(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ガス絶縁開閉装置
(51)【国際特許分類】
H02B 13/035 20060101AFI20231129BHJP
H01H 33/18 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02B13/035 301H
H01H33/18 A
(21)【出願番号】P 2020140956
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】額賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】岩田 健
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-176942(JP,A)
【文献】特開2020-048252(JP,A)
【文献】特開2001-052576(JP,A)
【文献】特開2001-135206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/30 - 9/52
H01H 33/00 - 33/26
H02B 13/00 - 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性ガスを封入する密閉容器と、前記密閉容器の内部に対向して設置される一対のアーク接触子と、を有し、
前記一対のアーク接触子の少なくとも一方を、前記アーク接触子の軸の周りに回転する方向に形成されるスパイラル溝を有するスパイラル電極とし、
前記スパイラル電極のスパイラル部の根元部の対向面方向の高さを、前記スパイラル電極のスパイラル部の先端部の対向面方向の高さと比較して、低くする断路器を有
し、
前記根元部の高さを相対的に低くする領域が、円周方向で5度以上44度以下であることを特徴するガス絶縁開閉装置。
【請求項2】
請求項1に記載するガス絶縁開閉装置であって、
前記一対のアーク接触子の両方に、前記スパイラル溝を有するスパイラル電極を設置し、
可動側スパイラル電極に形成されるスパイラル溝と固定側スパイラル電極に形成されるスパイラル溝とは、反対方向に形成されることを特徴するガス絶縁開閉装置。
【請求項3】
請求項1に記載するガス絶縁開閉装置であって、
前記一対のアーク接触子の一方には、スパイラル電極が設置され、前記一対のアーク接触子の他方には、平板型のアーク電極が設置されることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【請求項4】
請求項3に記載するガス絶縁開閉装置であって、
前記一対のアーク接触子の一方の固定側には、固定側スパイラル電極が設置され、前記一対のアーク接触子の他方の可動側には、平板型可動側アーク電極が設置されることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【請求項5】
請求項1に記載するガス絶縁開閉装置であって、
前記先端部の高さを相対的に高くする領域が、円周方向で136度以上175度以下であることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【請求項6】
請求項1に記載するガス絶縁開閉装置であって、
前記根元部が、断面において、曲線形状であることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断路器を有するガス絶縁開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧大容量の電力系統を設備として有する高電圧発電所や高電圧変電所などの施設では、これらの設備を保護するため、ガス絶縁開閉装置が設置される。そして、近年、ガス絶縁開閉装置は、都市部の地下への適用や経済性向上の観点から、コンパクト化が要求される。
【0003】
一般的に、ガス絶縁開閉装置の断路器には、アーク電極が設置される。アーク電極は、開極動作時に発生するアーク放電による、通電用の主接触子や電界緩和用シールドの損傷を抑制するアーク放電路を制御する。
【0004】
断路器は、固定側には固定側アーク電極を設置し、可動側には可動側アーク電極を設置し、固定側アーク電極と可動側アーク電極との間を電気的に接続する。
【0005】
そして、アーク電極には、電流遮断性能を向上させるため、永久磁石を使用し、磁界を発生させ、電磁力を使用するスパイラル電極が使用される場合がある。
【0006】
こうした技術分野における背景技術として、特開2008-176942号公報(特許文献1)がある。特許文献1には、スパイラル電極における非接触凹部の対向面側に対向側絶縁部材を設置し、また、スパイラル電極の裏面側に同等以上の外径を持つ裏面側絶縁物を設置するガス絶縁開閉装置が記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、アーク電極として、スパイラル電極を設置し、アーク電流をスパイラル電極のスパイラル部に沿って通電させることにより、アークを回転運動させ、電流遮断性能を向上させるガス絶縁開閉装置が記載されている。
【0009】
一般的に、スパイラル電極を使用するアーク駆動方式の断路器では、スパイラル部の円周方向のいずれの箇所にもアークが着孤する恐れがある。
【0010】
一般的に、スパイラル電極を使用するアーク駆動方式の断路器におけるアーク駆動力は、スパイラル方向に、アーク電流が流れる距離が長い程、ローレンツ力が大きくなり、アークがスパイラル部の先端部に着孤した場合と、アークがスパイラル部の根元部に着孤した場合とでは、アーク駆動力に大きな差が発生する。つまり、スパイラル電流路の長さが短いスパイラル部の根元部は、スパイラル電流路の長さが長いスパイラル部の先端部よりも、ローレンツ力が小さくなる。
【0011】
ローレンツ力が小さいスパイラル部の根元部にアークが着孤した場合は、ローレンツ力が大きいスパイラル部の先端部にアークが着孤した場合と比較して、アーク駆動力が弱く、アークの回転運動が小さくなり、スパイラル電極の効果が低減し、アーク時間や電極溶損量が増加する恐れがある。
【0012】
つまり、今後、増々、遮断電流が大きくなる、スパイラル電極を使用するアーク駆動方式の断路器の電流遮断性能を向上させるためには、スパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所へのアークの着孤を防止する必要がある。
【0013】
しかし、特許文献1には、こうしたスパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所へのアークの着孤を防止する断路器を有するガス絶縁開閉装置は記載されていない。
【0014】
そこで、本発明は、スパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所へのアークの着孤を防止し、電流遮断性能を向上させるスパイラル電極を使用するアーク駆動方式の断路器を有するガス絶縁開閉装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するため、本発明のガス絶縁開閉装置は、絶縁性ガスを封入する密閉容器と、密閉容器の内部に対向して設置される一対のアーク接触子と、を有し、一対のアーク接触子の少なくとも一方を、アーク接触子の軸の周りに回転する方向に形成されるスパイラル溝を有するスパイラル電極とし、スパイラル電極のスパイラル部の根元部の対向面方向の高さを、スパイラル電極のスパイラル部の先端部の対向面方向の高さと比較して、低くする断路器を有し、根元部の高さを相対的に低くする領域が、円周方向で5度以上44度以下であることを特徴する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所へのアークの着孤を防止し、電流遮断性能を向上させるスパイラル電極を使用するアーク駆動方式の断路器を有するガス絶縁開閉装置を提供することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】実施例1に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する平面(正面)図である。
【
図1B】実施例1に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する断面(側面)図である。
【
図2A】実施例1に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する平面(正面)図である。
【
図2B】実施例1に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する断面(側面)図である。
【
図3A】実施例1に記載する
図1Aの可動側スパイラル電極1にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する平面図である。
【
図3B】実施例1に記載する
図2Aの固定側スパイラル電極5にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する平面図である。
【
図4】実施例1に記載するアークの着孤位置によるアークが受けるローレンツ力の解析結果を説明する説明図である。
【
図5】実施例1に記載する断路器100の概略構成を模式的に説明する断面(側面)図である。
【
図6】実施例1に記載する断路器100の主要部(閉極状態)を拡大して説明する断面(側面)図である。
【
図7】実施例1に記載する断路器100の主要部(開極途中状態)を拡大して説明する断面(側面)図である。
【
図8】実施例1に記載するスパイラル電極を流れるアーク電流が形成する磁場を模式的に説明する説明図である。
【
図9A】実施例2に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する断面図である。
【
図9B】実施例2に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する断面図である。
【
図10】実施例3に記載する断路器100の主要部(開極途中状態)を拡大して説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を使用して説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0020】
先ず、実施例1に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する。
【0021】
図1Aは、実施例1に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する平面(正面)図であり、
図1Bは、実施例1に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する断面(側面)図である。
【0022】
可動側スパイラル電極1は、耐アーク性を有する金属により構成され、スパイラル溝2が中心部から外周部に向かって時計回りに2方向(2a、2b)に形成される。
【0023】
なお、可動側スパイラル電極1は、可動側アーク接触子(以下、可動側アーク電極と称する)として使用され、可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル溝2は、可動側アーク電極の軸の周りに回転する方向に形成される。
【0024】
可動側スパイラル電極1は、可動側アーク電極として設置され、略円盤電極にアーク走行部としてスパイラル状の溝(スパイラル溝2)を切った電極(スパイラル電極1)である。そして、アーク電流をスパイラル部(スパイラル溝2以外の部分)に沿って通電させることにより、アークを回転運動させ、電流遮断性能を向上させる。
【0025】
可動側スパイラル電極1は、スパイラル溝2とスパイラル部とを有し、スパイラル部の根元部4の対向面方向の高さを、スパイラル部の先端部3の対向面方向の高さと比較して、低くする。
【0026】
なお、実施例1では、スパイラル部の根元部4の表面(固定側スパイラル電極5と対向する面)は平面である。
【0027】
つまり、可動側スパイラル電極1は、スパイラル部の先端部3の電極対向面に向けた高さに対して、スパイラル部の根元部4の電極対向面に向けた高さを低くする。可動側スパイラル電極1は、スパイラルを構成する電極部(スパイラル部)の先端部3の対向面方向の高さに対して、スパイラルを構成する電極部(スパイラル部)の根元部4の対向面方向の高さを低くする。
【0028】
これにより、スパイラル部の根元部4の電界を、スパイラル部の先端部3の電界に対して、相対的に低くすることができる。そして、これにより、アークの着孤をスパイラル部の先端部3に集中させることができる。
【0029】
次に、実施例1に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する。
【0030】
図2Aは、実施例1に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する平面(正面)図であり、
図2Bは、実施例1に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する断面(側面)図である。
【0031】
固定側スパイラル電極5は、耐アーク性を有する金属により構成され、スパイラル溝2が中心部から外周部に向かって反時計回りに2方向(2a、2b)に形成される。
【0032】
なお、固定側スパイラル電極5は、固定側アーク接触子(以下、固定側アーク電極と称する)として使用され、固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル溝2は、固定側アーク電極の軸の周りに回転する方向に形成される。
【0033】
固定側スパイラル電極5は、固定側アーク電極として設置され、略円盤電極にアーク走行部としてスパイラル状の溝(スパイラル溝2)を切った電極(スパイラル電極5)である。そして、アーク電流をスパイラル部(スパイラル溝2以外の部分)に沿って通電させることにより、アークを回転運動させ、電流遮断性能を向上させる。
【0034】
固定側スパイラル電極5は、スパイラル溝2とスパイラル部とを有し、スパイラル部の根元部4の対向面方向の高さを、スパイラル部の先端部3の対向面方向の高さと比較して、低くする。
【0035】
なお、実施例1では、スパイラル部の根元部4の表面(可動側スパイラル電極1と対向する面)は平面である。
【0036】
つまり、固定側スパイラル電極5は、スパイラル部の先端部3の電極対向面に向けた高さに対して、スパイラル部の根元部4の電極対向面に向けた高さを低くする。固定側スパイラル電極5は、スパイラルを構成する電極部(スパイラル部)の先端部3の対向面方向の高さに対して、スパイラルを構成する電極部(スパイラル部)の根元部4の対向面方向の高さを低くする。
【0037】
これにより、スパイラル部の根元部4の電界を、スパイラル部の先端部3の電界に対して、相対的に低くすることができる。そして、これにより、アークの着孤をスパイラル部の先端部3に集中させることができる。
【0038】
そして、
図1に示す可動側スパイラル電極1と
図2に示す固定側スパイラル電極5とが対向して設置された際に、それぞれの電極を流れるアーク電流により形成される磁場が強め合い、スパイラル電極の中心部から半径方向に向けた磁場が形成される。
【0039】
これにより、可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5とが対向した状態で、断路器100が開極動作になった場合、スパイラル部の根元部4の極間距離が、スパイラル部の先端部3の極間距離よりも、長くなり、かつ、スパイラル部の根元部4が、スパイラル部の先端部3に対して、凹んだ形状(状態)となる。なお、極間距離とは、対向する可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5との間の距離である。
【0040】
このため、極間に発生する電圧差により、スパイラル部の根元部4の電界が、スパイラル部の先端部3の電界に対して、相対的に低くなる。アークは、電界強度の高い箇所に着孤するため、アークは、スパイラル部の根元部4よりもスパイラル部の先端部3に、優先的に着孤することになる。
【0041】
そして、スパイラル溝2が中心部から外周部に向かって2方向に形成される場合には、スパイラル部の根元部4(高さをスパイラル部の先端部3に対して相対的に低くする領域)は、円周方向で5度以上44度以下とすることが好ましく、また、スパイラル部の先端部3(高さをスパイラル部の根元部4に対して相対的に高くする領域)は、円周方向で136度以上175度以下とすることが好ましい。これにより、スパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所へのアークの着孤を防止し、電流遮断性能を向上させることができる。
【0042】
なお、スパイラル部の根元部4とスパイラル部の先端部3とは、スパイラル部の根元部4となる部分を切削し、製造してもよいし、スパイラル部の先端部3となる部分とスパイラル部の根元部4となる部分とを有するように鋳型を形成し、鋳造により、製造してもよい。
【0043】
なお、スパイラル部の根元部4の高さは、スパイラル部の先端部3以外の他のスパイラル部の高さと同等、又はこの高さよりも高い。
【0044】
そして、可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5とが対向した状態(閉極状態)では、可動側スパイラル電極1のスパイラル部の根元部4と固定側スパイラル電極5のスパイラル部の根元部4とは、同様の位置にあり、可動側スパイラル電極1のスパイラル部の先端部3と固定側スパイラル電極5のスパイラル部の先端部3とは、同様の位置にある。
【0045】
次に、実施例1に記載する
図1Aの可動側スパイラル電極1にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する。
【0046】
図3Aは、実施例1に記載する
図1Aの可動側スパイラル電極1にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する平面図である。
【0047】
図3Aに示すように、可動側スパイラル電極1のスパイラル部(スパイラル外周部)の先端部3(点孤箇所6)にアークが着孤した際には、点孤箇所6から中心部7に向かって、可動側スパイラル電極1をアーク電流8が流れる。
【0048】
次に、実施例1に記載する
図2Aの固定側スパイラル電極5にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する。
【0049】
図3Bは、実施例1に記載する
図2Aの固定側スパイラル電極5にアークが着孤した際に流れるアーク電流を説明する平面図である。
【0050】
図3Bに示すように、固定側スパイラル電極5のスパイラル部(スパイラル外周部)の先端部3(点孤箇所6)にアークが着孤した際には、中心部7から点孤箇所6に向かって、固定側スパイラル電極5をアーク電流9が流れる。
【0051】
図3A及び
図3Bに示すように、可動側スパイラル電極1のスパイラル部の先端部3(点孤箇所6)と固定側スパイラル電極5のスパイラル部の先端部3(点孤箇所6)との間に、アークが着孤した際には、アーク電流が、点孤箇所6から中心部7に向かって、可動側スパイラル電極1をアーク電流8として流れ、アーク電流が、中心部7から点孤箇所6に向かって、固定側スパイラル電極5をアーク電流9として流れ、アークにつながる。
【0052】
このように、実施例1のようにスパイラル電極を構成することにより、つまり、
図1に示す可動側スパイラル電極1と
図2に示す固定側スパイラル電極5とを対向するように設置することにより、それぞれのスパイラル部を流れるアーク電流により形成される磁場が、対向する可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5との間で強め合い、スパイラル電極の中心部から半径方向に向けた磁場が形成される。
【0053】
そして、このような磁場と電流とによるローレンツ力により、アークは、スパイラル電極の円周方向にアーク駆動力を受ける。
【0054】
これにより、実施例1によれば、スパイラル方向にアーク電流が流れる距離が長くなり、ローレンツ力も大きくなり、アーク駆動力も大きく、強くなる。そして、アーク放電が着孤場所に固定されることがなく、アークが冷却され、延伸による抵抗が増加し、アークの回転運動も大きくなり、スパイラル電極の効果も増加し、アーク時間や電極溶損量も低減する。
【0055】
次に、実施例1に記載するアークの着孤位置によるアークが受けるローレンツ力の解析結果を説明する。
【0056】
図4は、実施例1に記載するアークの着孤位置によるアークが受けるローレンツ力の解析結果を説明する説明図である。
【0057】
図4に示すように、スパイラル部の根元部4では、スパイラル部の先端部3に対して、ローレンツ力は1/3程度まで低下する。
【0058】
そこで、実施例1では、スパイラル部の根元部4の対向方向の突き出し高さを、スパイラル部の先端部3の対向方向の突き出し高さと比較して、低くすることにより、スパイラル部の根元部4の電界を、スパイラル部の先端部3の電界と比較して、相対的に低くする。
【0059】
これにより、アークがスパイラル部の先端部3に着孤する確率が、アークがスパイラル部の根元部4に着孤する確率と比較して、高くなり、アーク駆動力を大きくすることができる。
【0060】
また、スパイラル電極に形成されるスパイラル溝2の数(方向)は、少なくとも一つ(一方向)以上あればよい。実施例1では、2方向とする。
【0061】
また、可動側スパイラル電極1に形成するスパイラル溝2の方向と固定側スパイラル電極5に形成するスパイラル溝2の方向とは、反対方向とする。例えば、可動側スパイラル電極1に形成するスパイラル溝2の方向が時計回りであれば、固定側スパイラル電極5に形成するスパイラル溝2の方向は反時計回りであり、可動側スパイラル電極1に形成するスパイラル溝2の方向が反時計回りであれば、固定側スパイラル電極5に形成するスパイラル溝2の方向は時計回りである。
【0062】
また、スパイラル電極の断面は、可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5とは、スパイラル電極のスパイラル外周部(スパイラル部の外周部:スパイラル部の先端部3及びスパイラル部の根元部4が形成される領域)で、アークが着孤するように、凹型とする。
【0063】
次に、実施例1に記載する断路器100の概略構成を模式的に説明する。
【0064】
図5は、実施例1に記載する断路器100の概略構成を模式的に説明する断面(側面)図である。なお、
図5は、断路器100の閉極状態を示す。
【0065】
なお、実施例1に記載する断路器100は、スパイラル電極(永久磁石を使用し、磁界を発生させ、電磁力を使用するスパイラル電極)を使用するアーク駆動方式の断路器である。また、断路器100は、接地開閉器や遮断器と共に、ガス絶縁開閉装置を構成するものである。
【0066】
断路器100は、密閉容器10を有する。密閉容器10内は、絶縁スペーサ11により、ガス区画が形成され、このガス区画内には、絶縁性ガス12が充満(封入)される。絶縁性ガスとしては、絶縁性の高いSF6などの負性ガス、乾燥空気、窒素、二酸化炭素、SF6などの負性ガスを含むSF6/N2混合ガス、SF6などの負性ガスを含まないN2/O2混合ガスなどが使用される。
【0067】
絶縁スペーサ11の中心部には、埋め込み導体13が設置される。
【0068】
そして、密閉容器10から電気的に絶縁された状態で、所定の絶縁距離を隔てて対向して、固定側高電圧導体14と可動側高電圧導体15とが設置される。固定側高電圧導体14には、固定側電界緩和用シールド16が設置され、可動側高電圧導体15には、可動側電界緩和用シールド17が設置され、固定側電界緩和用シールド16と可動側電界緩和用シールド17とは対向して、設置される。
【0069】
可動側高電圧導体15に設置される可動側電界緩和用シールド17の内部には、可動側主接触子21が設置される。可動側主接触子21の内部を移動(摺動)し、金属である可動子18は、外部操作器(図示なし)により、絶縁操作ロッド19を介して、その軸線上を移動可能に設置される。
【0070】
固定側高電圧導体14に設置される固定側電界緩和用シールド16の内部には、固定側主接触子20が設置される。
【0071】
固定側主接触子20と可動側主接触子21とは、可動子18を介して、常時、電気的な接続状態を保持する。また、固定側高電圧導体14と可動側高圧導体15とは、固定側主接触子20、可動側主接触子21、可動子18を介して、常時、電気的な接続状態を保持する。
【0072】
次に、実施例1に記載する断路器100の主要部を拡大して説明する。
【0073】
図6は、実施例1に記載する断路器100の主要部(閉極状態)を拡大して説明する断面(側面)図である。
【0074】
固定側主接触子20の内部には、固定側スパイラル電極5を固定するロッド22と、ロッド22を支持するロッド固定用の架台23と、架台23の後面に設置され、架台23を押圧するばね25と、が設置される。
【0075】
架台23は、金属であり、固定側主接触子20の内周面と接触し、電気的に接続される。ロッド22も、金属である。つまり、固定側スパイラル電極5と固定側主接触子20とは、ロッド22、架台23を介して、電気的に接続される。
【0076】
そして、固定側スパイラル電極5(固定側アーク電極)は、ロッド22の先端部に固定される。
【0077】
一方、可動側スパイラル電極1(可動側アーク電極)は、固定側スパイラル電極5と対向するように、可動子18の先端部に固定される。つまり、可動側スパイラル電極1と可動側主接触子21とは、可動子18を介して、電気的に接続される。
【0078】
なお、固定側スパイラル電極5と可動側スパイラル電極1とが接触し、固定側主接触子20と可動側主接触子21とが電気的に接続され、閉極状態となる。そして、閉極状態では、固定側高電圧導体14、固定側主接触子20、可動子18、可動側主接触子21、可動側高電圧導体15が、電流通路を形成する。
【0079】
断路器100の閉極状態では、可動子18の先端部は、固定側電界緩和用シールド16の内部にまで入り込み、可動子18と固定側主接触子20とは接触する。
【0080】
ここで、断路器100の電流遮断動作について説明する。
【0081】
図5に示す閉極状態において、外部操作器(図示なし)により、絶縁操作ロッド19を時計方向に回転させ、可動子18に開極操作力を付与すると、可動子18は、その軸線上を右方向(開極方向)に移動する。
【0082】
先ず、固定側主接触子20から可動子18が開離し、固定側主接触子20と可動子18との接触部を介して流れていた電流は遮断される。
【0083】
閉極状態では、ばね25は圧縮している状態であるため、開極状態の初期では、架台23、ロッド22、固定側スパイラル電極5、可動側スパイラル電極1は、ばね25により押され、これらは、一体となって、右方向に、可動子18の開極動作に追従して、移動する。
【0084】
このとき、固定側スパイラル電極5と可動側スパイラル電極1とは、接触しながら移動する。このため、固定側高電圧導体14、固定側主接触子20、架台23、ロッド22、固定側スパイラル電極5、可動側スパイラル電極1、可動子18、可動側主接触子21、可動側高電圧導体15が、電流通路を形成する。
【0085】
図7は、実施例1に記載する断路器100の主要部(開極途中状態)を拡大して説明する断面(側面)図である。
【0086】
図7に示すように、架台23は、固定側主接触子20により、右方向への移動を停止する。これにより、ロッド22及び固定側スパイラル電極5も、右方向への移動を停止する。このとき、固定側スパイラル電極5は、固定側電界緩和用シールド16の内部にある。なお、固定側スパイラル電極5が、固定側電界緩和用シールド16の内部にあるため、開極状態では、固定側スパイラル電極5の電界を低く抑え、放電を抑制することができる。
【0087】
その後、可動子18の開極動作により、可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5とが開極し、可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5との間に、アーク24が発生し、再点呼を繰り返しながら、電流遮断が完了する。
【0088】
なお、電流遮断時に、高い回復電圧が印加される場合には、高電界箇所を起点とした再発呼や地絡などが発生し、電流遮断が成立しない場合がある。
【0089】
次に、実施例1に記載するスパイラル電極を流れるアーク電流が形成する磁場を模式的に説明する。
【0090】
図8は、実施例1に記載するスパイラル電極を流れるアーク電流が形成する磁場を模式的に説明する説明図である。
【0091】
可動側スパイラル電極1と固定側スパイラル電極5とは、中心を同一として、対向して設置され、可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル溝2の方向と固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル溝2の方向とは、反対方向になる。例えば、可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル溝2の方向が時計回りであれば、固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル溝2の方向は反時計回りであり、可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル溝2の方向が反時計回りであれば、固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル溝2の方向は時計回りである。
【0092】
電流Iは、ロッド22から、ロッド22の先端部を介して、固定側スパイラル電極5に、
図8中Z軸方向に流れ、また、電流Iは、可動側スパイラル電極1から、可動子18の先端部を介して、可動子18に、
図8中Z軸方向に流れる。
【0093】
また、アーク24は、固定側スパイラル電極5と可動側スパイラル電極1との間に発生する。
【0094】
図8に示すように、固定側スパイラル電極5と可動側スパイラル電極1とには、反対方向に、スパイラル溝2が形成されるため、
(1)固定側スパイラル電極5では、中心軸(Z軸)より上部では、紙面手前方向に向かってアーク電流9が流れ、中心軸(Z軸)より下部では、紙面奥行方向に向かってアーク電流9が流れ、
(2)可動側スパイラル電極1では、中心軸(Z軸)より上部では、紙面奥行方向に向かってアーク電流8が流れ、中心軸(Z軸)より下部では、紙面手前方向に向かってアーク電流8が流れる。
【0095】
このため、中心軸(Z軸)から半径方向(電流Iが流れる方向と直交する方向)に向かう磁場Bが発生し、アークに、磁気駆動力F(F(アーク駆動力)=I×B)が作用する。つまり、アーク24は、このような磁場Bと電流Iとによるローレンツ力Fにより、スパイラル電極の円周方向(中心軸(Z軸)の円周方向)にアーク駆動力Fを受ける。
【0096】
このように、実施例1に記載する断路器100は、絶縁性ガス12を封入する密閉容器10と、密閉容器10の内部に対向して設置される一対のアーク電極(可動側アーク電極及び固定側アーク電極)と、を有し、一対のアーク電極の両方(少なくとも一方でもよい)を、アーク電極の軸の周りに回転する方向に形成されるスパイラル溝2を有するスパイラル電極(可動側スパイラル電極1及び/又は固定側スパイラル電極5)とする。そして、スパイラル電極のスパイラル部の根元部4の対向面方向の高さを、スパイラル電極のスパイラル部の先端部3の対向面方向の高さと比較して、低くする。
【0097】
図1に示す可動側スパイラル電極1と
図2に示す固定側スパイラル電極5とを対向して設置することにより、スパイラル方向にアーク電流が流れる距離が長くなり、ローレンツ力も大きくなり、アーク駆動力も大きく、強くなる。そして、アークの回転運動も大きくなり、スパイラル電極の効果が増加する。
【0098】
実施例1によれば、断路器100の開極時、スパイラル電極におけるアークの着孤位置を、アーク駆動力の強い場所とすることができ、安定した電流遮断性能を得ることができる。
【0099】
また、実施例1によれば、アークは、電界強度の高い箇所に着孤するため、アークは、スパイラル部の先端部3に、スパイラル部の根元部4よりも、優先的に着孤することになる。そして、アークの着孤をスパイラル部の先端部3に集中させることができ、スパイラル電極のアーク駆動力が弱い箇所(スパイラル部の根元部4)へのアークの着孤を防止し、アークの回転運動を大きくし、電流遮断性能(短時間で効率良く、アーク放電を遮断することができる性能)を向上させることができる。
【0100】
これにより、電流遮断性能を向上させ、信頼性を向上させる断路器100を提供することができる。そして、この断路器100は、外部操作器を小型軽量化することができ、また、外部操作器の操作力を低減することができる。
【実施例2】
【0101】
次に、実施例2に記載する断路器100が有するスパイラル電極を説明する。
【0102】
図9Aは、実施例2に記載する断路器100が有する可動側スパイラル電極1を説明する断面図である。
【0103】
実施例1に記載する可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル部の根元部4の表面は平面であるが、実施例2に記載する可動側スパイラル電極1に形成されるスパイラル部の根元部4の表面(固定側スパイラル電極5と対向する面)は、曲面(角部がR加工された断面形状)である。つまり、根元部4の表面は、断面において、角部がない、滑らかな曲線形状である。
【0104】
これにより、電界集中を低減する。そして、アークの着孤をスパイラル部の先端部3に集中させることができ、安定したアーク駆動力を得ることができる。
【0105】
図9Bは、実施例2に記載する断路器100が有する固定側スパイラル電極5を説明する断面図である。
【0106】
実施例1に記載する固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル部の根元部4の表面は平面であるが、実施例2に記載する固定側スパイラル電極5に形成されるスパイラル部の根元部4の表面(可動側スパイラル電極1と対向する面)は、曲面(角部がR加工された断面形状)である。つまり、根元部4の表面が、断面において、角部がない、滑らかな曲線形状である。
【0107】
これにより、電界集中を低減する。そして、アークの着孤をスパイラル部の先端部3に集中させることができ、安定したアーク駆動力を得ることができる。
【実施例3】
【0108】
次に、実施例3に記載する断路器100の主要部(開極途中状態)を拡大して説明する。
【0109】
図10は、実施例3に記載する断路器100の主要部(開極途中状態)を拡大して説明する断面図である。
【0110】
実施例1に記載する断路器100は、可動側に設置される可動側スパイラル電極1と固定側に設置される固定側スパイラル電極5とを有するが、実施例3に記載する断路器100は、固定側にはロッド22の先端部に固定側スパイラル電極5を有し、可動側には可動子18の先端部に平板型可動側アーク電極26を有する。つまり、実施例3では、可動側アーク電極を、平板型の可動側アーク電極とする。
【0111】
実施例3では、可動側アーク電極における磁気駆動力は発生しないが、固定側に、
図2に示す固定側スパイラル電極5を設置することにより、電界集中を低減し、電極間の耐電圧を高めることができる。
【0112】
つまり、固定側スパイラル電極5のみで、十分に磁気駆動力を確保し、電流遮断性能を高めることができる場合には、可動子18の先端部に平板型可動側アーク電極26を設置することにより、磁気駆動力を確保し、電極間の耐電圧を高めることができる。
【0113】
なお、実施例3では、固定側に
図2に示す固定側スパイラル電極5を有し、可動側に平板型可動側アーク電極26を有するが、固定側に平板型固定側アーク電極を有し、可動側に
図1に示す可動側スパイラル電極1を有してもよい。
【0114】
なお、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0115】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に、置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に、他の実施例の構成を、追加することも可能である。
【符号の説明】
【0116】
1…可動側スパイラル電極、2…スパイラル溝、3…スパイラル部の先端部、4…スパイラル部の根元部、5…固定側スパイラル電極、6…点孤箇所、7…中心部、8…可動側のアーク電流、9…固定側のアーク電流、10…密閉容器、11…絶縁スペーサ、12…絶縁性ガス、13…埋め込み導体、14…固定側高電圧導体、15…可動側高電圧導体、16…固定側電界緩和用シールド、17…可動側電界緩和用シールド、18…可動子、19…絶縁操作ロッド、20…固定側主接触子、21…可動側主接触子、22…ロッド、23…架台、24…アーク、25…ばね、26…平板型可動側アーク電極、100…断路器。