(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】銅含有物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20231129BHJP
F23G 5/00 20060101ALI20231129BHJP
F23J 1/08 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C22B7/02 A
F23G5/00 115B
F23J1/08
(21)【出願番号】P 2023145032
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2023-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306013991
【氏名又は名称】中部リサイクル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】松島 功明
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和明
(72)【発明者】
【氏名】柴山 輝
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-030605(JP,A)
【文献】特開2007-051831(JP,A)
【文献】特開2009-249711(JP,A)
【文献】特開2018-193574(JP,A)
【文献】特開2010-270963(JP,A)
【文献】特開2002-081992(JP,A)
【文献】特開2005-155945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/02
F23G 5/00
F23J 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅含有物の製造方法であって、
有底筒状の溶融炉本体と、前記溶融炉本体の内部において昇降可能に設けられた電極と、を備える還元溶融炉を用い、
前記溶融炉本体は、
炉底に形成された凹部であって、銅の含有量が65質量%以上である第1の溶融メタル層が溜まる凹部と、
側面部において前記凹部の鉛直上方に設けられた出湯口と、
を有し、
銅を含む焼却灰を還元溶融することにより、前記第1の溶融メタル層と、前記第1の溶融メタル層の上層に生成され銅の含有量が65質量%未満の第2の溶融メタル層と、前記第2の溶融メタル層の上層に生成されるスラグ層と、に分離させる第1の工程と、
前記出湯口から前記スラグ層と前記第2の溶融メタル層とを取り出す第2の工程と、
前記電極を降下させて前記第1の溶融メタル層に押し込むことにより、前記出湯口から前記第1の溶融メタル層をオーバーフローさせて取り出す第3の工程と、
を含む、銅含有物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の銅含有物の製造方法において、
前記凹部の容積が、前記溶融炉本体の容積の10%以上20%以下である、
銅含有物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の銅含有物の製造方法において、
前記凹部の深さが、250mm以上400mm以下である、
銅含有物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の銅含有物の製造方法において、
前記出湯口から取り出された前記スラグ層と前記第2の溶融メタル層と前記第1の溶融メタル層とが、傾動可能な取鍋において比重分離される、
銅含有物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の銅含有物の製造方法において、
前記還元溶融炉が、サブマージドアーク炉である、
銅含有物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅含有物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、還元溶融炉を用いて、金属を含む焼却灰から有価金属を回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。還元溶融炉において還元された金属成分は、溶融メタルや溶融飛灰として回収される。特許文献1には、溶融スラグの下方に位置する溶融メタルに、高沸点成分である鉄や銅が含有されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、焼却灰の還元溶融における金属回収方法として優れた技術である一方で、銅の濃度を高濃度にする観点において改善の余地があった。このため、焼却灰の還元溶融において、銅の濃度を高濃度にする製造技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することができる。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、銅含有物の製造方法が提供される。この銅含有物の製造方法は、有底筒状の溶融炉本体と、前記溶融炉本体の内部において昇降可能に設けられた電極と、を備える還元溶融炉を用い、前記溶融炉本体は、炉底に形成された凹部であって、銅の含有量が65質量%以上である第1の溶融メタル層が溜まる凹部と、側面部において前記凹部の鉛直上方に設けられた出湯口と、を有し、銅を含む焼却灰を還元溶融することにより、前記第1の溶融メタル層と、前記第1の溶融メタル層の上層に生成され銅の含有量が65質量%未満の第2の溶融メタル層と、前記第2の溶融メタル層の上層に生成されるスラグ層と、に分離させる第1の工程と、前記出湯口から前記スラグ層と前記第2の溶融メタル層とを取り出す第2の工程と、前記電極を降下させて前記第1の溶融メタル層に押し込むことにより、前記出湯口から前記第1の溶融メタル層をオーバーフローさせて取り出す第3の工程と、を含む。この形態の銅含有物の製造方法によれば、炉底に形成された凹部に第1の溶融メタル層を溜めて、電極を降下させて第1の溶融メタル層に押し込むことにより、凹部の鉛直上方に設けられた出湯口から第1の溶融メタル層をオーバーフローさせて取り出すので、銅の濃度を高濃度にすることができる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の銅含有物の製造方法において、前記凹部の容積が、前記溶融炉本体の容積の10%以上20%以下であってもよい。この形態の銅含有物の製造方法によれば、銅含有物の回収効率の低下を抑制することができる。
【0008】
(3)上記(1)または上記(2)に記載の銅含有物の製造方法において、前記凹部の深さが、250mm以上400mm以下であってもよい。この形態の銅含有物の製造方法によれば、銅含有物の回収効率の低下を抑制することができる。
【0009】
(4)上記(1)から上記(3)までのいずれか一項に記載の銅含有物の製造方法において、前記出湯口から取り出された前記スラグ層と前記第2の溶融メタル層と前記第1の溶融メタル層とが、傾動可能な取鍋において比重分離されてもよい。この形態の銅含有物の製造方法によれば、出湯口から取り出されたスラグ層と第2の溶融メタル層と第1の溶融メタル層とが比重分離されるので、各層を分離して回収する際の回収効率の低下を抑制できる。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)までのいずれか一項に記載の銅含有物の製造方法において、前記還元溶融炉が、サブマージドアーク炉であってもよい。この形態の銅含有物の製造方法によれば、サブマージドアーク炉を用いた還元溶融において、銅の濃度を高濃度にすることができる。
【0011】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、銅含有物の製造装置、焼却灰から銅含有物を回収する方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】銅含有物の製造方法において用いられる装置の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.装置構成
図1は、本開示の一実施形態としての銅含有物の製造方法において用いられる還元溶融炉10の概略構成を示す模式図である。還元溶融炉10は、鉄や銅等の金属を含む焼却灰を、還元雰囲気下で溶融する。焼却灰は、例えば、焼却施設にて一般ゴミや産業廃棄物等を焼却することによって得られる。
【0014】
還元溶融炉10は、溶融炉本体20と、炉蓋30と、電極40と、を備える。本実施形態の還元溶融炉10は、サブマージドアーク炉である。なお、
図1では、還元溶融炉10の構成の一例を示している。また、
図1は、あくまで模式図であり、装置の寸法関係等は実際とは異なる。
【0015】
溶融炉本体20は、有底筒状の外観形状を有し、炉底22と側面部24とを有する。本実施形態における側面部24は、円筒状に形成されている。溶融炉本体20の内径は、特に限定されないが、2.0m以上5.0m以下であることが好ましく、3.0m以上4.0m以下であることがより好ましい。溶融炉本体20の深さは、特に限定されないが、1.0m以上4.0m以下であることが好ましく、1.5m以上2.5m以下であることがより好ましい。溶融炉本体20の容積は、特に限定されないが、5m3以上30m3以下であることが好ましく、10m3以上20m3以下であることがより好ましい。溶融炉本体20の構成についての詳細な説明は、後述する。
【0016】
炉蓋30は、溶融炉本体20の上部を覆っている。炉蓋30には、原料投入口32と、排ガス管34とが設けられている。原料投入口32は、スクリューフィーダー180によって運ばれた焼却灰72を溶融炉本体20の内部へと受け入れる。なお、スクリューフィーダー180に限らず、ベルトコンベア等によって焼却灰72が供給されてもよい。排ガス管34は、溶融炉本体20内の排ガスおよび還元溶融によって生じた溶融飛灰を排出する。排出された溶融飛灰は、排ガス管34に接続された図示しないバグフィルターや電気集塵機等において捕捉されて回収される。
【0017】
電極40は、溶融炉本体20の内部において昇降可能に設けられている。電極40は、図示しない電極昇降装置によって昇降される。電極40の昇降は、溶融電力と電流とを調整するために実施される。また、本実施形態において、電極40は、後述する第1の溶融メタル層91を出湯させる際に降下される。本実施形態における電極40は、カーボン電極によって形成されており、炉蓋30を貫通して垂れ下がって設けられている。本実施形態の還元溶融炉10は、3本の電極40を備える。3本の電極40は、上面視において互いに正三角形の頂点に位置するように配置されている。本実施形態における電極40は、三相交流電源190に接続されているが、単相の交流電源や直流電源等の任意の電源に接続されていてもよい。なお、電極40の数は、特に限定されないが、三相交流電源190に接続される態様においては、3本や6本等、3の倍数であることが好ましい。また、電極40の太さ(直径)は、特に限定されないが、第1の溶融メタル層91へと押し込む電極40の体積を確保する観点から、10インチ以上であることが好ましく、20インチ以上であることがより好ましく、また、同様の観点から、溶融炉本体20の内径の1/10以上であることが好ましく、1/8以上であることがより好ましく、1/7以上であることがさらに好ましい。また、電極40の太さは、還元溶融炉10における設計上の制約の観点から、40インチ以下であることが好ましく、30インチ以下であることがより好ましく、また、同様の観点から、溶融炉本体20の内径の1/3.5以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましく、1/4.5以下であることがさらに好ましい。
【0018】
還元溶融炉10では、電極40に通電されて加熱されることにより、焼却灰72が還元溶融される。焼却灰72の溶融を還元雰囲気で行うために、焼却灰72とともに還元剤74が溶融炉本体20内へと導入されることが好ましい。還元剤74としては、特に限定されないが、例えばコークス等、主成分としてカーボンを含む物質が好ましい。なお、還元剤74は、コークスに限らず、例えば可燃ごみから得られたごみ炭化物粉等が混合されたものであってもよく、ごみ炭化物や飛灰等を混合した炭化物内装ペレット等であってもよい。焼却灰72が還元溶融されると、上層にスラグ層80が形成され、下層に溶融メタル層90が形成される。そして、スラグ層80の上に、まだ溶解していない焼却灰72や還元剤74が浮かんだ状態となる。
【0019】
本開示における銅含有物の製造方法では、後述するように、還元溶融によって生じた溶融メタル層90のうち、銅の含有量の高い第1の溶融メタル層91と、銅の含有量の低い第2の溶融メタル層92とを分離して回収する。本開示において、「第1の溶融メタル層91」とは、銅を主成分とし、銅の含有量が65質量%以上である溶融メタル層90を意味する。第1の溶融メタル層91は、本開示における「銅含有物」に相当する。第1の溶融メタル層91における銅の含有量は、66質量%以上であることが好ましく、68質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、72質量%以上であることがより一層好ましい。本開示において、「第2の溶融メタル層92」とは、銅の含有量が65質量%未満である溶融メタル層90を意味する。第2の溶融メタル層92は、好ましくは、銅の含有量が50質量%未満であり、鉄を主成分とする。第2の溶融メタル層92は、第1の溶融メタル層91よりも比重が小さいため、第1の溶融メタル層91の上層に生成される。銅の含有量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて分析することができる。
【0020】
溶融炉本体20は、凹部26と、出湯口28とを有する。凹部26は、炉底22に形成されている。凹部26には、第1の溶融メタル層91が溜まる。凹部26の深さは、特に限定されないが、沈降距離を確保して第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92との分離効率を高める観点から、200mm以上であることが好ましく、250mm以上であることがより好ましく、300mm以上であることがさらに好ましい。また、凹部26の深さは、還元溶融炉10の荷重が過度に大きくなることを抑制する観点から、500mm以下であることが好ましく、450mm以下であることがより好ましく、400mm以下であることがさらに好ましい。凹部26の深さは、例えば、250mm以上400mm以下であってもよい。凹部26の容積は、特に限定されないが、第1の溶融メタル層91の回収効率の低下を抑制する観点から、溶融炉本体20の容積の5%以上25%以下であることが好ましく、10%以上20%以下であることがより好ましい。なお、凹部26の深さ方向に垂直な方向における大きさ(断面積や内径)は、溶融炉本体20と同じであってもよく、溶融炉本体20よりも小さくてもよい。
【0021】
出湯口28は、側面部24において炉底22に近い側に設けられている。出湯口28は、凹部26の鉛直上方に設けられている。出湯口28は、開閉可能に構成されており、通常閉じられている。所定期間ごとに出湯口28が開かれることにより、還元溶融によって生じたスラグ層80と第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92とが、溶融炉本体20の外部へと排出される。
【0022】
本実施形態では、出湯口28の出口に、傾動可能な取鍋50が設置されている。取鍋50は、例えば鉄製の鍋によって構成されており、上部に注ぎ口52が形成されている。出湯口28から排出されたスラグ層80と第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92は、取鍋50において比重分離される。比重分離によって、鉛直下方から順に、第1の溶融メタル層91、第2の溶融メタル層92、スラグ層80に分離される。スラグ層80は、第2の溶融メタル層92の上に液状となって浮かぶため、容易に回収される。第2の溶融メタル層92および第1の溶融メタル層91は、取鍋50が傾けられることにより、注ぎ口52を介して別々の鉄鍋60等に分けて回収される。
【0023】
B.銅含有物の製造方法
図2は、銅含有物の製造方法を示す工程図である。銅含有物の製造に先立ち、銅を含む焼却灰72が用意される。原料としての焼却灰72は、塩基度や塩素分等が必要に応じて調整されたものであってもよい。焼却灰72が溶融炉本体20の内部へと投入される(工程P100)。工程P100では、焼却灰72とともに還元剤74も、溶融炉本体20の内部へと投入される。なお、投入される焼却灰72の量に対する還元剤74の量の割合は、適宜調整されてもよい。
【0024】
銅を含む焼却灰72を還元溶融することにより、第1の溶融メタル層91と、第1の溶融メタル層の上層に生成される第2の溶融メタル層92と、第2の溶融メタル層92の上層に生成されるスラグ層80と、に分離させる(工程P110)。工程P110を、便宜上「第1の工程」とも呼ぶ。第1の工程では、電極40への通電によって電気アークと電気抵抗ジュール熱とが発生する。還元溶融が進むにつれて、各層80、91、92の液位が上昇する。第1の工程において、出湯口28は、閉じられている。第1の工程は、所定時間継続される。かかる時間は、溶融炉本体20の容積や溶融温度等に応じて設定されてもよい。かかる時間としては、特に限定されないが、重金属を還元してスラグを無害化させる観点および経済性の観点から、4.5時間以上10時間未満であることが好ましく、5時間以上6時間未満であることがより好ましい。
【0025】
出湯口28からスラグ層80と第2の溶融メタル層92とを取り出す(工程P120)。工程P120を、便宜上「第2の工程」とも呼ぶ。第2の工程では、出湯口28が開かれることにより、鉛直方向において出湯口28と同じまたは上方に位置する第2の溶融メタル層92と、スラグ層80とが、溶融炉本体20内から外部へと排出される。なお、第1の溶融メタル層91が溜まる凹部26の鉛直上方に出湯口28が設けられているため、第2の工程では、第1の溶融メタル層91が出湯口28から流れ出ることが抑制されている。
【0026】
本実施形態では、第2工程の後に、第2の工程において取り出された第2の溶融メタル層92が計量される(工程P122)。そして、取り出された第2の溶融メタル層92の累計排出量が、予め設定された設定量を超えたか否かについて確認される(工程P124)。第2の溶融メタル層92の累計排出量が、予め設定された設定量に満たない場合(工程P124:NO)、工程P100に戻る。他方、第2の溶融メタル層92の累計排出量が、予め設定された設定量を超えた場合(工程P124:YES)、工程P130に進む。なお、上記の「累計排出量」とは、複数回繰り返された工程P100から工程P120までにおいて取り出された第2の溶融メタル層92の総量を意味する。設定量は、特に限定されないが、第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92との分離効率を高める観点から、凹部26の容積に相当する第2の溶融メタル層92の質量の0.8倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、1.2倍以上であることがさらに好ましい。また、設定量は、第1の溶融メタル層91の回収効率の低下を抑制する観点から、凹部26の容積に相当する第2の溶融メタル層92の質量の2.5倍以下であることが好ましく、2.0倍以下であることがより好ましく、1.7倍以下であることがさらに好ましい。
【0027】
電極40を降下させて第1の溶融メタル層91に押し込むことにより、出湯口28から第1の溶融メタル層91をオーバーフローさせて取り出す(工程P130)。工程P130を、便宜上、「第3の工程」とも呼ぶ。上述のとおり、電極40は、昇降可能に構成されている。第1の工程および第2の工程において、電極40の先端部は、第1の溶融メタル層91に到達していない。第3の工程では、電極40を降下させて、第1の溶融メタル層91に電極40の先端部を押し込むことにより、第1の溶融メタル層91の液位を上昇させることによって、第1の溶融メタル層91を出湯口28からオーバーフローさせる。なお、第3の工程は、電極40への通電が止められた状態で実行される。第3の工程は、第2の工程において出湯口28が開かれた状態から連続的に実行されてもよい。出湯口28から取り出される溶融メタル層91は、銅の含有量が65質量%以上であり、品位の高い銅含有物である。
【0028】
本実施形態では、第2の工程において取り出されたスラグ層80および第2の溶融メタル層92と、第3の工程において取り出された第1の溶融メタル層91とが、取鍋50において比重分離される。取鍋50において比重分離することにより、各層80、91、92を分離して回収する際の回収効率の低下を抑制できる。第3の工程(工程P130)の完了により、銅含有物の製造が完了する。なお、工程P130の完了後、工程P100に戻って連続的に銅含有物の製造が行われてもよい。
【0029】
以上説明した本実施形態の銅含有物の製造方法によれば、炉底22に形成された凹部26に、銅の含有量が高い第1の溶融メタル層91を生成させ、その後、電極40を降下させて第1の溶融メタル層91に押し込むことにより、出湯口28から第1の溶融メタル層91をオーバーフローさせて取り出す。このため、分離した第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92とが混ざり合うことを抑制することができ、この結果として、品位の高い銅含有物を回収することができる。
【0030】
また、本実施形態の製造方法では、スラグ層80および第2の溶融メタル層92を排出する出湯口28から、第1の溶融メタル層91を排出する。このため、出湯口28を兼用でき、第1の溶融メタル層91を回収するための回収口を炉底22の近傍等に別途設けることを省略できる。ここで、第1の溶融メタル層91を回収するための回収口を別途設けた場合には、第1の溶融メタル層91の出湯頻度が低い場合に、かかる回収口が詰まって出湯できなくなるおそれがある。しかしながら、本実施形態の製造方法では、スラグ層80および第2の溶融メタル層92を排出する度に開閉させる出湯口28を利用して、第1の溶融メタル層91を出湯させるので、第1の溶融メタル層91の出湯頻度が低い場合においても、出湯口28が詰まることを抑制できる。
【0031】
また、本実施形態の製造方法では、溶融電力や電流を調整するために昇降可能に構成された電極40を利用して、第1の溶融メタル層91の液位を上昇させる。このため、第1の溶融メタル層91の液位を上昇させて出湯口28からオーバーフローさせるための構成を、電極40に兼用させることができ、第1の溶融メタル層91の液位を上昇させるための構成を別途設けることを省略できる。この結果として、装置の構成が複雑化することを抑制できるので、装置の製造コストやメンテナンスに要する工数が増大することを抑制できる。
【0032】
また、本実施形態の銅含有物の製造方法では、第2の溶融メタル層92の累計排出量が予め設定された設定量を超えた場合にのみ、電極40を降下させて第1の溶融メタル層91を出湯口28からオーバーフローさせる。このようにすることによって、第1の溶融メタル層91と第2の溶融メタル層92とが分離して、所定量の第1の溶融メタル層91が凹部26に溜まった後に、第1の溶融メタル層91を出湯させることができるので、第1の溶融メタル層91の回収効率の低下を抑制できる。
【0033】
C.変形例:
上記実施形態の銅含有物の製造方法において用いられる装置の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、還元溶融炉10は、サブマージドアーク炉に限らず、電気エネルギーによって溶融する電気式溶融炉(交流アーク式溶融炉、交流電気抵抗式溶融炉、直流電気抵抗式溶融炉等)であってもよい。また、例えば、取鍋50が省略されていてもよい。
【0034】
また、上記実施形態の銅含有物の製造方法における各工程についても、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、工程P122および工程P124が省略されてもよい。また、例えば、工程P122および工程P124に代えて、予め定められた期間が経過したか否か等、予め設定された任意の条件が成立した場合に工程P130後に進み、成立しない場合に工程P100に戻ってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の説明において、「高品位メタル」は、銅の含有量が65質量%以上であり、上記実施形態における第1の溶融メタル層91に相当し、「溶融メタル」は、上記実施形態における第2の溶融メタル層92に相当する。
【0036】
還元溶融炉として、直径3.3m、深さ1.8m、容積15.4m3の交流サブマージ式電気炉を用いて実験を行った。還元溶融炉は、昇降可能な電極として、上面視において互いに正三角形の頂点に位置するように配置された3本のカーボン電極を備えていた。3本の電極は、三相交流電源に接続された。また、実施例1、2の還元溶融炉として、炉底に深さ300mmの凹部が形成され、凹部の鉛直上方に出湯口が設けられた還元溶融炉を用いた。比較例の還元溶融炉として、炉底の凹部が省略されて炉底付近に出湯口が設けられた還元溶融炉を用いた。
【0037】
原料の焼却灰として、スラグの塩基度が0.7~1.0となるように調整したごみ焼却灰を用いた。焼却灰に対するコークスの割合は、1~4%に制御した。塩素分は、2~30%に制御した。溶融温度は、1300℃~1500℃とした。溶融メタルの出湯から次の溶融メタル出湯までの精錬時間(溶融時間)は、4.5時間以上とし、溶融メタルの出湯の度に原料を新たに投入した。電圧は最大275Vとし、電流は10,000Aとした。
【0038】
精錬操業(溶融処理)を1か月間継続して行なった。溶融メタルの出湯ごとに、溶融メタルを計量するとともに溶融メタルの組成分析を行った。これにより、各出湯において溶融メタルに含まれる銅の含有量を求めた。組成分析には、EDX7000蛍光X線分析装置(島津製作所製)を用いた。実施例1、2では、溶融メタルの累計排出量が30トン前後となるタイミングごとに、電極を降下させて、炉底の凹部に溜まった高品位メタルを強制的に出湯させた。実施例1、2において、電極降下による高品位メタルの出湯回数は、1か月間の精錬操業においてそれぞれ2回であった。比較例では、高品位メタルを出湯させるための電極降下を実施しなかった。
【0039】
得られた高品位メタルの割合を求めた。高品位メタルの割合(%)は、1か月間の精錬操業において排出された高品位メタルの総質量を、1か月間の精錬操業において投入された焼却灰の総質量(焼却灰処理量)で除して100を乗ずることにより算出した。結果を表1に示す。表1において、「溶融メタル排出間隔(t)」とは、電極降下から次の電極降下までに排出された溶融メタルの累計排出量を意味し、「最大Cu含有量(%)」とは、溶融メタルの複数回の出湯のうち、最も銅含有量が高かった出湯における銅含有量(溶融メタル中の銅含有量の最大値)を意味し、「平均Cu含有量(%)」とは、溶融メタルの複数回の出湯において、溶融メタルに含まれていた銅含有量の平均値を意味する。なお、比較例では、出湯された溶融メタルのうち、銅の含有量が65質量%以上であったものを「高品位メタル」とした。
【0040】
【0041】
表1に示す結果から、以下のことがわかった。凹部が省略されて電極降下を実施しなかった比較例では、焼却灰処理量に対する高品位メタルの排出割合が極めて低く、0.07%であった。さらに、比較例では、平均Cu含有量(%)が実施例よりも高い傾向にあり、また、最大Cu含有量(%)が非常に高く、22.6%であった。これらのことから、比較例では、銅の濃縮が進まずに、銅が溶融メタルに流出していることが示唆された。
【0042】
これに対し、実施例1、2では、焼却灰処理量に対する高品位メタルの排出割合が高く、0.28%~0.35%であった。実施例1、2では、高品位メタルと溶融メタルとを分離させて、還元溶融炉の凹部に高品位メタルを溜めておいた後に、電極の降下によって高品位メタルをオーバーフローさせて出湯口から出湯させている。このようにすることによって、二層に分離した高品位メタルと溶融メタルとが混ざり合うことを抑制することができ、この結果として、高品位メタルを多く回収できたと考えられる。
【0043】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…還元溶融炉、20…溶融炉本体、22…炉底、24…側面部、26…凹部、28…出湯口、30…炉蓋、32…原料投入口、34…排ガス管、40…電極、50…取鍋、52…注ぎ口、60…鉄鍋、72…焼却灰、74…還元剤、80…スラグ層、90…溶融メタル層、91…第1の溶融メタル層、92…第2の溶融メタル層、180…スクリューフィーダー、190…三相交流電源
【要約】
【課題】焼却灰の還元溶融において、銅の濃度を高濃度にできる技術を提供する。
【解決手段】銅含有物の製造方法は、有底筒状の溶融炉本体と、溶融炉本体の内部において昇降可能に設けられた電極と、を備える還元溶融炉を用い、溶融炉本体は、炉底に形成された凹部であって、銅の含有量が65質量%以上である第1の溶融メタル層が溜まる凹部と、側面部において凹部の鉛直上方に設けられた出湯口と、を有し、銅を含む焼却灰を還元溶融することにより、第1の溶融メタル層と、第1の溶融メタル層の上層に生成され銅の含有量が65質量%未満の第2の溶融メタル層と、第2の溶融メタル層の上層に生成されるスラグ層と、に分離させる第1の工程と、出湯口からスラグ層と第2の溶融メタル層とを取り出す第2の工程と、電極を降下させて第1の溶融メタル層に押し込むことにより出湯口から第1の溶融メタル層をオーバーフローさせて取り出す第3の工程と、を含む。
【選択図】
図2