(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】電力制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231129BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2022038597
(22)【出願日】2022-03-11
【審査請求日】2023-01-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チッスパ― ギンディーポップ
(72)【発明者】
【氏名】桃木 正憲
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/150875(WO,A1)
【文献】特開2013-093950(JP,A)
【文献】国際公開第2021/210202(WO,A1)
【文献】特開2021-072769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1配線パターン及び前記第1配線パターンに実装される複数の第1スイッチング素子を有する第1スイッチ基板と、
第2配線パターン及び前記第2配線パターンに実装される複数の第2スイッチング素子を有する第2スイッチ基板と、
前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子のオン状態とオフ状態とを制御する制御部を有する制御基板と、
前記第1スイッチ基板、前記第2スイッチ基板及び前記制御基板を収容する装置ケースと、を備え、
前記第1スイッチ基板、前記第2スイッチ基板及び前記制御基板は、前記第1スイッチ基板、前記制御基板、前記第2スイッチ基板の順に前記装置ケースの高さ方向に所定の間隔を空けて並んで配置された状態で、前記装置ケース内に収容され、
前記第1及び第2配線パターンは、電源と電力供給対象とを電気的に接続するように形成され、
前記第1スイッチング素子は、前記電力供給対象に対して前記電源の正極側に電気的に接続されるハイサイドスイッチング素子で構成され、
前記第2スイッチング素子は、前記電力供給対象に対して前記電源の負極側に電気的に接続されるローサイドスイッチング素子で構成され、
前記第1スイッチ基板の端部に配置され、前記第1配線パターンに接続された
第1基板側端子を有し、
前記第2スイッチ基板の端部に配置され、前記第2配線パターンに接続された第2基板側端子を有し、
前記
第1基板側端子と前記第2基板側端子は、前記装置ケースの高さ方向に向かい合って配置され、前記第1スイッチング素子のソース電極と前記第2スイッチング素子のドレイン電極との間を電気的に接続するとともに、前記制御基板側に向かって延びる鉛直部を有し、当該鉛直部が前記制御基板側に形成された電流計測用のロゴスキーコイルパターンに挿通されている、
電力制御装置。
【請求項2】
前記第1スイッチング素子のソース電極と前記第2スイッチング素子のドレイン電極との間に電気的に接続され、前記電力供給対象に電力を供給する出力端子を有し、
前記第1基板側端子、前記第2基板側端子及び前記出力端子は、バスバー型の端子によって構成され、
前記第1基板側端子と前記第2基板側端子は、前記出力端子の側面を両側から挟み込むようにして、前記出力端子を介して接続されている、
請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項3】
前記制御基板には、該制御基板を板厚方向に貫通するスリット状の貫通部が設けられ、
前記第1基板側端子と前記第2基板側端子は、前記制御基板の前記貫通部の周囲に形成された二つの
前記ロゴスキーコイルパターンにそれぞれ挿通されている、
請求項1又は2に記載の電力制御装置。
【請求項4】
前記第1スイッチ基板と前記制御基板との間、及び前記第2スイッチ基板と前記制御基板との間は、複数の導体物によって前記装置ケースの高さ方向にそれぞれ連結されており、
複数の前記導体物は、前記第1配線パターンと前記制御部の信号線、及び前記第2配線パターンと前記制御部の信号線とを電気的に接続している、
請求項1~3のいずれかに記載の電力制御装置。
【請求項5】
前記装置ケースは、ケース本体と、前記ケース本体に取り付けられるケースカバーとを有し、
前記第1及び第2スイッチ基板の一方は、前記ケース本体の底面に固定され、
前記第1及び第2スイッチ基板の他方は、前記ケースカバーの内面に固定され、
前記ケース本体の外面及び前記ケースカバーの外面にはそれぞれ、複数の放熱フィンが形成されている、請求項1に記載の電力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板の一方の面のみに電子部品が実装された一枚の金属基板と放熱フィンと一体に構成された一枚の金属基板とで装置ケースを構成した電子回路装置が開示されている。この電子回路装置では、電子部品が実装された一方の金属基板で装置ケースの底面を構成し、他方の金属基板でケースの蓋を構成している。電子部品は装置ケース内に配置され、ケース内に樹脂を充填して封止することにより、電子部品から発せられる熱が二枚の金属基板を介して外部に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通電により発熱する回路素子として、MOSFETやIGBTなどのスイッチング素子が知られている。これらのスイッチング素子は、電源と電力供給対象との間の電力の供給を制御する電力制御装置などに搭載される場合、金属基板などで構成された放熱性の高いスイッチ基板に実装されている。
【0005】
ところで、出力電圧の大きな電力制御装置では、スイッチング素子の搭載数が増加して基板の必要面積が大きくなる。従って、スイッチ基板の一面に全てのスイッチング素子を搭載しようとすると、スイッチ基板を収容する装置ケースも大型化するため、装置の小型化を図ることが難しいという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高出力化と両立して、装置の小型化を図ることができる電力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る電力制御装置は、第1配線パターン及び前記第1配線パターンに実装される複数の第1スイッチング素子を有する第1スイッチ基板と、第2配線パターン及び前記第2配線パターンに実装される複数の第2スイッチング素子を有する第2スイッチ基板と、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子のオン状態とオフ状態とを制御する制御部を有する制御基板と、前記第1スイッチ基板、前記第2スイッチ基板及び前記制御基板を収容する装置ケースと、を備え、前記第1スイッチ基板、前記第2スイッチ基板及び前記制御基板は、前記第1スイッチ基板、前記制御基板、前記第2スイッチ基板の順に前記装置ケースの高さ方向に所定の間隔を空けて並んで配置された状態で、前記装置ケース内に収容され、前記第1及び第2配線パターンは、電源と電力供給対象とを電気的に接続するように形成され、前記第1スイッチング素子は、前記電力供給対象に対して前記電源の正極側に電気的に接続されるハイサイドスイッチング素子で構成され、前記第2スイッチング素子は、前記電力供給対象に対して前記電源の負極側に電気的に接続されるローサイドスイッチング素子で構成され、前記第1スイッチ基板の端部に配置され、前記第1配線パターンに接続された第1基板側端子を有し、前記第2スイッチ基板の端部に配置され、前記第2配線パターンに接続された第2基板側端子を有し、前記第1基板側端子と前記第2基板側端子は、前記装置ケースの高さ方向に向かい合って配置され、前記第1スイッチング素子のソース電極と前記第2スイッチング素子のドレイン電極との間を電気的に接続するとともに、前記制御基板側に向かって延びる鉛直部を有し、当該鉛直部が前記制御基板側に形成された電流計測用のロゴスキーコイルパターンに挿通されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電力制御装置によれば、制御基板によって制御される複数のスイッチング素子を第1スイッチ基板と第2スイッチ基板とに分けて実装することにより、一枚あたりのスイッチ基板の面積が縮小される。かかる二枚のスイッチ基板は、装置ケース内において、第1スイッチ基板、制御基板、第2スイッチ基板の順に高さ方向に所定の間隔を空けて収容される。これにより、装置ケース内における基板部分の搭載面積が実質的に一枚の基板の搭載面積と同等になり、装置ケースの大型化が抑制されるため、高出力化と両立して、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る電力制御装置の装置ケース内を上方側から見た平面図である。
【
図2】実施形態に係る電力制御装置の分解斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿って切断した装置ケースの断面図である。
【
図4】第1スイッチ基板を上方側から見た平面図である。
【
図5】第2スイッチ基板を上方側から見た平面図である。
【
図6】第1基板側端子と第2基板側端子とが第1電源側端子を介して接続された状態を示す斜視図である。
【
図7】第1基板側端子と第2基板側端子とが出力端子を介して接続された状態を示す側断面図である。
【
図9】制御基板とスイッチ基板との接続構造を示す部分側断面図である。
【
図10】制御基板に形成されたロゴスキーコイルパターンを拡大して示す拡大平面図である。
【
図11】
図10のXI-XI線に沿って切断した切断面の拡大図である。
【
図13】検出処理部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図13を参照して説明する。本実施形態では、説明の便宜上、各図中に適宜示す上下、左右及び前後の矢印で示す方向を、それぞれ電力制御装置の上下方向、左右方向及び前後方向と定義して説明する。
【0011】
本実施形態では、本発明に係る電力制御装置の一例として、車両に搭載されるバッテリ2(電源)と三相交流モータ4(電力供給対象)との間の電力の供給を制御する電力制御装置1について説明する(
図12参照)。電力制御装置1は、
図2に示すように、矩形箱状に形成された装置ケース10と、装置ケース10の内部に収容された二枚のスイッチ基板50(50A,50B)と、電流計測用コイルが設けられた一枚の制御基板60と、を有している。
【0012】
図1及び
図2に示すように、装置ケース10は、箱状のケース本体12と、ケース本体12に取り付けられる蓋体状のケースカバー14によって構成されている。ケース本体12は、上方に開口した開口部13を有する金属製の矩形箱状部材である。ケース本体12は、前壁部12A、後壁部12B、左壁部12C、右壁部12D及び底壁部12Eを備えている。また、底壁部12Eの外面には、後述する第2スイッチ基板50Bの熱をケース本体12の外部に放熱するための放熱フィン12Fが設けられている。
【0013】
ケースカバー14は、金属製の矩形板状の部材である。ケースカバー14は、ケース本体12の前後左右の壁部12A~12Dの上端部に塗布される接着剤と、締結用のネジ24を用いてケース本体12に固定される。ケースカバー14がケース本体12に固定されることにより、装置ケース10の内部に収容空間が形成される。また、ケースカバー14の外面には、後述する第1スイッチ基板50Aの熱をケース本体12の外部に放熱するための放熱フィン14Aが設けられている。なお、
図1は、ケースカバー14の図示を省略し、ケース本体12の内部を上方側から見た平面図である。
【0014】
ケース本体12の前壁部12Aには、一つのコネクタ装着部16が形成されている。コネクタ装着部16は、前壁部12Aに貫通形成された長孔形状の貫通孔により構成されている。このコネクタ装着部16には、センサ側コネクタ30が装着される。センサ側コネクタ30は、コネクタ装着部16に装着されるハウジングと、当該ハウジングに設けられる複数の接続端子(不図示)とを有している。センサ側コネクタ30がコネクタ装着部16に装着されると、複数の接続端子の一端側はそれぞれ、ハウジングから突出して装置ケース10の内側に延び、制御基板60に接続されるようになっている。このセンサ側コネクタ30には、車両に搭載された各種センサ等の電気機器と繋がるハーネス(ケーブル)が図示しないコネクタを介して接続される。
【0015】
装置ケース10内の収容空間の後方部分には、ケース本体12の後壁部12Bに面して設けられた収容凹部18を有している。収容凹部18は、後壁部12B、左壁部12C、右壁部12D及び底壁部12Eと一体に形成されており、装置ケース10の後部底面から下方側に突出している。この収容凹部18には、複数のコンデンサ3と、複数のコンデンサ3をケース内で保持する端子台40が収容されている。
【0016】
端子台40は、ケース本体12の後壁部12Bに沿って並んだバスバー型の五つの端子部材を有している。五つの端子部材のそれぞれは、一端が端子台40から装置ケース10の内側に延び、他端が端子台40の上面の接続面に露出している。左端に配置された端子部材は、バッテリ2の正極と電気的に接続される第1電源側端子20Pである。右端に配置された端子部材は、バッテリ2の負極と電気的に接続される第2電源側端子20Nである。複数のコンデンサ3は、正極側の第1電源側端子と負極側の第2電源側端子20Nとに接続され、バッテリ2に対して並列に接続されることにより、後述するインバータ回路5(
図12参照)に生じるノイズを緩和するための素子として機能する。
【0017】
第1電源側端子20Pと第2電源側端子20Nの間に配置された三つの端子部材は、三相交流モータ4に電力を供給する出力端子26である。各出力端子26(26U,26V,26W)は、それぞれが三相交流モータ4の各相(U相,V相,W相)に対応しており、三相交流モータ4のステータの有する各相のコイルと後述するスイッチ基板50(50A,50B)の配線パターン52(52A,52B)とを電気的に接続する。
【0018】
図3に示すように、装置ケース10の収容空間には、第1スイッチ基板50Aと第2スイッチ基板50Bによって構成された二枚のスイッチ基板50と、一枚の制御基板60が収容されている。これらの基板は、上方側から第1スイッチ基板50A、制御基板60、第2スイッチ基板50Bの順に装置ケース10の高さ方向に所定の間隔を空けて配置されている。各基板は、上下方向を板厚方向とし平面視で同等の大きさを有する矩形板状に形成されている。従って、装置ケース10内では、基板約一枚分の搭載面積の中に、三枚の基板が収容される。
【0019】
第1及び第2スイッチ基板50A,50Bは、一例として、アルミ製の基板に銅又はアルミニウム等の金属製の配線パターン52(52A,52B)が接合された放熱用絶縁基板で構成されている。装置ケース10内の上部に配置された第1スイッチ基板50Aは、ケースカバー14の内面(
図3では下面)に塗布される接着剤によってケースカバー14に固定されている。従って、第1スイッチ基板50Aは、上面側がケースカバー14の内面に接触された状態でケースカバー14に固定されており、第1スイッチ基板50Aの熱がケースカバー14を介して外部に放熱されるようになっている。装置ケース10内の下部に配置された第2スイッチ基板50Bは、ケース本体12の底壁部12Eの内面に塗布される接着剤によってケース本体12に固定されている。従って、第2スイッチ基板50Bは、下面側がケース本体12の内面に接触された状態でケース本体12に固定されており、第2スイッチ基板50Bの熱がケース本体12を介して外部に放熱されるようになっている。
【0020】
制御基板60は、ケース本体12に固定された第2スイッチ基板50Bに対して装置ケース10の高さ方向に所定の間隔を空けた状態で複数の間隔保持部材46を介して支持されている。間隔保持部材46は、例えば、円筒又は多角柱形状のスペーサナットで構成されており、下端が第2スイッチ基板50Bの上面に接合(接着)されている。また、制御基板60の貫通孔(符号省略)に挿通されたネジ48が、間隔保持部材46の上端のネジ孔に螺合することにより、間隔保持部材46と制御基板60とが固定されている。
【0021】
このようにして、装置ケース10の内部では、三枚の基板が高さ方向に所定の間隔を空けた状態で安定して保持される。従って、基板間の間隔を保持するために、装置ケース10内の空間をポッティング樹脂で封止することが不要となっている。
【0022】
図4に示すように、第1スイッチ基板50Aには、制御基板60と対向する下面側の実装領域に第1配線パターン52Aが形成されている。この第1配線パターン52Aは、バッテリ2と三相交流モータ4とを電気的に接続しており、複数のスイッチング素子54が実装されている。なお、
図4では、第1スイッチ基板50Aの外形を二点鎖線で示し、下面側の実装領域に設けられた部材を実線で示している。
【0023】
図5に示すように、第2スイッチ基板50Bには、制御基板60と対向する上面側の実装領域に第2配線パターン52Bが形成されている。この第2配線パターン52Bは、バッテリ2と三相交流モータ4とを電気的に接続しており、複数のスイッチング素子54が実装されている。
【0024】
第1及び第2スイッチ基板50A,50Bの第1及び第2配線パターン52A,52Bや複数のスイッチング素子54等は、バッテリ2側の直流電流を交流電流に変換するインバータ回路5(
図12参照)の一部を構成している。インバータ回路5では、三相交流モータ4に対してバッテリ2の正極側に電気的に接続されるハイサイドスイッチング素子と、三相交流モータ4に対してバッテリ2の負極側に電気的に接続されるローサイドスイッチング素子を有している。
【0025】
本実施形態では、第1スイッチ基板50Aに実装される複数のスイッチング素子54が、ハイサイドスイッチング素子を構成し、第2スイッチ基板50Bに実装される複数のスイッチング素子54がローサイドスイッチング素子を構成している。各スイッチング素子54は、一例としてnMOSFET(n型MOS電界効果トランジスタ)で構成されており、三相交流モータ4の各相に供給する電力のスイッチングを行う。
【0026】
具体的に、第1スイッチ基板50Aの第1配線パターン52Aには、三相交流モータ4の各相(U相,V相,W相)に対応するそれぞれ六つのハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHが実装されている。
図4に示すように、各相のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHは、相毎に分かれて配列され、一方向(
図4では前後方向)に列を成して並べられている。
【0027】
第1配線パターン52Aは、ドレイン接続パターン部521、ソース接続パターン部522及び連結パターン部523を含み、バッテリ2の正極と三相交流モータ4との間で電圧レベルの高い電流路を構成している。ドレイン接続パターン部521とソース接続パターン部522は、各相のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHによる配列の両側に配置され、配列方向(前後方向)に沿って略平行に延びている。ドレイン接続パターン部521は、各相のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHのドレイン電極に接続される。また、ソース接続パターン部522は、各相のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHのソース電極に接続される。これにより、各相に対応する六つのハイサイドスイッチング素子同士が並列に接続される。また、連結パターン部523は、第1スイッチ基板50Aの前端側で左右方向に延び、各相のドレイン接続パターン部521の端部同士を連結している。かかるパターン配置により、第1スイッチ基板50Aの後端側では、各相のドレイン接続パターン部521及びソース接続パターン部522の一端が連結パターン部523を回避して配置される。従って、第1配線パターン52Aに接続される五つの第1基板側端子56Aを第1スイッチ基板50Aの後端側に集約して配置することができる。これら五つの第1基板側端子56Aは、基本構成を互いに同一とするバスバー型の端子部材で構成されている。
【0028】
本実施形態では、U相のドレイン接続パターン部521の一端に接続される一つの第1基板側端子56Aと、U相,V相,W相の各ソース接続パターン部522の一端に接続される三つの第1基板側端子56Aと、ノイズ除去用のセラミックコンデンサ(不図示)に接続されたノイズ除去パターン部524の一端に接続される一つの第1基板側端子56Aと、が第1スイッチ基板50Aの後端側で左端から右端に向かって並んで配置されている。
【0029】
U相のドレイン接続パターン部521の一端に接続された第1基板側端子56Aは、バッテリ2の正極に接続される第1電源側端子20Pに接続される。また、U相,V相,W相の各ソース接続パターン部522の一端に接続された第1基板側端子56Aは、三相交流モータ4の各相に電力を供給する三つの出力端子26U,26V,26Wにそれぞれ接続される。また、ノイズ除去パターン部524の一端に接続された第1基板側端子56Aは、バッテリ2の負極に接続される第2電源側端子20Nに接続される。
【0030】
図5に示すように、第2スイッチ基板50Bの第2配線パターン52Bには、三相交流モータ4の各相(U相,V相,W相)に対応するそれぞれ六つのローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLが実装されている。各相のローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLは、相毎に分かれて配列され、一方向(
図5では前後方向)に列を成して並べられている。
【0031】
第2配線パターン52Bにおいても、第1配線パターン52Aと同様にドレイン接続パターン部521、ソース接続パターン部522及び連結パターン部523を含んでいる。この第2配線パターン52Bは、バッテリ2の負極と三相交流モータ4との間で第1配線パターン52Aよりも電圧レベルの低い電流路を構成している。第2配線パターン52Bのドレイン接続パターン部521とソース接続パターン部522は、各相のローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLによって形成される配列の両側に配置され、互いに平行に延びている。これにより、各相に対応する六つのローサイドスイッチング素子同士が並列に接続される。また、連結パターン部523は、第2スイッチ基板50Bの前端側で左右方向に延び、各相のソース接続パターン部522の端部同士を連結している。かかるパターン配置により、第2スイッチ基板50Bの後端側には、第2配線パターン52Bに接続される五つの第2基板側端子56Bが集約して配置される。五つの第2基板側端子56Bは、第1基板側端子56Aと基本構成を同一とするバスバー型の端子部材で構成されている。
【0032】
具体的に、ノイズ除去用のセラミックコンデンサ(不図示)に接続されたノイズ除去パターン部524の一端に接続される一つの第2基板側端子56Bと、U相,V相,W相の各ドレイン接続パターン部521の一端に接続される三つの第2基板側端子56Bと、W相のソース接続パターン部522の一端に接続される一つの第2基板側端子56Bと、が第2スイッチ基板50Bの後端側で左端から右端に向かって並んで配置されている。
【0033】
ノイズ除去パターン部524の一端に接続された第2基板側端子56Bは、バッテリ2の正極に接続される第1電源側端子20Pに接続される。また、U相,V相,W相の各ドレイン接続パターン部521の一端に接続された第2基板側端子56Bは、三相交流モータ4の各相に電力を供給する三つの出力端子26U,26V,26Wにそれぞれ接続される。W相のソース接続パターン部522の一端に接続された第2基板側端子56Bは、バッテリ2の負極に接続される第2電源側端子20Nに接続される。
【0034】
図6及び
図7に示すように、上記構成による第1スイッチ基板50A及び第2スイッチ基板50Bでは、各基板の後端側に設けた五つの第1基板側端子56Aと五つの第2基板側端子56Bとが装置ケース10の高さ方向に向かい合って配置されている。
【0035】
ここで、第1及び第2基板側端子56A,56Bは、一体に設けられた接続部561、鉛直部562、湾曲部563及び水平部564をそれぞれ有している。接続部561は、スイッチ基板50(50A,50B)の実装面に載置されて半田付けされることにより、配線パターン52(52A,52B)に接続されている。鉛直部562は、接続部561の端部から直角に折れ曲げられて形成され、制御基板60に向かって延びている。湾曲部563は、鉛直部562の先端から略クランク状に湾曲して基板の外側に向かって延びている。水平部564は、湾曲部563の先端から水平に伸び、その先端が端子台40から延びる第1及び第2電源側端子20P,20N又は出力端子26の片側の側面に当接されて半田付け又は抵抗溶接される。
【0036】
第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bとは、同一の基本構成を有し、装置ケース10の高さ方向に逆向きに配置されている。従って、装置ケース10内に実装された状態では、向かい合って配置された一組の第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bとが、共通の端子部材(20P,20N,26)の側面を両側から挟見込むようにして、当該端子部材を介して接続されている。このようにして、第1スイッチ基板50Aの第1配線パターン52Aと第2スイッチ基板50Bの第2配線パターン52Bとの接続線路が装置ケース10の高さ方向の空間を利用して設けられており、基板間の接続線路の短縮化が図られている。
【0037】
また、三つの第1基板側端子56Aと三つの第2基板側端子56Bによって三相交流モータ4の各相のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHのソース電極とローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLのドレイン電極との間が接続されている。更に、互いに向かい合う第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bとが、共通の出力端子26を介して接続されることにより、接続用のバスバーを用いた複雑な配線が不要であり、配線の効率化が図られている(
図7参照。)。
【0038】
ここで、三相交流モータ4の各相に対応して設けられた三つの第1基板側端子56Aと三つの第2基板側端子56Bは、それぞれが、制御基板60に設けられた六つの電流計測用コイルに挿通されている。
【0039】
図8に示すように、制御基板60は、矩形板状のプリント配線板で構成されている。制御基板60の後端側には、六つの貫通部62が左右方向に並んで形成されている。これらの貫通部62は、制御基板60の後端部に形成されたスリット状の切り欠きであり、制御基板60を板厚方向に貫通している。六つの貫通部62の周囲にはそれぞれ、電流検出センサの一部を構成する電流計測用コイルとしてのロゴスキーコイルのパターン70が形成されている。このロゴスキーコイルのパターン70は配線パターンとして制御基板60に形成されており、制御基板60と一体に形成されている。以下、これらのパターン70をロゴスキーコイル70と称する。
【0040】
制御基板60は、電力制御装置1として構成される場合、装置ケース10内の収容空間において、第1スイッチ基板50Aと第2スイッチ基板50Bの間に配置され、各スイッチ基板50A,50Bとの間には、高さ方向に所定の間隔が設けられる。この状態では、制御基板60の六つの貫通部62には、三つの第1基板側端子56Aの鉛直部562と三つの第2基板側端子56Bの鉛直部562とが貫通部62の縁に対して非接触の状態で挿通される。これにより、三相交流モータ4の各相に対応して設けられた三つの第1基板側端子56Aと三つの第2基板側端子56Bに流れる電流が、ロゴスキーコイル70を用いてセンシングされる構造となっている。これらの計測電流は、バッテリ2と三相交流モータ4との間で流れる電流をハイサイド側のソース電極とローサイド側のドレイン電極との間で計測したものである。従って、スイッチング素子54による損失の影響が無い位置で三相交流モータ4に対する入力側の電流と出力側の電流を検出することができ、電流の検出精度を高めることができる。なお、三つの第1基板側端子56Aと三つの第2基板側端子56Bは、互いに平行に配置されており、これらの端子に対するロゴスキーコイル70の傾き及び距離が同一に設定されている。
【0041】
ここで、
図10及び
図11を参照し、制御基板60に形成されたロゴスキーコイル70について説明する。ロゴスキーコイル70は、制御基板60に形成され、貫通部62と離隔して貫通部62を取り囲むU字環状の領域に配置されている。ロゴスキーコイル70は、一方の端部が電極接続片75と接続されており、そこから貫通部62の周囲に沿って、らせん状(進行方向に向かって時計回りに旋回するらせん状)に制御基板60の板厚を径としたコイルが形成されている。そして、貫通部62の周囲に沿ってほぼ一周した位置で、ロゴスキーコイル70の他方の端部が戻し線71と接続されている。
【0042】
ロゴスキーコイル70は、制御基板60の両面にそれぞれ形成された複数の導体膜72,73が、制御基板60を板厚方向に貫通して形成された複数のビア74を介して接続されることによって形成されたものである(
図10の右下図参照)。このように、ロゴスキーコイル70は、空芯コイルであるため、インピーダンスが小さく、電流測定による電力損失が小さい。また、ロゴスキーコイル70では、磁束が飽和せず大電流の測定にも対応することができる。
【0043】
戻し線71は、一方の端部がロゴスキーコイル70と接続され、貫通部62の軸方向から見てロゴスキーコイル70を取り囲むように形成されている。戻し線71の他方の端部が、電極接続片75と並んで配置されている電極接続片76と接続されている。従って、ロゴスキーコイル70は、電極接続片75から貫通部62を囲むようにほぼ一周しており、そこから折り返すように戻し線71が、ロゴスキーコイル70の外側位置を逆方向にほぼ一周して電極接続片75の外側位置を過ぎた位置で、ロゴスキーコイル70の内側位置に入り込み、電極接続片76と接続されている。ロゴスキーコイル70の計測対象となる導体(本実施形態では第1及び第2基板側端子56A,56B)に電流が流れると、コイルの両端の電極接続片75、76に誘導起電力が生ずる。この誘導起電力は、ロゴスキーコイル70から出力される信号として、後述する検出処理部7に出力される。検出処理部7では、ロゴスキーコイル70から出力された信号に基づいて、第1及び第2基板側端子56A,56Bに流れる電流値を演算する。
【0044】
なお、ロゴスキーコイル70の特性上、ロゴスキーコイル70で囲まれた面積を貫く磁束に対応した誘導電流が生じるが、戻し線71によって、戻し線71で囲まれた面積を貫く逆向きの磁束に対応した逆方向成分の誘導電流が生じて打ち消しあうため、貫通部62に挿通された第1及び第2基板側端子56A,56Bに流れる電流を正確に検出することができる。
【0045】
また、検出対象の電流がロゴスキーコイル70自体を流れることがないため、通電によりロゴスキーコイル70の発熱量が大きくなることがない。ロゴスキーコイル70の発熱の抑制は、ロゴスキーコイル70と後述する検出処理部7(
図12参照)による電流の検出精度の向上に寄与する。
【0046】
さらに、ロゴスキーコイル70の特性上、導体に対するロゴスキーコイル70の傾きによって、実際に導体に流れた電流値と、演算により算出された算出値との誤差を補正する(較正する)ための補正値が異なるものとなる。従って、製品組み付け後の段階において、個々の電力制御装置1に実装されたロゴスキーコイル70の上記傾きによる誤差を補正するための初期値補正が行われる。この初期値補正は、例えば、制御基板60に診断機能を備える検査用の基板を接続し、制御基板60に実装されたメモリに予め記憶された補正値を初期化して、検査電流に基づいて算出された補正値を新たに記憶させることにより行われる。このため、複数のロゴスキーコイル70を電力制御装置1に実装した場合、個々のロゴスキーコイル70の傾きにバラつきの生じる構造とすれば、単一のロゴスキーコイル70毎に上述のような初期値補正が必要とされる。また、単一のロゴスキーコイル70毎に検査用の基板を接続するための接続端子や診断用の回路が必要とされる。
【0047】
しかし、本実施形態によれば、一枚の制御基板60に複数のロゴスキーコイル70が配線パターンにより形成されている。このため、各ロゴスキーコイル70の傾きにバラつきが生じないため、初期値補正は共通の補正値を複数のロゴスキーコイル70に用いて行うことができる。このため、初期値補正に伴う工数が減少する。
【0048】
図8に戻り、制御基板60の前端側には、制御基板60を板厚方向に貫通した複数の貫通孔68が形成されている。これらの貫通孔68には、センサ側コネクタ30の複数の接続端子の先端が下方から挿通されて半田付けされることにより制御基板60に接続される。車両に搭載された各種センサによって検出された信号は、センサ側コネクタ30を介して制御基板60に出力され、制御基板60に形成された配線パターンを介してCPU64に出力される。
【0049】
また、制御基板60の実装領域には、
図12に示される制御部6と検出処理部7を構成する回路が実装されている。制御部6は、制御ICとしてのCPU(Central Processing Unit)64(
図8参照)を有し、複数のスイッチング素子54のオン状態とオフ状態を制御する。
図9に示すように、制御基板60と第1スイッチ基板50Aとの間、及び制御基板60と第2スイッチ基板50Bとの間はそれぞれ、複数の導体ピン92を有するフローティングコネクタ90によって高さ方向に連結されている。導体ピン92は、各スイッチ基板50A,50Bに接続された雄コネクタ94で構成され、制御部6の信号線と第1及び第2スイッチ基板50A,50Bの配線パターン52A,52B(スイッチング素子54のゲート電極)とを電気的に接続している。
【0050】
ここで、装置ケース10内の上部に配置される第1スイッチ基板50Aは、装置の構造上、下層に位置する第2スイッチ基板50Bと制御基板60とを組付けた後に、制御基板60に組付けられる。従って、組み付けによる公差が生じやすいため、雄コネクタ94の先端が、制御基板60の対向面に配置された雌コネクタ96に接続されている。なお、装置ケース10内の下部に配置される第2スイッチ基板50Bは、上述の理由から組付けによる公差が生じにくいため、第2スイッチ基板50Bに接続した雄コネクタ94を制御基板60に直接接続している。但し、これに限らず、第2スイッチ基板50Bも第1スイッチ基板50Aと同様に、制御基板60の対向面に配置された雌コネクタ96に雄コネクタ94を接続してもよい。
【0051】
本実施形態では、ロゴスキーコイル70と検出処理部7によって電流検出センサが構成されている。制御部6は、検出処理部7から入力される信号に基づいて電流値を算出し、複数のスイッチング素子54のオン状態とオフ状態を切り替えて三相交流モータ4の各相に供給される電力を制御している。
【0052】
図12に示すように、電力制御装置1は、二枚のスイッチ基板50A,50Bに実装されたインバータ回路5を備えている。インバータ回路5は、バッテリ2側の直流電流を交流電流に変換して、三相交流モータ4の各相に供給する。U相,V相,W相に対応する電圧レベルが高い側(ハイサイド側)のスイッチング素子54UH,54VH,54WHのドレイン電極は、バッテリ2の正極側に接続されている。また、各相に対応する電圧レベルが低い側(ローサイド側)のスイッチング素子54UL,54VL,54WLのソース電極は、バッテリ2の負極側に接続されている。また、全てのスイッチング素子54のゲート電極は、制御部6から出力される制御信号の信号線にそれぞれ接続されている。
【0053】
六つのロゴスキーコイル70は、インバータ回路5のハイサイドスイッチング素子54UH,54VH,54WHのソース電極と三相交流モータ4の間にそれぞれ流れる電流を計測する三つのロゴスキーコイル70U1,70V1,70W1と、三相交流モータ4とローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLのドレイン電極との間にそれぞれ流れる電流を計測する三つのロゴスキーコイル70U2,70V2,70W2とから構成されている。これらの六つのロゴスキーコイル70では、三相交流モータ4の各相に対応するスイッチング素子54のオン状態とオフ状態が切り替わった瞬間の電流値が計測される。そして、各ロゴスキーコイル70から出力された出力信号(誘導起電力)は、制御基板60に実装された検出処理部7に入力される。
【0054】
図13に示されるように、検出処理部7は、六つのロゴスキーコイル70に対応する六つの積分回路80(A~F)と、三相交流モータ4の各相に対応する三つの加算器82(U~W)とを有して構成されている。検出処理部7では、六つのロゴスキーコイル70の出力信号がそれぞれ六つの積分回路80(A~F)に入力される。各積分回路80は、例えば、オペアンプと抵抗とコンデンサを有して構成されている。この積分回路80ではロゴスキーコイル70からの出力信号を積分し、各地点の計測電流に比例した電圧波形に対応する信号を出力する。
【0055】
加算器82は、三相交流モータ4のU相に対応する加算器82Uと、V相に対応する加算器82Vと、W相に対応する加算器82Wとを備えている。加算器82Uでは、U相に対応する二つのロゴスキーコイル70U1,70U2の出力信号が積分されて得られた電圧波形が加算される。これにより、バッテリ2の正極側の検出値から負極側の検出値が加算されてバッテリ2からU相に出力された直流電流に比例する出力信号UCを得ることができる。同様にして、加算器82Vでは、バッテリ2からV相に出力された直流電流に比例する出力信号UVを得ることができる。また、加算器82Wでは、バッテリ2からW相に出力された直流電流に比例する出力信号UWを得ることができる。加算器82U,82V,82Wから出力される信号は、制御部6に入力され、制御部6で演算処理されることにより、バッテリ2から三相交流モータ4の各相に出力された出力電流を得ることができる。
【0056】
(作用並びに効果)
以上説明したように、上記実施形態に係る電力制御装置1によれば、制御基板60によって制御される複数のスイッチング素子54を第1スイッチ基板50Aと第2スイッチ基板50Bとに分けて実装することにより、一枚あたりのスイッチ基板の面積が縮小される。かかる二枚のスイッチ基板50A,50Bは、装置ケース10内において、第1スイッチ基板50A、制御基板60、第2スイッチ基板50Bの順に高さ方向に所定の間隔を空けて収容される。これにより、装置ケース10内における基板部分の搭載面積が実質的に一枚の基板の搭載面積と同等になり装置ケース10が小型化するため、高出力化と両立して、装置の小型化を図ることができる。
【0057】
電力制御装置1によれば、第1スイッチ基板50Aにインバータ回路5のハイサイドスイッチング素子54UH、54VH,54WHを実装し、第2スイッチ基板50Bにローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLを実装している。従って、インバータ回路5のハイサイド側とローサイド側とで配線パターンの独立性を確保することができるため、配線効率を高めることができる。
【0058】
電力制御装置1によれば、第1配線パターン52Aに接続された三つの第1基板側端子56Aと第2配線パターン52Bに接続された三つの第2基板側端子56Bとによって、三相交流モータ4の各相に対応するハイサイドスイッチング素子54UH、54VH,54WHのソース電極とローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLのドレイン電極とが電気的に接続されている。これらの第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bとは、装置ケース10の高さ方向に向かい合って配置されるため、ハイサイド側のソース電極とローサイド側のドレイン電極間の接続線路を短くすることができ、伝送損失を低減させることができる。
【0059】
電力制御装置1によれば、ハイサイドスイッチング素子54UH、54VH,54WHのソース電極とローサイドスイッチング素子54UL,54VL,54WLのドレイン電極との間に接続されるバスバー型の出力端子26U、26V,26Wを備えている。各出力端子26は、同じくバスバー型の端子によって構成された第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bによって側面を両側から挟み込まれることにより上記ソース電極とドレイン電極との間に接続されている。従って、第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bを共通の出力端子26に直接接続できるので、接続用のバスバーを用いた複雑な接続が要せず、配線を容易にすることができる。
【0060】
電力制御装置1によれば、三相交流モータ4の各相において、二つのロゴスキーコイル70から成る電流計測用コイルを用いて第1基板側端子56Aと第2基板側端子56Bに流れる電流を計測することができる。かかる計測電流は、バッテリ2と三相交流モータ4との間で流れる電流をハイサイド側のソース電極とローサイド側のドレイン電極との間で計測したものである。従って、スイッチング素子54による損失の影響が無い位置で三相交流モータ4に対する入力側の電流と出力側の電流を検出することができるため、電流の検出精度を高めることができる。
【0061】
更に、バッテリ2と三相交流モータ4との間で流れる電流がロゴスキーコイル70により計測されるようになっているため、計測電流がロゴスキーコイル70自体を流れることがない。従って、当該計測電流によりロゴスキーコイル70の発熱量が大きくなることがなく、例えば、バッテリ2と三相交流モータ4との間で大電流が流れる場合であっても、ロゴスキーコイル70を用いて当該大電流を精度良く検出することができる。また、ロゴスキーコイル70のパターンが形成された制御基板60が、複数のスイッチング素子54を有する第1及び第2スイッチ基板50A,50Bに対して所定の間隔を空けて配置されるため、スイッチング素子54の発熱の影響をロゴスキーコイル70が受けにくい。以上のことから、電流の検出精度を一層向上させることができる。
【0062】
電力制御装置1によれば、第1スイッチ基板50Aと制御基板60との間、及び第2スイッチ基板50Bと制御基板60との間は、フローティングコネクタ90の備える複数の導体ピン92によって装置ケース10の高さ方向にそれぞれ連結されている。複数の導体ピン92は、第1配線パターン52Aと制御部6の信号線、及び第2配線パターン52Bと制御部6の信号線とを電気的に接続し、制御部6からの制御信号を複数のスイッチング素子54に伝達している。かかる構成では、各スイッチ基板50A,50Bの配線パターン52A,52Bと制御部6の信号線との間の接続線路を短くすることができるため、この点によっても、伝送損失を低減させることができる。
【0063】
また、上記実施形態によれば、第1スイッチ基板50Aに接続したフローティングコネクタ90の雄コネクタ94を制御基板60の対向面に配置した雌コネクタ96に接続させて基板間を連結している。これにより、コネクタ位置などの公差を吸収して基板間の接続をすることが可能になるため、組付けを容易にすることができる。
【0064】
電力制御装置1によれば、第1及び第2スイッチ基板50A,50Bは、ケース本体12の及びケースカバー14の内面に、それぞれ接触された状態で固定されることにより、装置ケース10の高さ方向に両基板間の間隔を保持することができる。また、制御基板60は、ケース本体12に固定された第2スイッチ基板50Bに対して装置ケース10の高さ方向に所定の間隔を空けて支持されることにより、各スイッチ基板50A,50Bとの間隔を装置ケース10の高さ方向に保持できる。以上により、三枚の基板間の間隔を安定して保持できるため、使用中の熱変形よりはんだ付け部へ与えるダメージが軽減され、装置ケース10内でのポッティング樹脂による保持が不要になり、軽量化を図ることができる。
【0065】
また、ケース本体12及びケースカバー14の外面には、それぞれ、複数の放熱フィン12F,14Aが形成されている。これにより、複数のスイッチング素子54の熱を効率良く外部に放熱することができる。
【0066】
[補足説明]
上記実施形態では、本発明における電源がバッテリ2とされ、本発明における電力供給対象が三相交流モータ4として構成されているが、これに限らない。電源及び電力供給対象は適宜設定可能である。例えば、電源は、発電機やコンセントから取れる電源でもよい。また、電力供給対象は、単相交流モータや、四相交流や五相交流等、三相以上の交流モータや、各種電気機器等を適宜採用することができる。
【0067】
上記実施形態ではバッテリ2から三相交流モータ4に電力が供給される場合について記載したが、本発明は回生電力のように、モータからバッテリに供給(充電)される電力の制御にも用いることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、三相交流モータ4の各相(U、V、W)に対応する三つの第1基板側端子56Aと三つの第2基板側端子56Bに流れる電流を計測する構成としたが、本発明はこれに限らない。例えば、三相交流モータの二相に対応する電流を計測できれば、当該電流の検出値を用いて残り一相に供給する電力を演算し、制御することができる。この場合、三相交流モータの各相の何れか二相に対応する二つの第1基板側端子56Aと二つの第2基板側端子56Bに流れる電流を計測する構成であればよい。この場合、制御基板60には、四つのロゴスキーコイル70が形成される。
【0069】
上記実施形態における電力制御装置1では、バッテリ2に対して複数のコンデンサ3が並列に接続される構成としたが、コンデンサ3を備えない構成としてもよい。
【0070】
上記実施形態では、第1スイッチ基板50Aと制御基板60との間、及び第2スイッチ基板50Bと制御基板60との間を連結する導体物がフローティングコネクタ90の導体ピン92で構成される例について説明したが、これに限らない。本発明に係る「導体物」は、板状の端子部材やリード線、ケーブル等で構成することもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 電力制御装置
2 バッテリ(電源)
4 三相交流モータ(電力供給対象)
6 制御部
10 装置ケース
12 ケース本体
12F 放熱フィン
14 ケースカバー
14A 放熱フィン
26 出力端子(26U,26V,26W)
50A 第1スイッチ基板
50B 第2スイッチ基板
54 スイッチング素子(第1スイッチング素子、第2スイッチング素子)
52A 第1配線パターン
52B 第2配線パターン
56A 第1基板側端子
56B 第2基板側端子
60 制御基板(コイル基板、電流検出用基板)
62 貫通部
90 フローティングコネクタ
92 導体ピン(導体物)
94 雄コネクタ
96 雌コネクタ
70 ロゴスキーコイル(電流計測用コイル、ロゴスキーコイルのパターン)