IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産サンキョー株式会社の特許一覧

特許7393880ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット
<>
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図1
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図2
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図3
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図4
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図5
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図6
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図7
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図8
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図9
  • 特許-ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20231130BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B25J19/06
H01L21/68 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019109675
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020199616
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 和博
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 淳
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-260581(JP,A)
【文献】特開2015-054386(JP,A)
【文献】特開昭57-144680(JP,A)
【文献】特開2011-067017(JP,A)
【文献】特開2015-211502(JP,A)
【文献】特開2007-037382(JP,A)
【文献】特開2012-055981(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057799(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に延びる回転軸の回りに回転するモータをそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御装置であって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知部と、
前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を実行させる制御部と、を備え、
前記制御部は、前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合には、前記異常が検知されたタイミングに同期させて、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで前記ブレーキ制御を開始させ、前記ロボットの動作停止要求を受けた場合には、予め決められたプログラムに従って前記複数の関節部の各々の前記モータの動作を所定時間継続させた後に、前記複数の関節部の各々に同じタイミングにて前記ブレーキ制御を開始させるロボットの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のロボットの制御装置であって、
前記ブレーキ制御は、前記モータのコイル端子間を短絡することで当該モータに対して制動力を発生させるダイナミックブレーキによって当該モータを停止させる制御であり、かつ、前記モータの前記コイル端子間を短絡させる制動期間と当該コイル端子間を短絡させない非制動期間とを交互に切替える制御を行って当該モータの制動力を変更可能な制御であり、
前記制動期間と前記非制動期間を合わせた期間における前記制動期間の割合であるデューティー比を、前記複数の関節部の各々のモータにて同じ値に制御するロボットの制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のロボットの制御装置であって、
前記動作停止要求を受けて行われる前記ブレーキ制御における前記デューティー比と、前記異常が検知された場合に行われる前記ブレーキ制御における前記デューティー比は同じ値に制御されるロボットの制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載のロボットの制御装置であって、
前記ブレーキ制御時における前記デューティー比を、0%よりも大きい値から100%まで直線的に上昇させて100%に保持するロボットの制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のロボットの制御装置と、
前記複数の関節部と、
前記アーム部と、
前記ハンド部と、を備えるロボット。
【請求項6】
第一方向に延びる回転軸の回りに回転するモータをそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御方法であって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知ステップと、
前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を実行させる制御ステップと、を備え、
前記制御ステップは、前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合には、前記異常が検知されたタイミングに同期させて、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで前記ブレーキ制御を開始させ、前記ロボットの動作停止要求を受けた場合には、予め決められたプログラムに従って前記複数の関節部の各々の前記モータの動作を所定時間継続させた後に、前記複数の関節部の各々に同じタイミングにて前記ブレーキ制御を開始させるロボットの制御方法。
【請求項7】
第一方向に延びる回転軸の回りに回転するモータをそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御プログラムであって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知ステップと、
前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を実行させる制御ステップと、をコンピュータに実行させるためのロボットの制御プログラムであり、
前記制御ステップは、前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合には、前記異常が検知されたタイミングに同期させて、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで前記ブレーキ制御を開始させ、前記ロボットの動作停止要求を受けた場合には、予め決められたプログラムに従って前記複数の関節部の各々の前記モータの動作を所定時間継続させた後に、前記複数の関節部の各々に同じタイミングにて前記ブレーキ制御を開始させるロボットの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の関節部の各々のモータに対しその回転を停止させるブレーキ制御を行う制御部を有するロボットの制御装置、そのロボットの制御方法、そのロボットの制御プログラム、及びその制御装置を備えるロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業用ロボット(以下「ロボット」ともいう。)として、液晶ディスプレイ用のガラス基板などを搬送するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のロボットは、モータの回転軸が上下方向に延びており、その各々のモータが回転駆動されることで、ハンド部をその回転軸に垂直な平面に沿った方向に移動させる、いわゆる水平多関節ロボット(スカラ型ロボット)として構成されている。
【0003】
また、上記特許文献1のロボットも含め一般的なロボットにおいては、関節部のモータを駆動制御するための制御装置がさらに設けられる。従来の制御装置として、関節部に異常が検知された場合に、その関節部のモータに対しその回転を停止させるブレーキ制御を行う機能を備えるものが知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。特許文献2のロボットの制御装置では、ダイナミックブレーキと機械ブレーキとを併用して速やかにモータを停止させている。特許文献3のロボットの制御装置では、モータの速度指令を「0」として速度制御のみを実行し、モータに最大トルクを発生させて停止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-15839号公報
【文献】特開2012-55981号公報
【文献】特開平10-277887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような水平多関節ロボットでは、異常検知時、軌跡制御を行いながら停止する。しかしながら、上記特許文献2、3のようなブレーキ制御を用い、駆動制御されている回転軸のみを停止させた場合には、複数の関節の各々の回転軸はばらばらに(互いに協調せずに)停止することになる。そのため、ロボットのハンド部は適切な軌跡を維持できず、その停止に起因してロボットが不測の挙動を取った場合、その他の周囲装置に衝突する可能性がある。つまり、上記特許文献1のロボットでは、複数の関節部のいずれかで異常が検知された場合のブレーキ制御について、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部に異常が検知された場合でも、ロボットと周囲装置との不測の衝突を回避することができるロボットの制御装置、ロボットの制御方法、ロボットの制御プログラム、及びロボットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)
第一方向(例えば後述の実施形態の上下方向)に延びる回転軸の回りに回転するモータ(例えば後述の実施形態のモータ30)をそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御装置であって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知部と、
前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合には、前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで実行させる制御部(例えば後述の実施形態の中央制御部71)と、を備えるロボットの制御装置。
【0008】
(1)のロボットでは、ハンド部を移動させるための全ての関節部の回転軸が同時に停止されるため、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部に異常が検知された場合でも、ロボットと周囲装置との不測の衝突を回避することができる。
【0009】
(2)
(1)記載のロボットの制御装置であって、
前記ブレーキ制御時において前記複数の関節部の各々の前記モータに与える制動力は同じに制御されるロボットの制御装置。
【0010】
(2)のように構成すると、同じ制御量で関節部の回転軸を停止させるので、ハンド部の軌跡をより安定化させることができる。
【0011】
(3)
(1)又は(2)記載のロボットの制御装置であって、
前記制御部は、前記ブレーキ制御を実行させるタイミングを、前記異常が検知されたタイミングに同期させるロボットの制御装置。
【0012】
(3)のように構成すると、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら迅速に停止して進行中の軌跡を最低限で終了させ、これにより、ロボットの安全性をより高めることができる。
【0013】
(4)
(1)から(3)のいずれか1つに記載のロボットの制御装置であって、
前記ブレーキ制御は、前記モータのコイル端子間を短絡することで当該モータに対して制動力を発生させるダイナミックブレーキによって当該モータを停止させる制御であり、かつ、前記モータの前記コイル端子間を短絡させる制動期間と当該コイル端子間を短絡させない非制動期間とを交互に切替える制御を行って当該モータの制動力を変更可能な制御であり、
前記制動期間と前記非制動期間を合わせた期間における前記制動期間の割合であるデューティー比を、前記複数の関節部の各々のモータにて同じ値に制御するロボットの制御装置。
【0014】
(4)のように構成すると、デューティー比が複数の関節部の各々のモータにて同じ値に制御されるので、ハンド部の軌跡をより安定化させることができる。
【0015】
(5)
(4)記載のロボットの制御装置であって、
前記制御部は、前記ロボットの動作停止要求を受けた場合には、予め決められたプログラムに従って前記複数の関節部の各々の前記モータの動作を所定時間継続させた後に、前記複数の関節部の各々に同じタイミングにて前記ブレーキ制御を開始させ、
前記動作停止要求を受けて行われる前記ブレーキ制御における前記デューティー比と、前記異常が検知された場合に行われる前記ブレーキ制御における前記デューティー比は同じ値に制御されるロボットの制御装置。
【0016】
(5)のように構成すると、動作停止要求を受けて行われるブレーキ制御による停止、及び異常が検知された場合に行われるブレーキ制御の両方で、最低時間で迅速且つ安定的にロボットを停止させることができる。どちらの場合でもデューティー比を同じに制御するので、制御のためのプログラムを簡素化できる。
【0017】
(6)
(4)又は(5)記載のロボットの制御装置であって、
前記ブレーキ制御時における前記デューティー比を、0%よりも大きい値から100%まで直線的に上昇させて100%に保持するロボットの制御装置。
【0018】
(6)のように構成すると、デューティー比を直線的に上昇させるため、制御量の変化を一定にしながらロボットを迅速且つ安全に停止することができる。
【0019】
(7)
(1)から(6)のいずれか1つに記載のロボットの制御装置と、
前記複数の関節部と、
前記アーム部と、
前記ハンド部と、を備えるロボット。
【0020】
(7)のように構成すると、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部に異常が検知された場合でも、ロボットと周囲装置との不測の衝突を回避するロボットを提供することができる。
【0021】
(8)
第一方向に延びる回転軸の回りに回転するモータをそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御方法であって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知ステップと、
前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合に、前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで実行させる制御ステップと、を備えるロボットの制御方法。
【0022】
(8)のように構成すると、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部に異常が検知された場合でも、ロボットと周囲装置との不測の衝突を回避することができる。
【0023】
(9)
第一方向に延びる回転軸の回りに回転するモータをそれぞれ含む複数の関節部と、アーム部と、ハンド部と、を有し、前記複数の関節部の各々に含まれる前記モータの回転によって、前記回転軸に垂直な面に沿った方向に前記ハンド部を移動させるロボットの制御プログラムであって、
前記関節部において生じた異常を検知する異常検知ステップと、
前記複数の関節部のうちのいずれか1つにおける前記異常が検知された場合に、前記モータに制動力を与えて当該モータの回転を停止させるブレーキ制御を、前記複数の関節部の各々にて同じタイミングで実行させる制御ステップと、をコンピュータに実行させるためのロボットの制御プログラム。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ハンド部の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部に異常が検知された場合でも、ロボットと周囲装置との不測の衝突を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る産業用ロボットの平面図である。
図2図1に示す産業用ロボットの側面図である。
図3図2のE部の概略構成を説明する断面図である。
図4図2のF部の概略構成を説明する断面図である。
図5図1の産業用ロボットを駆動制御する制御装置のブロック図である。
図6図5の駆動回路の概略構成を説明するブロック図である。
図7図5の制御装置が行うブレーキ制御の第1モードを説明するタイミングチャートである。
図8図5の制御装置が行うブレーキ制御の第2モードを説明するタイミングチャートである。
図9図5の制御装置が行うブレーキ制御でのデューティー比の時間変化を説明するグラフである。
図10】本発明の実施の形態に係る産業用ロボットの変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態を説明する。
【0027】
(産業用ロボットの概略構成)
まず図1図4を参照して、本発明の実施の形態に係る産業用ロボット1の構成についてその概略を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る産業用ロボット1の平面図である。図2は、図1に示す産業用ロボット1の側面図である。図3は、図2のE部の概略構成を説明する断面図である。図4は、図2のF部の概略構成を説明する断面図である。
【0028】
図1及び図2に示すように、本形態の産業用ロボット1(以下「ロボット1」ともいう。)は、搬送対象物である液晶ディスプレイ用のガラス基板2(以下「基板2」ともいう。)を搬送するための水平多関節ロボットであり、組立ラインや製造ラインに配置されて使用される。本形態のロボット1は、大型の基板2の搬送に最適である。
【0029】
また、本形態のロボット1は、基板2が搭載される2個の第1ハンド部3及び第2ハンド部4(図2参照)と、第1ハンド部3及び第2ハンド部4のそれぞれが先端側に回動可能に連結される2個の第2アーム部5及び第3アーム部6と、第2アーム部5及び第3アーム部6の基端側それぞれが第2関節部5a又は第3関節部6aを介して回動可能に連結される共通アーム部としての第1アーム部7と、第1アーム部7が第1関節部7a(図2参照)を介して回動可能に連結される本体部10と、を備える。
【0030】
図2に示すように、第1ハンド部3は、第2アーム部5の先端側に回動可能に連結されている。第2ハンド部4は、第3アーム部6の先端側に回動可能に連結されている。第1ハンド部3は、第2ハンド部4よりも下側に配置される。第2アーム部5は、第1ハンド部3よりも下側に配置される。第3アーム部6は、第2ハンド部4よりも上側に配置される。第1アーム部7は、第2アーム部5よりも下側に配置される。すなわち、第2アーム部5及び第3アーム部6は、第1アーム部7よりも上側に配置される。また、第1アーム部7は、本体部10よりも上側に配置される。
【0031】
本体部10は、上下方向を回動の軸方向として第1アーム部7を回動させるための回動軸(不図示)と、この回動軸を回動させる第1回動機構(不図示)と、この第1回動機構と一緒に第1アーム部7を昇降させる昇降機構(不図示)と、第1回動機構や昇降機構が収容されるケース体11と、を備える。第1回動機構は、後述する第2回動機構18及び第3回動機構19と同様に構成されており、モータ30と減速機31などが搭載される。
なお、本形態のロボット1で用いられるモータ30は、三相コイルを有する三相モータである。下述する第2関節部5aと第3関節部6aのモータ30も同様である。
【0032】
このケース体11は、有底円筒状に形成されるケース本体12と、ケース本体12の上端の開口を覆う蓋体13と、を有して構成される。蓋体13の中心には、第1アーム部7を回動させるための不図示の回動軸が配置される貫通孔(不図示)が形成される。また、蓋体13には、ケース本体12の径方向の外側に向けて延出する鍔部13aが設けられる。
【0033】
第2ハンド部4は、基板2が搭載される複数のフォーク部8(図1参照)をそれぞれ有する。第2アーム部5及び第3アーム部6は、上面視で細長い長円形状に形成されるとともに上下方向の厚さが薄いブロック状に形成される。第2アーム部5の長さと第3アーム部6の長さとは等しく設けられる。また、第2アーム部5及び第3アーム部6は、中空状に形成される。本明細書における“上面視”は、上下方向から見た状態をいう。
【0034】
第1アーム部7は、上面視で略V形状に形成される。上面視で略V形状の第1アーム部7の中心部分は、本体部10に回動可能に連結される。また、上面視で略V形状の第1アーム部7の一方の先端側に第2アーム部5の基端側が第2関節部5aを介して回動可能に連結され、第1アーム部7の他方の先端側に第3アーム部6の基端側が第3関節部6aを介して回動可能に連結される。
【0035】
第2アーム部5と第1アーム部7との連結部は、第2関節部5aとなっている。第3アーム部6と第1アーム部7との連結部は第3関節部6aとなっている。また、ロボット1は、上述の第1回動機構の他、図3及び図4に示す第2回動機構18及び第3回動機構19を有する。第2回動機構18は、第2アーム部5に対して第1ハンド部3を回動させるとともに第1アーム部7に対して第2アーム部5を回動させる(図3参照)。第3回動機構19は、第3アーム部6に対して第2ハンド部4を回動させるとともに第1アーム部7に対して第3アーム部6を回動させる(図4参照)。
【0036】
第1アーム部7は、本体部10に連結される基端部22と、第2アーム部5及び第3アーム部6の基端側のそれぞれが連結される2個の先端部23,24と、2個の先端部23,24のそれぞれと基端部22とを繋ぐ2個の連結部25,26と、を備える。
【0037】
本形態では、基端部22と2個の先端部23,24と2個の連結部25,26とによって第1アーム部7が構成される。先端部23には第2アーム部5の基端側が連結され、先端部24には第3アーム部6の基端側が連結される。連結部25は基端部22と先端部23とを繋ぎ、連結部26は基端部22と先端部24とを繋ぐ。
【0038】
基端部22と2個の先端部23,24と2個の連結部25,26とは別体で形成されており、基端部22と2個の先端部23,24と2個の連結部25,26とが一体に固定されることで第1アーム部7が構成される。基端部22と先端部23,24と連結部25,26とは、アルミニウム合金又はステンレス鋼からなる。また、基端部22と先端部23,24と連結部25,26とは中空状に形成されており、第1アーム部7は全体として中空状に形成される。
【0039】
基端部22は、上面視で略五角形状のブロック状に形成される。基端部22の下面の中心には、本体部10の回動軸の上端が固定される。先端部23,24は、上面視で略長方形状のブロック状に形成される。連結部25,26は、細長の筒状のパイプである。連結部25,26の長さは、例えば4[m]に設けられる。
【0040】
連結部25の一端は基端部22にボルト固定され、連結部25の他端は先端部23にボルト固定される。同様に、連結部26の一端は基端部22にボルト固定され、連結部26の他端は先端部24にボルト固定される。
【0041】
図3に示すように、第2関節部5aに内蔵される第2回動機構18は、モータ30と、モータ30に連結される減速機31と、を備える。モータ30は、第2アーム部5に対して第1ハンド部3を回動させるとともに第1アーム部7に対して第2アーム部5を回動させるためのものである。減速機31は、減速機31の出力軸となる回動軸32と、回動軸32を回動可能に支持する軸受33と、回動軸32の外周側に配置される磁性流体シール34と、減速機31の入力軸35と、を有する。
【0042】
また、第2回動機構18は、減速機31の入力軸35に固定されるプーリ36と、第2アーム部5の基端側の内部に配置されるプーリ37と、第2アーム部5の先端側の内部に配置されるプーリ38と、をさらに有する。本形態では、第1ハンド部3が一定方向を向いた状態で直線的に移動可能なように、プーリ37のピッチ円径とプーリ38のピッチ円径との比が1:2に設定される。
【0043】
モータ30は、先端部23に固定される。また、モータ30は、先端部23の内部に配置されるとともに減速機31よりも連結部25側に配置される。モータ30はその回転軸の軸心が上下方向に起立するように配置される。モータ30の回転軸(出力軸)には、プーリ39が固定される。プーリ36は入力軸35の下端に固定されており、プーリ36とプーリ39とにゴム製のベルト40が掛け渡される。プーリ36,39及びベルト40は、先端部23の内部に配置される。
【0044】
第2アーム部5の基端側の内部には、プーリ37を回動可能に支持する支持軸41が配置される。支持軸41は鍔付きの円筒状に形成されており、その下端には鍔部41aが設けられる。また、支持軸41は第2アーム部5の基端側の下面部の上側に配置されており、その軸心が第2アーム部5の下面部から起立するように配置される。本形態では、回動軸32と支持軸41と第2アーム部5の基端側の下面部とが互いにボルト固定される。
【0045】
プーリ37は、軸受を介して支持軸41に回動可能に支持される。また、プーリ37は、固定部材42を介して先端部23に固定される。すなわち、プーリ37は、固定部材42を介して第1アーム部7の一方の先端側に固定される。固定部材42は、第2アーム部5及び第1アーム部7の外部に配置される。
【0046】
第2アーム部5の先端側の内部には、プーリ38を回動可能に支持する支持軸43が固定される。支持軸43は、その軸心が第2アーム部5の先端側の下面部から起立するように配置される。プーリ38は、軸受を介して支持軸43に回動可能に支持される。また、プーリ38の上端には、第1ハンド部3の基端側が固定される。プーリ37とプーリ38とには、ベルト44が架け渡される。また本形態では、上下方向で重畳して配置される2本のベルト44がプーリ37とプーリ38とに架け渡される。ベルト44は鋼板製のスチールベルトからなる。ベルト44は、プーリ37,38にボルト固定される。
【0047】
そして、図1図2及び図4に示すように、第3関節部6aに内蔵される第3回動機構19も同様に、モータ30と、モータ30に連結される減速機31と、を備える。第3回動機構19のモータ30は、第3アーム部6に対して第2ハンド部4を回動させるとともに第1アーム部7に対して第3アーム部6を回動させるためのものである。
なお、第3回動機構19は、第2回動機構18と同様に構成されており、第3回動機構19の構成部分のうち、第2回動機構18と同一又は同等部分については図面に同一又は同等の符号を付してその説明を省略或いは簡略化し、以下その相違部分を中心に説明する。
【0048】
第3回動機構19の減速機31は、第3関節部6aに配置される。第3アーム部6の基端側の内部には、プーリ37を回動可能に支持する支持軸41が配置される。支持軸41は、第3アーム部6の基端側の下面部の上側に配置されており、その軸心が第3アーム部6の下面部から起立するように配置される。第3回動機構19の減速機31の回動軸32には回動軸59が固定されており、この回動軸59は、第3アーム部6の基端側の下面部にボルト固定されている。本形態では、回動軸59と支持軸41と第3アーム部6の基端側の下面部とが互いにボルト固定される。また、支持軸41は、支持軸41の軸心と回動軸32の軸心と回動軸59の軸心と入力軸35の軸心とが一致するように、回動軸59に固定される。
【0049】
第3アーム部6の基端側の内部に配置されるプーリ37は、固定部材62を介して先端部24に固定される。すなわち、このプーリ37は、固定部材62を介して第1アーム部7の他方の先端側に固定される。固定部材62は、第3アーム部6及び第1アーム部7の外部に配置される。また、固定部材62は、第3関節部6aの外部に配置される。
【0050】
第3アーム部6の先端側の内部には、プーリ58を回動可能に支持する支持軸部6bが設けられる。支持軸部6bは、円筒状に形成されており、第3アーム部6の先端側の下面部から立ち上がっている。プーリ58は、軸受を介して支持軸部6bに回動可能に支持される。また、プーリ58の下端には、第2ハンド部4の基端側が固定される。プーリ37とプーリ58とには、上下方向で重なるように配置される2本のベルト44が架け渡されている。ベルト44は、プーリ37、78にボルト固定される。
【0051】
このように、第1関節部7a、第2関節部5a、第3関節部6a、モータ30を含む第1回動機構、第2回動機構18、第3回動機構19、第1アーム部7、第2アーム部5、第3アーム部6、第1ハンド部3及び第2ハンド部4が構成される。以下では、第1関節部7a、第2関節部5a、及び第3関節部6aをまとめて関節部5a,6a,7a又は単に関節部と記載することもある。また、第1アーム部7、第2アーム部5、第3アーム部6をまとめて、アーム部5,6,7又は単にアーム部と記載することもある。また、第1ハンド部3及び第2ハンド部4をまとめてハンド部3,4又は単にハンド部と記載することもある。
【0052】
以上のように、本形態のロボット1は、上下方向(第一方向)に延びる回転軸の回りに回転するモータ30をそれぞれ含む複数の関節部5a,6a,7aと、アーム部5,6,7と、ハンド部3,4と、を有して構成される。そして、ロボット1は、水平面(モータ30の回転軸に垂直な面)に沿った方向に第1ハンド部3及び第2ハンド部4を移動させることが可能となる。また、第1ハンド部3及び第2ハンド部4を所定の目標値に従って軌跡制御(位置制御)するために、ロボット1は、上述した第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aの各々のモータ30を駆動制御する制御装置70をさらに備える。このロボット1の制御装置70の構成について、以下説明する。
【0053】
(ロボットの制御装置の構成)
次に図5及び図6を参照して、制御装置70の構成について説明する。図5は、図1の産業用ロボット1を駆動制御する制御装置70のブロック図である。図6は、図5の駆動回路74の概略構成を説明するブロック図である。
【0054】
図5に示すように、制御装置70は、中央制御部71(制御部)と、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cと、を有して構成される。中央制御部71は、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの各々と電気的に接続されて、これらと通信可能となっている。中央制御部71は、第1~3モータ制御部72a,72b,72cとの間で種々の信号や情報のやり取りを行い、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cを統合的に管理する。
【0055】
制御装置70を構成する第1~第3モータ制御部72a,72b,72cはそれぞれ同様な機能を有して構成されており、マイコン73(異常検知部)と、駆動回路74と、を有する。第1モータ制御部72aは、本体部10の第1回動機構(第1関節部7a)のモータ30を駆動制御するものであり、例えば第1関節部7aに内蔵される。第2モータ制御部72bは、第2関節部5aのモータ30を駆動制御するものであり、例えば第2関節部5aに内蔵される。第3モータ制御部72cは、第3関節部6aのモータ30を駆動制御するものであり、例えば第3関節部6aに内蔵される。
【0056】
中央制御部71とマイコン73は、それぞれ、ハードウェアとして演算回路(不図示)及びメモリ回路(不図示)などを含むミニコンピュータシステムで構成される。そして、マイコン73は、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの制御指令回路として搭載され、各々のモータ30に対する制御機能を実現する。中央制御部71は、各マイコン73を統括制御してロボット1の動作を制御する。
【0057】
上記の演算回路は、MPU(Micro processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphical Processing Unit)などを含んでよい。メモリ回路は、演算回路のワーキングメモリとしても使用される。メモリ回路は、一次記憶装置{例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)}を含む。メモリ回路は、二次記憶装置{例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)}や三次記憶装置(例えば光ディスク、SDカード)を含んでよい。メモリ回路は、その他の記憶装置を含んでよい。
【0058】
マイコン73のメモリ回路には、モータ30の駆動制御を行う駆動制御プログラムやモータ30の回転を停止させるブレーキ制御プログラムなどの種々のプログラムが記憶保持される。マイコン73の演算回路はそのプログラムを適宜読み出して実行することにより、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cのそれぞれの制御機能が実現される。
【0059】
中央制御部71のメモリ回路には、各マイコン73を統括制御してロボット1を制御するためのロボットの制御プログラムなどの種々のプログラムが記憶保持される。中央制御部71の演算回路はそのプログラムを適宜読み出して実行することにより、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの各々のマイコン73を制御する。
【0060】
エンコーダ76は、各モータ30に取り付けられており、モータ30の回転位置や回転数などを検出する。エンコーダ76の検出信号はマイコン73に入力される。第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの各々のマイコン73は、エンコーダ76の検出結果や、エンコーダ76との通信状態などに基づいて、第1関節部7a、第2関節部5a又は第3関節部6aにおいて生じた異常を検知する。
【0061】
ここでいう異常は、例えば、エンコーダ76との通信が行えずにモータ30の回転位置等が検出不能になっている状態、エンコーダとの通信はできているがエラーが発生している状態、駆動回路74に含まれるトランジスタの制御が不能になっている状態等、ロボット1の制御を継続することが難しくなる状態が発生したことをいう。
【0062】
マイコン73は、自機の管理するモータ30が搭載される関節部の異常を検知した場合には、異常検知信号を中央制御部71に送信する。この異常検知信号を受けた中央制御部71は、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの各々のマイコン73に対して、第1モードでのブレーキ制御を行うよう指示する。中央制御部71は、第1関節部7a、第2関節部5a又は第3関節部6aの異常の有無にかかわらず、動作停止要求を受けた場合には、第1~第3モータ制御部72a,72b,72cの各々のマイコン73に対して、第2モードでのブレーキ制御を行うよう指示する。各モードのブレーキ制御の詳細は後述する。
【0063】
動作停止要求とは、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aのいずれかの異常の発生の有無とは関係なく、ロボット1を管理する作業員が操作インタフェースを操作してロボット1を緊急停止するような場合に発生する。例えばロボット1に設けられた緊急停止ボタンが作業員によって押されると、動作停止要求が中央制御部71に伝達され、中央制御部71から各マイコン73に対して、第2モードのブレーキ制御を開始する指令が伝達される。
【0064】
(モータの駆動回路の構成)
図6に示すように、駆動回路74は、マイコン73の制御指令値に基づきモータ30の三相コイルに供給する三相駆動電流を制御する。駆動回路74は、半導体スイッチング素子としての6個のトランジスタTR1~TR6を有する。これら6個のトランジスタTR1~TR6は、ブリッジ型に配置される。
【0065】
U相,V相,W相の上段側の切換スイッチとして配置されるトランジスタTR1~TR3が電源75(直流電源)のプラス側に接続される。U相,V相,W相の下段側の切換スイッチとして配置されるトランジスタTR4~TR6が電源75のマイナス側に接続される。U相のトランジスタTR1,TR4間、V相のトランジスタTR2,TR5間、W相のトランジスタTR3,TR6間にはそれぞれ各相の出力端子が設定され、各相の出力端子はモータ30の各相コイル30u,30v,30wに接続される。このように構成されことにより、駆動回路74は、マイコン73の制御指令値に基づくトランジスタTR1~TR6のオンオフ動作により互いに位相差を有する三相駆動電流を生成し、モータ30の各相コイル30u,30v,30wに供給する。
【0066】
ここで、マイコン73は、上述したようにその演算回路で駆動制御プログラムを読み出して実行することにより、駆動回路74の各トランジスタTR1~TR6の制御端子(ゲート)に制御信号を出力する。この出力により、マイコン73は、各トランジスタTR1~TR6のオンオフ動作を制御し、モータ30の回転駆動を制御する。
【0067】
本実施形態では、マイコン73は、ダイナミックブレーキによってモータ30を停止させる。ダイナミックブレーキとは、モータ30の各相コイル30u,30v,30wのコイル端子間を短絡することで、当該モータ30に対して制動力を発生させる制御である。また、このダイナミックブレーキを行うにあたり、モータ30のコイル端子間を短絡させる制動期間と当該コイル端子間を短絡させない非制動期間とを交互に切替える制御を行うことで、当該モータ30の制動力を変更可能となっている。
【0068】
(第1モードのブレーキ制御)
マイコン73が行う第1モードのブレーキ制御は、中央制御部71から指令を受けると即座にダイナミックブレーキの制御を開始して、モータ30を停止させる制御である。なお、マイコン73が行う第1モードのブレーキ制御におけるモータ30の制動力とデューティー比は、全てのモータ30にて同じ値に設定される。ここでいうデューティー比は、上記の制動期間と非制動期間を合わせた期間における制動期間の割合とされる。
【0069】
(第2モードのブレーキ制御)
マイコン73が行う第2モードのブレーキ制御は、中央制御部71から指令を受けると、所定時間Tの間はモータ30の駆動を継続して第1ハンド部3及び第2ハンド部4の軌跡制御を行い、所定時間Tの経過後に、ダイナミックブレーキの制御を開始する制御である。第2モードのブレーキ制御における制動力とデューティー比は、全てのモータ30にて同じ値且つ第1モードと同じ値に設定される。
【0070】
(ブレーキ制御時の動作)
次に図7図9を参照して、ブレーキ制御が行われるときの動作について説明する。図7は、図5の制御装置70が行うブレーキ制御の第1モードを説明するタイミングチャートである。図8は、図5の制御装置70が行うブレーキ制御の第2モードを説明するタイミングチャートである。図9は、図5の制御装置70が行うブレーキ制御でのデューティー比の時間変化を説明するグラフである。
なお、図7及び図8中の「0」は異常検知又はロボット1の動作停止要求がない状態を示し、「1」はその検知又はその要求がある状態を示す。
【0071】
上述したように、マイコン73のブレーキ制御では、少なくとも第1モード及び第2モードのブレーキ制御が用意される。マイコン73は、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aのうちのいずれか1つの異常が検知され、中央制御部71から指令を受けた場合には、第1モードのブレーキ制御を実行する。
【0072】
図7に示すように第1モードでは、マイコン73は、いずれかの関節部の異常が検知されたタイミングに同期して、具体的には、その異常が検知された時刻から通信等による遅延時間程度の時間が経過した時刻に、ブレーキ制御を開始する。このときのブレーキ制御では、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aの各々のモータ30に与える制動力が同じにされる。このため、略同時刻に、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aの各々のモータ30は停止する。すなわち、本モードでは、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aのモータ30は、駆動状態から、異常検知とほぼ同時刻にブレーキ制御(ダイナミックブレーキ)が実行されて、略同時に停止状態となる。
【0073】
図8に示すように第2モードでは、マイコン73は、ロボット1の動作停止要求が発生して中央制御部71から指令を受けると、予め決められたプログラムに従って第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aの各々のモータ30の動作を所定時間T継続させた後にブレーキ制御を行う。
【0074】
このとき、上述したように、第2モード(動作停止要求を受けて行われる場合)のブレーキ制御におけるデューティー比と、第1モード(異常が検知された場合)のブレーキ制御におけるデューティー比は同じ値に制御される。本モードでは、第1関節部7a、第2関節部5a及び第3関節部6aのモータ30は、駆動状態から、ロボット1の動作停止要求を受けた時点から所定時間T経過後にブレーキ制御(ダイナミックブレーキ)が実行されて停止状態となる。
【0075】
ここで、このように第1モード及び第2モードでブレーキ制御される場合、図9に示すように、マイコン73は、そのデューティー比の経時的変化を、ブレーキ制御開始時点で0%よりも大きい20%とし、最終的にはデューティー比を100%まで直線的に上昇(線形上昇)させる。その後、マイコン73は、デューティー比を100%の一定値に保持する。本形態では、例えば、デューティー比の100%までの立ち上がり時間を0.2[s]となるように設定される。
なお、本形態では、デューティー比の100%までの立ち上がりを、一次関数で規定しているが、これに限定されない。例えば、二次関数などの多次元の関数や、対数関数などの種々の関数で規定してもよい。また、デューティー比を可変としているが、ブレーキ制御開始と同時にデューティー比を所定値(例えば100%)まで上昇させてそのまま固定としてもよい。
【0076】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、ロボット1の制御装置70は、中央制御部71が、関節部5a,6a,7aのいずれか1つにおいて生じた異常を検知すると、モータ30を停止させるブレーキ制御を、関節部5a,6a,7aの各々にて同じタイミングにて実行させる。
【0077】
この構成によれば、第1ハンド部3及び第2ハンド部4を移動させるための全ての関節部5a,6a,7aの回転軸が同時に停止されるため、第1ハンド部3及び第2ハンド部4の軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、いずれかの関節部5a,6a,7aに異常が検知された場合でも、ロボット1と周囲装置との不測の衝突を回避することができる。
【0078】
また、本形態では、各マイコン73は、ブレーキ制御時において複数の関節部5a,6a,7aの各々のモータ30に与える制動力を同じに制御する。このため、同じ制御量で関節部5a,6a,7aの回転軸を停止させるため、第1ハンド部3及び第2ハンド部4の軌跡をより安定化させることができる。
【0079】
また、本形態では、関節部の異常が検知されたタイミングに同期して、関節部5a,6a,7aの各々にてブレーキ制御が開始される。このため、第1ハンド部3及び第2ハンド部4の軌跡を適切に維持しながら迅速に停止して進行中の軌跡を最低限で終了させ、これにより、ロボット1の安全性をより高めることができる。
【0080】
また、本形態では、ブレーキ制御は、モータ30のコイル端子間を短絡することで当該モータ30に対して制動力を発生させるダイナミックブレーキによって当該モータ30を停止させる制御である。そして、マイコン73は、モータ30のコイル端子間を短絡させる制動期間と当該コイル端子間を短絡させない非制動期間とを交互に切替える制御を行って当該モータ30の制動力を制御し、制動期間と非制動期間を合わせた期間における非制動期間の割合であるデューティー比を、複数の関節部5a,6a,7aの各々のモータ30にて同じ値に制御する。このように、ブレーキ制御時のデューティー比は、複数の関節部5a,6a,7aの各々のモータ30にて同じ値に制御されるので、第1ハンド部3及び第2ハンド部4の軌跡をより安定化させることができる。
【0081】
また、本形態では、中央制御部71(制御部)は、ロボット1の動作停止要求を受けた場合には、予め決められたプログラムに従って複数の関節部5a,6a,7aの各々のモータ30の動作を所定時間T継続させた後に、関節部5a,6a,7aの各々のマイコン73にブレーキ制御を開始させる。また、動作停止要求を受けて行われるブレーキ制御におけるデューティー比と、異常が検知された場合に行われるブレーキ制御におけるデューティー比は同じ値に制御される。このため、動作停止要求を受けて行われるブレーキ制御による停止、及び異常が検知された場合に行われるブレーキ制御の両方で、最低時間で迅速且つ安定的にロボット1を停止させることができる。
【0082】
また、本形態では、各マイコン73は、ブレーキ制御時におけるデューティー比を、0%よりも大きい値から100%まで直線的に上昇させて100%に保持する。このように、各マイコン73は、デューティー比を直線的に上昇させるため、制御量の変化を一定にしながらロボット1を迅速且つ安全に停止することができる。
【0083】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0084】
図10は、本発明の実施の形態に係る産業用ロボット1の変形例の側面図である。(A)は、変形例の産業用ロボット1の平面図である。(B)は、(A)の産業用ロボット1の側面図である。(C)は、変形例の産業用ロボット1のハンド部3Aが最も本体側にある状態を示す側面図である。
【0085】
本変形例のロボット1は、第1関節部7a、第2関節部5a、及び第3関節部6aと、第1関節部7a及び第2関節部5aにそれぞれ連結される第1アーム部7及び第2アーム部5と、第3関節部6aに連結されるハンド部3Aと、を備える。
【0086】
図10のロボット1では、第1関節部7aは本体部10に設けられている。本体部10は、第1アーム部7の基端に、第1関節部7aを介して相対回転可能に連結されている。第1アーム部7の先端は、第2アーム部5の基端に第2関節部5aを介して相対回転可能に連結されている。第2アーム部5の先端は、ハンド部3Aの基端に第3関節部6aを介して相対回転可能に連結されている。図10のロボット1は、シリアルリンク構造を採用して構成される。
【0087】
本変形例のロボット1では、第1関節部7a及び第2関節部5aの各々にモータ30が内蔵されており、これらモータ30は、上記形態と同様な制御装置70によって制御される。一方、第3関節部6aは、モータ30を内蔵していない。本変形例の産業用ロボット1は、図1の産業用ロボット1と同様に、各モータ30の回転軸が上下方向に延び、このモータ30の回転動作によって、この回転軸に垂直な平面に沿う方向にハンド部3Aを平行移動させることができる。したがって、第1関節部7a及び第2関節部5aのいずれかに異常が検知された場合には、第1関節部7a及び第2関節部5aの各々のモータを第1モードのブレーキ制御によって停止させることで、ハンド部3Aの軌跡を適切に維持しながら安全に停止して、ロボット1と周囲装置との不測の衝突を回避することができる。
【0088】
図1及び図10のロボット1において、モータ30を停止させるためのブレーキ制御をダイナミックブレーキによって行うものとしたが、これに限らず、例えば機械式ブレーキによってモータ30を停止させたり、機械式ブレーキとダイナミックブレーキを併用してモータ30を停止させたりしてもよい。
【0089】
また、以上の説明では、図5に示すように、中央制御部71が各関節部での異常の発生や動作停止要求の発生をモニタし、これらが発生した場合には、各関節部のマイコン73にブレーキ制御を開始させるよう指令する構成としている。この変形例として、第1モータ制御部72a、第2モータ制御部72b、及び第3モータ制御部72cが相互に通信可能な構成とし、第1モータ制御部72a、第2モータ制御部72b、及び第3モータ制御部72cのいずれかのマイコン73に、中央制御部71と同等の機能を持たせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 ロボット
3 第1ハンド部
4 第2ハンド部
5 第2アーム部
5a 第2関節部
6 第3アーム部
6a 第3関節部
7 第1アーム部
7a 第1関節部
30 モータ
30u、30v、30w 相コイル
70 制御装置
71 中央制御部
72a 第1モータ制御部
72b 第2モータ制御部
72c 第3モータ制御部
73 マイコン
74 駆動回路
TR1-TR6 トランジスタ
75 電源
76 エンコーダ
T 所定時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10