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特許7393853耐熱性及びシャットダウン特性に優れた二次電池用セパレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】耐熱性及びシャットダウン特性に優れた二次電池用セパレーター
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20231130BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20231130BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20231130BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M50/409
C23C16/02
C23C16/40
C23C16/455
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016233963
(22)【出願日】2016-12-01
(65)【公開番号】P2017103233
(43)【公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2015-0170487
(32)【優先日】2015-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】519214271
【氏名又は名称】エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK IE TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 03188 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】クワック ウォン スブ
(72)【発明者】
【氏名】パク ミン サン
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】山本 章裕
【審判官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-181921(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0200863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14-2/18
C23C 16/02,16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面及び前記第1表面に対向する第2表面を有し、前記第1表面と前記第2表面との間を連通させる複数のポアを含むポリオレフィン系の多孔性高分子基材と、
前記多孔性高分子基材の前記第1表面または第2表面の少なくとも一つの表面及び前記ポアの内部表面に、Al 耐熱コーティング層と、を含み、
前記耐熱コーティング層は理論蒸着重量が14.58~33.87g/m であり、実蒸着重量3.40~6.63g/mであり、150℃で1時間放置した後の収縮率が5%以下である二次電池用セパレーター。
【請求項2】
前記セパレーターのガーレー値に対する、150℃で1時間放置した後のセパレーター(S)のガーレー値の増加が200%以上である、請求項1に記載の二次電池用セパレーター。
【請求項3】
TMAによる溶融破断温度が160℃以上である、請求項1又は2に記載の二次電池用セパレーター。
【請求項4】
第1表面及び前記第1表面に対向する第2表面を有し、前記第1表面と前記第2表面との間を連通させる複数のポアを含むポリオレフィン系の多孔性高分子基材に対して、ALDサイクルを繰り返すことで、耐熱性コーティング層は理論蒸着重量が14.58~33.87g/m であり、実蒸着重量3.40~6.63g/mになるようにAl 耐熱性コーティング層を形成し、
前記ALDサイクルは、
前記多孔性高分子基材の各表面に、アルミニウムの金属化合物蒸気を反応させることで、金属を含む層を形成する金属化合物層形成段階と、
前記金属化合物層の金属化合物に、酸素の非金属化合物蒸気を反応させることで、非金属及び金属を含む固体セラミック層を形成する固体セラミック層形成段階と、
前記固体セラミック層上に、前記金属化合物層形成段階及び固体セラミック層形成段階を連続して行う段階と、を含み、
前記多孔性高分子基材の全体反応面積に対する、1サイクル当たりの金属化合物蒸気の供給量を制御することで、金属を含む層をポアの内部に形成し、150℃で1時間放置した後の収縮率が5%以下である、二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項5】
前記ALDサイクルの回数及び金属化合物層形成段階の反応時間をさらに制御することで、金属を含む層をポアの内部に部分的に形成する、請求項に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物蒸気は、TMA(Tri-Methyl-Aluminum)である、請求項4又は5に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項7】
前記多孔性高分子基材に対して機能性基を導入する前処理を行った後にALDサイクルを行う、請求項4~6の何れか一項に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項8】
前記機能性基は多孔性高分子基材のポアの内部に部分的に形成される、請求項に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項9】
前記機能性基は、水、酸素、オゾン、水素、過酸化水素、アルコール、NO、NO、NH、N、N、C、HCOOH、CHCOOH、HS、(C、及びCOからなる群から選択される少なくとも1つを照射して反応させるか、プラズマを発生させて反応させることで形成される、請求項に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【請求項10】
前記前処理は、処理強度、処理時間、及び処理回数の少なくとも1つを調節して行う、請求項に記載の二次電池用セパレーターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極との間に介在する二次電池用セパレーター及び二次電池用セパレーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一般的なリチウムイオン二次電池は、リチウム複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料を含む負極と、正極と負極との間に介在するセパレーターと、非水電解液と、を備えている。上記正極と負極とがセパレーターを介在して積層されるか、または積層後に巻回されて柱状の巻回電極が構成される。
【0003】
上記セパレーターは、正極と負極との間を電気的に絶縁する役割とともに、非水電解液を保持する役割を有する。このようなリチウムイオン二次電池のセパレーターとしては、ポリオレフィン微多孔膜を用いることが一般的である。ポリオレフィン微多孔膜は、優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから、上記リチウムイオン二次電池やコンデンサーなどのセパレーターとして広く用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、高い出力密度及び容量密度を有するが、非水電解液に有機溶媒を用いているため、短絡や過充電などの異常状態に伴う発熱によって非水電解液が分解し、最悪の場合、発火に至ることがある。このような事態を防止するために、リチウムイオン二次電池にはいくつかの安全機能が結合されており、その中の一つとして、セパレーターのシャットダウン(shut down)機能がある。
【0005】
セパレーターのシャットダウン機能とは、電池が異常発熱を起こした際に、セパレーターの微多孔が樹脂材料の熱溶融などにより閉塞し、非水電解液中のイオン伝導を抑えることで、電気化学反応の進行を停止させる機能をいう。
【0006】
一般に、シャットダウン温度が低いほど安全性が高いと知られているが、ポリエチレンがセパレーターの成分として用いられている理由の一つは、適度なシャットダウン温度を有するという点である。このようなセパレーターには、例えば、多孔質化及び強度向上のために、一軸延伸あるいは二軸延伸した樹脂フィルムが用いられている。
【0007】
近年、二次電池の高容量、高出力の傾向に伴い、セパレーターの熱的安定性に対する要求が益々増大している。リチウム二次電池の場合、電池の製造過程や使用中における安全性の向上及び容量と出力の向上のために、高い熱安定性が求められる。
【0008】
例えば、セパレーターの熱安定性が低いと、電池内の温度上昇により生じるセパレーターの損傷または変形による電極間の短絡が発生し得るため、電池の過熱あるいは火事の危険性が増加する。特に、一般的なシャットダウン温度で膜自体の収縮がともに生じるため、正極と負極とが接触して内部短絡などの2次的な問題を引き起こす場合がある。したがって、セパレーターの耐熱性を向上させることで、熱収縮を低減させ、安全性を向上させることが求められている。
【0009】
例えば、日本特開第2009-16279号には、ポリオレフィン系樹脂の微細骨格がガラス層で被覆された被覆層を備えるセパレーターが記載されている。また、日本特許第3797729号には、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面に、空孔を塞ぐことなく無機薄膜がゾル-ゲル法によって形成された電池用セパレーターが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐熱性に優れて、セパレーター膜の収縮が発生することなく、優れたシャットダウン特性を有するセパレーター及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リチウムイオン電池用セパレーターを提供するためのものであって、本発明の一見地によると、第1表面及び上記第1表面に対向する第2表面を有し、上記第1表面と上記第2表面との間を連通させる複数のポアを含む多孔性高分子基材と、上記多孔性高分子基材の上記第1表面または第2表面の少なくとも一つの表面及び上記ポアの内部表面に、原子層蒸着法(ALD)により形成された耐熱コーティング層と、を含み、上記ポアの内部表面に未コーティング領域を有するポアが存在する。
【0012】
上記耐熱コーティング層の全体コーティング重量は、上記多孔性高分子基材の第1及び第2表面に形成された耐熱コーティング層の平均厚さ(d)と同一の厚さに多孔性高分子基材の表面及びポアの内部表面にコーティングされた時の耐熱コーティング層の全体コーティング重量に対して10~50%範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の見地によると、第1表面及び上記第1表面に対向する第2表面を有し、上記第1表面と上記第2表面との間を連通させる複数のポアを含む多孔性高分子基材と、上記多孔性高分子基材の上記第1表面または第2表面の少なくとも一つの表面及び上記ポアの内部表面に、原子層蒸着法(ALD)により形成された耐熱コーティング層と、を含み、上記セパレーター(S)のガーレー値に対する、150℃で1時間放置した後のセパレーター(S)のガーレー値の増加が200%以上である、二次電池用セパレーターを提供する。
【0014】
セパレーター(S)を基準とした上記セパレーター(S)の収縮率は5%以下であることができる。
【0015】
上記リチウムイオン電池用セパレーターは、TMAによる溶融破断温度が160℃以上であることが好ましい。
【0016】
上記セパレーターは、ポアの内部表面に上記耐熱コーティング層が形成されている領域と形成されていない領域が共存するポアを含む。
【0017】
上記ポアの内部表面に形成された耐熱コーティング層は、上記シートの表面に形成された耐熱コーティング層の厚さに対して70%以下の厚さを有することが好ましい。
【0018】
上記多孔性高分子基材はポリオレフィン系樹脂からなることができる。
【0019】
上記耐熱コーティング層は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、シリコン、チタン、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属元素の原子と、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つの非金属元素の原子と、を含む分子を含むものであることができ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化亜鉛から選択される少なくとも1つであることができる。
【0020】
本発明のさらに他の見地によると、第1表面及び上記第1表面に対向する第2表面を有し、上記第1表面と上記第2表面との間を連通させる複数のポアを含む多孔性高分子基材に対して、ALDサイクルを繰り返すことで耐熱性コーティング層を形成し、上記ALDサイクルは、上記多孔性高分子基材の各表面に、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、シリコン、チタン、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属化合物蒸気を反応させることで、金属を含む層を形成する金属化合物層形成段階と、上記金属化合物層の金属化合物に、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つを含む非金属化合物蒸気を反応させることで、非金属及び金属を含む固体セラミック層を形成する固体セラミック層形成段階と、上記固体セラミック層上に、上記金属化合物層形成段階及び固体セラミック層形成段階を連続して行う段階と、を含み、上記多孔性高分子基材の全体反応面積に対する、1サイクル当たりの金属化合物蒸気の供給量を制御することで、金属を含む層をポアの内部に部分的に形成する、二次電池用セパレーターの製造方法を提供する。
【0021】
ALDサイクルの回数及び金属化合物層形成段階の反応時間をさらに制御することで、金属を含む層をポアの内部に部分的に形成することが好ましい。
【0022】
上記金属化合物蒸気は、AlCl、TMA(Tri-Methyl-Aluminum)、Al(CHCl、Al(C、Al(OC、Al(N(C、Al(N(CH、SiCl、SiCl、SiCl、Si(C)H、Si、TiF、TiCl、TiI、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(N(CH、Ti(N(C、Ti(N(CH)(C))、VOCl、Zn、ZnCl、Zn(CH、Zn(C、ZnI、ZrCl、ZrI、Zr(N(CH、Zr(N(C、Zr(N(CH)(C))、HfCl、HfI、Hf(NO、Hf(N(CH)(C))、Hf(N(CH、Hf(N(C、TaCl、TaF、TaI、Ta(O(C))、Ta(N(CH、Ta(N(C、TaBrからなる群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0023】
上記多孔性高分子基材に対して機能性基を導入する前処理を行った後にALDサイクルを行うことができる。
【0024】
この際、上記機能性基は多孔性ポアの内部に部分的に形成されることができ、上記機能性基は、水、酸素、水素、過酸化水素、アルコール、NO、NO、NH、N、N、C、HCOOH、CHCOOH、HS、(C、及びCOからなる群から選択される少なくとも1つを、プラズマ処理、コロナ放電処理、UV照射またはオゾン処理することで形成されることができる。
【0025】
上記前処理は、処理強度及び処理時間の少なくとも1つを調節して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
耐熱層で部分コーティング層及びネットワーク構造を形成することにより、巨視的には、セパレーターの全体構造を維持することで熱エネルギーの注入による熱収縮を防止しながらも、シャットダウン特性を阻害しないため、優れた耐熱性を有し、且つシャットダウン特性を有するセパレーターを実現することができる。
【0027】
本発明の一見地によると、多孔性シートの表面に、全体的にALDによる耐熱コーティング層を形成して、耐熱性を確保することができる。これにより、セパレーターの収縮(shrink)を防止することができ、正極と負極との接触による電池の内部短絡を防止することができる。
【0028】
一方、シート内部のポアの表面には、耐熱コーティング層が形成されている領域と形成されていない領域とが混在されているため、電池の異常発熱時に、上記耐熱コーティング層が形成されていない領域における樹脂の熱溶融によるポアの閉塞を誘導することができて、シャットダウン特性を向上させることができる。
【0029】
その結果、本発明の一見地によると、セパレーターの耐熱性及びシャットダウン特性の向上を図ることができて、電池安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一見地によるセパレーターの断面を示すものであって、耐熱コーティング層がポアの内部に部分的に形成されている概念を示す概略的な図面である。
図2】本発明の一見地による耐熱コーティング層をALDにより形成する過程を概略的に示す図面である。
図3】前駆体と反応物の吸着、及び吸着された分子間の表面反応を用いて、半反応(half-reaction)を有する前駆体Al(CHとHOで薄膜を蒸着する概念を概略的に示した図面である。
図4】前駆体と反応物の吸着、及び吸着された分子間の表面反応を用いて、半反応(half-reaction)を有する前駆体Al(CHとHOで薄膜を蒸着する概念を概略的に示した図面である。
図5】製造例で製造された多孔性高分子基材の表面を撮影したSEM写真である。
図6】実施例1によりアルミニウム酸化物層が部分コーティングされたセパレーターの表面を撮影したSEM断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0032】
本発明者らは、ALD(atomic layer deposition)法により多孔質のシートの表面に耐熱性コーティング層を形成して二次電池用セパレーター(separator)を製造するにあたり、ポアの内部表面に耐熱コーティング層が部分的に形成された場合に、シャットダウン特性を付与することができるだけでなく、セパレーターの収縮(shrink)を防止することができ、電池の安全性を向上させることができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0033】
本発明のセパレーターは、正極と負極を隔離させることで、両極が接触して電流が短絡することを防止し、リチウムイオンを通過させる機能をする。上記セパレーターとしては、強度に優れた耐熱性の微多孔質物質からなる基材を用いる。上記基材としては、第1表面及び上記第1表面に対向する第2表面を有し、上記第1表面と上記第2表面との間を連通させる複数のポアを含む多孔性高分子基材であれば本発明で好適に用いることができる。
【0034】
より好ましくは、上記基材としては、一般的には、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を有する絶縁性の樹脂材料を用いることができる。このような樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)などのポリオレフィン系の合成樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、またはポリアミド系樹脂などを用いることができる。このようなポリオレフィン多孔質膜は、優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すため、上記二次電池やコンデンサーなどのセパレーターとして広く用いられている。
【0035】
上記多孔性高分子基材はポリオレフィン多孔性高分子基材であって、両電極間におけるリチウムイオンの移動が可能な、高い多孔性を有するものであれば制限せずに用いることができる。このような多孔性高分子基材は通常、この技術分野で多く用いられているものであって、殆どがポリエチレンまたはポリプロピレンに代表されるポリオレフィン多孔性高分子基材を含み、その他の様々な材質の多孔性高分子基材を用いることができる。
【0036】
例えば、これに限定するものではないが、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高分子量ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、及びポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0037】
二次電池は、高い出力密度及び容量密度を有するが、非水電解液に有機溶媒を用いているため、短絡や過充電などの異常状態に伴う発熱によって非水電解液が分解し、最悪の場合、発火に至る場合もある。
【0038】
このような現象を防止するために、電池が異常発熱を起こした際に、セパレーターの微多孔が樹脂材料の融点付近で熱溶融してポアを閉塞することで、電流を遮断するシャットダウン機能が要求される。一般に、シャットダウン温度が低いほど安全性が高いが、上記のようなポリオレフィン樹脂は適度なシャットダウン温度を有するため、二次電池のセパレーターとして好適に用いることができる。また、ポリオレフィン系の多孔質膜を含むものは、正極と負極との分離性に優れて、内部短絡や開放回路電圧の低下をさらに低減させることができる。
【0039】
特に、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状ポリエチレンなどのポリエチレンや、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂が溶融温度の点からより好ましい。このようなセパレーターとしては、例えば、多孔質化及び強度向上のために、一軸延伸あるいは二軸延伸した樹脂フィルムを用いることができる。また、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造、または、2種以上の樹脂材料を溶融混練して形成した多孔質膜を用いてもよい。
【0040】
上記基材の厚さは、必要な強度を保つことができる厚さ以上であれば、任意に設定することができ、特に限定しないが、例えば、5~80μmであることができ、7~30μmであることができる。上記範囲内の厚さを有することで、正極と負極との間の絶縁を図り、短絡などを防止するとともに、セパレーターを介した電池反応を好適に行うためのイオン透過性を付与することができ、さらに、電池内において電池反応に寄与する活物質層の体積効率をできるだけ高くできる。
【0041】
一方、多孔性高分子基材の気孔度は特に制限しないが、例えば、10~80%の気孔度、より好ましくは40~70%の気孔度を有することができる。この際、上記多孔性高分子基材の気孔サイズは、例えば、10nm~2μm、より好ましくは10nm~1μmのものを用いることができる。
【0042】
上記のようなポリオレフィン系樹脂はシャットダウン機能の点からは好ましいが、シャットダウンした場合には、セパレーターが収縮(shrink)して正極と負極との接触により内部短絡などの2次的な問題が生じることがある。したがって、ポリオレフィン樹脂製のセパレーターは、耐熱性を向上させることで熱収縮を低減させ、安全性を向上させることが求められている。また、このような耐熱コーティング層は、非水電解質とのぬれ性を向上させる機能も有するため好ましい。
【0043】
本発明の一見地によると、ポリオレフィン系樹脂からなる基材の耐熱性を向上させ、セパレーターの収縮を抑えるために、基材の表面に耐熱コーティング層を含む。上記耐熱コーティング層は、基材を構成する材料に比べて耐熱性を有する無機材料層からなることが好ましい。
【0044】
このような無機材料としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、シリコン、チタン、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属元素の原子と、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つの非金属元素の原子と、を含む分子を含むものを用いることができる。より好ましくは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化亜鉛などを用いることができる。
【0045】
本発明の原子層蒸着法により形成されるナノ厚さの無機酸化物は、これに限定するものではないが、例えば、タンタル酸化物、タンタル窒化物、ジルコニウム酸化物、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、バナジウム酸化物、亜鉛酸化物、亜鉛硫化物、アルミニウム酸化物、水酸化アルミニウム、アルミニウム窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物などを用いることができ、これらを単独で用いてもよいことはいうまでもなく、2つ以上を混合して用いてもよい。
【0046】
上記耐熱層コーティング層は、基材の表面(片面または両面)だけでなく、基材のポアの内部にも形成されることが好ましい。基材の表面に耐熱コーティング層が形成されることで、異常高温環境下でもセパレーターの収縮が抑制されることができる。また、ポアの内部にも耐熱コーティング層が形成されることで、基材の表面にのみ耐熱コーティング層が形成された場合に比べて、セパレーターの耐熱性をより向上させることができる。また、ポアの内部表面に非水電解質とのぬれ性に優れた耐熱コーティング層が形成されることで、ポアに対する電解液の親和性をさらに向上させることができる点からも好ましい。
【0047】
本発明の一見地によると、上記ポアの内部に形成される耐熱コーティング層は、ポアの内部に部分的に形成されることが好ましい。電池が異常発熱を起こした際に、セパレーターの微多孔が樹脂材料の融点付近で熱溶融してポアを閉塞することで、電流を遮断するシャットダウン機能を実現して、電池の安全性を図るためにポリオレフィン系樹脂を用いる。しかし、ポアの内部全体に耐熱コーティング層が形成される場合、熱溶融によるポアの閉塞機能が耐熱コーティング層によって阻害され、シャットダウン機能が著しく低下する。したがって、ポリオレフィン系樹脂を用いることによる利点が希薄化して好ましくない。
【0048】
本発明の一見地のように、ポアの内部表面が部分的に耐熱コーティング層でコーティングされた場合、すなわち、耐熱コーティング層が形成されているコーティング領域と、耐熱コーティング層が形成されていない未コーティング領域とが混在する場合、上記コーティング領域により、セパレーターの収縮を抑える機能及び電解液の親和性を向上させる機能を奏するとともに、未コーティング領域の存在により、異常発熱環境下で樹脂の溶融によりポアを閉塞することができて、シャットダウン機能も奏することができるため好ましい。
【0049】
このような効果は、基材の表面に形成された耐熱コーティング層とポアの内部表面に形成された部分的なコーティング領域、及び上記ポアの内部のコーティング領域間の相互ネットワーク構造を形成することで、高温での多孔構造の保持力を高め、高温収縮を抑制しながらシャットダウン機能を奏することができる。
【0050】
このような本発明の一見地による耐熱コーティング層が形成されたセパレーターの断面構造を図1に概略的に示した。図1は本発明の概念が容易に理解されるように誇張して示したものであって、図面に示した構造に本発明が限定されるものではない。
【0051】
さらに、図1には各ポアが断絶されていると示されているが、ポアは、基材の第1表面と上記第1表面に対向する第2表面との間を連通し、且つ各ポアの間が互いに連結されることができることを、本発明が属する分野における通常の技術者であれば理解することができる。
【0052】
また、上記多孔性基材の全てのポアに、コーティング領域と未コーティング領域とが混在しなければならないと限定するものではなく、部分的に一部のポアには未コーティング領域のみが存在してもよく、また一部のポアにはコーティング領域のみが存在してもよい。
【0053】
上記基材に耐熱コーティング層を形成する際には、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition、ALD)により行うことが好ましい。原子層蒸着法により耐熱コーティング層を形成することで、基材の表面だけでなく、ポアの内部にも耐熱コーティング層を形成することができ、ALDを行う条件を適宜制御することで、ポアの内部に部分的なコーティング層を形成することができる。以下、ALDにより耐熱コーティング層を形成する方法についてより具体的に説明する。
【0054】
本発明では、多孔性高分子基材に対して無機膜をポアの内部に局所的に形成して、耐熱性及びシャットダウン特性を向上させようとする。上記無機膜がポアの内部に部分的に適用されたセパレーターは、全体面積に塗布された金属化合物が導入された無機蒸着セパレーターに比べて熱的安定性に劣るが、この際、全体面積に塗布された金属化合物が導入されたセパレーターは、シャットダウン特性が阻害されるため、安全性において劣位となり得る。
【0055】
しかし、本発明のセパレーターは、多孔性高分子基材のポアの内部に部分コーティング層を形成し、これら部分コーティング層がネットワーク(network)構造を形成する。これにより、巨視的には、セパレーターの全体構造を維持することで熱エネルギーの注入による熱収縮を防止して、全体的な耐熱性を高めながらも、ポアに部分的にコーティングされることでシャットダウン特性を阻害しないため、耐熱性を有し、且つシャットダウン特性を有するセパレーターを実現することができる。
【0056】
一般的なALD法は、高いアスペクト比を有する基材の内部表面まで該当物質を導入する方法として広く知られており、マイクロ及びナノサイズのポアを有する構造物の表面に反応することができるため、マイクロチャネルプレート(microchannel plate)、ナノ粒子(nanoparticles)、ナノポア(nanopore)、エアロゲル(aerogel)、ナノチューブ膜(nanotube membrane)、及び微細格子(microlattice)などに応用されてきた。
【0057】
ALD工程は、通常、自己制限反応となるように工程条件を設計する。各注入段階で前駆体と反応体の量を飽和させ、パージ段階で完全に除去して、理想的なALD工程を進行することで、表面と内部のコーティング厚さを均一に形成する。このような特徴により、化学的または熱的蒸着法とは異なって、ポアの内部に無機膜を蒸着することができる。
【0058】
本発明は、このようなALD法の特徴を維持しながらも、一部に未コーティング部分が生じるようにすることでシャットダウン機能をともに付与することを特徴とする。このようにポアの内部に部分コーティング層を形成する際に、基材の反応器の形成程度を調節することで、成膜を調節することができる。本発明の特徴である部分的な無機膜のコーティングは、大きく2つの方法により達成することができるが、その第一の方法として、コーティング前に基材に導入する反応器の量を調節することで、一部のポアの表面に無機膜が形成されないように制御する。基材の表面とポアの内部表面の反応可能な機能性基の導入を調節するために、基材の前処理方法及び強度を制御することができる。
【0059】
上記前処理として、本発明では、ALD層を形成する前に多孔性高分子基材の表面に対して、酸素または水または窒素などの気体が含まれるプラズマ処理、有機化合物単量体をプラズマ化して表面処理、コロナ放電処理、UV照射処理、オゾン処理などを施すことが接着力のためにより好ましく、特に、高分子基材の表面の機能性基の密度を増加させて、高い密度及び優れたモルフォロジーを有する金属化合物層の形成が可能であるが、この際、処理強度と時間によって機能性基の量を調節することができる。
【0060】
また、高分子基材に原子層蒸着法により金属化合物を導入する場合、金属前駆体が積層される際に、反応面積に対する前駆体の供給程度と、高分子基材の表面の反応可能な機能性基の程度によって、無機膜の形成様態が変わる。
【0061】
そこで、本発明の一見地によると、第1表面及び上記第1表面に対向する第2表面を有し、上記第1表面と上記第2表面との間を連通させる複数のポアを含む多孔性高分子シートに対して、上記第1及び第2表面と上記ポアの内部表面にヒドロキシ基などの官能基を形成する段階を含むことができる。
【0062】
本発明で使用できる反応体として、例えば、水、酸素、オゾン、過酸化水素、アルコール、NO、NO、NH、N、N、C、HCOOH、CHCOOH、HS、(C、NOプラズマ、水素プラズマ、酸素プラズマ、COプラズマ、NHプラズマからなる群から選択されたものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明では、ALD層を形成する前に、多孔性高分子基材の表面に対して、酸素または水または窒素などの気体が含まれるプラズマ処理、有機化合物単量体をプラズマ化して表面処理、コロナ放電処理、UV照射処理、オゾン処理などを施すことが接着力のためにより好ましく、特に、高分子基材の表面の機能性基の形成程度を調節することで、優れたモルフォロジーを有する金属化合物層を形成することができる。
【0064】
この際、上記機能性基の形成程度を調節することで、基材の表面に形成される機能性基の分布を調節することができ、これにより耐熱性コーティング層の形成様態を変えることができる。上記機能性基の形成程度を調節する際には、上記のような処理の強度及び時間を調節することで、機能性基の量を調節することができる。
【0065】
例えば、プラズマ処理を行う場合、プラズマ条件を変更してコーティング層を調節することができ、一具体例として、下記のように処理することができる。
【0066】
基材に対して、インライン(in-line)APプラズマを用いて、パワー(power)0.01~5.0kW、伝送速度(transfer speed)1~60m/minで、400slmのN、0.4slmのCDAのガスを注入してプラズマ処理を行うことができる。
【0067】
通常、高分子フィルムに用いられるガスや混合物としては、N、Ar、O、He、亜硝酸、水蒸気、二酸化炭素、メタン、アンモニアなどを用いることができる。このように、パワー及び伝送速度によって基材の親水化の程度を調節することができる。すなわち、プラズマ処理による親水性官能基の変化は、基材の表面張力を変化させる。例えば、41dyneのPEセパレーター基材に1.44kW、5m/minのAPプラズマ処理を行うと親水化の程度が47dyneに上昇し、1.68kW、3m/minのAPプラズマ処理を行うと48dyneに増加することができる。その他にも、コロナ処理、オゾン処理などの表面処理方法による表面改質を用いることができる。
【0068】
上記機能性基が導入された多孔性高分子基材を反応性チャンバーに位置させ、所定の真空雰囲気で各表面に金属を含む金属前駆体を導入して接触する段階を含む。
【0069】
上記耐熱コーティング層は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、シリコン、チタン、バナジウム、亜鉛、タンタル、ハフニウム、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属元素の原子と、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つの非金属元素の原子と、を含む分子を含むものであることができ、より好ましくは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化亜鉛から選択される少なくとも1つであることができる。
【0070】
本発明で使用できる金属前駆体の具体的な例としては、これに限定するものではないが、AlCl、TMA(Tri-Methyl-Aluminum)、Al(CHCl、Al(C、Al(OC、Al(N(C、Al(N(CH、SiCl、SiCl、SiCl、Si(C)H、Si、TiF、TiCl、TiI、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(N(CH、Ti(N(C、Ti(N(CH)(C))、VOCl、Zn、ZnCl、Zn(CH、Zn(C、ZnI、ZrCl、ZrI、Zr(N(CH、Zr(N(C、Zr(N(CH)(C))、HfCl、HfI、Hf(NO、Hf(N(CH)(C))、Hf(N(CH、Hf(N(C、TaCl、TaF、TaI、Ta(O(C))、Ta(N(CH、Ta(N(C、TaBrからなる群から選択されたものが挙げられる。
【0071】
上記金属前駆体を多孔性基材の表面に反応させた後、アルゴンなどの非反応性気体でパージした後、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つを含む反応体を導入して接触する段階を含む。
【0072】
次いで、非反応性気体でパージすることで耐熱性無機物層を形成することができ、このような非金属及び金属を含む固体セラミック層を形成する固体セラミック層形成段階の後に、上記固体セラミック層上に上記金属前駆体を導入する段階、パージする段階、反応体を導入する段階、及びパージする段階を繰り返すことで、所定の厚さを有する固体セラミックの耐熱コーティング層を形成することができる。高分子基材に原子層蒸着法により金属化合物を導入する場合、金属前駆体が積層される際に、反応面積に対する前駆体の供給程度によって、無機膜の形成様態を変えることができる。
【0073】
本発明において、上記前処理段階を制御することで、ポアの内部に耐熱性コーティング層を部分的に形成することができるだけでなく、サイクルの構成時間及び条件を調節して、自己制限反応の到達程度を制御することによっても、ポアの内部に耐熱性コーティング層を部分的に形成することができる。すなわち、本発明の特徴である部分的な無機膜のコーティングを達成する第二の方法は、自己制限反応のための飽和状態に到逹するまでの工程条件を調節することである。
【0074】
ALD工程を行うにあたり、まず、蒸着工程は一連の分離された工程段階で構成されなければならない。もし2つの反応物が分離されず、互いに混合された場合、気相反応が発生するようになる。次に、反応物と表面との反応は、自己制限反応によりなされなければならない。そして、自己制限反応または化学吸着が主反応でなければならない。
【0075】
本発明に係る、ALDによる耐熱性コーティング層の形成過程についての概念を図2に概略的に示した。図2から分かるように、基材に反応物(A)を供給すると、反応物(A)が基材の表面と反応して化学吸着するようになる。反応物(A)が表面に原子層として蒸着されると、過剰の反応物(A)の気体が供給されても、それ以上反応しなくなる(自己制限反応;self-limiting reaction)(過程(1))。
【0076】
次に、反応物(A)がそれ以上反応しない状態で、アルゴンなどの不活性気体を用いてパージすることで、過剰の反応物(A)を反応器の外部に除去する(過程(2))。
【0077】
次いで、反応器の内部の反応物(A)が完全に除去された後、反応物(B)を供給すると、反応物(B)が基材の表面に吸着された反応物(A)と反応して化学吸着するようになる。反応物(B)が表面で飽和状態をなすと、それ以上反応しなくなる(自己制限反応)(過程(3))。
【0078】
さらに、反応物(B)がそれ以上反応しない状態で、不活性気体を用いて過剰の反応物(B)を反応器の外部に除去する(過程(4))。
【0079】
上記過程(1)~(4)を1つのサイクルとし、このようなサイクルを繰り返すことで、所望の厚さの原子層薄膜を成長させることができる。前駆体と反応物の吸着、及び吸着された分子間の表面反応を用いて薄膜を蒸着する方法として、下記のような半反応(half-reaction)を有する前駆体Al(CHとHOを使用した例を図3及び図4に示した。
【0080】
図3及び図4に示したように、官能基としてヒドロキシル基が形成された基材の表面に、Al(CHを蒸気状で供給することで、(A)反応式のようにAlが吸着される。反応ガスの間では不活性気体を供給してパージすることで、2つの半反応を分離する。この際、化学的に吸着された分子以外に物理的に吸着された分子が除去され、反応物を順に注入することで、次の(B)反応式のような半反応が進行する。二番目に供給された反応ガスが、(A)反応で吸着された分子と吸着/結合することで、薄膜が形成される。
【0081】
(A)Al-OH+Al(CH→Al-O-Al(CH +CH
【0082】
(B)Al-CH +HO→Al-OH+CH
**(A):OH terminated、(B):CH terminated surface
【0083】
このように、OH末端(terminated)化学種で反応物(A)の吸着、CH末端化学種で反応物(B)の吸着及び結合反応を1サイクルとして分割繰り返し反応することで、耐熱性コーティング層を形成することができる。
【0084】
ALD工程に影響を与える一般的な要因は下記のとおりである。
【0085】
反応物の流れの方向はALD装置に関連し、シャワーヘッド方式(shower head type)と層流方式(laminar flow type)に分けられる。シャワーヘッド方式は、反応面積が広いため均一性に優れるが、パージ時間が長くなければならない。一方、層流方式は、反応体積を最小化し、前駆体と反応器の使用効率を高めて、効果的な反応が可能であるが、入口(inlet)から出口(outlet)への進行時における前駆体と反応器の減少によって均一性が低下し得る。具体的には、反応物の流れ方向は、ポアの方向と同一であることが効果的であるため、全体反応物の流れ方向がポアの方向と同一であるシャワーヘッド方式の反応器を適用することが好ましい。本発明は、特に高いアスペクト比(aspect ratio)を有するポア構造の基材を用いることで、ポアの方向と反応物の流れ方向とが同一であるシャワーヘッド方式を適用することが、平均自由行路(mean free path)を高め、無機膜の形成とポアの内部コーティングにおいてより有利である。
【0086】
一方、流量は上記反応物の流れの形態に応じて調節すべきである。前駆体と反応体の注入のためのキャリアガス(Carrier gas)の量は多いほど効果的であるが、これは、基材のアスペクト比に応じて調節することが好ましい。また、チャンバーの体積に応じて、一定量以上のキャリアガスの導入を調節することが必要である。通常、キャリアガスとしては不活性ガスを用いることができ、例えば、特に限定しないが、アルゴン、窒素などが挙げられる。
【0087】
ALD反応時の工程温度は、まず、前駆体の反応温度に左右される。前駆体のウインドー(window)内で工程温度が決定され、また、基材の昇温可能範囲に応じて決定することができる。すなわち、基材の損傷を避けることができる温度範囲、及び前駆体の反応温度範囲を考慮して、最も高い温度で進行することがより好ましい。例えば、ALD反応時の工程温度は、25~400℃の範囲で基材に影響を与えない程度に適宜選択することができる。
【0088】
チャンバー内の真空度は、通常、超高真空(Ultra high vacuum)レベルの7.6×10-11から1次ポンプ(rough pump)で実現可能なレベルの真空度である数トル(torr)まで用いることができ、数トルまたは数トルより高真空の条件で決定される。前駆体と反応体を注入する時の圧力は、真空度が高いほど効果的であるため、高い真空度で進行することが好ましい。特に、多孔性基材の場合、真空度は平均自由行路に影響する。
【0089】
前駆体と反応物の注入及びパージ時間は、膜の厚さをより直接的に調節できる要因となる。供給物の供給には十分に長い時間が必要であり、パージ時間が十分でないと、CVD効果による薄膜の優れた厚さ均一性を低下させる。したがって、上記注入時間は、0.1~10secの範囲内で行うことができる。また、パージ時間は、上記注入時間に比例して増加し、1~30secの範囲内で行うことができる。
【0090】
過程(1)と過程(3)の自己制限反応の到達程度を制御し、上記反応の制御のための前駆体と反応体の供給と滞留、流量の流れとパージの方向、前駆体と反応体を注入する時の圧力、前駆体と反応体の濃度と注入量、前駆体と反応体が基材上に滞留する時間、基材のアスペクト比(aspect ratio)、工程温度などを複合的に調節することで、成膜部分と非成膜部分を得ることができる。これにより、ALDの特徴である高いアスペクト比のカバー(cover)能力を導入しながらも、無機膜の成膜形態を調節して電池用セパレーターを製造することができる。
【0091】
本発明により製造されたセパレーターは、多孔性高分子基材のポアの内部に耐熱性コーティング層が局所的に形成されたものであって、ポアの全体面積に塗布された金属化合物が導入された無機蒸着セパレーターに比べて熱的安定性に劣るが、全体面積に塗布された金属化合物が導入されたセパレーターはシャットダウン特性が阻害されるため、安全性において劣位となる。これに対し、本発明のように、部分コーティング層間のネットワーク構造を形成したセパレーターの場合、巨視的には、セパレーターの全体構造を維持することで熱エネルギーの注入による熱収縮を防止しながらも、シャットダウン特性を阻害しないため、耐熱性を有し、且つシャットダウン特性を有するセパレーターを実現することができる。
【0092】
本発明により製造された部分的耐熱性コーティング層を有するセパレーターは、基材の表面に形成された無機物の平均厚さtをSEMを用いて測定し、工程前後のフィルムの重量をそれぞれ測定することで、無機物の蒸着重量を得ることができる。これにより、部分的なコーティングが形成されることを確認することができる。
【0093】
基材の平均気孔径Rと基材の厚さを測定し、基材の気孔率Pは下記式1により算出することができる。
【0094】
気孔率={(A×B×T)-(M÷ρ)}÷(A×B×T×100
【0095】
ここで、Tはセパレーターの厚さ、Mは基材の重量、ρは樹脂密度である。
【0096】
理論蒸着重量={P×ρ×T×t×(2R-t)}/(100×R
【0097】
ここで、tは蒸着厚さ、ρは樹脂密度である。
【0098】
ALD法により耐熱コーティング層を形成する場合、基材の表面とポアの内部には全体的に耐熱コーティング層が形成されるが、本発明では、ポアの内部には耐熱コーティング層が部分的に形成されるため、全体的に耐熱コーティング層が形成される場合に比べてコーティング層の重量が小さい。より具体的に、上記耐熱コーティング層の全体コーティング重量は、上記多孔性高分子基材の第1及び第2表面に形成された耐熱コーティング層の平均厚さ(d)と同一の厚さに多孔性高分子基材の表面及びポアの内部表面にコーティングされた時の耐熱コーティング層の全体コーティング重量に対して10~50%の範囲を有する。
【0099】
この際、上記ポアの内部に形成された耐熱コーティング層は、基材の表面に形成された耐熱コーティング層と同一の厚さに形成することができるが、より薄く形成してもよい。例えば、ポアの内部の耐熱コーティング層の厚さは70%以下であることができる。
【0100】
このような本発明の一見地による上記セパレーターは、高耐熱特性を評価した時に、評価前後のガーレー値の変化率が200%以上であることが好ましい。より具体的に、本発明の一見地により得られたセパレーターのガーレー値を基準として、上記セパレーターを150℃で1時間放置してから測定したガーレー値を比較した時に、高耐熱特性の評価後のガーレー値は200%以上である。これは、電池が異常発熱を起こした際にセパレーターの微多孔が熱溶融してポアを閉塞するシャットダウン機能が円滑に行われることを表す。
【0101】
一方、上記高耐熱特性の評価前後のセパレーターの収縮率は、5%以下の値を有することが好ましい。すなわち、シャットダウンが起こる温度でポアの未コーティング領域における樹脂が熱溶融してポアを閉塞しても、セパレーターの膜は収縮されないようにすることで、正極と負極との接触による内部短絡を防止することができる。
【0102】
また、上記セパレーターは、TMA(thermo-mechanical analysis)による溶融破断温度が160℃以上であることが好ましい。
【実施例
【0103】
本発明を実施例を挙げてより具体的に説明する。以下の実施例は本発明を説明するための一例であり、これによって本発明が限定されるものではない。
【0104】
製造例-多孔性高分子基材の製造
ポリオレフィン系微多孔膜を製造するために、重量平均分子量が3.8×10の高密度ポリエチレンを使用し、希釈剤としては、ジブチルフタレートと40℃における動粘度が160cStであるパラフィンオイルとを1:2で混合して使用し、ポリエチレンと希釈剤の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。
【0105】
上記組成物をTダイ付きの二軸混合機を用いて240℃で押出し、180℃と設定された区間を通過して相分離を誘発し、キャスティングロールを用いてシートを製造した。延伸比はMD、TDにそれぞれ7.5倍、延伸温度は131℃の逐次二軸延伸を行い、熱固定温度は130℃、熱固定幅は1-1.3-1.1として多孔性高分子基材を製造した。
【0106】
製造された多孔性高分子基材の表面に対してSEM撮影し、その結果を図5に示した。
【0107】
また、これにより得られた高分子基材に対して次に物性を測定した。その測定結果、得られた多孔性フィルムは、最終厚さが25μm、気体透過度(Gurley)値が100sec、気孔率が60%、ポアのサイズが22nmであった。また、130℃での収縮率が、縦及び横方向にそれぞれ25%及び28%であった。
【0108】
実施例1
上記製造例で得られた多孔性高分子基材を、インライン(in-line)酸素プラズマ設備を用いて1.9kW、基材とプラズマスリット(slit)の距離3mm、プラズマスリットギャップ(slit gap)2mm、ラインスピード(line speed)10m/minの条件で処理した。
【0109】
上記プラズマ処理された多孔性高分子基材を100℃のチャンバー内に取り付けた後、トリメチルアルミニウム(Al(CH)、アルゴン(Ar)、水分(HO)、アルゴン(Ar)をそれぞれ1、5、3、15secの露出時間で多孔性高分子基材の表面に順に導入し、このようなサイクルを92回繰り返すことで、金属化合物膜である密度2.6g/cmのアルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0110】
多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの表面をSEM撮影し、その写真を図6に示した。
【0111】
さらに、上記アルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0112】
実施例2
プラズマ処理を行わず、トリメチルアルミニウム(Al(CH)の導入時間を3secに変更し、パージ時間を10secに変更したことを除き、実施例1と同様の方法により、サイクル数60回にわたってALD蒸着を行うことで、上記多孔性高分子基材にアルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0113】
多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0114】
実施例3
上記製造例で得られた上記多孔性高分子基材を、インライン酸素プラズマ設備を用いて2.28kW、基材とプラズマスリットの距離3mm、プラズマスリットギャップ2mm、ラインスピード3m/minの条件で処理した。
【0115】
上記プラズマ処理された多孔性高分子基材に対して、トリメチルアルミニウム(Al(CH)の導入時間を5secに変更し、トリメチルアルミニウム(Al(CH)のパージ時間を10secに変更し、サイクル数を45回行ったことを除き、実施例1と同様にALD蒸着を行うことで、上記多孔性高分子基材にアルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0116】
多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0117】
比較例1
上記製造例で得られた上記多孔性高分子基材に対して、プラズマ処理を行わず、トリメチルアルミニウム(Al(CH)の導入時間は0.1secに変更し、サイクル数を150回行ったことを除き、実施例1と同様にALD蒸着を行うことで、上記多孔性高分子基材にアルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0118】
多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0119】
比較例2
上記製造例で得られた上記多孔性高分子基材を、インライン酸素プラズマ設備を用いて2.28kW、基材とプラズマスリットの距離3mm、プラズマスリットギャップ2mm、ラインスピード3m/minの条件で処理した。
【0120】
上記プラズマ処理された多孔性高分子基材に対して、トリメチルアルミニウム(Al(CH)の導入時間を5secに変更し、サイクル数を50回行ったことを除き、実施例1と同様にALD蒸着を行うことで、上記多孔性高分子基材にアルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0121】
多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0122】
比較例3
上記製造例で得られた上記多孔性高分子基材を、インライン酸素プラズマ設備を用いて2.28kW、基材とプラズマスリットの距離3mm、プラズマスリットギャップ2mm、ラインスピード3m/minの条件で処理した。
【0123】
上記プラズマ処理された多孔性高分子基材に対して、トリメチルアルミニウム(Al(CH)、アルゴン(Ar)、水分(HO)、アルゴン(Ar)をそれぞれ20、20、5、30secの露出時間で多孔性高分子基材の表面に順に導入し、これを45回繰り返すことで、アルミニウム酸化物(Al)膜を形成した。具体的な工程条件は表1に示した。
【0124】
これにより得られた多孔性高分子基材の表面にアルミニウム酸化物層が形成されたセパレーターの特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
上記表2から分かるように、実蒸着重量と理論重量との比及び蒸着厚さから、全体領域でなく一部領域がコーティングされたことが分かる。この際、比較例1は、蒸着量が十分ではないため、収縮率が大きい結果を示すことが分かり、比較例2は、蒸着量が多いため収縮率には優れるが、200℃で1時間後に測定した気体透過度の増加が少ないという結果を示した。一方、比較例3は、ポアの全体領域にアルミニウム酸化物層が蒸着されて収縮率には優れるが、200℃で1時間後に測定した気体透過度の増加が著しく少ないという結果を示すことが分かる。
【0128】
これに対し、本発明による実施例1~3は、比較例1に比べて優れた収縮率特性を示すことが分かり、比較例2及び3に比べて優れたシャットダウン特性を有することが分かる。
【0129】
したがって、蒸着率を表す実重量/理論重量の比が10~50%であるセパレーターが、優れた収縮率及びシャットダウン特性をともに確保することができることが分かった。
【0130】
上記多孔性高分子基材及び実施例及び比較例で得られたセパレーターの表1に示した物性は、次のような方法により求めた。
【0131】
フィルムの厚さ:厚さに対する精度が0.1μmである接触式の厚さ測定装置を用いた。
【0132】
平均気孔径:気孔サイズは、気孔測定装置(Porometer:PMI社製)を用いてASTM F316-03に準じて、ハーフドライ法により測定した。
【0133】
気孔率:Acm×Bcmの長方形のサンプルを切り出し、式1により算出した。A/Bともにそれぞれ5~20cmの範囲で切って測定した。
【0134】
気孔率={(A×B×T)-(M÷ρ)÷(A×B×T×100
【0135】
ここで、Tはセパレーターの厚さ(cm)、Mはサンプルの重量(g)、ρは樹脂密度(g/cm)である。
【0136】
気体透過度(Gurley):気体透過度は、体積100mLの気体が圧力約1~2psigで1inchの面積を通過するのにかかる時間(単位:秒、second)を表すものであって、ガーレー透気度試験機(Gurley densometer:東洋精機製作所製)で測定した。
【0137】
蒸着厚さ:ALD成膜法による複合微多孔膜上の無機金属化合物の蒸着厚さは、同一の蒸着条件でSiウエハー(wafer)上に無機金属化合物を蒸着した後、リフレクトメーター(reflectometer)で厚さを測定した値を代用した。
【0138】
収縮率:ガラス板の間にテフロン(登録商標)シート紙を入れ、測定しようとする複合微多孔膜に7.5mg/mmの力が加えられるようにし、200℃のオーブンで1時間放置した後、縦方向及び横方向の収縮を測定し、最終面積収縮(%)を計算した。
【0139】
TMA最大収縮率及び溶融破断温度:METTLER TOLEDO社製のTMA(Thermo-Mechanical Analysis)装置を用いて、6mm×10mmの試験片に0.015Nの錘を取り付けて5℃/minの速度で昇温した。
【0140】
延伸過程を経て製作された試験片は所定温度で収縮し、Tg及びTmを超えると、錘の重さによって試験片が伸びるようになる。
【0141】
TMA最大収縮率は、所定温度で発生する最大収縮点(point)での初期測定長さに対する収縮変形長さを%で表現した値と定義し、錘の重さによって伸び始めるが、この際、試験片の初期長さ(zero point)を超え始める温度を溶融破断温度と定義する。
【0142】
また、収縮が発生しないサンプルの場合には、傾斜が最大の時を基準としてx軸と接する温度と定義する。
【0143】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6