(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体、及び切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/58 20060101AFI20231129BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231129BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C04B35/58 021
B23B27/14 B
B23B27/14 A
C04B41/87 N
(21)【出願番号】P 2020035532
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 恵人
(72)【発明者】
【氏名】豊田 亮二
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-232968(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065372(WO,A1)
【文献】特開2001-114562(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220533(WO,A1)
【文献】特開2007-137709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/58
C04B 35/56
C04B 41/87
B23B 27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ti,M)(C,N)で表されるTi化合物(MはTa、Nb、及びWのうちの1種 以上)を主成分とする硬質粒子と、Alの窒化物、酸化物、及び酸窒化物のうちの1種以上からなる分散粒子と、を含むセラミックス焼結体であって、
断面の100μm×100μmの観察範囲において、前記硬質粒子のうちの少なくとも一つは、前記硬質粒子中に固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析し
、
前記観察範囲における前記分散粒子の面積比率が2.5%以上45.2%以下であり、残部が前記硬質粒子である、セラミックス焼結体。
【請求項2】
前記分散粒子はAlN粒子を少なくとも含む、請求項
1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のセラミックス焼結体から構成されている、切削工具。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のセラミックス焼結体を基材とし、該基材の表面には被覆層が形成されている、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体、及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金を基材とする切削工具が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、アルミナを主成分とするセラミックス焼結体を基材とする切削工具も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-020541号公報
【文献】特開平5-117020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超硬合金を基材とする切削工具は一般的に耐欠損性に優れるが、耐熱性に乏しく高速加工に向いていないとされている。参考までに、特許文献1においては、切削速度Vc=180~350m/minで使用されている。
また、セラミックス焼結体を基材とする切削工具は一般的に耐欠損性に劣るため、切削抵抗の高い被削材(例えば鋼材)への積極的な運用は検討し難い。
一方で、近年は切削抵抗の高い鋼材加工を高速加工(例えばVc=500m/min)する技術が求められている。
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、耐摩耗性能と耐欠損性能の両立を図り、鋼材を高速加工可能な工具を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕(Ti,M)(C,N)で表されるTi化合物(MはTa、Nb、及びWのうちの1種以上)を主成分とする硬質粒子と、Alの窒化物、酸化物、及び酸窒化物のうちの1種以上からなる分散粒子と、を含むセラミックス焼結体であって、
断面の100μm×100μmの観察範囲において、前記硬質粒子のうちの少なくとも一つは、前記硬質粒子中に固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析している、セラミックス焼結体。
【0006】
〔2〕前記観察範囲における前記分散粒子の面積比率が3%以上40%以下であり、残部が前記硬質粒子である、〔1〕に記載のセラミックス焼結体。
【0007】
〔3〕前記分散粒子はAlN粒子を少なくとも含む、〔1〕又は〔2〕に記載のセラミックス焼結体。
【0008】
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体から構成されている、切削工具。
【0009】
〔5〕〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体を基材とし、該基材の表面には被覆層が形成されている、切削工具。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセラミックス焼結体は、被削材に含まれる鉄に対する耐反応性と硬度に優れるTi化合物(チタン化合物)を主成分とした硬質相とすることで、耐摩耗性に優れる。セラミックス焼結体は、分散粒子として、Al系(アルミニウム系)の窒(酸)化物を含むことで、硬質粒子の粒成長を抑制できることに加えて、高温下での拡散摩耗を抑制できるため、耐摩耗性に優れる。本発明における硬質粒子のうちの少なくとも一つは、硬質粒子中に固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析している。これにより、工具の耐熱性を向上でき、Vc=250m/min以上、例えば、Vc=500m/min程度での高速加工下においても工具の摩耗損傷を抑制できる。
セラミックス焼結体における分散粒子の面積比率を特定割合にすることで、粒成長抑制効果が効果的に得られ、耐摩耗性と耐欠損性に特に優れる。よって、切削効率を高めることができる。
セラミックス焼結体における分散粒子がAlN粒子(窒化アルミニウム粒子)を少なくとも含むことで、このセラミックス焼結体を用いた切削工具の熱伝導率を増加させ、熱膨張率を低下させることができる。よって、高速加工下において、より優れた耐摩耗性と耐欠損性を発揮でき、工具の寿命が著しく向上する。
本発明のセラミックス焼結体を切削工具に供することで、鋼材の高速加工下における耐摩耗性と耐欠損性を両立できる。
本発明のセラミックス焼結体を基材とし、被覆層が形成されている場合には、表面を硬質化するとともに表面における基材の酸化を抑制できるため、切削工具の耐摩耗性及び耐欠損性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セラミックス焼結体(セラミックス工具)の一例の斜視図である。
【
図2】セラミックス焼結体のSEM画像を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.セラミックス焼結体1
(1)セラミックス焼結体1の構成
セラミックス焼結体1は、(Ti,M)(C,N)で表されるTi化合物(MはTa、Nb、及びWのうちの1種以上)を主成分とする硬質粒子と、Alの窒化物、酸化物、及び酸窒化物のうちの1種以上からなる分散粒子と、を含む。セラミックス焼結体1の断面の100μm×100μmの観察範囲において、硬質粒子のうちの少なくとも一つは、硬質粒子中に固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析している。
【0014】
(2)硬質粒子
硬質粒子は、(Ti,M)(C,N)で表されるTi化合物(MはTa(タンタル)、Nb(ニオブ)、及びW(タングステン)のうちの1種以上)を主成分とする。ここで「主成分」とは、硬質粒子を100体積%とした場合に、上記のTi化合物が60体積%以上であることを意味する。硬質粒子は、硬質相の高温特性改善を目的に、M元素以外の周期表4,5,6族の遷移金属元素を成分に含んでいてもよい。周期表4,5,6族の遷移金属元素は、V(バナジウム),Cr(クロム),Zr(ジルコニウム),Mo(モリブデン),Hf(ハフニウム)からなる群よりより選択される少なくとも1種の元素が好ましい。
硬質粒子は、1種のみ存在してもよく、複数種存在していてもよい。
異なる成分(例えば、含有される元素が異なる成分)の硬質粒子は、複数種の硬質粒子を構成する。
同一成分(例えば、含有される元素が同じ成分)の硬質粒子であっても、その成分比率が異なる場合は複数種の硬質粒子を構成する。この場合には、硬質粒子は、例えばアニオンの比率やカチオンの比率が異なる複数種の硬質粒子から構成されてもよい。
なお、アニオンのN比率は、被削材に含まれる鉄に対する耐反応性の観点から、(N/(C+N))で表される元素比率において、0.10~0.90の範囲が好ましく、0.20~0.80の範囲がより好ましく、0.30~0.70の範囲が更に好ましい。
カチオンのTi比率は、硬度の観点から、(Ti/(Ti+M))で表される元素比率において0.40~0.95の範囲が好ましく、0.50~0.95の範囲がより好ましく、0.70~0.95の範囲が更に好ましい。
【0015】
(3)分散粒子
分散粒子は、Al(アルミニウム)の窒化物、酸化物、及び酸窒化物のうちの1種以上からなる。分散粒子は、AlN粒子(窒化アルミニウム粒子)、Al2O3粒子(酸化アルミニウム粒子)、及びAlON粒子(酸窒化アルミニウム粒子)のうちの1種以上からなることが好ましい。AlN粒子(窒化アルミニウム粒子)は、工具の熱伝導率を増加させ、熱膨張率を低下できる。よって、分散粒子としてAlN粒子(窒化アルミニウム粒子)を含むことで、高速加工下においてより優れた耐摩耗性と耐欠損性を発揮でき、工具の寿命が著しく向上する。このように、分散粒子は、AlN粒子(窒化アルミニウム粒子)を少なくとも含むことが好ましい。
【0016】
(4)M元素の偏析
本発明は、硬質粒子中に固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析していることを特徴としている。この特徴について、図を用いて説明する。
図2は、セラミックス焼結体1を鏡面研磨加工後、鏡面研磨された面をSEM(Scanning Electron Microscope,走査型透過電子顕微鏡)にて観察し、セラミックス焼結体1の断面の100μm×100μmの観察範囲におけるSEM画像を模式的に示した図である。但し、
図2は、セラミックス焼結体1のSEM画像を概念的に示したものであり、実際のSEM画像を正確に示したものではない。
図2では、第1硬質粒子P1、第2硬質粒子P2、分散粒子P3が存在する場合を例示している。なお、硬質粒子は、1種類のみであってもよく、3種類以上存在していてもよい。また、分散粒子は、2種以上であってもよい。本発明において粒界Gは、硬質粒子同士の境界面、硬質粒子と分散粒子との境界面の両方を意味する。硬質粒子同士の境界面たる粒界Gには、異種の硬質粒子の境界面、及び同種の硬質粒子の境界面がある。
図2に示された粒界Gは、第1硬質粒子P1と第2硬質粒子P2という異種の硬質粒子の境界面である。
図2では、第1硬質粒子P1中に固溶しているM元素が粒界Gに接する位置に偏析している様子が示されている。点描で模式的に示された領域Rは、第1硬質粒子P1内の領域であって、M元素が偏析した領域である。本発明では、固溶しているM元素が粒界Gに接する位置に偏析している硬質粒子は、100μm×100μmの観察範囲において少なくとも1つ存在していればよい。
図2では、この要件を満たす硬質粒子が複数観察されている様子が示されている。
【0017】
(5)各粒子の面積比率
セラミックス焼結体1において、上述の観察範囲(断面の100μm×100μmの観察範囲)における分散粒子の面積比率は、特に限定されない。分散粒子の面積比率は、断面の100μm×100μmの観察範囲を100%として求める。
分散粒子の面積比率は、粒成長を効果的に抑制して、耐摩耗性と耐欠損性に優れた工具を提供する観点から、3%以上が好ましく、7.5%以上がより好ましい。分散粒子の面積比率は、セラミックス焼結体1の硬度を維持して、耐摩耗性の低下を抑制する観点から、40%以下が好ましく、21.5%以下がより好ましい。分散粒子の面積比率は、3%以上40%以下が好ましく、7.5%以上21.5%以下がより好ましい。
なお、
図2の場合は、上記観察範囲における分散粒子の占有部分以外の残部は、硬質粒子(第1硬質粒子P1及び第2硬質粒子P2)とされている。
【0018】
(6)固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析している硬質粒子の存在によって、高速加工下においても工具の摩耗損傷を抑制できる推測理由
固溶しているM元素が粒界に接する位置に偏析している硬質粒子の存在によって、高速加工下においても工具の摩耗損傷を抑制できる推測理由を説明する。
M元素が粒子全体に渡り、均質固溶した硬質粒子では、組織全体の耐酸化性を向上できる。しかし、この硬質粒子では、M元素の影響でTi成分濃度(チタン成分濃度)が粒子全体で低下するため、粒子の硬度が低下する。一方、本発明のようにM元素が粒界部で偏析した粒子では、M元素が偏析していない部分、例えば粒子の中心部分では、M元素の影響が少なく、Ti濃度低下がほとんど生じないため、粒子の硬度を十分に維持できる。また、その粒界部ではM元素(Ta,Nb,W)の濃度が高くなり、耐反応性に優れた部位となるため、高温下において、被削材に由来する鉄の粒界拡散を抑制できる。更に、M元素が偏析していない部位と、M元素が偏析した部位は一つの硬質粒子内で生じている現象であるから、これらの部位同士の結合力が強く、析出粒子のような脱粒が起こり難い。これらの要因から、本発明における硬質粒子を有することで、高速加工下において優れた耐摩耗性を発揮できるものと推定される。
【0019】
2.セラミックス焼結体1の製造方法
セラミックス焼結体1の製造方法は特に限定されない。セラミックス焼結体1の製造方法の一例を以下に示す。
【0020】
(1)原料
原料として次の原料粉末を使用する。
・Ti炭窒化物系原料粉末
・TaC粉末(炭化タンタル粉末)、NbC粉末(炭化ニオブ粉末)、及びWC粉末(炭化タングステン粉末)から選択される1種以上の原料粉末
・Al2O3粉末(酸化アルミニウム粉末)、AlN粉末(窒化アルミニウム粉末)等の原料粉末
【0021】
(2)焼成用粉末の準備
原料粉末を所定の配合割合になる様に秤量する。容器(例えば樹脂ポット等)の中に、原料粉末、球石(例えばAl2O3球石)、及び溶媒(例えばアセトン)を入れて混合粉砕する。得られたスラリーは湯煎乾燥にて処理し、乾燥混合粉末を得る。
【0022】
(3)焼成
乾燥混合粉を冶具(例えばカーボン冶具)に投入し、ホットプレスしてセラミックス焼結体1を作製する。ホットプレスは、Ar又はN2雰囲気下で行う。
【0023】
なお、セラミックス焼結体1におけるM元素の偏析の有無は、焼成温度とN2分圧によって制御できる。すなわち、相互固溶を伴う焼結過程における硬質粒子への加窒の程度(N2分圧)、及びTi炭窒化物系原料の相互固溶の進行度を制御することにより、M元素が均質に固溶した状態から、M元素が偏析して固溶した状態に変化させることができる。
【0024】
3.切削工具2
切削工具2は、上記セラミックス焼結体1から構成されたことを特徴とする。切削工具2の形状は、特に限定されない。
【0025】
セラミックス焼結体1は、切削、研削、及び研磨の少なくとも1つの加工法によって形状や表面の仕上げを行って、切削工具2とすることができる。もちろん、これらの仕上げが不要であれば、セラミックス焼結体1をそのまま切削工具2として用いてもよい。
【0026】
切削工具2は、
図3に示されるように、セラミックス焼結体1を基材5とし、基材5の表面に、被覆層7が形成されていてもよい。被覆層7は、特に限定されないが、例えば、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物からなることが好ましい。被覆層7が形成されると、切削工具2の表面硬度が増加すると共に、被加工物との反応・溶着による摩耗進行が抑制される。その結果、切削工具2の耐摩耗性が向上する。
チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物としては、特に限定されないが、TiN、TiAlN、TiCrAlN、CrAlNが好適な例として挙げられる。耐酸化性及び潤滑性の観点から、Cr系のコーティング(例えばTiCrAlN、CrAlN)が、より好ましい。
被覆層7の形態は、単層膜であっても、単層膜が積層した積層膜であってもよい。
被覆層7の厚みは、特に限定されない。被覆層7の厚みは、耐摩耗性の観点から、0.02μm以上30μm以下が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~11、実験例14~17は実施例であり、実験例12,13は比較例である。
表において、実験例を「No.」を用いて示す。また、表において「12*」のように、「*」が付されている場合には、比較例であることを示している。
【0028】
1.実験1(実験例1~13)
実験1では、実験例1~13の各セラミックス焼結体を作製し、これらの各セラミックス焼結体を加工して、実験例1~13の各切削工具とした。
【0029】
(1)原料粉末
以下に示す原料粉末を用いた。
Ti炭窒化物系原料粉末:平均粒径1.5μm以下
TaC粉末:平均粒径1.5μm以下
NbC粉末:平均粒径1.5μm以下
WC粉末:平均粒径1.5μm以下
Al2O3粉末:平均粒径0.7μm以下
AlON粉末:平均粒径0.7μm以下
AlN粉末:平均粒径0.7μm以下
ZrO2粉末:平均粒径0.7μm以下
【0030】
(2)セラミックス焼結体(実験例1~13)の作製
原料粉末を用いて混合粉末を調製し、混合粉末にアセトンを入れて、72hr粉砕・混合した。粉砕・混合後、得られたスラリーを湯煎乾燥することで、アセトンの抜気を行い、乾燥混合粉末を調製した。得られた乾燥混合粉末を用いて、ホットプレスを行ってセラミックス焼結体を作製した。ホットプレスの条件は、1500℃~1900℃,1MPa~30MPa,Ar又はN2雰囲気下であった。
なお、M元素の偏析の有無は、焼成温度とN2分圧によって制御した。すなわち、相互固溶を伴う焼結過程における硬質粒子への加窒の程度(N2分圧)、及びTi炭窒化物系原料の相互固溶の進行度を制御することにより、M元素が均質に固溶した状態から、M元素が偏析して固溶した状態に変化させることができるため、焼成温度とN2分圧の条件を調整することで、M元素が粒界に偏析したセラミックス焼結体を得た。例えば、Ta元素が偏析した実験例5は、N2分圧を5KPa、焼成温度を1700℃とした。
【0031】
(3)M元素の偏析の確認、分散粒子の面積比率
SEMによって各セラミックス焼結体の断面を観察した。この観察において、エネルギー分散型蛍光X線分光器(EDS)を用いて偏析組織を有する硬質粒子に対して線分析を行い、M元素の偏析有無及び、偏析元素種を確認した。M元素の偏析が存在する領域では、存在しない領域に比べてEDSの検出強度が高くなる。粒界部に向かってM元素の検出強度が増加傾向になる場合をM元素の偏析がある粒子と判断した。
同様にして得られたSEM像を用いて、硬質粒子と分散粒子の面積比率を画像解析ソフトウェア(winroof)にて評価し、各々の存在割合を算出した。
【0032】
(4)切削工具の作製
実験例1~13のセラミックス焼結体を、ISO-CNGN120408型の寸法となるように研磨加工し、切削工具を作製した。
【0033】
(5)炭素鋼に対する耐摩耗性能評価試験
(5.1)試験条件
各切削工具を用いて、切削試験を行った。試験条件は下記の通りである。
・チップ形状:CNGN120408T00520
・被削材:S45C(JIS)
・切削速度:500m/min
・切込み量:2.0mm
・送り量:0.2mm/rev.
・切削環境:乾式施削試験
(5.2)評価
耐摩耗性能(VB摩耗)及び耐欠損性能を次のように評価(判定)した。
(5.2.1)耐摩耗性能(VB摩耗)
0.5km加工後の摩耗量を以下の判定基準で評価した。
判定基準
「A」 摩耗量≦0.06mm
「B」 0.06mm<摩耗量≦0.16mm
「C」 0.16mm<摩耗量
(5.2.2)耐欠損性能
欠損時の加工距離を以下の判定基準で評価した。
判定基準
「A」 2.0km≦加工距離
「B」 1.0km≦加工距離<2.0km
「C」 加工距離<1.0km、又は即時欠損
【0034】
(6)評価結果
評価結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
(6.1)M元素の偏析有無、及びAl化合物以外の分散粒子について
実験例3,12,13を比較検討する。Ta元素の偏析の無い実験例12では耐摩耗性が劣るのに対し、Ta元素が偏析した実験例3では耐摩耗性が向上した。また、M元素の偏析がないことに加えてAl化合物以外の分散粒子(ZrO2)を用いた実験例13は、摩耗量が0.27mmと非常に大きく、耐摩耗性が著しく劣っていた。
(6.2)分散粒子の面積比率について
実験例1の結果から分かるように、分散粒子の面積比率が3%未満となると、組織が粗大となるために、耐摩耗性が低下する傾向にあった。他方、実験例7の結果から分かるように、面積率が40%を超えても、硬度の低い分散粒子の影響を受けて、耐摩耗性が低下した。言い換えると、分散粒子の面積比率が3%以上40%以下である実験例2-6,8-11は、分散粒子の面積比率が3%未満である実験例1や、分散粒子の面積比率が40%を超える実験例7より、耐摩耗性に優れた。よって、耐摩耗性に優れる範囲としては、面積率は3%~40%が好ましい。実験例3,4の結果から、特に8%~22%にすると耐摩耗性が最大化できるため、この範囲がより好ましい。
(6.3)分散粒子種について
添加する分散粒子の種類はAlN(実験例3,4)、Al2O3(実験例10)、AlON(実験例11)のいずれにおいても、優れた耐摩耗性と耐欠損性を示すことが確認された。実験例3,10は硬質粒子の面積比率が類似しているが、実験例3の方が耐摩耗性に優れた。実験例4,11は硬質粒子の面積比率が類似しているが、実験例4の方が耐摩耗性に優れた。よって、特にAlNを用いた場合では、焼結体の高熱伝導化と耐鉄反応性の向上により耐摩耗性が良化することに加えて、熱膨張係数の低下により耐欠損性が著しく向上するため、より好ましい。
(6.4)偏析元素種について(M元素の種類について)
実験例8,9,10の試験結果から、偏析する元素はNb(ニオブ)やW(タングステン)を用いてもよいことが分かる。ただし、偏析及び添加による性能強化の効果が最も高く得られるTa(タンタル)を用いることがより好ましい。
【0037】
2.実験2(実験例14~17)
実験1と同様な方法で得た実験例3,6,10のセラミックス焼結体(基体)の表面に、表2に示すように、TiN、CrAlN、TiCrAlNを被覆して切削工具を作製し、耐摩耗性試験を行った。炭素鋼に対する耐摩耗性能評価試験は、実験1の場合と同様な方法で行った。
試験結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
実験例14~17では、いずれも摩耗量が低下し、耐摩耗性に優れる切削工具となった。
【0040】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 …セラミックス焼結体
2 …切削工具
5 …基材
7 …被覆層
P1…第1硬質粒子
P2…第2硬質粒子
P3…分散粒子
G…粒界
R…M元素が偏析した領域