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特許7393902固体電解質スラリーとその製造方法及び全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】固体電解質スラリーとその製造方法及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231130BHJP
【FI】
H01M10/0562
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019174114
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021051912
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】林 真大
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188441(JP,A)
【文献】特開2013-037992(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018456(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池用の固体電解質スラリー(1)であって、
分散質として、ガーネット型の固体電解質粒子(2)と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子(3)とが、分散媒(4)となる有機溶剤に分散されていると共に、アクリル樹脂系バインダ成分及び水酸基を有する有機バインダ成分から選ばれるバインダ成分を含んでおり、
上記水酸基を有する有機バインダ成分は、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール及び完全置換されていないエチルセルロースから選ばれる1種以上であり、
上記有機溶剤は、20℃における比誘電率が2.3よりも大きく8.0以下であるエステル系有機溶剤からなり、かつ、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下である、固体電解質スラリー。
【請求項2】
上記有機溶剤は、20℃における比誘電率が2.5以上7.0以下であるエステル系有機溶剤である、請求項1に記載の固体電解質スラリー。
【請求項3】
上記有機溶剤は、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.003質量%以下である、請求項1又は2に記載の固体電解質スラリー。
【請求項4】
水酸基価が250mgKOH/g以下である分散剤を、さらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質スラリー。
【請求項5】
上記固体電解質粒子は、リチウムイオン電導性を有するリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物を含む粒子であり、上記化合物粒子は、Li 3 BO 3 、Li 4 2 5 、LiBO 2 、Li 6 4 9 、Li 2 4 7 、Li 3 7 12 、LiB 3 5 及びLi 2 8 13 から選ばれる1種以上のリチウムホウ素含有酸化物からなる粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解質スラリー。
【請求項6】
全固体電池用の固体電解質スラリー(1)の製造方法であって、
ガーネット型の固体電解質粒子(2)と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子(3)とを分散質とし、水酸基価が250mgKOH/g以下である分散剤を用いて、分散媒(4)となる有機溶剤に混合分散させて、固体電解質分散液を得る第1混合工程と、
上記固体電解質分散液に、水酸基を有する有機バインダ成分と上記有機溶剤とを含むバインダ溶液を添加、混合して、上記固体電解質スラリーを得る第2混合工程と、を備え、
上記水酸基を有する有機バインダ成分は、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール及び完全置換されていないエチルセルロースから選ばれる1種以上であり、
上記有機溶剤は、20℃における比誘電率が2.3よりも大きく8.0以下であるエステル系有機溶剤からなり、かつ、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下である、固体電解質スラリーの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質スラリーを用いて形成された固体電解質層をセパレータ層(12)とし、上記セパレータ層を挟んで、正極活物質を含む上記固体電解質層からなる正極層(11)と、負極活物質を含む負極層(13)とが積層された積層体を備えており、上記固体電解質層は、相対密度が80%以上である、全固体電池(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に用いられる固体電解質スラリーとその製造方法、それを用いた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層とを、イオン伝導性の固体電解質層からなるセパレータ層を挟んで一体化した積層体構造を有する。全固体電池に用いられる固体電解質は、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)を含むリチウムイオン伝導性固体電解質であり、ガーネット型の結晶構造を有する。正極層又は負極層を、固体電解質を含む構成としたものもある。
【0003】
固体電解質層は、固体電解質を含む固体電解質スラリーを、シート状に成形し、焼結させて得られる。固体電解質スラリーには、通常、低温での焼成を可能にするために、焼結助剤が添加される。特許文献1に記載されるように、ガーネット型固体電解質用の焼結助剤としては、B(ホウ素)又はC(炭素)を含むLi化合物が知られており、例えば、異相の生成を抑制してイオン伝導率を高めるために、LiとC及びBを含む特定の化合物(Li2+x1-xx3;0<x<0.8)を用いることが提案されている。
【0004】
特許文献1において、Li2+x1-xx3は、Li2CO3のCをBに置換した固溶体であり、予め炭酸リチウム(Li2CO3)やホウ酸(H3BO3)等の素原料を用いて、所定の組成比となるように合成される。具体的には、素原料の混合粉を、仮焼、解砕したものを、トルエンを溶媒として粉砕し、粒径を調整した微粒子としている。この粉末を、Li-La-Zrガーネットの粉末と混合し、さらに、トルエンを溶媒とするバインダ溶液と混合して、シート成形用の固体電解質スラリーが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-188441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、シート成形用の固体電解質スラリーを調製する際に、水やアルコールよりトルエンを用いると混合後の異相の発生を抑制するために好ましいとされている、ところが、例えば、LiとBを含む化合物を焼結助剤とした場合には、トルエンを用いることで、固体電解質スラリー中にてLiとBを含む化合物が凝集してしまうことが判明した。一方、アルコールを用いた場合には、固体電解質スラリーに混入する水分によって、LiとBを含む化合物の分解反応が生じやすくなることが判明した。これらは、いずれの場合も、焼結体の密度を低下させ、高電気抵抗となる方向に作用するために、高品質のガーネット型固体電解質を得ることは難しかった。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、焼結助剤として添加される化合物の凝集や分解を抑制して、高密度で低電気抵抗な固体電解質層を形成可能な、ガーネット型の固体電解質を含む固体電解質スラリーとその製造方法、さらにそれを用いた全固体電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、全固体電池用の固体電解質スラリー(1)であって、
分散質として、ガーネット型の固体電解質粒子(2)と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子(3)とが、分散媒(4)となる有機溶剤に分散されていると共に、アクリル樹脂系バインダ成分及び水酸基を有する有機バインダ成分から選ばれるバインダ成分を含んでおり、
上記水酸基を有する有機バインダ成分は、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール及び完全置換されていないエチルセルロースから選ばれる1種以上であり、
上記有機溶剤は、20℃における比誘電率が2.3よりも大きく8.0以下であるエステル系有機溶剤からなり、かつ、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下である、固体電解質スラリー。
【0009】
本発明の他の態様は、全固体電池用の固体電解質スラリー(1)の製造方法であって、
ガーネット型の固体電解質粒子(2)と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子(3)とを分散質とし、水酸基価が250mgKOH/g以下である分散剤を用いて、分散媒(4)となる有機溶剤に混合分散させて、固体電解質分散液を得る第1混合工程と、
上記固体電解質分散液に、水酸基を有する有機バインダ成分と上記有機溶剤とを含むバインダ溶液を添加、混合して、上記固体電解質スラリーを得る第2混合工程と、を備え、
上記水酸基を有する有機バインダ成分は、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール及び完全置換されていないエチルセルロースから選ばれる1種以上であり、
上記有機溶剤は、20℃における比誘電率が2.3よりも大きく8.0以下であるエステル系有機溶剤からなり、かつ、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下である、固体電解質スラリーの製造方法にある。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、上記固体電解質スラリーを用いて形成された固体電解質層をセパレータ層(12)とし、上記セパレータ層を挟んで、正極活物質を含む上記固体電解質層からなる正極層(11)と、負極活物質を含む負極層(13)とが積層された積層体を備えており、上記固体電解質層は、相対密度が80%以上である、全固体電池(100)にある。
【発明の効果】
【0011】
焼結助剤として添加されるリチウム及びホウ素を含有する化合物粒子は、水と反応しやすい特性を有するが、分散媒として比誘電率が9.4以下の有機溶剤を用いると、スラリー調製の際に水分が混入しにくくなり、分解反応が抑制される。一方、比誘電率が2.3よりも大きい有機溶剤を用いることで、濡れ性が良好となり、凝集体が形成されにくくなると考えられる。このように、比誘電率が特定範囲にある分散媒を用いることで、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子が安定して分散するスラリーが得られ、焼結時の密度低下及び高電気抵抗化を抑制することが可能になる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、焼結助剤として添加される化合物の凝集や分解を抑制して、高密度で低電気抵抗な固体電解質層を形成可能な、ガーネット型の固体電解質を含む固体電解質スラリーとその製造方法を提供することができる。
また、このような固体電解質スラリーを用いることで、高品質の固体電解質層を備える、高性能な全固体電池を実現できる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における、固体電解質スラリーの構成を模式的に示す図。
図2】実施形態1における、固体電解質スラリーから製造される固体電解質層が適用される全固体電池の概略構成を示す模式的な断面図。
図3】実施形態1における、固体電解質スラリーの状態を模式的に示す図。
図4】比較形態1における、固体電解質スラリーの状態とその変化を模式的に示す図。
図5】比較形態2における、固体電解質スラリーの状態とその変化を模式的に示す図。
図6】実施形態1における、固体電解質スラリー及び全固体電池の製造方法を説明するための製造工程図。
図7】実施例における、固体電解質スラリーの製造方法の一例を示す製造工程図。
図8】実施例における、固体電解質スラリーの製造方法の他の一例を示す製造工程図。
図9】実施例における、固体電解質スラリーに用いられる分散媒の比誘電率とイオン伝導度の関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
固体電解質スラリーと、その製造方法及び全固体電池に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、固体電解質スラリー1は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型の固体電解質(以下、適宜、固体電解質と略称する)を主材料として含んでスラリー状に形成されている。固体電解質スラリー1は、分散質として、ガーネット型の固体電解質粒子(以下、適宜、固体電解質粒子と略称する)2と、Li(リチウム)及びB(ホウ素)を含有する化合物粒子(以下、適宜、LB化合物粒子と略称する)3とを、分散媒4に分散してなる。
【0015】
分散媒4は、20℃における比誘電率が2.3よりも大きく9.4以下の有機溶剤からなる。分散媒4となる有機溶剤は、好適には、20℃における比誘電率が2.5以上8.0以下、より好適には、2.5以上7.0以下のエステル系有機溶剤が用いられる。分散媒4として、上記範囲の比誘電率を有する複数の有機溶剤を用いることもできる。
【0016】
このような固体電解質スラリー1は、比誘電率が特定範囲にある有機溶剤を分散媒4とすることで、濡れ性の低下によるLB化合物粒子3の凝集を抑制しながら、水分の混入によるLB化合物粒子3の分解を抑制可能とする。これにより、固体電解質スラリー1を用いて成形、焼成する際の密度低下が抑制され、得られる固体電解質層の品質が向上する。
この詳細については、後述する。
【0017】
固体電解質スラリー1は、分散質となる粒子の他に、有機バインダ成分を含んで構成される。有機バインダ成分としては、特に限定されないが、例えば、水酸基を有するバインダ成分を用いることができる。水酸基を有するバインダ成分は、LB化合物粒子3から溶出するホウ素との反応が懸念されるが、上述した分散媒4の効果により、LB化合物粒子3の分解が抑制されることで、水酸基を有するバインダ成分の使用が可能になる。
【0018】
分散媒4となる有機溶剤は、カールフィッシャー滴定法を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下であることが好ましい。このとき、混入する水分によるLB化合物粒子3の分解を抑制する効果を高めることができる。
あるいは、固体電解質スラリー1は、さらに、分散剤を含む構成とすることができる。その場合には、水酸基価が250mgKOH/g以下である分散剤を用いると、より好ましく、水分の混入を抑制することができる。
【0019】
次に、固体電解質スラリー1の詳細と、固体電解質スラリー1を用いて製造される全固体リチウムイオン二次電池(以下、適宜、全固体電池と略称する)100の構成例について、説明する。
図2に一例を示す全固体次電池100は、積層構造を有し、固体電解質スラリー1から作製される固体電解質層を、各層の基材層に用いることができる。全固体次電池100は、例えば、自動車用電源又は各種機器用の電源として用いられる。
【0020】
図2において、全固体電池100は、正極層11と、セパレータ層12と、負極層13とを有する。セパレータ層12は、正極層11と負極層13との間に配設されて、両層を隔てると共に、イオン伝導体として機能する。具体的には、正極層11は、固体電解質と正極活物質とを含み、固体電解質を含むセパレータ層12を挟んで、負極活物質を含む負極層13と積層される。正極層11又は負極層13の外側に、さらに正極集電体又は負極集電体を配置した構成とすることもできる。
【0021】
正極層11において、正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の少なくとも一方を含む複合酸化物が好適に用いられる。このような複合酸化物としては、LiCoO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32等が挙げられる。また、負極層13において、負極活物質としては、例えば、リチウム金属が好適に用いられる。リチウム合金、又は、リチウム含有複合酸化物等のリチウム化合物を用いることもできる。
【0022】
セパレータ層12を主に構成する固体電解質層と、正極層11の基材となる固体電解質層とは、共にガーネット型固体電解質材料を含み、上記図1に示した固体電解質スラリー1を用いて構成することができる。セパレータ層12となる固体電解質層と正極層11となる固体電解質層は、固体電解質スラリー1を用いてシート状に成形した各層の積層体を焼成する過程で、一体焼結される。固体電解質スラリー1に含まれる固体電解質材料は、各層に適した組成とすることができ、例えば、正極層11には、正極活物質との反応性を抑えることが可能なガーネット型固体電解質材料を用い、セパレータ層12では、イオン伝導性の高いガーネット型固体電解質を用いることができる。
【0023】
固体電解質スラリー1には、ガーネット型の固体電解質粒子2と、リチウム及びホウ素を含有するLB化合物粒子3とが、分散質として含まれ、分散媒4となる有機溶剤に分散されている。固体電解質スラリー1には、さらに、有機バインダ成分や、分散剤、可塑剤、造孔剤等の添加剤が、適宜添加される。
【0024】
ガーネット型の固体電解質粒子2は、例えば、Li7La3Zr212を基本組成とするリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物(以下、適宜、LLZと称する)を主成分として含む粒子である。LLZは、リチウムイオン伝導性を有する酸化物固体電解質であり、ガーネット型の結晶構造を有する。LLZのLaの一部をSr、Ca等の元素で置換し、あるいは、Zrの一部をNb、Ta等の元素で置換した構成であってもよい。
【0025】
リチウム及びホウ素を含有するLB化合物粒子3は、例えば、リチウムホウ素含有酸化物(以下、適宜、LBOと称する)を主成分として含む粒子であり、リチウムイオン伝導性を有する。LB化合物粒子3は、焼結助剤として添加され、焼成工程において、固体電解質粒子2よりも低い温度で液相を形成して、固体電解質粒子2同士の結合に寄与する。LBOは、リチウムとホウ素を含む種々の複合酸化物であり、例えば、Li3BO3、Li425、LiBO2、Li649、Li247、Li3712、LiB35、Li2813等が挙げられる。
【0026】
分散媒4は、これら固体電解質粒子2とLB化合物粒子3とをスラリー中に分散させるための液状媒体であり、特定の比誘電率を有する有機溶剤からなる。具体的には、20℃における比誘電率が2.3より大きく、9.4以下の範囲にある有機溶剤の1種以上が用いられる。このような有機溶剤としては、例えば、酢酸イソアミル(2.79)、酢酸ブチル(5.04))、酢酸イソブチル(5.29)等のエステル系溶剤、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル;9.4)、ジエチルエーテル(4.34)等のエーテル系溶剤が挙げられる。括弧内の数値は、いずれも、20℃における比誘電率であり、以降の表記においても同様とする。
【0027】
図3に示すように、固体電解質スラリー1は、分散媒4となる所定の有機溶剤に、分散質となる固体電解質粒子2とLB化合物粒子3を添加し、混合して得られる。このとき、分散媒4として、比誘電率が特定範囲にある有機溶剤を用いた場合には(すなわち、2.3<比誘電率≦9.4)、添加混合後もスラリー状態に変化がなく、粒子の凝集や分解が生じることが抑制されて、安定した分散状態を維持するスラリーが得られる。
【0028】
一方、図4図5に示すように、比誘電率が上記特定範囲外となる有機溶剤を用いた場合には、固体電解質スラリー1が、安定したスラリー状態を維持することが難しい。図4に比較形態1として示すように、例えば、分散媒41として、20℃における比誘電率が2.3以下の有機溶剤(例えば、トルエン;比誘電率:2.3)を用いた場合には、添加混合後にLB化合物粒子3の凝集体31が生じやすい。これは、比誘電率が低い(すなわち、極性が小さい)ことで、添加されたLB化合物粒子3との濡れ性が低下して、分散性が低下し、凝集が生じるものと推測される。
【0029】
その場合には、固体電解質スラリー1を用いた固体電解質層を焼成する工程において、固体電解質スラリー1に含まれる凝集体31が、昇温過程で液相を形成し、焼結後の固体電解質層に粗大孔を形成しやすくなる。これにより、固体電解質層の密度が低下し、高電気抵抗となりやすい。
【0030】
また、図5に比較形態2として示すように、例えば、分散媒42として、20℃における比誘電率が9.4より大きい有機溶剤(例えば、エタノール;比誘電率:24.55)を用いた場合には、極性の大きい水との親和性が高くなって水分が混入しやすくなる。このとき、分散媒42に、LB化合物粒子3(例えば、Li3BO3)を添加、混合することにより、下記式で表される分解反応が進み、密度の低い化合物が生成する。
Li3BO3+3H2O→3LiOH+H3BO3
【0031】
その場合には、固体電解質スラリー1を用いた固体電解質層を焼成することにより、固体電解質スラリー1に含まれる密度の低い化合物によって、焼結後の固体電解質層の密度が低下し、高電気抵抗となりやすい。
【0032】
このように、固体電解質スラリー1を調製するための分散媒4を、特定の比誘電率を有する有機溶剤とすることで、焼結助剤として添加されるLB化合物粒子3の凝集又は分解を抑制することができる。これにより、スラリー中のLB化合物粒子3の分散性と安定性を維持しながら、低温焼結を可能にすると共に、焼結体の高密度化(すなわち、低電気抵抗化)が可能となる。
【0033】
より好適には、分散媒4として、20℃における比誘電率が2.5以上8.0以下、より好適には、2.5以上7.0以下の範囲にあるエステル系有機溶剤の1種以上が用いられる。これにより、LB化合物粒子3の分解を抑制する効果が高まり、より高密度で低電気抵抗であり、イオン伝導性に優れた固体電解質層が得られる。
なお、分散媒4として、複数の有機溶剤を用いる場合には、各有機溶剤の比誘電率が、それぞれ上記範囲にあることが望ましい。
【0034】
分散媒4として用いられる有機溶剤は、通常、カールフィッシャー滴定を用いて測定される水分量が、0.007質量%以下となるように調整されていることが望ましい。固体電解質スラリー1に水分が混入することで、LB化合物粒子3の分解が生じやすくなるため、分散媒4に含まれる水分量を、予め制限することで、LB化合物粒子3の分解を抑制することができる。好適には、カールフィッシャー滴定を用いて測定される水分量が、0.003質量%以下であることがより望ましい。
【0035】
固体電解質スラリー1は、さらに、粒子同士の結着力を高めるために、有機バインダ成分を含むことができる。有機バインダ成分は、任意に選択可能であり、例えば、アクリル樹脂系バインダ成分、水酸基を有するバインダ成分等を用いることができる。水酸基を有するバインダ成分としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルアルコール(PVA)、完全置換されていないエチルセルロース等が挙げられる。
【0036】
好適には、水酸基を有するバインダ成分、例えば、ポリビニルブチラールを用いると、少量の使用で良好な結着力が得られ、固体電解質スラリー1に添加される有機成分を低減できるため、より高密度とすることができる。この効果を得るには、上述した分散媒4との組み合わせが重要であり、有機溶剤の比誘電率が上記特定の範囲外であると、焼結助剤として用いられるLB化合物粒子3の分解が生じて、遊離したホウ素が、バインダ成分に含まれる水酸基と結合してゲル化するおそれがある。これに対して、分散媒4として特定の比誘電率を有する有機溶剤を用いた場合には、LB化合物粒子3の分解が生じず、バインダ成分の制限がなくなることで、固体電解質スラリー1のゲル化による粘度異常を抑制しながら、高密度化が可能になる。
【0037】
固体電解質スラリー1は、その他の成分として、分散剤を含んでもよい。分散剤は、任意に選択することができ、分散質となる固体電解質粒子2やLB化合物粒子3が、分散媒4に分散しやすくなるように、また、安定した分散状態を維持するように補助する。好適には、分散剤は、水酸基価が250mgKOH/g以下、より好適には、水酸基価が100mgKOH/g以下であることが望ましく、水酸基価が小さいほど、水分の混入が抑制されることで、LB化合物粒子3の分解やそれによる影響を抑制する効果が高まる。さらに好適には、水酸基を有しないポリマーからなる分散剤(水酸基価:0mgKOH/g)が用いられ、このような分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリスルホン酸、ポリアミン等を主骨格とする分散剤が挙げられる。
【0038】
固体電解質スラリー1は、その他の成分として、成形時に可塑性を付与するための可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジオクチル(DOA)が用いられる。さらに、必要により、その他の添加剤を含んでもよい。例えば、固体電解質層を多孔構造体とする場合には、焼成過程で焼失する材料からなる造孔剤等を添加することができる。
【0039】
次に、図6に示す製造工程を参照して、固体電解質スラリー1を調製する手順と、上記図2に示した全固体電池100を製造する手順について、一例を説明する。ここでは、固体電解質スラリー1を用いて、全固体電池100のセパレータ層12及び正極層11の基材となる固体電解質層を構成している。正極層11は、固体電解質層に正極活物質が均一分散された構成となっている。
【0040】
図6に示す製造工程では、まず、混合工程(1)~(2)により、セパレータ層12となる固体電解質スラリー1を調製し、同様に、混合工程(11)~(12)により、正極層11となる固体電解質スラリー1を調製する。その後、それぞれの固体電解質スラリー1を用いて、成形工程(3)、積層工程(4)、加圧工程(5)、焼成工程(6)を経て、全固体電池100を構成する積層体を得る。
【0041】
セパレータ層12は、第1混合工程(1)において、分散媒4となる有機溶剤として、例えば、酢酸イソアミル(比誘電率:2.79)を用意し、分散質となる固体電解質粒子2とLB化合物粒子3とを添加する。固体電解質粒子2としては、例えば、リチウムランタンジルコニウム系複合酸化物(LLZ)粉が用いられ、焼結助剤となるLB化合物粒子3として、例えば、リチウムホウ素含有酸化物(LBO)粉が用いられ、これらの混合粉を分散媒4に添加し、混合分散させて、固体電解質分散液とする。
【0042】
さらに、第2混合工程(2)において、固体電解質分散液に、バインダ溶液と、可塑剤とを添加する。バインダ溶液は、所望のバインダ成分を分散媒4となる有機溶剤溶解させた溶液であり、可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジオクチル(DOA)が用いられる。予め用意したバインダ溶液を、可塑剤と共に、固体電解質分散液に添加し、混合分散させることで、固体電解質スラリー1が得らる。
【0043】
このようにして、セパレータ層12用の固体電解質スラリー1が得られる。
次いで、成形工程(3)において、セパレータ層12用の固体電解質スラリー1を用い、公知のアプリケータ(Gap=300μm)によるシート成形を行って、セパレータ層12用の固体電解質シートとすることができる。
【0044】
同様にして、正極層12についても、第1混合工程(11)、第2混合工程(12)により、正極層12用の固体電解質スラリー1が得られ、さらに、成形工程(13)により、シート成形される。
その場合には、第1混合工程(11)において、分散質として添加される粒子が追加される点のみ、第1混合工程(1)と異なる。すなわち、第1混合工程(11)では、分散媒4となる有機溶剤に、分散質として、さらに、正極活物質を含む材料粉末(正極粉)が添加された混合粉が用いられる。正極活物質としては、例えば、LiとNi及びCoの少なくとも一方を含む複合酸化物が用いられる。
【0045】
この混合粉を分散媒4に添加し、混合分散させて、固体電解質分散液が得られる。その後、第2混合工程(12)において、上記第2混合工程(2)と同様にして、バインダ溶液や可塑剤と混合され、正極層12用の固体電解質スラリー1が得られる。
さらに、同様にして、成形工程(13)において、正極層11用の固体電解質スラリー1を、公知のアプリケータを用いて(Gap=300μm)、シート成形し、正極層11用の固体電解質シートとする。
【0046】
次いで、積層工程(4)において、セパレータ層12用の固体電解質シートと、正極層11用の固体電解質シートとを積層し、積層体とする。
加圧工程(5)では、この積層体を、温間静水圧プレス(WIP)等を用いて、加熱状態で加圧し(例えば、85℃×50MPa)、さらに、焼成工程(6)において、大気雰囲気で焼成することにより(例えば、900℃)、正極層11とセパレータ層12との一体焼結体が得られる。
【0047】
その後、負極形成工程(7)において、この一体焼結体のセパレータ層12側に、負極活物質として、例えば、シート状のリチウム金属を貼り付けることで、負極層13が形成される。さらに、集電体形成工程(8)において、正極層11側に、正極集電体として、金(Au)ペーストをコートすることにより、全固体電池100が得られる。
【実施例
【0048】
(実施例1、3、参考例2
次に、全固体電池100のセパレータ層12に用いられる固体電解質スラリー1を調製し、さらに、固体電解質スラリー1を用いて作製した固体電解質シートの評価を行った。表1に示すように、実施例1~3では、分散媒4となる有機溶剤を変更しており、それぞれ、実施例1:酢酸イソアミル(比誘電率:2.79)、参考例2:ブチルセロソルブ(比誘電率:9.4)、実施例3:酢酸ブチル(比誘電率:5.04)とした。これら有機溶剤は、いずれもカールフィッシャー法による水分量が0.007質量%であった。それ以外の分散質、添加剤等は同様のものを用いた。
【0049】
図7に工程例を示すように、実施例1では、第1混合工程(1)において、分散媒4となる有機溶剤(酢酸イソアミル)に、分散質となる固体電解質粒子2(LLZ)とLB化合物粒子3(Li3BO3)とを添加し、公知の自転公転ミキサーを用いて混合分散させて、固体電解質分散液を得た。その際、固体電解質分散液中に添加される添加剤として、水酸基価が250mgKOH/gである分散剤を添加した。
【0050】
このとき、固体電解質分散液中の分散媒4と、固形成分である分散質(固体電解質粒子2+LB化合物粒子3)との配合比は、50質量%:50質量%とした。また、分散質中のLB化合物粒子3の配合割合は、10体積%~30体積%とした。なお、固体電解質粒子2の平均粒径(D50)は、2μmであり、LB化合物粒子3の平均粒径(D50)は、0.5μmであった。
【0051】
第2混合工程(2)では、バインダ溶液として、水酸基を有しないアクリルバインダ溶液を用意し、得られた固体電解質分散液と、可塑剤(DOA)を添加して、さらに、自転公転ミキサーを用いて混合し、固体電解質スラリー1とした。アクリルバインダ溶液は、バインダ成分(アクリルポリマー系バインダ)を分散媒4と同じ有機溶剤(酢酸イソアミル)に溶解して得られるものであり、その配合比は、アクリルポリマー系バインダ:酢酸イソアミル=25質量%:75質量%とした。固体電解質スラリー1におけるアクリルバインダの含有量は、18質量%とした。
【0052】
これら実施例1、3、参考例2の固体電解質スラリー1について、粒子の凝集の有無をSEM観察により確認した。また、これら固体電解質スラリー1を用い、上述した図6の工程に従って、固体電解質シートを作製し、相対密度、イオン伝導度を測定した。相対密度は、試験片の質量と体積の測定結果に基づいて算出し、イオン伝導度は、インピーダンス測定結果に基づいて算出した。これらの測定結果を、表1に併記した。
【0053】
【表1】
【0054】
(比較例1~2)
次に、比較のため、表1に示すように、分散媒4となる有機溶剤を変更して、全固体電池100のセパレータ層12に用いられる固体電解質スラリー1を調製し、さらに、固体電解質スラリー1を用いて作製した固体電解質シートの評価を行った。分散媒4となる有機溶剤は、それぞれ、比較例1:トルエン(比誘電率:2.3)、比較例2:エタノール(比誘電率:24.55)とした。それ以外の分散質、添加剤等は、実施例1と同様のものを用い、同様にして固体電解質スラリー1を作製した。
【0055】
これら比較例1~2の固体電解質スラリー1についても、同様に、粒子の凝集の有無、相対密度、イオン伝導度を測定して、結果を表1に併記した。
【0056】
表1に明らかなように、実施例1、3、参考例2の固体電解質スラリー1を用いて作製される固体電解質シートは、相対密度が80%~88%の範囲にあり、いずれも80%以上の高い密度が得られた。また、イオン伝導度は1.0×10-4~3.1×10-4の範囲にあり、高密度となることで、イオン伝導度も向上していることがわかる。これに対して、比較例1~2の固体電解質スラリー1を用いて作製される固体電解質シートは、相対密度が54%~68%と低くなっており、イオン伝導度は2×10-6~7×10-6と大きく低減している。
【0057】
図9にこれらの関係を示すように、分散媒4となる有機溶剤の比誘電率が2.3(比較例1)を超えると、イオン伝導度が急増し、比誘電率の増加と共に、イオン伝導度が徐々に低下している。そして、有機溶剤の比誘電率が9.4(参考例2)を超えると、イオン伝導度が急減し、比誘電率が24.55(比較例2)では、比較例1とほぼ同等となっている。このように、有機溶剤の比誘電率が2.3より大きく9.4以下の範囲で、イオン伝導度が1.0×10-4以上となる。また、図9中の仮想線から、有機溶剤の比誘電率が2.5以上8.0以下の範囲であれば、イオン伝導度がさらに向上し、例えば、2.0×10-4以上となることが期待される。さらに、2.5以上7.0以下の範囲であれば、イオン伝導度がさらに向上し、例えば、2.5×10-4以上となることが期待される。
【0058】
一方、有機溶剤の比誘電率が2.3より以下でも、あるいは、比誘電率が9.4を超えても、高い焼結密度が得られない。さらに、比較例1では、固体電解質スラリー1に凝集が見られ、凝集体の焼失による孔形成で、密度低下が生じたものと推察される。比誘電率が2.3より大きい領域では、凝集は見られず、比誘電率が小さいほど、高密度であることから、水分の吸収が抑制されて分解が生じにくくなるものと推察される。
【0059】
(実施例4~7)
実施例4では、実施例1と同じ有機溶媒(酢酸イソアミル)を分散媒4とし、バインダ溶液として、表2に示すように、アクリルバインダ溶液に代えて、水酸基を有するPVBバインダ溶液を用意した。
図8に工程例を示すように、それ以外は、実施例1と同様であり、第1混合工程(1)では、分散媒4となる有機溶剤(酢酸イソアミル)に、固体電解質粒子2(LLZ)とLB化合物粒子3(Li 3 BO3)と、分散剤とを添加し、公知の自転公転ミキサーを用いて混合分散させて、固体電解質分散液とした。
【0060】
第2混合工程(2)では、PVBバインダ溶液として、バインダ成分(ポリビニルブチラール系バインダ)を分散媒4と同じ有機溶剤(酢酸イソアミル)に溶解したものを用意し、得られた固体電解質分散液と、可塑剤(DOA)を添加して、自転公転ミキサーを用いて混合し、固体電解質スラリー1とした。PVBバインダ溶液におけるバインダ成分の配合比は、ポリビニルブチラール系バインダ:酢酸イソアミル=25質量%:75質量%とした。固体電解質スラリー1におけるPVBバインダの含有量は、9質量%であり、実施例1のアクリルバインダの含有量よりも少ない。
【0061】
実施例5では、実施例4と同じ有機溶媒(酢酸イソアミル)を用い、有機溶媒中の水分量を0.003質量%とした以外は同様にして、固体電解質分散液を調製した。さらに、実施例4と同様のPVBバインダ溶液及び可塑剤(DOA)を添加して、混合し、固体電解質スラリー1とした。
【0062】
実施例6では、実施例4と同じ有機溶媒(酢酸イソアミル)を用い、分散剤として、ポリカルボン酸を主骨格とする分散剤(水酸基価:0mgKOH/g)を用いた以外は同様にして、固体電解質分散液を調製した。さらに、実施例4と同様のPVBバインダ溶液及び可塑剤(DOA)を添加して、混合し、固体電解質スラリー1とした。
また、実施例7では、水酸基価が100mgKOH/gである分散剤を用い、それ以外は、実施例6と同様にして、固体電解質分散液を調製した。さらに、同様のPVBバインダ溶液及び可塑剤(DOA)を添加、混合して固体電解質スラリー1とした。
【0063】
これら実施例4~7の固体電解質スラリー1についても、同様に、粒子の凝集の有無、相対密度、イオン伝導度を測定して、結果を表2に併記した。
表2に明らかなように、実施例4の固体電解質スラリー1を用いて作製される固体電解質シートは、相対密度が90%、イオン伝導度が3.4×10-4となっており、PVBバインダ溶液を用いることで、有機成分の含有量が低減したことによる効果と推察される。
【0064】
また、実施例5の固体電解質スラリー1では、相対密度が95%、イオン伝導度が4.4×10-4と、実施例4よりもさらに向上している。これは、分散媒に含まれる水分量が低減したことで、水分による分解反応を抑制する効果がより高まったものと推察される。実施例6の固体電解質スラリー1においても、相対密度が95%、イオン伝導度が4.4×10-4と、実施例5と同等の数値となっており、分散媒に含まれる水分量を低減する代わりに、分散剤が水酸基を有さず水分の吸収が抑制される場合も、同様の効果が得られることがわかる。実施例4より低い水酸基価とすることで、実施例7のように、分散剤が水酸基を有する場合であっても、相対密度が93%、イオン伝導度が3.9×10-4と、実施例5、6に近い数値が得られる。
【0065】
【表2】
【0066】
以上のように、固体電解質スラリーを調製する際に用いられる分散媒を、比誘電率が特定範囲にある有機溶剤とすることによって、焼結助剤として添加される粒子の凝集や分解を抑制し、高密度で高電気抵抗の固体電解質層を得ることができる。
【0067】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
例えば、全固体電池用正極層材料を用いた全固体電池用電極積層体は、車両等の移動体用に限らず、家庭用の各種機器等、任意の用途に用いられる全固体電池その他、任意の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 固体電解質スラリー
2 固体電解質粒子
3 LB化合物粒子
31 凝集体
4 分散媒
11 正極層
12 セパレータ層
13 負極層
100 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9