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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】サーモスタット装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20231129BHJP
   F16K 31/68 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F01P7/16 502B
F16K31/68 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021023602
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125805
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼籏 達也
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳太
(72)【発明者】
【氏名】冨永 敬幸
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-090726(JP,A)
【文献】特開2012-184693(JP,A)
【文献】特開2015-129560(JP,A)
【文献】特開2019-183747(JP,A)
【文献】実開昭58-052372(JP,U)
【文献】国際公開第2013/114676(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/066759(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に収容室が形成されて、一端にラジエータによって冷却された冷却液を前記収容室に導入する第1流入口が形成される第1入口側管路と、一端に前記ラジエータを介さない内燃機関において加熱された前記冷却液を前記収容室に導入する第2流入口が形成される第2入口側管路と、一端に前記収容室の前記冷却液を前記内燃機関に供給する冷却液の流出口が形成される出口側管路とを有するハウジングと、
前記収容室に収容され、前記冷却液の温度に依存して、軸方向に移動するサーモエレメントと、
前記サーモエレメントの移動に伴って、前記第1流入口からの前記冷却液の導入量を制御する制御バルブと、
前記ハウジング内において、前記サーモエレメントの移動軸方向に突出成形された環状突部の先端部に形成され、前記制御バルブが閉弁状態で当接する弁座と、
前記弁座の外側に施された周方向に連続する環状の隙間によって構成され、開口端部が前記弁座に沿って形成された環状溝と、を備え
前記出口側管路の内周壁における前記サーモエレメントの移動方向の一方側には、前記流出口側から前記収容室に近づくに従って前記一方側へ向かうように傾斜するスロープが形成され、
前記スロープの収容室側端部は、前記環状溝の周壁に連なり、かつ、前記弁座の他方側の端よりも前記一方側に位置しているサーモスタット装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、ケースと、ケースに接合されるインレットとを有して構成され、前記環状突部が前記ケース内に突出するように前記インレットに設けられ、前記環状溝が前記環状突部の外周面と、前記ケースの内周面との間に形成される請求項1に記載のサーモスタット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車に搭載される内燃機関(以下、エンジンとも言う。)とラジエータとの間で冷却液を循環させる循環流路内に配置されて、前記冷却液温度を適正に制御するサーモスタット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモスタット装置は、エンジンとラジエータとの間の循環流路内を流れる冷却液の温度変化を感知して膨張・収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵するサーモエレメントを備え、この熱膨張体の膨張・収縮に伴う体積変化により、制御バルブ(弁体)の開閉を行うことで、冷却液を所定の温度に保持するように機能する。
【0003】
すなわち、熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと制御バルブを含むサーモ動作ユニットは、ハウジング内に収容されて、例えばエンジンの冷却水路の入口側に配置される。そして、冷却液温度が低い場合には制御バルブは閉じられ、冷却液はラジエータを経由せずに、バイパス通路を介して循環される。
また冷却液温度が高くなった場合は、制御バルブが開くことで冷却液はラジエータを通して循環される。これにより、エンジン内の冷却水路であるウォータジャケット内を通る冷却液の温度を適正な状態に制御するように動作する。
【0004】
したがって、この種のサーモスタット装置は、ラジエータ側からの冷却液を受ける第1流入口、ラジエータを経由しないバイパス通路を介した冷却液を受ける第2流入口、前記第1流入口と第2流入口からの各冷却液を混合して、エンジンのウォータジャケット側に冷却液を供給する冷却液の供給口を有するハウジングが備えられる。そして、ハウジング内には、サーモエレメントの軸方向の移動に伴って、第1流入口からの冷却液の導入量を制御する制御バルブを有するサーモ動作ユニットが収容される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2007/108273号公報
【0006】
図10は、従来のサーモスタット装置におけるハウジング内の冷却液の流れを模式的に示したものである。
このサーモスタット装置11はケース13とインレット14により構成されたハウジング12内に、サーモ動作ユニット15が収容されて構成される。
前記ハウジング12を構成するインレット14側には、ラジエータ側からの冷却液の流入口である第1流入口14aが形成されている。同じくハウジング12を構成するケース13側には、前記したラジエータを迂回するバイパス通路からの冷却液の流入口である第2流入口13aが形成されている。
そして、前記した各流入口13a,14aからの冷却液は、ハウジング12内において混合されて、冷却液の流出口13bを介してエンジンのウォータジャケットやウォーターポンプ等へ向けて送り出される。
【0007】
一方、前記サーモ動作ユニット15は、冷却液の温度に反応する熱膨張体(ワックス)を内蔵するサーモエレメント(感温部)15a、前記熱膨張体の作用により伸縮するピストン15b、サーモエレメント15aに取り付けられた円板状の制御バルブ(弁体)15c、この制御バルブ15cをインレット14側に当接させて閉弁状態に付勢するばね部材15dが備えられる。
【0008】
そして、前記ピストン15bの先端部は、前記したインレット14内に形成されたシャフト支持部14bに装着されて、サーモエレメント15aに加わる冷却液の温度に応じて、制御バルブ15cの開弁状態が制御される。これにより特にラジエータ側からの冷却液の流入量が調整され、エンジンに加わる冷却液温度を適正に保つように動作する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この種のサーモスタット装置11においては、ラジエータ側からの冷えた冷却液が、第1流入口14aからハウジング12内へ流入し、流出口13bからハウジング12外へと流出してエンジン側へと向かう(図10中、矢印C)。
そして、サーモスタット装置11の中には、制御バルブ15cの開弁量が多くなると、第2流入口13aからの冷却液の流入を阻止するものもあるが、開弁開始時には、ラジエータを経由してないバイパス通路側からの高温の冷却液が、第2流入口13aからハウジング12内へ流入し、流出口13bからハウジング12外へと流出してエンジン側へと流れている。
【0010】
このような制御バルブ15cの開弁開始時等、制御バルブ15cの開弁量が少ない場合に、ラジエータ側からの冷えた冷却液がサーモエレメント15a側へ回りこむと、サーモエレメント15aの周囲の温度が低下して、バイパス通路側からの高温の冷却液温度に対する感温性及び応答性が低下する。また、冷えた冷却液が通過する部分の温度が局部的に低下して、サーモエレメント15aの周囲の温度にバラツキが生じ、感温性及び応答性が低下したり、制御バルブ15cの動作が不安定になったり、ハンチングが生じたりする。
【0011】
この発明は、従来の前記したサーモスタット装置の技術的な問題点に着目してなされたものであり、感温性及び応答性を向上できるとともに、制御バルブの動作が不安定になったり、ハンチングが生じたりするのを抑制できるサーモスタット装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るサーモスタット装置は、請求項1に記載のとおり、内側に収容室が形成されて、一端にラジエータによって冷却された冷却液を前記収容室に導入する第1流入口が形成される第1入口側管路と、一端に前記ラジエータを介さない内燃機関において加熱された前記冷却液を前記収容室に導入する第2流入口が形成される第2入口側管路と、一端に前記収容室の前記冷却液を前記内燃機関に供給する冷却液の流出口が形成される出口側管路とを有するハウジングと、前記収容室に収容され、前記冷却液の温度に依存して、軸方向に移動するサーモエレメントと、前記サーモエレメントの移動に伴って、前記第1流入口からの前記冷却液の導入量を制御する制御バルブと、前記ハウジング内において、前記サーモエレメントの移動軸方向に突出成形された環状突部の先端部に形成され、前記制御バルブが閉弁状態で当接する弁座と、前記弁座の外側に施された周方向に連続する環状の隙間によって構成され、開口端部が前記弁座に沿って形成された環状溝と、を備え、前記出口側管路の内周壁における前記サーモエレメントの移動方向の一方側には、前記流出口側から前記収容室に近づくに従って前記一方側へ向かうように傾斜するスロープが形成され、前記スロープの収容室側端部は、前記環状溝の周壁に連なり、かつ、前記弁座の他方側の端よりも前記一方側に位置した構成が採用される。
【0013】
請求項1に記載の発明によると、制御バルブが閉弁状態で当接する弁座が、環状突部の先端部に形成される。そして弁座の外側に施された周方向に連続する環状の隙間によって環状溝が形成され、環状溝の開口端部が前記弁座に沿って形成される。
これによると、制御バルブの開弁度合いが少ない状態においては、第1流入口に導入されるラジエータ側からの冷えた冷却液の大部分は、制御バルブの周縁部分で跳ね返されて、環状溝内に沿って周回するようにして流れ、冷却液の流出口に向かうように作用する。
したがって、ラジエータ側からの冷却液がサーモエレメント側に向かうのを抑制することができ、結果として、感温性及び応答性が向上し、制御バルブの動作が不安定になったり、ハンチングが生じたりするのを防止できる。
加えて、請求項1に記載の発明によると、出口側管路の内周壁におけるサーモエレメントの移動方向の一方側には、流出口側から収容室に近づくに従って前記一方側へ向かうように傾斜するスロープが形成され、前記スロープの収容室側端部は、前記環状溝の周壁に連なり、かつ、前記弁座の他方側の端よりも前記一方側に位置するように構成される。
これによると、環状溝内に沿って周回するようにして流れるラジエータ側からの冷却液は、前記環状溝からスロープを介して前記流出口に向かって流出し易いものとなる。
したがって、サーモエレメントはラジエータ側からの冷却液の影響をさらに受け難いものとなり、感温性及び応答性のさらなる向上に寄与できるものとなる。
【0016】
そして、この発明に係るサーモスタット装置の好ましい形態においては、請求項2に記載のとおり、前記ハウジングは、ケースと、ケースに接合されるインレットとを有して構成され、前記環状突部が前記ケース内に突出するように前記インレットに設けられ、前記環状溝が前記環状突部の外周面と、前記ケースの内周面との間に形成される。
【0017】
請求項2に記載の発明によると、前記した環状溝は、ハウジングを構成するケースにインレットを接合することで、ハウジング内に形成することができる。
したがって、例えば樹脂製のハウジングを得ようとする場合において、ハウジング内に環状溝を作り出すための格別な成形型の加工は不要となり、コストを抑えた製品を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、感温性及び応答性を向上できるとともに、制御バルブの動作が安定したサーモスタット装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明に係るサーモスタット装置の第1実施例の全体構成を示した正面図である。
図2図1におけるハウジングの前半部を破断して示した一部断面図である。
図3】ハウジングの左半部を破断し、破断方向から見た一部断面図である。
図4】サーモスタット装置の全体構成を示した斜視図である。
図5図4に示す状態から天地を反転した状態で示した斜視図である。
図6】制御バルブが開弁した状態の冷却液の流れを示した一部断面図である。
図7】環状溝とスロープ部分の拡大断面図である。
図8】この発明に係るサーモスタット装置の第2実施例の要部を示した一部断面図である。
図9図8に対して90度軸回転させた状態の一部断面図である。
図10】従来のサーモスタット装置の冷却液の流れの一例を示した一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係るサーモスタット装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。まず図1図7は、第1実施例のサーモスタット装置を示しており、そのうち図1図5は、第1実施例のサーモスタット装置の全体構成を示している。
このサーモスタット装置は、エンジンとラジエータとの間で、冷却液を循環させる循環流路内に配置されて、エンジンに供給する冷却液温度を制御するサーモ動作ユニットが、ハウジング内に収容されて構成される。
【0021】
すなわち、このサーモスタット装置は、ラジエータ側からの冷却水路と、ラジエータを経由しないエンジン出口側からのバイパス通路との交差部に配置されて、ラジエータによって冷却された冷却液と、エンジンによって加熱されたバイパス通路を経由する冷却液を混合して、エンジン入口部に至る冷却液温度を適正に制御するように動作する。
【0022】
なお、以下においては説明の便宜上、図1に示したサーモスタット装置1の姿勢において、図面上の上および下を、そのまま単に「上」「下」と表現する。
この実施の形態においては、サーモスタット装置1の外郭を構成するハウジング3は、共に樹脂素材により成形されたケース4と、このケース4の上部に接合されて取り付けられたインレット5とにより構成される。
【0023】
前記インレット5には、ラジエータ側からの冷却液を受ける円筒状に形成された第1流入口5aを有する第1入口側管路3aが備えられ、この第1入口側管路3aは後述するサーモ動作ユニット2の移動軸線に対して、60度程度屈曲(図1図2参照)された状態で形成されている。
また、ケース4には、中央部にサーモ動作ユニット2を収容する収容室となるユニット収容空間4aが形成されると共に、そのユニット収容空間4aから下向きに、円筒状の第2流入口4bを有する第2入口側管路3bが形成されており、この第2流入口4bに、バイパス通路からの冷却液が導入される。
【0024】
さらに前記ケース4には、サーモ動作ユニット2の移動軸線に対して直交する方向に向かって、冷却液をエンジン側に供給する冷却液の流出口4cを有する出口側管路3cが形成されている。
【0025】
なお、冷却液の流出口4cを有する出口側管路3cは、エンジンに冷却液を送りこむウォーターポンプの上流側に配置できるように構成されており、このために図示せぬウォーターポンプ側にサーモスタット装置1を直結するためのフランジ4dと、このフランジ4dの180度対向する位置に締結ボルトの挿通孔4e(図4図5参照)が形成されている。そして、冷却液の流出口4cを囲むようにして、その開口に沿ってウォーターポンプ側に接合する環状のパッキン4fが取り付けられている。
【0026】
ハウジング3のユニット収容空間4aに収容されたサーモ動作ユニット2には、冷却液の温度に依存して膨張・収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵する円筒状のサーモエレメント(感温部)2aが備えられており、前記熱膨張体の膨張および収縮により、サーモエレメント2aの軸心に沿って配置されたピストン2bが、サーモエレメント2aから伸縮するように動作する。
前記ピストン2bの先端部は、ハウジング3を構成するインレット5内の中央上部に形成されたシャフト支持部5bに嵌め込まれて、ハウジング3内に取り付けられている。
したがって、円筒状のサーモエレメント2aは、ピストン2bの伸縮に伴って、ユニット収容空間4a内を軸方向に移動するように動作する。また、本実施の形態において、サーモエレメント2aは、上下に移動する。換言すると、サーモエレメント2aの移動方向は、上下方向であり、本実施の形態において、特許請求の範囲におけるサーモエレメントの移動方向の一方側は上側である。
【0027】
また、サーモエレメント2aの上部には円板状の制御バルブ(弁体)2cが取り付けられており、この制御バルブ2cの外周縁に形成された弁体が、インレット5の下部開口に形成された環状の弁座5cに当接することで、閉弁状態になされる。
そして、制御バルブ2cに一端部が接するように、ばね部材2dがサーモエレメント2aを囲むようにして配置されており、このばね部材2dの他端部は、ケース4の内底部4gから立ち上がるようにして形成されたガイド部4hを取り囲むようにして、ケース4の前記内底部4g(図2図3参照)に当接している。
【0028】
したがって、前記したばね部材2dは、インレット5に形成された環状の弁座5cに対して、円板状の制御バルブ2cを押し当てるように付勢力を与えている。
また、前記したガイド部4hによって、サーモエレメント2aの下部が摺動自在に支持される。このガイド部4hには、図示しない孔、溝又は切欠きが形成されており、第2流入口4bからハウジング3内に流入した冷却液がガイド部4hの上記孔、溝又は切欠きを通ってユニット収容空間4a内へ流入できる。
【0029】
以上のように構成されたサーモスタット装置1によると、バイパス通路側からの第2流入口4bに供給される冷却液は、主にサーモエレメント2aに向かって供給される。
そこで、バイパス通路側からの冷却液の温度が上昇すると、サーモエレメント2aに内蔵された熱膨張体が膨張して、前記ピストン2bが伸張(突出)する。
【0030】
これにより、サーモエレメント2aに取り付けられた制御バルブ2cは、ばね部材2dの付勢力に抵抗して、第2流入口4b側に向けて後退することで開弁し、第1流入口5aからのラジエータを介した冷却液が導入される。
したがって、第1流入口5aからの冷却液と、第2流入口4bからの冷却液は、混合されて、冷却液の流出口4cからエンジンのウォータジャケットやウォーターポンプ等へ向けて送り込まれる。これにより、エンジンのウォータジャケットを通る冷却液の温度を適正な状態に制御することができる。
【0031】
ところで、この実施の形態においては、前記した制御バルブ2cが閉弁状態で当接する弁座5cは、図2および図3に示すように、ハウジング3内において、サーモエレメント2aの移動軸方向に突出成形された環状突部5dの先端部に形成されている。そして、前記弁座5cを囲んで環状溝3dの下端開口(開口端部3e)が形成されている。
【0032】
さらに、この実施の形態においては図3に示すように、ハウジング内の弁座5cから、冷却液の流出口4cに向かう出口側管路3cは、サーモエレメント2aの移動軸方向に対して直交する方向に形成され、出口側管路3cの収容室側端部がサーモエレメント2aの側部に対向している。加えて、前記管路3cの内周壁上部には、流出口4c側から前記環状溝3dに向かって上り勾配をもつスロープ4iが形成されている。
前記した環状溝3dとスロープ4iについては、制御バルブ2cが弁座5cから僅かに離れて開弁状態にされた図6および図7にも示されている。
【0033】
特に図7は、環状溝3dとスロープ4iの一部を拡大した状態で示しており、環状溝3dは、ハウジング3を構成するケース4とインレット5の接合部分に形成されている。
より具体的には、インレット5は、外径が他の部分と比較して大きい鍔部5eを有し、この鍔部5eがケース4の上端開口縁に溶着等により接合され、これにより、ケース4とインレット5がハウジング3として一体化される。また、環状突部5dは、インレット5に設けられ、鍔部5eの内周端からケース4内へ突出している。この環状突部5dの外径は、その外周に位置するケース4の上部内径よりも小さく、環状突部5dの外周に、周方向に連続する円環状の隙間が形成され、この隙間が環状溝3dとなっている。
従って、この実施の形態においては、前記環状溝3dは、環状突部の外周面5fと、前記ケースの内周面4jとの間に形成されており、環状溝3dの開口端部3eは、前記弁座5cを囲んだ外側に配置されている。
【0034】
また、環状突部5dの先端に弁座5cが形成されており、インレット5を構成する環状突部5d、鍔部5e、これらから第1入口側管路3aに連なる部分、及び第1入口側管路3aの肉厚が概ね均一に形成されるので、インレット5を合成樹脂で形成する場合に、その寸法精度を向上できる。
また、環状突部5dの基端(先端の反対側)から外方へ突出する鍔部5eがケース4に溶着されている。前述のように、弁座5cは、環状突部5dの先端に形成されるので、弁座5cを溶着部から離間させることができる。これにより、溶着により弁座5cに歪みが生じ、制御バルブ2cが弁座5cに当接した状態で、これらの間から冷却液が漏れるのを防止できる。
【0035】
一方、スロープ4iの収容室側端部4kは、前記した弁座5cの位置からサーモエレメント2aの移動方向の前記した一方側(図7における上側)に向かった範囲に位置して、収容室側端部4kが、環状溝3dの周壁に連なっている。
換言すれば、スロープ4iの環状溝3d側の端部(上端)4kが、弁座5cの下端よりも上側に位置した構成が採用されている。
【0036】
前記した環状溝3dとスロープ4iの配置構成によると、制御バルブ2cの開弁度合いが少ない状態においては、第1流入口5aに導入されるラジエータ側からの冷えた冷却液は、制御バルブ2cの周縁部分で跳ね返されて、図6にA方向に至る矢印で示したように、環状溝3d内に沿って周回するようにして流れた後、冷却液の流出口4cに向かうように作用する。
したがって、ラジエータ側からの冷却液が、サーモエレメント2a側に向かうのを抑制することができる。これにより、サーモスタット装置1の感温性及び応答性が向上し、制御バルブ2cの動作が不安定になったり、ハンチングが生じたりするのを抑制できる。
【0037】
また、冷却液の流出口4cを形成する出口側管路3c内にはスロープ4iが形成され、スロープ4iの収容室4a側の端部4kが、サーモエレメント2aの移動軸方向において弁座5c位置から第1流入口5a側に向かった範囲に位置して、環状溝3dの開口端部3eに連通しているので、環状溝3d内に沿って周回するようにして流れるラジエータ側からの冷却液は、前記環状溝3dからスロープ4iを介して前記流出口4cに向かって抵抗なく流出する。
したがって、サーモエレメント2aはラジエータ側からの冷却液の影響をさらに受け難いものとなり、感温性及び応答性のさらなる向上、制御バルブ2cの動作の安定性、及びハンチングの抑制に寄与できるものとなる。
【0038】
以上説明した第1実施例のサーモスタット装置においては、ハウジングを構成するインレットとケースは、すでに説明したとおり共に樹脂素材により形成され、両者は好ましくは溶着により接合されるが、その接合手段は適宜変更することができる。また、インレットとケースは、金属素材等を利用して構成することもできる。
【0039】
図8および図9は、この発明に係る第2実施例のサーモスタット装置を示している。なお、第2実施例を示す図8および図9においては、すでに説明した図1図7に示す第1実施例のサーモスタット装置と同一の機能を果たす部分を同一符号で示しており、したがって、その詳細な説明は適宜省略する。
【0040】
この第2実施例のサーモスタット装置1は、ハウジング3を構成するケース4とインレット5は、共に金属素材により形成され、インレット5に環状に埋め込まれたパッキン5
gを介して両者が接合されている。
そして、この第2実施例のサーモスタット装置1は、制御バルブ2cを弁座5c側に向かって付勢するばね部材2dの他端部を、ばね受け部材2eにより受けており、このばね受け部材2eを、インレット5に一体に成形した対向する一対の脚部5h(図9参照)により支持した構成が採用されている。
【0041】
この第2実施例のサーモスタット装置1においても、図8に示すようにサーモエレメント2aの移動軸方向に突出成形された環状突部5dの先端部に、弁座5cが形成されており、前記弁座5cを囲んで環状溝3dが形成されている。
さらに、環状溝3dから冷却液の流出口4cに向かう出口側管路3c内には、前記流出口4c側から前記収容室4aに近づくに従って前記したサーモエレメント2aの移動方向の一方側へ向かうように傾斜するスロープ4iが形成されており、スロープ4iの収容室側の端部4kは、弁座5c位置から前記一方側に向かった範囲に位置して、環状溝3dの周壁に連なっている。
【0042】
したがって、この第2実施例のサーモスタット装置1においても、制御バルブ2cの開弁に伴う前記流出口4c側に向かう冷却液は、図8にB方向に至る矢印で示したように、環状溝3d内に沿って周回するようにして流れ、前記環状溝3dからスロープ4iを介して流出口4cに向かって抵抗なく流出する。
これにより、前記した第1実施例のサーモスタット装置と同様に、サーモエレメント2aは、ラジエータ側からの冷却液の影響を受け難いものとなり、結果として、感温性及び応答性が向上し、ハンチングの発生も抑えることができるサーモスタット装置を提供することができる。
【0043】
なお、前記した第1および第2の実施の形態においては、ハウジング内の弁座5cから、冷却液の流出口4cに向かう出口側管路3cは、サーモエレメント2aの移動軸方向に対して直交する方向に形成された構成が採用されている。しかし、この角度は必ずしも直交する必要はなく、これは適宜の角度を選択することができ、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 サーモスタット装置
2 サーモ動作ユニット
2a サーモエレメント
2b ピストン
2c 制御バルブ(弁体)
2d ばね部材
2e ばね受け部材
3 ハウジング
3a 第1入口側管路
3b 第2入口側管路
3c 出口側管路
3d 環状溝
3e 開口端部
4 ケース
4a ユニット収容空間(収容室)
4b 第2流入口
4c 冷却液の流出口
4i スロープ
4j ケース内周面
4k スロープの収容室側端部
5 インレット
5a 第1流入口
5c 弁座
5d 環状突部
5f 環状突部外周面
5h 脚部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10