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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231130BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01N33/543 581U
G01N33/543 581W
G01N33/543 581J
G01N33/545 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019152528
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021032670
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(73)【特許権者】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】小林 本和
(72)【発明者】
【氏名】名取 良
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-007203(JP,A)
【文献】特開2004-305055(JP,A)
【文献】特開昭63-006463(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138608(WO,A1)
【文献】特開2005-241325(JP,A)
【文献】特開2010-260877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマーに由来するユニットと、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有する共重合体を含む粒子をコアとし、該コアの表面は、1つ以上のカルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体で被覆されており、
前記コアと、前記シランカップリング剤の重合体との間の結合は、前記グリシジル基含有モノマーが有するグリシジル基に由来する構造を含み、
前記共重合体における、前記スチレン系モノマーに由来するユニットと前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットとの組成比率(mоl分率)(前記スチレン系モノマーに由来するユニット/前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニット)が、0.1以上10以下である、ことを特徴とする、粒子。
【請求項2】
前記共重合体における、前記スチレン系モノマーに由来するユニットと前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットとの前記組成比率(mоl分率)(前記スチレン系モノマーに由来するユニット/前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニット)が、0.5以上2以下である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の重合体が、式(1)で示される構造単位を有する、請求項に記載の粒子。
【化1】
(式(1)においてXはそれぞれ独立に、Oを介して隣り合う式(1)で示される構造単位が有するSiとの結合手、前記コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基との結合手、または、OHを表し、式(1)で示される構造単位の少なくとも一つは、前記コアとの結合を有する。
Rはそれぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する、-NH-CO-、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-を含んでも良い炭素数1以上30以下の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【請求項4】
個数平均粒径が0.05μm以上0.5μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項5】
ビニル系モノマーに由来するユニットを有する重合体、または、ビニル系モノマーに由来するユニットと、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有する共重合体を含む粒子をコアとし、該コアの表面は、1つ以上のカルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体で被覆されており、
前記シランカップリング剤は、X-12-1135である、ことを特徴とする、粒子。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の粒子にリガンドが固定しているリガンド感作粒子。
【請求項7】
前記リガンドは、前記粒子が有するカルボキシ基に固定している請求項に記載のリガンド感作粒子。
【請求項8】
リガンド固定化量が、粒子1mgに対して、1μg以上500μg以下である請求項またはに記載のリガンド感作粒子。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の粒子あるいは請求項のいずれか1項に記載のリガンド感作粒子が水溶液に分散している粒子分散液。
【請求項10】
界面活性剤を含む請求項に記載の粒子分散液。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の粒子、請求項のいずれか1項に記載のリガンド感作粒子、あるいは請求項または10に記載の粒子分散液を用いた凝集法による検体中の標的物質の検出方法。
【請求項12】
粒子の製造方法であって、
ニル系モノマー、グリシジル基含有モノマー、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の共重合体をコアとして形成させ、前コアの水分散液を得る工程1と、
該水分散液に、製造後の粒子が有する下記式(1)で示される構造の由来となるシランカップリング剤を混合して前記コア前記シランカップリング剤の重合体で被覆する工程2と
【化2】
(式(1)においてXはそれぞれ独立に、Oを介して隣り合う式(1)で示される構造単位が有するSiとの結合手、前記コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基との結合手、または、OHを表し、式(1)で示される構造単位の少なくとも一つは、前記コアとの結合を有する。
Rはそれぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する、-NH-CO-、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-を含んでも良い炭素数1以上30以下の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
前記工程1の後、かつ、前記工程2の前に前記水分散液中の前記グリシジル基含有モノマーに由来するエポキシ基と、アンモニアまたは、1級または2級アミンを有するジアミンのアミンとを反応させる工程3と、
を含む、ことを特徴とする粒子の製造方法。
【請求項13】
前記グリシジル基含有モノマーがアクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸グリシジルから選択される少なくとも一種である請求項12に記載の粒子の製造方法。
【請求項14】
粒子の製造方法であって、
ビニル系モノマー、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の重合体をコアとして形成、あるいは、ビニル系モノマー、グリシジル基含有モノマー、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の共重合体をコアとして形成させ、前記コアの水分散液を得る工程1と、
該水分散液に、製造後の粒子が有する下記式(1)で示される構造の由来となるシランカップリング剤を混合して前記コアを前記シランカップリング剤の重合体で被覆する工程2と、
を含み、
【化4】
(式(1)においてXはそれぞれ独立に、Oを介して隣り合う式(1)で示される構造単位が有するSiとの結合手、前記コアに由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基との結合手、または、OHを表し、式(1)で示される構造単位の少なくとも一つは、前記コアとの結合を有する。
Rはそれぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する、-NH-CO-、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-を含んでも良い炭素数1以上30以下の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
前記シランカップリング剤は、X-12-1135である、ことを特徴とする粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集法のための検体検査用粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査領域における生体試料(以下、「検体」という。)中の測定対象物質の測定方法として、凝集法のなかでも、ラテックス免疫凝集法が用いられている。この方法では、リガンドとして抗体あるいは抗原を化学固定してなる粒子(以後、「リガンド感作粒子」、「抗体感作粒子」、あるいは「抗原感作粒子」という。)の分散液と、測定対象物質(抗原あるいは抗体)を含有する可能性のある検体とを混合する。その際、検体中に測定対象物質(抗体あるいは抗原)が含有されていれば、感作粒子が凝集反応を生じるため、この凝集反応を、散乱光強度、透過光強度、吸光度等の変化量として光学的に検出することで測定対象物質の有無を特定、あるいは定量することができる。
【0003】
ラテックス免疫凝集法に用いられる粒子について、検出感度向上と非特異反応抑制が課題となっている。検出感度の向上には、粒子のリガンド感作量を増やすことが提案されている(リガンド感作とは、粒子へのリガンドの固定化を意味する。よってリガンド感作粒子はリガンドを固定化した粒子を意味する)。例えば、特許文献1には、粒子の比表面積を増加させることで、抗体感作量を増やしている。抗体感作量が増えることで、検出できる抗原量が増加する。非特異反応の抑制には、検体中の夾雑物質の粒子への吸着を回避するために、アルブミンや親水性ポリマーで抗体感作粒子をポストコートする方法が、特許文献2に開示されている。特許文献1の抗体感作量を増大させた粒子についてもアルブミンでポストコートして、非特異反応を抑制している。
【0004】
ところで、近年、標的物質に対して親和性を有するリガンドと粒子が化学固定してなるアフィニティー粒子を使用して、標的物質を精製したり、定量したりする研究が広く行われている。粒子表面にリガンドを化学固定する場合、カルボキシ基、アミノ基、チオール基等の別の反応性官能基を導入する工程を経た後、この反応性官能基とリガンドを化学反応させる方法が一般的である。中でもカルボキシ基に変換した粒子は、粒子表面にリガンドを化学固定する上で最も汎用性があり、好ましい形態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-266970号公報
【文献】国際公開第2017/138608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載された粒子では、検出感度向上と非特異反応抑制を両立させることは困難であった。すなわち、粒子に対するリガンド感作量を増やすことで感度向上は達成できるが、非特異反応を抑制するために、ポストコートが必要である。ポストコートの領域を確保するために、粒子に対するリガンド感作量は制限を受ける。また、ポストコートは粒子表面の親水化には有効であるが、ポストコートは物理吸着に基づく一時的な表面修飾であるため、ポストコートが不要な非特異反応を抑制された粒子が望まれる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、凝集法に用いられる粒子として、検出感度向上と非特異反応抑制とを両立させた粒子を提供することである。具体的には、非特異吸着性が小さく、リガンドを固定化するためのカルボキシ基を有する粒子であり、リガンドの感作効率が高い粒子およびその製造方法を提供することである。また、本発明では、リガンドとして抗原または抗体が化学固定してなる凝集法用の感作粒子、上記の粒子または感作粒子が水溶液に分散している粒子分散液を提供することを目的とする。さらに、本発明では、上記の粒子、上記の感作粒子または上記粒子分散液を用いた凝集法による検体中の標的物質の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る粒子は、ビニル系モノマーに由来するユニットを有する重合体、または、ビニル系モノマーに由来するユニットと、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有する共重合体を含む粒子をコアとし、該コアの表面は、1つ以上のカルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体で被覆されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るリガンド感作粒子は、上記の粒子が有するカルボキシ基にリガンドが固定していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る粒子分散液は、上記の粒子あるいは上記のリガンド感作粒子が水溶液に分散していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る検体中の標的物質の検出方法は、上記の粒子、上記の感作粒子または上記粒子分散液を用いた凝集法によることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る粒子の製造方法は、ビニル系モノマーと水、ラジカル重合開始剤、あるいは、ビニル系モノマーとグリシジル基含有モノマーと水、ラジカル重合開始剤とを、混合して粒状の重合体、あるいは共重合体を形成させ、前記粒状の重合体、あるいは共重合体の水分散液を得る工程1と、前記水分散液に界面活性剤と、製造後の粒子が有する下記式(1)で示される構造の由来となるシランカップリング剤を混合して共重合体を被覆する工程2と、を含むことを特徴とする。
(式(1)においてXはそれぞれ独立に、Oを介して隣り合う式(1)で示される構造単位が有するSiとの結合手、前記コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基との結合手、または、OHを表し、式(1)で示される構造単位の少なくとも一つは、前記コアとの結合を有する。
Rはそれぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する、-NH-CO-、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-を含んでも良い炭素数1以上30以下の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非特異吸着性が小さく、リガンドを固定化するためのカルボキシ基を有する粒子であり、リガンド感作効率が高い粒子およびその製造方法を提供することができる。また、上記粒子を用いたリガンド感作粒子、粒子分散液および検体中の標的物質の検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
本発明に係る粒子について説明する。
本発明に係る粒子は、ビニル系モノマーに由来するユニットを有する重合体、または、ビニル系モノマーに由来するユニットと、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有する共重合体を主成分とする粒子をコアとし、該コアの表面は、1つ以上のカルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体で被覆されていることを特徴とする粒子である。
【0016】
また、本発明に係る粒子は、前記コアと、前記シランカップリング剤の重合体との間に、前記コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基と、前記シランカップリング剤が有する官能基との結合を有することが好ましい。
【0017】
コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基と、シランカップリング剤が有する官能基との結合は、非共有結合または共有結合であり得る。非共有結合としては、水素結合、イオン結合、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用などを挙げることができる。共有結合としては、水酸基とシラノール基との反応により生じる結合、アミド結合、エポキシ基とカルボキシ基との反応により生じる結合などを挙げることができる。
【0018】
本明細書において「被覆」とは、粒子の非特異吸着を抑制するにあたってコアを部分的に覆っていればよくコアを完全に包んで覆う必要はない。また、重合体で被覆されているとは、どのような結合状態でも構わない。すなわち、必ずしも粒子全体を覆っている必要はなく、部分的でもよく、被覆されている重合体の層は均一でなくともよい。
【0019】
本発明に係る粒子は凝集法用粒子であり、例えば、ラテックス免疫凝集法用粒子として用いることができる。粒子はリガンドを固定することができる。得られたリガンド感作粒子は、標的物質と結合するため、ラテックス免疫凝集法により標的物質を測定することが可能になる。
【0020】
本発明に係る粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原を化学固定できるカルボキシ基を粒子表面に有している。
【0021】
本発明に係る粒子のコアは、ビニル系モノマーに由来するユニットを有する重合体、または、ビニル系モノマーに由来するユニットと、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有する共重合体を含むものである。なお、本明細書において、「ユニット」とは、1つのモノマーに対応する単位構造のことを意味する。
【0022】
ビニル系モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはスチレン系モノマーに由来するユニット、ジエン系モノマーに由来するユニット、(メタ)アクリル系モノマーに由来するユニットを挙げることができる。中でも、ビニル系モノマーに由来するユニットがスチレン系モノマーに由来するユニットであることが好ましい。本明細書において「(メタ)アクリル」とはアクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0023】
スチレン系モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはスチレン類に由来する群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。スチレン類としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、および、p-フェニルスチレン等が挙げられる。
【0024】
ジエン系モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはジエン類に由来する群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。ジエン類としては、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリル系モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくは(メタ)アクリル類に由来する群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。(メタ)アクリル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルモノマーなどを挙げることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、特に限定されないが、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4-メトキシブチルなどが挙げられる。
【0026】
グリシジル基含有モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはメタクリル酸グリシジルおよびアクリル酸グリシジルから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0027】
ビニル系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体について、本発明の目的を達成可能な範囲において、ユニットの組成比率は限定されない。好ましくは「スチレン系モノマーに由来するユニット」/「グリシジル基含有モノマーに由来するユニット」(mоl分率)が、0.1以上10以下、より好ましくは0.2以上5以下、さらに好ましくは、0.5以上2以下である。上記の好ましい範囲は、「スチレン系モノマー」に由来する粒子の強度と、「グリシジル基含有モノマー」に由来する粒子の非特異吸着の抑制能力ならびに粒子が有するカルボキシ基とリガンドとの反応効率との関係で決まる数値である。上記関係を満たす場合、粒子の強度と非特異吸着抑制能力、粒子が有するカルボキシ基とリガンド反応効率のバランスが良い。
【0028】
(シランカップリング剤)
カルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体は、式(1)で示される構造単位を有することが好ましい。
【化1】
(式(1)においてXはそれぞれ独立に、Oを介して隣り合う式(1)で示される構造単位が有するSiとの結合手、前記コアの構造に由来するエポキシ基、アミノ基および水酸基から選択される1つ以上の官能基との結合手、または、OHを表し、式(1)で示される構造単位の少なくとも一つは、前記コアとの結合を有する。
Rはそれぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する、-NH-CO-、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-を含んでも良い炭素数1以上30以下の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【0030】
重合体が上記式(1)で示される構造を有するシランカップリング剤としては、例えばX-12-1135(信越化学工業製)が挙げられる。
【0031】
本発明に係る粒子は、架橋されていてもよい。ジビニルベンゼンなどのモノマーを粒子合成時に用いることで、粒子を架橋することが可能である。粒子の架橋により、粒子の物理的な強度が向上し、粒子の取扱い(製造やリガンド固定化時の遠心分離など)に有利である。ジビニルベンゼンを用いることで、粒子の溶媒耐性も向上する。
【0032】
本発明に係る粒子の、水中における個数平均粒径は0.05μm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。個数平均粒径が0.05μm以上0.5μm以下である場合、遠心分離操作におけるハンドリング性に優れ、且つ、粒子の特徴である比表面積の大きさが際立つ。粒子の個数平均粒径は、動的光散乱法によって評価されたものである。
【0033】
(リガンド)
本発明は、また、本発明に係る粒子にリガンドが固定してなる凝集法用のリガンド感作粒子に関するものである。前記リガンドは、本発明に係る粒子が有するカルボキシ基に固定していることが好ましい。
【0034】
リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示されるが、リガンドはこれらに限定されない。リガンドとしては、例えば、抗原、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、F(ab’)、Fv、scFvなど)、天然由来核酸、人工核酸、アプタマー、ペプチドアプタマー、オリゴペプチド、酵素、補酵素などが挙げられる。本発明における凝集法用のリガンド感作粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性(アフィニティー)を有する凝集法用のリガンド感作粒子を意味する。
【0035】
本発明において、本発明に係る粒子が有するカルボキシ基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。例えば、カルボジイミド媒介性反応やNHSエステル活性化反応は、良く用いられる化学反応である。ただし、本発明における、カルボキシ基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法はこれらに限定されない。
【0036】
本発明に係るリガンド感作粒子において、リガンドが固定していない残存したカルボキシ基(活性エステル化されたもの)に対して、親水性分子を結合させても良い。これは活性エステル不活化、あるいはカルボキシ基のブロッキング処理、あるいはマスキング処理とも言うことができ、カルボキシ基へのタンパクの非特異吸着抑制やリガンド感作粒子の分散安定性向上のために行う。本発明に係るリガンド感作粒子において、カルボキシ基に結合させる親水性分子は、ポリエチレングリコール(PEG)、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)が好ましい。ポリエチレングリコールはタンパク質の吸着を大きく抑制することができるため、特に好ましい。実施例で後述するように、ポリエチレングリコールを用いて活性エステル不活化を行う場合、ポリエチレングリコールの分子量は重要であり、分子量が大きいと抗原抗体反応を阻害する可能性がある。ポリエチレングリコールの最適な分子量は350以上5000以下であり、特に1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエチレングリコールとしては、カルボキシ基や活性エステルへの反応性がある官能基を有するもの、例えば、アミノ基を有するポリエチレングリコールが好ましく、1級アミンを有するポリエチレングリコールが特に好ましい。ポリエチレングリコールは直鎖ポリマーであっても、分岐ポリマーであっても構わない。下記式(3)にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、下記式(4)および(5)にポリエチレングリコールの例を示す。式(4)および(5)中のnはオキシエチレンユニットの数を示す1以上の整数である。
【化3】
【化4】
【化5】
【0037】
リガンド固定化量も重要な因子であり、リガンド固定化量が少ない場合、抗原抗体の反応性が低下するため、好ましくない。反対にリガンド固定化量が多い場合も、リガンド感作粒子の分散性を悪化させる原因となる。粒径に依存するが、平均粒径が200nm程度であれば、リガンド固定化量は、粒子1mgに対して1μg以上500μg以下であることが好ましい。特に、10μg以上200μg以下が好ましい。
【0038】
本発明に係る凝集法用のリガンド感作粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原が用いられ、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されているラテックス免疫凝集測定法に好ましく適用できる。一般的な粒子をラテックス免疫凝集測定法に適用した場合、標的物質である抗原(抗体)や血清中の異物等が粒子表面に非特異吸着し、このことに起因して意図しない粒子凝集が検出されてしまい正確な測定の妨げになることが課題になっている。そのため、非特異吸着に起因するノイズを低減することを目的として、通常、アルブミンなどの生物由来物質をブロッキング剤として粒子にコーティングし、粒子表面への非特的吸着を抑制して用いられている。しかし、このような生物由来物質は、ロットによってその特性が少しずつ異なるため、これらによってコーティングされた粒子は、コーティング処理ごとに非特異吸着の抑制能力が異なる。そのため、非特異吸着を抑制する能力が同水準の粒子を安定的に供給することに課題がある。また、粒子表面にコーティングされた生物由来物質は、変性によって疎水性を呈することがあり、必ずしも非特異吸着を抑制する能力に優れるわけではない。また、生物汚染も課題として挙げられる。特許文献2では、非特異反応を抑制するために、ポストコートされたラテックス免疫凝集法用のリガンド感作粒子を開示している。しかし、ポストコート剤は水溶性で、物理的吸着によって粒子表面をコーティングしていることから、本質的に、希釈によって遊離する懸念がある。本発明に係るリガンド感作粒子は高度に親水性化された粒子であって、上記の非特異吸着の抑制能力を高めた粒子である。アルブミンなどのポストコートを必要とせず、上記課題を解決することができる。
【0039】
(粒子分散液)
本発明に係る凝集法に用いるための粒子分散液は、本発明に係る粒子あるいは本発明に係るリガンド感作粒子が水溶液に分散していることを特徴とする。本発明に係る粒子分散液は、界面活性剤を含むことが好ましい。
【0040】
(試薬)
凝集法に用いるための試薬は、本発明に係る凝集法用のリガンド感作粒子を含有することを特徴とする。試薬中に含有される本発明に係る凝集法用のリガンド感作粒子の量は、0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましい。試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本発明に係る凝集法用のリガンド感作粒子の他に、溶剤やブロッキング剤などの第三物質を含んでも良い。溶剤やブロッキング剤などの第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。用いる溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種緩衝液が例示されるが、試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0041】
凝集法による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットは、試薬を少なくとも備えることを特徴とする。キットとしては、試薬(以下、試薬1)に加えて、アルブミンを含有する反応緩衝液(以下、試薬2)をさらにそなえるものが好ましい。前記アルブミンとしては血清アルブミン等が挙げられ、プロテアーゼ処理されたものでも良い。試薬2に含有されるアルブミンの量は、0.001質量%から5質量%を目安とするが、キットはこれに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、免疫凝集測定用増感剤を含有させても良い。免疫凝集測定用増感剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、キットはこれらに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、界面活性剤を含有させても良い。界面活性剤は粒子やタンパク質を安定化させる効果があるため、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートやポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテルなどが好適に用いられる。また、キットは、試薬1、試薬2に加え、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定しうる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。
【0042】
(検出方法)
本発明に係る凝集法による検体中の標的物質の検出方法は、本発明に係る粒子、本発明に係るリガンド感作粒子あるいは本発明に係る粒子分散液を用いることを特徴とする。標的物質の検出においては、例えば、凝集法用のリガンド感作粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合する。本発明に係るリガンド感作粒子と検体との混合は、pH3.0以上pH11.0以下で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃以上50℃以下であり、混合時間は10秒以上30分以下である。また、本発明に係る検出方法におけるリガンド感作粒子の濃度は、反応系中、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。本発明に係る検出方法は、例えば、リガンド感作粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を光学的に検出し、前記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、さらに標的物質の濃度も測定することができる。前記凝集反応を光学的に検出する方法としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出可能な光学機器を用いて、これらの値の変化量を測定すれば良い。
【0043】
(製造方法)
本発明に係る粒子の好ましい製造方法について説明する。
本発明の一態様は、粒子の製造方法であって、ビニル系モノマー(例えばスチレン)、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の重合体を形成、あるいは、ビニル系モノマー(例えばスチレン)、グリシジル基含有モノマー(例えばメタクリル酸グリシジル)、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の共重合体を形成させ、前記粒状の重合体または前記粒状の共重合体の水分散液を得る工程1と、該水分散液に、界面活性剤と、製造後の粒子が有する上記式(1)で示される構造の由来となるシランカップリング剤とを混合して前記粒状の重合体または前記粒状の共重合体を被覆する工程2と、を含むことを特徴とする。
【0044】
本発明に係る粒子の製造方法は、前記工程1において、ビニル系モノマー、グリシジル基含有モノマー、水およびラジカル重合開始剤を混合して粒状の共重合体を形成させ、前記工程1の後、かつ、前記工程2の前に、前記水分散液中のグリシジル基含有モノマーに由来するエポキシ基と、アンモニアまたは、1級または2級アミンを有するジアミンのアミンとを反応させる工程3を含むことが好ましい。工程3により粒状の共重合体が有するエポキシ基にアミノ基を導入することができる。さらに、前記グリシジル基含有モノマーはアクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸グリシジルから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0045】
粒状の重合体または粒状の共重合体を形成させる方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、ラジカル重合を用いること以外に限定されない。ラジカル重合の中でも、乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合を用いることが好ましく、乳化重合あるいはソープフリー乳化重合を用いることがより好ましい。さらに好ましくはソープフリー乳化重合を用いることである。懸濁重合と比較して乳化重合とソープフリー乳化重合は、粒径分布がシャープな粒状共重合体を得ることができる。また、粒子をリガンドと化学固定させる場合、乳化重合で一般的に用いるようなアニオン性界面活性剤が存在すると、リガンドを変性させてしまうことが懸念される。よって、粒状共重合体を形成させる方法は、ソープフリー乳化重合が最も好ましい。
【0046】
本発明に係る粒子の製造方法の工程1における、粒状の重合体または粒状の共重合体の形成おいて、さらに、架橋性ラジカル重合モノマーを用いることが好ましい。架橋性ラジカル重合モノマーを用いることにより、得られる粒状の重合体または粒状の共重合体が物理的に強固になり、精製時に遠心分離操作を繰り返しても割れ・欠けする懸念がなくなる。
【0047】
以下、用いることのできる架橋性ラジカル重合モノマーの例を列挙するが、本発明はこれらに限定されない。また、2種類以上の架橋性ラジカル重合モノマーを用いても良い。例示した架橋性ラジカル重合モノマーのうち、理由は明らかでないが、ジビニルベンゼンを用いる場合に、ラジカル重合反応時のハンドリング性に優れるため、好ましい。
【0048】
架橋性ラジカル重合性モノマー:ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’-ビス(4-(アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、および、ジビニルエーテル等。
【0049】
本発明に係る粒子の製造方法の工程1における、粒状の重合体または粒状の共重合体を形成させる過程で、次の工程4をさらに含むことが好ましい。すなわち、モノマーであるメタクリル酸グリシジルをさらに混合し、前記粒状の重合体または粒状の共重合体の表面をポリメタクリル酸グリシジルで被覆する工程4。
【0050】
前記ラジカル重合開始剤は、少なくとも4,4‘-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2‘-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]4水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物の何れかであることが好ましい。この理由は、工程1において、グリシジル基含有モノマーを用いる場合、グリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基を開環させないためである。例えば、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを用いる場合、開始剤残基の影響で、ラジカル重合反応場が酸性になり、グリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基が水と反応してグリコールを形成してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、グリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基とアンモニアが反応してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤としてカルボキシ基を有するアニオン性ラジカル重合開始剤を用いた場合、グリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基と重合開始剤由来のカルボキシ基が反応し、粒状共重合体が凝集してしまう。
【0051】
ラジカル重合開始剤は2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]の何れかであることが特に好ましい。
【0052】
工程3は、粒状の共重合体が有するグリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基に、アミノ基を導入する工程である。一般に、エポキシ基は、アンモニアまたは、1級または2級アミンを有するジアミンのアミンと容易に反応し、アミノ基を導入することが可能である。アンモニアとの反応は強塩基条件となるため、エポキシ基と水との化学反応は抑制され、効率よく、エポキシ基にアミノ基を導入することができる。
【0053】
工程3において、親水性鎖を導入する工程5をさらに含んでも良い。この工程5は、例えば、粒状の共重合体が有するグリシジル基含有モノマー由来のエポキシ基に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を導入する工程である。トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)との反応は強塩基条件となるため、エポキシ基と水との化学反応は抑制され、効率よく、エポキシ基にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を導入することができる。エポキシ基へのトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)の導入は、アンモニアとの反応前でも反応後でも良く、あるいはアンモニアと同時に反応させても良い。
【0054】
工程2は、前記粒状の重合体または前記粒状の共重合体を、カルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体で被覆する工程である。
【0055】
また、工程2では界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤を添加することでカルボキシ基を有するシランカップリング剤の重合体によって被覆された粒子の分散性を向上させることができる。界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、高分子界面活性剤またはリン脂質等を使用することができる。これらの界面活性剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル(例、式(6)で示される化合物)、Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)98、Triton(登録商標) X-100、Triton(登録商標) X-114、Triton(登録商標) X-305、Triton(登録商標) N-101、Nonidet(登録商標) P-40、IGEPAL(登録商標) CO530、IGEPAL(登録商標) CO630、IGEPAL(登録商標) CO720並びにIGEPAL(登録商標) CO730等を挙げることができる。
【化6】
(式(6)において、R21~R24はそれぞれ独立に、-H、-OCR’から選択される。R’は炭素数1以上18以下の、飽和または不飽和アルキル基である。また、w1、x1、y1、z1は、w1とx1とy1とz1の総和が10以上30以下となる整数である。)
【0057】
式(6)で示されるポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステルとしては、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)80およびTween(登録商標)85等を挙げることができる。
【0058】
また、上記のアニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0059】
また、上記のカチオン性界面活性剤としては、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムおよび塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0060】
また、上記の高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールおよびゼラチン等を挙げることができる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの市販品としては、プルロニックF68(BASF社製)、プルロニックF127(BASF製)などが挙げられる。
【実施例
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1 SG粒子の合成)
300mLフラスコに以下の材料を秤とった。
・1.2g(1.32mL)のスチレン(キシダ化学製)
・1.8g(1.68mL)のメタクリル酸グリシジル(キシダ化学製)
・0.04g(0.044mL)のジビニルベンゼン(キシダ化学製)
・115g(115mL)のイオン交換水
これらを混合し、混合液を得た。
【0063】
その後、この混合液を200rpmで撹拌しながら70℃に保持し、窒素バブリングを30分行った。次に、窒素バブリングを窒素フローに切り替えた。
【0064】
重合開始剤として、0.06gの2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(商品名:V-50、和光純薬製)を5g(5mL)の純水に溶解させ、V-50溶解液を得た。
【0065】
このV-50溶解液を前記混合液に加えることで、ラジカル重合(ソープフリー乳化重合)を開始した(ラジカル重合溶液とよぶ)。重合開始から2時間後、前記ラジカル重合溶液に0.3g(0.28mL)のメタクリル酸グリシジルを加え、7時間、200rpmで撹拌しながら70℃で保持した後、室温まで徐冷した。この時点で300mlフラスコ内容物をサンプリングし、プロトンNMR、ガスクロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてラジカル重合転化率を評価したところ、実質的に100%であることを確認した。
【0066】
次に、300mLフラスコ内容物(粒状共重合体の分散溶液)を遠心分離(15000rpm)した。固形分をイオン交換水で洗浄した。再び遠心分離を行い、この洗浄を2回行った。得られた粒子を、SG粒子とする。SG粒子の表面は、式(7)で示される部分構造を有するポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(7)に示すように、エポキシ基が存在している。
【化7】
(式(7)中、*はポリメタクリル酸骨格との結合を示す。)
SG粒子は、分散媒体をイオン交換水として保存した。SG粒子の水分散液をSG粒子分散液とする。
【0067】
次に、SG粒子分散液1g(固形分20mg)を1%Tween(登録商標)20を含むイオン交換水50mLに分散させ、室温で15分撹拌した。その後、カルボキシ基を有するシランカップリング剤(商品名:X-12-1135、信越化学工業製)を0.33mL添加して一晩室温で撹拌した。この分散液を遠心分離機にかけ、上澄みは捨てた。続いて、イオン交換水で洗浄操作を繰り返し行うことで、X-12-1135の重合体で被覆されたSG粒子(以下、SGX-1粒子と呼ぶことがある)を回収した。
【0068】
ゼータ電位(ゼータサイザー:マルバーン)の測定より、SG粒子のゼータ電位は42mVであった。一方で、SGX-1粒子のゼータ電位は-58mVであった。カルボキシ基はイオン交換水中で電離して負電荷を帯びており、カルボキシ基を有するシランカップリング剤X-12-1135の重合体で被覆されたことによって粒子のゼータ電位が正から負に変化したと考えられる。エネルギー分散型X線分析(EDX)(商品名:FE-SEM S-4800、日立ハイテクノロジーズ製)による測定より、SGX-1粒子からSiが検出された。このことからもSGX-1粒子は、シランカップリング剤で被覆されていることが確認された。
【0069】
(実施例2 SGN粒子の合成)
実施例1で作製したSG粒子分散液19g(固形分1.98g)を200mLフラスコに移した。塩を含む氷水中、SG粒子分散液に超音波照射しながら28%アンモニア水(55.4g)を滴下ロートで約15分かけて滴下した。その後、SG粒子分散液を、回転子を入れたオートクレーブベセルに移し、密栓した後、70℃のオイルバス中で、24時間撹拌した。これによりSG粒子中のメタクリル酸グリシジルのモル量に対して、50倍モル量のアンモニアを反応させた。続いて、室温まで徐冷して、遠心分離(15000rpm)とイオン交換水による洗浄を3回繰り返した。得られた粒子は、SG粒子の表面にアミノ基を導入した粒子であり、SGN粒子とよぶ。SGN粒子の表面は、式(8)で示される部分構造を有するポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(8)に示すように、アミノ基が存在している。
【化8】
(式(8)中、*はポリメタクリル酸骨格に結合する部分を示す。)
SGN粒子は、分散媒体をイオン交換水として保存した。SGN粒子の水分散液をSGN粒子分散液とする。
【0070】
実施例1に記載した操作と同様の操作により、SGN粒子をX-12-1135の重合体で被覆し、得られたX-12-1135の重合体で被覆されたSGN粒子(以下、SGX-2粒子と呼ぶことがある)を回収した。
【0071】
ゼータ電位の測定より、SGN粒子のゼータ電位は56mVであった。一方で、SGX-2粒子のゼータ電位は-45mVであった。SGX-1粒子と同様に、カルボキシ基を有するシランカップリング剤X-12-1135の重合体で被覆されたことによって粒子のゼータ電位が正から負に変化したと考えられる。EDXによる測定より、SGX-2粒子からSiが検出された。このことからもSGX-2粒子は、シランカップリング剤で被覆されていることが確認された。
【0072】
(比較例1 ポリスチレン粒子)
比較例1として、カルボキシ基を有するポリスチレン粒子(商品名:イムテックス P0113、JSR製、粒径188nm)(以下単にイムテックスとも言う)をイオン交換水で0.1質量%の濃度となるように希釈して得た分散液を用いた。
【0073】
(実施例3 粒子の非特異反応(非特異凝集)の評価)
粒子の非特異反応(非特異凝集)は免疫比濁法により評価した。免疫比濁法は、ヒト血清と粒子とを接触させ、非特異に起こる粒子凝集を、濁度を指標として吸光度計で計測する方法である。非特異凝集が起きれば、吸光度が増加する。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計(商品名:GeneQuant 1300、GEヘルスケア製)を用い、試料をプラスチックセル(最少サンプル量70μL)に注入して光路長10mmにて測定した。以下に、具体的に測定方法を示す。
【0074】
ヒト血清4μLとR1緩衝液(リン酸系緩衝液)60μLをプラスチックセル内で混和し、37℃で5分間加温した。実施例1に係るSGX-1粒子および実施例2に係るSGX-2粒子それぞれをイオン交換水中に分散し、粒子分散溶液(粒子濃度0.1質量%)を調製した。得られたSGX-1粒子分散液、SGX-2粒子分散液および比較例1で調製したイムテックスの分散液(粒子濃度0.1質量%)30μLを、それぞれヒト血清を含むR1緩衝液(64μL)に添加した。続いて、気泡が入らないよう注意しながら素早くピペッティングし、サンプルとした。サンプルについての波長572nmにおける吸光度測定し、Abs1とした。また、サンプルを37℃で5分間加温した後、サンプルについての波長572nmにおける吸光度を測定し、Abs2とした。実施例1、2および比較例1それぞれに係る粒子分散液についてAbs2からAbs1を引いた値を求め、10000倍したものを、ΔOD×10000値とした。ΔOD×10000値が2000以上であれば非特異反応が起きていると判断した。
【0075】
結果を表1に示す。
【表1】
【0076】
本実施例に係るSGX-1粒子およびSGX-2粒子は、ΔOD×10000値が2000以下であり、非特異反応は認められなかった。一方、比較例として用いたイムテックスでは、ΔOD×10000値が10000以上であった。分散液における吸光度の上昇は、分散液中の粒子に非特異吸着が生じた結果、粒子凝集が生じることに起因すると考察できることから、イムテックスは血清により非特異凝集が生じたことがわかった。本実施例に係るSGX-1粒子およびSGX-2粒子は、イムテックスと比較して非特異吸着を抑制する能力に優れることが確認された。
【0077】
(実施例4 抗体感作粒子の調製)
イオン交換水を用いて調製したSGX-1粒子の分散液(濃度1.0質量%)0.1mL(SGX-1粒子1mg)をマイクロチューブ(容量1.5mL)に移し取った。さらに、0.12mLの活性化緩衝液(25mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、pH6.0)をマイクロチューブに添加し、4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離した。遠心分離後、上清をピペッタで廃棄(デカント)した。
【0078】
続いて、活性化緩衝液(25mM MES、pH6.0)0.12mLを添加して、超音波洗浄機(商品名:3周波超音波洗浄器 MODEL VS-100III、アズワン製)を用いて28kHzにて分散させた。次に、4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離した。上清をピペッタで廃棄し、活性化緩衝液(25mM MES、pH6.0)0.12mLを添加し、上記と同様に超音波にて分散させた。その後、4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離した。
【0079】
上清をピペッタで廃棄し、WSC溶液およびSulfo NHS溶液をそれぞれ60μL添加し、超音波にて分散させた。ここで、WSC溶液は、水溶性カルボジイミド(WSC)50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたものである。また、Sulfo NHS溶液は、N-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(Sulfo NHS)50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたものである。
【0080】
その後、室温で30分間撹拌することで、粒子のカルボキシ基を活性エステルに変換させた。4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離し、上清をピペッタで廃棄した。固定化緩衝液(25mM MES、pH5.0)0.2mLを添加し、上記と同様にして超音波にて分散させた。4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離し、上清をピペッタで廃棄した。SGX-1粒子1mgあたり固定化緩衝液50μLを添加して、カルボキシ基が活性化された粒子を上記と同様にして超音波にて分散させた。
【0081】
抗ヒトC-反応性タンパク質(CRP)抗体(ポリクローナル抗体)を100μg/50μLとなるように固定化緩衝液で希釈した(以下、抗体溶液とも言う)。カルボキシ基が活性化されたSGX-1粒子の溶液50μL(SGX-1粒子1mgを含む)に抗体溶液50μLを添加し、上記と同様にして超音波にて粒子を分散させた。仕込みの抗体量は、SGX-1粒子1mgあたり100μgとなる(100μg/mg)。室温で60分間、チューブを撹拌して、抗体を粒子のカルボキシ基に固定させた。次いで、4℃で15000rpm(20400g)、5分間、遠心分離し、上清をピペッタで廃棄した。
【0082】
Trisを含む活性エステル不活化緩衝液(1M Tris、pH8.0に0.1% Tween(登録商標)20を含むもの)0.24mLを添加して、上記と同様にして超音波にて分散させた。室温で1時間撹拌し、残存している活性化エステルにTrisを結合させた後、4℃で一晩、静置した。
【0083】
次に、4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離し、上清をピペッタで廃棄した。洗浄・保存緩衝液(10mM ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、pH7.9)0.2mLを添加して、上記と同様にして超音波にて分散させた。洗浄・保存緩衝液0.2mLによる洗浄操作を2回繰り返した後、洗浄・保存緩衝液1.0mLを添加し、上記と同様にして超音波にて分散させた。
【0084】
感作工程で、粒子のロスがほとんど見られないので、最終的に抗体感作粒子濃度は0.1質量%となった。得られた抗体感作粒子の分散液は冷蔵庫で保存し、使用時には超音波にて再分散させた。得られた抗体感作粒子を抗体感作SGX-1粒子とする。
【0085】
(比較例2 ポリスチレン粒子への抗体感作)
比較例2として、比較例1で用いたイムテックスに抗体を感作した。実施例4で用いたSGX-1粒子をイムテックスに変更した以外は、実施例4と同様の操作によって比較例2に係る抗体感作ポリスチレン粒子を得た。得られた粒子を抗体感作ポリスチレン粒子とする。
【0086】
(実施例5 抗体感作効率の測定)
実施例4に係る抗体感作SGX-1粒子および比較例2に係る抗体感作ポリスチレン粒子それぞれについて、タンパク質定量により、抗体が粒子に感作(固定)していることを確認した。具体的には、抗体感作粒子とBCA試薬を反応させる方法である。
【0087】
まず、抗体感作粒子の分散液(0.1%溶液)を25μL(粒子量25μg)分取した。プロテインアッセイBCAキット(和光純薬製)のA液7mLとB液140μLとを混合して、AB液とした。粒子溶液25μLに対して、AB液200μLを加え、60℃で30分間インキュベートした。溶液を4℃、15000rpm(20400g)で、5分間、遠心分離し、上清200μLをピペッタで回収した。
【0088】
回収した溶液について、標準サンプルとともにマルチモードマイクロプレートリーダー(商品名:SynergyMX、BioTek製)で波長562nmにおける吸光度を測定した。ここで標準サンプルは、抗体を10mM HEPESで0~200μg/mLの範囲の数点の濃度となるように希釈したものを用いた。
【0089】
標準サンプルについての測定結果から得られる標準曲線を用い、回収した溶液中の抗体量を算出した。粒子への抗体感作量(粒子重量あたりの抗体固定量(μg/mg))は、算出した抗体量を粒子重量(ここでは0.025mg)で割ることで求めた。感作効率は、仕込んだ抗体量から求めた。
【0090】
結果を表2に示す。
【表2】
【0091】
本実施例に係る抗体感作粒子である、実施例4に係る抗体感作SGX-1粒子は、比較例2に係る抗体感作ポリスチレン粒子に比べて、感作効率が高いことが分かった。
【0092】
本実施例に係る粒子の高い感作効率について説明する。本実施例に係る粒子は、カルボキシ基が表面近傍に位置しており、また粒子表面はシランカップリング剤で被覆されている。つまり、表面電荷はマイナスで均一であり、非常に親水性が高い。親水性表面は高い非特異吸着抑制能を示す。感作時、抗体はカチオニックな状態であり、マイナス表面である粒子のカルボキシ基の領域と静電的に引き合う。この結果、抗体は粒子表面に濃縮され、粒子表面での抗体とカルボキシ基の反応が大きく促進される。その結果、粒子への抗体感作率が向上すると考えられる。カルボキシ基のNHS活性化エステルは水中で速やかに加水分解するため、抗体の粒子表面への濃縮作用が重要なプロセスである。一方で、市販のポリスチレンでは粒子表面が疎水性であることから、カルボキシ基領域以外の疎水部への抗体の物理吸着が起こる。物理吸着は脱離と吸着を繰り返すことになる結果、市販のポリスチレン粒子では、感作効率は低くなると考えられる。
【0093】
(実施例6 抗体感作粒子のヒトCRP抗原に対する感度評価)
抗体感作粒子の感度はラテックス免疫凝集法により評価した。具体的には、抗原に抗体感作粒子を反応させ、免疫複合体の凝集物を形成させ、その凝集物に光を照射して、散乱による照射光の減衰(吸光度)を吸光度計で計測する方法である。検体に含まれる抗原量に依存して凝集物の割合が増加し、吸光度が増加する。感度の評価では、既定の前立腺特異抗原(PSA)濃度における吸光度の増加量(ΔOD×10000値で記載)が大きいことが望ましい。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計(商品名:GeneQuant 1300、GEヘルスケア製)を用い、試料をプラスチックセルに注入して光路長10mmにて測定した。以下に、具体的に測定方法を示す。
【0094】
CRP溶液(CRP濃度5μg/mL)1μLをサンプルとし、このサンプルとR1緩衝液50μLをプラスチックセル内で混和し、37℃で5分間加温した。抗体感作SGX-1粒子の分散溶液(粒子濃度0.1質量%、10mM HEPES、pH7.9、0.01質量%Tween(登録商標)20)50μLを、CRPを含むR1緩衝液51μLに添加した。その後、気泡が入らないよう注意しながら素早くピペッティングし、サンプルとした。サンプルについて波長572nmにおける吸光度を読み取り、Abs1’とした。また、サンプルを37℃で5分間加温した後、サンプルについて波長572nmにおける吸光度を読み取り、Abs2’とした。Abs2’からAbs1’を引いた値を求め、10000倍したものを、ΔOD×10000値とした。
【0095】
結果を表3に示す。
【表3】
【0096】
本実施例に係る抗体感作SGX-1粒子は、CRPの存在下、ΔOD×10000の増加が認められた。これは、抗原であるCRPに抗体感作粒子が結合し、粒子凝集体を形成した結果であり、ラテックス免疫凝集法に用いるための粒子として機能することがわかった。