(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】施工データからの地盤データの推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20231129BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
E02D1/02
E02D3/10 104
(21)【出願番号】P 2022022185
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】原田 健二
(72)【発明者】
【氏名】山下 祐司
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157346(JP,A)
【文献】特開2020-100949(JP,A)
【文献】特許第6029528(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工中に得られる、少なくともオーガー電流値と貫入装置の油圧と貫入速度の施工データより、コーン貫入試験で得られた補正コーン貫入抵抗と周面摩擦抵抗との関係を求め、この関係を用いた地点における施工データより、前記補正コーン貫入抵抗と前記周面摩擦抵抗を推定し、前記コーン貫入試験で用いられるN値と細粒分含有率の推定式により対象地盤のN値と細粒分含有率を推定することを特徴とする施工データからの地盤データの推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の施工データからの地盤データの推定方法であって、
前記施工データと前記コーン貫入試験で得られた補正コーン貫入抵抗及び周面摩擦抵抗の関係は、単回帰分析と、多変量解析と、機械学習のうちのいずれかにより求めることを特徴とする施工データからの地盤データの推定方法。
【請求項3】
請求項1記載の施工データからの地盤データの推定方法であって、
前記コーン貫入試験で得られた補正コーン貫入抵抗と周面摩擦抵抗との関係は、それぞれ施工中に得られた前記貫入装置の油圧を貫入速度で除した値と、電流値を貫入速度で除した値を用いて求めることを特徴とする施工データからの地盤データの推定方法。
【請求項4】
請求項3記載の施工データからの地盤データの推定方法であって、
静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データにより、施工中の地盤
のN値と細粒分含有率の地盤データを各深度毎に推定し、推定されたN値と細粒分含有率より液状化強度を算出することを特徴とする施工データからの地盤データの推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工データからの地盤データの推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、削孔機による削孔データ(削孔時のオーガマシンの駆動モータの電流値、深度等)から地盤のN値を推定することが試みられている(例えば特許文献1参照)。また、本施工に先立って行われる事前作業として、削孔機による削孔データ(削孔時の送水圧、回転トルク、削孔速度等)から地盤のN値及び細粒分含有率を推定することが試みられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-157346号公報
【文献】特開2020-100949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のN値と細粒分含有率の推定方法では、オペレータの習熟度によって結果がばらつくことがあり、また、粘性土では値が小さくなるため、硬さの見極めが困難であり、施工データから地盤データを簡単かつ確実に推定する方法の開発が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、液状化対策である静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データによりジャストポイントでのN値と細粒分含有率の地盤データを推定し、推定されたN値と細粒分含有率より地盤の液状化強度を簡単かつ確実に算出することができる施工データからの地盤データの推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、施工データからの地盤データの推定方法であって、施工中に得られる、少なくともオーガー電流値と貫入装置の油圧と貫入速度の施工データより、コーン貫入試験で得られた補正コーン貫入抵抗と周面摩擦抵抗との関係を求め、この関係を用いた地点における施工データより、前記補正コーン貫入抵抗と前記周面摩擦抵抗を推定し、前記コーン貫入試験で用いられるN値と細粒分含有率の推定式により対象地盤のN値と細粒分含有率を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データにより地盤を判別することにより、ジャストポイントでの液状化層・非液状化層を区別し、液状化層に対しては必要な強度に応じた杭径を造成して過剰施工することなく最適な地盤を提供することができる。
【0008】
また、静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データにより地盤の液状化強度を算出することにより、ジャストポイントでの液状化層・非液状化層を区別し、液状化層に対しては強度に応じた杭径を造成して過剰施工することなく最適な地盤を提供することができる。これにより、過剰施工の防止に寄与することができ、コストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は本発明の実施形態における施工データを得る静的締固め砂杭のケーシング貫入機構の説明図である。
図1(b)は地盤データを得るコーン貫入試験のロッド貫入機構の説明図である。
【
図2】上記施工データからの地盤データの各値の推定手順を説明する流れ図である。
【
図3】
図3(a)は上記施工データから地盤データのN値を推定した結果を示す図である。
図3(b)は上記施工データから地盤データの細粒分含有率を推定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1(a)は、本発明の実施形態における施工データを得る静的締固め砂杭のケーシング貫入機構の説明図である。
図1(b)は、地盤データを得るコーン貫入試験のロッド貫入機構の説明図である。
図2は、施工データからの地盤データの各値の推定手順を説明する流れ図である。
図3(a)は、施工データから地盤データのN値を推定した結果を示す図である。
図3(b)は、施工データから地盤データの細粒分含有率を推定した結果を示す図である。
【0012】
図1(a),(b)に示すように、施工データからの地盤データの推定方法は、静的締固め砂杭工法に用いられるケーシング貫入機構1とコーン貫入試験(CPT:Cone Penetration Test)に用いられるロッド貫入機構10とが類似していることに着目し、ケーシング貫入機構1の貫入データ(電流値A、油圧P、貫入速度S)をコーン貫入試験の計測値である補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)に対応させ、コーン貫入試験の計測値からN値と細粒分含有率(Fc)への推定式にする方法を使って、ケーシング貫入機構1の施工データからコーン貫入試験のN値と細粒分含有率(Fc)の地盤情報を推定する方法である。ここで、コーン貫入試験のN値は、地盤の硬さを現す指標である。また、細粒分とは、粘土とシルトのことであり、細粒分含有率(Fc)は、細粒分含有率試験によって求めることができ、細粒分(粘土・シルト)の少ない地盤ほど液状化を起こし易いため、液状化強度(R)の算出が必要とされる。
【0013】
次に、
図2を用いて施工データからの地盤データの各値の推定手順を説明する。尚、
図1(a)中及び
図2中「SAVE」は、静的締固め砂杭工法による施工の略である。
【0014】
ケーシング貫入機構1の施工データからコーン貫入試験の計測値を推定し、N値や細粒分含有率(Fc)値への換算式に倣って両者を推定する際に、まず、
図2で<S1>で示すように、ケーシング貫入機構1の貫入データである電流値A、油圧P、貫入速度Sからコーン貫入試験の補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を推定する。この補正コーン貫入抵抗(qt)は、下記の式(1)から求めることができる。
【0015】
qt=qc+u2(1-a) ・・・・・・式(1)
ここで、qtは補正コーン貫入抵抗(MPa)、qcは測定コーン貫入抵抗(MPa)、u2はコーンの円柱延長部での間隙水圧(MPa)、aは有効面積比(An/Ac)であり、Acはコーン底部の断面積、Anはロードセル又はシャフトの断面積である。
【0016】
次に、
図2で<S2>で示すように、補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)から基準化先端抵抗(Qt)と基準化周面摩擦比(Fr)を推定する。この基準化先端抵抗(Qt)は、下記の式(2)から求めることができ、また、基準化周面摩擦比(Fr)は、下記の式(3)から求めることができる。
【0017】
Qt=(qt-σV0)/σV0’ ・・・・・・・式(2)
ここで、qtは先端抵抗である補正コーン貫入抵抗、σV0は上載圧(MPa)、σV0’は有効上載圧(MPa)である。
【0018】
Fr=fs/(qt-σV0) ・・・・・・・式(3)
ここで、Frは基準化周面摩擦比、fsは周面摩擦抵抗、qtは先端抵抗である補正コーン貫入抵抗、σV0は上載圧(MPa)である。
【0019】
次に、
図2で<S3>で示すように、基準化先端抵抗(Qt)と基準化周面摩擦比(Fr)から土質性状指数(Ic)を推定する。この土質性状指数(Ic)は、下記の式(4)から求めることができる。
【0020】
Ic={(3.47-logQt)2+(1.22+logFr)2}0.5 ・・・・・・式(4)
ここで、Icは土質性状指数、Frは基準化周面摩擦比である。
【0021】
次に、
図2で<S4>で示すように、土質性状指数(Ic)と補正コーン貫入抵抗(qt)及び周面摩擦抵抗(fs)からN値と細粒分含有率(Fc)を推定する。このコーン貫入試験から換算したN値(Nc)は、下記の式(5)から求めることができ、また、細粒分含有率(Fc)は、下記の式(6)から求めることができる。
【0022】
Nc=0.341×Ic1.94(qt-0.2)(1.34-0.0927Ic) ・・・・・・式(5)
ここで、NcはN値、qtは先端抵抗である補正コーン貫入抵抗、qt>0.2MPaである。
【0023】
Fc=1.0×Ic4.2 (%) ・・・・・・式(6)
ここで、Fcは細粒分含有率、Icは土質性状指数である。
【0024】
そして、上記推定されたN値(Nc)と細粒分含有率(Fc)より液状化強度(R)を算出することができる。これにより、液状化の可能性の無い粘性土地盤や液状化に対し十分な強度を有する砂地盤での打設杭の拡径を省略することができる。このように、施工データからの地盤データの推定方法では、静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データにより地盤の液状化強度(R)を算出することができるため、ジャストポイントでの液状化層・非液状化層を区別し、液状化層に対しては強度に応じた杭径を造成して過剰施工することなく最適な地盤を提供することができる。これにより、過剰施工の防止に寄与することができ、施工の低コスト化を図ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、
図1(a),(b)~
図3(a),(b)を用いて、静的締固め砂杭工法の施工による杭打ちの場合のN値と細粒分含有率(Fc)の推定方法について説明する。
【0026】
液状化対策である静的締固め砂杭工法は、
図1(a)に示すように、ケーシング2の上部に取付られた電動オーガーの回転力と、ラックとピニオン等で構成された油圧を用いた押し込み装置(いずれも図示省略)により構成されるケーシング貫入機構1を併用して、地盤G中にケーシング2を貫入するものである。一方、
図1(b)に示すように、地盤調査に用いられるロッド貫入機構10によるコーン貫入試験(CPT)は、ロッド11の先端にコーン12を取り付け、ロッド11を油圧による押し込み力で地盤G中に静的に貫入させて、貫入時の先端抵抗としての補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を測定し、N値と細粒分含有率(Fc)を間接的に求めるものであり、スケールの違いがあるが、地中貫入機構が類似している。
【0027】
コーン貫入試験(CPT)では、先端抵抗としての補正コーン貫入抵抗(qt)と、周面摩擦として周面摩擦抵抗(fs)が計測される。従って、静的締固め工法の施工中のデータより、補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を推定できれば、コーン貫入試験のN値と細粒分含有率(Fc)の推定式を用いて、施工中の地盤のN値と細粒分含有率(Fc)を各深度において推測することができる。液状化対策工事においては、推定されたN値と細粒分含有率(Fc)より液状化強度(R)を算出することができる。これにより、液状化の可能性の無い粘性土地盤や液状化に対し十分な強度を有する砂地盤での打設杭の拡径を省略することができる。
【0028】
次に、液状化対策である静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データより、補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を求める方法について説明する。
【0029】
静的締固め砂杭工法の一般的な施工では、管理計器により、施工に要した時間、貫入深度が記録される。これに合わせて、電動オーガーの電圧(電流値A)、押し込み装置の油圧Pを計測できるように計器を設置する。貫入時間と深度の関係より、各深度における貫入速度Sを求め、電流値Aと油圧Pの測定結果を合わせて、補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)との関係性を求める。この関係性を求める方法としては、単回帰分析、多変量解析、機械学習、多数のデータを集めた経験則に基づく統計的手法など多くの手法を用いることができるが、本実施例においては、単回帰による施工データより補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を求めた。具体的には、現地で測定したコーン貫入試験の補正コーン貫入抵抗(qt)と施工中に得られた油圧Pを貫入速度Sで除した値(P/S)と、周面摩擦抵抗(fs)と施工中に得られた電流値Aを貫入速度Sで除した値(A/S)との関係性を求めた。このように、油圧P、電流値A、貫入速度Sを直接使うのではなく、油圧Pと電流値Aを貫入速度Sで除した各値(P/SとA/S)を用いたのは、試行錯誤の結果、最も再現性が良いことが分かったためである。それを
図2に示す手順により計算を進め、最終結果であるN値と細粒分含有率(Fc)を求めたのが
図3(a),(b)である。コーン貫入試験より求めたN値と細粒分含有率(Fc)は細かく変動しているので、深度1m毎に平均値を求めると、上記方法により推定した値とほぼ一致していることが分かる。近傍でのN値と細粒分含有率(Fc)を求める場合は、ここに使用した施工データと補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)との関係を用いることができる。
【0030】
このように、液状化対策である静的締固め砂杭工法を施工する際の施工データにより、施工中の地盤のジャストポイントでのN値と細粒分含有率(Fc)の地盤データを各深度毎に推定し、推定されたN値と細粒分含有率(Fc)より液状化強度(R)を算出することができる。これにより、液状化の可能性の無い粘性土地盤や液状化に対し十分な強度を有する砂地盤での打設杭の拡径を省略することができる。
【0031】
尚、前記実施例によれば、施工データからコーン貫入試験(CPT)の補正コーン貫入抵抗(qt)と周面摩擦抵抗(fs)を求めたが、施工データから三成分コーン貫入試験(CPTU)の測定コーン貫入抵抗(qc)と周面摩擦抵抗(fs)を求めても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 ケーシング貫入機構
2 ケーシング
10 ロッド貫入機構
11 ロッド
12 コーン
G 地盤
A オーガー電流値
P 貫入装置の油圧
S 貫入速度
qt 補正コーン貫入抵抗
fs 周面摩擦抵抗
Fc 細粒分含有率