IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪ガスケミカル株式会社の特許一覧

特許7393592フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途
<>
  • 特許-フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途 図1
  • 特許-フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途 図2
  • 特許-フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途 図3
  • 特許-フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】フルオレン骨格を有する樹脂の解重合法、その生成物および用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/00 20200101AFI20231129BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20231129BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20231129BHJP
   C08G 64/42 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C07C68/00 Z
C07C69/96 Z CSP
C08G63/91
C08G64/42
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023543378
(86)(22)【出願日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2023025537
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2022113772
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023057824
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】吉村 寛
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096596(JP,A)
【文献】特開2015-110555(JP,A)
【文献】特開2015-196676(JP,A)
【文献】特開2016-204271(JP,A)
【文献】特開2009-057483(JP,A)
【文献】特開2019-131824(JP,A)
【文献】特開2021-001346(JP,A)
【文献】特開2022-131494(JP,A)
【文献】特開2017-201002(JP,A)
【文献】特開2011-215283(JP,A)
【文献】特開2002-309015(JP,A)
【文献】特開平06-287230(JP,A)
【文献】特開2011-195514(JP,A)
【文献】特開2008-291052(JP,A)
【文献】特開平08-220781(JP,A)
【文献】Green Chemistry,2021年,23(23),P.9412-9416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 68/
C07C 69/
C08G 63/
C08G 64/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂を、加水分解触媒の存在下、炭酸エステルと反応させて、分解生成物を得る、フルオレン含有樹脂の解重合法であって、
前記フルオレン含有樹脂が、ポリエステル系樹脂および/またはポリ炭酸エステル系樹脂を含み、
前記ポリエステル系樹脂が、下記式(1)
【化1】
(式中、
環Z および環Z は独立してアレーン環を示し、
およびR は独立して置換基を示し、m1およびm2は独立して0以上の整数を示し、
n1およびn2は独立して0~4の整数を示し、
およびA は独立してアルキレン基を示し、
およびX は独立してヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示し、
およびR は独立して置換基を示し、k1およびk2は独立して0~4の整数を示す)
で表されるジカルボン酸成分および/または下記式(2)
【化2】
(式中、
環Z および環Z は独立してアレーン環を示し、
およびA は独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびR は独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂であり、
前記ポリ炭酸エステル系樹脂が、前記式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリ炭酸エステル系樹脂であり、
前記分解生成物が、前記ジオールのモノ炭酸エステル体、前記ジオールのジ炭酸エステル体、前記ジカルボン酸、前記ジカルボン酸のエステルおよび前記ジオールからなる群より選択された少なくとも一種を含む解重合法
【請求項2】
前記分解生成物が、前記ジオールのモノ炭酸エステル体および/または前記ジオールのジ炭酸エステル体を含む請求項1記載の解重合法。
【請求項3】
前記分解生成物が、前記ジカルボン酸および/またはそのエステルをさらに含む請求項2記載の解重合法。
【請求項4】
前記分解生成物とアルコールとを反応させて前記ジオールを得る請求項1または2記載の解重合法。
【請求項5】
前記フルオレン含有樹脂が、前記式(1)で表されるジカルボン酸成分を重合成分として含むポリエステル系樹脂であり、前記式(1)において、n1およびn2が0であるか、またはn1およびn2が1であり、かつ環Zおよび環Zは独立して縮合多環式アレーン環である請求項1または2記載の解重合法。
【請求項6】
前記フルオレン含有樹脂が、前記式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂である請求項1または2記載の解重合法。
【請求項7】
前記フルオレン含有樹脂が、下記式(5)
【化3】
(式中、
は直接結合(単結合)またはアルキレン基を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、p1およびp2は独立して0以上の整数を示し、
11およびR12は独立して置換基を示し、q1およびq2は独立して0~6の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含む請求項1または2記載の解重合法。
【請求項8】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分を重合成分として含むポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、フルオレン骨格を有するジカルボン酸および/またはそのエステルを製造する方法であって、
前記ポリエステル系樹脂が、請求項1記載の式(1)で表されるジカルボン酸成分を重合成分として含むポリエステル系樹脂である方法
【請求項9】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格を有するジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む第1の分解生成物を得る第1の分解工程、
前記第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するジオールを製造する方法であって、
前記ポリエステル系樹脂が、請求項1記載の式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂である方法
【請求項10】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格およびエステル結合を有するポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む第1の分解生成物を得る第1の分解工程、
前記第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するモノマー成分を回収する方法であって、
前記ポリエステル系樹脂が、請求項1記載の式(1)で表されるジカルボン酸成分および/または請求項1記載の式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂である方法
【請求項11】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格および炭酸エステル結合を有するポリ炭酸エステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリ炭酸エステル系樹脂を分解し、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含む第1の分解生成物を得る第1の分解工程、
前記第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するモノマー成分を回収する方法であって、
前記ポリ炭酸エステル系樹脂が、請求項1記載の式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリ炭酸エステル系樹脂である方法
【請求項12】
下記式(3)
【化4】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
は炭化水素基を示し、
およびRは独立してハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノもしくはジ置換アミノ基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
シアノ基、ハロゲン原子または炭化水素基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールのモノ炭酸エステル体。
【請求項13】
下記式(4)
【化5】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
環Z および環Z がベンゼン環である場合、s1およびs2は独立して1以上の整数であり、
およびR10は独立して炭化水素基を示し(R およびR 10 は双方が炭素数4~25の第三級アルキル基である場合を除く)
およびRは独立してハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノもしくはジ置換アミノ基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
シアノ基、ハロゲン原子または炭化水素基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールのジ炭酸エステル体。
【請求項14】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有するフルオレン含有樹脂と、炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有樹脂を分解し、請求項12記載のジオールのモノ炭酸エステル体を製造する方法であって、
前記フルオレン含有樹脂が、下記式(2)
【化6】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびRは独立してハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノもしくはジ置換アミノ基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
シアノ基、ハロゲン原子または炭化水素基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むフルオレン含有樹脂である方法。
【請求項15】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有するフルオレン含有樹脂と、炭酸エステルと反応させて前記フルオレン含有樹脂を分解し、請求項13記載のジオールのジ炭酸エステル体を製造する方法であって、
前記フルオレン含有樹脂が、下記式(2)
【化7】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
環Z および環Z がベンゼン環である場合、s1およびs2は独立して1以上の整数であり、
およびRは独立してハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノもしくはジ置換アミノ基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
シアノ基、ハロゲン原子または炭化水素基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むフルオレン含有樹脂である方法。
【請求項16】
フルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂のリサイクル方法であって、
加水分解触媒の存在下、前記フルオレン含有樹脂と炭酸エステルとを反応させて、分解生成物を得る解重合工程と、
前記解重合工程で得られた分解生成物を重合し、新たなフルオレン含有樹脂を得る重合工程とを含み、
前記フルオレン含有樹脂が、ポリエステル系樹脂またはポリ炭酸エステル系樹脂を含み、
前記ポリエステル系樹脂が、請求項1記載の式(1)で表されるジカルボン酸成分および/または請求項1記載の式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂であり、
前記ポリ炭酸エステル系樹脂が、請求項1記載の式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリ炭酸エステル系樹脂である、リサイクル方法。
【請求項17】
前記重合工程において、前記新たなフルオレン含有樹脂の単量体原料を補充する請求項16記載のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有する樹脂の解重合に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、脱炭素社会の実現が地球規模で急務となっており、SDGs(Sustainable Development Goals)が具体的な目標として掲げられているが、その一環として、使用済プラスチックの再利用(リサイクル)も推進されている。特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル系樹脂は、飲料のボトルや繊維製品として大量に流通しているため、リサイクルに対する要求が大きい。プラスチックのリサイクルの方法として、プラスチックを低分子化合物へと化学的に分解し、分解した低分子化合物からプラスチックを製造するケミカルリサイクルが知られている。ケミカルリサイクルは、リサイクル品の品質が高く、リサイクル品を繰り返し利用できる点などから注目されている。
【0003】
ケミカルリサイクルの方法として、特開2003-128600号公報(特許文献1)および特開2003-119316号公報(特許文献2)には、過剰量のエチレングリコールを添加してPETを分解し、テレフタル酸を製造する方法が開示されている。
【0004】
WO2004/041917号(特許文献3)には、亜臨界水または超臨界水を用いる加水分解によってポリエステルをモノマーまたはオリゴマーに分解する方法が開示されている。
【0005】
Green Chem, 2021, 23, 9412-9416(非特許文献1)には、フレーク状PETに、メタノール、炭酸ジメチル(DMT)、リチウムメトキシドを適切な比率で混合し、28℃、5時間で反応させると、テレフタル酸ジメチルが収率74%で生成し、反応温度を50℃に変更すると、5時間でPETが完全に分解することが記載されている。この方法では、分解反応によって、テレフタル酸ジメチルおよび炭酸エチレンが生成する。この文献には、炭酸ジメチルがエチレングリコールの捕捉剤として機能し、前記反応によって生成する炭酸エチレンが安定な5員環構造であるため、分解反応が進行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-128600号公報
【文献】特開2003-119316号公報
【文献】WO2004/041917号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Shinji Tanaka et al., “Capturing ethylene glycol with dimethyl carbonate towards depolymerisation of polyethylene terephthalate at ambient temperature”, Green Chem, 2021, 23, 9412-9416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1~3における解重合の方法では、高温、高圧条件下で反応させる必要があり、例えば、いずれの方法でも反応温度は200℃以上であり、簡便にモノマーを製造できず、生産性が低い。
【0009】
一方、非特許文献1における解重合の方法では、低温でPETを解重合できるが、PET以外のポリエステル系樹脂について記載されていない。例えば、近年、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂が光学用途などにおいて利用されているが、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂は、嵩高いフルオレン骨格により、PETなどの汎用のポリエステルとは構造が大きく異なり、フルオレン骨格の特異性も相まって異なる化学的挙動を示す。しかし、非特許文献1には、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂について記載されていない。
【0010】
従って、本開示の目的は、分子内にフルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有する樹脂を簡便に解重合する方法およびその用途を提供することにある。
【0011】
本開示の他の目的は、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有する樹脂の解重合による新規な炭酸エステル化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格とエステル結合および/または炭酸エステル結合とを有する樹脂を、炭酸エステルと反応させることにより、前記樹脂を簡便な方法で分解(解重合)できることを見出し、本開示を完成した。
【0013】
すなわち、本開示の一態様(態様[1])は、
フルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂(以下、この樹脂を単に「フルオレン含有樹脂」という場合がある)を、加水分解触媒の存在下、炭酸エステルと反応させて、分解生成物を得る、フルオレン含有樹脂の解重合法である。
【0014】
本開示の一態様は、前記態様[1]において、分解生成物が、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含む態様(態様[2])や、前記態様[2]において、前記分解生成物が、ジカルボン酸および/またはそのエステルをさらに含む態様(態様[3])であってもよい。
【0015】
本開示の一態様は、前記態様[1]~[3]のいずれかの態様において、前記分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る態様(態様[4])であってもよい。
【0016】
本開示の一態様は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記フルオレン含有樹脂が、下記式(1)
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびRは独立して置換基を示し、m1およびm2は独立して0以上の整数を示し、
n1およびn2は独立して0~4の整数を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、
およびXは独立してヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示し、
およびRは独立して置換基を示し、k1およびk2は独立して0~4の整数を示す)
で表されるジカルボン酸成分および/または下記式(2)
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂である態様(態様[5])であってもよい。
【0021】
本開示の一態様は、
前記態様[5]において、前記フルオレン含有樹脂が、前記式(1)で表されるジカルボン酸成分を重合成分として含むポリエステル系樹脂であり、前記式(1)において、n1およびn2が0であるか、またはn1およびn2が1であり、かつ環Zおよび環Zは独立して縮合多環式アレーン環である態様(態様[6])や、前記態様[5]または[6]において、前記フルオレン含有樹脂が、前記式(2)で表されるジオールを重合成分として含むポリエステル系樹脂である態様(態様[7])であってもよい。
【0022】
本開示の一態様は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記フルオレン含有樹脂が、下記式(2)
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むポリ炭酸エステル系樹脂である態様(態様[8])であってもよい。
【0025】
本開示の一態様は、前記態様[1]~[8]のいずれかの態様において、前記フルオレン含有樹脂が、下記式(5)
【0026】
【化4】
【0027】
(式中、
は直接結合(単結合)またはアルキレン基を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、p1およびp2は独立して0以上の整数を示し、
11およびR12は独立して置換基を示し、q1およびq2は独立して0~6の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含む態様(態様[9])であってもよい。
【0028】
本開示の一態様(態様[10])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(フルオレン含有ジカルボン酸成分)を重合成分として含むポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、フルオレン骨格を有するジカルボン酸および/またはそのエステルを製造する方法である。
【0029】
本開示の一態様(態様[11])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格を有するジオール(フルオレン含有ジオール)を重合成分として含むポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む第1の分解生成物を得る第1の分解工程、
前記第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するジオールを製造する方法である。
【0030】
本開示の一態様(態様[12])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格およびエステル結合を有するポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリエステル系樹脂を分解し、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む分解生成物を得る第1の分解工程、
前記分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するモノマー成分を回収する方法である。
【0031】
本開示の一態様(態様[13])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格および炭酸エステル結合を有するポリ炭酸エステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記ポリ炭酸エステル系樹脂を分解し、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含む第1の分解生成物を得る第1の分解工程、
前記第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る第2の分解工程を経て、フルオレン骨格を有するモノマー成分を回収する方法である。
【0032】
本開示の一態様(態様[14])は、
下記式(3)
【0033】
【化5】
【0034】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
は炭化水素基を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールのモノ炭酸エステル体である。
【0035】
本開示の一態様(態様[15])は、
下記式(4)
【0036】
【化6】
【0037】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびR10は独立して炭化水素基を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールのジ炭酸エステル体である。
【0038】
本開示の一態様(態様[16])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有するフルオレン含有樹脂と、炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有樹脂を分解し、態様[14]のジオールのモノ炭酸エステル体を製造する方法であって、
前記フルオレン含有樹脂が、下記式(2)
【0039】
【化7】
【0040】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むフルオレン含有樹脂である方法である。
【0041】
本開示の一態様(態様[17])は、加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有するフルオレン含有樹脂と、炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有樹脂を分解し、態様[15]のジオールのジ炭酸エステル体を製造する方法であって、
前記フルオレン含有樹脂が、下記式(2)
【0042】
【化8】
【0043】
(式中、
環Zおよび環Zは独立してアレーン環を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0以上の整数を示し、
およびRは独立して置換基を示し、t1およびt2は独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
で表されるジオールを重合成分として含むフルオレン含有樹脂である方法である。
【0044】
本開示の一態様(態様[18])は、
フルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂のリサイクル方法であって、
加水分解触媒の存在下、前記フルオレン含有樹脂と炭酸エステルとを反応させて、分解生成物を得る解重合工程と、
前記解重合工程で得られた分解生成物を重合し、新たなフルオレン含有樹脂を得る重合工程とを含む、リサイクル方法である。
【0045】
本開示の一態様(態様[19])は、前記態様[18]の重合工程において、前記新たなフルオレン含有樹脂の単量体原料を補充してもよい。
【0046】
さらに、本明細書および請求の範囲において、置換基などの炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【発明の効果】
【0047】
本開示のフルオレン含有樹脂の解重合法によれば、分子内にフルオレン骨格を有し、かつ、分子内にエステル結合および/または炭酸エステル結合を有する樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂やポリ炭酸エステル系樹脂などを簡便に解重合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、比較例1で得られた解重合前のポリエステルの分子量分布を示すチャートである。
図2図2は、比較例1で得られたポリエステルを解重合した分解生成物の分子量分布を示すチャートである。
図3図3は、比較例2で得られた解重合前のポリエステルの分子量分布を示すチャートである。
図4図4は、比較例2で得られたポリエステルを解重合した分解生成物の分子量分布を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
[フルオレン含有樹脂]
本開示において、解重合の対象となる樹脂は、分子内にフルオレン骨格と、エステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂[または(炭酸)エステル結合含有樹脂]である。また、本明細書および請求の範囲において、(炭酸)エステル結合は、エステル結合および/または炭酸エステル結合を意味する。
【0050】
分子内に(炭酸)エステル結合を有する樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリエステルポリ炭酸エステル(ポリエステル炭酸エステル)、ポリ炭酸エステルが挙げられる。
【0051】
フルオレン骨格は、フルオレン含有樹脂の主鎖と側鎖のいずれにあってもよい。また、フルオレン骨格は、フルオレン骨格から直接に、または2価の連結基を介して、(炭酸)エステル結合と繋がる。(炭酸)エステル結合または前記2価の連結基は、フルオレン骨格のいずれの箇所に結合していてもよく、その結合位置は特に限定されないが、好ましくは、フルオレン環の9,9位、2,7位であり、特に好ましくは、フルオレン環の9,9位である。前記2価の連結基は、少なくとも炭化水素基を含む連結基であってもよい。
【0052】
フルオレン含有樹脂の中でも、少なくともジカルボン酸成分とジオール成分とが重合したエステル結合を少なくとも含むフルオレン含有樹脂、少なくともジオール成分が重合した炭酸エステル結合を少なくとも含むフルオレン含有樹脂が好ましい。このようなフルオレン含有樹脂としては、フルオレン含有ポリエステル樹脂、フルオレン含有ポリエステル炭酸エステル樹脂に代表されるフルオレン含有ポリエステル系樹脂;フルオレン含有ポリ炭酸エステル樹脂に代表されるフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂が好ましく、フルオレン含有ポリエステル系樹脂、フルオレン含有ポリ炭酸エステル樹脂がさらに好ましく、フルオレン含有ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0053】
[フルオレン含有ポリエステル系樹脂]
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分およびジオール成分を重合成分として含み、ジカルボン酸成分およびジオール成分の少なくとも一方がフルオレン骨格を有する成分を含んでいればよい。
【0054】
(フルオレン含有ジカルボン酸成分)
重合成分としてのジカルボン酸成分が、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(フルオレン含有ジカルボン酸成分)を含む場合、フルオレン含有ジカルボン酸成分は、特に限定されないが、前記式(1)で表されるジカルボン酸成分が好ましい。
【0055】
前記式(1)において、環Zおよび環Zで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ;多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合多環式芳香族炭化水素環)などが挙げられる。
【0056】
縮合多環式アレーン環としては、縮合二環式アレーン環、具体的には、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10-16アレーン環など;縮合三環式アレーン環などの縮合二ないし四環式アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式C14-20アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環は、ナフタレン環などの縮合二環式C10-14アレーン環である。環集合アレーン環としては、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのビアレーン環;テルフェニル環などのテルアレーン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環は、ビフェニル環などのC12-18ビアレーン環である。
【0057】
好ましい環ZおよびZは、C6-14アレーン環、好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環、最も好ましくはナフタレン環である。
【0058】
環ZおよびZの種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0059】
また、環ZおよびZは、それぞれフルオレン環の1~4位、5~8位のいずれの位置に置換していてもよく、通常、2位、3位および/または7位、8位である。好ましい置換位置(または結合位置)は、フルオレン環の1,8位、2,7位、3,6位、4,5位などの前記式(1)において紙面上で左右対称な位置、特に2,7位である。なお、環Z、Zがナフタレン環であるとき、ナフタレン環の1位または2位のいずれであってもよく、耐熱性を向上する観点からはナフタレン環の1位であり、高屈折率、低アッベ数および低複屈折(または負側に大きな複屈折)をバランスよく充足する樹脂を調製する観点からはナフタレン環の2位であるのが特に好ましい。
【0060】
およびRで表される置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノまたはジ置換アミノ基などが挙げられる。
【0061】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0062】
アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状アルキル基が含まれ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-10アルキル基、好ましくはC1-6アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基;メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基などが挙げられる。
【0063】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-10アルコキシ基が挙げられる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。
【0064】
モノまたはジ置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基;ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0065】
代表的な基RおよびRとしては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。好ましい基RおよびRは、アルキル基、具体的には、メチル基などのC1-6アルキル基;アルコキシ基、具体的には、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基であり;特に好ましくはメチル基などのC1-4アルキル基である。なお、基RおよびRがアリール基であるとき、基RおよびRは、それぞれ環ZまたはZとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0066】
置換数m1およびm2は、0~4の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1、より好ましくは0である。m1およびm2が2以上の整数であるとき、2以上の基RおよびRの種類は同一または異なっていてもよい。
【0067】
置換数n1およびn2は、0~4の整数の範囲から選択でき、例えば0~3の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1、より好ましくは1である。n1およびn2が1以上である化合物を用いると、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の屈折率およびガラス転移温度を高め、アッベ数および複屈折の絶対値を低減できる。
【0068】
基AおよびAで表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1,4-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などのC1-8アルキレン基などが挙げられる。これらのうち、C1-6アルキレン基が好ましく、C2-4アルキレン基がさらに好ましく、エチレン基、プロピレン基などのC2-3アルキレン基がより好ましく、エチレン基が最も好ましい。
【0069】
およびXで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基などのC1-4アルコキシ基などが例示でき、C1-2アルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが例示できる。好ましいXおよびXは、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基であり、低温で反応させるためには、塩素原子などのハロゲン原子も好ましい。これらのうち、メトキシ基、エトキシ基などのC1-2アルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基が最も好ましい。
【0070】
およびRで表される置換基としては、アルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、シアノ基などが挙げられ;アルキル基としては、メチル基、エチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基などが挙げられる。好ましいRおよびRは、メチル基などのC1-4アルキル基である。
【0071】
およびRの置換位置は、フルオレン環の1位、2位、7位、3,6位、4,5位または2,7位であってもよい。RおよびRの置換数k1およびk2は、0~4の整数から選択でき、例えば0~3の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1、より好ましくは0である。k1およびk2が2以上の整数であるとき、2以上のRおよびRの置換基の種類は同一または異なっていてもよい。
【0072】
前記式(1)で表される代表的なフルオレン含有ジカルボン酸成分としては、n1およびn2が0であるジカルボン酸成分、すなわち、9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレン類;n1およびn2が1であるジカルボン酸成分、すなわち、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジアリールフルオレン類が挙げられる。
【0073】
すなわち、好ましいフルオレン含有ジカルボン酸成分は、下記式(1a)、(1b)または(1c)で表されるジカルボン酸成分であってもよい。
【0074】
【化9】
【0075】
(式中、A、A、X、X、R、R、k1およびk2はそれぞれ前記式(1)に同じ)。
【0076】
式(1)においてn1およびn2が0である化合物[前記式(1a)に対応する9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレン類]としては、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレンなどが挙げられ、好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレン、さらに好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-3アルキル)フルオレン、より好ましくは9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、最も好ましくは9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンである。これらの化合物は、エステル形成性誘導体であってもよく、メチルエステルやエチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが好ましく、メチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが最も好ましい。
【0077】
なお、本明細書および請求の範囲において、エステル形成性誘導体は、アシルクロライドなどハロカルボン酸、メチルエステルなどのアルキルエステル、酸無水物も包含する意味に用いる。
【0078】
式(1)においてn1およびn2が1である化合物(9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジアリールフルオレン類)としては、前記式(1b)に対応する9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジフェニルフルオレン、具体的には、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-1,8-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-3,6-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-4,5-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジフェニルフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)-ジフェニルフルオレンなど;前記式(1c)に対応する9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジナフチルフルオレン、具体的には、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-1,8-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-4,5-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)-ジナフチルフルオレンなどが挙げられる。これらの化合物は、エステル形成性誘導体であってもよく、メチルエステルやエチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが好ましく、メチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが最も好ましい。
【0079】
これらのフルオレン含有ジカルボン酸成分は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。前記式(1)で表されるジカルボン酸成分のうち、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレン;9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジフェニルフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジフェニルフルオレン;9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジナフチルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジナフチルフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジナフチルフルオレンが好ましく、フルオレン含有樹脂において解重合により回収し易い点から、9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジナフチルフルオレンが特に好ましい。9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジナフチルフルオレンにおいて、ナフチル基は、1-ナフチル基(すなわち、9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン)であってもよいが、好ましくは2-ナフチル基(すなわち、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン)である。これらの化合物は、エステル形成誘導体であってもよく、メチルエステルやエチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが好ましく、メチルエステルなどのC1-4アルキルエステルが最も好ましい。
【0080】
前記式(1)で表されるフルオレン含有ジカルボン酸成分とその製造方法は公知であり、n1およびn2が0である化合物は、特開2005-89422号公報に記載の方法に従って、9H-フルオレン類と、基[-A-CO-X]及び[-A-CO-X]に対応する成分、例えば、(メタ)アクリル酸又はそのエステルなどとの反応により調製でき、n1およびn2が1以上である化合物は、国際公開第2020/213470号に記載の方法に従って、9,9位に基[-A-CO-X]及び-A-CO-X]を有するフルオレン骨格を有する化合物と、環ZおよびZに対応するアレーン環を有する化合物とをカップリング反応させる方法;9H-フルオレン類のベンゼン環に、環ZおよびZに対応するアレーン環を有する化合物をカップリングさせ、前記特開2005-89422号公報に記載の方法を利用して、生成した化合物(9H-フルオレン骨格を有する化合物)と、基[-A-CO-X]および[-A-CO-X]に対応する成分、例えば、(メタ)アクリル酸またはそのエステルなどとを反応させる方法により調製できる。
【0081】
(フルオレン含有ジオール)
重合成分としてのジオール成分が、フルオレン骨格を有するジオール(フルオレン含有ジオール)を含む場合、フルオレン含有ジオールは、特に限定されないが、前記式(2)で表されるジオールが好ましい。
【0082】
前記式(2)において、ZおよびZで表されるアレーン環としては、例えば、前記式(1)の環ZおよびZと同様のアレーン環が挙げられる。環ZおよびZの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。環ZおよびZのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環がさらに好ましい。
【0083】
なお、フルオレン環の9位に対する環ZおよびZの結合位置は、特に限定されず、例えば、環ZおよびZがナフタレン環であるとき、1位または2位、好ましくは2位であり、環ZおよびZがビフェニル環であるとき、2位、3位、4位のいずれかの位置、好ましくは3位である。
【0084】
置換基Rとしては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基Rとしては、シアノ基、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、特にアルキル基である。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、さらに好ましくはC1-6アルキル基、より好ましくはメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0085】
なお、基Rの置換数uが2以上である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は、同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は、同一または異なっていてもよい。また、基Rの結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0086】
置換数uは、例えば0~6の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1であり、最も好ましくは0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基Rのそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0087】
およびRで表される置換基としては、例えば、前記式(1)においてRおよびRとして例示した置換基と同様の基(ハロゲン原子;アルキル基、アリール基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;モノまたはジ置換アミノ基など)や、シクロアルキル基、アラルキル基などが挙げられる。
【0088】
好ましい基RおよびRは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基であり、さらに好ましくはメチル基などのC1-6アルキル基、フェニル基などのC6-14アリール基、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基が挙げられる。これらの置換基のうち、アルキル基、アリール基が好ましく、特に、メチル基などのC1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、基RまたはRがアリール基であるとき、基RまたはRは、環ZまたはZとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0089】
置換数t1およびt2は、それぞれ0以上の整数であり、環ZまたはZの種類に応じて選択でき、例えば0~8の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1、最も好ましくは0である。置換数t1およびt2が2以上の整数であるとき、2以上の基RおよびRの種類は同一または異なっていてもよい。
【0090】
なお、置換数t1およびt2が1である場合、環ZおよびZはベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、基RおよびRはメチル基であってもよく、t1およびt2が2である場合、環ZおよびZはベンゼン環、基RおよびRはメチル基であってもよい。基RおよびRの置換位置は特に制限されず、通常、環ZおよびZにおいて、基[-O-(AO)s1-H]または[-O-(AO)s2-H]であるエーテル結合含有基に対して少なくともオルト位(前記エーテル結合含有基の結合位置に隣接する炭素原子)に置換することが多い。
【0091】
アルキレン基AおよびAとしては、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基などが挙げられ、好ましくはC2-4アルキレン基、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などのC2-3アルキレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
【0092】
繰り返し数s1およびs2は、それぞれ0以上であり、例えば0~15の整数の範囲から選択でき、エステル化反応を促進させるためには、1以上、好ましくは以下段階的に、1~10の整数、1~8の整数、1~6の整数、1~4の整数、1~3の整数、1または2であり、最も好ましくは1である。なお、繰り返し数s1およびs2は、互いに同一または異なっていてもよく;s1およびs2が2以上の整数であるとき、2以上のアルキレン基AおよびAの種類は同一または異なっていてもよい。本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、上記好ましい範囲(上記整数の範囲)と同様である。
【0093】
環ZおよびZに対する基[-O-(AO)s1-]および[-O-(AO)s2-](エーテル含有基ともいう)の置換位置は、特に限定されず、環ZおよびZがベンゼン環であるとき、フルオレン環の9位に結合するフェニル基の2位、3位、4位のいずれかの位置、好ましくは3位または4位、特に4位に置換している場合が多く;環ZおよびZがナフタレン環であるとき、フルオレン環の9位に対してナフタレン環の1位または2位が結合し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で結合し)、この結合位置に対して1,5-位、2,6-位などの関係、特に2,6-位の関係で置換している場合が多い。また、環ZおよびZがビフェニル環(または環ZおよびZがベンゼン環、t1およびt2が1、RおよびRがフェニル基)であるとき、フルオレン環の9位に対してビフェニル環の3位または4位が結合してもよく、フルオレン環の9位に対してビフェニル環の3位が結合する場合、前記エーテル含有基の置換位置は、ビフェニル環の6位または4’位、特に6位に置換していてもよい。
【0094】
フルオレン含有ジオールとしては、前記式(2)において、s1およびs2が0である9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;s1およびs2が1以上、例えば1~10である9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類などが挙げられる。
【0095】
好ましい前記フルオレン含有ジオールは、下記式(2a)または(2b)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0096】
【化10】
【0097】
(式中、A、A、s1、s2、R、R、t1、t2、Rおよびuはそれぞれ前記式(2)に同じ)。
【0098】
前記式(2a)に対応する9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、具体的には、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシフェニル]フルオレンなど;9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレン、具体的には、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0099】
また、式(2a)に対応する9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類としては、前記9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類のアルキレンオキシド(または炭酸アルキレン、ハロアルカノール)付加体、例えば、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、具体的には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなど;9,9-ビス[アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、具体的には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなど;9,9-ビス[アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、具体的には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[C6-10アリール-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0100】
前記式(2b)に対応する9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられ;9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンとしては、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0101】
これらのフルオレン含有ジオールは、単独でまたは2種種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしヘキサ)C2-4アルコキシC6-12アリール]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類が好ましく、9,9-ビス[ヒドロキシ(モノまたはジ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール]フルオレンがさらに好ましく、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(BOPPEF)、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)などの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシ-C6-12アリール]フルオレンがより好ましく、なかでもBPEF、BOPPEF、BNEFが特に好ましく、BPEF、BNEFが最も好ましい。
【0102】
(他のジカルボン酸成分)
ジカルボン酸成分は、フルオレン含有ジカルボン酸成分に加えて、他のジカルボン酸成分(フルオレン含有ジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分)を含んでいてもよい。ジオール成分がフルオレン含有ジオールを含む場合、ジカルボン酸成分は他のジカルボン酸成分単独であってもよい。
【0103】
他のジカルボン酸成分には、脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、芳香族ジカルボン酸成分などが含まれる。
【0104】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、アルカンジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。アルカンジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などのC1-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0105】
脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロアルカンジカルボン酸、架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、シクロアルケンジカルボン酸、架橋環式シクロアルケンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。シクロアルカンジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸などのC4-12シクロアルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。架橋環式シクロアルカンジカルボン酸としては、ノルボルナンジカルボン酸などの(ビまたはトリ)シクロC7-10アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。シクロアルケンジカルボン酸としては、シクロペンテンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。架橋環式シクロアルケンジカルボン酸としては、ノルボルネンジカルボン酸などの(ビまたはトリ)シクロC7-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0106】
芳香族ジカルボン酸成分としては、単環式芳香族ジカルボン酸、多環式芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。単環式芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;5-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。多環式アレーンジカルボン酸成分としては、縮合多環式アレーンジカルボン酸、環集合アレーンジカルボン酸などが挙げられる。縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸;フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。環集合アレーンジカルボン酸としては、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのビC6-10アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0107】
これら他のジカルボン酸成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、芳香族ジカルボン酸成分が好ましく、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸が特に好ましい。
【0108】
(他のジオール成分)
ジオール成分は、フルオレン含有ジオールに加えて、他のジオール成分(フルオレン含有ジオール以外のジオール成分)を含んでいてもよく、ジカルボン酸成分がフルオレン含有ジカルボン酸成分を含む場合、ジオール成分は他のジオール成分単独であってもよい。
【0109】
他のジオール成分には、鎖状脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオールなどが含まれる。
【0110】
鎖状脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジまたはトリC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
【0111】
脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなどが挙げられる。
【0112】
芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシアレーン;ベンゼンジメタノールなどの芳香脂肪族ジオール;ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどのビスフェノール類;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類;ビナフトールなどのビナフトール類;およびこれらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(または炭酸アルキレン、ハロアルカノール)付加体などが挙げられる。ビナフトール類は、後述する式(5)で表されるジオールであってもよい。
【0113】
これら他のジオール成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アルカンジオールなどの低分子量の脂肪族ジオール(鎖状脂肪族ジオール)が好ましく、エチレングリコールなどのC2-4アルカンジオールがさらに好ましい。
【0114】
(炭酸エステル結合形成成分)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂がフルオレン含有ポリエステル炭酸エステル樹脂である場合、ジカルボン酸成分およびジオール成分に加えて、炭酸エステル単位を形成するための重合成分として炭酸エステル結合形成成分を含む。なお、本明細書および請求の範囲において、「炭酸エステル単位」とは、炭酸エステル結合形成成分に由来する構成単位、すなわち、カルボニル基[-C(=O)-]を意味し、このカルボニル基に隣接して結合する2つのジオール成分由来の構成単位の末端酸素原子とともに炭酸エステル結合を形成する。そのため、炭酸エステル結合形成成分としては、2つのジオール成分との反応により、炭酸エステル結合を形成可能な化合物であればよく、代表的な炭酸エステル結合形成成分としては、例えば、ホスゲン、トリホスゲンなどのホスゲン類、ジフェニル炭酸エステルなどの炭酸ジエステル類などが挙げられる。安全性などの観点からはジフェニル炭酸エステルなどの炭酸ジエステル類が好ましい。
【0115】
フルオレン含有ポリエステル炭酸エステル樹脂において、ジカルボン酸成分および炭酸エステル結合形成成分の総量と、ジオール成分との割合は、前者/後者(モル比)=1/0.8~1/1.2、好ましくは1/0.9~1/1.1であり、好ましくはほぼ等モルである。また、ジカルボン酸成分と炭酸エステル結合形成成分との割合は、前者/後者(モル比)=99/1~1/99の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、95/5~10/90、90/10~20/80、80/20~30/70、70/30~40/60である。炭酸エステル結合形成成分の割合が多すぎると、屈折率や耐熱性が低下する虞がある。
【0116】
(フルオレン含有ポリエステル系樹脂の特性)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂において、フルオレン骨格を有する重合成分の割合は、ジカルボン酸成分およびジオール成分を含む全重合成分中10モル%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、30モル%以上、30~99モル%、40~98モル%、50~95モル%、70~93モル%、80~90モル%、82~88モル%である。本開示では、フルオレン骨格の割合が多いフルオレン含有ポリエステル系樹脂、特に、フルオレン含有ポリエステル樹脂であっても、効率良く解重合でき、有用なフルオレン骨格を有するモノマー成分(単量体)を効率良く回収できる。
【0117】
なお、本明細書および請求の範囲において、重合成分の割合(モル比)は、フルオレン含有樹脂中における構成単位としての割合(モル比)を意味する。
【0118】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば15,000~100,000程度の範囲から選択でき、例えば20,000~80,000、好ましくは30,000~70,000、さらに好ましくは40,000~65,000、最も好ましくは45,000~60,000である。
【0119】
なお、本明細書および請求の範囲において、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって、標準物質をポリスチレンとして換算することにより測定できる。
【0120】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば100~250℃程度の範囲から選択でき、例えば110~230℃、好ましくは120~210℃、さらに好ましくは130~200℃、最も好ましくは135~190℃である。なお、本明細書および請求の範囲において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0121】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、非晶質であってもよい。
【0122】
フルオレン含有ポリエステル樹脂などのフルオレン含有ポリエステル系樹脂において、フルオレン含有ジカルボン酸成分の割合は、特に限定されず、ジオール成分がフルオレン含有ジオールを含む場合、ジカルボン酸成分はフルオレン含有ジカルボン酸成分を含まなくてもよいが、ジカルボン酸成分中10モル%以上含むのが好ましく、好ましくは以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上であり、100モル%が最も好ましい。
【0123】
フルオレン含有ジオールの割合は、特に限定されず、ジカルボン酸成分がフルオレン含有ジカルボン酸成分を含む場合、ジオール成分はフルオレン含有ジオールを含まなくてもよいが、ジオール成分中1モル%以上含むのが好ましく、好ましくは以下段階的に、5モル%以上、10~99モル%、30~95モル%、40~90モル%、50~85モル%であり、60~80モル%が最も好ましい。
【0124】
フルオレン含有ポリエステル樹脂などのフルオレン含有ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分および/またはジオール成分がフルオレン骨格を有していればよいが、少なくともジオール成分がフルオレン骨格を有するのが好ましく、ジカルボン酸成分およびジオール成分の双方がフルオレン骨格を有するのが最も好ましい。ジカルボン酸成分およびジオール成分の双方がフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂は、嵩高いフルオレン骨格の密度が大きく、汎用のポリエステル系樹脂とは構造だけでなく、挙動も大きく異なるが、本開示の解重合法では、有用なフルオレン骨格を有する単量体を効率良く回収できる。
【0125】
特に、ジオール成分は、フルオレン含有ジオールを含むだけでなく、他のジオール成分(特に、C2-4アルカンジオールなどの脂肪族ジオール)と組み合わせるのが特に好ましい。
【0126】
フルオレン含有ポリエステル樹脂などのフルオレン含有ポリエステル系樹脂において、フルオレン含有ジオールと他のジオール成分(特に、脂肪族ジオール)とのモル比は、前者/後者=100/0~30/70程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、99/1~40/60、95/5~50/50、90/10~55/45、80/20~60/40であり、最も好ましくは75/25~65/35である。
【0127】
(A)第1の分解工程
本開示のフルオレン含有ポリエステル系樹脂の解重合法では、第1の分解工程において、第1の加水分解触媒の存在下、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を分解し、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む分解生成物(第1の分解生成物)を得る。
【0128】
(炭酸エステル)
炭酸エステルは、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の解重合剤として作用する。炭酸エステルには、炭酸ジアルキル(炭酸ジアルカノールエステル)、炭酸ジアリールなどの炭酸ジエステルなどが含まれる。炭酸ジアルカノールエステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジt-ブチルなどが挙げられる。炭酸ジアリールとしては、炭酸ジフェニル、炭酸トルイルフェニルなどが挙げられる。
【0129】
これらの炭酸エステルは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、炭酸ジC1-4アルキルが好ましく、炭酸ジC1-3アルキルがさらに好ましく、炭酸ジC1-2アルキルがより好ましく、炭酸ジメチルが最も好ましい。
【0130】
炭酸エステルの割合は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂1モル(数平均分子量に対応するモル数)に対して1モル以上であってもよく、例えば1~50モル、好ましくは2~30モル、さらに好ましくは3~20モル、より好ましくは5~15モル、最も好ましくは8~12モルである。炭酸エステルの割合は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂100質量部に対して、例えば50質量部以上であってもよく、例えば50~1000質量部、好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは120~400質量部、より好ましくは150~380質量部、最も好ましくは180~350質量部である。炭酸エステルの割合が少なすぎると、解重合が速やかに進行しない虞がある。
【0131】
(第1の加水分解触媒)
第1の加水分解触媒は、慣用の加水分解触媒であればよく、酸触媒であってもよいがアルカリ触媒が好ましい。アルカリ触媒には、無機塩基、有機塩基などが含まれる。
【0132】
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;酸化ナトリウム、酸化カリウムなどのアルカリ金属酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;炭酸セシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリまたはアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリまたはアルカリ土類金属炭酸水素塩、アンモニアなどが挙げられる。
【0133】
有機塩基としては、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;ブチルリチウム、フェニルリチウム、イソプロピルマグネシウムクロリド、シクロヘキシルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミドなどの有機金属化合物;アミン類などが挙げられる。
【0134】
これらのアルカリ触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アルカリ金属C1-6アルコキシドが好ましく、アルカリ金属C1-4アルコキシドがさらに好ましく、アルカリ金属C1-3アルコキシドがより好ましく、リチウムC1-2アルコキシドなどのアルカリ金属C1-2アルコキシドが最も好ましい。
【0135】
第1の加水分解触媒の割合は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂1モルに対して、例えば0.01モル以上であってもよく、好ましくは0.01~0.3モル、さらに好ましくは0.03~0.2モル、より好ましくは0.05~0.15モル、最も好ましくは0.08~0.12モルである。第1の加水分解触媒の割合は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってもよく、好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~3質量部、より好ましくは0.3~2質量部、最も好ましくは0.5~1.5質量部である。第1の加水分解触媒の割合が少なすぎると、解重合が速やかに進行しない虞がある。第1の加水分解触媒のこれらの割合は、アルカリ触媒の割合であってもよい。
【0136】
(反応条件)
反応温度は、20℃以上であってもよく、例えば20~85℃、好ましくは25~83℃、さらに好ましくは30~80℃、より好ましくは50~75℃、最も好ましくは60~70℃である。
【0137】
反応時間は、10分以上であってもよく、例えば10分~10時間、好ましくは30分~8時間、さらに好ましくは1~5時間、より好ましくは2~4時間である。
【0138】
反応は、不活性ガスの存在下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気中で行うのが好ましい。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気圧下で行うのが好ましい。
【0139】
(第1の分解生成物)
第1の分解工程における第1の分解生成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とを含む。そのため、本開示は、前記第1の分解工程により、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を製造する方法も包含する。
【0140】
ジカルボン酸のエステルは、アルキルエステル体であってもよい。アルキルエステル体としては、メチルエステル体、エチルエステル体などのC1-3アルキルエステル体が好ましく、メチルエステル体が特に好ましい。ジカルボン酸および/またはそのエステルが、前記式(1)で表されるジカルボン酸成分である場合、前記式(1)において、XおよびXがC1-4アルコキシ基であるジカルボン酸成分であってもよく、XおよびXが、メトキシ基などのC1-2アルコキシ基であるジカルボン酸成分が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。XおよびXがC1-2アルコキシ基であると、ケミカルリサイクルにおいて高い生産性で新たなフルオレン含有樹脂を製造できる。XおよびXのアルコキシ基に含まれるアルキル基は、アルカリ触媒由来のアルキル基であってもよい。
【0141】
ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体は、次工程である第2の分解工程に供してジオールに変換することによりフルオレン含有ポリエステル系樹脂の原料として再利用してもよいが、第2の分解工程に供することなく、炭酸エステル化合物として利用してもよい。
【0142】
ジオールのモノ炭酸エステル体としては、前記式(3)で表されるジオールのモノ炭酸エステル体などが挙げられる。このモノ炭酸エステル体は、新規化合物であり、ポリ炭酸エステル系樹脂の原料や、反応調整剤、樹脂添加剤などとして利用できる。
【0143】
前記式(3)で表されるジオールのモノ炭酸エステル体は、前記式(2)で表されるジオールの一方のヒドロキシル基のみに炭酸エステルが付加したモノ炭酸エステル体である。
【0144】
前記式(3)において、Rで表される炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。これらのうち、アルキル基、フェニル基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、C1-4アルキル基が好ましく、C1-3アルキル基がさらに好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0145】
ジオールのジ炭酸エステル体としては、前記式(4)で表されるジオールのジ炭酸エステル体などが挙げられる。このジ炭酸エステル体も、新規化合物であり、ポリ炭酸エステル系樹脂の原料、樹脂添加剤などとして利用できる。
【0146】
式(4)で表されるジオールのジ炭酸エステル体は、前記式(2)で表されるジオールの両方のヒドロキシル基に炭酸エステルが付加したジ炭酸エステル体である。
【0147】
前記式(4)において、RおよびR10で表される炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。これらのうち、アルキル基、フェニル基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、C1-4アルキル基が好ましく、C1-3アルキル基がさらに好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0148】
第1の分解工程において、前記モノ炭酸エステル体および前記ジ炭酸エステル体の合計割合は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.1~5モル、好ましくは0.2~3モル、さらに好ましくは0.3~2モル、より好ましくは0.5~1.5モルである。
【0149】
モノ炭酸エステル体の割合は、ジ炭酸エステル体1モルに対して、例えば0.1~1モル、好ましくは0.2~0.9モル、さらに好ましくは0.3~0.8モル、より好ましくは0.4~0.6モルである。
【0150】
第1の分解生成物は、ジオールをさらに含んでいてもよい。ジオールは、前記モノ炭酸エステル体および前記ジ炭酸エステル体に対応するジオールであってもよい。ジオールの割合は、ジカルボン酸およびそのエステルの合計1モルに対して0.2モル以下程度であり、例えば0.1モル以下、好ましくは0.05モル以下、さらに好ましくは0.01~0.03モルである。
【0151】
第1の分解生成物は、慣用の精製処理を施してもよい。慣用の精製処理としては、例えば、分解生成物を含む混合物を必要に応じて中和および水洗した後、ろ過などによって混合物から不純物を除去する処理などが挙げられる。前記混合物中にモノマー成分が析出している場合は、モノマー成分の良溶媒を用いて完全に溶解させた後、中和および水洗してもよい。
【0152】
第1の分解工程では、主としてジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体とが得られる。そのため、フルオレン骨格を有する目的のモノマー成分がジカルボン酸成分である場合や、新規な炭酸エステル化合物が目的の化合物である場合は、本開示の解重合法は、分解工程が第1の分解工程のみであり、後述する第2の分解工程を含まない解重合法であってもよい。
【0153】
(B)第2の分解工程
本開示のフルオレン含有ポリエステル系樹脂の解重合法は、第1の分解工程に加えて、第2の分解生成物を得るための第2の分解工程を有していてもよい。第2の分解工程では、第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る。詳しくは、第2の分解工程では、前記ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体と、前記アルコールとを反応させてジオールが得られる。このように、第2の分解工程では、前記ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体をジオールに変換できるため、フルオレン骨格を有するジオールをモノマー成分として回収する場合に特に有効である。
【0154】
(アルコール)
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノールなどのC1-4アルカノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、C1-3アルカノールが好ましく、C1-2アルカノールがより好ましく、メタノールが最も好ましい。第2の分解工程においても、ジカルボン酸成分の共存下で分解反応が進行するため、第1の分解工程で使用する第1の加水分解触媒のアルコキシドに対応するアルコールを使用するのが好ましい。
【0155】
アルコールの割合は、第1の分解生成物100質量部に対して50質量部以上であってもよく、例えば50~1000質量部、好ましくは80~500質量部、さらに好ましくは100~300質量部、より好ましくは120~250質量部、最も好ましくは150~200質量部である。アルコールの割合が少なすぎると、ジオール成分の収率が低下する虞がある。
【0156】
(第2の加水分解触媒)
第2の加水分解触媒としては、前記第1の加水分解触媒として例示された加水分解触媒などが挙げられる。前記第2の加水分解触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。前記第2の加水分解触媒のうち、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
【0157】
第2の加水分解触媒の割合は、第1の分解生成物100質量部に対して1質量部以上であってもよく、例えば1~30質量部、好ましくは5~25質量部、さらに好ましくは10~20質量部である。第2の加水分解触媒の割合が少なすぎると、ジオール成分の収率が低下する虞がある。第2の加水分解触媒のこれらの割合は、アルカリ触媒の割合であってもよい。
【0158】
(反応条件)
反応温度は、20℃以上であってもよく、例えば20~85℃、好ましくは25~83℃、さらに好ましくは30~80℃、より好ましくは50~75℃、最も好ましくは60~70℃である。
【0159】
反応時間は、5分以上であってもよく、例えば5分~5時間、好ましくは10分~3時間、さらに好ましくは30分~2時間、より好ましくは40分~1.5時間である。
【0160】
反応は、不活性ガスの存在下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気中で行うのが好ましい。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気圧下で行うのが好ましい。
【0161】
(第2の分解生成物)
第2の分解工程における第2の分解生成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールとを含む。すなわち、第2の分解工程を含む本開示の解重合法では、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の原料を全て回収できるため、得られたモノマー成分をそのまま用いてフルオレン含有ポリエステル系樹脂を新たに合成でき、フルオレン含有ポリエステル系樹脂のリサイクル性を向上できる。
【0162】
(C)精製工程
第2の分解工程で得られたジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールとを含む混合物は、慣用の方法によって、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールとに分離し、それぞれの成分を精製工程に供してもよい。
【0163】
例えば、ジオールに対して良溶媒として作用し、かつジカルボン酸および/またはそのエステルに対して貧溶媒として作用する溶媒を用いて、ろ過などにより、ジカルボン酸および/またはそのエステルと、ジオールとを分離してもよい。このような機能を有する溶媒としては、メタノールなどのC1-4アルカノールを利用できる。
【0164】
また、ジカルボン酸および/またはそのエステルに対する良溶媒と、この良溶媒と非相溶なジオールに対する良溶媒とを用いて、溶媒抽出してもよい。溶媒抽出する方法は、前記C1-4アルカノールなどのジオールに対する良溶媒にジカルボン酸および/またはそのエステルも溶解する場合に有効である。ジカルボン酸および/またはそのエステルに対する良溶媒としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられる。
【0165】
分離されたモノマー成分(ジカルボン酸および/またはそのエステル、ジオール)は、慣用の方法で精製してもよい。精製方法としては、ろ過、濃縮、晶析、カラムなどの慣用の方法を適宜組み合わせることができる。これらのうち、晶析を含む精製方法が好ましい。
【0166】
晶析の方法としては、モノマー成分に、晶析溶媒として、芳香族炭化水素類および/または極性溶媒を含む晶析溶媒を用いて晶析するのが好ましい。
【0167】
芳香族炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのモノまたはジC1-2アルキル-ベンゼンが好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0168】
極性溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノールなどのC1-4アルカノール;アセトン、メチルイソブチルケトンなどの炭素数3以上の脂肪族ケトン類が好ましく、水、C2-3アルカノール;炭素数4~8の脂肪族ケトン類が特に好ましい。
【0169】
晶析溶媒のうち、良溶媒としては、芳香族炭化水素類、炭素数4以上の脂肪族ケトン類などが挙げられる。貧溶媒としては、水、C1-4アルカノールなどが挙げられる。
【0170】
貧溶媒の割合は、良溶媒100質量部に対して、例えば100質量部以下であってもよく、例えば0~100質量部、好ましくは5~80質量部、さらに好ましくは10~70質量部、より好ましくは20~50質量部である。
【0171】
晶析溶媒の割合は、モノマー成分100質量部に対して、例えば10~3000質量部、好ましくは50~2000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部、最も好ましくは200~500質量部である。
【0172】
晶析処理においては、モノマー成分を前記晶析溶媒に溶解し、冷却することによって、より純度の高いモノマー成分を析出または晶析させることができる。モノマー成分を前記晶析溶媒に溶解する温度は、溶媒の沸点未満の温度、例えば30~200℃、好ましくは50~150℃、さらに好ましくは60~100℃である。晶析処理されたモノマー成分は、慣用の方法によって洗浄後に乾燥してもよい。
【0173】
[フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂]
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂は、ジオール成分を重合成分として含み、ジオール成分がフルオレン含有ジオールを含む。
【0174】
(フルオレン含有ジオール)
フルオレン含有ジオールは、特に限定されないが、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の項に記載された前記式(2)で表されるジオール成分が好ましい。前記式(2)で表されるジオールとしては、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の項で例示された前記式(2)で表されるジオールなどが挙げられる。前記ジオール成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0175】
前記ジオール成分のうち、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、9,9-ビス[(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン(BNF)などの9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類;9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしヘキサ)C2-4アルコキシC6-12アリール]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類が好ましく、9,9-ビス[ヒドロキシ(モノまたはジ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール]フルオレンがさらに好ましく、BPF、BNF、BPEF、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、BOPPEF、BNEFなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシ-C6-12アリール]フルオレンがより好ましく、なかでもBPF、BNF、BPEF、BOPPEF、BNEFが特に好ましく、BPEFが最も好ましい。
【0176】
(ビナフタレン含有ジオール)
ジオール成分は、フルオレン含有ジオールに加えて、ビ(またはビス)ナフタレン骨格を有するジオール(ビナフタレン含有ジオール)として、下記式(5)で表されるジオールを含んでいてもよい。
【0177】
【化11】
【0178】
(式中、
は直接結合(単結合)またはアルキレン基を示し、
およびAは独立してアルキレン基を示し、p1およびp2は独立して0以上の整数を示し、
11およびR12は独立して置換基を示し、q1およびq2は独立して0~6の整数を示す)。
【0179】
前記式(5)において、置換基R11およびR12は、前記式(2)で例示された置換基RおよびRと好ましい態様も含めて同様のものから選択できる。
【0180】
11およびR12の置換数q1およびq2は、それぞれ、0~5程度の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1、特に0である。q1およびq2は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。また、q1が2以上である場合、2以上のR11の種類は互いに同一または異なっていてもよく、q2およびR12についても同様である。また、R11およびR12の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0181】
11およびR12の置換位置は、2つのナフタレン環骨格におけるAならびに(ポリ)オキシアルキレン基[-O-(AO)p1-]および[-O-(AO)p2-]の置換位置以外の位置である限り特に制限されず、Aに結合する2つのナフタレン環骨格の1位に対して、3~8位が好ましい。例えば、Aが直接結合(単結合)である場合、1,1’-ビナフチル骨格の3~8位、3’~8’位であるのが好ましい。
【0182】
で表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC1-4アルキレン基などが挙げられる。好ましいAとしては、高屈折率、低アッベ数、低複屈折などの光学特性の観点から、直接結合またはメチレン基などのC1-2アルキレン基であり、特に直接結合(単結合)が好ましい。
【0183】
アルキレン基AおよびAは、前記式(2)で例示されたアルキレン基AおよびAと好ましい態様も含めて同様のものから選択できる。繰り返し数p1およびp2も、前記式(2)における繰り返し数s1およびs2と好ましい態様も含めて同様のものから選択できる。
【0184】
前記式(5)において、(ポリ)オキシアルキレン基[-O-(AO)p1-]および[-O-(AO)p2-]の結合位置は特に制限されず、例えば、1,1’-ビナフチル骨格に対して、2,2’位、4,4’位などであってもよいが、調製(合成)または調達が容易で生産性を向上できるとともに、コンフォメーションの関係から高屈折率化し易い点で、2,2’位であるのが好ましい。そのため、前記式(5)で表されるビナフタレン含有ジオールは、下記式(5a)で表されるビナフタレン含有ジオールを含むのが好ましい。
【0185】
【化12】
【0186】
(式中、A、A、p1、p2、R11、R12、q1およびq2はそれぞれ前記式(5)に同じ)。
【0187】
前記式(5a)で表される代表的なビナフタレン含有ジオールとしては、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチルなどのジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル;ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ]-1,1’-ビナフチルなどが挙げられる。ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ]-1,1’-ビナフチルとしては、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシプロポキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-1,1’-ビナフチルなどの2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ]-1,1’-ビナフチルなどが挙げられる。
【0188】
これらのビナフタレン含有ジオールは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、前記式(5a)で表されるジオールが好ましく、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノないしテトラ)C2-4アルコキシ]-1,1’-ビナフチルがさらに好ましく、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチルなどの2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノないしトリ)C2-3アルコキシ]-1,1’-ビナフチルが最も好ましい。
【0189】
(他のジオール成分)
ジオール成分は、他のジオール成分をさらに含んでいてもよい。他のジオール成分としては、好ましい態様も含めて、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の他のジオール成分(ビナフトール類を除く)と同様である。
【0190】
(炭酸エステル結合形成成分)
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂は、ジオール成分に加えて、炭酸エステル単位を形成するための重合成分として炭酸エステル結合形成成分を含む。代表的な炭酸エステル結合形成成分としては、例えば、ホスゲン、トリホスゲンなどのホスゲン類、ジフェニル炭酸エステルなどの炭酸ジエステル類などが挙げられる。安全性などの観点からはジフェニル炭酸エステルなどの炭酸ジエステル類が好ましい。
【0191】
(フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の特性)
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂において、フルオレン含有ジオールの割合は、ジオール成分中10モル%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、100モル%である。本開示では、フルオレン骨格の割合が多いフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂、特に、フルオレン含有ポリ炭酸エステル樹脂であっても、効率良く解重合でき、有用なフルオレン骨格を有するモノマー成分(単量体)を効率良く回収できる。
【0192】
ジオール成分がフルオレン含有ジオールに加えて、ビナフタレン含有ジオールをさらに含む場合、フルオレン含有ジオールとビナフタレン含有ジオールとのモル比は、前者/後者=99/1~10/90程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、97/3~20/80、95/5~30/70、90/10~35/65、80/20~40/60、70/30~40/60であり、最も好ましくは60/40~40/60である。両者の割合は、前者/後者=93/7~40/60、好ましくは90/10~50/50、さらに好ましくは80/20~60/40であってもよい。
【0193】
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂において、フルオレン含有ジオールおよびビナフタレン含有ジオールの合計割合は、ジオール成分中50モル%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、100モル%である。
【0194】
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂において、ジオール成分および炭酸エステル結合形成成分の合計割合は、全重合成分中50モル%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、100モル%である。
【0195】
フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば20,000~100,000、好ましくは25,000~80,000、さらに好ましくは30,000~70,000、最も好ましくは35,000~60,000である。
【0196】
なお、本明細書および請求の範囲において、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって、標準物質をポリスチレンとして換算することにより測定できる。
【0197】
フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂は、非晶性であってもよい。
【0198】
(A)第1の分解工程
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の解重合法では、第1の分解工程において、第1の加水分解触媒の存在下、前記フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂を分解し、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含む第1の分解生成物を得る。
【0199】
(炭酸エステル)
炭酸エステルは、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の解重合剤として作用する。炭酸エステルは、好ましい態様も含めて、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の炭酸エステルと同様である。
【0200】
炭酸エステルの割合は、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂1モル(数平均分子量に対応するモル数)に対して1モル以上であってもよく、例えば0.1~50モル、好ましくは0.5~30モル、さらに好ましくは1~10モル、より好ましくは1.5~5モル、最も好ましくは2~3モルである。炭酸エステルの割合は、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂100質量部に対して、例えば5質量部以上であってもよく、例えば5~1000質量部、好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部、最も好ましくは40~60質量部である。炭酸エステルの割合が少なすぎると、解重合が速やかに進行しない虞がある。
【0201】
(第1の加水分解触媒)
第1の加水分解触媒は、好ましい態様も含めて、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の第1の加水分解触媒と同様のものから選択できる。前記第1の加水分解触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0202】
第1の加水分解触媒の割合は、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂1モルに対して、例えば0.01モル以上であってもよく、好ましくは0.01~0.5モル、さらに好ましくは0.03~0.3モル、より好ましくは0.05~0.25モル、最も好ましくは0.1~0.2モルである。第1の加水分解触媒の割合は、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってもよく、好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.3~5質量部、より好ましくは0.5~4質量部、最も好ましくは1~3質量部である。加水分解触媒の割合が少なすぎると、解重合が速やかに進行しない虞がある。第1の加水分解触媒のこれらの割合は、アルカリ触媒の割合であってもよい。
【0203】
(反応条件)
反応温度は、20℃以上であってもよく、例えば20~85℃、好ましくは25~83℃、さらに好ましくは30~80℃、より好ましくは50~75℃、最も好ましくは60~70℃である。
【0204】
反応時間は、10分以上であってもよく、例えば10分~10時間、好ましくは30分~8時間、さらに好ましくは1~5時間である。
【0205】
反応は、不活性ガスの存在下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気中で行うのが好ましい。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気圧下で行うのが好ましい。
【0206】
(第1の分解生成物)
第1の分解工程における第1の分解生成物は、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含む。そのため、本開示は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と同様に、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂においても、前記第1の分解工程により、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を製造する方法も包含する。
【0207】
ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体は、次工程である第2の分解工程に供してジオールに変換することによりフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の原料として再利用してもよいが、第2の分解工程に供することなく、炭酸エステル化合物として利用してもよい。
【0208】
ジオールのモノ炭酸エステル体およびジオールのジ炭酸エステル体は、好ましい態様も含めて、フルオレン含有ポリエステル系樹脂のジオールのモノ炭酸エステル体およびジオールのジ炭酸エステル体と同様である。
【0209】
モノ炭酸エステル体の割合は、ジ炭酸エステル体1モルに対して、例えば0.1~30モル、好ましくは0.5~10モル、さらに好ましくは1~5モル、より好ましくは2~4である。
【0210】
第1の分解生成物は、ジオールをさらに含んでいてもよい。ジオールは、前記モノ炭酸エステル体および前記ジ炭酸エステル体に対応するジオールであってもよい。
【0211】
第1の分解工程において、前記モノ炭酸エステル体および前記ジ炭酸エステル体の合計割合は、第1の分解生成物中のジオール1モルに対して、例えば0.1~5モル、好ましくは0.5~3モル、さらに好ましくは1~2モル、より好ましくは1.2~1.7モルである。
【0212】
第1の分解工程において、前記モノ炭酸エステル体、前記ジ炭酸エステル体およびジオールの合計割合は、炭酸エステル結合形成成分1モルに対して、例えば0.1~5モル、好ましくは0.2~3モル、さらに好ましくは0.3~2モル、より好ましくは0.5~1.5モルである。
【0213】
第1の分解生成物は、慣用の精製処理を施してもよい。慣用の精製処理としては、例えば、分解生成物を含む混合物を必要に応じて中和および水洗した後、ろ過などによって混合物から不純物を除去する処理などが挙げられる。前記混合物中にモノマー成分が析出している場合は、モノマー成分の良溶媒を用いて完全に溶解させた後、中和および水洗してもよい。
【0214】
第1の分解工程では、主としてジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体が得られる。そのため、新規な炭酸エステル化合物が目的の化合物である場合は、本開示の解重合法は、分解工程が第1の分解工程のみであり、後述する第2の分解工程を含まない解重合法であってもよい。
【0215】
(B)第2の分解工程
本開示のフルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂の解重合法は、第1の分解工程に加えて、第2の分解生成物を得るための第2の分解工程を有していてもよい。第2の分解工程では、第1の分解生成物とアルコールとを反応させてジオールを得る。詳しくは、第2の分解工程では、前記ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体と、前記アルコールとを反応させてジオール成分が得られる。このように、第2の分解工程では、前記ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体をジオールに変換できるため、フルオレン骨格を有するジオール成分をモノマー成分として回収する場合に特に有効である。
【0216】
(アルコール)
アルコールは、好ましい態様も含めて、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の第2の分解工程におけるアルコールと同様のものから選択できる。前記アルコールは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0217】
アルコールの割合は、第1の分解生成物100質量部に対して50質量部以上であってもよく、例えば50~1000質量部、好ましくは80~500質量部、さらに好ましくは100~300質量部、より好ましくは120~200質量部である。アルコールの割合が少なすぎると、ジオール成分の収率が低下する虞がある。
【0218】
(第2の加水分解触媒)
第2の加水分解触媒としては、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の第1の加水分解触媒として例示された加水分解触媒などが挙げられる。前記第2の加水分解触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。前記第2の加水分解触媒のうち、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
【0219】
第2の加水分解触媒の割合は、第1の分解生成物100質量部に対して1質量部以上であってもよく、例えば1~30質量部、好ましくは5~20質量部、さらに好ましくは5~10質量部である。アルカリ触媒の割合が少なすぎると、ジオール成分の収率が低下する虞がある。第2の加水分解触媒のこれらの割合は、アルカリ触媒の割合であってもよい。
【0220】
(反応条件)
反応温度は、0℃以上であってもよく、例えば5~80℃、好ましくは10~50℃、さらに好ましくは15~40℃であり、室温であってもよい。
【0221】
反応時間は、5分以上であってもよく、例えば5分~5時間、好ましくは10分~3時間、さらに好ましくは30分~2時間、より好ましくは40分~1.5時間である。
【0222】
反応は、不活性ガスの存在下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気中で行うのが好ましい。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、簡便性などの点から、大気圧下で行うのが好ましい。
【0223】
(第2の分解生成物)
第2の分解工程における第2の分解生成物はジオールを含む。すなわち、第2の分解工程を含む本開示の解重合法では、フルオレン含有樹脂の原料を回収できるため、得られたモノマー成分をそのまま用いてフルオレン含有樹脂を新たに合成でき、フルオレン含有樹脂のリサイクル性を向上できる。フルオレン含有樹脂は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂であってもよく、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂であってもよい。
【0224】
(C)精製工程
第2の分解工程で得られたジオールを含む第2の分解生成物は、慣用の精製処理を施してもよい。慣用の精製処理としては、例えば、第2の分解生成物を含む混合物を必要に応じて中和および水洗した後、ろ過などによって混合物から不純物を除去した後、晶析してもよい。
【0225】
晶析の方法としては、モノマー成分に、晶析溶媒として、芳香族炭化水素類を含む晶析溶媒を用いて晶析するのが好ましい。
【0226】
芳香族炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのモノまたはジC1-2アルキル-ベンゼンが好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0227】
晶析溶媒の割合は、ジオール100質量部に対して、例えば10~3000質量部、好ましくは50~2000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部、最も好ましくは200~500質量部である。
【0228】
晶析処理においては、ジオールを前記晶析溶媒に溶解し、冷却することによって、より純度の高いジオールを析出または晶析させることができる。ジオールを前記晶析溶媒に溶解する温度は、溶媒の沸点未満の温度、例えば30~200℃、好ましくは50~150℃、さらに好ましくは60~100℃である。晶析処理されたジオールは、慣用の方法によって洗浄後に乾燥してもよい。
【0229】
[フルオレン含有樹脂のリサイクル方法]
本開示の解重合法で得られた分解生成物は、フルオレン骨格とエステル結合および/または炭酸エステル結合とを有するフルオレン含有樹脂の単量体原料として用い、新たなフルオレン含有樹脂を製造することによりリサイクルできる。すなわち、本開示のリサイクル方法は、前記フルオレン含有樹脂と炭酸エステルとを反応させて、分解生成物を得る解重合工程と、前記解重合工程で得られた分解生成物を重合し、新たなフルオレン含有樹脂を得る重合工程(再重合工程)とを含む。前記分解生成物は、第1の分解生成物であってもよく、第2の分解生成物であってもよいが、第2の分解生成物が好ましい。
【0230】
本開示のリサイクル方法では、解重合工程で得られた分解生成物の精製物を重合工程に供してもよく、分解生成物を精製することなく重合工程に供してもよい。また、重合工程では、分解生成物としての単量体原料に、新たな単量体原料を補充してもよい。新たに補充する単量体原料は、分解生成物の組成に応じて、不足している単量体原料であってもよい。
【0231】
重合工程において、分解生成物を用いてフルオレン含有樹脂を重合する方法としては、フルオレン含有樹脂の種類に応じて、慣用の方法を利用できる。フルオレン含有ポリエステル系樹脂を重合する方法としては、例えば、特開2013-064117号公報、特開2013-064118号公報、特開2014-218645号公報、特開2016-069643号公報、特許第7016976号公報などに記載の方法を利用でき、フルオレン含有ポリ炭酸エステル系樹脂を重合する方法としては、例えば、特開2018-104691号公報、特開2021-134216号公報などに記載の方法が挙げられる。
【実施例
【0232】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した材料の詳細、実施例での各評価方法は、以下の通りである。
【0233】
[材料]
FDP-m:下記式で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン(アクリル酸t-ブチルに代えて、アクリル酸メチル[37.9g(0.44モル)]を用いる以外、特開2005-89422号公報の実施例1と同様にして合成した)
【0234】
【化13】
【0235】
DNFDP-m:下記式で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(国際公開第2020/213470号の実施例1Aに従って合成した)
【0236】
【化14】
【0237】
DMT:テレフタル酸ジメチル
DMN:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BNEF:9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BOPPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
EG:エチレングリコール
BINOL―2EO:2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル(特開2018-59074号公報記載の合成例2に準じて合成した)
炭酸ジメチル:東京化成工業(株)製
LiOMe:リチウムメトキシド、東京化成工業(株)製
NaOMe:ナトリウムメトキシド、富士フイルム和光純薬(株)製。
【0238】
[LC-MS生成比]
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「Nexera XR」、MSユニットとして「LCMS-2020」、カラムとしてPhenomenex製「Kinetex C-18」を用いて、試料をアセトニトリルに溶解して測定し、HPLCの面積%比から算出した。
【0239】
[収率]
ポリエステル樹脂のジオール成分とジカルボン酸成分は、前者:後者=50:50(モル比)とし、各モノマー成分の配合比とそのモノマーの分子量から算出した。また、ポリ炭酸エステル系樹脂のジオール成分と炭酸エステル結合形成成分は、前者:後者=50:50(モル比)とし、各モノマー成分の配合比とそのモノマーの分子量から算出した。
【0240】
[LC純度]
前述のHPLC装置を用いて、純度[面積%]を算出した。
【0241】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(TAインスツルメント(株)製「DISCOVERY DSC25」)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0242】
[分子量分布]
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置として、東ソー(株)製「HLC―8320GPC」、カラムとして「東ソー(株)製TSKgel」を用いて、試料をTHFに溶解して測定し、ポリスチレン換算で分子量を算出した。
【0243】
[屈折率]
試料を200~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~300μmのフィルムを成形した。このフィルムを縦20~30mm×横10mmの短冊状に切り出し、試験片を得た。得られた試験片について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR-M4(循環式恒温水槽60-C3)」)を用いて、測定温度20℃で、接触液にジヨードメタンを使用して、589nm(D線)の屈折率nDを測定した。
【0244】
[アッベ数]
589nm(D線)の屈折率nDを測定した試験片を用いて、測定波長を486nm(F線)、656nm(C線)に変更する以外は屈折率nDと同様にして、屈折率nF、nCをそれぞれ測定した。得られた各波長における屈折率nF、nDおよびnCから、アッベ数を以下の式によって算出した。
【0245】
(アッベ数)=(nD-1)/(nF-nC)。
【0246】
[複屈折(3倍延伸)]
試料を200~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~600μmのフィルムを成形した。このフィルムを縦10mm×横50mmの短冊状に切り出し、ガラス転移温度Tg+10℃の温度条件下、25mm/分で延伸倍率が3倍となるように一軸延伸して試験片を得た。得られた試験片を、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃、測定波長600nmの条件下、平行ニコル回転法にてリタデーションを測定し、その値を測定部位の厚みで除して複屈折(または3倍複屈折)を算出した。
【0247】
実施例1
(ポリマーAの調製)
慣用の方法に従って、特許第7016976号公報の実施例における製造例2に準拠し、ジカルボン酸単位がDNFDP-m由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BPEF由来の構成単位70モル%、EG由来の構成単位30モル%であるポリマーAを調製した。
【0248】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕した前記ポリマーA 45.82g(ポリマーAに組み込まれたモノマーの総数が略0.1モル分に相当)に、炭酸ジメチル90.1g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液4.58gを加え、65℃で3時間反応した。得られた反応混合物に、水18g、10質量%HCl水溶液3.5gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。有機相をLC-MSで分析した結果、以下の通りであった。
【0249】
BPEF:1.880面積%
下記式で表されるBPEFモノ炭酸エステル体:11.265面積%
【0250】
【化15】
【0251】
下記式で表されるBPEFジ炭酸エステル体:18.499面積%
【0252】
【化16】
【0253】
DNFDP-m:51.131面積%。
【0254】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール80.1g、水酸化カリウム7.0g加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。60℃以上の温度でろ過し、40℃のメタノール150gで洗浄することで、ろ過残渣としてDNFDP-mの粗結晶30.1gを得た。また、本ろ過のろ液には、BPEFが主成分として含まれる。
【0255】
(DNFDP-mの精製)
粗結晶30.1gにトルエン75.1gを加え、80℃で完全に溶解させた後、水20g、10質量%HCl水溶液5g加え、再度80℃で15分攪拌した。静置し、分液した水相を除去後、有機相に水20gを加えて水洗する操作を3回実施した。80℃の有機相を室温まで放冷し、室温で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣をトルエンおよびメタノールで順次洗浄した。洗浄したろ過残渣を80℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のDNFDP-mを14.7g(収率50%、LC純度97.4%)得た。
【0256】
(BPEFの精製)
BPEFが主成分として含むろ液を5~10℃で1h攪拌した後、ろ過し、10℃のメタノールで洗浄することにより、粗結晶15.1gを得た。得られた粗結晶にトルエン52.8gを加え、80℃で完全に溶解させた後、水20g、10質量%HCl水溶液5gを加え、再度80℃で15分攪拌した。静置し、分液した水相を除去後、有機相に水20gを加えて洗浄する水洗操作を3回実施した。80℃の有機相を室温まで放冷し、さらに5~10℃で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣を10℃のトルエンで洗浄した。洗浄したろ過残渣を80℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを10.7g(収率70%、LC純度98.9%)得た。
【0257】
実施例2
(ポリマーBの調製)
慣用の方法に従って、特許第7016976号公報の実施例における製造例2に準拠し、ジカルボン酸単位がDNFDP-m由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BPEF由来の構成単位10モル%、EG由来の構成単位90モル%であるポリマーBを調製した。
【0258】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーB 3.45g(ポリマーBに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.35gを加え、65℃で3時間反応した。得られた反応混合物に、トルエン10gを加え65℃で完溶後、水3.0g、10質量%HCl水溶液0.34gを加え、65℃で15分攪拌した。分液した水相を除去し、有機相に対して水洗する操作を3回実施後、ろ過により不溶分を除去して濃縮し、粗生成物を得た。
【0259】
(第2の分解工程)
粗生成物に対して、メタノール6.4g、水酸化カリウム0.56g加え、65℃の還流条件で1時間反応した。50℃でろ過し、40℃のメタノール15gで洗浄することで、ろ過残渣としてのDNFDP-mの粗結晶3.35gを得た。また、本ろ過のろ液には、BPEFが主成分として含まれる。
【0260】
(DNFDP-mの精製)
粗結晶3.35gにトルエン8.13gを加え、80℃で完全に溶解させた後、水3.0g、10質量%HCl水溶液0.6gを加え、80℃で15分攪拌した。静置し、分液した水相を除去後、有機相に水3.0gを加えて水洗する操作を3回繰り返した。80℃の有機相を室温まで放冷し、5~10℃で1時間攪拌した。ろ過し、残渣をメタノールで洗浄後、洗浄したろ過残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のDNFDP-mを2.48g(収率84%、LC純度93.7%)得た。
【0261】
(BPEFの精製)
ろ液Bに10質量%HCl水溶液0.6g、水5gを加え、5~10℃で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣を10℃のメタノールで洗浄することにより、粗結晶0.09g得た。得られた粗結晶にトルエン2.25gを加え、80℃で完全に溶解させた後、放冷し、5~10℃で1時間攪拌した。ろ過し、ろ過残渣を10℃のトルエンで洗浄した後、洗浄したろ過残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを0.04g(収率18%、LC純度94.2%)得た。
【0262】
実施例3
(ポリマーCの調製)
慣用の方法に従って、特開2016-069643号公報の実施例16に準拠し、ジカルボン酸単位がFDP-m由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BNEF由来の構成単位70モル%、EG由来の構成単位30モル%であるポリマーCを調製した。
【0263】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーC 3.67g(ポリマーCに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.37gを加え、65℃で2時間反応した。得られた反応混合物に、水0.9g、10質量%HCl水溶液0.37gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。有機相をLC-MSで分析した結果、以下の通りであった。
【0264】
BNEF:4.400面積%
下記式で表されるBNEFモノ炭酸エステル体:22.806面積%
【0265】
【化17】
【0266】
下記式で表されるBNEFジ炭酸エステル体:37.648面積%
【0267】
【化18】
【0268】
FDP-m:18.616面積%。
【0269】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール3.2g、水酸化カリウム0.56gを加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。反応終了後、ヘプタン9.6gを加え、65℃で10分攪拌した後、下相(メタノール、BNEF含有)と上相(ヘプタン、FDP-m含有)をそれぞれ回収した。
【0270】
(FDP-mの精製)
前述の上相を濃縮し、50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のFDP-mを0.13g(収率8%、LC純度92.2%)得た。
【0271】
(BNEFの精製)
前述の下相にトルエン10g、10質量%HCl水溶液4g、水3gを加え、80℃で攪拌後、室温まで放冷し、室温で1時間攪拌後、ろ過し、残渣を2-プロパノールで洗浄した。洗浄したろ過残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBNEFを0.85g(収率45%、LC純度96.0%)得た。
【0272】
実施例4
(ポリマーDの調製)
慣用の方法に従って、特開2013-064117号公報の参考例6に準拠し、ジカルボン酸単位がDMT由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BPEF由来の構成単位70モル%、EG由来の構成単位30モル%であるポリマーDを調製した。
【0273】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーD 2.60g(ポリマーDに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.26gを加え、65℃で3時間反応した。得られた反応混合物に、水0.9g、10質量%HCl水溶液0.26g、酢酸エチル5gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。
【0274】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール9.6g、水酸化カリウム0.56gを加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。反応終了後、10質量%HCl水溶液を3g加え、5~10℃で30分攪拌した。
【0275】
(BPEFの精製)
ろ過を実施し、残渣をメタノールで洗浄した。洗浄したろ過残渣を80℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを1.5g(収率98%、LC純度93.6%)得た。
【0276】
実施例5
(ポリマーEの調製)
慣用の方法に従って、特開2014-218645号公報の実施例3に準拠し、ジカルボン酸単位がFDP-m由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BPEF由来の構成単位80モル%、EG由来の構成単位20モル%であるポリマーEを調製した。
【0277】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーE 3.50g(ポリマーEに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.35gを加え、65℃で3時間反応した。得られた反応混合物に、水0.9g、10質量%HCl水溶液0.37gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。
【0278】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール3.2g、水酸化カリウム0.56g加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。反応終了後、ヘプタン9.6gを加え、65℃で10分攪拌した後、下相(メタノール、BPEF含有)と上相(ヘプタン、FDP-m含有)をそれぞれ回収した。
【0279】
(FDP-mの精製)
前述の上相を濃縮し、50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のFDP-mを0.10g(収率6%、LC純度94.9%)得た。
【0280】
(BPEFの精製)
前述の下相にトルエン8g、10質量%HCl水溶液を3g加え、60℃で攪拌後、室温までゆっくり放冷し、室温で1時間攪拌後、ろ過し、残渣をメタノールで洗浄して粗結晶を1.63g得た。粗結晶にトルエン6.52gを加え、85℃で溶解後、室温まで放冷し、晶析した。ろ過し、残渣をメタノールで洗浄し、洗浄した残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを0.31g(収率18%、LC純度94.4%)得た。
【0281】
実施例6
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーA 4.582g(ポリマーAに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、NaOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.916gを加え、65℃で2時間反応した。得られた反応混合物に、水1.5g、10質量%HCl水溶液0.55gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。
【0282】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール8.01g、水酸化カリウム0.56gを加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。60℃以上のまま、ろ過し、残渣を40℃のメタノール15.0gで洗浄することで、DNFDP-mの粗結晶4.4gを得た。また、本ろ過のろ液には、BPEFが主成分として含まれる。
【0283】
(DNFDP-mの精製)
粗結晶4.4gにトルエン10.9gを加え、80℃で完全に溶解させた後、水5g、10質量%HCl水溶液0.5gを加え、再度80℃で15分攪拌した。静置し、分液した水相を除去後、有機相に水5gを加え水洗する操作を3回実施した。80℃の有機相を室温まで放冷し、さらに5~10℃で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣をトルエンおよびメタノールで順次洗浄した。洗浄した残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のDNFDP-mを1.56g(収率53%、LC純度96.4%)得た。
【0284】
(BPEFの精製)
ろ液Fを5~10℃で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣を10℃のメタノールで洗浄することにより、粗結晶1.03g得た。得られた粗結晶にトルエン3.08gを加え、80℃で完全に溶解させた後、水1g、10質量%HCl水溶液0.5gを加え、再度80℃で15分攪拌した。静置し、分液した水相を除去後、有機相に水1gを加え水洗する操作を3回実施した。80℃の有機相を室温まで放冷し、さらに5~10℃で1時間攪拌した後、ろ過し、残渣を10℃のメタノールで洗浄した。洗浄した残渣を50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを0.45g(収率29%、LC純度98.1%)得た。
【0285】
実施例7
(ポリマーFの調製)
慣用の方法に従って、特開2013-064118号公報の実施例7に準拠し、ジカルボン酸単位がFDP-m由来の構成単位100モル%であり、かつジオール単位中、BOPPEF由来の構成単位70モル%、EG由来の構成単位30モル%であるポリマーFを調製した。
【0286】
(第1の分解工程)
ミキサー粉砕したポリマーF 4.12g(ポリマーFに組み込まれたモノマーの総数が略0.01モル分に相当)に、炭酸ジメチル9.01g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液0.41gを加え、65℃で4時間反応した。得られた反応混合物に、水0.9g、10質量%HCl水溶液0.41gを加え、65℃で15分攪拌後、分液した有機相を回収し、ろ過により不溶分を除去した。
【0287】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール11.2g、水酸化カリウム0.56g加え、65℃で還流条件にて1時間反応した。反応終了後、室温までゆっくり放冷し、ろ過、メタノール15.0gで洗浄することで、BOPPEFの粗結晶3.3gを得た。また、本ろ過のろ液には、FDP-mが主成分として含まれる。
【0288】
(FDP-mの精製)
前述のFDP-mを主成分として含むろ液に、ヘプタン25gを加えて40℃で1時間攪拌後、上相を濃縮し、50℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のFDP-mを0.21g(収率12%、LC純度96.3%)得た。
【0289】
(BOPPEFの精製)
前述の粗結晶にトルエン11.4g、水5g、10質量%HCl水溶液を0.2g加え、60℃で攪拌後、水5gで水洗操作を実施し、室温までゆっくり放冷し、晶析した。ろ過し、残渣をメタノールで洗浄した後、80℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBOPPEFを1.99g(収率84%、LC純度97.2%)得た。
【0290】
実施例1~7について、原料ポリマー組成、第1の分解工程後の生成物の組成、第2の分解工程後における精製工程後のジカルボン酸エステルおよびジオールの収率および純度を表1に示す。
【0291】
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例1~7のいずれにおいても、第1の分解工程において、新規なモノ炭酸エステル体およびジ炭酸エステルが生成し、さらに第2の分解工程および精製工程を経て、ジカルボン酸エステルおよびジオールを回収することができた。
【0292】
実施例8
(ポリマーGの調製)
慣用の方法に従って、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ジカルボン酸単位中、DMN由来の構成単位30モル%、FDP-m由来の構成単位70モル%であり、かつジオール単位中、BPEF由来の構成単位85モル%、EG由来の構成単位15モル%であるポリマーG(表2中の組成比を有するポリマーG)を調製した。
【0293】
(ポリエステルGの解重合)
ペレットのポリマーG 346.10g(ポリマーGに組み込まれたモノマーの総数が略1.0モルに相当)に、炭酸ジメチル630.56g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液34.610gを加え、65℃で3時間反応した。水250g、10質量%HCl水溶液34g、トルエン600gを加え、65℃で攪拌後、水相を除去した。水相の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗操作を実施後、有機相をろ過して不溶分を除去した。有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール480g、水酸化カリウム50.5g加え、室温で2時間反応した。10質量%HCl水溶液100g、水300g加え、室温で1時間攪拌した。吸引ろ過し、ろ液の導電率が10μS/cm以下になるまで60℃の温水で洗浄した後、50℃で減圧乾燥することにより、白色固体(HPLC測定からモル比算出:BPEF/DMN/FDP-m=0.850/0.280/0.316)を291g得た。
【0294】
(再重合)
得られた解重合試料68.70gを用いて、表2に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表2中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0295】
実施例9
実施例8で得られた解重合試料20.00gを用いて、表2に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表2中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0296】
実施例10
実施例8で得られた解重合試料10.00gを用いて、表2に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表2中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0297】
実施例11
実施例8で得られた解重合試料5.00gを用いて、表2に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表2中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0298】
実施例12
(ポリマーGの解重合)
実施例8で得られたペレットのポリマーG 173.05g(ポリマーGに組み込まれたモノマーの総数が略0.5モルに相当)に、炭酸ジメチル315.28g、NaOMe3.461g、メタノール31.149gを加え、60℃で2時間反応した。水125g、10質量%HCl水溶液17g、トルエン300gを加え、60℃で攪拌後、水相を除去した。水相の導電率が10μs/cm以下になるまで水洗操作を実施後、有機相をろ過して不溶分を除去した。有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール288g、水酸化カリウム25.2gを加え、室温で2時間反応した。10質量%HCl水溶液50g、水150g加え、室温で1時間攪拌した。吸引ろ過し、ろ液の導電率が10μs/cm以下になるまで温水で洗浄した後、50℃で減圧乾燥することにより、白色固体(HPLC測定からモル比算出:BPEF/DMN/FDP-m=0.850/0.248/0.306)を140g得た。
【0299】
(再重合)
得られた解重合試料69.81gを用いて、表3に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表3中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0300】
実施例13
実施例12で得られた解重合試料20.00gを用いて、表3に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表3中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0301】
実施例14
実施例12で得られた解重合試料10.00gを用いて、表3に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表3中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0302】
実施例15
実施例12で得られた解重合試料5.00gを用いて、表3に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表3中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0303】
実施例16
(ポリマーGの解重合)
実施例8で得られたペレットのポリマーG 242.27g(ポリマーGに組み込まれたモノマーの総数が略0.7モルに相当)に、炭酸ジメチル441.39g、LiOMeを10質量%濃度で含むメタノール溶液24.227gを加え、60℃で2時間反応した。水63g、10質量%HCl水溶液24g加え、65℃で攪拌後、有機相をろ過により不溶分を除去した。有機相を濃縮し、粗生成物に対して、メタノール359g、水酸化カリウム39.3g加え、室温で2時間反応した。10質量%HCl水溶液105g、水280g加え、室温で1時間攪拌した。吸引ろ過し、水で洗浄した後、50℃で減圧乾燥することにより、白色固体(HPLC測定からモル比算出:BPEF/DMN/FDP-m=0.850/0.382/0.486)を238g得た。
【0304】
(再重合)
得られた解重合試料20.00gを用いて、表4に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表4中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0305】
実施例17
実施例16で得られた解重合試料10.00gを用いて、表4に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表4中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0306】
実施例18
実施例16で得られた解重合試料5.00gを用いて、表4に示すように、ポリマーGの組成比とするために足りないモノマー成分(表4中の追加分)を新たに加えて、特開2013―064118号公報の実施例6に準拠して、ポリマーの再重合品を製造した。
【0307】
実施例8~18の評価結果を表2~4に示す。また、ポリマーGの評価結果をブランクとして表5に示す。
【0308】
【表2】
【0309】
【表3】
【0310】
【表4】
【0311】
【表5】
【0312】
表2~5の結果から明らかなように、解重合工程で得られた分解生成物に対して、不足している単量体原料を適切に補充することにより、再重合におけるポリマーの分子量が向上し、光学特性に優れたポリマーが得られた。
【0313】
比較例1
(ポリマーGの解重合)
特許文献1および2に記載の方法に準拠して、実施例8で得られたペレットのポリマーGにEGを添加し、200~250℃で約3時間加熱することにより、ポリエステルFを解重合した。ポリマーGの解重合前の分子量分布を図1に示し、解重合後の分解生成物の分子量分布を図2に示す。図1図2との比較から明らかなように、解重合後には、何らかの分解物が得られたが、幅広い分子量分布が見られ、モノマー単位に分解されていなかった。
【0314】
すなわち、溶剤(エチレングリコール)を過剰に添加して高温で加熱する従来の方法では、PETなどの汎用のポリエステルで解重合が進行したのに対して、フルオレン骨格を有するポリマーの解重合が十分に進行しないことが判明した。
【0315】
比較例2
(ポリマーGの解重合)
特許文献3に記載の方法に準拠し、実施例8で得られたペレットのポリマーG10gに、水20gを添加し、300℃、8MPa窒素雰囲気の亜臨界水にて2時間処理し、ポリエステルGを解重合した。ポリマーGの解重合前の分子量分布を図3に示し、解重合後の分解生成物の分子量分布を図4に示す。図3図4との比較から明らかなように、解重合後には、何らかの分解物が得られたが、幅広い分子量分布が見られ、モノマー単位に分解されていなかった。
【0316】
すなわち、亜臨界水で加水分解する従来の方法(加水分解法)では、PETなどの汎用のポリエステルで解重合が進行したのに対して、フルオレン骨格を有するポリエステルの解重合が十分に進行しないことが判明した。
【0317】
比較例1および2の結果からも、PETなどの汎用のポリエステルとは異なり、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂の場合、従来の方法では解重合が困難であることが理解できる。
【0318】
実施例19
(ポリマーHの調製)
慣用の方法に従って、ジオール単位がBPEF由来の構成単位100モル%である炭酸エステル結合を有するポリマーHを調製した。
【0319】
(第1の分解工程)
ポリマーH 46.618g(ポリマーに組み込まれたモノマーの総数が略0.1モル分に相当)に、炭酸ジメチル22.52g、NaOMe0.9324g、メタノール8.3912gを加え、65℃で1時間反応した。得られた反応混合物に、トルエン60g、水40g、10質量%HCl水溶液4.6gを加え、75℃で15分攪拌後、分液した有機相を水40gで水洗する水洗工程を3回繰り返した後、ろ過により不溶分を除去した。
【0320】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、得られた粗生成物(第1の分解生成物)に対して、メタノール96g、水酸化カリウム4.49gを加え、室温にて1時間反応した。得られた反応混合物に、10質量%HCl水溶液8g、水30gを加え、5~10℃で1時間攪拌後、ろ過により、BPEFの粗結晶55gを得た。
【0321】
(BPEFの精製工程)
前述の粗結晶にトルエン165gを加え、75℃で完溶後、室温までゆっくり放冷し、5~10℃で1時間攪拌した。ろ過し、80℃で12時間減圧乾燥することにより、白色固体のBPEFを22.9g(収率52%、LC純度98.3%)得た。
【0322】
実施例19について、第1の分解生成物の組成、BPEFの精製工程後のジオール(BPEF)の収率および純度を表6に示す。
【0323】
【表6】
【0324】
表6の結果から明らかなように、実施例19においても、第1の分解工程において、新規なモノ炭酸エステル体およびジ炭酸エステルが生成し、さらに第2の分解工程および精製工程を経て、ジオールを回収することができた。
【0325】
実施例20
(ポリマーIの調製)
慣用の方法に従って、ジオール単位がBPEF由来の構成単位50モル%、BINOL―2EO由来の構成単位50モル%である炭酸エステル結合を有するポリマーIを調製した。
【0326】
(第1の分解工程)
ポリマーI 20.324g(ポリマーに組み込まれたモノマーの総数が略0.05モルに相当)に、炭酸ジメチル11.26g、NaOMe0.4065g、メタノール3.6583gを加え、65℃で2時間反応した。得られた反応混合物に、トルエン35g、水20g、10質量%HCl水溶液2.3gを加え、75℃で15分攪拌後、分液した有機相を水20gで水洗する水洗工程を3回繰り返した後、ろ過により不溶分を除去した。
【0327】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、得られた粗生成物(第1の分解生成物)に対して、メタノール48g、水酸化カリウム2.24gを加え、室温にて1時間反応した。得られた反応混合物に、10質量%HCl水溶液4g、水15gを加え、5~10℃で1時間攪拌後、ろ過し、ろ過残渣を50℃で減圧乾燥することにより、白色固体(BPEF、BINOL―2EOの混合物)を17.4g(LC純度94.7%、収率85%(前記混合物としての純度及び収率))得た。
【0328】
実施例21
(ポリマーJの調製)
慣用の方法に従って、ジオール単位がBOPPEF由来の構成単位50モル%、BINOL―2EO由来の構成単位50モル%である炭酸エステル結合を有するポリマーJを調製した。
【0329】
(第1の分解工程)
ポリマーJ 24.129g(ポリマーに組み込まれたモノマーの総数が略0.05モルに相当)に、炭酸ジメチル11.26g、NaOMe0.4826g、メタノール4.324gを加え、65℃で2時間反応した。得られた反応混合物に、トルエン35g、水20g、10質量%HCl水溶液2.3gを加え、75℃で15分攪拌後、分液した有機相を水20gで水洗する水洗工程を3回繰り返した後、ろ過により不溶分を除去した。
【0330】
(第2の分解工程)
有機相を濃縮し、得られた粗生成物に対して、メタノール48g、水酸化カリウム2.24gを加え、室温にて1時間反応した。得られた反応混合物に、10質量%HCl水溶液4g、水15gを加え、5~10℃で1時間攪拌後、ろ過し、ろ過残渣を50℃で減圧乾燥することにより、白色固体(BOPPEF、BINOL―2EOの混合物)を21.7g(LC純度98.2%、収率90%(前記混合物としての純度))得た。
【産業上の利用可能性】
【0331】
本開示の解重合法で得られたジカルボン酸成分および/またはジオール成分は、フルオレン骨格を有し、耐熱性や光学特性に優れるため、光学分野などの各種分野でポリエステル系樹脂やポリ炭酸エステル系樹脂の原料や添加剤として利用できる。さらに、本開示の解重合法の過程で得られる新規なジオールの炭酸エステル体は、ポリ炭酸エステル系樹脂の原料や、反応調整剤、樹脂添加剤などの添加剤として利用できる。
【要約】
加水分解触媒の存在下、フルオレン骨格ならびにエステル結合および/または炭酸エステル結合を有するフルオレン含有樹脂と炭酸エステルとを反応させて前記フルオレン含有樹脂を分解し、分解生成物を得る解重合法によって前記フルオレン含有樹脂を解重合する。この解重合法では、前記フルオレン含有樹脂を簡便に解重合できる。前記分解生成物は、ジオールのモノ炭酸エステル体および/またはジオールのジ炭酸エステル体を含んでいてもよい。前記解重合法において、前記分解生成物とアルコールを反応させてジオールを得てもよい。
図1
図2
図3
図4