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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】鉄道車両用車輪
(51)【国際特許分類】
   B60B 17/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B60B17/00 B
B60B17/00 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022558977
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2021037658
(87)【国際公開番号】W WO2022091764
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020179613
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】山村 佳成
(72)【発明者】
【氏名】安部 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】野口 淳
(72)【発明者】
【氏名】小塚 千尋
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-119503(JP,A)
【文献】特開昭56-034504(JP,A)
【文献】特開2004-050880(JP,A)
【文献】特表2009-545484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に用いられる車輪であって、
前記車輪の内周部を構成し、前記鉄道車両の車軸が挿入されるボス部と、
前記車輪の外周部を構成し、前記鉄道車両が走行するレールの頭頂面に接触する踏面と、前記車輪の半径方向で前記踏面よりも外側に突出するフランジと、を含むリム部と、
前記ボス部と前記リム部とを接続する環状の板部と、
を備え、
前記車輪の中心軸が延びる方向である軸方向における前記リム部の中央は、前記軸方向における前記ボス部の中央よりも、前記軸方向において前記フランジ寄りに配置されており、
前記板部は、前記車輪の縦断面視で直線状の板厚中心線を有し、
前記板厚中心線が前記軸方向となす角度であって、前記板厚中心線が前記半径方向と平行な場合に90°であり、前記板厚中心線が90°の位置から前記半径方向の内端を中心として前記フランジと反対側に回転することで前記半径方向に対して傾いている場合に90°未満であると定義される前記角度をαとし、
前記リム部の前記軸方向の両側面のうち前記フランジと反対側の側面から、前記板厚中心線の前記半径方向の外端までの前記軸方向における距離をPwとし、前記軸方向における前記リム部の長さをWrとし、Pw/WrをLとしたとき、以下の式(1)を満たす、車輪。
L≧0.0223α-1.363・・・(1)
ただし、前記角度αは、90°以下である。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪であって、
前記角度αは、87°以下である、車輪。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車輪であって、
前記板部は、前記半径方向の外側に向かうにつれて小さくなり前記板厚中心線の前記外端の手前で最小となる板厚を有する、車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両に用いられる車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制動方式の一種として、踏面ブレーキが知られている。踏面ブレーキとは、鉄道車両の車輪の踏面に制輪子を押し付けることにより、踏面と制輪子との間に摩擦力を発生させ、その摩擦力で鉄道車両を制動する制動方式である。
【0003】
踏面ブレーキを利用して鉄道車両を制動する場合、踏面と制輪子との間で摩擦熱が発生するため、車輪、特に車輪の外周部を構成するリム部の温度が上昇する。これにより、リム部の熱膨張が生じ、リム部において熱応力が発生する。この熱応力を低減するため、従来、種々の車輪形状が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、車輪の外周部を構成するリム部と、車輪の内周部を構成するボス部と、概略S字状の断面を有する板部とを備える車輪が提案されている。特許文献1の車輪では、板部及びリム部の熱応力の低減を目的として、ボス部に対するリム部の変位量、及び板部のリム部側の変位量がそれぞれ所定の値以上に設定されている。ボス部に対するリム部の変位量は、板部の曲線状の板厚中心線のリム部側の端部から車輪の軸心に下ろした垂線と、板厚中心線のボス部側の端部から車輪の軸心に下ろした垂線との間の距離である。板部のリム部側の変位量は、板厚中心線のリム部側の端部から車輪の軸心に下ろした垂線と、車輪の軸方向におけるリム部の中央から車輪の軸心に下ろした垂線との間の距離である。
【0005】
例えば、特許文献2では、リム部の熱応力の低減を目的として、湾曲した断面形状を板部に持たせた車輪が提案されている。特許文献2の車輪において、板部は、ベル型と呼ばれる断面形状を有する。この板部の曲線状の板厚中心線の両端は、車輪の中央平面(車輪の軸心に垂直な平面)に対して同じ側に配置される。一方、板厚中心線の中間点は、車輪の中央平面に対して板厚中心線の両端と反対側に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-119503号公報
【文献】特表2009-545484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、鉄道車両に用いられる車輪のリム部には、製造時に熱処理等が施されることにより、通常、圧縮残留応力が付与されている。しかしながら、踏面ブレーキによって鉄道車両が制動された際、リム部に高い熱応力が発生して塑性変形が生じると、リム部の圧縮残留応力が引張残留応力に反転することがある。すなわち、鉄道車両の制動中には、踏面と制輪子との摩擦により、リム部で温度が上昇してリム部が熱膨張をしようとする一方、車輪の内周側では温度上昇が小さいため、リム部の熱膨張が阻害され、リム部において特に車輪の円周方向の圧縮応力が発生する。この圧縮応力が降伏点を超えるとリム部の塑性変形が生じ、リム部が冷却された後、圧縮応力が引張応力に反転してリム部に残留応力として作用する。リム部に引張残留応力が発生した状態で、踏面にき裂が生じると、発生したき裂が車輪の内部まで進展する可能性が考えられる。よって、鉄道車両の制動に踏面ブレーキを使用する際には、踏面ブレーキに起因してリム部に発生する熱応力を低減し、リム部における引張残留応力の発生を抑制する必要がある。
【0008】
特許文献1及び2の車輪は、いずれも、湾曲形状の板部を有している。これにより、リム部の熱膨張に対する板部の拘束が緩和される。よって、特許文献1及び2の車輪では、鉄道車両の制動時にリム部に発生する熱応力が低減され、引張残留応力がリム部に発生しにくくなると考えられる。しかしながら、板部を湾曲させた場合、車輪の重量が増加するという問題がある。
【0009】
本開示は、軽量化と、リム部における引張残留応力の発生の抑制とを両立することができる車輪を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る車輪は、鉄道車両に用いられる。車輪は、ボス部と、リム部と、板部と、を備える。ボス部は、車輪の内周部を構成する。ボス部には、鉄道車両の車軸が挿入される。リム部は、車輪の外周部を構成する。リム部は、踏面と、フランジと、を含む。踏面は、鉄道車両が走行するレールの頭頂面に接触する。フランジは、車輪の半径方向で踏面よりも外側に突出する。環状の板部は、ボス部とリム部とを接続する。軸方向におけるリム部の中央は、軸方向におけるボス部の中央よりも、軸方向においてフランジ寄りに配置されている。軸方向は、車輪の中心軸が延びる方向である。板部は、車輪の縦断面視で直線状の板厚中心線を有する。板厚中心線が軸方向となす角度をαとし、リム部の軸方向の両側面のうちフランジと反対側の側面から、板厚中心線の半径方向の外端までの軸方向における距離をPwとし、軸方向におけるリム部の長さをWrとし、Pw/WrをLとしたとき、本開示に係る車輪は、以下の式(1)を満たす。
L≧0.0223α-1.363・・・(1)
ただし、角度αは、90°以下である。角度αは、板厚中心線が半径方向と平行な場合に90°であり、板厚中心線が90°の位置から半径方向の内端を中心としてフランジの反対側に回転することで半径方向に対して傾いている場合に90°未満であると定義される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、車輪の軽量化と、リム部における引張残留応力の発生の抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る車輪の縦断面図である。
図2図2は、断面S字状の板部を有する車輪を模式的に示す図である。
図3図3は、リム幅に対する板部位置の比率の値が等しい実施例及び比較例について、板角度とリム残留応力との関係を示すグラフである。
図4図4は、板角度が等しい実施例及び比較例について、リム幅に対する板部位置の比率とリム残留応力との関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例において制動中に車輪に生じた変形を誇張して例示する図である。
図6図6は、図5とは別の実施例において制動中に車輪に生じた変形を誇張して例示する図である。
図7図7は、比較例において制動中に車輪に生じた変形を誇張して例示する図である。
図8図8は、板角度と、リム幅に対する板部位置の比率との関係において、リム部の残留応力が引張に反転しない限界線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態(第1の構成)に係る車輪は、鉄道車両に用いられる。車輪は、ボス部と、リム部と、板部と、を備える。ボス部は、車輪の内周部を構成する。ボス部には、鉄道車両の車軸が挿入される。リム部は、車輪の外周部を構成する。リム部は、踏面と、フランジと、を含む。踏面は、鉄道車両が走行するレールの頭頂面に接触する。フランジは、車輪の半径方向で踏面よりも外側に突出する。環状の板部は、ボス部とリム部とを接続する。軸方向におけるリム部の中央は、軸方向におけるボス部の中央よりも、軸方向においてフランジ寄りに配置されている。軸方向は、車輪の中心軸が延びる方向である。板部は、車輪の縦断面視で直線状の板厚中心線を有する。板厚中心線が軸方向となす角度をαとし、リム部の軸方向の両側面のうちフランジと反対側の側面から、板厚中心線の半径方向の外端までの軸方向における距離をPwとし、軸方向におけるリム部の長さをWrとし、Pw/WrをLとしたとき、第1の構成に係る車輪は、以下の式(1)を満たす。
L≧0.0223α-1.363・・・(1)
ただし、角度αは、90°以下である。角度αは、板厚中心線が半径方向と平行な場合に90°であり、板厚中心線が90°の位置から半径方向の内端を中心としてフランジの反対側に回転することで半径方向に対して傾いている場合に90°未満であると定義される。
【0014】
第1の構成に係る車輪において、板部の板厚中心線は、車輪の縦断面視で直線状であり、変曲点を有しない。すなわち、板部は、実質的に湾曲せずにボス部とリム部とを接続する。そのため、板部を湾曲させた場合と比較し、板部の重量を低減することができる。よって、車輪を軽量化することができる。
【0015】
車輪のリム部の踏面に踏面ブレーキの制輪子が押し付けられて摩擦熱が発生したとき、リム部が熱膨張する。このリム部の熱膨張を板部が拘束することにより、リム部に熱応力が発生する。リム部の熱応力が過大となると、鉄道車両の制動中にリム部が塑性変形して、リム部が冷却された後に車輪の円周方向における引張残留応力が生じ得る。一方、第1の構成に係る車輪は、板部によるリム部の拘束を緩和するような形状に形成されている。より具体的には、第1の構成に係る車輪では、リム部の中央がボス部の中央よりもフランジ寄りに位置することを前提として、車輪の軸方向に対する板部の板厚中心線の角度と、リム部に対する板厚中心線の位置との双方を考慮した式(1)を満たすように各部の寸法が設定されている。これにより、板部によるリム部の拘束を効果的に緩和し、制動時におけるリム部の熱膨張を許容することができる。よって、リム部の熱応力を低減することができ、リム部の塑性変形を抑制することができる。そのため、鉄道車両の制動後にリム部が冷却されたとき、リム部の残留応力が引張に反転するのを抑制することができる。
【0016】
このように、第1の構成に係る車輪によれば、車輪の軽量化と、リム部における引張残留応力の発生の抑制とを両立することができる。
【0017】
上述した通り、第1の構成に係る車輪では、板部の板厚中心線は、車輪の縦断面視で直線状であり、変曲点を有しない。この場合、板部において応力集中が生じにくい。そのため、鉄道車両の制動時に発生する板部の熱応力を低減することができる。
【0018】
第1の構成によれば、車輪の軸方向に対する板部の板厚中心線の角度が90°以下となっている。そのため、板部が半径方向外側に向かうにつれて軌道内側に傾くことがない。よって、曲線通過時に車輪がレールからその軸方向に受ける荷重、言い換えると軌道内側から車輪が受ける荷重(横圧)に対し、板部の剛性を確保することができる。そのため、板部に発生する応力を低減することができる。
【0019】
板厚中心線が軸方向となす角度αは、87°以下であることが好ましい(第2の構成)。
【0020】
第2の構成によれば、車輪の軸方向に対する板部の板厚中心線の角度が87°以下となっている。この場合、板部が半径方向外側に向かうにつれて軌道外側に傾くことになる。よって、横圧に対する板部の剛性を向上させることができ、板部に発生する応力をより低減することができる。また、横圧に対する板部の剛性を確保するために板部の板厚を増加させる必要性が低下するため、板部及び車輪をより軽量化することができる。
【0021】
板部は、半径方向の外側に向かうにつれて小さくなり板厚中心線の外端の手前で最小となる板厚を有していてもよい(第3の構成)。
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0023】
図1は、本実施形態に係る車輪100の縦断面図である。縦断面とは、中心軸Xを含む平面で車輪100を切断した断面をいう。車輪100の縦断面は中心軸Xに対して対称であるので、図1では、車輪100のうち中心軸Xの片側のみを示す。以下、車輪100の中心軸Xが延びる方向を軸方向といい、車輪100の半径方向及び円周方向をそれぞれ単に半径方向及び円周方向という。
【0024】
図1を参照して、車輪100は鉄道車両に用いられる。車輪100は、ボス部10と、リム部20と、板部30とを備える。
【0025】
ボス部10は、車輪100の内周部を構成する。ボス部10は、中心軸Xを軸心とする概略円筒状をなす。ボス部10には、鉄道車両の車軸(図示略)が挿入される。
【0026】
リム部20は、車輪100の外周部を構成する。リム部20は、半径方向においてボス部10の外側に配置される。リム部20は、踏面21と、フランジ22とを含んでいる。踏面21及びフランジ22は、リム部20の外周面に設けられている。
【0027】
踏面21は、半径方向で外向きの面である。踏面21は、鉄道車両が走行するレールの頭頂面に接触する。踏面21の直径は、典型的には、フランジ22側に向かって徐々に大きくなる。踏面21は、例えば、円すい踏面であってもよいし、円弧踏面であってもよい。
【0028】
フランジ22は、リム部20において軸方向の一方端部に設けられる。フランジ22は、半径方向で踏面21よりも外側に突出している。フランジ22は、鉄道車両がレール上を走行するとき、左右のレールの内側に位置付けられる。以下、車輪100の軸方向において、フランジ22が配置される側をフランジ方向、これの反対側を反フランジ方向という。
【0029】
リム部20は、軸方向の両側面23,24をさらに含む。側面23は、フランジ22側の側面であり、側面24は、フランジ22と反対側の側面である。すなわち、側面23は、側面24に対してフランジ方向に配置されている。側面24は、踏面21及びフランジ22を挟み、側面23に対して反フランジ方向に配置されている。
【0030】
リム部20は、ボス部10に対してフランジ方向に配置されている。より詳細には、軸方向におけるリム部20の中央Crは、軸方向におけるボス部10の中央Cbよりも、軸方向においてフランジ22寄りに配置されている。鉄道車両が走行する際、リム部20の中央Crは、ボス部10の中央Cbに対して軌道幅方向の内側に位置付けられる。
【0031】
板部30は、環状をなす。板部30は、ボス部10とリム部20とを接続する。板部30の板厚は、全体として、ボス幅Wb及びリム幅Wrの各々よりも小さい。板部30の板厚は、ボス部10側で大きく、リム部20側で小さくなっている。ボス幅Wbとは、軸方向におけるボス部10の長さをいう。リム幅Wrは、軸方向におけるリム部20の長さであり、リム部20の側面23から側面24までの軸方向における最大距離である。
【0032】
板部30は、軸方向の両側面31,32を含んでいる。側面31は、フランジ22側の側面であり、側面32は、フランジ22と反対側の側面である。すなわち、側面31は、側面32に対してフランジ方向に配置されている。側面32は、側面31に対して反フランジ方向に配置されている。車輪100の縦断面視で、側面31,32は、半径方向に対して傾斜していることが好ましい。側面31,32は、それぞれ、接続部41,42を介してリム部20に接続される。側面31,32は、それぞれ、接続部43,44を介してボス部10に接続される。接続部41,42,43,44の各々は、例えば、車輪100の縦断面視で実質的に円弧状をなす。
【0033】
本実施形態では、接続部41の板部30側の端(R止まり)411、及び接続部42の板部30側の端(R止まり)421のうち、半径方向でより内側に位置するものを板部30の外周端と定義する。また、接続部43の板部30側の端(R止まり)431、及び接続部44の板部30側の端(R止まり)441のうち、半径方向でより外側に位置するものを板部30の内周端と定義する。板部30の外周端は、リム部20に対する板部30の付け根ともいえる。板部30の内周端は、ボス部10に対する板部30の付け根ともいえる。本実施形態では、接続部41の端411及び接続部44の端441が、それぞれ、板部30の外周端及び内周端である。
【0034】
板部30の板厚は、半径方向の外側に向かって小さくなり、外周端411の手前で最小となる。板部30は、外周端411よりも半径方向の内側、且つ外周端411の近傍で最小板厚を有する。板部30の板厚が最小となる位置は、鉄道車両が曲線を通過する際に車輪100がレールから受ける曲げ負荷によって板部30内で発生する曲げ応力が最小となる位置と実質的に一致する。例えば、外周端411から半径方向内側に5mm~30mmの位置で、板部30の板厚を最小とすることができる。
【0035】
板部30は、板厚中心線Aを有する。板厚中心線Aは、車輪100の縦断面視でボス部10からリム部20へと延びる板部30の板厚中央を結んでできる線である。板厚中心線Aは、側面31,32の中間を通ってボス部10側からリム部20側に延びる。板厚中心線Aは、車輪100の縦断面視で直線状をなす。ここでの直線状とは、完全な直線だけではなく、例えば曲率半径が1000mm以上である非常に緩やかな円弧や、折れ線をも含む概念である。すなわち、板厚中心線Aは、車輪100の縦断面視で実質的に直線であると認識し得るものであればよい。車輪100の縦断面視で板厚中心線Aが直線状であるため、板部30は、概略平板形状をなし、実質的に軸方向に湾曲しない。
【0036】
板厚中心線Aは、半径方向の外端Aaと、半径方向の内端Abとを有する。外端Aaは、板部30の外周端411を通り軸方向に延びる直線に対し、板厚中心線Aが接続される点である。板厚中心線Aの内端Abは、板部30の内周端441を通り軸方向に延びる直線に対し、板厚中心線Aが接続される点である。
【0037】
板厚中心線Aの外端Aaの軸方向の位置により、リム部20に対する板部30の位置が定まる。本実施形態では、リム部20の両側面23,24のうち、反フランジ方向の側面24から板厚中心線Aの外端Aaまでの軸方向における距離を板部位置Pwと定義する。リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率:L=Pw/Wrが小さいほど、板部30の外周端411がフランジ22から遠ざかり、比率Lが大きいほど、板部30の外周端411がフランジ22に近づくことになる。
【0038】
リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率:L=Pw/Wrは、板厚中心線Aの角度αとの関係で決定される。リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率L、及び板厚中心線Aの角度αは、以下の式(1)を満たすように定められている。
L≧0.0223α-1.363・・・(1)
【0039】
板厚中心線Aの角度αは、車輪100の縦断面視で、板厚中心線Aが軸方向に対してなす角度である。板厚中心線Aが非常に緩やかな曲線である場合、角度αは、板厚中心線Aの中心(外端Aaと内端Abとの中間点)での接線が軸方向に対してなす角度とする。板厚中心線Aが折れ線の場合、角度αは、板厚中心線Aを構成する線分のうち最も長い線分が軸方向に対してなす角度とする。角度αに関しては、板厚中心線Aが半径方向と平行な場合に90°であると定義する。また、板厚中心線Aが90°の位置から内端Abを中心としてフランジ22の反対側に回転することにより、板厚中心線Aが半径方向に対して傾いている場合に、角度αが90°未満であると定義する。すなわち、角度αが90°である位置を基準として、板厚中心線Aの外端Aaが反フランジ方向に配置されている場合、角度αが90°未満であるとする。
【0040】
板厚中心線Aの角度αは、90°以下に設定される。車輪100に使用される踏面ブレーキの仕様等にもよるが、角度αは、87°以下であることが好ましい。角度αが小さくなり、板部30が反フランジ方向に傾くほど、板部30によるリム部20の拘束が緩和され、鉄道車両の制動中におけるリム部20の変形が許容されやすくなる。車輪100の製造性の観点等から、角度αは75°以上であることが好ましい。
【0041】
一方、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが大きくなり、リム部20に対する板部30の付け根がフランジ22に近づくほど、板部30によるリム部20の拘束が緩和され、鉄道車両の制動中におけるリム部20の変形が許容されやすくなる。比率Lは、車輪100の製造性の観点等から、0.3以上、0.7以下の範囲で設定されることが好ましい。
【0042】
[効果]
本実施形態に係る車輪100では、板部30によるリム部20の拘束が緩和されるように、板厚中心線Aの角度αと、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lとの双方を適切に設定している。具体的には、本実施形態では、リム部20の中央Crがボス部10の中央Cbと比較してフランジ22寄りに位置し、且つ、板部30及びその板厚中心線Aが車輪100の縦断面視で直線状であることを前提として、上記式(1)の関係を満足するように、板厚中心線Aの角度α、及びリム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが設定されている。これにより、リム部20の中央Crがボス部10の中央Cbと比較してフランジ22寄りに位置し、且つ、板部30及びその板厚中心線Aが直線状である車輪100において、板部30によるリム部20の拘束の程度を効果的に低減することができる。そのため、リム部20の踏面21に踏面ブレーキの制輪子が押し付けられて摩擦熱が発生したとき、リム部20の熱膨張が阻害されにくくなる。よって、鉄道車両の制動に踏面ブレーキを使用する際、この踏面ブレーキに起因して発生するリム部20の熱応力を低減することができ、リム部20の塑性変形を抑制することができる。その結果、リム部20が冷却された後、リム部20の残留応力が引張に反転するのを抑制することができる。
【0043】
本実施形態に係る車輪100において、板部30の板厚中心線Aは、車輪100の縦断面視で直線状であり、変曲点を有しない。すなわち、板部30は、実質的に湾曲することなく、ボス部10とリム部20とを接続している。そのため、板部30を湾曲させる場合と比較して、板部30の重量を低減することができる。よって、車輪100の軽量化を実現することができる。
【0044】
また、板厚中心線Aが直線状であり、板部30が実質的に湾曲しないことにより、踏面ブレーキによる鉄道車両の制動中、板部30における応力集中を緩和することができる。よって、鉄道車両の制動時に発生する板部30の熱応力を低減することもできる。
【0045】
例えば、板部30が半径方向外側に向かうにつれてフランジ方向(軌道内側)に傾いている場合、曲線通過時に車輪100がレールからその軸方向に受ける荷重、つまり車輪100がレールによってフランジ方向に押される荷重(横圧)に対する板部30の剛性は低くなる。これに対して、本実施形態では、板厚中心線Aの角度αが90°以下に設定されているため、実質的に、板部30が半径方向外側に向かうにつれてフランジ方向に傾くことがない。よって、横圧に対する板部30の剛性を確保することができる。そのため、板部30に発生する応力を低減することができる。
【0046】
本実施形態に係る車輪100において、板厚中心線Aの角度αは、好ましくは87°以下である。この場合、板部30は、半径方向外側に向かうにつれて反フランジ方向(軌道外側)に傾くことになる。これにより、横圧に対する板部30の剛性を向上させることができ、板部30に発生する応力をより低減することができる。
【0047】
車輪100の縦断面視で、板部30の側面31,32が車輪100の半径方向に対して平行である場合(車輪100の中心軸Xに対して垂直である場合)、リム部20が板部30によって拘束されやすくなる。そのため、板部30の側面31,32は、車輪100の半径方向に対して傾斜していることが好ましい。側面31,32の各々は、例えば、リム部20に近づくにつれて反フランジ方向(軌道外側)に向かうように、半径方向に対して傾いていてもよい。側面31,32を半径方向に対して傾斜させることにより、板部30によるリム部20の拘束をより緩和することができる。
【0048】
本実施形態において、板部30の板厚は、半径方向の外側に向かって小さくなり、板厚中心線Aの外端Aaの手前で最小となる。より詳細には、板部30において、曲線の通過時にレールから受ける曲げ負荷によって生じる曲げ応力が最小となる位置と、板厚が最小となる位置とを概略一致させている。このようにすることで、板部30の疲労破壊を防止し、車輪100の耐久性を向上させることができる。
【0049】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例
【0050】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
リム部における引張残留応力の発生を抑制可能な車輪形状を検討するため、有限要素法による数値解析(FEM解析)を実施した。FEM解析では、上記実施形態に係る車輪100(図1)と同様の形状を有する解析モデルを作成し、直線状の板厚中心線Aの角度(板角度)α、及びリム幅Wrに対する板部位置Pwの比率:L=Pw/Wrを変化させて、リム部の残留応力の評価を行った。また、断面S字状の板部を有する車輪の解析モデルについても、リム部の残留応力の評価を行った。図2は、断面S字状の板部を有する車輪を模式的に示す図である。パラメータα及びLの条件を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
FEM解析は、汎用ソフトウェア(ABAQUS Ver.6.12、ダッソー・システムズ社製)を用いて行った。解析では、踏面ブレーキによる鉄道車両の制動を模擬するため、車輪の踏面のうち、踏面ブレーキの制輪子と接触する領域に熱流束を与えた。制動時間は1200秒とし、車輪の内周部は完全拘束とした。
【0054】
FEM解析で得られたリム部の残留応力(リム残留応力)を表2に示す。表2において、リム残留応力は、制動及び冷却後におけるリム部の最大の円周方向応力を示している。リム残留応力が負の値であれば、リム部の残留応力が制動後も圧縮であり、リム残留応力が正の値であれば、リム部の残留応力が制動後に引張に転じたことを表している。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、実施例1~3では、いずれもリム残留応力が負の値となった。すなわち、実施例1~3では、制動中におけるリム部の熱応力が低減されたため、リム部の残留応力を制動後も圧縮のままとすることができた。一方、比較例1~3では、リム残留応力が正の値となった。すなわち、比較例1~3では、リム部の残留応力が制動後に引張に転じてしまう結果となった。比較例4では、リム残留応力が負の値となったが、板部が湾曲しているため、板部が湾曲していない実施例1~3及び比較例1~3と比べると車輪の重量が増加した。このように、実施例1~3では、車輪の重量を増加させることなく、リム部における引張残留応力の発生を抑制することができた。
【0057】
以下、板角度α、及びリム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lがリム部の残留応力に与える影響を検討する。
【0058】
図3は、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lの値が等しい実施例1、比較例1、及び比較例2について、板角度αとリム残留応力との関係を示すグラフである。図3に示すように、板角度αが大きくなるほど、リム残留応力の値が大きくなることがわかる。よって、板角度αが小さくなれば、鉄道車両の制動後にリム部の残留応力が引張に転じる可能性が低くなるといえる。
【0059】
図4は、板角度αが等しい実施例3、比較例2、及び比較例3について、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lとリム残留応力との関係を示すグラフである。図4に示すようにリム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが大きくなるほど、リム残留応力の値が小さくなることがわかる。よって、比率Lが大きくなれば、鉄道車両の制動後にリム部の残留応力が引張に転じる可能性が低くなるといえる。
【0060】
このように、板角度αが小さいほどリム部の残留応力が低減し、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが大きいほどリム部の残留応力が低減する。この理由について、図5図7を参照しつつ説明する。図5図7は、それぞれ実施例1、実施例2、及び比較例2において、制動中に車輪に生じる変形を誇張して例示する図である。
【0061】
板角度αが80°と小さい実施例1では、図5に示すように、踏面21に熱流束を与えたとき、リム部20がフランジ方向に大きく移動した。すなわち、実施例1では、板角度αが小さいことにより、リム部20のフランジ方向の移動に対する板部30の拘束が小さくなり、リム部20の熱膨張を許容することができた。そのため、実施例1では、制動中にリム部20に発生する熱応力が低減され、リム部20の残留応力が制動後も圧縮のままとなった。
【0062】
リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが0.580と比較的大きい実施例2では、図6に示すように、踏面21に熱流束を与えたとき、リム部20がフランジ方向に回転した。すなわち、実施例2では、比率Lが確保されていることにより、リム部20のフランジ方向の回転に対する板部30の拘束が小さくなり、リム部20の熱膨張を許容することができた。そのため、実施例2では、制動中にリム部20に発生する熱応力が低減され、リム部20の残留応力が制動後も圧縮のままとなった。
【0063】
これに対して、板角度αが実施例1と比較して大きい90°であり、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lが実施例2と比較して小さい0.448である比較例2では、図7に示すように、リム部20の移動及び回転がほとんど生じなかった。比較例2では、リム部20の移動及び回転に対する板部30の拘束が大きく、踏面21に熱流束を与えたとき、リム部20の熱膨張が阻害された。そのため、比較例2では、制動中にリム部20に発生する熱応力が大きくなり、リム部20の残留応力が制動後に引張に反転した。
【0064】
このように、踏面ブレーキによる制動に起因して発生するリム部の残留応力の引張反転には、板角度α及びリム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lの双方が関係する。そこで、踏面ブレーキによって鉄道車両を制動する際にリム部の残留応力が引張に転じるのを防止することができる、板角度αと比率Lとの関係を求めた。板角度αと比率Lとの関係において、リム部の残留応力が引張に反転しない限界線を図8に示す。
【0065】
図8中のプロット点は、上記と同様のFEM解析を行って得られた結果であり、板角度α=78°,80°,85°,87°,90°においてリム残留応力が0となったときの比率L=板部位置Pw/リム幅Wrを表している。図8中の直線は、これらのプロット点を最小二乗近似して得られたものであり、L=0.0223α-1.363で表される。この直線よりも上側にある領域で、リム残留応力が圧縮となる。よって、リム部の残留応力が引張になるのを実質的に防止することができる場合とは、板角度α及び比率Lが以下の式(1)を満足する場合である。ただし、板角度αは90°以下とする。以下の式(1)は、リム部の中央がボス部の中央よりもフランジ寄りに配置され、且つ板部及びその板厚中心線が直線状である車輪に限り、適用することができる。
L≧0.0223α-1.363・・・(1)
【0066】
各実施例及び各比較例について、上記式(1)を満たすか否かを確認した。表3に示すように、リム残留応力が負の値となった実施例1~3は、上記式(1)を満足する。一方、リム残留応力が正の値となった比較例1及び2では、上記式(1)を満足しない。よって、リム部の中央がボス部の中央よりもフランジ寄りに配置され、且つ板部及びその板厚中心線が直線状である車輪において、板角度αと、リム幅Wrに対する板部位置Pwの比率Lとが上記式(1)を満たすように設定されている場合、リム部における引張残留応力の発生を抑制できるといえる。
【0067】
【表3】
【符号の説明】
【0068】
100:車輪
10:ボス部
20:リム部
21:踏面
22:フランジ
30:板部
A:板厚中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8