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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/13 20160101AFI20231130BHJP
   B60W 20/11 20160101ALI20231130BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231130BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231130BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B60W20/13
B60W20/11 ZHV
B60K6/547
B60K6/48
B60W10/26 900
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019052708
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152232
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 朋亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】町田 拓也
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-286872(JP,A)
【文献】特開平09-184439(JP,A)
【文献】特開2014-205384(JP,A)
【文献】特開2016-120740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する駆動システムであって、
エンジン駆動力を発生するエンジンと、
モータ駆動力を発生するモータジェネレータと、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうちの少なくとも一方を出力する出力部と、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力の双方を前記出力部へ伝達する第1の駆動モードと、前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうち前記エンジン駆動力のみを前記出力部へ伝達する第2の駆動モードとを選択可能に構成された動力伝達機構と、
前記第1の駆動モードにおける前記エンジンの第1の燃料消費率が前記第2の駆動モードにおける前記エンジンの第2の燃料消費率よりも低いとき、または前記第1の燃料消費率が前記第2の燃料消費率よりも低くなると予測されるときに、前記第1の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記車両の走行速度が第1の速度以下の場合には、前記第1の燃料消費率と前記第2の燃料消費率との大小関係に関わらず前記車両の走行速度のみに基づき前記第1の駆動モードを選択し、要求出力に対応する要求充放電量が、前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリの放電量上限値と比べて所定値より大きい場合、前記第1の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する
駆動システム。
【請求項2】
エンジン駆動力を発生するエンジンと、
モータ駆動力を発生するモータジェネレータと、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうちの少なくとも一方を出力する出力部と、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力の双方を前記出力部へ伝達する第1の駆動モードと、前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうち前記エンジン駆動力のみを前記出力部へ伝達する第2の駆動モードとを選択可能に構成された動力伝達機構と、
前記第1の駆動モードにおける前記エンジンの第1の燃料消費率が前記第2の駆動モードにおける前記エンジンの第2の燃料消費率よりも低いとき、または前記第1の燃料消費率が前記第2の燃料消費率よりも低くなると予測されるときに、前記第1の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する制御部と、
前記モータジェネレータを駆動する電力を供給するバッテリと
を備え、
前記制御部は、
要求出力に対応する要求充放電量が、前記バッテリにおける放電量上限よりも第1の値以上大きいと判定されるとき、または要求出力に対応する要求充放電量が、前記バッテリにおける放電量上限よりも第1の値以上大きくなると予測されるときに、前記第2の駆動モードから前記第1の駆動モードへ切り替えるように前記動力伝達機構を制御する
駆動システム。
【請求項3】
エンジン駆動力を発生するエンジンと、
モータ駆動力を発生するモータジェネレータと、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうちの少なくとも一方を出力する出力部と、
前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力の双方を前記出力部へ伝達する第1の駆動モードと、前記エンジン駆動力および前記モータ駆動力のうち前記エンジン駆動力のみを前記出力部へ伝達する第2の駆動モードとを選択可能に構成された動力伝達機構と、
前記第1の駆動モードにおける前記エンジンの第1の燃料消費率が前記第2の駆動モードにおける前記エンジンの第2の燃料消費率よりも低いとき、または前記第1の燃料消費率が前記第2の燃料消費率よりも低くなると予測されるときに、前記第1の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する制御部と、
前記モータジェネレータを駆動する電力を供給するバッテリと
を備え、
前記制御部は、
要求出力に対応する要求充放電量が、前記バッテリにおける放電量上限よりも第2の値以上小さいと判定されるとき、または要求出力に対応する要求充放電量が、前記バッテリにおける放電量上限よりも第2の値以上小さい予測されるときに、前記第2の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する
駆動システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1の燃料消費率が前記第2の燃料消費率よりも低いことが所定時間に亘って継続して判定されたとき、または前記第1の燃料消費率が前記第2の燃料消費率よりも低くなることが所定時間に亘って継続して予測されるときに、前記第1の駆動モードを選択するように前記動力伝達機構を制御する
請求項1記載の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両等の駆動系に搭載される駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータのみを駆動する電気走行モードと、エンジンを駆動するハイブリッド走行モードとを、燃料消費率に基づいて切り替えるようにしたハイブリッド車両の制御装置が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-205384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなモータとエンジンとを搭載したハイブリッド車両の駆動システムでは、車両の走行状態によっては、エンジンの燃料消費率が悪化してしまうことが懸念される。したがって、エンジンの燃料消費量を低減できる駆動システムが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施態様としての駆動システムは、車両を駆動する駆動システムであって、エンジン駆動力を発生するエンジンと、モータ駆動力を発生するモータジェネレータと、エンジン駆動力およびモータ駆動力のうちの少なくとも一方を出力する出力部と、動力伝達機構と、制御部とを備える。動力伝達機構は、エンジン駆動力およびモータ駆動力の双方を出力部へ伝達する第1の駆動モードと、エンジン駆動力およびモータ駆動力のうちエンジン駆動力のみを出力部へ伝達する第2の駆動モードとを選択可能に構成されている。制御部は、第1の駆動モードにおけるエンジンの第1の燃料消費率が第2の駆動モードにおけるエンジンの第2の燃料消費率よりも低いとき、または第1の燃料消費率が第2の燃料消費率よりも低くなると予測されるときに、第1の駆動モードを選択するように動力伝達機構を制御する。さらに、制御部は、車両の走行速度が第1の速度以下の場合には、第1の燃料消費率と第2の燃料消費率との大小関係に関わらず車両の走行速度のみに基づき第1の駆動モードを選択し、要求出力に対応する要求充放電量が、モータジェネレータに電力を供給するバッテリの放電量上限値と比べて所定値より大きい場合、第1の駆動モードを選択するように動力伝達機構を制御する。
【0006】
本開示の一実施態様としての駆動システムでは、制御部が、第1の燃料消費率と第2の燃料消費率との比較に基づいて第1の駆動モードを選択するようにしているので、エンジンによる燃料消費量が低減される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態としての駆動システムによれば、エンジンの燃料消費量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施の形態に係る車両駆動システムの概略構成例を表す模式図である。
図2A図1に示した車両駆動システムにおける、第1の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第1の概略図である。
図2B図1に示した車両駆動システムにおける、第1の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第2の概略図である。
図2C】第1の駆動モードにおけるクラッチの状態を示した表である。
図3A図1に示した車両駆動システムにおける、第2の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第1の概略図である。
図3B図1に示した車両駆動システムにおける、第2の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第2の概略図である。
図3C】第2の駆動モードにおけるクラッチの状態を示した表である。
図4A図1に示した車両駆動システムにおける、第3の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第1の概略図である。
図4B図1に示した車両駆動システムにおける、第3の駆動モードの動力伝達経路を説明するための第2の概略図である。
図4C】第3の駆動モードにおけるクラッチの状態を示した表である。
図5図1に示した車両駆動システムにおける制御フローを説明するための流れ図の一例である。
図6図1に示した車両駆動システムにおけるドライバ要求出力と要求充放電量との関係を表すマップである。
図7図1に示した車両駆動システムにおけるバッテリ5の充電率(SOC)と充放電量上限値との関係を表すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(燃料消費率に基づいてパワースプリット駆動モードとエンジン直結駆動モードとの切り替えが行われる動力伝達機構を有する車両駆動システムの例)
1.1 車両駆動システムの概略構成
1.2 車両駆動システムにおける駆動モード
1.3 車両駆動システムにおける制御
1.4 車両駆動システムの作用効果
2.変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[1.1 車両駆動システム100の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る車両駆動システム100における動力伝達系の概略構成例を、模式的に表したものである。車両駆動システム100は、エンジン1とモータジェネレータ(MG)2とを備えたハイブリッド車両(以下、単に「車両」という。)に搭載され、その車両の駆動を行うものである。図1に示したように、車両駆動システム100は、エンジン1と、MG2と、動力伝達機構3と、制御部4と、バッテリ5と、出力部6とを備えている。
【0011】
(エンジン1)
エンジン1は、ガソリンなどの燃料を燃焼させることによりエンジン駆動力を発生する内燃機関である。エンジン1と動力伝達機構3との間には、エンジン1の駆動力によって回転するエンジン出力軸11が設けられている。エンジン出力軸11は、エンジン1と接続された第1の端部と、動力伝達機構3と接続された第2の端部とを有している。なお、エンジン1は、本開示の「エンジン」に対応する一具体例である。
【0012】
(MG2)
MG2は、バッテリ5から供給される電力を用いることにより、車両の駆動を行うためのモータ駆動力を発生する駆動源である。また、MG2は、エンジン1からのエンジン駆動力を用いて駆動することにより、バッテリ5の充電を行うことができる発電機でもある。MG2には、MG2における回転子と一体となって回転する入出力軸21と、その入出力軸21に固定されたギヤ22とが設けられている。MG2は、例えば三相交流タイプの交流同期モータである。但し、MG2は、交流同期モータに限定されるものではなく、交流誘導モータまたは直流モータであってもよい。なお、MG2は、本開示の「モータジェネレータ」に対応する一具体例である。
【0013】
(動力伝達機構3)
動力伝達機構3は、第1の駆動モードとしてのパワースプリットモード(以下、PS駆動モードという。)と、第2の駆動モードとしてのエンジン直結駆動モードとを選択可能に構成されている。PS駆動モードでは、動力伝達機構3は、エンジン1において生成されるエンジン駆動力およびMG2において生成されるモータ駆動力の双方を出力部6へ伝達するようになっている。エンジン直結駆動モードでは、動力伝達機構3は、エンジン駆動力およびモータ駆動力のうちエンジン駆動力のみを出力部6へ伝達するようになっている。なお、PS駆動モードおよびエンジン直結駆動モードについては、それぞれ後に詳述する。また、動力伝達機構3は、本開示の「動力伝達機構」に対応する一具体例である。
【0014】
動力伝達機構3は、例えば、動力伝達部材30、サンギヤ31、ピニオンギヤ32、リングギヤ33、駆動軸34、キャリア35、ディスク36、低速ギヤ37、高速ギヤ38、およびギヤ39を有している。これらのうち、サンギヤ31、ピニオンギヤ32およびリングギヤ33は、遊星歯車機構を構成している。駆動軸34の第1の端部にはサンギヤ31が固定され、駆動軸34の第2の端部にはギヤ39が固定され、サンギヤ31とギヤ39との間にはディスク36が駆動軸34に固定されている。また、キャリア35は、ピニオンギヤ32に接続されている。
【0015】
動力伝達部材30は、エンジン出力軸11の第2の端部と接続されて、エンジン出力軸11と一体となって回転するようになっている。また、動力伝達部材30は、クラッチC0によりリングギヤ33と締結することによって、動力伝達部材30およびリングギヤ33が一体となって回転するようになっている。
【0016】
動力伝達機構3では、ディスク36とキャリア35とがクラッチC1により締結することによって、サンギヤ31、ピニオンギヤ32、リングギヤ33、駆動軸34およびキャリア35が一体となって回転するようになっている。
【0017】
また、動力伝達機構3では、低速ギヤ37とキャリア35とがクラッチC2により締結することによって、低速ギヤ37およびキャリア35が一体となって回転するようになっている。さらに、動力伝達機構3では、高速ギヤ38とキャリア35とがクラッチC3により締結することによって、高速ギヤ38およびキャリア35が一体となって回転するようになっている。なお、クラッチC2およびクラッチC3は、いずれか一方が選択的に締結可能となっている。すなわち、クラッチC2が締結されたときはクラッチC3が解放され、クラッチC3が締結されたときはクラッチC2が解放されるようになっている。低速ギヤ37は、出力軸61に固定されたギヤ62(後出)と噛合している。したがって、低速ギヤ37が回転することにより、ギヤ62を介して出力軸61が回転するようになっている。高速ギヤ38は、出力軸61に固定されたギヤ63(後出)と噛合している。したがって、高速ギヤ38が回転することにより、ギヤ63を介して出力軸61が回転するようになっている。
【0018】
さらに、サンギヤ31の第2の端部に固定されたギヤ39は、ギヤ22と噛合している。したがって、クラッチC0が締結されてクラッチC1が解放された場合、エンジン1からエンジン出力軸11、リングギヤ33、ピニオンギヤ32、サンギヤ31および駆動軸34を介してギヤ39に伝達されるエンジン駆動力は、ギヤ22および入出力軸21を介してMG2へ入力されるようになっている。その場合、MG2は発電機となり、エンジン1からのエンジン駆動力を用いて駆動することにより、バッテリ5の充電を行うこととなる。
【0019】
(制御部4)
車両駆動システム100における制御部4は、CAN(Controller Area Network)40と、エンジンコントロールユニット(以下、単に「ECU」という。)41と、ハイブリッド車コントロールユニット(以下、単に「HEV-ECU」という。)42と、パワーコントロールユニット(以下「PCU」という)43とをさらに備えている。
【0020】
エンジン1は、燃料噴射装置、点火装置、およびスロットルバルブなどを備えており、その動作はECU41により制御される。ECU41には、エンジン出力軸11の回転位置(エンジン回転数)を検出するクランク角センサ、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ、およびエンジン1の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサが接続されている。
【0021】
ECU41は、取得したこれらの各種情報、およびHEV-ECU42からの制御情報に基づいて、燃料噴射装置や点火装置およびスロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン1を制御する。また、ECU41は、CAN40を介して、アクセルペダル開度や、エンジン回転数、および冷却水温度などの各種情報を、HEV-ECU42へ送信するようになっている。
【0022】
駆動力源であるエンジン1およびMG2は、HEV-ECU42によって総合的に制御される。HEV-ECU42は、例えば、演算を行うマイクロプロセッサと、そのマイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROMと、演算結果などの各種データを記憶するRAMと、その記憶内容が保持されるバックアップRAMと、入出力I/Fとを有する。
【0023】
HEV-ECU42には、例えば、外気の温度を検出する外気温センサや、車両の速度を検出する車速センサ、バッテリ5の充電率を検出する充電率センサなどを含む各種センサが接続されている。また、HEV-ECU42は、CAN40を介して、エンジン1を制御するECU41やビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)等と相互に通信可能に接続されている。HEV-ECU42は、CAN40を介して、ECU41およびVDCUから、例えば、エンジン回転数、冷却水温度、およびアクセルペダル開度等の各種情報を受信する。
【0024】
HEV-ECU42は、取得したこれらの各種情報に基づいて、エンジン1およびMG2の駆動を総合的に制御する。HEV-ECU42は、例えば、アクセルペダル開度(運転者の要求)、車速や車両の走行負荷などの車両の運転状態、バッテリ5の充電率(SOC)などに基づいて、エンジン1の要求出力、および、MG2のトルク指令値を求めて出力する。
【0025】
また、HEV-ECU42は、取得した上記各種情報に基づいて、エンジン1における単位時間あたりの燃料消費量、すなわち燃料消費率を算出し、または予測するようになっている。より具体的には、HEV-ECU42は、PS駆動モードにおけるエンジン1の燃料消費率FC1と、エンジン直結駆動モードにおけるエンジン1の燃料消費率FC2との比較を行うようになっている。そこで、HEV-ECU42は、例えばPS駆動モードにおける燃料消費率FC1がエンジン直結駆動モードにおける燃料消費率FC2よりも低いとき、または燃料消費率FC1が燃料消費率FC2よりも低くなると予測されるときに、PS駆動モードを選択するように動力伝達機構3を制御するようになっている。
【0026】
さらに、HEV-ECU42は、車両の走行速度が第1の速度以下、例えば25km/h以下の場合には、燃料消費率FC1と燃料消費率FC2との大小関係に関わらずPS駆動モードを選択するように動力伝達機構3を制御するようになっている。
【0027】
また、ECU41は、上記したHEV-ECU42から出力されるエンジン1の要求出力に基づき、例えばエンジン1におけるスロットルバルブの開度を調節する。また、PCU43は、上記したHEV-ECU42から出力されるトルク指令値に基づき、後述のインバータ431を介して、MG2の駆動を行うようになっている。
【0028】
PCU43は、例えばインバータ431と、DC-DCコンバータ432とを有している。インバータ431は、バッテリ5からの直流電力を三相交流の電力に変換してMG2へ供給するものである。PCU43は、上述したように、HEV-ECU42から受信したトルク指令値に基づき、インバータ431を介して、MG2を駆動する。なお、インバータ431は、MG2において発電した交流電圧を直流電圧に変換し、バッテリ5を充電する。また、DC-DCコンバータ432は、補機類や各ECUの電源として使用するために、バッテリ5の直流高電圧を12Vまで降圧するものである。
【0029】
(出力部6)
出力部6は、出力軸61と、その出力軸61に固定されて出力軸61を回転中心として回転可能なギヤ62およびギヤ63を有し、動力伝達機構3を介して伝達されるエンジン駆動力およびモータ駆動力のうちの少なくとも一方(以下、単に駆動力という。)を出力するようになっている。具体的には、出力軸61は、例えばフロントディファレンシャル60と接続されており、動力伝達機構3を介して伝達される駆動力をフロントディファレンシャル60に伝達するようになっている。フロントディファレンシャル60は、出力軸61により伝達される駆動力によって回転駆動する。なお、出力部6は、本発明の「出力部」に対応する一具体例である。
【0030】
[1.2 車両駆動システム100における駆動モード]
次に、図2から図4を参照して、車両駆動システム100において選択可能な駆動モードについて説明する。本実施の形態の車両駆動システム100は、図2に示した第1の駆動モードとしてのPS駆動モードと、第2の駆動モードとしてのエンジン直結駆動モードと、第3の駆動モードとしての電気駆動モードとを取り得るようになっている。図2A図2Bは、PS駆動モードの動力伝達経路を説明するための概略図であり、図2Cは、図2A図2BのPS駆動モードにおけるクラッチC0~C3の状態を記載した表である。図3A図3Bは、エンジン直結駆動モードの動力伝達経路を説明するための概略図であり、図3Cは、図3A図3Bのエンジン直結駆動モードにおけるクラッチC0~C3の状態を記載した表である。図4A図4Bは、電気駆動モードの動力伝達経路を説明するための概略図であり、図4Cは、図4A図4Bの電気駆動モードにおけるクラッチC0~C3の状態を記載した表である。なお、図2A図3Aおよび図4Aでは、いずれも低速ギヤ37を選択した場合の動力伝達経路を表し、図2B図3Bおよび図4Bでは、いずれも高速ギヤ38を選択した場合の動力伝達経路を表している。
【0031】
図2A~2Cに示したように、PS駆動モードでは、クラッチC0が締結状態となると共にクラッチC1が解放状態となり、エンジン1のエンジン駆動力がフロントディファレンシャル60に伝達される。すなわち、エンジン出力軸11を介して動力伝達部材30へ入力されたエンジン駆動力が、リングギヤ33と、ピニオンギヤ32と、キャリア35と、低速ギヤ37または高速ギヤ38と、ギヤ62またはギヤ63と、出力軸61とを介してフロントディファレンシャル60に伝達される。なお、PS駆動モードでは、低速ギヤ37が選択される場合、クラッチC2が締結状態となると共にクラッチC3が解放状態となる。一方、高速ギヤ38が選択される場合、クラッチC3が締結状態となると共にクラッチC2が解放状態となる。
【0032】
また、PS駆動モードでは、MG2が負回転の場合、エンジン駆動力の一部がサンギヤ31、駆動軸34、ギヤ39、ギヤ22および入出力軸21を介してMG2へ入力されるようになっている。その場合、MG2は発電機として振る舞い、バッテリ5への充電がなされる。一方、MG2が正回転の場合、バッテリ5の電力によりMG2が駆動される。その結果、MG2からのモータ駆動力が、入出力軸21、ギヤ22、ギヤ39、駆動軸34、およびサンギヤ31を介してピニオンギヤ32に伝達され、キャリア35の回転をアシストすることとなる。
【0033】
図3A~3Cに示したように、エンジン直結駆動モードでは、クラッチC0が締結状態となると共にクラッチC1も締結状態となる。したがって、エンジン直結駆動モードでは、エンジン1のエンジン駆動力がフロントディファレンシャル60のみに伝達される。なお、エンジン直結駆動モードにおいてもPS駆動モードと同様、低速ギヤ37が選択される場合、クラッチC2が締結状態となると共にクラッチC3が解放状態となる。一方、高速ギヤ38が選択される場合、クラッチC3が締結状態となると共にクラッチC2が解放状態となる。
【0034】
図4A~4Cに示したように、電気駆動モードでは、クラッチC0が解放状態となると共にクラッチC1は締結状態となる。したがって、電気駆動モードでは、エンジン1のエンジン駆動力はフロントディファレンシャル60やMG2には伝達されず、バッテリ5の電力により駆動するMG2からのモータ駆動力がフロントディファレンシャル60へ伝達されるようになっている。具体的には、MG2により生成されたモータ駆動力は、入出力軸21、ギヤ22、ギヤ39、駆動軸34、ディスク36、キャリア35、低速ギヤ37または高速ギヤ38と、ギヤ62またはギヤ63と、出力軸61とを介してフロントディファレンシャル60に伝達される。なお、電気駆動モードにおいてもPS駆動モードと同様、低速ギヤ37が選択される場合、クラッチC2が締結状態となると共にクラッチC3が解放状態となる。一方、高速ギヤ38が選択される場合、クラッチC3が締結状態となると共にクラッチC2が解放状態となる。
【0035】
[1.3 車両駆動システムにおける制御]
次に、図5を参照して、車両駆動システム100における制御フローについて説明する。図5は、車両駆動システム100における制御フローを説明するための流れ図の一例である。図5に示した一連の制御は、例えばHEV-ECU42を含む制御部4により実行される。
【0036】
まず、車両駆動システム100は、図4に示した電気駆動モードにて車両の走行を開始させる。次に、エンジン1を始動させたのち、キャリア35の単位時間当たりの回転数とサンギヤ31の単位時間当たりの回転数との比較を行う(ステップS101)。ステップS101では、キャリア35の単位時間当たりの回転数とサンギヤ31の単位時間当たりの回転数との差が一定値以下であるかどうかが判定される。キャリア35の単位時間当たりの回転数とサンギヤ31の単位時間当たりの回転数との差が一定値以下であるとき(ステップS101Y)、ステップS102に進み、電気駆動モード(図4)からエンジン直結駆動モード(図3)に移行する。一方、キャリア35の単位時間当たりの回転数とサンギヤ31の単位時間当たりの回転数との差が一定値を超える場合(ステップS101N)、MG2の回転数を調整し、ステップS101に戻る(ステップS103)。
【0037】
次に、HEV-ECU42は、PS駆動モードでの燃料消費率FC1とエンジン直結駆動モードでの燃料消費率FC2との比較を行う(ステップS104)。そこで、燃料消費率FC1が燃料消費率FC2よりも小さいとき(ステップS104Y)、ステップS107に従い、エンジン直結駆動モード(図3)からPS駆動モード(図2)へ移行する。一方、燃料消費率FC1が燃料消費率FC2と同等以上であるとき(ステップS104N)、ステップS105へ進む。
【0038】
ステップS105では、車両駆動システム100が駆動する車両の走行速度Vが25km/h以下であるかどうか、を判定する。走行速度Vが25km/h以下であるとき(ステップS105Y)、ステップS107に従い、エンジン直結駆動モード(図3)からPS駆動モード(図2)へ移行する。一方、走行速度Vが25km/hを超えるとき(ステップS105N)、ステップS106へ進む。
【0039】
ステップS106では、HEV-ECU42は、ドライバの要求出力に対応する要求充放電量と、バッテリ5における放電量上限値との比較を行う。具体的には、HEV-ECU42は、要求充放電量が、バッテリ5の放電量上限値よりも第1の値以上大きいと判定されるとき、または要求充放電量が、バッテリ5の放電量上限値よりも第1の値以上大きくなると予測されるとき(ステップS106Y)、ステップS107へ進む。ステップS107では、HEV-ECU42は、エンジン直結駆動モードからPS駆動モードへ切り替えるように動力伝達機構3を制御する。ステップS106における第1の値は、例えば5kWである。
【0040】
なお、ステップS106では、例えば図6に示したドライバ要求出力と要求充放電量との関係を表すマップをあらかじめ用意しておき、アクセル開度によって定まるドライバ要求出力から、そのドライバ要求出力に対応する要求充放電量を求める。
【0041】
また、バッテリ5における放電量上限値は、例えば図7に示した、あらかじめ用意された、バッテリ5の充電率(SOC)と充放電量上限値との関係を表すマップにより求めることができる。なお、バッテリ5における充放電量下限値についても、図7に併せて示したバッテリ5の充電率(SOC)と充放電量下限値との関係を表すマップにより求めることができる。充放電量上限値および充放電量下限値は、いずれも、バッテリ5の充電率(SOC)に比例して変動する。また、バッテリ5における充放電量上限値および充放電量下限値は、いずれも、バッテリ5の充電率(SOC)を所定の範囲内に維持するために設けられている。HEV-ECU42は、充電率センサからの情報に基づき、バッテリ5の充電率(SOC)が比較的高い場合には、バッテリ5への充電を制限し、バッテリ5の充電率(SOC)が比較的低い場合には、バッテリ5からの放電を制限するようになっている。なお、要求充電量が充電量上限値よりも十分に大きい場合はバッテリ5の充電率(SOC)に余裕があり、バッテリ5への充電が制限される。その場合、HEV-ECU42は、エンジン直結駆動モードやPS駆動モードから電気駆動モードへ切り替えるように動力伝達機構3を制御するとよい。
【0042】
ステップS107においてエンジン直結駆動モードからPS駆動モードへ切り替わったのち、ステップS108へ進む。ステップS108では、HEV-ECU42は、ドライバの要求出力に対応する要求充放電量と、バッテリ5における放電量上限値との比較を行う。具体的には、HEV-ECU42は、要求充放電量が、バッテリ5の放電量上限値よりも第2の値以上小さいと判定されるとき、または要求充放電量が、バッテリ5の放電量上限値よりも第2の値以上小さくなると予測されるとき(ステップS108Y)、ステップS109へ進む。ステップS109では、HEV-ECU42は、PS駆動モードからエンジン直結駆動モードへ切り替えるように動力伝達機構3を制御する。ステップS108における第2の値は、例えば5kWである。
【0043】
ステップS109ののち、車両駆動システム100における制御フローは終了する。また、ステップS106において、要求充放電量がバッテリ5の放電量上限値よりも第1の値以上大きい、と判定されないとき、または要求充放電量がバッテリ5の放電量上限値よりも第1の値以上大きくなると予測されないとき(ステップS106N)、車両駆動システム100における制御フローはステップS106ののち、制御フローはそのまま終了する。さらに、ステップS108において、要求充放電量がバッテリ5の放電量上限値よりも第2の値以上小さいと判定されないとき、または要求充放電量が、バッテリ5の放電量上限値よりも第2の値以上小さくなると予測されないとき(ステップS108N)、車両駆動システム100における制御フローはステップS108ののち、そのまま終了する。
【0044】
[車両駆動システム100の作用効果]
このように、本実施の形態の車両駆動システム100およびそれを備えた車両によれば、制御部4が、燃料消費率FC1と燃料消費率FC2との比較に基づいてPS駆動モードを選択するようにしているので、エンジン1による燃料消費量が低減される。すなわち、例えばエンジン直結駆動モードからPS駆動モードへの移行要求があったとき、制御部4は、PS駆動モードへの移行時におけるエンジン1の動作点を予測し、その予測したエンジン1の動作点での燃料消費率FC1を算出する。そこで、PS駆動モードにおける燃料消費率FC1がエンジン直結駆動モードにおける燃料消費率FC2よりも低いとき、または燃料消費率FC1が燃料消費率FC2よりも低くなると予測されるときに、PS駆動モードを選択するように動力伝達機構3が制御される。したがって、車両駆動システム100およびそれを備えた車両では、より燃料消費率の低い駆動モードでの駆動が実現され、燃費向上が期待できる。
【0045】
一般に、PS駆動モードを有するトランスミッションを備えたハイブリッド車両では、エンジン駆動力を主たる駆動力として走行を行う。しかしながら、低車速でありながら高出力が要求される場合には、エンジン動作点が高トルク領域に移行するので、燃費効率の悪化が懸念される。そこで、PS駆動モードが選択される。ところがPS駆動モードの動作点は出力軸の回転数に沿った自由度しか有さないので、車両の走行状態によっては、エンジン直結駆動モードの燃費よりもPS駆動モードの燃費のほうが悪化してしまう可能性がある。その点、本実施の形態の車両駆動システム100においては、燃料消費率FC1と燃料消費率FC2との比較に基づいてPS駆動モードとエンジン直結駆動モードとの切り替えを行うようにしているので、エンジン1による燃料消費量が低減される。
【0046】
また、本実施の形態では、エンジン直結駆動モードからPS駆動モードへの移行を、要求充放電量がバッテリにおける放電量上限よりも第1の値以上大きいと判定されるとき、または要求充放電量がバッテリにおける放電量上限よりも第1の値以上大きくなると予測されるときに実行するようにした。さらに、PS駆動モードからエンジン直結駆動モードへの移行を、要求充放電量がバッテリにおける放電量上限よりも第2の値以上小さいと判定されるとき、または要求充放電量がバッテリにおける放電量上限よりも第2の値以上小さい予測されるときに実行するようにした。このため、エンジン直結駆動モードとPS駆動モードとが切り替わるときのハンチングの発生を防ぐことができる。
【0047】
また、本実施の形態では、車両の走行速度Vが第1の速度以下(例えば25km/h以下)の場合には、燃料消費率FC1と燃料消費率FC2との大小関係に関わらずPS駆動モードを選択するようにした。このため、エンジン1の単位時間あたりの回転数が車両の走行速度Vと連動する場合に、ドライバの要求出力に対するエンジン1で生成されるエンジン駆動力の不足を、MG2で生成されるモータ駆動力により補うことができる。その結果、ドライバの要求に応じた円滑な走行が可能となる。
【0048】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、上記実施の形態におけるECU41、HEV-ECU42およびPCU43などは各々個別のハードウェアで構成してもよいし、一体のハードウェアで構成するようにしてもよい。
【0050】
また、上記実施の形態および変形例で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0051】
また、本開示では、制御部は、第1の燃料消費率(FC1)が第2の燃料消費率(FC2)よりも低いことが所定時間に亘って継続して判定されたとき、または第1の燃料消費率(FC1)が第2の燃料消費率(FC2)よりも低くなることが所定時間に亘って継続して予測されるときに、第1の駆動モード(PS駆動モード)を選択するように動力伝達機構3を制御するようにしてもよい。そうした場合であっても、第1の駆動モードと第2の駆動モードとが切り替わるときのハンチングの発生を抑制できる。
【0052】
また、例えば上記実施の形態では、ハイブリッド車両に搭載される車両駆動システムを例示して説明するようにしたが、本開示はこれに限定されるものではない。本技術は、例えば船舶や航空機などの、車両以外の乗り物に搭載されてその乗り物の回転体の駆動を行う回転体駆動システムや、建設機械や作業ロボットなどの移動を伴わない装置に搭載されてその装置における回転体の駆動を行う回転体駆動システムにも適用可能である。
【0053】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…エンジン、11…エンジン出力軸、2…モータジェネレータ、21…入出力軸、22…ギヤ、3…動力伝達機構、30…動力伝達部材、31…サンギヤ、32…ピニオンギヤ、33…リングギヤ、34…駆動軸、35…キャリア、36…ディスク、37…低速ギヤ、38…高速ギヤ、39…ギヤ、4…制御部、40…CAN、41…ECU、42…HEV-ECU、43…PCU、5…バッテリ、6…出力部、60…フロントディファレンシャル、61…出力軸、62,63…ギヤ、100…車両駆動システム。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7