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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
B60G17/015 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022508216
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008663
(87)【国際公開番号】W WO2021187161
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020047947
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 隆介
(72)【発明者】
【氏名】一丸 修之
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-016634(JP,A)
【文献】特開平03-235723(JP,A)
【文献】特開平03-201008(JP,A)
【文献】特開平05-073104(JP,A)
【文献】特開平06-135214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、
入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、
前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、
を備え、
前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、
前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、
前記演算処理部は、
複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、
前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、
前記重み係数取得部は、
モードスイッチから出力された前記所定の条件と、ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第1マップと、
前記重み係数と、前記ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第2マップと、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、
入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、
前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、
を備え、
前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、
前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、
前記演算処理部は、
複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、
前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、
前記目標量は、目標減衰力であり、
前記制御指令値取得部は、前記目標減衰力と、前記力発生機構へ出力する指令値と、の関係性を示す減衰力マップである、
車両制御装置。
【請求項3】
車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、
入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、
前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、
を備え、
前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、
前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、
前記演算処理部は、
複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、
前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、
前記指令値取得部は、
前記車輪のうち前輪に対する前輪用指令値取得部と、
前記車輪のうち後輪に対する後輪用指令値取得部と、
を備える車両制御装置。
【請求項4】
車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、
入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、
前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、
を備え、
前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、
前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、
前記演算処理部は、
複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、
前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、
前記入力された車両状態量に基づいて、フィードバック制御をするための目標量を取得するフィードバック目標量取得部と、
前記指令値取得部によって得られる目標量と、前記フィードバック目標量取得部によって得られる目標量と、に基づいて前記制御指令値取得部に出力する目標量を取得する調停部と、
を備える車両制御装置。
【請求項5】
車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、
入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、
前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、
を備え、
前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、
前記所定の評価手法は、評価関数を含み、
前記評価関数は、前記車両の上下加速度を低周波成分と高周波成分に分離した構成を含む、
車両制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両制御装置であって、
前記目標量は、目標減衰力であり、
前記制御指令値取得部は、前記目標減衰力と前記力発生機構へ出力する指令値との関係性を示す減衰力マップである、
車両制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両制御装置であって、
前記演算処理部は、
更に、入力された路面情報を加えて前記演算を行うものであり、
複数の異なる車両状態量と複数の異なる路面情報に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う、
車両制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非線形の運動特性を持つショックアブソーバの最適制御を行うため、ショックアブソーバ内部のエントロピーの時間微分とショックアブソーバを制御する制御装置からショックアブソーバへ与えるエントロピーの時間微分との差を求め、その差を評価関数として遺伝的アルゴリズムにより前記制御装置の制御パラメータを最適化させる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-207002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サスペンションの減衰力制御において、実際の使用時にはドライバ(運転者)の好みや要求仕様に応じて評価関数の重みや減衰力特性を変更する対応が求められる。この点を容易に行うために、改善案を検討する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態の目的は、ドライバの好みや要求仕様に応じて減衰力特性を変更することができる、車両制御装置を提供することにある。
【0006】
本発明の一実施形態による車両制御装置は、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、前記演算処理部は、複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、前記重み係数取得部は、モードスイッチから出力された前記所定の条件と、ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第1マップと、前記重み係数と、前記ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第2マップと、を備えている。
本発明の一実施形態による車両制御装置は、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、前記演算処理部は、複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、前記目標量は、目標減衰力であり、前記制御指令値取得部は、前記目標減衰力と、前記力発生機構へ出力する指令値と、の関係性を示す減衰力マップである。
本発明の一実施形態による車両制御装置は、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、前記演算処理部は、複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、前記指令値取得部は、前記車輪のうち前輪に対する前輪用指令値取得部と、前記車輪のうち後輪に対する後輪用指令値取得部と、を備えている。
本発明の一実施形態による車両制御装置は、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数であり、前記演算処理部は、複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を有し、前記入力された車両状態量に基づいて、フィードバック制御をするための目標量を取得するフィードバック目標量取得部と、前記指令値取得部によって得られる目標量と、前記フィードバック目標量取得部によって得られる目標量と、に基づいて前記制御指令値取得部に出力する目標量を取得する調停部と、を備えている。
本発明の一実施形態による車両制御装置は、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行い、前記所定の評価手法は、評価関数を含み、前記評価関数は、前記車両の上下加速度を低周波成分と高周波成分に分離した構成を含んでいる。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、ドライバの好みや要求仕様に応じて減衰力特性を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態による車両制御システムを模式的に示す図である。
図2】第1,第3の実施形態によるコントローラのDNNを学習する手順を示す説明図である。
図3】重み係数算出マップに含まれる第1マップおよび第2マップの具体例を示す説明図である。
図4】第1の実施形態および比較例について、路面変位、ばね上加速度、ばね上加加速度、ピストン速度、電流値、減衰力の時間変化を示す特性線図である。
図5】第2の実施形態による車両制御システムを示す説明図である。
図6】第4の実施形態による車両制御システムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による車両制御装置、車両制御方法および車両制御システムを、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0012】
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられている。これらの車輪2は、タイヤ3を含んで構成されている。タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
【0013】
サスペンション装置4は、車体1と車輪2との間に介装して設けられている。サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、スプリング5という)と、スプリング5と並列関係をなして車体1と車輪2との間に介装して設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、可変ダンパ6という)とにより構成される。なお、図1は、1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を模式的に図示している。4輪自動車の場合、サスペンション装置4は、4つの車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられる。
【0014】
ここで、サスペンション装置4の可変ダンパ6は、車体1側と車輪2側との間で調整可能な力を発生する力発生機構である。可変ダンパ6は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成されている。可変ダンパ6には、発生減衰力の特性(即ち、減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータ7が付設されている。なお、減衰力可変アクチュエータ7は、減衰力特性を必ずしも連続的に調整する構成でなくてもよく、例えば2段階以上の複数段階で減衰力を調整可能なものであってもよい。また、可変ダンパ6は、圧力制御タイプであってもよく、流量制御タイプであってもよい。
【0015】
ばね上加速度センサ8は、車体1(ばね上)の上下加速度を検出する。ばね上加速度センサ8は、車体1の任意の位置に設けられている。ばね上加速度センサ8は、例えば可変ダンパ6の近傍となる位置で車体1に取り付けられている。ばね上加速度センサ8は、所謂ばね上側となる車体1側で上下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を電子制御ユニット11(以下、ECU11という)に出力する。
【0016】
車高センサ9は、車体1の高さを検出する。車高センサ9は、例えばばね上側となる車体1側に、それぞれの車輪2に対応して複数個(例えば、4個)設けられている。即ち、各車高センサ9は、各車輪2に対する車体1の相対位置(高さ位置)を検出し、その検出信号をECU11に出力する。車高センサ9およびばね上加速度センサ8は、車両状態量を検出する車両状態量取得部を構成している。なお、車両状態量は、車体1の上下加速度と車体1の高さに限らない。車両状態量は、例えば、車体1の高さ(車高)を微分した相対速度、車体1の上下加速度を積分した上下速度などを含んでもよい。この場合、車両状態量取得部は、車高センサ9、ばね上加速度センサ8に加えて、車高を微分する微分器、上下加速度を積分する積分器なども有している。
【0017】
路面計測センサ10は、路面情報としての路面プロフィールを検出する路面プロフィール取得部を構成している。路面計測センサ10は、例えば複数のミリ波レーダによって構成されている。路面計測センサ10は、車両前方の路面状態(具体的には、検出対象の路面までの距離と角度、画面位置と距離を含む)を計測して検出する。路面計測センサ10は、路面の検出値に基づき、路面プロフィールを出力する。
【0018】
なお、路面計測センサ10は、例えばミリ波レーダとモノラルカメラを組み合わせたものでもよく、特開2011-138244号公報等に記載のように、左,右一対の撮像素子(デジタルカメラ等)を含むステレオカメラによって構成されてもよい。路面計測センサ10は、超音波距離センサ等によって構成されてもよい。
【0019】
ECU11は、車両の姿勢制御等を含む挙動制御を行う制御装置として車両の車体1側に搭載されている。ECU11は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されている。ECU11は、データの記憶が可能なメモリ11Aを有している。ECU11は、コントローラ12を備えている。
【0020】
ECU11の入力側は、ばね上加速度センサ8、車高センサ9、路面計測センサ10およびモードスイッチ17に接続されている。ECU11の出力側は、可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に接続されている。ECU11のコントローラ12は、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値と、路面計測センサ10による路面の検出値とに基づき、路面プロフィールと車両状態量を取得する。コントローラ12は、路面プロフィールと車両状態量とに基づいて、サスペンション装置4の可変ダンパ6(力発生機構)で発生すべき力を求め、その命令信号をサスペンション装置4の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0021】
ECU11は、例えば車両が10~20m程度を走行した数秒間に亘って、車両状態量と路面入力のデータをメモリ11Aに保存する。これにより、ECU11は、車両が所定の走行距離を走行したときの路面入力の時系列データ(路面プロフィール)と、車両状態量の時系列データとを生成する。コントローラ12は、路面プロフィールと車両状態量の時系列データに基づいて、可変ダンパ6で発生すべき減衰力を調整するように制御する。
【0022】
コントローラ12は、演算処理部13と、減衰力マップ16と、を備えている。演算処理部13は、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量となる目標減衰力を出力する。演算処理部13は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法(評価関数J)を用いて得られる複数の目標減衰力の組を入出力データの組として演算処理部13(DNN15)(ディープニューラルネットワーク)に学習させることにより得られる学習結果を用いて演算を行う。このとき、演算処理部13は、入力された路面情報(路面プロフィール)を加えて演算を行う。このため、演算処理部13は、複数の異なる車両状態量と複数の異なる路面情報に対して、事前に準備された所定の評価手法(評価関数J)を用いて得られる複数の目標減衰力の組を入出力データの組として演算処理部13に学習させることにより得られる学習結果を用いて演算を行う。演算処理部13は、重み係数算出マップ14と、学習済みのDNN15と、を備えている。このとき、学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数Wijである。
【0023】
重み係数算出マップ14は、複数の異なる重み(評価関数Jの重み)を用いて深層学習をさせて得られる、複数組の異なる重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainが設定されている。重み係数算出マップ14は、入力された所定の条件によって、複数組の異なる重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainに基づいて特定された1組の重み係数Wijを取得する。
【0024】
重み係数算出マップ14の入力側には、モードスイッチ17が接続されている。モードスイッチ17は、車体1に設けられている。モードスイッチ17は、例えば「Sport」、「Normal」、「Comfort」の3つのモードを有している。モードスイッチ17は、これら3つのモードのうち1つのモードを選択する。モードスイッチ17は、選択したモードの信号をECU11の重み係数算出マップ14に出力する。このとき、重み係数算出マップ14に入力された所定の条件は、モードスイッチ17によって選択されたモードである。
【0025】
重み係数算出マップ14には、学習済みの複数組(例えば2組)の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainが設定されている。重み係数算出マップ14は、モードスイッチ17によって選択されたモードに応じて、これら複数組の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainを合成し、新たな1組の重み係数Wijを算出する。重み係数算出マップ14は、算出した1組の重み係数WijをDNN15に設定する。
【0026】
図3に示すように、重み係数算出マップ14は、第1マップ14Aと、第2マップ14Bとを備えている。第1マップ14Aは、モードスイッチ17から出力されたモードとゲインスケジューリングパラメータ(GSP)との関係性を示すモードSW・GSPマップである。第1マップ14Aは、モードスイッチ17によって選択されたモードに応じて、GSPを算出する。例えば、「Sport」モードでは、GSPは0.9になる。「Normal」モードでは、GSPは0.44になる。「Comfort」モードでは、GSPは0.1になる。
【0027】
第2マップ14Bは、重み係数とGSPとの関係性を示すGSP・重み係数マップである。第2マップ14Bは、第1マップ14Aから出力されるGSPに応じて、予め設定された複数組(例えば2組)の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainを合成し、新たな1組の重み係数Wijを算出する。例えば1組目の重み係数Wij_HighGainは、重み係数Whigh_11,…,Whigh_ijを含み、GSPが1となる場合に対応している。一方、2組目の重み係数Wij_LowGainは、重み係数Wlow_11,…,Wlow_ijを含み、GSPが0となる場合に対応している。このため、第2マップ14Bは、第1マップ14Aから出力されるGSPに基づいて、これら2組の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainに例えば線形補間を行い、新たな1組の重み係数Wijを算出する。第2マップ14Bは、算出した1組の重み係数WijをDNN15に設定する。
【0028】
なお、重み係数の補間方法は、線形補間に限らず、各種の補間方法が適用可能である。重み係数算出マップ14は、2つのマップ(第1マップ14A、第2マップ14B)を備えたものに限らず、単一のマップによって構成してもよい。この場合、重み係数算出マップは、モードに応じて、複数組の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainを合成し、新たな1組の重み係数Wijを特定する。
【0029】
DNN15は、特定の重み係数Wijが設定され、ニューラルネットワークを用いて演算を行う指令値取得部である。コントローラ12は、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値と、路面計測センサ10による路面の検出値とに基づいて、路面入力の時系列データ(路面プロフィール)と、車両状態量の時系列データとを取得する。コントローラ12のDNN15は、路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとに基づいて、目標量となる目標減衰力の時系列データを出力する。このとき、最新の目標減衰力が、現時点の最適な目標減衰力(最適目標減衰力)に対応する。
【0030】
減衰力マップ16は、目標減衰力(目標量)に基づいて可変ダンパ6(力発生機構)を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部である。減衰力マップ16は、目標減衰力と可変ダンパ6へ出力する指令値との関係性を示している。減衰力マップ16は、DNN15から取得した最新の目標減衰力と、車両状態量に含まれるばね上とばね下との間の相対速度とに基づいて、減衰力の指令値を出力する。これにより、コントローラ12は、現在の車両と路面に対して最も適切な減衰力の指令値を出力する。減衰力の指令値は、例えば減衰力可変アクチュエータ7を駆動するための電流値に対応している。
【0031】
次に、コントローラ12のDNN15の学習方法について、図2に示す説明図を参照して説明する。DNN15は、(1)直接最適制御指令値探索、(2)指令値学習、(3)重み係数ダウンロード、(4)重み係数の算出および設定を実行することによって、構築される。
【0032】
まず、直接最適制御指令値探索を実行するために、車両モデル21を含む解析モデル20を構成する。図2には、車両モデル21が1輪モデルの場合を例示した。車両モデル21は、例えば左右一対の2輪モデルでもよく、4輪モデルでもよい。車両モデル21には、路面入力と、直接最適制御部22から最適指令値(最適目標減衰力)が入力される。直接最適制御部22は、以下に示す直接最適制御指令値探索の手順に従って、最適指令値を求める。
【0033】
(1)直接最適制御指令値探索 直接最適制御部22は、事前に車両モデル21を含む解析モデル20を用いて、繰り返し演算により最適指令値を探索する。最適指令値の探索は、以下に示す最適制御問題と定式化し、最適化手法を用いて数値解析的に求める。
【0034】
対象となる車両の運動は、状態方程式によって数1の式で表されるものとする。なお、式中のドットは、時間tによる1階微分(d/dt)を意味する。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、xは状態量、uは制御入力である。状態方程式の初期条件は、数2の式のように与えられる。
【0037】
【数2】
【0038】
初期時刻t0から終端時刻tfまでの間に課せられる等式拘束条件と不等式拘束条件は、数3の式および数4の式のように表される。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
最適制御問題は、数1の式に示す状態方程式と、数2の式に示す初期条件と、数3および数4の式に示す拘束条件を満足しつつ、数5の式に示す評価関数Jを最小にするような制御入力u(t)を求める問題である。
【0042】
【数5】
【0043】
上記のような拘束条件付きの最適制御問題を解くのは、非常に困難である。このため、最適化手法として拘束条件を簡単に扱うことができる直接法を用いる。この手法は、最適制御問題をパラメータ最適化問題に変換し、最適化手法を用いて解を得る方法である。
【0044】
最適制御問題をパラメータ最適化問題に変換するため、初期時刻t0から終端時刻tfまでをN個の区間に分割する。各区間の終端時刻をt1,t2,…,tNと表すと、それらの関係は、数6に示す通りとなる。
【0045】
【数6】
【0046】
連続的な入力u(t)は、数7に示すように、各区間の終端時刻における離散的な値uiで置き換えられる。
【0047】
【数7】
【0048】
入力u0,u1,…,uNに対して状態方程式を初期条件x0から数値積分し、各区間の終端時刻における状態量x1,x2,…,xNを求める。このとき、各区間内の入力は、各区間の終端時刻で与えられる入力を一次補間して求める。以上の結果、入力に対して状態量が決定され、これによって評価関数と拘束条件が表現される。よって、変換したパラメータ最適化問題は、次のように表すことができる。
【0049】
最適化すべきパラメータをまとめてXとすると、数8の式に示すようになる。
【0050】
【数8】
【0051】
よって、数5の式に示す評価関数は、数9の式のように表される。
【0052】
【数9】
【0053】
また、数3および数4の式に示す拘束条件は、数10および数11の式のように表される。
【0054】
【数10】
【0055】
【数11】
【0056】
このようにして、前述のような最適制御問題は、数8ないし数11の式で表されるパラメータ最適化問題に変換することができる。
【0057】
路面に応じた最適制御指令を求める問題を最適制御問題として定式化するための評価関数Jは、上下加速度Azが最少となって乗り心地が良く、かつ制御指令値uを小さくするように、数12の式のように定義する。ここで、q1,q2は評価関数の重みである。q1,q2は、例えば実験結果等により予め設定されている。
【0058】
【数12】
【0059】
直接最適制御部22は、このように定式化したパラメータ最適化問題を最適化手法により数値解析的に求め、様々な路面での最適指令値(目標減衰力)を導出する。
【0060】
次に、車両での適合時に簡単にコントローラを変更可能とするために、重みq1,q2の値を変更した場合における最適指令値についても、様々な路面において導出する。例えば、重みq1を大きくすれば、加速度を小さくするような制振性重視とすることができる。逆に重みq2を大きくすれば、指令値が小さくなり、セミアクティブサスペンションでは振動遮断性重視となる。
【0061】
(2)指令値学習 直接最適制御指令値探索により導出した最適指令値(目標減衰力)を出力とし、そのときの路面プロフィール、車両状態量を入力として、様々な路面の入出力を、人工知能となるDNN23に学習させる。DNN23は、学習用のディープニューラルネットワークであり、車載用のDNN15と同じ構成になっている。DNN23には、路面プロフィールとして路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとが入力される。このとき、路面入力と車両状態量とに対応して最適指令値の時系列データを教師データとして、DNN23におけるニューロン間の重み係数が求められる。このとき、評価関数の重みq1,q2が異なる複数の場合について、ニューロン間の重み係数を求める。
【0062】
(3)重み係数ダウンロード 指令値学習によって学習したDNN23の複数組の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainを、実際のECU11の重み係数算出マップ14に設定する。
【0063】
(4)最適指令値計算 DNN15を含むコントローラ12は、車両に搭載される。コントローラ12の入力側には、ばね上加速度センサ8、車高センサ9、路面計測センサ10およびモードスイッチ17が接続されている。コントローラ12の出力側には、可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に接続されている。コントローラ12の重み係数算出マップ14は、モードスイッチ17によって選択されたモードに応じて、予めダウンロードした複数組の重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainから1組の重み係数Wijを算出する。重み係数算出マップ14は、モードスイッチ17のモードに応じた1組の重み係数Wijを、指令値取得部となるDNN15に設定する。これにより、コントローラ12のDNN15が構成される。
【0064】
コントローラ12は、ばね上加速度センサ8、車高センサ9および路面計測センサ10の検出信号に基づいて、路面入力と車両状態量とを取得する。コントローラ12は、路面プロフィールとして路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとをDNN15に入力する。DNN15は、路面入力と車両状態量の時系列データが入力されると、学習結果に応じて最適指令となる目標減衰力を出力する。減衰力マップ16は、DNN15から出力される目標減衰力と、車両状態量に含まれるばね上とばね下との間の相対速度に基づいて、指令値(指令電流)を算出する。コントローラ12は、減衰力マップ16が算出した指令電流を可変ダンパ6に出力する。
【0065】
このように、直接最適制御部22は、様々な条件において、直接最適制御指令をオフラインの数値最適化により導出する。その際の路面プロフィールおよび車両状態量と最適指令を人工知能(DNN23)に学習させる。この結果、ステップ毎の最適化を行うことなく、DNN15を搭載したコントローラ12(ECU11)によって、直接最適制御を実現することができる。
【0066】
次に、DNN15による乗り心地性能の効果を確認するために、比較例による制御として従来通りのスカイフック制御則に基づくフィードバック制御と、第1の実施形態のDNN15による制御とについて、車両のシミュレーションによって乗り心地性能等を比較した。なお、シミュレーション条件は、例えばEセグメントのセダンを想定した車両諸元とした。シミュレーションモデルは、ばね上とばね下質量を考慮した1/4車両モデルを用いた。路面は、基本的なばね上の制振性能を確認するためうねり路を設定した。モードスイッチ17が選択したモードは、「Normal」モードとした。
【0067】
シミュレーション結果を、図4に示す。図4は、ばね上加速度等の時間変化の結果を示している。これにより、第1の実施形態による制御は、従来の制御(スカイフック制御則)と比較して、路面入力が変化する手前から減衰力を高く設定している。このため、第1の実施形態による制御は、比較例による制御(スカイフック制御則)と比較して、0.6秒付近までは加速度が大きいものの、その後は加速度のピーク値が小さく、波形も滑らかで、うねり路通過後の収束性も改善されていることが分かる。これらにより、第1の実施形態による制御は、比較例による制御(スカイフック制御則)と比較して、高い制振性能と滑らかさを実現できていることが分かる。
【0068】
かくして、本実施形態によれば、コントローラ12は、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標減衰力(目標量)を出力する演算処理部13と、前記目標減衰力に基づいて可変ダンパ6(力発生機構)を制御するための制御指令値を取得する減衰力マップ16(制御指令値取得部)と、を備えている。演算処理部13は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組としてDNN23に学習させることにより得られる学習結果を用いて演算を行う。このとき、学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数である。これにより、重み係数を調整することによって、ドライバの好みや要求仕様に応じて減衰力特性を変更することができる。これに加え、各路面と車両に応じた真の最適な指令により制御することが可能となるため、乗り心地と操縦安定性能を向上することができる。
【0069】
また、演算処理部13は、複数の異なる評価関数の重みq1,q2を用いて深層学習をさせて得られる、複数組の異なる重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainが設定され、入力された所定の条件によって、複数組の異なる重み係数Wij_HighGain,Wij_LowGainに基づいて特定の1組の重み係数Wijを取得する重み係数算出マップ14(重み係数取得部)と、特定の重み係数Wijが設定され、ニューラルネットワークを用いて演算を行うDNN15(指令値取得部)と、を備えている。
【0070】
このとき、重み係数算出マップ14は、モードスイッチ17から出力されたモード(所定の条件)とGSPとの関係性を示す第1マップ14Aと、重み係数とGSPとの関係性を示す第2マップ14Bと、を備えている。重み係数算出マップ14は、入力された所定の条件となるモードスイッチ17のモードに応じて、DNN15の重み係数Wijを取得する。これにより、ドライバの好みやOEM(original equipment manufacturer)の要求に応じて、DNN15の重み係数Wijを変更することができる。この結果、DNN15の重み係数Wijの調整や変更を、車両側で簡単に行うことができる。
【0071】
また、減衰力マップ16は、目標量としての目標減衰力と可変ダンパ6へ出力する指令値との関係性を示している。このため、最適指令値を減衰力指令とした場合には、減衰力特性が変わっても、DNN15の後段にある減衰力マップ16のみを更新すればよい。従って、ダンパ特性への対応が減衰力マップ16のマップ更新のみで可能となる。
【0072】
また、セミアクティブサスペンション(可変ダンパ6)のように非線形な制御対象でも、複雑なモデル化なしに制御構築が可能になる。各路面、車両、可変ダンパ6の特性を考慮した直接最適制御をECU11に実装するのは演算時間からして現在の技術では組み込みできない。しかしながら、直接最適指令を事前に学習させた人工知能(DNN15)であればECU11(コントローラ12)に組み込むことができる。このため、直接最適制御をECU11によって実現することができる。
【0073】
演算処理部13は、さらに、入力された路面情報(路面プロフィール)を加えて演算を行うものであり、複数の異なる車両状態量と複数の異なる路面情報に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として演算処理部13のDNN15に学習させることにより得られる学習結果を用いて演算を行う。このとき、DNN15は、事前に評価関数Jを最小となるように最適化手法によって求められた指令値と車両状態量および路面プロフィールを学習している。これにより、各路面に応じた真の最適な指令により制御することが可能となるため、乗り心地と操縦安定性能を向上することができる。
【0074】
次に、図5は第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、前輪と後輪でそれぞれ異なるDNNを設定することにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0075】
第2の実施形態によるECU30は、第1の実施形態によるECU11と同様に構成されている。ECU30は、コントローラ31を備えている。ECU30の入力側は、ばね上加速度センサ8、車高センサ9、路面計測センサ10およびモードスイッチ17に接続されている。ECU30の出力側は、可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に接続されている。ECU30のコントローラ31は、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値と、路面計測センサ10による路面の検出値とに基づき、路面プロフィールと車両状態量を取得する。コントローラ31は、路面プロフィールと車両状態量とに基づいて、サスペンション装置4の可変ダンパ6(力発生機構)で発生すべき力を求め、その命令信号をサスペンション装置4の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0076】
コントローラ31は、演算処理部32、前輪減衰力マップ36および後輪減衰力マップ37、を備えている。演算処理部32は、重み係数算出マップ33と、学習済みの前輪用DNN34および後輪用DNN35と、を備えている。
【0077】
コントローラ31は、演算処理部32、前輪減衰力マップ36および後輪減衰力マップ37、を備えている。演算処理部32は、重み係数算出マップ33と、前輪用DNN34および後輪用DNN35と、を備えている。
【0078】
重み係数算出マップ33は、第1の実施形態による重み係数算出マップ14と同様に構成されている。重み係数算出マップ33は、複数の異なる重み(評価関数の重み)を用いて深層学習をさせて得られる、複数組の異なる重み係数が設定されている。このとき、重み係数は、前輪用の重み係数と後輪用の重み係数を含んでいる。重み係数算出マップ33の入力側には、モードスイッチ17が接続されている。重み係数算出マップ33は、モードスイッチ17によって選択されたモードによって、複数組の異なる前輪用の重み係数に基づいて特定された1組の前輪用の重み係数を取得する。これに加え、重み係数算出マップ33は、モードスイッチ17によって選択されたモードによって、複数組の異なる後輪用の重み係数に基づいて特定された1組の後輪用の重み係数を取得する。
【0079】
前輪用DNN34と後輪用DNN35は、指令値取得部に含まれる。前輪用DNN34は、車輪2のうち前輪に対する前輪用指令値取得部である。後輪用DNN35は、車輪2のうち後輪に対する後輪用指令値取得部である。前輪用DNN34と後輪用DNN35は、第1の実施形態によるDNNと同様に構成されている。このため、前輪用DNN34と後輪用DNN35は、AI学習部であり、例えば4層以上の多層のニューラルネットワークによって構成されている。各層は、複数のニューロンを備えており、隣り合う2つの層のニューロンは、重み係数で結合されている。前輪用DNN34の重み係数は、重み係数算出マップ33が取得した前輪用の重み係数が設定されている。後輪用DNN35の重み係数は、重み係数算出マップ33が取得した後輪用の重み係数が設定されている。
【0080】
コントローラ31は、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値と、路面計測センサ10による路面の検出値とに基づいて、路面入力の時系列データ(路面プロフィール)と、車両状態量の時系列データとを4輪別々に取得する。
【0081】
このとき、前輪用DNN34は、路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとに基づいて、前輪用の目標減衰力の時系列データを出力する。前輪減衰力マップ36は、前輪用DNN34から取得した最新の目標減衰力と、車両状態量に含まれるばね上とばね下との間の相対速度とに基づいて、前輪用の減衰力の指令値を出力する。コントローラ31は、現在の車両と路面に対して最も適切な減衰力の指令値(指令電流)を、前輪の可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0082】
同様に、後輪用DNN35は、路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとに基づいて、後輪用の目標減衰力の時系列データを出力する。後輪減衰力マップ37は、後輪用DNN35から取得した最新の目標減衰力と、車両状態量に含まれるばね上とばね下との間の相対速度とに基づいて、前輪用の減衰力の指令値を出力する。コントローラ31は、現在の車両と路面に対して最も適切な減衰力の指令値(指令電流)を、後輪の可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0083】
かくして、第2の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第2の実施形態では、指令値取得部は、前輪用DNN34と後輪用DNN35とを備えている。このとき、前輪用DNN34と後輪用DNN35とには、前輪と後輪の車両諸元によって異なる最適指令をそれぞれ学習させる。具体的には、直接最適制御指令値探索において用いる車両モデルの諸元を、前輪と後輪でそれぞれ設定し、それぞれ独立に最適目標減衰力(最適指令)を探索する。このとき、直接最適制御指令値探索の処理が2倍となる。しかしながら、前輪と後輪で通常異なる車両諸元に応じて最適目標減衰力が導出可能であるため、例えば制振性能等の向上を図ることができる。
【0084】
次に、図2は第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、最適制御指令(目標減衰力)を求めるための評価関数が、車両の上下加速度を低周波成分と高周波成分に分離されたことにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
第1の実施形態では、最適化の評価関数Jは上下加速度と最適制御指令のみで構成されていた。これに対し、第3の実施形態では、最適化の評価関数Jは、上下加速度を低周波成分と高周波成分とに分離されている。低周波成分は、例えばフワフワ感領域である第1周波数領域(0.5-2Hz)の成分である。高周波成分は、フワフワ感以外の振動領域である第2周波数領域(2-50Hz)の成分である。これにより、上下加速度の低周波振動と高周波信号のどちらを低減したいかが指定できるようになる。
【0086】
このとき、第3の実施形態による直接最適制御部40は、以下の数13の式に示す評価関数Jを用いる。
【0087】
【数13】
【0088】
ここで、q11は低周波上下加速度に対する重みであり、q12は高周波上下加速度に対する重みであり、q2は制御指令に対する重みである。
【0089】
低周波上下加速度は、上下加速度に対しローパスフィルタ処理した値を用いて算出する。高周波上下加速度は、上下加速度に対しハイパスフィルタ処理した値を用いて算出する。なお、上下加速度を周波数解析し、低周波成分/高周波成分をRMS値(実効値)とした値を用いて評価関数を構成してもよい。低周波成分と高周波成分の2つの周波数成分に限らず、例えば低周波成分と高周波成分との間の中間周波数成分を加えて3つの周波数成分を含む評価関数を用いてもよく、4つ以上の周波数成分を含む評価関数を用いてもよい。
【0090】
かくして、第3の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第3の実施形態では、評価関数Jは、車両の上下加速度を低周波成分と高周波成分に分離した。このため、このような評価関数Jを用いることによって、上下加速度の低周波振動と高周波信号のどちらを低減したいかが指定できるようになる。
【0091】
次に、図6は第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、コントローラは、入力された車両状態量に基づいてフィードバック制御をするための目標量を取得するBLQ制御部と、DNNによって得られる目標量とBLQ制御部によって得られる目標量と、に基づいて減衰力マップに出力する目標量を取得する制御指令調停部と、を備えたことにある。なお、第4の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
第4の実施形態によるECU50は、第1の実施形態によるECU11と同様に構成されている。ECU50は、コントローラ51を備えている。ECU50の入力側は、ばね上加速度センサ8、車高センサ9および路面計測センサ10に接続されている。ECU50の出力側は、可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に接続されている。
【0093】
ECU50のコントローラ51は、路面計測センサ10による路面の検出値に基づき、路面プロフィールを取得する。ECU50のコントローラ51は、車両状態を推定する車両状態推定部52を備えている。車両状態推定部52は、例えばばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値とに基づいて、車両状態量を取得する。コントローラ51は、路面プロフィールと車両状態量とに基づいて、サスペンション装置4の可変ダンパ6(力発生機構)で発生すべき力を求め、その命令信号をサスペンション装置4の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0094】
コントローラ51は、演算処理部13と、減衰力マップ16と、を備えている。演算処理部13は、重み係数算出マップ14と、学習済みのDNN15(ディープニューラルネットワーク)と、を備えている。これに加え、コントローラ51は、BLQ制御部53と、制御指令調停部55とを備えている。
【0095】
重み係数算出マップ14は、複数の異なる重み(評価関数の重み)を用いて深層学習をさせて得られる、複数組の異なる重み係数が設定されている。重み係数算出マップ14は、モードスイッチ17によって選択されたモードによって、複数組の異なる重み係数に基づいて特定された1組の重み係数を取得する。
【0096】
DNN15の重み係数は、重み係数算出マップ14が取得した1組の重み係数が設定されている。DNN15には、路面計測センサ10による路面の検出値に基づく路面プロフィールが入力されると共に、車両状態推定部52からの車両状態量が入力される。このとき、DNN15は、路面入力の時系列データと、車両状態量の時系列データとに基づいて、時系列データからなる最適目標減衰力を出力する。
【0097】
BLQ制御部53は、入力された車両状態量に基づいて、フィードバック制御をするための目標減衰力(目標量)を取得するフィードバック目標量取得部である。このとき、BLQ制御部53は、双線形最適制御部である。BLQ制御部53には、車両状態推定部52から出力される車両状態量が入力される。BLQ制御部53は、双線形最適制御理論に基づいて、車両状態推定部52からの車両状態量から、ばね上の上下振動を低減するための目標減衰力(BLQ目標減衰力)を求める。このとき、BLQ目標減衰力は、入力された車両状態量に基づいてフィードバック制御をするための目標量である。
【0098】
学習度合い判断部54は、車両状態量に基づいてDNN15の学習度合いを判断する。具体的には、学習度合い判断部54は、車両状態量に含まれるばね上上下加速度に基づいて、DNN15の学習度合いを判断する。学習度合い判断部54は、例えば車両の走行試験等の結果によって予め決められた第1閾値Aと第2閾値Bとを有している。第1閾値Aは、学習度合いが100%であるか否かを判断するためのばね上上下加速度の基準値である。第2閾値Bは、第1閾値Aよりも大きな値であり、学習度合いが0%であるか否かを判断するためのばね上上下加速度の基準値である。
【0099】
学習度合い判断部54は、ばね上上下加速度が第1閾値A以下の場合には、信頼性が高いとみなせるので、学習度合いが100%であると判断する。学習度合い判断部54は、ばね上上下加速度が第1閾値Aよりも大きく第2閾値よりも小さい場合には、信頼性が中程度であるとみなせるので、学習度合いが50%であると判断する。学習度合い判断部54は、ばね上上下加速度が第2閾値B以上の場合には、信頼性が低いとみなせるので、学習度合いが0%であると判断する。
【0100】
なお、学習度合い判断部54は、ばね上上下加速度に限らず、例えばDNN15から出力される最適目標減衰力を考慮して、学習度合いを判断してもよい。学習度合い判断部54は、学習度合いを100%、50%、0%の3段階で判断した。これに限らず、学習度合い判断部54は、学習度合いを2段階で判断してもよく、4段階以上で判断してもよい。
【0101】
制御指令調停部55は、DNN15によって得られる目標量と、BLQ制御部53によって得られる目標量と、に基づいて減衰力マップ16に出力する目標量を取得する調停部である。制御指令調停部55には、学習度合い判断部54から出力される学習度合いと、DNN15から出力される最適目標減衰力(目標量)と、BLQ制御部53から出力されるBLQ目標減衰力(目標量)とが入力される。制御指令調停部55は、DNN15の学習度合いに基づいて、最適目標減衰力とBLQ目標減衰力とを調整し、減衰力マップ16に出力する目標減衰力を調整する。
【0102】
基本的に学習済みの場合には、BLQ制御部53に比べて、DNN15の方が例えば制振性等の制御性能が高い。この場合、制御指令調停部55、DNN15を信用して、DNN15の最適目標減衰力をそのまま出力する。一方、未学習または学習途中の場合には、DNN15が最適な制御とは限らない。そこで、制御指令調停部55、DNN15の学習度合いに応じて、DNN15の指令(最適目標減衰力)とBLQ制御部53の指令(BLQ目標減衰力)との配分を決定し、これら2つの指令から最終的な指令(目標減衰力)を出力する。
【0103】
具体的には、制御指令調停部55は、DNN15の学習度合いが100%のときには、DNN15の最適目標減衰力を、最終的な目標減衰力として出力する。制御指令調停部55は、DNN15の学習度合いが50%のときには、DNN15の最適目標減衰力とBLQ制御部53のBLQ目標減衰力との平均値(相加平均)を、最終的な目標減衰力として出力する。制御指令調停部55は、DNN15の学習度合いが0%のときには、BLQ制御部53のBLQ目標減衰力を、最終的な目標減衰力として出力する。
【0104】
減衰力マップ16は、制御指令調停部55から取得した最終的な目標減衰力と、車両状態量に含まれるばね上とばね下との間の相対速度とに基づいて、減衰力の指令値を出力する。コントローラ51は、現在の車両と路面に対して最も適切な減衰力の指令値(指令電流)を、前輪の可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ7に出力する。
【0105】
かくして、第4の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第4の実施形態では、コントローラ51は、フィードバック制御をするためのBLQ目標減衰力を取得するBLQ制御部53と、DNN15によって得られる最適目標減衰力(目標量)とBLQ制御部53によって得られるBLQ目標減衰力(目標量)と、に基づいて減衰力マップ16に出力する目標減衰力(目標量)を取得する制御指令調停部55(調停部)と、を備えている。これにより、DNN15が未学習の状態では、コントローラ51は、BLQ制御部53からのBLQ目標減衰力に基づいて可変ダンパ6を制御する。この結果、第4の実施形態では、フィードバック制御を用いる従来技術と同程度の乗り心地制御の性能を担保することができる。また、学習済みの路面においても、DNN15によるAI制御とBLQ制御部53によるフィードバック制御とを組み合わせることにより、車両諸元変化に対する対応が可能となる。
【0106】
なお、未学習の路面を走行した場合は、路面プロフィールを記憶してもよく、外部サーバに送信してもよい。この場合、直接最適制御部は、新たに取得した未学習の路面プロフィールに基づいて、最適指令値を求める。その後、路面プロフィールと最適指令値を追加してDNNのニューロン間の重み係数を再度学習する。学習が完了した後、車両に搭載した重み係数算出マップの重み係数を更新する。これにより、次に同じ路面を走行するときには、重み係数算出マップは、更新データに基づく新たな重み係数をDNNに設定する。このため、DNNを用いて可変ダンパ6の減衰力を最適制御することができる。
【0107】
また、フィードバック目標量取得部は、BLQ制御(双線形最適制御)に限らず、スカイフック制御則に基づいて可変ダンパ6を制御するものでもよく、H∞制御等のような他の制御則に基づいて可変ダンパ6を制御するものでもよい。
【0108】
前記第1,第2の実施形態では、車両状態量取得部は、ばね上加速度センサ8と車高センサ9とを備えるものとした。本発明はこれに限らず、車両状態量取得部は、例えばばね上加速度センサ8と車高センサ9とに加えて、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値とに基づき、車両状態量を算出する部分を含んでもよい。また、車両状態量取得部は、ばね上加速度センサ、車高センサからの検出信号に加えて、例えば車速等のような車両状態に関係する情報をCAN(Controller Area Network)からの信号に基づいて取得し、これらの情報を考慮して車両状態量を算出または推定してもよい。この場合、車両状態量取得部は、各種のセンサに加えて、ECU11,30内の演算部分によって構成される。
【0109】
前記各実施形態では、演算処理部13,32は、ニューラルネットワークを備えるものとした。本発明はこれに限らず、演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、複数の目標量の組を入出力データの組として学習可能であれば、ニューラルネットワークを備えなくてもよい。
【0110】
前記各実施形態では、路面プロフィール取得部は、路面計測センサ10によって路面プロフィールを検出した。本発明はこれに限らず、路面プロフィール取得部は、例えばGPSデータを基にしてサーバから情報を取得するものでもよく、車車間通信により他車から情報を取得するものでもよい。また、路面プロフィール取得部は、ばね上加速度センサ8による上下方向の振動加速度の検出値と、車高センサ9による車高の検出値とに基づき、路面情報(路面プロフィール)を推定してもよい。この場合、路面プロフィール取得部は、各種のセンサに加えて、ECU11,30,50内の演算部分によって構成される。
【0111】
前記各実施形態では、演算処理部13,32は、車両状態量と路面情報(路面プロフィール)に基づいて目標量(目標減衰力)を演算するものとした。本発明はこれに限らず、演算処理部は、路面情報を省き、車両状態量のみに基づいて目標量を演算してもよい。この場合、演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う。
【0112】
前記各実施形態では、目標量として目標減衰力を用いているが、目標減衰係数を用いてもよい。この場合、制御指令値取得部は、目標減衰係数に基づいて、可変ダンパ6に対する制御指令値を取得する。
【0113】
前記各実施形態では、車両には、所定の条件としてのモードを重み係数算出マップ14,33に入力するモードスイッチ17を設けるものとした。本発明はこれに限らず、例えば車両のメンテナンス時に外部の携帯端末から重み係数算出マップに所定の条件を入力してもよい。
【0114】
前記各実施形態では、力発生機構としてセミアクティブダンパからなる可変ダンパ6である場合を例に説明した。本発明はこれに限らず、力発生機構としてアクティブダンパ(電気アクチュエータ、油圧アクチュエータのいずれか)を用いるようにしてもよい。前記各実施形態では、車体1側と車輪2側との間で調整可能な力を発生する力発生機構を、減衰力調整式の油圧緩衝器からなる可変ダンパ6により構成する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、例えば力発生機構を液圧緩衝器の他に、エアサスペンション、スタビライザ(キネサス)、電磁サスペンション等により構成してもよい。
【0115】
前記各実施形態では、4輪自動車に用いる車両挙動装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば2輪、3輪自動車、または作業車両、運搬車両であるトラック、バス等にも適用できる。
【0116】
前記各実施形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【0117】
次に、上記実施形態に含まれる車両制御装置、車両制御方法および車両制御システムとして、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
【0118】
第1の態様としては、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御装置であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う。
【0119】
第2の態様としては、第1の態様において、前記学習結果は、ニューラルネットワークを用いて学習させる深層学習によって得られる重み係数である。
【0120】
第3の態様としては、第2の態様において、前記演算処理部は、複数の異なる重みを用いて前記深層学習をさせて得られる、複数の異なる重み係数が設定され、入力された所定の条件によって、前記複数の異なる重み係数のうち特定の重み係数を取得する重み係数取得部と、前記特定の重み係数が設定され、ニューラルネットワークを用いて学習をする前記演算を行う指令値取得部と、を備えている。
【0121】
第4の態様としては、第3の態様において、前記重み係数取得部は、モードスイッチから出力された前記所定の条件と、ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第1マップと、前記重み係数と、前記ゲインスケジューリングパラメータと、の関係性を示す第2マップと、を備えている。
【0122】
第5の態様としては、第3の態様において、前記目標量は、目標減衰力であり、前記制御指令値取得部は、前記目標減衰力と、前記力発生機構へ出力する指令値と、の関係性を示す減衰力マップである。
【0123】
第6の態様としては、第3の態様において、前記指令値取得部は、前記車輪のうち前輪に対する前輪用指令値取得部と、前記車輪のうち後輪に対する後輪用指令値取得部と、を備えている。
【0124】
第7の態様としては、第3の態様において、前記入力された車両状態量に基づいて、フィードバック制御をするための目標量を取得するフィードバック目標量取得部と、前記指令値取得部によって得られる目標量と、前記フィードバック目標量取得部によって得られる目標量と、に基づいて前記制御指令値取得部に出力する目標量を取得する調停部と、を備えている。
【0125】
第8の態様としては、第1の態様において、前記所定の評価手法は、評価関数を含み、前記評価関数は、前記車両の上下加速度を低周波成分と高周波成分に分離した構成を含んでいる。
【0126】
第9の態様としては、第1の態様において、前記目標量は、目標減衰力であり、前記制御指令値取得部は、前記目標減衰力と前記力発生機構へ出力する指令値との関係性を示す減衰力マップである。
【0127】
第10の態様としては、第1の態様において、前記演算処理部は、さらに、入力された路面情報(路面プロフィール)を加えて前記演算を行うものであり、複数の異なる車両状態量と複数の異なる路面情報に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う。
【0128】
第11の態様としては、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構を備える前記車両に適用される車両制御方法であって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理ステップと、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得ステップと、を備え、前記演算処理ステップは、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う。
【0129】
第12の態様としては、車両制御システムは、車両の車体と、前記車両の車輪と、の間の力を調整する力発生機構と、コントローラであって、入力された車両状態量に基づいて所定の演算を行い、目標量を出力する演算処理部と、前記目標量に基づいて前記力発生機構を制御するための制御指令値を取得する制御指令値取得部と、を備え、前記演算処理部は、複数の異なる車両状態量に対して、事前に準備された所定の評価手法を用いて得られる複数の目標量の組を入出力データの組として前記演算処理部に学習させることにより得られる学習結果を用いて前記演算を行う、コントローラと、を備えている。
【0130】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0131】
本願は、2020年3月18日付出願の日本国特許出願第2020-047947号に基づく優先権を主張する。2020年3月18日付出願の日本国特許出願第2020-047947号の明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
【符号の説明】
【0132】
1 車体 2 車輪 3 タイヤ 4 サスペンション装置 5 懸架ばね(スプリング) 6 可変ダンパ(力発生機構) 7 減衰力可変アクチュエータ 8 ばね上加速度センサ 9 車高センサ 10 路面計測センサ 11,30,50 ECU 12,31,51 コントローラ(車両制御装置) 13,32 演算処理部 14,33 重み係数算出マップ(重み係数取得部) 14A 第1マップ 14B 第2マップ 15 DNN(指令値取得部) 16 減衰力マップ(制御指令値取得部) 17 モードスイッチ 22,40 直接最適制御部 34 前輪用DNN(前輪用指令値取得部) 35 後輪用DNN(後輪用指令値取得部) 36 前輪減衰力マップ(制御指令値取得部) 37 後輪減衰力マップ(制御指令値取得部) 52 車両状態推定部 53 BLQ制御部(フィードバック目標量取得部) 54 学習度合い判断部 55 制御指令調停部(調停部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6