(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】スラグのフォーミング鎮静方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20231130BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C21C5/28 B
C21C1/02 L
(21)【出願番号】P 2019225791
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】柿本 昌平
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1776194(KR,B1)
【文献】特開平07-175931(JP,A)
【文献】特開2016-148061(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28 - 5/50
C21C 1/00 - 3/00
C21C 5/02 - 5/06
C21C 5/52 - 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグを収容する第1容器からスラグを排滓して第2容器に収容させる際に、前記第2容器に排滓されたスラグの表面のうち、COガスの燃焼反応で炎が発生している位置に
狙いを定めて、前記スラグのフォーミングを鎮静するための鎮静剤を
前記第2容器内のスラグがフォーミングによって前記第2容器の高さ方向の2/3の高さとなったタイミングで添加することを特徴とするスラグのフォーミング鎮静方法。
【請求項2】
前記炎が発生している位置が複数ある場合に、最も炎が高い位置に
狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする請求項1に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【請求項3】
前記第2容器に排滓されたスラグの表面を撮影し、前記撮影した撮影画像において、所定の閾値よりも輝度が高い位置を前記炎が発生している位置として特定し、該特定した位置に
狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする請求項1に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【請求項4】
前記撮影画像において前記所定の閾値を超える輝度の面積が最も広い位置を前記炎が最も高い位置として特定し、該特定した位置に
狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする請求項3に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【請求項5】
前記撮影画像の輝度情報に基づいて前記鎮静剤を添加する投入装置を制御し、添加する位置を調整することを特徴とする請求項3又は4に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、スラグ中でCO気泡によりフォーミングが発生した場合のスラグのフォーミング鎮静方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶鉄の精錬プロセスとして、例えば、転炉で脱燐処理を行った後に、スラグの一部を炉外の鉱滓鍋に中間排滓し、引続き、同一の転炉内で脱炭処理を行う方法が知られている。溶鉄の精錬プロセスで発生するスラグでは、精錬処理中又は精錬処理後に、溶鉄とスラグとの界面で、溶鉄中のCとスラグ中のFeOとが反応してCO気泡が発生する。スラグ中のFeO濃度が高いとCO気泡が多量に発生しやすく、このCO気泡が過剰に発生すると、スラグ自身の内部でCO気泡により泡立つ現象(以下、フォーミング)が発生する。
【0003】
スラグのフォーミングが激しいと、1300~1650℃のスラグが転炉などの精錬設備や搬送容器から溢れ出す場合があり、精錬設備または搬送容器が損傷すると復旧に多大な時間と労力が必要となる。また、中間排滓時は、鉱滓鍋内にスラグが受滓されると、排滓後にスラグが再フォーミングし、鉱滓鍋内からスラグが溢れ出す可能性がある。フォーミングによって鉱滓鍋内からスラグが溢れ出す可能性がある場合は、転炉から排滓すべき量のスラグを完全に排滓できない場合がある。このスラグの排滓量が不十分であると、転炉内に残留するスラグ中のP2O5の影響により、次工程の脱炭吹錬で脱燐反応速度が低下する。このため、転炉内へ余分にCaOを投入する必要が生じ、CaOを余分に投入することによって、精錬コストの増加と、スラグ発生量の増加とを招いてしまう。
【0004】
そこで、スラグのフォーミングを鎮静するためには、CO気泡が滞留する泡沫層を破壊してスラグを収縮させることが必要である。泡沫層を破壊する方法としては、スラグの内部でガス化する塊状物をスラグに投入し、該塊状物が熱分解でガス化する際の体積膨張エネルギーを利用して泡沫層を破壊する方法が一般に知られている。通常、このような破壊作用をなす塊状物は鎮静剤と呼ばれており、このような鎮静剤の例として、特許文献1及び2に開示されている。
【0005】
中間排滓時においては、鉱滓鍋に鎮静剤を添加することによって、転炉等の精錬設備から充分な量のスラグを排滓できるようにすることが一般的に行われる。しかしながら、鉱滓鍋の上方から鎮静剤を一様に添加する方法では、スラグのフォーミングを迅速に鎮静化することが難しく、また、鎮静効果にばらつきが大きい。そのため、スラグの溢れ出しを懸念し、スラグの排滓量が不十分となる場合もある。その対策として、例えば鎮静剤を大量に添加することが考えられるが、その分精錬コストが上昇してしまう。また、鎮静剤を大量に添加すると、その衝撃によってフォーミングしたスラグが鍋外へ飛散する可能性があり、それを防止するために添加速度を制限する必要がある。添加速度を制限すると、中間排滓の時間も長くなり、操業上難しい。
【0006】
また、特許文献3には、鎮静剤の添加方法に関する技術が開示されている。この特許文献3に記載の方法では、転炉から鋼滓鍋にスラグを排滓する際、2つのカメラを用いて排滓流と鋼滓鍋内のスラグとを観察し、輝度情報からスラグの排滓開始を自動判定し、この情報を基づいて鎮静剤を鉱滓鍋内に添加するタイミングを制御するとしている。しかしながら、鎮静剤を投入するタイミングを制御するだけでは、スラグのフォーミングを迅速に鎮静することは困難であり、さらに鎮静材の鎮静効果も依然としてばらつきが大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭54-32116号公報
【文献】特開平4-180507号公報
【文献】特開2016-169436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前述の問題点を鑑み、効率良く鎮静剤を添加してスラグのフォーミングを迅速に鎮静化することが可能なスラグのフォーミング鎮静方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意検討した。そこで、まず本発明者らは、中間排滓時の鉱滓鍋内のスラグのフォーミングの挙動を詳細に観察した。その結果、鉱滓鍋内に排滓されたスラグは、排滓中に排滓鍋内で皮張り状態となり、その後、鉱滓鍋内でスラグのフォーミングが進行し、皮張り状態のスラグ表面の複数の箇所から炎が上がっていることが観察できた。さらに本発明者は、鉱滓鍋内のスラグに鎮静剤を添加する際に、スラグ表面のうち、炎が観察される位置、特に炎が高く上がっている位置に鎮静剤を添加すると、鎮静剤とフォーミングしているスラグとが激しく反応し、フォーミングを迅速に鎮静できることを見出した。また、本発明者らは、炎が発生していない位置に鎮静剤を添加すると、スラグ表層で鎮静剤が燃えてしまい、ほとんどフォーミングの鎮静に寄与していないことも見出した。
【0010】
一方で、スラグ表面で炎が発生している位置を作業者が監視し、さらに炎が発生している位置に人力で鎮静剤を添加する作業は重労働であり、作業者の負荷が大きい。また、炎が発生している位置を特定したり、炎が発生した位置に人力で鎮静剤を正確に添加したりする方法は、作業者の技能に依存しており、技能の低い作業者が作業する場合には鎮静剤を多く添加する必要がある。
【0011】
以上のような観点から、本発明者らは、さらに炎の発生位置を正確に把握する方法、およびその位置に鎮静剤を正確に添加する方法についても鋭意検討した。その結果、鉱滓鍋内のスラグの様子を撮影し、その撮影画像の輝度情報に基づいて炎の位置を特定する方法、およびその特定した位置に鎮静剤を投入できるように投入装置を制御する方法も見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)
スラグを収容する第1容器からスラグを排滓して第2容器に収容させる際に、前記第2容器に排滓されたスラグの表面のうち、COガスの燃焼反応で炎が発生している位置に狙いを定めて、前記スラグのフォーミングを鎮静するための鎮静剤を前記第2容器内のスラグがフォーミングによって前記第2容器の高さ方向の2/3の高さとなったタイミングで添加することを特徴とするスラグのフォーミング鎮静方法。
(2)
前記炎が発生している位置が複数ある場合に、最も炎が高い位置に狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする上記(1)に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
(3)
前記第2容器に排滓されたスラグの表面を撮影し、前記撮影した撮影画像において、所定の閾値よりも輝度が高い位置を前記炎が発生している位置として特定し、該特定した位置に狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする上記(1)に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
(4)
前記撮影画像において前記所定の閾値を超える輝度の面積が最も広い位置を前記炎が最も高い位置として特定し、該特定した位置に狙いを定めて前記鎮静剤を添加することを特徴とする上記(3)に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
(5)
前記撮影画像の輝度情報に基づいて前記鎮静剤を添加する投入装置を制御し、添加する位置を調整することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、効率良くスラグのフォーミングを迅速に鎮静化できるため、スラグの添加量を抑えるとともに排滓時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】中間排滓時に鉱滓鍋に排滓されたスラグをカメラで観察するシステムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係るスラグのフォーミング鎮静方法では、中間排滓中に鉱滓鍋の中に排滓されたスラグの表面の中の炎が発生している位置に鎮静剤を添加する。
【0015】
ここで、スラグに添加する鎮静剤とは、熱分解でガス化する際の体積膨張エネルギーを利用して泡沫層を破壊する効果を有する物質であり、例えば実操業において広く使用される製紙廃剤成形品等の鎮静剤である。この製紙廃剤成形品とは、製紙廃剤:30~50質量%、水分:約10質量%、製鋼スラグ等を混合して、直径30~50mm、高さ30~50mmの円柱状に塊状化したものである。製紙廃剤成形品はセルロースを主成分としており、スラグの熱で分解してスラグ中でガス化する。そのとき、スラグ中に発生するCO気泡の層(泡沫層)が体積膨張エネルギーによって破壊され、フォーミングが鎮静する。
【0016】
スラグ表面で発生している炎は、目視で観察が可能であり、スラグ表面において炎が発生している位置を複数確認できる。この炎は、皮張りしたスラグの一部からCOガスが放出する際の燃焼反応によって発生すると考えられ、このCOガスは、主にスラグ表面における半径5~20cm程度の円中心部から発生していることが観察される。
【0017】
本実施形態においては、そのCOガス(炎)が発生する位置に狙いを定めて鎮静剤を添加することで、少量の鎮静剤であってもフォーミングを迅速に鎮静することができる。このように皮張りしている位置を避けて鎮静剤を添加することで、スラグ中に鎮静剤が沈降し、その過程で鎮静剤からガスが発生して、泡沫層とともにスラグ表面に存在してCOガスの放出を妨げる固体層を破壊する。
【0018】
また、複数の位置で炎が発生している場合には、その中で最も炎が高くなっている位置に鎮静剤を添加することが好ましい。炎が高いほどその直下にあるスラグはガス密度が高くスラグ密度が低くなっており、鎮静剤がスラグのより深い位置まで沈降する。また、発生したCOガスの燃焼反応の進行によって、皮張りしたスラグ表面の一部が溶融しており、皮張りによる障害なく、鎮静剤はスラグ中に沈降することができる。
【0019】
中間排滓では、転炉等の精錬容器から断続的に鉱滓鍋へスラグが排滓される。つまり中間排滓では、鎮静剤を添加することによってフォーミングを鎮静するとスラグが鉱滓鍋へ排滓され、これにより再びスラグのフォーミングが発生し、鎮静剤を添加してフォーミングを鎮静することが繰り返される。鉱滓鍋内で一旦鎮静したスラグは、精錬容器からスラグが追加で排滓されることによって、スラグ中のFeOとそのスラグ中に懸濁した粒鉄中のCとが反応して、再びフォーミングが発生する。フォーミングによって鉱滓鍋からのスラグ溢れを抑制しつつ、鎮静剤の量を極力少なくするためには、鉱滓鍋内のスラグがフォーミングによって鉱滓鍋の高さ方向の2/3の高さとなったタイミングで鎮静剤を添加することが好ましい。
【0020】
以上のように炎が発生した位置に鎮静剤を添加することによって、効率良くかつ安定的にフォーミングを鎮静することができる。なお、目視にて炎が発生した位置を正確に特定し、その位置へ鎮静剤を正確に添加することが困難な場合もある。そこで、撮影画像を用いて炎が発生している位置を特定し、さらには投入装置(シュート)を用いてその位置に添加剤を添加できるように制御する方法について説明する。
【0021】
図1は、中間排滓時に鉱滓鍋に排滓されたスラグをカメラで観察するシステムを説明するための図である。転炉1において溶鉄3の脱燐処理によって生成されたスラグ2が鉱滓鍋6へ中間排滓されると、鉱滓鍋6内のスラグ7ではフォーミングが発生し、COガスが発生している位置で炎8が発生する。鉱滓鍋6の上方にはカメラ4が設置されており、スラグ7の表面全体をリアルタイムに撮影することができる。カメラ4で撮影された画像は画像解析装置5へ転送され、モニター13に撮影画像が表示される。
【0022】
撮影画像中において、炎が発生している位置では輝度が高くなっている。本実施形態では、所定の閾値よりも高い輝度の領域では炎が発生しているものとみなし、鉱滓鍋内のスラグがフォーミングによって鉱滓鍋の高さ方向の2/3の高さとなったタイミングで、作業員は撮影画像を見ながら輝度の高い位置で炎が発生しているものと認識することができる。また、画像解析装置5の輝度判定部51が、撮影画像において所定の閾値よりも高い輝度の領域を検出し、その検出結果をモニター13に通知するようにしてもよい。このとき、所定の閾値を超える輝度の面積順にその領域の検出結果を表示するようにすれば、作業員はモニター13を見ながら、所定の閾値を超える輝度の面積が最も広い位置では最も高い炎が発生している位置であると認識し、その位置に鎮静剤を添加することができる。
【0023】
また、所定の閾値よりも高い輝度の領域を検出した場合に、輝度判定部51は、さらにその領域の座標を計算し、座標情報とともに制御信号を画像解析装置5から制御装置9に送信し、3軸方向へ動くことができる可動式シュート11の投入位置を微調整させるようにしてもよい。制御装置9によって可動式シュート11の投入位置が微調整されると、ホッパー10から鎮静剤12が、炎が発生している位置(輝度が高い位置)に向けて添加される。なお、複数の位置で所定の閾値よりも高い輝度の領域が検出された場合には、その中から1つの領域をランダムに選択してその領域に鎮静剤が添加されるように制御してもよいが、所定の閾値を超える輝度の面積が最も広い領域に、鎮静剤が添加されるように制御することが好ましい。また、必要に応じて作業者によって鎮静剤の添加タイミングと添加位置とを変更してもよく、鎮静剤の添加のみ、作業員が手投げで行ってもよく、作業員が制御装置9を直接操作して可動式シュート11の投入位置を微調整してもよい。
【0024】
以上のように、中間排滓時におけるフォーミングしているスラグ表面の撮影画像から、その撮影画像の輝度情報に基づいて、炎の大きさと位置とを検出することができる。これにより、鎮静剤を添加する適正な位置を作業者の個人差なく一様に判断することができる。さらに、鎮静剤を投入する制御装置を用いてシュートを微調整することによって、より適正な位置に鎮静剤を添加することが可能となり、鎮静剤の添加量を最小限にするとともに、作業者の作業負荷を軽減することも可能となる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0026】
容量が300t規模の転炉にて脱燐処理を行い、その後、転炉内のスラグの一部を鉱滓鍋に排滓し、その後排滓を中断し、鉱滓鍋内のスラグがフォーミングによって鉱滓鍋の高さ方向の2/3の高さとなったタイミングで鎮静剤を添加した。そして、フォーミングが鎮静したことを確認した後に、さらに残りの転炉内のスラグの排滓を再開し、以後、鎮静材の添加、およびスラグの排滓を繰り返し、合計10tのスラグを排滓するまで行った。なお、鎮静剤の添加方法、添加位置、添加量、および排滓開始から排滓終了までの排滓時間は以下の表1に示す条件で実験を行った。
【0027】
ここで、鉱滓鍋に排滓されたスラグの温度は1000℃以上であり、スラグの組成は、CaO:30~60質量%、SiO2:10~35質量%、T.Fe:10~30質量%、MgO:5~10質量%、MnO:5~10質量%、P2O5:2~5質量%、Al2O3:0~5質量%であった。また、使用した鎮静剤は製紙廃剤成形品であり、製紙廃剤:30~50質量%、水分:10質量%、製鋼スラグ等を混合して、直径30~50mm、高さ30~50mmの円柱状に塊状化したものを用いた。
【0028】
【0029】
表1中のNo.1およびNo.2では、作業者が目視によりスラグ表面での炎の位置を確認した。No.3~No.5では、
図1に示したシステムで作業者がスラグ表面の撮影画像をモニターで確認し、所定の閾値よりも輝度の高い領域を炎が発生した位置とみなした。一方で、No.6およびNo.7では、作業者はスラグ表面の炎が発生した位置を目視でも撮影画像でも確認しなかった。
【0030】
表1中の「鎮静剤の添加方法」において、No.1~No.3およびNo.6では、5kg袋に入れた鎮静材を、作業者が鉱滓鍋の上方から手投げによってスラグに添加した。また、No.4~No.6では、ホッパーに連結されているシュートを用いて鉱滓鍋の上方から鎮静剤を添加した。
【0031】
また、表1中の「鎮静剤の添加位置」において、No.1、No.3およびNo.4では、炎が発生している複数の位置、又は所定の閾値よりも輝度が高い複数の位置からランダムに1つの位置を選択し、その位置で鎮静剤を添加した。なお、鎮静剤を添加する際に、No.3およびNo.4では、画像解析装置からの指示に基づき、制御装置の制御によって可動式ホッパーを微調整し、目標となる位置へ鎮静剤を添加した。一方で、No.6およびNo.7では、スラグ表面上のランダムの位置に鎮静剤を添加した。
【0032】
表1に示すように、実施例であるNo.1~No.5は、比較例であるNo.6およびNo.7に比べてフォーミングを迅速に鎮静化できたため、スラグの排滓時間が短く、かつ鎮静剤の添加量を抑えることができた。例えば作業者が鎮静剤を手投げで添加した場合、実施例であるNo.1及びNo.3は、比較例のNo.6に比べて排滓時間が短くなり、鎮静剤の添加量も少なかった。実施例では、スラグ表面からCOガスの気泡の燃焼反応によって炎が発生する位置に鎮静剤を添加したことで効率的にフォーミングが鎮静化したことが原因と考えられる。
【0033】
また、No.2では、最も炎が高い位置へ鎮静剤を添加したことから、No.1に比べてさらに排滓時間が短くなり、鎮静剤の添加量もさらに少なかった。つまり、スラグ中のより深いところまで鎮静剤が沈降してCOガスが発生したことで、その鎮静効果がより大きくなったことが原因と考えられる。
【0034】
また、シュートを微調整する制御を行って鎮静剤を添加したNo.4及びNo.5は、作業者が鎮静剤を手投げで添加したNo.1~No.3に比べてさらに排滓時間が短くなり、鎮静剤の添加量もさらに少なかった。これは、撮影画像での輝度情報に基づいてより精密に適正な位置に鎮静剤を添加したことで、より効率的にスラグが鎮静化したと考えられる。特に、No.5においては、所定の閾値を超える輝度の面積が最も広い位置に鎮静剤を添加したことで、スラグ中のより深いまで鎮静剤が沈降してCOガスが発生し、その鎮静効果がより大きくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1 転炉
2 スラグ
3 溶鉄
4 カメラ
5 画像解析装置
6 鉱滓鍋
7 スラグ
8 炎
9 制御装置
10 ホッパー
11 可動式シュート
12 鎮静剤
13 モニター
51 輝度判定部