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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
B23K11/11 520
B23K11/11 540
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021007122
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111591
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安田 圭吾
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-106277(JP,U)
【文献】特許第6345013(JP,B2)
【文献】特開2019-044952(JP,A)
【文献】特開2010-207903(JP,A)
【文献】特開2003-059269(JP,A)
【文献】特開昭51-074946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0129043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板が重ね合わされたワークを溶接するように構成された抵抗スポット溶接装置であって、
前記複数の金属板のうち第1金属板に接触するように構成された第1電極と、
前記複数の金属板のうち第2金属板に接触し、前記第1電極と共に前記ワークを挟むように構成された第2電極と、
空気圧によって前記第1電極を前記第1金属板に向けて加圧するように構成された加圧機構と、
を備え、
前記加圧機構は、
前記第1電極に連結されたピストンと、
前記ピストンが収容された内部空間を有するシリンダと、
前記第1電極を加圧するための空気を前記内部空間へ供給するように構成された第1通気部と、
前記第1電極の加圧に伴い前記内部空間から空気を排出するように構成された第2通気部と、
を備え、
前記第1通気部及び前記第2通気部はそれぞれ、前記内部空間に連通する2つ以上の空気路で構成され、
前記第1通気部の前記2つ以上の空気路の口径の総計と、前記第2通気部の前記2つ以上の空気路の口径の総計とは等しく、
前記第1通気部の前記2つ以上の空気路は、前記シリンダの径方向において互いに対向する開口にそれぞれ接続され、
前記第2通気部の前記2つ以上の空気路は、前記シリンダの径方向において互いに対向する開口にそれぞれ接続される、抵抗スポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗スポット溶接装置であって、
前記第1金属板及び前記第2金属板の少なくとも一方は、引張強さが1800MPa以上である、抵抗スポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抵抗スポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属板を重ねたワークを抵抗スポット溶接する装置において、エアシリンダによる空気圧によって溶接中の電極を金属板に押し付けるように加圧する構成が公知である(特許文献1参照)。
【0003】
このように電極を金属板に向けて加圧することで、溶接完了後の電極と金属板との接触面積が増大する。その結果、金属板の冷却速度が向上し、溶接後における金属板の割れを抑制できる。
【0004】
また、加圧機構としてエアシリンダを用いることで、サーボモータを用いる場合に比して溶接装置のコストを低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-59269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空気圧により電極を加圧する抵抗スポット溶接では、溶接中に金属板が軟化することに伴い電極が金属板内部へ押し込まれる。このとき、エアシリンダ内の圧力が低下するため、電極の金属板に対する圧力が低下し、加圧が不安定となる。その結果、スパッタが発生し、溶接不良となるおそれがある。
【0007】
本開示の一局面は、空気圧にて電極を加圧しつつ溶接不良が抑制できる抵抗スポット溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、複数の金属板が重ね合わされたワークを溶接するように構成された抵抗スポット溶接装置である。抵抗スポット溶接装置は、複数の金属板のうち第1金属板に接触するように構成された第1電極と、複数の金属板のうち第2金属板に接触し、第1電極と共にワークを挟むように構成された第2電極と、空気圧によって第1電極を第1金属板に向けて加圧するように構成された加圧機構と、を備える。
【0009】
加圧機構は、第1電極に連結されたピストンと、ピストンが収容された内部空間を有するシリンダと、第1電極を加圧するための空気を内部空間へ供給するように構成された第1通気部と、第1電極の加圧に伴い内部空間から空気を排出するように構成された第2通気部と、を備える。第1通気部及び第2通気部の少なくとも一方は、内部空間に連通する2つ以上の空気路で構成される。
【0010】
このような構成によれば、加圧機構のシリンダにおいて、2つ以上の空気路によって第1電極を加圧する際の空気の供給量又は排出量が大きくなるため、第1電極の加圧時間が短縮される。
【0011】
つまり、軟化した第1金属板に第1電極が押し込まれた後における第1電極の第1金属板に対する圧力の回復時間が短縮される。そのため、スパッタの発生による溶接不良を抑制できる。
【0012】
本開示の一態様では、第1金属板及び第2金属板の少なくとも一方は、引張強さが1800MPa以上であってもよい。このような構成によれば、溶接時に高い圧力で電極を押し付ける必要があるために圧力低下によるスパッタが発生しやすい高張力金属板に対して、スパッタの発生による溶接不良を的確に抑制できる。
【0013】
本開示の一態様では、第1通気部は、内部空間に連通する2つ以上の空気路を有してもよい。このような構成によれば、的確に第1電極の加圧時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態における抵抗スポット溶接装置の模式図である。
図2図2は、図1の抵抗スポット溶接装置の電極及び加圧機構の模式的な断面図である。
図3図3A図3B図3C及び図3Dは、それぞれ、溶接中の電極及び金属板の模式的な断面図であり、図3Eは、溶接における第1電極の圧力の変化の一例を示すグラフである。
図4図4A及び図4Bは、それぞれ、図2とは異なる実施形態における加圧機構の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す抵抗スポット溶接装置1は、第1金属板P1と第2金属板P2とが重ね合わされたワークWを溶接するように構成されている。
【0016】
本実施形態では、第1金属板P1が第2金属板P2の上に重ね合わされている。第1金属板P1及び第2金属板P2の材質は特に限定されず、例えば、ステンレスアルミメッキ鋼板等の鋼板が使用される。第1金属板P1及び第2金属板P2の少なくとも一方は、引張強さが1800MPa以上3000MPa以下である。
【0017】
抵抗スポット溶接装置1は、ワークWとして配置された第1金属板P1と第2金属板P2とを厚み方向に抵抗スポット溶接する。抵抗スポット溶接装置1は、第1電極2と、第2電極3と、加圧機構4と、本体5とを備える。
【0018】
<電極>
第1電極2は、ワークWの上方に配置され、第1金属板P1の表面に接触するように構成されている。
【0019】
第2電極3は、ワークWの下方に配置され、第2金属板P2の表面に接触するように構成されている。また、第2電極3は、第1電極2と共にワークWを厚み方向に挟んで加圧するように構成されている。
【0020】
第1電極2は、第2電極3に対し、相対的に鉛直方向に移動可能である。本実施形態では、第1電極2及び第2電極3がワークWを挟む方向(つまり第1電極2及び/又は第2電極3の移動方向)は鉛直方向と平行である。
【0021】
ワークWを挟んだ第1電極2と第2電極3との間には、溶接電流がワークWを介して流れる。第1電極2と第2電極3とは、ワークWを厚み方向に加圧した状態で第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接する。
【0022】
<加圧機構>
加圧機構4は、空気圧によって第1電極2を第1金属板P1に向けて加圧するように構成されている。加圧機構4は、図2に示すように、ピストン41と、ロッド42と、シリンダ43と、第1通気部44と、第2通気部45とを有する。
【0023】
ピストン41は、ロッド42を介して第1電極2に連結されている。ピストン41は、シリンダ43の軸方向に往復移動可能なように、シリンダ43の内部空間に収容されている。
【0024】
ロッド42は、ピストン41に連結され、ピストン41と共にシリンダ43の軸方向に往復移動する。ロッド42のピストン41とは反対側の端部は、シリンダ43の下端部に設けられた底壁を貫通し、第1電極2と連結されている。
【0025】
シリンダ43は、ピストン41が収容された内部空間を有する。シリンダ43の軸方向は、鉛直方向(つまりワークWの厚み方向)と平行である。シリンダ43は、内部空間とシリンダ43の外部とを連通する第1開口43A、第2開口43B、及び第3開口43Cを有する。
【0026】
シリンダ43の内部空間は、ピストン41によって第1領域A1と第2領域A2とに分割されている。第1開口43A及び第2開口43Bは、シリンダ43の上端部近傍に配置され、第1領域A1に連通している。第3開口43Cは、シリンダ43の下端部近傍に配置され、第2領域A2に連通している。
【0027】
第1領域A1は、ピストン41よりも上方に位置する。第1開口43A及び第2開口43Bから第1領域A1に空気が供給されると、第1領域A1の膨張に伴ってピストン41がシリンダ43の下端部に近づくように動き、ロッド42のシリンダ43からの突出量が大きくなる。その結果、第1電極2が加圧される。
【0028】
第2領域A2は、ピストン41よりも下方に位置する。第3開口43Cから第2領域A2に空気が供給されると、第2領域A2の膨張に伴ってピストン41がシリンダ43の下端部から離れるように動き、ロッド42のシリンダ43からの突出量が小さくなる。その結果、第1電極2が減圧される。
【0029】
第1領域A1が膨張する際には、第2領域A2から空気が排出されて第2領域A2が収縮し、ピストン41が下方に移動する。逆に、第2領域A2が膨張する際には、第1領域A1から空気が排出されて第2領域A2が膨張し、ピストン41が上方に移動する。
【0030】
第1開口43A及び第2開口43Bは、ピストン41の最上位置よりも上方に位置している。第3開口43Cは、ピストン41の最下位置よりも下方に位置している。
【0031】
第1通気部44は、第1電極2を加圧するための空気をシリンダ43の内部空間へ供給するように構成されている。第1通気部44は、第1空気路44Aと、第2空気路44Bとで構成される。
【0032】
第1空気路44Aは、シリンダ43の第1開口43Aに連結されている。第2空気路44Bは、シリンダ43の第2開口43Bに連結されている。第1空気路44A及び第2空気路44Bはそれぞれ、空気の供給系統及び排出系統と接続されている。第1空気路44A及び第2空気路44Bは、第1開口43A又は第2開口43Bを介してシリンダ43の内部空間の第1領域A1に対し、空気の供給及び排出を行う。
【0033】
なお、本実施形態では、第1空気路44A及び第2空気路44Bそれぞれにおける空気の供給方向は、シリンダ43の径方向において対向するように配置されている。つまり、第1開口43A及び第2開口43Bは、互いに対向する位置に配置されている。
【0034】
ただし、第1空気路44A及び第2空気路44Bそれぞれにおける空気の供給方向は、必ずしも対向しなくてもよい。また、シリンダ43の軸方向において、第1空気路44Aと第2空気路44Bとがずれて配置されてもよい。
【0035】
第2通気部45は、第1電極2の加圧(つまり第1領域A1への空気の供給)に伴いシリンダ43の内部空間から空気を排出するように構成されている。第2通気部45は、第3空気路45Aで構成される。
【0036】
第3空気路45Aは、シリンダ43の第3開口43Cに連結されている。第3空気路45Aは、空気の供給系統及び排出系統と接続されている。第3空気路45Aは、第3開口43Cを介してシリンダ43の内部空間の第2領域A2に対し、空気の供給及び排出を行う。
【0037】
<本体>
本体5は、第1電極2及び第2電極3への溶接電流の供給、加圧機構4による第1電極2と第2電極3との間の圧力調整等の機能を有する。
【0038】
[1-2.製造方法]
次に、図1の抵抗スポット溶接装置1を用いた抵抗スポット溶接方法について説明する。抵抗スポット溶接方法は、配置工程と、溶接工程とを備える。
【0039】
<配置工程>
本工程では、第1金属板P1と第2金属板P2とを厚み方向に重ね合わせたワークWを抵抗スポット溶接装置1の第1電極2と第2電極3との間に配置する。
【0040】
<溶接工程>
本工程では、重ね合わされた第1金属板P1と第2金属板P2とを抵抗スポット溶接装置1により溶接する。本工程では、溶接中に、加圧機構4によって第1電極2を第1金属板P1に向けて(つまり第2電極3に向けて)加圧する。
【0041】
図3Aに示すように、溶接の開始直後では、金属板が軟化していないため、第1電極2は第1金属板P1の表面に接触している。図3Bに示すように、溶接が進むと、第1金属板P1と第2金属板P2との界面にナゲットNが生成される。
【0042】
図3Cに示すように、さらに溶接が進むと、ナゲットNが成長すると共に、第1金属板P1が軟化する。これに伴い、加圧機構4によって加圧されている第1電極2の先端が第1金属板P1内にめり込む。図3Dに示すように、ナゲットNが十分に成長した時点で溶接が完了する。第1電極2の加圧は、溶接の完了まで継続される。
【0043】
図3Eに、溶接開始から溶接完了までにおける、第1電極2の圧力の変化の一例を示す。図3Eのグラフの横軸は時間T、縦軸は圧力Pである。図中の時刻T1,T2,T3,T4は、それぞれ、図3A,3B,3C,3Dの状態となるタイミングを示している。
【0044】
ワークWの溶接は、圧力が設定圧力P1まで上昇した時刻T0で開始される。その後、時刻T3以降では第1電極2の第1金属板P1へのめり込みに伴い、シリンダ43内のピストン41が下方に移動する。これにより、シリンダ43の内部空間の圧力が低下するため、第1電極2の圧力も低下する。
【0045】
一方で、シリンダ43の内部空間の圧力低下を受けて第1通気部44の第1空気路44A及び第2空気路44Bから空気が第1領域A1に供給される。その結果、第1領域A1の圧力が設定圧力P1まで速やかに回復する。
【0046】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)加圧機構4のシリンダ43において、第1空気路44A及び第2空気路44Bによって第1電極2を加圧する際の空気の供給量又は排出量が大きくなるため、第1電極2の加圧時間が短縮される。
【0047】
つまり、軟化した第1金属板P1に第1電極2が押し込まれた後における第1電極2の第1金属板P1に対する圧力の回復時間が短縮される。そのため、スパッタの発生による溶接不良を抑制できる。
【0048】
(1b)溶接時に高い圧力で電極を押し付ける必要があるために圧力低下によるスパッタが発生しやすい高張力金属板に対して、スパッタの発生による溶接不良を的確に抑制できる。
【0049】
(1c)第1通気部44がシリンダ43の内部空間に連通する第1空気路44A及び第2空気路44Bで構成されることで、的確に第1電極2の加圧時間を短縮できる。
【0050】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0051】
(2a)上記実施形態の抵抗スポット溶接装置において、第1通気部は3以上の空気路を有してもよい。また、第2通気部が複数の空気路を有してもよい。例えば、図4Aに示すように、シリンダ43が第4開口43Dをさらに有し、第2通気部45が第4開口43Dに連結された第4空気路45Bをさらに有してもよい。
【0052】
さらに、第2通気部が複数の空気路で構成される場合、第1通気部は必ずしも複数の空気路を有しなくてもよい。例えば、図4Bに示すように、第2通気部45が第3空気路45A及び第4空気路45Bで構成される一方で、第1通気部44が第1空気路44Aのみで構成されてもよい。
【0053】
(2b)上記実施形態の抵抗スポット溶接装置において、第1電極及び第2電極の双方が空気圧によって加圧されてもよい。つまり、抵抗スポット溶接装置は、第2電極を第2金属板に向けて加圧する加圧機構をさらに備えてもよい。
【0054】
(2c)上記実施形態の抵抗スポット溶接装置において、3枚以上の金属板が重ね合わされたワークが用いられてもよい。つまり、第1金属板と第2金属板との間に1枚以上の金属板が配置されてもよい。
【0055】
(2d)上記実施形態の抵抗スポット溶接装置において、第1電極及び第2電極によってワークを挟む方向は必ずしも鉛直方向でなくてもよい。ワークが挟まれる方向は、水平方向であってもよいし、鉛直方向及び水平方向の双方に交差する方向であってもよい。
【0056】
(2e)上記実施形態の抵抗スポット溶接装置において、第1金属板及び第2金属板の双方の引張強さが1800MPa未満であってもよい。
【0057】
(2f)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0058】
1…抵抗スポット溶接装置、2…第1電極、3…第2電極、4…加圧機構、5…本体、
41…ピストン、42…ロッド、43…シリンダ、43A…第1開口、
43B…第2開口、43C…第3開口、43D…第4開口、44…第1通気部、
44A…第1空気路、44B…第2空気路、45…第2通気部、45A…第3空気路、
45B…第4空気路。
図1
図2
図3
図4