(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/239 20060101AFI20231129BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20231129BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20231129BHJP
【FI】
B60R21/239
B60R21/203
B60R21/2338
(21)【出願番号】P 2022516998
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2021015468
(87)【国際公開番号】W WO2021215331
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020077011
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】宮城 慶徳
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212839(WO,A1)
【文献】特開2016-013712(JP,A)
【文献】特開2016-022751(JP,A)
【文献】特開2010-173620(JP,A)
【文献】特開2013-193492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0088087(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の所定箇所に設けられるインフレータと、該インフレータからのガスを受給してステアリングホイールと運転席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置において、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員側に位置する乗員側パネルおよび前記ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルを含んで袋状に形成され前記ガスを蓄えるチャンバと、
前記ステアリング側パネルの所定箇所を所定の線に沿って切断され又は切り欠かれたガス排出部と、
前記チャンバの所定箇所にかけ渡される第1テザーとを有し、
前記第1テザーは、
前記チャンバの内側の前記乗員側パネルまたは該乗員側パネルの近傍に接続される一端部と、
前記ステアリング側パネルに接続される1または複数の他端部とを有し、
前記第1テザーの1または複数の他端部は、前記チャンバのステアリング側パネルのうち前記ガス排出部の縁部の近傍に接続され、
前記ガス排出部の縁部は、緊張した前記第1テザーによって該チャンバの内側に引込み可能な状態になっていて、
前記ガス排出部の縁部がチャンバの内側に引き込まれた状態における該ガス排出部の開口面積は、前記第1テザーが弛緩しているときよりも小さ
く、
前記第1テザーの1または複数の他端部の幅は、前記ガス排出部の長手方向の長さよりも小さいことを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記ガス排出部の縁部は、前記チャンバにガスが充満したとき、前記緊張した第1テザーによって該チャンバの内側に引き込まれることを特徴とする請求項1に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記第1テザーの一端部は、前記チャンバの乗員側パネルに接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグクッションはさらに、前記チャンバの内側において前記乗員側パネルと前記ステアリング側パネルとにかけ渡される第2テザーを有し、
前記第1テザーの一端部は、前記第2テザーの所定箇所に接続され、該第2テザーを介して前記乗員側パネルまたは該乗員側パネルの近傍に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記第1テザーは、帯状または紐状であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記第1テザーの1または複数の他端部は、前記ガス排出部を通って前記ステアリング側パネルの外側に露出した状態で該ステアリング側パネルの外側における前記ガス排出部の近傍に接続されていることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記エアバッグクッションはさらに、前記チャンバの外側にて前記ステアリング側パネルのガス排出部の周囲に取り付けられる第1補強パッチを備え、
前記第1テザーの1または複数の他端部は、前記第1補強パッチに接続されていることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグクッションはさらに、前記チャンバの外側にて前記ステアリング側パネルのガス排出部の周囲に取り付けられる第2補強パッチを備え、
前記第1テザーの1または複数の他端部は、前記第2補強パッチに一体につながっていることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグクッションはさらに、前記ガス排出部の一方側の縁部の近傍に形成された所定のスリットを有し、
前記第1テザーの1または複数の他端部は、前記スリットから前記チャンバの外側に露出して前記ガス排出部の上を渡った状態で該チャンバの外側における該ガス排出部の他方側の縁部の近傍に接続されていることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項10】
前記第1テザーの他端部は1つ設けられていて、
前記1つの他端部は、前記チャンバの外側における前記ガス排出部の縁部の近傍に接続され、
前記エアバッグクッションはさらに、前記ガス排出部の縁部のうち前記第1テザーの他端部が接続された縁部とは反対側の縁部の近傍に設けられた所定のループ部を有し、
前記第1テザーの一端部側は、前記ガス排出部の上を渡って前記ループ部で折り返した状態で該ガス排出部から前記チャンバの内側に挿入されていることを特徴とする請求項
9に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項11】
前記第1テザーの他端部は複数設けられていて、
前記複数の他端部は、前記ガス排出部の向かい合う縁部それぞれの近傍に接続されていることを特徴とする請求項1から
8のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項12】
前記ガス排出部は、直線状に切断され、長方形状に切り欠かれ、あるいは楕円状に切り欠かれていて、
前記第1テザーの複数の他端部は2本あり、
前記第1テザーの2本の他端部は、前記直線状、長方形状もしくは楕円状のガス排出部の縁のうち対向する2つの長辺それぞれの中央近傍に接続されることを特徴とする請求項
11に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項13】
前記ガス排出部は、前記ステアリング側パネルの所定箇所が複数の交わる線に沿って切断された状態になっていて、これにより前記ガス排出部の縁部には複数の自由端が形成されていて、
前記第1テザーの複数の他端部は、前記ガス排出部の縁部に形成された複数の自由端それぞれに接続されることを特徴とする請求項
11に記載の車両用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の緊急時に乗員を拘束する車両用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、袋状のエアバッグクッションをガス圧で膨張展開させて乗員を受け止めて保護する。
【0003】
車両用エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、前後方向からの衝突から運転者を守るために、ステアリングの中央にはフロントエアバッグ装置が設けられている。その他にも、側面衝突等による車幅方向からの衝撃から乗員を守るために、サイドウィンドウの上方の天井付近にはカーテンエアバッグ装置が設けられ、座席の側部にはサイドエアバッグ装置が設けられている。
【0004】
一般的なエアバッグ装置のエアバッグクッションには、ガスを供給するインフレータが併設されている他、ガスを外部に排出するベントホールが設けられている。現在では、ベントホールからのガス排出量を調節する機構なども開発されていて、エアバッグクッションの内圧は様々な要因に合わせて設定されている。
【0005】
例えば特許文献1では、
図8に開示されているように、エアバッグ19の排気口27の付近に内圧調節機構30を設けている。内圧調節機構30は、主に筒状の対向シート部34と2本のテザー32によって構成されている。特許文献1の技術によれば、テザー32が張って対向シート34の出口を引っ張ることで排気を抑制し、乗員がエアバッグ19に接触したときにテザー32が弛むことで対向シート34の出口から排気が行われると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1の内圧調節機構30は、エアバッグ19から突出し膨張する筒状の対向シート部34を設ける必要があり、構成が複雑なため、簡潔化およびコスト削減の点で改善の余地を残している。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成で乗員拘束性能および安全性の向上した車両用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用エアバッグ装置の代表的な構成は、
車両の所定箇所に設けられるインフレータと、インフレータからのガスを受給してステアリングホイールと運転席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置において、エアバッグクッションは、乗員側に位置する乗員側パネルおよびステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルを含んで袋状に形成されガスを蓄えるチャンバと、ステアリング側パネルの所定箇所を所定の線に沿って切断され又は切り欠かれたガス排出部と、チャンバの所定箇所にかけ渡される第1テザーとを有し、第1テザーは、チャンバの内側の乗員側パネルまたは乗員側パネルの近傍に接続される一端部と、ステアリング側パネルに接続される1または複数の他端部とを有し、第1テザーの1または複数の他端部は、チャンバのステアリング側パネルのうちガス排出部の縁部の近傍に接続され、ガス排出部の縁部は、緊張した第1テザーによってチャンバの内側に引込み可能な状態になっていて、ガス排出部の縁部がチャンバの内側に引き込まれた状態におけるガス排出部の開口面積は、第1テザーが弛緩しているときよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
上記のエアバッグクッションは、膨張展開が完了したときには、第1テザーが突っ張った状態になってガス排出部の開口面積が減る。そして、エアバッグクッションは、チャンバの乗員側パネルに乗員が接触したとき、第1テザーが緩んでガス排出部の開口面積が増える。そのため、エアバッグクッションは、乗員が接触するまでガスの排出量を減らしてチャンバの内圧を保持し、乗員がチャンバの乗員側パネルに接触したときにはガスの排出量を増やして乗員に与える負荷を抑えることができる。したがって、上記構成によれば、安価に実現可能な簡潔な構成で、乗員拘束性能および安全性の向上した車両用エアバッグ装置を提供することが可能になる。
【0011】
上記のガス排出部の縁部は、チャンバにガスが充満したとき、緊張した第1テザーによってチャンバの内側に引き込まれてもよい。
【0012】
上記構成によれば、ガス排出部の縁部がチャンバの内側に引き込まれることで、ガス排出部の開口面積を小さくし、ガスの排出量を抑えることが可能になる。
【0013】
上記の第1テザーの一端部は、チャンバの乗員側パネルに接続されてもよい。この構成によって、前述した作用効果を有するエアバッグクッションを好適に実現することができる。
【0014】
上記のエアバッグクッションはさらに、チャンバの内側において乗員側パネルとステアリング側パネルとにかけ渡される第2テザーを有し、第1テザーの一端部は、第2テザーの所定箇所に接続され、第2テザーを介して乗員側パネルまたは乗員側パネルの近傍に接続されていてもよい。この構成によっても、前述した作用効果を有するエアバッグクッションを好適に実現することができる。
【0015】
上記の第1テザーは、帯状または紐状であってもよい。この構成によって、簡潔な構成の第1テザーを実現することが可能である。
【0016】
上記の第1テザーの1または複数の他端部の幅は、ガス排出部の長手方向の長さよりも小さいとよい。この構成の第1テザーによれば、ガス排出部からのガスの排出を阻害しないため、好適である。
【0017】
上記の第1テザーの1または複数の他端部は、ガス排出部を通ってステアリング側パネルの外側に露出した状態でステアリング側パネルの外側におけるガス排出部の近傍に接続されていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、第1テザーが突っ張ったときに、ステアリング側パネルのガス排出部の周囲の領域をチャンバの内側に向かって、効率よく引き込むことが可能になる。
【0019】
上記のエアバッグクッションはさらに、チャンバの外側にてステアリング側パネルのガス排出部の周囲に取り付けられる第1補強パッチを備え、第1テザーの1または複数の他端部は、第1補強パッチに接続されていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、ガス排出部の周囲の領域を補強して破損を防ぎつつ、第1テザーが突っ張ったときにステアリング側パネルのガス排出部の周囲の領域をチャンバの内側に向かって効率よく引き込むことができる。
【0021】
上記のエアバッグクッションはさらに、チャンバの外側にてステアリング側パネルのガス排出部の周囲に取り付けられる第2補強パッチを備え、第1テザーの1または複数の他端部は、第2補強パッチに一体につながっていてもよい。
【0022】
上記構成によっても、ガス排出部の周囲の領域を補強して破損を防ぎつつ、第1テザーが突っ張ったときにステアリング側パネルのガス排出部の周囲の領域をチャンバの内側に向かって効率よく引き込むことができる。
【0023】
上記のエアバッグクッションはさらに、ガス排出部の一方側の縁部の近傍に形成された所定のスリットを有し、第1テザーの1または複数の他端部は、スリットからチャンバの外側に露出してガス排出部の上を渡った状態でチャンバの外側におけるガス排出部の他方側の縁部の近傍に接続されていてもよい。
【0024】
上記構成によっても、第1テザーを利用したガス排出部のガスの排出量の調節が実現可能になる。
【0025】
上記の第1テザーの他端部は1つ設けられていて、1つの他端部は、チャンバの外側におけるガス排出部の縁部の近傍に接続され、エアバッグクッションはさらに、ガス排出部の縁部のうち第1テザーの他端部が接続された縁部とは反対側の縁部の近傍に設けられた所定のループ部を有し、第1テザーの一端部側は、ガス排出部の上を渡ってループ部で折り返した状態でガス排出部からチャンバの内側に挿入されていてもよい。
【0026】
この構成によっても、第1テザーを利用したガス排出部のガスの排出量の調節が実現可能になる。
【0027】
上記の第1テザーの他端部は複数設けられていて、複数の他端部は、ガス排出部の向かい合う縁部それぞれの近傍に接続されていてもよい。
【0028】
上記構成によっても、ガス排出部の縁部がチャンバの内側に引き込まれることで、ガス排出部の開口面積を小さくし、ガスの排出量を抑えることが可能になる。
【0029】
上記のガス排出部は、直線状に切断され、長方形状に切り欠かれ、あるいは楕円状に切り欠かれていて、第1テザーの複数の他端部は2本あり、第1テザーの2本の他端部は、直線状、長方形状もしくは楕円状のガス排出部の縁のうち対向する2つの長辺それぞれの中央近傍に接続されてもよい。
【0030】
上記構成のガス排出部および第1テザーによれば、簡潔な構成で、エアバッグクッションの膨張展開が完了したときにはガスの排出量を抑え、エアバッグクッションに乗員が接触したときにはガスの排出量を増やすことが可能になる。
【0031】
上記のガス排出部は、ステアリング側パネルの所定箇所が複数の交わる線に沿って切断された状態になっていて、これによりガス排出部の縁部には複数の自由端が形成されていて、第1テザーの複数の他端部は、ガス排出部の縁部に形成された複数の自由端それぞれに接続されていてもよい。
【0032】
上記構成のガス排出部および第1テザーによっても、簡潔な構成で、エアバッグクッションの膨張展開が完了したときにはガスの排出量を抑え、エアバッグクッションに乗員が接触したときにはガスの排出量を増やすことが可能になる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、簡潔な構成で乗員拘束性能および安全性の向上した車両用エアバッグ装置を提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
【
図2】
図1(b)の膨張展開時のエアバッグクッションを各方向から例示した斜視図である。
【
図3】
図2(b)のサブテザーの周辺の構造を例示した図である。
【
図4】
図1(b)のエアバッグクッションの各断面図である。
【
図5】
図4のエアバッグクッションの乗員拘束時の様子を例示した図である。
【
図6】
図3のサブテザーの変形例を例示した図である。
【
図7】
図3(b)のベントホールの変形例を例示した図である。
【
図8】ステアリング側パネルのベントホールの周囲に取付可能な第1補強パッチを例示した図である。
【
図9】ステアリング側パネルのベントホールの周囲に取付可能な第2補強パッチを例示した図である。
【
図10】第2補強パッチの第2および第3変形例である。
【
図11】
図3(b)のベントホールおよびサブテザーのさらなる変形例である。
【
図12】
図5の第1テザーのさらなる変形例を例示した図である。
【
図13】
図3(a)の第1テザーのさらなる変形例を例示した図である。
【
図14】
図3(b)の第1テザーのさらなる変形例を例示した図である。
【
図15】
図2(a)のガス排出部のさらなる変形例を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0036】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置(以下、エアバッグ装置100)の概要を例示する図である。
図1(a)はエアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。以降、
図1その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0037】
本実施形態では、エアバッグ装置100を、左ハンドル車における運転席用(前列左側の座席102)のものとして実施している。以下では、前列右側の座席102を想定して説明を行うため、例えば車幅方向車外側(以下、車外側)とは車両左側を意味し、車幅方向内側(以下、車内側)とは車両右側を意味する。また、本実施形態に関しては、座席102に正規に着座した乗員から見て、正面の方向を「前」とし、背中側の方向を「後」として記載する。同様に、正規に着座した乗員の右手の方向を「右」とし、左手の方向を「左」として記載する。さらに、このときの乗員の身体の中心に対して、頭部に向かう方向を「上」とし、脚部に向かう方向を「下」とする。
【0038】
エアバッグ装置100のエアバッグクッション104(
図1(b)参照)は、折畳みや巻回等された状態で、座席102の正規着座位置の前方にて、ステアリングホイール106の中央のハブ108の内部に収容されている。ハブ108の内部には、エアバッグクッション104と共に、ガスを供給するインフレータ(図示省略)も収容されている。車両に衝撃が発生すると、不図示のセンサから信号がインフレータに送られ、インフレータからエアバッグクッション104にガスが供給される。
【0039】
図1(b)はエアバッグ装置100のエアバッグクッション104の膨張展開後の車両を例示した図である。エアバッグクッション104は、インフレータからのガスを受給すると、ハブ108の表面のカバー等を開裂してステアリングホイール106(
図1(a)参照)と運転席の乗員との間に膨張展開し、前方へ移動しようとする乗員の上半身や頭部を拘束する。エアバッグクッション104は、着座位置側から見て円形で、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することによって形成されている。
【0040】
図2は、
図1(b)の膨張展開時のエアバッグクッション104を各方向から例示した斜視図である。
図2(a)は、
図1(b)のエアバッグクッション104を車幅方向左上方から見て例示している。本実施形態におけるエアバッグクッション104は、おおよそ扁平な球形で、乗員側に位置する乗員側パネル114と、ステアリングホイール106(
図1(a)参照)側に位置するステアリング側パネル116とを含んで構成されている。乗員側パネル114およびステアリング側パネル116は共に円形で、互いの縁で接続され、ガスを蓄える部屋として1つの袋状のチャンバ105を形成している。なお、乗員側パネル114は乗員から見て手前に位置するためフロントパネルとも称呼され、ステアリング側パネル116は乗員から見て奥手に位置するためリアパネルとも称呼される。
【0041】
図2(b)は、
図2(a)のエアバッグクッション104をステアリング側パネル116側の車幅方向左上方から見て例示している。ステアリング側パネル116の中央には、インフレータ(図示省略)が一部挿入されるインフレータ挿入部118が設けられている。
【0042】
当該エアバッグ装置100のエアバッグクッション104には、特徴的な部位として、ステアリング側パネル116の上部に、直線状に細長く切り込まれたガス排出部120が設けられている。また、ガス排出部120の脇には、後述する第1テザー124(
図3参照)の他端部128a、128bが接続されている。第1テザー124はガス排出部120からのガスの排出量を変化させる部材であり、第1テザー124の他端部128a、128bはガス排出部120から露出してステアリング側パネル116の外側に接続されている。
【0043】
図3は、
図2(b)の第1テザー124の周辺の構造を例示した図である。
図3(a)は、エアバッグクッション104のチャンバ105の内部を透過して第1テザー124および第2テザー122を例示した図である。当該エアバッグクッション104のチャンバ105の内側には、複数のテザーとして、第2テザー122および第1テザー124が設けられている。これらテザーは、チャンバ105の内部にガスが充満したときに突っ張った状態になり、ステアリング側パネル116のガス排出部120の付近を当該チャンバ105の内側に引き込むことで、ガス排出部120の開口面積を減らしてガスの排出量を抑える。
【0044】
上述したチャンバ105の内部にガスが充満したときとは、ガスを供給するインフレータ(図示省略)の作動開始時から作動終了時までの間において、チャンバ105の内圧が乗員を拘束可能な値に到達した時点から以降の状態をいう。すなわち、上記ガスが充満した状態には、インフレータの作動終了時の状態だけでなく、インフレータの作動中における乗員を拘束可能な程度にチャンバ105の内圧が上昇した状態が含まれている。
【0045】
第2テザー122は、第1テザー124よりも幅の広い帯状に形成されていて、乗員側パネル114(
図2(b)参照)の内側のやや上部の箇所とステアリング側パネル116の内側のやや上部の箇所とにかけ渡される。このとき、第2テザー122は、突っ張ったときに前後左右に広がる平面を形成するようにして設置される。
【0046】
第1テザー124は、第2テザー122よりも幅の細い帯状の部材であって、1本の一端部126と、そこから二股に枝分かれした2本の他端部128a、128bとを有している。第1テザー124の一端部126は、第2テザー122の中央付近の箇所に接続されていて、第2テザー122を介して乗員側パネル114(
図2(b)参照)の内側およびステアリング側パネル116の内側に間接的に接続された状態になっている。
【0047】
第1テザー124の他端部128a、128bは、ガス排出部120(
図2(b)参照)を通ってチャンバ105の外側に露出した状態で、チャンバ105の外側におけるステアリング側パネル116のガス排出部120の近傍に接続される。
【0048】
図3(b)は、
図2(b)のガス排出部120と第1テザー124の他端部128a、128bとを拡大して例示した図である。上述したように、ガス排出部120は、ステアリング側パネル116の上部の箇所を直線状に切断することで形成されている。ガス排出部120の長手方向の端部130a、130bは、円形に開口していて、荷重の集中が避けられている。
【0049】
第1テザー124の他端部128a、128bは、ステアリング側パネル116のガス排出部120の縁部のうち、対向する2つの長辺120a、120bそれぞれの中央近傍に接続される。この構成によって、第1テザー124の他端部128a、128bは、第2テザー122(
図3(a)参照)と共に突っ張ったときに、ステアリング側パネル116のガス排出部120の周囲の領域を乗員側パネル114側、すなわちチャンバ105の内側に向かって、効率よく引き込むことができる。すなわち、ガス排出部120の縁部は、第1テザー124の緊張によって、チャンバ105(
図3(a)参照)の内側に引き込むことが可能な状態になっている。
【0050】
図4は、
図1(b)のエアバッグクッション104の各断面図である。
図4(a)は、
図1(b)のエアバッグクッション104のA-A断面図である。当該A-A断面図は、膨張展開が完了した状態における乗員拘束前のエアバッグクッション104の前後方向の縦断面である。
【0051】
第2テザー122および第1テザー124は、チャンバ105にガスが充満したときに突っ張った状態になる。このとき、乗員側パネル114のガス排出部120は、突っ張った第1テザー124の他端部128a、128b(
図3(b)参照)によって乗員側パネル114に向かってチャンバ105の内側に引き込まれることで、第1テザー124が弛緩しているときに比べて開口面積が減る。この作用によって、当該エアバッグクッション104は、乗員が接触するまでの間、ガス排出部からのガスの排出量を減らしてチャンバ105の内圧を高く保持することができる。
【0052】
第1テザー124の他端部128aの幅は、ガス排出部120の長手方向の長さよりも小さい構成になっている。この第1テザー124によれば、ガス排出部120に詰まったりガス排出部120を塞いだりすることが無いため、ガス排出部120からのガスの排出を阻害せず、好適である。
【0053】
図4(b)は、
図1(b)のエアバッグクッション104のB-B断面図である。当該B-B断面図は、
図4(a)と同じく乗員拘束前におけるエアバッグクッション104の前後方向の横断面である。
【0054】
チャンバ105にガスが充満すると、第2テザー122は前後方向に突っ張った状態になる。そして、第1テザー124は一端部126から第2テザー122に引っ張られて、ガス排出部120をチャンバ105の内側に引き込む。このとき、第1テザー124の二股の他端部128a、128bには、一端部126が引っ張られることで、二股が閉じて直線状になろうとする力が働く。これによって、ガス排出部120(
図3(b)参照)は開く動作が阻害され、開口面積が減らされる。
【0055】
なお、第1テザー124は、二股の他端部128a、128bそれぞれの長さを短めに設定すると、ガス排出部120を閉じる力が強まる。例えば、他端部128a、128bの長さは、第1テザー124の全体の長さの半分以下に設定することができる。
【0056】
図5は、
図4のエアバッグクッション104の乗員拘束時の様子を例示した図である。
図5(a)は、
図5(a)のエアバッグクッション104の乗員側パネル114に乗員132が接触したときの様子を概略的に例示している。エアバッグクッション104のチャンバ105は、乗員側パネル114に乗員132が接触すると、乗員132とステアリングホイール106(
図1(a)参照)との間に挟まれた状態となり、前後方向の寸法が縮む。すると、乗員側パネル114とステアリング側パネル116との距離が狭まることで、第2テザー122は緩んだ状態となり、同様に第1テザー124も弛んだ状態となる。これによって、ガス排出部120は、第1テザー124の他端部128a、128b(
図3(b)参照)によって引っ張られる力から解放され、開くことが可能になる。
【0057】
図5(b)は、
図4(b)のエアバッグクッション104の乗員側パネル114に乗員132が接触したときの様子を概略的に例示している。第2テザー122および第1テザー124が緩むことで、ガス排出部120は左右に開くようにして開口面積が増え、ガスの排出量が増える。
【0058】
以上のように、当該エアバッグクッション104は、膨張展開が完了したとき(
図4参照)には、第1テザー124が突っ張った状態になってガス排出部120の開口面積が減る。そして、エアバッグクッション104は、乗員側パネル114に乗員が接触したとき(
図5参照)には、第1テザー124が弛緩してガス排出部120の開口面積が増える。そのため、エアバッグクッション104は、乗員132が接触するまでガスの排出量を減らしてチャンバ105の内圧を保持し、乗員132が接触したときにはガスの排出量を増やして乗員132に与える負荷を抑えることができる。
【0059】
このように、当該エアバッグ装置100によれば、細長いガス排出部120および第1テザー124を含んだ安価に実現可能な簡潔な構成で、乗員拘束性能および安全性の向上を図ることが可能になっている。
【0060】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。
図9から
図15の各図では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0061】
図6は、
図3の第1テザー124の変形例を例示した図である。
図6(a)は、第1変形例の第1テザー160を例示した図である。第1テザー160では、一方の帯部材162の長手方向の中間の箇所にスリット164を設け、他方の帯部材166を通し、帯部材166の根本を帯部材162に接続させた構成になっている。この第1テザー160によっても、
図3の第1テザー124と同様の作用および効果を発揮することが可能である。
【0062】
図6(b)は、第2変形例の第1テザー180を例示した図である。第1テザー180では、一方の長手の紐部材182に、他方の短手の紐部材184を接続させることで二股の構造を実現している。この第1テザー180もまた、
図3の第1テザー124と同様の作用および効果を発揮することが可能である。特に、紐状の第1テザー180によれば、ガス排出部120の長手方向の長さに対してより小さい構成のため、ガス排出部120に対して詰まったり塞いだりするおそれが無く、ガスの排出に影響を与えない。
【0063】
図7は、
図3(b)のガス排出部120の変形例を例示した図である。
図7(a)は、第1変形例のガス排出部200を例示した図である。ガス排出部200は、ステアリング側パネル116の一部を長方形状に切り欠くことで形成されている。このガス排出部200によっても、
図3(b)のガス排出部120と同様の作用および効果を発揮することが可能である。
【0064】
図7(b)は、第2変形例のガス排出部220を例示した図である。ガス排出部220は、
図7(a)のガス排出部200と比べて、端が円弧の角丸長方形になっている。このガス排出部220の場合、内角が無いためガス圧の負荷が集まり難く、破損を好適に防ぐことができる。
【0065】
図7(c)は、第3変形例のガス排出部240を例示した図である。ガス排出部240は、アーモンド形に形成されている。ガス排出部240は、ステアリング側パネル116の一部を楕円状に切り欠くことで形成されている。ガス排出部240によっても、
図3(b)のガス排出部120と同様の作用および効果を発揮することが可能である。
【0066】
図8は、ステアリング側パネル116のガス排出部120の周囲に取付可能な第1補強パッチ260を例示した図である。
図8(a)は、第1補強パッチ260を単独で例示した図である。第1補強パッチ260は、ステアリング側パネル116と同じ基布を使用する等して角丸長方形に形成されていて、中央にスリット262を有している。第1補強パッチ260は、スリット262をガス排出部120(
図3(b)参照)に重ねてガス排出部120の周囲に縫製等によって取り付けることで、ガス排出部120の周囲をガス圧による破損から保護することができる。
【0067】
図8(b)は、
図8(a)の第1補強パッチ260の設置状態を例示した図である。第1テザー124の他端部128a、128bは、ガス排出部120(
図3(b)参照)と第1補強パッチ260のスリット262とを通ってチャンバ105の外部に露出し、第1補強パッチ260と共にステアリング側パネル116に縫製等によって接続させることができる。
【0068】
図8(c)は、
図8(b)の第1補強パッチ260および第1テザー124のC-C断面図である。第1補強パッチ260は、第1テザー124の他端部128a、128bと共に、チャンバ105の外側にてステアリング側パネル116のガス排出部120の周囲に取り付けられる。この構成によって、ガス排出部120の周囲の領域を補強して破損を防ぎつつ、第1テザー124が突っ張ったときにガス排出部120の周囲の領域をチャンバ105の内側に向かって効率よく引き込むことができる。
【0069】
図8(d)は、
図8(c)の第1補強パッチ260および第1テザー124の第1変形例である。第1テザー124の他端部128a、128bは、チャンバ105の内側からステアリング側パネル116および第1補強パッチ260に縫製することも可能である。この構成によっても、ガス排出部120の周囲の補強、およびガス排出部120の引込みを実現することが可能である。
【0070】
図8(e)は、
図8(c)の第1補強パッチ260および第1テザー124の第2変形例である。第1テザー124の他端部128a、128bは、ガス排出部120および第1補強パッチ260のスリット262を通った後、第1補強パッチ260の上側から下側に回り込んで、第1補強パッチ260と共にステアリング側パネル116に接続することも可能である。この構成によれば、第1テザー124の他端部128a、128bと第1補強パッチ260とをより強固に接続することが可能である。
【0071】
図8(f)は、
図8(c)の第1補強パッチ260および第1テザー124の第3変形例である。本変形例では、ステアリング側パネル116のうちガス排出部120の両脇に、スリット264a、264bが設けられている。
【0072】
第1テザー124の他端部128a、128bは、ガス排出部120および第1補強パッチ260のスリット262を通った後、さらにスリット264a、264bを通ってチャンバ105の内側に戻り、第1補強パッチ260と共にステアリング側パネル116に接続することも可能である。この構成によっても、第1テザー124の他端部128a、128bを、ステアリング側パネル116および第1補強パッチ260に強固に接続することが可能である。
【0073】
なお、
図8に例示した各形態において、第1テザー124は、1つの他端部128aのみを有し、その他端部128aのみが第1補強パッチ260等に接続された構成としても実施することができる。この構成によっても、ガス排出部120をチャンバ105の内側に引き込むことが可能である。
【0074】
図9は、ステアリング側パネル116のガス排出部120の周囲に取付可能な第2補強パッチ300を例示した図である。
図9(a)は、第2補強パッチ300を単独で例示した図である。第2補強パッチ300は、第1テザー124(
図9(b)参照)の他端部128a、128bと一体につながっている点で、
図8(a)の第1補強パッチ260と構成が異なっている。
【0075】
図9(b)は、
図9(a)の第2補強パッチ300の設置状態を例示した図である。第2補強パッチ300は、両脇の他端部128a、128bを折り返してスリット262およびガス排出部120(
図3(b)参照)に通し、ガス排出部120の周囲に縫製等することでステアリング側パネル116に設置することができる。
【0076】
図9(c)は、
図9(b)の第2補強パッチ300のD-D断面図である。第2補強パッチ300は、第1テザー124の他端部128a、128bと共に、チャンバ105の外側にてガス排出部120の周囲に取り付けられる。この構成によって、ガス排出部120の周囲の領域を補強して破損を防ぎつつ、第1テザー124が突っ張ったときにガス排出部120の周囲の領域をチャンバ105の内側に向かって効率よく引き込むことができる。
【0077】
図9(d)は、
図9(c)の第2補強パッチ300の第1変形例である。第1テザー124の他端部128a、128bは、スリット264a、264bを通ってチャンバ105の内側に挿入した状態で、第2補強パッチ300と共にステアリング側パネル116に接続することも可能である。この構成によっても、第1テザー124の他端部128a、128bを、ステアリング側パネル116および第1補強パッチ260に強固に接続することが可能である。
【0078】
図10は、第2補強パッチ300の第2および第3変形例である。
図10(a)は、第2変形例の第2補強パッチ320を例示している。第2補強パッチ320は、第1テザー124(
図3(a)参照)の他端部128a、128bそれぞれに、湾曲した形状のパッチ320a、320bが一体化した構成になっている。
【0079】
図10(b)は、
図10(a)の第2補強パッチ320の設置例である。第2補強パッチ320は、他端部128a、128bをガス排出部120に挿入し、パッチ320a、320bをガス排出部120の周囲に円形になるよう配置して接合することで設置される。第2補強パッチ320によっても、ガス排出部120の周囲を好適に補強することが可能である。
【0080】
図10(c)は、第3変形例の第2補強パッチ340を例示している。第2補強パッチ340は、第1テザー124(
図3(a)参照)の他端部128a、128bそれぞれに、角張った形状のパッチ340a、340bが一体化した構成になっている。
【0081】
図10(d)は、
図10(c)の第2補強パッチ340の設置例である。第2補強パッチ340は、他端部128a、128bをガス排出部120に挿入し、パッチ340a、340bをガス排出部120の周囲に矩形になるよう配置して接合することで設置される。第2補強パッチ340によっても、ガス排出部120の周囲を好適に補強することが可能である。
【0082】
なお、
図9、10に例示した各形態においては、第1テザー124には1つの他端部128aのみが設けられていて、各形態の一対の第2補強パッチのうちいずれか一方にのみ当該端部128aが一体化した構成を実施することも可能である。この構成によっても、ガス排出部120をチャンバ105の内側に引き込むことが可能である。
【0083】
図11は、
図3(b)のガス排出部120および第1テザー124のさらなる変形例である。
図11(a)は、三つ股のガス排出部360および第1テザー362を例示している。ガス排出部360は、ステアリング側パネル116の所定箇所を3つの直線が一点で交わるよう切断した状態になっている。また、第1テザー362は、三つ股の他端部362a~362cを有している。
【0084】
ガス排出部360の縁部には、3本の直線が交わることによって、3つの自由端360a~360cが形成されている。第1テザー362の他端部362a~362cは、ガス排出部360の自由端360a~360cそれぞれに接続されている。
【0085】
ガス排出部360および第1テザー362によっても、チャンバ105(
図4参照)の内部にガスが充満したとき、突っ張った第1テザー362によってガス排出部360の自由端360a~360cをチャンバ105の内側に引き込み、ガス排出部360を窄まらせてガスの排出量を抑えることができる。そして、チャンバ105の乗員側パネルに乗員132(
図5参照)が接触したときには、第1テザー362を緩ませてガス排出部360を大きく開口させ、ガスの排出量を増やすことが可能になる。
【0086】
図11(b)は、四つ股のガス排出部380および第1テザー382を例示している。ガス排出部380は、ステアリング側パネル116の所定箇所を4つの直線が一点で交わるよう切断した状態になっていて、縁部に4つの自由端380a~380dが形成されている。また、第1テザー382は、四つ股の他端部382a~382dそれぞれが、ガス排出部380の自由端380a~380dに接続されている。
【0087】
ガス排出部380および第1テザー382によっても、チャンバ105(
図4参照)の内部にガスが充満したとき、突っ張った第1テザー382によってガス排出部380の自由端380a~380cをチャンバ105の内側に引き込み、ガス排出部380を窄まらせてガスの排出量を抑えることができる。そして、エアバッグクッション104に乗員132(
図5参照)が接触したときには、第1テザー382を緩ませてガス排出部380を大きく開口させ、ガスの排出量を増やすことが可能になる。
【0088】
図12は、
図5の第1テザー124のさらなる変形例(第1テザー400)を例示した図である。
図12(a)は、
図5(a)に対応して変形例の第1テザー400を例示した図である。第1テザー400の一端部402は、チャンバ105の乗員側パネル114に直接的に接続されている。したがって、本変形例では、第2テザー122(
図5(a)参照)が省略されている。
【0089】
本変形例においても、乗員側パネル114に乗員132が接触してチャンバ105の前後方向の寸法が縮むと、第1テザー400は弛んだ状態になり、ガス排出部120は第1テザー124によって引っ張られる力から解放され、ガス排出部120の開口面積が増える。
【0090】
図12(b)は、
図5(b)に対応して変形例の第1テザー400を例示した図である。上述したように、第1テザー400が緩むことで、ガス排出部120は左右に開くようにして開口面積が増え、ガスの排出量が増える。このように、第2テザー122(
図5(b)参照)を省略した第1テザー400のみのより簡潔な構成によっても、エアバッグクッション104の乗員拘束性能および安全性の向上を図ることが可能である。
【0091】
なお、第1テザー400の一端部402は、乗員側パネル114に接続させるだけでなく、例えばチャンバ105が乗員側パネル114およびステアリング側パネル116以外の他のパネルも含んでいる場合には、乗員側パネル114の近傍の他のパネルに接続させることもできる。いずれの構成においても、乗員が乗員側パネル114に接触したときに、ガス排出部120に対して距離が近づく箇所に第1テザー400の一端部402を接続させることで、乗員の拘束に連動してガス排出部120の開口面積を増やすことが可能になる。
【0092】
図13は、
図3(a)の第1テザー124のさらなる変形例(第1テザー420)を例示した図である。第1テザー420は、第1テザー124(
図3(a)参照)と異なり、一端部422の幅方向が第2テザー122の幅方向と一致する向きで第2テザー122に接続されている。この構成の第1テザー420によっても、第1テザー124と同様の作用および効果を生じさせることが可能である。
【0093】
図14は、
図3(b)の第1テザー124のさらなる変形例を例示した図である。
図14(a)は、変形例の第1テザー440を例示した図である。第1テザー440は、
図3(b)の第1テザー124と異なり、他端部442が枝分かれしていない。第1テザー440の他端部442は、チャンバ105(
図2(b)参照)の外側において、ステアリング側パネル116のうちガス排出部120の一方の縁部の近傍に接続されている。
【0094】
本変形例では、ステアリング側パネル116は、ガス排出部120の縁部のうち第1テザー440の他端部442が接続された縁部とは反対側の縁部の近傍に、スリット444が形成されている。第1テザー449の一端部側(図示省略)は、ガス排出部120の上を渡った状態で、スリット444からチャンバ105(
図2(b)参照)の内側に挿入されている。チャンバ105の内部では、第1テザー440の一端部は、
図3(a)の第2テザー122に接続させてもよいし、
図12(a)の第1テザー400のように乗員側パネル114に直接的に接続させてもよい。
【0095】
上記の他端部442が枝分かれしていない第1テザー440を利用した構成においても、乗員が乗員側パネル114に接触するまでガス排出部120の縁部を第1テザー440によってチャンバ105の内側に引き込むことで、ガス排出部120からのガスの排出量を減らしてチャンバ105の内圧を保持できる。そして、乗員が乗員側パネル114に接触したときには、第1テザー440が緩むことでガス排出部120の縁部を解放し、ガス排出部120からのガスの排出量を増やして乗員に与える負荷を抑えることができる。したがって、上記構成によっても、安価に実現可能な簡潔な構成で、乗員拘束性能および安全性の向上した車両用エアバッグ装置を提供することが可能になる。
【0096】
図14(b)は、変形例の第1テザー460を例示した図である。本変形例ではさらに、ステアリング側パネル116のガス排出部120の縁部のうち第1テザー460の他端部462が接続された縁部とは反対側の縁部の近傍に、ループ部464が設置されている。ループ部464は、帯状の布材の両端近傍を、四角形の破線で例示する所定の縫製部によってステアリング側パネル116に縫い付けることで形成されている。ループ部464の当該縫製部の間の範囲はステアリング側パネル116から離間していて、第1テザー460を通すことが可能になっている。
【0097】
第1テザー460の一端部側(図示省略)は、ガス排出部120の上を渡ってループ部464で折り返した状態でループ部464とステアリング側パネル116の間の空間を通り抜け、ガス排出部120からチャンバ105(
図2(b)参照)の内側に挿入されている。チャンバ105の内部では、第1テザー460の一端部は、
図3(a)の第2テザー122に接続させてもよいし、
図12(a)の第1テザー400のように乗員側パネル114に直接的に接続させてもよい。
【0098】
第1テザー460を利用した構成においても、乗員が乗員側パネル114に接触するまでガス排出部120の縁部を第1テザー460によってチャンバ105の内側に引き込むことで、ガス排出部120のガスの排出量を減らしてチャンバ105の内圧を保持できる。そして、乗員が乗員側パネル114に接触したときには、第1テザー460が緩むことでガス排出部120の縁部を解放し、ガス排出部120からのガスの排出量を増やして乗員に与える負荷を抑えることができる。したがって、上記構成によっても、安価に実現可能な簡潔な構成で、乗員拘束性能および安全性の向上した車両用エアバッグ装置を提供することが可能になる。
【0099】
図15は、
図2(a)のガス排出部120のさらなる変形例を例示した図である。
図15(a)は、1つのステアリング側パネル116に2つのガス排出部500、502を設けた例である。2つのガス排出部500、502を設けた場合は、第1テザー124(
図3(b)参照)を2つ設けたり、1つの第1テザー124の他端部128a、128bそれぞれをガス排出部500、502それぞれの縁部に接続させたりすることが可能である。そのとき、2つの第1テザー124の一端部126は、1つの第2テザー122に接続させてもよいし、
図12(a)の第1テザー400のように乗員側パネル114にそれぞれ接続させてもよい。
【0100】
図15(b)は、1つのステアリング側パネル116に3つのガス排出部500、502、504を設けた例である。3つのガス排出部500、502、504を設けた場合は、第1テザー124(
図3(b)参照)を3つ設けたり、当該第1テザー124の他端部を三股の構造にしてそれぞれガス排出部500、502、504に接続させたりすることが可能である。これらのように、ガス排出部を設ける数やその位置は、チャンバ105の内圧や周囲の構造物を避けてガスが排出できる位置などに応じて、適宜設定することが可能である。
【0101】
図15(c)は、1つのステアリング側パネル116に1つのガス排出部120と2つのベントホール520、522を設けた例である。ベントホール520、522もまた、チャンバ105の内部からガスを排出する部位である。ガス排出部120は、ベントホール520、522と合わせて設置することで、チャンバ105の内圧をより目的に合わせて調節することが可能になる。
【0102】
図15(d)は、1つのステアリング側パネル116に1つのガス排出部540と1つのベントホール542を設けた例である。ベントホールは、その径を大きくすることで、ガスの排出量を変更することができる。例えば、ベントホール542は、
図15(c)のベントホール520よりも、径が大きい。このように、ベントホールの径の寸法、およびベントホールの位置や数は、チャンバ105の目的とする内圧の値や周囲の構造物を避けてガスが排出できる位置などに合わせて、適宜設定することが可能である。
【0103】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0104】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、緊急時に乗員を拘束するエアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
100…エアバッグ装置、102…座席、104…エアバッグクッション、105…チャンバ、106…ステアリングホイール、108…ハブ、114…乗員側パネル、116…ステアリング側パネル、118…インフレータ挿入部、120…ガス排出部、120a、120b…ガス排出部の長辺、122…第2テザー、124…第1テザー、126…一端部、128a、128b…他端部、130a、130b…ガス排出部の端部、132…乗員、160…第1変形例の第1テザー、162…一方の帯部材、164…スリット、166…他方の帯部材、180…第2変形例の第1テザー、182…一方の紐部材、184…他方の紐部材、200…第1変形例のガス排出部、220…第2変形例のガス排出部、240…第3変形例のガス排出部、260…第1補強パッチ、262…スリット、264a、264b…スリット、300…第2補強パッチ、320…第2変形例の第2補強パッチ、320a、320b…パッチ、340…第3変形例の第2補強パッチ、340a、340b…パッチ、360…変形例のガス排出部、360a~360c…自由端、362…変形例の第1テザー、362a~362c…他端部、380…変形例のガス排出部、380a~380d…自由端、382…変形例の第1テザー、382a~382d…他端部、400…変形例の第1テザー、402…一端部、420…変形例の第1テザー、422…一端部、440…変形例の第1テザー、442…他端部、444…スリット、460…変形例の第1テザー、462…他端部、464…ループ部、500、502、504…変形例のガス排出部、520、522…ベントホール、540…変形例のガス排出部、542…ベントホール