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特許7393588炭素繊維とガラス繊維を含んだ成形材料及び、これをコールドプレスして成形体を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】炭素繊維とガラス繊維を含んだ成形材料及び、これをコールドプレスして成形体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/54 20060101AFI20231129BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B29C43/54
B29C70/42
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023514989
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2022036282
(87)【国際公開番号】W WO2023058535
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2021163769
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小永井 祐平
(72)【発明者】
【氏名】華 国飛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中本 大志朗
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/153366(WO,A1)
【文献】特開平05-009301(JP,A)
【文献】特開平09-277420(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235299(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/097438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料Xと、成形材料Yとを積層してコールドプレスし、成形体を製造する方法であって、
前記成形材料Xは不連続な炭素繊維Cx、不連続なガラス繊維Gx、及びマトリクス樹脂Rxを含み、前記炭素繊維Cxは繊維幅0.3mm未満の炭素繊維Cx1と、繊維幅0.3mm以上3.0mm以下の炭素繊維Cx2とを含み、
前記炭素繊維Cxに対する前記炭素繊維Cx2の体積割合は、10Vol%以上99Vol%未満であり、
前記炭素繊維Cx/前記ガラス繊維Gxの体積比が0.1以上1.5以下であり、
前記成形材料Xの面内方向の平均成形収縮率(X)が下記式(1)を満たし、
前記成形材料Yは不連続な炭素繊維Cy及び/又はガラス繊維Gyと、マトリクス樹脂Ryとを含み、
前記成形材料Yの面内方向の平均成形収縮率(Y)が下記式(2)を満たす、
成形体の製造方法。
式(1) 平均成形収縮率(X)≦0.12%
式(2) 0.1<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.5
【請求項2】
前記炭素繊維Cxの重量平均繊維長は1mm以上100mm以下、前記ガラス繊維Gxの重量平均繊維長は1mm以上100mm以下である、請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記成形材料Xは、前記炭素繊維Cxと前記ガラス繊維Gxが同一層に混ぜ込まれている成形材料である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記ガラス繊維Gxを含む、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形材料Xは層Xcと層Xgとを積層させた積層体Pxであって、前記層Xcは前記炭素繊維Cxを含み、前記層Xgは前記ガラス繊維Gxを含む、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記層Xgである、請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、
前記層Ycは不連続な炭素繊維Cycを含み、前記層Ycgは炭素繊維Cycg及び/又は前記ガラス繊維Gyを含む、
請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記層Ycである、請求項7に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記積層体Pyが、前記層Yc/前記層Ycg/前記層Ycの三層構造である、請求項8に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記層Ycgに含まれる前記炭素繊維Cycg及び/又は前記ガラス繊維Gyの重量平均繊維長よりも、前記層Ycに含まれる前記炭素繊維Cycの重量平均繊維長の方が長い、請求項9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記炭素繊維Cx、前記ガラス繊維Gx、前記炭素繊維Cy、及び前記ガラス繊維Gyの少なくともいずれか一つはリサイクルされた繊維である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
前記成形材料Xに含まれる前記マトリクス樹脂Rx、及び前記成形材料Yに含まれる前記マトリクス樹脂Ryは、熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前記成形体は、耐衝撃部材であって、前記成形材料Yが衝撃を受ける側となる、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
前記成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、
前記成形体は、耐衝撃部材であって、前記層Ycが衝撃を受ける側となる、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
前記成形材料X、及び前記成形材料Yは平板形状である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項16】
前記成形材料Xの厚みlxが0.5mm以上5.0mm以下、前記成形材料Yの厚みlyが0.5mm以上5.0mm未満である、
請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の収縮率を有する、炭素繊維、ガラス繊維、及びマトリクス樹脂を含む成形材料Xに関する。更には、前記成形材料Xと、特定の収縮率を有する成形材料Yとを積層してコールドプレスし、成形体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、成形体は、機械物性に優れており、自動車等の構造部材として注目されている。
特許文献1では、ガラス繊維と炭素繊維を混ぜ合わせた成形材料が記載されており、特許文献1ではガラス繊維と炭素繊維の混合品で構成される成形材料(SMC、シートモールディングコンパウンド)であっても、炭素繊維だけで構成させる成形材料と同等の物性を発現させることを目的としている。
特許文献2、3には、ガラス繊維で強化された熱可塑性樹脂層と、炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を積層させて成形した成形体が記載されている。特許文献4、5には、炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を用いた、波打ち形状の衝撃吸収部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2014-019707号公報
【文献】日本国特開2018-43412号公報
【文献】国際公開2018/052080号
【文献】米国特許公報9650003
【文献】米国特許公報9592853
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載の発明は炭素繊維とガラス繊維を混ぜ合わせ、安価であっても炭素繊維だけで構成されるSMCと同等の物性を発現させることを目的とした発明であり、成形材料を積層してプレス成形したときの反りの課題については、全く検討されていない。
また、特許文献2に記載の材料は、ガラス繊維複合材料を炭素繊維複合材料でサンドイッチさせた積層構造であるため、炭素繊維のみ含まれた複合材料が両表層に配置されている。この場合、両表層にある炭素繊維複合材料の破断ひずみが小さいため、衝撃を受けたときに衝撃を受けた側の反対側の層が破断してクラックが発生しやすい。中央層に存在するガラス繊維複合材料は、大きな破断ひずみを持つものの、成形体の内部に存在するため、衝撃を受けたときのクラック防止には寄与しない。特許文献3に記載の成形体は、ガラス繊維複合材料と炭素繊維複合材料を二層で積層しているものの、互いの線膨張係数差による反りの問題が起こる。反りが生じた場合、他部品と組み合わせて、例えば自動車を組み立てすることが難しい。特許文献4、5に記載の発明は、炭素繊維複合材料のみで作成されているため、反りの課題について認識されていない。
そこで本発明の目的は、高い耐衝撃性と成形体の「反り」の問題を解決させた成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0006】
1. 成形材料Xと、成形材料Yとを積層してコールドプレスし、成形体を製造する方法であって、
前記成形材料Xは不連続な炭素繊維Cx、不連続なガラス繊維Gx、及びマトリクス樹脂Rxを含み、前記炭素繊維Cxは繊維幅0.3mm未満の炭素繊維Cx1と、繊維幅0.3mm以上3.0mm以下の炭素繊維Cx2とを含み、前記炭素繊維Cxに対する前記炭素繊維Cx2の体積割合は、10Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維Cx/前記ガラス繊維Gxの体積比が0.1以上1.5以下であり、前記成形材料Xの面内方向の平均成形収縮率(X)が下記式(1)を満たし、
前記成形材料Yは不連続な炭素繊維Cy及び/又はガラス繊維Gyと、マトリクス樹脂Ryとを含み、前記成形材料Yの面内方向の平均成形収縮率(Y)が下記式(2)を満たす、
成形体の製造方法。
式(1) 平均成形収縮率(X)≦0.12%
式(2) 0.1<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.5
2. 前記炭素繊維Cxの重量平均繊維長は1mm以上100mm以下、前記ガラス繊維Gxの重量平均繊維長は1mm以上100mm以下である、前記1に記載の成形体の製造方法。
3. 前記成形材料Xは、前記炭素繊維Cxと前記ガラス繊維Gxが同一層に混ぜ込まれている成形材料である、前記1又は2に記載の成形体の製造方法。
4. 前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記ガラス繊維Gxを含む、前記1から3のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
5. 前記成形材料Xは層Xcと層Xgとを積層させた積層体Pxであって、前記層Xcは前記炭素繊維Cxを含み、前記層Xgは前記ガラス繊維Gxを含む、前記1から4のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
6. 前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記層Xgである、前記5に記載の成形体の製造方法。
7. 成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、
前記層Ycは不連続な炭素繊維Cycを含み、前記層Ycgは炭素繊維Cycg及び/又は前記ガラス繊維Gyを含む、
前記1から6のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
8. 前記成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は前記層Ycである、前記7に記載の成形体の製造方法。
9. 前記積層体Pyが、前記層Yc/前記層Ycg/前記層Ycの三層構造である、前記8に記載の成形体の製造方法。
10. 前記層Ycgに含まれる前記炭素繊維Cycg及び/又は前記ガラス繊維Gyの重量平均繊維長よりも、前記層Ycに含まれる前記炭素繊維Cycの重量平均繊維長の方が長い、前記9に記載の成形体の製造方法。
11. 前記炭素繊維Cx、前記ガラス繊維Gx、前記炭素繊維Cy、及び前記ガラス繊維Gyの少なくともいずれか一つはリサイクルされた繊維である、前記1から10のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
12. 前記成形材料Xに含まれる前記マトリクス樹脂Rx、及び前記成形材料Yに含まれるマトリクス樹脂Ryは、熱可塑性樹脂である、前記1から11のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
13. 前記成形体は、耐衝撃部材であって、前記成形材料Yが衝撃を受ける側となる、前記1から12のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
14. 前記成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、
前記成形体は、耐衝撃部材であって、前記層Ycが衝撃を受ける側となる、前記13に記載の成形体の製造方法。
15. 前記成形材料X、及び前記成形材料Yは平板形状である、前記1から14のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
16. 前記成形材料Xの厚みlxが0.5mm以上5.0mm以下、前記成形材料Yの厚みlyが0.5mm以上5.0mm未満である、
前記1から15のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
17. 前記1から16のいずれか1項に記載の成形体の製造方法であって、雌雄一対の成形型である成形型Mxと成形型Myとを用いて、成形型Mxに成形材料Xを、成形型Myに成形材料Yを、それぞれ接触させてコールドプレスすることを含み、
成形体は一対の側壁と、当該側壁を連結する連結壁とを備え、成形体の断面は波打ち形状を有し、
成形体の平面度Faと側壁の高さhとの関係が0≦Fa/h<1.1である、
成形体の製造方法。
18. 前記成形型Mxが下型であり、前記成形型Myが上型である、前記17に記載の成形体の製造方法。
19. 前記成形体の断面は複数の波打ち形状を有し、波打ち方向の長さが0.5m以上である、前記17又は18のいずれかに記載の成形体の製造方法。
20. 前記成形材料Xが表層に存在する側における、前記側壁と前記連結壁とのなす角θ1が、90度≦θ1<160度である、前記17から19のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
21. 前記成形型Mxは、前記連結壁を形成するための成形型面S1と、前記側壁を形成するための成形型面S2を備え、S1とS2とのなす角θ2が、θ1≦θ2を満たす、前記20に記載の成形体の製造方法。
22. 前記連結壁と前記側壁の間に、リブを有する前記17から21のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
23. 前記コールドプレスに用いる成形型キャビティの平面度Fcは、Fa≦Fcを満たす、前記17から22のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
24. 前記成形体を変形させて角θ1を小さくし、変形後の成形体の平面度Fa’と側壁の高さhとの関係が0≦Fa’/h<0.1とした状態で、前記20から23のいずれか1項に記載の製造方法により得られた成形体を接合し、接合体を製造する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、不連続な炭素繊維と不連続なガラス繊維を含んだ成形材料を用いて成形した場合であっても、反りの少ない成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の成形体の一例を示す模式図である。
図2A】雌雄一対の成形型の開いた状態を示す模式図である。
図2B】雌雄一対の成形型の閉じた状態を示す模式図である。
図3A】成形材料Xと成形材料Yとを積層させて、成形型でコールドプレスしている状態を示す模式図である。
図3B】成形型から取り出した成形体を示す模式図である。
図4】本発明の成形体の一例を示す模式図である。
図5A】雌雄一対の成形型の開いた状態を示す模式図である。
図5B】雌雄一対の成形型の閉じた状態を示す模式図である。
図6A】成形材料Xと成形材料Yとを積層させて、成形型でコールドプレスしている状態を示す模式図である。
図6B】成形型から取り出した成形体を示す模式図である。
図7A】連結壁と側壁の間に、リブを有する成形体を示す模式図である。
図7B】連結壁と側壁の間に、リブを有する成形体を示す模式図である。
図8A】成形体を応力変形させて角θ1を角θ3とした状態で成形体を別部品と接合し、接合体を製造するのを示す模式図である。
図8B】応力変形により角θ1を角θ3とした状態で成形体を別部品と接合し、接合体を製造するのを示す模式図である。
図9A】波打ち方向の長さLyが40cmとなるように成形体の観察範囲を切り取り、波打ち形状の断面を観察した模式図であり、平面度の測定方法を例示する図である。
図9B】成形体の下壁を示す模式図である。
図9C】成形体の下壁の下面を示す模式図である。
図10】成形体の側壁の高さhを示す模式図である。
図11】本発明の成形体の一例を示す模式図である。
図12】成形型キャビティの平面度Fcの測定方法を例示する模式図である。
図13】成形体作成直後から、時間経過によって反る現象を例示する模式図である。
図14】実施例1に記載の成形材料Xと成形材料Yの積層形態を示す図である。
図15】実施例4に記載の成形材料Xと成形材料Yの積層形態を示す図である。
図16】成形収縮率測定のために、成形型にマーキングした様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[炭素繊維]
本明細書において、炭素繊維Cx、炭素繊維Cyを総じて、単に「炭素繊維」と呼ぶ。本発明に用いられる炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。なかでも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0010】
[炭素繊維の単糸の繊維直径]
本発明に用いられる炭素繊維の単糸(一般的に、単糸はフィラメントと呼ぶ場合がある)の繊維直径は、炭素繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。単糸の平均繊維直径は、通常、3μm~50μmの範囲内であることが好ましく、4μm~12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm~8μmの範囲内であることがさらに好ましい。炭素繊維が繊維束状である場合は、平均繊維直径は繊維束の径ではなく、繊維束を構成する炭素繊維の単糸の直径の平均を指す。炭素繊維の平均繊維直径は、例えば、JIS R-7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
【0011】
[ガラス繊維]
本明細書において、ガラス繊維Gx、ガラス繊維Gyを総じて、単に「ガラス繊維」と呼ぶ。本発明に用いられるガラス繊維の種類に特に限定は無く、Eガラス、AガラスまたはCガラスからなるガラス繊維のいずれをも使用することができ、また、これらを混合して使用することもできる。本発明におけるガラス繊維に特に限定は無いが、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。ガラス繊維がガラスフィラメントを撚り合わせて形成されたストランドである場合、平均繊維直径はストランドの径ではなく、ストランドを構成するフィラメントの直径の平均を指す。また、ガラス繊維はシングルエンドロービングであっても、マルチエンドロービングであっても良い。
【0012】
[サイジング剤]
本発明に用いられる炭素繊維又はガラス繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している炭素繊維又はガラス繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、炭素繊維又はガラス繊維と、マトリクス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
[重量平均繊維長]
炭素繊維は不連続繊維であって、その重量平均繊維長は1mm以上100mm以下であることが好ましい。同様に、ガラス繊維は不連続繊維であって、その重量平均繊維長は1mm以上100mm以下であることが好ましい。反りの問題を解消するには連続繊維であることが好ましいものの、成形性を向上させる観点では、上記重量平均繊維長の範囲が好ましい。
【0013】
以下、ガラス繊維及び又は炭素繊維を総称して、「強化繊維」と記述する。言い換えると、本明細書において、強化繊維はガラス繊維、又は炭素繊維の少なくともいずれか一方である。強化繊維は炭素繊維及びガラス繊維の両方を指す場合もある。
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、強化繊維は、重量平均繊維長に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、成形体から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(a)、(b)に基づいて求めることができる。平均繊維長は、重量平均繊維長(Lw)で計算すればよい。
個々の強化繊維の繊維長をL、測定本数をjとすると、数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、以下の式(a)、(b)により求められる。
【数1】

なお、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。
成形体から強化繊維の抽出は、例えば、成形体に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
【0014】
[炭素繊維、ガラス繊維のリサイクル]
炭素繊維Cx、ガラス繊維Gx、炭素繊維Cy、ガラス繊維Gyの少なくともいずれか一つはリサイクルされた繊維であることが好ましい。
【0015】
(1)成形材料X
リサイクルされた繊維を用いて、成形材料Xに含まれる強化繊維とする場合、成形材料Xの面内方向の平均成形収縮率(X)が後述する式(1)を満たし、かつ、平均成形収縮率(X)および成形材料Yの平均成形収縮率(Y)が後述する式(2)を満たすように成形材料Xを作成するには、ある程度繊維長を残したリサイクル繊維を使用する必要がある。より具体的には、成形材料Xを製造する際に生じる端材を集めて再利用する場合、成形材料Xの端材をそのまま散布すると、それにより得られる成形材料Xは面内方向に強化繊維が二次元にランダム分散されているものとなる。
【0016】
(2)成形材料Y
好ましくは、成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、層Ycは不連続な炭素繊維Cycを含み、層Ycgは炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyを含む。なお、炭素繊維Cycおよび炭素繊維Cycgは、成形材料Yに含まれる炭素繊維Cyである。
層Ycgに含まれる炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyは、リサイクルされた繊維であることが好ましい。例えば、成形材料Xを製造する際に生じる炭素繊維Cxまたはガラス繊維Gxを含む端材を層Ycgの作成のために再利用してもよい。
【0017】
[マトリクス樹脂]
本発明における、成形材料Xに含まれるマトリクス樹脂Mxと、成形材料Yに含まれるマトリクス樹脂Myは、熱硬化性であっても、熱可塑性であっても良いが、熱可塑性のマトリクス樹脂であると好ましい。また、マトリクス樹脂Mxとマトリクス樹脂Myは同じ種類の樹脂であることが好ましい。
【0018】
1.熱硬化性のマトリクス樹脂
樹脂が熱硬化性のマトリクス樹脂の場合、成形材料は強化繊維を用いたシートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)であることが好ましい。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、複雑形状であっても、連続繊維を用いた成形材料に比べて容易に成形することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。
【0019】
2.熱可塑性のマトリクス樹脂
マトリクス樹脂Rx及びマトリクス樹脂Ryが熱可塑性のマトリクス樹脂の場合、その種類は特に限定されるものではなく、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。上記熱可塑性のマトリクス樹脂としては、通常、軟化点が180℃~350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
熱可塑性樹脂の種類としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン系樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、各種の熱可塑性ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンナフタレート系樹脂、ボリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などが挙げられる。
本発明における熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であっても、非晶性樹脂であっても良い。結晶性樹脂の場合、好ましい結晶性樹脂は、具体的にはナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などを挙げる事ができる。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂は、耐熱性や機械的強度に優れるなど好適に用いられる。
【0020】
[その他の剤]
本発明で用いる成形材料X又は成形材料Yには、本発明の目的を損なわない範囲で、炭素繊維又はガラス繊維以外の有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、中空ガラスビーズ等の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
[成形材料]
本明細書において、成形材料X、成形材料Yを総じて単に「成形材料」ということがある。単に「成形材料」と記載した場合、それは成形材料X、成形材料Y、又はこれらの積層体を含む概念である。成形材料Xと成形材料Yは平板形状であることが好ましく、平板形状の成形材料Xと成形材料Yを積層させてコールドプレスした後、成形体となったときに成形体層X、成形体層Yをそれぞれ形成していることが好ましい。
【0022】
[成形材料X]
成形材料Xは不連続な炭素繊維Cx、不連続なガラス繊維Gx、及びマトリクス樹脂Rxを含む。
【0023】
1.炭素繊維Cx
1.1.束形態
炭素繊維Cxは繊維幅0.3mm未満の炭素繊維Cx1と、繊維幅0.3mm以上3.0mm以下の炭素繊維Cx2とを含み、炭素繊維Cxに対する炭素繊維Cx2の体積割合は、10Vol%以上99Vol%未満である。好ましくは、炭素繊維Cx2の体積割合は、50Vol%以上99Vol%未満であり、より好ましくは70Vol%以上99Vol%未満である。
【0024】
1.2.測定方法
炭素繊維Cxの繊維幅および体積割合の測定方法に特に限定は無いが、例えば以下の方法で測定できる。
(1)サンプル作成
測定したい領域の材料を切り出し、100mm×100mmのサンプルを準備する。サンプルを500℃に加熱した電気炉(ヤマト科学株式会社製FP410)の中で窒素雰囲気下で、1時間加熱してマトリクス樹脂等の有機物を焼き飛ばす。
(2)繊維束の測定個数
100mm×100mmのサンプル1枚(焼き飛ばし後)に含まれる強化繊維から、0.5g採取し、繊維長が5mm以上の炭素繊維Cxをピンセットでランダムに合計1200個抽出すると良い。
炭素繊維Cxの測定個数については、許容誤差ε3%、信頼度μ(α)95%、母比率ρ=0.5(50%)で、以下の式(c)から導き出されるn値から求められる。
n=N/[(ε/μ(α))2×{(N-1)/ρ(1-ρ)}+1] 式(c)
n:必要サンプル数
μ(α):信頼度95%のとき1.96
N:母集団の大きさ
ε:許容誤差
ρ:母比率
例えば、炭素繊維体積(Vf)=35%の複合材料を100mm×100mm×厚み2mmに切り出して焼き飛ばして得たサンプルの場合、母集団の大きさNは、(100mm×100mm×厚み2mm×Vf35%)÷((Diμm/2)2×π×繊維長×繊維束に含まれる単糸の繊維数)で求められる。繊維径Diを7μm、繊維長を20mm、繊維束に含まれる単糸数の設計を1000本とすると、N≒9100本となる。
このNの値を上記式(c)に代入して計算すると、必要サンプル数nは約960本となる。例えば炭素繊維の繊維束や繊維長を計測する場合、信頼度を高めるため、100mm×100mmのサンプル1枚について、上記式(c)で算出した必要サンプル数nよりやや多い1200本を抽出して測定すれば良い。
(3)炭素繊維Cxに対する炭素繊維Cx1と炭素繊維Cx2の繊維体積割合の測定
本発明では、炭素繊維Cxは繊維幅0.3mm未満の炭素繊維Cx1と、繊維幅0.3mm以上3.0mm以下の炭素繊維Cx2とが含まれていれば足りるが、繊維幅3.0mm超の炭素繊維Cx3が含まれていても良い。炭素繊維Cx3が含まれていた場合も鑑みて、以下説明する。
取り出した炭素繊維Cx(例えば1200個)から、炭素繊維Cx1(繊維幅0.3mm未満)と、炭素繊維Cx2(繊維幅0.3mm以上3.0mm以下)、炭素繊維Cx3(繊維幅3.0mm超)とに区分し、1/1000mgまで測定が可能な天秤を用いて、炭素繊維Cx1、炭素繊維Cx2、炭素繊維Cx3の重量を測定する。測定した重量をもとに、炭素繊維Cx1、炭素繊維Cx2、炭素繊維Cx3の体積割合は、強化繊維の密度(ρcf)を用いて式(d-1)、式(d-2)、式(d-3)により求められる。
式(d-1):炭素繊維Cxに対する炭素繊維Cx1の体積割合=100×炭素繊維Cx1の体積/(炭素繊維Cx体積)
式(d-2):炭素繊維Cxに対する炭素繊維Cx2の体積割合=100×炭素繊維Cx2の体積/(炭素繊維Cx体積)
式(d-3):炭素繊維Cxに対する炭素繊維Cx3の体積割合=100×炭素繊維Cx3の体積/(炭素繊維Cx体積)
【0025】
1.3.分散
成形材料Xにおいて、炭素繊維Cxは面内方向に分散していることが好ましい。面内方向とは、板状の成形体の板厚方向に直交する方向であり、板厚方向に直交する平行な面の不定の方向を意味している。
更に、炭素繊維Cxは面内方向に2次元ランダムに分散していることが好ましい。成形材料Xを流動させずにコールドプレスした場合、成形前後で炭素繊維Cxの形態はほぼ維持されるため、成形材料Xを成形した成形体に含まれる炭素繊維Cxも同様に、成形体の面内方向に2次元ランダムに分散していることが好ましい。
ここで、2次元ランダムに分散しているとは、炭素繊維Cxが、成形体の面内方向において特定方向ではなく無秩序に配向しており、全体的には特定の方向性を示すことなくシート面内に配置されている状態を言う。この2次元ランダムに分散している不連続繊維を用いて得られる成形材料Xは、面内に異方性を有しない、実質的に等方性の成形材料Xである。
なお、2次元ランダムの配向度は、互いに直交する二方向の引張弾性率の比を求めることで評価する。成形体の任意の方向、及びこれと直交する方向について、それぞれ測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った(Eδ)比が5以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下であれば、炭素繊維Cxが2次元ランダムに分散していると評価できる。成形体は立体形状を有しているため、面内方向への2次元ランダム分散の評価方法としては、軟化温度以上に加熱して成形体を平板形状に戻して固化すると良い。その後、平板形状に戻した成形体から試験片を切り出して引張弾性率を求めると、2次元方向のランダム分散状態を確認できる。
【0026】
2.ガラス繊維Gx
成形材料Xにおいて、ガラス繊維Gxは面内方向に分散していることが好ましい。面内方向とは、成形体の板厚方向に直交する方向であり、板厚方向に直交する平行な面の不定の方向を意味している。
更に、ガラス繊維Gxは面内方向に2次元方向にランダムに分散していることが好ましい。成形材料Xを流動させずにコールドプレスした場合、成形前後でガラス繊維Gxの形態はほぼ維持されるため、成形材料Xを成形した成形体に含まれるガラス繊維Gxも同様に、成形体の面内方向に2次元ランダムに分散していることが好ましい。
ここで、2次元ランダムに分散しているとは、ガラス繊維Gxが、成形体の面内方向において一方向のような特定方向ではなく無秩序に配向しており、全体的には特定の方向性を示すことなくシート面内に配置されている状態を言う。この2次元ランダムに分散している不連続繊維を用いて得られる成形材料X(又は成形体)は、面内に異方性を有しない、実質的に等方性の成形材料X(又は成形体)である。
なお、2次元ランダムの配向度は、互いに直交する二方向の引張弾性率の比を求めることで評価する。成形体の任意の方向、及びこれと直交する方向について、それぞれ測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った(Eδ)比が5以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下であれば、ガラス繊維Gxが2次元ランダムに分散していると評価できる。成形体は立体形状を有しているため、面内方向への2次元ランダム分散の評価方法としては、軟化温度以上に加熱して成形体を平板形状に戻して固化すると良い。その後、平板形状に戻した成形体から試験片を切り出して引張弾性率を求めると、2次元方向のランダム分散状態を確認できる。
【0027】
3.炭素繊維Cxとガラス繊維Gx
3.1.体積比
炭素繊維Cx/ガラス繊維Gxの体積比が0.1以上1.5以下である。好ましくは0.1以上1.0以下であり、より好ましくは0.2以上0.8以下であり、更に好ましくは0.3以上0.6以下である。炭素繊維Cx/ガラス繊維Gxの体積比が0.1以上であれば、成形材料Yと組み合わせた際の反りを低減でき、1.5以下であると、同じ構成で耐衝撃性を高く保つことができる。
なお、炭素繊維Cx/ガラス繊維Gxの体積比とは、ガラス繊維Gxに対する炭素繊維Cxの割合である。
【0028】
3.2.繊維長
成形材料Xに含まれる強化繊維の重量平均繊維長は、5mm以上100mm以下であることがより好ましく、5mm以上80mm以下であることが更に好ましく、10mm以上60mm以下であることがより一層好ましい。強化繊維の重量平均繊維長が100mm以下の場合、成形材料Xの流動性が向上し、コールドプレスする際に、所望の成形体形状を得やすい。一方、重量平均繊維長が1mm以上の場合、成形体の機械強度が向上しやすい。
【0029】
4.同一層
成形材料Xは、炭素繊維Cxとガラス繊維Gxが同一層Xmに混ぜ込まれていても良い。同一層とは面状に繋がる層をいい、同一層の中で炭素繊維Cxとガラス繊維Gxが重なり合っている。炭素繊維Cxとガラス繊維Gxを同時に塗布することで、同一層を形成できる。また、成形材料Xは単一層であり、当該単一層に炭素繊維Cxとガラス繊維Gxが混ぜ込まれているとより好ましい。
炭素繊維Cxとガラス繊維Gxが同一層に混ぜ込まれていれば、積層工程を省略することができる。
【0030】
5.積層体Px
成形材料Xは層Xcと層Xgとを積層させた積層体Pxであって、層Xcは前記炭素繊維Cxを含み、層Xgは前記ガラス繊維Gxを含むことが好ましい。積層構成に特に限定は無く、例えば以下の積層構成を挙げることができる。
層Xg/層Xc(二層構成)
層Xg/層Xc/層Xg(三層構成)
層Xc/層Xg/層Xc(三層構成)
層Xg/層Xc/層Xg/層Xc(四層構成)
層Xg/層Xc/層Xg/層Xc/層Xg(五層構成)
層Xc/層Xg/層Xc/層Xg/層Xc(五層構成)
層Xc/層Xg/層Xc/層Xg/層Xc/層Xg(六層構成)
層Xc/層Xg/層Xc/層Xg/層Xc/層Xg/層Xc(七層構成)
層Xg/層Xc/層Xg/層Xc/層Xg/層Xc/層Xg(七層構成)
より好ましくは、積層体Pxは層Xcと層Xgを組み合わせた奇数層であり、更に好ましくは三層、五層、七層構成である。層Xcと層Xgの層数の合計が奇数(層構成がシンメトリー)の場合、成形材料X単独での反りを防止できる。
なお、層Xcと層Xgの積層構成がアシンメトリーであり、積層体Px単体で反りが発生したとしても、成形材料Xと成形材料Yとを積層したときに反りが発生しなければ問題ない。
【0031】
6.成形材料Xに含まれるガラス繊維Gxの役割
成形体は耐衝撃部材であって、成形体となったとき、成形材料Xが衝撃を受ける側とは反対側にあることが更に好ましい。成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は層Xgであると、より好ましい。層Xgが衝撃を受ける側とは反対側の表層に存在していると、より一層好ましい。この構成であれば、本発明における成形体に衝撃を受けたとき、衝撃を受ける側と反対側の表層において、引張伸度を大きくできる。言い換えると、材料の片面に撃力を加えたとき、その反対面に対して大きな引張応力が作用するため、この反対面の引張破断伸度を大きくすることで耐衝撃性を高めることができる。衝撃を受ける側と反対側の表層に破断ひずみの大きいガラス繊維を含んだ層とすることで、衝撃を受ける側と反対側の表層へクラックが入りにくい。より具体的には、衝撃を受ける側と反対側の表層において、炭素繊維の体積含有量がガラス繊維の体積含有量以下であることで、この層の破断ひずみが向上するため、耐衝撃性は向上し、クラックが発生しにくくなる。成形材料Xが単一層である場合、単一層に含まれたガラス繊維の破断ひずみが大きい。成形材料Xが積層体Pxであって、最外層に層Xgがある場合、層Xgに含まれたガラス繊維の破断ひずみが大きい。
【0032】
[成形材料Xと成形材料Yの積層時の課題]
以下のような線対称の層構成を単純に用いた場合、平均成形収縮率の差は打ち消されるため、成形体の反りは抑制しやすいものの、課題が残る。
例1:(炭素繊維と樹脂)/(ガラス繊維と樹脂)/(炭素繊維と樹脂)
例2:(ガラス繊維と樹脂)/(炭素繊維と樹脂)/(ガラス繊維と樹脂)
上記例1の場合は衝撃を受けた場合に、衝撃を受ける側とは反対側の表層が炭素繊維複合材料であるため、クラックが発生しやすい。上記例2の場合は、剛性に寄与する表層に炭素繊維が含まれていないため、成形体は十分な剛性を持たない。炭素繊維と樹脂が中央層のみに存在すると、成形体の剛性確保に炭素繊維と樹脂の層はほとんど寄与しない。
【0033】
[成形材料Y]
1.概要
本発明の成形体の製造方法は、成形材料Xと、成形材料Yとを積層してコールドプレスし、成形体を製造する方法であって、成形材料Yは不連続な炭素繊維Cy及び/又はガラス繊維Gyと、マトリクス樹脂Ryとを含む。
好ましくは、成形材料Yは不連続な炭素繊維Cyとマトリクス樹脂Ryを含んだ、炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であっても良く、この場合は単層の炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であることが好ましい。ガラス繊維を含まない構成とすることで、製造プロセスを簡略化できる。一方、成形材料Yとして後述する積層体Pyを用いても良い。
【0034】
2.積層体Py
成形材料Yは、層Ycと、層Ycgとを積層させた積層体Pyであって、層Ycは不連続な炭素繊維Cycを含み、層Ycgは炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyを含むことが好ましい。積層体Pyを用いる場合、成形材料Yは炭素繊維Cy及びガラス繊維Gyを含んでいることが好ましい。積層構成に特に限定は無く、例えば以下の積層構成を挙げることができる。
【0035】
層Yc/層Ycg(二層構成)
層Yc/層Ycg/層Yc(三層構成)
層Ycg/層Yc/層Ycg(三層構成)
層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg(四層構成)
層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc(五層構成)
層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg(五層構成)
層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg(六層構成)
層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc(七層構成)
層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg/層Yc/層Ycg(七層構成)
【0036】
積層体Pyは、好ましくは層Yc/層Ycg/層Ycの三層構造である。
成形体となったとき、少なくとも一方の最外層は層Ycであると、より好ましい。また、成形体は、耐衝撃部材であって、成形材料Yが衝撃を受ける側であることが更に好ましい。成形体は、耐衝撃部材であって、層Ycが衝撃を受ける側となることが、より一層好ましい。
層Ycは炭素繊維を含んでいるため、外観が美しく、表面にあると顧客への訴求力が高い。特に、意匠面となる最外層の層Ycにシボを有すると、その意匠性は格別である。
また、層Ycに含まれる炭素繊維は、後述するように面内に二次元方向にランダムに分散していることが好ましい。二次元方向にランダム分散させた層Ycを最外層とすることで、曲げ剛性を高めることができる。
【0037】
3.層Ycに含まれる炭素繊維Cyc
成形材料Yに含まれている炭素繊維Cyのうち、層Ycに含まれる炭素繊維を炭素繊維Cycとする。
【0038】
3.1.束形態
炭素繊維Cycは繊維幅0.3mm未満の炭素繊維Cyc1と、繊維幅0.3mm以上3.0mm以下の炭素繊維Cyc2とを含み、炭素繊維Cycに対する炭素繊維Cyc2の体積割合は、10Vol%以上99Vol%未満が好ましい。好ましくは、炭素繊維Cyc2の体積割合は、50Vol%以上99Vol%未満であり、より好ましくは70Vol%以上99Vol%未満である。炭素繊維Cycの繊維幅および体積割合は、上述した炭素繊維Cxの繊維幅および体積割合の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0039】
3.2.分散
成形材料Yにおいて、炭素繊維Cycは面内方向に分散していることが好ましい。面内方向とは、成形体の板厚方向に直交する方向であり、板厚方向に直交する平行な面の不定の方向を意味している。
更に、炭素繊維Cycは面内方向に2次元ランダムに分散していることが好ましい。成形材料Yを流動させずにコールドプレスした場合、成形前後で炭素繊維Cycの形態はほぼ維持されるため、成形材料Yを成形した成形体に含まれる炭素繊維Cycも同様に、成形体の面内方向に2次元ランダムに分散していることが好ましい。
ここで、2次元ランダムに分散しているとは、炭素繊維Cycが、成形体の面内方向において特定方向ではなく無秩序に配向しており、全体的には特定の方向性を示すことなくシート面内に配置されている状態を言う。この2次元ランダムに分散している不連続繊維を用いて得られる成形材料Yは、面内に異方性を有しない、実質的に等方性の成形材料Yである。
なお、2次元ランダムの配向度は、互いに直交する二方向の引張弾性率の比を求めることで評価する。成形体の任意の方向、及びこれと直交する方向について、それぞれ測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った(Eδ)比が5以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下であれば、炭素繊維Cycが2次元ランダムに分散していると評価できる。成形体は形状を有しているため、面内方向への2次元ランダム分散の評価方法としては、軟化温度以上に加熱して平板形状に戻して固化すると良い。その後、試験片を切り出して引張弾性率を求めると、2次元方向のランダム分散状態を確認できる。
【0040】
3.3.繊維長
炭素繊維Cycの重量平均繊維長は、5mm以上100mm以下であることがより好ましく、5mm以上80mm以下であることが更に好ましく、10mm以上60mm以下であることがより一層好ましい。
炭素繊維Cycの重量平均繊維長が100mm以下の場合、成形材料Yの流動性が向上し、コールドプレスする際に、所望の成形体形状を得やすい。一方、重量平均繊維長が5mm以上の場合、成形体の機械強度が向上しやすい。
【0041】
4.層Ycgに含まれる炭素繊維Cycgとガラス繊維Gy
4.1.配合割合
層Ycgは炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyを含むことが好ましい。言い換えると、層Ycgに含まれる強化繊維について、炭素繊維Cycgのみ含まれていても良いし、ガラス繊維繊維Gyのみ含まれていても良いし、炭素繊維Cycgとガラス繊維Gyが混ぜ込まれて含まれていても良い。
層Ycgに含まれる炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyの重量平均繊維長よりも、層Ycに含まれる炭素繊維の重量平均繊維長の方が長いことが好ましい。
層Ycgに炭素繊維Cycgとガラス繊維Gyを混ぜ込む場合、その配合割合に特に限定は無い。
【0042】
4.2.繊維長
層Ycgに含まれる強化繊維の重量平均繊維長は、0.01mm以上100mm以下であることがより好ましく、0.05mm以上50mm以下であることが更に好ましく、0.1mm以上10mm以下であることがより一層好ましい。強化繊維の重量平均繊維長が100mm以下の場合、成形材料Yの流動性が向上し、コールドプレスする際に、所望の成形体形状を得やすい。一方、重量平均繊維長が0.01mm以上の場合、成形体の機械強度が向上しやすい。
【0043】
4.3.リサイクル層としての層Ycg
層Ycgに含まれる炭素繊維Cycg及び/又はガラス繊維Gyはリサイクルされたものがより好ましい。層Ycgは層Ycに挟まれたサンドイッチ構造であるため、層Ycgに炭素繊維Cycgとガラス繊維Gyを混ぜ込む場合、その配合割合が変わっても、機械物性に有意差は少ない。この理由から、炭素繊維とガラス繊維を含む材料が製造工程内で端材として発生した場合、発生量にあわせて炭素繊維Cycgとガラス繊維Gyを混ぜ込むことできる。製造プロセスにおいて、炭素繊維とガラス繊維の端材がそれぞれどの程度発生するかは予想が難しいが、本発明によれば、端材の発生量を予測する必要がない。
【0044】
[面内方向の平均成形収縮率]
1.式(1)
成形材料Xは、成形材料Xの面内方向の平均成形収縮率(X)が下記式(1)を満たす。
式(1) 平均成形収縮率(X)≦0.12%
好ましくは平均成形収縮率(X)≦0.11%であり、より好ましくは平均成形収縮率(X)≦0.10%である。
平均成形収縮率(X)≦0.12%を満たすと、成形材料Xと成形材料Yを積層して成形したときに反りを小さくできる。一般的に、炭素繊維を含む層と、ガラス繊維を含む層とを積層してコールドプレスすると、得られた成形体は、成形直後から温度が下がるにつれて反りが発生する。そのため、本発明の成形材料Xの収縮率(X)を0.12%以下とすることで、成形材料Xそのものの収縮率を抑制させる。言い換えると、成形材料Xは、収縮率がコントロールされた材料ともいえる。
【0045】
2.式(2)
本発明の成形材料Yは、面内方向の平均成形収縮率(Y)が下記式を満たすことが好ましい。
式(2) 0.1<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.5
式(2)の範囲について、好ましくは0.5<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.5であり、更に好ましくは0.7<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.3であり、より一層好ましくは、0.8<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.2であり、最も好ましくは0.8<平均成形収縮率(Y)/平均成形収縮率(X)<1.0である。
この範囲にあることで、成形体となったときの反りを小さくできる。
【0046】
3.定義と測定方法
平均成形収縮率とは、成形材料を加熱して成形されて得られた成形体が、成形完了直後から室温まで冷却されるときの収縮率を意味する。
【0047】
3.1.定義
平均成形収縮率は、下記式(3)で定義される。
【数2】

Lti:成形型にマーキングした特定方向の2点間距離(成形温度で測定)
Lci:成形体にマーキングされた特定方向の2点間距離(室温まで冷却後に測定)
n:測定数
【0048】
3.2.測定方法
成形材料を成形型に配置する際、予め成形型にマーキングしておき、これを成形材料へ転写させる。マーキングの形状に特に限定は無いが、例えば「+字」や「・字」を用いると良い。マーキングは、円を描くように中心に1点、円周上に12点の合計13点をマーキングする。前記円は直径300mmであり、円周上の12点のマーキングは互いの間隔が均等になるように描く。このとき、直径方向に6本の仮想線を成形型へ描ける(例えば図16)。
式(3)に照らして説明すると、6本の仮想線がそれぞれLtiの特定方向の2点間距離であり、n=6となる。転写前後で、Lti(成形型にマーキングしたi方向の2点間距離(成形温度で測定))と、Lci(成形体にマーキングされたi方向の2点間距離(室温まで冷却後に測定))を測定し、上記式(3)に代入すると良い。
【0049】
[成形材料Xの繊維体積割合Vfxと、成形材料Yの繊維体積割合Vfy]
本発明において、下記式で表される成形材料X、又は成形材料Yに含まれる繊維体積割合に特に限定は無い。
式(5) 繊維体積割合Vfx = 100×強化繊維体積/(強化繊維体積+成形材料Xの熱可塑性樹脂Rxの体積)
式(6) 繊維体積割合Vfy = 100×強化繊維体積/(強化繊維体積+成形材料Yの熱可塑性樹脂Ryの体積)
【0050】
1.成形材料X
成形材料Xは、成形材料Xと成形材料Yを積層して成形したときに、反りを防止するための収縮率制御材料であるため、繊維体積割合Vfxは、式(2)を満たすように定めるのが良い。
繊維体積割合Vfxは20Vol%以上60Vol%以下であることが好ましく、30Vol%以上50Vol%以下であることがより好ましく、35Vol%以上45Vol%以下であれば更に好ましい。
繊維体積割合Vfxが20Vol%以上の場合、所望の機械特性が得られやすい。一方で、繊維体積割合Vfxが60Vol%を超えない場合、プレス成形等に使用する際の流動性が良好で、所望の成形体形状を得られやすい。
【0051】
2.成形材料Y
繊維体積割合Vfyは10Vol%以上60Vol%以下であることが好ましく、20Vol%以上50Vol%以下であることがより好ましく、25Vol%以上45Vol%以下であれば更に好ましい。
繊維体積割合Vfyが10Vol%以上の場合、所望の機械特性が得られやすい。一方で、繊維体積割合Vfyが60Vol%を超えない場合、プレス成形等に使用する際の流動性が良好で、所望の成形体形状を得られやすい。
【0052】
[成形材料Xと成形材料Yの厚み]
成形材料Xの厚みlxと成形材料Yの厚みlyは、成形体に求められる剛性や形状制約に応じて設計すると良い。
lxは0.5mm以上5.0mm未満であることが好ましく、lxの上限は4.0mm以下であればより好ましく、3.0mm以下であれば更に好ましい。
lyは1.0mm以上4.0mm以下であることが好ましく、lyの上限は3.5mm以下であればより好ましく、3.0mm以下であれば更に好ましく、2.5mm以下であればより一層好ましく、2.0mm以下であれば最も好ましい。
各層の材料の厚みは、コールドプレス後の成形体内部で均一であっても良い。言い換えると、本発明のコールドプレスは非流動成形であって、チャージ率100%以上で材料を成形型にチャージしてコールドプレスすれば良い。チャージ率は以下の式で定義される。
チャージ率(%)=100×成形材料Xと成形材料Yを積層させた後の投影面積(mm)/成形型キャビティ面積(mm
成形材料Xと成形材料Yが平板形状であれば、容易に投影面積を測定できる。
【0053】
[成形材料と成形体の関係]
本発明において、成形材料とは成形体を作成するための材料であり、成形材料X、成形材料Yは、コールドプレスされて成形体となる。したがって、本発明における成形材料X、及び成形材料Yは平板形状が好ましい。一方、成形体は賦形されて3次元形状となる。
成形材料Xに含まれるマトリクス樹脂Rx、及び成形材料Yに含まれるマトリクス樹脂Ryが熱可塑性樹脂である場合、コールドプレスしたときの非流動領域では、成形前後で強化繊維の形態はほぼ維持されるため、成形体に含まれる炭素繊維やガラス繊維の形態を分析すれば、成形材料X、成形材料Yの炭素繊維やガラス繊維の形態がどのようなものであったか分かる。コールドプレスする際に、材料を流動させずに成形した場合(非流動成形)、繊維形態はほぼ変わらない。
【0054】
[成形型と製造方法]
本発明における成形体の製造は、雌雄一対の成形型である成形型Mxと成形型Myとを用いて、成形型Mxに成形材料Xを、成形型Myに成形材料Yを、それぞれ接触させてコールドプレスすることが好ましい。言い換えると、作成された成形体の一方の表面は成形材料Xであり、反対側の表面は成形材料Yである。
【0055】
[成形体]
本発明の成形材料を用いて成形した成形体の形状に特に限定は無い。以下、好ましい成形体の形態について述べる。
【0056】
1.側壁と連結壁
本発明における成形体は一対の側壁と、当該側壁と連結する連結壁とを備えることが好ましい。
側壁とは、例えば図1図4でいう101、401である。連結壁とは、例えば図1図4でいう102、402、403である。図1図4に描かれているように、連結壁は一対の側壁を連結している。
連結壁は、図4で描かれているように、上壁の連結壁(402)と、下壁の連結壁(403)を含む概念である。上壁(図4の402)とは、表層に存在する成形材料Xが下側となるように成形体を静置したとき、上側にある連結壁をさす。下壁(図4の403)とは、表層に存在する成形材料Xが下側となるように成形体を静置したとき、下側にある連結壁をさす。
【0057】
2.波打ち形状
本発明における成形体の断面は波打ち形状を有することが好ましい。ここで、波打ち形状とは、波打ち方向の位置に応じて板厚方向の位置が周期的に変位する形状である。図1の断面図に例示するように、波打ちが一つであっても良い。成形体の断面は複数の波打ち形状を有することが好ましい(例えば図4)。波打ち方向の長さが0.5m以上であることが好ましく、1m以上であることがより好ましい。
また、成形体の断面は複数の波打ち形状を有し、波打ち方向の長さが1m以上であることが更に好ましい。
ここでいう波打ち方向とは、図4のy軸方向であり、板厚方向とは、図4のz軸方向である。断面が波打ち形状を有する成形体とは、断面観察したときに波打ちが観察できる成形体をいう。断面は、面内方向(板厚方向に対して垂直な方向)で観察するのが一般的である。
【0058】
3.平面度Faと側壁の高さh
本発明の成形体の平面度Faと側壁の高さhとの関係は、0≦Fa/h<1.1であることが好ましい。
【0059】
3.1.
本発明の平面度Faは、以下の手順1~手順5で定義される。
(手順1)表層に存在する成形材料Xが下側となるように成形体を静置する。好ましい形態では層Xgが下側となるように成形体を載置すれば良い。
(手順2)断面が波打ち形状に見えるように成形体の断面を観察し、波打ち方向の長さLyが40cmとなるように成形体の観察範囲を切り取る。
(手順3)連結壁で形成された下壁の底面に注目する。
(手順4)下壁の底面が全て2本の平行な理想直線の間に配置されるように、必要最小限の幅で2本の平行な理想直線を描く。
(手順5)理想直線間の距離を平面度Faと定義する。
手順1~手順5を図9A図9Cを用いて説明する。
【0060】
図9Aは、表層に存在する成形材料Xが下側になるように静置した成形体を示す。紙面下側の成形体の表層は成形材料Xで覆われている。図9Aのy軸方向が波打ち方向であり、図9Aでは、長さLyが40cmとなるように成形体の観察範囲を切り取り、波打ち形状の断面を観察した図である(手順2)。連結壁の下壁とは、図9Bの902に示す領域である。また、下壁の底面とは図9Cの903で示す面である(手順3)。2本の平行な理想直線は、図9Aの901で例示されるように、連結壁の下壁の全体が2本の平行な理想直線の間に配置され、かつ2本の平行な理想直線(901)の間隔が最小になるように描かれる。
なお、図9Aの成形体の天地を逆転させ、紙面下側の成形体表面が成形材料Yで覆われている状態で(成形材料Yが机上に接触している状態で)観察して測定する方法は、本発明においては採用しない。
波打ち方向の長さLyの切り取り場所によってFaが変わる場合、1か所でも0≦Fa/h<1.1を満たすようにFaを設計できれば良い。
【0061】
3.2.
本発明の側壁の高さhは、図10のhで例示され、波打ち形状の断面を観察したときの上壁と下壁との距離を指す。より具体的には、一つの側壁と直結する上壁と下壁を観察したときに、該上壁および該下壁の全体が2本の平行な理想直線の間に配置されるように、必要最小限の幅で2本の平行な理想直線を描いたときの、理想直線間の距離が高さhである。図10に描かれている2本の平行な点線は、一つの側壁と直結する上壁および下壁の全体が2本の平行な点線の間に配置され、かつ2本の平行な点線の間隔が最小になるように描かれている。
成形体の側壁が複数の高さhを持つとき、少なくとも一つのhが、0≦Fa/h<1.1を満たせば良い。
【0062】
3.3.
Fa/h=0の場合、成形体の下壁は理想平面になっている。Fa/h<1.1であれば、他部品と組み合わせて、例えば自動車を組み立てすることが容易である。好ましくは0≦Fa/h≦1.0であり、より好ましくは0≦Fa/h≦0.7であり、更に好ましくは0≦Fa/h≦0.4であり、より一層好ましくは0≦Fa/h≦0.2であり、0≦Fa/h≦0.15が最も好ましい。
【0063】
4.角度θ1
成形体は、成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角θ1が、90度≦θ1<160度であると好ましい。成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角θ1は、例えば図1図4のθ1で示される。すなわち、波打ち形状の断面を観察したときに角θ1は測定できる。
また、図1図4の成形体は複数の同じ角度のθ1を備えている。角θ1が複数存在し、それぞれが異なる角度である場合は、成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角のうち、最小の角度のものを角θ1とする。
より好ましい角θ1の範囲は95度≦θ1<135度であり、更に好ましくは95度≦θ1<125度であり、より一層好ましくは98度≦θ1<120度である。
【0064】
5.平均成形収縮率差によるアングルチェンジ
成形材料Xと成形材料Yの平均成形収縮率は同一であることが好ましい(平均成形収縮率(X)=平均成形収縮率(Y)が好ましい)が、差があってもよい。平均成形収縮率に差があるとき、成形材料Xと成形材料Yを積層して波打ち形状の成形体を常温より高い温度で作成した場合、平均成形収縮率の大きな層は、平均成形収縮率の小さい層を引っ張る。具体的には、成形材料Xは成形材料Yを引っ張るため、例えば図3B図6Bではコールドプレスが終了した直後から、時間経過とともに紙面下方向に、成形体の(波打ち方向の)両端部が反っていく。この結果、成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角が、成形体直後と、暫く時間が経過した後では角度が変化する(アングルチェンジと呼ぶ場合がある)。成形体の角度θ1を目的の角度にするためには、どの程度角度が変化するのかを予め予測し、予めアングルチェンジする分をθ2-θ1の角度として予測して設計しておき、プレス成形すると好ましい。
成形直後と暫く時間が経過した後での角度の変化(アングルチェンジ)は、波打ち方向の長さが長くなるほど(具体的には波打ち方向の長さが1m以上になると)、角θ1の数が増えるほど、成形体全体の反りの課題は顕著になる。本発明の好ましい製造方法を用いれば、波打ち方向の長さが長い場合等であっても、Fa/hの値が小さい成形体を製造できる。
【0065】
6.リブ
本発明における成形体は、連結壁と側壁の間に、リブを有することが好ましい。リブは、例えば図7A図7Bの701で例示される。リブを配置することにより、線膨張係数に差のある成形材料Yと成形材料Xをコールドプレスしても、反りにくくなる。
【0066】
[接合体]
成形体を変形させて角θ1を小さくし、変形後の成形体の平面度Fa’と側壁の高さhとの関係が0≦Fa’/h<0.1とした状態で、別部品と接合して接合体を製造しても良い。例えば図8Aのように、僅かに反った成形体を図8Aの矢印801のように応力を加えて角θ1を角θ3とした上で、別部品(図8Bの802)と接合しても良い。ここで、平面度Fa’とは、接合した状態での成形体の平面度を意味する。接合は図8Bのようにボルト締結しても良いし、接着剤で接着しても良い。
【0067】
[コールドプレス]
本発明は、雌雄一対の成形型である成形型Mxと成形型Myとを用いて、成形型Mxに成形材料Xを、成形型Myに成形材料Yをそれぞれ接触させてコールドプレスし、成形体を製造することが好ましい。図3A図6Aに、成形材料Xが成形型Mxに接触し、成形材料Yが成形型Myに接触している様子を示す。ここで、雌雄一対の成形型である成形型Mxと成形型Myとは、それぞれが雌雄一対の両型の成形型ではなく、成形型Mxと成形型Myは片型であって、成形型Mxと成形型Myとが雌雄一対をなす意味である。また、例えば図2Aに示している通り、どちらか一方の片型が雄部分、もう一方の片型が雌部分を有していれば良い。両方の成形型のそれぞれが雄部分と雌部分の両方を有していても良い。
【0068】
1.成形型の上下
成形型Mxと成形型Myの上下に特に限定は無いが、成形型Mxが下型であり、成形型Myが上型であることが好ましい。理由を次に記す。
【0069】
(理由1)
マトリクス樹脂Rxと、マトリクス樹脂Ryが熱可塑性樹脂であって、コールドプレスする場合、後述するように、成形型に接触させる前の成形材料Xおよび成形材料Yは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度または融点以上に加熱されている。一方、上下の成形型の温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度または融点よりも低いため、成形材料が成形型に接触した瞬間に成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は固化する。特に、成形体の最外層に炭素繊維を含んだ層(例えば層Yc)を設けるとき、当該層は炭素繊維を含む層であるため熱伝導性が高く、ガラス繊維を含んだ層よりも、同じ条件(樹脂、添加剤、Vfなどが同じ)であれば冷えやすいために流動性が劣る。
したがってコールドプレスする場合は、如何に炭素繊維を含んだ最外層(例えば層Yc)の温度低下を防止するかが課題となっている。そこで、コールドプレスの際には、炭素繊維を含んだ最外層(例えば層Yc)の流動性を担保するため、当該層を圧縮開始直前まで成形型に接触させないように担保すると好ましく、そのためには成形材料Xを下型の成形型Mxに接触させて配置し、炭素繊維を含んだ最外層(例えば層Yc)を上型に接触させて加圧すると良い。この場合、炭素繊維を含んだ最外層(例えば層Yc)は上型を下降させて成形型のキャビティを閉じる直前まで成形型に触れないので、温度低下を防止しやすい。
【0070】
(理由2)
成形材料Yは炭素繊維を含んでいるため、外観が美しく、表面にあると顧客への訴求力が高い。特に、成形材料Yにシボを有すると、その意匠性は格別である。成形材料Yにシボを形成するためには、成形材料Yを成形型Myに接触させた直後に加圧する必要がある。このため、成形材料Yに接触させる成形型Myを上型とすることが好ましい。
成形体の外観を美しくするという観点から、成形体となったときの最外層は層Ycであることが好ましい。
【0071】
2.コールドプレス
コールドプレスの場合、例えば、第1の所定温度に加熱した成形体を第2の所定温度に設定された成形型内に投入した後、加圧・冷却を行う。
具体的には、成形材料Xと成形材料Y(場合によってはその他の材料Zなど)に含まれるマトリクス樹脂Rx、Ryが同じ種類の熱可塑性樹脂であって、それが結晶性である場合、第1の所定温度は融点以上であり、第2の所定温度は融点未満である。熱可塑性樹脂が同じ種類であって、それが非晶性である場合、第1の所定温度はガラス転移温度以上であり、第2の所定温度はガラス転移温度未満である。
マトリクス樹脂Rx、Ryが異なる種類の熱可塑性樹脂である場合は、樹脂の融点又はガラス転移温度の高い方を基準に、第1の所定温度を定め、樹脂の融点又はガラス転移温度の低い方を基準に、第2の所定温度を決定する。
すなわち、コールドプレス法は、少なくとも以下の工程A1)~A2)を含んでいる。
工程A1)成形材料を、第1の所定温度に加温する工程。
工程A2)上記工程A1)で加温された成形材料を、第2の所定温度に調節された成形型に配置し、加圧する工程。
これらの工程を行うことで、成形体の成形を完結させることができる。
上記の各工程は、上記の順番で行う必要があるが、各工程間に他の工程を含んでもよい。他の工程とは、例えば、工程A2)の前に、工程A2)で利用される成形型と別の賦形型を利用して、成形材料を成形型のキャビティの形状に予め賦形する賦形工程等がある。また、工程A2)は、材料へ圧力を加えて所望形状の成形体を得る工程であって、このときの成形圧力については特に限定はしないが、成形型キャビティ投影面積に対して20MPa未満が好ましく、10MPa以下であるとより好ましい。
また、当然のことであるが、コールドプレス時に種々の工程を上記の工程間に入れてもよく、例えば真空にしながらコールドプレスする真空プレス成形を用いてもよい。
【0072】
[コールドプレスに用いる成形型]
1.角θ2
成形型Mxは、連結壁を形成するための成形型面S1と、側壁を形成するための成形型面S2を備え、S1とS2とのなす角θ2が、θ1≦θ2を満たすことが好ましく、θ1<θ2を満たすことがより好ましい。
角θ2は、S1とS2のなす角のうち、鈍角部を測定する。例えば図3A図6Aでは、成形材料Xが接触する成形下型(成形型Mx)の鈍角部を測定している。
成形型キャビティは、断面が波打ち形状を有していることが好ましく、成形体キャビティを波打ち形状に断面観察したときに角θ2は測定できる。
また、図3A図6Aの成形体キャビティは複数の同じ角度のθ2を備えている。角θ2が複数存在し、それぞれが異なる角度である場合は、成形面S1と成形面S2とのなす角のうち、最小の角度のものを角θ2とする。
より好ましいθ2の範囲は0度<θ2-θ1<10度であり、更に好ましくは0度<θ2-θ1<5度である。一方、θ1=θ2であってもよい。
【0073】
2.成形型キャビティの平面度Fc
2.1.
本発明の平面度Fcは、以下の手順1’~手順5’で定義される。
(手順1’)成形材料Xと接触する成形型が下型になるように成形型キャビティを観察する。
好ましくは層Xgと接触する成形型が下型になるように成形型キャビティを観察する。
(手順2’)波打ち形状の成形型キャビティ断面を観察し、波打ち方向の長さLycが40cmとなるように成形型キャビティの観察範囲を切り取る。
(手順3’)下壁を形成するための成形型面に注目する。
(手順4’)下壁を形成するための成形型面が全て2本の平行な理想直線の間に配置されるように、必要最小限の幅で2本の平行な理想直線を描く。
(手順5’)理想直線間の距離を平面度Fcと定義する。
手順1’~手順5’を図12を用いて説明する。
【0074】
図12は、成形材料Xと接触する成形型Mxが下型になるように成形型キャビティを観察している。図12のy軸方向が波打ち方向であり、波打ち形状の成形型キャビティ断面を観察し、波打ち方向の長さLycが40cmとなるように成形型キャビティの観察範囲を切り取る。下壁を形成するための成形型面とは、図12の1201である。2本の平行な理想直線は、図12の1202で例示されるように、下壁を形成するための成形型面の全体が2本の平行な理想直線の間に配置され、かつ2本の平行な理想直線(1202)の間隔が最小になるように描かれる。
波打ち方向の長さLycの切り取り場所によって、Fcが変わる場合、1か所でもFa<Fcを満たすようにFcを設計すれば好ましい。
【0075】
2.2.
コールドプレスに用いる成形型キャビティの平面度Fcは、Fa≦Fcを満たすことが好ましい。Fa<Fcは、成形型キャビティに比べて成形体がより平面に近いことを意味している。成形材料Xと成形材料Yの平均成形収縮率に差があるとき、成形材料Xと成形材料Yを積層して波打ち形状に成形体を作成した場合、平均成形収縮率の大きな層は、平均成形収縮率の小さい層を引っ張る。例えば図3B図6Bでは成形体を作成直後から、時間経過とともに紙面下方向に(波打ち方向の成形体の端部が)反っていく。この結果、成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角が、成形体直後と、暫く時間が経過した後では角度が変化し、アングルチェンジを引き起こす。成形体の平面度Faを目的の範囲にするためには、どの程度平面度が変化するのかを予め予測し、予め平面度が変化する分を(Fc-Fa)、調整して、プレス成形すると好ましい。
【実施例
【0076】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
1.材料
・炭素繊維
帝人株式会社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(EP)(平均繊維径7μm、繊度1600tex、密度1.78g/cm
・ガラス繊維
日東紡績社製のガラス繊維E-glass RS240QR-483(番手:2400g/1000m)
・熱可塑性樹脂Rx
ポリアミド6(ユニチカ株式会社製A1030、PA6と略する場合がある)。
・熱可塑性樹脂Ry
ポリアミド6(ユニチカ株式会社製A1030、PA6と略する場合がある)。
【0078】
2.材料の測定
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
【0079】
(1)成形材料に含まれる繊維体積割合(Vfx、Vfy)の測定
製造した成形材料X(又は成形材料Y)から100mm×100mmのサンプルを切り出し
(i)成形材料X(又は成形材料Y)の重量を測定する。
(ii)550℃に加熱した電気炉(ヤマト科学株式会社製FP410)の中で窒素雰囲気下で、4時間加熱してマトリクス樹脂等の有機物を焼き飛ばし、重量を測定する。
(iii)(ii)の後、更に750℃で5時間かけて炭素繊維を焼き飛ばし、ガラス繊維のみとなったサンプルの重量を測定する。
(i)~(iii)の重量を秤量により、樹脂、炭素繊維、ガラス繊維の重量を算出する。次に、各成分の比重を用いて、強化繊維の体積割合を算出した。
式(5) 繊維体積割合Vfx = 100×強化繊維体積/(強化繊維体積+成形材料Xの熱可塑性樹脂Rxの体積)
式(6) 繊維体積割合Vfy = 100×強化繊維体積/(強化繊維体積+成形材料Yの熱可塑性樹脂Ryの体積)
【0080】
(2)成形材料の平均成形収縮率の算出
成形材料を成形型に配置する際、予め成形型にマーキングしておき、これを成形材料へ転写させる。マーキングは、円を描くように中心に1点、円周上に12点の合計13点をマーキングする。前記円は直径300mmであり、円周上の12点のマーキングは互いの間隔が均等になるように描く。このとき、直径方向に6本の仮想線を成形型へ描く(例えば図16)。
式(3)に照らすと、6本の仮想線がそれぞれLtiの特定方向の2点間距離であり、n=6となる。成形型にマーキングしたi方向の2点間距離を成形温度で測定することで転写前のLti(iは1~6)を測定し、室温まで冷却した成形体にマーキングされたi方向の2点間距離を測定することで転写後のLciを測定し、上記式(3)より平均成形収縮率を算出する。
【0081】
3.断面観察
成形体及び成形型キャビティの断面は、波打ち形状が観察できる方向から観察した。より具体的には波打ち方向(図1図4のy軸方向)に対して垂直な方向(図1図4のx軸方向)であって、波打ち形状が観察できる方向から観察した。これは、板厚方向(図1図4のz軸方向)に対して垂直な方向でもある。言い換えると、波打ち形状の観察は、波打ち方向及び板厚方向の両方に対して垂直な方向から行った。
【0082】
(1)成形体の平面度Fa
以下の手順で平面度Faを測定した。
(手順1)表層に存在する成形材料Xが下側となるように成形体を静置した。
(手順2)断面が波打ち形状に見えるように成形体の断面を観察し、波打ち方向の長さLyが40cmとなるように成形体の観察範囲を切り取った。
(手順3)連結壁で形成された下壁の底面に注目した。
(手順4)下壁の底面が全て2本の平行な理想直線の間に配置されるように、必要最小限の幅で2本の平行な理想直線を描いた。
(手順5)理想直線間の距離を平面度Faとした。
【0083】
(2)成形型キャビティの平面度Fc
以下の手順で平面度Fcを測定した。
(手順1’)成形材料Xと接触する成形型Mxが下型になるように成形型キャビティを観察した。
(手順2’)波打ち形状の成形型キャビティ断面を観察し、波打ち方向の長さLycが40cmとなるように成形型キャビティの観察範囲を切り取った。
(手順3’)下壁を形成するための成形型面に注目した。
(手順4’)下壁を形成するための成形型面が全て2本の平行な理想直線の間に配置されるように、必要最小限の幅で2本の平行な理想直線を描いた。
(手順5’)理想直線間の距離を平面度Fcとした。
【0084】
(3)角度θ1
波打ち形状の成形体の断面を観察し、成形材料Xが表層に存在する側における側壁と連結壁とのなす角を全て測定し、最小の角度のものを角θ1とした。
【0085】
(4)角度θ2
成形型Mxを断面観察したときにおける、連結壁を形成するための成形型面S1と、側壁を形成するための成形型面S2とのなす角θ2は、各実施例、比較例に応じて設計した。
【0086】
(5)衝撃試験(落錘試験)
試験条件は錘体質量を16kgとし、135J、145J、155J、165Jの衝撃が成形体に加わるように高さ調整をして、以下の評価を行った。
Perfect:錘体が当たった面の反対側の表面にクラック(面内方向の亀裂)が見られなかった。
Excellent:錘体が当たった面の反対側の表面に10mm未満のクラック(面内方向の亀裂)が発生した。
Good:錘体が当たった面の反対側の表面に10mm以上のクラック(面内方向の亀裂)が発生。割れ(板厚方向の亀裂)は板厚の半分未満に収まった。
Poor:錐が当たった面の反対側の表面に10mm以上のクラック(面内方向の亀裂)が発生且つ、割れ(板厚方向の亀裂)は板厚の半分以上が割れている。
【0087】
[実施例1]
1.成形材料Xの作成
1.1.層Xcの準備
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み0.18mm、475mm×350mmの平板板状の層Xcを得た。層Xcに含まれる炭素繊維の解析結果を表1に示す。
【0088】
1.2.層Xgの準備
ガラス繊維として、日東紡績社製のガラス繊維E-glass RS240QR-483を使用し、樹脂としてユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムにガラス繊維が配向したガラス繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み0.32mm、475mm×350mmの平板板状の層Xgを得た。層Xgに含まれるガラス繊維の解析結果を表1に示す。
【0089】
1.3.積層体Px
表1に記載するようにXg/Xc/Xg/Xc/Xgとなるように積層し、積層体Pxを作成した。層Xgを単にXg、層Xcを単にXcと記載する。層Xgは3層であり、層Xcは2層である。得られた積層体Pxを成形材料Xとした。図14に、成形材料Xの積層構造を示している。
【0090】
2.成形材料Yの作成
2.1.層Ycの準備
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み0.8mm、475mm×350mmの平板板状の材料(層Yc)を作成した。層Ycに含まれる炭素繊維の解析結果を表1に示す。
【0091】
2.2.層Ycgの準備
層Xcを余分に数枚準備し、これを大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく粉砕し、粉砕材を得た。層Ycgの繊維体積割合が、表1に示す繊維体積割合となるように、得られた粉砕材とユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030とをドライブレンドし、200℃の二軸押出機で該ドライブレンド品を溶融混練させた後、Tダイから押出した。その後、60℃のチルロールでひきとることによって冷却固化させ、厚み0.8mmの層Ycgを得た。層Ycgの分析結果を表1に示す。
【0092】
2.3.積層体Py
表1に記載するように、Yc/Ycg/Ycとなるように積層し、積層体Pyを作成した。層Ycを単にYc、層Ycgを単にYcgと記載する。得られた積層体Pyを成形材料Yとした。図14に、成形材料Yの積層構造を示している。
【0093】
3.成形型の準備
図11に示す成形体を作成するための成形型を準備した。y軸方向の成形体長さは40cmであり、これをLyとした。
ここで、平面度Fcは0mm、角θ2は103度(S1とS2とのなす角は、全て同じ角度)、成形型My(上型)の温度taは150℃、成形型Mx(下型)の温度tbは150℃に設定した。
【0094】
4.コールドプレス
成形材料Xと成形材料Yを120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、成形材料Y/成形材料Xの順で積層して、赤外線加熱機により290℃まで昇温させた。なお、成形材料Xと成形材料Yはシンメトリーな材料であるため、表裏は無い。
その後、成形材料Xを成形型Mxに接触させるように成形材料を載置した。このとき、475mm×350mmの材料(平板形状)のうち、475mmある方向を、波打ち方向として載置した。載置するときには、成形型に沿わせるように手で予備賦形した。
上型を下降させ、プレス圧力20MPa(加圧開始から、20MPaに達するまでの時間1秒)、で1分間加圧して、成形材料Yと成形材料Xを同時にプレスし、コールドプレス体(400mm×350mm:波打ち方向(図11のy軸方向)×波打ち方向と直交する方向(図11のx軸方向))を製造した。
コールドプレス完了後、1時間後の成形体は、図11に示す形状の波打ち形状の成形体であった。成形体は、側壁の高さhが12mm、上壁の長さ23mm、下壁の長さ25mmであった。
上壁、下壁はともに連結壁であり、成形材料Xを下側になるように観察して上壁、下壁を定義して長さを測定した。
衝撃試験(落錘試験)は層Ycが衝撃を受ける面となるように試験する。言い換えると、層Xgが衝撃を受ける面とは反対面となる。
結果を表1に示す。平面度Faは2.0mmと極めて高く、成形体の反りは少なかった。なお、反りの状況(反りの方向)は成形材料Xを机に接するように机上に静置したとき、上に凸であった。(なお、図10は下に凸のように描かれているので、これとは反対方向に凸となっている)。
【0095】
[実施例2]
層Ycgを準備する際、層Xcの代わりに層Xgを余分に数枚準備し、これを大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく粉砕して利用したこと以外は、実施例1と同様にして成形体を作成した。結果を表1に示す。
【0096】
[実施例3]
成形材料Yを以下のように作成したこと以外は、実施例1と同様にして成形体を作成した。結果を表1に示す。実施例3では、成形材料Xの平均成形収縮率(X)が平均成形収縮率(Y)よりも比較的大きく、成形材料Xは成形材料Yをやや引っ張った結果、少し反りが発生した。
【0097】
<成形材料Yの作成>
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み2.4mm、475mm×350mmの平板板状の材料を得た。これを層Ycとし、層Ycのみを成形材料Yとした。
【0098】
[比較例1]
成形材料X、成形材料Yを以下のように作成したこと以外は、実施例1と同様にして成形体を作成した。結果を表1に示す。比較例1では、成形材料Xの平均成形収縮率(X)が平均成形収縮率(Y)よりもかなり大きく、成形材料Xは成形材料Yをやや引っ張った結果、大きな反りが発生した。
【0099】
1.成形材料Xの作成
ガラス繊維として、日東紡績社製のガラス繊維E-glass RS240QR-483を使用し、樹脂としてユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムにガラス繊維が配向したガラス繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み1.3mm、475mm×350mmの平板板状の層Xgを得た。
層Xgのみを成形材料Xとし、層Xcは用いなかった。層Xgに含まれるガラス繊維の解析結果を表1に示す。
【0100】
2.成形材料Yの作成
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み2.4mm、475mm×350mmの平板板状の材料を得た。これを層Ycとし、層Ycのみを成形材料Yとした。
【0101】
[実施例4]
成形材料Xを以下のように準備したこと以外は、実施例1と同様にして成形体を作成した。
(1)炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用した。
(2)帝人株式会社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(EP、1600tex)1本、日東紡績社製のガラス繊維E-glass RS240QR-483(2400tex)を2本並べ、炭素繊維とガラス繊維を同時にカットして散布することによって、炭素繊維とガラス繊維を混ぜ合わせ、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維とガラス繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。
得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み1.3mm、475mm×350mmの平板板状の成形材料Xを得た。成形材料Xに含まれる炭素繊維の解析結果を表2に示す。積層体Pxを用いず、炭素繊維とガラス繊維を混ぜ合わせたこと以外は、実施例1と同様に成形材料Xを作成する。図15に、成形材料Xと成形材料Yの層構造を示している。図15に示すように、成形材料Xは単一層であって、炭素繊維とガラス繊維が同一層Xmに混ぜ込まれている。
【0102】
[実施例5]
層Ycgを準備する際、層Xcの代わりに層Xgを余分に数枚準備し、これを大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく粉砕して利用したこと以外は、実施例4と同様にして成形体を作成した。結果を表2に示す。
【0103】
[実施例6]
成形材料Yを以下のように作成したこと以外は、実施例4と同様にして成形体を作成した。結果を表2に示す。
【0104】
<成形材料Yの作成>
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み2.4mm、475mm×350mmの平板板状の材料を得た。これを層Ycとし、層Ycのみを成形材料Yとした。
【0105】
[比較例2]
成形材料Xは用いず、成形材料Yのみで成形体を作成した。成形材料Yは以下のように作成した。
【0106】
<成形材料Yの作成>
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単糸数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合組成物を作成した。得られた複合組成物を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み3.7mm、475mm×350mmの平板板状の層Ycを得た。また、層Ycのみを成形材料Yとした。
【0107】
[2次元配向と3次元配向]
実施例、比較例における成形材料Xにおける強化繊維は2次元にランダム分散している。層Xc、層Xg、層Ycも同様に、強化繊維は2次元にランダム分散している。
一方、層Ycgは3次元方向にランダム分散している。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
本出願は、2021年10月4日出願の日本特許出願2021-163769に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の成形体及びこれを成形して得られた成形体は、各種構成部材、例えば自動車の構造部材、また各種電気製品、機械のフレームや筐体等、衝撃吸収が望まれるあらゆる部位に用いられる。特に好ましくは、自動車部品として利用できる。
【符号の説明】
【0112】
Y:成形材料Y
X:成形材料X
101、401:側壁
102:連結壁
402:上壁の連結壁(成形材料Xを下側に配置して観察する)
403:下壁の連結壁(成形材料Xを下側に配置して観察する)
x:x軸方向
y:y軸方向
z:z軸方向
θ1:側壁と連結壁とのなす角
θ2:成形型Mxにおける、連結壁を形成するための成形型面S1と、側壁を形成するための成形型面S2、とのなす角
θ3:成形体を応力変形させて角θ1を小さくし、成形体を接合した状態での、側壁と連結壁とのなす角
Mx:成形材料Xを接触させる型
My:成形材料Yを接触させる型
701:リブ
801:応力変形させるための力
802:接合用の別部品
901:2本の平行な理想直線
902:連結壁の下壁
903:下壁の底面
Ly:波打ち方向の長さ(40cm)
h:側壁の高さ
Lyc:波打ち方向の長さ(40cm)
1201:下壁を形成するための成形型面
1202:2本の平行な理想直線
1601:成形型
1602:マーキング
T1、T2:成形体
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16