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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20231129BHJP
   H02K 1/2706 20220101ALI20231129BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K1/2706
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020561096
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000849
(87)【国際公開番号】W WO2020145410
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2020-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019003620
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】依田 悠
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】山崎 孔徳
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-171785(JP,A)
【文献】特開2017-163734(JP,A)
【文献】特開2005-94845(JP,A)
【文献】特開2015-220974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03 H02K 1/2706
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、前記磁石挿入孔内に配置される永久磁石と前記磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータの製造方法であって、
前記永久磁石と前記樹脂とを一体化し、前記磁石挿入孔内に圧入可能な樹脂付永久磁石を製造する第1工程と、
前記樹脂付永久磁石及び前記ロータコアが常温の状態で前記樹脂付永久磁石を前記磁石挿入孔内に圧入し、当該圧入により前記磁石挿入孔を拡大する第2工程と、
前記第2工程後の前記ロータコアを前記樹脂が軟化する温度以上に加熱し、前記圧入によって拡大した前記磁石挿入孔が縮小する第3工程と、
前記第3工程後の前記ロータコアを冷却する第4工程と、
を有するロータの製造方法。
【請求項2】
積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、前記磁石挿入孔内に配置される永久磁石と前記磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータの製造方法であって、
常温時の前記磁石挿入孔よりもロータ径方向に小さい前記永久磁石と前記樹脂とを一体化し、前記磁石挿入孔よりロータ径方向に大きい樹脂付永久磁石を製造する第1工程と、
前記樹脂付永久磁石を非接触で挿入可能な大きさに前記磁石挿入孔が拡大する温度以上で且つ前記樹脂が軟化する温度以上に前記ロータコアを加熱する第2工程と、
前記第2工程による加熱状態の前記ロータコアの前記磁石挿入孔内に前記樹脂付永久磁石を挿入する第3工程と、
前記第3工程後の前記ロータコアを冷却することにより、軟化した前記樹脂が前記磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形する第4工程と、
を有するロータの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記永久磁石におけるロータ外径側の面とロータ内径側の面のうちロータ外径側の面のみに前記樹脂を付着させる請求項1又は請求項2に記載のロータの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、前記磁石挿入孔におけるロータ周方向の両端部との間に隙間が形成される大きさに前記樹脂付永久磁石を製造する請求項1~請求項3の何れか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、複数の前記永久磁石と前記樹脂とを一体化する請求項1~請求項4の何れか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項6】
前記第1工程では、前記永久磁石と前記樹脂とを一体化する前に、前記永久磁石又は樹脂でコーティングした前記永久磁石に対して表面を荒らす処理を施す請求項1~請求項5の何れか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂であり、
前記第3工程では、前記熱硬化性樹脂がガラス転移点温度より高温となるように加熱する請求項1に記載のロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6383745号公報には、積層された複数の鋼板によって構成されるとともに、円周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有するロータコアと、磁石挿入孔に配置される永久磁石と、永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間に位置する樹脂部と、を備えた回転電機のロータの製造方法が記載されている。この製造方法は、永久磁石の周囲を樹脂部が包むように永久磁石と樹脂部とを一体化し、磁石挿入孔よりも僅かに小さい形状の樹脂付永久磁石体を形成する一体化工程と、樹脂付永久磁石体を磁石挿入孔に配置する配置工程と、配置工程の後に樹脂付永久磁石体と磁石挿入孔の内壁面とを密着させる密着工程と、を備えている。また、上記の密着工程の前に、樹脂付永久磁石体を加熱する加熱工程を備えてもよいとされている。
【0003】
上記の一体化工程では、永久磁石の少なくとも一方側の軸方向端面を覆う余肉部を有する樹脂付永久磁石体を形成し、上記の密着工程では、上記の余肉部を軸方向に押圧することで樹脂付永久磁石体と磁石挿入孔の内壁面とを密着させる。これにより、鋼板が積層される際に各鋼板間に生じた段差による空間にも、樹脂を充填するようにしている。
【0004】
特開2015-89169号公報には、永久磁石に樹脂材料からなる皮膜層が設けられたコーティング磁石をロータコアに形成された挿入孔に挿入することにより、永久磁石がロータコアに埋め込まれる態様で固定されるロータの製造方法が記載されている。この製造方法では、永久磁石として、挿入孔の内周面に接触することなく該挿入孔に挿入可能な形状のものを用いるとともに、コーティング磁石として、挿入孔に圧入可能な形状のものを用い、ロータコアを樹脂材料が溶融する溶融温度以上に加熱した状態で、コーティング磁石を挿入孔に挿入(軽圧入)する。これにより、挿入孔の内周面の微小な凹凸に樹脂を密着させるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許第6383745号公報に記載された製造方法では、密着工程において樹脂部の余肉部を押圧する際に、余肉部の樹脂がロータコアの軸方向端面の面方向に広がることで、磁石挿入孔への樹脂充填が不十分になる虞がある。また、ロータコアの軸方向端面に樹脂部の余肉部を押圧するため、樹脂部自体の変形量が大きくなる。このため、加熱工程において樹脂部を軟化させたとしても、樹脂部の変形抵抗が大きいことから、各鋼板間に生じた段差による空間に樹脂が十分に充填されない虞がある。以上のことから、磁石挿入孔の内壁面と永久磁石との間に樹脂の充填が不十分な箇所が存在することになると、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が、磁石挿入孔の内壁面のうち樹脂が充填されている箇所に集中し、その箇所が早期に破損する虞がある。
【0006】
特開2015-89169号公報に記載された製造方法では、加熱したロータコアの挿入孔にコーティング磁石を軽圧入する際に、コーティング磁石の樹脂部がロータコアの輻射熱で軟化することにより、最悪の場合、挿入孔入口のエッジ部との接触によって樹脂の一部が削り取られてしまう虞がある。その場合、挿入孔の内壁面と永久磁石との間に樹脂の充填が不十分な箇所が存在することになると、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が、挿入孔の内壁面のうち樹脂が充填されている箇所に集中し、その箇所が早期に破損する虞がある。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が磁石挿入孔の内壁面の一部に集中することによるロータコアの早期破損を防止することができるロータの製造方法及びロータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様のロータの製造方法は、積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、前記磁石挿入孔内に配置される永久磁石と前記磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータの製造方法であって、前記永久磁石と前記樹脂とを一体化し、前記磁石挿入孔内に圧入可能な樹脂付永久磁石を製造する第1工程と、前記樹脂付永久磁石を前記磁石挿入孔内に圧入する第2工程と、前記第2工程後の前記ロータコアを前記樹脂が軟化する温度以上に加熱する第3工程と、前記第3工程後の前記ロータコアを冷却する第4工程と、を有している。
【0009】
第1の態様のロータの製造方法では、積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、当該磁石挿入孔内に配置される永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータが製造される。この製造方法によれば、第1工程では、永久磁石と樹脂とが一体化され、ロータコアの磁石挿入孔内に圧入可能な樹脂付永久磁石が製造される。次いで第2工程では、上記の樹脂付永久磁石が、ロータコアの磁石挿入孔内に圧入される。次いで第3工程では、第2工程後のロータコアが、上記の樹脂が軟化する温度以上に加熱される。これにより、軟化した樹脂が磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形し、内壁面の凹凸に密着する。次いで第4工程では、第3工程で加熱されたロータコアが冷却され、上記の密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔が常温時の大きさに戻される。
【0010】
この製造方法では、ロータコアが加熱される前に、ロータコアの磁石挿入孔内に樹脂付永久磁石が圧入されるので、当該圧入時に、樹脂挿入孔入口のエッジ部と接触する側の樹脂の一部が削り取られることを抑制できる。しかも、従来のように樹脂部をロータコアの軸方向に押圧して磁石挿入孔内に充填するのではなく、軟化した樹脂が磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形するので、樹脂の変形抵抗が小さい。これらのことから、磁石挿入孔の内壁面の凹凸に樹脂を良好に密着させる(充填する)ことができる。その結果、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が、磁石挿入孔の内壁面に均一に加わるようになるので、上記の遠心力が磁石挿入孔の内壁面の一部に集中することによるロータコアの早期破損を防止することができる。
【0011】
本発明の第2の態様のロータの製造方法は、積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、前記磁石挿入孔内に配置される永久磁石と前記磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータの製造方法であって、前記永久磁石と前記樹脂とを一体化し、前記磁石挿入孔よりロータ径方向に大きい樹脂付永久磁石を製造する第1工程と、前記樹脂付永久磁石を非接触で挿入可能な大きさに前記磁石挿入孔が拡大する温度以上で且つ前記樹脂が軟化する温度以上に前記ロータコアを加熱する第2工程と、前記第2工程による加熱状態の前記ロータコアの前記磁石挿入孔内に前記樹脂付永久磁石を挿入する第3工程と、前記第3工程後の前記ロータコアを冷却する第4工程と、を有している。
【0012】
第2の態様のロータの製造方法では、積層鋼板によって構成されるロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有し、当該磁石挿入孔内に配置される永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されるロータが製造される。この製造方法によれば、第1工程では、永久磁石と樹脂とが一体化され、ロータコアの磁石挿入孔よりロータ径方向に大きい樹脂付永久磁石が製造される。次いで第2工程では、樹脂付永久磁石を非接触で挿入可能な大きさに磁石挿入孔が拡大する温度以上で且つ前記樹脂が軟化する温度以上にロータコアが加熱される。次いで第3工程では、第2工程による加熱状態のロータコアの磁石挿入孔内に樹脂付永久磁石が挿入される。これにより、樹脂付永久磁石の樹脂が、ロータコアの輻射熱によって軟化する。次いで第4工程では、第3工程後のロータコアが冷却される。これにより、上記の加熱により拡大していた磁石挿入孔が縮小することで、軟化した樹脂が磁石挿入孔の内壁面に対してロータの径方向に押し当てられて変形し、内壁面の凹凸に密着する。そして、この密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔が常温時の大きさに戻される。
【0013】
この製造方法では、上記の加熱により拡大した磁石挿入孔内に樹脂付永久磁石が挿入されるので、樹脂挿入孔入口のエッジ部との接触によって樹脂の一部が削り取られることを防止できる。しかも、従来のように樹脂部をロータコアの軸方向に押圧して磁石挿入孔内に充填するのではなく、軟化した樹脂が磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形するので、樹脂の変形抵抗が小さい。これらのことから、磁石挿入孔の内壁面の凹凸に樹脂を良好に密着させる(充填する)ことができる。その結果、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が、磁石挿入孔の内壁面に均一に加わるようになるので、上記の遠心力が磁石挿入孔の内壁面の一部に集中することによるロータコアの早期破損を防止することができる。
【0014】
本発明の第3の態様のロータの製造方法は、第1又は第2の態様のロータの製造方法において、前記第1工程では、前記永久磁石におけるロータ外径側の面とロータ内径側の面のうちロータ外径側の面のみに前記樹脂を付着させる。
【0015】
第3の態様のロータの製造方法では、第1工程において、永久磁石におけるロータ外径側の面とロータ内径側の面のうちロータ外径側の面のみに樹脂が付着され、樹脂付永久磁石が製造される。この樹脂付永久磁石がロータコアの磁石挿入孔内に配置されると、永久磁石のロータ内径側には樹脂が存在せず、永久磁石のロータ外径側には樹脂が存在する構成となる。永久磁石のロータ外径側では、ロータ回転時に磁石挿入孔の内壁面に加わる永久磁石の遠心力が高くなるが、上記の樹脂が磁石挿入孔の内壁面の凹凸に良好に密着することで、上記の遠心力が磁石挿入孔の内壁面に均一に加わるようになる。しかも、永久磁石のロータ内径側にも樹脂が存在する構成と比較して、樹脂の量を少なくすることができるので、ロータの軽量化や製造コストの低減に寄与する。
【0016】
本発明の第4の態様のロータの製造方法は、第1~第3の態様の何れか1つの態様のロータの製造方法において、前記第1工程では、前記磁石挿入孔におけるロータ周方向の両端部との間に隙間が形成される大きさに前記樹脂付永久磁石を製造する。
【0017】
第4の態様のロータの製造方法では、第1工程において製造される樹脂付永久磁石は、磁石挿入孔内に配置させた状態で磁石挿入孔におけるロータ周方向の両端部との間に隙間が形成される大きさとされる。このため、例えば第2工程において、樹脂付永久磁石の端部をクランプの先端部で把持して磁石挿入孔に圧入又は挿入する場合に、クランプの先端部を上記の隙間に挿入することが可能となるので、樹脂付永久磁石の端部を把持するクランプの構成を簡素化できる。
【0018】
本発明の第5の態様のロータの製造方法は、第1~第4の態様の何れか1つの態様のロータの製造方法において、前記第1工程では、複数の前記永久磁石と前記樹脂とを一体化する。
【0019】
第5の態様のロータの製造方法では、第1工程において、複数の永久磁石と樹脂とが一体化されて樹脂付永久磁石が製造される。この樹脂付永久磁石がロータコアの磁石挿入孔内に配置されるロータでは、磁石挿入孔内に複数の永久磁石が配置されるため、渦電流の発生を抑制することができる。しかも、上記のように複数の永久磁石と樹脂とが一体化されるので、複数の永久磁石を別々に磁石挿入孔内に配置させる場合と比較して、工数を削減することができる。
【0020】
本発明の第6の態様のロータの製造方法は、第1~第5の態様の何れか1つの態様のロータの製造方法において、前記第1工程では、前記永久磁石と前記樹脂とを一体化する前に、前記永久磁石又は樹脂でコーティングした前記永久磁石に対して表面を荒らす処理を施す。
【0021】
第6の態様のロータの製造方法では、第1工程において、永久磁石と樹脂とを一体化する前に、永久磁石又は樹脂でコーティングした永久磁石に対して表面を荒らす処理を施す。これにより、永久磁石と樹脂とを一体化する際に、両者の密着性を向上させることができる。
【0022】
本発明の第7の態様のロータは、積層鋼板によって構成され、軸方向に延びる磁石挿入孔を有するロータコアと、前記磁石挿入孔内に配置された永久磁石と、前記永久磁石と一体化され、前記永久磁石と前記磁石挿入孔の内壁面との間に介在された樹脂と、を備え、前記樹脂が前記内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したことにより前記内壁面の凹凸に密着している。
【0023】
第7の態様のロータでは、積層鋼板によって構成されたロータコアが軸方向に延びる磁石挿入孔を有しており、当該磁石挿入孔内に配置された永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間に樹脂が介在されている。この樹脂は、磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したものであり、磁石挿入孔の内壁面の凹凸に良好に密着している。これにより、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が、磁石挿入孔の内壁面に均一に加わるようになるので、上記の遠心力が磁石挿入孔の内壁面の一部に集中することによるロータコアの早期破損を防止することができる。
【0024】
本発明の第8の態様のロータは、第7の態様のロータにおいて、前記ロータコアにおける前記磁石挿入孔の周辺部の残留応力が10MPa以下に設定されている。
【0025】
第8の態様のロータでは、ロータコアの磁石挿入孔内に配置された永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間に介在された樹脂は、磁石挿入孔の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したものであるため、従来のように樹脂部がロータコアの軸方向に押圧されて磁石挿入孔内に充填された構成と比較して、樹脂の変形量が小さい。これにより、ロータコアにおける磁石挿入孔の周辺部の残留応力が10MPa以下に設定されているので、経時変化による上記周辺部の変形を抑制することができ、当該変形に伴うロータコアの早期破損を防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明に係るロータの製造方法及びロータでは、ロータ回転時に永久磁石に作用する遠心力が磁石挿入孔の内壁面の一部に集中することによるロータコアの早期破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係るロータを示す平面図である。
図2図1のF2-F2線に沿った切断面を示す断面図である。
図3A】樹脂付永久磁石を示す正面図である。
図3B】樹脂付永久磁石を示す側面図である。
図3C】樹脂付永久磁石を示す平面図である。
図4A】第1の製造方法において樹脂付永久磁石が磁石挿入孔内に圧入される前の状態を示す平面図である。
図4B】樹脂付永久磁石が磁石挿入孔内に圧入された状態を示す平面図である。
図4C】樹脂付永久磁石が磁石挿入孔内に圧入されたロータコアが、樹脂付永久磁石の樹脂が軟化する温度以上に加熱された状態を示す平面図である。
図5A】第2の製造方法において樹脂付永久磁石が磁石挿入孔内に圧入される前の状態を示す平面図である。
図5B】樹脂付永久磁石を非接触で挿入可能な大きさに磁石挿入孔が拡大する温度以上で且つ樹脂付永久磁石の樹脂が軟化する温度以上にロータコアが加熱され、当該ロータコアの磁石挿入孔内に樹脂付永久磁石が挿入された状態を示す平面図である。
図5C】樹脂付永久磁石が磁石挿入孔内に挿入されたロータコアが冷却された状態を示す平面図である。
図6A】樹脂付永久磁石の第1変形例を示す正面図である。
図6B】同第1変形例を示す側面図である。
図6C】同第1変形例を示す平面図である。
図7A】樹脂付永久磁石の第2変形例を示す正面図である。
図7B】同第2変形例を示す側面図である。
図7C】同第2変形例を示す平面図である。
図8A】樹脂付永久磁石の第3変形例を示す正面図である。
図8B】同第3変形例を示す側面図である。
図8C】同第3変形例を示す平面図である。
図9A】樹脂付永久磁石の第4変形例を示す正面図である。
図9B】同第4変形例を示す側面図である。
図9C】同第4変形例を示す平面図である。
図10A】第1工程の変形例においてブラスト加工が施される前の永久磁石を示す斜視図である。
図10B】第1工程の変形例においてブラスト加工が施された永久磁石を示す斜視図である。
図10C】第1工程の変形例において製造された樹脂付永久磁石を示す斜視図である。
図11】第1工程の変形例において樹脂でコーティングされ且つブラスト加工が施された永久磁石を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1図9Cを用いて、本発明の実施形態に係るロータの製造方法及びロータ10について説明する。本発明の実施形態に係るロータ10は、本発明の実施形態に係るロータの製造方法によって製造されたものである。先ず、ロータ10の構成について説明する。
【0029】
本実施形態に係るロータ10は、インナロータ型の回転電機の回転子であり、図1及び図2に示されるように、上記の回転電機の回転軸12に同軸的かつ一体的に固定されるロータコア14と、ロータコア14内に埋め込まれた樹脂付永久磁石22とによって構成されている。ロータコア14は、複数枚の電磁鋼板16が積層された積層鋼板によって構成されており、円柱状に形成されている。ロータコア14の中央部には、ロータコア14を軸方向に貫通した嵌合孔18が形成されている。この嵌合孔18に回転軸12が圧入され、ロータコア14が回転軸12に固定される構成になっている。
【0030】
また、ロータコア14の外周部には、ロータコア14を軸方向に貫通した複数(ここでは4つ)の磁石挿入孔20が形成されている。これらの磁石挿入孔20は、ロータコア14の周方向に等間隔で並んでおり、ロータ周方向(詳細にはロータ軸方向から見てロータ径方向と直交する方向)を長手とする略長方形状をなしている。上記のように、ロータコア14は複数の電磁鋼板16の積層体であるため、積層時のズレ等によって各磁石挿入孔20の内壁面には微小な凹凸(段差)が発生している(図2参照)。これらの磁石挿入孔20内には、それぞれ樹脂付永久磁石22が配置されている。
【0031】
図1図3Cに示されるように、樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20内に配置された永久磁石24と、永久磁石24と一体化され、永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間に介在された熱可塑性の樹脂(樹脂部)26とによって構成されており、ロータ軸方向を長手とし、ロータ径方向を板厚方向とする長方形板状に形成されている。永久磁石24は、焼結磁石等からなるセグメント磁石であり、ロータ軸方向を長手とし、ロータ径方向を板厚方向とする長方形板状に形成されている。この永久磁石24は、ロータ軸方向から見た断面形状が、磁石挿入孔20の長手方向を長手とする長方形状とされている。この永久磁石24は、ロータ軸方向から見て磁石挿入孔20よりも一回り小さく形成されており、磁石挿入孔20内に非接触で挿入可能とされている。
【0032】
また、上記の樹脂26は、例えばインサート成形によって永久磁石24と一体化されたものであり、永久磁石24の周囲を包むように永久磁石24に付着されている。但し、本実施形態では、永久磁石24の一部が露出するように樹脂26が形成されている。具体的には、図3A図3Cに示されるように、永久磁石24における短手方向両端面24Aとロータ外径側の面24Bとには樹脂26が付着されており、永久磁石24における長手方向両端面24Cとロータ内径側の面24Dとには樹脂26が付着されていない構成になっている。なお、永久磁石24と樹脂26とが接着等の手段で一体化される構成にしてもよい。
【0033】
上記構成の樹脂付永久磁石22は、常温の状態において、磁石挿入孔20内に圧入可能な大きさに製造される。具体的には、磁石挿入孔20内に配置される前の樹脂付永久磁石22の厚さ寸法T(図4A参照)は、ロータ軸方向視での磁石挿入孔20の短手方向の寸法tよりも若干大きく設定される。また、樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20内に配置された状態で、磁石挿入孔20におけるロータ周方向の両端部(ロータ軸方向視での長手方向両端部)との間にそれぞれ隙間28が形成される大きさに形成される。つまり、図4Aに示されるように、樹脂付永久磁石22の幅寸法w(ロータ軸方向視での長手寸法)は、磁石挿入孔20の幅寸法Wよりも小さく設定される。
【0034】
この樹脂付永久磁石22では、樹脂26のうち永久磁石24のロータ外径側に位置する部位が、磁石挿入孔20の内壁面のうちロータ外径側に位置する部位に密着している(図2参照)。具体的には、上記の樹脂26が加熱されて軟化した状態で磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したことにより、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に樹脂26が密着している。この「密着」について補足すると、本実施形態では、樹脂26と磁石挿入孔20の内壁面との接触率が例えば70%以上とされている。
【0035】
また、上記構成のロータ10では、ロータコア14における磁石挿入孔20の周辺部(孔縁部)の残留応力が比較的小さく(本実施形態では10MPa以下)に設定されている。これは、上記のように、樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着される場合、樹脂26がロータコア14の軸方向に押圧されて磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着される場合と比較して、樹脂26の変形抵抗が小さいことによるものである。
【0036】
なお、本実施形態では、樹脂付永久磁石22の樹脂26が熱可塑性とされているが、これに限らず、樹脂付永久磁石の樹脂は、熱硬化性であってもよい。熱硬化性の樹脂は、熱硬化後(例えば永久磁石24とのインサート成形後)であっても、ガラス転移点温度より高温に加熱すれば軟化するため、当該軟化により磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着させることができる。また、上記の加熱後に温度を下げれば、上記の密着状態を維持したままで、熱硬化性樹脂を硬化させることもできる。
【0037】
次に、上記構成のロータ10の製造方法について説明する。本実施形態では、ロータ10の製造方法として、第1及び第2の製造方法がある。第1及び第2の製造方法では、第1工程~第4工程を経てロータ10が製造されるが、少なくとも第2工程よりも前に、電磁鋼板16を積層してロータコア14を製造する工程が設けられる。先ず、図4A図4Cを用いて第1の製造方法について説明し、その後に第2の製造方法について説明する。
【0038】
(第1の製造方法)
第1の製造方法の第1工程では、永久磁石24と樹脂26とをインサート成形によって一体化し、ロータコア14の磁石挿入孔20内に圧入可能な樹脂付永久磁石22を製造する(図4A参照)。なお、本実施形態では、この第1工程において、永久磁石24におけるロータ外径側の面24Bとロータ内径側の面24Dのうち、ロータ外径側の面24Bのみに樹脂26を付着させる。また、この第1工程では、磁石挿入孔20におけるロータ周方向の両端部との間に隙間28が形成される大きさに樹脂付永久磁石22を製造する。
【0039】
次いで第2工程では、例えばロータコア14を図示しないパレット上に配置した状態で、樹脂付永久磁石22をロータコア14の磁石挿入孔20内に圧入する(図4B参照)。この圧入は、例えば樹脂付永久磁石22を先端部で把持可能なクランプを備えた供給ユニット(図示省略)によって行う。また、この圧入は、ロータコア14及び樹脂付永久磁石22の温度が常温の状態で行う。この圧入により、磁石挿入孔20が拡大する。
【0040】
次いで第3工程では、第2工程後のロータコア14を樹脂26が軟化する温度以上に加熱する(図4C参照)。この加熱は、例えば上記のパレットに設けられたヒータ等の加熱装置によって行う。この加熱により、樹脂26が軟化すると、上記の圧入によって拡大した磁石挿入孔20が縮小する。この縮小の際には、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形し、磁石挿入孔20の内壁面(外径側)の凹凸に密着する。なお、この加熱は、樹脂26が溶融して流動しない程度の温度に調整する必要がある。
【0041】
次いで第4工程では、例えば上記のパレットに設けられた流路に冷却水を流すことにより、第3工程後のロータコア14を温度制御しながら徐々に冷却する。これにより、上記の密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔20が常温時の大きさに戻される。これにより、ロータ10が完成する。なお、第4工程での冷却は、上記のような水冷に限らず、ファン等を用いた空冷でもよい。また、一定時間の自然冷却後に強制冷却を行うようにしてもよい。
【0042】
(第2の製造方法)
第2の製造方法の第1工程では、第1の製造方法の第1工程と同様に、永久磁石24と樹脂26とをインサート成形によって一体化し、常温時にロータコア14の磁石挿入孔20よりロータ径方向に大きい樹脂付永久磁石22を製造する(図5A参照)。
【0043】
次いで第2工程では、例えばロータコア14を図示しないパレット上に配置し、当該パレットに設けられたヒータ等の加熱装置によってロータコア14を加熱する。この場合、樹脂付永久磁石22を非接触で挿入可能な大きさに磁石挿入孔20が拡大する温度以上で且つ樹脂26が軟化する温度以上にロータコア14を加熱する。この加熱は、樹脂26が溶融して流動しない程度の温度に調整する必要がある。
【0044】
次いで第3工程では、第2工程による加熱状態のロータコア14の磁石挿入孔20内に樹脂付永久磁石22を挿入する(図5B参照)。この挿入は、例えば樹脂付永久磁石22を先端部で把持可能なクランプを備えた供給ユニット(図示省略)によって行う。また、この挿入は、上記の加熱により拡大した磁石挿入孔20の内壁面に、樹脂付永久磁石22が接触しないように行う。磁石挿入孔20内に樹脂付永久磁石22が挿入されると、ロータコア14の輻射熱によって樹脂26が軟化する。
【0045】
次いで第4工程では、例えば上記のパレットに設けられた流路に冷却水を流すことにより、第3工程後のロータコア14を温度制御しながら徐々に冷却する。これにより、上記のように拡大した磁石挿入孔20が縮小し始める。この縮小の際には、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形し、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着する。そして、この密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔20が常温時の大きさに戻される(図5C参照)。これにより、ロータ10が完成する。なお、第4工程での冷却は、上記のような水冷に限らず、ファン等を用いた空冷でもよい。また、一定時間の自然冷却後に強制冷却を行うようにしてもよい。
【0046】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
本実施形態では、ロータ10の製造方法として、第1及び第2の製造方法がある。第1の製造方法によれば、第1工程では、永久磁石24と樹脂26とが一体化され、ロータコア14の磁石挿入孔20内に圧入可能な樹脂付永久磁石22が製造される。次いで第2工程では、樹脂付永久磁石22が、ロータコア14の磁石挿入孔20内に圧入される。次いで第3工程では、第2工程後のロータコア14が、上記の樹脂26が軟化する温度以上に加熱される。これにより、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形し、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着する。次いで第4工程では、第3工程で加熱されたロータコア14が冷却され、上記の密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔20が常温時の大きさに戻される。
【0048】
この第1の製造方法では、ロータコア14が加熱される前に、ロータコア14の磁石挿入孔20内に樹脂付永久磁石22が圧入されるので、当該圧入時に、磁石挿入孔20の入口のエッジ部と接触する側の樹脂26の一部が削り取られることを抑制できる。しかも、従来のように樹脂部をロータコアの軸方向に押圧して磁石挿入孔内に充填するのではなく、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形するので、樹脂26の変形抵抗が小さい。これらのことから、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に樹脂26を良好に密着させる(充填する)ことができる。その結果、ロータ10の回転時に永久磁石24に作用する遠心力が、磁石挿入孔20の内壁面に均一に加わるようになるので、上記の遠心力が磁石挿入孔20の内壁面の一部に集中することによるロータコア14の早期破損を防止することができる。
【0049】
また、第2の製造方法によれば、第1工程では、永久磁石24と樹脂26とが一体化され、ロータコア14の磁石挿入孔20よりロータ径方向に大きい樹脂付永久磁石22が製造される。次いで第2工程では、樹脂付永久磁石22を非接触で挿入可能な大きさに磁石挿入孔20が拡大する温度以上で且つ樹脂26が軟化する温度以上にロータコア14が加熱される。次いで第3工程では、第2工程による加熱状態のロータコア14の磁石挿入孔20内に樹脂付永久磁石22が挿入される。これにより、樹脂付永久磁石22の樹脂26が、ロータコア14の輻射熱によって軟化する。次いで第4工程では、第3工程後のロータコア14が冷却される。これにより、上記の加熱により拡大していた磁石挿入孔20が縮小することで、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータの径方向に押し当てられて変形し、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着する。そして、この密着状態が維持されたままで、磁石挿入孔20が常温時の大きさに戻される。
【0050】
この第2の製造方法では、上記の加熱により拡大した磁石挿入孔20内に樹脂付永久磁石22が挿入されるので、磁石挿入孔20の入口のエッジ部との接触によって樹脂26の一部が削り取られることを防止できる。しかも、従来のように樹脂部をロータコアの軸方向に押圧して磁石挿入孔内に充填するのではなく、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられ変形するので、樹脂26の変形抵抗が小さい。これらのことから、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に樹脂26を良好に密着させる(充填する)ことができる。その結果、ロータ10の回転時に永久磁石24に作用する遠心力が、磁石挿入孔20の内壁面に均一に加わるようになるので、上記の遠心力が磁石挿入孔20の内壁面の一部に集中することによるロータコア14の早期破損を防止することができる。
【0051】
また、上記の第1及び第2の製造方法では、第1工程において、永久磁石24におけるロータ外径側の面24Bとロータ内径側の面24Dのうち、ロータ外径側の面24Bのみに樹脂26が付着され、樹脂付永久磁石22が製造される。この樹脂付永久磁石22がロータコア14の磁石挿入孔20内に配置されると、永久磁石24のロータ内径側には樹脂26が存在せず、永久磁石24のロータ外径側には樹脂26が存在する構成となる。永久磁石24のロータ外径側では、ロータ10の回転時に磁石挿入孔20の内壁面に加わる永久磁石24の遠心力が高くなるが、上記の樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に良好に密着することで、上記の遠心力が磁石挿入孔20の内壁面に均一に加わるようになる。しかも、永久磁石24のロータ内径側にも樹脂26が存在する構成と比較して、樹脂26の量を少なくすることができるので、ロータ10の軽量化や製造コストの低減に寄与する。
【0052】
さらに、上記の第1工程において製造される樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20内に配置された状態で磁石挿入孔20におけるロータ周方向の両端部との間に隙間28が形成される大きさとされる。このため、第2工程において、樹脂付永久磁石22の端部をクランプの先端部で把持して磁石挿入孔20に圧入又は挿入する場合に、クランプの先端部を上記の隙間28に挿入することが可能となる。これにより、樹脂付永久磁石22の端部を把持するクランプの構成を簡素化できる。
【0053】
また、本実施形態に係るロータ10では、永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間に介在された樹脂26は、磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したものであるため、従来のように樹脂部がロータコアの軸方向に押圧されて磁石挿入孔内に充填された構成と比較して、樹脂26の変形量が小さい。これにより、ロータコア14における磁石挿入孔20の周辺部の残留応力が10MPa以下に設定されているので、経時変化による上記周辺部の変形を抑制することができ、当該変形に伴うロータコア14の早期破損を防止することができる。
【0054】
(樹脂付永久磁石の各種変形例)
次に、図6A図9Cを用いて、上記実施形態に係る樹脂付永久磁石22の各種変形例について説明する。図6A図9Cに示される変形例は、前述した第1工程で製造されるものである。なお、図6A図9Cでは、上記実施形態に係る樹脂付永久磁石22と同様の構成については、上記実施形態と同符号を付与している。
【0055】
(第1変形例)
図6A図6Cに示される第1変形例のように、永久磁石24におけるロータ外径側の面24Bとロータ内径側の面24Dとの両方に樹脂26が付着された構成にしてもよい。また、図示は省略するが、永久磁石24の長手方向両端部にも樹脂26が付着された構成(永久磁石24が樹脂26内に完全に埋め込まれた構成)にしてもよい。
【0056】
(第2変形例)
図7A図7Cに示される第2変形例では、樹脂付永久磁石22の幅方向に分割された複数(ここでは2つ)の永久磁石241、242と樹脂26とが一体化されており、樹脂26に設けられた絶縁部26Aによって永久磁石241、242が絶縁されている。この樹脂付永久磁石22がロータコア14の磁石挿入孔20内に配置されるロータ10では、磁石挿入孔20内に複数の永久磁石241、242が配置されるため、渦電流の発生を抑制することができる。しかも、上記のように複数の永久磁石241、242と樹脂26とが一体化されるので、複数の永久磁石241、242を別々に磁石挿入孔20内に配置させる場合と比較して、工数を削減することができる。
【0057】
(第3変形例)
図8A図8Cに示される第3変形例では、樹脂付永久磁石22の長手方向に分割された複数(ここでは3つ)の永久磁石241、242、243と樹脂26とが一体化されており、樹脂26に設けられた絶縁部26A、26Bによって永久磁石241、242、243が絶縁されている。この第3変形例においても、第2変形例と同様の効果が得られる。
【0058】
(第4変形例)
図9A図9Cに示される第4変形例では、樹脂26において磁石挿入孔20の内壁面に密着される部位に、樹脂付永久磁石22の長手方向に延びる1又は複数(ここでは2つ)の溝30が形成されている。この第4変形例では、軟化した樹脂26が磁石挿入孔20の内壁面に押し当てられる際に両者の間に介在する空気を、上記の溝30を通して両者の間から排出することができるので、上記の空気の介在によって樹脂26と磁石挿入孔20の内壁面との密着性が低下することを防止又は抑制できる。
【0059】
(第1工程の変形例)
図10A図10Cに示される変形例では、第1工程において、永久磁石24と樹脂26との密着性を向上させるための表面処理加工が追加される。具体的には、図10Aに示される永久磁石24に対して図10Bに示されるように表面を荒らす処理(例えば、ブラスト加工、研磨加工、レーザ処理、ケミカル処理など)を施し、その後に図10Cに示されるように永久磁石24の任意の面に樹脂26を成形する。なお、図10Bに示されるように永久磁石24に対して直接表面を荒らす処理を施す構成に限らず、図11に示されるように樹脂25でコーティングした永久磁石24に対して表面を荒らす処理を施す構成にしてもよい。
【0060】
上記のような表面処理加工を追加することにより、永久磁石24と樹脂26との線膨張差による分離が防止され、ロータ回転時の信頼性が向上する。また、樹脂付永久磁石22を磁石挿入孔20に圧入又は挿入する際の取り扱いが容易になる。さらに、永久磁石24の任意の面に樹脂26を成形することが可能となる。
【0061】
なお、上記実施形態では、ロータ10がインナロータとされた構成にしたが、これに限らず、本発明に係るロータはアウタロータであってもよい。
【0062】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【0063】
また、2019年1月11日に出願された日本国特許出願2019-003620号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個別に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11