(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】心臓ポンプの位置を推定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61M 60/531 20210101AFI20231129BHJP
A61M 60/174 20210101ALI20231129BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20231129BHJP
A61M 60/416 20210101ALI20231129BHJP
A61M 60/546 20210101ALI20231129BHJP
A61M 60/81 20210101ALI20231129BHJP
A61M 60/867 20210101ALI20231129BHJP
【FI】
A61M60/531
A61M60/174
A61M60/237
A61M60/416
A61M60/546
A61M60/81
A61M60/867
(21)【出願番号】P 2020549647
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 US2019022535
(87)【国際公開番号】W WO2019178512
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-10
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】エル カテルジ アーマッド
(72)【発明者】
【氏名】リュー チェン
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-512191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0055979(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0290372(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0045772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/174
A61M 60/205
A61M 60/531
A61M 60/546
A61M 60/81
A61M 60/867
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、患者内の心臓ポンプシステムの位置を推定するための方法:
該心臓ポンプシステム内の第一期間中の時変(time-varying)モーター電流を示す第一データを
、該心臓ポンプシステムのコントローラによって、受け取る段階であって、該時変モーター電流は、該心臓ポンプシステムが該患者内で作動している間に該心臓ポンプシステムのモーターに送達される電流の量に対応する、段階;
該第一期間中の時変差圧を示す第二データを
、該コントローラによって、受け取る段階であって、該時変差圧が該心臓ポンプシステムの内部部分と該心臓ポンプシステムの外側の間の圧力差に対応し、かつ該時変差圧が該患者の心臓に対する該心臓ポンプシステムの位置をさらに示す、段階;
該第一期間より後の第二期間中の時変モーター電流を示す第三データを
、該コントローラによって、受け取る段階;
該第三データから、および該第一データと該第二データの関係から、該第二期間中の時変差圧の推定値を
、該コントローラによって、決定する段階であって、該推定値が、該患者内の該心臓ポンプシステムの位置を予測するために使用可能である、段階。
【請求項2】
第二データが心臓ポンプシステム上の差圧センサーから受け取られ、かつ、第二期間中の時変差圧の推定値を決定する段階が、差圧センサーが故障したと判定する段階に応答する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
差圧センサーが故障したと判定する段階が、第二期間中に差圧センサーから受け取られるデータがない時に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
差圧センサーが故障したという第一指標を
、コントローラによって、提供する段階;および
第二期間中の時変差圧の推定値がシミュレーションされたという第二指標を
、コントローラによって、提供する段階
をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
第二期間中の時変差圧の推定値を決定する段階が、第三データが第一データと第二データの関係における
、心臓ポンプシステムの第一フェーズに対応するのか
該心臓ポンプシステムの第二フェーズに対応するのかを決定することによって
差圧の推定ポイントの時系列を決定することを含む、
請求項
1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
追加のデータが
前記第一フェーズに対応するのか
前記第二フェーズに対応するのかを同定する段階が、
開始点で始まり終了点で終わる拡張期を、該追加のデータ内で
、コントローラによって、決定すること;
該開始点と該終了点との間で該追加のデータの傾きを
、該コントローラによって、決定すること;
該傾きが正であると判定することに応答して、該追加のデータが該第一フェーズに対応すると決定すること;および
該傾きが負であると判定することに応答して、該追加のデータが該第二フェーズに対応すると決定すること
を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
時変差圧の推定値に基づき、心臓ポンプシステムに関連する流量、位置、およびサクションのうち少なくとも1つを
、コントローラによって、決定する段階
をさらに含む、
請求項
1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
時変差圧、モーター電流、および時変差圧の推定値のうち少なくとも1つを
、コントローラによって、表示する段階をさらに含む、
請求項
1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
時変差圧がドリフトしていると
、コントローラによって、判定する段階をさらに含む、
請求項
1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
時変差圧がドリフトしていると判定する段階が、
第二期間について該時変差圧を時変差圧の推定値と
、コントローラによって、比較すること;
該時変差圧を時変差圧の推定値と比較することに基づき、第二期間にわたる該時変差圧と該時変差圧の推定値との差を
、該コントローラによって、計算すること;
該差を差圧信号閾値と
、該コントローラによって、比較すること;および
該差を差圧信号閾値と比較することに基づき、該差が該差圧信号閾値より大きいと
、該コントローラによって、判定すること
を含む、
請求項
1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
時変差圧がドリフトしていると判定する段階に基づき、差圧センサーを再校正する必要があることを示す通知を
、コントローラによって、表示する段階
をさらに含む、
請求項
1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
時変差圧がドリフトしていると判定する段階に基づき、差圧センサーを
、コントローラによって、自動的に再校正する段階
をさらに含む、
請求項
1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
第一データと第二データの関係が、
第一期間内の各時点についてモーター電流と時変差圧の間の相関を
、コントローラによって、決定すること;および
心臓ポンプシステムの作動特性を示す、相関についての多重線形フィットを
、該コントローラによって、計算すること
によって決定される、
請求項
1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
第一データおよび第二データが、第一作動レベルで作動している心臓ポンプシステムを表し、前記方法が、
該心臓ポンプシステムの作動を第二作動レベルに
、コントローラによって、変更する段階;および
該心臓ポンプシステムの作動を
該第二
作動レベルに変更する段階に基づき、該第一データと第二データの関係を、
該第二作動レベルを考慮するよう
、該コントローラによって、スケーリングする段階
を含み、時変差圧の推定値を決定する段階が、該関係をスケーリングする段階にさらに基づく、
請求項
1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項記載の方法を行うよう構成されたコントローラを具備するシステム。
【請求項16】
近位端を有するポンプハウジングおよびローターを具備するポンプと;
該ポンプハウジングの遠位端とインターフェースする近位端、および遠位端を具備するカニューレであって、モーターによって作動されるよう該ポンプが構成されている、カニューレと;
該ポンプハウジングの近位側に延在する細長カテーテルと;
差圧センサーを含む、1つまたは複数のセンサーと;
請求項1~14のいずれか一項記載の方法を行うよう構成されたコントローラと
を具備する、心臓ポンプシステム。
【請求項17】
カニューレが該患者の大動脈弁をまたいで延在するように置かれるようポンプが構成されており、遠位端が患者の左心室内に位置しており近位端が該患者の大動脈内に位置している、請求項16記載の心臓ポンプシステム。
【請求項18】
カニューレの遠位端から遠位方向に延在する可撓性突出部をさらに具備する、請求項16記載の心臓ポンプシステム。
【請求項19】
細長カテーテルがその遠位端でポンプハウジングに連結され、かつ、該ポンプが、該細長カテーテルを通って延在するドライブケーブルをさらに具備する、請求項16記載の心臓ポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018年3月16日に提出された米国特許仮出願第62/644,240号「SYSTEMS AND METHODS FOR ESTIMATING A POSITION OF A HEART PUMP」に対する優先権およびその恩典を主張し、かつ、2019年3月15日に提出された米国特許出願第16/354,595号「SYSTEMS AND METHODS FOR ESTIMATING A POSITION OF A HEART PUMP」に関連する。以上に参照した出願の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
急性および慢性の心血管コンディションは、生活の質および期待余命を低減させる。医薬品から機械的デバイス、そして移植まで、心臓の健康を目的としたさまざまな治療モダリティが開発されている。心臓ポンプシステムなどの一時的な心臓支持デバイスは、血行力学的支持を提供して、心臓の回復を促す。IMPELLA(登録商標)ファミリーのデバイス(Abiomed, Inc., Danvers MA)などいくつかの心臓ポンプシステムは、経皮的に心臓内に挿入され、そして心拍出量を補うため患者の自己心と並行して稼働できる。そうした心臓ポンプシステムは、患者の健康状態を決定しかつ心臓ポンプシステムの作動を判断するのに有用な心臓ポンプパラメータを測定および/または計算する場合がある。
【0003】
これら測定値はセンサーを通じて収集されてもよいが、センサーは故障をきたしやすい。心臓ポンプシステムのセンサーが故障した時、臨床医は、推定フロー、位置モニタリング、およびサクションアラームなど、多数の貴重な測定値を失う。センサーが故障した場合、臨床医は、たとえポンプそれ自体が正しく機能していても、心臓ポンプシステムを患者から除去することが多い。心臓ポンプシステムの除去および置換は患者に細菌を導入するリスクを増大させるので、ポンプが適切に機能しているならばとりわけ望ましくない。心臓ポンプシステムの置換は高額になる可能性があり、かつ、心臓ポンプシステムが「無駄になる」ことにつながる。さらに、心臓ポンプシステムの除去および置換は、患者の血液ポンプ支持およびしたがって回復のための貴重な時間を奪う。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書に説明するシステム、デバイス、および方法は、患者の心臓内に配置された時の心臓ポンプの位置を推定するものである。具体的には、本発明のシステムおよび方法は、固有の心臓ポンプシステムについてモーター電流と差圧信号の関係を決定し、そして次にこの関係を用いて、後に受け取られるモーター電流データから時変(time-varying)差圧の推定値を決定する。心臓ポンプシステムは、推定された差圧から、ポンプフローを推定し、サクションアラームをトリガーし、かつ配置アラームをトリガーする。
【0005】
本明細書に説明するいずれかの実施形態、局面、および方法を行うよう、コントローラが構成されてもよい。例えば、コントローラは、Abiomed, IncのAutomated Impella Controller(AIC)または他の任意の好適なコントローラであってもよい。いくつかの実施形態において、心臓ポンプシステムは、カテーテルと;モーターと;モーターに作動的に連結されたローターと;モーターを動作させるとローターが駆動されかつ血液がポンプハウジングを通ってポンピングされるよう、ローターを少なくとも部分的に囲むポンプハウジングと;差圧センサーを含む1つまたは複数のセンサーと;前記コントローラとを具備する。例えば、心臓ポンプシステムは、AICまたは他の任意の好適なシステムに接続された、Abiomed, IncのImpella RP心臓ポンプまたはImpella 5.0心臓ポンプを具備してもよい。
【0006】
心臓ポンプシステムは、ポンプハウジングとローターとを備えたポンプを具備してもよい。システムの作動中にモーターがローターを駆動しかつローターがポンプハウジングを通して血液をポンピングするよう、ローターは少なくとも部分的にポンプハウジング内に配置される。心臓ポンプシステムは、ポンプハウジングの遠位端とインターフェースする近位端と、遠位端とを備えた、カニューレを含む。ポンプは、カニューレが、遠位端は患者の左心室内に位置しかつ近位端は患者の大動脈内に位置した状態で患者の大動脈弁をまたいで延在するように、置かれるよう構成されてもよい。いくつかの実施形態において、細長カテーテルがポンプハウジングの近位側に延在する。細長カテーテルはその遠位端でポンプハウジングに連結されてもよい。1つの例において、ドライブケーブルが細長カテーテルを通って延在してもよい。1つの例において、細長カテーテルは、ポンプをコントローラに接続する電気接続を格納してもよい。いくつかの実施形態において、ポンプは、ピッグテール形状の可撓性突出部など、カニューレの遠位端から遠位方向に延在する可撓性突出部をさらに含む。
【0007】
心臓ポンプシステムは、差圧センサーなど、圧力を測定する1つまたは複数のセンサーを具備する。1つの例において、差圧センサーは、ポンプ外側の圧力とポンプ内側の圧力との差を測定する。例えば、カニューレが大動脈弁をまたいで置かれた時、センサーの最上部(外面)は大動脈圧にさらされ、センサーの最下部(内面)は心室圧にさらされる。
【0008】
心臓ポンプシステムに作動的に接続されたコントローラが、ベースラインデータおよび更新データに基づいて心臓ポンプの位置を推定する。ベースラインデータは第一期間中に受け取られ、そして、ポンプの正常作動中の2つのパラメータ間の関係をコントローラが決定するための根拠を提供する。第一期間は、20秒間、40秒間、1分間、2分間、10分間、20分間、または他の任意の好適な期間であってもよい。第一期間は、所与の周波数で取得されたサンプルの数に対応してもよい。例えば、第一期間は、500個のサンプル、1000個のサンプル、2000個のサンプル、5000個のサンプル、または他の任意の好適なサンプル数に対応してもよい。概して、第一期間中、心臓ポンプシステムは患者体内で作動し、そして、心臓ポンプシステム上にあるセンサーおよび/または同システム上にないセンサーが、システムの作動に関するデータ(例えば、モーター電流、ポンプの場所、または他の任意のモーターパラメータもしくはシステムパラメータ)および/または患者の健康状態に関するデータ(例えば、大動脈圧、差圧、または他の任意の血行力学パラメータもしくは患者パラメータ)を取得する。このデータは、ある一定のパラメータ間の関係を同定するために用いられる。1つまたは複数のセンサー(例えば差圧)の故障が生じた際は、コントローラが、稼働中センサー(例えばモーター電流)と、故障センサーおよび稼働中センサーからの信号間の関係とに基づいて、欠陥センサーからの信号を推定してもよい。第一期間中、ポンプは、(例えば特定のローター速度に対応する)単一の性能レベルで作動してもよく、またはある範囲の性能レベルで作動してもよい。
【0009】
コントローラは、第一期間中の心臓ポンプシステム内の時変モーター電流を示す第一データを受け取り、かつ、第一期間中の患者についての時変差圧を示す第二データを受け取る。時変モーター電流は、心臓ポンプシステムが患者内で作動している間に心臓ポンプシステムのモーターに送達される電流の量に対応する。例えば、モーター電流は、心臓ポンプシステムのローター速度を一定に保つために変化してもよい。一定したローター速度を維持するよう心臓ポンプシステムのモーター(例えば
図1のモーターハウジング102内に含有されるモーター)を作動させることは、多くの医学的状況において望ましいが、それには概して、変動する電流量をモーターに供給する必要がある;モーターに対する負荷は心臓サイクル中の異なるステージにおいて変動するからである。したがって、患者の心臓内の差圧が変化した時は、ローター速度を一定に保つためモーター電流も変化する。例えば、大動脈に入る血液の流量が増大する時(例えば収縮中)は、モーターを作動させるために必要な電流が増大する。モーター電流のこの増大は、より詳しく後述するように心機能の特性付けに用いられうる。時変差圧は、心臓ポンプシステムの内部部分と心臓ポンプシステムの外側の間の圧力差に対応し、かつさらに患者の心臓に対する心臓ポンプシステムの位置を示す。差圧信号は経時的な圧力を示し、そして、表示される測定値は、血管内ポンプの作動中にポンプ上の圧力センサーから導出されてもよい。例えば、センサーは、大動脈圧と心室圧との差に比例する電気信号(差圧信号ともいう)を検出してもよく、そしてそれは心臓ポンプシステムによって表示されてもよい。後述するように、本明細書に説明するシステムおよび方法は、時変モーター電流と時変差圧の関係を決定する。モーター電流と差圧の関係は、他の時点(例えば上述した第一期間の後)における差圧を推定するため、モーター電流データと併せて用いられてもよい。このことは、圧力センサーが故障した場合、または圧力センサーの作動を確認することが望ましい場合に、特に有用である。
【0010】
第一期間より後の第二期間中に、コントローラは、時変モーター電流を示す第三データを受け取る。例えば、第二期間は、1秒間、2秒間、10秒間、30秒間、1分間、2分間、10分間、または任意の好適な長さの時間であってもよい。例えば、コントローラは時変モーター電流および差圧に関するデータを第一時刻において受け取り、そしてその後、第二期間中に追加のモーター電流データを受け取る。第一期間に由来するデータは、(第一期間中のモーター電流を示す)第一データと(第一期間中の差圧を示す)第二データの関係を決定するために用いられてもよい。
【0011】
コントローラは、第三データから、および(第一期間中のモーター電流を示す)第一データと(第一期間中の差圧を示す)第二データの関係から、第二期間中の時変差圧の推定値を決定する。例えば、第一データと第二データの関係は、第一期間中に取得されたモーター電流情報と差圧情報との間のマッピングの多重線形フィットとなりうる。モーター電流と差圧の関係は、所与の心臓ポンプシステムの特性を示す可能性がある――すなわち、特定の性能レベルにおいて、モーター電流と差圧の関係は異なる時点において実質的に同様である可能性があり、そして、関係それ自体が、異なる性能レベル間で「スケーラブル(scalable)」である可能性がある。ゆえに、第一期間中のモーター電流と差圧の関係を決定することにより、本明細書に説明するシステムおよび方法が、心臓ポンプシステムを特性付けできる可能性があり、かつ、その関係を後の時点および異なる性能レベルにおいて使用できる可能性がある。
【0012】
差圧の推定値は、患者内の心臓ポンプシステムの位置を予測するために使用可能である。例えば、コントローラは、第二期間についての推定差圧信号を構築するため、モーター電流と差圧の関係を、より近時に取得された(第二期間中のモーター電流を示す)第三データと併せて、用いてもよい。コントローラは、推定差圧信号を、患者内の心臓ポンプシステムの位置を決定するために用いてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、各時点についてモーター電流と時変差圧の間の相関を決定する。いくつかの実施形態において、コントローラは相関の多重線形フィットを算出してもよい。多重線形フィットは心臓ポンプシステムの作動特性を示す。例えば、第一期間内の各時点におけるモーター電流の各測定値において、同じ時点におけるそれぞれの差圧測定値がプロットされてもよい。このプロットは、個々の心臓ポンプシステム間で異なりうる、関数または一連の関数によって表される多重線形フィットを決定するために用いられてもよい。例えば、第一の心臓ポンプシステムが、第二の心臓ポンプシステムとは全面的に異なる多重線形フィットを有する可能性もある。後述するように、モーター電流と時変差圧の間の相関は、同じ心臓ポンプシステムについての異なる性能レベルの間で(線形的にまたは任意の適切なスケールを用いて)スケーリングされてもよい。コントローラがモーター電流と差圧の間の相関を決定した後、その相関は、後で、患者の健康状態およびシステム作動のパラメータを特性付けるために用いられうる。このことは、センサー(例えば圧力センサー)の故障が生じた際に特に有用である;センサーからもはや直接測定できないパラメータを推定するためにその相関を使用できる可能性があるからである。
【0014】
いくつかの実施形態において、(時変差圧を示す)第二データが心臓ポンプシステム上の差圧センサーから受け取られる。例えば、心臓ポンプシステムが患者の心臓内で作動位置に置かれている時、差圧センサーの1つの面すなわち表面が大動脈圧にさらされてもよく、差圧センサーの第二の面すなわち表面が心室圧にさらされてもよく、そして差圧センサーが大動脈圧と心室圧との差を測定してもよい。圧力センサーの留置およびセンサーのタイプは限定的なものではない。例えば、心臓ポンプシステム上にあるかまたは同システム上にない複数のセンサーから第二データが照合されてもよい。
【0015】
差圧センサーは故障または破損する可能性がある。いくつかの実施形態において、差圧センサーが故障した場合、コントローラは、センサー故障という判定に応答して、第二期間中の時変差圧の推定値を決定する。いくつかの実施形態において、コントローラは、第二期間中に差圧センサーから受け取られるデータがない場合に、差圧センサーが故障したと判定してもよい。圧力センサーが故障または破損した場合、コントローラは、患者の心臓内の圧力に直接関するデータをもはや受け取らないのであってもよい。患者の心臓内における心臓ポンプシステムの留置が圧力信号から決定されるシステムの場合、圧力センサーの故障または破損は、心臓ポンプシステムが患者の心臓内に適切に配置されているか(例えば大動脈弁をまたいで左心室内まで延在しているか)を知ることが困難または不可能であることを意味する。したがって、差圧を直接測定するのではなく、差圧が推定され、そして、推定値は心臓ポンプシステムの留置を決定するために用いられる。
【0016】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、第二期間中の時変差圧の推定値を決定する;その決定の段階は、第三データが第一データと第二データの関係における第一フェーズに対応するのか第二フェーズに対応するのかを決定することによって推定ポイントの時系列を決定する段階を含む。例えば、第一フェーズがフェーズAであってもよく、かつ第二フェーズがフェーズBであってもよい。所与のモーター電流値について、(例えば
図3に示すように)第一データと第二データの関係によって決定される、対応する2つの差圧値が存在する可能性がある。その対応する2つの差圧値のうち、1つの値がフェーズAに対応し、もう一方がフェーズBに対応してもよい。
【0017】
モーター電流が第一フェーズ(例えばフェーズA)にあるのか第二フェーズ(例えばフェーズB)にあるのかは、拡張期を調べることによって判定されてもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、追加データ内において(例えば上述の第二期間中に)拡張期を決定する。拡張期は開始点で始まり終了点で終わる。開始点と終了点との間における追加データの傾きは、第一フェーズまたは第二フェーズを示す。傾きが正ならば追加データは第一フェーズに対応する。傾きが負ならば追加データは第二フェーズに対応する。ゆえに、患者の心臓の拡張期を調べることによって、本明細書に説明するシステムは、所与のモーター電流値について2つの圧力値(フェーズAまたはフェーズB)のうちどちらが正しいかを適切に決定できる可能性がある。
【0018】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、時変差圧の推定値に基づき、心臓ポンプシステムに関連する流量、位置、およびサクションのうち少なくとも1つを決定する。時変差圧、モーター電流、および/または時変差圧の推定値が表示されてもよい。1つの例において、 コントローラは、時変差圧と、モーター電流と、時変差圧の推定値とを同時に表示してもよい。1つの例において、 コントローラは、モーター電流を表示し、そして同時に時変差圧または時変差圧の推定値のうち1つを表示してもよい。1つの例において、ユーザーが、どの信号を閲覧したいかを選択してもよい。流量、位置、およびサクションなどの決定は差圧の測定または推定に基づくので、所与の時間について差圧値がわかっておりかつ正しいことが必須である。心臓ポンプシステム上の差圧センサーが故障して、圧力について何らの推定も決定されないならば、システムの流量、位置、およびサクションもまた失われる。ゆえに、本明細書に説明するシステムおよび方法は、差圧推定値を提供することによって、センサー故障が生じた際にも流量、位置、およびサクションの推定を続けることを可能にし、それにより、患者の健康状態および心臓ポンプの作動についてのより明確な描写を臨床医に提供する。
【0019】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、差圧センサーの故障および推定時変差圧に関する第一および/または第二の指標を提供する。第一指標は差圧センサーが故障したことを示す。1つの例において、コントローラは、センサーデータが信頼できないと伝える警告指標をユーザーインターフェース上に表示してもよい。第二指標は、第二期間中の時変差圧の推定値がシミュレーションまたは推定されたことを示す。1つの例において、コントローラは、差圧センサーが故障したというアラーム警告と、時変差圧の推定値が表示されそしてそれは推定値であるというアラーム警告とを、同時に表示してもよい。指標は視覚的または聴覚的なものであってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、第二期間について時変差圧を時変差圧の推定値と比較することによって、時変差圧がドリフトしているかを判定する。時変差圧を時変差圧の推定値と比較する段階に基づき、第二期間にわたる時変差圧と時変差圧の推定値との差が計算される。例えば、コントローラが、時変差圧と時変差圧の推定値とを両方表示してもよく、そして、第二期間中の複数の時点においてこれら2つの信号の差を計算してもよい。その差は差圧信号閾値と比較される。差圧信号閾値は、10 mmHg、15 mmHg、20 mmHg、40 mmHg、60 mmHg、80 mmHg、または任意の好適な数量であってもよい。差が差圧信号閾値より大きいならば、時変差圧がドリフトしている。例えば、第一時点において、時変差圧と時変差圧の推定値との差が2 mmHgであってもよい。第一時点より後の第二時点において、差が5 mmHgであってもよい。第二時点より後の第三時点において、差が27 mmHgであってもよい。この実施例において、差圧信号閾値が25 mmHgであってもよく、その場合、コントローラは第三時点において時変差圧がドリフトしていると判定する。本明細書に説明するシステムおよび方法は、差圧信号がドリフトしているかを判定することにより、センサーが正しく作動しているかというチェックを提供する。例えば、センサーが劣化しているならば、圧力信号がドリフトして、正しくない測定値を臨床医に提供する可能性がある。推定される差圧と測定される差圧が著しく異なるならば、そうしたドリフトが臨床医に通告されてもよく、それは圧力の読取りを正すかまたはさらに調べる機会を臨床医に提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、時変差圧がドリフトしているならば、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、差圧センサーを再校正する必要があることを示す通知を表示する。通知は視覚的または聴覚的なものであってもよい。1つの例において、コントローラは、時変差圧信号が信頼できず再校正の必要があることを述べる警告またはアラームをユーザーインターフェース上に表示してもよい。1つの例において、コントローラは、時変差圧信号がドリフトしていることを述べる警告またはアラームをユーザーインターフェース上に表示してもよい。いくつかの実施形態において、時変差圧がドリフトしているならば、差圧センサーが自動的に再構成される。1つの例において、コントローラは、差圧センサーを再校正のためゼロに合わせてもよい。再校正は、センサーが正確なデータを臨床医またはコントローラに提供することを確実化して、それにより処置の有効性を高めるのに役立つ可能性がある。
【0022】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスは、心臓ポンプシステムの作動を第一作動レベルから第二作動レベルに変更する。心臓ポンプシステムの作動を第二レベルに変更したことに基づき、第一データと第二データの関係が、第二作動レベルを考慮するようスケーリングされてもよい。時変差圧の推定は関係のスケーリングに基づいてもよい。1つの例において、第一期間中に心臓ポンプシステムが作動レベルP-8で作動してもよいが、第二期間中に心臓ポンプシステムが作動レベルP-9で作動してもよい。コントローラは、作動レベルP-8について、第一データと第二データの関係を決定してもよい。第二期間中、コントローラは、第一期間について計算された関係を用いて値または値セットを決定し、そして次にその値または値セットを線形的にスケーリングすることによって、時変差圧の推定値を計算してもよい。ゆえに、第一期間中にモーター電流データおよび差圧信号データの収集に用いられるPレベルが、第二期間中に追加のモーター電流データの収集に用いられるレベルと異なるならば、Pレベルの変化を考慮するためモーター電流データと差圧センサーデータとの関係がスケーリングされてもよい。
[本発明1001]
以下の段階を含む、患者内の心臓ポンプシステムの位置を推定するための方法:
該心臓ポンプシステム内の第一期間中の時変(time-varying)モーター電流を示す第一データを受け取る段階であって、該時変モーター電流は、該心臓ポンプシステムが該患者内で作動している間に該心臓ポンプシステムのモーターに送達される電流の量に対応する、段階;
該第一期間中の時変差圧を示す第二データを受け取る段階であって、該時変差圧が該心臓ポンプシステムの内部部分と該心臓ポンプシステムの外側の間の圧力差に対応し、かつ該時変差圧が該患者の心臓に対する該心臓ポンプシステムの位置をさらに示す、段階;
該第一期間より後の第二期間中の時変モーター電流を示す第三データを受け取る段階;
該第三データから、および該第一データと該第二データの関係から、該第二期間中の時変差圧の推定値を決定する段階であって、該推定値が、該患者内の該心臓ポンプシステムの位置を予測するために使用可能である、段階。
[本発明1002]
第二データが心臓ポンプシステム上の差圧センサーから受け取られ、かつ、第二期間中の時変差圧の推定値を決定する段階が、差圧センサーが故障したと判定する段階に応答する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
差圧センサーが故障したと判定する段階が、第二期間中に差圧センサーから受け取られるデータがない時に行われる、本発明1001の方法。
[本発明1004]
差圧センサーが故障したという第一指標を提供する段階;および
第二期間中の時変差圧の推定値がシミュレーションされたという第二指標を提供する段階
をさらに含む、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
第二期間中の時変差圧の推定値を決定する段階が、第三データが第一データと第二データの関係における第一フェーズに対応するのか第二フェーズに対応するのかを決定することによって推定ポイントの時系列を決定することを含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1006]
追加のデータが第一フェーズに対応するのか第二フェーズに対応するのかを同定する段階が、
開始点で始まり終了点で終わる拡張期を、該追加のデータ内で決定すること;
該開始点と該終了点との間で該追加のデータの傾きを決定すること;
該傾きが正であると判定することに応答して、該追加のデータが該第一フェーズに対応すると決定すること;および
該傾きが負であると判定することに応答して、該追加のデータが該第二フェーズに対応すると決定すること
を含む、本発明1005の方法。
[本発明1007]
時変差圧の推定値に基づき、心臓ポンプシステムに関連する流量、位置、およびサクションのうち少なくとも1つを決定する段階
をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1008]
時変差圧、モーター電流、および時変差圧の推定値のうち少なくとも1つを表示する段階をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1009]
時変差圧がドリフトしていると判定する段階をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1010]
時変差圧がドリフトしていると判定する段階が、
第二期間について該時変差圧を時変差圧の推定値と比較すること;
該時変差圧を時変差圧の推定値と比較することに基づき、第二期間にわたる該時変差圧と該時変差圧の推定値との差を計算すること;
該差を差圧信号閾値と比較すること;および
該差を差圧信号閾値と比較することに基づき、該差が該差圧信号閾値より大きいと判定すること
を含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1011]
時変差圧がドリフトしていると判定する段階に基づき、差圧センサーを再校正する必要があることを示す通知を表示する段階
をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1012]
時変差圧がドリフトしていると判定する段階に基づき、差圧センサーを自動的に再校正する段階
をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1013]
第一データと第二データの関係が、
第一期間内の各時点についてモーター電流と時変差圧の間の相関を決定すること;および
心臓ポンプシステムの作動特性を示す、相関についての多重線形フィットを計算すること
によって決定される、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1014]
第一データおよび第二データが、第一作動レベルで作動している心臓ポンプシステムを表し、前記方法が、
該心臓ポンプシステムの作動を第二作動レベルに変更する段階;および
該心臓ポンプシステムの作動を第二レベルに変更する段階に基づき、該第一データと第二データの関係を、第二作動レベルを考慮するようスケーリングする段階
を含み、時変差圧の推定値を決定する段階が、該関係をスケーリングする段階にさらに基づく、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1015]
本発明1001~1014のいずれかの方法を行うよう構成されたコントローラを具備するシステム。
[本発明1016]
近位端を有するポンプハウジングおよびローターを具備するポンプと;
該ポンプハウジングの遠位端とインターフェースする近位端、および遠位端を具備するカニューレであって、モーターによって作動されるよう該ポンプが構成されている、カニューレと;
該ポンプハウジングの近位側に延在する細長カテーテルと;
差圧センサーを含む、1つまたは複数のセンサーと;
本発明1001~1014のいずれかの方法を行うよう構成されたコントローラと
を具備する、心臓ポンプシステム。
[本発明1017]
カニューレが該患者の大動脈弁をまたいで延在するように置かれるようポンプが構成されており、遠位端が患者の左心室内に位置しており近位端が該患者の大動脈内に位置している、本発明1016の心臓ポンプシステム。
[本発明1018]
カニューレの遠位端から遠位方向に延在する可撓性突出部をさらに具備する、本発明1016の心臓ポンプシステム。
[本発明1019]
細長カテーテルがその遠位端でポンプハウジングに連結され、かつ、該ポンプが、該細長カテーテルを通って延在するドライブケーブルをさらに具備する、本発明1016の心臓ポンプシステム。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ある一定の実施形態に基づく、心血管パラメータを推定するよう構成された例示的な心臓ポンプシステムを示した図である。
【
図2】ある一定の実施形態に基づく、患者内の心臓ポンプシステムの位置を推定するためのプロセスを示した図である。
【
図3】ある一定の実施形態に基づく、ある範囲の性能レベルで作動している心臓ポンプシステムについて、モーター電流に対する差圧信号をプロットした図である。
【
図4】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたるモーター電流と、差圧信号と、フローとをプロットした図である。
【
図5】ある一定の実施形態に基づく、心臓ポンプシステムについてモーター電流に対する差圧信号をプロットした図である。
【
図6】ある一定の実施形態に基づく、第一フェーズについて経時的なモーター電流をプロットした図である。
【
図7】ある一定の実施形態に基づく、第二フェーズについて経時的なモーター電流をプロットした図である。
【
図8】ある一定の実施形態に基づく、心臓ポンプシステムについて第一および第二フェーズにわたりモーター電流に対する差圧信号をプロットした図である。
【
図9】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたる第一フェーズ作動中の、実際の差圧信号と、シミュレーション差圧信号と、第一フェーズのシミュレーション差圧信号とをプロットした図である。
【
図10】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたる第二フェーズ作動中の、実際の差圧信号と、シミュレーション差圧信号と、第一フェーズのシミュレーション差圧信号とをプロットした図である。
【
図11】ある一定の実施形態に基づく、心臓ポンプシステムの性能レベルが2つのレベル間で変化した時の、その心臓ポンプシステムについての差圧信号、モーター電流、および毎分回転数(rotations per minute)(RPM)をプロットした図である。
【
図12】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたる第一の性能レベルにおける差圧信号とモーター電流とをプロットした図である。
【
図13】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたる第二の性能レベルにおける差圧信号とモーター電流とをプロットした図である。
【
図14】ある一定の実施形態に基づく、差圧信号ドリフトとモーター電流とを経時的にプロットした図である。
【
図15】ある一定の実施形態に基づく、1つの期間にわたる差圧信号ドリフトと推定差圧信号とをプロットした図である。
【
図16】ある一定の実施形態に基づく、平均推定フロー誤差のヒストグラムである。
【
図17】ある一定の実施形態に基づく、最大推定フロー誤差のヒストグラムである。
【
図18】ある一定の実施形態に基づく、最小推定フロー誤差のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本明細書に説明するシステム、方法、およびデバイスが全体的に理解されうるよう、ある一定の例示的局面を説明する。本明細書に説明する局面および特徴は、患者の心臓の健康状態と関係した使用について具体的に説明するが、理解されるであろう点として、以下に概説するすべてのコンポーネントおよび他の特徴は、任意の好適な様式において互いに組み合わせられてもよく、かつ、他のタイプの医学的治療および患者の健康状態に適合および適用されてもよい。
【0025】
本明細書に説明するシステム、デバイス、および方法は、心臓ポンプシステムにおける過去のモーター電流データと差圧データの関係を用いて、モーター電流データから時変差圧の推定値を決定する。差圧信号は経時的な圧力を示し、そして、表示される測定値は、血管内ポンプ(
図1における心臓ポンプ100など)の作動中にポンプ上の圧力センサーから導出されてもよい。例えば、センサーは、ポンプ外側の圧力とポンプ内側の圧力との差に比例する電気信号(差圧信号ともいう)を検出してもよく、そしてそれは心臓ポンプシステムによって表示されてもよい。
【0026】
差圧信号は、ポンプが心臓内に正しく留置されている時を決定するため、測定された圧力をモニターすることによって心臓内におけるポンプの配置を決定するために、臨床医によって用いられてもよい。心臓ポンプが、大動脈弁をまたいで正しい場所に置かれている時、センサーの最上部(外面)は大動脈圧にさらされ、かつセンサーの最下部(内面)は心室圧にさらされる。心臓ポンプシステムは、ポンプへの血液インレットが左心室内にありかつポンプからのアウトレットが大動脈内にあるよう心臓ポンプのカニューレが大動脈弁をまたいでいる時に、適切に配置されたとみなされてもよい。心臓ポンプシステムが心臓内に適切に配置されている時は、心臓サイクルに関連する圧力変化の結果として拍動性の差圧信号が生じる。拡張中、大動脈と左心室の間の大きな圧力差が、大きな差圧信号を作り出す。大動脈弁が開く時である収縮のピークにおいて、大動脈と左心室の間の圧力差は(ひいては差圧信号も)ゼロである。ゆえに、心臓サイクルに関連する持続的な圧力変化は、正しく配置された時に拍動性の波形をもたらす。心臓ポンプシステムが大動脈弁をまたいで適切に置かれているのでない時、または、完全に大動脈内もしくは完全に心室内にある時は、心臓サイクル全体を通してカニューレの外側の圧力と内側の圧力とが同じになる。その結果、センサー膜のいずれの側でも圧力が同じになり、その結果としてフラットな差圧信号が生じる。例えば、正しく置かれている時、差圧信号は周期的に変動する可能性があり、かつ/または、60 mmHg、40 mmHg、もしくは概ね高値である別の値のピークツートラフ値(peak-to-trough value)を有する可能性がある。置かれ方が正しくない時、差圧信号は、0 mmHg、2 mmHg、または概ね低値である別の値のピークツートラフ値を有する可能性がある。
【0027】
モーター電流信号は、心臓ポンプシステム内のモーターによって引かれる電流の経時的な測定値を示す。心臓ポンプシステム(例えば心臓ポンプシステム100)は、特定の性能レベルにおいて一定した心臓ポンプモーター速度を提供するよう設計されてもよい。一定したローター速度を維持するよう心臓ポンプシステムのモーター(例えば
図1のモーターハウジング102内に含有されるモーター)を作動させることは、多くの医学的状況において望ましいが、それには概して、変動する電流量をモーターに供給する必要がある;モーターに対する負荷は心臓サイクル中の異なるステージにおいて変動するからである。したがって、患者の心臓内の差圧が変化した時は、ローター速度を一定に保つためモーター電流も変化する。例えば、大動脈に入る血液の流量が増大する時(例えば収縮中)は、モーターを作動させるために必要な電流が増大する。ゆえにモーター電流のこの変化は、添付の図面に関してより詳しく後述するように、心機能の特性付けに役立つよう用いられうる。モーター電流信号はポンプ内のポンプモーター上のセンサーによる測定から導出されてもよく、またはプロセッサもしくはコントローラそれ自体から導出されてもよい。たとえ所与の時刻における差圧がわかっていなくても、その時刻におけるローター速度はわかり、そしてローター速度が安定であることを確実化するためモーター電流がチューニングされる。本明細書に説明するシステムおよび方法は、第一期間中に特定の心臓ポンプシステムについて過去のモーター電流と差圧信号データの関係を構築し、次に、この関係を用いて、第二期間中に新たに受け取ったモーター電流データから推定差圧信号を決定する。モーター電流/差圧信号の関係が、固有の心臓ポンプシステムについて決定され、そしてその固有の心臓ポンプシステムの特性を示す。
【0028】
モーター電流と差圧信号の関係が決定されたら、差圧信号の推定値を決定するためモーター電流が用いられる。しかし、所与のモーター電流値について、第一フェーズ(本明細書において「フェーズA」ともいう)の値と第二フェーズ(本明細書において「フェーズB」ともいう)の値という、2つの対応する差圧信号値が存在しうる。より詳しく後述するように、本明細書に説明するシステムおよび方法は、心臓ポンプシステムがフェーズAにあるのかフェーズBにあるのかを判定してもよく、そしてそれに従って差圧信号の推定値を決定してもよい。
【0029】
モーター電流と前記関係とを用いて時変差圧の推定値を決定できるので、本明細書に説明するシステムおよび方法は、
図14~15に関して後述するように、差圧センサーが故障しそして測定される差圧信号データが利用不可能になるかまたはドリフトによって信頼できなくなった場合に、特に有用である可能性がある。いくつかの局面において、差圧センサーが故障したと判定する段階に応答して、時変差圧の推定値が決定されてもよい。いくつかの局面において、差圧センサーが故障したならば、心臓ポンプシステムがアラームを発してもよい。いくつかの局面において、差圧センサーが故障したか否かにかかわらず、差圧の推定値が決定されてもよい。測定差圧信号を推定差圧信号と比較することにより、本明細書に説明するシステムおよび方法はまた、測定差圧信号がドリフトしており再校正される必要があると決定するためにも用いられてもよい。
【0030】
本発明の心臓ポンプシステムは、患者の心臓内に少なくとも部分的に挿入される。本開示に適合性がある心臓ポンプシステムは、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開公報第2018-0078159-A1号に開示されている。概して、他の任意の心臓ポンプシステムまたは患者から生理学的データを得るためのシステムが本開示とともに用いられてもよい。例えば、差圧信号データおよびモーター電流データが、Automated Impella Controller(AIC)などの心臓ポンプシステムに接続されるかまたはその一部であるインターフェース上に表示されてもよい。心臓ポンプシステムの信号から、生の特徴(raw feature)が抽出されてもよい。心臓ポンプシステムは、心臓ポンプシステムについてリアルタイム作動データを表示する留置スクリーンなどの、ディスプレイを有してもよい。そうした留置スクリーンは、差圧信号およびモーター電流の波形、ならびに、各波形についての最大値/最小値および平均値を、スクリーンの中央表示エリア内に表示してもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明するシステムおよび方法は、IMPELLA(登録商標)ファミリーのデバイス(Abiomed, Inc., Danvers MA)であるImpella 5.0デバイスに関連してもよい。
【0032】
図1に、ある一定の実施形態に基づく、患者の血管内に挿入されておりかつ心血管パラメータを推定するよう構成されている例示的な心臓ポンプシステムを示す。心臓ポンプシステム100は、心臓内、部分的に心臓内、心臓外、部分的に心臓外、部分的に血管系外、または患者の血管系における他の任意の好適な場所で作動してもよい。心臓ポンプシステムは、ポンプへの血液インレット(例えば血液インレット172)が左心室内にありかつポンプからのアウトレット(例えばアウトレット開口部170)が大動脈内にあるよう、カニューレ173が大動脈弁をまたいで置かれている時に、「所定の位置にある(in position)」とみなされてもよい。心臓ポンプシステム100は心臓ポンプ106と制御システム104とを含む。制御システム104の全部または一部は、心臓ポンプ106とは別の/遠隔のコントローラユニットであってもよい。いくつかの実施形態において、制御システム104は心臓ポンプ106の内部にある。制御システム104および心臓ポンプ106は一律の縮尺で示されてはいない。ポンプシステム100は、細長カテーテルボディ105と、モーターハウジング102と、ポンプ要素がそこに形成されるドライブシャフトとを含む。ポンプ100は、ポンプハウジング134と、モーターハウジング102の遠位端111においてカニューレ173に連結されるモーターハウジング102とを含む。サクションヘッド174においてカニューレ173に流入する血液のフローを誘発するため、ドライブシャフト上のインペラーブレードがポンプハウジング134内で回転されてもよい。サクションヘッド174は、カニューレ173の遠位端部分171において血液インレット172を提供する。血液のフロー109は、カニューレ173を第一の方向108に通過し、そして、カニューレ173の1つまたは複数のアウトレット開口部170においてカニューレ173から出る。
【0033】
ポンプハウジング134内でのドライブシャフトの回転はまた、ベアリングギャップ内でポンプ要素も回転させてもよい。血液適合性流体が、細長カテーテル105を通りモーターハウジング102を通ってカニューレ173の近位端部分に送達されてもよく、その際に流体はポンプ要素の回転によって加圧される。血液適合性流体のフローは、ポンプのベアリングギャップを通る第二の方向122を有する。血液適合性流体は、ベアリングギャップから出た後、フロー方向123に従ってもよく、そして血液のフロー中に引き込まれて血液とともに大動脈内に流入してもよい。
【0034】
心臓ポンプ100はシース175を通って患者の脈管内に挿入される。ポンプハウジング134はローターと内部ベアリングとを封入してもよく、かつ、患者の脈管内に経皮的に挿入できるようサイズ決定されてもよい。いくつかの実施形態において、ポンプは、血管構造を通りそして大動脈弓164を超えて進められてもよい。ポンプは左心室内にある状態で図示されているが、代替的に、血液が患者の下大静脈または右心房から右心室を通りそして肺動脈内までポンピングされるよう、ポンプが右心内に置かれてもよい。
【0035】
心臓ポンプ100を脈管内または心室内に最適に配置するため、サクションヘッド174に対して遠位側の、カニューレ173の遠位端部分171に、可撓性突出部176もまた含まれていてもよい。サクションヘッド174はサクションによって脈管の壁にはまり込む可能性があるが、可撓性突出部176はサクションヘッド174が脈管の壁に近づくことを防いでもよい。可撓性突出部176は非吸引性であってもよいので、可撓性突出部176はポンプ100を機械的に延長させてもよいが水力学的には延長させない。いくつかの実施形態において、可撓性突出部はピッグテールとして形成されてもよい。いくつかの態様において、ポンプが可撓性突出部を含まなくてもよい。
【0036】
細長カテーテル105は、流体供給ラインを具備してもよい接続部126を格納し、かつ、電気接続ケーブルもまた格納してもよい。接続部126は、血液適合性流体を、制御システム104内に含有されてもよい流体リザーバからポンプまで供給してもよい。
【0037】
制御システム104は、例えばモーターへの電力を制御するかまたはモーター速度を制御するなどポンプ106を制御するコントローラ182を含んでおり、かつ心臓パラメータ推定器116もまた含んでもよい。いくつかの実施形態において、制御システム104は、差圧信号およびモーター電流などの測定値を示すための表示スクリーンを含む。制御システム104は、ライン内の空気、または、差圧信号、フロー位置、サクション、もしくは他の任意の好適な測定値の変化を示す電流降下について、モーター電流をモニターするための回路を含んでもよい。制御システム104は、センサーの故障、接続部126の切断もしくは破損、または患者の健康状態の急変についてオペレータに注意喚起するための、警告音、光、または指標を含んでもよい。
【0038】
制御システム104は電流センサー(図には示していない)を含んでもよい。コントローラ182は、1つまたは複数の電線を通るなどの接続部126によってモーター108に電流を供給する。接続部126を介してモーター108に供給される電流は電流センサーによって測定される。機械式ポンプのモーターにかかる負荷は、圧力ヘッド、または大動脈圧と左室圧との差である。心臓ポンプ106は、所与の圧力ヘッドについて、定常状態作動中に定格負荷を受け、そしてこの定格負荷からの変動は、例えば左心室収縮の動力学など、変化する外部負荷条件の結果として生じる。動的負荷条件の変化は、一定した速度または実質的に一定した速度でポンプローターを作動させるために必要なモーター電流を変動させる。モーターは、ローターを設定速度に維持するために必要な速度で作動してもよい。したがって、そしてより詳しく後述するように、ローター速度を維持するためにモーターによって引かれる電流がモニターされ、そして根底にある心臓の状態を理解するために用いられてもよい。圧力センサー112を用いて心臓サイクル中の圧力ヘッドを同時にモニターすることによって、心臓の状態がさらに精密に定量化および理解されうる。心臓パラメータ推定器185は、電流センサーからの電流信号および圧力センサー112からの圧力信号を受け取る。心臓パラメータ推定器185はこれらの電流信号および圧力信号を用いて心臓の機能を特性付ける。心臓パラメータ推定器185は、圧力信号および電流信号に基づいて心臓の機能を特性付けるため、保存されたルックアップ表にアクセスして追加情報を得てもよい。例えば、心臓パラメータ推定器185は、圧力センサー112から大動脈圧を受け取ってもよく、かつルックアップ表を用いて、デルタ圧を決定するため大動脈圧を用いてもよい。
【0039】
圧力センサーはカニューレ172内に統合された可撓性の膜である。上述のように、センサーの片側はカニューレ外側上の血圧にさらされ、そしてもう片側はカニューレ内側の血液の圧力にさらされる。センサーは、カニューレ外側の圧力と内側の圧力との差に比例する電気信号(差圧信号)を生成し、それは心臓ポンプシステムによって表示されてもよい。心臓ポンプシステムが、大動脈弁をまたいで正しい位置に置かれている時、センサーの最上部(外面)は大動脈圧にさらされ、かつセンサーの最下部(内面)は心室圧にさらされる。したがって、差圧信号は大動脈圧と心室圧との差にほぼ等しい。
【0040】
図2に、ある一定の実施形態に基づく、モーター電流に基づいて時変差圧の推定値を決定するためのプロセス200を示す。プロセス200は、
図1において説明したものなど、任意の好適な心臓ポンプシステムを用いて行われてもよい。段階210において、第一期間中の時変モーター電流を示す第一データが受け取られる。第一データ(モーター電流データともいう)はモーター電流信号の一部であってもよい。モーター電流データは、上述のように、心臓ポンプシステム内のモーターに送達される電流を記述する。例えば、モーターは、ローターの回転速度を一定または実質的に一定に保つために必要な回転速度で作動されてもよい。電流は、電流センサー(例えば
図1に関して説明した電流センサー)を用いて、または他の任意の好適な手段によって、測定されてもよい。段階212において、第一時間中の時変差圧を示す第二データが受け取られる。第二データ(差圧信号データともいう)は差圧信号の一部であってもよい。いくつかの実施形態において、差圧信号データは、差圧センサー(例えば圧力センサー112)によって測定される圧力の変化を記述する。差圧センサーは、光学式圧力センサー、電気式圧力センサー、MEMSセンサー、または他の任意の好適な圧力センサーであってもよい。差圧信号は、患者の大動脈弁に対する心臓ポンプの位置をモニターするため臨床医によって用いられてもよい。差圧信号およびモーター電流信号は、臨床医または心臓ポンプシステムの他のオペレータ向けに表示されてもよい。いくつかの局面において、第一データおよび第二データは、第一期間中に患者の心臓内に少なくとも部分的に位置してもよい心臓ポンプシステムから受け取られまたは取得される。
【0041】
心臓ポンプシステムについて差圧とモーター電流の関係が決定される。関係は、上述のように段階210および212において受け取られるモーター電流データと差圧信号データとを含んでもよい、トレーニングデータを用いて決定される。いくつかの局面において、モーター電流データおよび差圧信号データは、心臓ポンプシステムが単一のPレベルで作動している間に取得される。Pレベルは心臓ポンプシステムの性能レベルであり、システムのフロー制御に関連し、モーター速度を提示する。Pレベルが高くなると、心臓ポンプシステムに関連する流量、モーター電流、および毎分旋回数(revolutions per minute)が増大する。例えば、モーター電流データおよび差圧信号データは、それぞれ、心臓ポンプシステムがPレベル P-8で作動している40秒間の期間に対応する1000個のサンプル点(リアルタイムデータ収集の周波数は25 Hz)を含んでもよい。
【0042】
本明細書に説明するシステムおよび方法は、トレーニングデータを表すモデルを計算してもよい。いくつかの局面において、本明細書に説明するシステムおよび方法は、モーター電流データ値に対する差圧信号データ値をプロットすることによって、および/または、結果として得られた曲線の多重線形回帰を決定することによって、モーター電流と差圧信号との代表的関係を計算する。この曲線および関連する多重線形回帰は、モーター電流データおよび差圧信号データの取得元である心臓ポンプシステムに関する、モーター電流と差圧信号の関係を代表するものである。この曲線と、関連する多重線形回帰とは、(それぞれモーター電流および差圧に関係する)第一データおよび第二データの取得元である固有の心臓ポンプシステムの作動特性を示してもよい。例えば、これらの作動特性は、最小および最大の差圧、最小および最大のモーター電流、ならびに、所与の性能レベルにおける作動の第一フェーズと第二フェーズとの間の変曲点を含んでもよい。
【0043】
任意的な段階216において、本明細書に説明するシステムおよび方法は、圧力センサーが故障したと判定する。いくつかの局面において、本発明のシステムおよび方法は、システムが差圧信号データをもはや受け取っていない時、または第二期間中に差圧センサーからデータが受け取られない時に、圧力センサーが故障したと判定してもよい。いくつかの局面において、本明細書に説明するシステムおよび方法は、
図14~15に関してより詳しく後述するように、圧力センサーを再校正する必要があると決定してもよい。圧力センサーを再校正する必要があると決定された後は、サクション、フロー、および位置などをさらに計算するうえで、測定される差圧信号ではなく、段階220において後述するような差圧信号の推定値が頼りにされてもよい。
【0044】
段階218において、第一期間より後の第二期間中の時変モーター電流を示す第三データが受け取られる。第三データ(本明細書において、以後、追加のモーター電流データともいう)は、段階210のモーター電流データに関して上述したものと同じ心臓ポンプシステムの同じセンサーによって測定される。追加のモーター電流データは、段階210において受け取られたモーター電流データによって表される期間より後の期間を表してもよい。いくつかの局面において、追加のモーター電流データは、段階210のモーター電流データと異なるPレベルにおいて取得されたものであってもよい。例えば、追加のモーターデータは、心臓ポンプシステムがPレベル P-6で作動している2秒間の期間を表してもよい。
【0045】
段階220において、第三データと、上述の第一データ(モーター電流データ)と第二データ(差圧信号データ)の関係とから、第二期間中の時変差圧の推定値が決定される。モーター電流データおよび差圧信号データの収集に用いられたPレベルが追加のモーター電流データの収集に用いられたものと異なるならば、
図4に関して後述するように、Pレベルの変化を考慮するため、関係性をスケーリングしなければならない。関係性がスケーリングされたら、本明細書に説明するシステムおよび方法は、
図3に関して後述するように、追加のモーター電流データについて、心臓ポンプシステムが「フェーズA」にあるのか「フェーズB」にあるのかを判定する。フェーズ決定は心臓サイクルの拡張フェーズの開始時および終了時のモーター電流値に依存し、それは患者の圧力およびPレベルに依存する。次に、追加のモーター電流データの各値が、対応するフェーズAまたはフェーズBの差圧信号値に対してマッピングされる。いくつかの実施形態において、このシミュレーションはほぼリアルタイムで生じ、そして心臓ポンプシステムのオペレータ向けに表示されてもよい。圧力センサーが故障した場合は、測定差圧信号の代わりに推定差圧信号が表示されてもよく、それにより臨床医は圧力センサーが故障してもなお差圧信号データを閲覧できる。いくつかの局面において、心臓ポンプシステムは、差圧センサーが故障したかまたは信頼できないことを示す通告を表示してもよい。いくつかの局面において、心臓ポンプシステムは、時変差圧の推定値がシミュレーションされたこと、および/または、測定差圧信号ではなく差圧信号の推定値を心臓ポンプシステムが表示していることを示す通告を表示してもよい。
【0046】
正確な差圧信号は、心臓ポンプシステムを患者内に適切に配置するためだけでなく、フロー、位置、サクション、ドリフト、および(フローから計算されうる)心拍出量など追加の計量値を決定するためにも用いられうる。フローは、心臓ポンプシステム内のポンプを通る血液の流量である。フローは、患者について心拍出量を計算するために用いることができ、かつ、心臓ポンプによって心臓に提供される機械的補助の尺度を提供する。健康な心臓を通る血流は平均約5リットル/分であり、そして心臓ポンプシステムを通る血流はこれと同様のまたは異なる流量であってもよい。サクションは、心臓ポンプシステムにとって利用可能な血液体積が不充分であるかまたは制限されている時に生じる。サクションは、心臓ポンプシステムが提供できる支持の量を限定し、そして、例えばポンプのインレットエリアが患者組織にはまり込んだのであれば心臓ポンプがブロックされたことを示しうるので、モニターすることが非常に重要である。位置は患者の心臓内における心臓ポンプの実際の配置であり、心臓ポンプシステムの適切な作動のために重要である。ドリフトは、測定される差圧信号が、予測されまたは一貫する値から上または下にドリフトする場合をいう。差圧信号がドリフトしはじめたならば、圧力センサーを再校正することが必要である可能性がある。いくつかの実施形態において、本発明のシステムは圧力センサーを再校正する必要があると決定してもよく、かつ本発明のシステムは、それに応じて再校正するようユーザー向けに警告もしくは信号を表示してもよく、またはセンサーを自動的に再校正してもよい。
【0047】
上述のように、差圧信号は、心臓ポンプシステムが患者の心臓内に適切に配置されているかを決定するために用いられてもよい。心臓ポンプシステムが大動脈弁をまたいで正しく配置されている時は、心臓サイクルに関連する圧力変化の結果として拍動性の差圧信号が生じる。心臓ポンプシステムが大動脈弁をまたいで適切に置かれているのでない時、または、完全に大動脈内もしくは完全に心室内にある時は、心臓サイクル全体を通してカニューレの外側の圧力と内側の圧力とが同じになる。その結果、センサー膜のいずれの側でも圧力が同じになり、その結果としてフラットな差圧信号が生じる。しかし、差圧信号が信頼できないならば、臨床医はシステムが正しく配置されているかを決定することが困難である可能性があり、その場合は推定差圧信号が非常に有用になると考えられる。
【0048】
心臓ポンプシステムは、サクションを引き起こすことなく可能な最大フローを実現するよう作動されてもよい。流量は、正しくない配置またはサクションによって変動しうる。心臓ポンプにとって利用可能な血液体積が不充分であるかまたは制限されている場合、心臓ポンプシステムはサクションアラームをトリガーしてもよい。サクションは、心臓ポンプシステムが患者に提供できる支持の量を限定し、その結果として動脈圧および心拍出量を低下させ;血球を損傷させて溶血につながる可能性があり;かつ、右心不全の指標にもなりうる。ゆえに、心臓ポンプシステムの作動中にサクションをモニターすることが重要である。
【0049】
図3~18に、本開示のさまざまな実施形態および結果例をさらに図示する。
図3に、異なる性能レベルにおける、固有の心臓ポンプについての差圧とモーター電流の関係の例を示す。
図3に示す曲線は、段階210および212に関して上述したものなど、モーター電流および差圧信号データを用いて計算された。
図4に、段階210および212に関して上述したトレーニングデータの例を示す。
図5に、第一フェーズのみにおいて作動している、単一の性能レベルにおける固有の心臓ポンプについて、差圧とモーター電流の関係の例を示す。
図6に、第一フェーズにおける作動中の、段階210に関して上述したようなモーター電流データの例を示す。
図7に、第二フェーズにおける作動中の、段階210に関して上述したようなモーター電流データの例を示す。
図8に、第一フェーズおよび第二フェーズの両方について、単一の性能レベルにおける固有の心臓ポンプについての差圧とモーター電流の関係の例を示す。
図8に示す曲線は、
図3に示す複数の曲線のうち1つの例でありうる。
図9~10に、それぞれ段階218および220との関連において上述したような、測定差圧信号データと差圧信号の推定値とを示す。
図11に、測定差圧信号、差圧信号の推定値(段階220において説明したものなど)、モーター電流(段階218において説明したものなど)、および、心臓ポンプモーターのローターの毎分回転数(
図1に関して上述したものなど)を示す。
図12~13に、第一のPレベルにおけるトレーニングと、第一および第二のPレベルにおける試験とから得られた、測定差圧信号、差圧信号の推定値(段階220において説明したものなど)、および、モーター電流(段階218において説明したものなど)を示す。
図14~15に、モーター電流データ(段階210または段階218におけるものなど)および差圧信号の推定値(段階220におけるものなど)との比較における、測定差圧信号のドリフトを示す。
図14~15に関してより詳しく後述するように、推定差圧信号はまた、差圧信号がドリフトしているもしくはドリフトしたかを判定するため、および、センサーを再校正する必要があるかを決定するためにも用いられてもよい。
図16~18に、測定差圧信号を用いて計算された流量と比較した時の、推定差圧信号(段階220におけるものなど)を用いて計算された流量の推定の有効性の結果を示す。
【0050】
図3に、ある一定の実施形態に基づく、9つの異なる性能レベルにおいて作動している心臓ポンプシステムについて、モーター電流に対する差圧信号のプロット300を示す。プロット300のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸はモーター電流をmAで表す。P-1からP-9までの各曲線は、異なる性能レベルまたはPレベルで作動している同じ心臓ポンプシステムについての、代表的な曲線を示す(例えば、曲線P-1は性能レベルP-1での作動に対応する);Pレベルは心臓ポンプシステムのフロー制御に関する。Pレベルがより高いことは、その心臓ポンプシステムに関連する流量および毎分旋回数がより高いことに対応する。
【0051】
図3に描出されているように、心臓ポンプシステムについての差圧とモーター電流の関係は、性能レベルをまたいでスケーリングされる。したがって、所与の心臓ポンプシステムについて、第一のPレベル(例えばP-8)における差圧とモーター電流の関係が決定されたならば、その心臓ポンプシステムについて第二のPレベル(例えばP-6)における差圧とモーター電流の関係を決定するため、その心臓ポンプシステムについての差圧とモーター電流の関係がスケーリングされてもよい。例えば、
図3に示すケースにおいて、ある心臓ポンプシステムについて差圧信号データおよびモーター電流データがP-8で収集された。このデータは点310、312、314、316、318によって部分的に表されている。破線302、304、308は、差圧とモーター電流の関係の線形スケーリングを表す。具体的には、線302は、Pレベル間における最大差圧信号の線形スケーリングを表す。Pレベルが高くなるにつれて最大差圧信号が増大する。線304は、差圧とモーター電流の関係の変曲点の、Pレベル間における線形スケーリングを表す。Pレベルが高くなるにつれて変曲点が線形的に増大する。線308は、Pレベル間における最小差圧信号の線形スケーリングを表す。Pレベルが高くなるにつれて最小差圧信号が低減する。例えば、P-8における最大差圧信号と最小差圧信号と変曲点とを決定することにより、P-1からP-7までとP-9とについて、最大差圧信号と最小差圧信号と変曲点とが計算されうる。いくつかの実施形態において、Pレベル間のスケーリングはスケーリング因子を用いて実現されてもよい。スケーリング因子を決定するには、一連のN個の心臓ポンプシステムについて、全てのPレベルにおける最大値と最小値と変曲点とが見いだされる。N個の心臓ポンプシステムはすべて、同様の条件下で作動している同種類の心臓ポンプシステムである。N個の心臓ポンプシステムすべてのデータについて、すべてのPレベルにわたり、最大値と最小値と変曲点とについて線形フィットが計算される。これらの線形フィットは次に、N個の心臓ポンプシステムの最大値と最小値と変曲点とについてスケーリング因子を決定するために用いられる。N個のポンプについての3つのスケーリング因子は非常に似通っており、そして次にそれらが平均されて、そのポンプタイプのすべてのポンプについての一般的なスケーリング因子が決定される。
【0052】
P-1からP-9までの各曲線において見られるように、たとえ単一の性能レベル曲線であっても、所与のモーター電流値について対応する差圧信号が複数存在しうる。単一のモーター電流値に対応する差圧信号値は、「フェーズA」または「フェーズB」のいずれかに分類される。P-1からP-9までの、変曲点の線304より上にプロットされている値は、フェーズBの値として分類される。P-1からP-9までの、変曲点の線304より下にプロットされている値は、フェーズAの値として分類される。例えば、点310、312、314、316、318は、Pレベル P-8のフェーズAの値である。上述のように、時変差圧の推定値を決定する時、本明細書に説明するシステムおよび方法は、モーター電流信号がフェーズAにあるのかフェーズBにあるのかを判定し、そしてそれに応じて、対応する差圧信号値の推定値を決定する。例えば、Pレベル P-8での作動中に測定されたモーター電流が600 mAだったならば、対応する差圧信号値は、測定モーター電流がフェーズAにあるならば42 mmHgであり、そして測定モーター電流がフェーズBにあるならば110 mmHgである。測定モーター電流値からフェーズAとフェーズBとを区別する方法は
図6~7に関して後述する。
【0053】
図4に、ある一定の実施形態に基づく、モーター電流、差圧信号、およびフローの経時的なプロットを示す。プロット410のy軸は測定モーター電流をミリアンペア(mA)で示し、プロット420のy軸は測定差圧信号を水銀柱ミリメートル(mmHg)で示し、そしてプロット430のy軸はフローをリットル毎分(L/m)で示す。プロット410、420、430は、プロットのそれぞれのx軸に沿ったサンプル数において測定された、同じ期間の代表的なプロットである。プロットは、各プロットがピークとトラフとを交互に有するような、いくぶん周期的な様式で変動している。モーター電流410のピークは、差圧信号420におけるトラフおよびフロー430におけるピークと対応する。例えば、サンプル数100のマークにおいて、モーター電流410は局所的最大値にあり、一方で差圧信号420は同時刻に局所的最小値にある。
【0054】
プロット410および420は、
図1に関して上述したものなどの単一の心臓ポンプシステムについて、それぞれ電流センサーおよび圧力センサーから測定されたデータを表す。プロットに沿った各「ドット」は、測定されたデータポイントを表す。測定されたデータポイントは、プロット410および420を提供するためベストフィットされている。プロット410および420によって表されるデータは、上述のように、その心臓ポンプシステムについての差圧とモーター電流の関係の代表的なモデルを構築するため、トレーニングデータとして用いられる。
【0055】
図5に、ある一定の実施形態に基づく、固有の心臓ポンプシステムについて、モーター電流に対する差圧信号のプロットを示す。プロット500のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸はモーター電流をmAで表す。固有の時点において、特定の心臓ポンプについて差圧信号およびモーター電流が測定される。これら2つの測定がプロット500内のドットによって記されている。例えば、上述した
図4のプロット410および420によるデータポイントが、プロット500内のドットによって表されてもよい。トレーニングデータを表すためのベストフィット曲線510を決定するため多重線形近似が用いられてもよい。ベストフィット曲線510は、
図4および5に示すデータを取得するためにこの事例において用いた固有の心臓ポンプシステムの代表的な曲線である。
【0056】
本明細書に説明するシステムおよび方法は、
図6および7など経時的なモーター電流を描写するプロットから、心臓ポンプシステムがフェーズAにあるのかフェーズBにあるのかを判定してもよい。拡張の開始点と終了点との間を直接結ぶ線の傾きは、システムがフェーズAにあるのかフェーズBにあるのかを示す。正の傾きはフェーズAを示し、一方、負の傾きはフェーズBを示す。フェーズBにおいてモーター電流の局所的最小値は収縮の直前に生じ、一方、フェーズAにおいてモーター電流の局所的最小値は収縮の直後に生じる。心臓ポンプシステムがフェーズAにあるのかフェーズBにあるのかは、患者の圧力およびPレベルに依存する。フェーズBはより低いPレベル(およびより低いモーター電流値)で生じる可能性が高い。より高い差圧信号値はフェーズBにおいて生じる。
【0057】
図6に、ある一定の実施形態に基づく、フェーズAについてのモーター電流の経時的なプロットを示す。プロット600のy軸はモーター電流をmAで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。円602は拡張の開始を示す。円604は拡張の終了を示す。円602と604との間の傾きは正であり、心臓ポンプシステムがフェーズAにあることを示している。
【0058】
図7に、ある一定の実施形態に基づく、フェーズBについてのモーター電流の経時的なプロットを示す。プロット700のy軸はモーター電流をmAで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。円702は拡張の開始を示す。円704は拡張の終了を示す。円602と604との間の傾きは負であり、心臓ポンプシステムがフェーズBにあることを示している。
【0059】
図8に、ある一定の実施形態に基づく心臓ポンプシステムについて、モーター電流に対する差圧信号のプロットを示す。プロット800のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸はモーター電流をmAで表す。線810はモーター電流値710 mAの境界を示す。約50 mmHgにおける変曲点840は、フェーズAからフェーズBへの「変化(change)」を示す。変曲点840より上の点はフェーズBにあり、一方、変曲点840より下の点はフェーズAにある。より高い(約730 mAを超える)モーター電流値において、心臓ポンプシステムはフェーズAで作動し、対応するフェーズBの値はもはや存在しない。円820および830は、線810によって示されるモーター電流値710 mAに対応する、2つの可能な差圧信号値を示す。円820は約40 mmHgの値を示し、かつフェーズAにある。円830は対応するフェーズBの値である約90 mmHgを示す。
【0060】
図9に、ある一定の実施形態に基づく、実際の差圧信号、シミュレーション差圧信号、およびフェーズAのシミュレーション差圧信号の経時的プロットを示す。プロット900のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線910は心臓ポンプシステムの差圧センサーによって測定された差圧信号を示す。シミュレーション差圧信号の曲線は、本明細書に説明するシステムおよび方法によってシミュレーションされた推定差圧信号であり、曲線912と全面的にオーバーラップする。したがって、シミュレーション曲線はプロット900において視認できない。曲線912は、本明細書に説明するシステムおよび方法に基づく「フェーズA」差圧信号シミュレーションを示す。拡張フェーズ中の正の傾きによって確認できるように、この時間枠中に心臓ポンプシステムは全面的にフェーズAで作動していたので、フェーズAのシミュレーション差圧信号912とシミュレーション差圧信号とは全面的にマッチする。プロット900は、シミュレーション差圧信号の性能をバリデーションするために用いられてもよい。プロット900に見られるように、実際の差圧信号910とシミュレーション差圧信号912とはかなり密接にマッチする。2つの信号910および912の周期、平均値、最大値、および最小値は特に近い。これらの値は、フロー、配置、およびサクションの計算に用いられる重大な計量値である。差圧信号の最小値はフローの最大値の決定に用いられ;差圧信号の最大値はフローの最小値の決定に用いられ;そして差圧信号の平均値はフローの平均値の決定に用いられる。フローの平均値、最大値、および最小値は、ユーザーインターフェースを通じて臨床医向けに表示されてもよい。
【0061】
図10に、ある一定の実施形態に基づく、実際の差圧信号、シミュレーション差圧信号、およびフェーズAのシミュレーション差圧信号の経時的プロットを示す。プロット1000のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線1010は心臓ポンプシステムの差圧センサーによって測定された差圧信号を示す。曲線1012は、本明細書に説明するシステムおよび方法によってシミュレーションされた推定差圧信号を示す。曲線1014は曲線1012と部分的にオーバーラップし、そして、本明細書に説明するシステムおよび方法に基づく「フェーズA」差圧信号シミュレーションを示す。拡張サイクル中の負の傾きによって確認できるように、この時間枠中に心臓ポンプシステムは少なくとも部分的にフェーズBで作動していたので、フェーズAのシミュレーション差圧信号1014とシミュレーション差圧信号1012とは全面的にはマッチしない(ピーク周りでは大部分が逸脱している)。プロット1000は、心臓ポンプシステムがフェーズAで作動しているかまたはフェーズBで作動しているかを決定することの重要性を示している。フェーズAのシミュレーション信号1014は、周期および最小値の実際の値とかなり密接にマッチしたが、差圧センサーによって測定されそして曲線1010によって示された最大値または平均値とはマッチしなかった。シミュレーション曲線1012は、実際の信号1010と全面的にはオーバーラップしないが、フェーズBを考慮に入れることによって実際の差圧信号(特に最小値および最大値)の充分に良好な推定を提供でき、それはフロー計算および位置/サクションアラームに用いられうる。
【0062】
図11に、ある一定の実施形態に基づく、心臓ポンプシステムの性能レベルが変化した時の、その心臓ポンプシステムについての差圧信号、モーター電流、および毎分回転数(RPM)のプロットを示す。プロット1110は差圧信号のバリデーションを示し、プロット1120は経時的なモーター電流を示し、そしてプロット1130は経時的なRPMを示す。3つのプロット1110、1120、1130は、同じ期間にわたって作動された同じ心臓ポンプシステムの同時測定を示す。プロット1110のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線1112は差圧センサーによって測定された差圧信号を表す。曲線1114は差圧信号の推定値を表す。プロット1120のy軸はモーター電流をmAで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線1122は心臓ポンプシステムによって測定された経時的なモーター電流を表す。プロット1130のy軸はRPMを表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線1132は心臓ポンプシステムによって測定された経時的なRPMを表す。四角形1116、1126、1136は第一のPレベルにおける心臓ポンプシステムの作動の期間を表す。四角形1118、1128、1138は第二のPレベルにおける心臓ポンプシステムの作動の期間を表す。第二のPレベルは第一のPレベルより低い。四角形1116、1126、1136と四角形1118、1128、1138との間でPレベルが下げられると、RPMおよびモーター電流がすべて低減した。
【0063】
図11~13に表されているように、心臓ポンプシステムは、モーター電流データと差圧信号データとを含むトレーニングデータを取得するため第一のPレベルで稼働された。トレーニングデータは、そのPレベルにおけるモーター電流データと差圧信号データの関係を決定するために用いられた。次にその関係は、四角形1116内の曲線1114によって示される差圧信号の推定値を決定するために用いられ、その推定値は曲線1112によって示される測定差圧信号と密接にマッチした。次に心臓ポンプシステムは、より低い第二のPレベルで作動された。
図3に関して上述したように、より低いPレベルを考慮するため、差圧とモーター電流の関係がスケーリングされた。次に、スケーリングされて決定された関係を用いて、この第二のPレベルにおいて推定差圧信号が決定された。四角形1118内に示されているように、推定差圧信号1114もまた、測定差圧信号1112と密接にマッチした。
【0064】
図12に、ある一定の実施形態に基づく、第一のPレベルにおける差圧信号およびモーター電流の経時的なプロットを示す。プロット1210は
図11に示した四角形1116の拡大図である。プロット1210のy軸はmmHg単位で測定された差圧信号を示す。プロット1220は
図11に示した四角形1126の拡大図である。プロット1220のy軸はmA単位で測定されたモーター電流を示す。プロット1210および1220のx軸は、同じ期間にわたる、サンプル数単位で測定された時間を示す。プロット1210は、測定差圧信号曲線1212と、シミュレーション留置曲線1214と、フェーズAのシミュレーション差圧信号曲線1216とを表示している。フェーズAのシミュレーション差圧信号曲線1212は、シミュレーション差圧信号曲線1214とほぼオーバーラップしており、差圧の推定が正確であったことを示している。
【0065】
図13に、ある一定の実施形態に基づく、第二のPレベルにおける差圧信号およびモーター電流の経時的なプロットを示す。プロット1310は
図11に示した四角形1118の拡大図である。プロット1310のy軸はmmHg単位で測定された差圧信号を示す。プロット1320は
図11に示した四角形1128の拡大図である。プロット1220のy軸はmA単位で測定されたモーター電流を示す。プロット1310および1320のx軸は、同じ期間にわたる、サンプル数単位で測定された時間を示す。プロット1310は、測定差圧信号曲線1312と、シミュレーション留置曲線1314と、フェーズAのシミュレーション差圧信号曲線1316とを表示している。フェーズAのシミュレーション差圧信号曲線1312は、シミュレーション差圧信号曲線1314とほぼオーバーラップしており、差圧の推定が正確であったことを示している。
【0066】
差圧とモーター電流の関係は、第二のPレベルで取得されたトレーニングデータを用いて「構築され(built)」たわけではないが、そのPレベルにおいても推定差圧信号1314は測定差圧信号1312と緊密にマッチした。これらの結果は、Pレベル間の切り替え時に用いたスケーリングプロセスが信頼できるものであり、トレーニング用に用いたPレベルで測定されたものと同等の結果を提供するものであることを示している。
【0067】
図14に、ある一定の実施形態に基づく、差圧信号ドリフトおよびモーター電流の経時的なプロットを示す。プロット1410のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。プロット1420のy軸はモーター電流をmAで表し、一方、x軸は、プロット1410において表したものと同じ期間にわたる時間をサンプル数で表す。モーター電流1420は、期間全体にわたっておおよそ同じ平均値を伴って、経時的に維持されている。この同じ期間中、(圧力センサーによって測定された)差圧信号は、平均値約20 mmHgから平均値約80 mmHgまで有意に増大した。モーター電流の平均値が有意な期間にわたって安定している時、平均差圧信号もまたその期間にわたって安定しているべきである。このケースでは差圧信号1410が「ドリフトしている(drifting)」のであり、それは圧力センサーがもはや正確な測定を提供していないことを示す。
【0068】
図15に、ある一定の実施形態に基づく、差圧信号ドリフトおよび推定差圧信号の経時的なプロットを示す。プロット1500のy軸は差圧信号をmmHgで表し、一方、x軸は時間をサンプル数で表す。曲線1510は測定差圧信号を表し、曲線1512は測定差圧信号の平均を表し、曲線1514はシミュレーション差圧信号を表し、そして曲線1516はシミュレーション差圧信号の平均を表す。測定差圧信号1510はドリフトしており、一方、差圧信号の推定値(シミュレーション差圧信号)1514は安定したままである。測定差圧信号がシミュレーション差圧信号から逸脱するならば、そして特に、測定差圧信号の平均1512がシミュレーション差圧信号の平均1516と密接にマッチした期間の後にその逸脱が生じるならば、本明細書に説明するシステムおよび方法は、(測定差圧信号データを提供している)圧力センサーを再校正する必要があると決定してもよい。いくつかの実施形態において、センサーは自動的に再校正されてもよい。いくつかの局面において、心臓ポンプシステムは、センサーを再校正する必要があることを示す通告をユーザー向けに表示してもよい。
【0069】
いくつかの実施形態において、差圧信号がドリフトしているかを判定するため、本明細書に説明するシステムおよび方法は、差圧信号または平均差圧信号(例えば曲線1512)と、差圧信号の推定値(例えば曲線1516)または平均推定値との差を計算してもよい。この差が閾値と比較されてもよい。差が閾値を上回るならば、差圧信号がドリフトしていたことになる。差が閾値を下回るならば、差圧信号がドリフトしていなかったことになる。閾値は、10 mmHg、20 mmHg、または任意の好適な数量であってもよい。例えば、閾値が15 mmHgであってもよく、そして
図15において曲線1512はサンプル4.000e+4においてドリフトしていると判定されてもよい。いくつかの実施形態において、システムは、第一の時刻における測定差圧信号と推定値との差である第一の差、および第二の時刻における測定差圧信号と推定値との差である第二の差を決定してもよい。第二の差が第一の差より実質的に大きいならば、システムは、測定圧力信号がドリフトしたと判定してもよい。いくつかの実施形態において、測定差圧信号と推定値との差は、周期的に測定されるかまたは持続的にモニターされてもよい。差が経時的に増大するならば、システムは、測定圧力信号がドリフトしていると判定してもよい。
【0070】
図16~18に、ある一定の実施形態に基づく、上述のシステムおよび方法によるシミュレーション差圧信号などのシミュレーション差圧信号に基づいて推定フローの成功を測定するための計量値を示す。
図16~18は、信頼できる差圧信号を伴ったポンプ(例えば、試験中に故障しなかった正確な差圧センサーを含有するポンプ)からのデータを用いて行ったバリデーション試験から得たものである。フローは、ポンプがどのように動いているかを決定するうえで臨床医が使用する重要な計量値である。臨床医は、心臓ポンプシステムの性能および状態を理解するため、フローの平均値、最大値、および最小値を必要とする可能性があり、それらはユーザーインターフェースを通じて臨床医向けに表示されてもよい。
【0071】
図16に、ある一定の実施形態に基づく、平均推定フロー誤差のヒストグラムを示す。ディスプレイ1600は、平均推定フローのヒストグラムと、推定誤差分布と、信頼区間分布と、結果の表とを含む。平均推定フロー誤差のヒストグラムは、狭いピークを伴うゼロが中心にあり、誤差がほとんどないマッチング結果を示している。平均推定フロー誤差は、測定差圧信号から計算されたフローの平均値と、差圧信号の推定値から計算されたフローの平均値との差を代表する。
【0072】
図17に、ある一定の実施形態に基づく、最大推定フロー誤差のヒストグラムを示す。ディスプレイ1700は、最大推定フロー誤差の棒グラフと、推定誤差分布と、信頼区間分布と、結果の表とを含む。最大推定フロー誤差のヒストグラムは、狭いピークを伴うゼロが中心にあり、誤差がほとんどないマッチング結果を示している。最大推定フロー誤差は、測定差圧信号から計算されたフローの局所的最大値と、差圧信号の推定値から計算されたフローの局所的最大値との差を代表する。
【0073】
図18に、ある一定の実施形態に基づく、最小推定フロー誤差のヒストグラムを示す。ディスプレイ1800は、最小推定フロー誤差の棒グラフと、推定誤差分布と、信頼区間分布と、結果の表とを含む。最小推定フロー誤差のヒストグラムは、狭いピークを伴うゼロが中心にあり、誤差がほとんどないマッチング結果を示している。最小推定フロー誤差は、測定差圧信号から計算されたフローの局所的最小値と、差圧信号の推定値から計算されたフローの局所的最小値との差を代表する。
【0074】
いくつかの局面において、心臓ポンプシステムは、サクションおよび/または位置のアラームを出力してもよい。測定差圧信号ではなく推定差圧信号に頼っている時のそうしたアラームの信頼性は、推定差圧信号の有効性を決定するための有用な計量値となりうる。いくつかの実施形態において、差圧信号の拍動性が閾値より小さい場合に位置アラームがトリガーされてもよい。そのアラームは、患者の心臓内における心臓ポンプシステムの配置が正しくないことを示してもよい。例えば、差圧信号の拍動性が10 mmHg未満まで低下した場合に位置アラームがトリガーされてもよい。このアラームは、心臓ポンプシステムの配置を調整するよう臨床医に促してもよい。差圧信号を測定している圧力センサーが故障したならば、心臓ポンプシステムは、位置アラームをトリガーするため、(上述のシステムおよび方法によって決定される)推定差圧信号に頼ってもよい。位置アラームをトリガーするうえでの推定差圧信号の信頼性を決定するため、測定差圧信号値によってトリガーされた実際のアラームの事例を、同じ事例についてアラームをトリガーする推定差圧信号と比較した。より高い信頼性でアラームをトリガーするため、差圧信号の許容誤差がアラーム計算に組み込まれてもよい。この場合、閾値よりわずかに高いかまたはわずかに低い時に偽陽性または偽陰性のアラームにつながる事例に対処するため、この許容差が試験環境に組み込まれる。表1に示すように、20例の事例に関する推定差圧信号の位置アラームの総合的な精度は97.9%で、一方、位置アラームのリコールは100.0%であった。
【0075】
いくつかの局面において、ある期間について差圧信号が閾値より大きい場合にサクションアラームがトリガーされてもよい。サクションアラームは、心臓ポンプシステムがある一定のPレベルにおいて作動している場合にのみトリガーされてもよい。例えば、Pレベル P5~P9のうち1つにおける作動時に、3秒間ウィンドウの10%について差圧信号が閾値より大きい場合にサクションアラームがトリガーされてもよい。より高い信頼性でアラームをトリガーするため、サクションの許容誤差がアラーム計算に組み込まれてもよい。この場合、閾値よりわずかに高いかまたはわずかに低い時に偽陽性または偽陰性のアラームにつながる事例に対処するため、この許容差が試験環境に組み込まれる。表1に示すように、30例の事例に関する推定差圧信号のサクションアラームの総合的な精度は80.6%で、一方、位置アラームのリコールは93.2%であった。
【0076】
【0077】
以上は本開示の原理を例示したものにすぎず、本発明の装置は、限定ではなく例示の目的で提示される本説明の諸局面以外でも実施されうる。理解されるべき点として、本明細書に開示する装置は、心臓ポンプの経皮的挿入における使用について示されているが、止血を必要とする他の用途における装置に適用されてもよい。
【0078】
当業者には、本開示の検討後にバリエーションおよび修正が考えられるであろう。本開示の諸特徴は、本明細書に説明する1つまたは複数の他の特徴との、任意の組み合わせおよび下位組み合わせ(複数の従属的な組み合わせおよび下位組み合わせを含む)において実施されてもよい。以上に説明または例証したさまざまな特徴は、そのコンポーネントも含めて、他のシステムに組み合わせまたは統合されてもよい。さらに、ある一定の特徴が省略されるかまたは実施されなくてもよい。
【0079】
本説明のシステムおよび方法は、心臓ポンプシステム上、またはAICなど心臓ポンプシステムのコントローラ上で、局所的に実施されてもよい。心臓ポンプシステムはデータ処理装置を具備してもよい。本明細書に説明するシステムおよび方法は、別個のデータ処理装置上で遠隔的に実施されてもよい。別個のデータ処理装置は、直接的に接続されてもよく、またはクラウドアプリケーションを通じて心臓ポンプシステムに間接的に接続されてもよい。心臓ポンプシステムは、その別個のデータ処理装置とリアルタイム(またはほぼリアルタイム)で通信してもよい。
【0080】
概して、本明細書に説明する対象事項および機能的作動の諸局面は、デジタル電子回路において、または、本明細書に開示する諸構造およびそれらの構造的同等物を含む、コンピュータソフトウェア、ファームウェア、もしくはハードウェアにおいて実施されてもよく、または、それらのうち1つもしくは複数の組み合わせにおいて実施されてもよい。本明細書に説明する対象事項の諸局面は、1つまたは複数のコンピュータプログラム製品として、すなわち、データ処理装置によって実行されるため、またはデータ処理装置の演算を制御するために、コンピュータ可読媒体上にエンコードされたコンピュータプログラム命令の、1つまたは複数のモジュールとして、実施されてもよい。コンピュータ可読媒体は、機械可読な記憶デバイス、機械可読な記憶担体、メモリデバイス、機械可読な伝搬信号に影響を及ぼす物質組成物、または、それらのうち1つもしくは複数の組み合わせであってもよい。「データ処理装置(data processing apparatus)」という用語は、データを処理するためのすべての装置、デバイス、および機械を包含し、それには例としてプログラム可能なプロセッサ、コンピュータ、または複数のプロセッサもしくはコンピュータが含まれる。装置には、ハードウェアに加えて、対象のコンピュータプログラムのための実行環境を作り出すコードも含まれてもよく、その例として、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、またはそれらのうち1つもしくは複数の組み合わせ、を構成するコードなどがある。伝搬信号は、好適な受信装置への送信用に情報をエンコードするために生成される、例えば機械生成された電気信号、光信号、または電磁信号などの、人工的に生成された信号である。
【0081】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとしても公知である)は、コンパイルまたは翻訳される言語を含めて任意の形態のプログラミング言語で書かれてもよく、かつ、スタンドアロンプログラムとしての形態、または、モジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくは計算環境での使用に好適な他のユニットとしての形態を含めて、任意の形態で展開されてもよい。コンピュータプログラムはファイルシステム中のファイルに対応してもよい。プログラムは、他のプログラムもしくはデータを保持するファイルの一部分(例えば、マークアップ言語ドキュメント内に保存された1つもしくは複数のスクリプト)、対象のプログラム専用の単一ファイル、または、連携した複数のファイル(例えば、1つもしくは複数のモジュール、サブプログラム、もしくはコードの一部分を保存するファイル)内に保存されてもよい。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上か、または、1箇所に位置するかもしくは複数箇所にまたがって分配されそして通信網によって相互接続された複数のコンピュータ上で、実行されるために展開されてもよい。
【0082】
本明細書に説明するプロセスおよび論理フローは、入力データに対する演算と出力の生成とによって機能を行うため、1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する、1つまたは複数のプログラム可能プロセッサによって行われてもよい。プロセスおよび論理フローはまた、例えばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)などの専用論理回路によって行われてもよく、かつ、装置もまた専用論理回路として実施されてもよい。
【0083】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサには、例として、汎用および専用のマイクロプロセッサ、ならびに、任意の種類のデジタルコンピュータの1つまたは複数の任意のプロセッサが含まれる。一般に、プロセッサは、読出し専用メモリもしくはランダムアクセスメモリ、またはその両方から、命令およびデータを受け取る。コンピュータの必須要素は、命令を行うためのプロセッサ、ならびに、命令およびデータを保存するための1つまたは複数のメモリデバイスである。一般に、コンピュータはまた、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、または光ディスクなど、データを保存するための1つまたは複数の大容量記憶デバイスを含む;または、それからデータを受け取るか、それにデータを転送するか、もしくはその両方を行うため、そのような大容量記憶デバイスに作動的に連結される。しかし、コンピュータがそうしたデバイスを有していなくてもよい。
【0084】
変更、置換、および改変の例は当業者によって確認可能であり、かつ、本明細書に開示する情報の範囲から逸脱することなく行われうる。本明細書に挙げるすべての参照物は、その全内容が参照により組み入れられ、かつ本出願の一部をなす。