(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/235 20060101AFI20231130BHJP
C03B 5/225 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C03B5/235
C03B5/225
(21)【出願番号】P 2020072425
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030987(JP,A)
【文献】特開平09-020521(JP,A)
【文献】特開2012-111687(JP,A)
【文献】国際公開第2020/023218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/235,
H01B 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送装置を用いて溶融ガラスを移送する移送工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記移送装置は、前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極を備え、
前記移送工程では、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給し、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給し、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
及び
A+B=C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記移送装置が、攪拌槽を備え、
前記攪拌槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部内の前記溶融ガラスを次工程に移送するために前記本体部の下部の側壁に設けられる流出部とを備え、
前記第1電極は、前記流出部が接続される前記本体部の流出口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第2電極は、前記流出口よりも下方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流出部に設けられる請求項
1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
移送装置を用いて溶融ガラスを移送する移送工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記移送装置は、前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極を備え、
前記移送工程では、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給し、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給し、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整し、
前記移送装置が、攪拌槽を備え、
前記攪拌槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部内の前記溶融ガラスを次工程に移送するために前記本体部の下部の側壁に設けられる流出部とを備え、
前記第1電極は、前記流出部が接続される前記本体部の流出口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第2電極は、前記流出口よりも下方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流出部に設けられることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記攪拌槽は、前記本体部内の前記溶融ガラスを排出するために前記本体部の底部に設けられる排出部と、前記排出部に設けられる第4電極とをさらに備え、
前期移送工程では、前記第2電極と前記第4電極との間に位置する前記排出部に第4交流電流を供給する請求項
2又は3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記第3交流電流の最大値をC、前記第4交流電流の最大値をDとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2+B
2+D
2+AB+AD+2BD)
1/2≦C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流、前記第2交流電流及び前記第4交流電流の位相差を調整する請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記移送装置は、状態調整槽を備え、
前記状態調整槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部の上部の側壁に設けられる流入部とを備え、
前記第1電極は、前記流入部に設けられ、
前記第2電極は、前記流入部が接続される前記本体部の流入口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流入口よりも下方で、前記本体部に設けられる請求項
1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
移送装置を用いて溶融ガラスを移送する移送工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記移送装置は、前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極を備え、
前記移送工程では、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給し、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給し、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整し、
前記移送装置は、状態調整槽を備え、
前記状態調整槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部の上部の側壁に設けられる流入部とを備え、
前記第1電極は、前記流入部に設けられ、
前記第2電極は、前記流入部が接続される前記本体部の流入口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流入口よりも下方で、前記本体部に設けられることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項8】
溶融ガラスを移送する移送装置を備えるガラス物品の製造装置であって、
前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する第1電源と、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する第2電源と、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
及び
A+B=C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整する位相調整部とを備えることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項9】
溶融ガラスを移送する移送装置を備えるガラス物品の製造装置であって、
前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する第1電源と、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する第2電源と、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整する位相調整部とを備え、
前記移送装置が、攪拌槽を備え、
前記攪拌槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部内の前記溶融ガラスを次工程に移送するために前記本体部の下部の側壁に設けられる流出部とを備え、
前記第1電極は、前記流出部が接続される前記本体部の流出口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第2電極は、前記流出口よりも下方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流出部に設けられることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項10】
溶融ガラスを移送する移送装置を備えるガラス物品の製造装置であって、
前記移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置する前記移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する第1電源と、
前記第2電極と前記第3電極との間に位置する前記移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する第2電源と、
前記第1交流電流の最大値をA、前記第2交流電流の最大値をB、前記移送装置への電流供給により前記第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、
前記第3交流電流が、
(A
2
+B
2
+AB)
1/2
≦C
なる関係を満たすように、前記第1交流電流と前記第2交流電流との位相差を調整する位相調整部とを備え、
前記移送装置は、状態調整槽を備え、
前記状態調整槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、前記本体部の上部の側壁に設けられる流入部とを備え、
前記第1電極は、前記流入部に設けられ、
前記第2電極は、前記流入部が接続される前記本体部の流入口よりも上方で、前記本体部に設けられ、
前記第3電極は、前記流入口よりも下方で、前記本体部に設けられることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス物品の製造方法は、移送装置を用いて溶融炉で生成された溶融ガラスを成形装置まで移送する移送工程と、成形装置を用いて溶融ガラスから板ガラスなどのガラス物品を成形する成形工程とを含む(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
上記の移送装置には、その移送経路に沿って上流側から下流側に順に間隔を置いて複数の電極が設けられており、これら電極の間で通電することにより、移送装置の内部を移送される溶融ガラスが加熱される(例えば特許文献2、3を参照)。なお、移送装置には、例えば、清澄槽、攪拌槽、状態調整槽(ポット)などが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-88754号公報
【文献】特開2012-101970号公報
【文献】特開2012-116693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移送装置に設けられる複数の電極を、移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に第1電極、第2電極、第3電極とすると、移送工程では、例えば、第1電極と第2電極との間に位置する移送装置の第1部分に第1交流電流を供給するとともに、第2電極と第3電極との間に位置する移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する場合がある。この場合、第2電極は、移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する際と、移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する際の両方で使用される共通電極となる。このため、第2電極では、第1交流電流及び第2交流電流が互いに打ち消しあい、第2電極の周辺の溶融ガラスを効率よく加熱できないという問題が生じる場合がある。
【0006】
本発明は、移送装置への通電により、移送装置の内部を移送される溶融ガラスを効率よく加熱することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、移送装置を用いて溶融ガラスを移送する移送工程を備えるガラス物品の製造方法であって、移送装置は、移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極を備え、移送工程では、第1電極と第2電極との間に位置する移送装置の第1部分に第1交流電流を供給し、第2電極と第3電極との間に位置する移送装置の第2部分に第2交流電流を供給し、第1交流電流の最大値をA、第2交流電流の最大値をB、移送装置への電流供給により第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、第3交流電流が、(A2+B2+AB)1/2≦Cなる関係を満たすように、第1交流電流と第2交流電流との位相差を調整することを特徴とする。
【0008】
このように第1交流電流と第2交流電流との位相差を調整することにより、移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する際と、移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する際の両方で使用される第2電極(共通電極)に流れる第3交流電流の大きさを簡単かつ確実に増加させることができる。そして、第3交流電流が、上記の式の関係を満たすように、第1交流電流と第2交流電流との位相差を調整すれば、第2電極に流れる第3交流電流が大きくなり、第2電極の周辺の溶融ガラスを効率よく加熱できる。
【0009】
上記の構成において、第1交流電流の最大値をA、第2交流電流の最大値をB、第3交流電流の最大値をCとした場合に、第3交流電流が、A+B=Cなる関係を満たすように、第1交流電流と第2交流電流との位相差を調整することが好ましい。
【0010】
このようにすれば、第2電極に流れる第3交流電流が最も大きくなるため、第2電極の周辺の溶融ガラスを非常に効率よく加熱できる。
【0011】
上記の構成において、移送装置が、攪拌槽を備え、攪拌槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、本体部内の溶融ガラスを次工程に移送するために本体部の下部の側壁に設けられる流出部とを備え、第1電極は、前記流出部が接続される前記本体部の流出口よりも上方で、本体部に設けられ、第2電極は、流出口よりも下方で、本体部に設けられ、第3電極は、流出部に設けられていてもよい。
【0012】
このようにすれば、第2電極が設けられる本体部の下端部、つまり、本体部の底部の周辺が効率よく加熱される。このため、本体部の底部の周辺の溶融ガラスの流れが良好になる。つまり、本体部の底部の周辺には、溶融ガラスの流動性の低下に伴ってガラス停滞層が発生しやすいが、これを抑制できる。ここで、ガラス停滞層は、本体部内を正常に流動する溶融ガラスとは異なる組成の異質ガラスを含む場合がある。このような異質ガラスが、正常に流動する溶融ガラス中に混入すると、製造されるガラス物品の欠陥となり得る。したがって、高品質のガラス物品を製造する観点からは、上述のように、本体部の底部の周辺におけるガラス停滞層の発生を抑制することが好ましい。
【0013】
上記の構成において、攪拌槽は、本体部内の溶融ガラスを排出するために本体部の底部に設けられる排出部と、排出部に設けられる第4電極とをさらに備え、移送工程では、第2電極と第4電極との間に位置する排出部に第4交流電流を供給してもよい。
【0014】
このようにすれば、本体部の底部に設けられる排出部が加熱されるため、本体部の底部の周辺がさらに効率よく加熱される。このため、ガラス停滞層の発生をより確実に抑制できる。
【0015】
上記の構成において、第1交流電流の最大値をA、第2交流電流の最大値をB、第3交流電流の最大値をC、第4交流電流の最大値をDとした場合に、第3交流電流が、(A2+B2+D2+AB+AD+2BD)1/2≦Cなる関係を満たすように、第1交流電流、第2交流電流及び第4交流電流の位相差を調整することが好ましい。
【0016】
このように第3交流電流が、上記の式の関係を満たすように、第1交流電流、第2交流電流及び第4交流電流の位相差を調整すれば、第2電極に流れる第3交流電流が大きくなり、本体部の底部の周辺がさらに効率よく加熱される。このため、ガラス停滞層の発生をより確実に抑制できる。
【0017】
上記の構成において、移送装置は、状態調整槽を備え、状態調整槽は、上下方向に延びる底付きの本体部と、本体部の上部の側壁に設けられる流入部とを備え、第1電極は、流入部に設けられ、第2電極は、流入部が接続される本体部の流入口よりも上方で、本体部に設けられ、第3電極は、流入口よりも下方で、本体部に設けられていてもよい。
【0018】
このようにすれば、第2電極が設けられる本体部の上部が効率よく加熱される。このため、本体部の上部に位置する溶融ガラスの液面付近が高温になる。つまり、溶融ガラスの液面付近において、一般的にガラス停滞層や失透が発生しやすいが、これを抑制できる。
【0019】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、溶融ガラスを移送する移送装置を備えるガラス物品の製造装置であって、移送装置の移送経路に沿って上流側から下流側に順に設けられる第1電極、第2電極及び第3電極と、第1電極と第2電極との間に位置する移送装置の第1部分に第1交流電流を供給する第1電源と、第2電極と第3電極との間に位置する移送装置の第2部分に第2交流電流を供給する第2電源と、第1交流電流の最大値をA、第2交流電流の最大値をB、移送装置への電流供給により第2電極に流れる第3交流電流の最大値をCとした場合に、第3交流電流が、(A2+B2+AB)1/2≦Cなる関係を満たすように、第1交流電流と第2交流電流との位相差を調整する位相調整部とを備えることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、上述の対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、移送装置への通電により、移送装置の内部を移送される溶融ガラスを効率よく加熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るガラス物品の製造装置の攪拌槽周辺を示す断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るガラス物品の製造装置の攪拌槽周辺を示す断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係るガラス物品の製造装置の状態調整槽周辺を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る第3交流電流の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0024】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態では、ガラス物品の製造装置及びガラス物品の製造方法を例示する。本実施形態に係るガラス物品の製造装置は、溶融ガラスGmの移送方向の上流側から下流側に順に、溶融炉1と、移送装置2と、成形装置3とを備えている。また、本実施形態に係るガラス物品の製造方法は、溶融工程と、移送工程と、成形工程とを順に備えている。なお、ガラス物品の製造方法は、ガラス物品の製造装置の構成を説明する際に併せて説明する。
【0025】
溶融炉1は、溶融ガラスGmを連続形成する溶融工程を実施するためのものである。溶融炉1における溶融ガラスGm(あるいはガラス原料)の加熱方式としては、例えば、通電加熱のみで加熱する方式(全電融方式)、ガス燃料の燃焼のみで加熱する方式、通電加熱とガス燃料の燃焼とを併用して加熱する方式を採用できる。
【0026】
本実施形態では、溶融ガラスGmは、無アルカリガラスからなる。無アルカリガラスは、ガラス組成として、例えば、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~12%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0~1%未満、MgO 0~8%、CaO 0~15%、SrO 0~12%、BaO 0~15%を含む。無アルカリガラスからなる溶融ガラスGmの電気抵抗率は、一般的に高く、例えば溶融炉1の加熱温度1500℃において100Ω・cm以上となる。
【0027】
溶融ガラスGmは、無アルカリガラスに限定されるものではなく、例えば、ソーダガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルカリ含有ガラスなどであってもよい。
【0028】
移送装置2は、溶融炉1から成形装置3に向けて溶融ガラスGmを移送する移送工程を実施するためのものであり、溶融ガラスGmを移送するための移送経路(空間)を内部に有する移送管から構成される。ここで、移送管という用語には、管状構造を有するものの他に、槽状(容器状)構造を有するものも含まれる。
【0029】
本実施形態では、移送装置2は、清澄槽4と、攪拌槽5と、状態調整槽(ポット)6と、これら各部を接続する接続管7~10とを備えている。つまり、移送工程は、清澄工程と、攪拌工程と、状態調整工程とを備えている。
【0030】
清澄槽4は、溶融炉1から供給された溶融ガラスGmを清澄剤などの働きによって清澄(泡抜き)する清澄工程を実施するためのものである。
【0031】
攪拌槽5は、清澄槽4で清澄された溶融ガラスGmを攪拌翼(スターラー)5aによって攪拌し、均一化する均質化工程を実施するためのものである。
【0032】
状態調整槽6は、攪拌槽5で攪拌された溶融ガラスGmを成形に適した状態に調整する状態調整工程を実施するためのものである。状態調整槽6は、攪拌翼などの機械攪拌手段のない槽であり、移送装置2が上述のように複数の槽を有する場合、最も下流側に位置する。換言すれば、状態調整槽6は、成形装置3の直前で溶融ガラスGmの流量や粘度等を調整する槽である。
【0033】
接続管7~10は、例えば白金又は白金合金からなる筒状体(例えば円筒体)で構成されており、溶融ガラスGmを横方向(略水平方向)に移送する。本実施形態では、移送装置2のうち、最上流部に位置する接続管7と、攪拌槽5と状態調整槽6を接続する接続管9とは、下流側が上流側よりも上方に位置するように傾斜している。
【0034】
成形装置3は、上記の移送装置2で移送された溶融ガラスGmを所望の形状に成形する成形工程を実施するためのものである。本実施形態では、成形装置3は、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融ガラスGmからガラスリボンGを連続成形する成形体を備えている。
【0035】
成形装置3は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法や、フロート法などの公知の成形方法を実施するものであってもよい。
【0036】
オーバーフローダウンドロー法の場合、成形装置3に供給された溶融ガラスGmは、成形装置3の頂部に形成された溝部から溢れ出た後、溶融ガラスGmが成形装置3の断面楔状をなす両側面を伝って下端で合流する。これにより、溶融ガラスGmから板状のガラスリボンGが連続成形される。成形されたガラスリボンGは、徐冷(アニール)及び冷却された後に所定サイズに切断され、ガラス物品としての板ガラスが製造される。
【0037】
製造された板ガラスは、例えば、厚みが0.01~10mm(好ましくは0.1~3mm)であって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。
【0038】
図2に示すように、攪拌槽5は、本体部11と、流入部12と、流出部13とを備えている。
【0039】
本体部11は、上下方向に沿って延びる底付きの筒状体であり、その内部に攪拌翼5aを備えている。この攪拌翼5aを軸まわりに回転させることで、本体部11内の溶融ガラスGmを攪拌可能に構成されている。
【0040】
本体部11は、上部側壁に流入口14を有するとともに、下部側壁に流出口15を有する。
【0041】
流入口14には、横方向に沿って延びる筒状の流入部12が接続されている。流入部12の上流側の端部には、接続管8が接続されている。つまり、流入部12を通じて前工程(本実施形態では、清澄槽4)から溶融ガラスGmが本体部11内に移送される。
【0042】
流出口15には、横方向に沿って延びる筒状の流出部13が接続されている。流出部13の下流側の端部には、接続管9が接続されている。つまり、流出部13を通じて本体部11内の溶融ガラスGmが次工程(本実施形態では、状態調整槽6)に移送される。
【0043】
なお、本実施形態では、本体部11の底部に排出口16が設けられおり、この排出口16に上下方向に沿って延びる筒状の排出部(ドレイン)17が接続されている。ガラス物品の製造時には、排出部17内で固化した固化ガラスGxによって排出部17は閉塞されている。一方、溶融ガラスGmの排出時には、排出部17内の固化ガラスGxを加熱して軟化流動させることにより、本体部11内の溶融ガラスGmが排出部17を通じて外部に排出される。
【0044】
本体部11の流出口15よりも上方(図示例では本体部11の上端部)には第1電極18が設けられ、本体部11の流出口15よりも下方(図示例では本体部11の底部(下端部))には第2電極19が設けられている。流出部13(図示例では、流出部13の下流端)には第3電極20が設けられている。各電極18~20は、例えば白金又は白金合金からなるリング状のフランジ部からなり、所定の位置で攪拌槽5の外周面に溶接等により接合されている。なお、図示は省略するが、各電極18~20は、後述する電流供給経路21,23を接続するための引き出し電極(例えば白金、白金合金、ニッケル又はニッケル合金製)や、冷却機構(例えば水冷又は空冷)をさらに備えている。
【0045】
第1電極18と第2電極19との間には、これら電極18,19の間に位置する攪拌槽5の第1部分(本体部11)に通電するための第1電流供給経路21が設けられている。第1電流供給経路21には、第1電極18と第2電極19との間に電圧を印加する第1電源(電圧源)22が設けられている。第1電源22により電圧を印加することにより、本体部11には、第1交流電流i1が供給される。
【0046】
第2電極19と第3電極20との間には、これら電極19,20の間に位置する攪拌槽5の第2部分(流出部13)に通電するための第2電流供給経路23が設けられている。第2電流供給経路23には、第2電極19と第3電極20との間に電圧を印加する第2電源(電圧源)24が設けられている。第2電源24により電圧を印加することにより、流出部13には、第2交流電流i2が供給される。なお、第2電極19は、第1電流供給経路21及び第2電流供給経路23の両方で使用される共通電極である。
【0047】
攪拌槽5には、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整する位相調整部25が設けられている。位相調整部25は、第1電源22及び第2電源24に接続されている。第1電源22、第2電源24及び位相調整部25は、例えば三相交流電源により構成される。三相交流電源の場合、接続端子を適宜変更することにより(例えばTR、RT、RS、SRなど)、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整できる。
【0048】
位相調整部25は、第1交流電流i1の最大値をA、第2交流電流i2の最大値をB、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の供給により第2電極19に流れる第3交流電流i3の最大値をCとした場合に、第3交流電流i3が、下記の式(1)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θを調整するように構成されている。つまり、ガラス物品の製造方法では、移送工程(本実施形態では、移送工程に含まれる攪拌工程)において、第3交流電流i3が、下記の式(1)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θを調整する。
(A2+B2+AB)1/2≦C・・・(1)
【0049】
ここで、i1=Asinωt、i2=Bsin(ωt+θ)、i3=i1-i2と定義する。なお、ωは角速度、tは時間、θは第1交流電流i1に対する第2交流電流i2の位相差である。位相差θは、第1交流電流i1の位相を基準としているが、これに限定されない。
図2において各電流の向きを定義しているので、第2電極19の付け根(本体部11との接合部)を分岐点と考えた場合、分岐点への流入電流はi1、分岐点からの流出電流はi2及びi3となるため、第3交流電流i3は、キルヒホッフの法則より、上記のように「i1-i2」で表される。
【0050】
この場合、第3交流電流i3は、三角関数の加法定理より、下記の式(2)で表すことができる。
i3=Asinωt-Bsin(ωt+θ)
=(A-Bcosθ)sinωt-Bsinθcosωt・・・(2)
【0051】
さらに、式(2)は、三角関数の合成公式より、下記の式(2)’で表すことができる。
i3={(A-Bcosθ)2+B2sin2θ}1/2sin(ωt-α)
=(A2+B2-2ABcosθ)1/2sin(ωt-α)・・・(2)’
ただし、sinα=Bsinθ/(A2+B2-2ABcosθ)1/2であり、cosα=(A-Bcosθ)/(A2+B2-2ABcosθ)1/2である。
【0052】
-1≦sin(ωt-α)≦1であるので、sin(ωt-α)=1のときに、式(2)’は最大値を示す。つまり、第3交流電流i3の最大値Cは、下記の式(3)で表される。
C=(A2+B2-2ABcosθ)1/2・・・(3)
【0053】
このように第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整することにより、第2電極12に流れる第3交流電流i3の大きさを簡単かつ確実に調整できる。そして、第3交流電流i3が、上記の式(1)の関係を満たすように、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整すれば、第2電極19に流れる第3交流電流i3が大きくなり、第2電極19や本体部11の底部周辺を効率よく加熱できる。このため、本体部11の底部周辺の溶融ガラスGmの流れが良好になる。つまり、本体部11の底部周辺には、一般的に、異質ガラスを含むガラス停滞層が発生しやすいが、これを抑制できる。
【0054】
位相調整部25は、下記の式(4)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θを調整するように構成されていることがさらに好ましい。
A+B=C・・・(4)
【0055】
ここで、位相差θは、120°≦θ≦240°(あるいは-120°≧θ≧-240°)であることが好ましく、180°であることがより好ましい。なお、式(1)の左辺は、θ=120°(あるいは-120°)のときの式(3)の値であり、式(4)の左辺は、θ=180°(あるいは-180°)のときの式(3)の値である。
【0056】
第1交流電流i1の最大値Aと第2交流電流i2の最大値Bとは、異なる値(例えばA>B)であってもよいし、同じ値であってもよい。また、上記の式(1)又は(4)の関係を満たすように、位相差θとともに、第1交流電流i1の最大値A及び第2交流電流i2の最大値Bのうちの少なくとも一つを調整してもよい。
【0057】
なお、流入部12に電極を設け、流入部12の電極と本体部11の第1電極18との間でさらに通電してもよい。このようにすれば、流入部12や本体部11の上端部の加熱が促進される。
【0058】
また、本実施形態で説明した通電加熱方法は、複数の本体部11を連ねた攪拌槽5にも適用できる。この場合、隣接する二つの本体部11の一方の上部と、他方の下部を接続管で接続することが好ましい。
【0059】
(第2実施形態)
図3に示すように、第2実施形態では、攪拌槽5の変形例を例示する。なお、攪拌槽5の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0060】
本実施形態では、排出部17の下端部には、第4電極26が設けられている。第4電極26の位置は、第2電極19よりも下方であれば、排出部17のいずれの位置であってもよい。ただし、排出部17の通電による加熱領域を拡大する観点からは、排出部17の下端部に第4電極26を設けることが好ましい。
【0061】
第2電極19と第4電極26との間には、これら電極19,26の間に位置する排出部17に通電するための第3電流供給経路27が設けられている。第3電流供給経路27には、第2電極19と第4電極26との間に電圧を印加する第3電源(電圧源)28が設けられている。第3電源28により電圧を印加することにより、排出部17には、第4交流電流i4が供給される。なお、第2電極19は、第1電流供給経路21、第2電流供給経路23及び第3電流供給経路27のすべてで使用される共通電極である。
【0062】
位相調整部25は、第1電源22、第2電源24及び第3電源28に接続され、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θ1と、第1交流電流i1及び第4交流電流i4の位相差θ2とを調整するように構成されている。第1電源22、第2電源24、第3電源28及び位相調整部25は、例えば三相交流電源により構成される。
【0063】
位相調整部25は、第1交流電流i1の最大値をA、第2交流電流i2の最大値をB、第3交流電流i3の最大値をC、第4交流電流i4の最大値をDとした場合に、第3交流電流i3が、下記の式(5)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θ1と、第1交流電流i1及び第4交流電流i4の位相差θ2とを調整するように構成されている。つまり、ガラス物品の製造方法では、移送工程(本実施形態では、移送工程に含まれる攪拌工程)において、第3交流電流i3が、下記の式(5)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θ1と、第1交流電流i1及び第4交流電流i4の位相差θ2とを調整する。
(A2+B2+D2+AB+AD+2BD)1/2≦C・・・(5)
【0064】
ここで、i1=Asinωt、i2=Bsin(ωt+θ1)、i4=Dsin(ωt+θ2)、i3=i1-i2-i4と定義する。なお、ωは角速度、tは時間、θ1は第1交流電流i1に対する第2交流電流i2の位相差、θ2は第1交流電流i1に対する第4交流電流i4の位相差である。位相差θ1,θ2は、第1交流電流i1の位相を基準としているが、これに限定されない。第3交流電流i3は、第1交流電流i1、第2交流電流i2及び第4交流電流i4の供給により、第2電極19に流れる電流である。
【0065】
この場合、第3交流電流i3は、三角関数の加法定理より、下記の式(6)で表すことができる。
i3=Asinωt-Bsin(ωt+θ1)-Dsin(ωt+θ2)
=(A-Bcosθ1-Dcosθ2)sinωt
-(Bsinθ1+Dsinθ2)cosωt・・・(6)
【0066】
さらに、式(6)は、三角関数の合成公式より、下記の式(6)’で表すことができる。
i3={(A-Bcosθ1-Dcosθ2)2
+(Bsinθ1+Dsinθ2)2}1/2sin(ωt-α)・・・(6)’
ただし、r={(A-Bcosθ1-Dcosθ2)2+(Bsinθ1+Dsinθ2)2}1/2とすると、sinα=(Bsinθ1+Dsinθ2)/rであり、cosα=(A-Bcosθ1-Dcosθ2)/rである。
【0067】
-1≦sin(ωt-α)≦1であるので、sin(ωt-α)=1のときに、式(6)’は最大値を示す。つまり、第3交流電流i3の最大値Cは、下記の式(7)で表される。
C={(A-Bcosθ1-Dcosθ2)2
+(Bsinθ1+Dsinθ2)2}1/2・・・(7)
【0068】
このように第1交流電流i1、第2交流電流i2及び第4交流電流i4の間の位相差θ1,θ2を調整することにより、第2電極12に流れる第3交流電流i3の大きさを簡単かつ確実に調整できる。そして、第3交流電流i3が、上記の式(5)の関係を満たすように、第1交流電流i1、第2交流電流i2及び第4交流電流i4の間の位相差θ1,θ2を調整すれば、排出部17の通電を利用して、第2電極12に流れる第3交流電流i3がさらに大きくなり、第2電極12や本体部11の底部周辺を効率よく加熱できる。このため、本体部11の底部周辺にガラス停滞層が発生するのをより確実に抑制できる。
【0069】
位相調整部25は、下記の式(8)の関係を満足するように、第1交流電流i1、第2交流電流i2及び第4交流電流i4の間の位相差θ1,θ2を調整するように構成されていることが好ましい。
A+B+D=C・・・(8)
【0070】
ここで、位相差θ1及びθ2は、120°≦θ≦240°(あるいは-120°≧θ≧-240°)であることが好ましく、180°(あるいは-180°)であることがより好ましい。なお、式(5)の左辺は、θ1=θ2=120°(あるいは-120°)のときの式(7)の値であり、式(8)の左辺は、θ1=θ2=180°(あるいは-180°)のときの式(7)の値である。
【0071】
第1交流電流i1の最大値A、第2交流電流i2の最大値B及び第4交流電流i4の最大値Dは、同じ値であってもよいが、異なる値であることが好ましい(例えば、A>B>D)。また、上記の式(5)又は(8)の関係を満たすように、位相差θ1,θ2とともに、第1交流電流i1の最大値A、第2交流電流i2の最大値B及び第4交流電流i4の最大値Dのうちの少なくとも一つを調整してもよい。
【0072】
第4交流電流i4の最大値Dは、排出部17の固化ガラスGxが軟化流動しない程度、つまり、排出部17から溶融ガラスGmが流出しない程度の大きさとすることが好ましい。一方、排出部17を通じて本体部11内の溶融ガラスGmを外部に排出する際は、第4交流電流i4の最大値を、ガラス物品の製造時における最大値Dよりも大きくすることが好ましい。
【0073】
(第3実施形態)
図4に示すように、第3実施形態では、状態調整槽6を例示する。
【0074】
状態調整槽6は、上下方向に沿って延びる筒状の本体部31と、本体部31の上部に設けられる溶融ガラスGmの流入口32と、本体部31の下部に設けられる溶融ガラスGmの流出口33と、筒状の流入部34とを備えている。
【0075】
流入口32は、本体部31の上部側壁に設けられている。一方、流出口33は、本体部31の下端に設けられているが、これに限定されない。流出口33は、流入口32よりも下方であればよく、例えば本体部31の下部側壁に設けられていてもよい。
【0076】
流入口32には、横方向に延びる流入部34が接続されている。流入部34の上流側の端部には、接続管9が接続されている。つまり、流入部34を通じて前工程(本実施形態では、攪拌槽5)から溶融ガラスGmが本体部31内に移送される。
【0077】
流出口33は、流出部としての接続管10の開口部10aから接続管10の内部に挿入されている。流出口33は、接続管10の内部の溶融ガラスGm中に浸漬されている。つまり、接続管10を通じて本体部31内の溶融ガラスGmが次工程(本実施形態では、成形装置3)に移送される。
【0078】
本体部31は、流入口32が設けられる大径部31aを上方部に有するとともに、流出口33が設けられる小径部31bを下方部に有する。なお、大径部31a及び小径部31bは例えば円筒体である。大径部31aの内径は、例えば小径部31bの内径の1.5~5倍であることが好ましい。なお、本体部31は、大径部31aと小径部31bとの間に、上方から下方に向かって漸次縮径する縮径部(例えば円錐状)を備えていてもよい。あるいは、本体部31は、一定の内径を有する単一の筒状体であってもよい。
【0079】
状態調整槽6は、溶融ガラスGmの移送方向の上流側から下流側に順に、第1電極35、第2電極36及び第3電極37を備えている。
【0080】
第1電極35は、流入部34(図示例では、流入部34の上流端)に設けられている。
【0081】
第2電極36及び第3電極37は、本体部31に設けられている。
【0082】
詳細には、第2電極36は、大径部31aに設けられているが、流入口32よりも上方(図示例では、大径部31aの上端)に設けられていることが好ましい。換言すれば、第2電極36は、本体部31内の溶融ガラスGmの液面Gsよりも上方に位置していることが好ましい。これにより、溶融ガラスGmの液面Gs付近の失透を抑制できる。
【0083】
第3電極37は、大径部31aに設けられているが、流入口32よりも下方(図示例では、大径部31aの下端)に設けられていることが好ましい。なお、第3電極37は、小径部31b(例えば、小径部31bの下端近傍)に設けられていてもよい。
【0084】
第1電極35と第2電極36との間には、これら電極35,36の間に位置する状態調整槽6の第1部分(流入部34)に通電するための第1電流供給経路38が設けられている。第1電流供給経路38には、第1電極35と第2電極36との間に電圧を印加する第1電源39が設けられている。第1電源39により電圧を印加することにより、流入部34には、第1交流電流i1が供給される。
【0085】
第2電極36と第2電極37との間には、これら電極36,37の間に位置する状態調整槽6の第2部分(大径部31a)に通電するための第2電流供給経路40が設けられている。第2電流供給経路40には、第2電極36と第3電極37との間に電圧を印加する第2電源41が設けられている。第2電源41により電圧を印加することにより、大径部31aには、第2交流電流i2が供給される。なお、第2電極26は、第1電流供給経路38及び第2電流供給経路40の両方で使用される共通電極である。
【0086】
状態調整槽6には、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整する位相調整部42が設けられている。位相調整部42は、第1電源39及び第2電源41に接続されている。第1電源39、第2電源41及び位相調整部42は、例えば三相交流電源により構成される。
【0087】
位相調整部42は、第1交流電流i1の最大値をA、第2交流電流i2の最大値をB、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の供給により第2電極36に流れる第3交流電流i3の最大値をCとした場合に、第3交流電流i3が、上記の式(1)又は(4)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θを調整するように構成されている。つまり、ガラス物品の製造方法では、移送工程(本実施形態では、移送工程に含まれる状態調整工程)において、第3交流電流i3が、上記の式(1)又は(4)の関係を満足するように、第1交流電流i1及び第2交流電流i2の位相差θを調整する。
【0088】
このように第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整することにより、第2電極36に流れる第3交流電流i3の大きさを簡単かつ確実に調整できる。そして、第3交流電流i3が、上記の式(1)又は(4)の関係を満たすように、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θを調整すれば、第2電極36が設けられる大径部31aの上部が効率よく加熱される。このため、大径部31a上部に位置する溶融ガラスGmの液面Gs付近が高温になる。つまり、溶融ガラスGmの液面Gs付近において、一般的にガラス停滞層や失透が発生しやすいが、これを抑制できる。
【0089】
ここで、本体部31の溶融ガラスGmの液面Gsは、ガラス停滞層や失透を防止する観点からは、
図4に示すように、本体部31の流入口32の上端と下端との間に位置していることが好ましい。なお、このような溶融ガラスGmの液面Gsの高さは、例えば溶融ガラスGmの通電による加熱温度(溶融ガラスGmの粘度)を増減させるのに伴って溶融ガラスGmの流入量及び/又は流出量を変更することで実現できる。
【0090】
本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0091】
上記の実施形態において、第1電極、第2電極及び第3電極を用いて、攪拌槽又は状態調整槽を通電加熱する場合を説明したが、本発明に係る通電加熱方法は、攪拌槽及び状態調整の両方に同時に適用してもよい。また、本発明に係る通電加熱方法は、移送装置のその他の部分にも同様に適用できる。
【0092】
上記の実施形態では、成形装置で成形されるガラス物品が板ガラスである場合を説明したが、これに限定されない。成形装置で成形されるガラス物品は、例えば、ガラスフィルムをロール状に巻き取ったガラスロール、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック、ガラス繊維などであってもよいし、任意の形状であってよい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0094】
本実施例では、
図3に示した攪拌槽5において、第1交流電流i1と第2交流電流i2との位相差θ1、第1交流電流i1と第4交流電流i4との位相差θ2を変化させときの第3交流電流i3及びその最大値Cの変化をそれぞれ示す。なお、第1交流電流i1の最大値Aは3000A、第2交流電流i2の最大値Bは2000A、第4交流電流i4の最大値Dは500Aとした。このときの第3交流電流i3及びその最大値Cは、上記の式(6)及び(7)から求められる。その結果を
図6及び表1に示す。
【0095】
【0096】
図5及び表1から、第1交流電流i1と第2交流電流i2の位相差θ1、第1交流電流i1と第4交流電流i4の位相差θ2を適切に管理しなければ、比較例1~2のように第3交流電流i3の最大値Cが非常に小さくなり、第2電極12及びその周辺を効率よく加熱できないことが分かる。これに対し、第1交流電流i1と第2交流電流i2の位相差θ1、第1交流電流i1と第4交流電流i4の位相差θ2を適切に管理すれば、実施例1~3のように、第3交流電流i1の最大値Cが大きくなり、第2電極12及びその周辺を効率よく加熱できることが分かる。ここで、実施例1及び2では、第3交流電流i1の最大値Cが上記の式(5)の関係を満たし、実施例3では、第3交流電流i1の最大値Cが上記の式(8)の関係を満たす。
【符号の説明】
【0097】
1 溶融炉
2 移送装置
3 成形装置
4 清澄槽
5 攪拌槽
6 状態調整槽
11 本体部
12 流入部
13 流出部
17 排出部
18 第1電極
19 第2電極
20 第3電極
21 第1電流供給経路
22 第1電源
23 第2電流供給経路
24 第2電源
25 位相調整部
26 第4電極
27 第3電流供給経路
28 第3電源
31 本体部
34 流入部
35 第1電極
36 第2電極
37 第3電極
38 第1電流供給経路
39 第1電源
40 第2電流供給経路
41 第2電源
42 位相調整部
G ガラスリボン
Gm 溶融ガラス
i1 第1交流電流
i2 第2交流電流
i3 第3交流電流
i4 第4交流電流