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特許7393246カーボンナノチューブ分散液およびそれを用いた電界電子放出素子の製造方法並びに発光素子の製造方法
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  • 特許-カーボンナノチューブ分散液およびそれを用いた電界電子放出素子の製造方法並びに発光素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液およびそれを用いた電界電子放出素子の製造方法並びに発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/304 20060101AFI20231129BHJP
   H01J 9/02 20060101ALI20231129BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20231129BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231129BHJP
【FI】
H01J1/304
H01J9/02 B
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020031292
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136143
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】下位 法弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
【審査官】大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-204304(JP,A)
【文献】特開2002-270379(JP,A)
【文献】特開2014-154276(JP,A)
【文献】特開2019-175648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/30-1/316、9/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中に有機インジウム化合物および錫アルコキシド、カーボンナノチューブおよび有機樹脂粒子を含有させたカーボンナノチューブ分散液であって、前記の有機樹脂粒子が1000℃以下で熱分解する性質を有するものである、カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記の有機樹脂粒子が800℃で熱分解する性質を有するものである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記の有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合、インジウム酸化物および錫酸化物の質量の和がCNT分散液に対して0.5質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記のカーボンナノチューブの質量と、有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合のインジウム酸化物および錫酸化物質量の和との比が0.001以上0.2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記の有機樹脂粒子の数平均1次粒子径が30nm以上3μm以下であり、前記の有機樹脂粒子の質量と有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合のインジウム酸化物および錫酸化物の質量の和との比が0.003以上0.5以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
さらに錫ドープインジウム酸化物粉を含有する、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
前記の有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合、インジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉の質量の和がCNT分散液に対して5質量%以上50質量%以下である、請求項6に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
前記のカーボンナノチューブの質量と、有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合のインジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉質量の和との比が0.001以上0.2以下である、請求項6または7に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
前記の有機樹脂粒子の数平均1次粒子径が30nm以上3μm以下であり、前記の有機樹脂粒子の質量と有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合のインジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉の質量の和との比が0.003以上0.5以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液を基板に塗布する工程と、
前記のカーボンナノチューブ分散液を塗布した基板を300℃以上600℃未満で加熱して基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する工程と、
前記の表面にカーボンナノチューブ含有膜を形成した基板を600℃以上1200℃以下で加熱して基板上に電界電子放出膜を形成する工程、
を含む、電界電子放出素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液を基板に塗布する工程と、
前記のカーボンナノチューブ分散液を塗布した基板を600℃以上1200℃以下で加熱して基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成して基板上に電界電子放出膜を形成する工程、
を含む、電界電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の製造方法で得られた電界電子放出素子をカソード電極とし、前記電界電子放出素子に対向して配置されるアノード電極および蛍光体が設けられている構造体(アノード)を含み、前記電界電子放出素子と前記アノードとの間を真空に保持する、発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強電界によって電子を放出する電界電子放出膜を製造するために用いるカーボンナノチューブ分散液、当該分散液を用いた電界電子放出膜および電界電子放出素子(電界電子放出電極)、並びに発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の高輝度フラットパネルディスプレイとして、フィールドエミッンョンディスプレイ(FED)の研究開発が進められている。また、一般照明としての発光素子は、白熱灯や蛍光灯が長年にわたり用いられてきており、蛍光灯は白熱灯と比べると同じ明るさでも消費電力を低く抑えられるという特徴を有しており、照明として広く利用されている。近年、白色灯や蛍光灯などの既存の照明に代わり、発光ダイオード(LED)を光源とした表示装置や照明が開発され、普及している。最近では、信号機などの表示装置、LCD用のバックライト、各種照明などに利用されている。
LEDは、半導体のキャリアの再結合により発光する原理であるため、材料のバンド構造で決められた固有の波長の単色光であり、かつ点光源であるため、特にバックライトや照明などの大面積に均一に、そして白色などのブロードな波長で利用するアプリケーションには不適である。特に、白色表示にする場合には、紫外線発光素子としてLEDを用い、その紫外線で蛍光体を発光させる構成が必要となっている。
【0003】
これに対し、FEDと同様の方式で、面電子放出源から放出される電子で蛍光体を発光させることで、薄型かつ高輝度の面発光素子が容易に得られると考えられる。電界放射型の電子放出源(フィールドエミッタ)は、物質に印加する電界の強度を上げると、その強度に応じて物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭まり、電界強度が107V/cm以上の強電界となると、物質中の電子がトンネル効果によりそのエネルギー障壁を突破できるようになる。そのため物質から電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアッソンの方程式に従うために、電子を放出する部材(エミッタ)に電界が集中する部分を形成すると、比較的低い引き出し電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
近年、エミッタ材料としてカーボンナノチューブ(以下、CNTと表記する。)が注目されている。CNTは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを丸めた中空の円筒であり、その外径はナノメータオーダで、長さは通常0.5μm~数10μmの非常にアスペクト比の高い物質である。その形状から、電界が集中しやすく高い電子放出能が期待できる。また、CNTは、化学的、物理的安定性が高いという特徴を有するため、動作真空中の残留ガスの吸着やイオン衝撃等に対して影響を受け難いことが期待できる。
【0004】
CNTを使用した電子放出源の製造方法として、CNTを含む分散液を基板に塗布し、乾燥・焼成する方法は、生産性および製造コストの点で優れていると考えられ、種々検討されている。
CNTは非常に細かい繊維状の微粒子(粉末)であるため、CNTを用いて電子放出源を形成する場合は、CNTを基板に固着する必要がある。一般に、CNTの固着には、樹脂などのバインダ材料が用いられる。具体的には、バインダ材料とCNTを溶媒に混合分散してペースト状(またはインク状)とし、これを印刷法、スプレー法、ダイコーター法等の手法で基板の表面に塗布し、乾燥・焼成することにより、バインダ材料の接着性を利用して基板上にCNTを固着する。このような方法でCNTを基板上に固着した場合、CNT自体はバインダ材料の中に埋め込まれたかたちとなるため、高い電子放出特性を実現するために、CNTを露出させ、かつCNTを基板に対して垂直に配向させる方法が用いられてきた。例えば、特許文献1には、CNTを含む層の表面に多孔質で粘着性を有するシート部材を貼り付けて乾燥した後、そのシート部材を剥離することにより、CNTを部分的に露出させ、かつCNTを垂直に配向させる技術が開示されている。また、特許文献2には、CNTを含む層をドライエッチングする技術が開示されている。さらに、膜の内部に存在するCNTの露出方法としては、特許文献3には、CNT、オリゴマー、架橋性モノマー、重合開始材および溶剤を含む組成物を基板上に塗布して形成した膜に対して熱処理を行い、熱応力により膜に亀裂を生じさせ、その亀裂部内にCNTを露出させ、電子放出源とする方法が提案されている。
特許文献4および特許文献5には、60~99.9質量%の錫ドープインジウム酸化物と0.1~20質量%のCNTとを含む電界電子放出膜であって、前記の膜表面に、幅が0.1~50μmの範囲である溝が1mm2当たりの総延長2mm以上、かつ、溝部分の面積比率が2~60%の範囲で形成されており、前記の溝の壁面においてCNTが露出した構造を有する、電界電子放出膜が提案されている。このうち、特許文献5の電界電子放出膜は、溝の深さの変動係数が0.30以下であることを特徴とするものである。
CNTを使用した電子放出源は、前述のFEDや照明のほか、電子線露光装置、X線発生装置等の様々な用途に活用することが提案され期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-035360号公報
【文献】特開2001-035361号公報
【文献】特開2010-086966号公報
【文献】特開2015-133196号公報
【文献】特開2019-175648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光素子等に用いられる電界電子放出素子(電界電子放出電極)に求められる特性としては、電力消費量が低い(省電力性が高い)等が挙げられる。電力消費量が低い(省電力性が高い)とは、一定の電界電子の放出量を得るために必要である電界強度が低いことである。また、電界電子放出素子の製造工程がコストや生産性に優れることも併せて求められる。
特許文献1~4の技術を用いて、電界電子放出素子(電界電子放出電極)を用いた発光素子を作成した場合、省電力性には改善の余地があった。省電力性を改善するには、一定量の電界電子放出を得るために必要な印加電圧が低いことが有用である。また、印加電圧を低くすることにより、電界電子放出膜を用いた照明等の装置を小型化することが可能になる等の効果も期待できる。
特許文献1に記載の方法では、粘着性のシート状部材とCNTとの密着性をコントロールすることが困難であり、剥離の際にCNTが不均一に露出し、電力消費量が増加する要因となっていた。特許文献2に記載の方法では、CNTを露出させるためにドライエッチングを行うが、エッチングの際にCNTが劣化し、電力消費量が増加する要因となっていた。また、特許文献1および2に記載の方法は、基板と水平方向に配向しているCNTについては露出させる効果が少ないので、CNTを起毛する工程が必要であった。さらに、これらの方法では、膜の形成のために有機質のバインダと有機溶媒とを使用するため、導電性の高い膜を得ることが困難であった。特許文献3に記載の技術では、膜の主成分を樹脂とする必要があり、膜の導電性を高くすることが困難であることや、CNTを露出させる亀裂の密度や分布の制御が容易ではなく、高い省電力性を得ることが困難であるという問題があった。特許文献4および5に記載の技術は、発光素子に用いた場合、それまでの技術より小電力で作動が可能である電界電子放出膜が記載されているが、特許文献4に記載の技術では、省電力性の点で改善の余地があった。特許文献5に記載の技術では、省電力性は高いものの、溝の深さの変動係数が0.30以下である溝を機械的に形成する工程が必要で、生産性の点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、製造工程において表面に溝を形成する工程が不要であり、一定量の電界電子放出を得るために必要な印加電圧が低く、省電力性に優れた電界電子放出膜、電界電子放出素子(電界電子放出電極)を製造するためのCNT分散液および、当該分散液を用いた電界電子放出素子並びに当該電界電子放出素子を用いた発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本明細書では以下の発明を開示する。
[1]有機溶媒中に有機インジウム化合物、錫アルコキシド、錫ドープインジウム酸化物粉、カーボンナノチューブおよび有機樹脂粒子を含有させたCNT分散液であって、前記の有機樹脂粒子が1000℃以下で熱分解する性質を有するものである、CNT分散液が提供される。
[2]上記[1]に記載の有機樹脂粒子は、800℃で熱分解する性質を有するものであることが好ましい。
[3]上記[1]または[2]項に記載のCNT分散液は、前記の有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合、インジウム酸化物および錫酸化物の質量の和が0.5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
[4]また、当該CNT分散液は、前記のカーボンナノチューブの質量と、前記のインジウム酸化物および錫酸化物の質量の和との比が0.001以上0.2以下であることが好ましい。
[5]また、当該CNT分散液は、前記の有機樹脂粒子の数平均1次粒子径が30nm以上3μm以下であり、前記の有機樹脂粒子の質量と前記のインジウム酸化物および錫酸化物の質量の和との比が0.003以上0.5以下であることが好ましい。
[6]上記[1]記載のCNT分散液は、さらに錫ドープインジウム酸化物粉を含有することができる。
[7]当該CNT分散液は、前記の有機インジウム化合物および錫アルコキシドが熱分解により化学量論組成の酸化物を形成したと仮定した場合、インジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉の質量の和が0.5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
[8]また、当該CNT分散液は、前記のカーボンナノチューブの質量と、前記のインジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉の質量の和との比が0.001以上0.2以下であることが好ましい。
[9]また、当該CNT分散液は、前記の有機樹脂粒子の数平均1次粒子径が30nm以上3μm以下であり、前記の有機樹脂粒子の質量と前記のインジウム酸化物、錫酸化物および錫ドープインジウム酸化物粉の質量の和との比が0.003以上0.5以下であることが好ましい。
[10]また、本発明においては、上記[1]に記載のカーボンナノチューブ分散液を基板に塗布する工程と、前記のカーボンナノチューブ分散液を塗布した基板を300℃以上600℃未満で加熱して基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する工程と、前記の表面にカーボンナノチューブ含有膜を形成した基板を600℃以上1200℃以下で加熱して基板上に電界電子放出膜を形成する工程を含む、電界電子放出素子の製造方法が提供される。
[11]また、本発明においては、上記[1]に記載のカーボンナノチューブ分散液を基板に塗布する工程と、前記のカーボンナノチューブ分散液を塗布した基板を600℃以上1200℃以下で加熱して基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成して基板上に電界電子放出膜を形成する工程、を含む、電界電子放出素子の製造方法が提供される。
[12]また、本発明においてはさらに、上記[10]または[11]に記載の製造方法により得られた電界電子放出素子をカソード電極とし、前記電界電子放出素子に対向して配置されるアノード電極および蛍光体が設けられている構造体(アノード)を含み、前記電界電子放出素子と前記アノードとの間を真空に保持する、発光素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
製造工程において表面に溝を形成する工程が不要であり、一定量の電界電子放出を得るために必要な印加電圧が低く、省電力性に優れた電界電子放出膜、電界電子放出素子(電界電子放出電極)、を製造するためのCNT分散液および、当該分散液を用いた電界電子放出素子並びに当該電界電子放出素子を用いた発光素子の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例、比較例の電界電子放出素子における、印加した電界強度と、カソード電極とアノード電極間に流れる電流の電流密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[CNT分散液]
本発明において、電界電子放出膜を製造するためのCNT分散液は、溶媒中に錫ドープインジウム酸化物(以下、ITOと表記する。)を形成するための有機インジウム化合物および錫アルコキシド、もしくは、有機インジウム化合物、錫アルコキシドおよび錫ドープインジウム酸化物粉、エミッタとなるCNT、および、1000℃以下で熱分解する性質を有する有機樹脂粒子を溶媒中に含有させたものである。なお、本発明のCNT分散液は、1000℃以下で熱分解する性質を有する樹脂粒子を含有することが最大の特徴であるが、その理由については後述する。
CNT分散液に使用する溶媒(分散媒)の種類には、特に制限はないが、インジウムおよび錫成分にアルコキシドを用いる場合には、混合時の加水分解を抑制する観点から有機溶媒を使用することが好ましい。有機溶媒の好適な例として、アルコール、酢酸ブチル等が挙げられる。本発明のCNT分散液には、上記の他、分散剤、増粘剤等を添加することができる。
【0012】
[金属成分およびCNT]
CNT分散液に添加するインジウム成分としては、有機インジウム化合物が挙げられる。有機インジウム化合物としては、トリアルキルインジウムまたはインジウムアルコキシドを使用することができる。取り扱いの容易性の観点からトリアルキルインジウムとしてはトリブチルインジウムが好適な例として挙げられる。アルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、ブトキシド、イソプロポキシド等、加熱により酸化物に変化するものであれば、その種類は特に限定されない。
CNT分散液に添加する錫成分としては、錫アルコキシドが挙げられる。アルコキシドとしては、インジウムアルコキシドと同様に、メトキシド、エトキシド、ブトキシド、イソプロポキシド等、加熱により酸化物に変化するものであれば、その種類は特に限定されない。
インジウムおよび錫の成分としては、ITO粉をCNT分散液に添加することもできる。ITO粉の粒径は、平均粒径として3μm以下が好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。ITOの前駆物質として、有機インジウム化合物と錫アルコキシド、有機インジウム化合物および錫アルコキシドの1種または2種とITO粉の組み合わせがある。本明細書においては、ITO含有量という言葉は、CNT分散液中に含まれる有機インジウム化合物および錫アルコキシドが全て熱分解により化学量論組成の酸化物に変化すると仮定して算出した値である。したがって、金属成分として有機インジウム化合物と錫アルコキシドのみを含むCNT分散液の場合は、有機インジウム化合物と錫アルコキシドの仕込み量から、金属成分として有機インジウム化合物、錫アルコキシドとITO粉を含む場合は、有機インジウム化合物と錫アルコキシドの仕込み量および添加したITO粉の量からITO含有量を算出する。CNT分散液中のITO含有量は特に限定されないが、CNT分散液の0.5質量%~50質量%とすることができる。
CNT分散液に使用するCNTの種類には、特に制限はないが、単層(シングルウォール)CNTを用いることが好ましい。CNT分散液中のCNT含有量は、CNT分散液中のITOの含有量に対して0.1~20質量%の範囲が好ましい。0.1質量%未満の場合には、電子の放出が不十分となるおそれがあり、20質量%を超えると、高価なCNTを多量に必要とし、膜の製造コストが高くなるので、不経済である。上記のバランスを考慮すると、電界電子放出膜中のCNT含有量は、0.5~15質量%がさらに好ましく、1~10質量%が一層好ましい。
【0013】
[有機樹脂粒子]
使用する有機樹脂粒子としては、600℃以上の加熱処理により熱分解もしくは揮発する性質を有するものであればその種類に特に制限はない。1000℃以下の加熱処理で熱分解する性質を有するものを用いることができる。なお、本明細書においては、熱分解は揮発も含む概念として扱う。有機樹脂粒子として、600℃以上の加熱処理により熱分解もしくは揮発する性質を有するものとするのは、後述するCNT端部露出処理の際に樹脂粒子を除去しCNTの端部を露出できるようにするためである。1000℃以下の加熱処理で熱分解する性質を有するものを用いれば、CNT端部露出処理の際にエネルギーコストを低く抑えることができる。本発明においては、当該熱分解温度の下限は特に規定するものではないが、後述するCNT分散液の塗布液の加熱(焼成)を300℃以上で行うので、その加熱温度以上であることが好ましい。上記の600℃以上の加熱処理により熱分解もしくは揮発する性質は、1×10-5Paの減圧下における熱分解もしくは揮発する性質でもよい。例えば、好適な有機樹脂粒子として、1×10-5Paの減圧下において800℃の加熱処理により熱分解もしくは揮発する性質を有する有機樹脂粒子があげられる。
したがって、有機樹脂粒子の有機樹脂は、耐熱性が高くないものであることが好ましい。好適に使用できる樹脂粒子の材質として、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、多環芳香族型エポキシ樹脂、水添脂環式エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂が例示できる。
使用する樹脂粒子粉の平均粒径(数平均1次粒子径)は、10nm~3μmの範囲内であることが好ましい。平均粒径が3μmを超える場合には、加熱処理により樹脂粒子が除去されにくくなることがあり、平均粒径が10nm未満の粒子は高価であり、電界電子放出膜の製造コストが高くなる恐れがある。樹脂粒子粉の平均粒径は、30nm~1μmの範囲内であることがより好ましい。
CNT分散液に添加する樹脂粒子の形態は、乾粉、樹脂粒子を含有する分散液いずれでも構わないが、樹脂粒子を含有する分散液の形態でCNT分散液に添加すれば、CNT分散液中に樹脂粒子を容易に分散させることができる。CNT分散液中の樹脂粒子の含有量は、CNT分散液中のITOの含有量に対して、0.3質量%~50質量%とすることができ、0.5質量%~40質量%であることが好ましく、1質量%~30質量%であることが一層好ましい。0.3質量%未満または50質量%超の場合には、電界電子の放出が不十分となるおそれがある。
【0014】
CNT分散液には、粘度調整のために、増粘剤を添加しても良い。CNT分散液の粘度が低い場合、増粘剤を添加することにより、CNT分散液の塗布性が向上し、基板と膜との密着性が向上する。増粘剤としては、公知の増粘剤を使用することができる。好適な例として、エチルセルロース等が挙げられる。CNT分散液中のCNTの分散性を向上させる目的で、CNT分散液に分散剤を加えてもよい。分散剤は公知の分散剤を使用することができる。好適な例として、アニオン系の界面活性剤、ドデシルベンゼンスルホン酸、塩化ベンザルコニウム、ベンゼンスルホン酸ソーダ等が挙げられる。
CNT分散液の調製に当たって、湿式微粒化装置やボールミル等を用いてCNT分散液の分散処理を行うと、CNT分散液中のCNTの分散状態が向上する。
【0015】
[電界電子放出素子の製造方法]
[CNT含有ITO膜の形成]
まず、CNT分散液を基板上に塗布して、塗布膜を形成する。基板はその種類に制限はないが、基板が導電性であれば電気的接続方法の自由度が増大する点で有利であり好ましいといえる。好適な基板の例として、シリコン基板等の半導体基板、グラファイト基板や金属基板等が挙げられる。塗布方法としては、静電塗布、スプレー塗布、スピン塗布、ディップ塗布等の公知の塗布方法を用いることができる。
引き続き、前記の塗布膜を300℃以上600℃未満の温度域で加熱することにより、ITOを主成分とし、CNTを微量含む膜(以下、CNT含有ITO膜と表記する。)を得ることができる。生成するCNT含有ITO膜の詳細については後述する。
前記の加熱は減圧下(真空中)で行っても良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行っても良く、大気雰囲気で行っても良い。CNT分散液中の樹脂粒子がこの加熱処理で燃焼する恐れがある場合には、減圧下または不活性ガス中で加熱処理をすることが好ましい。この場合、加熱時間は、10分間以上とすることができる。10分間未満の場合には、有機インジウム化合物および錫アルコキシドの熱分解が十分に進行せず、ITOの生成が不十分になる恐れがある。加熱時間に上限はないが、エネルギーコストの観点で、10時間以下なる加熱条件を選択することが好ましい。なお、当該加熱の前に、CNT分散液の塗布膜を300℃未満の温度に加熱し、塗布膜の乾燥(溶媒成分の除去)を行っても良い。
【0016】
[CNT端部露出処理]
前記の処理で得られた、基板上に形成されたCNT含有ITO膜の表面付近に存在するCNTを露出させるために、当該CNT含有ITO膜を積層した基板に600℃以上1200℃以下で加熱処理を行い、CNT端部を露出させる。本発明者等は、この加熱処理によりCNT含有ITO膜の表面付近に存在するCNTが露出する機構を、以下のように考えている。
すなわち、CNT分散液を基板に塗布した段階で、当該分散液中に分散しているCNTの一定割合のものは、同じく分散液中に分散している有機樹脂粒子と分散媒との界面に存在しており、その界面に存在するCNTは、塗布液を加熱(焼成)した後もCNT含有ITO膜のベースとなるITOと有機樹脂粒子の界面に残存すると考えられる。そのCNT含有ITO膜をさらに高温で加熱し、有機樹脂粒子を熱分解で除去すると、当該有機樹脂粒子の熱分解により生成した空洞部分にCNT端部が露出する結果になる。そのため、本発明においては、CNT含有ITO膜の表面からCNTの端部を露出させるための起毛処理や溝の形成処理等が不要になる。本発明者等は、このような処理により得られた、CNT含有ITO膜の表面部分でCNTの端部を露出させた電界電子放出膜が、電界電子を放出しやすい特性を有し生産性に優れることを見出して、本発明を完成するに至った。
前記の方法でCNTの端部を膜の表面から露出させた電界電子放出膜は、電界電子が放出されやすい。この理由は明確にはわかっていないが、本発明者らは、以下の理由が一因であると考えている。本発明の電界電子放出膜に電圧を印加した場合、露出しているCNT先端部から電界電子が放出されるが、加熱処理により樹脂粒子が除去された部分でCNTの端部が露出するCNTが多く存在しており、電界電子が放出されやすい状態を実現できていると推測している。
【0017】
CNTの端部を露出させるための加熱は、減圧下(真空中)で行っても良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行っても良く、大気雰囲気で行っても良い。CNT分散液中の樹脂粒子がこの加熱処理で燃焼する恐れがある場合には、減圧下または不活性ガス中で加熱処理をすることが好ましい。この加熱の温度は、600℃以上1200℃以下とすることができる。加熱温度が600℃未満の場合には、CNT端部の表面からの露出が不十分になる恐れがある。加熱温度が1200℃を超える場合には、使用するCNTによってはCNTに損傷が生じ、電界電子放出が起こりにくくなる場合がある。この加熱の温度は、この加熱の行う雰囲気において、600℃以上1200℃以下の範囲で、使用する有機樹脂粒子が熱分解または揮発する温度の範囲から選択すればよい。この加熱時間は、CNT含有膜の表面からCNT端部を十分露出させることができれば特に限定はないが、1分間以上とすることが好ましい。1分間未満の場合には、この加熱によるCNT端部露出の効果が十分に得られない恐れがある。加熱時間に上限はないが、エネルギーコストの観点で、10時間以下とすることが好ましい。
本CNT端部露出処理において、加熱による有機樹脂粒子の熱分解は、CNT含有ITO膜の表面から基板方向に向かって進行する。電界電子放出素子の性質上、CNT含有ITO膜の表面付近に存在するCNTの端部が露出するとエミッタとして作用するので、前記の有機樹脂粒子の熱分解は、CNT含有ITO膜の厚さ方向全体で起こらず、有機樹脂粒子の一部が残存していても構わない。熱分解により有機樹脂を除去する厚さはCNT含有ITO膜の厚さやCNTの含有量によっても変化するが、使用する有機樹脂粒子の平均粒径の2倍以上とすることが好ましい。熱分解による有機樹脂の除去の程度は、完全に除去されなくてもよく、除去された部分からCNTの端部が十分露出された状態が得られる程度でよい。
【0018】
上述した基板上に電界電子放出膜を形成するプロセスは、(1)CNT含有ITO膜の形成、および(2)CNT端部露出処理の二段階のプロセスであるが、条件を選択すると、一段階のプロセスで行うことも可能である。例えば、有機樹脂粒子として熱分解する温度が低いものを使用すると、(1)のCNT含有ITO膜の形成を行うと同時に(2)のCNT端部露出処理を行うことが可能である。また、(1)のCNT含有ITO膜の形成を行う加熱温度を600℃以上にすると、熱分解の温度が高い有機樹脂粒子を使用しても、(1)と(2)の反応を同時に生起させることが可能である。その場合、二つの反応が並行して起こるので、健全な電界電子放出膜を得るための適切な条件を選択する必要がある。
【0019】
[電界電子放出膜]
本発明の電界電子放出膜は、ITOを主成分とし、CNTを微量含む膜(CNT含有ITO膜)の表面にCNTの端部を露出させた構造を有するものである。
電界電子放出膜中のITOの含有量としては、50質量%以上が好ましい。50質量%未満では、膜の電導度が低くなり、電界電子放出膜の省電力性を損なう恐れがある。ITOは、電界電子放出膜中に最大99.9質量%まで含有させることが可能であるが、CNTの含有量とのバランスから、70~99.5質量%が好ましく、90~99質量%がより好ましい。なお、ITOはインジウム酸化物中に錫酸化物が固溶したものであり、製造条件によりその組成が変化する。また、出発原料として有機金属を用い、焼成温度が低い場合には有機成分が一部残存する場合もあるが、本発明における電界電子放出膜中のITOの含有量とは、電界電子放出膜中に含まれるインジウムおよび錫が、それぞれ化学量論組成の酸化物であると仮定して算出した値である。
本発明の電界電子放出膜は、実質的にインジウム酸化物、錫酸化物、原料であるインジウムもしくは錫の有機化合物の部分分解物および原料と樹脂粒子に由来する有機物とCNTとから構成されるが、上記の成分範囲内で、電界電子放出膜の特性に悪影響を与えない金属粒子等の導電性物質を含むことを妨げない。しかし、膜の伝導度を低下させるので、絶縁性の物質を多く含むことは好ましくない。
なお、電界電子放出膜中のインジウムと錫の組成比は、InおよびSnの質量比で示される元素組成比In/(In+Sn)が0.4~0.95であることが好ましい。元素組成比が0.4未満または0.95を超える場合には、電界電子放出膜の導電性が低下する場合がある。
電界電子放出膜の厚さは、1μm~1mmとすることが好ましい。1μm未満の膜厚では、膜厚に対する膜厚のバラツキが大きくなりやすい。また、1mmを超えると、材料コストが嵩むので好ましくない。これらの点を考慮すると、電界電子放出膜の厚さは、10~900μmとすることが更に好ましく、20~800μmとすることが一層好ましい。
【0020】
[電界電子放出素子(電界電子放出電極)]
本発明の電界電子放出素子(電界電子放出電極)は、基板等の支持体上に本発明の電界電子放出膜が形成されたものである。上述のように、基板はその種類に制限はないが、基板が導電性であれば電気的接続方法の自由度が増大する点で有利であり好ましいといえる。好適な基板の例として、シリコン基板等の半導体基板、グラファイト基板や金属基板等が挙げられる。
【0021】
[発光素子]
本発明の発光素子は、本発明の電界電子放出素子(電界電子放出電極)と、前記電界電子放出素子に対向して配置され、アノード電極および蛍光体が設けられている構造体(アノード)とを含み、前記電界電子放出素子と前記アノードとの間が真空に保持されていることを特徴とするものである。この構成により、省電力性に優れた発光素子を得ることができる。ここで真空とは、発光素子の発光を妨げない程度に減圧された状態を指す。この発光素子は、電界電子放出膜、電界電子放出素子についてIV特性の評価用素子して使用することができる。
アノードは、基板上にアノード電極が形成され、さらにその上に蛍光体が塗布されたものを用いることができる。アノードは、公知の電界電子放出素子を用いた発光素子で用いられているものを用いることができる。一例として、ガラス基板上にアノード電極としてITO膜が形成され、その上に蛍光体が塗布されているものを用いることができる。
【実施例
【0022】
[実施例1]
[CNT分散液]
酢酸ブチル18.6394gに下記を添加し、撹拌混合することにより、ベースとなる有機溶液を得た。
・トリブチルインジウム(C1227In)(Inとして0.279gを含む)
・テトラブトキシ錫(C16364Sn)(Snとして0.110gを含む)
得られた溶液に下記を添加し、撹拌混合することにより、CNT含有液を得た。
・カーボンナノチューブ(シングルウォール、Hanwha Nanotech社製、ASP-100F)0.015g
・エポスターMX100W(日本触媒製、平均粒径150nmのポリメタクリル酸メチル系粒子を10質量%含む水分散体)0.47g
・エチルセルロース(関東化学製、エチルセルロース100cP(エトキシ含有量48~49.5%)3.6g
得られたCNT含有溶液に、湿式微粒化装置(スギノマシン製、スターバーストラボ)を用いジルコニアビーズ(直径0.5mm)を60MPaの圧力で噴霧衝突させながら溶液を微粒化することを10回繰り返し、CNT分散液を得た。
【0023】
[CNT含有ITO膜]
静電塗布装置(アピックヤマダ製)を用い、150℃に加熱した導電性シリコンウェハ(シリコン基板)の表面に、前記CNT分散液を塗布した。このとき、塗布膜厚は、焼成後の膜厚が400μmになるように調整した。引き続き、CNT分散液を塗布した基板を、空気中250℃の条件下で30分間加熱し、乾燥した。乾燥後、CNT分散液を塗布した基板を、真空中(約1×10-5Pa)450℃の条件下で30分間焼成して、シリコン基板上にCNT含有ITO膜を生成させた。その後、シリコン基板上に生成したCNT含有ITO膜を真空中(約1×10-5Pa)850℃の条件下で60分間焼成して、シリコン基板上に形成されたCNT含有ITO膜(シリコン基板上に形成された電界電子放出膜)を得た。
【0024】
このようにして得られたシリコン基板上の電界電子放出膜をカソード電極とした。上記の操作により、カソード電極を3枚作成し、以下の評価を行った。
【0025】
[CNT露出状態の評価]
シリコン基板上の電界電子放出膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、電界電子放出膜の表面におけるCNTの露出状況を確認した。
【0026】
[カソード電極の評価]
(評価用素子の作成)
基板付きの溝を形成したCNT含有ITO膜を1辺7mmの正方形に切断し、電界電子放出素子(カソード電極)とした。正方形の対向する2辺にガラスファイバー製スペーサー(直径450μm)をカソード電極上に設置し、固定した。表面にITOを蒸着し、蛍光体を塗布したガラス板をアノード電極とした。アノード電極をカソード電極と同様の形状に切断した。アノード電極の蛍光体塗布面とカソード電極のCNT含有ITO膜の存在する面が対向するように、アノード電極を前記スペーサーの上に設置・固定して、評価用素子を形成した。
(評価用素子のIV特性の評価)
得られた評価用素子のカソード電極およびアノード電極を電源装置に接続し、10-4Paの真空容器中に設置し、カソード電極への印加することにより、アノード電極とカソード電極間に印加した電圧と前記カソード電極とアノード電極間に流れる電流値の関係について測定を行った。カソード電極に印加する電圧は、前記カソード電極とアノード電極間に流れる電流を徐々に上昇させた。ここで、電界強度はアノードとカソード電極間に印加した電圧を、アノード電極とカソード電極が対向する距離(450μm)で除した値とした。また、電流密度は評価用素子を流れる総電流をアノード電極の面積(0.49cm2)で除した値とした。
いずれの実施例、比較例とも、IV特性の評価中、アノード電極の発光が認められた。
上記のカソード電極の作成と評価を2回行い、2回の電流密度の測定値の平均値を求めた。この電流密度の平均値と電界強度関係について、図1に示す。実施例2,3および比較例1における電流密度の平均値と電界強度関係についても、同様に図1に示す。
【0027】
[実施例2]
エポスターMX100Wの添加量を0.47gから0.22gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価用素子の作成および評価を行った。
【0028】
[実施例3]
エポスターMX100Wの添加量を0.47gから0.1gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価用素子の作成および評価を行った。
【0029】
[比較例1]
エポスターMX100Wを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で評価用素子の作成および評価を行った。
【0030】
実施例1~3、比較例1の電界電子放出膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、いずれの電界電子放出膜の表面にもCNTの端部が露出していることが確認されたが、比較例1の電界電子放出膜は、実施例1~3の電界電子放出膜と比べて表面から端部が露出するCNTの数はごくわずかであった。実施例1~3の電界電子放出膜について、表面近傍の状態を確認したところ、表面から深さ1μm以上の領域で、有機樹脂粒子が除去されたと思われる部分でCNT端部が露出していることが確認された。また、実施例1~3、比較例1の電界電子放出膜の一部を試料とし、その試料の質量を測定した。試料中に含まれるインジウムおよび錫の質量を測定し、インジウムおよび錫について化学量論組成の酸化物であると仮定して算出した質量の和を含有するITOの質量として、電界電子放出膜中のITOの比率を確認したところ、いずれの電界電子放出膜についても70%以上であった。実施例1~3、比較例1について、評価用素子の評価において印加した電界強度と、カソード電極とアノード電極間に流れる電流の電流密度の関係を示す図1の結果は、実施例の電界電子放出膜は、製造工程において表面に溝を形成する工程が不要であり、比較例の電界電子放出膜と比較して、印加する電界強度が同じ場合には多くの電界電子の放出が起こっており、省電力性に優れることを示している。
図1