(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】厚みすべり水晶振動片
(51)【国際特許分類】
H03H 9/19 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
H03H9/19 D
H03H9/19 E
(21)【出願番号】P 2020064520
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三井 久士
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-034176(JP,A)
【文献】特開2002-018698(JP,A)
【文献】特開2013-062578(JP,A)
【文献】特開平11-245160(JP,A)
【文献】特開2008-098712(JP,A)
【文献】特開昭58-171119(JP,A)
【文献】国際公開第2013/151048(WO,A1)
【文献】特開2003-053616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-3/60
9/00-39/06
H01L27/20
41/00-41/47
H03H3/007-3/06
9/00-9/135
9/15-9/24
9/30-9/40
9/46-9/62
9/66
9/70
9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベベル加工された平面視形状が矩形の厚みすべり水晶振動片において、
前記厚みすべり水晶振動片は長辺寸法、短辺寸法及び基本波、第3高調波を有し、
前記厚みすべり水晶振動片の前記基本波は8MHz帯であり、前記長辺寸法が2.2mm、前記短辺寸法が1.6mmであり、
前記厚みすべり水晶振動片のそれぞれ対向する主表面には楕円状の平坦部が形成され、
前記楕円状の平坦部は、前記厚みすべり水晶振動片の主表面を平面視したとき前記楕円状の平坦部の重心が前記厚みすべり水晶振動片の重心と重なるように形成され、
前記楕円状の平坦部は長辺側の長軸径と短辺側の短軸径を有し、
前記長軸径を前記短軸径で割った値は1.80~2.22であり、
前記楕円状の平坦部を形成する曲率半径は、少なくとも最小曲率半径ρ1、最大曲率半径ρ2及びベベル加工前のATカット水晶振動片の異なる2つの頂点同士を結ぶ線分を対角線とし、前記対角線と前記楕円状の平坦部とが交差する点の曲率半径ρ3とを有し、
前記楕円状の平坦部を形成する曲率半径は、ρ1<ρ3<ρ2の関係を満たし、
前記楕円状の平坦部を形成する曲率半径ρ1:ρ2:ρ3は1:6.53~11.56:4.57~8.29であることを特徴とする厚みすべり水晶振動片。
【請求項2】
前記長軸径を前記短軸径で割った値は2.00~2.13、前記楕円状の平坦部を形成する曲率半径ρ1:ρ2:ρ3は1:8.03~9.64:5.33~6.53であることを特徴とする請求項1に記載の厚みすべり水晶振動片。
【請求項3】
前記第3高調波の周波数と前記基本波の3倍の周波数との差が1517~1612kHzであることを特徴とする請求項1~
2のいずれか一項に記載の厚みすべり水晶振動片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベベル加工された厚みすべり水晶振動片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ATカット水晶振動子に代表される厚みすべり水晶振動子は、通信機器や自動車などの各種情報端末において広く使用されている。
【0003】
表面実装タイプの厚みすべり水晶振動子は、厚みすべり水晶振動片とセラミックパッケージ及び金属蓋からなる。厚みすべり水晶振動片の表裏面に厚みすべり水晶振動片を駆動させる一対の対向する励振電極が形成されこの励振電極から引出電極が引出されている。また、厚みすべり水晶振動片の一端側縁部には励振電極から引き出された引出電極と接続している端子電極が形成されている。セラミックパッケージは、厚みすべり水晶振動片を収容する収容凹部を備え収容凹部の一方の辺側の角部には、厚みすべり水晶振動片を実装するための電極パッドが形成されている。厚みすべり水晶振動片に形成された端子電極はセラミックパッケージに形成された電極パッドと導電性接着剤によって機械的、電気的に接合されている。厚みすべり水晶振動片が実装されたセラミックパッケージは金属蓋で封止される。
【0004】
近年、各種情報端末の小型化が進み、基板の縮小化、高集積化に伴い、厚みすべり水晶振動子についても小型化が求められている。厚みすべり水晶振動子の小型化に伴い、セラミックパッケージ内に搭載される厚みすべり水晶振動片も小型化が必須となる。
【0005】
しかしながら、厚みすべり水晶振動片が小型化することで形成できる励振電極の面積は小さくなる。また、厚みすべり水晶振動片が小型化することで端子電極と励振電極との長辺側の距離を十分にとることができない。このため、厚みすべり水晶振動片をセラミックパッケージに実装したときの影響を無視できなくなるために、一般的に厚みすべり水晶振動片を小型化すると、厚みすべり水晶振動子の等価直列抵抗値は大きくなる傾向にある。
【0006】
そこで、厚みすべり水晶振動片を小型化しても等価直列抵抗値を小さくするために、厚みすべり水晶振動片にベベル加工を行うことが知られている。
【0007】
厚みすべり水晶振動片へのベベル加工は、筒状の加工容器の内部に例えば水晶原石から所定形状で切り出された平面視形状が矩形のATカット水晶振動片と研磨材が投入され、筒状の加工容器を高速回転することで筒状の加工容器内壁面の曲率が厚みすべり水晶振動片に転写される。
【0008】
ベベル加工により、厚みすべり水晶振動片の外周部に近づくほど厚みは薄くなり厚みすべり水晶振動片の中央付近に振動エネルギーを閉じ込め、等価直列抵抗値を小さくすることができる。
【0009】
厚みすべり水晶振動子の等価直列抵抗値はベベル加工後の形状に大きく依存し、その管理方法としては、主振動と副振動の周波数差をベベル加工の管理に用いる方法(例えば特許文献1)が開示されている。また、厚みすべり水晶振動片をベベル加工する加工容器の回転軸に対する中心断面の曲率に対して幅方向の曲率を異ならせてベベル加工する(例えば特許文献2)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-34176号公報
【文献】特開2002-18698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載のベベル加工は、厚みすべり水晶振動片の外周部より内側はベベル加工がされないため厚みすべり水晶振動片の主表面には楕円状の平坦部が形成され、この厚みすべり水晶振動片の主表面に形成される楕円状の平坦部は厚みすべり水晶振動片の外形に応じて任意に設定できると記載されている。
【0012】
しかしながら、厚みすべり水晶振動子の等価直列抵抗値を小さくするためには、厚みすべり水晶振動片の主表面に形成する楕円状の平坦部の形状を管理する必要がある。
【0013】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、厚みすべり水晶振動片の主表面に形成される楕円状の平坦部の形状を管理することで等価直列抵抗値が小さい厚みすべり水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ベベル加工された平面視形状が矩形の厚みすべり水晶振動片において、厚みすべり水晶振動片は長辺寸法、短辺寸法及び基本波、第3高調波を有し、厚みすべり水晶振動片の基本波は8MHz帯であり、長辺寸法が2.2mm、短辺寸法が1.6mmであり、厚みすべり水晶振動片のそれぞれ対向する主表面には楕円状の平坦部が形成され、楕円状の平坦部は、厚みすべり水晶振動片の主表面を平面視したとき楕円状の平坦部の重心が厚みすべり水晶振動片の重心と重なるように形成され、楕円状の平坦部は長辺側の長軸径と短辺側の短軸径を有し、長軸径を短軸径で割った値は1.80~2.22であり、楕円状の平坦部を形成する曲率半径は、少なくとも最小曲率半径ρ1、最大曲率半径ρ2及びベベル加工前のATカット水晶振動片の異なる2つの頂点同士を結ぶ線分を対角線とし、対角線と楕円状の平坦部とが交差する点の曲率半径ρ3とを有し、楕円状の平坦部を形成する曲率半径は、ρ1<ρ3<ρ2の関係を満たし、楕円状の平坦部を形成する曲率半径ρ1:ρ2:ρ3は1:6.53~11.56:4.57~8.29である厚みすべり水晶振動片とする。
【0015】
長軸径を短軸径で割った値は2.00~2.13、楕円状の平坦部を形成する曲率半径ρ1:ρ2:ρ3は1:8.03~9.64:5.33~6.53である厚みすべり水晶振動片とする。
【0017】
第3高調波の周波数と基本波の3倍の周波数との差が1517~1612kHzである厚みすべり水晶振動片とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の厚みすべり水晶振動片によれば、厚みすべり水晶振動片の主表面に形成される楕円状の平坦部の形状を管理することで等価直列抵抗値が小さい厚みすべり水晶振動子となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の厚みすべり水晶振動片の平面図、正面図及び右側面図。
【
図2】ATカット水晶片振動片をベベル加工する様子を示した図。
【
図3】ベベル加工前後の厚みすべり水晶振動片の基本波、第3高調波及び基本波の3倍の周波数を示す模式図。
【
図4】本発明の厚みすべり水晶振動片の基本波、第3高調波及び基本波の3倍の周波数の実測波形を示す図。
【
図5】本発明の厚みすべり水晶振動片に電極膜を形成した平面図及び正面図。
【
図6】本発明の厚みすべり水晶振動片をセラミックパッケージに組立した断面図。
【
図7】本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子の断面図。
【
図8】長軸径/短軸径に対する等価直列抵抗値の特性図、最大曲率半径ρ2/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図及び曲率半径ρ3/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図。
【
図9】等価直列抵抗値が100Ω以下となる部分の長軸径/短軸径に対する等価直列抵抗値の特性図、最大曲率半径ρ2/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図及び曲率半径ρ3/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図。
【
図10】dFに対する長軸径/短軸径の特性図、dFに対する最大曲率半径ρ2/最小曲率半径ρ1の特性図及びdFに対する曲率半径ρ3/最小曲率半径ρ1の特性図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。説明を分かりやすくするために説明の順番を次の通りとする。まず本発明の厚みすべり水晶振動片について説明し、次に本発明の厚みすべり水晶振動片の基本波、第3高調波及び基本波の3倍の周波数について説明し、次に本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子について説明し、次に本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子と等価直列抵抗値について説明し、最後に本発明の厚みすべり水晶振動片のdFに対する楕円状の平坦部の形状について説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施の形態に限定されるものではなく本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また図面においては各構成をわかりやすくするために実際の形状や実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0021】
(本発明の厚みすべり水晶振動片。)
図2は、ATカット水晶片振動片をベベル加工する様子を示した図である。厚みすべり水晶振動片1は、ATカット水晶片振動片に次のような加工を行うことにより得られる。例えば水晶原石から所定形状で切り出された平面視形状が矩形のATカット水晶振動片を筒状のベベル加工容器に研磨材と一緒に収容して密閉する。その後、ATカット水晶振動片と研磨材が投入された筒状のベベル加工容器を高速回転させることでATカット水晶振動片と筒状の加工容器の内壁面との摩擦により、内壁面の形状がATカット水晶振動片に転写されるようにベベル加工する。筒状のベベル加工容器の回転軸は、筒状の長手方向が回転軸となり回転させる。ATカット水晶振動片をベベル加工するとATカット水晶振動片の外周部に近づくほど厚みは薄くなり断面は両凸形状となる。
【0022】
図1は、本発明のベベル加工された厚みすべり水晶振動片1の平面図、正面図及び右側面図である。厚みすべり水晶振動片1の外形寸法は、長辺寸法が略2.21mm、短辺寸法が略1.61mmであり、その基本波(公称周波数)は、8.000MHzである。厚みすべり水晶振動片1の結晶軸(X軸、Y軸、Z軸)は以下の通りである。Z´軸は長辺側、X´軸は短辺側、Y´軸は厚み側である。なお、厚みすべり水晶振動片1の4隅の細い実線はベベル加工される前のATカット水晶振動片の外形を示す。
【0023】
ベベル加工された厚みすべり水晶振動片1のそれぞれの対向する主表面には楕円状の平坦部2が形成される。前述した方法でベベル加工を行うと楕円状の平坦部2は、厚みすべり水晶振動片1の主表面を平面視したとき楕円状の平坦部2の重心が厚みすべり水晶振動片1の重心と重なるように形成される。楕円状の平坦部2は長辺側の長軸径と短辺側の短軸径とを有する。このときの長軸径は、略0.322mm、短軸径は、略0.160mmである。楕円状の平坦部2は、少なくとも最小曲率半径ρ1と最大曲率半径ρ2及びベベル加工前のATカット水晶振動片の異なる2つの頂点同士を結ぶ対角線分と楕円状の平坦部2とが交差する点の曲率半径ρ3を有する。このときの最小曲率半径ρ1は、略0.079mm、最大曲率半径ρ2は、略0.650mm、曲率半径ρ3は、略0.433mmである。なお、本発明の楕円状の平坦部2とは、厚みすべり水晶振動片1の最大厚みより0.5μm薄い領域である。
【0024】
(本発明の厚みすべり水晶振動片の基本波、第3高調波及び基本波の3倍の周波数。)
本発明の厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の形状とこの厚みすべり水晶振動片1の基本波(F0)、第3高調波(F3)及び基本波の3倍(3F0)の周波数の関係は以下の通りである。
【0025】
図3はベベル加工前後の厚みすべり水晶振動片の共振波形をネットワークアナライザで測定した基本波、第3高調波及び基本波の3倍の周波数を示す。ATカット水晶振動片の発振周波数は厚みに反比例し、基本波、第3高調波、第5高調波というように奇数次で発振する。一般に、基本波、第3高調波、第5高調波の周波数はベベル加工が進むにつれて高くなるが、基本波、第3高調波、第5高調波のベベル加工前後の周波数の変化する度合いは異なる。
図3(a)は、ベベル加工前の周波数の波形である。
図3(b)は、ベベル後の周波数の波形である。dFは、F3の周波数と3F0の周波数との差分の絶対値である。
【0026】
ベベル加工前において、F3の周波数は、3F0の周波数とほぼ一致している(
図3(a))。すなわちdFはほぼ0kHzである。ベベル加工が進むにつれて、F3及び3F0の周波数は高くなる。それぞれベベル加工前後の周波数の変化する度合いは異なるために、F3の周波数と3F0の周波数との乖離が大きくなる(
図3(b))。すなわちベベル加工が進むにつれてdFは大きくなる。
【0027】
ここで、ベベル加工の進捗と厚みすべり水晶振動片1のそれぞれの主表面に形成される楕円状の平坦部2の形状とdFの関係は以下の通りである。ベベル加工を行うと厚みすべり水晶振動片1のそれぞれの主表面には楕円状の平坦部2が形成される。更にベベル加工が進むと楕円状の平坦部2の領域は小さくなる。一方dFは、前述したようにベベル加工が進むにつれて大きくなる。まとめると、ベベル加工が進むにつれて楕円状の平坦部2の領域は小さく、dFは大きくなる。
【0028】
図4は、本発明の厚みすべり水晶振動片1のF0、F3及び3F0の周波数を示す。(データ数は2個)。なお、厚みすべり水晶振動片1のそれぞれの主表面に形成される楕円状の平坦部2の長軸径は、略0.322mm、短軸径は、略0.160mm、最小曲率半径ρ1は、略0.079mm、最大曲率半径ρ2は、略0.650mm、曲率半径ρ3は、略0.433mmである。F0は2個ともに8177kHzである(
図4(a))。F3の周波数は22922kHz及び22939kHzとなり、3F0の周波数は24531kHz(8177kHz×3)であり、dFはそれぞれ1592kHz、1609kHzとなっている(
図4(b))。
【0029】
このようにdFを管理指標とすることで、厚みすべり水晶振動片1のそれぞれの主表面に形成される楕円状の平坦部2の形状を管理することができる。
【0030】
(本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子。)
図5は、本発明の厚みすべり水晶振動片に電極膜を形成した平面図及び正面図である。前述した厚みすべり水晶振動片1の表裏面に厚みすべり水晶振動片1を駆動させる一対の対向する励振電極3が形成されこの励振電極3から引出電極4が引出されている。また、厚みすべり水晶振動片1の一端側縁部には励振電極3から引出された引出電極4と接続している端子電極5が形成されることで電極膜が形成された厚みすべり水晶振動片1´となる。厚みすべり水晶振動片1´の表裏面に形成する電極膜は、蒸着法またはスパッタリング法などによって例えばCr膜とAu膜とからなる電極膜を成膜する。なお、電極膜は、Cr膜、Au膜に限定されずTi膜、Pd膜にしても構わない。
【0031】
図6は、本発明の厚みすべり水晶振動片をセラミックパッケージに組立した断面図である。セラミックパッケージ6は、厚みすべり水晶振動片1´を収容する収容凹部7を備える矩形のセラミックパッケージ6であり、収容凹部7の一方の辺側の角部には、厚みすべり水晶振動片1´を実装するための電極パッド8が形成されている。この電極パッド8は、セラミックパッケージ6の外部底面に形成される実装用電極9と電気的に接続されている。厚みすべり水晶振動片1´に形成された端子電極5はセラミックパッケージ6に形成された電極パッド8と導電性接着剤10によって機械的、電気的に接合されている。なお、厚みすべり水晶振動片1´を収容する容器は、セラミックパッケージ6に限定されずシリコンパッケージを用いても構わない。
【0032】
図7は、本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子の断面図である。セラミックパッケージ6に収容された厚みすべり水晶振動片1´の周波数を所定値に調整するため励振電極3の厚みを蒸着法などによって蒸着膜を付け厚くする若しくはレーザなどによって励振電極3を削り薄くすることで励振電極3の厚みを変化させ周波数調整する。周波数調整後に金属製蓋11で封止する。その後ベーキングを行うと本発明の厚みすべり水晶振動片1´を用いた水晶振動子20が完成する。水晶振動子の外形寸法は、例えば、長辺寸法が略3.2mm、短辺寸法が略2.5mmである。なお、セラミックパッケージ6を封止する蓋は、金属製蓋11に限定されずガラス製蓋を用いても構わない。
【0033】
(本発明の厚みすべり水晶振動片を用いた水晶振動子と等価直列抵抗値。)
本発明の厚みすべり水晶振動片1(長辺寸法が略2.21mm、短辺寸法が略1.61mm、その基本波(公称周波数)は8.000MHz。)を用いた水晶振動子において等価直列抵抗値は小さい値が要求されている。厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の形状が等価直列抵抗値へ与える影響は以下の通りである。なお、本実施例では等価直列抵抗値の狙いを100Ω以下とする。等価直列抵抗値を100Ω以下とすることで、発振回路の負性抵抗に対して発振余裕度を大きくとることができる。
【0034】
図8は、本発明の厚みすべり水晶振動片の長軸径/短軸径に対する等価直列抵抗値の特性図、最大曲率半径ρ2/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図及び曲率半径ρ3/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図である。
図8(a)は、厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の長辺側の長軸径と短辺側の短軸径の寸法を変えた厚みすべり水晶振動片1を作製し、この厚みすべり水晶振動片1を用いた水晶振動子の環境温度25℃の等価直列抵抗値の関係を示す図であり、横軸は長軸径を短軸径で割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。なお、楕円状の平坦部2の長軸径と短軸径は、筒状のベベル加工容器の内壁面の曲率を変えることで所定の長軸径と短軸径とが得られる。
【0035】
前述した厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の長軸径(略0.322mm)を短軸径(略0.160mm)で割った値が略2.00のとき、等価直列抵抗値は最小値の略90Ωとなる放物線状の特性となる。(
図8(a))。楕円状の平坦部2の長軸径と水晶振動片の長辺側は一致しており、楕円状の平坦部2の長軸径を短軸径で割った値が大きいほど、楕円状の平坦部2の長軸径の長さが長くなる。ベベル加工後の厚みすべり水晶振動片1の形状について、長辺側の楕円状の平坦部2の拡大に伴い、振動領域が拡大するために厚みすべり振動はより容易になり等価直列抵抗値は小さくなるが、過度に楕円状の平坦部2を拡大すると振動エネルギーが厚みすべり水晶振動片1の端部にかけて減衰しきらず、端部反射等により等価直列抵抗値は大きくなる。短辺側も同様に短辺側の楕円状の平坦部2の拡大に伴い、振動領域が拡大するために厚みすべり振動はより容易になり等価直列抵抗値は小さくなるが、過度に楕円状の平坦部2を拡大すると振動エネルギーが厚みすべり水晶振動片1の端部にかけて減衰しきらず、端部反射等により等価直列抵抗値は大きくなる。したがって、長軸径を短軸径で割った値が1.80~2.22とすることで等価直列抵抗値を100Ω以下とすることができる。
【0036】
図8(b)は、厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の最大曲率半径ρ2と最小曲率半径ρ1の寸法を変えた厚みすべり水晶振動片1を作製し、この厚みすべり水晶振動片1を用いた水晶振動子の環境温度25℃の等価直列抵抗値の関係を示す図であり、横軸は最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。
図8(c)は、厚みすべり水晶振動片1のそれぞれ対向する主表面に形成される楕円状の平坦部2の曲率半径ρ3と最小曲率半径ρ1の寸法を変えた厚みすべり水晶振動片1を作製し、この厚みすべり水晶振動片1を用いた水晶振動子の環境温度25℃の等価直列抵抗値の関係を示す図であり、横軸は曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。なお、楕円状の平坦部2を形成する曲率半径ρ1、ρ2、ρ3は、筒状のベベル加工容器の内壁面の曲率を変えることで所定の曲率半径ρ1、ρ2、ρ3が得られる。
【0037】
楕円形状の平坦部2の最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値が略8.8のとき、等価直列抵抗値は最小値略90Ωとなる放物線状の特性となり等価直列抵抗値が100Ω以下となる範囲は6.53~11.56である(
図8(b))。また、楕円形状の平坦部2の曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値が略6.5のとき、等価直列抵抗値は最小値略90Ωとなる放物線状の特性となり等価直列抵抗値が100Ω以下となる範囲は4.57~8.29である(
図8(c))。楕円状の平坦部2の曲率半径は、ρ1<ρ3<ρ2の関係を満たし、曲率半径ρ1:ρ2:ρ3は1:6.53~11.56:4.57~8.29とすることで等価直列抵抗値を100Ω以下とすることができる。
【0038】
最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値、曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値が1.0に近づくほど楕円状の平坦部2は円形になる。すなわち楕円状の平坦部2の長辺側の寸法が小さくなり等価直列抵抗値は大きくなる。最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値、曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値を大きくすることで楕円状の平坦部2の長辺側は拡大するので等価直列抵抗値は小さくなるが、最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値、曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値を過度に大きくすると楕円状の平坦部2の長辺側は過度に拡大し、前述したように振動エネルギーが厚みすべり水晶振動片1の端部にかけて減衰しきらず、端部反射等により等価直列抵抗値は大きくなる。
【0039】
長軸径を短軸径で割った値と曲率半径ρ1:ρ2:ρ3との関係を以下の通りとすることで更に等価直列抵抗値を小さくすることができる。
図9は
図8の等価直列抵抗値が100Ω以下となる部分図である。
図9(a)は、長軸径/短軸径に対する等価直列抵抗値の特性図であり、横軸は長軸径/短軸径を割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。
図9(b)は、最大曲率半径ρ2/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図であり、横軸は最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。
図9(c)は、曲率半径ρ3/最小曲率半径ρ1に対する等価直列抵抗値の特性図であり、横軸は曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値であり、縦軸は等価直列抵抗値である。長軸径を短軸径で割った値を2.00~2.13、曲率半径ρ1:ρ2:ρ3を1:8.03~9.64:5.33~6.53とすることで等価直列抵抗値は90Ω以下になる。このように、楕円状の平坦部2の長軸径を短軸径で割った値と曲率半径ρ1:ρ2:ρ3を共に管理することで等価直列抵抗値が更に小さい厚みすべり水晶振動片1となる。
【0040】
(本発明の厚みすべり水晶振動片のdFに対する楕円状の平坦部の形状。)
図10は、dFに対する長軸径を短軸径で割った値、最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値及び曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値の特性図である。
図10(a)は、dFに対する長軸径を短軸径で割った値の特性図であり、横軸は長軸径/短軸径を割った値であり、縦軸はdFである。長軸径を短軸径で割った値が1.80~2.22のときのdFの値が1517~1612kHzになる。
図10(b)は、dFに対する最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値の特性図であり、横軸は、最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値、縦軸はdFである。最大曲率半径ρ2を最小曲率半径ρ1で割った値が6.53~11.56のときのdFの値が1503~1617kHzになる。
図10(c)は、dFに対する曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値の特性図であり、横軸は曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値であり、縦軸はdFである。曲率半径ρ3を最小曲率半径ρ1で割った値が4.57~8.29のときのdFの値1495~1612kHzになる。それぞれの特性図より、ベベル加工においてdFの値を1517~1612kHzの範囲内に収めるよう管理することで前述した楕円状の平坦部2の形状を有する厚みすべり水晶振動片1が得られる。
【0041】
本発明の厚みすべり水晶振動片1によれば、厚みすべり水晶振動片1の主表面に形成される楕円状の平坦部2の形状を管理することで等価直列抵抗値が小さい厚みすべり水晶振動片1となる。
【符号の説明】
【0042】
1、1´ 厚みすべり水晶振動片
2 楕円状の平坦部
3 励振電極
4 引出電極
5 端子電極
6 セラミックパッケージ
7 収容凹部
8 電極パッド
9 実装用電極
10 導電性接着剤
11 金属蓋
20 水晶振動子