(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】エチレン系樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20231129BHJP
C08F 10/02 20060101ALI20231129BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L23/04
C08F10/02
C08J5/18 CES
(21)【出願番号】P 2022185576
(22)【出願日】2022-11-21
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021191056
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】廣田 佳弥
(72)【発明者】
【氏名】菊地 章友
(72)【発明者】
【氏名】片岡 和義
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 義昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敏夫
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-078101(JP,A)
【文献】特開2018-009166(JP,A)
【文献】特開2012-255138(JP,A)
【文献】特開2015-089937(JP,A)
【文献】特開2010-242082(JP,A)
【文献】特開2007-269839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/04
C08F 10/02
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の<条件(A)>~<条件(E)>を満たす、エチレン系樹脂組成物。
<条件(A)>
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが1.0g/10分以上20.0g/10分以下である。
<条件(B)>
密度が920kg/m
3以上960kg/m
3以下である。
<条件(C)>
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)の昇温溶離分別(TREF)により得られる溶出温度-溶出量曲線において、ピークトップを有するピークが60℃以上80℃以下の範囲と、80℃超100℃以下の範囲に、それぞれ少なくとも1つずつ存在する。
<条件(D)>
前記CFC測定で、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が9以上100以下である。
<条件(E)>
前記CFC測定の70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおいて、全面積に対する換算分子量10
6g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量10
5g/mol以上の面積の割合Yの比:X/Yが、0.05以上0.50以下である。
【請求項2】
前記CFC測定で、80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が4.0以上20以下であり、重量平均分子量が60000g/mol以上200000g/mol以下である、
請求項1に記載のエチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記昇温溶離分別(TREF)の60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が、
全溶出量の10質量%以上90質量%以下である、
請求項1に記載のエチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
密度が942kg/m
3以上の高密度ポリエチレンと、密度が930kg/m
3以下の高圧法低密度ポリエチレンの混合物である、請求項1に記載のエチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエチレン系樹脂組成物の成形体。
【請求項6】
フィルムである、請求項5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン系樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系樹脂組成物は、種々の成形方法により成形され、多方面の用途に供されており、これら成形方法や用途に応じて要求される特性も異なっている。
エチレン系樹脂組成物の代表的な用途としてフィルムが挙げられる。具体的には、光学部材等の表面保護フィルムが知られている。前記表面保護フィルムは、保護すべき対象を傷付けないように、フィッシュアイ(以下「FE」と記載する場合がある。)が少なく、原料となるエチレン系樹脂組成物の低分子量成分のブリードによる汚染が少ない、クリーンな表面保護フィルムであることが要求されており、かかる要求を満たすエチレン系樹脂組成物が要求されている。
【0003】
なお、前記FEとは、フィルム内に存在する小球状の異物、欠陥構造を意味する。
FEの原因は、未溶融樹脂成分と、外来異物成分の二つに大別され、FEの原因の大部分は未溶融樹脂成分である。
前記未溶融樹脂成分は、高密度ポリエチレンの造粒工程における溶融が不十分なために発生したり、ベース樹脂と粘度(分子量)の異なる成分、ゲル成分、酸化劣化樹脂、又は異樹脂が混入したりすることで発生する。
前記外来異物成分は、包材の破片(紙、糸、繊維等)、塵埃等が、原料樹脂製造工程、袋詰め・輸送工程、フィルム成形工程の何れかで混入することによって発生する。
【0004】
上述したような、FEの低減化を図ったエチレン系樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを混合する方法が知られている。特許文献1、2には、高密度ポリエチレン中に少量の低密度ポリエチレンを混合することで、FEを低減可能とした技術が開示されている。また、特許文献3には、低分子量成分の少ない高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを混合した、FEが少なく、かつ耐汚染性に優れたクリーンな表面保護フィルム用ポリエチレンが開示されている。
また、特許文献4、5には、押出機に濾過性能10~100μmの焼結フィルタを搭載して、FEや異物が極めて少ない高品位な表面保護フィルムを製造する方法が開示されている。具体的には、ポリオレフィンの製造工程における造粒用押出機や、フィルム成膜用押出機の出口に前記焼結フィルタを搭載し、高品位な表面保護フィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-193661号公報
【文献】国際公開第2021/014984号
【文献】特許第6243195号公報
【文献】特許第4426441号公報
【文献】国際公開第2021/070672号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、押出機の出口に焼結フィルタを搭載して樹脂の押出を行う場合、原料となる樹脂中に、異物が含まれていたり、FE等があると、目詰まりが発生し、差圧が経時的に上昇し、焼結フィルタ交換や洗浄の工程が必須となる。そのため、焼結フィルタを使用した押出工程において昇圧が起こりにくい、すなわち焼結フィルタに捕捉されるようなFE、特に架橋ゲルや酸化劣化物由来のFEが少なく、かつ塵埃、触媒残渣、及びその他異物が少ない、クリーンなエチレン系樹脂組成物が、表面保護フィルム用の原料として好ましい。
しかしながら、特許文献1~5には、直径100μm以上のFE数や低分子量成分由来の汚染性評価については記載があるが、焼結フィルタを使用して押出工程を実施する場合の焼結フィルタの昇圧、すなわち焼結フィルタに捕捉されうる微細な異物についての評価はなされておらず、クリーンな表面保護フィルムを得るという観点からは、改善の余地がある、という問題点を有している。
【0007】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、FEが少なく、焼結フィルタを使用して樹脂押出工程を実施した際の、目詰まりによる昇圧を効果的に抑制でき、かつ成膜安定性に優れた、エチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を進めた結果、下記に示す特定の性状を有するエチレン系樹脂組成物が、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕
下記の<条件(A)>~<条件(E)>を満たす、エチレン系樹脂組成物。
<条件(A)>
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが1.0g/10分以上20.0g/10分以下である。
<条件(B)>
密度が920kg/m3以上960kg/m3以下である。
<条件(C)>
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)の昇温溶離分別(TREF)により得られる溶出温度-溶出量曲線において、ピークトップを有するピークが60℃以上80℃以下の範囲と、80℃超100℃以下の範囲に、それぞれ少なくとも1つずつ存在する。
<条件(D)>
前記CFC測定で、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が9以上100以下である。
<条件(E)>
前記CFC測定の70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおいて、全面積に対する換算分子量106g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量105g/mol以上の面積の割合Yの比:X/Yが、0.05以上0.50以下である。
〔2〕
前記CFC測定で、80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が4.0以上20以下であり、重量平均分子量が60000g/mol以上200000g/mol以下である、前記〔1〕に記載のエチレン系樹脂組成物。
〔3〕
前記昇温溶離分別(TREF)の60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が、
全溶出量の10質量%以上90質量%以下である、
前記〔1〕又は〔2〕に記載のエチレン系樹脂組成物。
〔4〕
密度が942kg/m3以上の高密度ポリエチレンと、密度が930kg/m3以下の高圧法低密度ポリエチレンの混合物である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のエチレン系樹脂組成物。
〔5〕
前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のエチレン系樹脂組成物の成形体。
〔6〕
フィルムである、前記〔5〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、FEが少なく、特に酸化劣化樹脂や架橋ゲル由来のFEが少なく、焼結フィルタを使用して樹脂押出工程を実施した際の目詰まりによる昇圧を効果的に抑制でき、成膜安定性に優れた、エチレン系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】CFC測定の70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおける、全面積に対する換算分子量10
6g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量10
5g/mol以上の面積の割合Yを示す一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
〔エチレン系樹脂組成物〕
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、下記の<条件(A)>~<条件(E)>を満たす。
<条件(A)>
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが1.0g/10分以上20.0g/10分以下である。
<条件(B)>
密度が920kg/m3以上960kg/m3以下である。
<条件(C)>
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)の昇温溶離分別(TREF)により得られる溶出温度-溶出量曲線において、ピークトップを有するピークが60℃以上80℃以下の範囲と80℃超100℃以下の範囲に、それぞれ少なくとも1つずつ存在する。
<条件(D)>
前記CFC測定で、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が9以上100以下である。
<条件(E)>
前記CFC測定の70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおいて、全面積に対する換算分子量106g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量105g/mol以上の面積の割合Yの比:X/Yが、0.05以上0.50以下である。
【0014】
上記構成を有することにより、FEが少なく、特に酸化劣化樹脂や架橋ゲル由来のFEが少なく、エチレン系樹脂組成物の押出工程において焼結フィルタを使用した際に、前記焼結フィルタの目詰まりによる昇圧を効果的に抑制でき、かつ成膜安定性に優れたエチレン系樹脂組成物が得られる。
【0015】
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、下記の<条件(F)>、<条件(G)>を、さらに満たすことが好ましい。これにより、FEの発生を抑制でき、押出工程において焼結フィルタを使用した際に、前記焼結フィルタの目詰まりによる昇圧の抑制に優れ、かつ、成膜安定性にも優れたエチレン系樹脂組成物が得られる。
<条件(F)>
前記CFC測定で80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布が4.0以上20以下であり、重量平均分子量が60000g/mol以上200000g/mol以下である。
<条件(G)>
前記昇温溶離分別(TREF)の60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が、全溶出量の10質量%以上90質量%以下である。
【0016】
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、及びその他特殊な超低密度ポリエチレンからなる群より選ばれる、ポリエチレンを含有することが好ましい。
これらのなかでも、本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、密度が942kg/m3以上の高密度ポリエチレンと、密度が930kg/m3以下の高圧法低密度ポリエチレンとを含有することが好ましい。このようなエチレン系樹脂組成物は、FEがより低減する傾向にある。
なお、ここで「高圧法」とは、過酸化物の存在下において、重合温度150℃以上、重合圧力100MPa以上の条件で、ラジカル重合により低密度ポリエチレンを製造するプロセスを意味する。
本実施形態のエチレン系樹脂組成物に含まれるポリエチレンは、エチレンの単独重合体であっても、エチレンとα-オレフィンとの共重合体であってもよく、2種以上の(共)重合体を含むものであってもよい。
ポリエチレンの製造方法は、特に制限されず、一般に用いられている溶液法、高圧法、高圧バルク法、ガス法、スラリー法等のいずれの製造方法も適用できる。
【0017】
(190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR))
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、上記<条件(A)>に示すように、190℃、2.16kg荷重におけるMFRが1.0g/10分以上20.0g/10分以下である。好ましくは2.0g/10分以上18.0g/10分以下であり、より好ましくは3.0g/10分以上15.0g/10分以下である。
MFRが1.0g/10分以上であると、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いたフィルムの膜切れを抑制できる。
MFRが20.0g/10分以下であると、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いた成形工程におけるネックインを抑制できる。
エチレン系樹脂組成物のMFRは、重合条件を調整することにより制御可能であり、原料の種類の選択、及び混合比を調整することにより、上記数値範囲に制御できる。
【0018】
(密度)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、密度が920kg/m3以上960kg/m3以下である。好ましくは922kg/m3以上958kg/m3以下であり、より好ましくは925kg/m3以上955kg/m3以下である。
密度が920kg/m3以上であると、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いたフィルムの耐熱性、コシが向上する。
密度が960kg/m3以下であると、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いたペレット作製時のストランド安定性が向上し、またフィルム成膜時の膜揺れも軽減できる。
なお、本実施形態のエチレン系樹脂組成物の密度は、JIS K7112に準拠して測定されるものであり、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
エチレン系樹脂組成物の密度は、一般的に重合条件を調整することにより制御可能であり、原料の種類の選択及び混合比を調整することにより上記数値範囲に制御できる。
【0019】
(CFC測定により得られる溶出温-溶出量曲線)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、クロス分別クロマトグラフィー(CFC)測定の、昇温溶離分別(TREF)により得られる溶出温度-溶出量曲線において、60℃以上80℃以下の範囲と、80℃超100℃以下の範囲に、ピークトップを有するピークが少なくともそれぞれ1つずつ存在する。
ここで「クロス分別クロマトグラフィー(CFC)」とは、結晶性分別を行う温度上昇溶出分別部(以下、「TREF部」ともいう。)と分子量分別を行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー部(以下、「GPC部」ともいう。)とを組み合わせた装置であって、TREF部とGPC部とを直接接続することにより組成分布と分子量分布の相互関係の解析を行うことが可能な装置である。
エチレン系樹脂組成物の各温度での溶出量及び溶出積分量は、TREF部により、溶出温度-溶出量曲線を以下のように測定することで求めることができる。まず、充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、エチレン系樹脂組成物をオルトジクロロベンゼンに溶かして試料溶液を調製し、この試料溶液(例えば、濃度:20mg/20mL)を導入して120分間保持する。
次に、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温することで、試料を順次充填剤表面に析出させる。
40℃で20分間保持した後、カラムの温度を、昇温速度20℃/分で順次昇温する。初めに40℃から60℃まで10℃間隔で昇温し、60℃から69℃まで3℃間隔で昇温し、69℃から100℃まで1℃間隔で昇温し、100℃から120℃まで10℃間隔で昇温する。
なお、各温度で21分間保持した後に昇温を行い、各温度で溶出した試料(ポリエチレン)の濃度を検出する。
すなわち、前記「各温度」は、「40℃から60℃まで10℃間隔で昇温し、60℃から69℃まで3℃間隔で昇温し、69℃から100℃まで1℃間隔で昇温し、100℃から120℃まで10℃間隔で昇温したときの」の全ての温度(40、50、60、63、66、69、70、71、72、・・・、98、99、100、110、120℃)を意味する。これらの各温度でそれぞれ21分間ずつ保持し、そこでそれぞれの温度における試料を採取し、濃度を検出する。
そして、試料(エチレン系樹脂組成物)の溶出量(質量%)とその時のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度-溶出量曲線を測定し、各温度での溶出量が得られる。
【0020】
(低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布Mw/Mn)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、CFC測定で、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度(以下、「低温ピーク温度」と記載する。)で溶出する成分の、GPC測定による分子量分布が9以上100以下である。
前記分子量分布の下限値として、好ましくは10以上であり、より好ましくは11以上である。上限値として好ましくは90以下、より好ましくは80以下である。
分子量分布は重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比であるMw/Mnで表され、上述したCFC測定により40℃から120℃の各温度で溶出した成分毎の分子量分布を得ることができる。
低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布は、エチレン系樹脂組成物中における結晶化度の低い成分の分子量分布、すなわち低密度成分における長鎖分岐の度合いを示す。低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布は、エチレン系樹脂組成物中に含まれる低密度成分の分子量分布と同程度の値を示す傾向にある。しかし、高度に分岐したポリマーを含む場合、高分岐成分と低分子量成分が同時に溶出するために、GPC測定により得られる、エチレン系樹脂組成物中に含まれる低密度成分の分子量分布よりも大幅に大きな値を示す傾向にある。
前記低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布が9以上である場合、高度に分岐したポリマーが含まれるため、押出機での混錬工程において長鎖分岐成分の絡み合い効果による応力が働き、未溶融樹脂や架橋ゲル由来のFEが充分に少なくなる傾向にある。また、触媒担体などの異物が細断される傾向にある。
前記低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布が100以下である場合、被着体汚染の原因である低分子量成分やFEの原因になりうる超高分子量成分が含まれていない傾向にある。
低温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布は、特に限定されないが、低密度ポリエチレン成分の重合条件、例えば、重合温度、重合圧力、重合開始剤種、連鎖移動剤の有無、反応器の種類を調整することにより上記数値範囲に制御できる。具体的には、重合開始剤として、反応性の高い過酸化物であるパーオキシエステル類を使用し、重合圧力を200MPa以下に調整することが有効である。また、連鎖移動剤を添加せず、重合圧力、重合温度を適切な値に制御する、あるいは強制撹拌下で重合することにより、分子量分布の広いポリマーが生成される傾向にある。
【0021】
(70℃で溶出した成分のGPC測定)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、CFC測定により得られる70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおいて、全面積に対する換算分子量10
6g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量10
5g/mol以上の面積の割合Yの比:X/Yが、0.05以上0.50以下である。好ましくは0.06以上0.45以下であり、より好ましくは0.07以上0.40以下である。
CFC測定により得られる70℃で溶出した成分は、エチレン系樹脂組成物においても結晶化度の低い成分であり、Yは当該成分のうち換算分子量10
5g/mol以上の長鎖分岐を有するポリマーの割合を示し、Xは長鎖分岐を有するポリマーのうち特に分子量の大きい、換算分子量が10
6g/mol以上のポリマーの割合を示す。
図1に、CFC測定により70℃で溶出した成分の、GPC測定で得られるGPCチャートにおける、全面積に対する換算分子量10
6g/mol以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量10
5g/mol以上の面積の割合Yを示す、一例の概略図を表す。
従ってX/Yは、長鎖分岐ポリマーの中でも、より分子量の大きな長鎖分岐を含むポリマーの割合を示し、これが0.05以上であることにより、押出機での混錬工程において長鎖分岐成分の絡み合い効果による応力が働き、未溶融樹脂や架橋ゲル由来のFEが充分に少なくなり、また触媒担体などの異物が粉砕される傾向にある。また、比較的低温である70℃から分岐の多い成分が溶出するため、フィルム成膜の加工性が向上し、膜ムラの少ないフィルムを成膜することができる傾向にある。
X/Yが0.50以下であることにより、FEや分散不良の原因になる換算分子量10
6g/mol以上の超高分子量成分のむ割合が充分に少なくなる傾向にある。
【0022】
X/Yは、低密度成分のポリマー分岐構造を制御するにより上記数値範囲とすることできる。
低密度成分のポリマーは、一般的に高圧法によって製造される。ポリマー分岐構造を制御するためには、特に限定されないが、重合条件、例えば、重合温度、重合圧力、連鎖移動剤、重合開始剤種を調整することが有効である。
連鎖移動剤としては特に限定されないが、例えば、プロパン、プロピレン、ブタン等の炭化水素化合物が使用され、成長中のポリマー中のラジカルを停止させることにより、各種物性を調整することができる。連鎖移動剤を使用せずに重合させることで、より重合度の大きいポリマーが生成するため、それが長鎖分岐として取り込まれることで、Xの大きなポリマーが得られやすい傾向にある。
重合開始剤として、反応性の高い有機過酸化物、例えば、パーオキシエステル類(具体的には、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシオクテート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,6-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等)、を選択することで、長鎖分岐生成反応が促進され、ポリマー分岐構造を制御できる。
【0023】
さらにX/Yを上述のように制御するためには、低密度成分のポリマーの分岐構造をより精密に制御することが有効である。例えば、重合反応器直後のポリマー温度や、重合反応器に供給する原料エチレンガスの温度を調整することにより、低密度成分のポリマーの分岐構造をより精密に制御できる。
重合反応器直後のポリマー温度は、生成したポリマーの分解に影響を及ぼし、特に分岐点は分解が起こりやすいため、当該温度を適切に調整することにより、低密度成分のポリマーの分岐構造の精密な制御が可能である。例えば、重合反応器直後のポリマー温度を180℃以下に設定することにより、ポリマーの分解が抑制される。
重合反応器直後のポリマー温度は、一般的には重合温度付近の温度を示すが、例えば、重合反応器直後の配管を水蒸気や温水でジャケット冷却することにより制御することができる。
重合反応器に供給するエチレンの温度は、ポリマーの分岐構造に影響し、例えば重合反応器に供給するエチレンの温度が低いほど重合反応が進みやすく、特に重合温度との温度差が大きいほど重合度の高いポリマーが反応初期段階で生成される。例えば供給エチレンの温度を低くし、反応初期段階で重合度の高いポリマーが生成することにより、その後の分岐生成反応において、重合度の高いポリマーが長鎖分岐として取り込まれるために、絡み合いの強いポリマーが形成される。重合反応器に供給するエチレン温度は、重合反応器からの放熱に加熱されてしまうが、例えば重合反応器直前の配管を冷水でジャケット冷却することで制御できる。例えば重合温度と供給エチレンの温度差が180℃以上の場合、重合度の高いポリマーが分岐鎖として取り込まれやすい。
【0024】
(高温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布と重量平均分子量)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、CFC測定で、80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度(以下、「高温ピーク温度」と記載する。)で溶出する成分の分子量分布が、4.0以上20.0以下であり、かつ、重量平均分子量が60000g/mol以上200000g/mol以下であることが好ましい。分子量分布は、好ましくは4.5以上18.0以下、より好ましくは5.0以上15.0以下である。重量平均分子量は、好ましくは65000g/mol以上180000g/mol以下であり、より好ましくは70000g/mol以上160000g/mol以下である。
高温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布と重量平均分子量は、エチレン系樹脂組成物中に含まれる高密度成分の分子量分布と重量平均分子量を示す。そのため高温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布、重量平均分子量は、エチレン系樹脂組成物中に含まれる高密度成分の分子量分布、重量平均分子量と同程度の値を示す傾向にある。
高密度成分の分子量分布及び重量平均分子量は、特に限定されないが、高密度成分を重合する際の触媒種や、重合条件を調整することによって制御でき、これら条件を調整することにより、重合ポリマーの物性や触媒残渣の状態が制御できる。例えば、反応速度の遅い触媒であるチーグラー系の触媒を使用し、また重合温度を70℃以下に設定し、分子量分布を3.5以上、重量平均分子量を60000g/mol以上に制御することにより、原料モノマーが触媒担体の内部まで浸透し、かつ担体の内側からポリマーが充分に成長するため、触媒担体が粉砕されやすく、また異常な高分子量成分の発生が抑制されるため、FEが少なくなる傾向にある。一般的に反応温度を低くすることで、重合生産量が低下する傾向にあるが、60℃以上70℃以下に制御することにより、生産量を大きく損なわない範囲でポリマー物性を制御可能である。一方で、例えば触媒担体として粒径が1~20μm程度の球状シリカを使用した場合、触媒担体が割れにくく、樹脂押出工程において焼結フィルタを用いると、目詰まりが生じるおそれが高いため好ましくない。また粉砕されにくい触媒担体であっても、粒径をフィルタの濾過精度以下にすることにより、昇圧はやや低減する傾向にある。
前記高温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布が3.5以上であり、また重量平均分子量が60000g/mol以上であると、反応速度が充分に遅くなって触媒担体が粉砕されやすくなり、成膜工程においてフィルタの目詰まりが軽減され、FEが効果的に低減できる傾向にあるため好ましい。また、前記高温ピーク温度で溶出する成分の分子量分布が20.0以下であり、また重量平均分子量が200000g/mol以下であることにより、異常な高分子量成分が含まれておらずFEが少なくなる傾向にあるため好ましい。
【0025】
(60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、CFC測定の昇温溶離分別(TREF)により得られる溶出温度-溶出量曲線にから算出する、60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が、全溶出量の10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上85質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下である。
全溶出量とは、40℃から120℃の範囲における溶出温度-溶出量曲線の総面積である。
60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合は、当該エチレン系樹脂組成物中に含まれる低密度成分、すなわち長鎖分岐を有するポリマーの質量割合とほぼ同等の値を示す傾向にある。
60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が、全溶出量の10質量%以上であることにより、押出機での混錬工程において長鎖分岐成分の絡み合い効果による応力が働き、未溶融樹脂や架橋ゲル由来のFEが充分に少なくなり、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いたフィルム成膜の安定性が向上する、また触媒担体等の異物が細断される、といった効果を奏するため好ましい。
60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合が全溶出量の90質量%以下であることにより、本実施形態のエチレン系樹脂組成物を用いたフィルム成膜時の物性ムラが起こらず、かつ低密度成分と高密度成分が良好に分散し、FEが少なくなるため好ましい。
60℃以上80℃以下で溶出する成分の質量割合は、エチレン系樹脂組成物中の低密度成分の量を調整することにより、上記数値範囲に制御でき、例えば高圧法低密度ポリエチレンの含有量を、エチレン樹脂組成物中の20質量%以上80質量%以下制御すればよい。
【0026】
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態のエチレン系樹脂組成物の成形体であり、例えば、フィルムが挙げられる。当該フィルムが多層フィルムである場合は、本実施形態のエチレン系樹脂組成物は、最外層に用いても中間層に用いてもよい。
【0027】
〔エチレン系樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のエチレン系樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、高密度ポリエチレン樹脂(A)と、高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B)とを溶融混練することにより製造できる。
ここで、高密度ポリエチレン樹脂とは、密度が942kg/m3以上のポリエチレン樹脂であり、低密度ポリエチレンとは、密度が930kg/m3以下のポリエチレン樹脂である。
混練作業における溶融混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等を使用することができる。
【0028】
高密度ポリエチレン(A)は、例えば、連続式スラリー重合法により製造できる。製造に使用される触媒は特に限定されず、例えばメタロセン触媒、チーグラー・ナッタ触媒、フィリップス触媒等を使用することが可能である。反応速度の遅いチーグラー・ナッタ触媒を使用することで、触媒担体が粉砕されやすいため好ましい。また一般的には重合温度、重合圧力、触媒種のほかに、コモノマー濃度や水素濃度を調整することにより、高密度ポリエチレン(A)の物性を制御できる。コモノマーを大量に入れると密度が下がるため、適切なコモノマー濃度に調整する。
高密度ポリエチレン(A)及び後述する高圧法低密度ポリエチレン(B)をエチレンと、その他のコモノマーのコポリマーとする場合、前記コモノマーとしては、以下に限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキサン、スチレン、及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる化合物;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、及び2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンよりなる群から選ばれる炭素数3~20の環状オレフィン;1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、及びシクロヘキサジエンよりなる群から選ばれる炭素数4~20の直鎖状、分岐状、又は環状ジエンが挙げられる。特に、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセン等が好ましい。
高密度ポリエチレン(A)の重合温度は、30℃以上100℃以下が好ましい。重合温度が30℃以上であることにより、工業的により効率的な製造が可能であり、一方重合温度が100℃以下であることにより、連続的により安定な運転が可能である。特に60℃以上70℃以下に制御することで、生産効率を損なわず、触媒担体の粉砕やFEの発生が抑制されるため好ましい。
高密度ポリエチレン(A)の製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上2MPa以下が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上1.5MPa以下であり、さらに好ましくは0.1MPa以上1.0MPa以下である。
高密度ポリエチレン(A)の分子量は、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させること等によって調整できる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、適切な範囲に制御できる。
溶媒分離方法としては、デカンテーション法、遠心分離法、フィルタ濾過法等が挙げられるが、エチレン重合体と溶媒との分離効率が良い遠心分離法がより好ましい。
得られたポリエチレンパウダーは、ペレット化する直前に篩で分級し、粒径100μm以下のパウダーを除去することが好ましい。パウダー粒径の小さいポリマーは活性が低く、触媒残渣を多く含むため、これを除去することにより、最終的に得られるエチレン樹脂組成物を用いて押出工程を行う際に焼結フィルタを用いたとき、昇圧の軽減が可能である。
ポリエチレンパウダーは、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等によりペレット状に造粒される。押出機の種類や押出回数は特に限定されないが、二軸押出機による混錬を行うことが好ましい。
【0029】
高圧法低密度ポリエチレン(B)は、特に限定されないが、例えば、オートクレーブタイプ、あるいはチューブラータイプのリアクターで、エチレンをラジカル重合することにより得ることができる。
オートクレーブタイプのリアクターを採用する場合には、高圧法低密度ポリエチレン(B)の重合条件としては、過酸化物の存在下で、200~300℃の温度、100~250MPaの重合圧力に設定すればよく、一方、チューブラータイプのリアクターを採用する場合には、高圧法低密度ポリエチレン(B)の重合条件は、過酸化物の存在下で180~400℃の重合反応ピーク温度、100~400MPaの重合圧力に設定すればよい。
得られる高圧法低密度ポリエチレン(B)の物性は、上記のように重合温度、重合圧力を調整し、かつ後述するように、過酸化物の種類、連鎖移動剤の有無を調整することによって制御できる。
過酸化物としては、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、パーオキシケタール類(具体的には1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン等)、ハイドロパーオキサイド類(具体的には、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド類(具体的には、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル、2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチルジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3等)、ジアシルパーオキサイド(具体的には、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等)、パーオキシジカーボネート類(具体的には、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等)、パーオキシエステル類(具体的には、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシオクテート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,6-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等)、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアリルカーボネート等が挙げられる。
特に反応性の高い過酸化物、例えば、パーオキシエステル類(具体的には、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシオクテート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,6-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等)、を選択することで、長鎖分岐生成反応が促進されるため好ましい。
連鎖移動剤としては特に限定されないが、例えば、プロパン、プロピレン、ブタン等の炭化水素化合物が使用され、成長中のポリマーのラジカルを停止させることにより、各種物性を調整することができる。連鎖移動剤を使用せずに重合させることで、より重合度の大きく、長鎖分岐の多いポリマーが生成するため好ましい。
また、重合反応器に供給するエチレンの温度や重合反応器直後のポリマー温度はポリマーの分岐構造に影響するため、上述したように、重合反応器直前、直後の配管を冷水でジャケット冷却する方法により、重合反応器に供給するエチレンの温度と重合温度との温度差を180℃以上、重合反応器直後のポリマー温度を180℃以下に制御することが好ましい。
【0030】
(添加剤)
本実施形態のエチレン系樹脂組成物、原料となる各成分、及び成形体は、酸化防止剤、耐光安定剤、スリップ剤、充填剤、帯電防止剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【実施例】
【0031】
以下に、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態について詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
下記に各物性及び特性の、測定方法及び評価方法について記載する。
【0032】
〔物性の測定方法〕
((物性1)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR))
実施例及び比較例で得られた各エチレン系樹脂組成物、及び原料について、JIS K7210コードD:1999(温度=190℃、荷重=2.16kg)により、メルトフローレート(g/10分)を測定した。
【0033】
((物性2)密度)
実施例及び比較例で得られた各エチレン系樹脂組成物、及び原料について、JIS K7112:1999、密度勾配管法(23℃)により、密度(kg/m3)を測定した。
【0034】
((物性3)GPC測定におけるMw、Mn、Mw/Mn)
後述のようにして作製した低密度ポリエチレン(B)について、Polymer Char社製GPC-IRと検出器にPolymer Char社製IR5を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定を行った。
低密度ポリエチレン(B)20mgに、移動相であるo-ジクロロベンゼン15mLを導入して、150℃で1時間撹拌することでサンプル溶液を調製し、流量1.0mL/分で流した。カラムとして昭和電工(株)製UT-807(1本)と東ソー(株)製GMHHR-H(S)HT(2本)を直列に接続して使用し、カラム温度140℃、試料溶解温度140℃、試料溶解時間90分の条件で測定した。
GPCから求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を分子量分布とした。
分子量の校正は、東ソー(株)製標準ポリスチレンのMw(Molecular weight)が10,500,000~2,060,000の範囲の12点で行い、それぞれの標準ポリスチレンのMwに係数0.43を乗じてポリエチレン換算分子量とし、溶出時間とポリエチレン換算分子量のプロットから一次校正直線を作成し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を決定した。
【0035】
((物性4)クロス分別クロマトグラフィー(CFC)測定における溶出温度-溶出量曲線、溶出ピークの本数、60℃以上80℃以下で溶出する成分の全溶出量に対する質量割合、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークの温度で溶出する成分のMw/Mn、80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピーク温度で溶出する成分の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn、70℃で溶出した成分のGPCチャート全面積に対する換算分子量106以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量105以上の面積の割合Yの比X/Y)
実施例及び比較例で得られた各エチレン系樹脂組成物について、Polymer ChAR社製Automated 3D analyzer CFC-2を用いて、CFC測定を実施した。
TREFカラムとして、ステンレススチールマイクロボールカラム(外径3/8インチ×長さ150mm)を使用した。GPCカラムとして、Shodex社製GPC UT-807を1本と、東ソー(株)製GMHHR-H(S)HTを2本の合計3本を用いた。
溶離液として、o-ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)を、流量1.0mL/分で流した。
充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、エチレン系樹脂組成物をo-ジクロロベンゼンに溶かした試料溶液(サンプル濃度:1.0g/mL)を20mL導入して120分間保持した。
次に、カラムの温度を、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温した後、20分間保持した。この工程で試料が充填剤表面に析出した。
その後、カラムの温度を以下のように調整した。
まず、50℃まで昇温し、50℃で保持した。続いて60℃まで昇温し、60℃で保持した。さらに、60℃から75℃までは5℃間隔で昇温・保持し、75℃から90℃までは3℃間隔で昇温・保持し、90℃から110℃までは1℃間隔で昇温・保持し、110℃から120℃までは5℃間隔で昇温・保持した。なお、各昇温過程は速度20℃/分で昇温し、各保持温度で21分間保持した。
各保持温度で21分間保持中に溶出した試料の濃度(質量%)を検出し、保持温度と溶出試料濃度から溶出温度-溶出量曲線を得た。
さらに、TREFカラムに接続したGPCカラムを用いて各保持温度で21分間保持中に溶出した成分の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めた。
上記のようにして得られた溶出温度-溶出量曲線から、溶出ピークの本数、60℃以上80℃以下で溶出する成分の全溶出量に対する質量割合を求めた。
また、上記のようにして得られた各温度で溶出した成分のGPC測定結果から、60℃以上80℃以下の範囲で得られる最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の分子量分布Mw/Mn、80℃超100℃以下の範囲で得られるも最も溶出量が多いピークについて、当該ピークを示す温度で溶出する成分の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn、70℃で溶出した成分のGPCチャート全面積に対する換算分子量106(g/mоl)以上の面積の割合Xと、全面積に対する換算分子量105(g/mоl)以上の面積の割合Yの比:X/Yを求めた。
なお、表中、60℃以上80℃以下の範囲で得られるピークを低温ピークと表記し、80℃超100℃以下の範囲で最も溶出量が多いピークの温度を高温ピークと表記する。
【0036】
〔評価方法〕
((評価1)FE数)
エチレン系樹脂組成物を、T-ダイ製膜機(北進産業株式会社製HM40N、スクリュー径40mm、ダイ300mm幅)を用い、シリンダー温度200℃、ダイ温度210℃、押出量5kg/時間で成形した。
両端を50mmずつトリミングし、厚さ35μmのエチレン系樹脂組成物からなるフィルムを得、フィルム面積400cm2中の、長軸の長さが0.1mm以上のFE数N3(個)を目視評価した。
FE数の指数Xは、原料となる高密度ポリエチレン(A)単独フィルムのFE数N1(個)の数と、エチレン系樹脂組成物全体を1としたときの高密度ポリエチレン(A)の質量割合a、原料となる低密度ポリエチレン(B)単独フィルムのFE数N2(個)と、エチレン系樹脂組成物全体を1としたときの低密度ポリエチレン(B)の質量割合bを用いて「X=N3/(N1×a+N2×b)」で定義し、下記のように評価した。
なお、低密度ポリエチレン(B)を2種類以上使用する場合は、数に応じて分母の低密度ポリエチレンの項を増やした。
◎:0.5以下
○:0.5超過0.7以下
△:0.7超過1.0以下
×:1.0超過
【0037】
((評価2)酸化劣化樹脂や架橋ゲル由来のFE数)
日本分光製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-4000及びその付属機赤外顕微鏡IRT-3000を用いて、前記(評価1)において作製したフィルムから無作為に選択した20個のFEについて、断面の顕微FT-IR測定を行った。
そのうち1700~1750cm-1にピークが見られるフィッシュアイを、酸化劣化樹脂や架橋ゲル由来のフィッシュアイと定義し、20個中に含まれる割合を下記のように評価した。
◎:0.1以下
○:0.1超過0.3以下
△:0.3超過0.5以下
×:0.5超過
【0038】
((評価3)焼結フィルタの昇圧)
実施例及び比較例で得られた各エチレン系樹脂組成物について、下記押出条件により濾過精度10μmの金属不織布焼結フィルタ(日本精線社製 NF-06T)を装着した東洋精機社製単軸押出機で30分間押出した際の樹脂圧力を測定した。
ここで昇圧の値は、実施例及び比較例で得られた各エチレン系樹脂組成物をホッパーに投入し、エチレン系樹脂組成物のストランドが排出されてから3分後を開始時間としており、その時の樹脂圧と、そこから30分後の樹脂圧の差とし、下記評価基準により評価した。
<押出条件>
押出機 :単軸押出機
押出温度 :230℃
スクリュー回転数:5rpm
フィルタ :NF-06T(濾過精度10μm)
フィルタ面積 :314mm2
<評価基準>
◎:5MPa未満
○:5~10MPa未満
△:10~20MPa未満
×:20MPa以上
【0039】
((評価4)20°グロスの標準偏差)
株式会社村上色彩技術研究所製GLOSS METER GM-26Dを使用し、前記(評価1)において作製したフィルムから無作為に切り出した10点のフィルムサンプルについて、ASTM D523(2457)に従って、入射角20°で測定した。
得られたグロス値の標準偏差を、フィルムの成膜安定性の指標として下記のように評価した。
◎:2.0未満
○:2.0~3.0未満
△:3.0~4.0未満
×:4.0以上
【0040】
〔実施例及び比較例において使用した成分の調製〕
(高密度ポリエチレン(A))
<チーグラー・ナッタ触媒(a)の調製>
充分に窒素置換した8Lステンレス製オートクレーブに、2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながらAlMg5(C4H9)11(OC4H9)2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。
反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、担体となる固体を得た。この固体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
前記担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに、10℃の温度条件下で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/LのAlMg5(C4H9)11(OSiH)2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1100mLで2回洗浄することにより、チーグラー触媒(a)を調製した。
【0041】
<メタロセン触媒(b-1)の調製>
平均粒子径が3μm、表面積が800m2/g、粒子内細孔容積が1.5mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、500℃で5時間焼成し、脱水し、脱水シリカを得た。
脱水シリカの表面水酸基の量は、SiO2の1gあたり1.85mmol/gであった。
窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、前記脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後、2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、トリエチルアルミニウム処理されたシリカの表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[c]を得た。
その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。
その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカ(成分[c])のヘキサンスラリー880mLを得た。
一方、[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム-1,3-ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE(エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名)1000mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成した式AlMg6(C2H5)3(n-C4H9)yの1mol/Lヘキサン溶液を20mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調製し、成分[d]を得た。
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム-トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート化合物」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレート化合物の100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレート化合物のトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレート化合物を含む反応混合物を得た。
ボレート化合物を含む前記反応混合物46mLを、上記で得られた成分[c]のスラリー800mLに15~20℃で攪拌しながら加え、ボレート化合物をシリカに担持した。こうして、ボレート化合物を担持したシリカのスラリーを得た。さらに上記で得られた成分[d]のうち32mLを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレート化合物とを反応させた。こうしてシリカと上澄み液とを含み、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒(b-1)を得た。
【0042】
<メタロセン触媒(b-2)の調製>
平均粒子径が15μm、表面積が700m2/g、粒子内細孔容積が1.8mL/gの球状シリカを担体に使用した以外は、メタロセン触媒(b-1)と同様の操作を実施することによりメタロセン触媒(b-2)を得た。
【0043】
<高密度ポリエチレン(A-1)の製造>
攪拌装置が付いたベッセル型280L重合反応器を用い、重合温度68℃、重合圧力0.80MPa、平均滞留時間1.6時間の条件で連続重合を行った。溶媒として脱水ノルマルヘキサン40L/時間、触媒として上記チーグラー・ナッタ触媒[a]を0.4g/時間、液体助触媒成分としてトリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で24mmol/時間で供給した。分子量調整のための水素はエチレンと1-ブテンの気相濃度に対して40.2mol%、1-ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.74mol%になるように供給することで、エチレン及び1-ブテンを重合させた。
なお、脱水ノルマルヘキサンは重合反応器の底部より供給し、水素は予め触媒と接触させるために触媒導入ラインから触媒と共に、重合反応器の液面と底部の中間から供給し、エチレンは重合反応器の底部から供給した。
重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように圧力0.08MPa、温度75℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、1-ブテン、水素を分離した。
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリマーに対する溶媒等の含有量は45%であった。
分離された高密度ポリエチレンパウダーは、85℃で窒素ブローしながら乾燥した。さらに得られたパウダーを篩分機で分級し、粒径100μm以下のパウダーを除去した。
次に、得られたパウダーに、酸化防止剤としてペンタエリスチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を300質量ppm添加し、日本製鋼所社製TEX-44の二軸押出成形機を利用して200℃の温度で溶融混錬して造粒することにより高密度ポリエチレン(A-1)を得た。
得られた高密度ポリエチレン(A-1)は、密度が957kg/m3、MFRが11.0g/10分であった。
【0044】
<高密度ポリエチレン(A-2)の製造>
重合温度75℃、重合圧力1.0MPaとし、水素をエチレンの気相濃度に対して54.3mol%とし、1-ブテンを供給しなかったこと以外は、高密度ポリエチレン(A-1)の製造と同様の操作により、高密度ポリエチレン(A-2)を得た。
得られた高密度ポリエチレン(A-2)は、密度が962kg/m3、MFRが20.0g/10分であった。
【0045】
<高密度ポリエチレン(A-3)の製造>
篩での分級を実施しないこと以外は、高密度ポリエチレン(A-1)と同様に重合を行い、高密度ポリエチレン樹脂(A-3)を得た。
得られた高密度ポリエチレン(A-3)は、密度が957kg/m3、MFRが11.0g/10分であった。
【0046】
<高密度ポリエチレン(A-4)の製造>
重合温度を76℃に設定し、篩での分級を実施しないこと以外は、高密度ポリエチレン(A-1)と同様に重合を行い、高密度ポリエチレン樹脂(A-4)を得た。
得られた高密度ポリエチレン(A-4)は、密度が957kg/m3、MFRが12.0g/10分であった。
【0047】
<高密度ポリエチレン(A-5)の製造>
攪拌装置が付いたベッセル型280L重合反応器を用い、重合温度69℃、重合圧力0.8MPa、平均滞留時間1.6時間の条件で連続重合を行った。溶媒として脱水ノルマルヘキサン40L/時間、触媒として上記の担持型メタロセン触媒[b-1]をTi原子換算で1.4mmol/時間、液体助触媒成分としてトリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で20mmol/時間で供給した。分子量調整のための水素はエチレンと1-ブテンの気相濃度に対して0.12mol%、1-ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.011mol%になるように供給することで、エチレン及び1-ブテンを重合させた。
なお、脱水ノルマルヘキサンは重合反応器の底部より供給し、水素は予め触媒と接触させるために触媒導入ラインから触媒と共に、重合反応器の液面と底部の中間から供給し、エチレンは重合反応器の底部から供給した。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように圧力0.08MPa、温度75℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、1-ブテン、水素を分離した。
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリマーに対する溶媒等の含有量は45%であった。
分離された高密度ポリエチレンパウダーは、85℃で窒素ブローしながら乾燥した。さらに得られたパウダーを篩分機で分級し、粒径100μm以下のパウダーを除去した。
得られた高密度ポリエチレンパウダーは、中和剤や酸化防止剤等の添加剤を使用せずに、日本製鋼所社製TEX-44の二軸押出成形機を利用し、200℃の温度で溶融混錬して造粒した。
得られた高密度ポリエチレン(A-5)は、密度が965kg/m3、MFRが12.0g/10分であった。
【0048】
<高密度ポリエチレン(A-6)の製造>
重合温度を72℃に設定し、触媒として上記の担持型メタロセン触媒[b-2]を使用し、篩での分級を実施しないこと以外は、高密度ポリエチレン(A-5)の製造方法と同様に重合を行い、高密度ポリエチレン(A-6)を得た。
得られた高密度ポリエチレン(A-6)は、密度が965kg/m3、MFRが13.0g/10分であった。
【0049】
(高圧法低密度ポリエチレン(B))
<低密度ポリエチレン(B-1)の製造>
オートクレーブリアクターにて、重合温度259℃、重合圧力128.1MPa、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシアセテートを用いて、低密度ポリエチレン(B-1)を重合した。
重合反応器に供給するエチレンの温度は、反応器直前の配管を冷水でジャケット冷却することにより20℃に調整し、重合反応器の直後のポリマー温度は、重合反応器直後の配管を温水でジャケット冷却することにより155℃に調整した。
得られた低密度ポリエチレン(B-1)は、単軸押出機によりペレット状に加工し、密度が920kg/m3、MFRが3.0g/10分、Mw/Mnが18であった。
【0050】
<低密度ポリエチレン(B-2)の製造>
重合温度245℃、重合圧力170.0MPa、エチレン原料のうち18.5mol%をブタンに変更し、配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器に供給するエチレンの温度は83℃、重合反応器の直後のポリマー温度は215℃とした。その他の条件は低密度ポリエチレン(B-1)と同様にして低密度ポリエチレン(B-2)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-2)は、密度が923kg/m3、MFRが3.8g/10分、Mw/Mnが13であった。
【0051】
<低密度ポリエチレン(B-3)の製造>
チューブラーリアクターにて、重合温度280℃、重合圧力240MPa、重合開始剤にt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用い、エチレン原料のうち1.2mol%をプロピレンに変更して重合を行い、低密度ポリエチレン(B-3)を得た。
配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器に供給するエチレンの温度は120℃、重合反応器の直後のポリマー温度は255℃とした。
得られた低密度ポリエチレン(B-3)は、密度が917kg/m3、MFRが3.7g/10分、Mw/Mnが7であった。
【0052】
<低密度ポリエチレン(B-4)の製造>
重合温度240℃、重合圧力155.2MPaに調整し、反応器入口の配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器に供給するエチレンの温度は91℃であった。その他の条件は(B-1)と同様にして、低密度ポリエチレン(B-4)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-4)は、密度が918kg/m3、MFRが7.0g/10分、Mw/Mnが14であった。
【0053】
<低密度ポリエチレン(B-5)の製造>
重合温度245℃、重合圧力125.0MPに変更し、配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器に供給するエチレンの温度は83℃、重合反応器の直後のポリマー温度は215℃とした。
その他の条件は(B-1)と同様に操作し、低密度ポリエチレン(B-5)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-5)は、密度が918kg/m3、MFRが2.0g/10分、Mw/Mnが19であった。
【0054】
<低密度ポリエチレン(B-6)の製造>
重合温度245℃、重合圧力170.0MPa、エチレン原料のうち18.5mol%をブタンに変更した以外は、低密度ポリエチレン(B-1)と同様にして低密度ポリエチレン(B-6)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-6)は、密度が922kg/m3、MFRが4.0g/10分、Mw/Mnが13であった。
【0055】
<低密度ポリエチレン(B-7)の製造>
重合温度240℃、重合圧力155.2MPaに調整し、反応器直後の配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器の直後のポリマー温度は218℃であった。
その他の条件は(B-1)と同様にして低密度ポリエチレン(B-7)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-7)は、密度が919kg/m3、MFRが8.0g/10分、Mw/Mnが17であった。
【0056】
<低密度ポリエチレン(B-8)の製造>
重合温度255℃、重合圧力170.0MPa、エチレン原料のうち18.5mol%をブタンに変更し、重合反応器直後の配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器の直後のポリマー温度は212℃であった。
その他の条件は低密度ポリエチレン(B-1)と同様にして低密度ポリエチレン(B-8)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-8)は、密度が925kg/m3、MFRが2.5g/10分、Mw/Mnが13であった。
【0057】
<低密度ポリエチレン(B-9)の製造>
重合温度250℃、重合圧力173.0MPa、エチレン原料のうち18.5mol%をブタンに変更し、重合反応器入口の配管のジャケット冷却は実施せず、重合反応器に供給されるエチレンガスの温度は87℃であった。
その他の条件は低密度ポリエチレン(B-1)と同様にして低密度ポリエチレン(B-9)を得た。
得られた低密度ポリエチレン(B-9)は、密度が924kg/m3、MFRが6.0g/10分、Mw/Mnが13であった。
【0058】
(エチレン系樹脂組成物)
<実施例1 エチレン系樹脂組成物C-1の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)及び高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)を、日本製鋼(株)社製単軸押出機(スクリュー径50mm、L/D=24)を用い、高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)がそれぞれ70質量%、30質量%となるように200℃で溶融混練を行いペレット状に造粒した。
【0059】
<実施例2 エチレン系樹脂組成物C-2の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-2)を、それぞれ30質量%、15質量%、55質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0060】
<実施例3 エチレン系樹脂組成物C-3の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-2)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-3)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-4)を、それぞれ50質量%、40質量%、10質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0061】
<実施例4 エチレン系樹脂組成物C-4の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-2)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-4)を、それぞれ65質量%、35質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0062】
<実施例5 エチレン系樹脂組成物C-5の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-3)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)を、それぞれ65質量%、35質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0063】
<実施例6 エチレン系樹脂組成物C-6の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-4)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)を、それぞれ65質量%、35質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0064】
<実施例7 エチレン系樹脂組成物C-7の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-6)を、それぞれ70質量%、30質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0065】
<実施例8 エチレン系樹脂組成物C-8の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-5)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-1)を、それぞれ50質量%、50質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0066】
<実施例9 エチレン系樹脂組成物C-9の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-7)を、それぞれ40質量%、60質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0067】
<比較例1 エチレン系樹脂組成物C-10の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-2)を、それぞれ70質量%、30質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0068】
<比較例2 エチレン系樹脂組成物C-11の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-5)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-5)を、それぞれ50質量%、50質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0069】
<比較例3 エチレン系樹脂組成物C-12の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-1)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-3)を、それぞれ60質量%、40質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0070】
<比較例4 エチレン系樹脂組成物C-13の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-4)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-5)を、それぞれ65質量%、35質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0071】
<比較例5 エチレン系樹脂組成物C-14の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-6)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-5)を、それぞれ50質量%、50質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0072】
<比較例6 エチレン系樹脂組成物C-15の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-4)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-8)を、それぞれ80質量%、20質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0073】
<比較例7 エチレン系樹脂組成物C-16の製造>
高密度ポリエチレン樹脂(A-3)と高圧法低密度ポリエチレン樹脂(B-9)を、それぞれ50質量%、50質量%となるように使用した以外は、(C-1)と同様の操作で溶融混練を行い、ペレット状に造粒した。
【0074】
<比較例8 エチレン系樹脂組成物C-17の製造>
特許第6912290号に記載の実施例8と同様の方法により、エチレン系樹脂組成物(C-17)を得た。
【0075】
<比較例9 エチレン系樹脂組成物C-18の製造>
特開2018-44122号に記載の実施例3と同様の方法により、エチレン系樹脂組成物(C-18)を得た。
【0076】
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のエチレン系樹脂組成物は、特にフィッシュアイ品質を重視するフィルム用途、例えば保護フィルム等の原料として産業上の利用可能性を有している。