(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】インフレーション成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20231129BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20231129BHJP
B29C 48/325 20190101ALI20231129BHJP
B29C 48/885 20190101ALI20231129BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C55/28
B29C48/325
B29C48/885
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020063958
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一優
(72)【発明者】
【氏名】日置 一弥
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-015734(JP,A)
【文献】特開2017-177349(JP,A)
【文献】特開2019-177508(JP,A)
【文献】特開2002-018949(JP,A)
【文献】特開平07-205279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/10
B29C 55/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を押し出すためのダイと、
或る周方向位置の前記ダイのリップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、
押し出された樹脂に冷却風を吹き付ける冷却装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅の変化量に基づいて
、前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅の変化により樹脂が影響を受けた周方向位置における前記冷却装置の冷却力を制御することを特徴とするインフレーション成形装置。
【請求項2】
樹脂を押し出すためのダイと、
或る周方向位置における前記ダイのリップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、
押し出された樹脂に冷却風を吹き付ける冷却装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅を変化させるときの前記ダイリップ駆動機構の駆動量の変化量に基づいて
、前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅の変化により樹脂が影響を受けた周方向位置における前記冷却装置の冷却力を制御することを特徴とす
るインフレーション成形装置。
【請求項3】
樹脂を押し出すためのダイと、
或る周方向位置における前記ダイのリップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、
押し出された樹脂に冷却風を吹き付ける冷却装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅を変化させたとき
にそれによって樹脂が影響を受けた周方向位置のフロストライン高さの変化量に基づいて
、前記樹脂が影響を受けた周方向位置における前記冷却装置の冷却力を制御することを特徴とす
るインフレーション成形装置。
【請求項4】
樹脂を押し出すためのダイと、
或る周方向位置における前記ダイのリップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、
押し出された樹脂に冷却風を吹き付ける冷却装置と、
制御装置と、
を備え、
前記ダイは、チューブ状に樹脂を押し出し、
前記制御装置は、
前記或る周方向位置の前記ダイのリップ幅を変化させたとき
にそれによって樹脂が影響を受けた周方向位置におけるチューブ状の樹脂の中心軸からの距離の変化量に基づいて
、前記樹脂が影響を受けた周方向位置における前記冷却装置の冷却力を制御することを特徴とす
るインフレーション成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーション成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイに形成されたリング状の吐出口(以下、リップという)から溶けた樹脂をチューブ状に押し出し、その内側に空気を吹き込んで膨らませ、薄いフィルムを成形するインフレーション成形装置が知られている。従来では、リップ幅を少なくとも部分的に調節可能なインフレーション成形装置が提案されている(例えば特許文献1)。この装置によれば、偏肉のない高品質のフィルムを製造できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、インフレーション成形装置について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。インフレーション成形装置において、或る周方向位置のフィルムを厚くしようと当該周方向位置のリップ幅を広げても、リップ幅を広げた量に応じてフィルムが厚くならなかったり、リップ幅を広げる前よりも却ってフィルムが薄くなったりする場合がある。また、或る周方向位置のフィルムを薄くしようと当該周方向位置のリップ幅を狭めても、リップ幅を狭めた量に応じてフィルムが薄くならなかったり、リップ幅を狭める前よりも却ってフィルムが厚くなったりする場合がある。
【0005】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、フィルム厚をより高精度に制御できるインフレーション成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインフレーション成形装置は、溶融樹脂を押し出すためのダイと、ダイのリップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、押し出された溶融樹脂に冷却風を吹き付ける冷却装置と、制御装置と、を備える。制御装置は、リップ幅の変化量に基づいて冷却装置の冷却力を制御する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルム厚をより高精度に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るインフレーション成形装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のダイとその周辺を示す縦断面図である。
【
図3】
図1のダイとその周辺を示す縦断面図である。
【
図4】
図1のダイとその周辺を示す縦断面図である。
【
図5】
図1の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図1のインフレーション成形装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係るインフレーション成形装置の概略構成を示す図である。
【
図8】変形例に係る冷却装置の吹出口とその周辺を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、インフレーション成形装置について検討し、以下の知見を得た。
インフレーション成形装置において、ダイのリップの或る周方向位置のリップ幅を広げると、当該周方向位置について、リップからの樹脂の吐出量が増え、樹脂の熱量は大きくなり、リップ幅を広げる前と比べると同じ高さでの樹脂の温度が高くなり、樹脂は伸びやすくなる。また、リップ幅を広げる前と比べると樹脂が冷却されて固化するまでの時間が長くなり、その意味でも樹脂は伸びやすくなる。いずれにせよ、或る周方向位置のリップ幅を広げると、当該周方向位置について、樹脂がより伸びることになる。これにより、場合によっては、リップ幅を広げても、広げた量に応じてフィルムが厚くならなかったり、リップ幅を広げたにもかかわらず、広げる前よりも却ってフィルムが薄くなったりする。
【0011】
反対に、ダイのリップの或る周方向位置のリップ幅を狭めると、当該周方向位置について、リップからの樹脂の吐出量が減り、樹脂の熱量は小さくなり、リップ幅を狭める前と比べると同じ高さでの樹脂の温度が低くなり、樹脂は伸びにくくなる。また、リップ幅を狭める前と比べると樹脂が冷却されて固化するまでの時間が短くなり、その意味でも樹脂は伸びにくくなる。いずれにせよ、リップの或る周方向位置のリップ幅を狭めると、当該周方向位置について、樹脂がより伸びにくくなる。これにより、場合によっては、リップ幅を狭めても、狭めた量に応じてフィルムが薄くならなかったり、リップ幅を広げたにもかかわらず、広げる前よりも却ってフィルムが厚くなったりする。
【0012】
これらの知見に基づき、本発明者らは、リップの或る周方向位置のリップ幅を変化させた場合、リップ幅を変化させたことによる樹脂の熱量の変化を打ち消すあるいは抑制するように冷却装置3の当該周方向位置の冷却力を変化させれば、リップ幅の変化量に応じてフィルム厚を変化させることができることに想到した。具体的にはリップ幅を広げる場合は冷却風の冷却力を高くし、リップ幅を狭める場合は冷却風の冷却力を低くすれば、リップ幅の変化量に応じてフィルム厚を変化させることができることに想到した。以下に具体的な構成と特徴を説明する。
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るインフレーション成形装置1の概略構成を示す図である。インフレーション成形装置1は、ダイ10と、厚み調節部2と、一対の安定板4と、ピンチロール5と、厚みセンサ6と、フロストライン高さ検出部26と、制御装置7と、を備える。
【0015】
ダイ10には、押出機(不図示)から溶けた樹脂が供給される。ダイ10に形成されたリング状のリップ18a(
図2で後述)から溶けた樹脂が押し出され、チューブ状のフィルムが成形される。
【0016】
厚み調節部2は、フィルム厚を調節するとともに、フィルムを冷却する。
【0017】
一対の安定板4は、厚み調節部2の上方に配置され、チューブ状のフィルムを一対のピンチロール5の間に案内する。ピンチロール5は、安定板4の上方に配置され、案内されたフィルムを引っ張り上げながら扁平に折りたたむ。扁平に折りたたまれたフィルムは、巻取機(不図示)によって巻き取られる。
【0018】
厚みセンサ6は、厚み調節部2と安定板4との間に配置される。厚みセンサ6は、全周にわたるチューブ状のフィルムのフィルム厚を、所定の周期で繰り返し計測する。本実施の形態の厚みセンサ6は、チューブ状のフィルムの周りを回りながら、全周にわたるフィルム厚を計測する。厚みセンサ6により計測されたフィルム厚データは制御装置7に送信される。
【0019】
フロストライン高さ検出部26は、冷却装置3と安定板4との間に配置される。フロストライン高さ検出部26は、全周にわたるフロストライン高さを、所定の周期で繰り返し検出する。本実施の形態のフロストライン高さ検出部26は、樹脂の周りを回りながら、全周にわたるフロストライン高さを検出する。フロストライン高さは、リップ18aから、樹脂が固まる位置であるフロストラインまでの高さである。フロストライン高さ検出部26の構成は特に限定されず、例えば、リップ18aおよびフロストラインを含むようにフィルムを撮影するカメラと、撮影された画像を画像処理することによりフロストライン高さを特定する画像処理部と、を含んで構成されてもよい。フロストライン高さ検出部26による検出結果は制御装置7に送信される。
【0020】
制御装置7は、インフレーション成形装置1を統合的に制御する装置である。
【0021】
図2は、ダイ10および厚み調節部2の縦断面図である。
図3、4は、ダイ10および厚み調節部2の上面図である。
図3では、冷却装置3の内部を透視した状態を示している。
図4では、冷却装置3の表示を省略している。
【0022】
ダイ10は、ダイ本体11と、内周部材12と、外周部材14と、を含む。内周部材12は、ダイ本体11の上面に載置される略円柱状の部材である。外周部材14は、環状の部材であり、内周部材12を環囲する。内周部材12と外周部材14との間には、リング状に上下方向に延びるスリット18が形成される。スリット18を溶けた樹脂が上側に向かって流れ、その上端開口であるリップ18aから溶けた樹脂が押し出される。
【0023】
ダイ本体11の外周には、複数のヒータ19が装着される。また、外周部材14の外周にもヒータ19が装着される。ダイ本体11および外周部材14は、ヒータ19によって所要の温度に加熱される。これにより、ダイ10の内部を流れる溶けた樹脂を適度な温度および溶融状態に保つことができる。
【0024】
厚み調節部2は、冷却装置3と、複数のダイリップ駆動機構16_1~16_32(以下、特に区別しないときやまとめていうときには単にダイリップ駆動機構16と呼ぶ)と、を含む。
【0025】
冷却装置3は、複数のダイリップ駆動機構16の上方に固定される。冷却装置3は、エアーリング8と、複数のヒータ9_1~9_32(以下、特に区別しないときやまとめていうときには単にヒータ9と呼ぶ)と、を備える。エアーリング8は、内周部が下方に凹んだリング状の筐体である。エアーリング8の外周部には、複数のホース口8bが周方向に等間隔で形成されている。複数のホース口8bのそれぞれにはホース(不図示)が接続され、このホースを介してブロワー(不図示)からエアーリング8内に冷却風が送り込まれる。
【0026】
エアーリング8の内周部には、上側に開口したリング状の吹出口8aが形成されている。エアーリング8内に送り込まれた冷却風は、吹出口8aから吹き出て樹脂に吹き付けられる。吹出口8aは特に、中心軸Aを中心とするリング状のスリット18と同心となるよう形成される。これにより、冷却風が樹脂に当たる高さや、樹脂に当たる冷却風の風量が、周方向で均一になる。
【0027】
複数のヒータ9は、吹出口8aとホース口8bとの間の通風路8c内に、周方向に例えば隙間なく配置される。ヒータ9_1、9_2、・・・、9_32は、この順に周方向に並ぶ。制御装置7は、複数のヒータ9の出力を制御する。ヒータ9の出力が高くなると、ヒータ9を通過した冷却風の風温が高くなり、ヒータ9の出力が低くなると、ヒータ9を通過した冷却風の風温が低くなる。
【0028】
複数のダイリップ駆動機構16は、外周部材14の上端側を囲むように、リップの延在方向である周方向に、例えば等間隔に配置される。ダイリップ駆動機構16_1、16_2、・・・、16_32は、この順に周方向に並ぶ。ここでは、ダイリップ駆動機構16の数は32であるが、これには限定されない。複数のダイリップ駆動機構16は、片持ち状に外周部材14に取り付けられる。ダイリップ駆動機構16_i(1≦i≦32)は、ヒータ9_iと同じ周方向位置に設けられる。つまり、ダイリップ駆動機構16_iは、ヒータ9_iの下方に設けられる。
【0029】
複数のダイリップ駆動機構16はそれぞれ、外周部材14に径方向内向きの押圧荷重または径方向外向きの引張荷重を付与できるよう構成される。外周部材14は、押圧荷重または引張荷重が付与されることによって弾性変形する。ダイリップ駆動機構16_iにより外周部材14に押圧荷重を付与すると、ダイリップ駆動機構16_iが押圧荷重を付与した周方向位置について、リップ幅が狭くなり、樹脂の吐出量が減る。また、ダイリップ駆動機構16_iにより外周部材14に引張荷重を付与すると、ダイリップ駆動機構16_iが引張荷重を付与した周方向位置について、リップ幅が広くなり、樹脂の吐出量が増える。したがって、複数のダイリップ駆動機構16を調節することによってリップ幅ひいては樹脂の吐出量を少なくとも周方向で部分的に調節できる。
【0030】
ダイリップ駆動機構16は、一例としては
図3に示すように、制御装置7からの制御指令に基づいて駆動するアクチュエータ24と、回動軸32を支点として支持され、アクチュエータ24の回転力を受けるレバー34と、外周部材14により軸線方向に変位可能に支持され、レバー34の作用点に支持された作動ロッド36と、含む。そして、レバー34の回転力が作動ロッド36の軸線方向の力に変換され、その軸線方向の力が内周部材12または外周部材14に対する荷重となり、レバー34がレバー34の作用点において作動ロッド36に直接力を付与する。
【0031】
なお、ダイリップ駆動機構16は、リップ幅を変化させることができるものであれば、その構成は特に限定されない。例えばダイリップ駆動機構16は、ヒータを内蔵し、ヒータの加熱によって軸方向に膨張して外周部材14に荷重を付与するヒートボルトであってもよい。
【0032】
図5は、制御装置7の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0033】
制御装置7は、種々の通信プロトコルにしたがって厚みセンサ6との通信処理を実行する通信部40と、ユーザによる操作入力を受け付け、また各種画面を表示部に表示させるU/I部42と、通信部40およびU/I部42から取得されたデータをもとにして各種のデータ処理を実行するデータ処理部46と、データ処理部46により参照、更新されるデータを記憶する記憶部48と、を含む。
【0034】
記憶部48は、厚み記憶部56を含む。厚み記憶部56は、厚みセンサ6によって計測されたフィルム厚データを記憶する。
【0035】
データ処理部46は、受信部50と、リップ幅制御部52と、冷却風制御部54と、を含む。受信部50は、厚みセンサ6が所定の周期で送信するフィルム厚データを受信する。受信部50は、受信したフィルム厚データを厚み記憶部56に記憶させる。
【0036】
リップ幅制御部52は、フィルム厚を全周にわたって許容範囲に収めるべく、フィルム厚データに基づいて、各周方向位置のリップ幅ひいては各ダイリップ駆動機構16の駆動量を決定する。リップ幅制御部52の構成は特に限定されないが、例えば、所定の式に各周方向位置のフィルム厚データを代入することによって、各周方向位置のリップ幅ひいては各ダイリップ駆動機構16の駆動量を決定してもよい。
【0037】
リップ幅制御部52は、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれについて決定した駆動量にしたがって、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれを制御する。
【0038】
冷却風制御部54は、冷却装置3を制御する。冷却風制御部54は特に、或る周方向位置のリップ幅が変化することによる当該周方向位置の樹脂の熱量の変化を、冷却装置3の当該周方向位置の風温を変化させることで、具体的にはリップ幅を広げる場合は冷却風の風温を下げ(冷却力を高くし)、リップ幅を狭める場合は冷却風の風温を上げる(冷却力を低くする)ことで、打ち消すあるいは抑制する。
【0039】
ここで、リップ幅の変化量を直接検出することは困難であり、可能であったとしてもコスト面で現実的ではない。一方で、リップ幅は、ダイリップ駆動機構16の駆動量に基づいて変化する。そこで冷却風制御部54は、リップ幅制御部52によって決定されたダイリップ駆動機構16の駆動量に基づいて、冷却装置3の冷却風の風温を制御する。つまり、冷却風制御部54は、ある周方向位置のダイリップ駆動機構16_iの駆動量を変化させて当該周方向位置のリップ幅を変化させたことによる樹脂の熱量の変化を、冷却装置3のヒータ9_iの出力を変化させて冷却風の当該周方向位置の風温を変化させることで打ち消すあるいは抑制するよう制御する。
【0040】
より詳しくは、まず冷却風制御部54は、次の式(1)を用いて、ダイリップ駆動機構16_iが荷重を付与する周方向位置の冷却装置3の風温(T
air(i))を決定する。
【数1】
ここで、
ドット付きm:質量流量
Cp:熱容量[J/Kg/K]
T
die:ダイ10から押し出される樹脂の温度
T
solid:樹脂が固化する温度
HTC:熱伝達係数
y:チューブ状の樹脂の平均半径
h:フロストライン高さ
w
0:ダイリップ駆動機構16が外周部材14に荷重を付与していないときのリップ幅
Δx
i:ダイリップ駆動機構16_iの駆動量の変化量
a:係数
である。
【0041】
次いで冷却風制御部54は、決定した各周方向位置の風温に基づいて、冷却装置3の複数のヒータ9のそれぞれを制御する。
【0042】
続いて、式(1)の導出方法について説明する。
冷却風の風温(T
air)と質量流量(ドット付きm)との間には以下の式(2)の関係が成立することが知られている。
【数2】
ここで、
HTC:熱伝達係数
ドット付きm:樹脂の質量流量
Cp:熱容量[J/Kg/K]
T
die:ダイ10から押し出される樹脂の温度
T
air:冷却装置3が樹脂に吹き付ける冷却風の温度
T
solid:樹脂が固化する温度
y:チューブ状の樹脂の平均半径
である。
【0043】
式(2)を冷却風の風温(T
air)に関して変形すると、以下の式(3)のようになる。
【数3】
【0044】
リップ幅を変化させるとそれに伴って樹脂の質量流量が変化する。したがって、リップ幅を変化させる場合、式(3)は以下の式(4)のように書き換えられる。
【数4】
【0045】
また、リップ幅の変化量(Δw)と質量流量(ドット付きm)との間には以下の式(5)が成立する。
【数5】
【0046】
また、リップ幅の変化量(Δw)とダイリップ駆動機構16の駆動量の変化量(Δx)との間には以下の式(6)が成立する。
【数6】
【0047】
式(5)に式(6)を代入すると、以下の式(7)のようになる。
【数7】
【0048】
式(7)を式(4)に代入すると、上述の式(1)が得られる。
【0049】
以上のように構成されたインフレーション成形装置1の動作を説明する。
図6は、インフレーション成形装置1の動作を示すフローチャートである。制御装置7は、成形開始信号が入力されると、押出機、冷却装置3およびピンチロール5などを制御してフィルムの成形を開始する(S10)。成形開始信号は、不図示の成形開始ボタンを介して入力されてもよい。
【0050】
厚みセンサ6は、フィルム厚を計測する(S12)。制御装置7は、厚みセンサ6により計測されたフィルム厚データに基づいて、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに対する駆動量を決定する(S14)。制御装置7は、決定した各ダイリップ駆動機構16の駆動量に基づいて、冷却装置3が吹き出す冷却風の各周方向位置の風温を決定する(S16)。制御装置7は、決定した駆動量にしたがって、各ダイリップ駆動機構16を制御する(S18)。また、制御装置7は、決定した風温にしたがって、各ヒータ9を制御する(S20)。この例では、ダイリップ駆動機構16の駆動量を変化させた後に冷却装置3が吹き出す冷却風の風温を変化させているが、ダイリップ駆動機構16の駆動量と冷却装置3の冷却風の風温とを同時に変化させてもよいし、ダイリップ駆動機構16の駆動量を変化させる前に冷却装置3の冷却風の風温を変化させてもよい。
【0051】
制御装置7は、終了条件が満たされるか否かを判定する(S22)。終了条件が満たされない場合(S22のN)、処理をステップS12に戻す。終了条件が満たされる場合(S22のY)、制御装置7はフィルムの成形を終了する。終了条件は、外部から終了の指示を受け付けたことや、成形が所定の時間継続されたことである。
【0052】
以上説明した本実施の形態によれば、ダイリップ駆動機構16の駆動量ひいてはリップ幅の変化量に基づいて冷却装置3の風温(冷却力)が制御される。これにより、或る周方向位置のリップ幅を変動させたことによる当該周方向位置での樹脂の熱量の変化を打ち消すあるいは抑制でき、その結果、リップ幅の変動量に応じてフィルム厚を変化させることが可能となる。つまり、フィルム厚をより高精度に制御でき、より短時間でフィルム厚を目標範囲に近づけることができる。
【0053】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を説明する。
【0054】
(変形例1)
或る周方向位置において、冷却風の風温はそのままにリップ幅を広げると、リップからの樹脂の吐出量が増え、樹脂の熱量は大きくなり、樹脂が冷却されて固化するまでの時間が長くなり、フロストライン高さは高くなる。反対に、或る周方向位置において、冷却風の風温はそのままにリップ幅を狭めると、リップからの樹脂の吐出量が減り、樹脂の熱量は小さくなり、樹脂が冷却されて固化するまでの時間が短くなり、フロストライン高さは低くなる。つまり、或る周方向位置において、リップ幅を変化させると、それに伴ってフロストライン高さも変化するため、フロストライン高さの変化量からリップ幅の変化量を特定できる。
【0055】
そこで本変形例では、リップ幅を変化させたときのフロストライン高さの変化量に基づいて冷却装置3の冷却風の風温を制御する。具体的には、フロストライン高さが高くなると、冷却風の風温を下げ、フロストライン高さが低くなると、冷却風の風温を上げるように制御する。これにより、間接的に、リップ幅に基づいて冷却風の風温を制御することになり、リップ幅を変動させたことによる樹脂の熱量の変化を打ち消すあるいは抑制することが可能となる。
【0056】
詳しくは、冷却風制御部54は、リップ幅制御部52がリップ幅を変化させた後に、以下の式(7)を用いて、各周方向位置の冷却風の風温(Tair_after(i))を決定し、冷却装置3を制御する。
Tair_after(i)=Tair_before(i)+Gf・Δh(i) ・・・式(7)
ここで、
Tair_before(i):ダイリップ駆動機構16_iの駆動量を変化させる前の当該周方向の冷却風の風温
Gf:ゲイン
Δh(i):ダイリップ駆動機構16_iが荷重を付与する周方向位置のフロストライン高さの変化量
である。
【0057】
ゲイン(Gf)は、実験やシミュレーションにより予め決定すればよい。なお、式(7)では、ゲイン(Gf)は周方向位置によらずに一定としている。しかし、厚み調節部2の製造誤差や組み立て誤差によって、同じ設定風温であっても、周方向位置が異なれば冷却の効き方は異なりうるため、ゲイン(Gf)は周方向位置ごとに決定されてもよい。
【0058】
本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0059】
(変形例2)
或る周方向位置において、冷却風の風温はそのままにリップ幅を広げると、リップからの樹脂の吐出量が増え、樹脂の熱量は大きくなり、樹脂が冷却されて固化するまでの時間が長くなり、樹脂はリップ幅を広げる前よりも膨らんでリップの中心軸から樹脂までの距離は長くなる。反対に、或る周方向位置において、冷却風の風温はそのままにリップ幅を狭めると、リップからの樹脂の吐出量が減り、樹脂の熱量は小さくなり、樹脂が冷却されて固化するまでの時間が短くなり、樹脂はリップ幅を広げる前よりも膨らまずリップの中心軸から樹脂まで距離は短くなる。つまり、或る周方向位置において、リップ幅を変化させると、それに伴ってリップの中心軸から樹脂までの距離も変化するため、リップの中心軸から樹脂までの距離の変化量からリップ幅の変化量を特定できる。
【0060】
そこで本変形例では、リップ幅を変化させたときのリップの中心軸から樹脂までの距離の変化量に基づいて冷却装置3の冷却風の風温を制御する。具体的には、距離が長くなると冷却風の風温を下げ、距離が短くなると冷却風の風温を上げるように制御する。これにより、間接的に、リップ幅に基づいて冷却風の風温を制御することになり、リップ幅を変動させたことによる樹脂の熱量の変化を打ち消すあるいは抑制することが可能となる。
【0061】
図7は、変形例に係るインフレーション成形装置1の概略構成を示す図である。
図7は
図1に対応する。本変形例では、インフレーション成形装置1は、ダイ10と、厚み調節部2と、一対の安定板4と、ピンチロール5と、厚みセンサ6と、距離検出部28と、制御装置7と、を備える。つまり、本変形例のインフレーション成形装置1は、フロストライン高さ検出部に代えて、距離検出部28を備える。もちろん、インフレーション成形装置1は、フロストライン高さ検出部に加えて、距離検出部28を備えてもよい。
【0062】
距離検出部28は、冷却装置3と安定板4との間に配置される。距離検出部28は、所定の周期で繰り返し、中心軸Aからチューブ状の樹脂までの距離Lを全周にわたって検出する。本実施の形態の距離検出部28は、樹脂の周りを回りながら、距離Lを全周にわたって検出する。距離検出部28の構成は特に限定されないが、例えば、距離センサを含んで構成されてもよい。距離検出部28による検出結果は制御装置7に送信される。
【0063】
冷却風制御部54は、リップ幅制御部52がリップ幅を変化させた後に、以下の式(8)を用いて、各周方向位置の冷却風の風温(Tair_after(i))を決定し、冷却装置3を制御する。
Tair_after(i)=Tair_before(i)+Gr・ΔL(i)
ここで、
Gr:ゲイン
ΔL(i):中心軸Aからダイリップ駆動機構16_iが荷重を付与する周方向位置の樹脂までの距離Lの変化量
である。
【0064】
ゲイン(Gr)は、実験やシミュレーションにより予め決定すればよい。なお、式(8)では、ゲイン(Gr)は周方向位置によらずに一定としている。しかし、厚み調節部2の製造誤差や組み立て誤差によって、同じ設定風温であっても、周方向位置が異なれば冷却の効き方は異なりうるため、ゲイン(Gr)は周方向位置ごとに決定されてもよい。
【0065】
本実施の形態によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0066】
(変形例3)
実施の形態および上述の変形例では、リップ幅の変化量に基づいて変化させる冷却装置3の冷却風の冷却力は、風温に限定されない。
【0067】
例えば、冷却風の風温を変化させる代わりに、冷却風の風量を変化させてもよい。例えば冷却装置3は、吹出口8aとホース口8bとの間の通風路内に、複数のヒータ9の代わりに、周方向に隙間なく配置される複数のバルブ装置を備えてもよい。制御装置7は、複数のバルブ装置のそれぞれの開度を調節することによって、吹出口8aから吹き出る冷却風の風量ひいては風速を調節する。制御装置7は、或る周方向位置のリップ幅を広げる場合、当該周方向位置のバルブ装置の開度を大きくして風速を速く(冷却力を高く)し、或る周方向位置のリップ幅を狭める場合、当該周方向位置のバルブ装置の開度を小さくして風速を遅く(冷却力を低く)すればよい。
【0068】
また例えば、風温を変化させる代わりに、冷却装置3の冷却風が樹脂に衝突する衝突角度を変化させてもよい。
図8は、変形例に係る冷却装置3の吹出口8aとその周辺を示す図である。本変形例では、冷却装置3は、吹出口8aに、周方向に例えば隙間なく配置される複数のプレート8dを含む。吐出口8aの上縁を定める吐出上壁8eの先端には、周方向または接線方向に延在するように回動軸8fが設けられている。プレート8は、この回動軸8fを中心に回動可能である。制御装置7は、不図示の駆動機構を駆動して、複数のプレート8dを個別に制御する。制御装置7は、或る周方向位置のリップ幅を広げる場合、当該周方向位置のプレート8dを寝かせて冷却風の衝突角度αを大きく(冷却力を高く)し、或る周方向位置のリップ幅を狭める場合、当該周方向位置のプレート8dを起こして冷却風の衝突角度αを小さく(冷却力を低く)すればよい。
【0069】
これらの変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0070】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0071】
1 インフレーション成形装置、 3 冷却装置、 7 制御装置、 10 ダイ、 16 ダイリップ駆動機構、 52 リップ幅制御部、 54 冷却風制御部。