(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】加工性及び耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼板及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20231129BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20231129BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231129BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20231129BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20231129BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20231129BHJP
C22C 38/14 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C23C2/12
C22C21/00 M
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/00 302X
C22C38/04
C23C2/28
C23C2/40
C22C38/14
(21)【出願番号】P 2022537898
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 KR2020018719
(87)【国際公開番号】W WO2021125901
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172300
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】イ、 スク-キュ
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ヒョン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミョン-ス
(72)【発明者】
【氏名】ミン、 クワン-チ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 デ-ヤン
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041610(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083814(KR,A)
【文献】特開2004-059968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C23C 2/40
C23C 2/28
C22C 21/00
C22C 38/00
C22C 38/04
C22C 38/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;及び
前記素地鋼板上に形成された単層の合金化めっき層を含み、
前記合金化めっき層は、重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含み、
前記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、前記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で前記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項2】
素地鋼板;
前記素地鋼板上に形成された合金化めっき層を含み、
前記合金化めっき層は、
重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第1合金化めっき層;及び
重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第2合金化めっき層を含み、
前記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、前記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で前記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記合金化めっき層の厚さは5~25μmである、請求項1に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記合金化めっき層は、Fe
2Al
5の合金相を80%以上含む、請求項1または3に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項5】
前記合金化めっき層内のAl含有量は40~60%である、請求項1及び3~4のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項6】
前記第2合金化めっき層内のZn含有量が前記第1合金化めっき層内のZn含有量よりも大きい、請求項2に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項7】
前記第1合金化めっき層内のZn含有量は1~20%であり、
前記第2合金化めっき層内のZn含有量は1.5~22%である、請求項2または6に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項8】
前記第1合金化めっき層内のAl含有量は40~60%であり、
前記第2合金化めっき層内のAl含有量は40~65%である、請求項2及び6~7のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項9】
前記第1合金化めっき層の厚さは1~25μmであり、
前記第2合金化めっき層の厚さは4~20μmである、請求項2及び6~8のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項10】
前記第1合金化めっき層は、Fe
2Al
5の合金相を80%以上含み、
前記第2合金化めっき層は、FeAl
3の合金相を80%以上含む、請求項2及び6~9のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項11】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:0.5~8%、B:50ppm以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項12】
熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階;
前記素地鋼板を、重量%で、Zn:3~30%、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬してアルミニウムめっき鋼板を得る段階;
アルミニウムめっき後、200~300℃で加熱された空気を前記アルミニウムめっき鋼板に供給してアルミニウムめっき鋼板の表面に酸化皮膜を形成する冷却段階;及び
前記冷却後に連続して650~750℃の加熱温度の範囲で1~20秒維持して熱処理するオンライン(on-line)合金化によってアルミニウム系めっき鋼板を得る段階;を含む、アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム系めっき鋼板の合金化めっき層をなすFe含有量[wt%Fe]が下記関係式1を満た
す、請求項12に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
[関係式1]
150-0.4×[T]+3.3×10
-4×[T]
2-0.38×[wt%Zn]≦[wt%Fe]≦180-0.4×[T]+3.3×10
-4×[T]
2-0.38×[wt%Zn]
(前記関係式1において、[T]は合金化熱処理温度(℃)を表し、[wt%Zn]はめっき浴におけるZn重量%含有量を表し、[wt%Fe]は合金化めっき層におけるFe重量%含有量を表す。)
【請求項14】
前記酸化皮膜は、表面に溶融アルミニウムめっき層の全厚さに対して10%以上形成される、請求項12または13に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる、熱間成形部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性及び耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼板及びこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱間成形のためにアルミニウム(Al)めっき鋼板や亜鉛(Zn)めっき鋼板が用いられているが、マイクロクラックが発生したり、熱処理時に形成された合金相によって耐食性が低下する問題点があった。また、熱間成形時にめっき層の液化が発生してロールに融着する問題点があり、900℃まで急速に昇温させることができず、生産性が低下する問題もあった。また、アルミニウムめっき鋼板の場合には、アルミニウムの犠牲防食性がないため、加工後の耐食性が問題となる場合がある。
【0003】
このような耐食性及び熱間成形性を改善するために、従来では、めっき浴中にSiを4%以下添加し、合金化温度700℃及び合金化時間20秒にしてめっき層を合金化したアルミニウム合金化めっき鋼板が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記条件では、合金化時間が20秒と長時間かかるため、実践で合金化処理することに困難があり、合金化後に強い冷却が必要であるという問題点がある。また、Si含有量が減少するにつれてめっき浴温度が700℃程度と非常に高くなるため、めっき浴に浸漬されているシンクロールなどの構造物の耐久性が著しく低下する問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第1997-0043250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面によると、熱間成形時に発生するマイクロクラックの発生を抑制し、かつ焼付性及び耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼板及びこの製造方法を提供しようとする。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書の全体にわたる内容から本発明のさらなる課題を理解するのに困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、
素地鋼板;及び
上記素地鋼板上に形成された単層の合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層は、重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含み、
上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板を提供する。
【0009】
また、本発明の他の一側面は、
素地鋼板;
上記素地鋼板上に形成された合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層は、
重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第1合金化めっき層;及び
重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第2合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板を提供する。
【0010】
また、本発明の他の一側面は、
熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階;
上記素地鋼板を、重量%で、Zn:3~30%、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬してアルミニウムめっき鋼板を得る段階;
アルミニウムめっき後、200~300℃で加熱された空気を上記アルミニウムめっき鋼板に供給してアルミニウムめっき鋼板の表面に酸化皮膜を形成する冷却段階;及び
上記冷却後に連続して650~750℃の加熱温度範囲で1~20秒維持して熱処理するオンライン(on-line)合金化によってアルミニウム系めっき鋼板を得る段階;を含む、アルミニウム系めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明の他の一側面は、上述したアルミニウム系合金めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間成形部材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、熱間成形時に発生するマイクロクラックを抑制し、焼付性及び耐食性を向上させたアルミニウム系合金めっき鋼板及びこれを用いた熱間成形部材を効果的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一側面による製造方法を実現する製造装置を概略的に示した図面である。
【
図2】Siを7%程度添加し、Znを添加しなかった従来技術に該当するアルミニウム系合金めっき鋼板の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真である。
【
図3】発明例1によって製造されたアルミニウム系合金めっき鋼板の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真である。
【
図4】発明例6によって製造されたアルミニウム系合金めっき鋼板の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の一側面であるアルミニウム系合金めっき鋼板について詳細に説明する。
【0015】
従来技術により製造されるアルミニウム系合金めっき鋼板は、熱間成形過程でマイクロクラックが発生したり、熱間成形中にロールの融着が発生するなど熱間成形性が良好でなく、また、めっき鋼板の耐食性が足りない問題があった。
【0016】
このような問題を解決するために、従来では、耐食性及び熱間成形性の改善のためにめっき浴にSiを4%以下添加した。しかし、このようにAlめっき浴にSiが少量添加される場合には、Fe-Al合金相にSiが含まれるため、Feの拡散を抑制して20秒以下の短時間で合金化が行われないという問題があり、また、めっき浴の温度が高すぎることによって構造物の耐久性が低下するなどの問題を解決することができなかった。
【0017】
そこで、本発明者らは上述した従来技術の問題点を解決するために鋭意検討した結果、合金化めっき層の表面と、母材側に接する最下端の距離に対して特定地点となる線を基準として、上部側に素地鋼板の領域が占める面積を特定量以上確保することにより、上述した従来技術の問題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
具体的には、本発明に係るアルミニウム系合金めっき鋼板は、合金化めっき層が単層であるか、或いは2層である場合を含み、以下では各場合を分けて説明する。
【0019】
[合金化めっき層が単層である場合]
本発明の一側面は、
素地鋼板;及び
上記素地鋼板上に形成された単層の合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層は重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含み、
上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板を提供する。
【0020】
本発明の一側面に係るアルミニウム系合金めっき鋼板は、素地鋼板及び素地鋼板上に形成された単層または2層の合金化めっき層(第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層)を含むことができ、上記単層または2層の合金化めっき層は、素地鋼板の一面または両面に形成されてもよい。
【0021】
また、本発明の一側面によると、素地鋼板をアルミニウムめっき浴に浸漬してめっきした後、合金化熱処理の過程を経ると、素地鋼板のFe及び/またはMnがめっき層に拡散する。このような拡散の結果、めっき層に合金化が起こり、これによって素地鋼板上に特定組成を有する単層または2層の合金化めっき層が形成される。
【0022】
以下では、本発明の一側面に係るアルミニウム系合金めっき鋼板が合金化めっき層を単層で形成する場合について説明する。
【0023】
すなわち、本発明の一側面による合金化めっき層が単層である場合、上記合金化めっき層は重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0024】
また、本発明の一側面によると、合金化めっき層が単層である場合に、合金化めっき層の組成は重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物からなってもよい。
【0025】
本発明の一側面に係る単層の合金化めっき層において、上記Znはめっき鋼板の焼付性及び耐食性を向上させるだけでなく、合金化処理後の合金化めっき層の密着性を向上させる役割を果たす。したがって、本発明のめっき鋼板では、合金化めっき層内のZn含有量が1~20%であることが好ましい。本発明において、上記合金化めっき層内のZn含有量が1%未満であると、焼付性及び耐食性の向上の効果が期待できず、上記合金化めっき層内のZn含有量が20%を超えると、合金化処理後のめっき層の密着性が低下する問題がある。
【0026】
一方、本発明の一側面によると、上記単層の合金化めっき層において、上記Zn含有量の下限は、好ましくは5%であり、より好ましくは10%であってもよい。また、上記Zn含有量の上限は、好ましくは18%であり、より好ましくは15%であってもよい。
【0027】
また、本発明の一側面によると、上記単層の合金化めっき層において、上記Mn含有量は5%以下であり、0%である場合を含むことができる。すなわち、本発明において、合金化めっき層内に存在するMnは素地鋼板に存在するMnが合金化処理によって流入したものであり、Mn含有量の下限は特に限定されない。但し、Mn含有量の上限は未めっき発生抑制のためのめっき性確保の面から、5%以下であることが好ましい。一方、より好ましくは、上記単層の合金化めっき層において、Mn含有量は2~5%であってもよい。
【0028】
また、本発明の一側面によると、上記単層の合金化めっき層において、上記Si含有量は0.1%未満であってもよく、0%である場合を含む。すなわち、本発明では、溶融めっき浴に追加の元素としてSiなどの元素を0.1%未満含むことができ、Siを含まない場合も可能であるため、その下限は別途限定しない。一方、上述した加工時のクラックの抵抗性確保という側面から、上記Si含有量は0.1%未満であることが好ましい。一方、より好ましくは、上記単層の合金化めっき層におけるSi含有量の上限は、0.09%(すなわち、0.09%以下)であってもよい。
【0029】
また、本発明の一側面によると、上述した合金化処理によってFe及び/またはMnの拡散により、単層の合金化めっき層において、Al含有量は40~60であり、Fe含有量は35~50%であることが好ましい。上述した組成を満たすことにより、本発明において目的とする焼付性、耐食性を確保することができ、また、めっき層の密着性も確保することができる。
【0030】
一方、本発明の一側面によると、上述した単層の合金化めっき層において、Al含有量は43~60%であることがめっき密着性の確保の側面でより好ましい。
【0031】
また、本発明の一側面によると、上記単層の合金化めっき層の厚さは5~25μmであってもよい。上記合金化めっき層の厚さが5μm以上であると、耐食性を確保することができ、25μm以下であると、溶接性を確保することができる。したがって、本発明において合金化めっき層の厚さは5~25μmであることが好ましく、より好ましくは上記合金化めっき層の下限は10μmであってもよく、上記合金化めっき層の上限は20μmであってもよい。
【0032】
一方、本発明の一側面によると、上記単層の合金化めっき層は、上述した製造過程中でめっき後の合金化処理によって、素地鋼板のFe及び/またはMnは、Al及びZnの含有量が高いアルミニウムめっき層に拡散し、その結果、主にFe及びAlの金属間化合物からなる合金化めっき層を形成することができる。
【0033】
具体的には、本発明の一側面によると、上述した合金化めっき層が単層である場合、合金化めっき層を主に成すFe-Al系金属間化合物の合金相がFe2Al5であることが好ましい。すなわち、上記単層の合金化めっき層は、Fe2Al5の合金相を80%以上含むことができ、より好ましくはFe2Al5の合金相を90%以上含むことができる。したがって、上記単層の合金化めっき層は、Fe2Al5をベースとする(すなわち、80%以上がFe2Al5となる)Zn、Mn及び/またはSiなどが固溶した合金相からなってもよい。
【0034】
本明細書において、上記合金相からなるということは、その他の不可避不純物が含まれてもよく、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を含むことができることを包含する。
【0035】
一方、合金化めっき層が単層で形成される場合として、本発明に係るアルミニウム系合金めっき鋼板は、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比(As)が30%以上である。
【0036】
本明細書において、上記合金化めっき層の最下端線は、鋼板の厚さ方向に垂直な方向に合金化めっき層の最下端を描いた線を意味する。また、本発明の一側面によると、上記最下端線は、上記表面粗さ中心線と水平になるように描いた線を意味する場合もある。
【0037】
具体的には、本発明に係る合金化めっき層が単層で形成される場合を
図4に示し、
図4に示したように、単層である合金化めっき層は、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で、上記素地鋼板が占める面積の比(As)が30%以上となるように、合金化めっき層と素地鋼板との界面が鋸歯状に形成される。
【0038】
本発明の一側面に係る合金化めっき層は、母材である素地鋼板との境界を上述したように鋸歯の形態で形成することによって、加工時のクラックが誘発されることを抑制することができるため、優れたクラック抵抗性を確保することができる。
【0039】
このとき、上記合金化めっき層が単層である場合、As値は、その値が大きいほど加工時のクラック抵抗性の効果がより優れるという点から、その上限を別途限定しなくてもよい。但し、より好ましくは、上記As値の上限は80%(最も好ましくは60%)であってもよい。
【0040】
本発明において、素地鋼板上に合金化めっき層が形成されるとは、素地鋼板上に合金化めっき層が接するように形成されることを意味する。なお、本発明において、合金化めっき層が単一層で形成されるということは、合金化めっき層として単一の層を形成するという意味であって、上記合金化めっき層上に他の層を備えることができないという意味ではない。
【0041】
[合金化めっき層が2層である場合]
一方、以下では、本発明の他の一側面に係るアルミニウム合金めっき鋼板が2層に形成された合金化めっき層を含む場合について説明する。
【0042】
具体的には、本発明の他の一側面は、
素地鋼板;
上記素地鋼板上に形成された合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層は、
重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第1合金化めっき層;及び
重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む第2合金化めっき層を含み、
上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上である、アルミニウム系合金めっき鋼板を提供する。
【0043】
上記合金化めっき層が2層である場合として、第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層を形成するという点を除いては、上述した単層の合金化めっき層が備えられる場合に関する説明を同様に適用することができる。
【0044】
本発明の一側面によると、合金化めっき層が第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層を含む2層で形成される場合には、
上記第1合金化めっき層は重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物を含み、
上記第2合金化めっき層は重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物を含む組成を有する。
【0045】
具体的には、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層は、上記素地鋼板上に形成される合金化めっき層として、重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、及びMn:5%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Alを含み、これ以外のその他の不可避不純物及び本発明の目的を損なわない範囲で他の元素を含むことができる。また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層は重量%で、Fe:35~50%、Zn:1~20%、Mn:5%以下、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物からなってもよい。また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層において、Al含有量は、重量%で、40~60%であり、より好ましくは43~60%であってもよい。一方、上記第1合金化めっき層において、上記Al含有量を満たすことによって目的とする焼付性、耐食性及びめっき層の密着性を容易に確保することができる。
【0046】
同様に、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層において、Fe含有量は、重量%で、35~50%であることが好ましく、第1合金化めっき層において上記Fe含有量を満たすことにより目的とする焼付生、耐食性及びめっき層の密着性を容易に確保することができる。
【0047】
本発明の一側面によると、上記第2合金化めっき層は、上記第1合金化めっき層上に形成され、上記第1合金化めっき層とは区分される合金化めっき層として、重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、及び残部Alを含み、これ以外のその他の不可避不純物及び本発明の目的を損なわない範囲で他の要素を含むことができる。また、本発明の一側面によると、上記第2合金化めっき層は、重量%で、Fe:30~40%、Zn:1~22%、Mn:2%以下(0%を含む)、Si:0.1%未満(0%を含む)、残部Al及びその他の不可避不純物からなってもよい。
【0048】
また、本発明の一側面によると、上記第2合金化めっき層において、Al含有量は、重量%で、40~65%であってもよく、好ましくは44~65%であってもよく、より好ましくは44~60%であってもよい。一方、上記第2合金化めっき層において、上記Al含有量を満たすことによって目的とする焼付生、耐食性及びめっき層の密着性を容易に確保することができる。
【0049】
また、本発明の一側面によると、上記第2合金化めっき層において、Fe含有量は、重量%で、30~40%であることが好ましく、32~40%であることがより好ましい。第2合金化めっき層において上記Fe含有量を満たすことによって目的とする焼付生、耐食性及びめっき層の密着性を容易に確保することができる。
【0050】
すなわち、本発明の一側面によると、第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層が上述した特定組成を有することにより、めっき鋼板の焼付性及び耐食性を向上させることができるだけでなく、合金化処理後のめっき層の密着性という本発明が目的とする効果を発揮することができる。したがって、上述した第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層の組成として、いずれか一つの成分含有量でも満たすことができない場合には、本発明による優れた焼付性、耐食性及び密着性の効果が期待できない。
【0051】
また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層において、上記Si含有量は、0.1%未満であってもよく、0%である場合を含む。すなわち、本発明では、溶融めっき浴に追加の元素としてSiなどの元素を0.1%未満含むことができ、Siを含まない場合も可能であるため、その下限は別途限定しない。一方、上述した加工時に、クラック抵抗性の確保という側面から、上記Si含有量は0.1%未満であることが好ましい。一方、より好ましくは、上記単層の合金化めっき層におけるSi含有量の上限は、0.09%(すなわち、0.09%以下)であってもよい。
【0052】
特に、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層において、Znはめっき鋼板の焼付性及び耐食性を向上させるだけでなく、合金化処理後のめっき層の密着性を向上させる重要な役割を果たす。したがって、本発明のめっき鋼板では、上記第1合金化めっき層内のZn含有量が1~20%であり、第2合金化めっき層内のZn含有量が1~22%であることが好ましい。本発明において、上記第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層内のZn含有量の下限を満たさないと、焼付性及び耐食性向上の効果が期待できない。また、上記第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層内のZn含有量の上限を満たさないと、合金化処理後のめっき層の密着性が低下する問題がある。
【0053】
本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層内のZn含有量は1~20%であり、第2合金化めっき層内のZn含有量は1.5~22%であることがより好ましい。
【0054】
また、本発明の一側面によると、上記第2合金化めっき層内のZn含有量が上記第1合金化めっき層内のZn含有量よりも大きくてもよく、これは素地鋼板をめっき浴に浸漬した後、冷却及び合金化処理の過程を行いながら、素地鋼板中のFeの拡散の結果、素地鋼板から距離が遠い第2合金化めっき層におけるZnが濃化するためである。
【0055】
また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層内のMn含有量が上記第2合金化めっき層内のMn含有量よりも大きくてもよい。さらに、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層内のFe含有量が上記第2合金化めっき層内のFe含有量よりも大きくてもよい。
【0056】
本発明の一側面によると、上述した製造過程中のアルミニウムめっき浴に素地鋼板を浸漬してめっきを行った後、合金化熱処理によって素地鋼板のFe及び/またはMnがアルミニウムめっき層に拡散し、その結果、主にFe及びAlの金属間化合物からなる第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層が形成される。
【0057】
一方、これに限定されるものではないが、本発明の一側面によると、好ましくは、上記第1合金化めっき層はFe2Al5の合金相を主に含むことができ、上記第2合金化めっき層はFeAl3の合金相を主に含むことができる。具体的には、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層はFe2Al5の合金相を80%以上含むことができ、上記第2合金化めっき層はFeAl3の合金相を80%以上含むことができる。
【0058】
また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層はFe2Al5の合金相を90%以上含むことができ、上記第2合金化めっき層はFeAl3の合金相を90%以上含むことができる。
【0059】
また、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層は、Fe2Al5をベースに(すなわち、80%以上がFe2Al5となる)Zn、Mn及び/またはSiなどが固溶した合金相からなり、上記第2合金化めっき層は、FeAl3をベースに(すなわち、80%以上がFeAl3である)Zn、Mn及び/またはSiなどが固溶した合金相からなることができる。
【0060】
すなわち、本明細書において、上記合金相からなるとは、その他の不可避不純物が含まれることもでき、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を含むことができることを包含する。
【0061】
一方、合金化めっき層が2層で形成される場合として、本発明に係るアルミニウム系合金めっき鋼板は、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から合金化めっき層の最下端線までの距離をtとしたとき、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比(As)が30%以上である。
【0062】
本明細書において、上記合金化めっき層の最下端線は、鋼板の厚さ方向に垂直な方向に合金化めっき層の最下端を描いた線を意味する。また、本発明の一側面によると、上記合金化めっき層の最下端線は、上記表面粗さ中心線と水平になるように描いた線を意味する場合もある。
【0063】
具体的には、本発明に係る合金化めっき層が2層で形成される場合を
図3に示し、
図3に示したように、上記合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比(As)が30%以上となるように、合金化めっき層と素地鋼板との界面が鋸歯状に形成される。
【0064】
本発明の一側面に係る合金化めっき層は、母材である素地鋼板との境界を上述したように鋸歯の形態に形成することによって加工時のクラックが誘発されることを抑制することができるため、優れたクラック抵抗性を確保することができる。
【0065】
このとき、上記As値は、その値が大きいほど加工時のクラック抵抗性の効果がより優れるという点から、その上限を別途限定しなくてもよい。但し、より好ましくは、上記As値の上限は80%であってもよい。
【0066】
一方、上記合金化めっき層が2層で形成される場合、上述した合金化めっき層と素地鋼板との境界という意味は、第1合金化めっき層が母材である素地鋼板上に形成されるものであるため、具体的には、第1合金化めっき層と素地鋼板の境界を意味する場合がある。
【0067】
さらに、本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層の厚さは1~25μmであり、上記第2合金化めっき層の厚さは3~20μmであってもよい。本発明の一側面によると、上記第1合金化めっき層の厚さを1μm以上とすることで耐食性の効果が発揮し、第1合金化めっき層の厚さを25μm以下とすることで密着性を確保することができる。また、上記第2合金化めっき層の厚さを3μm以上とすることで耐食性の効果が発揮し、上記第2合金化めっき層の厚さを25μm以下とすることで密着性を確保することができる。
【0068】
一方、本発明において、第1合金化めっき層上に第2合金化めっき層が形成されるということは、第1合金化めっき層上に第2合金化めっき層が接するように形成されることを意味する。
【0069】
また、本発明の一側面によると、合金化めっき層が1層または2層で形成される場合のいずれも、アルミニウム系めっき鋼板に含まれる素地鋼板は、熱間プレス成形用鋼板であり、熱間プレス成形に用いられる限り、特に限定されない。
【0070】
但し、一つの非制限的な例を挙げると、素地鋼板としてMnを1~25%の範囲で含む鋼板を用いることができる。また、より好ましくは素地鋼板として、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:0.5~8%、B:50ppm以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有する素地鋼板を用いることができる。
【0071】
すなわち、本発明によると、熱間成形時に発生するプレスダイ(die)やロールに付着するめっき層の焼付を抑制することができるとともに、耐食性及びめっき層の密着性に優れためっき鋼板を提供することができる。
【0072】
[アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法]
以下、本発明の一側面に係る熱間プレス成形に用いられる、アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法について一例を説明すると、以下のとおりである。但し、下記の熱間プレス成形用アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法は一例であり、本発明の熱間プレス成形用アルミニウム系合金めっき鋼板が必ずしも本製造方法によって製造される必要があるとの意味ではない。
【0073】
また、本発明の他の一側面は、熱間プレス成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階;
上記素地鋼板を、重量%で、Zn:3~30%、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬してアルミニウムめっき鋼板を得る段階;
アルミニウムめっき後、200~300℃で加熱された空気を上記アルミニウムめっき鋼板に供給してアルミニウムめっき鋼板の表面に酸化皮膜を形成する冷却段階;及び
上記冷却後に連続して650~750℃の加熱温度範囲で1~20秒維持して熱処理するオンライン(on-line)合金化によってアルミニウム系めっき鋼板を得る段階;を含む、アルミニウム系めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0074】
まず、アルミニウム合金めっき鋼板を製造するために素地鋼板を用意する。上記素地鋼板については、上述の説明を同様に適用することができる。
【0075】
次に、本発明の一側面に係るアルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板の表面に、重量%で、Zn:3~30%、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴を用いて溶融アルミニウムめっきを行い、めっき工程に連続して冷却した後、続いてすぐ熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことで得られる。
【0076】
具体的には、素地鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬してめっきを行う。また、本発明の一側面によると、上記めっき浴は、組成がZn:3~30%、Si:0.1%未満、残部Al及びその他の不可避不純物を含む溶融アルミニウム合金めっき浴であってもよく、より好ましくはZn:3~30%、Si:0.1%未満、及びAl:70~97%を含んでもよく、これ以外のその他の不可避不純物を含んでもよい。
【0077】
また、本発明の一側面によると、上記アルミニウムめっき浴には、本発明の目的を損なわない範囲で追加の元素をさらに添加することができる。
【0078】
さらに、本発明の一側面によると、上記溶融アルミニウム合金めっき浴は、Zn:3~30%、Si:0.1%未満、Al:70~97%及びその他の不可避不純物からなってもよい。
【0079】
本発明の一側面によると、上記アルミニウムめっき浴に添加されるZnは、重量%で、3~30%添加することが好ましい。上記Zn含有量が30%を超えると、めっき浴のアッシュ(ash)が多量発生するため、粉塵発生などにより作業性が低下する問題が生じる。また、上記Zn含有量が3%未満であると、めっき浴の溶融点が大きく減少せず、合金化時のZnの蒸発によりめっき層中にZnが残留しなくなって、耐食性の向上が得られない。
【0080】
但し、本発明の効果をより極大化するために、上記Zn含有量の下限は5%であることが好ましく、10%であることがより好ましい。同様に、本発明の効果をより極大化するために、上記Zn含有量の上限は25%であることが好ましく、20%であることがより好ましい。
【0081】
一方、本発明の一側面によると、上記めっき浴の温度は、めっき浴の融点(Tb)に対して20~50℃程度高く(すなわち、Tb+20℃~Tb+50℃の範囲)管理することが好ましい。上記めっき浴の温度をTb+20℃以上に制御することで、めっき浴の流動性によるめっき付着量の制御が可能となり、上記めっき浴の温度をTb+50℃以下に制御することで、めっき浴中の構造物浸食を防止することができる。
【0082】
また、本発明の一側面によると、上記めっき時の片面当たりのめっき量(めっき層の片面当たりの付着量)は20~100g/m2であってもよく、これは素地鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬した後、エアワイピング(air wipping)工程を適用することで制御されることができる。上記めっき時の片面当たりのめっき量が20g/m2以上であると、耐食性効果が発揮し、上記めっき時の片面当たりのめっき量が100g/m2以下であると、密着性が確保される効果が発揮することができる。
【0083】
次いで、アルミニウムめっき後、200~300℃で加熱された空気を上記アルミニウムめっき鋼板に供給してアルミニウムめっき鋼板の表面に酸化皮膜を形成するように冷却することができる。このような冷却段階は、均一な合金層を形成する手段であるという点で本発明において重要である。すなわち、冷却時に200~300℃で加熱された空気をアルミニウムめっき鋼板に供給して露出させることで、アルミニウムめっき鋼板の表面には酸化皮膜(アルミニウム酸化膜;AlOx)を形成する。
【0084】
本発明の一側面によると、上述したように合金化処理前に、酸化皮膜をアルミニウムめっき鋼板の表面に溶融アルミニウムめっき層の全厚さに対して10%以上(より好ましくは10%以上20%以下)形成することができる。上述したように、酸化皮膜を10%以上形成することにより、めっき層に含まれるZnが合金化処理過程で揮発することを防止することができ、これにより優れた焼付性、耐食性及びめっき層の密着性を確保することができる。
【0085】
次に、上述した冷却後にすぐ連続して熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことができる。このような合金化熱処理によって素地鋼板のFe及び/またはMnがアルミニウムめっき層に拡散し、これによりめっき層の合金化が行われることがある。
【0086】
具体的には、本発明において、上記合金化熱処理温度は650~750℃の範囲であり、維持時間は1~20秒であってもよい。
【0087】
本発明において、オンライン合金化処理は、
図1に示した概略図から分かるように、溶融アルミニウムめっき後に昇温して熱処理する工程を意味する。本発明によるオンライン合金化熱処理方式では、溶融アルミニウムめっき後にめっき層が冷却されて固まる前に合金化のための熱処理が開始されるため、短時間で合金化が可能である。従来知られているアルミニウムめっき鋼板のめっき層の成分系では合金化速度が遅くて短時間で十分な合金化を完了させることができなかったため、めっき後にすぐ熱処理するオンライン(on-line)合金化方法を適用することが難しかった。しかしながら、本発明では、合金化速度に影響を及ぼすめっき浴の組成及び製造条件などを制御することで、1~20秒の比較的短い熱処理時間にも関わらず、アルミニウムめっき層の合金化を達成することができる。
【0088】
一方、上記合金化熱処理温度は熱処理される鋼板の表面温度を基準とし、上記熱処理温度が650℃未満であると、めっき層の合金化が不十分となる問題が発生することがあり、一方、上記熱処理温度が750℃を超えると、めっき鋼板の冷却に問題が生じてめっき密着性が低下する問題がある。
【0089】
一方、本発明の一側面によると、合金化熱処理温度を調節することで合金化めっき層の構成が異なるようになるが、合金化熱処理温度が650~680℃では合金化めっき層が2層(上述した第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層に対応)で形成されるのに対し、680~750℃では合金化めっき層が単層で形成される。
【0090】
また、本発明の一側面によると、上記合金化熱処理時の維持時間は1~20秒の範囲で行うことができる。本発明において維持時間とは、鋼板において上記加熱温度(偏差±10℃含む)が維持される時間を意味する。上記維持時間を1秒以上とすることで十分な合金化が可能となり、上記維持時間を20秒以下とすることで生産性確保の効果がある。
【0091】
本発明の一側面によると、本発明の効果をより向上させるために、上記合金化熱処理時の維持時間の下限は1秒であり、より好ましくは3秒であってもよい。同様に、上記合金化熱処理時の維持時間の上限は20秒であり、より好ましくは10秒であってもよい。
【0092】
上述したように、従来技術ではSiが含まれることでFeの拡散が抑制されるため、20秒以下の短時間で合金化が行われることが不可能であったのに対し、本発明によると、めっき浴の組成及び合金化熱処理時の条件を制御することで、20秒以下という比較的短時間で合金化が行われる。
【0093】
一方、本発明の一側面に係るアルミニウム合金めっき鋼板の製造方法は、上記合金化処理後に冷却する段階をさらに含むことができる。
【0094】
本発明の一側面によると、上記冷却は、合金化処理から排出された鋼板を300℃以下まで15~25℃/sの平均冷却速度で冷却することができる。一方、上記冷却は空冷(air cooling)、急冷(mist cooling)であってもよく、本発明の一側面によると、最も好ましくは、上記冷却は空冷及び急冷であってもよい。本発明の一側面によると、上記平均冷却速度を15℃以上とすることで、鋼板の温度を300℃以下に冷却させてロールに吸着される問題点を防止することができ、上記平均冷却速度を25℃/s以下とすることで、操業速度を上昇させることができる効果が発揮できる。
【0095】
また、本発明の一側面によると、上記冷却は6~30秒間実施することができ、上記冷却時間を6秒以上とすることで所望の鋼板温度まで冷却させることができる効果が発揮し、上記冷却時間を30秒以下とすることで生産性を最大化しながら鋼板温度を所望の温度まで冷却させることができる効果が発揮できる。
【0096】
一方、本発明の一側面によると、本発明によって製造されるめっき鋼板において、合金化めっき層中のFe含有量は下記のような関係式1で表すことができ、合金化中の熱処理温度及びめっき浴におけるZn含有量を適正範囲に制御することによって優れた焼付性、耐食性及び/またはめっき層の密着性の効果を容易に発揮することができる。
[関係式1]
150-0.4×[T]+3.3×10-4×[T]2-0.38×[wt%Zn]≦[wt%Fe]≦180-0.4×[T]+3.3×10-4×[T]2-0.38×[wt%Zn]
(上記関係式1において、[T]は合金化熱処理温度(℃)を表し、[wt%Zn]はめっき浴におけるZn重量%の含有量を表し、[wt%Fe]は合金化めっき層におけるFe重量%含有量を表す。)
【0097】
一方、本発明のまた他の一側面は、上述したアルミニウム合金めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間成形部材を提供する。
【0098】
上記熱間プレス成形は、当技術分野で一般的に用いられる方法を利用することができる。例えば、めっき鋼板を800~950℃の温度範囲で3~10分加熱した後、プレス(press)を用いて上記加熱された鋼板を所望の形状に熱間成形することができるが、これに限定されるものではない。
【0099】
また、上記熱間プレス成形部材の素地鋼板の組成は、上述した素地鋼板の組成と同一であってもよい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0101】
(実験例1)
まず、素地鋼板として下記表1の組成を有する厚さ1.2mmの熱間プレス成形用冷延鋼板を用意した後、素地鋼板を浸漬して超音波洗浄することで表面に存在する圧延油などの物質を除去した。
【0102】
この後、これを還元性雰囲気で維持されている炉(Furnace)で焼鈍温度800℃、焼鈍時間50秒で熱処理した後、上記素地鋼板を下記表2に示しためっき浴組成及びめっき浴温度条件でめっき浴に浸漬してアルミニウムめっきを行った。上記めっき浴の浸漬する際に、浸漬温度はめっき浴の温度と同様に維持し、めっき浴の温度はそれぞれのめっき成分系の融点(Tb)に対して一括して40℃上向させた温度でめっき浴を維持した。めっき量は、合金化を比較するためにエアワイピング(air wipping)を用いて片面60g/m2に一定に維持した。
【0103】
続いて、アルミニウムめっきされた鋼板を200~300℃で加熱された空気を上記アルミニウムめっき鋼板に供給して冷却し、この後、表2に示した合金化熱処理条件で合金化熱処理を行い、これを空冷によって冷却してアルミニウム合金めっき鋼板を製造した。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
一方、上述の方法で製造されたアルミニウム合金めっき鋼板において、合金化めっき層が単層である場合または2層である場合として、第1合金化めっき層及び第2合金化めっき層における各成分含有量及び厚さを測定して上記表3に示した。上記めっき層における成分は、EDS(Energy Dispersive Spectroscopy)の方法を用いてスポット分析で測定し、厚さは電子顕微鏡を用いて断面の厚さを測定した。
【0108】
また、上記発明例4の単一層で形成された合金化めっき層についてXRD(X-Ray Diffraction)の方法で合金相を分析し、合金化めっき層の80%以上がFe2Al5の合金相からなることを確認した。
【0109】
また、上記発明例1の2層で形成された合金化めっき層について、XRD(X-Ray Diffraction)の方法及びEDS分析で合金相の分析を行って、第1合金化めっき層は主にFe2Al5の合金相からなり、第2合金化めっき層の80%以上がFeAl3からなることを確認した。
【0110】
このように製造されためっき鋼板について、全体めっき層のうち上部めっき層が占める割合を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて断面厚さの割合を測定し、下記表4に示した。また、めっき鋼板の物性評価のために、下記の方法でめっき層の上部割合、焼付性、耐食性及びめっき密着性を評価した。
【0111】
[焼付性]
このように製造されためっき鋼板について、めっきの物性評価のために900℃の条件で5分間加熱した後、合金化めっき層がダイ(die)に融着しているかを目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:焼付なし
×:めっき層の溶融によるダイ吸着が発生
【0112】
[耐食性]
めっき鋼板に対して塩水噴霧実験を行った後に720時間放置し、その後に表面に形成された腐食生成物を除去して表面に形成されている腐食生成物の最大深さを測定した。
【0113】
耐食性:720時間塩水噴霧実験を行った後、表面に形成された腐食生成物を除去し、腐食によって形成された腐食の深さを測定して下記の基準値(70μm)以下である場合を良好とした。
○:70μm以下
×:70μm超過
【0114】
[めっき密着性]
めっき密着性は、合金化後にめっき層の片面摩擦実験を介してめっき層にせん断応力を加えた場合、クラック(crack)が発生してめっき層が剥離する範囲を重量に換算して測定し、下記の基準で評価した。
○:0.5g/m2以下
×:0.5g/m2超過
【0115】
【0116】
上記表1~4に示したように、本発明で規定するめっき浴の組成及び合金化条件を満たす発明例1~10の場合、焼付性、耐食性及びめっき密着性がいずれも良好であり、これにより熱間成形時に発生するプレスダイやロールにめっき層が焼付したり、マイクロクラックが発生することを防止することができた。
【0117】
一方、本発明で規定するめっき浴のZn含有量を満たさないか、または合金化条件を満たさない比較例1~8の場合、焼付性、耐食性及びめっき密着性のうち1つ以上の物性が良好でなく、これによって熱間成形時にプレスダイやロールにめっき層が焼付したり、マイクロクラックが発生するなどの問題が生じた。
【0118】
一方、
図1は、従来技術によりアルミニウムめっき浴にSiを7%添加した追加の実験例に対するアルミニウム系めっき鋼板の断面を、走査電子顕微鏡を用いて観察した写真を示したものである。この場合、合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%未満であった。
【0119】
一方、
図2は、上記発明例1によって製造されたアルミニウム合金めっき鋼板の断面を、走査電子顕微鏡を用いて観察した写真であり、2層の合金化めっき層を形成した例として、Zn添加によって合金化めっき層と母材である素地鋼板との境界が鋸歯状に形成され、これにより上述した合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上であることを確認した。
【0120】
また、
図3は、発明例6によって製造されたアルミニウム系合金めっき鋼板の断面を観察した走査電子顕微鏡を用いて観察した写真であり、同様にZn添加によって合金化めっき層と母材である素地鋼板との境界が鋸歯状に形成され、これにより上述した合金化めっき層の表面粗さ中心線から3/4tまでの領域内で上記素地鋼板が占める面積の比が30%以上であった。
【符号の説明】
【0121】
1 熱処理炉
2 アルミニウムめっき浴
3 冷却装置
4 合金化熱処理装置