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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20231130BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231130BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20231130BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20231130BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20231130BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20231130BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20231130BHJP
   B60W 50/035 20120101ALI20231130BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G08G1/16 C
G08G1/16 F
B60W30/14
B60W50/14
B60W40/08
B60W40/04
B60W30/10
B60W50/035
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019175866
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021051697
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144720(JP,A)
【文献】特開2019-084885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/09
G08G 1/16
B60W 30/14
B60W 50/14
B60W 40/08
B60W 40/04
B60W 30/10
B60W 50/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
自車線に先行他車がいない場合は設定車速を維持し、先行他車がいる場合は設定車間距離を維持して車線内自動走行を行う機能と、
隣接車線の自車前方および後方に自車速度に応じて設定される前方所定距離と後方所定距離の間の所定領域に他車がいない場合に隣接車線への自動車線変更を行う機能と、
前記各機能の作動中にシステム障害が発生した場合に、該機能の停止と操作引継要求を運転者に通知する機能と、
前記通知時に運転者が操作引継できない場合に車両を路肩に退避させる機能と、
を有するものにおいて、
前記退避させる機能の作動時に車両が路肩に隣接した第1車線にない場合は、前記設定車間距離または前記設定車速を維持した車線内走行から前記第1車線への車線変更が実行され、かつ、それに先立ち、前記第1車線への前記車線変更の可否判定基準となる前記所定領域が、前記前方所定距離と前記後方所定距離が短縮されて前記所定領域よりも狭い第2の所定領域に変更されるように構成されていることを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記第1車線への前記車線変更後に、前記設定車速が、それより小さい退避速度に変更され、前記第1車線内走行しながら前記退避速度まで減速されるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記退避させる機能の作動中は、該機能を停止するブレーキオーバーライドの判定基準となる閾値が、前記退避させる機能の非作動時よりも大きい値に変更されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記退避させる機能の作動中は、該機能を停止する操舵オーバーライドの判定基準となる閾値が、前記退避させる機能の非作動時よりも大きい値に変更されるように構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関し、さらに詳しくは、車線内部分的自動走行システムまたは部分的自動車線変更システムの障害発生時に運転者が操作引継できない場合の緊急退避、ミニマルリスクマニューバに関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の負担軽減、安全運転支援を目的とした種々の技術、例えば、車間距離制御システム(ACCS:Adaptive Cruise Control System)、車線維持支援システム(LKA:Lane Keeping Assistance System)などが実用化され、さらに、これらをベースにした「車線内部分的自動走行システム(PADS:Partially Automated in-lane Driving System)」や「部分的自動車線変更システム(PALS:Partially Automated Lane Change System)」の実用化や国際規格化が進められている。
【0003】
このような走行制御システムは、システムに障害が発生した場合や車両の走行条件がシステム限界を逸脱した場合には、運転者に操作引継要求が通知され、運転者による手動運転に移行するが、運転者の居眠りや注意散漫、疾病等により、運転者への操作引継がなされない場合は、緊急退避などのミニマルリスクマニューバ(MRM:Minimal Risk Maneuver)に移行するようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、自動運転に用いる周辺監視センサの不具合, 精度低下などによる非計画的な手動運転への運転交代時に、ドライバステイタスモニタに検知される運転者の状態に合わせて運転交代の態様を切り替えること、操作引継要求をせずに即時停車させることが開示されている。
【0005】
しかしながら、操作引継要求を通知せずに即時停車や自動退避などに移行すると、車速の急低下や自動退避のための車両挙動に覚醒し慌てた運転者の過度のオーバーライドにより、車両の挙動が不安定になったり、後続車両に急接近したりする虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-180594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、車線内部分的自動走行システムや部分的自動車線変更システムの障害発生時に運転者が操作引継できない場合の緊急退避を円滑かつ迅速に実行できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
自車線に先行他車がいない場合は設定車速を維持し、先行他車がいる場合は設定車間距離を維持して車線内自動走行を行う機能と、
隣接車線の自車前方および後方に自車速度に応じて設定される前方所定距離と後方所定距離の間の所定領域に他車がいない場合に隣接車線への自動車線変更を行う機能と、
前記各機能の作動中にシステム障害が発生した場合に、該機能の停止と操作引継要求を運転者に通知する機能と、
前記通知時に運転者が操作引継できない場合に車両を路肩に退避させる機能と、
を有するものにおいて、
前記退避させる機能の作動時に車両が路肩に隣接した第1車線にない場合は、前記設定車間距離または前記設定車速を維持した車線内走行から前記第1車線への車線変更が実行され、かつ、それに先立ち、前記第1車線への前記車線変更の可否判定基準となる前記所定領域が、前記前方所定距離と前記後方所定距離が短縮されて前記所定領域よりも狭い第2の所定領域に変更されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両の走行制御装置は、上記のように、退避機能作動時に車両が路肩に隣接した第1車線にない場合は、設定車間距離(を維持する車速)または設定車速を維持した車線内走行から第1車線への車線変更が実行されるので、車速の急低下に伴う後続車両との急接近が防止されるとともに、車速が維持されることで、直ちに減速する場合に比べて交通流に沿って速やかな車線変更が可能となる。
しかも、第1車線への車線変更に先立ち、車線変更の可否判定基準となる所定領域が、通常時よりも狭い第2の所定領域に変更されることで、第1車線への車線変更の機会が増加し車線変更に移行し易くなり、第2、第3車線を走行する時間が短縮され、結果的に速やかな減速停止が見込める。
また、車速の急低下が抑制され、それに慌てた運転者の過剰なオーバーライドにより、車両の挙動が不安定になったり、後続車両に急接近したりするのが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の走行制御システムを示す概略図である。
図2】車両の外界センサ群を示す概略的な平面図である。
図3】車両の走行制御システムを示すブロック図である。
図4】自動車線変更システム障害時の制御を示すフローチャートである。
図5】本発明実施形態の緊急退避制御を示すフローチャートである。
図6】緊急退避制御の概要を示す模式的な平面図である。
図7】(a)緊急退避制御における走行車線判定、(b)車線内走行~第1車線への車線変更を例示する概略平面図である。
図8】(a)緊急退避制御における車線変更可否判定基準変更、(b)車線変更可否判定基準変更後の第1車線への自動車線変更を例示する概略平面図である。
図9】(a)第1車線への自動車線変更~路肩退避、(b)第1車線への自動車線変更時の過剰オーバーライド防止制御を例示する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明に係る走行制御システムを備えた車両1は、エンジンや車体など一般的な自動車の構成要素に加え、従来運転者が行っていた認知・判断・操作を車両側で行うために、車両周囲環境を検知する外界センサ21、車両情報を検知する内界センサ22、速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群、車間距離制御のためのACCコントローラ14、車線維持支援制御のためのLKAコントローラ15、および、それらを統括して車線内部分的自動走行(PADS)や自動車線変更(PALS)を実施するための自動運転コントローラ10を備えている。
【0012】
速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群は、操舵制御のためのEPS(電動パワーステアリング)コントローラ31、加減速度制御のためのエンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33を含む。ESP(登録商標;エレクトロニックスタビリティプログラム)はABS(アンチロックブレーキシステム)を包括してスタビリティコントロールシステム(車両挙動安定化制御システム)を構成する。
【0013】
外界センサ21は、自車線および隣接車線を画定する道路上の区分線、自車周辺にある他車両や障害物、人物などの存在と相対距離を画像データや点群データとして自動運転コントローラ10に入力するための複数の検知手段からなる。
【0014】
例えば、図2に示すように、車両1は、前方検知手段211,212としてミリ波レーダ(211)およびカメラ(212)、前側方検知手段213および後側方検知手段214としてLIDAR(レーザ画像検出/測距)、後方検知手段215としてカメラ(バックカメラ)を備え、自車両周囲360度をカバーし、それぞれ自車前後左右方向所定範囲内の車両や障害物等の位置と距離、自車線および隣接車線の区分線位置を検知できるようにしている。
【0015】
内界センサ22は、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサなど、車両の運動状態を表す物理量を計測する複数の検知手段からなり、図3に示すように、それぞれの測定値は、自動運転コントローラ10、ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、および、EPSコントローラ31に入力され、外界センサ21からの入力とともに演算処理される。
【0016】
自動運転コントローラ10は、環境状態推定部11、経路生成部12、および、車両制御部13を含み、以下に記載されるような機能を実施するためのコンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成されている。
【0017】
環境状態推定部11は、GPS等の測位手段24による自車位置情報と地図情報23とのマッチングにより自車の絶対位置を取得し、外界センサ21に取得される画像データや点群データなどの外界データに基づいて自車線および隣接車線の区分線位置、他車位置および速度を推定する。また、内界センサ22に計測される内界データより自車の運動状態を取得する。
【0018】
経路生成部12は、環境状態推定部11で推定された自車位置から到達目標までの目標経路を生成する。また、環境状態推定部11で推定された隣接車線の区分線位置、他車位置および速度、自車の運動状態に基づいて、車線変更における自車位置から到達目標地点までの目標経路を生成する。
【0019】
車両制御部13は、経路生成部12で生成された目標経路に基づいて目標車速および目標舵角を算出し、定速走行または車間距離維持・追従走行のための速度指令をACCコントローラ14に送信し、経路追従のための操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に送信する。
【0020】
なお、車速は、EPSコントローラ31およびACCコントローラ14にも入力される。車速により操舵反力が変わるため、EPSコントローラ31は、車速毎の操舵角-操舵トルクマップを参照して操舵機構41にトルク指令を送信する。エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、EPSコントローラ31により、エンジン42、ブレーキ43、操舵機構41を制御することで、車両1の縦方向および横方向の運動が制御される。
【0021】
(車線内部分的自動走行システムの概要)
次に、車線内部分的自動走行システム(PADS)による車線内部分的自動走行(PADS走行)は、自動運転コントローラ10とともにACCSを構成するACCコントローラ14およびLKASを構成するLKAコントローラ15が共に作動している状態で実行可能となる。
【0022】
車線内部分的自動走行システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(車線、自車位置、自車走行車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、単一車線内目標経路および目標車速を生成する。
【0023】
自動運転コントローラ10(車両制御部13)は、自車位置と自車の運動特性、すなわち、車速Vで走行中に操舵機構41に操舵トルクTが与えられた時に生じる前輪舵角δによって、車両運動により生じるヨーレートγと横加速度(dy/dt)の関係から、Δt秒後の車両の速度・姿勢・横変位を推定し、Δt秒後に横変位がytとなるような操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に与え、Δt秒後に速度Vtとなるような速度指令をACCコントローラ14に与える。
【0024】
ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、および、ESP/ABSコントローラ33は、自動操舵とは無関係に独立して作動するが、車線内部分的自動走行機能(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)の作動中は、自動運転コントローラ10からの指令入力でも作動可能になっている。
【0025】
ACCコントローラ14からの減速指令を受けたESP/ABSコントローラ33は、アクチュエータに油圧指令を出し、ブレーキ43の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ14からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ32は、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン42にトルク指令を与え、駆動力を制御することで車速を制御する。
【0026】
ACC機能(ACCS)は、外界センサ21を構成する前方検知手段211としてのミリ波レーダ、ACCコントローラ14、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33等のハードウエアとソフトウエアの組合せで機能する。
【0027】
すなわち、先行車がいない場合は、ACCセット速度(設定速度)を目標車速として定速走行し、先行車に追いついた場合(先行車速度がACCセット速度以下の場合)には、先行車の速度に合わせて、設定されたタイムギャップ(車間時間=車間距離/自車速)に応じた車間距離(設定車間距離)を維持しながら先行車に追従走行する。
【0028】
LKA機能(LKAS)は、外界センサ21(カメラ212,215)に取得される画像データに基づき、自動運転コントローラ10の環境状態推定部11で車線区分線と自車位置を検知し、車線中央を走行できるように、LKAコントローラ15を介してEPSコントローラ31により操舵制御を行う。
【0029】
すなわち、LKAコントローラ15からの操舵角指令を受けたEPSコントローラ31は、車速-操舵角-操舵トルクのマップを参照して、アクチュエータ(EPSモータ)にトルク指令を出し、操舵機構41が目標とする前輪舵角を与える。
【0030】
車線内部分的自動走行機能(PADS)は、以上述べたようなACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ15による横方向制御(操舵制御、車線維持走行制御)を組み合わせることにより実施される。
【0031】
(部分的自動車線変更システムの概要)
次に、中央分離帯のある片側二車線以上の高速道路で車線内部分的自動走行(PADS走行)している状態からの車線変更を想定して、部分的自動車線変更システム(PALS)の概要を説明する。
【0032】
部分的自動車線変更システム(PALS)は、システムの判断により、あるいは、運転者の指示または承認によって、システムが自動的に車線変更(レーンチェンジ)を行うものであり、自動運転コントローラ10による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)と横方向制御(自動操舵による目標経路追従制御)を組み合わせることにより実施される。
【0033】
部分的自動車線変更システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(自車線および隣接車線の車線区分線、自車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、現在走行中の車線から隣接車線に車線変更するための目標経路を常時生成している。
【0034】
この自動車線変更目標経路は、現在走行中の車線から車線変更して隣接車線中央を走行する状態に至る経路であり、隣接車線を走行する他車両については、それぞれの未来位置および速度の予測がなされ、自車速度に応じて設定される隣接車線の前方所定領域ZF、後方所定領域ZR、および、側方所定領域ZL内に、他車両が存在しないと判断され状況下で、システムの判断により自動操舵による自動車線変更を実行する。
【0035】
前方所定領域ZF、後方所定領域ZRは、自車前方および後方で他車との間に確保されるべき車間距離、すなわち、前方所定距離XF、後方所定距離XRに対応しており、それぞれ、下式のように求められる。
【0036】
前方所定距離(XF)=車間距離(S)+車頭時間(TH)×自車速(V)
但し、車間距離(S)=自車速(V)×車間時間(TG)
車頭時間(TH)=車頭距離/V=TTC×ΔV/V
TTC=ΔV/自車最大減速度(Dmax
ΔV=V-Vf、Vfは前方車速
【0037】
後方所定距離(XR)=車頭時間(TH)×後方車速(Vr)
但し、車頭時間(TH)=車頭距離/V=TTC×ΔV/V
TTC=ΔV/後方車減速度(Dr)
ΔV=Vr-V、Vrは後方車速
【0038】
上記から明らかなように、前方所定距離(XF)、後方所定距離(XR)は、自車両、前方車両、後方車両のそれぞれの車速V,VF,Vrにより変動するため、それぞれについて、自車速(V)・相対速度(ΔV)毎の計算値を格納したルックアップテープルが用意され、参照処理によって対応する値が適用されるようになっている。
【0039】
前方所定領域ZFは、縦方向:前方所定距離XF×横方向:走行中の車線幅+隣接車線幅で画定される領域であり、後方所定領域ZRは、縦方向:後方所定距離XR×横方向:走行中の車繍幅+隣接車線幅で画定される領域である。また、側方所定領域ZLは、縦方向:車長×横方向:隣接車線幅で画定される領域である。
【0040】
(自動車線変更中における車線変更継続可否判定)
上述したように、自車周囲環境および目標経路が確認され、自動車線変更可能フラグが立った状態で、システムの判断(または運転者の承認)により、自動車線変更が実行されるが、ウインカ点滅後に車線変更を開始し隣接車線に移動するまでの間に、他車両の挙動により周囲環境が変化する可能性もある。
【0041】
そこで、自動車線変更中においても、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報により、自車周囲の監視が継続されており、前方所定領域ZF、後方所定領域ZR、または、側方所定領域ZLへの他車の侵入(割込み)が確認された場合、自動運転コントローラ10は、車線変更中の自車位置に基づき、車線変更継続または中止の判定を行う。
【0042】
車線変更を継続不可能と判定され、車線変更を中止する場合、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、車線変更開始前に走行していた車線(元車線)の中心線に追従目標を変更して目標経路・車速を再生成し、車両制御部13は、再生成した目標経路に車両を追従させるべく、舵角指令をEPSコントローラ31に、速度指令をACCコントローラ14に与え、自動操舵により元車線に戻る(自動車線復帰機能)。
【0043】
前方所定領域ZF、後方所定領域ZR、または、側方所定領域ZLへの他車の侵入(割込み)が確認された場合でも、自車両が殆ど隣接車線に移動しているような場合、例えば4つの車輪のうち、3つ以上が区分線を越えて隣接車線に入っている場合には、車線変更は中止せず、車線変更を継続する。
【0044】
一方、車線変更の継続が困難と判断された場合には、操作引継要求を通知し、自動車線変更を中止して運転者に権限委譲する。運転者が引継した場合は手動運転に移行するが、運転車が引継できなかった場合には、ミニマルリスクマニューバ(MRM)が作動する。
【0045】
ミニマルリスクマニューバ(MRM)は、システムに障害などが発生した場合に、自動的に最小リスク条件(minimal risk condition)に移行することを指し、具体的には、自動操舵と制動による路肩等への退避および減速停止する制御を実行する。なお、MRM作動中であっても、運転者のブレーキ操作または操舵操作がなされた場合には、オーバーライドし手動運転に移行する。
【0046】
(システム障害発生後、操作引継不履行時のミニマルリスクマニューバ)
部分的自動車線変更システム(PALS)では、システムを構成する一部のセンサ異常等何らかのシステム障害が発生した場合は、設計通りの自動車線変更を実行できない可能性があるため、このようなケースでも、運転者に操作引継要求(テークオーバーリクエスト)を通知して権限委譲するが、運転者が引継できなかった場合には、ミニマルリスクマニューバ(MRM)が作動する。
【0047】
先述したように、外界センサ21は複数のセンサで構成されており、自動運転コントローラ10は、何れかのセンサや検知手段に異常が発生した場合には、他のセンサや検知手段によりミニマルリスクマニューバ(MRM)を実行できるように冗長設計がなされている。
【0048】
図6は、片側3車線の高速道路の第3車線53を走行中の車両1にMRMが作動した場合における車両の動き(1a~1f)を示している。基本的にMRMは、車線内走行(62,64,66)、車線変更(63,65)、路肩退避(67)、減速・停止(68)の4つの機能から構成され、片側2車線以上の道路で第1車線51以外の車線を走行中に、MRMにより路肩退避する場合、車線内走行から、最低1回の隣接車線への車線変更と路肩退避(道路端への移動)、減速・停止が必要となる。
【0049】
したがって、図6に示すように、第3車線53を走行中の車両1(1a)において運転者引継不可(60)となりMRM作動(61)する場合、2回の車線変更(63,65)と車線内走行(64,66)を経て路肩退避(67)し、減速・停止(68)する制御を要する。しかし、既に述べたように、以下のような課題があった。
【0050】
(ミニマルリスクマニューバの課題)
例えば、図7(a)に示す状況で、第2車線52を走行中の車両1にMRMが作動した場合、先ず、走行車線判定が実施され、車線内走行から第1車線51への車線変更に移行するが、後続車両4がある場合、車線内走行中に直ちに減速制御(例えば設定速度80km/hから50km/h)に移行すると、後続車両4が急接近する虞がある。
【0051】
また、MRMによる車線変更は、他車両が前方所定領域ZFおよび後方所定領域ZRにない場合に実行可能であり、例えば、隣接する第1車線51の後続車両5がある場合、この後続車両5が接近し、後方所定領域ZRに侵入するので、第1車線51への車線変更を実行できず、交通流に沿った車線変更ができなくなり、MRM完了までの所要時間が長くなる虞がある。
【0052】
さらに、先述の通り、MRM作動中であっても、運転者のブレーキ操作または操舵操作がなされた場合には、オーバーライドし手動運転に移行するが、居眠りや注意散漫、疾病等により引継できなかった運転者が、MRM作動後の減速制御や車線変更に伴う車両挙動等により覚醒し、自車の状況に慌てて、図9(a)に示すように、過度のブレーキ操作(OB)でオーバーライドした場合、車両1′の急減速により、後続車両4、5が急接近するなどの問題を惹起する虞がある。
【0053】
また、上記同様に引継できなかった運転者が、MRM作動後の減速制御や車線変更に伴う車両挙動等により覚醒し、自車の状況に慌てて、図9(a)に示すように、過度の左操舵(OL)や右操舵(OR)でオーバーライドした場合、車線逸脱や後続車両4、5との急接近などの問題を惹起する虞がある。
【0054】
(改良された操作引継不履行時のミニマルリスクマニューバ)
そこで、本発明に係る自動運転コントローラ10は、以下のような制御を含んでミニマルリスクマニューバ(MRM)を実行する。
【0055】
(1)速度制御(縦方向制御)
自車が第1車線以外の車線を走行中の場合、MRM作動後、第1車線に移動するまではACC走行を継続する。すなわち、先行車両がある場合は、設定車間距離(車間時間)を維持して先行車両に追従走行し、先行車両がない場合は、設定速度(ACCセット速度)を維持して走行しながら、車線変更を実施して第1車線51まで移動した後、設定速度(ACCセット速度)を低速度、例えば、高速道路の最低速度(50km/h)に変更し、この速度まで減速してから路肩50に退避し、減速停車する。
【0056】
(2)車線変更可否判定基準となる前方および後方所定距離変更
車線変更可否判定基準となる所定領域を、通常時の所定領域(前方所定距離XF、後方所定距離XR)よりも狭いMRM作動時の所定領域(前方所定距離XF′、後方所定距離XR′)に変更し、車線変更可能条件を緩和する。
【0057】
MRM作動時の車線変更可否判定に適用される所定領域(前方所定距離XF′、後方所定距離XR′)は、先述した通常時の所定領域(前方所定距離XF、後方所定距離XR)に対して、例えば、以下のように設定される。
【0058】
前方所定距離(XF')=最小車間距離(S0)+車頭時間(TH)×自車速(V)
但し、最小車間距離(S0)=自車速(V)×車間時間(TG')
車間時間(TG')=最小車間時間(TGmin)、または、TG>TG'>TGmin
【0059】
後方所定距離(XR')=車頭時間(TH')×後方車速(Vr)
但し、車頭時間(TH')=車頭距離/V=TTC'×ΔV/V
TTC'=ΔV/後方車最大減速度(Drmax)、
または、TTC'=ΔV/後方車減速度(Dr')、Dr<Dr'<Drmax
【0060】
すなわち、MRM作動時の所定領域(前方所定距離XF′、後方所定距離XR′)は、通常時の所定領域(前方所定距離XF、後方所定距離XR)よりそれぞれ小さく、かつ、最小の所定領域(最小前方所定距離、最小後方所定距離)と同じかまたはそれより大きい値から選定される。
【0061】
なお、MRM作動時の所定領域を確定する前方所定距離XF′、後方所定距離XR′も、自車、前方車両、後方車両のそれぞれの車速V,VF,Vrにより変動するため、それぞれについて、自車速(V)・相対速度(ΔV)毎の計算値を格納した特定区間用のルックアップテープルが用意され、参照処理によって対応する値が適用される。
【0062】
(3)ブレーキオーバーライド閾値変更
ブレーキオーバーライド閾値(運転者操作量)を通常時よりも大きな値に変更する。すなわち、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdは、ACC設定速度(ACCセット速度または先行車追従速度)またはACC設定加速度に対して減速となるESP油圧指令値(運転者操作量)で与えられるが、これに対して、MRM作動時のブレーキオーバーライド閾値Peを、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdより大きな値(例えば、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdの120%~250%)に変更する。
【0063】
例えば、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdを、ACC設定速度に対して速度2km/h相当の減速となるESP油圧指令値またはACC設定加速度に対して0.2m/s相当の減速度となるESP油圧指令値とすると、MRM作動時のブレーキオーバーライド閾値Peは、ACC設定速度に対して速度4km/h相当の減速となるESP油圧指令値、または、ACC設定加速度に対して0.4m/s相当の減速度となるESP油圧指令値となる。
【0064】
MRM作動時に運転者のブレーキ操作が検出された場合、運転者のブレーキ操作量とオーバーライド閾値Peが比較され、オーバーライド量<閾値Peの場合にはオーバーライドせず、オーバーライド量≧閾値Peの場合には手動運転に移行し、運転者のブレーキ操作で制動する。
【0065】
(4)操舵オーバーライド閾値変更
操舵オーバーライド閾値(運転者操舵トルク)を通常時よりも大きな値に変更する。すなわち、通常時の操舵オーバーライド閾値は、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位y′tがyt+α(但し、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角に相当する操舵トルク(車速-操舵角-操舵トルクマップから算出した操舵トルク)が操舵オーバーライド閾値OTdとして設定され、これに対して、MRM作動時の操舵オーバーライド閾値は、仮想横変位y″t(=yt十β、但しβ>α)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が操舵オーバーライド閾値OTeとして設定される。
【0066】
MRM作動時に手動操舵が検出された場合、運転者の手動操舵による操舵トルクとオーバーライド閾値OTeが比較され、操舵トルク<閾値OTeの場合はオーバーライドせず、操舵トルク≧閾値の場合にはオーバーライドされ、運転者の操舵トルクで操舵される。なお、MRMによる車線変更中は、第1車線51または路肩50側に向かう左方向の操舵指令が出されているので、左方向に切り増しする順操舵と、左方向への操舵角を減少させる逆操舵の場合でオーバーライド閾値OTeを異なる値にすることもできる。また、操舵トルクだけでなく、速度毎の操舵速度・舵角に閾値を設定してもよい。
【0067】
(システム障害発生時の操作引継および引継不履行時のMRM動作フロー)
次に、高速道路での自動車線変更中にシステム障害が発生した場合の運転引継フロー(図4)および引継不履行時のMRM動作フロー(図5)について説明する。
【0068】
(1)自動車線変更(PALS走行)
図4において、片側3車線以上の高速道路で車線内部分的自動走行システムによるPADS(ACCS・LKAS)走行中に、隣接車線の前方領域ZF、後方領域ZR、および、側方領域ZL内に、他車両が存在しないと判断されている状況(自動車線変更可能フラグON)では、システム判断により当該隣接車線中央を目標位置として自動車線変更が実行される(ステップ100)。
【0069】
(2)システム障害判定
車線内自動走行(PADS:ACCS・LKAS)および自動車線変更(PALS)の作動中、自動運転コントローラ10は、外界センサ21、内界センサ22、各コントローラ(14,15,31~33)、ブレーキ43・エンジン42・操舵機構41等の故障や障害の有無を常時判定している(ステップ101)。
【0070】
(3)システム障害フラグ
ステップ101において、システム障害発生と判定された場合、システム障害フラグが立てられ、ヘッドアップディスプレイやメーターパネル内の情報表示部や音声によって、自動車線変更機能停止と操作権限移譲(操作引継要求、テークオーバーリクエスト)が運転者に通知される(ステップ102)。これと同時に権限移譲通知後の経過時間t1(例えば10秒)のカウントが開始される(ステップ103)。
【0071】
(4)運転者引継判定
権限移譲通知を受けた運転者が操作引継を行ったか否かが判定される(ステップ104)。すなわち、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdより大きいESP油圧指令値となるブレーキ操作がなされるか、通常時の操舵オーバーライド閾値OTdより大きい操舵トルクとなる操舵がなされたか否かが判定され、運転者が引継したと判定された場合には、運転者操作による手動走行に移行する(ステップ108)。
【0072】
(5)警報発報
一方、権限委譲通知後の経過時間t1(例えば10秒)内に引継がなされなかった場合には、警報を発報する(ステップ105)。音声による警報だけでなく、ヘッドアップディスプレイ、メーターパネル内の情報表示部における点滅などによる注意喚起も併用される。これと同時に警報発砲後の経過時間t2(例えば4秒)のカウントが開始される(ステップ106)。
【0073】
(6)運転者引継判定
警報発報を受けた運転者が操作引継を行ったか否かが判定される(ステップ107)。権限移譲通知時と同様に、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdより大きいESP油圧指令値となるブレーキ操作がなされるか、通常時の操舵オーバーライド閾値OTdより大きい操舵トルクとなる操舵がなされたか否かが再度判定され、運転者が引継したと判定された場合には、運転者操作による手動走行に移行する(ステップ108)。
【0074】
(7)MRM作動
一方、警報発砲後の経過時間t2(例えば4秒)内に引継がなされなかった場合には、運転者引継なしと判定され、MRMが作動する(ステップ110)。
【0075】
(8)車線変更判定基準値およびオーバーライド判定基準値の変更
図5に示すように、MRMが作動すると、車線変更判定基準値およびオーバーライド判定基準値が、通常値からMRM値に変更される。すなわち、
(8-1)
車線変更判定基準となる前方および後方所定距離(所定領域)が、通常時の所定領域ZF,ZR(前方所定距離XF,後方所定距離XR)から、それよりも狭いMRM作動時の所定領域ZF′,ZR′(前方所定距離XF′,後方所定距離XR′)に変更される(ステップ111)。
(8-2)
ブレーキオーバーライド閾値(運転者ブレーキ操作量/ESPブレーキ油圧)が、通常時のブレーキオーバーライド閾値Pdから、MRM作動時のブレーキオーバーライド閾値Pe(Pe>Pd)に変更される(ステップ112)。
(8-3)
操舵オーバーライド閾値(運転者操舵トルク)が、通常時の操舵オーバーライド閾値OTdから、MRM作動時の操舵オーバーライド閾値OTe(OTe>OTd)に変更される(ステップ112)。
【0076】
(9)オーバーライド判定
MRM作動中は常時オーバーライド判定が行われている(ステップ113)。
運転者のブレーキ操作によるブレーキ油圧>ブレーキオーバーライド閾値Peの場合、または、運転者の操舵トルク>操舵オーバーライド閾値OTeの場合は、即時オーバーライドして手動走行となる(ステップ120)。
【0077】
運転者のブレーキ操作によるブレーキ油圧がブレーキオーバーライド閾値Pe以下、運転者の操舵トルクが操舵オーバーライド閾値OTe以下の場合は、オーバーライドせず、MRMが継続される。
【0078】
(10)車線位置判定
自車が走行中の車線位置が、路肩50に隣接した第1走行車線51であるか否かが判定される(ステップ114)。すなわち、環境状態推定部11は、測位手段24による自車位置情報と地図情報23とのマッチング、外界センサ21に取得されるデータに基づいて隣接車線の有無や車線区分線の種類等から自車が走行中の車線が第1車線であるか否かを判定する。
【0079】
(11)車線変更フロー
自車が第1走行車線以外(52,53)を走行している場合には、第1走行車線51への車線変更が必要になるため、以下のように車線変更フローを実行する。
【0080】
(11-1)車線変更可否判定
ステップ111で変更された左前方所定領域ZF′(前方所定距離XF′)内または左後方所定領域ZR′(後方所定距離XR′)に他車両が存在するか否かを判定基準として、左車線変更可否を判定する(ステップ115)。車線変更不可の場合には、自車線内でACC走行を継続する。
【0081】
(11-2)車線変更実行
車線変更可の場合には、車線変更可能フラグを立て(ステップ116)、同時に左ウインカの点滅が開始される(ステップ117)。ウインカ点滅時間t3(例えば3秒)がカウントされ(ステップ118)、ウインカ点滅時間t3経過後、自動車線変更機能による左車線変更が実行される(ステップ119)。
【0082】
(12)路肩移動フロー
ステップ113で、自車が第1走行車線51を走行していると判定された場合は、路肩移動フローに移行する。
【0083】
(12-1)路肩有無判定
自車が第1車線51を走行していると判定された場合、路肩50における退避スペース有無を判定する(ステップ121)。すなわち、環境状態推定部11は、測位手段24による自車位置情報と地図情報23とのマッチング、外界センサ21に取得される画像データや点群データに基づく自車の左方車線区分線左エリアのセンシングにより路肩有無判定を行う。
【0084】
(12-2)ACCセット速度変更
路肩50に退避可能と判定された場合、路肩退避準備のため、ACCセット速度が低速度、例えば高速道路の最低速度(50km/h)に変更され、減速が開始される(ステップ122)。この際、外向きHMI等によりMRMによる減速中であることを周囲車両に知らせることが望ましい。
【0085】
(12-3)路肩移動可否判定
路肩50の障害物有無をセンシングして路肩移動の可否を判定し(ステップ123)、移動可能と判定された場合は、路肩移動可能フラグを立てる(ステップ124)。
【0086】
(12-4)左ウインカ点滅
路肩移動可能フラグと同時に左ウインカの点滅が開始され(ステップ125)、ウインカ点滅時間t4(例えば3秒)がカウントされる(ステップ126)。
【0087】
(12-5)路肩移動
ウインカ点滅時間t4経過後、自動操舵機能により路肩50への移動が実行され(ステップ127)、路肩移動完了後、目標車速が0km/hに変更され、減速・停止され(ステップ128)、停止後にハザードランプを点滅させる(ステップ129)。
【0088】
(13)MRM完了
車速ゼロ、ハザードランプ点滅をもってMRM完了となる(ステップ130)。
【0089】
以上の実施例では高速道路の本線直線区間を想定しているが、走行する道路の形態、最高速度、最低速度等に応じたオーバーライド閾値を設定、選択可能にしてもよい。
また、MRM作動時に後続車両がない場合には、自車位置が第2車線52や第3車線53であっても、ACCセット速度を低速度に設定にして減速を開始してもよい。
【0090】
(作用と効果)
以上詳述したように、本発明に係る車両の走行制御装置は、部分的自動車線変更システム(PALS)を搭載する車両において、システム障害発生時に、運転者の居眠り・疾病、注意散漫等により運転者への引継できずにMRMに移行した際に、
(i)車両が路肩に隣接した第1車線にない場合は、設定車間距離(を維持する車速)または設定車速を維持するACC走行が継続され、車速が維持されることで、交通流に沿って速やかな車線変更が可能であり、かつ、
(ii)車線変更の可否判定基準となる所定領域が、通常時よりも狭い第2の所定領域(ZF′,ZR′)に変更されることで、第1車線への車線変更の機会が増加し車線変更に移行し易くなり、第2、第3車線を走行する時間が短縮され、結果的に速やかな減速停止が見込める。
また、上記(i)により、車速の急低下が抑制され、それに慌てた運転者の過剰なオーバーライドにより、車両の挙動が不安定になったり、後続車両に急接近したりするのが防止され、しかも、
(iii)オーバーライド閾値の変更により、MRM作動中に覚醒した運転者の過剰なオーバーライド自体が抑制され、過剰なオーバーライドによる急減速や急操舵、車両の挙動が不安定、他車両との急接近が防止される利点がある。
【0091】
例えば、図7(a)に示すように、車両1が第2車線52を走行中にMRMが作動した場合に、後続車両4,5があるものの、ACC走行が継続されることで、減速による後続車両4,5との接近、減速による後方所定領域ZRの伸長が抑制され、図7(b)に示すように、第1車線51への車線変更を速やかに実行できる。
【0092】
しかも、図8(a)に示すように、MRM作動時に、車線変更の可否判定基準となる所定領域が、通常時よりも狭い所定領域ZF′,ZR′(前方所定距離XF′、後方所定距離XR′)に変更され、車線変更可能条件が緩和されていることにより、図8(b)に示すように、後続車両5は、後方所定領域ZR′(後方所定距離XR′)の侵入とは認識されず、車両1は無理なく第1車線51に車線変更でき、第2車線52を走行する時間が短縮され、速やかな減速停止が見込める。
【0093】
さらに、MRM作動時に、ブレーキオーバーライド閾値(Pd)および操舵オーバーライド閾値(OTd)が通常時よりも大きい値(Pe、OTe)に変更されていることにより、MRM作動中に覚醒した運転者の過剰なオーバーライドが抑制され、図8(a)に示すような過剰な左操舵オーバーライドOLや右操舵オーバーライドORによる車両1の挙動不安定や、過剰なブレーキオーバーライドOBによる後続車両4との接近が抑制され、図9(b)に示すように、第1車線51への車線変更を継続できる。
【0094】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0095】
10 自動運転コントローラ
11 環境状態推定部
12 経路生成部
13 車両制御部
14 ACCコントローラ
15 LKAコントローラ
21 外界センサ
22 内界センサ
31 EPSコントローラ
32 エンジンコントローラ
33 ESP/ABSコントローラ
34 手動操舵(ハンドル)
41 操舵機構
42 エンジン
43 ブレーキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9