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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】チャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/177 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B23B31/177
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019104476
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2020196104
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-083309(JP,U)
【文献】国際公開第2017/204273(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021513(WO,A1)
【文献】実開昭58-188109(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/12
B23B 31/16-31/177
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記第2の姿勢において、前記対角部が前記壁面に接触して固定される
チャック。
【請求項2】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、
チャック。
【請求項3】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記マスタージョーは、前記プランジャとの接触面に段差を有し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、
チャック。
【請求項4】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記マスタージョーは、少なくとも第1及び第2のマスタージョーを含み、これらが前記ボデーの正面中心から互いに均等に配置され、
前記ボデーの前記ガイド溝は、前記第1のマスタージョーを収容する第1のガイド溝と、前記第2のマスタージョーを収容する第2のガイド溝とを含み、
前記プランジャは、前記第1のマスタージョーと嵌合する第1のT溝と、前記第2のマスタージョーと嵌合する第2のT溝とを備え、
前記ボデーの正面視において、前記第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なる、
チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械等の分野において、ワーク(被加工物)を把握するチャックが利用されている。このようなチャックは、ワークの中心軸を回転軸に一致させるように、ジョーと呼ばれる把握部位でワークを把握する。中心軸と回転軸の一致の正確さを把握精度と称し、把握精度が高ければ高いほど高品質なワーク加工が可能になる。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されるように、ジョーのうち、トップジョーと呼ばれる着脱式のジョーがマスタージョーと呼ばれる別のジョーに配置され、マスタージョーがボデーに設けられたガイド溝に沿って開閉することで、ワークを把握するためのトップジョーが開閉するチャックがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-086005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるチャックでは、ガイド溝によって、マスタージョーの回転方向の移動が規制される。しかし、マスタージョーを滑らかに動作させるために、ガイド溝とマスタージョーの二面幅との間に微小な隙間が必要なため、かかる隙間が回転方向のガタとなって、ワークの把握精度を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、把握精度の高いチャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、前記マスタージョーは、二面幅を備え、前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、前記トップジョーは、前記マスタージョーに着脱可能であって、前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さい、チャックが提供される。
【0008】
本発明に係るチャックでは、マスタージョーが第1の姿勢でガイド溝に沿って開閉可能に構成され、ワーク把握時には、マスタージョーが捩じられて第2の姿勢に変化する。このとき、第2の姿勢ではマスタージョーの対角部とガイド溝の壁面との距離が第1の姿勢に比して小さいため、ガタを抑制又は防止し、高い把握精度でワークを把握することができる、という有利な効果を奏する。
【0009】
好ましくは、以下の発明が提供されてもよい。
前記チャックにおいて、前記第2の姿勢において、前記対角部が前記壁面に接触して固定される、チャック。
前記チャックにおいて、前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、チャック。
前記チャックにおいて、前記マスタージョーは、前記プランジャとの接触面に段差を有し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、チャック。
前記チャックにおいて、前記マスタージョーは、少なくとも第1及び第2のマスタージョーを含み、これらが前記ボデーの正面中心から互いに均等に配置され、前記ボデーの前記ガイド溝は、前記第1のマスタージョーを収容する第1のガイド溝と、前記第2のマスタージョーを収容する第2のガイド溝とを含み、前記プランジャは、前記第1のマスタージョーと嵌合する第1のT溝と、前記第2のマスタージョーと嵌合する第2のT溝とを備え、前記ボデーの正面視において、前記第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なる、チャック。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るチャックの斜視図。
図2】[図2A]チャックの正面図。[図2B図2AにおけるP-P断面図。
図3】[図3A]マスタージョーとトップジョーとをTナットで固定した状態を示す斜視図。[図3B]Tナットの斜視図。
図4】[図4A]マスタージョーの斜視図、[図4B図4Aとは別の角度から見た斜視図。
図5】[図5A]マスタージョーの第1の姿勢を示す概略図、[図5B]マスタージョーの第2の姿勢を示す概略図。
図6】[図6A]第1の実施形態に係るマスタージョーの態様を示す概略図(開閉時)、[図6B]第1の実施形態に係るマスタージョーの態様を示す概略図(把握時)。
図7】[図7A]第2の実施形態に係るマスタージョーの態様を示す概要図(開閉時)、[図7B]第2の実施形態に係るマスタージョーの態様を示す概略図(把握時)。
図8】第3の実施形態に係るマスタージョーの態様を示す概略図(把握時)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組合せ可能である。
【0012】
1.第1の実施形態
第1節では、第1の実施形態に係るチャック1について説明する。図1は、チャック1の斜視図を示している。また、図2Aは、チャック1の正面図を示し、図2Bは、図2AにおけるP-P断面図を示している。また、図3Aは、マスタージョー3とトップジョー4とをTナット5で固定した状態を示す斜視図であり、図3Bは、Tナット5の斜視図である。
【0013】
1.1 全体構成
チャック1は、ボデー2を備え、ボデー2は、その外観において、マスタージョー3と、マスタージョー3上に取り付けられ且つワーク(不図示)を把握する把握面HFを有するトップジョー4と、逆T字形状を有してマスタージョー3におけるT溝31に対して挿入可能に構成されるTナット5と、トップジョー4をTナット5とともにマスタージョー3に固定するためのトップジョーボルト6とを備える。ここでは、1つのトップジョー4に2本のトップジョーボルト6が挿し込まれているが、本数はこれに限定されるものではない。
【0014】
ボデー2は、その正面が回転軸Rに直交するように、その背面側が旋盤等の工作機械に固定されて用いられる。以下の説明で方向を示す際、適宜、この向きに従って、正面側、背面側、回転軸方向(回転軸Rが延在する方向)、周方向(回転軸Rの回りの方向)、径方向(回転軸Rを中心とするその半径の方向)等を用いる。ボデー2は、その正面において径方向に沿って設けられたガイド溝21を備え、マスタージョー3がガイド溝21に収容される。また、ボデー2は、マスタージョー3を開閉させるためのプランジャ7を内蔵する。
【0015】
続いて、マスタージョー3の言及に際して補足するが、本実施形態では、3つのマスタージョー3及びこれに対応する3つのトップジョー4を有するものとして説明しているが、把握するワークの形状、把握方法、チャック1の大きさ、トップジョー4の大きさ等によっては、一対の、又は4つ以上のマスタージョー3及びトップジョー4を有するものとして実施してもよい。特に、チャック1は、正面(図2A参照)からみて3等分した位置ごとにマスタージョー3、トップジョー4、Tナット5及びトップジョーボルト6が配置されていることに留意されたい。これらは同一のため、その内の一箇所のみについて説明するものとする。
【0016】
図3Aは、マスタージョー3とトップジョー4とをTナット5で固定した状態を示す斜視図であり、図3Bは、Tナット5の斜視図である。マスタージョー3及びトップジョー4は、山及び谷が交互に連続してなるセレーションSRをそれぞれ有する(特に、マスタージョー3のセレーションSRについては、図4Bも参照されたい。)。隣接する山どうしの間隔であるピッチは、マスタージョー3とトップジョー4とで同一となるように構成されている。ピッチの値は、例えば、0.5~5.0mmである。
【0017】
マスタージョー3は、逆T字形状のT溝31を備える。Tナット5は、マスタージョー3におけるT溝31に対して挿入可能に構成される。また、マスタージョー3は、ボデー2におけるガイド溝21(図2A及び図2B参照)に収容されている。マスタージョー3は、ガイド溝21に沿って開閉可能に構成される。マスタージョー3の構造については後にさらに詳述する。
【0018】
トップジョー4は、トップジョーボルト6を挿通させるための貫通孔41を有している。また、Tナット5は、トップジョー4を固定する際に、トップジョーボルト6と螺合させるためのボルト穴51を有している。図3A及び図3Bでは、例として貫通孔41及びボルト穴51ともに2つの場合を示しているが、これに限定されるものではない。
【0019】
マスタージョー3及びトップジョー4は、セレーションSRの山と谷を互いに噛み合わせて、ピッチ単位で、その相対位置を調節することができる。山及び谷が連続する方向が、トップジョー4の位置を調節する調節方向となる。セレーションSRによってマスタージョー3とトップジョー4の相対位置を確定させた後、Tナット5にトップジョーボルト6を螺合させることで、マスタージョー3に対するトップジョー4の相対位置を固定することができる。
【0020】
1.2 マスタージョー3の構造
第1.2節では、マスタージョー3の開閉に関する構造について、さらに詳述する。図4A及び図4Bは、マスタージョー3をそれぞれ異なる角度から見た斜視図である。図5Aは、マスタージョー3の第1の姿勢を示す概略図であり、図5Bは、マスタージョー3の第2の姿勢を示す概略図である。図6Aは、第1の実施形態に係るマスタージョー3の態様を示す概略図(開閉時)、図6Bは、第1の実施形態に係るマスタージョー3の態様を示す概略図(把握時)である。
【0021】
マスタージョー3は、トップジョー4が取り付けられる正面側とは逆の背面側に、ウェッジ部32を備える。図4Aに示されるように、ウェッジ部32は、その端面を接触面32a,32bとして後述のプランジャ7によって押圧可能に構成されている。
【0022】
マスタージョー3は、二面幅33と、凸部34とを備える。ボデー2におけるガイド溝21に収容されるにあたり、ガイド溝21の壁面21wと二面幅33とが、わずかに隙間Sを有して互いに対向する。これにより、マスタージョー3の周方向の移動が規制されている。また、凸部34がボデー2に設けられたT溝22に嵌合しており、マスタージョー3の回転軸方向に沿った移動が規制されている。このような構成により、マスタージョー3は、ガイド溝21に沿って開閉可能に構成される。
【0023】
マスタージョー3の開閉に関連して、プランジャ7がボデー2に内蔵されている。図2Bに示されるように、プランジャ7は、その内部にT溝71を備え、T溝71にウェッジ部32が嵌合する。また、プランジャ7は、ドローナット8を介して不図示の油圧シリンダと結合し、これによって回転軸方向に沿って移動可能に構成されている。プランジャ7の内部に設けられたT溝71は、背面側から正面側に向かって回転軸Rに近づくように設けられている。そのため、プランジャ7が正面側から背面側に向かって回転軸方向に沿って移動すると、プランジャ7におけるT溝71とマスタージョー3におけるウェッジ部32との嵌合によって、マスタージョー3が径方向内側に移動する。一方、プランジャ7が背面側から正面側に向かって回転軸方向に沿って移動すると、マスタージョー3が径方向外側に移動する。
【0024】
すなわち、プランジャ7は、ボデー2の内部において回転軸方向に沿って、背面側又は正面側に移動可能に配置され、マスタージョー3はプランジャ7の移動に応じて、ガイド溝21に沿って開閉する。特に、ワークを把握しておらず、マスタージョー3が開閉可能な状態での姿勢を第1の姿勢と称するものとする。すなわち、図5Aに示されるように、マスタージョー3の第1の姿勢においては、マスタージョー3のウェッジ部32とプランジャ7のT溝71とが干渉せずにスムーズに摺動し、且つマスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21とが干渉せずスムーズに摺動するように、それぞれ微小な隙間Sを有している。
【0025】
一方、マスタージョー3が第1の姿勢から捩じられた状態を、第2の姿勢と称するものとする。第2の姿勢では、マスタージョー3の二面幅33の対角部33a,33bとガイド溝21の壁面21wとの距離が第1の姿勢に比して小さいことに留意されたい。すなわち、図5Bに示されるように、マスタージョー3の第2の姿勢においては、マスタージョー3のウェッジ部32とプランジャ7の接触面72aとが接触し、マスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21とが接触するか又はマスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21との隙間Sが小さくなることによって、周方向のガタが抑制される。特に本実施形態においては、二面幅33とボデー2のガイド溝21とが接触する場合について説明する。
【0026】
ここで、第1及び第2の姿勢を踏まえた上で、トップジョー4がワークを把握する場合について考察する。トップジョー4が径方向内側に移動して把握面HFがワークを把握すると、トップジョー4はこれ以上径方向に移動できずに停止する。トップジョー4はマスタージョー3に取着されているので、マスタージョー3も停止する。一方、シリンダ推力はプランジャを回転軸方向に沿って引っ張るように作用するため、マスタージョー3のウェッジ部32における接触面32aと、プランジャ7における接触面72aとが互いに押圧されて加圧状態となる。
【0027】
ここで、第1の実施形態に係るチャック1では、図6A及び図6Bに示されるように、ボデー2の正面から見た正面視において、マスタージョー3の二面幅33の延在方向は、接触面32a,32bに垂直な方向(ボデー2の径方向)に対して微小角θを有することに留意されたい。一方、ボデー2の正面におけるガイド溝21(壁面21w)は、その中心から径方向外側に延在して設けられており、微小角θはマスタージョー3の滑らかな開閉を妨げない程度の非常に小さな傾斜角である。ただし、図6A及び図6Bでは、視認性を考慮して故意に大きく図示している。
【0028】
微小角θは、例えば、0.002~0.5度の角が選択される。具体的には例えば、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.5度であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
マスタージョー3とプランジャ7との加圧状態では、マスタージョー3が第1の姿勢から捩じられて第2の姿勢となり、二面幅33の対角部33a,33bがガイド溝21の壁面21wに接触してマスタージョー3のガイド溝21に対する相対位置が固定される。
【0030】
換言すると、マスタージョー3は、二面幅33を備え、二面幅33は、ボデー2の正面視においてプランジャ7との接触面32a(又は接触面32b)に垂直な方向に対して微小角θを有するように延在し、これにより加圧状態において、マスタージョー3が第1の姿勢から第2の姿勢に変化する。
【0031】
すなわち、第1の実施形態に係るチャック1は、ワークを把握していない状態ではマスタージョー3を第1の姿勢にして滑らかな開閉を可能(図6A参照)にするものの、ワークを把握するとマスタージョー3を第2の姿勢に変化させてガイド溝21に対する相対位置が固定されてガタが抑制される(図6B参照)。このような構成により、従来よりも高い把握精度を有するチャック1が実現されうる。
【0032】
2.第2の実施形態
第2節では、第2の実施形態に係るチャック1について説明する。なお、第1の実施形態に係るチャック1との共通箇所についてはその説明を省略する。図7Aは、第2の実施形態に係るマスタージョー3の態様を示す概要図(開閉時)、図7Bは、第2の実施形態に係るマスタージョー3の態様を示す概略図(把握時)である。
【0033】
第2の実施形態に係るチャック1は、第1の実施形態に係る微小角θに代えて、マスタージョー3におけるウェッジ部32の接触面32aに段差dを設けることに留意されたい。換言すると、マスタージョー3は、プランジャ7との接触面32aに段差dを有し、これにより加圧状態において、マスタージョー3が第1の姿勢から第2の姿勢に変化する。
【0034】
ここでも、第1及び第2の姿勢を踏まえた上で、トップジョー4がワークを把握する場合について考察する。トップジョー4が径方向内側に移動して把握面HFがワークを把握すると、トップジョー4はこれ以上径方向に移動できずに停止する。トップジョー4はマスタージョー3に取着されているので、マスタージョー3も停止する。一方、シリンダ推力はプランジャを回転軸方向に沿って引っ張るように作用するため、マスタージョー3のウェッジ部32における接触面32aと、プランジャ7における接触面72aとが互いに押圧されて加圧状態となる。
【0035】
加圧状態では、2つの接触面32a,32a間の段差dによってマスタージョー3が第1の姿勢から捩じられて第2の姿勢となり、二面幅33の対角部33a,33bがガイド溝21の壁面21wに接触してマスタージョー3のガイド溝21に対する相対位置が固定される。
【0036】
なお、段差dは微小な段差であり、図7A及び図7Bでは、視認性を考慮して故意に大きく図示している。実際には、第1の姿勢におけるマスタージョー3の向きと、第2の姿勢におけるマスタージョー3の向きとが、第1の実施形態において説明した微小角θと同程度となることが好ましい。
【0037】
すなわち、第2の実施形態に係るチャック1は、ワークを把握していない状態ではマスタージョー3を第1の姿勢にして滑らかな開閉を可能にするものの(図7A参照)、ワークを把握するとマスタージョー3を第2の姿勢に変化させてガイド溝21に対する相対位置が固定されてガタが抑制される(図7B参照)。このような構成により、従来よりも高い把握精度を有するチャック1が実現されうる。
【0038】
3.第3の実施形態
第3節では、第3の実施形態に係るチャック1について説明する。なお、第1又は第2の実施形態に係るチャック1との共通箇所についてはその説明を省略する。図8は、第3の実施形態に係るマスタージョー3の態様を示す概略図(把握時)である。
【0039】
第3の実施形態に係るチャック1は、第1の実施形態に係る微小角θ又は第2の実施形態に係る段差dに代えて、図8に示されるような構成を有する。ここでは、対向する一対のマスタージョー3(第1及び第2のマスタージョー3,3)を有するチャック1の概略が示されている。特に、ボデー2の正面から見た正面視において、ボデー2のガイド溝21の延在方向(A1,A2)と、プランジャ7のT溝71の延在方向(B1,B2)との位置角度が異なることに留意されたい。
【0040】
換言すると、マスタージョー3は、少なくとも第1及び第2のマスタージョー3,3を含み、これらがボデー2の正面中心から互いに均等に配置され、ボデー2のガイド溝21は、第1のマスタージョー3を収容する第1のガイド溝21と、第2のマスタージョーを収容する第2のガイド溝21とを含み、プランジャ7は、第1のマスタージョー3と嵌合する第1のT溝71と、第2のマスタージョーと嵌合する第2のT溝71とを備え、ボデー2の正面視において、第1及び第2のガイド溝21,21の延在方向と、第1及び第2のT溝71,71の延在方向との位置角度が異なる。
【0041】
ここでも、第1及び第2の姿勢を踏まえた上で、トップジョー4がワークを把握する場合について考察する。トップジョー4が径方向内側に移動して把握面HFがワークを把握すると、トップジョー4はこれ以上径方向に移動できずに停止する。トップジョー4はマスタージョー3に取着されているので、マスタージョー3も停止する。一方、シリンダ推力はプランジャを回転軸方向に沿って引っ張るように作用するため、マスタージョー3のウェッジ部32における接触面32aと、プランジャ7における接触面72aとが互いに押圧されて加圧状態となる。
【0042】
非加圧状態では、マスタージョー3が開閉可能にボデー2のガイド溝21の延在方向A1,A2におおよそ沿うように配置されていたが、加圧状態では、マスタージョー3がプランジャ7のT溝71(図8においては不図示)の延在方向B1,B2に沿うように固定されることとなる。つまり、第1又は第2の実施形態同様に、第1の姿勢から捩じられて第2の姿勢となり、二面幅33の対角部33a,33bがガイド溝21の壁面21wに接触してマスタージョー3のガイド溝21に対する相対位置が固定される。
【0043】
すなわち、第3の実施形態に係るチャック1は、ワークを把握していない状態ではマスタージョー3を第1の姿勢にして滑らかな開閉を可能にするものの、ワークを把握するとマスタージョー3を第2の姿勢に変化させてガイド溝21に対する相対位置が固定されてガタが抑制される。このような構成により、従来よりも高い把握精度を有するチャック1が実現されうる。
【0044】
4.変形例
第4節では、前述の実施形態に係るチャック1の変形例について説明する。すなわち、以下のような態様で、チャック1を実施してもよい。
【0045】
第1~第3の実施形態共通の変形例として、二面幅33の対角部33a,33bがガイド溝21の壁面21wに接触する構成は必須ではない。接触せずとも、第1の姿勢に比べて第2の姿勢での二面幅33とガイド溝21との隙間S(対角部33a,33bとガイド溝21の壁面21wとの距離)が小さくなることで、従来よりもガタを抑制することができる。
【0046】
第1~第3の実施形態共通の変形例として、ワークを外側から把握する外径把握の場合に限らず、円環状等のワークを内側から把握する内径把握の場合を想定してもよい。ワークを内径把握する場合は、力の向きが逆になるため、マスタージョー3のウェッジ部32における接触面32bと、プランジャ7における接触面72bとが互いに押圧されて加圧状態となる。したがって、特に第2の実施形態については、接触面32bに段差dを設けることで、第1の姿勢から第2の姿勢への変化を起こすことができる。外径把握と内径把握とを両方想定する場合は、接触面32a,32bの両方に段差dを設ければよい。また、段差はプランジャ7のT溝71側に設けてもよい。
【0047】
第3の実施形態に係る変形例として、ボデー2のガイド溝21の延在方向(A1,A2)と、プランジャ7のT溝71の延在方向(B1,B2)との位置角度を同一にし、代わりに、ガイド溝21の壁面21wに段差を設けることで、マスタージョー3を第1の姿勢から第2の姿勢に変化するようにしてもよい。
【0048】
5.結言
以上のように、本実施形態によれば、把握精度の高いチャック1を実施することができる。
【0049】
かかるチャック1は、ボデー2の正面でワークを把握するものであって、プランジャ7と、複数のマスタージョー3と、複数のトップジョー4とを備え、前記プランジャ7は、前記ボデー2の内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、前記マスタージョー3は、二面幅33を備え、前記ボデー2の正面において径方向に沿って設けられたガイド溝21に収容され、前記プランジャ7の移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝21に沿って開閉可能に構成され、前記トップジョー4は、前記マスタージョー3に着脱可能であって、前記マスタージョー3とともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、前記トップジョー4が前記ワークを把握すると、前記マスタージョー3と前記プランジャ7とが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョー3が傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョー3の二面幅33の対角部33a,33bと前記ガイド溝21の壁面21wとの距離が前記第1の姿勢に比して小さい。
【0050】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 :チャック
2 :ボデー
21 :ガイド溝
22 :T溝
3 :マスタージョー
31 :T溝
32a :接触面
32b :接触面
33 :二面幅
33a :対角部
33b :対角部
4 :トップジョー
7 :プランジャ
71 :T溝
d :段差
θ :微小角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8