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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】設計支援装置及び検索キー形状登録方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20231129BHJP
【FI】
G06F30/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020077247
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021174219
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 誠
(72)【発明者】
【氏名】板林 勇気
(72)【発明者】
【氏名】針谷 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】金剛 力
(72)【発明者】
【氏名】新谷 政樹
(72)【発明者】
【氏名】川本 啓輝
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-176464(JP,A)
【文献】特開2019-091445(JP,A)
【文献】特開2018-180578(JP,A)
【文献】特開2018-013927(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103295025(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101446980(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の部分形状に対して類似形状検索を行うための検索キー形状を登録する設計支援装置であって、
プロセッサと、
メモリと、
前記メモリにロードされ、前記プロセッサに実行される検索キー形状登録プログラムとを有し、
前記検索キー形状登録プログラムは、形状群登録部と、特徴量計算部と、クラスタリング部と、クラスタ中心計算部と、検索キー形状登録部とを有し、
前記形状群登録部は、三次元CADデータを複数登録し、
前記特徴量計算部は、登録された複数の前記三次元CADデータのそれぞれについて特徴量を算出し、
前記クラスタリング部は、複数の前記三次元CADデータを前記特徴量に基づきクラスタリングし、
前記クラスタ中心計算部は、クラスタごとに前記三次元CADデータの特徴量からクラスタ中心の特徴量を求め、
前記検索キー形状登録部は、前記クラスタ中心の特徴量データを検索キー形状の特徴量データとして登録する設計支援装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記形状群登録部は、指定されたデータファイルの三次元CADデータを登録する、または表示画面にCAD画面を表示し、前記CAD画面上で指定された部分形状に対応する三次元CADデータを登録する設計支援装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記特徴量計算部が算出する三次元CADデータの特徴量は、幾何的な特徴量と位相的な特徴量とを含む設計支援装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記クラスタ中心計算部は、前記クラスタ中心の特徴量を、前記クラスタに含まれる三次元CADデータのうち、前記クラスタの中心として算出される特徴量に最も近い特徴量を有する三次元CADデータの特徴量とする設計支援装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記所定の部分形状の類似形状として検索したい対象三次元CADデータと前記所定の部分形状の類似形状として検索したくない非対象三次元CADデータとが含まれる複数の三次元CADデータのクラスタリングを調整するクラスタ調整部を有する設計支援装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記クラスタ調整部は、前記クラスタリング部によりクラスタリングされた任意のクラスタについて、当該クラスタに含まれる1または複数の三次元CADデータが前記非対象三次元CADデータとして指定された場合に、前記複数の三次元CADデータのクラスタリングを調整する設計支援装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記クラスタ調整部は、前記対象三次元CADデータと前記非対象三次元CADデータとが混在するクラスタの数が最小となるよう、クラスタリングに用いるハイパーパラメータを調整する設計支援装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記ハイパーパラメータとして、クラスタの数、前記三次元CADデータ同士の類似度を計算するための特徴量ごとの重みづけを含む設計支援装置。
【請求項9】
形状群登録部と、特徴量計算部と、クラスタリング部と、クラスタ中心計算部と、検索キー形状登録部とを有する設計支援装置を用いて、所定の部分形状に対して類似形状検索を行うための検索キー形状を登録する検索キー形状登録方法であって、
前記形状群登録部は、三次元CADデータを複数登録し、
前記特徴量計算部は、登録された複数の前記三次元CADデータのそれぞれについて特徴量を算出し、
前記クラスタリング部は、複数の前記三次元CADデータを前記特徴量に基づきクラスタリングし、
前記クラスタ中心計算部は、クラスタごとに前記三次元CADデータの特徴量からクラスタ中心の特徴量を求め、
前記検索キー形状登録部は、前記クラスタ中心の特徴量データを検索キー形状の特徴量データとして登録する検索キー形状登録方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記設計支援装置は、クラスタ調整部を有し、
前記クラスタ調整部は、前記所定の部分形状の類似形状として検索したい対象三次元CADデータと前記所定の部分形状の類似形状として検索したくない非対象三次元CADデータとが含まれる複数の三次元CADデータのクラスタリングを調整する検索キー形状登録方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記クラスタ調整部は、前記クラスタリング部によりクラスタリングされた任意のクラスタについて、当該クラスタに含まれる1または複数の三次元CADデータが前記非対象三次元CADデータとして指定された場合に、前記複数の三次元CADデータのクラスタリングを調整する検索キー形状登録方法。
【請求項12】
請求項10において、
前記クラスタ調整部は、前記対象三次元CADデータと前記非対象三次元CADデータとが混在するクラスタの数が最小となるよう、クラスタリングに用いるハイパーパラメータを調整する検索キー形状登録方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記ハイパーパラメータとして、クラスタの数、前記三次元CADデータ同士の類似度を計算するための特徴量ごとの重みづけを含む検索キー形状登録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元CADデータから所望の部分形状を抽出するための検索キー形状を抽出、登録する設計支援装置及び検索キー形状登録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品設計では設計ツールとして三次元CAD(Computer Aided Design)が普及している。三次元CADは、製品形状をコンピュータ上に作成するツールであり、設計者の意図に沿って形状を自由に定義することができる。しかしながら、製品設計においては、工作機械や生産技術による製造上の要件や、強度や温度、安全性など設計上の要件を考慮し、複数の要件を満足する形状を試行錯誤しながら定義する必要がある。このような設計者が守るべき要件をここでは「設計ルール」と呼ぶ。
【0003】
設計者の経験が浅い場合や、限られた設計期間内に数多くの設計ルールを考慮しなければならない設計工程である場合においては、設計ルールのチェック漏れが起きやすく、その結果として設計手戻りが発生し、工程遅延が起こったり、製品出荷後に不具合が発覚してリコールが発生したりする場合がある。もしくは、性能向上やコストダウンの可能性があったにもかかわらず見逃され、機会損失を生じる場合もある。
【0004】
そこで、製品設計における設計ルールのチェック漏れを防止するため、以下のような先行技術が存在する。特許文献1は、製造上許容されるサイズの制約、フィーチャー形状間の製造上許容される配置距離の制約、およびフィーチャー形状とモデル外形端部や曲げ部との間の製造上許容される配置距離の制約と、ユーザが作成したフィーチャー形状との形状比較を行い、ユーザが作成した形状が製造上の制約に対して適合しない場合には対象個所を表示装置に差別表示し、さらにサイズや配置距離の修正について改善案群を提示し、改善案群からユーザによって選択された改善案によって、サイズや配置距離を変更したり新規形状を追加したりして形状を変更(変形)することが可能な装置を開示する。非特許文献1や非特許文献2では、設計ルールのチェック手順を明確にして、1つの設計ルールごとにチェックプログラム(ソフトウェア)を開発して、三次元CAD上で設計ルール違反部を表示する装置を開示する。これにより、三次元CADモデルを作成したタイミングで設計要件のチェックを行うことが可能となり、後工程での不具合発生が削減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-102282号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】HARIYA, M. et al., “Technique for Checking Design Rules for Three-Dimensional CAD Data”, Proc. IEEE Conf. Computer Science and Information Technology (ICCSIT), pp. 296-300, 2010
【文献】小野寺誠、他、「多種多様な設計ルールを三次元CAD上で自動検証可能な気づき支援CADシステムの開発」、日本機械学会第29回設計工学・システム部門講演会、2019
【文献】小野寺誠、他、「類似部分形状検索を用いた解析モデル再利用型メッシュ自動生成技術の開発」、日本機械学会論文集、Vol. 83, No. 853, 2017 [DOI:10.1299/transjsme.17-00073]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1、非特許文献1、2に記載の技術において、設計ルールのチェックのために三次元CADデータから抽出される形状は、次のような形状に限定されている。
(1)穴やフィレットなどの三次元CADのフィーチャーに相当する形状
(2)部品間の接触面や、接線連続で接続する面、などの幾何的な特徴で特定される形状
(3)部品番号(部品種)や溶接位置、など形状以外の属性情報から特定する形状
これに対して、ある部品を固定するための受け構造や、ノウハウに基づいた補強構造などについてのサイズや位置などの設計ルールの場合、そのようなあるまとまりをもって機能を果たす専用的な形状について抽出する必要がある。この場合、非特許文献1、2の方法では、対象となる形状を特定するプログラムを個別に開発し、組み込む必要がある。さらに新たな専用的な形状が新設計されるたびにプログラムを見直す必要があり、恒久的なメンテナンスが必要になる。
【0008】
一方、上述のような専用的な形状は、バリエーションは多いものの構造上の共通点が多く、形状面でも比較的類似する形状を有することが多い。そのため、非特許文献3に示すような類似形状検索技術を用いて形状を特定することが有効と考えられる。しかしながら、類似形状検索技術を用いるためには、検索キーとなる形状(以降では「検索キー形状」と呼ぶ)を準備しなければならない。このため、専用的な形状が多岐にわたる場合は、この検索キー形状をどのように定義するかによって、三次元CADデータから検索キー形状を認識する認識率が変化する。認識率を100%またはこれに準ずる精度が要求される場合、この検索キー形状を定義する作業が、試行錯誤が必要な困難な作業となる。
【0009】
検索キー形状は、面積や周長、曲率、面の接続関係などの特徴量によって定義される。例えば、検索したい専用的な形状が、ネジやボルトを受けるボス構造についての形状である場合、ボスの高さや径はネジ・ボルトの種類や取付位置によって変動し、また、周囲に補強のためのリブをつけたり、設計途中段階ではフィレットを施していなかったり、でその構造は多岐にわたる。ボスの高さや径、補強リブの数やサイズ、フィレット有無などで分類した上で、検索されないパターンなく、かつ、過剰に検索されないように、検索キー形状を定義することは、試行錯誤を含む難しい作業である。現状では、このような検索キー形状を定義する作業は作業者のスキルや経験に依存する高度な作業となっている。
【0010】
本発明は上述の事情を鑑みてなされたものであり、専用的な形状を特定するために用いる検索キー形状を効率的に作成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0012】
本発明の一実施の態様である、所定の部分形状に対して類似形状検索を行うための検索キー形状を登録する設計支援装置は、プロセッサと、メモリと、メモリにロードされ、プロセッサに実行される検索キー形状登録プログラムとを有し、検索キー形状登録プログラムは、形状群登録部と、特徴量計算部と、クラスタリング部と、クラスタ中心計算部と、検索キー形状登録部とを有し、形状群登録部は、三次元CADデータを複数登録し、特徴量計算部は、登録された複数の三次元CADデータのそれぞれについて特徴量を算出し、クラスタリング部は、複数の三次元CADデータを特徴量に基づきクラスタリングし、クラスタ中心計算部は、クラスタごとに三次元CADデータの特徴量からクラスタ中心の特徴量を求め、検索キー形状登録部は、クラスタ中心の特徴量データを検索キー形状の特徴量データとして登録する。
【発明の効果】
【0013】
専用的な形状を特定するための検索キー形状が容易に作成できるため、設計ルールチェックの対象範囲を拡大することが可能となる。
【0014】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】設計支援装置が使用される設計環境の一例である。
図2】設計支援装置のハードウェア構成例である。
図3】補助記憶装置に記憶されるプログラム及びデータの例である。
図4A】形状群登録画面の一例である。
図4B】形状群登録画面の一例である。
図5】検索対象形状群の一例である。
図6A】CAD形状の一例である。
図6B図6Aに示す形状の特徴量データの一例である。
図6C図6Aに示す形状の特徴量データの一例である。
図7】クラスタリング特徴量データ(CAD形状)の一例である。
図8】検索キー形状データ(クラスタ中心となるCAD形状)の一例である。
図9】クラスタ調整部への入出力情報を示す図である。
図10】三次元CADデータ(CAD形状)の一例である。
図11】非対象三次元CADデータ(CAD形状)の一例である。
図12】クラスタリング特徴量データ(CAD形状)の一例である。
図13】クラスタ調整後のクラスタリング特徴量データ(CAD形状)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の設計支援装置の一例を説明する。
【0017】
図1に本実施例による設計支援装置が使用される設計環境の一例を示す。設計システム100は三次元CADを用いて部品や部材の三次元形状を設計する設計装置101を有する。三次元CADデータベース102には設計装置101により設計された設計対象の形状情報(立体モデル)である三次元CADデータが格納されている。また、三次元CAD属性データベース103には設計対象の名称や属性情報が格納されている。三次元CADDB102に格納される三次元CADデータは、設計対象を面、線、点により表現した形状情報を含んでいる。三次元CADデータに紐づけて、形状情報以外の属性情報が三次元CAD属性DB103に格納されている。
【0018】
設計支援システム120は、設計装置101で設計した三次元CADデータから、検索キー形状を用いた類似形状検索により、所定の専用的な形状を抽出する設計支援装置121を有する。設計ルールデータベース122は設計部門あるいは設計者が設計対象に対して守るように求めている設計ルールが格納されている。設計ルールは、設計対象個別に定められているものであっても、多数の設計対象に共通に定められているものであってもよい。ここでは電子ファイルとしてデータベース化されている例を示しているが、設計ルールには紙媒体により、あるいはノウハウとして保持されているものもあり、どのような媒体で保持されているかを問わない。設計支援装置121は、さらにそのような設計ルールが対象とする専用的な形状を三次元CADデータから検索するための検索キー形状を定義する機能を備えている。
【0019】
設計システム100と設計支援システム120とはネットワーク110で接続されていることが望ましい。
【0020】
図2に、設計支援装置121のハードウェア構成例を示す。設計支援装置121は、プロセッサ131、主記憶132、補助記憶装置133、入出力インタフェース134、表示インタフェース135、ネットワークインタフェース136、入出力(I/O)ポート137を含み、これらはバス138により結合されている。入出力インタフェース134は、キーボードやマウス等の入力装置140と接続され、表示インタフェース135は、ディスプレイ139に接続され、GUI(Graphical User Interface)を実現する。ネットワークインタフェース136はネットワーク110と接続するためのインタフェースである。補助記憶装置133は通常、HDD(Hard Disk Drive)やROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリで構成され、設計支援装置121が実行するプログラムやプログラムが処理対象とするデータ等を記憶する。主記憶132はRAM(Random Access Memory)で構成され、プロセッサ131の命令により、プログラムやプログラムの実行に必要なデータ等を一時的に記憶する。プロセッサ131は、補助記憶装置133から主記憶132にロードしたプログラムを実行する。設計支援装置121は例えば、PC(Personal Computer)やサーバにより実現できる。
【0021】
図3に示すように、補助記憶装置133には、検索キー形状登録プログラム150が登録されている。補助記憶装置133には、I/Oポート137に接続される光学ドライブや外付けのHDDを介して各種媒体に記憶されたプログラムを格納してもよく、ネットワーク110を介して配信されるプログラムを格納してもよい。また、補助記憶装置133には、検索キー形状登録プログラム150により使用または生成されるデータも格納される。プログラム、及びこれらのデータの内容については後述する。本実施例では設計支援装置121の機能は、補助記憶装置133に格納されたプログラムがプロセッサ131によって実行されることで、定められた処理を他のハードウェアと協働して実現される。コンピュータなどが実行するプログラム、その機能、あるいはその機能を実現する手段を、「機能」、「部」、「モジュール」等と呼ぶ場合がある。
【実施例1】
【0022】
以下、実施例1において、検索キー形状登録プログラム150により実行される処理について説明する。
【0023】
(1)形状群登録部151
実施例1では、類似形状として検索したい部分形状(三次元CADデータ)の集合を、対象三次元CADデータ160(図3参照)として登録する。登録方法としては、部分形状のみを抽出したCADデータファイルを登録する方法、あるいはCAD画面上で部分形状を構成する面を指定する方法がある。
【0024】
前者の場合、例えば図4Aに示す登録画面201から部分形状のみを抽出したCADデータファイルを複数個指定する。ここで登録するCADデータファイルは、形状202a~cに示すような、類似形状として検索したい部分形状のみが登録されたCADデータファイルである。
【0025】
後者の場合、例えば図4Bに示す登録画面211において、CAD画面212上で部分形状を構成する面を指定する。マウス等のポインティングデバイスで部分形状を構成する面を選択して登録する。例えば、面213aを選択して登録ボタンを押下し、面213bを選択して登録ボタンを押下することで2つの部分形状に対応する三次元CADデータが登録される。
【0026】
(2)特徴量計算部152
形状群登録部151にて登録された対象三次元CADデータ160に対して、その特徴量を計算する。実施例1では形状群登録部151により登録された形状は類似形状として検索したい部分形状であるので、計算された特徴量は、対象特徴量データ170として登録される。特徴量としては、非特許文献3に開示される類似部分形状検索技術に利用される特徴量が使用できる。この技術では、面の面積、周長、面種、曲率、主方向長さを幾何的な特徴量、面の接続関係を位相的な特徴量として開示している。位相的な特徴量としては、他にも隣接する面の隣接角度や、隣接エッジ長などが利用できる。算出する特徴量はあらかじめ定められており、所定の特徴量を対象三次元CADデータ160のそれぞれについて計算し、対象特徴量データ170として登録する。
【0027】
(3)クラスタリング部153
対象特徴量データ170に対して、特徴量に応じてクラスタリングし、クラスタリング特徴量データ180として登録する。クラスタリング手法は、特に限定されない。K-means法や最短距離法、多次元尺度法、Ward法などを採用することが考えられる。なお、どのクラスタリング手法においても各個体(特徴量データ)間の類似度(距離)を計算する必要がある。この類似度に関しては、非特許文献3に示されている類似度を用いるとよい。ただし、これも限定するものではなく、形状の類似度が計算できるものであればよい。
【0028】
(4)クラスタ中心計算部154
クラスタリング特徴量データ180に対して、各クラスタのクラスタ中心の特徴量を計算する。クラスタ中心を計算する手法に関しては、各種クラスタリング手法において開示されており、これを用いる。なお、便宜上「クラスタ中心」と記しているが、厳密にクラスタの中心でなくてもよい。例えば、あるクラスタに含まれる特徴量データのうち、クラスタの中心として算出される特徴量に最も近い特徴量データをクラスタ中心として扱ってもよい。
【0029】
(5)検索キー形状登録部155
クラスタ中心計算部154が計算したクラスタ中心の特徴量を検索キー形状データ190として登録する。このクラスタ中心の特徴量は対象特徴量データ170と同じ内容を含んでいる。したがって、クラスタ中心の特徴量は、検索キー形状データとして扱うことができる。
【0030】
(6)可視化部156
検索キー形状データ190やクラスタリング特徴量データ180をディスプレイ139に表示する。例えば、クラスタリングされた結果、検索キー形状データ190として登録された特徴量に基づくCAD形状を表示したり、同一クラスタとなった三次元CADデータの特徴量に基づくCAD形状を表示したりする。
【0031】
続いて、実施例1における検索キー形状登録の処理手順を図5図8を用いて説明する。本例は、ボス形状に関する検索キー形状を作成するものである。
【0032】
まず、形状群登録部151により、類似形状として検索したい対象三次元CADデータ160として、図5に示す48個の三次元CADデータ(部分形状)が登録されたものとする。なお、ここでは分かりやすさのため、三次元CADデータを図ではその形状により表示する。
【0033】
続いて、特徴量計算部152は、対象三次元CADデータ160のそれぞれについて、対象特徴量データ170を作成する。例えば、図5に示す形状301の三次元CADデータについて算出される対象特徴量データについて図6A~Cを用いて説明する。図6Aに示されるように、形状301は面401a~kの11面からなる形状である。本例では、非特許文献3に開示されている方法に基づき、面積、周長、最小曲率、最大曲率を幾何的な特徴量、面の接続関係を位相的な特徴量として採用している。図6Bに示す表402は幾何的な特徴量を示しており、図6Aに示した形状301の各面の面積、周長、最小曲率、最大曲率が登録されている。図6Cに示す表403は位相的な特徴量を示しており、図6Aに示した形状301に対して、隣接している面組には「1」、隣接していない面組には「0」が登録されている。このような形状の特徴を表す指標を特徴量データとして作成する。
【0034】
なお、本例は、CAD形状に対して特徴量データを計算する例である。CAD形状はB-REP(境界表現:Boundary Representation)と呼ばれる、立体を構成する面、面を構成する境界線、線を構成する始終点といったデータを持っているため、面や境界線の幾何的なデータや、その接続関係のデータを特徴量としたものである。一方で、三次元形状の表現方法としては、境界表現に限られず、多面体表現や点群表現といった方法もある。多面体表現や点群表現の場合には、各面の法線方向の内積値のヒストグラムや点間距離のヒストグラム、領域内の点数、などを特徴量として計算してもよい。
【0035】
続いて、クラスタリング部153は、対象特徴量データ170に対して、特徴量に応じてクラスタリングし、クラスタリング特徴量データ180として登録する。図5に示した48個のCAD形状に対して作成した対象特徴量データ170をクラスタリングすることにより、例えば、図7に示すクラスタ501~506に分けられ、クラスタごとの各クラスタを構成する三次元CADデータの特徴量が、クラスタリング特徴量データ180として登録される。なお、図7に示すクラスタリング結果は一例であり、クラスタリングするクラスタ数や類似度計算における特徴量ごとの重みづけによっては異なるクラスタリングが得られる。
【0036】
続いて、クラスタ中心計算部154は、クラスタリング特徴量データ180に対して各クラスタのクラスタ中心の特徴量を計算する。本例においては、クラスタの中心として算出される特徴量に最も近い三次元CADデータの特徴量データをクラスタ中心として扱うこととする。これにより、例えば、図8に示すCAD形状601~606に相当する特徴量データが、それぞれクラスタ501~506のクラスタ中心として計算される。
【0037】
続いて、検索キー形状登録部155は、クラスタ中心計算部154が計算したクラスタ中心の特徴量データ(この例では、CAD形状601~606に相当する特徴量データ)を検索キー形状データ190として登録する。
【0038】
可視化部156は、検索キー形状データ190およびクラスタリング特徴量データ180をディスプレイ139に表示する。このとき、特徴量データそのものではなく、特徴量データに相当する形状を表示することが望ましい。例えば、図7図8に示したCAD形状をディスプレイ139に表示したり、クラスタ中心に最も近い三次元CADデータの特徴量データをクラスタ中心として扱う場合には、図7のようにCAD形状をクラスタごとに表示し、そのうちのクラスタ中心となるCAD形状を識別可能に表示したりすることができる。
【0039】
このように、利用者は検索対象とする三次元CADデータを指定するだけで、試行錯誤せずに検索キー形状を作成できるため、専用的な形状を特定することが容易になり、設計ルールチェックの対象範囲を拡大することが容易となる。
【実施例2】
【0040】
実施例1によって作成される検索キー形状によっては、類似形状として検索したくない部分形状についても類似形状として検索される、ということが起こりうる。このため、実施例2では検索キー形状に対応するクラスタの範囲を調整するクラスタ調整処理を行う。このようなクラスタ調整処理を行いたい場合としては、以下の2つの場合が考えられる。
(A)ある特定の形状については、類似形状として検索したくない
(B)1つのクラスタに含まれる類似形状の一部を別のクラスタに分離したい
いずれの場合においても、同じクラスタ調整処理として実行できる。
【0041】
このようなクラスタ調整処理は、検索キー形状登録プログラム150のクラスタ調整部157により実行される。
(7)クラスタ調整部157
類似形状として検索したくない部分形状(三次元CADデータ)を、類似形状として検索したい部分形状(三次元CADデータ)とは別のクラスタとなるように、クラスタリングのための各種パラメータやクラスタリング手法、および各特徴量データ間の類似度計算パラメータを調整する。
【0042】
一般的なクラスタリング手法には調整しなくてはならないパラメータがある。例えば、クラスタリング手法の一つであるK-means法では、分割するクラスタの数などを設定する必要がある。また、クラスタリングのために各個体(特徴量データ)間の類似度(距離)を計算するが、この類似度を計算する際には、特徴量ごとの重みづけを設定する必要がある。これらのクラスタリングに影響を与えるパラメータをハイパーパラメータと呼ぶ。
【0043】
クラスタ調整部157は、ハイパーパラメータを調整することによってクラスタリング部153が区分したクラスタを調整する。クラスタ調整手法は、特に限定されない。勾配法、あるいはGA(遺伝的アルゴリズム:Genetic Algorithm)といった最適化手法が知られており、これらの手法を適用することでクラスタの調整が行える。
【0044】
図9にクラスタ調整部157への入出力情報を示す。クラスタ調整部157にはクラスタリング特徴量データ180と類似形状として検索したくない三次元CADデータの特徴量データ(非対象特徴量データ171)とが入力され、クラスタ区分が調整されたクラスタリング特徴量データ180bが出力される。
【0045】
なお、非対象特徴量データ171は、次の2通りの登録方法が考えられ、どちらであってもよい。第1の方法は、形状群登録部151により、類似形状として検索したくない部分形状(三次元CADデータ)を非対象三次元CADデータ161(図3参照)として登録する方法である。登録の方法は、対象三次元CADデータ160の場合と同じである。特徴量計算部152が非対象三次元CADデータ161について特徴量を計算することにより、非対象特徴量データ171を得ることができる。第2の方法は、クラスタリング特徴量データ180からクラスタを調整したい特徴量データを指定することで非対象三次元CADデータ161を得る方法である。例えば、可視化部156が図7のように表示したクラスタリング特徴量データ180に対して、非対象としたい、あるいはクラスタから分離したい1または複数のCAD形状を指定することによって、指定されたCAD形状に対応する三次元CADデータを対象三次元CADデータ160から、非対象三次元CADデータ161に変更し、その特徴量を非対象特徴量データ171とする。
【0046】
実施例2における検索キー形状登録の処理手順のうち、クラスタ調整処理に関する処理を中心に図10図13を用いて説明する。実施例1と同様に、ボス形状に関する検索キー形状の作成を例にとる。
【0047】
実施例1の処理により得られた、図8に示すCAD形状601~606に相当する検索キー形状データ190を検索キーとして、図10に示すCAD形状(三次元CADデータ)について類似形状を検索したところ、部分形状701~703が検索され、このうち形状703は、利用者にとっては検索したい部分形状ではなかった、とする。また、部分形状703は図8に示す形状604に相当する検索キー形状に類似していると判定されたものとする。そこで、このような過剰な検索を抑制するよう、クラスタを調整する。
【0048】
なお、上記の例では複数の検索キー形状データを検索する例を示したが、類似部分形状検索は、1つの検索キー形状データを用いて実行してもよいし、複数の検索キー形状データを用いて実行してもよい。検索したい形状、許容される認識率に基づき使用する検索キー形状データを選択すればよい。
【0049】
そこで、図11に示すCAD形状703の三次元CADデータを非対象三次元CADデータ161とし、その特徴量である非対象特徴量データ171を得る。
【0050】
クラスタリング部153にて、対象特徴量データ170および非対象特徴量データ171に対して、特徴量に応じてクラスタリングし、クラスタリング特徴量データ180として登録する。なお、対象特徴量データ170としては、実施例1と同じ図5に示した48個のCAD形状に相当する三次元CADデータが登録されていたものとする。クラスタリングのためのクラスタリング手法やハイパーパラメータが実施例1と同じであったとすると、図12に示すクラスタ901~906に分けられ、クラスタごとの各クラスタを構成する三次元CADデータの特徴量が、クラスタリング特徴量データ180として登録される。この段階では、クラスタ904に対象特徴量データ170と非対象特徴量データ171とが混在している。
【0051】
そこで、クラスタ調整部157は、対象特徴量データ170と非対象特徴量データ171が別のクラスタになるようにクラスタリングのための各種パラメータやクラスタリング手法、および各特徴量データ間の類似度計算パラメータを最適化する。例えば、勾配法やGAといった最適化手法を用いて、対象特徴量データ170と非対象特徴量データ171とが混在するクラスタ数を最小化することを目的に、各種のハイパーパラメータを設計変数として最適化問題を解くことにより実現できる。
【0052】
この例であれば、対象特徴量データ170(図5に示されるCAD形状)には中心に穴部の面があり、非対象特徴量データ171(CAD形状703)には中心に穴部の面がなく、位相的には類似していない。このことから、最適化手法を適用し、位相的な類似度の重みを上げることで、対象特徴量データ170と非対象特徴量データ171とは、別のクラスタになることが期待される。このようにハイパーパラメータなどを最適化することによって、対象特徴量データ170と非対象特徴量データ171が別のクラスタになるようにする。その結果、図13に示す対象特徴量データ170のクラスタであるクラスタ1001~1006、非対象特徴量データ171のクラスタであるクラスタ1007が得られる。
【0053】
また、図12に示すように、クラスタ906から集合1200に含まれる4つのCAD形状を分離したい場合も同様に、集合1200に含まれる4つのCAD形状に相当する三次元CADデータの特徴量を非対象特徴量データ171としてハイパーパラメータなどの最適化処理を行えばよい。これにより、検索キー形状データ190によって検索される類似形状の範囲を調整することができる。
【0054】
このように、利用者は検索対象とする対象三次元CADデータと検索対象としたくない非対象三次元CADデータとを指定するだけで、容易に検索キー形状データにより検索される範囲(クラスタの大きさ)を調整できるため、検索キー形状データによる類似部分形状検索の適正化を容易に行うことができる。
【0055】
以上、本発明を実施の態様に沿って説明したが、本発明は上記記載の内容に限定されるものではない。例えば、設計環境として設計装置101と設計支援装置121と別々のコンピュータで実現している例を示しているが、同じコンピュータで実現してもよい。また、本実施例の検索キー形状登録プログラムをクラウド上に実現してもよく、プログラムの実装形態には限定されるものではない。
【0056】
本発明は、設計ルールチェックのための形状検索のみならず、過去の設計データから類似する形状を検索する場合においても有用であり、その活用場面は広い。例えば、非特許文献3では、過去の設計データにおける類似形状に対応する解析モデルを再利用することで、高品質な解析モデルを効率的に作成する方法が提案されており、このような場面においても活用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
100:設計システム、101:設計装置、102:三次元CADデータベース、103:三次元CAD属性データベース、110:ネットワーク、120:設計支援システム、121:設計支援装置、122:設計ルールデータベース、131:プロセッサ、132:主記憶、133:補助記憶装置、134:入出力インタフェース、135:表示インタフェース、136:ネットワークインタフェース、137:入出力ポート、138:バス、139:ディスプレイ、140:入力装置、150:検索キー形状登録プログラム、151:形状群登録部、152:特徴量計算部、153:クラスタリング部、154:クラスタ中心計算部、155:検索キー形状登録部、156:可視化部、157:クラスタ調整部、160:対象三次元CADデータ、161:非対象三次元CADデータ、170:対象特徴量データ、171:非対象特徴量データ、180:クラスタリング特徴量データ、190:検索キー形状データ。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13