(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】医療用マーカーインクおよびこれを用いた医療用マーカーペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20231130BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20231130BHJP
A61B 90/00 20160101ALI20231130BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K8/02 100
A61B90/00
(21)【出願番号】P 2022104590
(22)【出願日】2022-06-29
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021143290
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500231377
【氏名又は名称】株式会社泰誠
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匡之
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-137175(JP,A)
【文献】特開平07-118588(JP,A)
【文献】特開2011-020443(JP,A)
【文献】特開2016-125022(JP,A)
【文献】特開2002-161024(JP,A)
【文献】特開平07-011183(JP,A)
【文献】特開2015-199353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/17
B43K 8/02
A61B 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク総量においてエタノールを30~90質量%の範囲、水を50質量%以下の範囲、定着剤を0.05~5質量%の範囲で含有し、さらに着色剤を含有し、前記着色剤
は、食用赤色106号と食用青色1号を含有し、前記定着剤は、ヒドロキシプロピルセルロースまたはポリビニルピロリドンのいずれかであることを特徴とする医療用マーカーインク。
【請求項2】
インク総量において前記着色剤を0.1~10質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項
1に記載の医療用マーカーインク。
【請求項3】
保湿剤としてプロピレングリコールを、インク総量において1~30質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医療用マーカーインク。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の医療用マーカーインクと、ペン芯を備え、該ペン芯のペン先の硬度が30~80の範囲であることを特徴とする医療用マーカーペン。
【請求項5】
前記ペン芯は棒状の繊維束であり、該繊維束を構成する糸状の繊維は0.5~10デニールの範囲であることを特徴とする請求項
4に記載の医療用マーカーペン。
【請求項6】
前記繊維は、ポリアミド樹脂繊維およびポリエステル樹脂繊維の少なくとも一方であることを特徴とする請求項
5に記載の医療用マーカーペン。
【請求項7】
太さの異なる2種のペン芯を備えることを特徴とする請求項
4に記載の医療用マーカーペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用マーカーインクに関するものであり、より詳細には、人体に対して安全に使用することができるバイオレット系の医療用マーカーインクと、これを用いた医療用マーカーペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリスタルバイオレット(Crystal violet)、及び、ゲンチアナバイオレット(gentian violet)は、トリフェニルメタン色素の一種であって、pH指示薬や染色液としてよく用いられている。また、内視鏡検査時にポリープなどの病変部を確認しやすくするための色素散布用の色素として用いられ、あるいは、人体の手術箇所をマーキングするサージカルマーカー用インクに用いられることもある(特許文献1)。
【0003】
しかるに、このクリスタルバイオレット及びゲンチアナバイオレットは、このように医療分野において広く使用されているが、近時、ゲンチアナバイオレットの発がん性を示す結果が報告され、ゲンチアナバイオレット及びそれと同等のクリスタルバイオレットについて、使用を控える方向にあり、サージカルマーカー用インクについても同様の要請がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、発がん性を示す結果が報告されたゲンチアナバイオレット及びそれと同等のクリスタルバイオレットを用いたサージカルマーカー用インクについては、その使用を控えるべきとの要請がある。
【0006】
また、ゲンチアナバイオレット及びそれと同等のクリスタルバイオレットを用いた従来の医療用マーカーペンは、ペン芯による皮膚や臓器への刺激が強く、皮膚に痛みを感じたり臓器を痛めることがあるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような要請に鑑みてなされたもので、ゲンチアナバイオレット及びクリスタルバイオレットを用いることなく、それと同等の紫色を発色させる、人体にとって安全な医療用マーカーインクと、これを用いた医療用マーカーペンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、インク総量においてエタノールを30~90質量%の範囲、水を50質量%以下の範囲、定着剤を0.05~5質量%の範囲で含有し、さらに着色剤を含有し、前記着色剤は、食用赤色106号と食用青色1号を含有し、前記定着剤は、ヒドロキシプロピルセルロースまたはポリビニルピロリドンのいずれかであることを特徴とする医療用マーカーインクである。
【0009】
一実施形態においては、インク総量において前記着色剤を0.1~10質量%の範囲で含有する。また、保湿剤としてプロピレングリコールを、インク総量において1~30質量%の範囲で含有する。
【0010】
また、上記課題を解決するための請求項4に係る発明は、上記のいずれかの医療用マーカーインクと、ペン芯を備え、該ペン芯のペン先の硬度が30~80の範囲である医療用マーカーペンである。
【0011】
一実施形態においては、前記ペン芯は棒状の繊維束であり、該繊維束を構成する糸状の繊維は0.5~10デニールの範囲である。また、前記繊維は、ポリアミド樹脂繊維およびポリエステル樹脂繊維の少なくとも一方である。また、太さの異なる2種のペン芯を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る医療用マーカーインクは上記のとおりのものであるので、従来のゲンチアナバイオレットやクリスタルバイオレットを用いたサージカルマーカー用インクと同等の紫色を発色させ、且つ、人体にとって安全に使用し得る効果がある。本発明に係る医療用マーカーペンは上記のとおりのものであるので、従来のゲンチアナバイオレットやクリスタルバイオレットを用いたサージカルマーカー用インクと同等の紫色のマーキングが可能で、且つ、臓器や皮膚等に対する刺激が抑制されており、人体にとって安全に使用し得る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る医療用マーカーペンの一実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<医療用マーカーインク>
本発明に係る医療用マーカーインクは、インク総量においてエタノールを30~90質量%の範囲、水を50質量%以下の範囲、定着剤を0.05~5質量%の範囲で含有し、さらに着色剤を含有し、当該着色剤は、食用許可色素、化粧品法定色素、医薬部外品原料規格、日本薬局方および食品添加物公定書のいずれかに記載されている着色剤、およびそのレーキ化物の少なくとも1種であることを特徴とするものである。このような本発明に係る医療用マーカーインクは、従来のゲンチアナバイオレットやクリスタルバイオレットを用いたサージカルマーカー用インクと同等の紫色を発色させ、且つ、人体にとって安全に使用し得るものである。尚、本発明において着色剤は染料、顔料の双方を含むものである。
【0015】
本発明の医療用マーカーインクに使用される着色剤であって、食用許可色素に記載されている食用色素は、例えば、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用赤色3号等のキサンテン系食用色素、食用赤色2号、食用赤色102号、食用黄色4号、食用黄色5号等のアゾ系食用色素、食用青色1号、食用緑色3号等のトリフェニルメタン系食用色素、インジゴイド系食用色素である食用青色2号等の合成食用色素を挙げることができる。
【0016】
また、着色剤として、例えば、ウコン色素、カラメル色素、トマト色素、クチナシ色素、β-カロチン色素、ベニバナ色素、トウガラシ色素、アナトー色素、ビートレッド色素、クロロフィル、銅クロロフィルおよびその金属塩、鉄クロロフィルおよびその金属塩、リボフラビン等の天然食用色素を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の医療用マーカーインクに使用される着色剤であって、化粧品法定色素に記載されている色素は、例えば、赤106号、赤203号、赤221号、赤225号、赤228号、赤230号、青202号、青203号、青204号、黄201号、黄202号、黄205号、緑205号、橙201号、橙203号、橙204号、橙205号、褐201号等を挙げることができる。
【0018】
また、本発明の医療用マーカーインクに使用される着色剤であって、医薬部外品原料規格(2006)に記載されている着色剤は、例えば、アスタキサンチン液、ウコンエキス、カルミン、クチナシ黄、コチニール、パプリカ色素、ベニバナ赤、ベニバナ黄、ラッカイン酸等を挙げることができる。
【0019】
また、本発明の医療用マーカーインクに使用される着色剤であって、日本薬局方に記載されている着色剤は、例えば、インジゴカルミン、カオリン、合成ケイ酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、タルク、ベントナイト等を挙げることができる。
【0020】
さらに、本発明の医療用マーカーインクに使用される着色剤であって、食品添加物公定書に記載されている着色剤は、例えば、アナトー色素、ウコン色素、カカオ色素、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、コチニール色素、ムラサキイモ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素等を挙げることができる。
【0021】
医療用マーカーインクの総量における着色剤の含有量は、0.1~10質量%の範囲、好ましくは1~8質量%の範囲とすることができる。着色剤の含有量がインク総量において0.1質量%未満であると、マーキングされたインクの視認性が不十分なことがあり、10質量%を超えると、着色剤がエタノールや水等の溶剤に全て溶解せず、マーキング不良となることがあり好ましくない。
【0022】
上記の着色剤の含有量の範囲内において、着色剤として色調が異なる2種以上の食用色素を含有することにより、所望の発色の医療用マーカーインクを得ることができる。例えば、着色剤として食用赤色106号と食用青色1号を含有することにより、ゲンチアナバイオレットやクリスタルバイオレットを用いることなく、それと同等の紫色の発色の医療用マーカーインクとすることができる。
【0023】
本発明の医療用マーカーインクに使用される定着剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、アラビアガム、セラック、デキストリン、ペクチン等の水溶性高分子定着剤を好適に挙げることができる。
【0024】
医療用マーカーインクの総量における定着剤の含有量は、0.05~5質量%の範囲、好ましくは0.5~3質量%の範囲である。定着剤の含有量がインク総量において0.05質量%未満であると、医療用マーカーインクにおける着色剤の定着性が悪くなることがあり、5質量%を超えると、マーキングされたインクがかすれてしまうことがあり好ましくない。
【0025】
本発明の医療用マーカーインクに含有されるエタノールは、インク総量において30~90質量%、好ましくは30~60質量%の範囲である。エタノールの含有量がインク総量において30質量%未満であると、マーキングされたインクの乾燥に時間がかかってしまうことがあり、90質量%を超えると、医療用マーカーペンのキャップを開けた状態で、ペン先が乾燥してマーキングできないことがあり好ましくない。
【0026】
また、本発明の医療用マーカーインクに含有される水は、インク総量において50質量%以下、好ましくは10~40質量%の範囲である。水の含有量がインク総量において50質量%を超えると、マーキングされたインクの乾燥に時間がかかってしまうことがあり好ましくない。
【0027】
本発明の医療用マーカーインクは、保湿剤をインク総量において1~30質量%の範囲で含有するものであってもよい。保湿剤としては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリコール等を挙げることができる。
【0028】
保湿剤の含有量が医療用マーカーインク総量において1質量%未満であると、医療用マーカーペンのキャップを外した状態で、ペン先が乾燥してマーキングできなくなることがあり、30質量%を超えると、マーキングされたインクの乾燥性が著しく低下することがあり好ましくない。
【0029】
本発明の医療用マーカーインクには、本発明の効果を損なわない範囲において、従来から医療用マーカーインクに使用されている他の成分を配合することができる。
【0030】
<医療用マーカーペン>
本発明の医療用マーカーペンは、上述の医療用マーカーペンクと、ペン芯を備え、このペン芯のペン先の硬度が30~80の範囲、好ましくは30~70の範囲であることを特徴とするものである。
【0031】
図1は、本発明の医療用マーカーペンの一例を示す縦断面図である。
【0032】
図1に示される医療用マーカーペンは中綿式のもので、筒状の本体1と、本体1の先端側に位置するペン芯抑えリブ2と、ペン芯抑えリブ2に保持されるペン芯3と、本体1内に位置し、医療用マーカーインクを吸蔵するための中綿4と、本体1の後端側に位置する尾栓5と、キャップ6からなる。マーキング箇所に当接するペン芯3の先端(ペン先)は、図示例のように半球形状とすることが好ましい。また、ペン芯3の後端側は、中綿4の先端側に当接され、あるいは、挿入され、中綿4に吸蔵された医療用マーカーインクがペン芯3に供給可能とされている。
【0033】
本発明では、医療用マーカーペンが臓器や皮膚等にマーキングが可能なものであり、上記のペン芯3の先端(ペン先)の硬度が30~80の範囲、好ましくは30~70の範囲にあるものとする。ペン先の硬度が30未満であると、柔らかすぎて、ペン先が折れ曲がってしまい、安定したマーキングができないことがあり、80を超えると、臓器や皮膚等に対する刺激が強くなり好ましくない。
【0034】
尚、ペン先の硬度は、タイプAデュロメータ(JIS K6253)を用いて測定することができる。
【0035】
上記のペン芯3は、医療用マーカーペンが臓器用である場合、0.5~10デニールの範囲、好ましくは0.5~3デニールの範囲にある糸状の繊維を束ねて棒状とされた繊維束であることが好ましい。繊維の太さが0.5デニール未満であると、ペン先が柔らかすぎてマーキングしづらいことがあり、10デニールを超えると、臓器に対する刺激が強くなることがあり好ましくない。
【0036】
また、上記のペン芯3は、医療用マーカーペンが皮膚用である場合、0.5~10デニールの範囲にある糸状の繊維を束ねて棒状とされた繊維束であることが好ましい。繊維の太さが0.5デニール未満であると、ペン先が柔らかすぎてマーキングしづらいことがあり、10デニールを超えると、皮膚に対する刺激が強くなることがあり好ましくない。
【0037】
ペン芯3を構成する糸状の繊維は、ペン芯3の先端(ペン先)の硬度を30~80の範囲とする場合、例えば、ポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、アクリル樹脂繊維、ポリウレタン樹脂繊維、ポリカーボネート樹脂繊維、ポリエーテル樹脂繊維、ポリビニル樹脂繊維、ポリアセタール樹脂繊維等の合成樹脂繊維であってよい。
【0038】
これらの合成樹脂繊維の中で特にポリアミド樹脂繊維を用いたペン芯3は柔軟であり、臓器等へのペン先の当たりに柔軟なものとなる。このため、臓器等に対する刺激が抑制され、好適に使用することができる。
【0039】
また、これらの合成樹脂繊維の中で特にポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維を用いたペン芯3は柔軟であり、皮膚等へのペン先の当たりに柔軟なフィット感がある。このため、皮膚等に対する刺激が抑制され、好適に使用することができる。
【0040】
上述の医療用マーカーペンの例は、本体1に配置された中綿4に医療用マーカーインクを吸蔵させた中綿式のものであるが、本発明の医療用マーカーペンはこれに限定されるものではない。例えば、本体に医療用マーカーインクを直接収容し、バルブ機構を介在してペン芯へ医療用マーカーインクを供給するバルブ式のもの等であってよい。
【0041】
また、本発明の医療用マーカーペンは、本体1の両端にペン芯3を備え、ペン芯相互の太さが異なるものであってもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
<医療用マーカーインクの調製>
下記の組成の医療用マーカーインク(インク試料1)を調製した。
(インク試料1の組成)
・食用色素赤色106号 … 5質量%
・食用色素青色1号 … 1質量%
・エタノール … 52質量%
・プロピレングリコ―ル … 20質量%
・ヒドロキシプロピルセルロース … 2質量%
・水 … 20質量%
【0044】
また、インク試料1の組成を下記の表2に示されるように変更して、10種の医療用マーカーインク(インク試料2~インク試料11)を調製した。
【0045】
また、上記のインク試料1が含有する食用色素である赤色106号、青色1号に代えて、クリスタルバイオレットを6質量%含有させた医療用マーカーインク(参照インク試料1)を調製した。
【0046】
【0047】
<医療用マーカーペンの作製>
繊維の太さが2デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯を形成し、
図1に示されるような医療用マーカーペンを作製した。このペン芯の先端(ペン先)は、半球形状であり、ペン先の硬度は50であった。尚、ペン先の硬度は、タイプAデュロメータ(JIS K6253)を用いて測定した。
【0048】
上記のように調製した11種の医療用マーカーインク(インク試料1~インク試料11)を、上記のように作製した医療用マーカーペンの中綿4にそれぞれ2cc吸蔵させて、11種の医療用マーカーペン(ペン試料1~ペン試料11)を作製した。また、クリスタルバイオレットを含有する参照インク試料1を用いて、同様にして、医療用マーカーペン(参照ペン試料1)を作製した。
【0049】
<評 価>
作製した医療用マーカーペン(ペン試料1~ペン試料11)を用いて、腕に線幅約2mmのラインを描画することによりマーキングを行い、下記のようにして発色性・乾燥性と、洗浄性を評価した。
【0050】
(発色性・乾燥性)
腕にマーキングし5分乾燥した後、目視で観察して以下の基準で評価し、結果を下記の表2に示した。
(発色性・乾燥性の評価基準)
○ : 参照ペン試料1による紫色と同等の発色が得られ、かつ、
良好な乾燥性が得られる。
×1 : 参照ペン試料1による紫色と同等の発色が得られるものの、
乾燥性が劣る。
×2 : 参照ペン試料1による紫色に比べて発色性が劣る。
【0051】
(洗浄性)
腕にマーキングし5分乾燥した後、石鹸水をつけて指の腹でライン長さ方向と直角の方向に10秒間擦り、目視で観察して以下の基準で評価し、結果を下記の表2に示した。
(洗浄性の評価基準)
○ : マーキングしたラインを洗い流せる、あるいは、若干の洗い
流し残りが生じる。
× : マーキングしたラインに著しい洗い流し残りが生じる。
【0052】
【0053】
表2に示されるように、ペン試料1~ペン試料6の医療用マーカーペンは、発色性・乾燥性、および、洗浄性が良好であった。
これに対して、ペン試料7の医療用マーカーペンは、インクの乾燥に時間がかかり、実用レベルの良好なマーキングが行えないものであった。
また、ペン試料8の医療用マーカーペンは、ペン先が乾燥して、良好なマーキングが行えず、洗浄性を評価し得ないものであった。
また、ペン試料10の医療用マーカーペンは、マーキングされたインクにかすれが生じて発色性が劣り、また洗浄性を評価し得ないものであった。
また、ペン試料9、ペン試料11の医療用マーカーペンは、発色性・乾燥性は良好であったが、洗浄性が劣るものであった。
【0054】
[実施例2]
<医療用マーカーインクの調製>
実施例1の医療用マーカーインク(インク試料1~インク試料6、インク試料9、インク試料10)のヒドロキシプロピルセルロースに代えて、定着剤としてポリビニルピロリドンを使用した他は、実施例1と同様にして、下記表3に示すような医療用マーカーインク(インク試料12~インク試料19)を調製した。
【0055】
また、上記のインク試料12が含有する食用色素である赤色106号、青色1号に代えて、クリスタルバイオレットを6質量%含有させた医療用マーカーインク(参照インク試料2)を調製した。
【0056】
【0057】
<医療用マーカーペンの作製>
実施例1と同様にして、
図1に示されるような医療用マーカーペンを作製した。
【0058】
上記のように調製した8種の医療用マーカーインク(インク試料12~インク試料19)を、上記のように作製した医療用マーカーペンの中綿4にそれぞれ2cc吸蔵させて、8種の医療用マーカーペン(ペン試料12~ペン試料19)とした。また、クリスタルバイオレットを含有する参照インク試料2を用いて、同様にして、医療用マーカーペン(参照ペン試料2)を作製した。
【0059】
<評 価>
作製した医療用マーカーペン(ペン試料12~ペン試料19)を用いて、腕に線幅約2mmのラインを描画することによりマーキングを行い、下記のようにして発色性・乾燥性と、洗浄性を評価した。
【0060】
(発色性・乾燥性)
腕にマーキングし5分乾燥した後、目視で観察して以下の基準で評価し、結果を下記の表4に示した。
(発色性・乾燥性の評価基準)
○ : 参照ペン試料1による紫色と同等の発色が得られ、かつ、
良好な乾燥性が得られる。
× : 参照ペン試料1による紫色に比べて発色性が劣る。
【0061】
(洗浄性)
実施例1の洗浄性の評価基準と同様の基準で評価し、結果を下記の表4に示した。
【0062】
【0063】
表4に示されるように、ペン試料12~ペン試料17の医療用マーカーペンは、発色性・乾燥性、および、洗浄性が良好であった。
これに対して、ペン試料18の医療用マーカーペンは、発色性・乾燥性は良好であったが、洗浄性が劣るものであった。
また、ペン試料19の医療用マーカーペンは、マーキングされたインクにかすれが生じて発色性が劣り、また洗浄性を評価し得ないものであった。
【0064】
[実施例3]
<医療用マーカーペンの作製>
実施例1と同様に、繊維の太さが2デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料A)を形成した。このペン芯試料Aのペン先の硬度は50であった。
【0065】
また、繊維の太さが0.5デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料B)を形成した。このペン芯試料Bのペン先の硬度は30であった。
【0066】
また、繊維の太さが3デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料C)を形成した。このペン芯試料Cのペン先の硬度は70であった。
【0067】
また、繊維の太さが10デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料D)を形成した。このペン芯試料Dのペン先の硬度は80であった。
【0068】
さらに、繊維の太さが0.1デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料E)を形成した。このペン芯試料Eのペン先の硬度は20であった。
【0069】
また、繊維の太さが15デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料F)を形成した。このペン芯試料Fのペン先の硬度は90であった。
【0070】
上記のように形成した6種のペン芯(ペン芯試料A~ペン芯試料F)を用いて、
図1に示されるような6種の医療用マーカーペンを作製した。
【0071】
実施例1において調製した医療用マーカーインク(インク試料1)を、上記のように作製した6種の医療用マーカーペンの中綿4にそれぞれ2cc吸蔵させて、6種の医療用マーカーペン(ペン試料A~ペン試料F)とした。
【0072】
<評 価>
作製した医療用マーカーペン(ペン試料A~ペン試料F)を用いて、筆記対象である鶏肉にマーキングを行う際の塗布適性を以下の基準で評価し、結果を下記の表5に示した。
(塗布適性の評価基準)
◎ : 筆記対象に対する抵抗感がほとんど感じられず、ペン先に
柔軟で良好なフィット感がある。
○ : 筆記対象に対する抵抗感は少し感じられるが、ペン先に
良好なフィット感がある。
×1 : ペン先が柔らかすぎて塗布しづらい。
×2 : 筆記対象を大きく傷つけてしまい、塗布しづらい。
【0073】
【0074】
表5に示されるように、ペン試料A~ペン試料Dの医療用マーカーペンは、塗布適性が良好であり、特にペン試料A~ペン試料Cの医療用マーカーペンは、塗布適性がより良好であった。
これに対して、ペン試料Eの医療用マーカーペンは、ペン先が柔らかすぎて塗布適性が劣るものであった。
また、ペン試料Fの医療用マーカーペンは、臓器へのペン先の当たりに硬さがあり、塗布適性が劣るものであった。
【0075】
[実施例4]
<医療用マーカーペンの作製>
実施例1と同様に、繊維の太さが2デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、実施例1と同様に、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料I)を形成した。このペン芯試料Iのペン先の硬度は54であった。
【0076】
また、繊維の太さが0.5デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料II)を形成した。このペン芯試料IIのペン先の硬度は34であった。
【0077】
また、繊維の太さが3デニールであるポリエステル樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料III)を形成した。このペン芯試料IIIのペン先の硬度は68であった。
【0078】
また、繊維の太さが2デニールであるポリエステル樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料IV)を形成した。このペン芯試料IVのペン先の硬度は78であった。
【0079】
さらに、繊維の太さが0.1デニールであるポリアミド樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料V)を形成した。このペン芯試料Vのペン先の硬度は20であった。
【0080】
また、繊維の太さが20デニールであるポリエステル樹脂繊維を用いて、棒状の繊維束であるペン芯(ペン芯試料VI)を形成した。このペン芯試料VIのペン先の硬度は90であった。
【0081】
上記のように形成した6種のペン芯(ペン芯試料I~ペン芯試料VI)を用いて、
図1に示されるような6種の医療用マーカーペンを作製した。
【0082】
実施例1において調製した医療用マーカーインク(インク試料1)を、上記のように作製した6種の医療用マーカーペンの中綿4にそれぞれ2cc吸蔵させて、6種の医療用マーカーペン(ペン試料I~ペン試料VI)とした。
【0083】
<評 価>
作製した医療用マーカーペン(ペン試料I~ペン試料VI)を用いて、腕にマーキングを行う際の塗布適性を以下の基準で評価し、結果を下記の表6に示した。
(塗布適性の評価基準)
◎ : 皮膚に対する刺激がない、あるいは、ほとんど感じられず、
皮膚へのペン先の当たりに柔軟で良好なフィット感がある。
○ : 皮膚に対する刺激が少し感じられるが、皮膚へのペン先の当
たりに柔軟なフィット感がある。
×1 : ペン先が柔らかすぎて塗布しづらい。
×2 : 皮膚に対する刺激が強く感じられ、皮膚へのペン先の当たり
に硬さがある。
【0084】
【0085】
表6に示されるように、ペン試料I~ペン試料IVの医療用マーカーペンは、塗布適性が良好であり、特にペン試料I~ペン試料IIIの医療用マーカーペンは、塗布適性がより良好であった。
これに対して、ペン試料Vの医療用マーカーペンは、ペン先が柔らかすぎて塗布適性が劣るものであった。
また、ペン試料VIの医療用マーカーペンは、皮膚へのペン先の当たりに硬さがあり、塗布適性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る医療用マーカーインクおよび医療用マーカーペンは上記のとおりであって、従来のゲンチアナバイオレットやクリスタルバイオレットを用いたサージカルマーカー用インクと同等の紫色を発色させ、且つ、人体にとって安全に使用し得る効果、臓器や皮膚等に対する刺激を抑制する効果のあるものであるので、その産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0087】
1 本体
2 ペン芯抑えリブ
3 ペン芯
4 中綿
5 尾栓
6 キャップ