(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーおよびこれを用いたオリゴヌクレオチド合成方法
(51)【国際特許分類】
C07H 19/073 20060101AFI20231130BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C07H19/073
C07H21/04 Z CSP
(21)【出願番号】P 2021520862
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020203
(87)【国際公開番号】W WO2020235658
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019095591
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518156680
【氏名又は名称】株式会社ナティアス
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】片岡 正典
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 守
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/042888(WO,A1)
【文献】特表2008-516938(JP,A)
【文献】特表2014-510743(JP,A)
【文献】国際公開第2005/070859(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086397(WO,A1)
【文献】特表2009-541438(JP,A)
【文献】国際公開第2006/081035(WO,A2)
【文献】国際公開第2019/036029(WO,A1)
【文献】The Journal of Organic Chemistry,2005年,Vol.70 No.18,p.7114-7122
【文献】Organic Preparations and Procedures Int.,2005年,Vol.37 No.3,p.257-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される、オリゴヌクレオチド合成に用いるヌクレオシド保護体であって、
【化1】
前記式(I)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1、R
2は、独立して、Hまたは、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは2~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成し、
前記酸性条件下で脱保護可能な保護基が、置換または未置換のトリチル基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記塩基性条件下で脱保護可能な保護基が、Fmoc基、ピバロイル基から選択され、
前記中性条件下で脱保護可能な保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記アシル系保護基が、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基から選択され、
前記エーテル系保護基が、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記シリル系保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択される、ヌクレオシド保護体。
【請求項2】
下記式(II)で表される、オリゴヌクレオチド合成に用いる5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイトであって、
【化2】
前記式(II)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性、または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R
3は、リン酸基の保護基であるか、または、R
3とリン原子に結合する窒素原子に結合するR
4の一つとが結合して形成される環であり;R
4は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成
し、
前記酸性条件下で脱保護可能な保護基が、置換または未置換のトリチル基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記塩基性条件下で脱保護可能な保護基が、Fmoc基、ピバロイル基から選択され、
前記中性条件下で脱保護可能な保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記アシル系保護基が、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基から選択され、
前記エーテル系保護基が、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記シリル系保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記リン酸
基の保護基が、-CH
2CH
2CN
、-CH
2CH=CH
2、-OCH
3、2-クロロフェニル基、フェニル基から選択される、5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイト。
【請求項3】
下記式(III)で表される、オリゴヌクレオチド合成に用いるフルオラスブロックマーアミダイトであって、
【化3】
前記式(III)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R
3は、リン酸基の保護基であるか、または、R
3と、アミダイト部分を形成するリン原子に結合する窒素原子に結合するR
5の一つとが結合して形成される環であり;R
5は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Xは、OまたはSであり;pは0~27の整数であ
り;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成し;ProまたはR
1,R
3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有し、
前記酸性条件下で脱保護可能な保護基が、置換または未置換のトリチル基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記塩基性条件下で脱保護可能な保護基が、Fmoc基、ピバロイル基から選択され、
前記中性条件下で脱保護可能な保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記ヌクレオシド塩基の保護基が、アシル基、ベンゾイル基、アリルオキシカルボニル基から選択され、
前記アシル系保護基が、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基から選択され、
前記エーテル系保護基が、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記シリル系保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記リン酸
基の保護基が、-CH
2CH
2CN
、フッ素含有保護基、-CH
2CH=CH
2、-OCH
3、2-クロロフェニル基、フェニル基から選択さ
れ、前記フッ素含有保護基はO(CH
2
)
n
(CF
2
)
m
CF
3
で表され、nは1または2であり、mは1~20の整数である、フルオラスブロックマーアミダイト。
【請求項4】
下記式(IV)で表される、オリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーであって、
【化4】
前記式(IV)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R
3は、リン酸基の保護基であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;XはOまたはSであり;lは0から58の整数であり;R
7は、(C=O)(CH
2)
2(C=O)(CH
2)n(CF
2)mCF
3またはシリル系保護基であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成し;ProまたはR
1,R
3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有し、
前記酸性条件下で脱保護可能な保護基が、置換または未置換のトリチル基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記塩基性条件下で脱保護可能な保護基が、Fmoc基、ピバロイル基から選択され、
前記中性条件下で脱保護可能な保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記ヌクレオシド塩基の保護基が、アシル基、ベンゾイル基、アリルオキシカルボニル基から選択され、
前記アシル系保護基が、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基から選択され、
前記エーテル系保護基が、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記シリル系保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記リン酸
基の保護基が、-CH
2CH
2CN
、フッ素含有保護基、-CH
2CH=CH
2、-OCH
3、2-クロロフェニル基、フェニル基から選択さ
れ、前記フッ素含有保護基はO(CH
2
)
n
(CF
2
)
m
CF
3
で表され、nは1または2であり、mは1~20の整数である、マルチフルオラスブロックマー。
【請求項5】
請求項3に記載の上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトまたは、下記式(II´)で表される、5´-末端保護ヌクレオシドH-ホスホネートと、下記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドとをカップリング反応させる工程を含む、請求項4に記載の下記式(IV)で表される、オリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーの合成方法であって、
【化5】
【化6】
上記式(II´)および式(V)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成し;R
7は、(C=O)(CH
2)
2(C=O)(CH
2)n(CF
2)mCF
3またはシリル系保護基であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり、
前記酸性条件下で脱保護可能な保護基が、置換または未置換のトリチル基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記塩基性条件下で脱保護可能な保護基が、Fmoc基、ピバロイル基から選択され、
前記中性条件下で脱保護可能な保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択され、
前記アシル系保護基が、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基から選択され、
前記エーテル系保護基が、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基から選択され、
前記シリル系保護基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基から選択される、マルチフルオラスブロックマーの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチド合成におけるマルチフルオラスブロックマーおよびこれを用いたオリゴヌクレオチド合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然型または修飾オリゴヌクレオチドを基本骨格とする核酸医薬への注目度が高まっている。目的とした作用が得られるように設計した核酸医薬を得るために、化学合成法が広く用いられている。
【0003】
化学合成法の一つとして、比較的短鎖のオリゴヌクレオチド合成に用いられる、液相中で全ての反応を進めていく液相合成法が広く知られている。最近では、その液相合成法に、フルオラスタグ(親フルオロカーボン性の置換基)を適用しようとする試みが行われている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/070859号
【文献】国際公開第2017/086397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
汎用されている液相合成法においては、比較的短鎖のオリゴヌクレオチドを合成するためであっても、例えば、アミダイトとヌクレオシドとのカップリング反応や、次の反応基点を得るための脱保護反応など、数十工程の反応が必要となる。その多くの工程において、カラムクロマトグラフィー等を用いた精製を必要とする。精製は、多くの場合が煩雑であるため、汎用されている液相合成法によって大量のオリゴヌクレオチドを合成することは容易ではない。
【0006】
また、特許文献1、特許文献2などで用いられているフルオラスタグは、その構造が複雑であり、容易に入手することができないため、コストも高くなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、入手が容易なフルオラスタグを用い、精製負荷を低減できる、オリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーおよびこれを用いたオリゴヌクレオチド合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のオリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーおよびこれを用いたオリゴヌクレオチド合成方法は以下の手段を採用する。
本発明の第1の態様は、下記式(I)で表されるヌクレオシド保護体であって、
【化1】
前記式(I)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1、R
2は、独立して、Hまたは、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。
【0009】
本発明の第2の態様は、下記式(II)で表される5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイトであって、
【化2】
前記式(II)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R
3は、リン酸保護基、好ましくはCH
2CH
2CN、CH
2CH=CH
2、OCH
3、またはCH
2(CH
2)
xYGであって、YがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、xが0~3であるか、または、R
3と、リン原子に結合する窒素原子に結合するR
4の一つとが結合して形成される環であり、;R
4は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。
【0010】
本発明の第3の態様は、下記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトである。
【化3】
【0011】
前記式(III)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R3は、リン酸保護基、好ましくはCH2CH2CN、CH2CH=CH2、OCH3、または、CH2(CH2)tRGであって、RがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、tが0~3であるか、または、R3と、アミダイト部分を形成するリン原子に結合する窒素原子に結合するR5の一つとが結合して形成される環であり;R5は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH2)n(CF2)mCF3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Xは、OまたはSであり;pは0~27の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH3、メトキシエチル、CN、CF3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトは、ProまたはR1,R3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有する。
【0012】
本発明の第4の態様は、下記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーである。
【化4】
【0013】
前記式(IV)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R3は、リン酸の保護基、好ましくはCH2CH2CN、CH2CH=CH2、OCH3、または、CH2(CH2)tRGであって、RがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、tが0~3であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH2)n(CF2)mCF3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;XはOまたはSであり;lは0から58の整数であり;R7は、(C=O)(CH2)2(C=O)(CH2)
n
(CF2)
m
CF3またはシリル系保護基であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH3、メトキシエチル、CN、CF3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーは、ProまたはR1,R3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有する。
【0014】
本発明の第5の態様は、上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトまたは、下記式(II´)で表される、5´-末端保護ヌクレオシドH-ホスホネートと、下記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドとをカップリング反応させる工程を含む、上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーの合成方法である。下記式(II´)および式(V)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成
し;R
7
は、(C=O)(CH
2
)
2
(C=O)(CH
2
)
n
(CF
2
)
m
CF
3
またはシリル系保護基であり、nは1または2である。
【化5】
【化6】
【発明の効果】
【0015】
本発明の塩基部分をフルオラス保護したヌクレオシド、塩基部分をフルオラス保護した5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイト、およびマルチフルオラスブロックマーを用いてオリゴヌクレオチドを合成する方法によれば、フルオラスアンカーの構造やその導入数を調製することで、オリゴヌクレオチド合成の中間体の溶解性や、精製負荷を低減することができる。これにより、より汎用性の高い方法でオリゴヌクレオチドを合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例より得られた化合物6のESI-TOFマススペクトルを示した図である。
【
図2】本発明の実施例より得られた化合物8のESI-TOFマススペクトルを示した図である。
【
図3】本発明の実施例より得られた化合物15のUPLCスペクトルを示した図である。
【
図4】本発明の実施例より得られた化合物15のESI-TOFマススペクトルを示した図である。
【
図5】本発明の実施例より得られた化合物22のUPLCスペクトルを示した図である。
【
図6】本発明の合成方法によって合成された20量体のスペクトルと、従来法で合成された20量体のスペクトルとを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るオリゴヌクレオチド合成に用いるマルチフルオラスブロックマーおよびこれを用いたオリゴヌクレオチド合成方法の実施形態について説明する。
【0018】
第1の実施形態におけるヌクレオシド保護体は、下記式(I)で表される構造を有する。
【化7】
【0019】
上記式(I)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R1、R2は、独立して、Hまたは、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH2)n(CF2)mCF3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH3、メトキシエチル、CN、CF3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。Z-Y結合の例として、置換または無置換のC2~C6アルキレン基、-S-、-CO-、-CS-、-COO-、-OCONR6-(R6はHまたはC1~C6アルキル基)、-CONR6-、-CSNR6-などが挙げられる。
【0020】
上記式(I)に記載のヌクレオシド保護体は、(1)3´,5´-水酸基を保護したヌクレオシドの塩基部分に、市販のフルオラスアルコールを反応させて塩基を保護し、(2)(1)で得られた化合物の3´,5´-水酸基の保護基を脱保護することで合成することができる。
【0021】
上記式(I)に記載のヌクレオシド保護体において、塩基部分の保護は、市販されているフルオラスアルコールを用いて、光延反応や塩化ベンゼンスルホン酸を用いる反応を適用することで行うことができる。本実施形態においては、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロ-1-ヘキサノール、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1-オクタノール、1H,1H-ペンタデカフルオロ-1-オクタノールなどを用いることができる。市販されているフルオラスアルコールを用いることができるため、従来法よりも、より簡便かつ低コストで上記式(I)に記載のヌクレオシド保護体を合成することができる。F-protectorを導入したヌクレオシド誘導体の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【化8】
【0022】
第2の実施形態は、下記式(II)で表される5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイトである。
【化9】
上記式(II)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R
3は、リン酸保護基、好ましくはCH
2CH
2CN、CH
2CH=CH
2、OCH
3または、CH
2(CH
2)
xYGであって、YがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、xが0~3であるか、または、R
3とリン原子に結合する窒素原子に結合するR
4の一つとが結合して形成される環であり;R
4は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。Z-Y結合の例は、上記式(I)で表される化合物と同様である。
【0023】
上記式(II)に記載の3´-ホスホロアミダイトは、(1)上記式(I)で表される3´,5´-無保護ヌクレオシドの5´-水酸基を、公知の方法で選択的に保護し、(2)(1)で得られた5´-保護3´-無保護ヌクレオシドに、NCCH2CH2OP[N(i-C3H7)2]2、CH2=CHCH2OP[N(i-C3H7)2]2などといった3価のリン酸化剤と反応させることで合成することができる。工程(2)は、公知の方法で行うことが可能である。
【0024】
第3の実施形態は、下記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトである。
【化10】
【0025】
前記式(III)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R3は、リン酸保護基、好ましくはCH2CH2CN、CH2CH=CH2、OCH3、または、CH2(CH2)
t
RGであって、RがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、tが0~3であるか、またはR3と、リン原子に結合する窒素原子に結合するR5の一つとが結合して形成される環であり;R5は、置換または未置換の脂肪族基、置換または未置換の芳香族基であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH2)n(CF2)mCF3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;XはOまたはSであり;pは0~27の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH3、メトキシエチル、CN、CF3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。Z-Y結合の例は、上記式(I)で表される化合物と同様である。上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトは、ProまたはR1,R3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有する。本明細書においてブロックマーとは、2量体以上のヌクレオチドであって、アミダイトや3´-または5´-水酸基無保護のヌクレオシド、ヌクレオチド等と縮合反応を行うことでさらに長鎖のヌクレオチドを形成するための合成ブロックとなるヌクレオチド単位である。マルチフルオラスブロックマーとは、フルオラスタグを複数含むブロックマーである。
【0026】
前記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトは、(1)上記式(II)で表される5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイト、または、下記式(II´)で表される、5´-末端保護ヌクレオシドH-ホスホネートと、下記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドとを反応させて中間体を合成し、(2)得られた中間体の3´-末端に結合したフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドのフルオラスアンカーを除去して3´-無保護体を得て、(3)無保護となった3´-水酸基にNCCH
2CH
2OP[N(i-C
3H
7)
2]
2、CH
2=CHCH
2OP[N(i-C
3H
7)
2]
2などといった3価のリン酸化剤と反応させて3´-ホスホロアミダイトを生成させるか、または、トリフェニルホスファイトと反応させた後にトリエチルアミンで加水分解を行う条件、三塩化リンを反応させた後に加水分解を行う、などといった条件下で3´-H-ホスホネートを生成させ、(4)目的とする鎖長のフルオラスブロックマーアミダイトが得られるまで、上記工程(1)から(3)を繰り返すことで合成することができる。下記式(II´)および式(V)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成
し;R
7
は、(C=O)(CH
2
)
2
(C=O)(CH
2
)
n
(CF
2
)
m
CF
3
またはシリル系保護基であり、nは1または2である。
【化11】
【化12】
【0027】
第4の実施形態は、下記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーである。
【化13】
【0028】
前記式(IV)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;R3は、リン酸保護基、好ましくはCH2CH2CN、CH2CH=CH2、OCH3、または、CH2(CH2)
t
RGであって、RがNHまたはSであり、Gがアリルまたはアシル基であり、tが0~3であり;Proは、無保護、ヌクレオシド塩基の保護基またはF-protectorであって、F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH2)n(CF2)mCF3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;XはOまたはSであり;lは0~58の整数であり;R7は、(C=O)(CH2)2(C=O)(CH2)n(CF2)mCF3またはシリル系保護基であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH3、メトキシエチル、CN、CF3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成する。Z-Y結合の例は、上記式(I)で表される化合物と同様である。上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーは、ProまたはR1,R3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有する。
【0029】
第5の実施形態は、上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトまたは、下記式(II´)で表される、5´-末端保護ヌクレオシドH-ホスホネートと、下記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドとをカップリング反応させる工程を含む、上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーの合成方法である。下記式(II´)および式(V)中、Bは天然型または修飾ヌクレオシド塩基であり;R
1は、酸性、塩基性または中性条件下で脱保護可能な保護基であり;F-protectorは、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がOである場合にはO(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、ヌクレオシド塩基Bの被保護部がNである場合にはNH(C=O)(CH
2)
n(CF
2)
mCF
3であり、nは1または2であり、mは1~20の整数であり;Yは、H、OH、ハロゲン、OCH
3、メトキシエチル、CN、CF
3、または、アシル系保護基、エーテル系保護基、シリル系保護基で保護された水酸基であり;Zは、H、アルキル、O-アルキル、N-アルキル、ハロゲンであるか、または、前記Yとの間でZ-Y結合を形成
し;R
7
は、(C=O)(CH
2
)
2
(C=O)(CH
2
)
n
(CF
2
)
m
CF
3
またはシリル系保護基であり、nは1または2である。
【化14】
【化15】
【0030】
本実施形態におけるマルチフルオラスブロックマーは、(1)上記式(II)で表される5´-末端保護ヌクレオシドホスホロアミダイト、または、上記式(II´)で表される、5´-末端保護ヌクレオシドH-ホスホネートと、上記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドとを反応させて中間体を合成し、(2)得られた中間体の3´-末端に結合したフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドのフルオラスアンカーを除去して3´-無保護体を得て、(3)無保護となった3´-水酸基にNCCH2CH2OP[N(i-C3H7)2]2、CH2=CHCH2OP[N(i-C3H7)2]2などといった3価のリン酸化剤と反応させて3´-ホスホロアミダイトを生成させるか、または、トリフェニルホスファイト、ジフェニルホスファイト、三塩化リン、2-クロロ-4H-1,3,2-ジオキサホスホリン-4-オンなどといったリン酸化剤と反応させた後に加水分解を行って3´-H-ホスホネートを生成させ、(4)目的とする鎖長のフルオラスブロックマーアミダイトが得られるまで、上記工程(1)から(3)を繰り返すことで合成することができる。
【0031】
上記実施形態におけるマルチフルオラスブロックマーは、以下に記載する別法でも合成することができる。上記式(III)で表されるフルオラスブロックマーアミダイトと、下記式(VI)で表される、5´-末端が無保護、3´-末端にH-ホスホネートを有するフルオラスブロックマーH-ホスホネートと、上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーの5´-末端を脱保護したものとを、いわゆるワンポットでカップリングさせことによって、目的の鎖長を有するマルチフルオラスブロックマーを得ることができる。目的物の鎖長に応じて、5´-保護フルオラスブロックマーアミダイトとフルオラスブロックマーH-ホスホネートとのカップリングで得られた化合物の5´-末端を脱保護し、再度、フルオラスブロックマーアミダイトと反応させて、鎖長が伸びたフルオラスブロックマーH-ホスホネートを合成した後に5´-末端を脱保護して、上記のワンポットカップリング反応に供してもよい。さらなる別法として、マルチフルオラスブロックマーの3´-末端を、フルオラスアンカーに替えて固相担体に結合させたものを用いて上記反応を行うことによっても、固相担体に結合したマルチフルオラスブロックマーを合成することができる。なお、3´-末端にフルオラスアンカーを有するマルチフルオラスブロックマー、3´-末端が固相担体に結合したマルチフルオラスブロックマーのいずれについても、各部位の脱保護反応を行うことで、オリゴヌクレオチドが得られる。脱保護条件を選択することで、必要な部分にのみ保護基を残した修飾オリゴヌクレオチドを合成することも可能である。上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーは、ProまたはR
1,R
3のいずれかにおいて、少なくとも一つのF-protectorを有する。これにより、マルチフルオラスブロックマーの有する親和性を利用して、汎用されている保護基を用いる場合と比べて、中間体や生成物の分離精製を簡便にすることができる。
【化16】
【化17】
【化18】
【0032】
上記実施形態におけるヌクレオシド塩基は、アデニル基、グアニル基、シトシニル基、チミニル基、ウラシル基などの天然型塩基、5-メチルシトシニル基、5-フルオロウラシル基、7-メチルグアニル基、7-デアザアデニル基などの修飾塩基を含む。本明細書中の「修飾ヌクレオシド塩基」には、アミノ基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基など、反応性官能基を有する塩基が含まれる。上記のような反応性官能基に対して、フルオラスアルコール由来のフルオラス保護基が導入される。ヌクレオシド塩基を保護する保護基としては、アシル基、ベンゾイル基、アリルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0033】
上記実施形態における脂肪族基は、飽和または不飽和の、直鎖状または分岐しているC1-C18炭化水素、飽和または不飽和の環状C3-C18炭化水素を含む。好ましくは、飽和または不飽和の、C1-C8炭化水素またはC3-C8環状炭化水素である。本実施形態における芳香族基は、フェニル基などの炭素環式芳香環、ナフチル基などの炭素環式芳香環または非炭素式芳香環に縮合した炭素環式芳香環を含む。本実施形態における脂肪族基、芳香族基は、飽和または不飽和の、C1-C8炭化水素またはC3-C8環状炭化水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、芳香環などの置換基で置換されていてもよい。リン原子に結合した窒素原子に結合しているのは、好ましくは、直鎖状または分岐しているアルキル基や、ピロリジン、ジエチルアミン、モルホリノ基などの2級アミノ基であり、さらに好ましくはイソプロピル基である。また、リン原子に結合した窒素原子に結合したアルキル基の一端部が、隣接する窒素原子に結合して形成されている環であってもよい。
【0034】
上記実施形態における、隣接するヌクレオシドを結合するリン酸の保護基としては、オリゴヌクレオチド合成で汎用されるリン酸保護基を用いることができる。好ましくは、-CH2CH2CN、-CH2CH=CH2、-OCH3、2-クロロフェニル基、フェニル基、または、R
3
と、リン原子に結合する窒素原子に結合するR
4
またはR
5
の一つとが結合して形成される環であってもよい。上記以外の保護基として、塩基性条件下で脱保護可能な-CH2CH2E(Eは電子吸引性基)、フッ素含有保護基が挙げられる。
【0035】
本実施形態における5´-水酸基の保護基は、酸性条件、塩基性条件または中性条件下で除去可能な保護基を含む。酸性条件下で除去可能な保護基は、置換または未置換のトリチル基を含むエーテル系保護基、ピキシル基、置換または未置換のテトラヒドロピラニル(THP)基を含み、代表的な保護基として4,4´-ジメトキシトリチル基がある。中性条件下で除去可能な保護基の例としてシリル系保護基があり、具体的には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基を含む。塩基性条件下で除去可能な保護基の例として、Fmoc基、ピバロイル基がある。上記以外の保護基として、アルキル基、アシル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、アルコキシアルキル基、カルバモイル基等が挙げられる。
【0036】
上記実施形態において、3´-無保護水酸基をアミダイト化する工程においては、3´-無保護ヌクレオシドの溶液(0.1~0.4M)に、3価のリン酸化剤(3´-無保護ヌクレオシドの1.05~2.0当量)および活性化剤(3´-無保護ヌクレオシドの0.4~0.8当量)を加え、室温で10~20時間攪拌する。得られた3´-ホスホロアミダイトをシリカゲルで精製する。
【0037】
上記実施形態においては、式(II)または式(III)で表される3´-ホスホロアミダイトに対して、アミダイト部分を活性化する活性化剤を添加した後、上記式(V)で表される3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドをカップリングさせることで、式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーが得られる。活性化剤の代表的なものとしては、1H-テトラゾール、S-エチルチオテトラゾール、ジシアノイミダゾール、ジクロロイミダゾール、スルホン酸とアゾールまたは3級アミンの塩があるが、これらに限定されない。反応は、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、DMF、トルエン等の溶媒を乾燥させたものの中で行う。
【0038】
上記実施形態におけるブロックマーアミダイトやマルチフルオラスブロックマーを合成する場合には、1塩基ずつ伸張させていく方法の別法として、既に2量体以上となっているブロックマーアミダイトを、3´-末端にフルオラスアンカーが結合したヌクレオシドと縮合させることで、2以上の塩基分を一度に伸張させることもできる。
【0039】
上記式(III)で表されるブロックマーアミダイトを用いて行うマルチフルオラスブロックマーの合成は、溶液中で行う(以下、「液相合成法」という)ことができる。上述した方法でマルチフルオラスブロックマーを合成した後、市販されているシリカゲル、オクタデシルやジオール等で修飾されたシリカゲル、フルオラス固相抽出用のシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにて簡便に精製することができる。市販されているフルオラス固相抽出用のシリカゲルとしては、Aldrich社から購入可能なFluoroflash silica gel 40μmが一例としてあげられる。液相合成法では、固相樹脂上でカップリング反応を行う固相合成法と比べて、大量スケール(10倍~100倍以上)で合成することができる。よって、より低コストでオリゴヌクレオチド合成用のマルチフルオラスブロックマーを合成することができる。有機溶媒と水またはフルオラス溶媒と有機溶媒、フルオラス溶媒と水による分液操作や、それら2相系の向流クロマトグラフィー、晶析・粉体化による簡易精製なども適用可能である。
【0040】
また、マルチフルオラスブロックマーのヌクレオシド塩基部分に保護基として導入する本発明のF-アンカーの数を調整する、換言すると、一部のヌクレオシド塩基部分には本発明のF-アンカーを導入し、残りのヌクレオシド塩基部分には汎用される保護基を用いることで、フルオラス固相抽出用のシリカゲルとのアフィニティを変化させることができる。これにより、マルチフルオラスブロックマーをフルオラス固相抽出用のシリカゲル側に残るようにし、反応の副生成物や過剰な試薬との分離をより簡便に行うことができる。またマルチフルオラスブロックマー合成の中間体の段階でも、溶媒への溶解性を変化させることができることで、シリカゲルクロマトグラフィーによる精製ではなく、アフィニティクロマトグラフィーによる精製や、フルオラス溶媒-炭化水素系有機溶媒での分配による精製が可能となる。このように、本発明のマルチフルオラスブロックマーは、合成する量やその鎖長に応じて、精製方法を適宜選択することができる。
【0041】
上記式(IV)で表されるマルチフルオラスブロックマーを用いたオリゴヌクレオチドの合成においては、例えば、マルチフルオラスブロックマー合成の段階で、3価のリン酸を酸化剤ではなく硫化剤と反応させて、5価のリン酸の一部をチオホスフェートとすることができる。したがって、ブロックマー合成の途中段階でチオホスフェートとしたマルチフルオラスブロックマーを合成しておくことで、狙った位置に確実にチオホスフェートを導入したオリゴヌクレオチドを合成することができる。
【0042】
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明し、例示するものである。実施例1に示す手順に従い、上記式(II)で表される化合物の一例である塩基部フルオラス保護ホスホロアミダイトを製造した。また、実施例2に示す手順に従い、上記式(IV)で表される化合物の一例であるマルチフルオラスブロックマーを製造した。さらに、実施例3に示す手順に従い、上記式(III)で表される化合物の一つであるブロックマーホスホロアミダイト6量体ホスホロアミダイトと、上記式(IV)で表される化合物の一例であるマルチフルオラスブロックマーとを用いてオリゴヌクレオチド19量体の合成を行った。
【0043】
(実施例1)ヌクレオシド塩基部フルオラス保護ホスホロアミダイトの合成
ステップ1:3´,5´-保護ヌクレオシドの塩基部のフルオラス保護
【化19】
【0044】
公知の方法により合成可能である3´,5´-ビス-O-tert-ブチルジメチルシリルチミジン1(2.4g,5.0mmol)をテトラヒドロフラン(25mL)に溶かし、0°Cにした。そこへトリフェニルホスフィン(1.4g,5.5mmol)、40%ジエチルアゾジカルボキシレート/トルエン溶液(2.5mL,5.5mmol)、さらに1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1-オクタノール2(2.0g,1.2mL,5.5mmol)を加え、12時間撹拌した。反応溶液をそのまま濃縮し、析出した固体を濾別、ヘキサン:酢酸エチル=1:1溶液で洗浄したのち、得られた溶液を再び濃縮し、粗生成物とした。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ヘキサン:酢酸エチル=4:1で溶出された分画を回収し、目的とする3´,5´-ビス-O-tert-ブチルジメチルシリル-4-O-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1H-オクチルチミジン3を3.3g(4.1mmol)、81%収率にて得た。ESI-TOF Mass:840.3[M+Na+]+.
【0045】
ステップ2:3´,5´-保護-塩基部フルオラス保護ヌクレオシドの3´,5´脱保護
【化20】
【0046】
化合物3(1.6g,2.0mmol)をテトラヒドロフラン(32mL)に溶かし、0°Cにした。そこへ酢酸(120mg,0.11mL,2.0mol)、さらに1.0Mテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフラン溶液(8.0mL,8.0mmol)を加え、12時間撹拌した。反応溶液を一部濃縮して5mL程度の容積とし、得られた反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。酢酸エチルで溶出された分画を回収し、目的とする4-O-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1H-オクチルチミジン4を1.2g(2.0mmol)、98%収率にて得た。ESI-TOF Mass:612.0[M+Na+]+.
【0047】
ステップ3:3´,5´-無保護-塩基部フルオラス保護ヌクレオシドの5´-保護
【化21】
【0048】
化合物4(1.2g,2.0mmol)をジメチルホルムアミド:ピリジン=1:1溶液(10mL)に溶かし、そこへ4,4-ジメチルアミノピリジン(24mg,0.20mmol)、および、ジメトキシトリチルクロリド(810mg,2.4mmol)を加え、90分撹拌した。反応溶液に酢酸エチル(100mL)を加え、0.2N塩酸水溶液で3回有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、濾過後溶媒を留去し、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、ヘキサン:酢酸エチル=7:3で溶出された分画を回収し、目的とする5´-ジメトキシトリチル-4-O-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1H-オクチルチミジン5を1.5g(1.7mmol)、83%収率にて得た。ESI-TOF Mass:914.7[M+Na+]+.
【0049】
ステップ4:5´-保護-3´-無保護-塩基部フルオラス保護ヌクレオシドのアミダイト化
【化22】
【0050】
化合物5(1.4g,1.6mmol)をジクロロメタン:アセトニトリル=1:1溶液(16mL)に溶かし、そこへ1H-テトラゾール(80mg,1.1mmol)を加え、0°Cにて15分撹拌した。そこへアリルテトライソプロピルホスホロアミダイト(710mg,0.74mL,2.4mmol)を加え、反応を開始した。15時間後、この反応混合物をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、ヘキサン:酢酸エチル=9:1で溶出された分画を回収し、目的とするアリル5’-ジメトキシトリチル-4-O-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-1H-オクチルチミジン-3’-ホスホロアミダイト6を1.6g(1.4mmol)、89%収率にて得た。UPLC測定により97%純度であることが示された。ESI-TOF Mass:1079.2[M+H
+]
+.化合物6のESI-TOFスペクトルを
図1に示した。
【0051】
(実施例2)マルチフルオラスブロックマーの合成
ステップ5:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドの2量体合成
【化23】
【0052】
化合物6(520mg,0.48mmol)と文献記載の方法により合成可能な化合物7(280mg,0.40mmol)を混合後、真空乾燥させ、そこへアルゴン気流を充填し常圧にした。ここへモレキュラーシーブス3A(800mg)を加え、次いでジクロロメタン:アセトニトリル=1:1溶液(8mL)を加え、2時間撹拌した。そこへ1H-テトラゾール(110mg,1.6mmol)を加え、室温にて30分撹拌した。反応の進行を確認した後、31wt%2-ブタノンペルオキシド/ジイソ酪酸-2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタン溶液(0.39mL,0.6mmol)を加え、反応を継続した。30分後、この反応混合物をセライト濾過し、溶液量が8mLになるまで濃縮したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ヘキサン:酢酸エチル=2:3で溶出された分画を回収し、目的とするビスフルオラスTTブロックマー8を640mg(0.38mmol)、94%収率にて得た。UPLC測定により98%純度であることが示された。ESI-TOF Mass:1680.6[M-H
+]
-.化合物8のESI-TOFスペクトルを
図2に示した。
【0053】
(実施例3)6量体ホスホロアミダイトを用いるオリゴヌクレオチド19量体の液相合成
ステップ6:6量体ホスホロアミダイトと5´-保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオシドとの縮合反応
【化24】
【0054】
化合物9(400mg,0.17mmol)と公知の方法により合成可能な化合物7(100mg,0.15mmol)を混合後、真空乾燥させ、そこへアルゴン気流を充填し常圧にした。ここへモレキュラーシーブス3A(600mg)を加え、次いでジクロロメタン:アセトニトリル=1:1溶液(6mL)を加え、2時間撹拌した。そこへ5-エチル-1H-テトラゾール(78mg,0.60mmol)を加え、室温にて30分撹拌した。反応の進行を確認した後、31wt%2-ブタノンペルオキシド/ジイソ酪酸-2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタン溶液(0.15mL,0.30mmol)を加え、反応を継続した。30分後、この反応混合物をセライト濾過し、溶液量が5mLになるまで濃縮したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ジクロロメタン:メタノール=20:1で溶出された分画を回収し、目的とするT7量体10を260mg(0.084mmol)、56%収率にて得た。ESI-TOF Mass:1552.2[M+2Na+]+.
【0055】
ステップ7:5´-保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオチド7量体の5´-脱保護
【化25】
【0056】
化合物10(230mg,0.076mmol)にジクロロメタン:アセトニトリル=4:1溶液(4mL)を加え、溶解させた後、氷浴に浸し0°Cとした。そこへジクロロ酢酸(200mg,0.13mL,1.5mmol)を加え、30分撹拌した。反応の進行を確認した後、この反応混合物をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ジクロロメタン:メタノール=13:1で溶出された分画を回収し、目的とする脱トリチルされたT7量体11を180mg(0.065mmol)、86%収率にて得た。
【0057】
ステップ8:5´-保護6量体ブロックマーアミダイトと5´-無保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオチド7量体との縮合による5´-保護ヌクレオチド13量体合成
【化26】
【0058】
化合物9(240mg,0.10mmol)と化合物11(210mg,0.076mmol)を混合後、真空乾燥させ、そこへアルゴン気流を充填し常圧にした。ここへモレキュラーシーブス3A(500mg)を加え、次いでジクロロメタン:アセトニトリル=1:1溶液(5mL)を加え、2時間撹拌した。そこへ5-エチル-1H-テトラゾール(40mg,0.30mmol)を加え、室温にて30分撹拌した。反応の進行を確認した後、31wt%2-ブタノンペルオキシド/ジイソ酪酸-2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタン溶液(0.073mL,0.11mmol)を加え、反応を継続した。30分後、この反応混合物をセライト濾過し、溶液量が5mLになるまで濃縮したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ジクロロメタン:メタノール=9:1で溶出された分画を回収し、目的とするT13量体12を260mg(0.051mmol)、73%収率にて得た。
【0059】
ステップ9:5´-保護ヌクレオチド13量体の5´-脱保護
【化27】
【0060】
化合物12(480mg,0.093mmol)にジクロロメタン:アセトニトリル=4:1溶液(4.5mL)を加え、溶解させた後、氷浴に浸し0°Cとした。そこへジクロロ酢酸(240mg,0.15mL,1.9mmol)を加え、30分撹拌した。反応の進行を確認した後、この反応混合物をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ジクロロメタン:メタノール=9:1で溶出された分画を回収し、目的とする脱トリチルされたT13量体13を240mg(0.050mmol)、52%収率にて得た。得られた化合物が、目的とする13量体であることは、得られた化合物の一部をアンモニア加水分解に供し、T13量体を示す分子イオンピーク[M-H+]-3889.67(計算値3889.64)を観測したことにより確認している。
【0061】
ステップ10:5´-保護6量体ブロックマーアミダイトと5´-無保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオチド13量体との縮合による5´-保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオチド19量体合成
【化28】
【0062】
化合物9(230mg,0.093mmol)と化合物13(300mg,0.062mmol)を混合後、真空乾燥させ、そこへアルゴン気流を充填し常圧にした。ここへモレキュラーシーブス3A(500mg)を加え、次いでジクロロメタン:アセトニトリル=1:1溶液(5mL)を加え、2時間撹拌した。そこへ5-エチル-1H-テトラゾール(32mg,0.25mmol)を加え、室温にて30分撹拌した。反応の進行を確認した後、31wt%2-ブタノンペルオキシド/ジイソ酪酸-2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタン溶液(0.060mL,0.093mmol)を加え、反応を継続した。30分後、この反応混合物をセライト濾過し、溶液量が5mLになるまで濃縮したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ジクロロメタン:メタノール=6:1で溶出された分画を回収し、目的とする、5´-保護-リン酸保護-3´-フルオラスアンカー結合T19量体14を82mg(0.011mmol)、18%収率にて得た。
【0063】
ステップ11:5´-保護-3´-フルオラスアンカー結合ヌクレオチド19量
体の脱保護
【化29】
【0064】
化合物14を1% β-mercaptoethanolのメタノール:濃アンモニア水=1:1溶液に溶解させ、50°Cで12時間撹拌した。反応生成物を、市販の精製キットに供し、ジメトキシトリチル基の除去および精製を行うことで、目的とする化合物15が得られることを確認した。目的とする19量体であることは、T19量体を示す分子イオンピーク[M-H
-]
-5714.00(分子式C
190H
247N
38O
131P
18
-,計算値5713.91)を観測したことにより確認している。得られたT19量体15のUPLCスペクトルを
図3に、ESI-TOFマススペクトルを
図4に、それぞれ示した。
【0065】
(実施例4)塩基部がフルオラス保護されたヌクレオシドを用いた11量体の合成
ステップ12:5´-保護-塩基部フルオラス保護ヌクレオシド-3´-アミダイトと5´-無保護-3´-保護-ヌクレオチド3量体との縮合による、塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド4量体合成
【化30】
化合物16(1.05g,1.00mmol)と化合物4(1.34g,1.20mmol)をジクロロメタン-アセトニトリル1:1混合物(16mL)に溶かし、さらに1H-テトラゾール(350mg,5.00mmol)を加え撹拌した。15分後、31wt% 2-butanone peroxide(966μL,1.50mmol)を滴下して15分撹拌した。TLC(酢酸エチル100%)にて原料がほぼ消失したことを確認し、分液洗浄後、カラムクロマトグラフィーに供し、目的とする5´,3´-保護ヌクレオチド4量体17を得た(1.93g,0.93mmol,93%収率,純度97%)。構造は
31PNMR、ESI-MSにより、純度はUPLCにて確認した)。
【0066】
ステップ13:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド4量体の3´-脱保護
【化31】
5´,3´-保護ヌクレオチド4量体17(1.87g,0.900mmol)に酢酸(51.4μL,0.900mmol)を加え0℃まで冷却した。1.0M TBAF in THF(1.80mL,1.80mmol)を滴下して3時間撹拌した。TLC(酢酸エチル=100%)にて原料がほぼ消失したことを確認し、分液洗浄後、カラムクロマトグラフィーに供し、目的とする3´-脱保護4量体18を得た(1.35g,0.689mmol,76.7%収率,純度93%)。構造は
31PNMR、ESI-MSにより、純度はUPLCにて確認した。
【0067】
ステップ14:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´-保護ヌクレオチド4量体の3´-アミダイト化
【化32】
化合物18(1.27g,0.65mmol)をジクロロメタン-アセトニトリル1:1混合物(16mL)に溶かし、さらに1H-テトラゾール(59.0mg,0.845mmol)とN-メチルイミダゾール(21.0μL,0.260mmol)を加え、0℃にした。15分後、アリル-N,N,N’,N’-テトライソプロピルホスホロアミダイト(469μL,1.63mmol)を滴下して加えた。4日後、TLC(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)にて原料がほぼ消失したことを確認し、反応混合液をそのままカラムクロマトグラフィーに供し、目的とする4量体アミダイト体19を得た(0.873g,0.40mmol,62.6%収率,純度98.3%)。構造はESI-MSにより、純度はUPLCにて確認した。
【0068】
ステップ15:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´-保護ヌクレオチド4量体3´-アミダイトと5´-無保護-3´-保護ヌクレオチド3量体との縮合による、塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド7量体合成
【化33】
化合物16(0.537g,0.25mmol)と4量体アミダイト19(0.288g,0.275mmol)をジクロロメタン-アセトニトリル1:1混合物(5mL)に溶かし、さらに5-エチルチオ-1H-テトラゾール(70.1mg,1.00mmol)を加え撹拌した。90分後、31wt% 2-butanone peroxide(241μL,0.375mmol)を滴下して60分撹拌した。TLC(酢酸エチル:メタノール=9:1)にて原料がほぼ消失したことを確認し、分液洗浄後、カラムクロマトグラフィーに供し、目的とする7量体20を得た(0.655g,0.211mmol,84.3%収率,純度96.7%)。構造はESI-MSにより、純度はUPLCにて確認した。
【0069】
ステップ16:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド7量体の5´-脱保護
【化34】
化合物20(0.655g,0.211mmol)にジクロロメタン(4mL)を加え0℃まで冷却した。ジクロロ酢酸(0.349mL,4.22mmol)を滴下して30分撹拌した。TLC(酢酸エチル:メタノール=9:1)にて原料がほぼ消失したことを確認し、反応液をカラムクロマトグラフィーに供し、目的とする5´-無保護7量体21を得た(0.468g,0.689mmol,79.1%収率,純度92.4%)。純度はUPLCにて確認した。
【0070】
ステップ17:塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´-保護ヌクレオチド4量体3´-アミダイトと塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´-無保護-3´-保護ヌクレオチド7量体との縮合による、塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド11量体合成
【化35】
5´-無保護7量体21(0.311g,0.100mmol)と4量体アミダイト19(0.236g,0.110mmol)をジクロロメタン-アセトニトリル1:1混合物(2mL)に溶かし、さらに1H-テトラゾール(42.0mg,6.00mmol)およびN-メチルイミダゾール(16μL,0.200mmol)を加え撹拌した。90分後、31wt% 2-butanone peroxide(100μL,0.150mmol)を滴下して60分撹拌した。TLC(酢酸エチル:メタノール=9:1)にて原料がほぼ消失したことを確認し、分液洗浄後、カラムクロマトグラフィーに供し、目的とする塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド11量体22を得た(0.450g,0.0920mmol,92%収率,純度96.7%)。純度はUPLCにて確認した。UPLCスペクトルを
図5に示した。
得られた塩基部フルオラス保護ヌクレオシドを含む5´,3´-保護ヌクレオチド11量体22に対して汎用される方法で脱保護を行うことで、保護基を除去したヌクレオチド11量体を得ることができる。
【0071】
従来法で合成したdTA
19配列を有するヌクレオチド20量体の脱保護後の純度と、本発明のフルオラスタグを用いた合成法によって合成したdTA
19配列を有するヌクレオチド20量体の脱保護後の純度とを比較したUPLCスペクトルを
図6に示す。(a)が従来法で合成したdTA
1920量体のスペクトル、(b)が本発明のフルオラスタグを5´-末端Tの塩基部分に有するdTA
1920量体のスペクトルである。フルオラスタグを残した状態となるように脱保護を行い、精製に供したことで、従来法で合成した20量体よりも高い純度で20量体が得られたことが分かる。フルオラスタグが有する高い脂溶性により、分離精製にあたって保持時間が大きく変わることで、従来法よりも簡便に単離精製を行うことができることが示された。
【0072】
本実施形態のマルチフルオラスブロックマーは、市販されているフッ化炭素誘導体をそのまま用いてフルオラスアンカーを導入することで合成することができる。また、目的に応じて、フルオラスアンカー中のフッ素の数を変更することが容易に可能である。このため、目的とするフルオラスタグを得るために複雑な工程を必要とする、従来法によるヌクレオシドへのフルオラスタグ導入よりも、低コストかつ容易に目的物を得ることができる。
【0073】
また、先述したような問題に起因して、従来法によるヌクレオシドへのフルオラスタグ導入は、フルオラスタグの導入数に制限があり、汎用性が高くない。これに対して、本実施形態のマルチフルオラスブロックマーの合成は、フルオラスアンカーの導入数を調製することで、オリゴヌクレオチド合成の中間体の溶解性や、精製負荷を低減することができる。これにより、より汎用性が高い合成法とすることができる。また、フルオラスタグは、合成するブロックマーやオリゴヌクレオチドの長さや配列に応じて、ヌクレオシド塩基部分に導入したり,ヌクレオシドの3´-末端の保護基に導入することができる。
【0074】
また、本実施形態のマルチフルオラスブロックマーを用いたオリゴヌクレオチド合成方法は、ブロックマーの段階で酸化/硫化した5価のリン酸結合部分を形成しておくことができる。したがって、オリゴヌクレオチド中の一部のリン酸結合のみを他の部分のリン酸結合と異なる酸化/硫化状態とする場合においても、オリゴヌクレオチド合成の手順を変えることなく、より簡便に、目的とする修飾されたリン酸結合部分を含むオリゴヌクレオチドを合成することができる。
【0075】
また、これまでに用いられているフルオラスタグを導入したブロックマーは、そのフルオラスタグの物性に影響を受けることで、オリゴヌクレオチド合成における鎖長伸張時の精製方法が煩雑となっていた。これに対し、マルチフルオラスブロックマーの合成方法およびマルチフルオラスブロックマーを用いたオリゴヌクレオチド合成方法は、その鎖長に応じて、シリカゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィーによる精製、フルオラス溶媒-炭化水素系有機溶媒での分配など、精製方法の選択の自由度が大きい。このため、従来法によるフルオラスタグを用いたオリゴヌクレオチド合成方法よりも、より簡便な精製で目的とするオリゴヌクレオチドを得ることができる。
【0076】
また、本実施形態のマルチフルオラスブロックマーを用いたオリゴヌクレオチド合成方法によれば、同じN量体のオリゴヌクレオチドを合成するにあたって、汎用されてきた液相合成法で1塩基ずつ伸長を行う方法と比べて、必要となる工程数を減らすことができる。したがって、目的とする長さのオリゴヌクレオチドの収率を向上させることができる。