(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】良性腫瘍の予防または治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20231130BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20231130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231130BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231130BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231130BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231130BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231130BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231130BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20231130BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231130BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20231130BHJP
C07K 14/82 20060101ALN20231130BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231130BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61K38/10
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61P43/00 107
A61K48/00
A61K39/00 H
A61K39/39
A61K35/17
A61K35/15
C12N5/0783
C12N5/0784
C07K14/82
C12N15/12
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2020551127
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2019039383
(87)【国際公開番号】W WO2020071551
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018190461
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505443953
【氏名又は名称】株式会社癌免疫研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 治夫
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093326(WO,A1)
【文献】特表2017-523784(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181648(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157692(WO,A1)
【文献】NAPEKOSKI K.M. et al.,Microvenular hemangioma: a clinicopathologic review of 13 cases.,Journal of Cutaneous Pathology,2014年,Vol.41, No.11,pages 816 to 822,doi:10.1111/cup.12386
【文献】SHIRAKATA T. et al.,WT1 peptide therapy for a patient with chemotherapy-resistant salivary gland cancer.,Anticancer Research,2012年,Vol.32, No.3,pages 1081 to 1085,ISSN:0250-7005
【文献】大内知之ほか,多形腺腫由来癌carcinoma ex pleomorphic adenomaと転移性多形腺腫metastasizing pleomorphic adenoma,北海道医療大学歯学雑誌,2007年,Vol.26, No.2,pages 85 to 86,https://hsuh.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=10080&item_no=1&page_id=13&block_id=17
【文献】LANGMAN G. et al.,WT1 expression in salivary gland pleomorphic adenomas: a reliable marker of the neoplastic myoepithe,Modern Pathology,2011年,Vol.24, No.2,pages 168 to 174,doi:10.1038/modpathol.2010.190
【文献】WEBER G. et al.,WT1 peptide-specific T cells generated from peripheral blood of healthy donors: possible implication,Leukemia,2009年,Vol.23, No.9,pages 1634 to 1642,doi:10.1038/leu.2009.70
【文献】KOIDO S. et al.,Treatment with chemotherapy and dendritic cells pulsed with multiple Wilms' tumor 1 (WT1)-specific M,Clinical Cancer Research,2014年,Vol.20, No.16,pages 4228 to 4239,doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-0314
【文献】AMINI NIK S. et al.,Upregulation of Wilms' tumor gene 1 (WT1) in desmoid tumors.,International Journal of Cancer,2005年,Vol.114, No.2,pages 202 to 208,doi:10.1002/ijc.20717
【文献】野村昌哉ほか,下行結腸カルチノイド根治術後7年目に異時性発生した上行結腸カルチノイドの1例,日本消化器外科学会雑誌,2004年,Vol.37, No.2,pages 217 to 222,https://doi.org/10.5833/jjgs.37.217
【文献】BAUTZ D.J. et al.,Prophylactic vaccination targeting ERBB3 decreases polyp burden in a mouse model of human colorectal,Oncoimmunology,2016年,Vol.6, No.1, Article No. e1255395,pages 1 to 6,doi:10.1080/2162402X.2016.1255395
【文献】ASLAN A. et al.,Investigation of Insulin-Like Growth Factor-1 (IGF-1), P53, and Wilms' Tumor 1 (WT1) Expression Leve,Medical Science Monitor,2019年07月25日,Vol.25,pages 5510 to 5517,doi:10.12659/MSM.915335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12N、C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WT1ペプチドまたはその類縁体を含む、良性腫瘍の予防または治療薬であって、
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、もしくはその薬学上許容される塩、
式(2):
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、もしくはその薬学上許容される塩、または
式(3):
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、もしくはその薬学上許容される塩であり、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、ならびに
家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される、
良性腫瘍の予防または治療薬。
【請求項2】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、またはその薬学上許容される塩である、
請求項1に記載の予防または治療薬。
【請求項3】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
請求項1に記載の予防または治療薬。
【請求項4】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
請求項1に記載の予防または治療薬。
【請求項5】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、さらに
以下のアミノ酸配列:
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)、
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
【請求項6】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
請求項5に記載の予防または治療薬。
【請求項7】
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
請求項5に記載の予防または治療薬。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療薬、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項9】
前記核酸分子は、RNAおよび/またはDNAを含む、請求項8に記載の予防または治療薬。
【請求項10】
アジュバントをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
【請求項11】
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、請求項10に記載の予防または治療薬。
【請求項12】
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、請求項1~11のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
【請求項13】
1週間に1回投与されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
【請求項14】
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球を、請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該末梢血単核球に導入し、該末梢血単核球からWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を
インビトロで誘導する工程を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項15】
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞を、請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該未熟樹状細胞に導入し、WT1提示樹状細胞を
インビトロで誘導する工程を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞の誘導方法、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、ならびに
家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための組成物、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項17】
請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞を誘導するための組成物、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項18】
請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子により誘導されるWT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項19】
請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または請求項8または9に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子により誘導されるWT1提示樹状細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【請求項20】
良性腫瘍の予防または治療薬の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の使用、ここで、
前記良性腫瘍は、WT1を発現し、かつ、家族性大腸腺腫症および非遺伝性の大腸腺腫からなる群より選択される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、良性腫瘍の予防または治療のための医薬、方法等に関する。1つの具体的な例では、本開示は、家族性腺腫症の予防または治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
良性腫瘍は、病理学的に悪性所見を有さない腫瘍である。良性腫瘍は、悪性腫瘍とは異なるものと理解されており、転移や浸潤傾向を示さないとされている。良性腫瘍の多くは無症状であるが、腫瘍径が大きなものの場合には他の組織を圧迫すること等によって症状を示したり、悪性化することがあり、治療や予防が必要とされることがある。そのため、治療剤や予防剤はあまり知られていない。
【0003】
家族性大腸腺腫症は、がん抑制遺伝子APCヘテロ欠損を有する遺伝性疾患である。20歳頃から大腸においてAPCヘテロ欠損を有する腺細胞にAPC遺伝子のホモ欠損が生じ、大腸のいたるところに腺腫が発症し、そして、その腺腫から大腸がんが発症する。治療として、初期は内視鏡による腺腫の切除を行うが、その後、腺腫が密集して切除ができなくなるとともに腺腫からがんが発症するため、多くの場合大腸全摘出が行われている。浸透率は100%で、保因者全員が20歳前後に発症する極めて悲惨な疾患である。日本には6,000人ほどの患者がいる。
【0004】
アスピリンが、家族性大腸腺腫症での腺腫・腺がんの発症予防および/または進展抑制に効果があることが知られているが、効果は弱く、またアスピリンの副作用の消化管出血の危険が伴う。
【0005】
ウィルムス腫瘍遺伝子WT1は、小児腎腫瘍であるウィルムス腫瘍の腫瘍形成に関与する遺伝子として単離された(非特許文献1参照)。この遺伝子は、細胞増殖および細胞分化の調節機構、並びにアポトーシスおよび組織発達と関連するジンク・フィンガー転写因子をコードする遺伝子である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gessler,M.ら、Nature、第343巻、774-778頁、1990年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、WT1ペプチドワクチンが、家族性大腸腺腫症等の良性腫瘍での腺腫の発症の抑制および/または遅延や、腺腫からの症状の発症の抑制および/または遅延に有効であることを見出し、全摘手術しか根本的な治療方法がなく、難治性とされる家族性大腸腺腫症等の良性腫瘍の治療および予防に有用であることを見出した。本発明者らは、家族性大腸腺腫症等の良性腫瘍の患者の腺腫がWT1がん抗原を発現していることを見出したため、WT1がんワクチンが家族性大腸腺腫症等の良性腫瘍での腺腫の発症の抑制および/または遅延や、腺腫からの症状の発症の抑制および/または遅延に有効であるのではないかと発想し、本発明に至った。
【0008】
本開示は、良性腫瘍の腺腫の細胞がWT1タンパク質を発現するとの驚くべき発見に基づくものである。本技術分野において、悪性腫瘍のがんの細胞ではWT1タンパク質が高発現していることは公知であり、悪性腫瘍におけるWT1ペプチドワクチンの有用性は容易に予想され得るものであった。本開示は、良性腫瘍である家族性大腸腺腫症の腺腫の細胞が、WT1タンパク質を発現することを初めて明らかにし、良性腫瘍一般において治療剤または予防剤を提供することに思い至ったものである。加えて、WT1ペプチドワクチンの有効性は、WT1タンパク質の発現様式(発現量等)に左右されるため、仮に腺腫においてWT1タンパク質が発現することを見出した場合であっても、WT1ペプチドワクチンの有効性を合理的に予測することはできなかった。その点本開示は、WT1ペプチドワクチンが良性腫瘍に対しても有効であることを初めて実証したものであり、先行技術から予測し得ない効果を見出したものである。
【0009】
したがって、本開示は、以下を提供する。
(項目X1)
WT1ペプチドまたはその類縁体を含む、良性腫瘍の予防または治療薬。
(項目X2)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、キラー型および/またはヘルパー型を含む、項目X1に記載の予防または治療薬。
(項目X3)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、WT1126キラーペプチドおよび/またはWT135ヘルパーペプチドを含む、項目X1または項目X2に記載の予防または治療薬。
(項目X4)
WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、項目X1~項目X3のいずれか一項に記載の良性腫瘍の予防または治療薬。
(項目X5)
前記核酸分子は、RNAおよび/またはDNAを含む、項目X1~項目X4のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X6)
アジュバントをさらに含む、項目X1~項目X5のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X7)
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、項目X1~項目X6のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X8)
前記良性腫瘍は、WT1を発現する、項目X1~項目X7のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X9)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫からなる群より選択される、項目X1~項目X8のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X10)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、項目X1~項目X9のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X11)
1週間に1回投与されることを特徴とする、項目X1~項目X10のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目X12)
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球を、上記項目Xのいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目Xのいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該末梢血単核球に導入し、該末梢血単核球からWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する工程を含むことを特徴とする、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法。
(項目X13)
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞を、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目Xのいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該未熟樹状細胞に導入し、WT1提示樹状細胞を誘導する工程を含むことを特徴とする、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞の誘導方法。
(項目X13A)
項目X1~項目X11のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目X12または13に記載の方法。
(項目X14)
WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための組成物。
(項目X15)
WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞を誘導するための組成物。
(項目X15A)
項目X1~項目X13のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目X14または項目X15に記載の組成物。
(項目X16)
WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物。
(項目X17)
WT1提示樹状細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物。
(項目X17A)
項目X1~項目X13のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目X16または項目X17に記載の組成物。
【0010】
本開示はまた、以下を提供する。
(項目1)
WT1ペプチドまたはその類縁体を含む、良性腫瘍の予防または治療薬。
(項目2)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、キラー型および/またはヘルパー型を含む、項目1に記載の予防または治療薬。
(項目3)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、WT1126キラーペプチド、WT1235キラーペプチドおよび/またはWT135ヘルパーペプチド、またはいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が、欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドを含む、項目1または2に記載の予防または治療薬。
(項目4)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、またはその薬学上許容される塩である、
項目1~3のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目5)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0011】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目1~4のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目6)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0012】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目1~5のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目7)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、さらに
以下のアミノ酸配列:
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)、
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物である、項目1~6のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目8)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0013】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目1~7のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目9)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0014】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目1~8のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目10)
WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療薬。
(項目11)
前記核酸分子は、RNAおよび/またはDNAを含む、項目
10に記載の予防または治療薬。
(項目12)
アジュバントをさらに含む、項目1~11のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目13)
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、項目1~12のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目14)
前記良性腫瘍は、WT1を発現する、項目1~13のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目15)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫からなる群より選択される、項目1~14のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目16)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、項目1~15のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目17)
1週間に1回投与されることを特徴とする、項目1~16のいずれか一項に記載の予防または治療薬。
(項目18)
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球を、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該末梢血単核球に導入し、該末梢血単核球からWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する工程を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法。
(項目19)
良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞を、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該未熟樹状細胞に導入し、WT1提示樹状細胞を誘導する工程を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞の誘導方法。
(項目19A)
項目1~17のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目18または19に記載の方法。
(項目20)
WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための組成物。
(項目21)
WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞を誘導するための組成物。
(項目21A)
項目1~19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目20または21に記載の組成物。
(項目22)
WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物。
(項目23)
WT1提示樹状細胞を含む、良性腫瘍の予防または治療のための組成物。
(項目23A)
項目1~19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目22または23に記載の組成物。
(項目A1)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、有効量のWT1ペプチドまたはその類縁体を投与する工程を含む、方法。
(項目A2)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、キラー型および/またはヘルパー型を含む、項目A1に記載の方法。
(項目A3)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、WT1
126キラーペプチド、WT1
235キラーペプチドおよび/またはWT1
35ヘルパーペプチド、またはいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が、欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドを含む、項目A1またはA2に記載の方法。
(項目A4)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、またはその薬学上許容される塩である、
項目A1~A3のいずれか一項に記載の
方法。
(項目A5)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0015】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目A1~A4のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0016】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目A1~A5のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、さらに
以下のアミノ酸配列:
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)、
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物である、項目A1~A6のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0017】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目A1~A7のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0018】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目A1~A8のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、有効量のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を投与する工程を含む、方法。
(項目A11)
前記核酸分子は、RNAおよび/またはDNAを含む、項目
A10に記載の方法。
(項目A12)
前記WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子が、アジュバントと併用される、項目A1~A11のいずれか一項に記載の方法。
(項目A13)
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、項目A1~A12のいずれか一項に記載の方法。
(項目A14)
前記良性腫瘍は、WT1を発現する、項目A1~A13のいずれか一項に記載の方法。
(項目A15)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫からなる群より選択される、項目A1~A14のいずれか一項に記載の方法。
(項目A16)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、項目A1~A15のいずれか一項に記載の方法。
(項目A17)
前記WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子が、1週間に1回投与されることを特徴とする、項目A1~A16のいずれか一項に記載の方法。
(項目A18)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球を、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該末梢血単核球に導入し、それにより、該末梢血単核球からWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する工程、および生成された該WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を、該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目A19)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞を、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養し、あるいは、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を該未熟樹状細胞に導入し、それにより、WT1提示樹状細胞を誘導する工程、および生成された該樹状細胞を、該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目A19A)
項目A1~A17のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目A18またはA19に記載の方法。
(項目A20)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子により誘導された、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の有効量を投与する工程を含む、方法。
(項目A21)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子により誘導された、WT1提示樹状細胞の有効量を投与する工程を含む、方法。
(項目A21A)
項目A1~A19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目A20またはA21に記載の
方法。
(項目A22)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、有効量のWT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を投与する工程を含む、方法。
(項目A23)
被験体における良性腫瘍を予防または治療する方法であって、該被験体に、有効量のWT1提示樹状細胞を投与する工程を含む、方法。
(項目A23A)
項目A1~A19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目A22またはA23に記載の
方法。
(項目B1)
良性腫瘍を予防または治療するための、WT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B2)
キラー型および/またはヘルパー型を含む、項目B1に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B3)
WT1
126キラーペプチド、WT1
235キラーペプチドおよび/またはWT1
35ヘルパーペプチド、またはいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が、欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドを含む、項目B1またはB2に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B4)
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、またはその薬学上許容される塩である、
項目B1~B3のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B5)
式(2):
【0019】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目B1~B4のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B6)
式(3):
【0020】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目B1~B5のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B7)
さらに、以下のアミノ酸配列:
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)、
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物である、項目B1~B6のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B8)
式(2):
【0021】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目B1~B7のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B9)
式(3):
【0022】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目B1~B8のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体。
(項目B10)
被験体における良性腫瘍を予防または治療するための、WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子。
(項目B11)
RNAおよび/またはDNAを含む、項目
B10に記載の核酸分子。
(項目B12)
アジュバントと併用される、項目B1~B11のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B13)
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、項目B1~B12のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B14)
前記良性腫瘍は、WT1を発現する、項目B1~B13のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B15)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫からなる群より選択される、項目B1~B14のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B16)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、項目B1~B15のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B17)
1週間に1回投与されることを特徴とする、項目B1~B16のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B18)
良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子であって、該WT1ペプチドもしくはその類縁体が、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球と共に培養され、あるいは、該核酸分子が、該末梢血単核球に導入され、それにより、該WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞が誘導される、WT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B19)
良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞を誘導するための、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子であって、該WT1ペプチドまたはその類縁体が、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞と共に培養され、あるいは、該核酸分子が、該未熟樹状細胞に導入され、それにより、該WT1提示樹状細胞が誘導される、WT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B19A)
項目B1~B17のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目B18またはB19に記載の
WT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B20)
良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子。
(項目B21)
良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞を誘導するための、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子。
(項目B21A)
項目B1~B19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目B20またはB21に記載の
WT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子。
(項目B22)
被験体における良性腫瘍を予防または治療するための、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞。
(項目B23)
被験体における良性腫瘍を予防または治療するための、WT1提示樹状細胞。
(項目B23A)
項目B1~B19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目B22
に記載のWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞またはB23に記載の
WT1提示樹状細胞。
(項目C1)
良性腫瘍の予防または治療薬の製造における、WT1ペプチドまたはその類縁体の使用。
(項目C2)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、キラー型および/またはヘルパー型を含む、項目C1に記載の使用。
(項目C3)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体は、WT1
126キラーペプチド、WT1
235キラーペプチドおよび/またはWT1
35ヘルパーペプチド、またはいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が、欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドを含む、項目C1またはC2に記載の使用。
(項目C4)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
RMFPNAPYL (配列番号2)、
RYFPNAPYL (配列番号46)、
YMFPNAPYL (配列番号14)、
CYTWNQMNL (配列番号45)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
C-CYTWNQMNL(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、および
C-CMTWNQMNL(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、またはその薬学上許容される塩である、
項目C1~C3のいずれか一項に記載の使用。
(項目C5)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0023】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目C1~C4のいずれか一項に記載の使用。
(項目C6)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0024】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩である、
項目C1~C5のいずれか一項に記載の使用。
(項目C7)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、さらに
以下のアミノ酸配列:
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)、
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物である、項目C1~C6のいずれか一項に記載の使用。
(項目C8)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(2):
【0025】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目C1~C7のいずれか一項に記載の使用。
(項目C9)
前記WT1ペプチドまたはその類縁体が、
式(3):
【0026】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物である、
項目C1~C8のいずれか一項に記載の使用。
(項目C10)
良性腫瘍の予防または治療薬の製造における、WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子の使用。
(項目C11)
前記核酸分子は、RNAおよび/またはDNAを含む、項目
C10に記載の使用。
(項目C12)
前記WT1ペプチドもしくはその類縁体、または核酸分子が、アジュバントと併用される、項目C1~C11のいずれか一項に記載の使用。
(項目C13)
前記アジュバントがMontanide(登録商標) ISA51アジュバントである、項目C1~C12のいずれか一項に記載の使用。
(項目C14)
前記良性腫瘍は、WT1を発現する、項目C1~C13のいずれか一項に記載の使用。
(項目C15)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫からなる群より選択される、項目C1~C14のいずれか一項に記載の使用。
(項目C16)
前記良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症である、項目C1~C15のいずれか一項に記載の使用。
(項目C17)
前記WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子が、1週間に1回投与されることを特徴とする、項目C1~C16のいずれか一項に記載の使用。
(項目C18)
良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の製造における、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドもしくはその類縁体、または、上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子の使用であって、該WT1ペプチドもしくはその類縁体が、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球と共に培養され、あるいは、該核酸分子が、該末梢血単核球に導入され、それにより、該WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞が誘導される、使用。
(項目C19)
良性腫瘍の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞の製造における、上記項目のいずれか一項に記載のWT1ペプチドまたはその類縁体、または上記項目のいずれか一項に記載の核酸分子
の使用であって、該WT1ペプチドまたはその類縁体が、良性腫瘍の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞と共に培養され、あるいは、該核酸分子が、該未熟樹状細胞に導入され、それにより、該WT1提示樹状細胞が誘導される、
使用。
(項目C19A)
項目C1~C17のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目C18またはC19に記載の
使用。
(項目C20)
良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の製造における、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子の使用。
(項目C21)
良性腫瘍の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞の製造における、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子の使用。
(項目C21A)
項目C1~C19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目C20またはC21に記載の
使用。
(項目C22)
良性腫瘍の予防または治療薬の製造における、WT1特異的CTLs、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の使用。
(項目C23)
良性腫瘍の予防または治療薬の製造における、WT1提示樹状細胞の使用。
(項目C23A)
項目C1~C19のいずれか1つまたは複数に記載の1つまたは複数の特徴をさらに含む、項目C22またはC23に記載の
使用。
【0027】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、良性腫瘍の予防、遅延および治療が達成される。例示的な実施形態では、本発明によって、家族性大腸腺腫症の予防、遅延および治療が達成される。別の局面では、本発明によって、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の腺腫から生じた症状の予防、遅延および治療が達成される。
【0029】
さらに、本開示のWT1ペプチドがんワクチンは、投与部位の皮膚の発赤・腫脹以外には重篤な副作用がなく、非常に安全性が高い。よって、WT1ペプチドがんワクチンは、安全にそして容易にほとんどの良性腫瘍患者および家族性大腸腺腫症患者に投与することができ、患者のQOLの観点からも、内視鏡的切除や手術の回避による医療費軽減の経済的効果の観点からも、従来技術よりも優れているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、ヒト家族性大腸腺腫症患者の腺腫において、WT1タンパク質が発現されたことを示す顕微鏡写真である。左の写真は、腺腫組織の写真を示し、右の写真は、正常腺管の写真を示す。両方の写真において、薄い染色はWT1タンパク質を示し、濃く円形に染色された領域は核を示す。
【
図2】
図2は、APC
Min/+マウスにおけるWT1タンパク質の発現を示す顕微鏡写真である。上から順に、5倍、10倍、20倍の倍率での顕微鏡写真を示す。それぞれの写真の左下にスケールバーを示し、上から順に、500μm、250μm、100μmの長さを示す。それぞれの組織の右下の写真は、組織の全体像において、拡大された領域を示す。いずれの写真においても、濃い染色はWT1タンパク質を示し、円形に染色された領域は核を示す。
【
図3】
図3は、APC
Min/+マウスにおけるWT1タンパク質の発現を示す顕微鏡写真である。拡大倍率は40倍であり、写真の左下に100μmの長さを示すスケールバーを示す。濃い染色はWT1タンパク質を示し、円形に染色された領域は核を示す。
【
図4】
図4は、APC
Min/+マウスに、WT1ペプチドワクチンを投与した実験の投与スキームを示す。上の横軸は、APC
Min/+マウスの週齢、ワクチンの投与時期および安楽死させ解析に供した時期を示す。上の横軸において、下部の数字はマウスの週齢を示し、上部の短い矢印はワクチンを投与した時期を示し、上部の長い矢印は安楽死させ解析に供した時期を示す。横軸の下に、WT1ワクチンとコントロールワクチンとの組成を示す。
【
図5】
図5は、WT1ペプチドワクチンの投与による腺腫の発症の抑制を示すグラフである。グラフの縦軸は小腸あたりの腺腫数を示し、左側の散布図はWT1ペプチドワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示し、右側の散布図はコントロールワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示す。それぞれの散布図における横線は、平均値を示し、グラフの上部に有意差検定の結果を示す。
【
図6】
図6は、WT1ペプチドワクチンの投与によってWT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞が増加したことを示すグラフである。グラフの縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T 細胞の頻度を示し、左側の散布図はWT1ペプチドワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示し、右側の散布図はコントロールワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示す。それぞれの散布図における横線は、平均値を示し、グラフの上部に有意差検定の結果を示す。
【
図7】
図7は、WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群
の回帰分析を示すグラフである。グラフの縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T 細胞の頻度を示し、横軸は小腸あたりの腺腫数を示す。各点は、WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群
の腺腫数とWT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T 細胞の頻度をグラフ上にプロットしたものである。グラフ中の直線は回帰直線を示し、右側に上から順に相関係数(R)、回帰直線の関数の式、決定係数(R
2)を示す。
【
図8】
図8は、APC
Min/+マウスに、WT1ペプチドワクチンを投与する実験の投与スキームを示す。上の横軸は、APC
Min/+マウスの週齢、ワクチンの投与時期および安楽死させ解析に供した時期を示す。上の横軸において、下部の数字はマウスの週齢を示し、上部の短い矢印はワクチンを投与する時期を示し、上部の長い矢印は安楽死させ解析に供する時期を示す。横軸の下に、WT1ワクチンとコントロールワクチンとの組成を示す。
【
図9】
図9は、ヒト非遺伝性の大腸腺腫症患者の腺腫において、WT1タンパク質が発現されたことを示す顕微鏡写真である。左から1番目の写真は、正常腺管の写真を示し、右側3枚の写真は、それぞれ3名の非遺伝性の大腸腺腫症患者から得られた腺腫組織の写真を示す。すべての写真において、薄い染色はWT1タンパク質を示し、濃く円形または楕円形に染色された領域は核を示す。各写真の下にWT1タンパク質の発現レベルを示し、(-)は発現レベルが低いことを、(+)は発現レベルが高いことを示す。
【
図10】
図10は、APC
Min/+マウスに、本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物を投与した実験の投与スキームを示す。横軸は、APC
Min/+マウスの週齢、ワクチンの投与時期および安楽死させ解析に供した時期を示す。横軸において、下部の数字はマウスの週齢を示し、上部の矢印はワクチンを投与した時期、および安楽死させ解析に供した時期を示す。
【
図11】
図11は、本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物の投与による腺腫の発症の抑制を示すグラフである。グラフの縦軸は小腸あたりの腺腫数を示し、左側の散布図はWT1ペプチドワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示し、右側の散布図はコントロールワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示す。それぞれの散布図における横線は、平均値を示し、グラフの上部に有意差検定の結果を示す。
【
図12】
図12は、本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物の投与によってWT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞が増加したことを示すグラフである。グラフの縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞の頻度を示し、左側の散布図は本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物を投与したAPC
Min/+マウスの結果を示し、右側の散布図はコントロールワクチンを投与したAPC
Min/+マウスの結果を示す。それぞれの散布図における横線は、平均値を示し、グラフの上部に有意差検定の結果を示す。
【
図13】
図13は、本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物投与群とコントロールワクチン投与群
の回帰分析を示すグラフである。グラフの縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T 細胞の頻度を示し、横軸は小腸あたりの腺腫数を示す。各点は、本明細書において式(3)で示す化合物およびWT1
35ペプチドを含む混合物投与群とコントロールワクチン投与群
の腺腫数とWT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T 細胞の頻度をグラフ上にプロットしたものである。グラフ中の直線は回帰直線を示し、右側に上から順に相関係数(R)、回帰直線の関数の式、決定係数(R
2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0032】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0033】
(用語の定義)
本明細書において「WT1(Wilms Tumor Gene 1)」、「WT1タンパク質」または「WT1ペプチド」とは、ウィルムス腫瘍(WT1)遺伝子産物またはその類縁体の少なくとも一部(全部であってよい)を含むポリペプチドをいう。「WT1タンパク質」としては、具体的には、代表的には、449個のアミノ酸からなるヒトWT1タンパク質(配列番号1)、または、このアミノ酸配列において、1もしくは数個(好ましくは、約2~6個)のアミノ酸が欠失、置換および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質が好ましく挙げられる。挿入されるアミノ酸または置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。「WT1ペプチド」とは、WT1タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部からなるペプチドをいう。本明細書において、「WT1」または「WT1ペプチド」という場合、特に断らない限り、変異型のWT1を包含するものとする。また、本明細書において、WT1またはWT1ペプチドに言及する場合、特に断らない限り、ヒトのWT1をいう。
【0034】
本開示に用いられるWT1ペプチドの長さは特に限定されないが、約7個~約30個のアミノ酸からなるものが好ましい。好ましいWT1ペプチドは、HLA分子に結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)を有し、HLA分子との結合能を有するものである。HLA分子との結合能は、当該技術分野において既知の方法により調べることができる。かかる方法として、例えば、Rankpep、BIMAS、SYFPEITHIなどのコンピューターベースの方法、HLA分子に対する結合能を有する既知のWT1ペプチドとの競合的結合試験などがある。本開示で用いられ得るWT1ペプチドとしては、本明細書中(WT1ペプチド)の項に説明され、WO2016/093326においても、説明されており、これらは、参考として援用される。
【0035】
本開示に用いられる好ましいWT1ペプチドは、キラーT細胞および/またはヘルパーT細胞を活性化するものである。キラーT細胞および/またはヘルパーT細胞の活性化は、単独のペプチドが担ってもよく、複数のペプチドが担っていても(分業している)よい。また、本開示の医薬組成物に使用するWT1ペプチドは1種類であってもよく、複数種類であってもよい。また、本開示の医薬または医薬組成物に使用するWT1ペプチドはキラーWT1ペプチドであってもよく、あるいはヘルパーWT1ペプチドであってもよく、これらを混合して用いてもよい。本開示のWT1ペプチドは、単独のペプチドであってもよく、複数のペプチドのコンジュゲート、混合物または組合せであってもよい。より好ましいWT1ペプチドとしては、キラーWT1ペプチドとヘルパーWT1ペプチドとの組み合わせを含み得る。例えば、そのような組み合わせの例としては、WO2014/157692に記載される化合物または組成物などを挙げることができる。
【0036】
本明細書において「良性腫瘍」とは、病理学的に悪性所見を持たない腫瘍であり、悪性腫瘍とは異なるものと理解される。転移や浸潤傾向を示さないとされている。良性腫瘍の診断は必ずしも臨床的な予後が良好であることを意味しない。例えば脳幹部に発生した低異型度髄膜腫は良性腫瘍であるが、治療困難であり、かつ脳幹を圧迫して予後不良であるため臨床悪性であるため、治療や予防が必要とされる場合も多い。良性腫瘍としては、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、や膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、血管腫等をあげることができるがこれらに限定されない。
【0037】
本明細書において、「家族性大腸腺腫症」、「家族性大腸ポリポーシス」、「家族性腺腫性ポリポーシス」または「FAP」との用語は、互換的に使用され、がん抑制遺伝子APC(adenoma polyposis coli)の変異を特徴とし、腸管に多数の腺腫が形成される遺伝性疾患をいい、良性腫瘍に分類される。本明細書において、家族性大腸腺腫症には、ガードナー症候群などの、腸管以外の組織における腫瘍が併発した疾患も包含される。代表的な家族性大腸腺腫症のモデル動物としては、APCMin/+マウス(Jackson研究所、Bar Harbor、Maine、USA)が挙げられるがこれに限定されない。
【0038】
本明細書において、「キラー型」、「キラーペプチド」などの用語は、細胞傷害性T細胞(CTL、キラーT細胞)を活性化させる能力を有するペプチドを意味する。キラーT細胞の活性化とは、キラーT細胞の有する細胞傷害活性が増大すること、および/またはキラーT細胞の数が増大することをいう。「キラー(型)」であるかどうかは、代表的には、以下の試験により判定する。すなわち、フローサイトメトリーなどの手法によって、CD8がT細胞の表面に発現することによって判定することができる。代替的に、51Cr放出アッセイおよび乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイ等によって標的細胞傷害活性を測定することによっても判定することができる。好ましい実施形態では、本開示のWT1ペプチドは、このキラー型の活性を有する。
【0039】
MHCは、ヒトではヒト白血球型抗原(HLA)と呼ばれる。MHCクラスI分子に相当するHLAは、HLA-A、B、Cw、FおよびGなどのサブタイプに分類される。「MHCクラスI拘束性」として、好ましくは、HLA-A拘束性、HLA-B拘束性またはHLA-Cw拘束性が挙げられる。
【0040】
HLAの各サブタイプについて、多型(対立遺伝子)が知られている。HLA-Aの多型としては、HLA-A1、HLA-A0201、HLA-A24などの27種以上が挙げられ、HLA-Bの多型としては、HLA-B7、HLA-B40、HLA-B4403などの59種以上が挙げられ、HLA-Cwの多型としては、HLA-Cw0301、HLA-Cw0401、HLA-Cw0602などの10種以上が挙げられる。これら多型の中、好ましくは、HLA-A0201やHLA-A24が挙げられる。
【0041】
本開示における「WT1ペプチド」とは、配列番号1に記載のヒトのWT1のアミノ酸配列において連続する7~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドである。
【0042】
本開示における「MHCクラスI拘束性」とは、主要組織適合抗原(Major Histocompatibility Complex、MHC)のクラスIであるMHCクラスI分子と結合してCTLを誘導する特性を意味する。「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」は、インビトロおよび/またはインビボで、MHCクラスI抗原に結合し、複合体として提示されるペプチドであり、且つ該複合体が前駆体T細胞に認識された結果CTLを誘導するペプチドを意味することから、WT1キラーペプチドと同義である。「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」のアミノ酸残基は、7~30であり、好ましくは7~15であり、より好ましくは8~12であり、更に好ましくは8~11であり、最も好ましくは8または9である。
【0043】
「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」としては、例えば、配列番号1に示すヒトWT1のアミノ酸配列において、2位、3位、4位、6位、7位、10位、17位、18位、20位、23位、24位、26位、29位、30位、32位、33位、37位、38位、39位、40位、47位、63位、64位、65位、70位、73位、80位、81位、82位、83位、84位、85位、86位、88位、92位、93位、96位、98位、99位、100位、101位、104位、107位、110位、118位、119位、120位、123位、125位、126位、128位、130位、136位、137位、138位、139位、141位、143位、144位、146位、152位、161位、163位、165位、168位、169位、174位、177位、179位、180位、185位、187位、191位、192位、194位、202位、204位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、213位、217位、218位、219位、221位、222位、223位、225位、227位、228位、230位、232位、233位、235位、239位、240位、242位、243位、244位、250位、251位、252位、260位、261位、263位、269位、270位、272位、273位、276位、278位、279位、280位、285位、286位、287位、289位、292位、293位、294位、295位、298位、299位、301位、302位、303位、306位、309位、312位、313位、315位、316位、317位、318位、319位、324位、325位、326位、327位、329位、332位、334位、337位、340位、343位、345位、347位、349位、351位、354位、356位、358位、362位、363位、364位、366位、368位、371位、372位、373位、375位、379位、383位、384位、386位、387位、389位、390位、391位、394位、396位、401位、406位、408位、409位、410位、412位、415位、416位、417位、418位、419位、420位、423位、424位、425位、426位、427位、428位、429位、432位、433位、434位、436位、437位、439位、440位もしくは441位から開始される9アミノ酸残基のペプチド、またはその改変体を含むペプチドが挙げられる(国際公開第2014/157692号を参照)。国際公開第2014/157692号は、その全体が、本明細書において、参考として援用される。
【0044】
「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」として、好ましくは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL (配列番号2)、
CMTWNQMNL (配列番号3)、
ALLPAVPSL (配列番号52)、
SLGEQQYSV (配列番号53)および
RVPGVAPTL (配列番号54)
の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、または配列番号2、3、52、53および54の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドが挙げられる。さらに好ましくは、配列番号2、3、52、53および54の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0045】
本開示における「WT1ペプチドまたはその類縁体」が、キラーペプチドの場合には、アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドを意味する。
【0046】
本開示における「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチド」は、「改変キラーペプチド」とも呼ばれる。当該改変キラーペプチドは、アミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIに結合し、CTLを誘導するペプチドを意味する。置換されるアミノ酸の置換位置としては、9残基のアミノ酸配列からなるペプチドの場合、1位(N末端)、2位、3位および9位が挙げられる。付加(挿入も包含される)されるアミノ酸の数は、通常1~数個であり、好ましくは1~3個、より好ましくは1または2個、さらに好ましくは1個である。好ましい付加位置としては、C末端が挙げられる。欠失されるアミノ酸の数は好ましくは1である。改変において、付加されるアミノ酸または置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
【0047】
改変キラーペプチドとしては例えば、次のようなペプチドが挙げられる。
RMFPNAPYL (配列番号2)の改変キラーペプチドである
RYFPNAPYL (配列番号46)(国際公開第2003/106682号参照);
FMFPNAPYL (配列番号13)、
RLFPNAPYL (配列番号18)、
RMMPNAPYL (配列番号25)、
RMFPNAPYV (配列番号28)もしくは
YMFPNAPYL (配列番号14)(国際公開第2009/072610号参照);
CMTWNQMNL (配列番号3)の改変キラーペプチドである
CYTWNQMNL (配列番号45)(国際公開第2002/79253号参照);
Xaa-Met-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu (配列番号55)(本配列中XaaはSerまたはAlaを表す)もしくは
Xaa-Tyr-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu (配列番号56)(本配列中XaaはSer、Ala、Abu、Arg、Lys、Orn、Cit、Lue、PheまたはAsnを表す)(国際公開第2004/026897号参照);
ALLPAVPSL (配列番号52)の改変キラーペプチドである
AYLPAVPSL (配列番号57)(国際公開第2003/106682号参照);
SLGEQQYSV (配列番号53)の改変キラーペプチドである
FLGEQQYSV (配列番号58)、
SMGEQQYSV (配列番号59)もしくは
SLMEQQYSV (配列番号60)(国際公開第2009/072610号参照);または
RVPGVAPTL (配列番号54)の改変キラーペプチドである
RYPGVAPTL (配列番号61)(国際公開2003/106682号参照)。
【0048】
配列番号:1に記載のヒトのWT1のアミノ酸配列において連続する8~35残基のアミノ酸からなる部分ペプチドではないアミノ酸配列としては、例えば次のようなアミノ酸配列が挙げられる(国際公開2007/063903号参照)。
【0049】
C-CYTWNQMNL (配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)または
C-CMTWNQMNL (配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)。
【0050】
本開示の改変キラーペプチドには、例えば次のような二量体に多量体ペプチドも含まれる(国際公開第2014/157692号参照)。
式(2):
【0051】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物、
式(3):
【0052】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物、もしくは、
式(4)
【0053】
【化3】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物。
【0054】
本明細書において、「ヘルパー型」、「ヘルパーペプチド」などの用語は、ヘルパーT細胞を活性化させる能力を有するペプチドを意味する。ヘルパーT細胞の活性化とは、ヘルパーT細胞の有する、B細胞の抗体産生やキラーT細胞の活性化などを補助する機能が増大すること、および/またはヘルパーT細胞の数が増大することをいう。「ヘルパー(型)」であるかどうかは、代表的には、以下の試験により判定する。すなわち、フローサイトメトリーなどの手法によって、CD4がT細胞の表面に発現することによって判定することができる。代替的に、目的細胞を抗原で刺激し、抗原特異的にIFN-αおよびIFN-γ等のサイトカインが産生されたことを、免疫染色法によって解析することによっても判定することができる。
【0055】
本開示における「MHCクラスII拘束性」とは、MHCクラスII分子と結合してヘルパーT細胞を誘導する特性を意味する。
【0056】
MHCクラスII分子に相当するHLAは、HLA-DR、DQおよびDPなどのサブタイプに分類される。「MHCクラスII拘束性」として、好ましくは、HLA-DR拘束性、HLA-DQ拘束性またはHLA-DP拘束性が挙げられる。
【0057】
よって、本開示における「MHCクラスII拘束性WT1ペプチド」tpは、インビトロおよび/またはインビボで、MHCクラスII抗原に結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。「MHCクラスII拘束性WT1ペプチド」のアミノ酸残基数は、7~30であり、好ましくは14~30である。
【0058】
本開示における「WT1ペプチドまたはその類縁体」が、ヘルパーペプチドの場合には、アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチドを意味する。
【0059】
本開示における「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチド」は、「改変ヘルパーペプチド」とも呼ばれる。当該改変ヘルパーペプチドは、アミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が、欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIIに結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。付加(挿入も包含される)されるアミノ酸の数は好ましくは1~3である。欠失されるアミノ酸の数は好ましくは1~5である。改変において、付加されるアミノ酸または置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然のアミノ酸であってもよい。
【0060】
改変ヘルパーペプチドとしては例えば、次のようなペプチドが挙げられる。
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号69)の改変ヘルパーペプチドである
SGQAYMFPNAPYLPSCLES (配列番号70)(国際公開第2004/063217号参照)
SGQARMFPNAPYLPSC (配列番号71)もしくは
SGQAYMFPNAPYLPSC (配列番号72);または
PGCNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号49)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号62)、
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号64)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号65)もしくは
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号66);または
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)もしくは
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)。
【0061】
本開示の「WT1ペプチドまたはその類縁体」は、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドの組成物とすることでキラー型およびヘルパー型の両方の活性をも有する。キラー型およびヘルパー型の両方の活性ものとしては例えば、次のようなものが挙げられる。
式(2):
【0062】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物、
式(3):
【0063】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物、および
式(4)
【0064】
【化3】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物からなる群から選択される化合物、またはその薬学上許容される塩と、
以下のアミノ酸配列:
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号63)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号64)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号65)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号50)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号51)
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
その薬学上許容される塩を一つ以上含む組成物;
式(2):
【0065】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物;および
式(3):
【0066】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物またはその薬学上許容される塩と、
アミノ酸配列: WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号4)からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩を含む組成物。
【0067】
本明細書において、「アジュバント」とは、主剤(例えば、本開示におけるWT1ペプチド)に対する補助剤を意味する。本開示において、アジュバントは、治療薬または予防薬においてWT1ペプチドが惹起する免疫応答を、増強または改良する物質をいう。本開示において、アジュバントとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペスまたはカルボキシビニルポリマーなどの沈降性アジュバントであってもよく、または流動パラフィン、ラノリン、フロイント、Montanide ISA763AVG、Montanide ISA51、不完全フロイントアジュバントまたは完全フロイントアジュバントなどの油性アジュバントであってもよい。
【0068】
本明細書において、「腺腫」とは、ポリープのうち、がん化の危険性が高いものをいう。「ポリープ」とは、小腸、大腸または直腸などの腸管組織の内壁にできた、きのこ状やイボ状の隆起性病変の総称をいう。腺腫は、腫瘍性ポリープであり、大腸がんなどのがんに変化する危険性が高い。
【0069】
腺腫の中でも、大腸において発症した腺腫は、「大腸腺腫」と総称される。大腸腺腫としては、遺伝性の大腸腺腫(例えば、家族性大腸腺腫症など)、および非遺伝性の大腸腺腫症が存在する。「非遺伝性の大腸腺腫症」とは、APC遺伝子における変異を特徴とせず、生活習慣、食生活、飲酒、喫煙、ストレスなどを要因とし、腸管に多数の腺腫が形成される疾患をいい、良性腫瘍に分類される。
【0070】
本明細書において使用する場合、「治療」するとは、既に発症している本開示の標的とする疾患、障害または症状の進行を止め、好ましくは治癒させることをいう。治療効果の判定については、「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン」(RECIST)<http://www.jcog.jp/doctor/tool/C_150_0010.pdfより入手可能>またはその最新版によって行うことができる。WHOまたはRECIST基準による裁量効果の定義は以下のようになっている。
【0071】
【0072】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、家族性大腸腺腫症等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本開示の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。
【0073】
本明細書において使用する場合、「予防」するとは、本開示の標的とする疾患、障害または症状が発生する前に、何らかの手段により、その疾患、障害または症状を生じさせないかまたは少なくとも遅延させること、あるいは疾患、障害または症状の原因自体が生じたとしてもそれが原因の障害が生じないような状態にすることをいう。
【0074】
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、家族性大腸腺腫症等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0075】
本明細書において使用する場合、「改善」するとは、既に発症している本開示の標的とする疾患、障害または症状の進行を、完全または部分的に拘わらず、停止させること、または軽減することをいう。
【0076】
本明細書において「被験体(者)」とは、本開示の予防または治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
【0077】
本明細書において、「末梢血単核球」または「PBMC」とは、末梢血から分離された単球やリンパ球を含む単核球または単核細胞をいう。末梢血単核球は、T細胞、B細胞、NK細胞、単球および樹状細胞などの多様な血球細胞を含む。末梢血単核球を刺激することにより、細胞傷害性T細胞やヘルパーT細胞等に分化させることができる。
【0078】
本明細書において、例えば、WT1に対して特異的な細胞傷害性T細胞およびヘルパーT細胞は、それぞれ「WT1特異的細胞傷害性T細胞」および「WT1特異的ヘルパーT細胞」という。本開示に記載されているWT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を用いることで、WT1特異的細胞傷害性T細胞、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導することができる。
【0079】
本明細書において、「未熟樹状細胞」とは、ペプチド、細胞などを感作させることによって、そのペプチドまたは細胞などに対する抗原を提示することができる樹状細胞をいう。未熟樹状細胞を刺激することにより、特定ペプチドを提示する樹状細胞等に分化させることができる。
【0080】
本明細書において、例えば、WT1を提示する樹状細胞は、それぞれ「WT1提示樹状細胞」という。本明細書に記載されているWT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を用いることで、WT1提示樹状細胞を誘導することができる。
【0081】
抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞の誘導または活性化方法は当業者に公知である。インビボでは、WT1ペプチドを対象に投与することにより、これらの細胞を誘導または活性化することができる。インビトロにおいては、例えば、対象由来のリンパ球を含む試料と、WT1ペプチドとHLA分子との複合体とを反応させることにより、キラーT細胞を得てもよい。また例えば、対象由来の末梢血単核球をWT1ペプチドの存在下で培養し、該末梢血単核球からWT1特異的CTLを誘導してもよい。また例えば、対象由来の未熟抗原提示細胞をWT1ペプチドの存在下で培養することにより、HLA分子を介してWT1ペプチドを提示する抗原提示細胞を誘導してもよい。未熟抗原提示細胞は、成熟して抗原提示細胞となり得る細胞をいい、未熟樹状細胞などが例示される。また例えば、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞を活性化してもよい。本開示の医薬または組成物に使用する抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞は、いずれかのWT1ペプチドまたはその誘導体、あるいは核酸分子を用いて誘導または活性化されたものであってもよい。このようにして誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を対象に、好ましくはこれらの細胞を得た対象に投与して、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療および予防を行うことができる。
【0082】
本明細書で使用される(WT1ペプチド等の)「類縁体」、「誘導体」、「類似体」または「変異体」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となるタンパク質(例えば、WT1ペプチド)に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、(高度に)ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、タンパク質を改変した産物であり、その誘導体がなお元のタンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本明細書で使用される「機能的に活性な」または「機能的活性を有する」は、本明細書において、本開示のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有することを指す。
【0083】
本開示において、WT1ペプチドのフラグメントとは、WT1ペプチドの任意の領域を含むポリペプチドであり、本開示の目的(例えば、ペプチドワクチン)として機能する限り、必ずしも天然のWT1ペプチドの生物学的機能のすべてを有していなくてもよい。
【0084】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本開示の実施形態に係るタンパク質または酵素が「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本開示の実施形態に係る蛋白質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。蛋白質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、または側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。アミノ酸は、本開示の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0085】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260: 2605-2608(1985);Rossolini et al., Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0086】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0087】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本開示の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
【0088】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.7.1(2017.10.19発行)を用いて行うことができる。本明細書における「同一性」の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。「類似性」は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0089】
本開示の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA.1984 Sep;81(18): 5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。欠失等がなされたタンパク質は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、またはタンパク質ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus-Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型タンパク質から、野生型と同様の活性のあるタンパク質を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0090】
本開示の一実施形態において同一性等の数値である「70%以上」は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%であってもよく、それら起点となる数値のいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「同一性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、上述したような公知の方法に従って算定される。具体的に説明すると、割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該分野で従来からよく知られている(例えば、上述したBLAST等)。本明細書において「同一性」および「類似性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0091】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本開示のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(saline-sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65~68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1-38, DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:ALaboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40-50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC-6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本開示において使用されるポリペプチドには、本開示で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0092】
本開示のWT1ペプチドは、好ましくは「精製された」または「単離された」ものであり得る。本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0093】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものががんワクチンとして機能する場合、そのフラグメント自体もまたがんワクチンとしての機能を有する限り、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0094】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内または生体外において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、キラーT細胞またはヘルパーT細胞の活性化等を挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、対応する「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、キラーT細胞またはヘルパーT細胞の活性化)を発揮する活性が包含される。「生物学的活性」は、生体内で発揮される活性であっても、分泌などによって生体外で発揮される活性であってもよい。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本開示のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度も含まれ得る。
【0095】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、WT1の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、WT1のmRNAの量、WT1タンパク質の量、そしてWT1タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、WT1の発現レベルを知ることができる。WT1のmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0096】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、本開示の「WT1ペプチド」の機能的等価物は、配列番号1と同一配列を有するものではないが、その変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、WT1ペプチドの持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、そのWT1ペプチドの持つ生物学的作用を持つ変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、その変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本開示において、WT1ペプチドの機能的等価物は、格別に言及していなくても、WT1ペプチドと同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本開示において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0097】
本開示の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個あるいは1個のアミノ酸の挿入、置換、および/もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、配列番号1~5のいずれかアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0098】
(WT1ペプチド)
本開示において、WT1ペプチドとしては、細胞傷害性T細胞またはヘルパーT細胞の活性化を誘導する、WT1タンパク質由来のペプチドが挙げられる。WT1ペプチドとしては、細胞傷害性T細胞の活性化を誘導するWT1キラーペプチドと、ヘルパーT細胞の活性化を誘導するWT1ヘルパーペプチドとが挙げられる。WT1キラーペプチドとしては、WT1タンパク質由来の8~12個のアミノ酸からなるペプチドが挙げられ、好ましくは8~9個のアミノ酸からなるペプチドが挙げられる。また、特に好ましくは、WT1126ペプチド:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号2)、またはWT1235ペプチド:Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号3)、または式(3)
【0099】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
に示される、WT1
126ペプチドとWT1
235m
ペプチドとのコンジュゲートである。WT1ヘルパーペプチドとしては、WT1タンパク質由来の14~20個のアミノ酸からなるペプチドが挙げられ、好ましくは16~18個のアミノ酸からなるペプチドが挙げられる。また、特に好ましくは、WT1
35ペプチド(Trp Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu;配列番号4)、またはWT1
332ペプチド:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His)(配列番号5)である。WT1ペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された改変ペプチドも、本開示におけるWT1ペプチドとして用いることができる。このような改変ペプチドとしては、WT1
126ペプチドの改変ペプチド、WT1
235ペプチドの改変ペプチド、WT1
35ペプチドの改変ペプチド、およびWT1
332ペプチドの改変ペプチドが挙げられる。
【0100】
WT1126ペプチドの改変ペプチドとしては、N末端から4~8番目のアミノ酸残基がWT1126ペプチドのN末端から4~8番目のアミノ酸残基(PNAPY)と同じであるペプチドが好適である。このようなWT1126ペプチドの改変ペプチドとしては、以下の配列番号6~44のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
WT1126P1Gペプチド(GMFPNAPYL;配列番号6)
WT1126P1Aペプチド(AMFPNAPYL;配列番号7)
WT1126P1Vペプチド(VMFPNAPYL;配列番号8)
WT1126P1Lペプチド(LMFPNAPYL;配列番号9)
WT1126P1Iペプチド(IMFPNAPYL;配列番号10)
WT1126P1Mペプチド(MMFPNAPYL;配列番号11)
WT1126P1Wペプチド(WMFPNAPYL;配列番号12)
WT1126P1Fペプチド(FMFPNAPYL;配列番号13)
WT1126P1Yペプチド(YMFPNAPYL;配列番号14)
WT1126P2Vペプチド(RVFPNAPYL;配列番号15)
WT1126P2Qペプチド(RQFPNAPYL;配列番号16)
WT1126P2Aペプチド(RAFPNAPYL;配列番号17)
WT1126P2Lペプチド(RLFPNAPYL;配列番号18)
WT1126P2Iペプチド(RIFPNAPYL;配列番号19)
WT1126P3Iペプチド(RMIPNAPYL;配列番号20)
WT1126P3Lペプチド(RMLPNAPYL;配列番号21)
WT1126P3Gペプチド(RMGPNAPYL;配列番号22)
WT1126P3Aペプチド(RMAPNAPYL;配列番号23)
WT1126P3Vペプチド(RMVPNAPYL;配列番号24)
WT1126P3Mペプチド(RMMPNAPYL;配列番号25)
WT1126P3Pペプチド(RMPPNAPYL;配列番号26)
WT1126P3Wペプチド(RMWPNAPYL;配列番号27)
WT1126P9Vペプチド(RMFPNAPYV;配列番号28)
WT1126P9Aペプチド(RMFPNAPYA;配列番号29)
WT1126P9Iペプチド(RMFPNAPYI;配列番号30)
WT1126P9Mペプチド(RMFPNAPYM;配列番号31)
WT1126P1Dペプチド(DMFPNAPYL;配列番号32)
WT1126P1Eペプチド(EMFPNAPYL;配列番号33)
WT1126P1Hペプチド(HMFPNAPYL;配列番号34)
WT1126P1Kペプチド(KMFPNAPYL;配列番号35)
WT1126P1Nペプチド(NMFPNAPYL;配列番号36)
WT1126P1Pペプチド(PMFPNAPYL;配列番号37)
WT1126P1Qペプチド(QMFPNAPYL;配列番号38)
WT1126P1Sペプチド(SMFPNAPYL;配列番号39)
WT1126P1Tペプチド(TMFPNAPYL;配列番号40)
WT1126P2I&P9Iペプチド(RIFPNAPYI;配列番号41)
WT1126P2I&P9Vペプチド(RIFPNAPYV;配列番号42)
WT1126P2L&P9Iペプチド(RLFPNAPYI;配列番号43)
WT1126P2L&P9Vペプチド(RLFPNAPYV;配列番号44)
WT1235ペプチドの改変ペプチドとしては、WT1235:Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号3)、またはWT1235m:Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号45)を含む、あるいはからなるペプチド、配列番号3または45のアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドの二量体、配列番号3または45のアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドのシスチン体、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。WT1235ペプチドの改変ペプチドの中でも、WT1235mペプチドは、HLA-A*24:02(日本人最多のHLA型)拘束性WT1ペプチドであり、野生型のWT1235ペプチドよりも治療有効性が高く、水への可溶性に優れることから、特に好ましい。
【0101】
これらの改変ペプチドとしては、例えば次のようなものが挙げられる。
Cys-Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号47)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、またはCys-Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号48)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)は、N末端システイン残基のチオール基を修飾することによって、特に物理化学的性質および安定性に優れる(国際公開第2007/063903号参照)。
【0102】
広くHLAサブタイプをカバーする観点から、本実施形態におけるWT1ペプチドの改変ペプチドとしては、それぞれ異なるHLAのサブタイプに対応する複数のペプチドを含むことが好ましい。例えば、HLAサブタイプA2タイプに対応する上記ペプチドまたはその薬学上許容される塩およびHLAサブタイプA24タイプに対応する上記ペプチドまたはその薬学上許容される塩の両方を含むことが好ましい。そのような場合には、例えば、医薬組成物は、式(1):
【0103】
【0104】
[式中、XaおよびYaは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:RMFPNAPYL(配列番号2)、ALLPAVPSL(配列番号52)、SLGEQQYSV(配列番号53)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、YMFPNAPYL(配列番号14)およびVLDFAPPGA(配列番号68)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
R1は、水素原子または腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:CMTWNQMNL(配列番号3)およびCYTWNQMNL(配列番号45)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物またはその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。
【0105】
上記式(1)で表される化合物は、システイン残基がジスルフィド結合を形成していること等により、溶液中での酸化剤などに対する安定性に優れており、医薬品原料として一定の品質を有する。
【0106】
また、本実施形態におけるWT1ペプチドの改変ペプチドが、上記式(1)で表される化合物(WT1キラーペプチドの結合体)を含む場合、体内でERAP1によるN末端のシステイン残基間のジスルフィド結合の還元的開裂により、結合体が分解され、異なるHLAサブタイプに対応する2種類のエピトープが生成される。式(1)で表される結合体のように、異なるHLAサブタイプに対応する複数種類のエピトープが体内において生成される結合体は、対象により異なるHLAサブタイプに広く対応可能であり、大きなPopulationを一つの結合体によりカバーすることができるため、対象において効率的にCTLを誘導することができる(国際公開2014/157692号参照、なお、国際公開2014/157692号は、本明細書においてその全体が参考として援用される。)。
本実施形態における「腫瘍抗原ペプチドA」とは、7~30残基のアミノ酸からなるMHCクラスI拘束性WT1ペプチドである。式(1)において腫瘍抗原ペプチドAは、N末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYaと結合し、C末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合する。
また、上記式(1)で表される化合物は、式(2):
【0107】
【化1】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物であってもよく、式(3):
【0108】
【化2】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物であってもよく、式(4):
【0109】
【化3】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物であってもよい。
【0110】
WT135ペプチドの改変ペプチドとしては、配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、または欠失もしくは付加されたアミノ酸配列であれば特に限定されない。
【0111】
WT1332ペプチドの改変ペプチドとしては、配列番号5に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、または欠失もしくは付加されたアミノ酸配列であれば特に限定されない。好ましい実施形態では、WT1332ペプチドの改変ペプチドとしては、配列番号5に示されるWT1332ペプチドの第3位、第6位、第8位および/または第11位のアミノ酸残基が、
第3位:フェニルアラニン、トリプトファン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、
第6位:バリン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、
第8位:アスパラギン、セリン、スレオニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、
第11位:アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、
の中から選択されるいずれかのアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなるペプチドが好適である。
【0112】
中でも、WT1126ペプチドの改変ペプチドとしては、WT1126P1Fペプチド(配列番号13)、WT1126P2Lペプチド(配列番号18)、WT1126P3Mペプチド(配列番号25)またはWT1126P9Vペプチド(配列番号28)が好ましく、WT1126P2Lペプチド、WT1126P3MペプチドまたはWT1126P9Vペプチドがより好ましく、WT1126P9Vペプチドがさらに好ましい。
【0113】
本開示の予防または治療薬におけるWT1ペプチドとしては、WT1126ペプチド、WT1126P1Fペプチド、WT1126P2Lペプチド、WT1126P3MペプチドまたはWT1126P9Vペプチドが好ましい。より好ましくは、WT1126ペプチド、WT1126P2Lペプチド、WT1126P3MペプチドまたはWT1126P9Vペプチドであり、さらに好ましくはWT1126ペプチド、またはWT1126P9Vペプチドであり、特に好ましくは、WT1126ペプチドである。
【0114】
また、WT1ペプチドとして、WT1ペプチドの誘導体も用いることができる。例えば、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドの誘導体としては、上記9、16または18個の連続するアミノ酸からなるアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に、種々の物質を結合させたものなどが挙げられる。例えば、アミノ酸、ペプチド、それらのアナログ等を結合させてもよい。理論に拘束されるものではないが、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチド、またはそれらの改変ペプチドにこのような物質が結合している場合、これらの物質が、例えば、生体内酵素などにより、あるいは細胞内プロセッシングなどの過程により処理され、最終的に上記9、16または18個のアミノ酸からなるペプチドを生じ、細胞表面に提示されることにより、WT1特異的CTL反応を引き出すことができる。
【0115】
本実施形態におけるWT1ペプチドまたはその類縁体は、WT1ヘルパーペプチドをさらに含んでいてもよい。本実施形態におけるWT1ペプチドまたはその類縁体が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号63)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号64)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号65)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号4)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号66)およびWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号51)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを更に含む場合には、上記群から選択される他のアミノ酸配列を含むペプチドおよび/またはそれ以外の他のWT1ヘルパーペプチドをさらに含んでいてもよい。
【0116】
WT1ペプチドは、当該技術分野において通常用いられる方法によって製造され得る。例えば、Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966 ; The Proteins, Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976; ペプチド合成、丸善(株)、1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成、広川書店、1991などに記載されているペプチド合成方法によって合成することができる。
【0117】
WT1ペプチドおよび改変ペプチドのスクリーニング方法としては、例えば、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)を有する何人かの患者のPBMCs(末梢血単核球)を用いて、1回のペプチドのみの刺激でIFNγアッセイを行い、反応がよいペプチドを選択する方法が、簡便であるため好ましい。
【0118】
本開示においては、上記のWT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードするDNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドも、予防または治療薬の有効成分として使用することができる。すなわち、WT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを、適切なベクター、好ましくは発現ベクターに挿入した後、ヒトを含む動物に投与することにより、生体内でがん免疫を生じさせることができる。ポリヌクレオチドとしては、DNA、RNAなどが挙げられ、DNAまたはRNAが好ましい。ポリヌクレオチドの塩基配列は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者に対して免疫原性を有するWT1タンパク質またはWT1ペプチドのアミノ酸配列に基づき決定することができる。該ポリヌクレオチドは、例えば、公知のDNAまたはRNA合成法、PCR法などにより製造することができる。このような、WT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードするDNAを含有する予防または治療薬も、本開示の1つである。WT1タンパク質またはWT1ペプチドとしては、WT1ペプチドが好ましく、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドもしくはWT1332ペプチド、もしくはその改変ペプチド、またはその組合せがより好ましく、WT1126ペプチド、WT1235ペプチドもしくはWT135ペプチド、もしくはその改変体ペプチド、またはその組合せがさらに好ましく、式(3)に示す化合物(WT1126ペプチドとWT1235ペプチドとのコンジュゲート)とWT135ペプチドとの組合せが最も好ましい。上記DNAが挿入される発現ベクターとしては、特に限定されない。なお、RNAは、ベクターに挿入せずに、そのまま組成物の有効成分として使用できる。
【0119】
本開示の予防または治療薬は、アジュバントを含有することができる。アジュバントとしては、抗原となるWT1タンパク質またはWT1ペプチドを投与する場合、これらと一緒に、またはWT1タンパク質またはWT1ペプチドとは別に投与して、その抗原に対する免疫応答を非特異的に高める物質であれば限定されない。アジュバントとしては、例えば、沈降性アジュバントまたは油性アジュバントが挙げられる。沈降性アジュバントとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペスまたはカルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。油性アジュバントは油が抗原水溶液を包んでミセルをつくることができるものが好ましく、例えば具体的には、流動パラフィン、ラノリン、フロイント、Montanide ISA763AVG、Montanide ISA51、不完全フロイントアジュバントまたは完全フロイントアジュバントなどが挙げられる。アジュバントは2種以上を混合して用いることもできる。好ましくは、油性アジュバントである。本開示の予防または治療薬におけるアジュバントの配合量は、抗原に対する免疫応答を非特異的に高める量であれば特に限定されず、アジュバントの種類等により適宜選択すればよい。
【0120】
本開示の予防または治療薬は、経口投与、または非経口投与、例えば腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与もしくは鼻腔内投与などにより投与することができる。また、非経口投与としては、予防または治療薬を皮膚に塗布したり、貼付剤に予防または治療薬を含有させて皮膚に貼付したりすることにより、有効成分であるWT1タンパク質またはWT1ペプチドを経皮吸収させる投与方法も挙げられる。さらに、本開示の予防または治療薬は、吸引等により投与することもできる。好ましくは、非経口投与により投与する。より好ましくは、皮内投与、または皮下投与により投与する。皮内投与、皮下投与する体の部位は、例えば、上腕等が好ましい。
【0121】
本開示の予防または治療薬は、投与経路に応じて、種々の製剤形態、例えば、固形製剤、液状製剤等をとりうる。例えば、経口投与のための内服用固形剤もしくは内服用液剤、または非経口投与のための注射剤等とすることができる。
【0122】
経口投与のための内服用固形剤としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が挙げられる。
【0123】
内服用固形剤においては、WT1タンパク質またはWT1ペプチドはそのままか、添加剤と混合または造粒(例えば、攪拌造粒法、流動層造粒法、乾式造粒法、転動攪拌流動層造粒法等)され、常法に従って製造される。例えば、カプセル剤であれば、カプセル充填等によって、錠剤であれば、打錠剤等によって製造することができる。添加剤は、1種または2種以上を適宜配合してもよい。添加剤としては、例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン等の賦形剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の結合剤;トウモロコシデンプン等の分散剤;繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;グルタミン酸、アスパラギン酸等の溶解補助剤;安定剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子類等の水溶性高分子;白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、ハチミツ、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム等の甘味剤等が挙げられる。
【0124】
顆粒剤または錠剤は、必要によりコーティング剤等で被覆されていてもよいし、また該コーティングは2以上の層であってもよい。コーティング剤としては、例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等が挙げられる。カプセル剤として製造する場合には、上記賦形剤を適宜選択し、WT1タンパク質またはWT1ペプチドと均等に混和または粒状、もしくは粒状としたものに適当なコーティング剤で剤皮を施したものをカプセルに充填するか、適当なカプセル基剤(ゼラチン等)にグリセリンまたはソルビトール等を加えて塑性を増したカプセル基剤で被包成形してもよい。これらカプセル基剤には必要に応じて、着色剤または保存剤(二酸化イオウ;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等のパラベン類)等を加えることができる。カプセル剤には、ハードカプセルまたはソフトカプセルが含まれる。
【0125】
経口投与のための内服用液剤としては、水剤、懸濁剤・乳剤、シロップ剤、ドライシロップ剤等の用時溶解型製剤、エリキシル剤等が挙げられる。このような内服用液剤においては、WT1タンパク質またはWT1ペプチドは、内服用液剤で一般的に用いられる希釈剤に溶解、懸濁または乳化される。希釈剤としては、例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等が挙げられる。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤または緩衝剤等を含有していてもよい。また、ドライシロップ剤は、例えばWT1タンパク質またはWT1ペプチドと、例えば、白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖または乳糖等とを混合等して製造することができる。また、ドライシロップ剤は、常法に従って顆粒としてもよい。
【0126】
非経口投与のための剤型としては、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤、噴霧剤、スプレー剤等が挙げられるが、注射剤が好ましい。例えば、WT1タンパク質またはWT1ペプチドと慣用の担体と共に注射剤とされることが好ましい。
【0127】
非経口投与のための注射剤としては、水性注射剤または油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤を適宜添加した溶液に、WT1タンパク質またはWT1ペプチドを混合した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。医薬上許容される添加剤としては、例えば、上述したアジュバント;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等の等張化剤;リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等の緩衝剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等の保存剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の増粘剤;亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等の安定化剤;塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等のpH調整剤等が挙げられる。また注射剤には、適当な溶解補助剤、例えば、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、リソレシチン、プルロニックポリオール等の非イオン界面活性剤等をさらに配合してもよい。また、例えば、ウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等のタンパク質;アミノデキストラン等のポリサッカリド等を含有してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油または大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコール等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルまたはバイアル等に充填される。注射剤等の液状製剤は、凍結保存または凍結乾燥等により水分を除去して保存することもできる。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0128】
また、本開示の予防または治療薬の他の形態として、リポソーム中へWT1タンパク質またはWT1ペプチドを混合し、さらに必要に応じて、多糖および/または癌ワクチン組成物中に配合される他の成分を含有させることもできる。
【0129】
本開示の予防または治療薬の投与量は、使用するWT1タンパク質もしくはWT1ペプチド、またはDNAや、患者の年齢体重、対象疾患などによっても異なるが、例えば、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチド等のWT1ペプチドを含むワクチン組成物の場合、WT1ペプチド量として、1日に体重あたり当り約0.1μg~1mg/kgが好ましい。また、WT1ペプチドの投与量は、通常0.0001mg~1000mg、好ましくは0.01mg~1000mg、より好ましくは0.1mg~10mgであり、この量を数日~数カ月に1回投与するのが好ましい。
【0130】
さらに、本開示の予防または治療薬の投与方法として、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者の末梢血からPBMCsを集め、その中から樹状細胞を取り出し、本開示の予防または治療薬に有効成分として含まれるペプチド、例えば、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドもしくはWT1332ペプチド、またはDNAもしくはRNA等のポリヌクレオチドをパルスして患者に皮下投与などで患者に戻す方法も挙げられる。樹状細胞にWT1ペプチド等をパルスする際の条件としては、本開示の効果を奏する限り特に限定されず、通常の条件を採用することができる。
【0131】
WT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードする核酸分子を予防または治療薬に用いる場合には、該核酸分子が良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者の樹状細胞に導入されるように予防または治療薬を投与することが好ましい。核酸分子を良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者の樹状細胞に導入する方法としては、例えば、上述したように良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者から樹状細胞を採取し、該樹状細胞に、電気パルスにより核酸分子を導入する方法が挙げられる。樹状細胞に導入された核酸分子から発現するWT1タンパク質またはWT1ペプチドは、該樹状細胞表面に提示されるため、核酸分子をパルスされた樹状細胞を良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の患者の体内に戻すことにより、生体内で速やかにがん免疫を生じさせることができる。このような、WT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードする核酸分子を被験体の樹状細胞に導入する、癌の治療または予防方法は、本開示の好ましい実施形態の1つである。上記の実施形態において、核酸分子としては、DNAおよびRNAのいずれであってもよく、好ましくはRNAである。
【0132】
本開示の別の態様は、被験体由来の末梢血単核球を、WT1タンパク質もしくはWT1ペプチドの存在下で培養する、または、それらをコードする核酸分子を該末梢血単核球に導入することによって、該末梢血単核球からWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する、WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法に関する。末梢血単核球が由来する被験体は、特に限定されない。WT1タンパク質またはWT1ペプチドとしては、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドもしくはWT1332ペプチド、またはその改変ペプチドが挙げられ、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドが好適である。例えば、被験体由来の末梢血単核球を、WT1126ペプチドまたはWT1235ペプチドの存在下で培養することにより、末梢血単核球中のCTLs前駆細胞からWT1特異的CTLsが誘導される。被験体由来の末梢血単核球を、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドの存在下で培養した場合には、末梢血単核球中のヘルパーT細胞前駆細胞からWT1特異的ヘルパーT細胞が誘導される。被験体由来の末梢血単核球の培養条件は特に限定されず、通常の条件で培養することができる。このように得られたCTLsおよびヘルパーT細胞は、それぞれWT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドおよびWT1332ペプチドを認識する。従って、本開示により誘導されるWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を用いると、WT1高発現腫瘍細胞を特異的に傷害することができ、対象である良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)を治療および/または予防することができる。WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を被験体に投与する方法としては特に限定されず、例えば、上述した予防または治療薬と同様にして投与することができる。
【0133】
本開示の別の態様は、WT1タンパク質またはWT1ペプチドを必須構成成分として含む、WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するためのキットに関する。好ましくは、該キットは、上記被験体由来のWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法に用いられる。このようなキットは、WT1タンパク質またはWT1ペプチドの他に、例えば、末梢血単核球の取得手段、アジュバント、反応容器などを含んでいてもよい。このようなキットを用いると、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチド等のがん抗原を認識するWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を効率よく誘導することができる。
【0134】
本開示のさらに別の実施形態では、被験体由来の未熟樹状細胞を、WT1タンパク質もしくはWT1ペプチドの存在下で培養する、またはそれらをコードする核酸分子を該未熟樹状細胞に導入することによって、該未熟樹状細胞から該WT1タンパク質またはWT1ペプチドを提示する樹状細胞を誘導する、WT1タンパク質またはWT1ペプチドを提示する樹状細胞の誘導方法に関する。WT1タンパク質またはWT1ペプチドとしては、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドもしくはWT1332ペプチドまたはその改変ペプチドが挙げられ、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドが好適である。WT1タンパク質またはWT1ペプチドをコードする核酸分子としては、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドもしくはWT1332ペプチドまたはその改変ペプチドをコードするものが挙げられ、WT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドをコードするものが好適である。核酸分子としてはDNAおよびRNAのいずれを使用してもよく、RNAが好適である。未熟樹状細胞が由来する被験体は、特に限定されない。未熟樹状細胞は、例えば、末梢血単核球などに含まれているため、かかる細胞をWT1126ペプチド、WT1235ペプチド、WT135ペプチドまたはWT1332ペプチドの存在下で培養してもよい。このように得られる樹状細胞を被験体に投与すると、上記WT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞が効率よく誘導され、それにより被験体の良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)を治療および/または予防することができる。樹状細胞を被験体に投与する方法としては特に限定されず、例えば、上述した予防または治療薬と同様にして投与することができる。
【0135】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0136】
また、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、ステップ、ステップの順序などは一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0137】
(予防または治療薬)
一つの局面において、本開示は、WT1ペプチドまたはその類縁体を含む、良性腫瘍の予防または治療薬を提供する。WT1は、悪性腫瘍のがん細胞において高発現していることは示されていたが、良性腫瘍における発現は未知であった。本開示は、良性腫瘍の細胞においてWT1タンパク質が発現するとの驚くべき発見に基づくものであり、良性腫瘍の新たな治療法を提供するものである。
【0138】
1つの実施形態では、本開示の良性腫瘍は、WT1を発現する。理論に拘束されるものではないが、本開示のWT1ペプチドは、がん抗原として作用し、CTLsの細胞傷害活性および/またはヘルパーT細胞の活性を増強させることによって、良性腫瘍の細胞に対する細胞傷害活性を発揮するため、本開示のWT1ペプチドワクチンは、WT1を発現する良性腫瘍に対して、治療有効性を有する。また、WT1タンパク質の発現は、特定の良性腫瘍に限定されるものではなく、遺伝性・非遺伝性の種々の良性腫瘍において認められるものである。したがって、遺伝性のみならず、後天的な良性腫瘍であっても、WT1タンパク質が発現することがあり、そのようなタイプの良性腫瘍については、本開示の技術を用いて治療または予防することができることが理解される。1つの実施形態では、良性腫瘍は、家族性大腸腺腫症、非遺伝性の大腸腺腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、脳の髄膜腫、神経鞘腫、各臓器の上皮性の腺腫、乳頭腫、非上皮性の筋腫、脂肪腫、軟骨腫、および血管腫からなる群より選択される。
【0139】
一つの実施形態において、本開示は、WT1ペプチドまたはその類縁体を含む、家族性大腸腺腫症の予防または治療薬を提供する。WT1ペプチドまたはその類縁体は、血管新生病の治療に有効であることが示されているが、難治性でありこれまで切除しか事実上治療法がなかった家族性大腸腺腫症の治療または予防に効果があるとは予想し得なかった。本開示は、切除しか事実上治療法がなかった家族性大腸腺腫症に新たな治療法を提供するものであり、切除を必要としない治療または予防であって、Quality of Life(QOL)の改善に資するものとして有用である。
【0140】
1つの実施形態では、本開示のWT1ペプチドは、1種類であってもよく、複数種類であってもよい。また、本開示の医薬または組成物に使用するWT1ペプチドはキラーWT1ペプチドであってもよく、あるいはヘルパーWT1ペプチドであってもよく、これらを混合して用いてもよい。より好ましくは、キラー型WT1ペプチドおよびヘルパー型のWT1ペプチドの両方を含むことが好ましい。本開示ではWT1ペプチドの二量体を用いてもよい。WT1ペプチドの二量体は、システイン残基を有する2つのWT1ペプチド間にジスルフィド結合を形成させることによって得てもよい。本開示の医薬組成物に使用するWT1ペプチドは1種類であってもよく、あるいは複数種類であってもよい。
【0141】
WT1ペプチドが対象において治療または予防効果を発揮するかどうかは、WT1ペプチドが対象のHLA型に対応するかどうかによる。現在、多くのWT1ペプチドに関して、どのHLA型に適合するのか知られているので、本開示に用いるWT1ペプチドを、対象のHLA型に応じて選択することができる。また、本開示の医薬組成物に複数種類のWT1ペプチドを使用して、幅広い対象に対応するようにしてもよい。
【0142】
1つの好ましい実施形態では、本開示において使用されるWT1ペプチドは、WT1126キラーペプチド、WT1235キラーペプチド、WT135ヘルパーペプチドおよび/またはWT1332ヘルパーペプチドである。好ましくは、このWT1ペプチドは、WT1126ペプチドおよびWT1235ペプチドから選択されるキラーペプチドと、WT135およびWT1332ペプチドから選択されるヘルパーペプチドとの両方を含む。理論に束縛されることを望まないが、本開示において、WT1ペプチドは、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドを含むと、単独で用いる効果を超える効果があることが分かった。
【0143】
別の局面では、本開示のWT1ペプチドは、式(3)で表される化合物およびWT135ヘルパーペプチドの両方を含む。上記式(3)で表される化合物とWT135ヘルパーペプチドとの組み合わせは、出願人の知る限り、良性腫瘍に対して予防および/または治療有効性を奏することは知られていなかった。
【0144】
別の局面では、本開示は、WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、良性腫瘍の予防または治療薬を提供する。
【0145】
ある実施形態では、本開示は、WT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を含む、家族性大腸腺腫症の予防または治療薬を提供する。この場合、本開示の医薬組成物中の有効成分は、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドであるということができるが、これに限定されない。ポリヌクレオチドの塩基配列は、WT1ペプチドのアミノ酸配列に基づき決定することができる。ポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法などの公知のDNAまたはRNA合成方法、PCR法などにより製造することができる。
【0146】
一つの実施形態では、本開示の予防または治療薬は、上記WT1ペプチドまたはその類縁体をコードするDNAを含む。
【0147】
別の実施形態では、本開示の予防または治療薬は、上記WT1ペプチドまたはその類縁体をコードするRNAを含む。
【0148】
別の実施形態では、本開示の予防または治療薬は、上記WT1ペプチドまたはその類縁体をコードするRNAおよびDNAを含む。
【0149】
1つの実施形態では、本開示の予防または治療薬は、上記に加えてアジュバントを含む。
【0150】
1つの好ましい実施形態では、本開示において使用されるアジュバントは、Montanide(登録商標) ISA51アジュバントを含む。
【0151】
1つの実施形態では、本開示の予防または治療薬は、1週間に1回投与される。
【0152】
本開示の医薬または組成物を、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬と併用してもよい。
【0153】
本開示の医薬または組成物の投与経路は特に限定されないが、好ましい投与経路の例として皮内投与、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与(例えば、点眼、点鼻、舌下など)が挙げられる。
【0154】
本開示の医薬または組成物の剤形は特に限定されず、例えば注射用液剤、点眼用液剤、点鼻用液剤、ローション剤、クリーム剤、パッチ剤、舌下錠、トローチなどの剤形であってもよい。これらの剤形は当業者によく知られた方法により製造することができ、投与することができる。
【0155】
本開示の医薬または組成物を用いる場合のWT1ペプチドの投与量は、WT1ペプチドの種類、投与経路、剤形、疾患の種類、疾患の程度、対象の健康状態などを考慮して、適宜変更することができる。一般的には、WT1ペプチドの投与量は成人1日当たり0.1μg/kg~1mg/kgである。WT1ペプチドの種類、投与経路、剤形についても同様に適宜変更することができる。本開示の医薬または組成物は、医薬上許容される担体や賦形剤のほかに、例えば水酸化アルミニウムのごとき適当なアジュバントを含んでいてもよい。あるいは本開示の医薬または組成物は、リポソーム中に封入されたWT1ペプチドを含むものであってもよい。
【0156】
本実施形態においては、例えば、式(2)または式(3)に示す化合物であるWT1ペプチドの投与量は、導入期においては成人1日当たり3.5mgを2週間おきに計1~5回皮内に投与し、維持期においては成人1日当たり3.5mgを1ヶ月または2ヶ月おきに計3~6回皮内に投与することができる。
【0157】
投与量は、成人1日当たり1.0mg以上、2.5mg以上、5.0mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上もしくは25mg以上、または100mg以下、50mg以下、40mg以下、30mg以下、25mg以下、20mg以下、15mg以下、10mg以下、5.0mg以下もしくは2.5mg以下の範囲で投与することができる。具体的な投与量は、例えば成人1日当たり0.5mg、1.0mg、1.5mg、2.0mg、2.5mg、3.0mg、3.5mg、4.0mg、4.5mg、5.0mg、5.5mg、6.0mg、6.5mg、7.0mg、7.5mg、8.0mg、8.5mg、9.0mg、9.5mgまたは10mg等であってもよい。
【0158】
投与間隔は、1週間~1年の間で適宜選択することができ、例えば、1日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上もしくは6ヶ月以上、または1年以下、9ヶ月以下、6ヶ月以下、5ヶ月以下、4ヶ月以下、3ヶ月以下、2ヶ月以下、1ヶ月以下、3週間以下、2週間以下もしくは1週間以下の間隔で投与することができる。具体的は投与間隔としては、例えば、1日、3日、5日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月または1年等であってもよい。
【0159】
投与回数は、計1~100回の間で適宜選択することができ、例えば、1回以上、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上、8回以上、9回以上もしくは10回以上、または100回以下、50回以下、40回以下、30回以下、20回以下、15回以下、10回以下、9回以下、8回以下、7回以下、6回以下、5回以下、4回以下、3回以下もしくは2回以下の回数で投与することができる。具体的な投与回数としては、例えば1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回または12回等であってもよい。
【0160】
別の局面において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれか又は両方のための、WT1ペプチドまたはその類縁体、あるいはWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を提供する。
【0161】
さらに別の局面において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれかまたは両方のため、あるいは、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれかまたは両方のための医薬組成物の製造のためのWT1ペプチドまたはその類縁体、あるいはWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子の使用に関する。本開示はさらに、WT1ペプチドまたはその類縁体、あるいはWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子の有効量をそれを必要とする被検体に投与する工程を含む、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれかまたは両方のための方法を提供する。さらなる態様において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれかまたは両方のための医薬の製造のためのWT1ペプチドまたはその類縁体、あるいはWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子の使用に関する。さらに別の局面において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療および予防のいずれかまたは両方を必要とする対象にWT1ペプチドまたはその類縁体、あるいはWT1ペプチドまたはその類縁体をコードする核酸分子を投与することを特徴とする、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の治療及び予防のいずれかまたは両方のための方法も関する。これらの局面においても、本明細書に記載される上記を含むすべての説明があてはまる。
【0162】
(免疫細胞の誘導方法)
別の局面において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の処置を必要とする被験体由来の末梢血単核球を、本明細書に記載のいずれかのWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養する、または、それらをコードする核酸分子を上記末梢血単核球に導入することによって、上記末梢血単核球からWT1特異的細胞傷害性T細胞(CTLs)、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する工程を含むことを特徴とする、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のために使用するWT1特異的CTLsおよび/またはWT1特異的ヘルパーT細胞の誘導方法を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この誘導方法においても当てはまることが当業者に理解される。
【0163】
別の局面において、本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の処置を必要とする被験体由来の未熟樹状細胞を、本明細書に記載のいずれかのWT1ペプチドまたはその類縁体の存在下で培養する、またはそれらをコードする核酸分子を上記未熟樹状細胞に導入することによって、WT1提示樹状細胞を誘導する工程を含むことを特徴とする、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のために使用するWT1提示樹状細胞の誘導方法を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この誘導方法においても当てはまることが当業者に理解される。
【0164】
別の局面において、本開示は、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のために使用する、WT1特異的細胞傷害性T細胞、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を誘導するための組成物を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この組成物においても当てはまることが当業者に理解される。
【0165】
さらに別の局面において、本開示は、WT1ペプチドもしくはその類縁体、またはそれをコードする核酸分子を含む、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のために使用する、WT1提示樹状細胞を誘導するための組成物を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この組成物においても当てはまることが当業者に理解される。
【0166】
さらに別の局面において、本開示は、WT1特異的細胞傷害性T細胞、および/またはWT1特異的ヘルパーT細胞を含む、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のための組成物を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この組成物においても当てはまることが当業者に理解される。
【0167】
さらに別の局面において、本開示は、WT1提示樹状細胞を含む、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防または治療のための組成物を提供する。(予防または治療薬)に記載される任意の説明は、この組成物においても当てはまることが当業者に理解される。
【0168】
(製造方法)
本開示のペプチドまたは誘導体、あるいは核酸分子は、当技術分野において通常用いられる製造法によって製造することができる。これらの製造法は、免疫学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法に習熟している者の知識に基づき、適宜改良することができる。具体的には、本開示のペプチドまたは誘導体、あるいは核酸分子は、天然のWT1タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号1)または核酸配列に基づく設計を行ってもよく、微生物発現系などによって、製造してもよい。製造法における出発原料および中間体は、市販品として購入可能であるか、または公知文献に記載された方法もしくは公知化合物から公知の方法に準じて入手可能である。また、これらの出発原料および中間体は、製造工程に支障をきたさない限り、それらの類縁体を用いてもよい。
【0169】
(一般技術)
本明細書において用いられる免疫学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0170】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0171】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0172】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0173】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる生物の取り扱いは、必要な場合、大阪大学や監督官庁において規定される基準を遵守した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、富士フイルム和光純薬、ナカライテスク、R&DSystems、USCN Life Science INC、Thermo Fisher Scientific、関東化学、フナコシ、東京化成、Merck等)の同等品でも代用可能である。
【0174】
(マウス)
以下の実施例において、マウスは、ApcMin/+(C57BL/6J)マウス(Jackson研究所、Bar Harbor、Maine、USA)を使用した。マウスは、大阪大学動物実験規程を遵守し、大阪大学医学部付属動物実験施設の特定微生物フリー(SPF)封じ込め施設にて飼育した。
【0175】
(試薬)
以下の実施例において、MHC class I(H-2Db)-結合ペプチドであるWT1126-134(RMFPNAPYL、9a.a)、およびMHC class II(H-2I-Ab)-結合ペプチドであるWT135-52(WAPVLDFAPPGASAYGSL、18a.a.)は、SIGMA Genosys(石狩、日本)から購入した。式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物に用いる各原料は、大日本住友製薬株式会社(大阪、日本)より供与された。ペプチドは、使用まで-20℃において保存した。ペプチドはリン酸緩衝生理食塩水(PBS;137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4、1.47mM KH2PO4)に溶解し、-20℃で保存した。フロインドの不完全アジュバント(IFA)、Montanide ISA 51は、Seppic S.A.(Orsay、France)より購入した。
【0176】
(実施例1:家族性大腸腺腫症の腺腫におけるWT1タンパク質の発現)
本実施例では、ヒト家族性大腸腺腫症患者の腺腫において、WT1タンパク質が発現されたことを示す。
【0177】
(実験手法)
家族性大腸腺腫症のヒト患者の小腸および大腸を、ホルマリンにより固定後、パラフィンで包埋し、パラフィンブロックを3μmの厚さに薄切した。内因性ペルオキシダーゼ反応を軽減させるため、パラフィン切片を3% H2O2溶液で処理後、キシレンで脱パラフィンし、エタノールで段階的に再水和した後、10mMのトリスEDTA緩衝液((10mM Tris、1mM EDTA(pH9.0))中で、オイルバスにおいて70℃で25分間、110℃で25分間加熱し、3時間室温で冷まして抗原賦活化した。処理した切片を、PBST(PBS+0.05% Tween20(登録商標))で100倍希釈した抗WT1 6FH2マウス単クローン抗体(Dako Cytomation,Inc.、Carpinteria、CA)により、4℃で一晩反応させた。その後、Dako REAL Envision HRP RABBIT/MOUSE(Dako Cytomation)を37℃で30分間反応させた。Dako REAL Envision Detection System Peroxidase/DAB+、Rabbit/Mouse(Dako Cytomation)を用い、取扱説明書に従い、WT1タンパク質を可視化させた。その後切片をヘマトキシリン染色した。
【0178】
(結果)
実施例1の結果を、表
2および
図1に示す。表
2は、各患者由来の標本における、腺腫、正常腺管および線維芽細胞におけるWT1タンパク質の発現量を示す。表
2において、腺腫におけるWT1タンパク質の発現量が、正常腺管における発現量よりも顕著に増大していることが示される。
図1において、薄い染色はWT1タンパク質を示し、濃く円形に染色された領域は核を示す。腺腫においてはWT1タンパク質の発現が認められたが、正常腺管においては、WT1タンパク質の発現が認められなかった。
【0179】
【0180】
(実施例2:APCMin/+マウスにおけるWT1タンパク質の発現)
本実施例では、家族性大腸腺腫症のモデルマウスであるAPCMin/+マウスの小腸腺腫において、WT1タンパク質が発現したことを示す。
【0181】
(実験手法)
20週齢のApcMin/+(C57BL/6J)マウスの小腸および大腸を、ホルマリンにより固定後、パラフィンで包埋し、パラフィンブロックを3μmの厚さに薄切した。パラフィン切片をキシレンで脱パラフィンし、エタノールで段階的に再水和した後、10mMのクエン酸緩衝液((10mM クエン酸ナトリウム、0.05% Tween20(pH6.0))中で、15分間マイクロ波を照射し、抗原賦活化した。処理した切片を、ヤギ血清含有PBSで100倍希釈した抗WT1 6FH2マウス単クローン抗体(Dako Cytomation,Inc.、Carpinteria、CA)により、4℃で一晩反応させた。そして、ヤギ血清含有PBSで100倍希釈したビオチン化抗マウスIgG抗体(Vector Labs.、Burlingame、CA)を、37℃で30分間反応させた。内因性ペルオキシダーゼ反応を軽減させるため、3% H2O2溶液で処理後、Vectastain ABC kit(Vector Labs.)を用い、取扱説明書に従い、WT1タンパク質を可視化させた。その後切片をヘマトキシリン染色した。
【0182】
(結果)
実施例2の結果を
図2および3に示す。
図2は、上から順に、5倍、10倍、20倍の倍率での顕微鏡写真を示し、
図3は、40倍の倍率での顕微鏡写真を示す。
図2および3において、濃い染色はWT1タンパク質を示し、円形に染色された領域は核を示す。家族性大腸腺腫症のモデルマウスであるApc
Min/+マウスの小腸腺腫において、WT1タンパク質の発現が認められた。
【0183】
(実施例3:家族性大腸腺腫症モデルマウスに対するWT1ペプチドワクチンの投与)
本実施例では、APCMin/+マウスに、WT1ペプチドワクチンを投与した実験の投与スキームを示す。
【0184】
(実験手法)
WT1ペプチドワクチンの投与スキームを
図4に示す。100μgのWT1
126-134 キラーペプチドと45μgのWT1
35-52 ヘルパーペプチドとの混合物、またはPBSを、それぞれIFA Montanide ISA51アジュバントでエマルション化し、それぞれWT1ペプチドワクチンまたはコントロールワクチンとした。4~5週齢のApc
Min/+のマウスの脇腹に、WT1ペプチドワクチンまたはコントロールワクチンを皮内投与した。免疫は、生後5週目から開始し、1週間に1回の頻度で8回行った。最終免疫の10日後に免疫したマウスを安楽死させ、さらなる解析を行った。なお、WT1ペプチドワクチンの投与は、以下の表3において示されるとおり、臓器傷害をもたらさないものであった。
【0185】
【0186】
(実施例4:WT1ペプチドワクチンの投与による腺腫の予防および治療)
本実施例では、APCMin/+マウスに、WT1ペプチドワクチンを投与することによって、腺腫の発症が予防され、腺腫を治療したことを示す。
【0187】
(実験手法)
実施例3に記載の投与スキームによって得られたマウスを使用した。最終免疫の10日後に安楽死させたマウスから全腸を採取した。小腸は8~10分画に分け、大腸は盲腸と上行結腸とに分けた。各分画は縦方向に切開し、PBSにて洗浄後、ろ紙に挟んで、4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液において、4℃で24時間以上固定した。固定した腸組織は、1% メチレンブルー液で染色後、実体顕微鏡下で観察し、腺腫(ポリープ)数を数えた。WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群との間の腺腫(ポリープ)数の差は、Student’s t testにより統計解析した。
【0188】
(結果)
実施例4の結果を
図5に示す。グラフの横軸は左側にWT1ワクチンを投与した群を、右側にコントロールワクチンを投与した群を示し、縦軸は小腸あたりの腺腫数を示す。WT1ペプチドワクチン投与群では小腸あたりの腺腫数の平均値が約29個であったのに対し、コントロールワクチン投与群では約34個であり、WT1ペプチドワクチンの投与によって、腺腫の発症が有意に抑制され、さらに腺腫が治療されたことが示された。
【0189】
(実施例5:WT1ペプチドワクチンの投与によるWT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞の増加)
本実施例では、APCMin/+マウスに、WT1ペプチドワクチンを投与することによって、WT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞が増加したことを示す。
【0190】
(実験手法)
実施例3に記載の投与スキームによって得られたマウスを使用した。最終免疫の10日後に安楽死させたマウスから脾細胞を採取した。赤血球を溶解後、細胞をH-2Db WT1 テトラマー(MBL、愛知、日本)で染色し、さらに抗マウスCD3抗体(17A2、BioLegend、San Diego、CA)および抗マウスCD8抗体(KT15、MBL、愛知、日本)で染色した。染色した細胞はFACSCantoにて解析し、CD3+CD8+T細胞中のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度を測定した。WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群との間のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度の差は、Student’s t testにより統計解析した。
【0191】
(結果)
実施例5の結果を
図6に示す。グラフの横軸は左側にWT1ペプチドワクチンを投与した群を、右側にコントロールワクチンを投与した群を示し、縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー頻度を示す。WT1ワクチン投与群では、CD3
+CD8
+T細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞の頻度の平均値が約0.6%であったのに対し、コントロールワクチン投与群では約0.2%であり、WT1ワクチンの投与によって、WT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞が増加したことが示された。
【0192】
(実施例6:統計解析)
本実施例では、実施例4における腺腫数と、実施例5におけるWT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞に相関が認められたことを示す。
【0193】
(実験手法)
実施例4から得られた小腸あたりの腺腫数と、実施例5から得られたCD3+CD8+T細胞中のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度とを、Microsoft Excel(登録商標)によって散布図にプロットした。さらにこれらの結果について、Excelのピアソン相関係数によって相関関係を統計解析した。
【0194】
(結果)
実施例6の結果から、WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群の腺腫(ポリープ)数およびWT1テトラマー頻度は、弱いながらも相関関係を示すことが認められた。
【0195】
(実施例7:単剤での実施例)
本実施例では、APC
Min/+マウスに、キラー型およびヘルパー型の両方のWT1ペプチドワクチンを投与する場合と、キラー型またはヘルパー型のWT1ペプチドワクチンの単剤のみを投与する場合との、腺腫の発症の予防および治療効果における比較を示す。
(実験手法)
WT1ペプチドワクチンの投与スキームを
図8に示す。100μgのWT1
126-134 キラーペプチドと45μgのWT1
35-52 ヘルパーペプチドとの混合物、100μgのWT1
126-134 キラーペプチド単独、45μgのWT1
35-52 ヘルパーペプチド単独またはPBSを、それぞれIFA Montanide ISA51アジュバントでエマルション化する。5週齢のApc
Min/+のマウスの脇腹に、キラーペプチドとヘルパーペプチドとの混合物、キラーペプチド単独、ヘルパーペプチド単独、またはPBSのみのコントロールワクチンを皮内投与する。免疫は、生後5週目から開始し、1週間に1回の頻度で8回行う。最終免疫の10日後に免疫するマウスを安楽死させ、さらなる解析を行う。
【0196】
(実施例8:他の良性腫瘍でのWT1の発現)
本実施例では、非遺伝性の大腸腺腫においても、WT1が発現することを示す。
【0197】
(実験手法)
非遺伝性の大腸腺腫を発症したヒト患者(3名)から腺腫組織を摘出し、実施例1と同様の手法によって、WT1タンパク質および核を染色した。
【0198】
(結果)
実施例8の結果を
図9に示す。
図9において、左から1番目は、正常腺管の顕微鏡画像を示し、右側の3枚の画像は、非遺伝性の大腸腺腫の腺腫組織の顕微鏡画像を示す。
図9において、薄い染色はWT1タンパク質を示し、濃く円形または楕円形に染色された領域は核を示す。腺腫においてはWT1タンパク質の発現が認められたが、正常腺管においては、WT1タンパク質の発現が認められなかった。
【0199】
(実施例9:家族性大腸腺腫症モデルマウスに対する式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物の投与)
本実施例では、APCMin/+マウスに、WT1ペプチドワクチンである、式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物を投与した実験の投与スキームを示す。
【0200】
(実験手法)
WT1ペプチドワクチンの投与スキームを
図10に示す。WT1ペプチドワクチンをPBSで溶解し、WT1ペプチドワクチンを含む溶解液およびPBS単独を、IFA Montanide ISA51アジュバントでエマルション化し、それぞれWT1ペプチドワクチンまたはコントロールワクチンとした。4~5週齢のApc
Min/+のマウスの脇腹に、WT1ペプチドワクチンまたはコントロールワクチンを皮内投与した。免疫は、生後4~5週目から開始し、1週間に1回の頻度で6回行った。最終免疫の7日後に免疫したマウスを安楽死させ、さらなる解析を行った。
【0201】
(実施例10:式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物の投与による腺腫の予防および治療)
本実施例では、APCMin/+マウスに、式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物を投与することによって、腺腫の発症が予防され、腺腫を治療したことを示す。なお、式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物の投与は、以下の表4において示されるとおり、臓器傷害をもたらさないものであった。
【0202】
【0203】
(実験手法)
実施例9に記載の投与スキームによって得られたマウスを使用した。最終免疫の7日後に安楽死させたマウスから各臓器を摘出し、その重量を測定した。小腸は8~10分画に分けた。各分画は縦方向に切開し、PBSにて洗浄後、ろ紙に挟んで、4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液において、4℃で24時間以上固定した。固定した腸組織は、1% メチレンブルー液で染色後、実体顕微鏡下で観察し、腺腫(ポリープ)数を数えた。WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群との間の腺腫(ポリープ)数の差は、Student’s t testにより統計解析した。
【0204】
(結果)
実施例10の結果を
図11に示す。グラフの横軸は左側にWT1ペプチドワクチンを投与した群を、右側にコントロールワクチンを投与した群を示し、縦軸は小腸あたりの腺腫数を示す。WT1ペプチドワクチン投与群では小腸あたりの腺腫数の平均値が約37.2個であったのに対し、コントロールワクチン投与群では約43.7個であった。したがって、WT1ペプチドワクチンの投与によって、腺腫の発症が抑制され、さらに腺腫が治療される傾向が認められた。
【0205】
(実施例11:式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物の投与によるWT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞の増加)
本実施例では、APCMin/+マウスに、式(3)の化合物およびWT135-52 ヘルパーペプチドの混合物を投与することによって、WT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞が増加したことを示す。
【0206】
(実験手法)
実施例9に記載の投与スキームによって得られたマウスを使用した。最終免疫の7日後に安楽死させたマウスから脾細胞を採取した。赤血球を溶解後、細胞をH-2Db WT1 テトラマー(MBL、愛知、日本)で染色し、さらに抗マウスCD3抗体(17A2、BioLegend、San Diego、CA)、抗マウスCD8抗体(KT15、MBL、愛知、日本)および7-AAD Viability Staining Solution(Bioscience、San Diego、CA)で染色した。染色した細胞はFACSCantoにて解析し、7-AAD+の死細胞分画を除去し、CD3+CD8+T細胞中のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度を測定した。WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群との間のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度の差は、Student’s t testにより統計解析した。
【0207】
(結果)
実施例11の結果を
図12に示す。グラフの横軸は左側にWT1ペプチドワクチンを投与した群を、右側にコントロールワクチンを投与した群を示し、縦軸はCD3
+CD8
+細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー頻度を示す。WT1ペプチドワクチン投与群では、CD3
+CD8
+T細胞中のH-2D
b WT1 テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞の頻度の平均値が約0.13%であったのに対し、コントロールワクチン投与群では約0.04%であり、WT1ペプチドワクチンの投与によって、WT1テトラマー
+CD3
+CD8
+T細胞が増加したことが示された。
【0208】
(実施例12:統計解析)
本実施例では、実施例10における腺腫数と、実施例11におけるWT1テトラマー+CD3+CD8+T細胞に相関が認められたことを示す。
【0209】
(実験手法)
実施例10から得られた小腸あたりの腺腫数と、実施例11から得られたCD3+CD8+T細胞中のH-2Db WT1 テトラマー+CD3+CD8+T細胞の頻度とを、Microsoft Excel(登録商標)によって散布図にプロットした。さらにこれらの結果について、Excelのピアソン相関係数によって相関関係を統計解析した。
【0210】
(結果)
実施例12の結果から、WT1ペプチドワクチン投与群とコントロールワクチン投与群の腺腫(ポリープ)数およびWT1テトラマー頻度は、高い相関関係を示し、WT1特異的免疫が腫瘍の抑制に強く作用していることが実証された。
【0211】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は日本国特許庁に2018年10月5日に提出された特願2018-190461に対して優先権主張を伴うものであり、その内容はすべて本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本開示は、良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の予防、遅延および治療、ならびに良性腫瘍(例えば、家族性大腸腺腫症)の腺腫から生じた症状の予防、遅延および治療に有用である。本開示のWT1ペプチドワクチンは、内視鏡的切除などの手術を回避し、重篤な副作用がなく、非常に安全性が高い点で有用性を有する。
【配列表フリーテキスト】
【0213】
配列番号1 ヒトWT1タンパク質の全長アミノ酸配列
配列番号2 ヒトWT1126ペプチドのアミノ酸配列
配列番号3 ヒトWT1235ペプチドのアミノ酸配列
配列番号4 ヒトWT135ペプチドのアミノ酸配列
配列番号5 ヒトWT1332ペプチドのアミノ酸配列
配列番号6 ヒトWT1126P1Gペプチドのアミノ酸配列
配列番号7 ヒトWT1126P1Aペプチドのアミノ酸配列
配列番号8 ヒトWT1126P1Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号9 ヒトWT1126P1Lペプチドのアミノ酸配列
配列番号10 ヒトWT1126P1Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号11 ヒトWT1126P1Mペプチドのアミノ酸配列
配列番号12 ヒトWT1126P1Wペプチドのアミノ酸配列
配列番号13 ヒトWT1126P1Fペプチドのアミノ酸配列
配列番号14 ヒトWT1126P1Yペプチドのアミノ酸配列
配列番号15 ヒトWT1126P2Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号16 ヒトWT1126P2Qペプチドのアミノ酸配列
配列番号17 ヒトWT1126P2Aペプチドのアミノ酸配列
配列番号18 ヒトWT1126P2Lペプチドのアミノ酸配列
配列番号19 ヒトWT1126P2Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号20 ヒトWT1126P3Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号21 ヒトWT1126P3Lペプチドのアミノ酸配列
配列番号22 ヒトWT1126P3Gペプチドのアミノ酸配列
配列番号23 ヒトWT1126P3Aペプチドのアミノ酸配列
配列番号24 ヒトWT1126P3Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号25 ヒトWT1126P3Mペプチドのアミノ酸配列
配列番号26 ヒトWT1126P3Pペプチドのアミノ酸配列
配列番号27 ヒトWT1126P3Wペプチドのアミノ酸配列
配列番号28 ヒトWT1126P9Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号29 ヒトWT1126P9Aペプチドのアミノ酸配列
配列番号30 ヒトWT1126P9Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号31 ヒトWT1126P9Mペプチドのアミノ酸配列
配列番号32 ヒトWT1126P1Dペプチドのアミノ酸配列
配列番号33 ヒトWT1126P1Eペプチドのアミノ酸配列
配列番号34 ヒトWT1126P1Hペプチドのアミノ酸配列
配列番号35 ヒトWT1126P1Kペプチドのアミノ酸配列
配列番号36 ヒトWT1126P1Nペプチドのアミノ酸配列
配列番号37 ヒトWT1126P1Pペプチドのアミノ酸配列
配列番号38 ヒトWT1126P1Qペプチドのアミノ酸配列
配列番号39 ヒトWT1126P1Sペプチドのアミノ酸配列
配列番号40 ヒトWT1126P1Tペプチドのアミノ酸配列
配列番号41 ヒトWT1126P2I&P9Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号42 ヒトWT1126P2I&P9Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号43 ヒトWT1126P2L&P9Iペプチドのアミノ酸配列
配列番号44 ヒトWT1126P2L&P9Vペプチドのアミノ酸配列
配列番号45 ヒトWT1235mペプチドのアミノ酸配列
配列番号46 ヒトWT1126ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号47 ヒトWT1235ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号48 ヒトWT1235ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号49 ヒトWT1122ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号50 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号51 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号52 ヒトWT110ペプチドのアミノ酸配列
配列番号53 ヒトWT1187ペプチドのアミノ酸配列
配列番号54 ヒトWT1126ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号55 ヒトWT1235ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号56 ヒトWT1235ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号57 ヒトWT1235ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号58 ヒトWT110ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号59 ヒトWT1187ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号60 ヒトWT1187ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号61 ヒトWT1126ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号62 ヒトWT1122ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号63 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号64 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号65 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号66 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号67 ヒトWT135ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号68 ヒトWT137ペプチドのアミノ酸配列
配列番号69 ヒトWT1122ペプチドのアミノ酸配列
配列番号70 ヒトWT1122ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号71 ヒトWT1122ペプチドの改変体のアミノ酸配列
配列番号72 ヒトWT1122ペプチドの改変体のアミノ酸配列
【配列表】