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特許7393516帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シート
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  • 特許-帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シート 図1
  • 特許-帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/16 20060101AFI20231129BHJP
   H01R 11/01 20060101ALI20231129BHJP
   H05F 1/02 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C09K3/16 101B
C09K3/16 102E
C09K3/16 114
H01R11/01 501G
H05F1/02 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022503223
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004336
(87)【国際公開番号】W WO2021171967
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020033707
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】小山 太一
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189858(JP,A)
【文献】特開2005-298560(JP,A)
【文献】特開平11-235550(JP,A)
【文献】特開2013-221109(JP,A)
【文献】国際公開第2006/109419(WO,A1)
【文献】特開2001-093338(JP,A)
【文献】特開2007-56314(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0804547(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/16
H01B 1/00- 1/24
H01B 5/16
H05F 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性成分と、HLB値が11~19である非イオン性界面活性剤と、バインダー成分と、溶媒とを含
前記導電性成分は、カーボン系材料であり、
前記非イオン性界面活性剤は、多価アルコール脂肪酸エステルであり、
前記バインダー成分は、アルコキシシランまたはそのオリゴマーを含み、
前記溶媒は、水を含み、
前記非イオン性界面活性剤と導電性成分との含有比率は、非イオン性界面活性剤/導電性成分=70/30~98/2(質量比)である、
帯電防止剤組成物。
【請求項2】
前記多価アルコール脂肪酸エステルは、ショ糖脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルである、
請求項に記載の帯電防止剤組成物。
【請求項3】
前記カーボン系材料は、カーボンナノチューブである、
請求項1又は2に記載の帯電防止剤組成物。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤の含有量は、前記帯電防止剤組成物の固形分に対して5~35質量%である、
請求項1~のいずれか一項に記載の帯電防止剤組成物。
【請求項5】
厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、
前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、
前記第1面に配置され、請求項1~のいずれか一項に記載の帯電防止剤組成物の乾燥物または硬化物からなる帯電防止層と、
を有する、
異方導電性シート。
【請求項6】
前記絶縁層は、エラストマー組成物の架橋物を含む、
請求項に記載の異方導電性シート。
【請求項7】
前記エラストマー組成物は、シリコーン系エラストマー組成物である、
請求項に記載の異方導電性シート。
【請求項8】
前記帯電防止層の厚みは、1~500nmである、
請求項5~7のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項9】
前記帯電防止層の23℃における表面抵抗率は、1×10~1×1012Ω/cmである、
請求項5~8のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
厚み方向に導電性を有し、面方向には絶縁性を有する異方導電性シートが知られている。そのような異方導電性シートは、種々の用途、例えばプリント基板などの検査対象物の複数の測定点間の電気的特性を測定するための電気検査装置のプローブ(接触子)として用いられている。
【0003】
電気検査に用いられる異方導電性シートとしては、通常、絶縁層と、その厚み方向に貫通するように配置された複数の金属ピンとを有する異方導電性シートが知られている。絶縁層は、例えばシリコーンゴムなどのエラストマーを主成分として含むため、静電気を生じやすいという問題があった。
【0004】
これに対し、半導体デバイスなどの検査対象物を載せる面に、帯電防止層を有する異方導電性シートが知られている。例えば、検査対象物を載せる面に、帯電防止層としてDLC膜(ダイヤモンド・ライク・カーボン膜)を有する異方導電性シート(例えば特許文献1)や、スルホン酸塩などの半導電性付与物質を含む半導電部を有する異方導電性シート(例えば特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-111378号公報
【文献】特開2001-084842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるように、DLC膜を有する異方導電性シートは、電気検査試験時における高温環境下では、異方導電性シートの本体とDLC膜との線膨張差が大きいため、DLC膜にクラックを生じやすい。そのようなクラックを生じると、帯電防止能が低下しやすいという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に示されるように、スルホン酸塩を含む半導電部を有する異方導電性シートは、電気検査試験時における半導体デバイス(検査対象物)との圧接により、スルホン酸塩がデバイス側に転写されやすい。そのため、デバイスを汚染するだけでなく、帯電防止能を維持できないという問題があった。
【0008】
また、異方導電性シートの絶縁層としては、例えば疎水性のシリコーンゴムなどが用いられるが、帯電防止剤を塗布する際の濡れ性が低く、均一な塗膜を形成できない(はじきを生じやすい)という問題もあった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高温下におけるクラックや、検査対象物などへの転写を生じにくく、かつ良好な帯電防止性能を維持しうる帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
本発明の帯電防止剤組成物は、導電性成分と、HLB値が11~19である非イオン性界面活性剤と、溶媒とを含む。
【0012】
本発明の異方導電性シートは、厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、前記第1面に配置され、本発明の帯電防止剤組成物の乾燥物または硬化物からなる帯電防止層とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下におけるクラックや検査対象物などへの転写を生じにくく、かつ良好な帯電防止性能を維持しうる帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1Aは、本実施の形態に係る異方導電性シートを示す斜視図であり、図1Bは、図1Aの異方導電性シートの縦断面の部分拡大図である。
図2図2は、本実施の形態に係る電気検査装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、導電性成分と、HLB値が一定以上の非イオン性界面活性剤とを含む帯電防止剤組成物は、異方導電性シートの表面に対して濡れやすく、はじきが抑制された均一な帯電防止層を形成できることを見出した。また、得られる帯電防止層は、乾燥時または使用時の熱によるクラックや、非イオン性界面活性剤の転写も生じにくく、帯電防止性能を良好に維持しうることを見出した。
【0016】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。HLB値が一定以上の非イオン性界面活性剤(特定の非イオン性界面活性剤)は、適度な親水性を示すため、導電性成分や溶媒(水など)と相溶しやすく、導電性成分を溶液中で安定に分散させうる。その結果、導電性成分が均一に分散した帯電防止層が得られるだけでなく、得られる帯電防止層は、DLC膜と比べて、絶縁層との間の熱膨張係数差も少ない。それにより、帯電防止層の形成時や異方導電性シートの使用時に熱が加わっても、帯電防止層のクラックを生じにくい。また、当該非イオン性界面活性剤は、導電性成分と良好に親和しうるため、帯電防止層に圧力が付与されてもブリードアウトしにくく、検査対象物への転写も生じにくい。さらに、非イオン性界面活性剤の添加により、導電性成分が帯電防止層内に均一に分散しているため、帯電防止層の表面における導電性成分の面積比率も高い。そのため、一定期間保存後においても、帯電防止性能の低下が少なく、良好な帯電防止性を維持することができる。以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0017】
1.帯電防止剤組成物
本発明の帯電防止剤組成物は、導電性成分と、特定の非イオン性界面活性剤と、溶媒とを含む。
【0018】
1-1.導電性成分
導電性成分は、帯電防止剤組成物から得られる帯電防止層に、適度な導電性を付与しうる成分であればよく、特に制限されない。導電性成分は、カーボン系材料、金属系材料などの無機系材料であってもよいし、導電性ポリマーなどの有機系材料であってもよい。
【0019】
カーボン系材料の例には、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン(例えば還元型酸化グラフェン)などが含まれる。金属系材料の例には、銀ナノワイヤや銅ナノワイヤが含まれる。
【0020】
導電性ポリマーの例には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、および、これらとドーパントとの複合体が含まれる。
【0021】
中でも、シリコーン系エラストマーを含む絶縁層上に濡れやすく、熱での経時変化も少ない観点では、カーボン系材料が好ましく、導電性付与効果が高い観点などから、カーボンナノチューブが好ましい。
【0022】
導電性成分が粒子状である場合、その平均粒子径は、10~200nmであることが好ましい。導電性成分が繊維状である場合、その平均繊維長は、0.2~2000μmであることが好ましく、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、100~2000000であることが好ましい。導電性成分の平均粒子径、平均繊維長やアスペクト比は、走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0023】
導電性成分の含有量は、帯電防止剤組成物から得られる帯電防止層に適度な導電性を付与できる程度であれば特に制限されず、帯電防止剤組成物の固形分に対して、例えば1~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0024】
1-2.特定の非イオン性界面活性剤
特定の非イオン界面活性剤は、HLB値が11~19の非イオン性界面活性剤である。HLB値が11以上であると、適度に親水性が高いため、導電性成分に対する親和性が高く、帯電防止剤組成物の分散性を高めることができる、また、非イオン性界面活性剤と導電性成分とが均一に分散した帯電防止層が得られる。HLB値が19以下であると、適度な疎水性も兼ね備えているため、例えばシリコーン系エラストマー組成物の架橋物で構成される絶縁層上に帯電防止剤組成物を塗工する場合、良好に濡れやすく、はじきを生じにくく、均一に塗膜を形成しうる。また、非イオン界面活性剤の親水性が高くなりすぎないため、導電性成分との親和性も損なわれにくく、転写も生じにくい。また、HLB値が19以下である非イオン性界面活性剤は、通常、脂肪酸に由来する基を適度に有するため、塗膜の可撓性も損なわれにくく、クラックも生じにくい。非イオン界面活性剤のHLB値は、同様の観点から、14~19であることがより好ましい。
【0025】
HLB値は、HLB(Hydrophilic-lipophilic・blance)値であり、添加剤の親水性を表す。HLB値は、下記式(1)により計算することができる。
【数1】
S:エステルのけん化価(エステル価)(材料1g中に含まれるエステルの鹸化に要する水酸化カリウムのmg数)
N:脂肪酸の中和価(材料1g中に含まれる酸の中和に要する水酸化カリウムのmg数)
なお、エステルの鹸化価、中和価は、それぞれJIS K0070-1992に記載のエステル価、酸価の測定方法(中和滴定法)に基づいて求めることができる。
【0026】
特定の非イオン界面活性剤のHLB値は、例えば多価アルコール脂肪酸エステルの場合、多価アルコールと反応させる脂肪酸の量や、脂肪酸の炭素原子数などによって調整することができる。特定の非イオン界面活性剤のHLB値を高くする場合、例えば多価アルコールと反応させる脂肪酸の量や脂肪酸の炭素原子数を少なくすることが好ましい。
【0027】
特定の非イオン界面活性剤は、HLB値が上記範囲を満たすものであれば特に制限されず、エステル系化合物(多価アルコール脂肪酸エステル)であってもよいし、エーテル系化合物(高級アルコールやアルキルフェノールなどの水酸基含有化合物に、酸化エチレンなどを付加重合したもの)であってもよいし、エステル・エーテル系化合物(脂肪酸や多価値アルコール脂肪酸エステルに、酸化エチレンを付加重合したもの)であってもよい。中でも、HLB値を上記範囲に調整しやすく、耐熱性にも優れる観点などから、多価アルコール脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0028】
多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、特に制限されず、モノカルボン酸であってもよいし、多価カルボン酸であってもよい。また、脂肪酸は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。脂肪酸の例には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、モンタン酸などのC8~26飽和脂肪酸;オレイン酸、エルカ酸などのC8~26不飽和脂肪酸が含まれる。中でも、C6~40の脂肪酸が好ましく、C8~30の脂肪酸がより好ましく、C10~22飽和脂肪酸がさらに好ましい。これらの脂肪酸は、1種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
多価アルコール脂肪酸エステルを構成する多価アルコールの例には、糖類(ショ糖、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ソルビタン、オリゴ糖など)やグリセリンまたはポリグリセリン(ジグリセリンやデカグリセリンなど)が含まれる。これらの多価アルコールは、1種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
中でも、HLB値を上記範囲に調整しやすく、かつはじきやクラックを生じにくい観点から、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、ショ糖脂肪酸エステルがより好ましい。
【0031】
ショ糖脂肪酸エステルの例には、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ベヘン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルなどのショ糖C8~24脂肪酸エステルが含まれ、好ましくはショ糖C8~24脂肪酸エステルである。
【0032】
ショ糖脂肪酸エステルのエステル化度(平均置換度)は、HLB値が上記範囲内となる範囲であればよく、特に制限されない。
【0033】
特定の非イオン界面活性剤の含有量は、帯電防止剤組成物に適度な濡れ性を付与しつつ、得られる帯電防止層の導電性を損なわない程度に可撓性を付与しうる程度であれば特に制限されず、帯電防止剤組成物の固形分に対して、例えば5~35質量%であることが好ましい。特定の非イオン界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、帯電防止剤組成物に十分な濡れ性を付与しうるだけでなく、得られる帯電防止層に適度な可撓性を付与しやすい。特定の非イオン界面活性剤の含有量が35質量%以下であると、得られる帯電防止層の導電性、すなわち、帯電防止性が損なわれにくい。特定の非イオン界面活性剤の含有量は、同様の観点から、帯電防止剤組成物の固形分に対して10~25質量%であることがより好ましい。
【0034】
また、非イオン性界面活性剤と導電性成分との含有比率は、上記と同様の観点から、非イオン性界面活性剤/導電性成分=70/30~98/2(質量比)であることが好ましく、80/20~96/4(質量比)であることがより好ましい。
【0035】
1-3.溶媒
溶媒は、導電性成分や任意のバインダー成分などを良好に分散できるものであれば特に制限されず、水、有機溶剤またはそれらの混合物が含まれる。
【0036】
有機溶剤の例には、水溶性有機溶剤や疎水性有機溶剤が含まれる。水溶性有機溶剤の例には、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリルが含まれる。疎水性の有機溶剤の例には、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチルなどのエステル類;ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトン、メチルジイソブチルケトンなどのケトン類;ヘキサン、オクタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が含まれる。これらの有機溶剤は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
中でも、ハンドリングの観点から、溶媒は、水を含むことが好ましい。また、バインダー成分を良好に分散させやすくする観点から、溶媒は、水と水溶性有機溶剤とを含むものであってもよい。
【0038】
1-4.他の成分
本発明の帯電防止剤組成物は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、バインダ-成分や、各種添加剤(増粘剤、硬化促進剤など)が含まれる。中でも、異方導電性シートの絶縁層と良好に接着させる観点から、本発明の帯電防止剤組成物は、バインダー成分をさらに含むことが好ましい。
【0039】
1-4-1.バインダー成分
バインダー成分は、帯電防止剤組成物から得られる帯電防止層は、特に制限されないが、絶縁層に対する密着性を得やすくする観点、または、非イオン性界面活性剤が有する親水性官能基(水酸基など)と反応して、架橋構造を形成しやすく、それによりブリードアウトをさらに抑制できる観点などから、バインダー成分は、硬化性化合物(架橋性化合物)であることが好ましい。
【0040】
硬化性化合物は、特に制限されないが、特定の非イオン性界面活性剤が有する親水性官能基(好ましくは水酸基)と反応する官能基を有することが好ましい。そのような硬化性化合物は、特定の非イオン性界面活性剤と反応して架橋構造を形成することができ、絶縁層への密着性を高めたり、非イオン性界面活性剤のブリードアウトを抑制したりしうるからである。
【0041】
そのような硬化性化合物は、有機系化合物(例えば架橋剤と反応する基(水酸基など)を有するポリエステル樹脂やアクリル樹脂など)であってもよいし、有機-無機系化合物(例えばエチレン性不飽和結合またはヒドロシリル基を有するポリシロキサン、アルコキシシランまたはそのオリゴマーなど)であってもよい。得られる帯電防止層の導電性や透明性、絶縁層への密着性の観点では、有機-無機系化合物が好ましく、アルコキシシランまたはそのオリゴマーがより好ましい。
【0042】
アルコキシシランは、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物である。すなわち、アルコキシシランは、2官能のアルコキシシラン、3官能のアルコキシシラン、4官能のアルコキシシランまたはこれらの一以上の混合物でありうる。中でも、三次元架橋物を形成し、十分な接着性を得やすくする観点から、アルコキシシランは、3官能または4官能のアルコキシシランを含むことが好ましく、4官能のアルコキシシラン(テトラアルコキシシラン)を含むことがより好ましい。アルコキシシランのオリゴマーは、アルコキシシランの部分加水分解および重縮合させたものでありうる。
【0043】
アルコキシシランまたはそのオリゴマーは、例えば下記式で表されることが好ましい。
【化1】
【0044】
上記式中、Rは、それぞれ水素原子またはアルキル基を表す。複数のRは、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。アルキル基は、C1~4のアルキル基であることが好ましく、低温でも良好な硬化性が得られやすい観点では、炭素原子数は小さいことが好ましく、メチル基であることが好ましい。
【0045】
上記式中、nは、0~20、好ましくは1~20、より好ましくは2~20の整数を表す。
【0046】
上記式で表されるアルコキシシランの例には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン,テトラブトキシシなどが含まれる。アルコキシシランまたはそのオリゴマーは、市販品であってもよい。アルコキシシランのオリゴマーの市販品の例には、コルコート社製のコルコートN-103XやコルコートPXなどが含まれる。
【0047】
アルコキシシランオリゴマーは、同一の構造を有するもののみを用いてもよいし、構造の異なるものを併用してもよい。
【0048】
アルコキシシランまたはそのオリゴマーは、溶媒中では、アルコキシ基が一部加水分解していてもよく、予め酸性条件下で加水分解処理されていてもよい。加水分解によって生成するシラノール基を有するアルコキシシランまたはそのオリゴマーは、反応性が向上し、低温での良好な硬化性を有しうる。
【0049】
このようなアルコキシシランまたはそのオリゴマーをバインダー成分として含む帯電防止剤組成物を加熱すると、例えばショ糖脂肪酸エステルなどの水酸基を有する非イオン性界面活性剤と、アルコキシシランまたはそのオリゴマーとが架橋反応すると考えられる。それにより、非イオン性界面活性剤が架橋構造に取り込まれるため、帯電防止層からのブリードアウトを一層生じにくく、検査対象物への転写も一層抑制しうる。また、ショ糖脂肪酸エステルの糖骨格は比較的柔軟であることから、得られる架橋物(帯電防止層)に適度な可撓性を付与しうると考えられる。
【0050】
バインダー成分の含有量は、その種類や求められる特性にもよるが、帯電防止剤組成物の固形分に対して50~90質量%であることが好ましい。バインダー成分の含有量が50質量%以上であると、帯電防止剤組成物を十分に硬化させることができ、絶縁層に対する密着性も高めやすい。バインダー成分の含有量が90質量%以下であると、表面抵抗が低くなりやすい。バインダー成分の含有量は、上記観点から、60~90質量%であることがより好ましい。
【0051】
帯電防止剤組成物の固形分の含有量(合計量)は、帯電防止剤組成物に対して1~5質量%でありうる。
【0052】
1-5.物性
帯電防止剤組成物を乾燥または硬化させてなる塗膜は、良好な帯電防止性を有する。帯電防止剤組成物を乾燥または硬化させてなる塗膜(帯電防止層)の、23℃における表面抵抗率は、1×10~1×1012Ω/cmであることが好ましい。帯電防止剤組成物の乾燥物または硬化物からなる塗膜の表面抵抗率は、主に、導電性成分やバインダー成分の含有量によって調整されうる。
【0053】
塗膜の表面抵抗率は、東京電子社製stack TR-3の端子を、任意の三点で塗膜表面に接触させて測定することができる。測定は、23℃で行うことができる。
【0054】
1-6.帯電防止剤組成物の製造方法
帯電防止剤組成物は、上記各成分を混合して製造することができる。例えば、導電性成分、バインダー成分および溶媒を含むベース水溶液に、非イオン性界面活性剤を混合して製造することもできる。そのようなベース水溶液は、調製してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0055】
2.異方導電性シート
本発明の異方導電性シートは、絶縁層と、当該絶縁層の内部において厚み方向に延在するように配置された複数の導電路と、絶縁層の表面に配置された帯電防止層とを有する。帯電防止層は、本発明の帯電防止剤組成物を乾燥または硬化させたものである。
【0056】
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る異方導電性シート10を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aの異方導電性シート10の縦断面の部分拡大図(厚み方向に沿った部分断面図)である。
【0057】
図1AおよびBに示されるように、異方導電性シート10は、絶縁層11と、当該絶縁層11の内部においてその厚み方向に延在するように配置された複数の導電路12と、絶縁層11上に配置された帯電防止層13とを有する。
【0058】
2-1.絶縁層11
絶縁層11は、厚み方向の一方の側に位置する第1面11aと、厚み方向の他方の側に位置する第2面11bとを有する層であり、かつ第1樹脂組成物で構成されている(図1AおよびB参照)。絶縁層11は、複数の導電路12同士の間を絶縁する。本実施の形態では、絶縁層11の第1面11aが異方導電性シート10の一方の面、絶縁層11の第2面12bが異方導電性シート10の他方の面をなし、かつ第1面11a上に、検査対象物が配置されることが好ましい。
【0059】
絶縁層11を構成する第1樹脂組成物は、複数の導電路12の間を絶縁できるものであればよく、特に制限されない。検査対象物の端子に傷を付きにくくする観点では、絶縁層11を構成する第1樹脂組成物のガラス転移温度または貯蔵弾性率は、導電路12の柱状樹脂14を構成する第2樹脂組成物のガラス転移温度または貯蔵弾性率と同じか、それよりも低いことが好ましい。
【0060】
具体的には、第1樹脂組成物のガラス転移温度は、-40℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましい。第1樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K 7095:2012に準拠して測定することができる。
【0061】
第1樹脂組成物の25℃における貯蔵弾性率は、1.0×10Pa以下であることが好ましく、1.0×10~9.0×10Paであることがより好ましい。第1樹脂組成物の貯蔵弾性率は、JIS K 7244-1:1998/ISO6721-1:1994に準拠して測定することができる。
【0062】
第1樹脂組成物のガラス転移温度や貯蔵弾性率は、当該樹脂組成物に含まれるエラストマーの種類やフィラーの添加量などにより調整されうる。また、第1樹脂組成物の貯蔵弾性率は、当該樹脂組成物の形態(多孔質かどうかなど)によっても調整されうる。
【0063】
第1樹脂組成物は、絶縁性が得られるものであればよく、特に制限されないが、上記ガラス転移温度または貯蔵弾性率を満たしやすくする観点では、エラストマー組成物(以下、「第1エラストマー組成物」ともいう)の架橋物であることが好ましい。
【0064】
エラストマー組成物に含まれるエラストマーの例には、シリコーンゴム、ウレタンゴム(ウレタン系ポリマー)、アクリル系ゴム(アクリル系ポリマー)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどのエラストマーであることが好ましい。中でも、シリコーンゴムが好ましい。
【0065】
エラストマー組成物は、必要に応じて架橋剤をさらに含んでもよい。架橋剤は、エラストマーの種類に応じて適宜選択されうる。例えば、シリコーンゴムの架橋剤の例には、ヒドロシリル化反応の触媒活性を有する金属、金属化合物、金属錯体など(白金、白金化合物、それらの錯体など)の付加反応触媒や;ベンゾイルパーオキサイド、ビス-2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が含まれる。アクリル系ゴム(アクリル系ポリマー)の架橋剤の例には、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物などが含まれる。
【0066】
例えば、シリコーン系エラストマー組成物の架橋物としては、ヒドロシリル基(SiH基)を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーン系エラストマー組成物の付加架橋物やビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物;SiCH基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーン系エラストマー組成物の架橋物などが含まれる。
【0067】
第1エラストマー組成物は、例えば粘着性や貯蔵弾性率を上記範囲に調整しやすくする観点などから、必要に応じて粘着付与剤、シランカップリング剤、フィラーなどの他の成分もさらに含んでもよい。
【0068】
第1エラストマー組成物は、例えば貯蔵弾性率を上記範囲に調整しやすくする観点から、多孔質であってもよい。すなわち、多孔質シリコーンを用いることもできる。
【0069】
2-2.導電路12
導電路12は、絶縁層11内において、その厚み方向に延在し、かつ第1面11aと第2面11bとにそれぞれ露出するように配置されている(図1B参照)。
【0070】
導電路12が絶縁層11の厚み方向に延在しているとは、具体的には、導電路12の軸方向が、絶縁層11の厚み方向と略平行であることをいう。略平行とは、絶縁層11の厚み方向に対して±10°以下をいう。軸方向とは、後述する2つの端面12aおよび12bを結ぶ方向をいう。すなわち、導電路12は、2つの端面12aおよび12bが、第1面11a側および第2面11b側に位置するように配置されている(図1B参照)。
【0071】
導電路12の端面12aの円相当径は、複数の導電路12の中心間距離pを後述する範囲に調整でき、かつ検査対象物の端子と導電層15との導通を確保できる程度であればよく、例えば2~30μmであることが好ましい。導電路12の端面12aの円相当径とは、絶縁層11の厚み方向に沿って見たときの、端面12aの円相当径をいう。
【0072】
第1面11a側における、複数の導電路12の中心間距離(ピッチ)pは、特に制限されず、検査対象物の端子のピッチに対応して適宜設定されうる。検査対象物としてのHBM(High Bandwidth Memory)の端子のピッチは55μmであり、PoP(Package on Package)の端子のピッチは400~650μmであることなどから、これらの検査対象物に合わせる観点では、複数の導電路12の中心間距離pは、例えば5~650μmでありうる。中でも、検査対象物の端子の位置合わせを不要とする(アライメントフリーにする)観点では、第1面11a側における複数の導電路12の中心間距離pは、5~55μmであることがより好ましい。第1面11a側における、複数の導電路12の中心間距離pとは、第1面11a側における、複数の導電路12の中心間距離のうち最小値をいう。
【0073】
第1面11a側における複数の導電路12の中心間距離pは、第2面11b側における複数の導電路12の中心間距離pと、同じであってもよいし(図1B参照)、異なってもよい。
【0074】
導電路12は、柱状樹脂14と、当該柱状樹脂14と絶縁層11との間に配置された導電層15とを有する。
【0075】
(柱状樹脂14)
複数の柱状樹脂14は、絶縁層11内において、その厚み方向に延在するように配置され、かつ第2樹脂組成物で構成されている(図1B参照)。柱状樹脂14は、導電層15を支持する。
【0076】
柱状樹脂14の形状は、特に制限されず、角柱状であってもよいし、円柱状であってもよい。
【0077】
柱状樹脂14の第1面11a側の面(端面14a)または第2面11b側の面(端面14b)は、第1面11a側または第2面11b側に露出していてもよい。本実施の形態では、柱状樹脂14の端面14bは、第2面11b側に露出している(図1B参照)。
【0078】
柱状樹脂14の端面14a(または端面14b)が、第1面11a側(または第2面11b側)に露出している場合、柱状樹脂14の端面14a(または端面14b)は、絶縁層11の第1面11a(または第2面11b)と面一であってもよいし(図1B参照)、絶縁層11の第1面11a(または第2面11b)よりも突出していてもよい。
【0079】
柱状樹脂14の端面14aの円相当径は、複数の導電路12の中心間距離pを上記範囲に調整でき、かつ検査対象物の端子と導電層15との導通を確保できる程度であればよく、例えば2~20μmであることが好ましい。柱状樹脂14の端面14aの円相当径とは、絶縁層11の厚み方向に沿って見たときの、端面14aの円相当径をいう。柱状樹脂14の端面14aの円相当径は、端面14bの円相当径と同じであってもよいし(図1B参照)、それよりも小さくてもよい。
【0080】
第1面11a側(または第2面11b側)における複数の柱状樹脂14の中心間距離は、第1面11a側(または第2面11b側)における複数の導電路12の中心間距離と同じである。
【0081】
柱状樹脂14を構成する第2樹脂組成物は、導電層15を安定に支持できるものであればよく、絶縁層11を構成する第1樹脂組成物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。柱状樹脂14を構成する第2樹脂組成物と、絶縁層11を構成する第1樹脂組成物とが同じであっても、例えば異方導電性シート10の断面において、柱状樹脂14と絶縁層11との間の境界線を確認することなどにより、柱状樹脂14と絶縁層11とを区別することは可能である。中でも、導電層15を安定に支持しやすくする観点では、柱状樹脂14を構成する第2樹脂組成物のガラス転移温度または貯蔵弾性率は、絶縁層11を構成する第1樹脂組成物のガラス転移温度または貯蔵弾性率と同じか、それよりも高いことが好ましい。
【0082】
すなわち、第2樹脂組成物のガラス転移温度は、120℃以上であることが好ましく、150~500℃であることがより好ましい。第2樹脂組成物のガラス転移温度は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0083】
第2樹脂組成物の25℃における貯蔵弾性率は、1.0×10~1.0×1010Paであることが好ましく、1.0×10~1.0×1010Paであることがより好ましい。第2樹脂組成物の貯蔵弾性率は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0084】
第2樹脂組成物のガラス転移温度や貯蔵弾性率は、当該樹脂組成物に含まれる樹脂またはエラストマーの種類やフィラーの添加などによって調整されうる。また、第2樹脂組成物の貯蔵弾性率は、当該樹脂組成物の形態(多孔質かどうかなど)によっても調整されうる。
【0085】
第2樹脂組成物は、エラストマー組成物(以下、「第2エラストマー組成物」ともいう)の架橋物であってもよいし、エラストマーではない樹脂を含む樹脂組成物であってもよい。中でも、上記ガラス転移温度または貯蔵弾性率を満たしやすくする観点、または導電層15を安定に支持しうる程度の強度を得やすくする観点では、第2樹脂組成物は、エラストマーではない樹脂を含む樹脂組成物であることが好ましい。
【0086】
エラストマーではない樹脂の例には、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどのエンジニアリングプラスチック、ポリアセチレン、ポリチアジルなどの導電性樹脂、感光性ポリベンゾオキサゾールや感光性ポリイミドなどの感光性樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂が含まれ、好ましくはポリイミド、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂である。これらの樹脂のうち、硬化剤と反応する官能基を有する樹脂(硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂など)は、硬化剤などで硬化されていてもよい。すなわち、第2樹脂組成物は、エラストマーではない硬化性樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。
【0087】
第2樹脂組成物は、導電剤やフィラーなどの他の成分をさらに含んでもよい。導電剤の例には、金属粒子やカーボン材料(カーボンブラック、炭素繊維など)が含まれる。あるいは、第2樹脂組成物は、他の成分を含まず、上記樹脂からなるものであってもよい。
【0088】
(導電層15)
導電層15は、柱状樹脂14と絶縁層11との間の少なくとも一部に配置され、かつ第1面11a側と第2面11b側とにおいて、絶縁層11の外部にそれぞれ露出している(図1B参照)。
【0089】
具体的には、導電層15は、第1面11a側と第2面11b側とにそれぞれ露出し、かつ第1面11a側と第2面11b側との間を導通させるように配置されている。導電層15は、柱状樹脂14の側面14c(柱状樹脂14の軸方向に延在する面、または端面14aと端面14bとを結ぶ面)の一部のみに配置されていてもよく、十分な導通を確保する観点では、柱状樹脂14の側面14cを取り囲むように配置されていることが好ましい(図1B参照)。
【0090】
導電層15は、柱状樹脂14の端面14aと14bの少なくとも一方の上にさらに配置されていることが好ましい(図1B参照)。導電層15が、柱状樹脂14の端面14a上にさらに配置されていると、第1面11a上に検査対象物を配置した際に、検査対象物の端子と電気的に接続させやすいため、十分な導通が得られやすい(図1B参照)。
【0091】
導電層15を構成する材料の体積抵抗率は、十分な導通が得られる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1.0×10×10-4Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×10×10-6~1.0×10-9Ω・cmであることがより好ましい。導電層15を構成する材料の体積抵抗率は、ASTM D 991に記載の方法で測定することができる。
【0092】
導電層15を構成する材料は、体積抵抗率が上記範囲を満たすものであればよい。導電層15を構成する材料の例には、銅、金、ニッケル、錫、鉄またはこれらのうち1種の合金などの金属材料や、カーボンブラックなどのカーボン材料が含まれる。
【0093】
導電層15の厚みは、十分な導通が得られるように設定されればよく、特に制限されないが、通常、柱状樹脂14の円相当径よりも小さくしうる。例えば、導電層15の厚みは、0.1~5μmでありうる。導電層15の厚みが一定以上であると、十分な導通が得られやすく、一定以下であると、導電層15との接触による検査対象物の端子の傷付きを抑制しやすい。なお、導電層15の厚みは、絶縁層11の厚み方向に対して直交する方向(または柱状樹脂14の径方向)の厚みである。
【0094】
2-3.帯電防止層13
帯電防止層13は、少なくとも絶縁層11の第1面11aに配置されている。帯電防止層13は、複数の導電路12の端面12a上にさらに配置されてもよいし、配置されてなくてもよい。本実施の形態では、絶縁層11の第1面11aおよび複数の導電路12の端面12a上に配置されている(図1B参照)。帯電防止層13は、本発明の帯電防止剤組成物を乾燥または硬化させたものである。
【0095】
帯電防止層13の23℃における表面抵抗率は、十分な帯電防止性能を得る観点から、例えば1×10~1×1012Ω/cmであることが好ましい。
【0096】
帯電防止層13の厚みは、特に制限されず、所望の帯電防止性能を得る観点から、例えば1~500nmであることが好ましく、1~100nmであることがより好ましい。
【0097】
2-4.物性
(厚み)
異方導電性シート10の厚みは、非導通部分での絶縁性を確保できる程度であればよく、特に制限されないが、例えば20~100μmでありうる。
【0098】
3.異方導電性シートの製造方法
異方導電性シート10は、任意の方法で製造することができる。例えば、図1Bの異方導電性シート10は、1)絶縁層11と、その内部に配置された複数の導電路12とを有する基材を得る工程と、2)当該基材の表面に、本発明の帯電防止剤組成物を付与した後、乾燥または硬化させて帯電防止層を形成する工程とを経て得ることができる。
【0099】
2)の工程では、本発明の帯電防止剤組成物の付与方法は、特に制限されないが、例えばバーコートなどの塗布方法でありうる。
【0100】
帯電防止剤組成物が、バインダー成分としてアルコキシシランまたはそのオリゴマーなどの硬化性化合物を含む場合、基材に付与した帯電防止剤組成物を加熱などにより硬化させる。
【0101】
このようにして得られた異方導電性シートは、例えば電気検査に用いることができる。
【0102】
4.電気検査装置および電気検査方法
(電気検査装置)
図2は、本実施の形態に係る電気検査装置100の一例を示す断面図である。
【0103】
電気検査装置100は、図1Bの異方導電性シート10を用いたものであり、例えば検査対象物130の端子131間(測定点間)の電気的特性(導通など)を検査する装置である。なお、同図では、電気検査方法を説明する観点から、検査対象物130も併せて図示している。
【0104】
図2に示されるように、電気検査装置100は、保持容器(ソケット)110と、検査用基板120と、異方導電性シート10とを有する。
【0105】
保持容器(ソケット)110は、検査用基板120や異方導電性シート10などを保持する容器である。
【0106】
検査用基板120は、保持容器110内に配置されており、検査対象物130に対向する面に、検査対象物130の各測定点に対向する複数の電極121を有する。
【0107】
異方導電性シート10は、検査用基板120の電極121が配置された面上に、当該電極121と、異方導電性シート10における第2面11b側の導電層13とが接するように配置されている。
【0108】
検査対象物130は、特に制限されないが、例えばHBMやPoPなどの各種半導体装置(半導体パッケージ)または電子部品、プリント基板などが挙げられる。検査対象物130が半導体パッケージである場合、測定点は、バンプ(端子)でありうる。また、検査対象物130がプリント基板である場合、測定点は、導電パターンに設けられる測定用ランドや部品実装用のランドでありうる。
【0109】
(電気検査方法)
図2の電気検査装置100を用いた電気検査方法について説明する。
【0110】
図2に示されるように、本実施の形態に係る電気検査方法は、電極121を有する検査用基板120と、検査対象物130とを、異方導電性シート10を介して積層して、検査用基板120の電極121と、検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して電気的に接続させる工程を有する。
【0111】
上記工程を行う際、検査用基板120の電極121と検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して十分に導通させやすくする観点から、必要に応じて、検査対象物130を押圧するなどして加圧したり(図2参照)、加熱雰囲気下で接触させたりしてもよい。
【0112】
上記工程では、異方導電性シート10は、検査対象物130が配置される面(第1面11a)に、本発明の帯電防止剤組成物から得られる帯電防止層13を有する。したがって、高温下で押圧されても、異方導電性シート10の帯電防止層13はクラックを生じにくいため、低い表面抵抗率を安定して維持することができる。また、帯電防止層13は、安定した帯電防止能および防汚性を示すため、静電気を良好に抑制しつつ、検査対象物130の端子131への異物の付着や転写などを抑制しうる。
【0113】
なお、上記実施の形態では、異方導電性シート10として、導電路12が、柱状樹脂14と導電層15とで構成される例を示したが(図1B参照)、これに限定されない。例えば、導電路12は、柱状樹脂14などを含まず、導電性部材(例えば金属ピン)のみで構成されてもよい。また、複数の導電路12の中心間距離pも、上記実施の形態に限定されず、検査対象物に合わせて適宜設定すればよい。
【0114】
また、上記実施の形態では、異方導電性シートを電気検査に用いる例を示したが、これに限定されず、2つの電子部材間の電気的接続、例えばガラス基板とフレキシブルプリント基板との間の電気的接続や、基板とそれに実装される電子部品との間の電気的接続などに用いることもできる。
【実施例
【0115】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0116】
1.材料の準備
(1)導電性成分
カーボンナノチューブ
【0117】
(2)非イオン性界面活性剤
三菱ケミカルフーズL-7D(デカグリセリンラウリン酸エステル(C12)、HLB値:17)
三菱ケミカルフーズLWA-1570(ショ糖ラウリン酸エステル(C12)、HLB値:15)
三菱ケミカルフーズM-10D(デカグリセリンミリスチン酸エステル(C14)、HLB値:15)
理研ビタミン社製J-0381V(デカグリセリンオレート(C18)、HLB値:12)
理研ビタミン社製ポエムDL100(グリセリン脂肪酸エステル(C12)、HLB値:9.4)
ジグリセリン(HLB値:0)
【0118】
非イオン性界面活性剤のHLB値は、上記式(1)に基づいて求めた。SおよびNは、前述の通り、それぞれJIS K0070-1992に記載のエステル価、酸価の測定方法(中和滴定法)に基づいて求めた。
【0119】
(3)バインダー成分
アルコキシシランオリゴマー
【0120】
(4)溶媒
イオン交換水
【0121】
2.帯電防止剤組成物の調製と評価
<帯電防止剤組成物1~19の調製>
導電性成分としてカーボンナノチューブ(CNT)、バインダー成分としてアルコキシシランオリゴマー、および溶媒として水を含むベース水溶液として、コルコートCS3001(コルコート社製)を準備した。このベース水溶液に、表1に示される種類と量の非イオン性界面活性剤を添加し、スポイトで均一になるまで攪拌混合して、帯電防止剤組成物1~19を得た。
【0122】
<評価>
得られた帯電防止剤組成物1~19の分散安定性、塗膜の外観(クラック、はじき)、転写(ブリードアウト)および表面抵抗率(初期、高温耐久後、常温耐久後)を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0123】
(1)分散性
帯電防止剤組成物を透明なガラス容器に入れて、カーボンナノチューブの分散状態を目視観察した。そして、以下の基準で分散性を評価した。
○:カーボンナノチューブの凝集がほとんどなく(良好に分散しており)、粘度上昇もほとんどない
×:カーボンナノチューブが凝集し、粘度上昇も著しい
【0124】
(2)塗膜の外観(クラック、はじき)
1)塗膜の形成
シリコーンフィルム(導電路がなく、絶縁層のみからなるシート)として、信越化学株式会社製KE-2500を準備した。このフィルムの表面に、上記調製した帯電防止剤組成物をバーコーターで塗布した後、125℃で120秒間乾燥させた。それにより、シリコーンフィルム上に、厚み100nmの帯電防止層を形成した。
【0125】
2)塗膜の外観評価
帯電防止層の形成直後に、当該帯電防止層を光学顕微鏡により観察して、はじきの有無、クラックの有無をそれぞれ評価した。そして、塗膜の外観を、以下の基準に基づいて評価した。
○:はじきもクラックもない
△:はじきまたはクラックがある
×:はじきもクラックもある
【0126】
(3)転写(ブリードアウト)
転写の有無については、ブロッキング試験により評価した。
具体的には、上記1)と同様にして、シリコーンフィルム上に帯電防止剤組成物を塗布したものを2つ準備した。これらの塗膜面同士を重ね合わせたサンプルを、2cm×2cm、厚さ1mmの突起を有する治具上に設置し、1kgの錘を乗せ、200℃条件下で6時間静置した。その後、サンプルを取り出し、90°ピール試験(剥離速度:50mm/分)にて、塗膜面同士の界面での剥離強度(せん断応力)を測定した。
そして、以下基準に基づいて評価した。
〇:剥離強度が25N未満(25Nは、帯電防止層がない場合の剥離強度を示す)
×:剥離強度が25N以上
【0127】
(4)表面抵抗率
(初期)
上記帯電防止層を形成したフィルムの帯電防止層の表面抵抗率を、東京電子社製stack TR-3の端子を、任意の三点で帯電防止層の表面に接触させて、表面抵抗率を測定した。具体的には、常温(23℃)で数値が安定したときの値を表面抵抗率とした。
【0128】
(高温耐久後)
上記帯電防止層を形成したフィルムを、150℃、4日間のオーブン内で静置させた。その後、オーブンから上記フィルムを取り出し、前述と同様の方法で、帯電防止層の表面抵抗率を測定した。
【0129】
(常温耐久後)
上記帯電防止層を形成したフィルムを、常温(23℃)で4日間の恒温槽内で静置させた。その後、恒温槽から上記フィルムを取り出し、前述と同様の方法で、帯電防止層の表面抵抗率を測定した。
なお、常温耐久後の表面低効率の低下は、常温下で静置している間の非イオン性界面活性剤の劣化または分解に起因する。
【0130】
帯電防止剤組成物1~19の評価結果を、表1に示す。なお、表中の含有量は、いずれも帯電防止剤組成物の固形分に対する量(質量%)を示す。
【表1】
【0131】
表1に示されるように、HLB値が11~19の非イオン性界面活性剤を含む帯電防止剤組成物1~12(実施例)は、いずれもカーボンナノチューブの凝集がほとんどなく、良好な分散性を示すことがわかる。また、帯電防止剤組成物1~12(実施例)を硬化させてなる帯電防止層は、はじきやクラックを生じず、良好な外観を有すること、および高温下でも低い表面抵抗率を維持できること(表面抵抗率の増大が少ないこと)がわかる。
【0132】
これに対して、非イオン性界面活性剤を含まない帯電防止剤組成物19は、塗膜にクラックやはじきを生じ、表面抵抗率も高いことがわかる。また、帯電防止剤組成物19は、高温にしたときの表面抵抗率の増大が著しいことがわかる。
また、HLB値が11未満の非イオン性界面活性剤を用いた帯電防止剤組成物13~15(比較例)は、いずれもカーボンナノチューブが凝集し、粘度上昇が著しいことがわかる。そのため、以降の評価はできなかった。また、HLB値が19を超える非イオン性界面活性剤を用いた帯電防止剤組成物16~18(比較例)は、いずれもクラックや転写を生じることがわかる。
【0133】
本出願は、2020年2月28日出願の特願2020-033707に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、高温下におけるクラックや、検査対象物などへの転写を生じにくく、かつ良好な帯電防止性能を維持しうる帯電防止剤組成物およびそれを用いた異方導電性シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0135】
10 異方導電性シート
11 絶縁層
11a 第1面
11b 第2面
12 導電路
13 帯電防止層
14 柱状樹脂
14a、14b 端面
14c 側面
15 導電層
100 電気検査装置
110 保持容器
120 検査用基板
121 電極
130 検査対象物
131 (検査対象物の)端子
図1
図2