(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】金属接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
B23K20/00 310Z
B23K20/00 310P
(21)【出願番号】P 2020107147
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小山 真司
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154870(WO,A1)
【文献】特開2019-150850(JP,A)
【文献】特開2001-225180(JP,A)
【文献】特開2013-78793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00-20/26
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と第2金属部材とを接合する金属接合方法であって、
前記第1金属部材と前記第2金属部材との少なくともいずれか一方の表面に凹部を形成する工程と、
前記凹部に低沸点化合物を配置する工程と、
前記第1金属部材の表面と前記第2金属部材の表面とを対向させた状態で加圧しながら通電して前記低沸点化合物を気化させ、前記第1金属部材及び前記第2金属部材の表面の酸化皮膜を前記低沸点化合物とともに排出させて接合する工程と、
を含むことを特徴とする金属接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属接合方法であって、
前記低沸点化合物は、飽和脂肪酸のうち少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする金属接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属接合方法であって、
前記低沸点化合物は、不飽和脂肪酸のうち少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする金属接合方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属接合方法であって、
前記低沸点化合物は、脂肪族ヒドロキシ酸のうち少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする金属接合方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属接合方法であって、
前記低沸点化合物は水である、
ことを特徴とする金属接合方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかひとつに記載の金属接合方法であって、
前記加圧と前記通電とをコンデンサ溶接機により行う、
ことを特徴とする金属接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの金属部材の間に有機還元剤を配置した状態で、加熱処理及び加圧処理を行って2つの金属部材を接合する金属接合方法が開示されている。当該方法では、金属部材それぞれの表面の酸化皮膜が有機還元剤との化学反応により除去されることで、金属部材それぞれの新生面が露出する。よって、接合性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、当該方法では、金属部材の酸化皮膜を除去するにあたり、還元剤と金属部材とを化学反応させるための一定の時間を要する。すなわち、接合時間の点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、短時間で新生面を露出させて金属部材を接合する金属接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、第1金属部材と第2金属部材とを接合する金属接合方法であって、前記第1金属部材と前記第2金属部材との少なくともいずれか一方の表面に凹部を形成する工程と、前記凹部に低沸点化合物を配置する工程と、前記第1金属部材の表面と前記第2金属部材の表面とを対向させた状態で加圧しながら通電して前記低沸点化合物を気化させ、前記第1金属部材及び前記第2金属部材の表面の酸化皮膜を前記低沸点化合物とともに排出させて接合する工程と、を含むことを特徴とする金属接合方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、低沸点化合物の気化によって、短時間で、第1金属部材及び第2金属部材の表面の酸化皮膜を除去できる。よって、短時間で新生面を露出させて金属部材を接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1金属部材及び第2金属部材の表面に凹部を形成する工程を説明するための模式図である。
【
図2】凹部に低沸点化合物を配置する工程を説明するための模式図である。
【
図3】第1金属部材の表面と第2金属部材の表面とを対向配置する工程を説明するための模式図である。
【
図4】第1金属部材及び第2金属部材を接合する工程を説明するための模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る金属接合方法により接合した第1金属部材及び第2金属部材を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る金属接合方法のプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[金属接合方法]
図1は、第1金属部材1及び第2金属部材2の表面1a,2aに凹部1b,2bを形成する工程を説明するための模式図である。
図2は、凹部1b,2bに低沸点化合物4を配置する工程を説明するための模式図である。
図3は、第1金属部材1の表面1aと第2金属部材2の表面2aとを対向配置する工程を説明するための模式図である。
図4は、第1金属部材1及び第2金属部材2を接合する工程を説明するための模式図である。
図5は、本発明の実施形態に係る金属接合方法により接合した第1金属部材1及び第2金属部材2を示す模式図である。
図6は、本発明の実施形態に係る金属接合方法のプロセス図である。
【0011】
本発明の実施形態に係る金属接合方法を用いて接合する第1金属部材1及び第2金属部材2の材質は、特に限定されず、各種金属から形成される部材を用いることができる。例えば、鉄、アルミニウム、などが挙げられる。
【0012】
本発明の実施形態に係る金属接合方法を行うにあたって用いる接合装置は、金属部材を加圧しながら通電することが可能であれば、特に限定されない。本実施形態では、コンデンサ溶接機を用いることを前提として、以下説明する。
【0013】
まず、本発明の実施形態に係る金属接合方法では、第1の工程として、
図1に示すように、第1金属部材1の表面1aに凹部1bを形成する。表面1aとは、第2金属部材2と接合する面である。また、第2金属部材2の表面2aに凹部2bを形成する。表面2aとは、第1金属部材1と接合する面である。当該工程は、
図6に示すプロセス図のステップS1である。
【0014】
本実施形態では、直線溝形状の凹部1b,2bを、間隔を開けずに複数個、表面1a,2aに形成する。そのため、第1金属部材1及び第2金属部材2を凹部1b,2bが延伸する方向から見ると、
図1に示すように隣接した凹部1b,2bが表面1a,2a全面に亘って形成される。
【0015】
凹部1b,2bの形成方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。公知の方法とは、例えば、機械研磨、レーザー加工などがあげられる。
【0016】
表面1aのうち凹部1bが形成された箇所は、表面1aの酸化皮膜3が除去される。しかしながら、例えば、凹部1b形成後、一定時間以上経過した場合には、
図1に示すように、凹部1bの表面に酸化皮膜3が形成される。これは、表面2aについても同様である。
【0017】
次に、第2の工程として、
図2に示すように、凹部1b,2bに低沸点化合物4を配置する。凹部1b,2bに低沸点化合物4を配置することで、低沸点化合物4は、第1金属部材1及び第2金属部材2に適切に保持される。本実施形態では、低沸点化合物4を凹部1b,2bに塗布することにより、凹部1b,2bに低沸点化合物4を配置する。当該工程は、
図6に示すプロセス図のステップS2である。
【0018】
低沸点化合物4の例としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂肪族ヒドロキシ酸のうち、少なくとも1つを含むものがあげられる。また、低沸点化合物4の別の例としては、水があげられる。これらの化合物は低沸点であることに加えて、コストや入手性の面からも本実施形態に係る金属接合方法に好適である。しかしながら、低沸点化合物4はこれらに限られず、低沸点であれば他の化合物であってもよい。
【0019】
飽和脂肪酸の例としては、ステアリン酸、パルミチン酸があげられる。不飽和脂肪酸の例としては、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸があげられる。脂肪族ヒドロキシ酸の例としては、乳酸、クエン酸、酒石酸があげられる。
【0020】
また、低沸点化合物4は、凹部1b,2bに配置して金属部材1,2に保持されるものであれば、固体状でも液体状でも良い。すなわち、本実施形態に係る金属接合方法では、低沸点化合物4は、金属部材1,2に保持されるならばそのままの状態で用いてよい。例えば、固体状の低沸点化合物4を液体に調製しなくてよい。これにより、作業時間を短縮することができる。
【0021】
次に、第3の工程として、
図3に示すように、第1金属部材1の表面1aと第2金属部材2の表面2aとを対向させて、第1金属部材1と第2金属部材2とをコンデンサ溶接機にセットし、
図4に示すように、第1金属部材1と第2金属部材2との接合部を加圧しながら通電する。これにより、第1金属部材1と第2金属部材2とが接合される。当該工程は、
図6に示すプロセス図のステップS3である。
【0022】
図4に示すように、コンデンサ溶接機によって第1金属部材1と第2金属部材2とを加圧しながら通電することで、第1金属部材1の表面1aと第2金属部材2の表面2aとの間に介在する低沸点化合物4は、加圧された状態で気化により体積が膨張する。
【0023】
低沸点化合物4の気化の衝撃によって、第1金属部材1の表面1aや第2金属部材2の表面2aに形成された酸化皮膜3は、表面1a,2aから吹き飛ばされ、低沸点化合物4とともに外部へ排出される。これにより、表面1a,2aは、新生面が露出する。
【0024】
加圧力や通電電流値、通電時間は、第1金属部材1や第2金属部材2の材質、形状、用いる低沸点化合物4の種類などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。また、通電時間は、加圧時間の範囲内で設定可能である。加圧時間は、接合対象の金属を一般的な固相拡散によって加圧接合する際の加圧時間の範囲内で対応可能である。すなわち、上記第3の工程は、金属部材1,2を一般的な固相拡散による加圧接合で接合する場合での接合時間の範囲内で完結する。
【0025】
例えば、第1金属部材1及び第2金属部材2の材質がクロム鋼であり、表面1a,2aの面積が28mm2、表面1a,2aの平均粗さRaが1.0~1.5μm,最大高さRzが8~12μmとなるように凹部1b,2bが形成され、低沸点化合物4としてステアリン酸が用いられる場合では、加圧力は173MPa,通電電流値は22kAに設定して、コンデンサ溶接機による接合を行うことが好ましい。なお、上記条件は、金属部材1,2の材質、形状、大きさなどによって適宜変更される。
【0026】
本実施形態では、低沸点化合物4の気化によって第1金属部材1及び第2金属部材2の表面1a,2aの酸化皮膜3を除去するため、短時間で表面1a,2aの酸化皮膜3を除去することができる。よって、短時間で表面1a,2aに新生面を露出させることができる。特に、低沸点化合物4が、上記で例示した沸点が400℃以下のものであれば、コンデンサ溶接機によって加圧通電すれば速やかに温度が上昇するため、より短い時間で気化する。コンデンサ溶接機は、金属部材1,2や低沸点化合物4を加圧しながら通電することが容易であり、これらの温度を加圧通電によって速やかに上昇させることができるため、本実施形態で用いる装置として好適である。
【0027】
また、第1金属部材1の表面1aと第2金属部材2の表面2aとは、コンデンサ溶接機による加圧通電によって、加圧されながら速やかに温度が上昇する。そのため、低沸点化合物4の気化によって酸化皮膜3が外部に排出されて新生面が露出すると、表面1aと表面2aとは即座に接合する。よって、短時間で、第1金属部材1と第2金属部材2とを接合することができる。
【0028】
また、本実施形態では、低沸点化合物4の気化によって酸化皮膜3を除去する。そのため、加圧のみによって酸化皮膜3を外部へ押し出しながら金属部材1,2を接合する場合と比べて、加圧力を低く設定することができる。これにより、接合の際に金属部材1,2が加圧によって変形することを防ぐことができる。低沸点化合物4を気化させることと、接合の際に金属部材1,2が変形することを防止することとの関係から、加圧力は100MPa以上300MPa未満とすることが好ましい。
【0029】
なお、低沸点化合物4の気化の状態によっては、酸化皮膜3の一部が低沸点化合物4とともに外部に排出されずに表面1a,2aに残存する場合もある。しかしながら、残存した酸化皮膜3の一部は、コンデンサ溶接機による加圧及び通電によって低沸点化合物4が気化し第1金属部材1と第2金属部材2とが接合する際に、
図5に示すように粒状に縮小する。これにより、表面1aと表面2aとの接触面積が広がるため、酸化皮膜3の一部が残存していたとしても、第1金属部材1と第2金属部材2とは良好に接合される。
【0030】
[作用効果]
続いて、これまで説明した実施形態の作用効果について説明する。
【0031】
本実施形態によれば、第1金属部材1と第2金属部材2との少なくともいずれか一方の表面1a,2aに凹部1b,2bを形成する工程と、凹部1b,2bに低沸点化合物4を配置する工程と、第1金属部材1の表面1aと第2金属部材2の表面2aとを対向させた状態で加圧しながら通電して低沸点化合物4を気化させ、第1金属部材1及び第2金属部材2の表面1a,2aの酸化皮膜3を低沸点化合物4とともに排出させて接合する工程と、を含むことを特徴とする金属接合方法で、第1金属部材1と第2金属部材2とを接合する。
【0032】
低沸点化合物4は、飽和脂肪酸のうち少なくとも一種を含むものである。
【0033】
若しくは、低沸点化合物4は、不飽和脂肪酸のうち少なくとも一種を含むものである。
【0034】
若しくは、低沸点化合物4は、脂肪族ヒドロキシ酸のうち少なくとも一種を含むものである。
【0035】
若しくは、低沸点化合物4は、水である。
【0036】
これらによれば、低沸点化合物4の気化によって、短時間で金属部材1,2の表面1a,2aの酸化皮膜3を除去できる。よって、短時間で新生面を露出させて金属部材1,2を接合することができる(請求項1~5に対応する効果)。
【0037】
また、加圧と通電とをコンデンサ溶接機により行う。
【0038】
これによれば、金属部材1,2に対して加圧通電を容易に行うことができる (請求項6に対応する効果)。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0040】
本実施形態では、凹部1b,2bを直線溝形状とした。しかしながら、凹部1b,2bの形状や,表面1a,2aにおける形成範囲や形成間隔などは、金属部材1,2の材質、形状、大きさなどに応じて適宜変更される。凹部1b,2bの形状は、例えば、穴形状や溝形状などがあげられる。
【0041】
また、凹部1bまたは凹部2bは、接合対象の材質や接合面の面積・形状などによって、表面1aまたは表面2aにのみ形成する構成であってもよい。すなわち、凹部1bと凹部2bとは、第1金属部材1と第2金属部材2との少なくともいずれか一方の表面1aまたは1bに形成されればよい 。なお、凹部1bまたは凹部2bのみ形成する場合には、当該凹部1bまたは凹部2bにのみ低沸点化合物4を配置すればよい。
【実施例】
【0042】
本発明の実施形態に係る方法を用いて溶接したサンプルの接合性評価を行った。
【0043】
[評価方法]
金属接合を実施後、第1金属部材1と第2金属部材2との接合部分の引張強度を試験した。
【0044】
第1金属部材1及び第2金属部材2としてクロム鋼を用いた場合における金属接合の条件を以下に示す。
【0045】
表面1a,2aの面積(接合面)が28mm2である第1金属部材1及び第2金属部材2の表面1a,2aに、表面1a,2aの平均粗さRaが1.0~1.5μmとなるように凹部1b,2bを形成した。凹部1b,2b,に低沸点化合物4としてステアリン酸粉末を塗布した。第1金属部材1及び第2金属部材2をコンデンサ溶接機にセットし、加圧力を173MPa,通電電流値を22kAに設定して加圧通電をし、接合を行った。当該条件にて、複数のサンプルの接合を行った。
【0046】
評価試験を行った結果、接合部分の引張強度は800~1000MPaであった。すなわち接合性は良好であった。また、接合に要した時間は20~30秒であった。上記条件によれば、接合部の引張強度が高く、且つ、接合に要した時間も短時間である。よって、接合性・作業性が好ましいと評価した。
【0047】
なお、通電電流値を20kAよりも小さくした場合では、接合性が不充分になり、接合部分の引張強度が低かった。接合性が不充分になる理由は、通電電流値が低いために接合部の発熱が足らず、低沸点化合物4の気化の衝撃が小さくなったり、酸化皮膜3を接合部外周に排出させることができなかったりすることで、接合性が良好になる程度に酸化皮膜3を除去できていないことがあげられる。
【0048】
また、加圧力を300MPa以上にした場合では、接合性が不充分になり、接合部分の引張強度が低かった。接合性が不充分になる理由は、加圧力が高すぎると金属面同士の接触抵抗が小さくなり、接合部の発熱が不足するため、接合性が良好になる程度に酸化皮膜3を除去できていないことがあげられる。
【0049】
なお、上記実施例の条件は、金属部材の材質、形状、大きさなどにより適宜変更されるものである。本実施形態の条件を上記に限定するものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 :第1金属部材
2 :第2金属部材
1a,2a :表面
1b,2b :凹部
3 :酸化皮膜
4 :低沸点化合物