は後述するが、これにより剛体ジョイント部材15の伝達体19に要求される精度の緩和に貢献している。
【0024】
次いで、剛体ジョイント部材15の詳細を説明する。
図4,5,7に示すように、全体として剛体ジョイント部材15は、回動軸5の軸支箇所を封止する封止体18と、モータユニット13の回転を回動軸5へと伝達する伝達体19とから構成されている。封止体18は、鋼板をプレスにより打抜き成型して製作された平板状をなし、伝達体19は、鋼管を所定長さで切断して製作された円筒状をなし、それぞれステンレス鋼等の耐熱性の高い素材が用いられている。
【0025】
所期の形状の剛体ジョイント部材15を形作るものであれば封止体18及び伝達体19の個々の形状は任意に設定できるが、あえて封止体18を平板状とし、伝達体19を筒状としたのは、それぞれプレスにより打抜き成型と鋼管の切断とにより簡単に製作可能とするためである。無論、互いに係合可能であれば、封止体18及び伝達体19を他の形状としてもよい。
【0026】
封止体18の封止面18aは円形状をなして中心に軸孔18bが貫設され、封止面18aの周囲の等分4箇所からは、それぞれ本発明の被動係合部としてのアーム部18cが外周方向に延設されている。ベース部9上から突出する回動軸5の上端には二面幅を有するカシメ部5aが形成され、このカシメ部5aに上方から封止体18の軸孔18bが嵌め込まれている。軸孔18bがカシメ部5aに対応する二面幅の形状をなすことで封止体18の相対回転が規制されると共に、カシメ部5aがカシメ加工により潰されて軸孔18bからのカシメ部5aの離脱が防止され、結果として回動軸5の上端に封止体18が固定されている。
【0027】
封止体18の封止面18aはバルブボディ3の上側の軸支箇所に上方から当接して、軸受6aにより形成された微小な間隙を封止している。エンジンの運転中においてバルブボディ3の排気通路4内には未浄化の排ガスが流通するが、その排ガスが軸受6aの間隙を経て外部に漏れる事態が封止面18aにより防止される。なお
図2に示すように、バルブボディ3の下側の軸受6bは、封止キャップ20の装着により排気通路4からの排ガスの漏れが防止されている。
【0028】
また、伝達体19の上端にはバネ溝19aが形成されて、上記したように可撓ジョイント部材16の下端が嵌め込まれている。伝達体19の下端には、封止体18の各アーム部18cに対応する等分4箇所には、それぞれ本発明の駆動係合部としての係合溝19bが形成され、各係合溝19bの幅はアーム部18cの幅と一致或いはアーム部18cよりもやや幅広に形成されている。伝達体19は上方より封止体18上に配設され、その各係合溝19bには封止体18のアーム部18cがそれぞれ嵌合し、これにより回動軸5の軸線Cを中心とした封止体18と伝達体19との相対回転が規制されている。結果として、モータユニット13の出力軸13aの回転が可撓ジョイント部材16及び剛体ジョイント部材15を介して回動軸5に伝達され、弁体7が開閉駆動されて排気管2a,2bを流通する排ガスが制限される。なお、互いの係合により相対回転を規制できるものであれば、駆動係合部及び被動係合部の形状はこれに限るものではなく任意に変更可能である。
【0029】
特に
図6,7に示すように、各アーム部18cの先端は伝達体19の外周面よりも若干外周側に突出して外周面との間に隅部を形成し、それぞれに隅肉溶接(
図7中にW2で示す)が施されて封止体18と伝達体19とが結合している。このようなアーム部18cの長さ設定により隅肉溶接を可能としているため、例えばアーム部18cの先端が伝達体19の外周面と面一の場合に比較して溶接作業を容易に実施することができる。なお、封止体18と伝達体19とを所期の配置で排気バルブ装置1に組付けた後には、上記のように可撓ジョイント部材16の弾性を受けて係合溝19bへのアーム部18cの嵌合状態が保たれるため、溶接作業は必ずしも実施する必要はなく省略してもよい。
【0030】
図6,7に示すように、伝達体19の内径に対して封止体18の封止面18aの外径は若干小さく設定されている。このため伝達体19の内周面と封止面18aの外周との間には、本発明の間隙としての円弧状をなす4本のスリット21が形成され、各スリット21を介して封止体18の上側と下側とが連通している。車両の床下に配置される排気バルブ装置1には粉塵や泥水等(以下、異物と称する)が降りかかり、これらの異物は遮熱ブラケット11内を経て剛体ジョイント部材15の伝達体19内に侵入する場合がある。回動軸5と共に回転する伝達体19内に堆積した異物は、回動軸5の回動を妨げると共に、剛体ジョイント部材15の慣性重量の増加により排気バルブ装置1の良好な制御応答性を妨げてしまう。さらに、堆積した異物により伝達体19とその近傍にある回転軸5、封止体18に腐食劣化を引き起こす可能性がある。スリット21が形成されることにより伝達体19内に侵入した異物は下方外部に排出され、これにより異物に起因するトラブルを未然に防止することができる。
【0031】
以上のように構成された排気バルブ装置1は、例えば以下の手順により組み立てられる。
予め封止体18、伝達体19、回動軸5、可撓ジョイント部材16等の個々の部品を製作しておき、まず、封止体18の軸孔18bに回動軸5の上端を挿入してカシメ加工により結合する。次いで、封止体18上に伝達体19を配設して、伝達体19の各係合溝19bに封止体18のアーム部18cを嵌合させた上で、各アーム部18cの先端の隅部をそれぞれ溶接して剛体ジョイント部材15を完成させる。そして、回動軸5を上方からバルブボディ3の軸受6a,6bに挿入すると、剛体ジョイント部材15の封止面18aが上側の軸支箇所に当接し、この状態で排気通路4内の回動軸5に弁体7をビス8により固定する。
【0032】
次いで、バルブボディ3のガイド部10に遮熱ブラケット11のガイド孔11aを嵌め込み、所期の固定角度で点付け溶接して結合する。その後に、剛体ジョイント部材15の伝達体19上に可撓ジョイント部材16を配設し、上方から遮熱ブラケット11上にモータユニット13を配設してボルト14で固定する。これにより、モータユニット13の出力軸13aと剛体ジョイント部材15の伝達体19との間に可撓ジョイント部材16が弾性をもって介装され、排気バルブ装置1の組付作業が完了する。無論、組立作業の手順はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
【0033】
次に、以上のように構成された排気バルブ装置1による作用効果について説明する。
本実施形態の排気バルブ装置1の剛体ジョイント部材15は、回動軸5の軸支箇所を封止する機能及びモータユニット13から回動軸5への回転伝達の機能を奏することから、[背景技術]に記載した特許文献1の排気バルブ装置の第1連結レバーに相当する部材と見なせる。そして、排気バルブ装置1を異なる車両に搭載する場合、その車両において要求される車両側搭載条件に適合すべく、モータユニット13を変更したりバルブボディ3に対するモータユニット13の固定角度を変更したりするが、その際に特許文献1の技術では、第1連結レバー全体を新規で作り替える必要があった。
【0034】
これに対して本実施形態では、剛体ジョイント部材15が封止体18及び伝達体19からなるため、異なる車両への搭載に際してモータユニット13を変更する場合でも、その固定角度を変更する場合でも、剛体ジョイント部材15全体を新規で作り替える必要はなく、その理由を以下に述べる。
【0035】
まず説明の前提として、封止体18及び伝達体19に要求される部品精度及びそれぞれの製法について説明する。回動軸5の軸支箇所を封止する封止体18の封止面18aは、軸受6aの端面に密着して排ガスの漏れを防止するために高い平面度が要求される。これに対して封止面18aから延設された各アーム部18cは、係合溝19bに嵌合して伝達体19と結合できさえすれば、それほど高い精度は必要ない。そして、円板状をなす封止面18aと封止面18aから外周に延設された細長い各アームとの間には明確な形状の差異があり、換言すると互いの境界に大きな形状変化が生じているため、アーム部18cの変形による影響が封止面18aに及び難くなっている。
【0036】
プレスにより打ち抜き成型される際に鋼板に作用する剪断力は部品を変形させる要因になり得るが、円形状をなす封止面18aは、細長い形状のアーム部18cに比較して元々変形し難い。さらに、上記のような封止面18aとアーム部18cとの形状が異なることにより、仮に剪断力によりアーム部18cが変形したとしても、封止面18aまでは変形の影響を受けにくい。また、係合溝19bに嵌合させる際にアーム部18cを変形させてしまうこともあり得るが、その場合でも同様である。結果として所期の部品精度を達成した上で、プレスによる打ち抜き成型という簡単な製法により封止体18を製作することができる。
【0037】
一方、伝達体19は鋼管を切断して製作されており、その部品精度は高いとは言い難い。しかしながら、可撓ジョイント部材16の可撓性により出力軸13aとの間の軸線Cのズレが吸収されるため、伝達体19の全体的な精度がある程度低くても問題なく回転伝達が可能であり、結果として鋼管の切断という簡単な製法により伝達体19を製作することができる。
【0038】
剛体ジョイント部材15を本実施形態のように分割することなく一体部品として製作する場合には、例えば無垢材からの切削加工或いは鋳造等の製法が考えられる。しかしながら切削加工は製造コストを高騰させる要因になり、無垢材は無論のこと、鋳造の場合でも高い平面度が要求される封止面18aに相当する部位を切削加工する必要があるため、何れの場合もコスト面で問題が生じてしまう。剛体ジョイント部材15を封止体18と伝達体19とに分割して個別に製作する本実施形態によれば、封止面18aに要求される高い平面度を達成した上で、それぞれの部材を簡単な製法で製作できる。加えて、封止体18と伝達体19との結合作業は隅肉溶接により簡単に実施でき、剛体ジョイント部材15と回動軸5との結合作業はカシメ加工により簡単に実施できることも、製作容易に大きく貢献している。
【0039】
以上の要因により、異なる車両への搭載のために排気バルブ装置1の仕様を変更する場合とは別に、単に特定の車両に対応して排気バルブ装置1を製作するだけの場合であっても、簡単な製法により剛体ジョイント部材15を製作してコスト低減を達成できるという利点が得られる。
【0040】
次いで、車両側搭載条件への適合のためにモータユニット13を変更する場合について述べる。この場合にはモータユニット13の出力軸13aの形状変化に対応して、可撓ジョイント部材16の形状も変化する。このため、可撓ジョイント部材16と係合する剛体ジョイント部材15の伝達体19の形状を変更する必要が生じるが、封止体18に関しては共通部材で対応できる。
【0041】
図8は実施形態とは異なるモータユニット13に変更した一例を示し、その出力軸13aにはバネ溝13cに代えて下方に向けてピン31が立設されている。このため可撓ジョイント部材16の上端はピン31に掛止されており、この係合状態に倣うように、伝達体19の上端には上方に向けてピン32が立設されて、可撓ジョイント部材16の下端が掛止されている。従って、実施形態とは別形状のピン32を備えた伝達体19を用いる必要が生じるものの、封止体18については形状変更の必要がないことから、実施形態と共通の封止体18を使用できる。結果としてモータユニット13の変更に対応した排気バルブ装置1の仕様変更は、簡単に製作可能な伝達体19のみを入れ替えるだけで完了し、例えば剛体ジョイント部材15全体を入れ替える場合に比較して格段に低コストで対応することができる。
【0042】
一方、車両側搭載条件への適合のためにバルブボディ3に対するモータユニット13の固定角度を変更する場合について述べる。封止体18には等分4箇所にアーム部18cが形成され、伝達体19には等分4箇所に係合溝19bが形成されている。結果として各アーム部18c及び各係合溝19bは、それぞれ回動軸5の軸線Cを中心として90°毎の等間隔で配設され、封止体18と伝達体19とを90°間隔の角度を異にする4位置で任意に結合可能となっている。例えば、実施形態でのバルブボディ3に対するモータユニット13の固定角度を基準として、異なる車両への搭載のために90°,180°,270°の何れかに固定角度を変更する場合には、その固定角度に対応して封止体18と伝達体19とを結合するだけで完了する。この場合には、封止体18と伝達体19との何れも入れ替えることなく実施形態と共通の部材を使用できることから、コストアップせずに対応することができる。
【0043】
無論、アーム部18c及び係合溝19bの配置は上記に限るものではなく、例えば、それぞれ回動軸5の軸線Cを中心とした等分3箇所に形成してもよい。また、予め搭載する可能性がある車両が判明している場合には、その車両側搭載条件を考慮してアーム部18cや係合溝19bを形成すればよい。例えば実施形態の固定角度を基準として、異なる車両への搭載のために固定角度を45°変更する場合には、アーム部18cを90°間隔の4箇所のままとした上で、係合溝19bを45°間隔で8箇所に形成すればよい。
【0044】
本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では4輪車両の排気バルブ装置1として具体化したが、例えば、これに代えて2輪車両や3輪車両の排気バルブ装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 排気バルブ装置
3 バルブボディ
4 排気通路
5 回動軸
13 モータユニット(アクチュエータ)
13a 出力軸
15 剛体ジョイント部材
16 可撓ジョイント部材
18 封止体
18a 封止面
18c アーム部(被動係合部)
19 伝達体
19a バネ溝(連結部)
19b 係合溝(駆動係合部)
21 スリット(間隙)