(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】コークスの平均粒径予測方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/00 20060101AFI20231130BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20231130BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C10B57/00
G01N23/046
G01N33/22 A
(21)【出願番号】P 2020068754
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】松尾 翔平
(72)【発明者】
【氏名】林崎 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-230463(JP,A)
【文献】特開平05-223725(JP,A)
【文献】特開平05-230462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/00
G01N 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験コークス炉で乾留した乾留容器内のコークスに対して、X線CTによる撮像処理を行うことにより、コークスの亀裂形状に関する情報を取得する第1ステップと、
前記の取得した亀裂形状を画像解析することによって、亀裂面を取得するとともに、亀裂面の面積を算出する第2ステップと、
種類が互いに異なる複数のコークスについてそれぞれ、前記第1ステップ及び前記第2ステップを実行することにより各コークスの亀裂面の面積を算出した後、各コークスの亀裂面の面積とそれぞれのコークスについて実測した少なくとも高炉への搬送を模擬した衝撃を受けた後のコークスの平均粒径との関係を予め求める第3ステップと、
高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークスに対して、前記第1ステップ及び前記第2ステップを行うことにより得られた亀裂面の面積と、前記第3ステップで得られた関係とから少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径を予測する第4ステップと、
を有することを特徴とするコークスの平均粒径予測方法。
【請求項2】
前記第3ステップにおいて、各コークスの亀裂面を亀裂幅の大小に応じて区分けするとともに、各コークスの亀裂面の面積について、亀裂幅がより小さい区分のコークスの平均粒径に与える影響度が大きくなるように、重み付けを行い、
前記第4ステップにおいて、高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークスに対して、亀裂面を前記の区分に応じて区分けし、各区分に属する亀裂面の面積と、前記第3ステップで得られた関係とから少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径を予測することを特徴とする請求項1に記載のコークスの平均粒径予測方法。
【請求項3】
前記の少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径は、衝撃を受けた後のコークスの平均粒径、または衝撃を受けた後のコークスの平均粒径及び衝撃を受ける前のコークスの平均粒径の双方であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコークスの平均粒径予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの平均粒径を予測する予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉から排出されるコークスは、コークス炉から落下した後、高炉に到達するまでの搬送過程において衝撃を受けるため、平均粒径が低下する。コークスの平均粒径は、高炉の通気性等に影響を与えるため、コークスの平均粒径、特に衝撃を受けた後の平均粒径を予測することは、高炉操業において重要な課題である。
【0003】
衝撃後のコークスの平均粒径を予測する方法として、コークスを回転ドラムの中で規定回数(例えば30回転)回転させることで搬送過程を模擬した衝撃(以下、回転衝撃という場合がある)を加えた後、篩分けを行うドラム試験が知られている。しかしながら、ドラム試験には、労力がかかり、試験時間が長くなるという課題がある。なお、ドラム試験の前に、回転衝撃前のコークスの平均粒径を測定する測定試験が実施される。この測定試験(以下、初期粒径測定試験という場合がある)は、試験コークス炉で乾留されたコークスケーキを規定高さ(約2m)から落下させて崩した後、篩分けにより平均粒径を測定する試験であり、搬送過程で受ける衝撃を模擬したドラム試験とは異なる。
【0004】
特許文献1には、試験コークス炉で配合炭を乾留して得られるコークスケーキの内部に発生する各亀裂について、それぞれ炉幅方向の成分と炉高方向の成分に分離し、試験コークス炉の壁面に平行な向きとなる、炉高方向の亀裂成分の合計量(面積)に基づいて、コークスケーキの押出し性を推定する技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、試験コークス炉で乾留されたコークスケーキをX線CTにより撮像した後、コークス塊の頭部(いわゆるカリフラワー)の断面積を算出し、この算出した断面積に基づきコークスの粒径を予測する技術が記載されている。
【0006】
特許文献3には、X線CTで塊コークス内部の亀裂の長さ(総延長)を測定し、この測定結果に基づき、コークス炉の加熱パターンを制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5011839号
【文献】特開平5-223725号公報
【文献】特開平5-230462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、コークスケーキの押出し性を推定する際に、亀裂の面積を用いる技術が開示されており、コークスの平均粒径を予測する技術は開示されていない。
【0009】
また、特許文献2及び3には、衝撃後のコークスの平均粒径を予測する技術は開示されていない。
【0010】
本発明は、煩雑なドラム試験等を実施することなく、少なくとも高炉への搬送を模擬した衝撃後のコークスの平均粒径を推定することを目的とする。ここで、「少なくとも衝撃後」とあるため、衝撃後のコークスの平均粒径だけを推定する場合は勿論のこと、衝撃前後のコークスの平均粒径を推定する場合も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るコークスの平均粒径予測方法は、(1)試験コークス炉で乾留した乾留容器内のコークスに対して、X線CTによる撮像処理を行うことにより、コークスの亀裂形状に関する情報を取得する第1ステップと、前記の取得した亀裂形状を画像解析することによって、亀裂面を取得するとともに、亀裂面の面積を算出する第2ステップと、種類が互いに異なる複数のコークスについてそれぞれ、前記第1ステップ及び前記第2ステップを実行することにより各コークスの亀裂面の面積を算出した後、各コークスの亀裂面の面積とそれぞれのコークスについて実測した少なくとも高炉への搬送を模擬した衝撃を受けた後のコークスの平均粒径との関係を予め求める第3ステップと、高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークスに対して、前記第1ステップ及び前記第2ステップを行うことにより得られた亀裂面の面積と、前記第3ステップで得られた関係とから少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径を予測する第4ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
(2)前記第3ステップにおいて、各コークスの亀裂面を亀裂幅の大小に応じて区分けするとともに、各コークスの亀裂面の面積について、亀裂幅がより小さい区分のコークスの平均粒径に与える影響度が大きくなるように、重み付けを行い、前記第4ステップにおいて、高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークスに対して、亀裂面を前記の区分に応じて区分けし、各区分に属する亀裂面の面積と、前記第3ステップで得られた関係とから少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径を予測することを特徴とする上記(1)に記載のコークスの平均粒径予測方法。
【0013】
(3)前記の少なくとも衝撃を受けた後のコークスの平均粒径は、衝撃を受けた後のコークスの平均粒径、または衝撃を受けた後のコークスの平均粒径及び衝撃を受ける前のコークスの平均粒径の双方であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコークスの平均粒径予測方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、煩雑なドラム試験等を実施することなく、少なくとも高炉への搬送を模擬した衝撃後のコークスの平均粒径を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】画像処理の方法を模式的に示した遷移図である。
【
図2】亀裂幅に応じた亀裂面の区分を説明するための図である。
【
図3】実コークス炉で取得した粉コークスの粒度分布である。
【
図4】推定結果(MS0rev/+25mm(推定))と初期粒径測定試験(MS0rev/+25mm)の試験結果との相関度を示したグラフである(参考)。
【
図5】推定結果(MS30rev/+25mm(推定))と回転衝撃試験(MS30rev/+25mm)の試験結果との相関度を示したグラフである(実施例1)。
【
図6】推定結果(△MS(推定))と試験結果(△MS)との相関度を示したグラフである(実施例1)。
【
図7】推定結果(MS0rev/+25mm(推定))と初期粒径測定試験(MS0rev/+25mm)の試験結果との相関関係を説明するためのグラフである(比較例)。
【
図8】推定結果(MS0rev/+25mm(推定))と初期粒径測定試験(MS0rev/+25mm)の試験結果との相関度を示したグラフである(参考)。
【
図9】推定結果(MS30rev/+25mm(推定))と回転衝撃試験(MS30rev/+25mm)の試験結果との相関度を示したグラフである(実施例2)。
【
図10】推定結果(△MS(推定))と試験結果(△MS)との相関度を示したグラフである(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態であるコークスの平均粒径を予測する予測方法は、以下のステップ1~4を備える。
(ステップS1)
試験コークス炉で乾留したコークスケーキを、コークス塊に分断する前に(つまり、乾留容器に入れた状態で)例えば三次元医療用X線CTで撮像する。三次元医療用X線CTで撮像することにより、コークスケーキの亀裂形状に関する情報を三次元的に取得することができる。
【0017】
(ステップS2)
次に、ステップS1で取得した亀裂形状を画像解析することによって、亀裂面を取得するとともに、亀裂面の面積を算出する。画像解析には、公知の方法を用いることができる。例えば、三次元画像解析ソフトウェアのAvizoを用いて、以下のステップS2-1~2-4の手順で画像解析を行うことができる。
【0018】
(ステップS2-1について)
ステップS2-1において、撮像した画像に対して画像処理(例えば、輝度値の違いに基づいた2値化処理)を施し、コークスの部分と亀裂(空間)の部分とに分離する。2値化処理では、例えば、コークスの部分を黒、亀裂の部分を白に分離することができる。ただし、色分けの方法はこれに限るものではなく、他の色であってもよい。
図1の(a)は、分離後のコークスと亀裂とを二次元で模式的に表したものであるが、実際には、三次元的な画像データが得られる。なお、以下の説明で引用する
図1の(b)~
図1の(d)も
図1の(a)と同様に二次元的な模式図であるが、実際には三次元的な画像データが得られる。
【0019】
(ステップS2-2について)
ステップS2-2において、コークスの部分を更に塊毎に分離する分離処理を行う。ここで、
図1の(b)に図示するように、コークス塊Aは、一見一つの塊のように見えるが、内部に亀裂xを有しており、落下衝撃または回転衝撃等の衝撃を与えると亀裂xを起点として二つに分かれる。そこで、一見一つの塊に見えるようなコークス塊であっても、亀裂xを有するものは、衝撃を受けた際に分断すると見做し、異なる塊と判別する。本ステップにおける分離処理には、画像内の粒子のそれぞれを別々のものとして識別するための処理を行うWatershedアルゴリズム(非特許文献:Beucher and Meyer. The morphological approach to segmentation: the watershed transformation. Mathematical morphology in image processing; 34, 433-81 (1993).参照)を用いることができる。
【0020】
ここで、亀裂xの幅が極めて小さい場合には、衝撃を受けても、コークス塊は分断しない。そこで、衝撃時の分断に影響を与える亀裂のみを考慮できるように、衝撃時の分断に寄与しない幅を閾値として、当該閾値以下の亀裂を埋める画像処理を行う。回転衝撃時の分断に寄与しない幅は、実験等により求めることができる。ここでは、閾値を0.1mmとした。
【0021】
なお、本実施形態では、コークスが高炉への搬送時に受ける衝撃を模擬する方法として、回転衝撃をコークスに与えて、篩分け及び質量測定を実施して、粒度分布を算出する。回転衝撃には、例えば、JIS K2151に記載のドラム強度試験機を用いることができる。回転衝撃の回転数は、使用を予定しているベルトコンベアーごとの実績に基づき、適宜設定することができるが、例えば、典型的には30回転とすることができる。なお、コークスが搬送過程で受ける衝撃は、コンベアの長さなどによって変わるため、ドラムの回転数は30回に限定されるものではない。すなわち、搬送過程で受ける衝撃を模擬した適宜の回転数に設定することができる。
【0022】
(ステップS2-3)
分離されたコークス塊毎に膨張処理を均等に施し、亀裂を埋める画像処理を行う。これにより、ステップS2-2で分離されたコークス塊間に形成される境界の部位を抽出する(
図1の(c)参照)。
【0023】
(ステップS2-4)
ステップS2-3で抽出した境界の部位と、ステップS2-1における亀裂の部位とを比較し、当該境界の部位であってかつ当該亀裂の部位に位置する面を亀裂面として抽出する(
図1の(d)参照)。
【0024】
(ステップS2-5)
ステップS2-4で抽出した亀裂面の面積を、コークスの部分と亀裂の部分とを足し合わせた全体の解析領域の体積により規格化してSallを算出する。
【0025】
(ステップS3)
種類が互いに異なる複数のコークスについてそれぞれ、上述のステップS1及びS2を実行して、それぞれのコークスについてS
allを算出する。ここで、種類が異なるコークスとは、配合炭の配合条件(石炭の銘柄、配合比、嵩密度等)や加熱条件(昇温速度や到達温度、加熱時間)が互いに異なるコークスのことである。また、それぞれのコークスについて、回転衝撃前のコークスの平均粒径(言い換えると、初期粒度測定試験によって測定されるコークスの平均粒径):MS
before(実測値)と、回転衝撃後のコークスの平均粒径(言い換えると、ドラム試験によって測定されるコークスの平均粒径):MS
after(実測値)と、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差:△MS(実測値)を予め求めておく。上述の処理によって、コークスの平均粒径に関する実測値及びS
allを一組のデータとした複数組のデータが得られ、これらのデータを最小二乗法に基づき一次関数にフィッテングさせることにより、以下の一次式を構築する。
【数1】
【数2】
【数3】
【0026】
(ステップS4)
従って、上記の式(1)~(3)を予め求めておき、新たにステップS1~S3を実施して測定したコークス(高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークス)のSallをこれらの式に代入することにより、回転衝撃前のコークスの平均粒径(言い換えると、初期粒径測定試験によって測定されるコークスの平均粒径):MSbefore(推定)と、回転衝撃後のコークスの平均粒径(言い換えると、ドラム試験によって測定されるコークスの平均粒径):MSafter(推定)と、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差:△MS(推定)を推定することができる。
【0027】
本実施形態の方法によれば、試験コークス炉で乾留されたコークスケーキに対してドラム試験等を行うことなく、少なくとも回転衝撃後のコークスの平均粒径を推定することができる。すなわち、コークスケーキの三次元的な亀裂形状を取得し、亀裂面の面積を算出することにより、少なくとも回転衝撃後のコークスの平均粒径を推定することができる。この様に、回転衝撃後のコークスの平均粒径を推定することで、高炉に到達するまでの搬送過程における衝撃を模擬しているため、高炉の通気性の管理に用いることができる。
また、回転衝撃前後のコークスの平均粒径を推定することで、高炉に到達するまでの搬送過程における衝撃におけるコークスの割れ易さがわかるため、適正な割れの範囲を維持する様に、コークス炉の操業に反映させても良い。
【0028】
(第2実施形態)
本実施形態では、亀裂の幅を大小に応じて区分けし、各区分に属する亀裂のコークスの平均粒径に与える影響度を考慮して、コークスの平均粒径を推定する。ここで、ドラム試験時に、コークスは比較的小さな亀裂を起点として複数のコークス塊に分断する。つまり、回転衝撃によるコークスの分断は、比較的幅の小さい亀裂(以下、狭小亀裂幅という場合がある)が支配的であると考えられる。そこで、本実施形態では、回転衝撃前後におけるコークスの平均粒径を推定する際に、亀裂面の面積に加えて亀裂の幅に応じた重み付け処理を行う。
【0029】
ここで、亀裂幅とは、
図2(a)に図示するように、点線で示す亀裂面を挟んで向き合うコークス塊間の距離Pのことである。
図2(b)は、亀裂幅の大きさによって亀裂面を三つの区分に区分けしたものであり、区分1が最も亀裂幅の小さい区分であり、区分3が最も亀裂幅の大きい区分である。ただし、区分の数は3に限定されるものではなく、2又は3超であってもよい。
【0030】
三次元的な亀裂幅の評価には、非特許文献(非特許文献Hildebrand and Ruegsegger. A new method for the model-independent assessment of thickness in three-dimensional images. Journal of Microscopy; 185(1), 67-75 (1997))に示した評価方法を用いることができる。具体的には、対象とする三次元の領域の中にその領域と外の領域との境界に接する最大の球を配置する手法を用いることができ、配置した球の直径から対象物の幅を測定することができる。二次元の場合には、三次元における球の代わりに円を配置することで二次元的な亀裂幅を評価することができるが、二次元の場合には断面の向きによっては同じ部位でも幅が変わる可能性があることから三次元での評価が望ましい。
【0031】
狭小亀裂幅の上限は、好ましくは2.5mmである。亀裂幅がより小さい区分の影響度が大きくなるように、重み付けを行うことにより、回転衝撃後におけるコークスの平均粒径の推定精度を高めることができる。すなわち、第1実施形態のステップS2に対応する処理として、それぞれの区分について、亀裂面の面積を求める。そして、第1実施形態のステップS3に対応する処理として、異なる種類のコークスのそれぞれについて、上述の手法により区分ごとに亀裂面の面積を求めるとともに、各区分に属する亀裂の回転衝撃前後のコークスの平均粒径に与える影響度を考慮した重み付け処理を、それぞれの区分の亀裂面の面積に対して行う。なお、この段階では、影響度は未知数である。そして、それぞれのコークスについて、各区分の重み付け後の亀裂面の面積を合算することにより、影響度及び後述するωを係数とする式(以下、導出式と称する場合がある)を導出する。また、それぞれのコークスについて、第1実施形態と同様の方法により、回転衝撃前のコークスの平均粒径:MS
before(実測値)と、回転衝撃後のコークスの平均粒径:MS
after(実測値)と、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差:△MS(実測値)を予め求めておく。上述の処理によって、コークスの平均粒径に関する実測値及び導出式を一組のデータとした複数組のデータが得られる。これらのデータを重回帰分析して、
以下の式(4)~式(6)を算出する。
【数4】
ただし、nは亀裂幅の区分番号である。Jは各区分に属する亀裂の回転衝撃前のコークスの平均粒径に与える影響度を表した係数であり、上述のデータを用いた重回帰分析により算出できる。Sは各区分に属する亀裂の亀裂面の面積である。ω
beforeは、定数であり、同様に上述のデータを用いた重回帰分析によって算出できる。なお、n及びSの意味は、下記の式(5)及び式(6)においても同様である。
【数5】
ただし、Kは、各区分に属する亀裂の回転衝撃後のコークスの平均粒径に与える影響度を表した係数であり、同様に重回帰分析によって算出できる。ω
afterは、定数であり、同様に重回帰分析によって算出できる。
【数6】
ただし、Lは各区分に属する亀裂の回転衝撃前後のコークスの平均粒径の差分に対する影響度を表した係数であり、同様に重回帰分析によって算出できる。ω
afterは、定数であり、同様に重回帰分析によって算出できる。
【0032】
上記の式(4)~(6)を予め求めておき、新たに測定したコークス(高炉で使用が予定されるコークスとして、試験コークス炉で乾留して得られたコークス)の各区分の亀裂面の面積をこれらの式に代入することにより、回転衝撃前のコークスの平均粒径:MSbefore(推定)と、回転衝撃後のコークスの平均粒径:MSafter(推定)と、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差:△MS(推定)を推定することができる(第1実施形態のステップS4に相当する)。
【0033】
本実施形態の方法によれば、試験コークス炉で乾留されたコークスケーキに対してドラム試験等を行うことなく、少なくとも回転衝撃後のコークスの平均粒径を推定することができる。また、亀裂の幅を考慮することにより、少なくとも回転衝撃後のコークスの平均粒径の推定精度を高めることができる。
【実施例1】
【0034】
次に、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。配合炭に対して粒度が異なる種々の粉コークス(以下の表1参照)を添加して試験コークス炉で乾留した。配合炭に用いられる原料炭の粒度は3mm以下85質量%とした。配合炭の揮発分(ΣVM)は29.2質量%、全膨張率(ΣTD)は113.4%であった。粉コークスを添加した理由は、コークスの粒径を大きくするためである。コークスの粒径が大きくなると、高炉の通気性が高まることから、コークス製造プロセスでは、原料の一部に粉コークスが使われる場合がある。このような高炉操業の実態に合わせるために、本実施例では粉コークスを添加した。
【0035】
粉コークスは、コークス乾式消火設備内で捕集したものを用いた。取得した粉コークスの粒度分布を
図3に示した。粉コークスの粒度は、篩で分級することにより調整した。試験コークス炉として、炉幅(W):400mm、炉長(L):600mm、炉高(H):420mmの乾留容器を使用した。配合炭の嵩密度は、850dry.kg/m
3とした。試験コークス炉の到達温度を1150℃に設定し、18.5時間乾留した。
【表1】
【0036】
上述したステップS3に対応した処理として、乾留後にそれぞれのコークスを乾留容器に入れた状態で医療用X線CTを使用して三次元画像を取得した。撮像後に、初期粒径測定試験及び回転衝撃試験を実施して、回転衝撃前後のコークスの平均粒径をそれぞれ測定した。これらの平均粒径の測定値を、表1に示した。初期粒径測定試験及び回転衝撃試験の内容は、上述したので省略する。なお、本実施例では、高炉への搬送を模擬した衝撃として、回転衝撃試験は30回転とした。
【0037】
X線CTによる撮像条件は、管電圧を120kV、管電流を350mA、スライスピッチを0.5mmとした。画像のサイズは、512×512pixelとした。画像の解像度は1.132mm/pixelとした。分離処理(ステップS2に相当する)には、Avizoで提供されているsegmentationモジュールを使用した。
【0038】
すなわち、ステップS2-1に対応する処理として、コークスの部分と亀裂(空間)とを2値化処理により分離した。ステップS2-2に対応する処理として、Watershedアルゴリズムを用いて、コークスの部分を更に塊毎に分離した。この際、分離処理の強弱を決定するパラメータ(marker extent)を強く分離される1に設定した。ステップS2-3に対応する処理として、分離したコークス塊毎に膨張処理を施し、亀裂を埋める画像処理を施した。ステップS2-4に対応する処理として、ステップS2-3で抽出した境界の部位と、ステップS2-1における亀裂の部位とを比較し、当該境界の部位であってかつ当該亀裂の部位に位置する面を亀裂面として抽出した。ステップS2-5に対応する処理として、亀裂面の面積を、コークスの部分と亀裂の部分とを足し合わせた全体の解析領域の体積(ただし、コークスと乾留容器との間の空隙の領域は、規格化する体積から除外した)により規格化してSallを算出した。Sallは第2実施例の表3に示した。上述の処理を、それぞれのコークスについて実施した(ステップS3に相当する)。
【0039】
実測した回転衝撃前後のコークスの平均粒径と上述の手法により算出したS
allとを最小二乗法に基づき一次関数にフィッテングさせ、以下の式(7)~式(9)を算出した。
「0rev」はドラムの回転回数が0(つまり、無回転)であることを表しており、「30rev」は搬送過程での衝撃を模擬したドラムの回転回数を表している。「+25mm」は、粒径が25mm以上のコークスを対象とした平均粒径であることを意味している。
【数7】
【数8】
【数9】
【0040】
図5は、推定結果(MS30rev/+25mm(推定))と回転衝撃試験(MS30rev/+25mm)の試験結果との相関度を示したグラフであり、横軸が推定結果であり、縦軸が回転衝撃試験の試験結果である。
図6は、推定結果(△MS(推定))と試験結果(△MS)との相関度を示したグラフであり、横軸が推定結果であり、縦軸が試験結果である。なお、
図4は、推定結果(MS0rev/+25mm(推定))と初期粒径測定試験(MS0rev/+25mm)の試験結果との相関度を参考までに示したグラフであり、横軸が推定結果であり、縦軸が初期粒径測定試験の測定結果である。
【0041】
比較例として、全体の解析領域に対する亀裂の体積の割合Vを用いて、以下の算出式に基づき、回転衝撃を受ける前のコークスの平均粒径を予測した。a
4、b
4は最小二乗法によって算出した。a
4、b
4は実施例2の表4に、Vは実施例2の表3に記載した。
【数10】
【0042】
図7(比較例)は、推定結果(MS0rev/+25mm(推定))と初期粒径測定試験(MS0rev/+25mm)の試験結果との相関関係を説明するためのグラフである。
図5及び
図7を比較参照して、比較例の方法(亀裂の体積から推算する方法)は予測精度が著しく低い一方で、実施例の方法(亀裂の面積から推算する方法)は比較的予測精度が高いことがわかった。また、
図6及び
図7を比較参照して、比較例の方法(亀裂の体積から推算する方法)は予測精度が著しく低い一方で、実施例の方法(亀裂の面積から推算する方法)は比較的予測精度が高いことがわかった。なお、
図4は上述の通り、参考までに示したものであるが、相関性を有していることが確認された。
【実施例2】
【0043】
亀裂の幅を3区分(区分1:2.5mm以下、区分2:2.5mm超7.5mm以下、区分3:7.5mm超)に分割し、各区分の亀裂面の面積を重み付けした値からコークスの平均粒径を予測した。すなわち、実施形態で説明した方法によって亀裂面を亀裂幅の大小に応じて3区分に分割し、各区分に属する亀裂面の面積を求めた(ステップS2に対応する)。異なる種類のコークスのそれぞれについて、上述の手法により区分ごとに亀裂面の面積を求めるとともに、各区分に属する亀裂の回転衝撃前後のコークスの平均粒径に与える影響度を考慮した重み付け処理を、それぞれの区分の亀裂面の面積に対して行った。なお、この段階では、影響度の値は未知である。そして、それぞれのコークスについて、各区分の重み付け後の亀裂面の面積を合算することにより、導出式を算出した。回転衝撃前のコークスの平均粒径:MS
before(実測値)と、回転衝撃後のコークスの平均粒径:MS
after(実測値)と、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差:△MS(実測値)については第1実施例のデータを流用した。上述の処理によって、コークスの平均粒径に関する実測値及び導出式を一組のデータとした複数組のデータが得られた。これらのデータに基づく重回帰分析により、以下の式(11)~式(13)を求めた。
【数11】
【数12】
【数13】
J
1~J
3はそれぞれ、区分1~区分3に属する亀裂面の回転衝撃前のコークスの平均粒径に対する影響度を表した係数である。S
1~S
3はそれぞれ、区分1~3に属する亀裂面の面積である。なお、S
1~S
3を合算すると実施例1のS
allとなる。K
1~K
3はそれぞれ、区分1~区分3に属する亀裂面の回転衝撃後のコークスの平均粒径に対する影響度を表した係数である。L
1~L
3はそれぞれ、区分1~区分3に属する亀裂面の回転衝撃前後のコークスの平均粒径の差分に対する影響度を表した係数である。ωは係数である。J、K、L及びωは重回帰分析によって算出した。S1~S3は、実施例1と同様の方法で亀裂形状を三次元的に取得した後、画像解析することにより取得した。
【表2】
【表3】
【表4】
【0044】
図8乃至
図10はそれぞれ
図4乃至
図6に対応した本実施例のグラフである。
図5及び
図9を比較参照して、亀裂の幅を考慮することで、回転衝撃後のコークスの平均粒径の推定精度が向上することがわかった。ここで、MS30rev/+25mm(推定)の区分1(2.5mm以下)の影響度を表す係数K
1は、他の区分の影響度を表す係数よりも絶対値が大きいことから、回転衝撃後のコークスの平均粒径に与える影響は、比較的幅の小さな亀裂が支配的であることが確認された。また、
図6及び
図10を比較参照して、亀裂の幅を考慮することで、回転衝撃前後のコークスの平均粒径の粒径差の推定精度が向上することがわかった。なお、
図8は
図4と同様に、参考までに示したものであるが、相関性を有していることが確認された。
【0045】
上述の実施形態では、回転衝撃を受けた後のコークスの平均粒径及び回転衝撃を受ける前のコークスの平均粒径の双方を推定したが、回転衝撃を受けた後のコークスの平均粒径のみを推定してもよい。