(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】多段ポリマーをベースとする硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20231129BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20231129BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20231129BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231129BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231129BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/124
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020572979
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2019061740
(87)【国際公開番号】W WO2020001835
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グプタ,マンジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ボヌール,ルシル
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002110(JP,A)
【文献】国際公開第2017/044381(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/002259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)、成分(b)、
及び成分(c
)を含む硬化性組成物であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は、成分(a)の前記多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーと組成が同じか又は異な
る1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、
c)成分(c)は1種以上の重合性有機物質であり
、
成分(c)が、25℃において18.7MPa
1/2
~21.7MPa
1/2
のハンセン溶解度パラメータδ
tot
を有する、
硬化性組成物。
【請求項2】
成分(a)が、
i) 以下を含む多段ポリマー、
A) 0℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(A1)を含む(A)段階のポリマー、及び
B) 少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む(B)段階のポリマー、並びに
ii) 以下を含む多段ポリマー
A) 10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(A1)を含む(A)段階のポリマー、
B) 少なくとも60℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む(B)段階のポリマー、及び
C) 少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(C1)を含む(C)段階のポリマーであって、成分(b)の一部を提供することができる(C)段階のポリマー
からなる群より選択される少なくとも1種の多段ポリマーを含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記(A)段階ポリマーが、前記(B)多段ポリマーにグラフトされている、請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
ポリマー(A1)及び(B1)が、(メタ)アクリルポリマー(P1)の組成とは異なる組成を有する(メタ)アクリルポリマーである、請求項2又は3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)が、成分(c)に25℃で可溶性である、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)が、少なくとも50重量%のメチルメタクリレートを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
成分(b)が少なくとも30℃のガラス転移温度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
ポリマー(Al)が、ポリオルガノシロキサンであるか、又はイソプレン若しくはブタジエンに由来するポリマー単位を少なくとも50重量%含む、請求項2~7のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
成分(b)の前記1種以上のアクリルポリマー(P1)が、成分(a)の前記1種以上の多段ポリマーにグラフトされていない、請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
成分(c)が、フリーラジカル重合性有機物質及びカチオン重合性有機物質からなる群から選択される少なくとも1種の重合性有機物質を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
成分(c)が、エチレン性不飽和有機物質、複素環含有有機物質からなる群から選択される少なくとも1種の重合性有機物質を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
成分(c)が、少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化有機物質を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
成分(c)が、25℃で9MPa
1/2~13MPa
1/2のδ
p値、25℃で4MPa
1/2~11MPa
1/2のδ
h値、又は25℃で12.9MPa
1/2~16.9MPa
1/2のδ
d値の少なくとも1つを有する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
成分(c)が、テトラヒドロフリルメタクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、平均で約6~約15個のエチレンオキシド単位を含むメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、約3~約7個のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、約2~約6個のエチレンオキシド単位を含むエトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、約1~約12個のエチレンオキシド単位を含むエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンメタノールアクリレート、ジシクロデカンジメタノールジアクリレート、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~
13のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項15】
成分(c)が、少なくとも1種の重合軟化剤を含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1種の重合軟化剤が、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリエーテルオリゴマー、エポキシ官能化オリゴマー及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
15に記載の硬化性組成物。
【請求項17】
1種以上の光開始剤である成分(d)をさらに含み、成分(d)が、フリーラジカル光開始剤、カチオン性光開始剤及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の光開始剤を含む、請求項1~
16のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項18】
さらに、安定剤、光遮断剤、顔料及び染料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含む、請求項1~
17のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項19】
1種以上の光開始剤である成分(d)をさらに含み、0.5~25重量%の成分(a)、5~80重量%の成分(b)、10~95重量%の成分(c)及び0.1~10重量%の成分(d)を含み、(a)、(b)、(c)及び(d)の重量の総和が合計で100%に等しい、請求項1~
18のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項20】
前記組成物が、少なくとも10重量%の成分(a)の含有率及び25℃で10,000mPa.s(cP)以下の粘度を有する、請求項1~
19のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項21】
成分(a)、成分(b)、及び成分(c)を含む硬化性組成物を硬化させることを含む、硬化物品を作製する方法であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は、成分(a)の前記多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーと組成が異なる1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、
c)成分(c)は1種以上のモノマー重合性有機物質であり、
前記硬化性組成物が、該硬化性組成物を放射線に曝露することによって硬化される、
方法。
【請求項22】
前記硬化物品が、三次元物品、コーティング、シーラント又は接着剤である、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記放射線が、化学線又は電子線放射である、請求項
21又は
22に記載の方法。
【請求項24】
前記硬化性組成物が、さらに成分(d)を含み、該成分(d)が1種以上の光開始剤である、請求項
21~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記硬化性組成物を放射線に曝露した後、該硬化性組成物から調製した物品を加熱するステップを実施する、請求項
21~
24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
成分(a)、成分(b)及び成分(c)から構成される硬化性組成物を用いて三次元物品を印刷することを含む三次元物品を作製する方法であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は1種以上(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、
c)成分(c)は1種以上のモノマー重合性有機物質である
方法。
【請求項27】
前記三次元物品の印刷が、層ごとに又は連続的に行われる、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
前記三次元物品の印刷が少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に前記硬化性組成物の第1の層を提供するステップ、
b) 少なくとも部分的に前記第1の層を硬化させて、硬化した第1の層を提供するステップ、
c) 前記硬化した第1の層上に前記硬化性組成物の第2の層を提供するステップ、
d) 少なくとも部分的に前記第2の層を硬化させて、前記硬化した第1の層に接着した硬化した第2の層を提供するステップ、及び
e)ステップc)及びd)を所望の回数繰り返して、前記三次元物品を構築するステップ
を含む、請求項
26又は
27に記載の方法。
【請求項29】
前記三次元物品の印刷が、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に液体形態の前記硬化性組成物の第1の層を提供するステップ、
b) 前記第1の層を化学線に画像状に露光して第1の露光画像形成断面を形成するステップであって、前記放射線が、露光領域における前記第1の層の少なくとも部分的な硬化を引き起こすのに十分な強度及び期間を有するステップ、
c) 先に露光した画像形成断面上に液体形態の前記硬化性組成物の追加の層を提供するステップ、
d) 前記追加の層を化学線に画像状に露光して、追加の画像形成断面を形成するステップであって、前記放射線が、露光領域における前記追加の層の少なくとも部分的な硬化を引き起こし、かつ先に露光した画像形成断面への前記追加の層の接着を引き起こすのに十分な強度及び持続期間を有するステップ、
e) ステップc)及びd)を所望の回数繰り返して、前記三次元物品を構築するステップ
を含む、請求項
26~
28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記三次元物品の印刷が、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 担体及びビルド表面を有する光学的に透明な部材を提供するステップであって、前記担体及びビルド表面がその間にビルド領域を規定するステップ、
b) 前記硬化性組成物を前記ビルド領域に充填するステップ、
c) 連続的又は間欠的に前記ビルド領域に化学線を照射して、前記硬化性組成物から硬化した組成物を形成するステップ、及び
d) 連続的又は間欠的に担体を進めて前記ビルド表面から遠ざけて、前記硬化した組成物から三次元物品を形成するステップ
を含む
、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記三次元物品を印刷した後、該三次元物品を加熱するステップを実施するか、又は化学線若しくはEB放射による該物品の連続的照射又は同時照射と組み合わせて加熱するステップ又は化学線若しくはEB放射による該品を照射するステップを実施する、請求項
26~
30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~
20のいずれか一項に記載の硬化性組成物の調製に有用であるマスターバッチであって、成分(a)、(b)及び(c)を含むが、少なくとも1種の成分(c)でのさらなる希釈によって前記マスターバッチから調製される前記硬化性組成物よりも高い濃度の成分(a)+成分(b)((a)+(b)の合計)を有するマスターバッチ。
【請求項33】
請求項1~
20のいずれか一項に記載の硬化性組成物を製造する方法であって、マスターバッチを少なくともある量の成分(c)と組み合わせることを含み、前記マスターバッチが該マスターバッチから調製される前記硬化可能組成よりも高い濃度の成分(a)及び成分(b)を有する、方法。
【請求項34】
三次元物品、コーティング、シーラント又は接着剤からなる群から選択される硬化物品における請求項1~
20のいずれか一項に記載の硬化性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化しない形態で、自由に流動し、よく分散し、室温で比較的低粘度の液体であることができ、硬化して、靭性及び衝撃特性を高めた物品を提供することができる硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性(メタ)アクリレート官能化モノマーをベースとし、典型的にはフリーラジカル重合機構により硬化するアクリル樹脂配合物がかなりの間知られていた。一旦硬化すると、このような配合物は、一般的に、高い弾性率及び強度を有する物品を提供する。しかし、これらの硬化した材料は通常もろく、結果的に衝撃に耐える能力が低い。このような配合物を、硬化した形で、その望ましい高い弾性率と強度特性を維持しながら、耐衝撃性及び靭性を増すように改質することは、そのような改質系の商業的可能性にもかかわらず、困難であることが証明されている。典型的には硬化性アクリル系に強靭化添加剤を組み込む際に遭遇する問題は、強靭化添加剤の添加により衝撃強度及び/又は靭性が増すと、剛性及び強度が損なわれることである。さらに、強靭化剤又は衝撃改質剤として使用できる可能性がある多くの添加剤は、(メタ)アクリレート官能化モノマー及びオリゴマーとの非相溶性のため、そのようなアクリル系では、例えあったとしても、低レベルでしか含ませられない。すなわち、従来の強靭化添加剤及び衝撃改質剤は、典型的には、そのようなモノマー及びオリゴマー中で十分に分散せず、及び/又はアクリル系のゲル化又は顕著な粘度増加をもたらす。衝撃修飾剤/強靭化剤の存在の結果としての粘度、沈降(沈殿)及びゲル化の問題を減少させながら、強度及び弾性率特性を大幅に低下させることなく、靭性及び耐衝撃性を改善した物品を提供するために硬化することができる硬化性組成物を開発することが非常に望ましいであろう。
【発明の概要】
【0003】
多段ポリマーを(メタ)アクリルポリマー(P1)と組み合わせて使用することにより、良好に分散し、周囲又は適度に高い温度で十分に低い粘度を有する安定な液体であり、その取扱い性、並びにコーティング、接着剤及び三次元印刷のような成形操作における使用を容易にする1種以上の重合性有機物質をベースとする硬化性組成物の配合物が可能になることが現在発見された。例えば(メタ)アクリルポリマー(P1)成分を含むことは、重合性有機物質(複数可)の液体マトリックスにおける多段ポリマーの良好な分散を保証するのに役立つ。多段ポリマーとの相溶性に基づいて重合性有機物質を選択することは、適切な特性を有する硬化性組成物を達成する上で役割を果たすことも見出された。そのような硬化性組成物は、光硬化などの方法を用いて硬化させて、特性の顕著なバランス、例えば引張強度及び弾性率などの機械的特性を著しく損なうことなく、良好な靭性及び耐衝撃性を有する硬化物品を提供することができる。
【0004】
したがって、本発明の一態様において、成分(a)、成分(b)、成分(c)、及び任意選択的に成分(d)から構成されるか、これらから本質的になるか、又はこれらからなる硬化性組成物が提供され、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、
c)成分(c)は1種以上の重合性有機物質であり、及び
任意成分(d)は1種以上の光開始剤である。
【0005】
本発明のさらなる態様において、三次元物品、コーティング、シーラント又は接着剤などの硬化物品を作製する方法が提供される。この方法は、成分(a)、成分(b)、及び成分(c)を含むか、これらから本質的になるか、又はこれからなる硬化性組成物を硬化させることを含むか、これから本質的になるか、又はこれからなり、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、及び
c)成分(c)は1種以上の重合性有機物質であり、
硬化性組成物は放射線(紫外線又は可視光をはじめとする化学線など)に曝露することによって硬化される。特に、光開始剤を含まない、成分(a)、(b)及び(c)を含む硬化性組成物は、EB(電子線)硬化に適している。
【0006】
本発明の硬化性組成物は、層ごと及び連続的な三次元印刷方法の両方をはじめとする3D印刷された物品を製造する際の樹脂として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図2】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図3】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図4】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図5】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図6】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図7】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【
図8】実施例で詳細に説明されるように、様々な実験結果を表示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
多段ポリマー
本発明の硬化性組成物の成分(a)は、1種以上の多段ポリマーを含むか、これから本質的になるか、又はこれからなる。「多段ポリマー」という用語は、本明細書中で使用される場合、多段重合方法によって連続的な様式で形成されるポリマーを指す。好ましいのは、該方法中に形成される第1のポリマーが第1段階のポリマーであり、該方法中に形成される第2のポリマーが第2段階のポリマーである、すなわち、第1の乳化ポリマーの存在下での乳化重合によって第2のポリマーが形成される多段乳化重合方法である。
【0009】
本発明の特定の実施形態によれば、多段ポリマー(複数可)及び(メタ)アクリルポリマー(複数可)(P1)の少なくとも一部は、複合形態で硬化性組成物に提供される。例えば硬化性組成物を配合する場合、最初に、少なくとも1種の多段ポリマー及び少なくとも1種の(メタ)アクリルポリマー(P1)を含むポリマー組成物(粒子の形態であってもよい)の形態で、硬化性組成物の成分(a)の全て又は一部及び成分(b)の全て又は一部を供給することができる。例えば(メタ)アクリルポリマー(P1)は、後にさらに詳述するように、多段ポリマーを調製する際の追加の段階として形成されてもよい。しかし、本発明は必ずしもこのように制限されているわけではなく、成分(b)の全て又は一部を、多段ポリマーと分離し、多段ポリマーとは別に、すなわち、別個の成分として硬化性組成物に供給することができる。
【0010】
任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、(メタ)アクリルポリマーがコア/シェル構造を有する多段ポリマーの外表面に堆積され、(メタ)アクリルポリマー(P1)の少なくとも一部は多段ポリマーにグラフトされていないそのようなポリマー組成物の一部として、多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)が一緒になって供給される本発明の特定の実施形態において、硬化性組成物の他の成分(特に、(c)成分の重合性有機物質)と一旦組み合わされると、(メタ)アクリル酸の少なくとも一部がそのような外表面から解離し、成分(c)中で少なくとも部分的に可溶化されるようになり、それにより多段ポリマーを分散させ、多段ポリマーの凝集及び/又は沈降を減少させるのを助けると考えられる。
【0011】
全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される以下の特許出願、すなわち、WO2016/102666号、US2017/0369696号、WO2017/121749号、WO2017/121750号、WO2017/220791号、WO2018/002259号、WO2018/002260号、WO2018/002273号、FR1756649号及びFR1756647は、本発明での使用に適した多段ポリマーを記載する。
【0012】
本発明での使用に適した多段ポリマーは、そのポリマー組成が異なる少なくとも二段階を有する。多段ポリマー(特定の好ましい実施形態において、成分(b)の(メタ)アクリルポリマー(P1)(複数可)と組み合わせて調製又は供給される)は、典型的に球状粒子であるポリマー粒子の形態であることが好ましい。これらの粒子は、コア/シェル粒子とも呼ばれることがある。第1段階はコアを形成し、第2段階又は全てのそれに続く段階はそれぞれのシェルを形成する。コア/シェル粒子でもあるそのような多段ポリマーが好ましい。
【0013】
本明細書において「ポリマー粒子」と称することができる多段ポリマーの個々の粒子(又は(メタ)アクリルポリマー(P1)が多段ポリマーの製造中のさらなる段階として製造される実施形態においては、多段ポリマーと(メタ)アクリルポリマー(P1)との粒子)に関して、それらは一般的に15nm~900nmの重量平均粒径を有することができる。好ましくは、そのようなポリマー粒子の重量平均粒径(直径)は、20nm~800nmであり、より好ましくは25nm~600nmであり、さらにより好ましくは30nm~550nmであり、やはりさらにより好ましくは35nm~500nmであり、有利には40nm~400nmであり、さらにより有利には75nm~350nmであり、有利には80nm~300nmである。そのようなポリマー粒子は凝集させて、多段ポリマー、又は(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーのいずれかを含むポリマー粉末を与えることができる。
【0014】
特定の実施形態によれば、ポリマー粉末の粒子(凝集ポリマー粒子)は、1μm~500μmの体積中央粒径D50を有することができる。好ましくは、体積中央粒径は10μm~400μmであり、より好ましくは15μm~350μmであり、有利には20μm~300μmである。体積における粒径分布のD10は、好ましくは少なくとも7μmであり、より好ましくは少なくとも10μmである。体積における粒径分布のD90は、好ましくは最大で500μm、より好ましくは最大で400μm、最も好ましくは最大で250μmである。
【0015】
多段ポリマーは、2、3又はそれ以上の段階を含む方法のような多段方法によって得ることができる。特定の実施形態によれば、多段ポリマーは、10℃未満(例えば0℃未満)のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む少なくとも1つの層(A)、及び少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む別の層(B)を含む多層構造を有する。
【0016】
第1の好ましい実施形態において、少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)は、多層構造を有するポリマー粒子の外層である。
【0017】
第2の好ましい実施形態において、少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)は、多段ポリマーが硬化可能組成の成分(c)と接触する前の、多層構造を有するポリマー粒子の中間層である。
【0018】
好ましくは、段階(A)は第1段階であり、ポリマー(B1)を含む段階(B)はポリマー(Al)を含む段階(A)又は別の中間層にグラフトされる。第1段階とは、ポリマー(Al)を含む段階(A)がポリマー(B1)を含む段階(B)より前に作られることを意味する。
【0019】
層(A)中の10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)は多段方法の最終段階中に決して作られない。これは、ポリマー(Al)が多層構造を有する粒子の外層にあることはないことを意味する。層(A)中の10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)はポリマー粒子のコア又は内層の一方のいずれかにある。
【0020】
好ましくは、層(A)中の10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)は、多層構造を有するポリマー粒子のコアを形成する多段方法の第1段階において、及び/又は少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)の前に作られる。好ましくは、ポリマー(Al)は、0℃未満、-5℃未満、より好ましくは-15℃未満、有利には-25℃未満のガラス転移温度を有する。
【0021】
第1の好ましい実施形態において、少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)は、多層構造を有するポリマー粒子の外層を形成する、多段方法の最終段階で作られる。
【0022】
第2の好ましい実施形態において、少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)は、多層構造を有するポリマー粒子の中間層であり、多段方法のポリマー(Al)を形成するための段階の後の段階で作られる。
【0023】
中間段階(単数又は複数)によって得られる追加の中間層(単数又は複数)が存在していてもよい。
【0024】
それぞれのポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば熱機械分析としての動力学的方法により推定できる。それぞれのポリマー(Al)及び(B1)の試料を得るためには、各段階の各ポリマーのガラス転移温度Tgを個々に推定し、より容易に測定するために、これらは多段方法ではなく、単独で調製できる。
【0025】
ポリマー(Al)に関して、第1の実施形態では、それは、少なくとも50重量%の、アルキルアクリレートからのモノマーを含む(メタ)アクリルポリマーである(すなわち、1種以上のアルキルアクリレートは、(メタ)アクリルポリマーに重合されたモノマーの少なくとも50重量%を構成する)。ポリマー(Al)が0℃未満のガラス転移温度を有する限り、より好ましくは、ポリマー(Al)はアルキルアクリレートと共重合可能なコモノマー(単数又は複数)を含む。ポリマー(Al)中のコモノマー(単数又は複数)は、(メタ)アクリルモノマー及びビニルモノマーからなる群から選択されることが好ましい。ポリマー(Al)中の(メタ)アクリルコモノマー(複数可)は、C1~C12アルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上のモノマーを含むことができる。さらにより好ましくは、ポリマー(Al)中の(メタ)アクリルコモノマー(複数可)は、1種以上のC1~C4アルキル(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0026】
最も好ましくは、ポリマー(Al)が10℃未満(好ましくは0℃未満)のガラス転移温度を有する限り、ポリマー(Al)のアクリル又はメタクリルコモノマー(複数可)は、メチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、及びそれらの混合物から選択される。
【0027】
好ましくは、ポリマー(Al)は架橋される。これは、架橋剤が他のモノマー(単数又は複数)と共に存在することを意味する。架橋剤は、2種以上の(メタ)アクリレート基のように重合できる少なくとも2つの基を含む。
【0028】
1つの具体的な実施形態において、ポリマー(Al)はブチルアクリレートのホモポリマーである。別の特定の実施形態では、ポリマー(Al)は、ブチルアクリレートと少なくとも1種の架橋剤とのコポリマーである。架橋剤はコポリマーの5重量%未満を構成することができる。
【0029】
より好ましくは、第1の実施形態のポリマー(Al)のガラス転移温度Tgは-100℃~0℃、さらにより好ましくは-100℃~-5℃、有利には-90℃~-15℃、より有利には-90℃~-25℃である。
【0030】
ポリマー(A1)に関して、第2の実施形態では、ポリマー(Al)はポリオルガノシロキサンのようなシリコーンゴムベースのポリマーである。例えばシリコーンゴムは、ポリジメチルシロキサンであることができる。より好ましくは、第2の実施形態のポリマー(Al)のガラス転移温度(Tg)は-150℃~0℃、さらにより好ましくは-145℃~-5℃、有利には-140℃~-15℃、より有利には-135℃~-25℃である。
【0031】
ポリマー(Al)に関して、第3の実施形態において、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)は、イソプレン又はブタジエン由来のポリマー単位を少なくとも50重量%含み(すなわち、ポリマー(A1)中の反復単位の少なくとも50重量%がイソプレン又はブタジエンの重合単位である)、段階(A)は、多層構造を有するポリマー粒子の最内層である。換言すれば、ポリマー(Al)を含む段階(A)はポリマー粒子のコアである。
【0032】
例として、第2の実施形態のコアのポリマー(Al)は、イソプレンホモポリマー、ブタジエンホモポリマー、イソプレン-ブタジエンコポリマー、最大98重量%のビニルモノマーを有するイソプレンのコポリマー、及び最大98重量%のビニルモノマーを有するブタジエンのコポリマーからなる群から選択され得る。ビニルモノマーは、スチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレート、ブタジエン又はイソプレンであることができる。一実施形態において、コアはブタジエンホモポリマーを含むか、又はブタジエンホモポリマーである。
【0033】
より好ましくは、イソプレン又はブタジエン由来のポリマー単位を少なくとも50重量%含む第3の実施形態のポリマー(Al)のガラス転移温度(Tg)は、-100℃~0℃、さらにより好ましくは-100℃~-5℃、有利には-90℃~-15℃、さらにより有利には-90℃~-25℃である。
【0034】
ポリマー(B1)については、二重結合を有するモノマー及び/又はビニルモノマーを含むホモポリマー及びコポリマーに言及することができる。好ましくは、ポリマー(B1)は(メタ)アクリルポリマーである。しかし、ポリマー(B1)が(メタ)アクリルポリマーであれば、それは(メタ)アクリルポリマー(P1)とは異なる組成を有する。したがって、ポリマー(B1)は成分(b)の(メタ)アクリルポリマー(P1)とは異なる(メタ)アクリルポリマーである。好ましくは、ポリマー(B1)は、C1~C12アルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上のモノマーを少なくとも70重量%含む。さらにより好ましくは、ポリマー(B1)は、C1~C4アルキルメタクリレート及びC1~C8アルキルアクリレートからなる群から選択される1種以上のモノマーを少なくとも80重量%含む。
【0035】
ポリマー(B1)は架橋できる。
【0036】
最も好ましくは、ポリマー(B1)の調製に使用されるアクリル又はメタクリルモノマー(複数可)は、ポリマー(B1)が少なくとも30℃のガラス転移温度を有する限り、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及びそれらの混合物からなる群から選択される。本発明の様々な実施形態によると、使用されるモノマー(複数可)は、少なくとも40℃、少なくとも50℃又は少なくとも60℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を提供する。
【0037】
有利には、ポリマー(B1)は、メチルメタクリレート由来のモノマー単位を少なくとも50重量%、より有利には少なくとも60重量%、さらにより有利には少なくとも70重量%含む。
【0038】
好ましくは、ポリマー(B1)のガラス転移温度(Tg)は30℃~150℃である。ポリマー(B1)のガラス転移温度はより好ましくは50℃~150℃、さらにより好ましくは60℃~150℃、さらにより好ましくは70℃~150℃、有利には90℃~150℃、より有利には90℃~130℃である。本発明の他の好ましい実施形態によると、ポリマー(B1)のガラス転移温度は、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、少なくとも80℃又は少なくとも90℃である。
【0039】
別の実施形態では、前述のような多段ポリマーは、硬化性組成物の成分(b)を含む(メタ)アクリルポリマー(P1)を(全体的に又は部分的に)提供する、追加段階を含むように調製される。本発明のこの実施形態による一次ポリマー粒子は、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む少なくとも1つの段階(A)、30℃を超えるガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む少なくとも1つの段階(B)、及び30℃~150℃のガラス転移温度を有する(メタ)アクリルポリマー(P1)を含む少なくとも1つの段階(P)を含む多層構造を有する。
【0040】
好ましくは、(メタ)アクリルポリマー(P1)はポリマー(Al)又は(B1)のいずれにもグラフトされない。他の実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)の少なくとも一部は、ポリマー(A1)又は(B1)のいずれにもグラフトされない。
【0041】
本発明による硬化性組成物の成分(a)として使用するのに適した多段ポリマーを製造するための方法に関しては、そのような方法は以下のステップ、すなわち、
a) モノマー又はモノマー混合物(Am)を乳化重合により重合して、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む少なくとも1つの層(A)を得るステップ、及び
b) モノマー又はモノマー混合物(Bm)を乳化重合により重合して、少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む層(B)を得るステップ
を含むことができる。
【0042】
モノマー又はモノマー混合物(Am)及びモノマー又はモノマー混合物(Bm)は、前述のポリマー(Al)とポリマー(B1)の組成に従ったモノマーから選択する。
【0043】
ステップa)はステップb)の前に実施することが好ましい。2段階しかない場合には、より好ましくは、ステップa)で得られたポリマー(Al)の存在下でステップb)を実施する。
【0044】
有利には、本発明に従って採用される多段ポリマー組成物を製造するための方法は、順々に以下のステップ、すなわち、
a) モノマー又はモノマー混合物(Am)を乳化重合により重合して、10℃未満(好ましくは0℃未満)のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む1つの層(A)を得るステップ、
b) モノマー又はモノマー混合物(Bm)を乳化重合により重合して、少なくとも30℃(別の実施形態では、少なくとも60℃)のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む層(B)を得るステップ
を含む多段方法である。
【0045】
それぞれポリマー(Al)及び(B1)を含む層(A)及び(B)を形成するためのそれぞれのモノマー又はモノマー混合物(Am)及び(Bm)並びにそれぞれのポリマー(Al)及び(B1)の特性は、以前に定義したものと同じである。
【0046】
多段ポリマーの製造方法は、ステップa)及びb)の間に追加の段階のための追加のステップを含むことができる。
【0047】
多段ポリマーの製造方法は、ステップa)及びb)より前の追加の段階のための追加のステップを含むこともできる。シードは、モノマー又はモノマー混合物(Am)を乳化重合して、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(A1)を含む層(A)を得るために用いることができる。シードは、好ましくは、少なくとも20℃のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーである。
【0048】
多段ポリマーは、ポリマー粒子の水性分散液として得られてもよい。分散液の固形分は、例えば10重量%~65重量%であることができる。
【0049】
本発明の硬化性組成物の成分(b)であり得る(メタ)アクリルポリマー(P1)の製造方法に関しては、そのような方法は、それぞれの1種以上の(メタ)アクリルモノマーを重合するステップを含むことができる。それぞれの(メタ)アクリルモノマー(複数可)は、(メタ)アクリルポリマー(P1)及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の2つの好ましい実施形態について本明細書中の別の箇所で定義されているものと同じである。
【0050】
(メタ)アクリルポリマー(P1)(ホモポリマー又はコポリマーであることができる)は、バッチ方法又は半連続方法で製造することができ、
バッチ方法の場合、モノマーの混合物は、開始剤系の1つ又は一部の導入直前又は導入直後に1回限りで導入することができ、
半連続方法の場合、モノマー混合物は、添加の一定期間(30~500分の範囲にあり得る)中に、開始剤の添加と平行して複数回又は連続して添加され得る(開始剤は複数回又は連続して添加され得る)。
【0051】
(メタ)アクリルポリマー(P1)(成分(b))及び多段ポリマー(成分(a))の両方を含むポリマー組成物を調製するための方法は、2つの好ましい実施形態を有する。
【0052】
本方法の第1の好ましい実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、多段ポリマーの存在下で1種以上の適切なモノマーの重合によって調製される。このように、(メタ)アクリルポリマー(P1)は多段ポリマーの追加の段階として作られる。
【0053】
本方法の第2の好ましい実施形態において、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、多段とは別に重合され、その後多段ポリマーと混合又はブレンドされる。
【0054】
(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーを含むポリマー組成物を調製するための第1の実施の形態による方法に関しては、それは、以下のステップ、すなわち、
a) モノマー又はモノマー混合物(Am)を乳化重合により重合して、段階(A)において10℃未満(好ましくは0℃未満)のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む1つの層を得るステップ、
b) モノマー又はモノマー混合物(Bm)を乳化重合により重合して、段階(B)において少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む層を得るステップ、及び
c) モノマー又はモノマー混合物を乳化重合により重合して、この追加段階において少なくとも30℃(一実施形態において、少なくとも60℃)のガラス転移温度を有する(メタ)アクリルポリマー(P1)を含む層を得るステップ
を含むことができる。
【0055】
ステップa)はステップb)の前に実施することが好ましい。より好ましくは、ステップa)で得られたポリマー(Al)の存在下でステップb)を実施する。
【0056】
有利には、(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーを含むポリマー組成物を製造するための方法は多段方法であり、以下のステップ、すなわち、
a) モノマー又はモノマー混合物(Am)を乳化重合により重合して、段階(A)において10℃未満(好ましくは0℃未満)のガラス転移温度を有するポリマー(Al)を含む層を得るステップ、
b) モノマー又はモノマー混合物(Bm)を乳化重合により重合して、段階(B)において少なくとも30℃(又は特定の実施形態では少なくとも60℃)のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む層を得るステップ、及び
c) モノマー又はモノマー混合物を乳化重合により重合して、好ましくは(メタ)アクリルポリマーの少なくとも一部又は全部がポリマー(A1)又はポリマー(B1)にグラフトされないような方法で、この追加の段階において少なくとも30℃のガラス転移温度を有する(メタ)アクリルポリマー(P1)を含む層を得るステップ
を含む。
【0057】
層(A)、(B)を形成するためのモノマー又はモノマー混合物(Am)及び(Bm)、並びに(メタ)アクリルポリマーを含むモノマー(複数可)及びポリマー(A1)、(B1)及び(メタ)アクリルポリマー(P1)をそれぞれ含む追加の段階は、先に定義したのと同じである。ポリマー(Al)、(B1)及び(メタ)アクリルポリマー(P1)のそれぞれの特徴は、本明細書の別の箇所で定義したものと同じである。
【0058】
好ましくは、前記(メタ)アクリルポリマー及び前記多段ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法は、前記ポリマー組成物を回収する追加のステップd)を含む。回収とは、水相と固相との間の部分的又は完全な分離を意味し、後者の相はポリマー組成物を含む。より好ましくは、ポリマー組成物の回収は、凝固又は噴霧乾燥によって行われる。噴霧乾燥は、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)がアルキルアクリレートに由来するポリマー単位を少なくとも50重量%含み、段階(A)が多層構造を有するポリマー粒子の最内層である場合、本発明の硬化性組成物の多段ポリマー成分及び任意選択的に(メタ)アクリルポリマー(P1)成分の供給源として有用なポリマー粉末組成物の製造方法における回収及び/又は乾燥ステップのための好ましい方法である。凝固は、10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(Al)がイソプレン又はブタジエンに由来するポリマー単位を少なくとも50重量%含み、段階(A)が多層構造を有するポリマー粒子の最内層である場合、本発明に有用なポリマー粉末組成物の製造方法における回収及び/又は乾燥ステップのための好ましい方法である。
【0059】
本発明の硬化性組成物に使用される多段ポリマー成分の供給源及び任意選択的に(メタ)アクリルポリマー(P1)成分の少なくとも一部として有用なポリマー組成物の製造方法は、任意選択的に、該ポリマー組成物を乾燥させる追加ステップe)を含むことができる。好ましくは、乾燥ステップe)は、ポリマー組成物の回収ステップd)が凝固によって実施される場合に実施される。好ましくは、乾燥ステップe)後に、ポリマー組成物は、3重量未満%、より好ましくは1.5重量%未満、有利には1%未満しか水を含まない。ポリマー組成物の含水率は熱平衡法を用いて測定できる。ポリマー組成物の乾燥は、オーブン、例えば、組成物を50℃で48時間加熱するオーブン中で行うことができる。
【0060】
(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーを含むポリマー組成物を調製するための第2の好ましい実施形態による方法に関して、このような方法は、以下のステップ、すなわち、
a) (メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーを混合するステップ、及び
b) 前ステップで得られた混合物をポリマー粉末の形成で回収するステップ
を含むことができ、ここで、ステップa)の(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーは、水相中の分散液の形態である。
【0061】
(メタ)アクリルポリマー(P1)の水性分散液及び多段ポリマーの水性分散液の量は、得られる混合物中の固体部分のみに基づく多段ポリマーの重量比が、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、有利には少なくとも50重量%であるように選択することができる。
【0062】
(メタ)アクリルポリマー(P1)の水性分散液及び多段ポリマーの水性分散液の量は、得られる混合物中の固体部分のみに基づく多段ポリマーの重量比が、最大で99重量%、好ましくは最大で95重量%、より好ましくは最大で90重量%であるように選択することができる。
【0063】
(メタ)アクリルポリマー(P1)の水性分散液及び多段ポリマーの水性分散液の量は、得られる混合物中の固体部分のみに基づく多段ポリマーの重量比が、5重量%~99重量%、好ましくは10重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%であるように選択することができる。
【0064】
前記(メタ)アクリルポリマー(P1)及び前記多段ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法の回収ステップb)は、凝固又は噴霧乾燥を含むことが好ましい。前記(メタ)アクリルポリマー(P1)及び前記多段ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法は、任意選択的に、前記ポリマー組成物を乾燥させる追加ステップc)を含むことができる。「乾燥」とは、ポリマー組成が、3重量%未満の水、好ましくは1.5重量%未満の水、より好ましくは1.2重量%未満の水しか含まないことを意味する。水の含有率は、ポリマー組成物を加熱し、重量減少を測定する熱平衡によって測定することができる。
【0065】
(メタ)アクリルポリマー(P1)及び多段ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法は、好ましくはポリマー粉末を生じる。ポリマー粉末は粒子の形態をしている。ポリマー粉末粒子は、多段方法によって作られた凝集した一次ポリマー粒子及び(メタ)アクリルポリマー(P1)を含む。
【0066】
(メタ)アクリルポリマー(P1)
本発明の硬化性組成物の成分(b)は、1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)を含むか、これから本質的になるか、又はこれからなる。本明細書中で使用されるように、「(メタ)アクリルポリマー」という用語は、(メタ)アクリルモノマーが(メタ)アクリルポリマーの50重量%以上を構成する(重合形態の)1種以上の(メタ)アクリルモノマーを含むポリマーを意味する。本明細書中で使用されるように、「(メタ)アクリルモノマー」という用語は、1つ以上のアクリル及び/又はメタクリル官能基を含む任意の種類の重合性モノマーを意味する。
【0067】
組成物(b)の(メタ)アクリルポリマーは、組成物(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーと同一の組成であってもよく、異なる組成であってもよい。好ましくは、組成物(b)の(メタ)アクリルポリマーは、組成物(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーとも組成が異なる。
【0068】
硬化性組成物中の(メタ)アクリルポリマー(P1)の存在は、硬化性組成物及びそれから調製した硬化物品の両方において、多段ポリマーの分散及び安定化を容易にするのに役立つ。(メタ)アクリルポリマー(P1)の非存在下では、典型的には粒子の形態である多段ポリマーは、凝集し、硬化性組成物から沈降する傾向がある(硬化性組成物を不均質にする)。このように、(メタ)アクリルポリマー(P1)を含むことにより、硬化性組成物中に多段ポリマーが均一に分散することになり、硬化性組成物を硬化させることにより調製される均一な硬化物品の形成が容易になることがわかった。マトリックス中の多段ポリマーの理想的な均一分散は、多段ポリマーを重合性有機物質(複数可)と組み合わせた後に凝集体を有さない。したがって、(メタ)アクリルポリマー(P1)、多段ポリマー及び重合性有機物質を含む液体硬化性組成物は、(メタ)アクリルポリマーを含まない類似組成物よりも多段ポリマーのより良好な分散を有するか、又は示すことができる。さらに、(メタ)アクリルポリマー(P1)、多段ポリマー及び重合性有機物質を含む液体硬化性組成物は、(メタ)アクリルポリマーを含まない類似組成物よりもより低い粘性であることができる。
【0069】
(メタ)アクリルポリマー(P1)の分子量は特に制限されておらず、硬化性組成物及び/又はそれから調製された硬化物品に特定の特徴又は特性を付与するために必要であるか望まれるように変化させることができる。(メタ)アクリルポリマー(P1)は、例えば2000g/mol~1,000,000g/molの重量平均分子量を有することができる。
【0070】
第1のより好ましい実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、少なくとも100,000g/mol、好ましくは100,000g/mol超、より好ましくは105,000g/mol超、さらにより好ましくは110,000g/mol超、有利には120,000g/mol超、より有利には130,000g/mol超、さらにより有利には140,000g/mol超の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0071】
(メタ)アクリルポリマー(P1)は、1,000,000g/mol未満、好ましくは900,000g/mol未満、より好ましくは800,000g/mol未満、さらにより好ましくは700,000g/mol未満、有利には600,000g/mol未満、より有利には550,000g/mol未満、さらにより有利には500,000g/mol未満、最も有利には450,000g/mol未満の重量平均分子量(Mw)を有することができる。
【0072】
第1の好ましい実施形態による(メタ)アクリルポリマー(P1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100,000g/mol~1,000,000g/mol、好ましくは105,000g/mol~900,000g/mol、より好ましくは110,000g/mol~800,000g/mol、有利には120,000g/mol~700,000g/mol、より有利には130,000g/mol~600,000g/mol、最も有利には140,000g/mol~500,000である。
【0073】
第2のより好ましい実施形態では、(メト)アクリルポリマー(P1)は、100,000g/mol未満、好ましくは90,000g/mol未満、より好ましくは80,000g/mol未満、さらにより好ましくは70,000g/mol未満、有利には60,000g/mol未満、より有利には50,000g/mol未満、さらにより有利には40,000g/mol未満の重量平均分子量Mwを有する。
【0074】
第2の好ましい実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、好ましくは2000g/mol超、好ましくは3000g/mol超、より好ましくは4000g/mol超、さらにより好ましくは5,000g/mol超、有利には6000g/mol超、より有利には6500g/mol超、さらにより有利には7000g/mol超、さらにより有利には10,000g/mol量、最も有利には12,000g/mol超の重量平均分子量Mwを有する。
【0075】
第2の好ましい実施形態における(メタ)アクリルポリマー(P1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、2000g/mol~100,000g/mol、好ましくは、3000g/mol~90,000g/mol、好ましくは4000g/mol~80,000g/mol、有利には5000g/mol~70,000g/mol、より有利には6000g/mol~50,000g/mol、最も有利には10,000g/mol~40,000g/molである。
【0076】
(メタ)アクリルポリマー(P1)の重量平均分子量(Mw)は、硬化性組成物の得られる粘度に応じて、第1のより好ましい実施形態又は第2のより好ましい実施形態に従って選択することができる。粘度を低くしなければならない場合、又は追加のレオロジー改質剤が存在する場合は、第2のより好ましい実施形態が好ましい。粘度をより高くしなければならないか、又は追加のレオロジー改質剤が存在しない場合、第1のより好ましい実施形態が好ましい。
【0077】
本発明の好ましい実施形態によれば、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、C1~C12アルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上のモノマーを少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、又は少なくとも70重量%含む。有利には、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、C1~C4アルキルメタクリレートモノマー、C1~C8アルキルアクリレートモノマー及びそれらの混合物から選択される1種以上のモノマーを少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%又は少なくとも80%含むことができる。
【0078】
特定の実施形態において、(メタ)アクリルポリマー(P1)のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上、例えば30℃~150℃である。(メタ)アクリルポリマー(P1)のガラス転移温度は、より好ましくは40℃~150℃、有利には45℃~150℃、より有利には50℃~150℃である。
【0079】
好ましくは、(メタ)アクリルポリマー(P1)は架橋されない。好ましい実施形態によると、(メタ)アクリルポリマー(P1)は熱可塑性ポリマーである。(メタ)アクリルポリマー(P1)はホモポリマーでも、コポリマーでもよく、「コポリマー」とは、重合形態において2種以上の異なるモノマーを含むポリマーを指す。本明細書で使用されるように、「熱可塑性ポリマー」という用語は、加熱されると、液体に変わるか、又はより液状になるか、又はより粘性が少なくなり、熱及び圧力の適用によって新しい形状をとり得るポリマーを意味する。(メタ)アクリルポリマー(P1)は、好ましくは、他のいかなるポリマー(単数又は複数)にもグラフトされないか、又は(メタ)アクリルポリマーの少なくとも一部は、他のいかなるポリマー(単数又は複数)にもグラフトされない。
【0080】
第1の好ましい実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、(重合形態で)50重量%~100重量%のメチルメタクリレート、好ましくは80重量%~100重量%のメチルメタクリレート、さらにより好ましくは80重量%~99.8重量%のメチルメタクリレート及び0.2重量%~20重量%のC1~C8アルキルアクリレートモノマーを含む。有利には、C1~C8のアルキルアクリレートモノマーは、メチルアクリレート、エチルアクリレート及びブチルアクリレートからなる群から選択される。
【0081】
第2の好ましい実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、(重合形態で)0重量%~50重量%の1種以上の官能性モノマーを含む。好ましくは、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、0重量%~30重量%、より好ましくは1重量%~30重量%、さらにより好ましくは2重量%~30重量%、有利には3重量%~30重量%、より有利には5重量%~30重量%、最も有利には5重量%~30重量%の官能性モノマー(複数可)を含む。
【0082】
好ましくは、第2の好ましい実施形態の官能性モノマーは、(メタ)アクリルモノマーである。官能性モノマーは式(1)又は式(2)を有することができる。
【0083】
【化1】
式(1)及び(2)の両方において、R
1はH又はCH
3から選択され、式(1)において、YはO、R
5はH又はC又はHでない少なくとも1個の原子を有する脂肪族又は芳香族基であり、式(2)においてYはNであり、R
4及びR
3はH又は脂肪族又は芳香族基から独立に選択される。
【0084】
好ましくは、官能性モノマー(複数可)は、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、例えばジメチルアクリルアミドのような(メタ)アクリルアミド、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリレート(任意選択的に四級化されていてもよい)、ホスホネート又はリン酸基を含む(メタ)アクリレートモノマー、アルキルイミダゾリジノン(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコール(メタ)アクリレート並びにそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのポリエチレングリコール基は、400g/mol~10,000g/molの範囲の数平均分子量を有する。
【0085】
本発明の好ましい実施形態によれば、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、硬化性組成物が硬化されるときに起こる硬化/重合に関与することができる官能基を全く含まない。そのような実施形態において、(メタ)アクリルポリマー(P1)は非反応性と見なすことができる。
【0086】
重合性有機物質
本発明に従う硬化性組成物の成分(c)は1種以上の重合性有機物質を含むか、これから本質的になるか、又はこれからなる。本明細書で用いられるように、「重合性」という用語は、重合反応又は硬化反応に関与してポリマー構造を形成することができることを意味する。重合性有機物質は、モノマー及び/又はオリゴマー構造を有することができ、1分子当たり1つ、2つ、3つ又はそれ以上の重合性官能基を含むことを特徴とすることができる。適切な重合性官能基には、特に、鎖成長及び開環重合機構に関与することができる官能基、例えば、エチレン性不飽和官能基及びエチン性(ethynically)不飽和官能基(例えば(メタ)アクリロイル、ビニル、オレフィン及びアルキン官能基)及び複素環官能基(例えばエポキシド及びオキセタン官能基)が含まれる。フリーラジカル及び/又はカチオン性機構を介して重合する重合性官能基が特に好ましい。重合性有機物質には、複数の種類の重合官能基が含まれてもよい。適切な重合性有機物質の分子量は特に制限されず、例えば120~10,000g/mol又は150~5,000g/molであることができる。本発明の硬化性組成物において、成分(c)として異なる重合性有機物質の組み合わせを用いてもよい。
【0087】
好ましくは、成分(c)は、少なくとも0℃~60℃の温度範囲で液体であるように選択される。
【0088】
言及され得る適切な例示的な種類の重合性有機物質としては、エポキシド(オキシラン)、オキセタン、オキソラン、環状アセタール、及び他の環状エーテル、環状ラクトン、ビニル化合物(脂肪族及び芳香族の両方)、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリレート(特に好ましい)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用されるように「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート(-O-C(=O)-CH=CH2)及びメタクリレート(-O-C(=O)-C(CH3)=CH2)官能基の両方を指す。
【0089】
重合性有機物質は、重合又は硬化反応に関与することができる少なくとも1つの部分を含有し、それによって、複数の重合性有機物分子が互いに共有結合してポリマー構造を形成する。適切な反応性部分には、エチレン性不飽和の部位(すなわち、炭素-炭素二重結合、C=C)が含まれる。エチレン性不飽和のこのような部位は、例えば(メタ)アクリロイル、マレイル、アリル、プロペニル、及び/又はビニル基によって提供することができる。本明細書で使用されるように、「(メタ)アクリロイル」という用語は、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドにおいて見出されるように、メタクリロイル及びアクリロイルの両方を含むことが意図される。
【0090】
前述したように、本発明での使用に適したエチレン性不飽和官能基としては、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合、特に、炭素-炭素二重結合の少なくとも1つの炭素が第2の分子における原子、特に炭素原子に共有結合するようになる反応(例えばフリーラジカル反応)に関与し得る炭素-炭素二重結合を含む基が挙げられる。このような反応により、1つ以上のエチレン性不飽和官能基を含む有機物質が重合されたマトリックス又はポリマー連鎖の一部となる重合又は硬化が起こり得る。炭素-炭素二重結合は、例えばアクリレート官能基(H2C=CH-C(=O)O-)又はメタクリレート官能基(H2C=C(CH3)-C(=O)O-)などのα,β-不飽和カルボニル部分、例えばα,β-不飽和エステル部分の一部として存在することができる。炭素-炭素二重結合は、ビニル基-CH=CH2又はアリル基-CH2-CH=CH2の形態でエチレン性不飽和官能基に存在することもできる。
【0091】
特定の実施形態において、本発明の硬化性組成物は、成分(c)の少なくとも一部として、少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化有機物質を含むことをさらに特徴とする。(メタ)アクリレート官能化有機物質は、1分子当たり1つ以上の(メタ)アクリレート官能基を有する有機物質として説明することができる。本明細書で使用されるように、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート官能基及びメタクリレート官能基の両方を指す。本発明での使用に適した(メタ)アクリレート官能化有機物質は、一般に、エステル基のα位に少なくとも1つの炭素-炭素二重結合、特にフリーラジカル反応、特に紫外線照射又は電子線照射によって開始される反応に関与することができる炭素-炭素二重結合を含むエチレン性不飽和有機物質(少なくとも1つのα、β-不飽和エステル部分を含む化合物)として説明することができる。このような反応により、(メタ)アクリレート官能化有機物質が重合されたマトリックス又はポリマー連鎖の一部となる重合又は硬化が起こり得る。本発明の種々の実施形態において、(メタ)アクリレート官能化有機物質は、1分子当たり1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上の(メタ)アクリレート官能基を含有することができる。異なる数の(メタ)アクリレート基を含有する複数の(メタ)アクリレート官能化有機物質の組み合わせを、本発明の硬化性組成物において利用することができる。
【0092】
したがって、本発明の硬化性組成物は、化学線(例えば紫外線)又は電子線照射への曝露によって開始されるフリーラジカル重合(硬化)を受けることが可能な、1種以上の(メタ)アクリレート官能化有機物質を含むことができる。(メタ)アクリレート官能化有機物質は、オリゴマー若しくはモノマー、又はオリゴマー(複数可)とモノマー(複数可)の組合せであることができる。
【0093】
以下の種類の(メタ)アクリレート官能化有機物質のいずれも、本発明の硬化性組成物に、場合によっては、又は任意選択的に、共反応物としての1種以上の他の種類の重合性有機物質、脂肪族モノアルコールの(メタ)アクリレートエステル、アルコキシル化脂肪族モノアルコールの(メタ)アクリレートエステル、脂肪族ポリオールの(メタ)アクリレートエステル、アルコキシル化脂肪族ポリオールの(メタ)アクリレートエステル、芳香環含有アルコールの(メタ)アクリレートエステル、及びアルコキシル化芳香環含有アルコールの(メタ)アクリレートエステルのようなモノマー、並びにエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート(そのアミン及びスルフィド変性誘導体を含む)のようなオリゴマー、並びにこれらの組合せと共に使用することができる。
【0094】
適切な(メタ)アクリレート官能化オリゴマーには、例えばポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート(ポリウレタン(メタ)アクリレート又はウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと呼ばれることもある)及びそれらの組み合わせ、並びにそのアミン変性及びスルフィド変性したものが含まれる。これらの(メタ)アクリレート官能化オリゴマーのあるものは、前記硬化性組成物の硬化によって得られる硬化物品中の軟化剤として機能することができ、すなわち、それらの含有は、硬化物品の柔軟性を高めるのに役立つ。
【0095】
例示的なポリエステル(メタ)アクリレートには、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの混合物とヒドロキシル基末端ポリエステルポリオールとの反応生成物が含まれる。その反応方法は、かなりの濃度の残留ヒドロキシル基がポリエステル(メタ)アクリレート中に残るように行うか、又はポリエステルポリオールのヒドロキシル基の全て又は本質的に全てが(メタ)アクリル化されるように行うことができる。ポリエステルポリオールは、ポリヒドロキシル官能性成分(特にジオール)とポリカルボン酸官能性化合物(特にジカルボン酸及び無水物)との重縮合反応によって作製することができる。ポリエステル(メタ)アクリレートを調製するには、次いで、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリル酸無水物などと反応させることにより、ポリエステルポリオールのヒドロキシル基を部分的又は完全にエステル化する。ポリエステル(メタ)アクリレートはまた、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート)などのヒドロキシル含有(メタ)アクリレートをポリカルボン酸と反応させることによって合成されてもよい。ポリヒドロキシル官能性成分及びポリカルボン酸官能性成分は、それぞれ直鎖状、分枝状、環状脂肪族又は芳香族構造を有することができ、個別に又は混合物として使用することができる。
【0096】
適切なエポキシ(メタ)アクリレートの例には、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの混合物とグリシジルエーテル又はエステルとの反応生成物が含まれる。
【0097】
例示的なポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマーは、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの混合物とポリエーテルポリオールであるポリエーテロールとの縮合反応生成物を含むが、これに限定されない。適切なポリエーテロールは、エーテル結合及び末端ヒドロキシル基を含む直鎖状又は分枝状物質であることができる。ポリエーテロールは、エポキシド及び他の酸素含有複素環式化合物(例えばエチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ブテンオキシド、テトラヒドロフラン及びそれらの組み合わせ)をスターター分子と開環重合させることによって調製することができる。適切なスターター分子には、水、ヒドロキシル官能性材料、ポリエステルポリオール及びアミンが含まれる。ポリエーテロールはグリコールのようなジオールの縮合によって得ることもできる。
【0098】
本発明の硬化性組成物に使用できるウレタン(メタ)アクリレート(「ポリウレタン(メタ)アクリレート」と呼ばれることもある)には、(メタ)アクリレート末端基でキャップされた、脂肪族及び/又は芳香族ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールと、脂肪族及び/又は芳香族ポリエステルジイソシアネート及びポリエーテルジイソシアネートとをベースとするウレタンを含む。
【0099】
種々の実施形態において、ウレタン(メタ)アクリレートは、脂肪族及び/又は芳香族ポリイソシアネート(例えばジイソシアネート、トリイソシアネート)を、OH基末端ポリエステルポリオール(芳香族、脂肪族及び混合脂肪族/芳香族ポリエステルポリオールを含む)、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリジメチル(dimethy)シロキサンポリオール若しくはポリブタジエンポリオール、又はそれらの組み合わせと反応させて、イソシアネート官能化オリゴマーを形成し、次いでこれをヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル官能化(メタ)アクリレートと反応させて、末端(メタ)アクリレート基を提供することによって調製することができる。例えばウレタン(メタ)アクリレートは、1分子当たり2つ、3つ、4つ又はそれ以上の(メタ)アクリレート官能基を含むことができる。当技術分野で知られているように、ポリウレタン(メタ)アクリレートを調製するために、添加の他の順序を実施することもできる。例えばヒドロキシル官能化(メタ)アクリレートを最初にポリイソシアネートと反応させて、イソシアネート官能化(メタ)アクリレートを得、次いでこれをOH基末端ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリジメチル(dimethy)シロキサンポリオール、ポリブタジエンポリオール、又はそれらの組み合わせと反応させることができる。さらに別の実施形態では、ポリイソシアネートを、最初にポリオール(前述の種類のポリオールのいずれかを含む)と反応させて、イソシアネート官能化ポリオールを得て、その後これをヒドロキシル官能化(メタ)アクリレートと反応させて、ポリウレタン(メタ)アクリレートを得てもよい。あるいは、全ての成分を同時に組み合わせて反応させてもよい。
【0100】
上記の種類のオリゴマーのいずれも、当技術分野で既知の手順に従い、アミン又はスルフィド(例えばチオール)で変性することができる。このようなアミン及びスルフィド変性オリゴマーは、例えばベースオリゴマーに存在する比較的少量(例えば2~15%)の(メタ)アクリレート官能基をアミン(例えば第2級アミン)又はスルフィド(例えばチオール)と反応させて調製することができ、ここで、変性化合物はマイケル付加反応において(メタ)アクリレートの炭素-炭素二重結合に付加する。
【0101】
適切なモノマー(メタ)アクリレート官能化有機物質の例示的な例としては、(メタ)アクリル化モノ-及びポリオール(ポリアルコール)並びに(メタ)アクリル化アルコキシル化モノ-アルコール及びポリオールが挙げられる。モノ-アルコール及びポリオールは、脂肪族(1つ以上の環状脂肪族環を含む)であってもよいし、1つ以上の芳香族環(フェノール又はビスフェノールAの場合のように)を含有してもよい。「アルコキシル化」とは、1つ以上の(メタ)アクリレート官能基を導入するためのエステル化に先立ち、モノ-アルコール又はポリオールの1つ以上のヒドロキシル基に1つ以上のエーテル部分(例えば-CH2CH2-O-)を導入するように、ベースのモノ-アルコール又はポリオールがエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドのような1種以上のエポキシドと反応したことを意味する。例えばモノ-アルコール又はポリオールと反応するエポキシドの量は、モノ-アルコール又はポリオールのモル当たり約1~約30モルのエポキシドであることができる。適切なモノアルコールの例としては、直鎖、分枝鎖及び環状のC1~C54モノアルコール(第一級、第二級又は第三級アルコールであることができる)が挙げられるが、これらに限定されない。例えばモノ-アルコールはC1~C7脂肪族モノ-アルコールであることができる。別の実施形態では、モノアルコールはC8~C24脂肪族モノアルコール(例えばラウリルアルコール、ステアリルアルコール)であってもよい。適切なポリオールの例としては、グリコール(ジオール)、例えばエチレングリコール、1,2-又は1,3-プロピレングリコール、又は1,2-、1,3-又は1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロールなどのような1分子当たり2つ、3つ、4つ又はそれ以上のヒドロキシル基を含む有機化合物が挙げられる。
【0102】
適切なモノマー(メタ)アクリレート官能化化合物の代表的な非限定的な例は、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪族ジ(メタ)アクリレート(例えば式H2C=CRC(=O)-O-(CH2)m-O-C(=O)CR’=CH2(式中、R及びR’は独立して、H又はメチルであり、mは8~24の整数である)に一般に対応するもの)、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ドデシルジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)グリセリルトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、2(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アルコキシル化ラウリル(メタ)アクリレート、アルコキシル化フェノール(メタ)アクリレート、アルコキシル化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(sdicyclopentadienyl)(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ノニルフェノール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクチルデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレートとしても知られている)、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールエチルエーテル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、フェノキシエタノール(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールブチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジ-トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシル化(例えばエトキシル化、プロポキシル化)グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0103】
本発明の硬化性組成物の成分(c)に使用するのに適したエチレン性不飽和官能基を含む他の種類の重合性有機物質には、ビニルエステル、1,1-ジエステル-1-アルケン、1,1-ジケト-1-アルケン、1-エステル-1-ケト-1-アルケン及びイタコネート(icatonate)(メチレンマロネート及び/又はメチレンベータ-ジケトンを含む)が含まれる。
【0104】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、硬化性組成物の成分(c)を構成する重合性有機物質(複数可)は、硬化性組成物の成分(a)及び成分(b)を構成する多段ポリマー(複数可)及び(メタ)アクリルポリマー(複数可)(P1)と相溶性となるように選択される。本明細書に用いられるように、「相溶性」という用語は、硬化性組成物の成分が組み合わされた場合に、硬化性組成物がゲル化しないこと、又は粘度が許容できない程度までに増加しないことを意味する。
【0105】
例えば本発明の特定の実施形態によれば、硬化性組成物の様々な成分が、25℃で最初に調製した硬化性組成物が、25℃で初期粘度(好ましくは25℃で10,000mPa.s(cP)以下、8000mPa.s(cP)以下、6000mPa.s(cP)以下、5000mPa.s(cP)以下、4000mPa.s(cP)以下、3000mPa.s(cP)以下又は2000mPa.s(cP)以下の初期粘度)を有し、粘度が25℃で7日間放置した後に20%超、15%超、又は10%超、又は5%超増加しないように選択される。粘度は、25℃で、27スピンドル(スピンドル速度は粘度に応じて典型的には20~200rpmで変化する)を使用するBrookfield粘度計、モデルDV-IIを用いて測定する。
【0106】
本発明の特定の有利な実施形態によれば、硬化性組成物の成分(c)として利用される重合性有機物質又は重合性有機物質の混合物は、有機物質の物理化学的溶解特性(溶媒和能とも呼ばれる)を反映するそのハンセン溶解度パラメータに基づいて選択される。ハンセン溶解度パラメータは、「Hansen Solubility Parameters: A user’s handbook」第2版(2007)Boca Raton、Fla.:CRC Press.ISBN 978-O-8493-7248-3という題名の著作物でCharles Hansenが提唱したアプローチに従って計算することができる。このアプローチによれば、「ハンセンパラメータ」と呼ばれる3つのパラメータ、すなわち、δd、δp及びδhは、与えられた分子に対する溶媒の挙動を予測するのに十分である。MPa1/2で表されるパラメータδdは、分子間の分散力、すなわちファンデルワールス力のエネルギーを定量化する。MPa1/2で表されるパラメータδpは、分子間双極子相互作用のエネルギーを表す。最後に、MPa1/2で表されるパラメータδhは、分子間水素結合に由来するエネルギー、すなわち水素結合を介して相互作用する能力を定量化する。3つのパラメータの二乗の和は、ヒルデブランド溶解度パラメータ(δtot)の二乗に相当する。
【0107】
成分(c)は、本発明の特定の実施形態において、25℃における18.7MPa1/2~21.7MPa1/2のハンセン溶解度パラメータδtotを有する。さらなる実施形態において、成分(c)は、25℃において、9MPa1/2~13MPa1/2、好ましくは9MPa1/2~10.5MPa1/2のδp値、25℃において、4MPa1/2~11MPa1/2、好ましくは5MPa1/2~10MPa1/2のδh値、又は25℃において12.9MPa1/2~16.9MPa1/2のδd値の少なくとも1つを有する。
【0108】
適切な重合性有機物質には、グリシジルエーテルのような、カチオン重合が可能なエポキシ官能化有機物質が含まれる。モノ-、ジ-、トリ-及びポリグリシジルエーテル化合物、並びに例えばアルキルカルボン酸残基、アルキルシクロアルキルカルボン酸残基及びジアルキルジカルボン酸残基などのカルボン酸の残基を含むものを含む脂環式エーテル化合物が使用され得る。成分(c)として用いることができる適切なエポキシ官能化有機物質には、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルー3’、4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-1,4-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキシド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキシサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレングリコールのジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロジオクチルフタレート、エポキシヘキサヒドロ-ジ-2-エチルヘキシルフタレート、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールのような脂肪族多価アルコールに1種以上のアルキレンオキシドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール又はこれらの化合物にアルキレンオキシドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、高級脂肪酸のグリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアリン酸、エポキシオクチルステアリン酸、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化ポリブタジエンが挙げられる。
【0109】
成分(c)に使用できる他のカチオン重合性有機物質の例としては、トリメチレンオキシド、3,3-ジメチルオキセタン、3,3-ジクロロメチルオキセタン、3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン及びビス(3-エチル-3-メチルオキシ)ブタンなどのオキセタン、テトロヒドロフラン及び2,3-ジメチルテトラヒドロフランのようなオキソラン、トリオキサン、1,3-ジオキソラン及び1,3,6-トリオキサンシクロオクタンなどの環状アセタール、β―プロピオラクトン及びε-カプロラクトンのような環状ラクトン、エチレンスルフィド、1,2-プロピレンスルフィド及びチオエピクロロヒドリンなどのチイラン、3,3-ジメチルチエタンのようなチエタン、エチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコ-ルジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテルのようなビニルエーテル、エポキシ化合物及びラクトンの反応によって得られるスピロオルトエステル、脂肪族ビニルモノマー(例えばビニルシクロヘキサン)、イソブチレンなどのオレフィン、ブタジエンなどのジエン、ビニルアルキルエーテル、スチレン及びアルキルスチレンなどのビニル芳香族モノマー、(メタ)アクリルニトリル及びポリブタジエンなどの不飽和ポリマーのようなエチレン性不飽和化合物、上記有機物質の誘導体などが挙げられ、そのうちの少なくともいくつかは、フリーラジカル機構によっても重合することができる。
【0110】
本発明の様々な実施形態によれば、成分(c)は、テトラヒドロフリルメチルメタクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、平均で約6~約15個のエチレンオキシド単位を含むメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、約3~約7個のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、約2~約6個のエチレンオキシド単位を含むエトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、約1~約12個のエチレンオキシド単位を含むエトキシプロピル化ビスフェノールAジメチルメタクリレート、トリシクロデカンメタノールジアクリレート、ジシクロデカンジメタノールジアクリレート、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー及びそれらの組合せからなる群から選択される1種以上の重合性有機物質を含むか、これから本質的になるか、又はこれからなる。
【0111】
光開始剤
本発明の特定の実施形態において、本明細書に記載される硬化性組成物は、少なくとも1種の光開始剤を含み、放射エネルギーで硬化可能である。光開始剤は、放射線(例えば化学線)に曝露されると、硬化性組成物中に存在する重合性有機物質(例えばモノマー重合性有機物質並びにオリゴマー重合性有機物質)の反応及び硬化を開始する種を形成する任意の種類の物質と考えることができる。適切な光開始剤は、フリーラジカル光開始剤及びカチオン光開始剤並びにそれらの組み合わせの両方を含む。
【0112】
フリーラジカル重合開始剤は、照射されるとフリーラジカルを形成する物質である。
【0113】
硬化性組成物が、(メタ)アクリレート官能基などの重合性(反応性)エチレン性不飽和官能基を含有する重合性有機物質を含有する場合、フリーラジカル光開始剤を使用することが特に好ましい。本発明の硬化性組成物における使用に適した非限定的な種類のフリーラジカル光開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインエーテル、アセトフェノン、ベンジル、ベンジルケタール、アントラキノン、ホスフィンオキシド、α-ヒドロキシケトン、フェニルグリオキシレート、α-アミノケトン、ベンゾフェノン、チオキサントン、キサントン、アクリジン誘導体、フェナゼン誘導体、キノキサリン誘導体及びトリアジン化合物が挙げられる。特定の適切なフリーラジカル光開始剤の例としては、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-ベンズ(benzy)アントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1,2-ベンゾ-9,10-アントラキノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α-メチルベンゾイン、α-フェニルベンゾイン、ミヒラーズケトン、2,2-ジアルコキシベンゾフェノン及び1-ヒドロキシフェニルケトンなどのアセトフェノン、ベンゾフェノン、4,4’-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アセトフェノン、2,2-ジエチルオキシアセトフェノン、ジエチルオキシアセトフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、1,5-アセトナフチレン、エチル-p-ジメチルアミノベンゾエート、ベンジルケトン、α-ヒドロキシケト、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパノン、オリゴマーα-ヒドロキシケトン、ベンゾイルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート、アニソイン、アントラキノン、アントラキノン-2-スルホン酸、ナトリウム塩一水和物、(ベンゼン)トリカルボニルクロム、ベンジル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン/1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(50/50ブレンド)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4-ベンゾイルビフェニル、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、カンファーキノン、2-クロロチオキサンテン-9-オン、ジベンゾスベレノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジメチルベンジル、2,5-ジメチルベンゾフェノン、3,4-ジメチルベンゾフェノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド/2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(50/50ブレンド)、4’-エトキシアセトフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、フェロセン、3’-ヒドロキシアセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、3-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、メチルベンゾイルホルメート、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、フェナントレンキノン、4’-フェノキシアセトフェノン、(クメン)シクロペンタジエニル鉄(ii)ヘキサフルオロホスフェート、9,10-ジエトキシ及び9,10-ジブトキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、チオキサンテン-9-オン並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない
【0114】
適切なカチオン性光開始剤には、化学線のような放射線に曝露されると、硬化性組成物中のモノマー及び(存在する場合)オリゴマー重合性有機物質の反応を開始するカチオン(例えばブレンステッド酸又はルイス酸)を形成する任意の種類の光開始剤が含まれる。例えばカチオン性光開始剤は、カチオン部分及びアニオン部分から構成されることができる。光開始剤分子のカチオン部分は、UV放射の吸収に関与することができ、一方、この分子のアニオン部分は、UV吸収後に強酸になる。適切なカチオン性光開始剤には、例えばハロニウム塩、ヨードニウム塩(例えばビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムペルフルオロ-1-ブタンスルホネートのようなジアリールヨードニウム塩)又はスルホニウム塩(例えばトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートのようなトリアリールスルホニウム塩);スルホキソニウム塩;及びジアゾニウム塩のような弱い求核性のアニオンを有するオニウム塩が含まれる。メタロセン塩は、別の種類の適切なカチオン性光開始剤である。
【0115】
光開始剤の量は、他の要因の中でも、選択される光開始剤(複数可)、硬化性組成物中に存在する重合性有機物質(モノマー及びオリゴマー)の量及び種類、使用される放射線源及び放射線条件に応じて適宜変更され得る。しかし、典型的には、光開始剤の量は、硬化性組成物の総重量に基づいて、0.05~5重量%、好ましくは0.1~2重量%であることができる。
【0116】
本発明の特定の実施形態において、本明細書に記載される硬化性組成物は、開始剤を全く含まず、電子線(EB)エネルギーで(少なくとも部分的に)硬化可能である。他の実施形態において、本明細書に記載される硬化性組成物は、加熱又は促進剤の存在下で分解し、かつ、化学的に(すなわち、硬化性組成物を放射線に曝露させなくても)硬化可能な、少なくとも1種のフリーラジカル開始剤を含む。加熱又は促進剤の存在下で分解する少なくとも1種のフリーラジカル開始剤は、例えば、過酸化物又はアゾ化合物を含むことができる。この目的に適した過酸化物には、少なくとも1つのペルオキシ(-O-O-)部分を含む任意の化合物、特に有機化合物、例えばジアルキル、ジアリール及びアリール/アルキルペルオキシド、ヒドロペルオキシド、過炭酸塩、過エステル、過酸、アシルペルオキシドなどが含まれる。少なくとも1種の促進剤は、例えば少なくとも1種の第三級アミン及び/又はM含有塩(例えば遷移M(例えば鉄、コバルト、マンガン及びバナジウムなど並びにそれらの組み合わせ)含有カルボン酸塩)をベースとする1種以上の他の還元剤を含み得る。促進剤(複数可)は、硬化性組成物を加熱又は焼成する必要なく硬化性組成物の硬化が達成されるように、活性フリーラジカル種を生成するために、室温又は周囲温度でフリーラジカル開始剤の分解を促進するように選択されることができる。他の実施形態では、促進剤は存在せず、硬化性組成物は、フリーラジカル開始剤の分解を引き起こし、硬化性組成物中に存在する重合性化合物の硬化を開始するフリーラジカル種を生成するのに有効な温度まで加熱される。
【0117】
したがって、本発明の様々な実施形態において、本明細書に記載される硬化性組成物は、放射線硬化(例えばLED硬化をはじめとする紫外線放射又は電子線硬化)、化学硬化(加熱又は促進剤の存在下で分解するフリーラジカル開始剤を用いる、例えば、過酸化物硬化)、加熱硬化又はそれらの組合せからなる群から選択される技術によって硬化可能である。例えば硬化性組成物は、最初に硬化性組成物を放射線(例えば紫外線放射)に曝露して、部分的に硬化された物品を得、次いで、これを高温で加熱して、より完全な硬化(すなわち、部分的に硬化された物品中に存在する重合種のさらなる反応)をもたらすことによって硬化され得る。
【0118】
その他の添加剤/成分
本発明の硬化性組成物は、任意選択的に、上述の成分の代わりに、又はそれに加えて、1種以上の添加剤を含むことができる。このような添加剤には、酸化防止剤/光安定剤、光遮断剤/吸収剤、重合阻害剤、発泡阻害剤、流動又はレベリング剤、着色剤、顔料、分散剤(湿潤剤、界面活性剤)、スリップ添加剤、充填剤、連鎖移動剤、チキソトロピー剤、艶消剤、衝撃改質剤(既に言及されている多段ポリマー及びオリゴマー重合性有機物質以外)、ワックス又は他の様々な添加剤(コーティング、シーラント、接着剤、成形、3D印刷又はインクアートで従来利用されている添加剤のいずれかを含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
特に酸素又は他の酸化剤の存在下で、硬化性組成物の早期ゲル化又は硬化から保護するために、1種以上の酸化防止剤を硬化性組成物に含めてもよい。当技術分野で知られた酸化防止剤のいずれも、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、キノン型酸化防止剤及びそれらの組合せを利用することができる。
【0120】
適切なフェノール系酸化防止剤の例としては、ヘキサメチレンビス[(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド]、4,4’-チオビス(6-tert-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-5-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス[3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-sec-ブチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス[(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]及びn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ブタンを挙げることができる。ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は好ましい酸化防止剤の例である。
【0121】
適切なリン系酸化防止剤の例としては、ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス[2-tert-ブチル-4-(3-tert-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル]ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、及び4-[3-[(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン)-6-イルオキシ]プロピル]-2-メチル-6-tert-ブチルフェノールなどのホスホナイトを挙げることができる。
【0122】
ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MEHQ)のようなキノン型酸化防止剤も使用できる。フェノチアジン(RTZ)及びビタミンEは、本発明において有用な他の適切な酸化防止剤の例である。
【0123】
典型的には、硬化性組成物の重量に基づいて、1種以上の酸化防止剤を、最大4重量%、例えば0.05~2重量%の総量で硬化性組成物中に含むことができる。
【0124】
本発明の硬化性組成物は、硬化性組成物が特に硬化性組成物の光硬化を含む三次元印刷法において樹脂として使用されるべき場合には、1種以上の光遮断剤(当技術分野では吸収剤と呼ばれることもある)を含むことができる。光遮断剤(複数可)は、例えば非反応性顔料及び染料をはじめとする、三次元印刷技術において既知の任意のそのような物質であることができる。光遮断剤は、例えば可視光遮断剤又は紫外線遮断剤であることができる。適切な光遮断剤の例としては、二酸化チタン、カーボンブラック、並びにヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、オキサニリド、ベンゾフェノン、チオキサントン、ヒドロキシフェニルトリアジン、スーダンI、ブロモチモールブルー、2,2’-(2,5-チオフェンジイル)ビス(5-tert-ブチルベンゾオキサゾール)(商標「Benetex OB Plus」で販売されている)及びベンゾトリアゾール紫外線吸収剤などの有機紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
光遮断剤の量は、所望され得るように又は特定用途に適切であるように変化させてもよい。一般的に言えば、硬化性組成物が光遮断剤を含む場合、光遮断剤は硬化性組成物の重量に基づいて0.001~10重量%の濃度で存在する。
【0126】
有利には、本発明の硬化性組成物は、溶媒を含まないように、すなわち、あらゆる非反応性揮発性物質(大気圧で150℃以下の沸点を有する物質)を含まないように配合することができる。例えば本発明の硬化性組成物は、硬化性組成物の総重量に基づいて、非反応性溶媒をほとんど又は全く含まなくてよく、例えば10%未満又は5%未満又は1%未満又は0%でさえある非反応性溶媒しか含まないことができる。このような溶媒の少ない又は低溶媒組成物は、例えば低粘度反応性希釈剤(モノマー重合性有機物質など)をはじめとする種々の成分を使用して配合することができ、これらは、溶媒が存在しなくても、硬化性組成物の粘度が十分に低くなり、その結果硬化性組成物は、比較的薄く、均一な層を形成するように、基材表面に適切な塗布温度で容易に塗布することができるように選択される。
【0127】
本発明の好ましい実施形態において、硬化性組成物は25℃で液体である。本発明の様々な実施形態において、本明細書に記載される硬化性組成物は、25℃で、27スピンドルを用いる(スピンドル速度は、粘度に応じて、典型的には20~200rpmで変化する)Brookfield粘度計、モデルDV-IIを用いて測定したときに、10,000mPa.s(cP)未満、5000mPa.s(cP)未満、又は4000mPa.s(cP)未満、又は3000mPa.s(cP)未満、又は2500mPa.s(cP)未満、又は2000mPa.s(cP)未満、又は1500mPa.s(cP)未満、又は1000mPa.s(cP)未満、又は500mPa.s(cP)未満の粘度を有するように配合される。本発明の有利な実施形態において、硬化性組成の粘度は、25℃で200~5000mPa.s(cP)、又は200~2000mPa.s(cP)、又は200~1500mPa.s(cP)、又は200~1000mPa.s(cP)である。比較的高い粘度は、硬化性組成物が25℃を超えて加熱される用途、例えば加熱された樹脂バットを有する機械を使用する三次元印刷操作などにおいて、満足できる性能を提供することができる。
【0128】
硬化性組成物の配合
成分(a)、(b)、(c)及び(存在する場合)(d)の相対重量割合は、特に重要であるとは考えられておらず、選択される特定の成分並びに硬化性組成物及びそれから得られる硬化物品において求められる特性に基づいて、所望に応じて変化させることができる。例えば特定の実施形態における硬化性組成物は、0.5~25重量%の成分(a)、5~80重量%の成分(b)、10~95重量%の成分(c)、及び0.1~10重量%の成分(d)を含むことができ、ここで、(a)、(b)、(c)及び(d)の重量は、合計して100%に等しい(これは(a)、(b)、(c)及び(d)の各々についての前述の重量%範囲が、これらの成分の組み合わせた重量に基づいており、(a)、(b)、(c)及び(d)に加えて成分を含み得る硬化性組成物の総重量に基づくものではないことを意味する。)。
【0129】
硬化性組成物中の(メタ)アクリルポリマー(P1)の量は、(c)成分中の多段ポリマーの粒子の分散を達成するのに有効な量とすることができる。一般的に言えば、本発明の好ましい実施形態において、(メタ)アクリルポリマー(P1)の濃度は、(メタ)アクリルポリマー(P1)の非存在下で達成される分散の程度と比較して、硬化性組成物中の多段ポリマー粒子の分散を改善するのに十分である。本発明の様々な実施形態において、多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の相対重量は、(メタ)アクリルポリマーが多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の総重量の少なくとも5重量%、少なくとも7重量%又は少なくとも10重量%の量で存在するように制御され得る。他の実施形態では、(メタ)アクリルポリマー(P1)は、硬化性組成物中に、多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の総重量の30重量%以下の量で存在する。例えば硬化性組成物は、多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマーP1の合計重量に基づいて、(メタ)アクリルポリマー(P1)を5重量%~30重量%又は5重量%~20重量%含有することができる。
【0130】
好ましい実施形態において、硬化性組成物に採用される1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)は、成分(c)中に25℃で可溶性である。すなわち、(c)成分は(メタ)アクリルポリマー(複数可)の溶媒として機能する。「可溶性」とは、ある時間内に(メタ)アクリルポリマー(複数可)(P1)が成分(c)に接触すると溶解し、(メタ)アクリルポリマー(複数可)(P1)の成分(c)中の溶液が得られることを意味する。成分(c)中の(メタ)アクリルポリマー(複数可)(P1)の溶解性は、この2つの材料を撹拌下、25℃で混合し、混合物を目視検査することによって簡単に試験することができる。
【0131】
好ましい実施形態によれば、硬化性組成物の成分は、硬化性組成物が少なくとも0℃~60℃の温度範囲で液体となるように選択される。この文脈で使用されるように、「液体」という用語は、硬化性組成物の一部(特に、多段ポリマー)が、それがなければ液体であるマトリックス中に小型でよく分散した粒子の形態で存在し得る可能性を排除しない。
【0132】
一般的に言えば、本発明による硬化性組成物は、個々の成分を組み合わせることによって調製することができる。先に述べたように、多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)は、例えば(メタ)アクリルポリマー(P1)が、硬化性組成物に別々に、又は段階の一つとして調製される多段重合方法を通して得られるポリマー組成物の一部として一緒に供給され得る。硬化性組成物はまた、マスターバッチアプローチを使用して製造され得、ここで、多段ポリマー、(メタ)アクリルポリマー(P1)及び比較的少量の重合性有機物質から構成されるマスターバッチは、最初に調製され、これは、後に、さらなる重合性有機物質及び場合によって他の成分(光開始剤など)と組み合わされて、硬化物品の製造に使用される最終硬化性組成物を生じる。
【0133】
硬化性組成物の用途
本明細書に記載される硬化性組成物は、フリーラジカル重合、カチオン重合又は他の種類の重合によって硬化されるべき組成物であることができる。特別の実施形態において、硬化性組成物は、光硬化される(すなわち、光、特に可視光又はUV光などの化学放射への曝露によって硬化される)。硬化性組成物の最終使用用途には、インク、コーティング、接着剤、3D印刷樹脂、成形樹脂、シーラント、複合材、帯電防止層、電子用途、リサイクル可能な材料、刺激を検出し応答することができるスマート材料、及び生物医学材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0134】
本明細書に記載される硬化性組成物から調製された硬化した組成物を、例えば三次元物品(ここで、三次元物品は硬化した組成物から本質的になるか、又はそれからなることができる)、被覆物品(ここで、基材が硬化した組成物によって完全に包まれるカプセル化された物品をはじめとする、硬化した組成物の1つ以上の層で基材が被覆される)、積層又は接着物品(ここで、物品の第1の要素は、硬化した組成物によって第2の要素に積層されるか、又は接着される)、複合物品又は印刷物品(ここで、グラフィックなどは基材、例えば神、プラスチック、M-含有基材上に硬化した組成物を使用して刻み込まれる)に使用することができる。
【0135】
本発明による硬化性組成物の硬化は、フリーラジカル及び/又はカチオン重合などの任意の適切な方法によって実施することができる。フリーラジカル開始剤(例えば光開始剤、過酸化物開始剤)のような1種以上の開始剤が硬化性組成物中に存在してもよい。硬化前に、硬化性組成物は、例えば噴霧、ナイフコーティング、ローラーコーティング、流延、ドラムコーティング、浸漬など及びそれらの組合せによって、任意の既知の従来の方法で基材表面に塗布され得る。転写方法を用いた間接塗布も用いることができる。基材は、それぞれ、高い表面エネルギー基材又は低い表面エネルギー基材、例えば金属基材又はプラスチック基材のような、商業的に適切な任意の基材であることができる。基材は、金属、紙、厚紙、ガラス、ポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、及びそれらのブレンドのような熱可塑性物質、複合材、木材、皮革及びそれらの組み合わせを含むことができる。接着剤として使用される場合、硬化性組成物は、2つの基材の間に配置され、次いで硬化され得、硬化した組成物はそれによって基材を互いに結合して、接着物品を提供する。本発明による硬化性組成物はまた、バルクの様式で成形又は硬化され得る(例えば硬化性組成物は適切な型に流延され、次いで硬化され得る)。
【0136】
硬化は、例えば硬化性組成物を加熱することによって、及び/又は可視又はUV光、赤外線、及び/又は電子線放射のような放射線源に硬化性組成物を曝露することによって、硬化性組成物にエネルギーを供給することによって加速され、又は促進され得る。したがって、硬化した組成物は、硬化によって形成された硬化性組成物の反応生成物とみなすことができる。硬化性組成物は、化学線への曝露によって部分的に硬化されてもよく、部分的に硬化された物品を加熱することによってさらなる硬化が達成される。例えば硬化性組成物から形成された物品(例えば3D印刷物品)を5分~12時間の間40℃~120℃の温度で加熱することができる。
【0137】
本発明に従う硬化性組成物の複数の層を基材表面に塗布することができ、複数の層は(例えば単一用量の放射線への曝露によって)同時に硬化されてもよく、又は硬化性組成物の追加の層の塗布前に各層が連続的に硬化されてもよい。
【0138】
本明細書に記載される硬化性組成物は、三次元印刷用途における樹脂としての使用に特に適している。三次元(3D)印刷(付加製造とも呼ばれる)は、構成素材の増加によって3Dデジタルモデルが製造される方法である。3D印刷された物体は、3D物体の断面に対応する二次元(2D)層又はスライスの連続構築を通して、物体のコンピュータ支援設計(CAD)データを利用することによって作成される。ステレオオリソグラフィー(SL)は、各2D層を形成するために放射線に選択的に曝露することにより液体樹脂を硬化させる付加製造の一種である。放射線は、電磁波又は電子線の形態であり得る。最も一般的に適用されるエネルギー源は、紫外線、可視光線又は赤外線である。
【0139】
本明細書に記載される本発明の硬化性組成物は、3D印刷用樹脂配合物、すなわち、3D印刷技術を用いて三次元物品の製造に使用するために意図された組成物として使用することができる。このような三次元物品は、独立/自立的であることができ、硬化された本発明に従った組成物から本質的になるか、又はこれからなることができる。三次元物品はまた、上記のような硬化した組成物から本質的になるか、又はそれからなる少なくとも1つの要素及びそのような硬化組成物以外の1種以上の材料(例えば金属成分又は熱可塑性成分)から構成される少なくとも1つの追加の要素からなる複合体であることができる。本発明の硬化性組成物は、デジタル光印刷(DLP)において特に有用であるが、他の種類の三次元(3D)印刷方法(例えばSLA、インクジェット)もまた、発明の硬化性組成物を用いて実施され得る。本発明の硬化性組成物は、本発明の硬化性組成物から形成された物品のための足場又は支持体として機能する他の材料と共に、三次元印刷操作において使用され得る。
【0140】
本発明に従った硬化性組成物を用いて三次元物品を作成する方法は、以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に本発明による硬化性組成物の第1の層を提供する(例えば被覆する)ステップ、
b) 少なくとも部分的に第1の層を硬化させて、硬化した第1の層を提供するステップ、
c) 硬化した第1の層上に硬化性組成物の第2の層を提供する(例えば被覆する)ステップ、
d) 少なくとも部分的に第2の層を硬化させて、硬化した第1の層に接着した硬化した第2の層を提供するステップ、及び
e)ステップc)及びd)を所望の回数繰り返して、三次元物品を構築するステップ
を含むことができる。
【0141】
硬化ステップは、場合によっては、硬化性組成物中に存在する成分に依存する任意の適切な手段によって実施され得るが、本発明の特定の実施形態において、硬化は、硬化すべき層を有効量の放射線、特に化学線(例えば電子線放射、UV放射、可視光など)に曝すことによって達成される。熱硬化を起こすために、形成される三次元物品を加熱してもよい。
【0142】
したがって、様々な実施形態において、本発明は、以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に本発明に従った液体の形態の硬化性組成物の第1の層を提供する(例えば被覆する)ステップ、
b) 第1の層を化学線に像様に露光して、第1の露光された画像形成された断面を形成するステップであって、放射線は、露光された領域の層の少なくとも部分的な硬化(例えば硬化性組成物中に最初に存在する重合性官能基の転化率%によって測定した場合少なくとも50%の硬化)を引き起こすのに十分な強度及び持続時間を有するステップ、
c) 先に露光された画像形成された断面上に硬化性組成物の追加の層を提供する(例えば被覆する)ステップ、
d) 追加の層を化学線に像様に露光して、追加の画像形成された断面を形成するステップであって、放射線は、露光領域における追加の層の少なくとも部分的な硬化(例えば硬化性組成物中に最初に存在する重合性官能基の転化率%によって測定した場合少なくとも50%の硬化)を引き起こし、かつ先に露光された画像形成された断面への追加の層の接着性を引き起こすのに十分な強度及び持続時間を有するステップ、
e) ステップc)及びd)を所望の回数繰り返すして、三次元物品を構築するステップ
を含む方法を提供する。
【0143】
したがって、本発明の硬化性組成物は、三次元物体の構築を段階的又は層ごとに実施する方法をはじめとする、様々な種類の三次元製造又は印刷技術の実践において有用である。このような方法において、層形成は、可視光、UV又は他の化学線照射などの放射線への曝露の作用下で、硬化性組成物の凝固(硬化)によって行うことができる。例えば成長している物体の上面、あるいは成長している物体の底面に新しい層を形成することができる。本発明の硬化性組成物はまた、方法が連続的に実施される付加製造による三次元物体の製造方法において有利に使用され得る。例えば前記物体は液体界面から製造され得る。この種の適切な方法は、当技術分野で「連続的液体界面(又は相間)生成物(又は印刷)」(「CLIP」)方法と呼ばれることがある。そのような方法は、例えばWO2014/126830号、WO2014/126834号、WO2014/126837号;及びTumblestonら、「Continuous Liquid Interface Production of 3D Objects」、Science 347巻6228号1349~1352頁(2015年3月20日)に記載されており、これらの開示内容は全ての目的のために全体が参照により本明細書に援用される。
【0144】
ステレオリソグラフィが酸素透過性ビルドウィンドウの上で行われる場合、本発明に従った硬化性組成物を用いる物品の製造は、それが製造されるにつれてウィンドウと硬化した組成物の表面との間の硬化性組成物の薄い未硬化層である酸素含有「デッドゾーン」を製造することにより、CLIP手法において可能にすることができる。このような方法では、硬化(重合)が分子状酸素の存在によって阻害される硬化性組成物が使用され、このような阻害は、例えばフリーラジカル機構によって硬化することができる硬化性組成物において典型的に観察される。所望のデッドゾーンの厚さは、光子束並びに硬化性組成物の光学特性及び硬化特性など様々な制御パラメータを選択することで維持することができる。CLIP方法は、液体形態で維持された硬化性組成物の浴の下の、酸素透過性で化学線(例えばUV)に対して透明なウィンドウを通して、化学線(例えばUV)画像(例えばデジタル光処理画像形成ユニットによって生成され得る)の連続シーケンスを投影することによって進行する。前進(成長)する物品の下の液体界面は、ウィンドウの上に作られたデッドゾーンによって維持される。硬化物品は、硬化性組成物浴からデッドゾーンの上方に連続的に引き出され、硬化性組成物浴は、硬化され、成長する物品に組み込まれる硬化性組成物の量を補うために、追加量の硬化性組成物を浴中に供給することによって補充され得る。
【0145】
例えば本明細書に記載される硬化性組成物を用いた三次元物品の印刷は、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 担体及びビルド表面を有する光学的に透明な部材を提供するステップであって、担体及びビルド表面はその間にビルド領域を規定するステップ、
b) 硬化性組成物をビルド領域に充填するステップ、
c) 連続的又は間欠的にビルド領域に化学線を照射して、硬化性組成物から硬化した組成物を形成するステップ、及び
d) 連続的又は間欠的に担体を進ませ、ビルド表面から遠ざけて、硬化した組成物から三次元物品を形成するステップ
を含む方法によって実施され得る。
【0146】
また、本発明は、(a)担体及びビルドプレートを提供するステップであって、ビルドプレートは半透過性部材を含み、半透過性部材はビルド表面及びビルド表面とは別の供給表面を含み、ビルド表面及び担体はその間にビルド領域を規定し、供給表面は重合阻害剤と流体接触するステップ、その後(同時及び/又は順次)の(b)本発明に従った硬化性組成物をビルド領域に充填するステップであって、硬化性組成物はビルドセグメントと接触するステップ、(c)ビルドプレートを介してビルド領域を照射し、ビルド領域に固体の重合領域を形成するステップであって、液体フィルム剥離層は固体の重合領域とビルド表面との間に形成された硬化性組成物から構成され、液体フィルムの重合は重合阻害剤によって阻害されるステップ、及び(d)担体を進ませて、担体に付着した重合領域を固定ビルドプレート上のビルド表面から離し、重合領域とトップゾーンの間に続くビルド領域を作製するステップを含む三次元物品を形成する方法も提供する。一般に、この方法は、(e)ステップ(b)~(d)を続けるか、及び/又は繰り返し、互いに接着した重合領域の連続の又は繰り返しの堆積が三次元物品を形成するまで、前の重合領域に接着した後続の重合領域を生じさせることを含む。
【0147】
本発明の態様
本発明の特定の例示的な、非限定的な態様は、以下のように要約され得る。
【0148】
態様1:成分(a)、成分(b)、成分(c)、及び任意選択的に成分(d)を含むか、それらから本質的になるか、又はそれからなる硬化性組成物であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は成分(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーとも組成が異なる1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)であり、
c)成分(c)は1種以上の重合性有機物質であり、及び
任意成分(d)は1種以上の光開始剤である
硬化性組成物。
【0149】
態様2:成分(a)が、
i) 以下を含むか、以下から本質的になるか、又は以下からなる多段ポリマー、
A) 0℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(A1)を含む(A)段階のポリマー、
B) 少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含む(B)段階のポリマー
ii) 以下を含むか、以下から本質的になるか、又は以下からなる多段ポリマー
A) 10℃未満のガラス転移温度を有するポリマー(A1)を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる(A)段階のポリマー、
B) 少なくとも60℃のガラス転移温度を有するポリマー(B1)を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる(B)段階のポリマー、
C) 少なくとも30℃のガラス転移温度を有するポリマー(C1)を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる(C)段階のポリマーであって、成分(b)の一部を提供することができる(C)段階のポリマー
からなる群より選択される少なくとも1種の多段ポリマーを含む、態様1に記載の硬化性組成物。
【0150】
態様3:(B)段階ポリマーを(A)多段ポリマーにグラフトされている、態様2に記載の硬化性組成物。
【0151】
態様4:ポリマー(A1)及び(B1)が、(メタ)アクリルポリマー(P1)の組成とは異なる組成を有する(メタ)アクリルポリマーである、態様2又は3に記載の硬化性組成物。
【0152】
態様5:1種以上の(メタ)アクリルポリマーが、成分(c)に25℃で可溶性である、態様1~4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0153】
態様6:1種以上の(メタ)アクリルポリマーが少なくとも50重量%のメチルメタクリレートを含む、態様1~5のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0154】
態様7:成分(b)が少なくとも30℃のガラス転移温度を有する、態様1~6のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0155】
態様8:ポリマー(Al)がポリオルガノシロキサンであるか、又はイソプレン若しくはブタジエンに由来するポリマー単位を少なくとも50重量%含む、態様2~7のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0156】
態様9:成分(b)の1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)が、成分(a)の1種以上の多段ポリマーにグラフトされていない、態様1~8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0157】
態様10:成分(c)が、フリーラジカル重合性有機物質及びカチオン重合性有機物質からなる群から選択される少なくとも1種の重合性有機物質を含む、態様1~9のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0158】
態様11:成分(c)が、エチレン性不飽和有機物質、複素環含有有機物質、及びエチン性不飽和有機物質からなる群から選択される少なくとも1種の重合性有機物質を含む、態様1~10のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0159】
態様12:成分(c)が、少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化有機物質を含む、態様1~11のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0160】
態様13:成分(c)が、25℃において18.7MPa1/2~21.7MPa1/2のハンセン溶解度パラメータδtotを有する、態様1~12のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0161】
態様14:成分(c)が、25℃で9MPa1/2~13MPa1/2のδp値、25℃で4MPa1/2~11MPa1/2のδh値、又は25℃で12.9MPa1/2~16.9MPa1/2のδd値の少なくとも1つを有する、態様1~13のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0162】
態様15:成分(c)が、テトラヒドロフリルメタクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、平均で約6~約15個のエチレンオキシド単位を含むメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、約3~約7個のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、約2~約6個のエチレンオキシド単位を含むエトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、約1~約12個のエチレンオキシド単位を含むエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンメタノールアクリレート、ジシクロデカンジメタノールジアクリレート、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、態様1~14のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0163】
態様16:成分(c)が、少なくとも1種の重合軟化剤を含む、態様1~15のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0164】
態様17:少なくとも1種の重合軟化剤が、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリエーテルオリゴマー、エポキシ官能化オリゴマー及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、態様16に記載の硬化性組成物。
【0165】
態様18:成分(d)が、フリーラジカル光開始剤、カチオン性光開始剤及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の光開始剤を含む、態様1~17のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0166】
態様19:さらに、安定剤、光遮断剤、顔料及び染料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、態様1~18のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0167】
態様20:0.5~25重量%の成分(a)、5~80重量%の成分(b)、10~95重量%の成分(c)及び0.1~10重量%の成分(d)を含むか、それから本質的になるか又はそれからなり、(a)、(b)、(c)及び(d)の重量が合計で100%に等しい、態様1~19のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0168】
態様21:組成物が、少なくとも10重量%の成分(a)の含有率及び25℃で10,000mPa.s(cP)以下の粘度を有する、態様1~20のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0169】
態様22:成分(a)、成分(b)、及び成分(c)を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる硬化性組成物を硬化させることを含む、硬化物品を作成する方法であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は成分(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーとも組成が異なる1種以上の(メタ)アクリルポリマーであり、
c)成分(c)は1種以上のモノマー重合性有機物質であり、
硬化性組成物は、硬化性組成物を放射線に曝露することによって硬化される、方法。
【0170】
態様23:硬化物品が、三次元物品、コーティング、シーラント又は接着剤である、態様22に記載の方法。
【0171】
態様24:放射線が化学線又は電子線放射である、態様22又は23に記載の方法。
【0172】
態様25:硬化性組成物がさらに成分(d)を含み、成分(d)が1種以上の光開始剤である、態様22~24のいずれかに記載の方法。
【0173】
態様26:硬化性組成物を放射線に曝露した後、硬化性組成物から調製した物品を加熱するステップを実施する、態様22~25のいずれかに記載の方法。
【0174】
態様27:成分(a)、成分(b)及び成分(c)から構成される硬化性組成物を用いて三次元物品を印刷することを含む三次元物品を作製する方法であって、
a)成分(a)は1種以上の多段ポリマーであり、
b)成分(b)は成分(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーとも組成が異なる1種以上(メタ)アクリルポリマーであり、及び
c)成分(c)は1種以上のモノマー重合性有機物質である方法。
【0175】
態様28:三次元物品の印刷が層ごと又は連続的に行われる、態様27に記載の方法。
【0176】
態様29:三次元物品の印刷が少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に硬化性組成物の第1の層を提供するステップ、
b) 少なくとも部分的に第1の層を硬化させて、硬化した第1の層を提供するステップ、
c) 硬化した第1の層上に硬化性組成物の第2の層を提供するステップ、
d) 少なくとも部分的に第2の層を硬化させて、硬化した第1の層に接着した硬化した第2の層を提供するステップ、及び
e)ステップc)及びd)を所望の回数繰り返して、三次元物品を構築するステップ
を含む、態様27又は28に記載の方法。
【0177】
態様30:三次元物品の印刷が、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 表面上に液体形態の硬化性組成物の第1の層を提供するステップ、
b) 第1の層を化学線に画像様に露光して第1の露光した画像形成された断面を形成するステップであって、放射線は、露光領域(複数可)における第1の層の少なくとも部分的な硬化を引き起こすのに十分な強度及び期間を有するステップ、
c) 先に露光した画像形成された断面に液体形態の硬化性組成物の追加の層を提供するステップ、
d) 追加の層を化学線に画像様に露光して、追加の画像形成された断面を形成するステップであって、放射線は、露光領域(複数可)における追加の層の少なくとも部分的な硬化を引き起こし、かつ先に露光した画像形成された断面への追加の層の接着性を引き起こすのに十分な強度及び持続期間を有するステップ、
e) ステップc)及びd)を所望の回数繰り返して、三次元物品を構築するステップ
を含む、態様27~29のいずれかに記載の方法。
【0178】
態様31:三次元物品の印刷が、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a) 担体及びビルド表面を有する光学的に透明な部材を提供するステップであって、担体及びビルド表面はその間にビルド領域を規定するステップ、
b) 硬化性組成物をビルド領域に充填するステップ、
c) 連続的又は間欠的にビルド領域に化学線を照射して、硬化性組成物から硬化した組成物を形成するステップ、及び
d) 連続的又は間欠的に担体を進ませ、ビルド表面から遠ざけて、硬化した組成物から三次元物品を形成するステップ
を含む、態様27に記載の方法。
【0179】
態様32:三次元物品を印刷した後、三次元物品を加熱するステップを実施するか、又は該物品の連続的又は同時照射と組み合わせて加熱するステップを、化学線又はEB放射のいずれかで実施するか、又は該物品を照射するステップを、化学線又はEB放射のいずれかで実施する、態様27~31のいずれかに記載の方法。
【0180】
態様33:態様1~21又は36のいずれかに記載の硬化性組成物の調製に有用であるマスターバッチであって、成分(a)、(b)及び(c)を含むが、少なくとも1つの成分(c)でのさらなる希釈によって前記マスターバッチから調製される硬化性組成物よりも高い濃度の成分(a)+成分(b)((a)+(b)の合計)を有するマスターバッチ。
【0181】
態様34:態様1~21又は36のいずれかに記載の硬化性組成物を製造する方法であって、マスターバッチを少なくともある量の成分(c)と組み合わせることを含み、マスターバッチがマスターバッチから調製される硬化可能組成よりも高い濃度の成分(a)及び成分(b)を有する方法。
【0182】
態様35:三次元物品、コーティング、シーラント又は接着剤からなる群から選択される硬化物品における態様1~21又は36のいずれかに記載の硬化性組成物の使用。
【0183】
態様36:成分(b)の1種以上の(メタ)アクリルポリマー(P1)が、成分(a)の多段ポリマーの一部として存在し得る任意の(メタ)アクリルポリマーとも組成が異なる、態様1~21のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0184】
この明細書の中で、実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で記載されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりすることができることが意図され、認識されるであろう。例えば本明細書に記載される全ての好ましい特徴は、本明細書に記載される本発明の全ての態様に適用可能であることが認識されるであろう。
【0185】
いくつかの実施形態において、本明細書の発明は、硬化性組成物、硬化性組成物を用いる方法、又は硬化性組成物を用いて製造される物品の基礎的及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないあらゆる要素又は方法ステップを除外するものとして解釈することができる。さらに、いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に明記されていないあらゆる要素又は方法ステップを除外するものと解釈することができる。
【0186】
本発明は、具体的な実施形態を参照して本明細書に図示及び記載されているが、本発明は示された詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、特許請求の範囲の均等物の領域及び範囲内の詳細において、本発明から逸脱することなく、様々な修正を加えることができる。
【実施例】
【0187】
試験方法
ガラス転移温度
熱機械分析を実現できる装置でポリマーのガラス転移温度(Tg)を測定する。Rheometrics社から提供されているRDAII 10「RHEOMETRICS DYNAMIC ANALYSER」を使用した。熱機械分析は、適用される温度、ひずみ、又は変形の関数として、試料の粘弾性変化を正確に測定する。この装置は、温度変化の制御されたプログラムの間、歪を固定したまま、試料の変形を連続的に記録する。結果は、温度、弾性率(G’)、損失弾性率及びタンデルタの関数として、描画によって得られる。Tgは、タンデルタの微分値がゼロに等しいとき、タンデルタ曲線で読まれる、より高い温度値である。
【0188】
分子量
ポリマーの重量平均分子量(Mw)をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定する。
【0189】
粒径分析
多段重合後の一次粒子の粒径をZetasizerで測定する。MALVERN製のMalvern Mastersizer 3000を用いて、回収後のポリマー粉末の粒径を測定する。粉体の重量平均粒径、粒度分布及び微細粒子の比率の推定には、0.5~880μmの範囲を測定する、300mmレンズを装着したMalvern Mastersizer 3000装置を使用する。
【0190】
機械的特性
強度、伸び、弾性率及び破断時のエネルギーをはじめとする引張特性を、標準試験法ASTM D638を利用してInstron 5966を用いて測定する。ASTM D368は、成形又は機械加工されたドッグボーンとしての材料引張性能の評価に使用される規格であり、典型的には高い剛性を有する材料に使用される。この方法で試験した試料は、ASTM D638に従ってタイプIVの形状に成形する。試験方法の唯一の変数入力は、キャリパーで測定され、各標本試験の前に入力される試料の幅及び厚さである。
【0191】
耐衝撃性
Charpy及びIzod衝撃試験をはじめとするバルク耐衝撃性測定するための複数の標準試験がある。Izod衝撃試験は、ASTM D256を利用したZwick Roell HIT振子衝撃試験器を用いて実施する。ASTM D256に従って試験した試料は、切り欠き付き又は切り欠きなしの衝撃バーであることができ、以下の結果は、切り欠き付きIzodである。
【0192】
硬化条件
光硬化性配合物には、0.5~1重量%の樹脂光開始剤(典型的にはLambson社が販売するTPO-L又はBASF社が販売するIrgacure 819)が含まれる。これらの配合物は、各配合物に応じて各1~2回、液体を収容するシリコーン金型の各側を露光する約10m/分の12Wの395nm LEDランプ下で硬化させる。多くの場合、残留未硬化物質からのあらゆる潜在的な可塑剤効果を減少させるために、100℃で一晩光硬化部分を熱により後硬化させる。
【0193】
相溶性及び分散品質の向上例
初期相溶性及び分散品質を硬化性組成物の試料混合物の目視検査によって評価することができる。本発明に従わない種々の種類の衝撃改質剤は、(メタ)アクリレート官能化化合物のような重合性有機物質をベースとする硬化性組成物に組み込まれる場合、分離、沈降、及び凝集からクリーミング又はゲル化までの範囲の目に見える問題をしばしば引き起こすことが見出された。これらの問題を
図1に示す。
図1は、(左から右へ)凝集、分離及びゲル化を示す硬化性組成物を示す。
【0194】
本実施例において評価された衝撃改質剤(本発明の態様に従った多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の組み合わせである)は、視覚的適合性の問題を最小限に抑えながら、(メタ)アクリレート官能化化合物などの重合性有機物質をベースとする硬化性組成物に使用されるその能力が顕著であることが見出された。硬化性組成物中の重合性有機物質は、衝撃改質加剤と相溶するように選択されるという条件で、25重量%までの衝撃改質剤(多段ポリマー+(メタ)アクリルポリマー(P1))で生成された分散液は、2種類の安定な分散液(1つは外観が不透明で乳白色である(
図2、左の写真参照)ものであり、1つは半透明又は透明である(
図2、右の写真参照))のものであることを実証する。凝集、沈降又はゲル化のような本発明の硬化性組成物に用いられる衝撃改質剤との相溶性の問題を引き起こすことがある特定の重合性有機物質が存在するが、相溶性の系の範囲は、他の種類の衝撃改質剤を用いて遭遇するよりもはるかに制限の度合いが少ないことが見出されている。
【0195】
さらに、最終的な硬化系において、分散品質の向上を可視化できることが観察された。
図3に示すように、分散度の低い系は硬化して不均一な外観を形成することが多いが、分散度の高い系は均一な試料として硬化する(左の写真には分散品質が悪い硬化物品が見受けられ、右の写真には分散品質が改善された硬化物品が見受けられる)。
図4に示したAFM画像は、モノマーにおけるMSPの優れた分散を示している。
【0196】
少ない粘度上昇例
より定量的には、本発明による衝撃改質剤(多段ポリマー+(メタ)アクリルポリマー(P1))の添加による粘度の変化によって、相溶性及び分散品質を実証することができる。視覚的問題が示唆するであろうように、粘度の急上昇は従来の衝撃改質剤で多くみられる。相溶性の問題は粘度の上昇を引き起こし、特にゲル化が起こると、多くの最終使用用途で配合物が使用できなくなる原因となる。従来の衝撃改質剤を利用した試験では、粘度の急上昇により、このような衝撃改質剤物質を5~10重量%のレベルを越えて添加すると、(メタ)アクリレート官能化化合物をベースとする系は室温では機能できなくなった。
【0197】
改質剤の添加と共に安定な粘度が必要であるため、本発明の衝撃改質剤(多段ポリマー(MSP)及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の組み合わせ)は有利である。
図5に見られるように、衝撃改質剤の添加により粘度は上昇するが、これらの増加分は少なく、管理可能であり、最終粘度は、依然として所望され、かつ加工可能な範囲内にある。(メタ)アクリレート官能化成分と多段ポリマーとの相互作用は、初期粘度と共に、衝撃改質剤(多段ポリマー+(メタ)アクリルポリマー(P1))の充填量が多いほど(メタ)アクリレートM5の増加に見られるような粘度の増加に影響することに注目されたい。
【0198】
靭性/影響の増大例
相溶性及び分散品質の向上により、本発明に従った多段ポリマー及び(メタ)アクリルポリマー(P1)の両方を利用する硬化性組成物配合物は、高い機械的性能を維持しながら、靭性の増加を達成することができる。
図6は、前記硬化性組成物から調製した硬化物品における耐衝撃性が分散品質に影響されることを確認する試験の結果を示している。さらに、10重量%の多段ポリマー+(メタ)アクリルポリマー(P1)を、以下に示すF1対照及びF2対照(表1)などの完全な配合物に混入させると、同一系における従来の改質剤(CM)と比較して、耐衝撃性及び破断時のエネルギーが有利に増大することが実証される(表2)。表1に挙げた最初の5つの成分は、アルケマ社のサルトマー事業で販売されている市販品である。Irgacure(R) 819は、BASF社が販売する光開始剤で、樹脂100部当たりに添加された重量%(phr)で定量されている。
【0199】
表2の引張特性は、Instron 5966で試験したASTM D638に従った3種類のIV型成形引張バーの平均であり、一方、耐衝撃性は、Zwick Roell HIT振子衝撃試験機でのASTM D256に従った4つの切り欠き付きIzod衝撃バーの平均である。表2では、F1対照及びF2対照は、衝撃改質剤を加えることなく、正確には表1に示す通りである。CMは、本発明ではない衝撃改質剤であるコア及びシェルの比較材料を指す。例えばCM#3はWacker Chemieから市販されているGeniopearl P52であり、平均一次粒径が200nmのPMMAシェルを有するシリコーンコアを含む。MSPは本発明の多段ポリマーであり、全ての目的のために参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2017/0369696号に従って調製される。表2では、CM及びMSPを、それぞれ、10重量%でF1対照及びF2対照に添加した。
【0200】
【0201】
【0202】
相溶性範囲の例
先行研究では、特定の系で靭性を高める衝撃改質剤が示されている。本発明で使用される多段ポリマーと(メタ)アクリルポリマー(P1)との組み合わせは、重合性有機物質の溶解度パラメータによって定量化することができ、一般に支配される、さまざまな許容可能な重合性有機物質(例えば(メタ)アクリレート官能化化合物)の相溶性を実証する。この実施例では、水素結合溶解度パラメータ(δh)、極性溶解度パラメータ(δp)、及び分散溶解度パラメータ(δd)からなるハンセン溶解度パラメータを利用する。それらはポリマーとそれらの溶媒間の相互作用を評価するのに効果を発揮することが知られている。(Hansen C.M、「The three-dimensional solubility parameters - key to paint component affinities: I. Solvents, Plasticizers, Polymers and Resins」、J. Paint Technol.39(511)、104-117、(1967)、Hansen C.M、「The three-dimensional solubility parameters - key to paint component affinities: II.Dyes, Emulsifiers, Mutual Solubility and Compatibility, and Pigments」、J. Paint Technol.39(511)、505-510、(1967)、Hansen C.M、「The three-dimensional solubility parameters - key to paint component affinities: III. Independent Calculation of the parameter Components」、J. Paint Technol.39(511)、510-515、(1967))
【0203】
溶解度を予測する最初のパラメータδiはヒルデブランドによって導入され、完全気化のエネルギーΔvaphと凝縮相のモル体積viとの比と定義されるci凝集エネルギーの平方根である。溶質及び溶媒のヒルデブランドパラメータδiが近いほど、溶解度は良好である。
【0204】
【数1】
c
i凝集エネルギーは実際、ファンデルワールス相互作用、共有結合、イオン結合、水素結合、静電相互作用をはじめとする全ての原子間/分子間相互作用の総和である。したがって、液体を一緒に保持するc
i総凝集エネルギーは、ロンドンの原子分散力c
d、永久双極子間の力(極性相互作用)c
pを克服し、分子間の水素結合(ルイスの酸及び塩基の概念に基づく)c
hを壊すのに必要なエネルギーの総和に一致する。
【0205】
ci=cd+cp+ch 式2
【0206】
したがって、ハンセンは式3、4、5で定義した3つの溶解度パラメータでヒルデブランドパラメータを拡張する。ここでδdは分散寄与、δpは極性寄与、δhはH結合寄与である。δd、δp及びδhの3つの寄与は、SIではPa1/2に相当するJ1/2m-3/2で、又はcal1/2cm-3/2で一般に表される。
【0207】
式3、4、5
δd=√cd δp=√cp δd=√cd
【0208】
これにより、「ハンセン空間」とよばれる三次元空間における各モノマーの主要な相互作用の種類をよりよく区別することができる。したがって、溶質は、式6で以下に説明する全般的なハンセン溶解度パラメータを持つ"溶解度球"として知られる体積に囲まれた点として、さらに定義することができる。
【0209】
δH=√(δ2
d+δ2
p+δ2
h) 式6
【0210】
モノマーのハンセン溶解度パラメータは、官能基(例えばCH3、COO)の全ての寄与を合計したホーイの基の寄与理論からの半経験的データで計算した。以下に、テルチオブチル(Tertiobutyl)シクロヘキシルアクリレートのハンセン溶解度パラメータδH及びδPを算出した例を示す。この分子の構造を以下に、その構造単位に番号をつけ、表3のホーイ理論に従った各官能基の寄与を付して示す。
【0211】
【0212】
【0213】
次いで、ハンセン溶解度パラメータδH及びδPを以下の式に従って計算する。
【0214】
【0215】
図7は、多段ポリマー/(メタ)アクリルポリマー(P1)の組合せを用いた(メタ)アクリレート官能化化合物のハンセン溶解度パラメータδ
H対δ
Pの傾向を示す。多段ポリマー/(メタ)アクリルポリマー(P1)の組み合わせを、黒及び灰色の陰影部分に入る溶解度パラメータを有する成分に分散させるとゲル化及び凝集の問題がそれぞれ生じる傾向があり、一方斜線で印した領域にパラメータを有する成分を利用すると安定した分散液が得られる傾向がある。
図7において、相溶区域とは
図2に示した透明な挙動及び乳白色の挙動の両方を指す。表4では小数第2位で四捨五入した、F1対照及びF2対照の配合物成分のハンセン溶解度パラメータの概略を示している。いずれの成分も、
図7の相溶区域内に溶解度パラメータを有する。
【0216】
【0217】
試料の視覚品質によって決定されたこれらの傾向は、
図8に見られるような動的光散乱(DLS)によって測定される多段ポリマー粒径の安定性によっても裏付けられる。
図8は、DLSで正規化された粒径値を示しており、ここで1を超える値は、多段ポリマーの凝集又は膨潤による可能性が高い。DLS測定では、
図7の灰色(凝集)領域内に入るハンセン溶解度パラメータを有する配合物は、一次多段ポリマー粒径のものよりもはるかに大きい粒径(少なくとも20倍)を有することが実証されている。
図7の斜線で印された領域内のものの測定された粒子径の大部分は、一部の視覚的に透明な試料を除いて、理論的一次多段ポリマー粒径(正規化DLS値1~1.5)の機械誤差の範囲内である。これらの透明試料は、(メタ)アクリレート官能化化合物と多段ポリマーとの間のわずかな相互作用に起因する可能性が最も高いDLSで測定した一次粒径の最大3倍を有する可能性がある。さらに、ゲル化により多段ポリマーはその物理的完全性を失うため、ゲル化した試料は粒径を定量化するのにDLSによって正確に測定することができない。
【0218】
(c)中の成分(a)+(b)が濃縮されたマスターバッチの例
試験方法
粘度
配合物の粘度は、Brookfield粘度計を用いて23℃及び20rpmで測定する。
【0219】
硬化条件
光硬化性配合物は、0.5~4重量%の樹脂光開始剤(典型的にはLambson社が販売するTPO-L又はBASF社が販売するIrgacure 819)を含む。これらの配合物を、12Wの395nm LEDランプ下で約10m/分において、それぞれ5回液体を収容するシリコーン金型の各側を曝露してバルク硬化させる。光硬化部分は、多くの場合残留未硬化材料からのあらゆる潜在的可塑剤効果を減少させるために、120℃で2時間熱により後硬化させる。405nmの集積LED光源によるLCDシャドウマスキング製造技術を特徴とするANYCUBIC Photon 3Dプリンタを用いることにより、DMA及び衝撃解析のための印刷試料を作製した。層厚は100μmとした。各層の通常の曝露時間はオフ時間6秒を伴い60秒、3つの底部層の曝露時間は90秒であった。印刷試料をイソプロパノールで洗浄し、12Wの395nm LEDランプ下で約10m/分においてそれぞれ5回各側を露光して後硬化させる。
【0220】
ガラス転移温度
ポリマーのガラス転移温度(Tg)を熱機械分析により測定する。測定は、Rheometrics社から提供されたRDA III「Rheometrics Dynamic Analyser」を用いて実施した。ポリマー標本(約5×2×40mm3)を1Hzの周波数及び0.05%の歪みでねじれモードで試験した。温度は3℃/分の加熱速度で-100から200℃に上昇させた。熱機械分析は、適用された温度、ひずみ、又は変形の関数として、試料の粘弾性変化を正確に測定する。この装置は、温度変化の制御されたプログラムの間、歪みを固定したまま、試料の変形を連続的に記録する。温度、弾性率(G’、MPa)、損失弾性率(G”、MPa)、及びタンデルタの関数として描画することによって、その結果を得る。Tgは、タンデルタの微分値がゼロに等しいとき、タンデルタ曲線で読み取った最高温度値である。
【0221】
耐衝撃性
Charpy及びIzod衝撃試験をはじめとするバルク耐衝撃性測定するための複数の標準試験がある。ASTM D256を利用したZwick Roell HIT振子衝撃試験機を用いて、Izod及びCharpy衝撃試験を実施する。ASTM D256に従って試験された試料は、切り欠き付き又は切り欠きのない衝撃バーであることができ、以下の結果は、切り欠き付きIzod及び切り欠きのないCharpyである。
【0222】
有機マトリックス中の高充填量の衝撃改質剤(本発明に従わない)は、最終的な硬化材料の衝撃耐性を劇的に増大させる。しかし、このような高い充填量のために分散の問題及び高い粘度上昇により、そのような配合物の最終特性及び使用にマイナスの影響を与える。高濃度の多段ポリマー(MSP)+(メタ)アクリルポリマー(P1)を用いたマスターバッチを少量の重合性有機物質(複数可)によく分散させて用いると、種々の重合性有機物質中の希釈が粘度と耐衝撃性の間の妥協に達しやすくなる。
【0223】
ハンセン溶解度パラメータを用いることにより、1種の重合性有機物質(ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートPEGDMA)が多段ポリマーと(メタ)アクリルポリマー(P1)との組合せと非常に安定した相溶性を有することを見出した。このように、高濃度の多段ポリマー+(メタ)アクリルポリマー(P1)の取り込みが達成され、表5に示すように良好な分散及び加工可能な粘度がもたらされた。40重量%のMSP+P1では、混合物は高い粘度にもかかわらず加工可能であり、さらなる配合のためのマスターバッチ(MB)として使用された。
【0224】
【0225】
多段ポリマー(MSP)と(メタ)アクリルポリマー(P1)との組合せを40重量%含むマスターバッチMBを、2つの形態の安定な分散液(乳状及び透明)を示す種々の(メタ)アクリレート官能化成分中に分散させた。表6に見られるように、衝撃改質剤MSP+P1の添加が粘度に及ぼす影響は限定的である。このマスターバッチを用いる主な利点は、配合方法の簡略化及び粘度の限定的な上昇である。
【0226】
【0227】
<硬化性組成物の追加例>
重合性有機物質に本発明の衝撃改質剤を組み込むことは、マスターバッチを使用することによってより容易であることが証明される。表8に示す粘度は、マスターバッチMBの使用のおかげで、二官能性ウレタン脂肪族メタクリレートオリゴマー中に容易に高い充填量(28重量%)の衝撃改質剤を組み込める可能性を示す(表7の配合物F5を参照のこと)。
【0228】
表7に見られる配合物に関しバルク硬化され、3D印刷された試料について、熱機械的試験及び衝撃試験を実施した。DMA測定では、2つのガラス転移が見られる。負のガラス転移温度は、本発明に記載されるように、多段ポリマーに起因し、より具体的にはポリマー(A1)に起因する。他の機械的特性を損なわずに耐衝撃性の改善が、MSP+P1の14~28重量%の組み込みで示される。
【0229】
表8に見られるように、衝撃改質剤の存在による耐衝撃性の改善が実証される。
【0230】
【0231】