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特許7393406関節炎を治療するための幹細胞製剤の使用、及び幹細胞製剤を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】関節炎を治療するための幹細胞製剤の使用、及び幹細胞製剤を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20231129BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20231129BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231129BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20231129BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/51
A61P19/02
A61K9/10
A61P43/00 111
C12N5/0775
C12N15/09 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021164698
(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公開番号】P2023013902
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】110126154
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521436186
【氏名又は名称】國璽幹細胞應用技術股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】林峯輝
(72)【発明者】
【氏名】管哲雍
(72)【発明者】
【氏名】林▲ゆー▼楹
(72)【発明者】
【氏名】陳靖▲ゆん▼
(72)【発明者】
【氏名】陳緻宇
(72)【発明者】
【氏名】楊易軒
(72)【発明者】
【氏名】莊明熙
(72)【発明者】
【氏名】林珀丞
(72)【発明者】
【氏名】李家▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】張▲かい▼玲
(72)【発明者】
【氏名】趙沛▲しゅあん▼
(72)【発明者】
【氏名】徐婉馨
(72)【発明者】
【氏名】陳俊宏
(72)【発明者】
【氏名】王亭茹
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-024860(JP,A)
【文献】特開2011-041472(JP,A)
【文献】特開2012-139246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞製剤は、幹細胞塊(cell sphere)を含み、
前記幹細胞塊は、幹細胞を含み、
前記幹細胞製剤は、足場に前記幹細胞を接種して細胞足場複合体を形成し、前記細胞足場複合体に対して順に静的な培養及び動的な培養を行うことによって得られるものであり、
前記幹細胞塊は、0μmを超えてかつ50μm未満の大きさを有し、
前記幹細胞は、1×10 細胞/足場の濃度で前記足場に接種されることを特徴とする、
関節炎を治療する医薬品を製造するための幹細胞製剤の使用。
【請求項2】
前記関節炎は、変性性関節炎であることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記幹細胞は、脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cell、ADMSC)、臍帯間葉系幹細胞(umbilical cord mesenchymal stem cell)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記脂肪由来間葉系幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞であることを特徴とする、
請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊の濃度は、1×10細胞/50μL以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊は、CD73、CD90、CD105、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる1種の表面マーカーを発現することを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊は、トランスフォーミング増殖因子-β1(transforming growth factor-β1、TGF-β1)遺伝子、骨形成タンパク質-2(bone morphogenetic protein-2、BMP-2)遺伝子、Sox9遺伝子、アグリカン(Aggrecan)遺伝子、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(cartilage oligomeric matrix protein、COMP)遺伝子、II型コラーゲンα1鎖(collagen type II alpha 1 chain、Col2a1)遺伝子、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる1種の軟骨関連遺伝子を発現することを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬品は、非経口投与の剤形であることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項9】
足場にヒト脂肪由来間葉系幹細胞を接種して細胞足場複合体を形成し、前記細胞足場複合体に対して順に静的な培養及び動的な培養を行う工程を含み、
前記ヒト脂肪由来間葉系幹細胞は、1×10 細胞/足場の濃度で前記足場に接種され、
前記細胞足場複合体の前記足場は、前記静的な培養及び前記動的な培養の後、溶解されて細胞塊を形成し、
前記細胞塊は、0μmを超えてかつ50μm未満の大きさを有することを特徴とする、
幹細胞製剤を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節炎(arthritis)を治療するための幹細胞製剤の使用、及び幹細胞製剤を製造するための方法。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、世界中でよく見られる慢性疾患の1つであり、主に関節の軟骨変性又は結合組織の炎症によって関節痛を生じ、関節の正常な動きを妨げる疾患である。関節炎は、全部で100種類以上あり、病因が沢山あり、起こした関節の損傷もそれぞれ異なる。世界には約3億5500万人の関節炎患者がいる。中国では、約1億人以上の関節炎患者がおり、米国では、5人の中に1人が関節炎の症状があり、アジアでは、6人の中に1人が人生のある時点で関節炎を発症する。関節炎は、高齢者に特有の疾患ではなく、子供を含むすべての年齢層に影響を与える。
【0003】
関節炎は、背中、首、膝、肩関節、手、股関節、足首に発症する可能性がある。多くの関節炎が老化に関し、60歳以上の人が特定の関節炎を患う可能性があるが、若い人も関節炎を患う可能性がある。100種類以上の関節炎には、よく見られるのは変形性関節症(osteoarthritis、OA)、関節リウマチ、リウマチ性関節炎、敗血症性関節炎、外傷性変形性関節炎、自己免疫性関節炎である。強直性関節炎も関節炎の1つである。
【0004】
変形性関節症は、変性性関節炎(degenerative arthritis)とも呼ばれ、可動関節(diarthrosis)不全を起こす疾患であり、主な症状としては、関節軟骨が変性して骨同士がぶつかって、関節痛み、テンダネス(tenderness)、硬直(stiffness)、ロッキング(locking)、関節に水が溜まる(effusion)、関節可動域の縮小、関節スペースの狭小化、骨棘及び嚢胞の生成、関節変形を起こし、厳しい場合、障害(disability)を引き起こす可能性がある。高齢化社会につれて様々な慢性疾患が現れ、そのうち、変形性関節症も深刻な問題となる。変形性関節症は、よく見られる関節疾患であり、米国の30%の人口が影響を受ける。2000年に、世界保健機関(World Health Organization、WHO)は、2000年から2010年までの10年を骨と関節の10年と定め、さらに毎年10月12日を「世界関節炎の日(World Arthritis Day)」と定めた。現在、世界で約4億人が関節炎に苦しんでいる。GlobalDataの市場調査レポートによると、2016年の変形性関節症の市場規模が16億ドルであり、2026年に35億ドルに成長し、2016から2026年の年平均成長率(Compuond Annual Growth Rate、CAGR)が8.1%と予想される。2017年の台湾国民健康保険の年次報告書によると、台湾では、変形性関節症の診断及び入院等の支出は約50億台湾元であり、市場の可能性はかなり大きい。現在、変形性関節症の治療法は、主に疼痛管理であるが、さらなる変性を予防することができない。痛みが日常生活を妨げる又は明らかな機能低下がある場合には、人工膝関節全置換術(Total Knee Replacement、TKR)等の外科手術が行われる。そのため、骨関節の持続的な変性の予防及び軟骨組織の再生は、変形性関節症の治療の究極の目標である。
【0005】
現在、変形性関節症の治療法は、アーチパッドによる矯正、機能性膝パッド、リハビリ電気療法、グルコサミン(Glucosamine)、コンドロイチン(Chondroitin)、非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug、NSAID)、コルチコステロイド(corticosteroids)の関節内注射、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid、HA)の関節内注射、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma、PRP)の注射、自家培養軟骨細胞移植(Autologous Chondrocyte Implantation、ACI)、局部人工膝関節置換術(Partial knee replacement)、及び人工膝関節全置換術(Total Knee Replacement、TKR)等が挙げられる。米国整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons、AAOS)が発表した変形性関節症の治療ガイドライン第2版には、まず、非ステロイド性抗炎症薬で治療し、失敗した場合に、外科手術で治療するという治療ガイドラインが記載されている。関節置換術を受けたら約10~30年使用できるが、ほとんどの変形性関節症の患者が手術を受け入れない。なお、現在、変形性関節症の治療法は、主に疼痛管理であり、さらなる変性を予防することができない。
【0006】
上記の問題を解決するために、新規且つ有効な関節炎治療用医薬品が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、関節炎を治療する医薬品を製造するための幹細胞製剤の使用を提供する。前記幹細胞製剤は、幹細胞塊(cell sphere)を含む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの実施例において、前記関節炎は、変性性関節炎である。
【0009】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞塊は、0μmを超えてかつ50μm未満の大きさを有する。
【0010】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞塊は、脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cell、ADMSC)、臍帯間葉系幹細胞(umbilical cord mesenchymal stem cell)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる1種の幹細胞を含む。
【0011】
本発明の1つの実施例において、前記脂肪由来間葉系幹細胞は、ヒト初代脂肪由来間葉系幹細胞である。
【0012】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞製剤は、足場に前記ヒト初代脂肪由来間葉系幹細胞を接種して細胞足場複合体を形成し、前記細胞足場複合体に対して順に静的な培養及び動的な培養を行うことで得られるものである。
【0013】
本発明の他の目的は、幹細胞製剤を製造するための方法を提供する。前記幹細胞製剤を製造するための方法は、足場にヒト初代脂肪由来間葉系幹細胞を接種して細胞足場複合体を形成し、前記細胞足場複合体に対して順に静的な培養及び動的な培養を行う工程を含む。
【0014】
本発明の1つの実施例において、前記ヒト初代脂肪由来間葉系幹細胞は、1×10細胞/足場以上の濃度で前記足場に接種される。
【0015】
本発明の1つの実施例において、前記静的な培養の時間は、2日である。
【0016】
本発明の1つの実施例において、前記動的な培養の時間は、14日である。
【0017】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊の濃度は、1×10細胞/50μL以上である。
【0018】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊は、CD73、CD90、CD105、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる1種の表面マーカーを発現する。
【0019】
本発明の1つの実施例において、前記幹細胞製剤における前記幹細胞塊は、トランスフォーミング増殖因子-β1(transforming growth factor-β1、TGF-β1)遺伝子、骨形成タンパク質-2(bone morphogenetic protein-2、BMP-2)遺伝子、Sox9遺伝子、アグリカン(Aggrecan)遺伝子、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(cartilage oligomeric matrix protein、COMP)遺伝子、II型コラーゲンα1鎖(collagen type II alpha 1 chain、Col2a1)遺伝子、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる1種の軟骨関連遺伝子を発現する。
【0020】
本発明の1つの実施例において、前記医薬品は、非経口投与の剤形である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の幹細胞製剤によれば、ラットのヨード酢酸ナトリウム(mono-iodoacetate、MIA)誘発関節炎を治療し、そして、歩行分析装置、ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin & Eosin、H&E)及びトルイジンブルー(Toluidine blue)の染色によって治療効果を評価し、かつ、幹細胞製剤を関節炎の治療に応用する可能性を評価する。結果として、本発明の幹細胞製剤は、関節炎(特に変性性関節炎)による軟骨変性を有効に遅らせることができる。また、全血分析及び血液生化学的分析によって三次元幹細胞塊であることが証明された幹細胞製剤は、関節炎(特に変性性関節炎)に応用する安全な治療を提供することができる。なお、現在の細胞治療製品は、主に二次元細胞を利用するが、生体内の生理学的条件に比べ、二次元培養系における細胞形態、分化、細胞間の作用、及び細胞とマトリックスとの間の作用が明らかな差異がある。本発明は、三次元幹細胞スフィア(即ち、幹細胞塊)の幹細胞製剤を関節炎(特に変性性関節炎)の治療に利用する。医薬品の製造基準を考えて閉鎖的な生物反応系及び三次元多孔質生物足場を利用すると、無菌、マルチバッチ、安定に生産できる等の利点を有する。そのため、治療の成功率を向上させ、関節炎(特に変性性関節炎)の新規治療方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る三次元幹細胞塊である幹細胞製剤の大きさを示すグラフである。
図2】歩行分析を示す模式図である。
図3】変性性関節炎を罹患する実験動物に本発明に係る三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤を投与した後、その歩行分析の結果を示すグラフである。
図4】手術4週間後のヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin-Eosin、H&E)の染色結果を示す組織切片の染色画像である。
図5】手術8週間後のヘマトキシリン・エオジン(H&E)の染色結果を示す組織切片の染色画像である。
図6】手術4週間後のトルイジンブルー(Toluidine Blue)の染色結果を示す組織切片の染色画像である。
図7】手術8週間後のトルイジンブルーの染色結果を示す組織切片の染色画像である。
図8】三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤が投与された変性性関節炎を罹患する実験動物の手術4週間後の変性性関節炎スコア(OA score)を示すグラフである。
図9】三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤が投与された変性性関節炎を罹患する実験動物の手術8週間後の変性性関節炎スコアを示すグラフである。
図10】ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose-derived mesenchymal stem cell、hADMSC)を14日の二次元培養及び三次元培養(即ち、本発明の三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤)を経た後、その細胞のmRNA発現レベルを示すグラフである。
図11図11Aは、ヒト臍帯間葉系幹細胞を14日の二次元培養及び三次元培養(即ち、実施例1に記載の方法を参照して得られた本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤)を経た後、その細胞のmRNA発現レベルを示すグラフである。図11Bは、ヒト臍帯間葉系幹細胞を14日の二次元培養及び三次元培養(即ち、実施例1に記載の方法を参照して得られた本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤)を経た後、その細胞のmRNA発現レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。後述する実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。本発明の主旨及び範囲において、当業者が本発明を変更や修飾することができる。よって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義すべくものです。
【0024】
本明細書に記載の数値は、近似値である。全ての実験データは、その数値の±20%、好ましいくは±10%、より好ましくは±5%の範囲内にあることを示す。
【0025】
本明細書において、「脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cell、ADMSC)」は、脂肪から分離された1種類の間葉幹細胞であり、多能性幹細胞(multipotent stem cell)に属し、高い可塑性(plasticity)を有し、誘導によって異なる組織の細胞に分化できる。
【0026】
本明細書において、「治療する(treating)」又は「治療(treatment)」は、疾患(disease)又は障害(disorder)の1つ又は複数の臨床徴候(clinical sign)を軽減(alleviating)、減少(reducing)、改善(ameliorating)、緩和(relieving)、控制(controlling)させること、及び治療中の病態(condition)又は症状(symptom)の重症度(severity)の進行(progression)を低下(lowering)、停止(stopping)又は逆転(reversing)させることを示す。
【0027】
本発明に係る医薬品は、当業者の公知技術によって非経口(parenterally)投与に適した剤形(dosage form)に製造され得る。前記剤形は、例えば、注射剤(injection)(例えば、無菌水溶液(sterile aqueous solution)又は分散液(dispersion))、無菌散剤(sterile powder)、錠剤(tablet)、トローチ剤(troche)、ロゼンジ剤(lozenge)、丸剤(pill)、カプセル剤(capsule)、分散性散剤(dispersible powder)や顆粒剤(granule)、溶液、懸濁液(suspension)、乳剤(emulsion)、シロップ剤(syrup)、エリキシル剤(elixir)、スラリー剤(slurry)、及びそれらに類似するものが挙げられる。
【0028】
本発明に係る医薬品は、腹腔内注射(intraperitoneal injection)、皮下注射(subcutaneous injection)、表皮内注射(intraepidermal injection)、皮内注射(intradermal injection)、筋肉内注射(intramuscular injection)、静脈内注射(intravenous injection)、及び病巣内注射(intralesional injection)からなる群から選ばれる非経腸経路(parenteral routes)で投与されることができる。
【0029】
本発明に係る医薬品は、医薬品製造技術に広く使用されている薬学的に許容される担体を含んでもよい。前記薬学的に許容される担体は、溶剤(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁化剤(suspending agent)、分解剤(decomposer)、結着剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、潤滑剤(lubricant)、吸収遅延剤(absorption delaying agent)、リポソーム剤(liposome)、及びそれらに類似するものからなる群から選ばれる1種類以上の試剤を含んでもよい。当業者は、前記試薬の選択及び使用量を適宜設定することができる。
【0030】
本発明に係る前記薬学的に許容される担体は、水、生理食塩水(normal saline)、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、糖液、アルコール水溶液(aqueous solution containing alcohol)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる溶剤を含む。
【0031】
下記の実施例で使用される実験動物は、SD(Sprague-Dawley)のオスのラットである。実験の前日、実験ラットに術前鎮痛剤(ケトプロフェン(Ketoprofen)、5mg/kg)を注射する。各ラットをイソフルラン(Isoflurane)で麻酔し、剃毛部をヨードチンキで消毒した後、75%のアルコールで2次消毒する。そして、27Gの針で50μLのヨード酢酸ナトリウム(mono-iodoacetate、MIA)(6 mg/mL)(Sigma、製品番号A2512)を左膝関節腔に注射して変性性関節炎を誘発させる。偽対照群(Sham群)に対しては、生理食塩水(Normal saline)(50μL)を注射する。術後の痛みを軽くするために、手術後の3日間毎日にケトプロフェン(5mg/kg)を投与する。
【0032】
下記の実施例において、幹細胞として脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cell、ADMSC)を使用する例について説明する。また、他の実施例において、幹細胞として臍帯間葉系幹細胞(umbilical cord mesenchymal stem cell)、又は脂肪由来間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞との組み合わせを使用してもよい。
【0033】
下記の実施例において、関節炎として変性性関節炎を選択する例について説明する。また、他の実施例において、関節炎は他の原因による関節炎であってもよい。
【0034】
実施例1.三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cells、ADMSCs)製剤の製造及びその大きさ
本発明の実施例に使用したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(adipose-derived mesenchymal stem cells、ADMSCs)は、台湾食品医薬品局が公開している「ヒト細胞治療品のドナーの適合性判定基準」に基づいて、腹部手術の間に、書面同意を得られた提供者の腹壁の皮下脂肪から2~5gの脂肪組織を採取する。ヒト脂肪組織をCa2+/Mg2+を含まないリン酸緩衝液(PBS)中に置いて、直ちにGTP(Good Tissue Practice)基準の実験室に移送する。GTP実験室において、ヒト脂肪組織を輸送培地から取り出して培養ディッシュに入れて、Ca2+/Mg2+を含まないPBSが存在する状態で小片(約1~2mm)に切断し、組織を0.1%のコラゲナーゼで分解して37℃で60分間培養する。コラゲナーゼで消化した後、得られた細胞を収集して増殖培地で培養する。前記増殖培地は、無血清培地であり、通常、少なくとも10%のウシ胎児血清、N-アセチル-L-システイン、L2アスコルビン酸、及びリン酸塩を含む表皮角化細胞無血清培地である。2日間培養した後、培養ディッシュ から上澄み液及び破片を除去し、初代培養脂肪由来間葉系幹細胞を得る。
【0035】
また、対照群として二次元培養した幹細胞製剤(2D)を製造する。動物実験の前日に、2本の75T培養フラスコ(75T-flask)のヒト初代培養脂肪由来間葉系幹細胞(番号:13A001、世帯数:第6世代(passage 6))を準備し、動物実験の当日に、トリプシン溶液(0.25%のトリプシン(trypsin)と、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Sigma、製品番号34549-1KG)とを含み、Gibco社から購入、製品番号25200-072)で細胞を収集した後、血球計算盤を用いて細胞数をカウントし、生体内注射用の二次元培養した幹細胞製剤を製造する。
【0036】
そして、実験群として本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)を製造する。それぞれ2本の75T培養フラスコのヒト初代培養脂肪由来間葉系幹細胞(番号:13A001、世帯数:第5世代及び第6世代)を準備し、細胞をトリプシン溶液で収集して足場に接種する。接種した細胞数は、1×10細胞/足場以上であり、本発明の実施例では1×10細胞/足場である。細胞足場複合体を24ウェルプレートで24時間培養して細胞を安定させた後、細胞足場複合体を50mLの遠心分離管に移して48時間静的に培養し、その後、バイオリアクターに移して、37℃、5%COインキュベータ(incubator)(Thermo)内で14日動的に培養する。
【0037】
14日動的に培養した後、EDTA/PBSで足場を溶解して細胞塊を収集し、細胞カウンター(Automated Brightfield Cell Counter Cellometer(登録商標) Auto T4)を用いて細胞塊の大きさを計算したところ、生成された細胞塊がいずれも50μm以下である。実験結果を図1に示す。
【0038】
実施例2.三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤の細胞数の検出及び投与量
市販の細胞生存率測定キット(CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay Kit、Promega、製品番号G9682)で既知の細胞数のミトコンドリア活性を検出することにより、細胞の平均ミトコンドリア活性を計算して参考基準とする。計算した基準値を用いて換算すると、14日動的な培養後の細胞増殖数は2.35×10細胞/足場となる。この結果を利用して動物実験の細胞塊群の細胞数を計算する。
【0039】
さらに、二次元培養細胞顆粒(即ち、実施例1に記載の二次元培養した幹細胞製剤)及び三次元幹細胞塊である幹細胞製剤の投与量をそれぞれ調べる。二次元培養細胞顆粒の投与量としては、1匹の動物に注射した細胞治療用の細胞数が1×10細胞/50μLであり、かつ、実験動物が1群で8匹なので、最低必要量が8×10細胞であり、実験の全必要量が2×10細胞/mLである。血球計算盤で計算した細胞数(3.08×10細胞/mL)を2×10細胞/mLで割って、細胞を含む細胞注射液の体積が1.54mLであると算出できる。本実施例において、1.54mLの細胞注射液を1.2×10細胞/600μLで1mLの注射器(27G)に分注し、後の動物実験に利用する(各実験動物に50μLの細胞液を注射し、即ち、細胞の投与量が1×10細胞/50μLである)。
【0040】
三次元幹細胞塊である幹細胞製剤の投与量としては、1匹の動物に注射した細胞治療用の細胞数が1×10細胞/50μLであり、かつ、実験動物が1群で8匹なので、最低必要量が8×10細胞であり、実験の全必要量が2×10細胞/mLである。2.35×10(各足場の細胞数)を10(足場数)に掛けて、総細胞数が2.35×10個であると計算できる。さらに、総細胞数(2.35×10個)を実験の全必要量(2×10cells/mL)で割って、細胞を含む細胞注射液の体積が1.17mLであると算出できる。本実施例において、1.17mLの細胞注射液を1×10細胞/500μLで1mLの注射器(27G)に分注し、動物実験に利用する(各実験動物に50μL細胞液を注射し、即ち、細胞の投与量が1×10細胞/50μLである)。
【0041】
実施例3.変性性関節炎を罹患する実験動物に三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤を使用した後、その歩行分析の結果
本実施例及び下記の実施例の実験動物は、偽対照群(Sham群)、ヨード酢酸ナトリウム(mono-iodoacetate、MIA)群、2D群(即ち、対照群)、及び3D群(即ち、実験群)を含む4つの群に分けられる。各群の処理方法を表1に示す。
【表1】
【0042】
術後3日に、ラットをイソフルランで麻酔し、かつ左膝の表面を消毒する。二次元培養した幹細胞製剤(2D)(1×10細胞/50μL)、三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)(1×10細胞/50μL)、及び生理食塩水(50μL)を27Gの針でそれぞれ2D群、3D群、及びMIA群のラットの左膝関節腔に注射する。また、Sham群に対しては、再度に生理食塩水を注射する。術後4週間後、歩行分析装置(Clever Sys Inc.)によって分析する。
【0043】
歩行分析の操作プロセスは以下のとおりである。手術4週間後、SDラットを歩行分析装置の無端ベルトに乗せて、23cm/秒の速度で試験を行って、TreadScanTM 2.0でスタンス(Stance)、ブレーキ(Brake)、及びプロパルジョン(Propulsion)の反応時間(図2参照)を測定する。
【0044】
歩行分析の結果(表2参照)から分かるように、Sham群(MIA誘発を行われず、且ついずれの治療も受けなかった)と比べて、いずれの治療も受けなかったMIA誘発ラット(MIA群)は、スタンス、ブレーキ、及びプロパルジョンの反応時間が長くなる(図3参照)。MIA群と比べて、2D及び3D治療を受けたMIA誘発ラットは、スタンス、ブレーキ、及びプロパルジョンの反応時間が短くなる。また、3D群の反応時間が2D群より低いことから分かるように、本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤は、MIA誘発変性性関節炎の歩行表現(walking performance)を改善することができる。なお、歩行分析から分かるように、3D群の予後が2D群より優れ、そのうち、スタンス時間が39.84%減少し、ブレーキ時間が43.62%減少し、及びプロパルジョン時間が36.39%減少する。
【表2】
【0045】
実施例4.変性性関節炎を罹患する実験動物に三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤を使用した後、組織切片をヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin-Eosin、H&E)で染色した結果
実験動物の組み分け及び処理は、実施例3と同じである。各群の実験動物をそれぞれ手術4週間後と8週間後に安楽死させ、サンプリングした組織を10%のホルムアルデヒド(Formaldehyde)(Macron)(製品番号H121-08)溶液に浸漬して3日間固定した後、5%硝酸溶液で2週間脱灰し、そして、ホルマリン溶液に置換し、財団法人国家衛生研究院コアラボに送って脱水、パラフィン包埋、及び組織切片を行った後、パラフィン切片を染色する。
【0046】
そして、パラフィン切片をキシレン(Xylene)(Sigma)(製品番号534056)で脱パラフィンして再水和し、そして、ヘマトキシリン(Hematoxylin)(Sigma)(製品番号GHS3)溶液に浸漬して5分間染色する。その後、切片を流水で2分間洗浄し、さらに脱イオン水でリンスし、そして、エオジン(Eosin)(Sigma)(製品番号E4382)溶液に浸漬して3分間染色する。その後、切片を99%のアルコール(Absolute alcohol)で3分間脱水し、前記脱水処理を2回行う。最後、切片をキシレンに浸漬し、そして、封入剤で密封する。
【0047】
術後4週のH&E染色結果を図4に示す。MIA誘発軟骨切片から分かるように、軟骨細胞が破壊され、関節軟骨に明らかなラクナ(lacunae)がないため、前記動物モデルにおいて変性性関節炎が成功に誘発されたと証明できる。Sham群は、正常な軟骨形態を維持し、かつ、軟骨細胞がラクナで覆われている。二次元培養した幹細胞製剤(2D)及び三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)で治療したラットの切片から分かるように、MIA群と比べて、その軟骨形態が正常である。そのうち、3D群及びSham群は、軟骨形態について明らかな差異が見られない。
【0048】
術後8週のH&E染色結果を図5に示す。Sham群は、正常な軟骨形態を維持している。しかし、MIA群は、軟骨が破壊される。2D及び3Dで8週間治療した切片から分かるように、MIA群と比べて、軟骨形態が明らかに改善される。そのうち、3D群及びSham群は、軟骨形態について明らかな差異が見られない。H&E染色結果から分かるように、4週間のラットであっても8週間のラットであっても、本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)は、変性性関節炎を遅らせる効果がより優れている。
【0049】
実施例5.変性性関節炎を罹患する実験動物に三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤を使用した後、組織切片をトルイジンブルー(Toluidine Blue)で染色した結果
実験動物の組み分け及び処理は、実施例3と同じである。各群の実験動物をそれぞれ手術4週間後と8週間後に安楽死させ、サンプリングした組織を10%のホルムアルデヒド(Formaldehyde)(Macron)(製品番号H121-08)溶液に浸漬して3日間固定した後、5%硝酸溶液で2週間脱灰し、そして、ホルマリン溶液に置換し、財団法人国家衛生研究院コアラボに送って脱水、パラフィン包埋、及び組織切片を行った後、パラフィン切片を染色する。
【0050】
そして、パラフィン切片をキシレンで脱パラフィンして再水和し、さらに0.04%のトルイジンブルー(Sigma)(製品番号T3260)溶液に浸漬して10分間染色する。その後、切片を流水で1分間洗浄した後、10分間静置して乾燥させる。最後、切片をキシレンに浸漬し、そして、封入剤で密封する。
【0051】
術後4週のトルイジンブルー染色結果を図6に示す。軟骨の表面からタイドマーク(Tidemark)までの長さを測定したところ、Sham群、MIA群、2D群、及び3D群は、それぞれ131.81、64.47、51.32、及び153.95μmである。そのうち、2D群と比べて、3D群の長さが299.98%増加する。MIA誘発ラットの軟骨がトルイジンブルー陰性であり、Sham群及び3D群がトルイジンブルー陽性であり、2D群がトルイジンブルー陰性である。
【0052】
術後8週のトルイジンブルー染色結果を図7に示す。軟骨の表面からタイドマークまでの長さを測定したところ、Sham群、MIA群、2D群、及び3D群は、それぞれ192.10、73.69、63.16、及び184.87μmである。そのうち、2D群と比べて、3D群の長さが292.7%増加する。Sham群及び3D群の軟骨は、トルイジンブルー陽性である。トルイジンブルー染色結果から分かるように、本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)は、変性性関節炎による軟骨変性を有効に遅らせることができる。
【0053】
実施例6.変性性関節炎を罹患する実験動物に三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤を使用した後、その全血分析及び血液生化学的分析
実験動物の組み分け及び処理は、実施例3と同じである。各群の実験動物をそれぞれ手術4週間後と8週間後に採血して安楽死させ、血液を全血分析及び血液生化学的分析に供する。手術の4週間後と8週間後、尾静脈から血液サンプルを採取し、全血分析及び血液生化学的分析を行う。全血分析の項目は、赤血球(Red blood cell、RBC)、白血球(White blood cell、WBC)、血小板(Platelet、PLT)、単球(Monocyte)、及びリンパ球(Lymphocyte)を含む。血液生化学的分析項目は、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(Glutamic oxaloacetic transaminase、GOT)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(Glutamic pyruvic transaminase、GPT)、アルカリフォスファターゼ(Alkaline phosphatase、ALP)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen、BUN)、及びクレアチニン(Creatinine、CRE)を含む。結果から分かるように、4週間と8週間後の各群の間に顕著な差異が見られない(表3~表6参照)。この結果から、二次元培養した幹細胞製剤(2D)及び本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤(3D)をラットの関節腔に注射しても、明らかな炎症反応が起らず、肝臓及び腎臓の毒性がないことを実証できる。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0054】
実施例7.三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤が投与された変性性関節炎を罹患する実験動物の変性性関節炎スコア(OA score)
実験動物の組み分け及び処理は、実施例3と同じである。各群の実験動物をそれぞれ手術4週間後と8週間後に安楽死させ、サンプリングした組織を10%のホルムアルデヒド(Formaldehyde)(Macron)(製品番号H121-08)溶液に浸漬して3日間固定した後、5%の硝酸溶液で2週間脱灰し、そして、ホルマリン溶液に置換し、財団法人国家衛生研究院コアラボに送って脱水、パラフィン包埋、及び組織切片を行った後、パラフィン切片を染色する。
【0055】
そして、パラフィン切片をキシレンで脱パラフィンして再水和し、さらに0.04%のトルイジンブルー(Sigma)(製品番号T3260)溶液に浸漬して10分間染色する。その後、切片を流水で1分間洗浄した後、10分間静置して乾燥させる。最後、切片をキシレンに浸漬し、そして、封入剤で密封する。
【0056】
トルイジンブルー染色切片を国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International)が公開している採点方法に従って変性性関節炎を評価し、その点数は、グレード(Grade)×ステージ(Stage)の積である。
【0057】
4週後及び8週後のトルイジンブルー染色切片を使用して変性性関節炎スコアを評価する。術後4週のスコアについて、Sham群、MIA群、2D群、及び3D群は、それぞれ0±0、14±2.31、11.5±6.40、及び0.75±0.96(図8参照)である。術後8週のスコアについて、Sham群、MIA群、2D群、及び3D群は、それぞれ0±0、16±1.63、12.5±5.74、及び0.5±0.57(図9参照)である。本実施例の結果から分かるように、本発明の三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤は、変性性関節炎を有効に遅らせることができる。
【0058】
実施例8.三次元幹細胞塊である幹細胞製剤の軟骨に関連する遺伝子の発現
本実施例で使用したヒト臍帯間葉系幹細胞(human umbilical cord mesenchymal stem cells、Wharton’s jelly)は、Bioresource Collection and Research Center(BCRC)から購入する。
【0059】
ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(human adipose-derived mesenchymal stem cell、hADMSC)及びヒト臍帯間葉系幹細胞を実施例1と同じ製造方法で14日培養した後、mRNA分離キット(Quick-RNATM MiniPrep、ZYMO RESEARCH)を使用して細胞のmRNAを分離する。そして、逆転写キット(PrimeScriptTM RT reagent Kit、Takara)使用して分離したmRNAをcDNAに逆転写する。SYBR(登録商標) Premix Ex TaqTM II(Takara)を利用して100ngのcDNAサンプルを混合し、トランスフォーミング増殖因子β1(transforming growth factor、TGF-β1)遺伝子、骨形成タンパク質-2(bone morphogenetic protein-2、BMP-2)遺伝子、Sox9遺伝子、アグリカン(Aggrecan)遺伝子、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(cartilage oligomeric matrix protein、COMP)遺伝子、及びコラーゲンII型α-1(Collagen type II alpha 1、Col2al)遺伝子に適したプライマーを選択し、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real time PCR)を行う。各遺伝子のプライマー配列を表7に示す。
【表7】
【0060】
実施例1で製造した三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤のmRNAを分離した後、cDNAに逆転写し、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を行う。各遺伝子の発現量を分析して記録し、その結果を表8及び図10に示す。表8及び図10には、hADMSCが14日間の二次元(2D)及び三次元培養(3D)を経た(即ち、本発明の三次元幹細胞塊である脂肪由来間葉系幹細胞製剤)後の細胞のmRNA発現レベルを示す。
【表8】
【0061】
表8及び図10に示すように、hADMSCを14日培養した後、二次元培養細胞と比べ、三次元培養細胞におけるTGF-β1遺伝子、BMP-2遺伝子、Sox9遺伝子、Aggrecan遺伝子、COMP遺伝子、及びCol2al遺伝子の発現が約2~25倍顕著に増加した。
【0062】
表9、図11A及び図11Bには、ヒト臍帯間葉系幹細胞が14日間の二次元(2D)及び三次元培養(3D)を経た(即ち、実施例1の方法で製造した本発明の三次元幹細胞塊である幹細胞製剤)後の細胞のmRNA発現レベルを示す。そのうち、二次元培養群のmRNA発現を1とし、相対的なmRNA発現を計算する。なお、図11Bにおいて、2つの群の間の相対的なmRNA発現の差が大きく、Y軸の間隔も大きくなるため、二次元培養群のmRNA発現がはっきり認められないが、COMP遺伝子を発現しなかったという意味ではない。
【表9】
【0063】
表9、図11A及び図11Bに示すように、ヒト臍帯間葉系幹細胞を14日培養した後、二次元培養細胞と比べて、三次元培養細胞におけるTGF-β1遺伝子、Aggrecan遺伝子、COMP遺伝子の発現が約2.4~1572倍顕著に増加した。
【0064】
上記をまとめると、本発明に係る幹細胞製剤をヨード酢酸ナトリウム(mono-iodoacetate、MIA)誘発関節炎ラットの治療に使用し、歩行分析装置及びヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin & Eosin、H&E)の染色とトルイジンブルー(Toluidine blue)の染色によって治療効果を評価することにより、幹細胞製剤を関節炎の治療に利用する可能性を評価する。結果として、本発明に係る幹細胞製剤は、関節炎(特に変性性関節炎)による軟骨変性を有効に遅らせることができる。また、全血分析及び血液生化学的分析により、三次元幹細胞塊である幹細胞製剤が関節炎(特に変性性関節炎)の安全な治療法を提供できることが証明された。なお、現在の細胞治療製品は、主に二次元細胞を利用するが、生体内の生理学的条件に比べ、二次元培養系における細胞形態、分化、細胞間の作用、及び細胞とマトリックスとの間の作用が明らかな差異がある。本発明は、三次元幹細胞スフィア(即ち、幹細胞塊)の幹細胞製剤を関節炎(特に変性性関節炎)の治療に利用する。医薬品の製造基準を考えて閉鎖的な生物反応系及び三次元多孔質生物足場を利用すると、無菌、マルチバッチ、安定に生産できる等の利点を有する。そのため、治療の成功率を向上させ、関節炎(特に変性性関節炎)の新規治療方法を提供できる。
【0065】
本発明は、上記の内容に限定されない。本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく均等的な変更や変化は、いずれも添付の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
【配列表】
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