(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ローリングサークル増幅方法、シーケンシングライブラリの調製方法及び調製されたDNAナノスフィア
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231129BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20231129BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20231129BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20231129BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231129BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231129BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N9/00
C12N9/12
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C40B40/06
(21)【出願番号】P 2021532178
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 CN2018119335
(87)【国際公開番号】W WO2020113460
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-06-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521242587
【氏名又は名称】深▲せん▼華大智造極創科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廖莎
(72)【発明者】
【氏名】陳奥
(72)【発明者】
【氏名】章文蔚
(72)【発明者】
【氏名】徐崇鈞
(72)【発明者】
【氏名】沈寒▲じえ▼
(72)【発明者】
【氏名】何琳
(72)【発明者】
【氏名】許軍強
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-583589(JP,A)
【文献】国際公開第2018/129214(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/085642(WO,A1)
【文献】特表2016-537990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12Q 1/6844
C40B 40/06
C12N 9/00
C12N 9/12
C12Q 1/686
C12Q 1/6869
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローリングサークル増幅方法であって、前記方法は、二本鎖DNAと媒介配列を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、前記システムにリガーゼとポリメラーゼを併せて導入し、前記リガーゼの作用下で前記一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、前記ポリメラーゼの作用下で前記媒介配列をプライマーとして使用し、前記一本鎖DNAをテンプレートとして使用してローリングサークル増幅反応を行い、増幅産物を取得するステップと、を含むことを特徴とし、
前記システムに含まれるバッファは、BGISEQ
(商標)-500 SE50シーケンシングライブラリ調製キットのDNB
(商標)調製バッファIである、
ローリングサークル増幅方法。
【請求項2】
前記二本鎖DNAは、PCR増幅により得られた二本鎖DNA及び接続産物から選ばれ、 前記接続産物は、DNAが切断された後にアダプターが追加されたDNAであることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項3】
前記媒介配列は、前記二本鎖DNAの変性後の2つの一本鎖
DNAのうちの一方の一本鎖DNAの両端のみと相補的に対になることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項4】
前記リガーゼはT4 DNAリガーゼであることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項5】
前記ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼであることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項6】
前記変性は95℃で行われることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項7】
前記アニーリングは40℃で行われることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項8】
前記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は30℃で行われ、
任意選択に、前記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は20min以上行われることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項9】
前記システムにATPをさらに導入し、前記リガーゼにエネルギーを提供することを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項10】
前記システムに添加される前記二本鎖DNAの量はフェムトモル(fmol)レベルであることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項11】
前記システムに添加される前記二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上であることを特徴とする請求項10に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項12】
前記方法はBGI
(商標)シーケンシングプラットフォームで使用されるローリングサークル増幅方法であることを特徴とする請求項1に記載のローリングサークル増幅方法。
【請求項13】
シーケンシングライブラリの調製方法であって、前記方法は、DNAナノスフィアを調製するステップを含み、該ステップは、二本鎖DNAと媒介配列を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、前記システムにリガーゼとポリメラーゼを併せて導入し、前記リガーゼの作用下で前記一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、前記ポリメラーゼの作用下で前記媒介配列をプライマーとして使用し、前記一本鎖DNAをテンプレートとして使用してローリングサークル増幅反応を行い、DNAナノスフィアを取得するステップと、を含むことを特徴とし、
前記システムに含まれるバッファは、BGISEQ
(商標)-500 SE50シーケンシングライブラリ調製キットのDNB
(商標)調製バッファIである、
シーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項14】
前記二本鎖DNAはPCR増幅により得られた二本鎖DNA及び接続産物から選ばれ、前記接続産物は、DNAが切断された後にアダプターが追加されたDNAであることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項15】
前記方法は、前記二本鎖DNAを取得するように、DNAナノスフィアを調製するステップの前に、DNA切断、アダプターの追加ステップをさらに含み、任意選択的に、アダプターの追加の後にPCR増幅ステップをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項16】
前記媒介配列は、前記二本鎖DNAの変性後の2つの一本鎖
DNAのうちの一方の一本鎖DNAの両端のみと相補的に対になることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項17】
前記リガーゼはT4 DNAリガーゼであり、前記ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼであることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項18】
前記変性は95℃で行われ、前記アニーリングは40℃で行われることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項19】
前記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は30℃で行われ、
任意選択に、前記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は20min以上行われることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項20】
前記システムにATPをさらに導入し、前記リガーゼにエネルギーを提供することを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項21】
前記システムに添加される前記二本鎖DNAの量はフェムトモル(fmol)レベルであることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項22】
前記システムに添加される前記二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上であることを特徴とする請求項21に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項23】
前記方法はBGI
(商標)シーケンシングプラットフォームで使用されるシーケンシングライブラリの調製方法であることを特徴とする請求項13に記載のシーケンシングライブラリの調製方法。
【請求項24】
請求項1~12
のいずれか一項に記載のローリングサークル増幅方法又は請求項13~23
のいずれか一項に記載のシーケンシングライブラリの調製方法によ
りDNAナノスフィア
を得ることを含む、
DNAナノスフィアの製造のための方法。
【請求項25】
請求項1~12のいずれか一項に記載のローリングサークル増幅方法又は請求項13~23のいずれか一項に記載のシーケンシングライブラリの調製方法によりDNAナノスフィアを得ることを含む、
DNAナノスフィアを用いてシーケンシングするための方法。
【請求項26】
ライブラリ調製においてDNAの初期量を減らすための、請求項1~12
のいずれか一項に記載のローリングサークル増幅方法又は請求項13~23
のいずれか一項に記載のシーケンシングライブラリの調製方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシーケンシング技術分野に関し、具体的に、DNAナノスフィアを調製するローリングサークル増幅方法、シーケンシングライブラリの調製方法及び調製されたDNAナノスフィアに関する。
【背景技術】
【0002】
ローリングサークル増幅(RCA)は、一本鎖環状DNA/RNAをテンプレートとして使用し、DNA/RNAを大量に複製するプロセスである。迅速、正確、必要なテンプレート量が少ないなどの特徴を有するので、現在、既に生物医学技術や生物ナノ技術分野で重要な研究手段となっている。RCA方法で形成されたDNAナノスフィア(DNB)に基づく北京ゲノミクス機関(BGI)のシーケンシング方法は、増幅に発生するエラー率を蓄積しないため、シーケンシングの正確さのソースの点で他のシーケンシングプラットフォームも優れ、幅広く使用されている。しかしながら、DNBは一本鎖環状DNAをテンプレートとして調製してなる必要があるため、ライブラリ調製では一本鎖環状化の追加の調製プロセスが必要になり、ライブラリ調製の複雑さが増加した。具体的に、サンプル調製では、先に一本鎖環状DNAを取得する必要があり、そのライブラリ調製手順は、DNA抽出、切断、アダプターの追加、PCR増幅(選択可能である)、精製、一本鎖環状化、精製などのステップを含む。
図1に示すように、従来のDNB調製の技術において、二本鎖DNAの変性した一本鎖の両端が媒介配列(Splint oligo)と相補的に対になり、T4リガーゼの作用下で環状化され、次に、線状DNAを消化し、磁気ビーズの精製を行い、次に、Phi 29ポリメラーゼの作用下でローリングサークル増幅(RCA)してDNBを取得する。
【0003】
DNBに基づくシーケンシング方法には、後続の環状化と精製の2つのステップを追加するため、サンプル調製の難しさと時間が増加すると同時に、サンプル調製のコストが増加する。また、環状化効率や精製効率などの総合的な要因の影響により、これらの2つのステップの効率はわずか10%~30%であり、サンプルの投入量が大幅に増加する。したがって、現在のDNBに基づくシーケンシング技術は大量のサンプルを必要とし、その希少サンプルシーケンシングでの使用範囲を制限してしまう。PCR増幅によってサンプル量の不足という欠陥を補うことができるが、PCRがエラーを導入することがあり、業界ではますます認められなくなる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ローリングサークル増幅方法、シーケンシングライブラリの調製方法及び調製されたDNAナノスフィアを提供し、該方法では、一本鎖環状化DNAをテンプレートとして使用せず、二本鎖DNAをテンプレートとして直接使用してDNBの調製を行い、DNB調製プロセスで一本鎖環状化プロセスの必要がなくなり、DNB調製手順を簡素化し、調製時間を節約し、調製コストを削減し、且つサンプルの使用量を減少する。
【0005】
第1態様によれば、一実施例はローリングサークル増幅方法を提供し、二本鎖DNAと媒介配列(Splint oligo)を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、上記システムにリガーゼとポリメラーゼを併せて導入し、上記リガーゼの作用下で上記一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、上記ポリメラーゼの作用下で上記媒介配列をプライマーとして使用し、上記一本鎖DNAをテンプレートとして使用してローリングサークル増幅反応を行い、好ましい実施例においてDNAナノスフィアである増幅産物を取得するステップと、を含む。
【0006】
好ましい実施例において、上記二本鎖DNAは、PCR増幅により得られた二本鎖DNA及び接続産物から選ばれ、接続産物は、DNAが切断された後にアダプターが追加されたDNAである。
【0007】
好ましい実施例において、上記媒介配列は、上記二本鎖DNAの変性後の2つの一本鎖のうちの一方の一本鎖DNAの両端のみと相補的に対になる。
【0008】
好ましい実施例において、上記リガーゼはT4 DNAリガーゼである。
【0009】
好ましい実施例において、上記ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼである。
【0010】
好ましい実施例において、上記変性は95℃で行われる。
【0011】
好ましい実施例において、上記アニーリングは40℃で行われる。
【0012】
好ましい実施例において、上記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は30℃下で行われる。
【0013】
好ましい実施例において、上記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は20min以上行う。
【0014】
好ましい実施例において、上記システムにATPをさらに導入し、上記リガーゼにエネルギーを提供する。
【0015】
好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量はフェムトモル(fmol)レベルである。
【0016】
好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上である。
【0017】
好ましい実施例において、上記方法はBGIシーケンシングプラットフォームで使用されるローリングサークル増幅方法である。
【0018】
第2態様によれば、一実施例においてシーケンシングライブラリの調製方法を提供し、DNAナノスフィアを調製するステップを含み、該ステップは、二本鎖DNAと媒介配列(Splint oligo)を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、上記システムにリガーゼとポリメラーゼを併せて導入し、上記リガーゼの作用下で上記一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、上記ポリメラーゼの作用下で上記媒介配列をプライマーとして使用し、上記一本鎖DNAをテンプレートとして使用してローリングサークル増幅反応を行い、DNAナノスフィアを取得するステップと、を含む。
【0019】
好ましい実施例において、上記二本鎖DNAはPCR増幅により得られた二本鎖DNA及び接続産物から選ばれ、接続産物は、DNAが切断された後にアダプターが追加されたDNAである。
【0020】
好ましい実施例において、上記方法は、上記二本鎖DNAを取得するように、DNAナノスフィアを調製するステップの前に、DNA切断、アダプターの追加ステップをさらに含み、任意選択的に、アダプターの追加の後にPCRステップをさらに含む。
【0021】
好ましい実施例において、上記媒介配列は、上記二本鎖DNAの変性後の2つの一本鎖のうちの一方の一本鎖DNAの両端のみと相補的に対になる。
【0022】
好ましい実施例において、上記リガーゼはT4 DNAリガーゼであり、上記ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼである。
【0023】
好ましい実施例において、上記変性は95℃で行われ、上記アニーリングは40℃で行われる。
【0024】
好ましい実施例において、上記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は30℃下で行われる。
【0025】
好ましい実施例において、上記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は20min以上行う。
【0026】
好ましい実施例において、上記システムにATPをさらに導入し、上記リガーゼにエネルギーを提供する。
【0027】
好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量はフェムトモルレベルである。
【0028】
好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上である。
【0029】
好ましい実施例において、上記方法はBGIシーケンシングプラットフォームで使用されるシーケンシングライブラリの調製方法である。
【0030】
第3態様によれば、一実施例において、第1態様のローリングサークル増幅方法又は第2態様のシーケンシングライブラリの調製方法により得られたDNAナノスフィアを提供する。
【0031】
第4態様によれば、一実施例において、シーケンシングにおける第3態様のDNAナノスフィアの用途を提供する。
【0032】
好ましい実施例において、第1態様のローリングサークル増幅方法又は第2態様のシーケンシングライブラリの調製方法は、ライブラリ調製においてDNAの初期量を減らすために使用される。
【0033】
本発明のローリングサークル増幅方法は、二本鎖DNAをテンプレートとして使用し、一本鎖環状化及び精製ステップを必要とせずに、PCR精製後又はアダプターを追加した二本鎖DNAをDNB調製に使用することができ、サンプル調製手順を簡素化し、時間とコストを削減する。より優れた利点は、後続の一本鎖環状化及び精製のステップの必要がないため、必要なサンプルの量が大幅に削減し、PCR増幅が行われなくても、後続のシーケンシングの必要を満たすことができ、PCR増幅によるエラーを回避することである。したがって、この方法は、PCRフリー(PCR free)のサンプル調製方法の発展に役に立ち、PCRフリーのサンプル及び希少サンプルのDNB調製に対して、この方法の利点はより明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】従来の技術におけるDNAナノスフィアを調製するローリングサークル増幅方法の原理模式図である。
【
図2】本発明の実施例におけるDNAナノスフィアを調製するローリングサークル増幅方法の原理模式図である。
【
図3】第1サイクル(cycle1)シーケンシングにおける従来の技術と本発明の方法によって調製されたDNBのローディング効率(BIC)、ローディング品質(Fit)及びDNB品質値を反映するESR値の様子である。
【
図4】従来の技術によって調製されたDNBシーケンシングで示される4種の塩基分布曲線図であり、曲線1-4はそれぞれ塩基A、T、C、Gパーセンテージを示す。
【
図5】本発明の方法によって調製されたDNBシーケンシングで示される4種の塩基分布曲線図であり、曲線1-4はそれぞれ塩基A、T、C、Gパーセンテージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、具体的な実施形態を通じて図面を参照しながら、本発明を更に説明する。以下の実施形態において、本発明がより良く理解されるために、数多くの細部が説明される。しかしながら、当業者は、そのうちの一部の特徴が異なる状況で省略できるが、又は他の素子、材料、方法によって取り替えることができることを容易に認識することができる。
【0036】
また、明細書で説明される的特点、操作又は特徴について、任意の適切な方法で組み合わせて様々な実施形態を形成することができる。同時に、方法の説明における各ステップ又は動作を、当業者に自明の方法で順次交換又は調整することができる。したがって、明細書及び図面における様々な順序は、ある実施例を明確に説明することのみを目的として、ある順序に従わなければならないことが特に明記されていない限り、必要な順序を意味するものではない。
【0037】
図2に示すように、本発明の実施例におけるDNAナノスフィアを調製するローリングサークル増幅方法は、二本鎖DNAと媒介配列(Splint oligo)を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、システムにリガーゼとポリメラーゼを同時に導入し、リガーゼの作用下で一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、ポリメラーゼの作用下で媒介配列をプライマーとして、一本鎖DNAをテンプレートとしてローリングサークル増幅反応を行い、DNAナノスフィアを取得するステップと、を含む。
【0038】
本発明の実施例において、媒介配列の両端はそれぞれ変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるため、変性した一本鎖DNAの両端を一体に引き寄せることができ、次に、リガーゼの作用下で一本鎖DNAの両端を接続して環状DNAを形成し、ローリングサークル増幅反応のテンプレートとする。本発明の実施例において、媒介配列は、二本鎖DNAの変性した2つの一本鎖のうちの1つの一本鎖DNAのみの両端と相補的に対になる配列である可能性があり、2つの一本鎖のうちの1つの一本鎖を選択して環状化し、この環状化された一本鎖をローリングサークル増幅反応のテンプレートとしてDNAナノスフィアを生成する。無論、好ましい形態として、媒介配列は2種又はその以上の配列である可能性があり、二本鎖DNAの変性した2つの一本鎖DNAの両端と相補的に対になることができ、このような2つの一本鎖はともに環状化してローリングサークル増幅反応のテンプレートとして使用されることができる。
【0039】
本発明の実施例において、二本鎖DNAは任意のソースからの二本鎖DNAである可能性がある。好ましい実施例として、二本鎖DNAはPCR増幅によって得られた二本鎖DNAであり、特にライブラリ構築プロセス(例えばシーケンシングライブラリ構築プロセス)におけるPCR増幅ステップによって得られた二本鎖DNAである。該方法は二本鎖DNAをテンプレートとして使用し、PCR精製後の二本鎖DNAは、一本鎖の環状化及び精製ステップを必要とせずに、DNB調製に使用できるため、サンプル調製手順を簡素化し、時間とコストを削減する。
【0040】
本発明の実施例において、一本鎖DNAの両端を接続するためのリガーゼは、一本鎖DNAの環状化接続に適する任意のリガーゼ、例えば、T4 DNA ligase(リガーゼ)、T3 DNA ligase(リガーゼ)、T7 DNA ligase(リガーゼ)、Taq DNA ligase(リガーゼ)などであってもよく、好ましい実施例において、リガーゼはT4 DNAリガーゼである。
【0041】
本発明の実施例において、ローリングサークル増幅反応を触媒するためのポリメラーゼはローリングサークル増幅反応に適する任意のポリメラーゼ、例えば、phi29ポリメラーゼ、bstポリメラーゼなどであってもよく、好ましい実施例において、ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼである。
【0042】
本発明の実施例において、二本鎖DNAは、熱変性及びアルカリ変性などを含むが、これらに限定されないが、任意の適切な方法で変性させることができる。しかしながら、操作の利便性及び後続の反応への悪影響がないという観点から、好ましい実施例において、熱変性を使用して二本鎖DNAを変性処理する。例えば、1つの好ましい実施例において、変性は95℃で行われる。変性時間は1分間以上であってもよく、好ましくは3分間以上であり、特に好ましくは3分間である。
【0043】
本発明の実施例において、媒介配列と変性した一本鎖DNAのアニーリングは適切な温度で行うことができ、具体的に、媒介配列の両端と変性した一本鎖DNAの両端との相補的に対になる塩基配列の長さ、塩基組成などの要素によって決定されることができ、一般的に、両端の相補的に対になる塩基配列の長さが長いほど、対応するアニーリング温度が相対的に高くすることができ、両端の相補的に対になる塩基のGC含有量が高いほど、対応するアニーリング温度が相対的に高くすることができる。1つの好ましい実施例において、アニーリングは40℃で行われる。
【0044】
本発明の実施例において、リガーゼとポリメラーゼの作用下での、反応温度や時間などの反応条件は、選択されたリガーゼとポリメラーゼの種類に応じて決定できる。反応効率を確保するために、選択されたリガーゼとポリメラーゼの最適な反応条件(特に反応温度)がほぼ同じ又はできるだけ近いことをできるだけ確保する。例えば、1つの好ましい実施例において、リガーゼにはT4 DNAリガーゼが用いられ、ポリメラーゼにはPhi 29ポリメラーゼが用いられ、反応は30℃で行うと効果が良い。対応的に、反応時間もリガーゼとポリメラーゼの種類に応じて決定でき、一般的に、リガーゼとポリメラーゼによって触媒される反応がいずれも比較的十分な反応程度を達成できることをできるだけ確保する。1つの好ましい実施例において、リガーゼにはT4 DNAリガーゼが用いられ、ポリメラーゼにはPhi 29ポリメラーゼが用いられる場合、反応時間は20min以上であると効果が良く、特に30℃で20min反応させると、効果が良い。
【0045】
本発明の実施例において、選択されたリガーゼの具体的な種類に応じて、ATPを添加して、リガーゼにエネルギーを提供する必要もある。例えば、1つの好ましい実施例において、リガーゼにはT4 DNAリガーゼが用いられ、システムにATPを導入してT4 DNAリガーゼにエネルギーを提供する。
【0046】
本発明の方法は一本鎖環状化と精製ステップを必要とせずに、サンプル調製手順を簡素化すると同時に、より優れた利点は、必要なサンプルの量が大幅に低下し、PCR増幅を行わなくても、後続のシーケンシングの必要を満たすことができ、PCR増幅によるエラーを避けることである。好ましい実施例において、システムに添加される二本鎖DNAの量がフェムトモル(fmol)レベルまで低くすることができ、例えば、いくつかの好ましい実施例において、システムに添加された二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上である。本発明の方法は、PCRフリー(PCR free)のサンプル調製方法の発展に寄与し、PCRフリーのサンプル及び希少サンプルのDNB調製に対して、この方法の利点はより明らかである。
【0047】
本発明の方法はDNBに基づく様々なシーケンシングプラットフォームに適用し、特に北京ゲノミクス機関(BGI)シーケンシングプラットフォームに適用し、シーケンシング策略はBGISEQ-500 SE50シーケンシングなどであってもよい。
【0048】
本発明の一実施例において、シーケンシングライブラリの調製方法を提供し、DNAナノスフィアを調製するステップを含み、該ステップは、二本鎖DNAと媒介配列(Splint oligo)を同じシステムで順次変性及びアニーリングすることにより、媒介配列は変性した一本鎖DNAの両端と相補的に対になるステップと、上記システムにリガーゼとポリメラーゼを併せて導入し、上記リガーゼの作用下で上記一本鎖DNAの両端を接続すると同時に、上記ポリメラーゼの作用下で上記媒介配列をプライマーとして使用し、上記一本鎖DNAをテンプレートとして使用してローリングサークル増幅反応を行い、DNAナノスフィアを取得するステップと、を含む。
【0049】
好ましい実施例において、上記二本鎖DNAはPCR増幅によって得られた二本鎖DNAである。好ましい実施例において、上記方法は、DNAナノスフィアを調製するステップの前に、DNA切断、アダプターの追加及びPCRステップをさらに含み、上記二本鎖DNAを取得するようにする。好ましい実施例において、上記媒介配列は、上記二本鎖DNAの変性後の2つの一本鎖のうちの一方の一本鎖DNAの両端のみと相補的に対になる。好ましい実施例において、上記リガーゼはT4 DNAリガーゼであり、上記ポリメラーゼはPhi 29ポリメラーゼである。好ましい実施例において、上記変性は95℃で行われ、上記アニーリングは40℃で行われる。好ましい実施例において、上記リガーゼとポリメラーゼの作用下での反応は30℃下で20min以上行う。好ましい実施例において、上記システムにATPをさらに導入し、上記リガーゼにエネルギーを提供する。好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量はフェムトモルレベルである。好ましい実施例において、システムに添加される上記二本鎖DNAの量は1フェムトモル以上であり、好ましくは10フェムトモル以上であり、より好ましくは40フェムトモル以上である。好ましい実施例において、上記方法は、BGIシーケンシングプラットフォームに用いられるシーケンシングライブラリの調製方法である。
【0050】
本発明の実施例によって調製されたDNAナノスフィアは、コンピュータ上で直接シーケンシングすることができるため、本発明の一実施例において、シーケンシングにおいて本発明の実施例によって調製されたDNAナノスフィアの用途を提供する。
【0051】
以下、実施例を通じて本発明を詳しく説明し、説明する必要があるのは、該実施例は例示的なものであり、本発明の保護範囲を制限するものとして理解されるべきではない。
【0052】
実施例1:2種の方法の比較
(1)DNB調製
大腸菌(E.coli)サンプルについて、BGISEQ-500 SE50シーケンシングのライブラリ調製キット(深▲せん▼華大智造科技有限公司)(インサートフラグメントが平均170bpである)明細書に準じ、DNA抽出、切断、アダプターの追加、PCR増幅、精製、定量などのプロセスを行う。
【0053】
1pmol PCR産物を取って、ライブラリ調製キット明細書に準じ、媒介配列(Splint oligo)を使用して環状化及び磁気ビーズ(beads)精製を行い、qubitで定量し、このプロセスには、約1hから1.5hかかり、250fmolの一本鎖環状化DNAを取得する。BGISEQ-500 SE50シーケンシングキットの明細書に準じ、40fmolの一本鎖環状化DNAを取ってDNBを調製する。qubitで定量し、DNB濃度は12ng/ulであり、DNBをAと名付け、使用に供する。
【0054】
本発明の方法に従って、それぞれ120fmol、80fmol、40fmolのPCR産物を取って、以下のステップに従ってDNB調製を行う。
【0055】
【0056】
(b)表1の反応系をPCR装置に置き、下記表2のステップに従って変性及びアニーリングを行う。ステップが一番目の4℃に入ったら、BGISEQ-500 SE50シーケンシングキットの明細書に従って酵素ミックス(Enzyme mix)IとIIを添加し、Phi 29ポリメラーゼを含み、1ul BGIのT4 DNAリガーゼ(60U/ul)と1ul ATP(Thermo)を添加し、均一に混合した後「skip(スキップ)」ボタンを押し、30℃に入って20min行い、4℃に入った後DNB調製キット内のストップバッファ液を添加し、qubitで定量する。120fmol、80fmol及び40fmolのPCR産物によって得られたDNB濃度はそれぞれ37ng/ul、23ng/ul、11ng/ulであり、それぞれB、C、Dを名付け、使用に供する。
【0057】
【0058】
上記異なるDNB調製方法を比較し、PCR産物からDNBまで、従来の方法は1.5hから2hかかり、本発明の方法は30min内だけでDNBを取得することができ、且つ多くの手動操作を短縮し、人工エラーを減少する。サンプル投入量から算出すると、本発明の方法で40fmolのPCR産物を使用して得られたDNB量は、従来の方法で160fmolのPCR産物を使用して得られたDNB量に相当し、即ち本発明の方法に必要なサンプルの量は、従来の技術のわずか25%である。
【0059】
(2)DNBローディング
従来のDNB調製方法によって得られたDNB Aと本発明の方法であるDNB調製方法によって得られたDNB DをBGISEQ500 SE50シーケンシングキット明細書に従ってDNBローディングを行い、第1サイクル(cycle1)シーケンシングを行う。2種の方法によって得られたDNBのローディング状況を比較し、2種の方法のDNBローディング効率と品質を分析する。
図3に示すように、2種の方法はローディング効率(BIC)とローディング品質(Fit)に有意差がないと同時に、ESR(DNB品質値を反映)を比較すると、有意差もない。本発明のDNB調製方法はDNB品質とローディング効率に影響を及ぼさないことを示している。
【0060】
実施例2 本発明の方法の適用性
実施例1で大腸菌(E.coli)ライブラリを使用し、平均インサートフラグメントが170bpであり、本発明の方法の幅広い適用性を証明するために、ヒトのライブラリNA12878を使用して平均インサートフラグメント320bp及び400bpを使用して試験を行う。BGISEQ500 PE100及びPE150ライブラリ調製キットに従って、DNA抽出、切断、アダプターの追加、PCR増幅、精製、定量などのプロセスを行う。
【0061】
2種のライブラリについてそれぞれ40fmolを取って、実施例1の本発明のDNB調製方法に従ってDNBの調製及び定量を行い、それぞれH400ライブラリ及びH320ライブラリとしてマークし、次に、シーケンシング明細書に従ってSE50シーケンシングを行う。BGI500オフラインレポートは、この方法によって調製されたDNBが、H400でも、H320であっても、そのシーケンシング品質が良好であり、Q30が90%よりも大きくし且つESRが85%よりも大きくし、チップの歩留まり率が85%よりも大きくし、いずれも該ライブラリシーケンシングの標準パラメータ(≧90% Q30、≧80% ESR、≧80%チップ歩留まり率)を超え、その他のシーケンシング指標(例えばlag、runon)も、いずれも基本パラメータ(≦0.1)を満たすことを示している。これらの結果は、本発明のDNB調製方法が異なるインサートフラグメント及び異なる種類のライブラリに適用できることを表す。以上の結果は、本発明の方法がシーケンシング品質に影響を及ぼさないことを示している。
【0062】
本発明の方法はCG及びATバイアス(bias)を導入するかどうかを試験するために、H400ライブラリを使用し、従来の方法と本発明の方法を用いてそれぞれPE100シーケンシングを行う。DNB調製方法は実施例1に説明するように、2種の方法によって調製されたDNBはそれぞれを1枚のチップの2つのシーケンシングレーン(lane)にローディングし、PE100シーケンシングはBGISEQ500 PE100キットに従ってローディング及びシーケンシングを行う。従来の方法のシーケンシングデータ統計結果を表3及び
図4に示し、本発明の方法のシーケンシングデータ統計結果を表4及び
図5に示す。両者は、Q30、エラー率(error rate)及びGC含有量にすべて有意差がないが、塩基分布の状況を比較すると、従来の方法にATバイアス(bias)が存在し、特にリード長2(read2)の表現がより明らかであり、本発明の方法にはATバイアスがほとんど存在しない。
【0063】
【0064】
【0065】
以上で具体的な例を使用して本発明を説明し、本発明を理解するのを助けるためにのみ使用され、本発明を限定するために使用されない。当業者にとって、本発明の構想に基づいて、いくつかの簡単な推論、変形又は置換を行うこともできる。