(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】遠心式圧縮機および冷凍装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/46 20060101AFI20231130BHJP
F04D 29/28 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F04D29/46 J
F04D29/28 M
(21)【出願番号】P 2023055320
(22)【出願日】2023-03-30
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022056741
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 有弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佑
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝一
(72)【発明者】
【氏名】福田 大悟
(72)【発明者】
【氏名】河内谷 佑季
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145910(JP,A)
【文献】特開2002-161897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/46
F04D 29/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(20)と、
前記ケーシング(20)に収容されるインペラ(90)と、
前記インペラ(90)に連結されるシャフト(62)と、を備え、
前記ケーシング(20)は、前記インペラ(90)の背面に対向する壁部(24)を有し、
前記シャフト(62)は、前記壁部(24)に形成された挿通孔(34)に挿通され、
前記インペラ(90)の背面(91)と前記壁部(24)との間に背面隙間(92)が形成された遠心式圧縮機であって、
前記壁部(24)の前記インペラ(90)側に臨む面には、凹部(93)が形成され、
前記インペラ(90)は、前記凹部(93)の外側に位置し、
前記インペラ(90)の比速度は、0.1未満に設定され、
前記シャフト(62)の軸方向における前記背面隙間(92)の幅を軸方向幅sとし、前記インペラ(90)の半径をインペラ半径rとしたとき、前記インペラ半径rに対する前記背面隙間(92)の軸方向幅sの比は、0.008≦s/r≦0.5の関係を満たす、遠心式圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心式圧縮機において、
前記背面隙間(92)のうち前記インペラ(90)の背面(91)の内周側に対応する第1隙間(94)は、前記インペラ(90)の背面(91)と前記壁部(24)との間をシールするシール部(95)を構成し、
前記背面隙間(92)のうち前記インペラ(90)の背面(91)の外周側に対応する第2隙間(96)の前記軸方向幅sは、前記第1隙間(94)の前記軸方向幅sよりも大きく、前記インペラ半径rに対する比(s/r)で前記関係を満たす、遠心式圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の遠心式圧縮機において、
前記第1隙間(94)は、前記シャフト(62)の軸心(X)と直交する方向に平面的に広がる、遠心式圧縮機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の遠心式圧縮機において、
前記シャフト(62)を外周で支持するラジアル軸受(80)をさらに備え、
前記ラジアル軸受(80)は、フォイル軸受または磁気軸受である、遠心式圧縮機。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の遠心式圧縮機において、
前記シャフト(62)の最高回転数は、30000rpm以上である、遠心式圧縮機。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の遠心式圧縮機において、
前記インペラ(90)は、冷媒を圧送し、
前記冷媒は、HFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒である、遠心式圧縮機。
【請求項7】
冷凍サイクルを行う冷媒回路(2)を備える冷凍装置であって、
前記冷媒回路(2)は、請求項1~3のいずれか1項に記載の遠心式圧縮機(10)を含む、冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠心式圧縮機および冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インペラの回転による遠心力を利用して流体を圧縮する遠心式圧縮機が知られている。遠心式圧縮機においては、インペラにより圧送される流体の一部がインペラの背面側からモータの配置された空間に漏れることで漏れ損が発生する。この漏れ損失を低減するため、遠心式圧縮機には様々なシール構造が提案されている。そうしたシール構造の一例は、特許文献1に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の遠心式圧縮機では、インペラが比速度の比較的高い設計であるため、機械的損失においてインペラの背面でのガスとの摩擦により発生する風損の割合が小さい。そのことから、インペラの背面での風損については、改善の工夫がされてこなかった。しかし、インペラを比速度の比較的低い設計とする場合、機械的損失におけるインペラの背面での風損の割合が大きくなる。そのため、インペラの背面での風損が圧縮効率に与える影響を無視できない。
【0005】
本開示の目的は、低比速度に設計された遠心式圧縮機において圧縮効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、遠心式圧縮機(10)を対象とする。第1の態様の遠心式圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、前記ケーシング(20)に収容されるインペラ(90)と、前記インペラ(90)に連結されるシャフト(62)とを備える。前記ケーシング(20)は、前記インペラ(90)の背面(91)に対向する壁部(24)を有する。前記シャフト(62)は、前記壁部(24)に形成された挿通孔(34)に挿通される。前記インペラ(90)の背面(91)と前記壁部(24)との間に背面隙間(92)が形成される。前記インペラ(90)の比速度は、0.1未満に設定される。前記シャフト(62)の軸方向における前記背面隙間(92)の幅を軸方向幅sとし、前記インペラ(90)の半径をインペラ半径rとしたとき、前記インペラ半径rに対する前記背面隙間(92)の軸方向幅sの比は、0.008≦s/r≦0.5の関係を満たす。
【0007】
この第1の態様では、インペラ(90)の比速度が0.1未満に設定される。このような低比速度設計のインペラ(90)は、小容量且つ高ヘッドの性能を実現するのに有利である。そして、この遠心式圧縮機(10)では、インペラ半径rに対する背面隙間(92)の軸方向幅sの比(s/r)が、0.008以上且つ0.5以下である。そのことで、インペラ(90)の背面(91)が臨む背面隙間(92)をインペラ半径rに応じて適切な軸方向幅sとすることができる。これにより、インペラ(90)の背面(91)での風損を低減できる。その結果、低比速度に設計された遠心式圧縮機(10)において、圧縮効率を高めることができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様の遠心式圧縮機(10)において、前記背面隙間(92)のうち前記インペラ(90)の背面(91)の内周側に対応する第1隙間(94)が、前記インペラ(90)の背面(91)と前記壁部(24)との間をシールするシール部(95)を構成する、遠心式圧縮機(10)である。前記背面隙間(92)のうち前記インペラ(90)の背面の外周側に対応する第2隙間(96)の前記軸方向幅sは、前記第1隙間(94)の前記軸方向幅よりも大きく、前記インペラ半径rに対する比(s/r)で前記関係を満たす。
【0009】
この第2の態様では、インペラ(90)の背面(91)の内周側に対応する第1隙間(94)が、シール部(95)を構成する。このシール部(95)は、インペラ(90)の背面(91)とケーシング(20)の壁部(24)との間をシールする。それにより、遠心式圧縮機(10)で扱うガスが、インペラ(90)の背面側にある背面隙間(92)を通じて、壁部(24)に設けられた挿通孔(34)の内周面とシャフト(62)との間から漏れるのを抑制できる。したがって、遠心式圧縮機(10)でのガスの漏れによる損失(漏れ損)を低減できる。
【0010】
また、第2の態様では、インペラ(90)の背面(91)の外周側に対応する第2隙間(96)の軸方向幅sは、第1隙間(94)の軸方向幅sよりも大きい。そして、第2隙間(96)の軸方向幅sにおけるインペラ半径rに対する比(s/r)は、0.008以上且つ0.5以下である。インペラ(90)の外周側の方が内周側よりも、回転速度が高く、インペラ(90)の背面(91)での風損が大きい。よって、インペラ(90)の背面(91)での風損を効果的に低減できる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第2の態様の遠心式圧縮機(10)において、前記第1隙間(94)が、前記シャフト(62)の軸心(X)と直交する方向に平面的に広がる、遠心式圧縮機(10)である。
【0012】
この第3の態様では、第1隙間(94)がシャフト(62)の軸心(X)と直交する方向に平面的に広がる。このような第1隙間(94)を形成するインペラ(90)の背面(91)とケーシング(20)の壁部(24)とはシャフト(62)の軸心(X)に沿う軸方向において対向する。遠心式圧縮機(10)の過渡的な条件下では、シャフト(62)に径方向への力が作用し、インペラ(90)がシャフト(62)と共に径方向へ変位することがある。インペラ(90)の背面(91)とケーシング(20)の壁部(24)とがシャフト(62)の軸心(X)に沿う軸方向において対向すると、インペラ(90)がシャフト(62)と共に径方向へ変位しても、第1隙間(94)を形成するインペラ(90)の背面(91)と壁部(24)とは接触せず、且つ第1隙間(94)が狭まらずに済む。したがって、遠心式圧縮機(10)の信頼性を高め、過渡的な条件下においても、インペラ(90)の背面(91)での風損が増加するのを抑制できる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの遠心式圧縮機(10)において、前記シャフト(62)を外周で支持するラジアル軸受(80)をさらに備える、遠心式圧縮機(10)である。前記ラジアル軸受(80)は、フォイル軸受または磁気軸受である。
【0014】
この第4の態様では、シャフト(62)を外周で支持するラジアル軸受(80)がフォイル軸受または磁気軸受である。フォイル軸受は、シャフト(62)との間にガス膜(GF)を形成することで、そのガス膜(GF)によりシャフト(62)を浮かせて、非接触で回転可能に支持する。磁気軸受は、シャフト(62)を磁力により浮かせて、非接触で回転可能に支持する。それらフォイル軸受および磁気軸受は、シャフト(62)の回転に伴って生じる摩擦熱およびラジアル軸受(80)の摩耗量を低減するのに有利である。フォイル軸受または磁気軸受をラジアル軸受(80)として用いる遠心式圧縮機(10)では、過渡的な条件下で生じるシャフト(62)の径方向への変位が比較的大きい。よって、そうした遠心式圧縮機(10)においては、上記第3の態様に係る構成が有効である。
【0015】
本開示の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つの遠心式圧縮機(10)において、前記シャフト(62)の最高回転数が、30000rpm以上である、遠心式圧縮機(10)である。
【0016】
この第5の態様では、シャフト(62)の最高回転数が30000rpm以上であって比較的高い。遠心式圧縮機(10)を所定の比速度とする場合、シャフト(62)の最大回転数が高いほど、遠心式圧縮機(10)の容量を小さくするか、またはヘッドを高くできる。よって、シャフト(62)の最高回転数が比較的高いことは、遠心式圧縮機(10)に小容量且つ高ヘッドの性能を実現するのに好適である。
【0017】
本開示の第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つの遠心式圧縮機(10)において、前記インペラ(90)が、冷媒を圧送する、遠心式圧縮機(10)である。前記冷媒は、HFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒である。
【0018】
この第6の態様では、インペラ(90)が圧送する冷媒がHFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒である。これらの冷媒は、ガス密度が比較的高い。インペラ(90)の背面(91)での風損は、遠心式圧縮機(10)で扱う冷媒のガス密度に比例して高くなる。よって、本開示の技術は、HFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒を扱う遠心式圧縮機において有効である。
【0019】
本開示の第7の態様は、冷凍装置(1)を対象とする。第7の態様の冷凍装置(1)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路(2)を備える。前記冷媒回路(2)は、第1~第6の態様のいずれか1つの遠心式圧縮機(10)を含む。
【0020】
この第7の態様では、上述した遠心式圧縮機(10)が冷媒回路(2)に用いられる。このことは、冷凍装置(1)で行われる冷凍サイクルの高効率化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態の冷凍装置が備える冷媒回路の概略の構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態の遠心式圧縮機の概略構成を例示する断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の遠心式圧縮機の要部を例示する断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の遠心式圧縮機に用いられる軸受の概略構成を例示する断面図である。
【
図5】
図5は、遠心式、斜流式および軸流式のインペラの効率と比速度との関係を概略的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、インペラの比速度と風損割合との関係を概略的に示すグラフである。
【
図7】
図7は、インペラの比速度と漏れ損割合との関係を概略的に示すグラフである。
【
図8】
図8は、円板の半径に対する隙間の比と摩擦損失係数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第1変形例の遠心式圧縮機の要部を例示する断面図である。
【
図10】
図10は、第2変形例の遠心式圧縮機の要部を例示する断面図である。
【
図11】
図11は、第4変形例の遠心式圧縮機の概略構成を例示する断面図である。
【
図12】
図12は、その他の実施形態の遠心式圧縮機における要部を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態では、本開示の技術に係る圧縮機を冷凍装置に適用した場合を例に挙げる。なお、図面は、本開示の技術を概念的に説明するためのものである。よって、図面では、本開示の技術の理解を容易にするために、寸法、比または数を、誇張あるいは簡略化して表す場合がある。
【0023】
《実施形態》
この実施形態の圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に設けられる。
【0024】
-冷凍装置-
図1に示すように、冷凍装置(1)は、冷媒回路(2)を備える。冷媒回路(2)には、冷媒が充填される。本例の圧縮機(10)で圧縮される流体は、冷媒である。例えば、冷媒は、R32などのHFC(Hydro Fluoro Carbon)冷媒、R1234yfなどのHFO(Hydro Fluoro Olefin)冷媒、自然冷媒、またはR454C(R32とR1234yfとの混合冷媒)などのそれらの混合冷媒である。自然冷媒としては、例えば、プロパンなどのHCを含む自然冷媒が挙げられる。
【0025】
冷媒回路(2)は、圧縮機(10)と、放熱器(凝縮器)(3)と、減圧機構(4)と、蒸発器(5)とを含む。圧縮機(10)、放熱器(3)、減圧機構(4)および蒸発器(5)は、配管によって直列に接続される。減圧機構(4)は、例えば膨張弁である。冷媒回路(2)は、冷媒を循環させて、蒸気圧縮方式の冷凍サイクルを行う。
【0026】
冷凍サイクルでは、圧縮機(10)によって圧縮された冷媒が、放熱器(3)において空気に放熱する。このとき、冷媒が液化する。放熱した冷媒は、減圧機構(4)によって減圧される。減圧された冷媒は、蒸発器(5)において蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機(10)に収入される。圧縮機(10)は、吸入した冷媒を圧縮する。
【0027】
冷凍装置(1)は、例えば空気調和装置である。空気調和装置は、冷房と暖房とを切り換える冷暖房兼用機であってもよい。この場合、空気調和装置は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構を有する。切換機構は、例えば四方切換弁である。空気調和装置は、冷房専用機または暖房専用機であってもよい。
【0028】
また、冷凍装置(1)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する装置である。
【0029】
-圧縮機-
圧縮機(10)は、遠心式圧縮機(10)である。圧縮機(10)は、低圧の冷媒を吸引し、その冷媒を圧縮する。圧縮機(10)は、圧縮した後の高圧の冷媒を吐出する。なお、以下の説明において、圧縮機(10)のシャフト(62)の軸心(X)に沿う方向を「軸方向」と称し、軸方向に垂直な方向を径方向と称し、シャフト(62)の周囲に沿う方向を「周方向」と称する。
【0030】
圧縮機(10)において、シャフト(62)の最高回転数は、30000rpm以上である。最高回転数は、電動機(60)の回転数の最大値を規定する。圧縮機(10)において、シャフト(62)の最高回転数を高くすることは、冷媒回路(2)における冷媒の循環量を増加させ、冷媒の最大循環量を確保するのに好ましい。このことは、冷房運転での冷房能力を高め、暖房運転での暖房能力を高めるのに有利である。
【0031】
図2に示すように、圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、電動機(60)と、軸受(70)と、インペラ(90)とを備える。電動機(60)、軸受(70)およびインペラ(90)は、ケーシング(20)に収容される。
【0032】
〈ケーシング〉
ケーシング(20)は、両端が密閉された概ね円筒状の密閉容器である。ケーシング(20)は、その中心線が実質的に水平となる姿勢に設置される。ケーシング(20)は、軸方向に延びる。ケーシング(20)は、内部空間(22)を有する。ケーシング(20)は、第1壁部(24)と、第2壁部(26)とを有する。第1壁部(24)は、内部空間(22)を、軸方向における一方側で区画する。第2壁部(26)は、内部空間(22)を、軸方向における他方側で区画する。
【0033】
内部空間(22)において、第1壁部(24)によって軸方向における外側に区画された一方側の空間は、インペラ室(28)を構成する。内部空間(22)において、第2壁部(26)によって軸方向における外側に区画された他方側の空間は、スラスト軸受室(30)を構成する。内部空間(22)において、第1壁部(24)および第2壁部(26)によって軸方向における内側に区画された中間の空間は、電動機室(32)を構成する。
【0034】
第1壁部(24)および第2壁部(26)にはそれぞれ、挿通孔(34,36)が形成される。電動機(60)のシャフト(62)は、両方の挿通孔(34,36)に挿通される。第1壁部(24)の挿通孔(34)の内周面とシャフト(62)との間には、隙間(38)が設けられる。この隙間(38)は、ラジアルシール部(40)を構成する。ラジアルシール部(40)は、第1壁部(24)とシャフト(62)との間を軸方向においてシールする。
【0035】
ケーシング(20)において、インペラ室(28)の外周には、ディフューザ(42)と、スクロール流路(44)とが設けられる。ディフューザ(42)は、インペラ室(28)とスクロール流路(44)との間に環状に形成される。ディフューザ(42)は、ケーシング(20)の軸方向において互いに対向する一対の側面により画定される。ディフューザ(42)は、インペラ室(28)と、スクロール流路(44)とを連通させる。スクロール流路(44)は、ディフューザ(42)の周囲に渦巻き状に形成される。
【0036】
ケーシング(20)には、吸入口(46)と、吐出口(48)とが設けられる。吸入口(46)は、ケーシング(20)の軸方向におけるインペラ室(28)側の一端に開口する。吸入口(46)は、インペラ室(28)の中央部分に連通する。吸入口(46)には、吸入管(50)が接続される。吐出口(48)は、スクロール流路(44)の外側端に形成される。吐出口(48)は、スクロール流路(44)に連通する。吐出口(48)には、吐出管(52)が接続される。
【0037】
〈電動機〉
電動機(60)は、インペラ(90)の駆動源である。電動機(60)は、電動機室(32)に収容される。電動機(60)は、例えば、永久磁石同期型モータである。電動機(60)は、シャフト(62)と、ロータ(64)と、ステータ(66)とを備える。電動機(60)は、シャフト(62)の軸心(X)の方向(軸方向)が水平向きとなる姿勢に設けられる。
【0038】
シャフト(62)は、インペラ(90)を駆動させる棒状部材である。シャフト(62)は、ケーシング(20)の中心線に沿う方向に内部空間(22)を延びる。シャフト(62)は、第1壁部(24)および第2壁部(26)に形成された挿通孔(34,36)に挿通される。シャフト(62)の一端部は、インペラ室(28)に位置する。シャフト(62)の他端部は、スラスト軸受室(30)に位置する。
【0039】
ロータ(64)は、概ね円筒状に形成される。ロータ(64)には、シャフト(62)が挿通される。ロータ(64)は、シャフト(62)の中途部に設けられる。ロータ(64)は、シャフト(62)に固定される。ロータ(64)は、シャフト(62)と実質的に同軸に配置される。ロータ(64)には、複数の永久磁石が設けられる。ロータ(64)は、シャフト(62)と一体に回転する。
【0040】
ステータ(66)は、概ね円筒状に形成される。ステータ(66)は、ロータ(64)の外周を囲うように配置される。ステータ(66)は、ケーシング(20)の内壁に固定される。ステータ(66)には、コイルが巻き付けられる。ステータ(66)の内周面は、ロータ(64)の外周面と径方向に所定の隙間(エアギャップ)を隔てて対向する。
【0041】
電動機(60)は、ロータ(64)とステータ(66)との間における磁束と電流との相互作用により、シャフト(62)を回転させる。シャフト(62)のうちスラスト軸受室(30)に位置する端部には、円盤部(68)が設けられる。円盤部(68)は、シャフト(62)の径方向における外側へ延びる円環状に形成される。円盤部(68)は、シャフト(62)と実質的に同軸に配置される。円盤部(68)は、スラスト軸受(74)の構成要素である。
【0042】
〈軸受〉
圧縮機(10)は、軸受(70)として、一対のタッチダウン軸受(72)と、スラスト軸受(74)と、一対のラジアル軸受(80)とを備える。
【0043】
タッチダウン軸受(72)は、転がり軸受である。タッチダウン軸受(72)は、電動機(60)への通電が停止しているときに、シャフト(62)を回転可能に支持する。タッチダウン軸受(72)は、シャフト(62)の径方向における外側に作用するラジアル荷重を受ける。タッチダウン軸受(72)は、ケーシング(20)の内壁に取り付けられる。
【0044】
タッチダウン軸受(72)は、第1壁部(24)における挿通孔(34)の内周面と、第2壁部(26)における挿通孔(36)の内周面とにそれぞれ設けられる。一方のタッチダウン軸受(72)は、シャフト(62)のインペラ室(28)寄りの部分の外周を囲うように配置される。他方のタッチダウン軸受(72)は、シャフト(62)のスラスト軸受室(30)寄りの部分の外周を囲うように配置される。
【0045】
スラスト軸受(74)は、磁気軸受である。スラスト軸受(74)は、シャフト(62)の円盤部(68)を電磁力により浮かせて、非接触で回転可能に支持する。スラスト軸受(74)は、シャフト(62)の軸方向に作用するスラスト荷重を受ける。スラスト軸受(74)は、ケーシング(20)の内壁に取り付けられる。
【0046】
スラスト軸受(74)は、スラスト軸受室(30)に配置される。スラスト軸受(74)は、一対の電磁石(76)を有する。一対の電磁石(76)はそれぞれ、円環状に形成される。一対の電磁石(76)は、シャフト(62)の円盤部(68)の外周寄りの部分を介して互いに向かい合うように配置される。各電磁石(76)は、円盤部(68)との間に間隔をあけて設けられる。
【0047】
ラジアル軸受(80)は、電動機室(32)においてロータ(64)およびステータ(66)の両側に配置される。ロータ(64)およびステータ(66)は、電動機室(32)を第1空間(32a)と第2空間(32b)とに区画する。第1空間(32a)は、第1壁部(24)側の空間である。第2空間(32b)は、第2壁部(26)側の空間である。第1空間(32a)および第2空間(32b)にはそれぞれ、ラジアル軸受(80)が設けられる。
【0048】
ラジアル軸受(80)は、保持部材(82)に保持される。保持部材(82)は、概ね円板状に形成される。保持部材(82)の外周面は、ケーシング(20)の内壁に固定される。保持部材(82)の中央部分には、筒状部(83)が設けられる。筒状部(83)には、保持部材(82)を貫通する挿通孔(84)が形成される。挿通孔(84)には、シャフト(62)が挿通される。ラジアル軸受(80)は、挿通孔(84)の内側に収容される。
【0049】
ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)を外周で支持する。
図4に示すように、ラジアル軸受(80)は、フォイル軸受である。ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)との間にガス膜(GF)を形成することで、そのガス膜(GF)によりシャフト(62)を浮かせて、非接触で回転可能に支持する。ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)の径方向における外側に作用するラジアル荷重を受ける。ラジアル軸受(80)は、軸受ハウジング(86)と、トップフォイル(88)と、バックフォイル(89)とを備える。
【0050】
軸受ハウジング(86)は、円筒状に形成される。軸受ハウジング(86)は、挿通孔(87)を有する。挿通孔(87)の中央部分には、シャフト(62)が挿通される。挿通孔(87)におけるシャフト(62)の外周には、トップフォイル(88)およびバックフォイル(89)が収容される。バックフォイル(89)は、挿通孔(87)の内周面側に位置する。トップフォイル(88)は、挿通孔(87)の中央側(シャフト(62)側)に位置する。
【0051】
トップフォイル(88)は、円筒状に形成される。トップフォイル(88)の内周面は、シャフト(62)の外周面と対向し、軸受面を構成する。トップフォイル(88)は、金属製の薄板からなり、可撓性を有する。トップフォイル(88)の周方向における一端部は、外周側に折り曲げられて、バックフォイル(89)に接合される。そのことで、トップフォイル(88)は、バックフォイル(89)に固定される。
【0052】
バックフォイル(89)は、円筒状に形成される。バックフォイル(89)は、軸受ハウジング(86)とトップフォイル(88)との間に配置される。バックフォイル(89)は、軸受ハウジング(86)に固定される。バックフォイル(89)は、トップフォイル(88)を弾性的に支持する。バックフォイル(89)は、例えばバンプフォイルである。バックフォイル(89)は、メッシュフォイルであってもよい。
【0053】
トップフォイル(88)とシャフト(62)との間には、所定の隙間(G)が設定される。シャフト(62)が回転すると、トップフォイル(88)の内周面がシャフト(62)との間に隙間(G)を形成し、ガスがトップフォイル(88)とシャフト(62)との間の隙間(G)に引き込まれてガス膜(GF)を生じる。ガス膜(GF)は、シャフト(62)をトップフォイル(88)から浮かせる。それにより、ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)を非接触で支持する。
【0054】
〈インペラ〉
インペラ(90)は、インペラ室(28)に収容される。インペラ(90)には、シャフト(62)の一端部が連結される。インペラ(90)は、概ね円錐形状に形成される。インペラ(90)は、複数のブレードを有する。インペラ(90)の背面(91)には、第1壁部(24)が対向する。インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)との間には、背面隙間(92)が形成される(
図3参照)。背面隙間(92)は、環状に形成される。インペラ(90)はシャフト(62)と共に、回転部(100)を構成する。インペラ(90)は、シャフト(62)と一体に回転し、冷媒を圧送する。
【0055】
インペラ(90)が回転すると、インペラ室(28)に吸入された冷媒が遠心力により圧縮される。インペラ室(28)で圧縮された冷媒は、ディフューザ(42)を経てスクロール流路(44)を流れる。スクロール流路(44)を流れた冷媒は、吐出口(48)から吐出管(52)に吐出される。インペラ室(28)は、インペラ(90)の回転により昇圧される。このとき、インペラ室(28)の気圧は相対的に高圧になり、電動機室(32)の気圧は相対的に低圧になる。
【0056】
インペラ(90)の比速度Nsは、0.1未満に設定される。比速度Nsとしては、無次元数の比速度が用いられる。比速度Nsは、以下の式(1)に基づいて算出される。
【0057】
【0058】
ここで、「N」は、回転数[s-1]である。「G」は、流体質量流量[kg/s]である。「ρ」は、流体密度[kg/m3]である。「gH」は、有効比仕事[J/kg]である。「g」は、重力加速度[m/s2]である。「H」は、ヘッド(揚程)[m]である。
【0059】
図5に示すように、比速度Nsの値は、遠心式、斜流式、軸流式といったインペラ(90)の構造方式によっておおよそ定まっている。また、比速度Nsの値に応じて達成できる効率の値も経験的に知られている。遠心式のインペラ(90)は、斜流式および軸流式のインペラに比べて低い比速度で効率的に有利である。遠心式のインペラ(90)は、比速度Nsが0.1よりも大きい範囲で最も高い効率を発揮する。
【0060】
遠心式のインペラ(90)では、比速度Nsが0.1未満であると、比速度Nsが小さくなるほど効率が下がる。圧縮機(10)を小容量且つ高ヘッドの設計とする場合には、回転数Nを高くすることで、インペラ(90)の比速度Nsを高めることは可能である。しかし、回転数Nを高くするのには、軸共振などの観点から限界がある。このため、本例の圧縮機(10)では、インペラ(90)の比速度Nsを0.1未満に低く設計する。
【0061】
このような低比速度設計のインペラ(90)において、ヘッドHを高くするには、インペラ(90)の直径Dを大きくする必要がある。ヘッドHの高さは、回転数Nとインペラ(90)の直径Dとの積算値に比例する(H∝N×D)。そして、圧縮機(10)が同容量且つ同ヘッドに設計される場合、インペラ(90)の直径Dが大きくなるに従い、インペラ(90)の風損Wは大きくなる。よって、
図6に示すように、圧縮機(10)の機械的損失におけるインペラ(90)の風損Wの割合は、比速度Nsが小さいほど、大きくなる。
【0062】
インペラ(90)の風損Wは、インペラ(90)とガスとの摩擦抵抗による損失である。インペラ(90)の風損Wは、例えば、以下の式(2)で定義される。
【0063】
【0064】
ここで、「C」は、風損係数である。風損係数Cは、インペラ(90)の材料や構造、ガスとの摩擦抵抗などに基づいて決定される。風損係数Cには、設計値、解析値、実測値のいずれを用いてもよい。「ρ」は、流体密度[kg/m3]である。「N」は、回転数[s-1]である。「D」は、インペラ(90)の直径[mm]である。
【0065】
また、圧縮機(10)の漏れ損は、インペラ室(28)からのガスの漏れによる損失である。漏れ損は、ガスの漏れ量に応じて大きくなる。ガスの漏れ量は、インペラ室(28)とその外部との圧力差によって決定される。圧縮機(10)を同ヘッドの設計で小容量化すると、インペラ室(28)とその外部との圧力差は変化せずに主流の質量流量が低下する。このため、漏れ量の割合が大きくなり、圧縮機(10)の漏れ損が増加する。よって、
図7に示すように、圧縮機(10)の機械的損失における漏れ損の割合は、インペラ(90)の比速度Nsが小さいほど、大きくなる。
【0066】
以上のことから、低比速度設計のインペラ(90)を用いる圧縮機(10)では、機械的損失におけるインペラ(90)の風損Wおよび漏れ損の割合が高い。これに対して、本例の圧縮機(10)では、インペラ(90)の風損Wの増大を抑えつつ、回転部(100)と第1壁部(24)との間のシール性を向上させるように、インペラ(90)の背面(91)にある背面隙間(92)が設計される。
【0067】
シャフト(62)の軸方向における背面隙間(92)の幅を軸方向幅sとしたとき、背面隙間(92)は、内周側と外周側とで軸方向幅sが異なる態様を採用する。そのことにより、背面隙間(92)において、インペラ(90)の回転速度が高い外周側では、軸方向幅sを相対的に大きく確保して風損Wを低減し、内周側をシールとして利用する。
【0068】
具体的には、
図3に示すように、第1壁部(24)のインペラ室(28)に臨む面には、凹部(93)が形成される。凹部(93)は、電動機室(32)側に凹んだ環状の溝からなる。凹部(93)は、インペラ(90)の外周側に対応する位置に設けられる。背面隙間(92)において、軸方向幅sは、凹部(93)に対応する箇所と、凹部(93)がない箇所とで異なる。背面隙間(92)には、第1隙間(94)と、第2隙間(96)とが含まれる。第1隙間(94)は、凹部(93)がない箇所の背面隙間(92)である。第2隙間(96)は、凹部(93)に対応する箇所の背面隙間(92)である。
【0069】
第1隙間(94)は、インペラ(90)の内周側に対応する位置に設けられる。第1隙間(94)は、第1壁部(24)において凹部(93)よりも内周側の部分と、インペラ(90)の背面(91)との間に環状に形成される。第1隙間(94)の軸方向幅s1は、背面隙間(92)において相対的に小さい。第1隙間(94)は、アキシャルシール部(95)を構成する。アキシャルシール部(95)は、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)との間を径方向においてシールする。アキシャルシール部(95)はラジアルシール部(40)と共に、圧縮機(10)で扱うガスがインペラ室(28)から電動機室(32)へ第1壁部(24)の挿通孔(34)を通じて漏れるのを抑制する。
【0070】
圧縮機(10)の過渡的な条件下では、シャフト(62)に径方向への力が作用し、インペラ(90)がシャフト(62)と共に径方向へ変位することがある。このとき、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とがシャフト(62)の軸心(X)と直交する方向において対向すると、両者(90,24)が接触するおそれがある。また、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とが接触しなくても、両者(90,24)の間の隙間が狭まるため、インペラ(90)の背面(91)での風損Wが増大する。
【0071】
このことから、第1隙間(94)は、シャフト(62)の軸心(X)と直交する方向、つまり径方向に平面的に広がる。インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とは、第1隙間(94)を介し、軸方向において互いに対向する。このため、圧縮機(10)の過渡的な条件下で、インペラ(90)がシャフト(62)と共に径方向へ変位しても、第1隙間(94)が狭まらず、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とが接触することを避けられる。
【0072】
第2隙間(96)は、インペラ(90)の外周側に対応する位置に設けられる。第2隙間(96)は、インペラ(90)の背面(91)と凹部(93)の底面との間に環状に形成される。第2隙間(96)の軸方向幅s2は、背面隙間(96)において相対的に大きい。つまり、第2隙間(96)の軸方向幅s2は、第1隙間(94)の軸方向幅s1よりも大きい。そして、インペラ(90)の半径をインペラ半径rとしたとき、インペラ半径rに対する背面隙間(92)の軸方向幅sの比(s/r)は、第2隙間(96)で0.008≦s/r≦0.5の関係を満たす。
【0073】
すなわち、インペラ半径rに対する第2隙間(96)の軸方向幅s2の比(s2/r)が、0.008以上且つ0.5以下に設定される。当該比(s2/r)が0.008未満であると、インペラ(90)の風損Wが比較的大きくなる。一方、当該比(s2/r)が0.5よりも大きくても、当該比(s2/r)が0.5以下の場合に比べて、インペラ(90)の風損Wを低減する効果の更なる増大が期待できない。これらのことから、インペラ半径rに対する第2隙間(96)の軸方向幅s2の比(s2/r)は、上記の関係を満たすように設定される。
【0074】
インペラ半径rに対する第2隙間(96)の軸方向幅s2の比(s2/r)は、0.02以上であることが好ましい。このことは、インペラ(90)の風損Wを低減する観点で有利である。同じ観点から、インペラ半径rに対する第2隙間(96)の軸方向幅s2の比(s2/r)は、0.06以上であることがさらに好ましい。さらに、当該比(s2/r)は、0.1以上であることがよりいっそう好ましい。そして、上記の観点から、当該比(s2/r)は、0.125以上であることが望ましい。
【0075】
図8に破線で示すように、水を摩擦対象とした場合について、円板の半径(r)に対する当該円板の軸方向における隙間(s)の比(以下、半径隙間比という)(s/r)と、当該円板を回転させたときの摩擦損失係数との関係(曲線を示す関数)が知られる。円板の摩擦損失係数が高いほど、円板の回転に伴うエネルギー損失が大きい。このような関係は、レイノルズ数Reごとに求められ、
図8に一点鎖線で示すように、レイノルズ数Reが高いほど、円板の摩擦損失係数が最小値をとる半径隙間比が小さくなる傾向を示す。
【0076】
上述した円板の半径隙間比と摩擦損失係数との関係は、以下の先行文献1に記載される。また、当該関係を求めるための試験方法は、以下の先行文献2に記載される。
・先行文献1:Roughness Effects on Frictional Resistance of Enclosed Rotating Disks(Nece, R. E., and Daily, J. W., 1960, ASME J. Basic Eng., 82, pp. 553-560)
・先行文献2:Versuche uber Scheibenreibung(Von Prof. Dr.-Ing. Kurt Pantell, Berlin, Forschung auf dem Gebiete des Ingenieurwesens, Band 16 Dusseldorf 1949/50 Nr. 4)
本願の発明者らは、冷媒ガスを摩擦対象とした場合について、新たに試験を実施することで、円板の半径隙間比(s/r)と摩擦損失係数(風損係数)との関係を求めた。試験としては、円筒状のケーシングに円板を回転自在に収容し、ケーシング内に冷媒ガスを充填した状態で、円板をフリーランで回転させ、回転数の減速具合を計測し、その減速具合から円板の摩擦損失係数(風損係数)を計算する間接計測の方法を実施した。
【0077】
この試験に使用した冷媒ガスは、レイノルズ数Reが107のR32であった。この試験では、円板として直径40mmの円板を用いた。また、円板のフリーランの回転数を55000rpm、75000rpmとし、それら各回転数からの減速具合を計測した。そして、当該試験では、円板とケーシングとの軸方向における隙間(s)を、半径隙間比(s/r)が0.008、0.02、0.125となる3点に調整し、これら3点で円板の摩擦損失係数を求めた。
【0078】
本試験により、円板が冷媒ガス(R32)の中に置かれる環境では、円板の半径隙間比(s/r)が0.008よりも大きいほど、円板の摩擦損失係数が小さい値をとる傾向にあることが分かった。レイノルズ数Reが同じ107の水を摩擦対象とする場合では、円板の半径隙間比(s/r)が0.008付近で摩擦損失係数が最小値をとるが、冷媒ガス(R32)を摩擦対象とする場合では、円板の半径隙間比(s/r)が0.008よりも大きい側、さらには0.125よりも大きい側に、摩擦損失係数の最小値が存在することが判明した。
【0079】
-実施形態の特徴-
この実施形態の圧縮機(10)では、インペラ(90)の比速度Nsが0.1未満に設定される。このような低比速度設計のインペラ(90)は、小容量且つ高ヘッドの性能を実現するのに有利である。そして、この圧縮機(10)では、インペラ半径rに対する背面隙間(92)のうち第2隙間(96)の軸方向幅sの比(s/r)が、第2隙間(96)で0.008以上且つ0.5以下である。そのことで、インペラ(90)の背面(91)が臨む第2隙間(96)をインペラ半径rに応じて適切な軸方向幅sとすることができる。これにより、インペラ(90)の背面(91)での風損Wを低減できる。その結果、低比速度Nsに設計された圧縮機(10)において、圧縮効率を高めることができる。
【0080】
この実施形態の圧縮機(10)では、インペラ(90)の背面(91)の内周側に対応する第1隙間(94)が、アキシャルシール部(95)を構成する。このアキシャルシール部(95)は、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)との間をシールする。それにより、圧縮機(10)で扱うガスが、インペラ(90)の背面側にある背面隙間(92)を通じて、第1壁部(24)に設けられた挿通孔(34)の内周面とシャフト(62)との間から漏れるのを抑制できる。したがって、圧縮機(10)でのガスの漏れによる損失(漏れ損)を低減できる。
【0081】
また、この実施形態の圧縮機(10)では、インペラ(90)の背面(91)の外周側に対応する第2隙間(96)の軸方向幅s2は、第1隙間(94)の軸方向幅s1よりも大きい。そして、第2隙間(96)の軸方向幅s2におけるインペラ半径rに対する比(s2/r)は、0.008以上且つ0.5以下である。インペラ(90)の外周側の方が内周側よりも、回転速度が高く、インペラ(90)の背面(91)での風損Wが大きい。よって、インペラ(90)の背面(91)での風損Wを効果的に低減できる。
【0082】
この実施形態の圧縮機(10)では、第1隙間(94)がシャフト(62)の軸心(X)と直交する方向に平面的に広がる。このような第1隙間(94)を形成するインペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とは、軸方向において互いに対向する。これにより、インペラ(90)がシャフト(62)と共に径方向へ変位しても、インペラ(90)の背面(91)と第1壁部(24)とは接触せず、且つ第1隙間(94)が狭まらずに済む。したがって、圧縮機(10)の信頼性を高め、過渡的な条件下においても、インペラ(90)の背面(91)での風損Wが増加するのを抑制できる。
【0083】
この実施形態の圧縮機(10)では、シャフト(62)を支持するラジアル軸受(80)がフォイル軸受である。そうしたラジアル軸受(80)は、シャフト(62)との間にガス膜(GF)を形成することで、そのガス膜(GF)によりシャフト(62)を浮かせて非接触で回転可能に支持する。当該ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)の回転に伴って生じる摩擦熱およびその軸受(80)の摩耗量を低減するのに有利である。
【0084】
このようにフォイル軸受をラジアル軸受(80)として用いる圧縮機(10)では、過渡的な条件下で生じるシャフト(62)の径方向への変位が比較的大きい。よって、そうした圧縮機(10)においては特に、上述したように、インペラ(90)が径方向へ変位しても第1隙間(94)が狭まるのを避けられるので、第1隙間(94)が径方向に平面的に広がる構成が有効である。
【0085】
この実施形態の圧縮機(10)では、シャフト(62)の最高回転数が30000rpm以上であって比較的高い。圧縮機(10)を所定の比速度Nsとする場合、シャフト(62)の最大回転数が高いほど、圧縮機(10)の容量を小さくするか、またはヘッドを高くできる。よって、シャフト(62)の最高回転数が比較的高いことは、圧縮機(10)に小容量且つ高ヘッドの性能を実現するのに好適である。
【0086】
この実施形態の圧縮機(10)では、インペラ(90)が圧送する冷媒がHFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒である。これらの冷媒は、ガス密度が比較的高い。インペラ(90)の背面(91)での風損Wは、圧縮機(10)で扱う冷媒のガス密度に比例して高くなる。よって、本開示の技術は、HFC冷媒、HFO冷媒、自然冷媒、またはそれらの混合冷媒を扱う圧縮機(10)において有効である。
【0087】
この実施形態の冷凍装置(1)では、上述した圧縮機(10)が冷媒回路(2)に用いられる。このことは、冷凍装置(1)で行われる冷凍サイクルの高効率化に寄与する。
【0088】
-第1変形例-
図9に示すように、この第1変形例の圧縮機(10)では、背面隙間(92)として、第1隙間(94)および第2隙間(96)が2箇所ずつ設けられる。
【0089】
ケーシング(20)の第1壁部(24)には、凹部(93)として、第1凹部(93a)と、第2凹部(93b)とが形成される。第1凹部(93a)および第2凹部(93b)は、径方向に互いに間隔をあけて配置される。第1凹部(93a)は、インペラ(90)の外周端を含む部分に対応する位置に設けられる。第2凹部(93b)は、第1凹部(93a)よりも小径の環状に形成される。第2凹部(93b)は、第1凹部(93a)に対して第1壁部(24)の内周側に設けられる。
【0090】
第1壁部(24)において、第1凹部(93a)と第2凹部(93b)との間には、仕切り部(98)が設けられる。仕切り部(98)は、環状に形成される。仕切り部(98)は、第1凹部(93a)と第2凹部(93b)とを仕切る。インペラ(90)の背面(91)と仕切り部(98)との間の背面隙間(92)の軸方向幅sは、第1壁部(24)の第2凹部(93b)よりも内周側の部分と、インペラ(90)の背面(91)との間の背面隙間(92)の軸方向幅sと同じ幅とされる。
【0091】
第1隙間(94)は、第1壁部(24)の第2凹部(93b)よりも内周側の部分と、インペラ(90)の背面(91)との間に形成される。第1隙間(94)は、インペラ(90)の背面(91)と仕切り部(98)との間にも形成される。第2隙間(96)は、インペラ(90)の背面(91)と、第1凹部(93a)の底面との間に形成される。第2隙間(96)は、インペラ(90)の背面(91)と、第2凹部(93b)の底面との間にも形成される。
【0092】
-第2変形例-
図10に示すように、この第2変形例の圧縮機(10)では、背面隙間(92)として、1つの第1隙間(94)と、2つの第2隙間(96)とが設けられる。
【0093】
ケーシング(20)の第1壁部(24)には、凹部(93)として、第1凹部(93a)と、第2凹部(93b)とが形成される。第1凹部(93a)および第2凹部(93b)は、上記第1変形例と同様に、径方向において仕切り部(98)を隔てて設けられる。第2凹部(93b)は、第1凹部(93a)に対して第1壁部(24)の内周側に設けられる。本例の第2凹部(93b)は、シャフト(62)側に開放される。
【0094】
第1隙間(94)は、インペラ(90)の背面(91)と仕切り部(98)との間に形成される。第2隙間(96)は、インペラ(90)の背面(91)と、第1凹部(93a)の底面との間に形成される。第2隙間(96)は、インペラ(90)の背面(91)と、第2凹部(93b)の底面との間にも形成される。第1隙間(94)が構成するアキシャルシール部(95)は、インペラ(90)の径方向における中程のみに設けられる。
【0095】
-第3変形例-
図11に示すように、この第3変形例の圧縮機(10)では、ラジアル軸受(80)が磁気軸受である。ラジアル軸受(80)は、シャフト(62)を電磁力により浮かせて、非接触で回転可能に支持する。ラジアル軸受(80)は、ロータ(110)と、ステータ(112)とを備える。
【0096】
ロータ(110)は、概ね円筒状に形成される。ロータ(110)には、シャフト(62)が挿通される。ロータ(110)は、シャフト(62)に固定される。ロータ(110)は、シャフト(62)と一体に回転する。ロータ(110)は、例えば強磁性体鋼板が積層されてなる。ステータ(112)は、概ね円筒状に形成される。ステータ(112)は、ロータ(110)と所定の距離をあけて配置される。ステータ(112)は、保持部材(116)に保持される。保持部材(116)は、環状に形成される。保持部材(116)は、ケーシング(20)の内壁に取り付けられる。ステータ(112)は、電磁石(114)を有する。
【0097】
《その他の実施形態》
圧縮機(10)では、背面隙間(92)の一部または全体において、インペラ半径rに対する背面隙間(92)の軸方向幅sの比(s/r)が、0.008≦s/r≦0.5の関係を満たしていればよい。
【0098】
例えば、
図12に示すように、圧縮機(10)では、背面隙間(92)が第2隙間(96)によって構成されてもよい。この場合。ケーシング(20)の第1壁部(24)には、凹部(93)が、インペラ(90)の背面(91)に対応する部分の全域に亘って形成される。本例の凹部(93)は、シャフト(62)側に開放される。インペラ半径rに対する背面隙間(92)の軸方向幅sの比は、背面隙間(92)の全域において0.008≦s/r≦0.5の関係を満たす。インペラ(90)の背面側には、アキシャルシール部(95)が設けられない。
【0099】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本開示は、遠心式圧縮機および冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0101】
1 冷凍装置
2 冷媒回路
10 圧縮機(遠心式圧縮機)
20 ケーシング
24 第1壁部(壁部)
24 挿通孔
62 シャフト
80 ラジアル軸受
90 インペラ
91 背面
92 背面隙間
94 第1隙間
95 アキシャルシール部(シール部)
96 第2隙間